(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241210BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/01 501
B41J2/14 305
B41J2/14
(21)【出願番号】P 2021019165
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 次郎
(72)【発明者】
【氏名】関口 恭裕
(72)【発明者】
【氏名】森田 祥嗣
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-313428(JP,A)
【文献】特開2012-206333(JP,A)
【文献】特開2007-118311(JP,A)
【文献】特開2019-048452(JP,A)
【文献】米国特許第06003971(US,A)
【文献】韓国登録特許第10-2090552(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体を有する液体吐出ヘッドであって、
液体が外部から供給される供給孔と、
前記供給孔の下方に配置されて当該供給孔に連通する複数の供給マニホールドと、
前記複数の供給マニホールドのうち隣り合う一方の供給マニホールドと他方の供給マニホールドとを区画する区隔壁と、を備え、
前記複数の供給マニホールドの各々は、
前記積層体の積層方向において前記供給孔の下方に位置する部位であるマニホールド孔をそれぞれ有すると共に
、前記積層方向に直交する方向である配列方向において前記区隔壁
に対して下流側且つ隣接して位置する共通空間にてそれぞれ連通し、
一の前記マニホールド孔は、前記供給マニホールドの延在方向における当該一のマニホールド孔の延長線上に他の前記マニホールド孔が存在しないように配置されている、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記マニホールド孔は4つである、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記マニホールド孔は前記延在方向に長い、請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記延在方向に交差する方向を幅方向とするとき、前記供給孔の前記幅方向における寸法は、前記複数の供給マニホールドのうち前記幅方向における一端側の供給マニホールドの外側端から前記幅方向における他端側の供給マニホールドの外側端までの寸法よりも小さい、請求項1乃至3の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記マニホールド孔は前記延在方向に対して斜めに延びている、請求項1乃至4の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記マニホールド孔はその幅が前記延在方向に段階的に狭くなる形状又は段階的に広くなる形状を有する、請求項1乃至5の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記液体の密度は1000kg/m
3~2000kg/m
3である、請求項1乃至6の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記液体の粘度は3mPa・s~8mPa・sである、請求項1乃至7の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記液体の表面張力は20mN/m~40mN/mである、請求項1乃至8の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記液体の供給負圧は70KPa~90KPaである、請求項1乃至9の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出する液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一つの供給孔に4つの供給マニホールドを連通させた構成を有する吐出ヘッドが開示されている。そして、供給孔の下には4つの供給マニホールドの各々を区画する桟が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来構成では、供給孔に連通する4つの供給マニホールドのうち外側2つの供給マニホールドは一方向に延びる形状ではなく弧を描くような形状となっているため、流れが大回りする可能性がある。そのため、各供給マニホールドを連通させる共通空間を桟の下に設ける場合、当該共通空間に液体のよどみが発生してしまう。その結果、上記よどみにエアが残ってしまい当該エアに圧力変動が吸収されてしまう結果、所望の流量を流せない恐れがあった。また、上記エアが供給マニホールドの下流側に流れてしまったときにはノズルを塞いで吐出抜けが生じる恐れがあった。
