(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】光ファイバ用母材の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/018 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
C03B37/018 A
(21)【出願番号】P 2021035623
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2020121340
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】幅崎 利已
(72)【発明者】
【氏名】設楽 秀治
(72)【発明者】
【氏名】志村 昌則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智哉
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-017037(JP,A)
【文献】特開2004-002088(JP,A)
【文献】特開昭59-152234(JP,A)
【文献】特開昭59-083953(JP,A)
【文献】特開昭61-227937(JP,A)
【文献】特開2004-321970(JP,A)
【文献】特開2000-290035(JP,A)
【文献】特開昭59-078942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/018
C03B 8/04
G02B 6/00 - 6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウム化合物を含む第一ガラス原料を噴射してゲルマニウム含有ガラス微粒子を合成する第一バーナと、
ゲルマニウム化合物を含まない第二ガラス原料を噴射してゲルマニウム非含有ガラス微粒子を合成する第二バーナと、
前記第一バーナおよび前記第二バーナを内部に配置した反応容器と、
を備え、前記反応容器内で回転するターゲットにガラス微粒子を吹き付けて堆積させる光ファイバ用母材の製造装置であって、
前記反応容器は未堆積のガラス微粒子を含む排ガスを排出する第一排気口および第二排気口を有し、
前記第一排気口は前記第一バーナが前記第一ガラス原料を噴射する方向に配置され、
前記第二排気口は前記第一排気口よりも前記第一バーナから離れた位置に配置され、
前記第二排気口から排出したガラス微粒子を含む排ガスを処理する排ガス処理部と、
前記第一排気口から排出したガラス微粒子を含む排ガスからガラス微粒子を回収するガラス微粒子回収部と、
前記ガラス微粒子回収部から排出した排ガスに含まれる液体を捕集する捕集部と、
を備える、光ファイバ用母材の製造装置。
【請求項2】
前記第一排気口および前記第二排気口が、1つの排気管の内部に仕切りを設けることで形成された第一排気管および第二排気管それぞれの入口である、請求項1に記載の光ファイバ用母材の製造装置。
【請求項3】
前記ガラス微粒子回収部は、セラミックフィルタまたはバグフィルタを含む、請求項1または請求項2に記載の光ファイバ用母材の製造装置。
【請求項4】
前記ガラス微粒子回収部は、逆洗によりフィルタに堆積したガラス微粒子を回収するように構成されている、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光ファイバ用母材の製造装置。
【請求項5】
前記ガラス微粒子回収部は撥水性のフィルタを含む、請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の光ファイバ用母材の製造装置。
【請求項6】
前記ガラス微粒子回収部は、前記第一排気口から排出した排ガスの温度を低下させないように温度調整可能に構成されている、請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の光ファイバ用母材の製造装置。
【請求項7】
前記ガラス微粒子回収部は、フィルタを備え、逆洗により前記フィルタに堆積したガラス微粒子を回収し、前記フィルタへの前記ガラス微粒子の堆積と、前記フィルタに堆積された前記ガラス微粒子の逆洗による回収と、を並行して実施できるように構成されている、請求項1から請求項
6のいずれか一項に記載の光ファイバ用母材の製造装置。
【請求項8】
前記第一排気口と前記ガラス微粒子回収部とを接続する排気管から、前記ガラス微粒子回収部を経由せずに前記排ガス処理部に排ガスを送るための非回収回路を備える、請求項1から請求項