【0005】
そこで、本発明は、所望の流量の液体を流し易くなりかつ吐出抜けの発生を抑制又は防止することができる液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体が外部から供給される供給孔と、前記供給孔の下方に配置されて当該供給孔に連通する複数の供給マニホールドと、前記複数の供給マニホールドのうち隣り合う一方の供給マニホールドと他方の供給マニホールドとを区画する区隔壁と、を備え、前記複数の供給マニホールドの各々は、前記供給孔の下方に位置する部位であるマニホールド孔をそれぞれ有すると共に前記区隔壁よりも下方の共通空間にてそれぞれ連通し、一の前記マニホールド孔は、前記供給マニホールドの延在方向における当該一のマニホールド孔の延長線上に他の前記マニホールド孔が存在しないように配置されているものである。
【0007】
本発明に従えば、一のマニホールド孔が供給マニホールドの延在方向における当該一のマニホールド孔の延長線上に他のマニホールド孔が存在しないように配置されているため、供給孔から供給された液体のよどみが生じ難い。これにより、よどみに起因してエアが残留して圧力変動が当該エアに吸収されることによって所望の流量を各供給マニホールドの下流側に流せなくなるような事態を防ぐことができる。また、上記エアが各供給マニホールドの下流側に流れてしまってノズルを塞ぐことで吐出抜けが生じることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、所望の流量の液体を流し易くなりかつ吐出抜けの発生を抑制又は防止することができる液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る液体吐出装置の概略構成を示す平面図である。
【
図2】
図1の液体吐出ヘッドの構成を示す断面図である。
【
図3】マニホールド孔および供給孔を示す斜視図である。
【
図4】マニホールド孔、供給孔および区隔壁を示す平面図である。
【
図5】(a)はT1時の第1実施形態のマニホールド孔における空気の分布を示す解析結果であり、(b)はT2時の同マニホールド孔における空気の分布を示す解析結果である。
【
図6】(a)はT1時の比較例のマニホールド孔における空気の分布を示す解析結果であり、(b)はT2時の同マニホールド孔における空気の分布を示す解析結果である。
【
図7】第2実施形態に係るマニホールド孔および区隔壁を示す平面図である。
【
図8】(a)はT1時の第2実施形態のマニホールド孔における空気の分布を示す解析結果であり、(b)はT2時の同マニホールド孔における空気の分布を示す解析結果である。
【
図9】マニホールド孔の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドについて図面を参照して説明する。以下に説明する液体吐出ヘッドは本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除および変更が可能である。
【0011】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の液体吐出ヘッド20は液体吐出装置10に設けられる。この液体吐出装置10は、液体を吐出する液体吐出ヘッド20の他に、貯留タンク12、キャリッジ16、一対の搬送ローラ15、一対のガイドレール17、およびサブタンク18を備える。なお、液体吐出装置10において図略のプラテン上に例えば印刷用紙である被吐出媒体Wが配置される。
【0012】
キャリッジ16には液体吐出ヘッド20およびサブタンク18が搭載されている。キャリッジ16は、被吐出媒体Wの搬送方向(副走査方向)に直交する主走査方向に延在する一対のガイドレール17に支持され、当該ガイドレール17に沿って主走査方向に往復動する。これにより、液体吐出ヘッド20は主走査方向に往復動する。液体吐出ヘッド20はチューブ12aを介して貯留タンク12に接続されている。
【0013】
一対の搬送ローラ15は主走査方向に沿って互いに平行に配置されている。搬送ローラ15は図略の搬送モータが駆動されると回転し、これによりプラテン上の被吐出媒体Wが搬送方向に搬送されるようになっている。
【0014】
貯留タンク12には液体の一例であるインクが貯留されている。貯留タンク12は、液体吐出ヘッド20に液体を供給すべくチューブ12aを介して液体吐出ヘッド20に接続されている。また、貯留タンク12は液体がインクである場合には当該インクの種類ごとに設けられている。貯留タンク12は、例えば4つ設けられ、液体としてブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクがそれぞれ貯留されている。なお、以下では液体としてインクを使用する場合について説明する。
【0015】
続いて、液体吐出ヘッド20の断面構成について説明する。
図2は液体吐出ヘッド20の構成を示す断面図である。