7のいずれか一項に記載の光ファイバ用母材の製造装置。
【請求項9】
請求項1から請求項
8のいずれか一項に記載の光ファイバ用母材の製造装置を用いて前記反応容器内で回転するターゲットにガラス微粒子を堆積させて光ファイバ用母材を製造する、光ファイバ用母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバ用母材の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオードなどの半導体の材料や、ガラス製の光ファイバにおけるコアの添加剤など、種々の工業製品の原料にゲルマニウム(Ge)が使用されている。Geは、近年、価格が高騰している。例えば、特許文献1には、Geを回収する技術が開示されている。特許文献1にはGeを含む微粒子をバグフィルタで回収し、回収した微粒子を塩酸ガスで精製処理して光ファイバ製造工程で再利用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光ファイバの製造時、光ファイバにおけるコアの添加剤であるゲルマニウムの一部は、コアの生成において利用されず、排出ガスとして排出される。排出ガス中に含まれるゲルマニウムの量は微量であり、ゲルマニウムを効率良く回収するのは容易ではなかった。
【0005】
本開示は、光ファイバ用母材の製造時の排出ガスからゲルマニウムを効率良く回収できる光ファイバ用母材の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の光ファイバ用母材の製造装置は、
ゲルマニウム化合物を含む第一ガラス原料を噴射してゲルマニウム含有ガラス微粒子を合成する第一バーナと、
ゲルマニウム化合物を含まない第二ガラス原料を噴射してゲルマニウム非含有ガラス微粒子を合成する第二バーナと、
前記第一バーナおよび前記第二バーナを内部に配置した反応容器と、
を備え、前記反応容器内で回転するターゲットにガラス微粒子を吹き付けて堆積させる光ファイバ用母材の製造装置であって、
前記反応容器は未堆積のガラス微粒子を含む排ガスを排出する第一排気口および第二排気口を有し、
前記第一排気口は前記第一バーナが前記第一ガラス原料を噴射する方向に配置され、
前記第二排気口は前記第一排気口よりも前記第一バーナから離れた位置に配置され、
前記第二排気口から排出したガラス微粒子を含む排ガスを処理する排ガス処理部と、
前記第一排気口から排出したガラス微粒子を含む排ガスからガラス微粒子を回収するガラス微粒子回収部と、を備える。
【0007】
本開示の光ファイバ用母材の製造方法は、上記の光ファイバ用母材の製造装置を用いて前記反応容器内で回転するターゲットにガラス微粒子を堆積させて光ファイバ用母材を製造する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、光ファイバ用母材の製造時の排出ガスからゲルマニウムを効率良く回収できる光ファイバ用母材の製造装置および製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の第一実施形態に係る反応容器内部での光ファイバ用母材の製造の様子を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の第一実施形態に係る光ファイバ用母材の製造装置の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の第二実施形態に係る光ファイバ用母材の製造装置の構成を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の第三実施形態に係る光ファイバ用母材の製造装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
実施形態に係る光ファイバ用母材の製造装置は、
(1) ゲルマニウム化合物を含む第一ガラス原料を噴射してゲルマニウム含有ガラス微粒子を合成する第一バーナと、
ゲルマニウム化合物を含まない第二ガラス原料を噴射してゲルマニウム非含有ガラス微粒子を合成する第二バーナと、
前記第一バーナおよび前記第二バーナを内部に配置した反応容器と、
を備え、前記反応容器内で回転するターゲットにガラス微粒子を吹き付けて堆積させる光ファイバ用母材の製造装置であって、
前記反応容器は未堆積のガラス微粒子を含む排ガスを排出する第一排気口および第二排気口を有し、
前記第一排気口は前記第一バーナが前記第一ガラス原料を噴射する方向に配置され、
前記第二排気口は前記第一排気口よりも前記第一バーナから離れた位置に配置され、
前記第二排気口から排出したガラス微粒子を含む排ガスを処理する排ガス処理部と、
前記第一排気口から排出したガラス微粒子を含む排ガスからガラス微粒子を回収するガラス微粒子回収部と、を備える。
【0011】
上記構成の製造装置によれば、高濃度でゲルマニウムを含有するガラス微粒子を多く含む排ガスを第一排気口により選択的に回収することができ、その後ガラス微粒子回収部において当該ガラス微粒子を回収することで、効率良くゲルマニウムを回収できる。
【0012】
(2)上記(1)の光ファイバ用母材の製造装置は、
前記第一排気口および前記第二排気口が、1つの排気管の内部に仕切りを設けることで形成された第一排気管および第二排気管それぞれの入口であってもよい。
【0013】
上記構成の製造装置によれば、反応容器に接続された排気管を別々に設けることなく、1つの排気管を仕切って第一排気管および第二排気管として配置することで、高濃度でゲルマニウムを含有するガラス微粒子を選択的に回収することができ、ゲルマニウムの回収コストを低減できる。
【0014】
(3)上記(1)または(2)の光ファイバ用母材の製造装置は、
前記ガラス微粒子回収部は、セラミックフィルタまたはバグフィルタを含んでも良い。
【0015】
セラミックフィルタを採用することで装置を小型化することができる。また、排ガスにフッ素が含まれる場合にはバグフィルタを採用することで好適にガラス微粒子を回収できる。バグフィルタとしては耐熱性に優れたものを使用すると好ましい。
【0016】
(4)上記(1)から(3)のいずれかの光ファイバ用母材の製造装置は、
前記ガラス微粒子回収部は、逆洗によりフィルタに堆積したガラス微粒子を回収するように構成されていてもよい。
【0017】
逆洗により、目詰まりによるフィルタの圧力損失の増加を抑制しつつガラス微粒子を回収できる。
【0018】
(5)上記(1)から(4)のいずれかの光ファイバ用母材の製造装置は、
前記ガラス微粒子回収部から排出した排ガスに含まれる液体を捕集する捕集部を備えてもよい。
【0019】
捕集部により塩酸などのゲルマニウムが溶解している可能性のある液体を捕集することができ、ゲルマニウムの回収量を向上できる。
【0020】
(6)上記(1)から(5)のいずれかの光ファイバ用母材の製造装置は、
前記ガラス微粒子回収部は撥水性のフィルタを含んでもよい。
【0021】
撥水性のフィルタによれば、塩酸などのガラス微粒子が溶解する水溶液が通過することを抑制でき、ゲルマニウムの回収効率を向上できる。
【0022】
(7)上記(1)から(6)のいずれかの光ファイバ用母材の製造装置は、
前記ガラス微粒子回収部は、第一排気口から排出した排ガスの温度を低下させないように温度調整可能に構成されてもよい。
【0023】
排ガスの温度を低下させないように温度調整可能に構成されていることで、排ガス中に含まれる水分により塩酸が生成することを抑制でき、ガラス微粒子に含まれるゲルマニウムがフィルタを通過することを抑制できる。
【0024】
(8)上記(1)から(7)のいずれかの光ファイバ用母材の製造装置は、
前記ガラス微粒子回収部は、逆洗によりフィルタに堆積したガラス微粒子を回収し、前記フィルタへの前記ガラス微粒子の堆積と、前記フィルタに堆積された前記ガラス微粒子の逆洗による回収と、を並行して実施できるように構成されてもよい。
【0025】
フィルタへのガラス微粒子の堆積と、フィルタに堆積されたガラス微粒子の逆洗による回収と、を並行して実施できることで、ガラス微粒子の回収を連続的に実施でき、ゲルマニウムの回収効率を向上できる。
【0026】
(9)上記(1)から(8)のいずれかの光ファイバ用母材の製造装置は、
前記第一排気口と前記ガラス微粒子回収部とを接続する排気管から、前記ガラス微粒子回収部を経由せずに前記排ガス処理部に排ガスを送るための非回収回路を備えてもよい。
【0027】
非回収回路を備えることで、ガラス微粒子回収部に異常が発生した場合でも反応容器における光ファイバ用母材の製造を継続できる。
【0028】
実施形態に係る光ファイバ用母材の製造方法は、
(10)上記(1)から(9)のいずれかの光ファイバ用母材の製造装置を用いて前記反応容器内で回転するターゲットにガラス微粒子を堆積させて光ファイバ用母材を製造する。
【0029】
上記構成の製造方法によれば、高濃度でゲルマニウムを含有するガラス微粒子を多く含む排ガスを第一排気口により選択的に回収して、その後ガラス微粒子回収部において当該ガラス微粒子を回収することで、効率良くゲルマニウムを回収しつつ、光ファイバ用母材を製造することができる。
【0030】
[本開示の実施形態の詳細]
(第一実施形態)