図2に示すように、液体吐出ヘッド20は貯留タンク12からのインクを用いて液滴を吐出する複数のノズル21を有する。液体吐出ヘッド20は流路形成体と容積変更部の積層体を有している。流路形成体には、その内部にインク流路が形成され、その下面である吐出面40aに複数のノズル孔21aが開口している。また、上記の容積変更部は駆動されてインク流路の容積を変更する。このとき、ノズル孔21aではメニスカスが振動してインクが吐出される。
【0016】
液体吐出ヘッド20の上述の流路形成体は複数のプレートの積層体であり、容積変更部は振動板55およびアクチュエータ(圧電素子)60を含む。振動板55の上には絶縁膜56が接続されており、当該絶縁膜56の上には後述の共通電極61が接続されている。
【0017】
複数のプレートは、下から順に、ノズルプレート46、スペーサプレート47、第1流路プレート48、第2流路プレート49、第3流路プレート50、第4流路プレート51、第5流路プレート52、第6流路プレート53、および第7流路プレート54を含んで積層されている。
【0018】
各プレートには大小種々の孔および溝が形成されている。各プレートが積層された流路形成体の内部では孔および溝が組み合わされて、複数のノズル21、複数の個別流路64および供給マニホールド22がインク流路として形成されている。
【0019】
ノズル21はノズルプレート46を積層方向に貫通し形成されている。ノズルプレート46の吐出面40aには、ノズル21の先端である複数のノズル孔21aが配列方向に複数並んでノズル列を形成している。なお、上記配列方向は積層方向に直交する方向である。
【0020】
供給マニホールド22は、インクの吐出圧力が付与される後述の圧力室28に対してインクを供給する。供給マニホールド22は、上記配列方向に延在しており、複数の個別流路64の各一端にそれぞれ接続されている。すなわち、供給マニホールド22はインクの共通流路として機能する。供給マニホールド22は、第1流路プレート48~第4流路プレート51を積層方向に貫通した貫通孔および第5流路プレート52の下面から窪んだ窪みが積層方向に重なって形成されている。
【0021】
ノズルプレート46はスペーサプレート47の下方に配置されている。そのスペーサプレート47は例えばステンレス鋼材で形成される。スペーサプレート47は、例えばハーフエッチングによりノズルプレート46側の面からスペーサプレート47の厚み方向に凹むことで、ダンパ部47aを成す薄肉部分とダンパ空間47bとが形成される凹部45を有している。このような構成によって、供給マニホールド22とノズルプレート46との間にはバッファー空間としてのダンパ空間47bが形成されている。
【0022】
複数の個別流路64は供給マニホールド22にそれぞれ接続されている。個別流路64は、その上流端が供給マニホールド22に接続され、その下流端がノズル21の基端に接続されている。個別流路64は、第1連通孔25、個別絞り路である供給絞り路26、第2連通孔27、圧力室28、およびディセンダ29で構成されており、これらの構成要素はこの順で配置される。
【0023】
第1連通孔25は、その下端が供給マニホールド22の上端に接続し、供給マニホールド22から積層方向の上方に延び、第5流路プレート52における上側部分を積層方向に貫通している。
【0024】
供給絞り路26の上流端は第1連通孔25の上端に接続されている。供給絞り路26は、例えばハーフエッチングにより形成され、第6流路プレート53の下面から窪んだ溝により構成されている。また、第2連通孔27は、その上流端が供給絞り路26の下流端に接続され、供給絞り路26から積層方向の上方に延び、第6流路プレート53を積層方向に貫通して形成されている。
【0025】
圧力室28は、その上流端が第2連通孔27の下流端に接続されている。圧力室28は、第7流路プレート54を積層方向に貫通して形成されている。
【0026】
ディセンダ29は、スペーサプレート47、第1流路プレート48、第2流路プレート49、第3流路プレート50、第4流路プレート51、第5流路プレート52、および第6流路プレート53を積層方向に貫通して形成されている。ディセンダ29は、その上流端が圧力室28の下流端に接続され、下流端がノズル21の基端に接続されている。ノズル21は、例えば積層方向においてディセンダ29に重なり、幅方向においてディセンダ29の中央に配置されている。
【0027】
振動板55は、第7流路プレート54の上に積層されており、圧力室28の上端開口を覆っている。
【0028】
アクチュエータ60は、共通電極61、圧電層62および個別電極63を含み、これらはこの順で配置されている。共通電極61は、絶縁膜56を介して振動板55の全面を覆っている。圧電層62は、絶縁膜56および共通電極61を介して振動板55の全面を覆っている。個別電極63は、圧力室28ごとに設けられ、圧電層62上に配置されている。1つの個別電極63、共通電極61および両電極で挟まれた部分の圧電層62により1つのアクチュエータ60が構成される。
【0029】
個別電極63はドライバICに電気的に接続されている。このドライバICは、図略の制御部から制御信号を受けて、駆動信号(電圧信号)を生成し、個別電極63に印加する。これに対し、共通電極61は常にグランド電位に保持されている。このような構成において、圧電層62の活性部が駆動信号に応じて2つの電極61,63と共に面方向に伸縮する。これに伴い、振動板55が協働して変形し、圧力室28の容積を増減する方向に変化する。これによって、ノズル21からインクを吐出させるための吐出圧力が圧力室28に付与される。
【0030】
以上のような液体吐出ヘッド20において、ポンプが駆動すると、インクはサブタンク18から供給孔24を介して供給マニホールド22に流入する。そして、インクは供給マニホールド22から第1連通孔25を介して供給絞り路26に流入し、供給絞り路26から第2連通孔27を介して圧力室28に流入する。そして、インクはディセンダ29を流れ、ノズル21に流入する。ここで、アクチュエータ60により圧力室28に吐出圧力が付与されると、ノズル孔21aからインクが吐出される。
【0031】
次いで、供給孔24に連通する複数のマニホールド孔70および隣り合うマニホールド孔70同士を区画する区隔壁72について図面を参照しつつ説明する。
【0032】
図3はマニホールド孔70および供給孔24を示す斜視図であり、
図4はマニホールド孔70、供給孔24および区隔壁72を示す平面図である。なお、供給孔24、供給マニホールド22および後述のマニホールド孔70は液体流路であり空洞であるが、
図3および
図4では理解を容易にするためにその空洞を外線で図示している。
【0033】
図3に示すように、液体吐出ヘッド20は液体が供給され、平面視で例えば正方形状の供給孔24を有している。この供給孔24は配管を介してサブタンク18に接続されている。供給孔24は例えば筒状に形成され、配列方向(供給マニホールド22の延在方向)の一方端に設けられている。
【0034】
ここで、上記供給孔24の下方に複数の供給マニホールド22が配置されている。本実施形態では、複数の供給マニホールド22として例えば4つの供給マニホールド22a,22b,22c,22dが配列方向にこの順でそれぞれ延在する。供給マニホールド22a,22b,22c,22dのうち隣り合う一方の供給マニホールドと他方の供給マニホールドとが区隔壁72により区画されている。また、本実施形態において、配列方向に直交する方向である幅方向における供給孔24の寸法は、当該幅方向における一端側の供給マニホールド22aの外側端から幅方向における他端側の供給マニホールド22dの外側端までの寸法よりも小さくなっている。これにより供給孔24が小型化されている。
【0035】
各供給マニホールド22は供給孔24に連通するマニホールド孔70をそれぞれ有している。供給マニホールド22a,22b,22c,22dが有するマニホールド孔をそれぞれ70a,70b,70c,70dとする。本実施形態において、マニホールド孔70a,70b,70c,70dはそれぞれ配列方向に長い。また、各マニホールド孔70は配列方向に対して斜めに延びている。詳しくは、
図4において、マニホールド孔70aを規定する外側線の一部内側線は配列方向に対して斜めに延びている。マニホールド孔70bを規定する一方線は配列方向に平行に延びているが、他方線は当該配列方向に対して斜めに延びている。また、マニホールド孔70cを規定する一方線は配列方向に平行に延びているが、他方線は当該配列方向に対して斜めに延びている。さらに、マニホールド孔70dを規定する内側線および外側線の一部は配列方向に対して斜めに延びている。このような構成において、マニホールド孔70aとマニホールド孔70bとを区画する区隔壁72は配列方向に対して斜めに延在し、マニホールド孔70bとマニホールド孔70cとを区画する区隔壁72は配列方向に平行に延在し、マニホールド孔70cとマニホールド孔70dとを区画する区隔壁72は配列方向に対して斜めに延在する。また、本実施形態ではマニホールド孔70a,70b,70c,70dはその幅が配列方向に段階的に広くなる形状を有する。
【0036】
マニホールド孔70a,70b,70c,70dは供給孔24の下方に位置している。マニホールド孔70a,70b,70c,70dはそれぞれ供給孔24に連通している。これにより、供給マニホールド22a,22b,22c,22dがそれぞれ供給孔24に通ずる。
【0037】
供給マニホールド22a,22b,22c,22dは各区隔壁72よりも下方に配置された共通空間71にてそれぞれ連通している。より詳細には、マニホールド孔70a,70b,70c,70dは共通空間71にてそれぞれ連通している。共通空間71の幅(幅方向における長さ)は、4つの供給マニホールド22のうち幅方向における一端側の供給マニホールド22aの外側端から幅方向における他端側の供給マニホールド22dの外側端までの寸法以下であってもよい。