以下、本開示の光ファイバ用母材の製造装置および光ファイバ用母材の製造方法の第一実施形態の詳細を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、第一実施形態に係る反応容器20内部での光ファイバ用母材10の製造の様子を示す図である。
図2は、第一実施形態に係る光ファイバ用母材の製造装置1の構成を示す図である。
図2に示すように、製造装置1は、反応容器20と、排ガス処理部50と、ガラス微粒子回収部60と、を備える。
【0031】
反応容器20は、気相軸付け法(VAD法)に従って、その内部で回転するターゲットにガラス微粒子を吹き付けて堆積させて光ファイバ用母材10を製造するように構成されている(
図1)。反応容器20の内部には、第一バーナ22および第二バーナ24が配置されている。第一バーナ22は、ゲルマニウム化合物を含む第一ガラス原料32を噴射してゲルマニウム含有ガラス微粒子33を合成する。合成されたゲルマニウム含有ガラス微粒子33はターゲットに吹き付けられる。第二バーナ24は、ゲルマニウム化合物を含まない第二ガラス原料34を噴射してゲルマニウム非含有ガラス微粒子35を合成する。合成されたゲルマニウム非含有ガラス微粒子35はターゲットに吹き付けられる。光ファイバ用母材10のコア部分にゲルマニウム含有ガラス微粒子33が堆積され、光ファイバ用母材10のクラッド部分にゲルマニウム非含有ガラス微粒子35が堆積されるように、第一バーナ22および第二バーナ24は配置されている。
【0032】
反応容器20は、未堆積のガラス微粒子を含む排ガスを排出する第一排気口42および第二排気口44を有する(
図1)。第一排気口42および第二排気口44は、光ファイバ用母材10を挟んで第一バーナ22および第二バーナ24の反対側に配置されている。第一排気口42は第一バーナ22が第一ガラス原料32を噴射する方向に配置されている。ここで、「バーナがガラス原料を噴射する方向」とは、バーナの原料噴射口が向いた方向のみを指すものではない。反応容器20内に空気導入口(図示省略)が配置され、ガラス微粒子を排気口に導入しやすくしている場合には、当該方向は、空気導入口からの空気により、バーナの原料噴射口が向いた方向から変化した方向を指す。第二排気口44は第一排気口42よりも第一バーナ22から離れた位置に配置されている。
【0033】
第一排気口42および第二排気口44は、1つの排気管の内部に仕切り46を設けることで形成された第一排気管41および第二排気管43それぞれの入口である(
図1)。すなわち、第一排気口42および第二排気口44は、仕切り46を挟んで隣接している。別の見方では、1つのフードの開口部が仕切り46により第一排気口42および第二排気口44に分けられている。1つの排気管を仕切って第一排気管41および第二排気管43として配置することで、コストを低減できる。ただし、第一排気管41および第二排気管43を独立した管として配置し、第一排気口42および第二排気口44を離して配置してもよい。
【0034】
特に限定されるものではないが、第一排気口42および第二排気口44の大きさは、面積比で5:5から2:8となるように設定してもよい。第一排気口42の大きさとしては、幅50mm以上300mm以下、高さ100mm以上300mm以下としてもよい。第二排気口44の大きさとしては、幅100mm以上300mm以下、高さ100mm以上600mm以下としてもよい。
【0035】
また、仕切り46には第一排気管41および第二排気管43での圧力変動を抑制するために通気口を設けてもよい。通気口の大きさは、各排気管で回収されたガラス微粒子が簡単に別の排気管に移動しない程度としてもよい。また、
図1において仕切り46の端部は第一排気口42および第二排気口44の端部まで延びているが、仕切り46の端部が第一排気口42および第二排気口44の端部よりも光ファイバ用母材10から離れて位置するように、仕切り46を短くしてもよい。仕切り46を短くすることで、ガラス微粒子が仕切り46に堆積することを抑制できる。
【0036】
第一排気管41はガラス微粒子回収部60に接続されており、第二排気管43は排ガス処理部50に接続されている(
図2)。排ガス処理部50は、第二排気口44から排出したガラス微粒子を含む排ガスを処理するように構成されている。また後述するように、第二排気管43に戻されるガラス微粒子回収部60からの排ガスも処理するように構成されている。第二排気口44から排出したガラス微粒子を含む排ガスは、ガラス微粒子回収部60には流入せずに、全量が排ガス処理部50に送られて処理されるのが好ましいが、少量であれば一部がガラス微粒子回収部60に流入する構成であってもよい。また、製造装置1は、第一排気口42とガラス微粒子回収部60とを接続する排気管から、ガラス微粒子回収部60を経由せずに排ガス処理部50に排ガスを送るための非回収回路64を備える。非回収回路64を備えることで、ガラス微粒子回収部60に異常が発生した場合でも反応容器20における光ファイバ用母材10の製造を継続できる。
【0037】
ガラス微粒子回収部60は、第一排気口42から排出した排ガスからガラス微粒子70を回収するように構成されている(
図2)。ガラス微粒子回収部60はフィルタ62を備え、コンプレッサ66から送られる圧縮空気による逆洗によりフィルタ62に堆積したガラス微粒子70を回収するように構成されている。逆洗方式により、目詰まりによるフィルタ62の圧力損失の増加を抑制しつつガラス微粒子70を回収できる。逆洗時には、排風機68を通る回路が閉じて逃し回路67が開放される。
【0038】
フィルタ62は、例えばセラミックフィルタまたはバグフィルタである。セラミックフィルタを採用する場合には、装置を小型化することができる。また、排ガスにフッ素が含まれる場合にはバグフィルタを採用することで好適にガラス微粒子70を回収できる。バグフィルタとしては耐熱性に優れたものを使用すると好ましい。また、フィルタ62は、フッ素系樹脂などで構成された撥水性のフィルタでもよい。撥水性のフィルタによれば、塩酸などのガラス微粒子が溶解する水溶液が通過することを抑制でき、ゲルマニウムの回収効率を向上できる。
【0039】
また、ガラス微粒子回収部60は、第一排気口42から排出した排ガスの温度を低下させないように温度調整可能に構成されてもよい。フィルタ62の構成にもよるが、セラミックフィルタであればガラス微粒子回収部60の内部を500度以上としてもよい。また例えば、テフロン系のフィルタでは、240度以下としてもよい。第一排気口42から排出された排ガスは、ガラス微粒子回収部60に入り込む時点で、例えば200度程度となる。温度が低下すると排ガス中に含まれる水分により塩酸が生成し、ガラス微粒子を溶解してフィルタを通過し得る。そのため、ガラス微粒子回収部60の内部の温度を、100度以上、好ましくは150度以上、としてもよい。具体的な温度調整の手法としては、ガラス微粒子回収部60にヒーターを設けることが挙げられる。
【0040】
ガラス微粒子回収部60でガラス微粒子70と分離された排ガスは第二排気管43に戻され、排ガス処理部50へと送られて処理される。なお、ガラス微粒子回収部60でガラス微粒子70と分離された排ガスは、第二排気管43に戻さずに処理してもよい。また、
図2ではガラス微粒子回収部60を排ガス処理部50と別の装置としているが、排ガス処理部50が機能の一部としてガラス微粒子回収部60を備える構成としてもよい。
【0041】
上記構成の製造装置1によれば、高濃度でゲルマニウムを含有するガラス微粒子を多く含む排ガスを第一排気口42により選択的に回収することができ、その後ガラス微粒子回収部60において当該ガラス微粒子70を回収することで、効率良くゲルマニウムを回収できる。
【0042】
また、本実施形態に係る光ファイバ用母材の製造方法では、製造装置1を用いて反応容器20内で回転するターゲットにガラス微粒子を堆積させて光ファイバ用母材10を製造する。製造装置1を用いることで、高濃度でゲルマニウムを含有するガラス微粒子を第一排気口42により選択的に回収して、その後ガラス微粒子回収部60において当該ガラス微粒子70を回収することで、効率良くゲルマニウムを回収しつつ、光ファイバ用母材10を製造することができる。
【0043】
(第二実施形態)
次に、本開示の光ファイバ用母材の製造装置および光ファイバ用母材の製造方法の第二実施形態の詳細を、
図3を参照しつつ説明する。
図3は、第二実施形態に係る光ファイバ用母材の製造装置101の構成を示す図である。製造装置101は製造装置1と比較して、ガラス微粒子回収部60が2つ設けられている点と、排ガスが通る回路が変化している点と、後述する捕集部80を備える点と、において相違する。したがって、以下の説明では、製造装置1と共有する部分については同じ符号を付して説明は適宜省略する。
【0044】