【0038】
このような構成において、一のマニホールド孔70は、配列方向における当該一のマニホールド孔70の延長線上に他のマニホールド孔70が存在しないように配置されている。すなわち、
図4における一例で説明すれば、マニホールド孔70aは、配列方向における当該マニホールド孔70aの延長線上に他の3つのマニホールド孔70b,70c,70dが存在しないように配置される。他の3つのマニホールド孔70b,70c,70dについてもマニホールド孔70aと同様である。
【0039】
上記のような構成を有する液体吐出ヘッド20において使用する液体の密度は1000kg/m3~2000kg/m3であることが望ましい。また、液体の粘度は3mPa・s~8mPa・sであることが望ましい。また、液体の表面張力は20mN/m~40mN/mであることが望ましい。さらに、液体を導入する際にノズル側にかかる圧力である供給負圧は70KPa~90KPaであることが望ましい。
【0040】
ここで、本実施形態の液体吐出ヘッド20における供給孔24からマニホールド孔70への液体の流れについて解析を行った。解析結果においては液体の流れの代わりに空気(圧力)の流れを表示している。その解析結果について比較例の解析結果と共に説明する。
図5(a)はT1時の第1実施形態のマニホールド孔70における空気の分布を示す解析結果であり、同図(b)はT2(>T1)時の同マニホールド孔70における空気の分布を示す解析結果である。また、
図6(a)はT1時の比較例(特許文献1の構成)のマニホールド孔における空気の分布を示す解析結果であり、同図(b)はT2(>T1)時の同マニホールド孔における空気の分布を示す解析結果である。
【0041】
図5(a)に示すように、本実施形態における液体吐出ヘッド20では、T1時において空気領域AR1はマニホールド孔70a,70b,70c,70dにほぼ均等に流れていることが確認でき、また気泡が存在しないことも確認できる。また、
図5(b)に示すように、T2時においても、空気領域AR2は時間経過と共にマニホールド孔70a,70b,70c,70dにほぼ均等に流れていることが確認でき、気泡も見当たらない。
【0042】
これに対して、比較例においては、
図6(a)に示すように、T1時において空気領域AR3に囲まれた領域内に気泡を示す空気領域AR4が存在していることが確認できる。また、
図5(b)に示すように、T2時においても、空気領域AR5の近傍に気泡を示す空気領域AR6,AR7が存在していることが確認できる。以上により、比較例の構成では、空気領域AR4,AR6,AR7で示されるように空気流れのベクトルが何れの方向にも向き難くなる領域が存在し、それ故よどみが生じてしまうことがわかる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の液体吐出ヘッド20によれば、一のマニホールド孔70が供給マニホールド22の延在方向における当該一のマニホールド孔70の延長線上に他のマニホールド孔70が存在しないように配置されているため、供給孔24から供給された液体のよどみが生じ難い。これにより、よどみに起因してエアが残留して圧力変動が当該エアに吸収されることによって所望の流量を各供給マニホールド22の下流側に流せなくなるような事態を防ぐことができる。また、上記エアが各供給マニホールド22の下流側に流れてしまってノズル21を塞ぐことで吐出抜けが生じることを防ぐことができる。
【0044】
また、本実施形態ではマニホールド孔70を4つとした。この点につき、1つの供給孔24に対して4つを超えるマニホールド孔70を配置するのは設計上困難である。4つとすることで作り易さを確保することができる。
【0045】
また、本実施形態では、マニホールド孔70が延在方向に長い。これにより、よどみがより生じ難くなる。
【0046】
また、本実施形態では、供給孔24の幅方向における寸法は、4つの供給マニホールド22のうち幅方向における一端側の供給マニホールド22aの外側端から幅方向における他端側の供給マニホールド22dの外側端までの寸法よりも小さい。このように供給孔24を出来るだけ小さくすることで、隣り合う供給孔24間の間隔を一定値以上確保することができ、それによりパンチングでプレートに供給孔24を形成する際に当該プレートの平面度を保ち易くなる。また、供給孔24の大型化によるコストアップを避けることができる。
【0047】
また、本実施形態では、各マニホールド孔70を規定する平面視における稜線のうち一部の線は配列方向に対して斜めに延びている。これにより、マニホールド孔70が配列方向に平行に延びる態様よりも、液体が幅方向に広がって共通空間に流れ易くなる。それによりエアを排出し易くなる。
【0048】
また、本実施形態では、マニホールド孔70はその幅が配列方向に段階的に広くなる形状を有している。この場合、マニホールド孔70の大きさが配列方向に異なることで、流れが速くなるところと流れが遅くなるところができ、それ故共通空間71に向けての流れを生じさせ易くなる。