製造装置101において、反応容器20の第一排気管41から2つのガラス微粒子回収部60のそれぞれに排ガスが供給されるように回路が構成されている。2つのガラス微粒子回収部60から排出される排ガスは共通の排風機68を通る。製造装置101は、ガラス微粒子回収部60から排出した排ガスに含まれる液体を捕集する捕集部80を備える。捕集部80は、排風機68よりも排ガスの流れ方向における下流に配置されている。捕集部80は、例えばガラス微粒子を溶解し得る塩酸などを捕集する。塩酸はゲルマニウムも含み得るところ、捕集部80によりそのような液体を捕集することで、別途ゲルマニウムの回収操作を行ってゲルマニウムを回収できる。ガラス微粒子回収部60と捕集部80とにより、ゲルマニウムの回収量を向上できる。捕集部80は、通常の液体トラップで構成されてもよく、コールドトラップで構成されてもよい。なお、本実施形態では捕集部80は排風機68よりも排ガスの流れ方向における下流に配置されているが、排ガスの温度が低い場合は排風機の腐食を抑制するため上流に配置してもよいし、上流と下流の両方に配置してもよい。
【0045】
製造装置101の2つのガラス微粒子回収部60は、それぞれ逆洗によりフィルタ62に堆積したガラス微粒子70を回収するように構成されている。2つのガラス微粒子回収部60の逆洗は独立して実施可能である。製造装置101は、フィルタ62へのガラス微粒子70の堆積と、フィルタ62に堆積されたガラス微粒子70の逆洗による回収と、を並行して実施できるように構成されている。すなわち、一方のガラス微粒子回収部60ではフィルタ62へガラス微粒子70を堆積でき、他方のガラス微粒子回収部60ではフィルタ62に堆積されたガラス微粒子70を逆洗により回収できる。これにより、ガラス微粒子70の回収を連続的に実施でき、ゲルマニウムの回収効率を向上できる。
【0046】
(第三実施形態)
次に、本開示の光ファイバ用母材の製造装置および光ファイバ用母材の製造方法の第三実施形態の詳細を、
図4を参照しつつ説明する。
図4は、第三実施形態に係る光ファイバ用母材の製造装置201の構成を示す図である。製造装置201は製造装置101と比較して、反応容器20が4つ設けられている点と、排ガスが通る回路が変化している点と、において相違する。したがって、以下の説明では、製造装置101と共有する部分については同じ符号を付して説明は適宜省略する。
【0047】
製造装置201において、4つの反応容器20の第一排気管41から排出された排ガスが集約されて、2つのガラス微粒子回収部60のそれぞれに供給されるように回路が構成されている。製造装置201において、4つの反応容器20のそれぞれに対応する非回収回路64が設けられている。非回収回路64が4つの反応容器20のそれぞれに設けられていることで、ガラス微粒子回収部60の運転状況に応じて各反応容器20からのガラス微粒子回収部60へのガラス微粒子の供給を制御できる。
【実施例】
【0048】
以下、本開示に係る具体的な実施例を説明する。なお、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
図1に示す反応容器20において、ターゲットにスス(ガラス微粒子)を所定時間吹き付けて光ファイバ用母材10を製造した。スス付け終了後に、第一排気管41および第二排気管43にそれぞれ堆積したススを採取してスス中に含まれるゲルマニウムの濃度を測定した。測定は下水試験方法およびICP発光分析法によって行った。第一排気管41に堆積したススに含まれるゲルマニウムの濃度は4.67質量%であったのに対し、第二排気管43に堆積したススに含まれるゲルマニウムの濃度は0.22質量%であった。このことから、第一排気口42により高濃度でゲルマニウムを含有するガラス微粒子を選択的に回収できることが確認された。
【0049】
以上、特定の実施形態および実施例に基づいて本開示を説明したが、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0050】
上述の第二実施形態および第三実施形態において2つのガラス微粒子回収部60によって、フィルタへのガラス微粒子の堆積と、フィルタに堆積されたガラス微粒子の逆洗による回収と、を並行して実施できる態様を説明したが、本開示はこの態様に限られない。1つのガラス微粒子回収部60の内部に複数のフィルタ62を設け、各フィルタ62において独立して逆洗が実施できる構成とすることで、フィルタへのガラス微粒子の堆積と、フィルタに堆積されたガラス微粒子の逆洗による回収と、を並行して実施できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1,101,201:製造装置、10:光ファイバ用母材、20:反応容器、22:第一バーナ、24:第二バーナ、32:第一ガラス原料、33:ゲルマニウム含有ガラス微粒子、34:第二ガラス原料、35:ゲルマニウム非含有ガラス微粒子、41:第一排気管、42:第一排気口、43:第二排気管、44:第二排気口、46:仕切り、50:排ガス処理部、60:ガラス微粒子回収部、62:フィルタ、64:非回収回路、66:コンプレッサ、67:逃し回路、68:排風機、70:ガラス微粒子、80:捕集部