【0049】
また、本実施形態では、液体の密度は1000kg/m3~2000kg/m3であることが望ましい。液体の粘度は3mPa・s~8mPa・sであることが望ましい。液体の表面張力は20mN/m~40mN/mであることが望ましい。これらによって、インク吐出の安定化につながる。具体的には、吐出の精度が良くなり、不吐出、吐出曲がりおよび吐出量不足が起き難くなる。
【0050】
さらに、本実施形態では、液体の供給負圧は70KPa~90KPaであることが望ましい。液体を導入する際にノズル21側にかかる圧力である供給負圧が高すぎるとエアが残り、低すぎると液体が供給されるのが遅くなる問題がある。供給負圧を上記範囲とすることで上記問題を生じ難くすることができる。
【0051】
(第2実施形態)
図7は第2実施形態に係るマニホールド孔81および区隔壁82等を示す平面図である。
図7において、マニホールド孔81aを規定する内側線は配列方向に対して平行に延びている。マニホールド孔81bを規定する一方線および他方線は配列方向に平行に延びている。また、マニホールド孔81cを規定する一方線および他方線は配列方向に平行に延びている。さらに、マニホールド孔81dを規定する内側線は配列方向に対して平行に延びている。このような構成において、第2実施形態では、マニホールド孔81aとマニホールド孔81bとを区画する区隔壁82は配列方向に対して平行に延在し、マニホールド孔81bとマニホールド孔81cとを区画する区隔壁82は配列方向に平行に延在し、マニホールド孔81cとマニホールド孔81dとを区画する区隔壁82は配列方向に対して平行に延在する。なお、符号83は共通空間である。
【0052】
第1実施形態と同様に、液体吐出ヘッド20における供給孔24からマニホールド孔81への液体の流れについて解析を行った。
図8(a)はT1時の第2実施形態のマニホールド孔81における空気の分布を示す解析結果であり、同図(b)はT2(>T1)時の同マニホールド孔81における空気の分布を示す解析結果である。
【0053】
図8(a)に示すように、本実施形態における液体吐出ヘッド20では、T1時において空気領域AR8はマニホールド孔81a,81b,81c,81dにほぼ均等に流れていることが確認できる。一方、気泡を示す空気領域AR9が存在することが確認できた。また、
図8(b)に示すように、T2時においても、空気領域AR10は時間経過と共にマニホールド孔81a,81b,81c,81dにほぼ均等に流れていることが確認できるが、依然として気泡を示す空気領域AR11が存在することが確認できる。なお、
図8(b)の状態の後(つまり、T3>T2)において、空気領域AR11は消失し、上記共通空間における気泡を除去できたことを確認することができた。以上により、気泡を生じ難くする観点で第1実施形態における態様の方がより望ましいことが言える。
【0054】
(変形例)
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば以下の通りである。
【0055】
上記実施形態では、マニホールド孔70a,70b,70c,70dはその幅が配列方向に段階的に広くなる形状を有することとしたが、これに限定されるものではない。
図9に示すように、各供給マニホールド90(90a,90b,90c,90d)の各マニホールド孔91(91a,91b,91c,91d)はその幅が配列方向に段階的に狭くなる形状を有してもよい。これにより、各マニホールド孔91の大きさが配列方向に異なることで、流れが速くなるところと流れが遅くなるところができ、それ故共通空間に向けての流れを生じさせ易くなる。なお、符号92は隣り合うマニホールド孔91同士を区画する区隔壁であり、符号93は共通空間である。
【0056】
また、上記実施形態では、共通空間71の幅を、4つの供給マニホールド22のうち幅方向における一端側の供給マニホールド22aの外側端から幅方向における他端側の供給マニホールド22dの外側端までの寸法以下としたが、これに限られるものではない。共通空間71は、上記一端側の供給マニホールド22aの外側端から上記他端側の供給マニホールド22dの外側端までの寸法を超える幅を有していてもよい。
【0057】
さらに、上記実施形態では、供給孔24を正方形状に形成したが、これに限られるものではなく、供給孔24を例えば円形状に形成してもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 液体吐出装置
20 液体吐出ヘッド
21 ノズル
22,22a,22b,22c,22d 供給マニホールド
24 供給孔
70,70a,70b,70c,70d マニホールド孔
71,83,93 共通空間
72,82,92 区隔壁
80,80a,80b,80c,80d 供給マニホールド
81,81a,81b,81c,81d マニホールド孔
90,90a,90b,90c,90d 供給マニホールド
91,91a,91b,91c,91d マニホールド孔