(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】光学部材の製造方法、製造装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241210BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20241210BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20241210BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241210BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G02B5/30
B05D7/00 K
B05D3/06 102Z
B05D7/24 302Z
B05D5/06 Z
(21)【出願番号】P 2021037495
(22)【出願日】2021-03-09
【審査請求日】2023-09-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信二
(72)【発明者】
【氏名】那脇 洋平
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-125280(JP,A)
【文献】特開2016-200639(JP,A)
【文献】特開2005-345982(JP,A)
【文献】特開2021-002059(JP,A)
【文献】特開2019-191507(JP,A)
【文献】特開2009-086191(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101726785(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B05D 7/00
B05D 3/06
B05D 7/24
B05D 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部材の製造方法であって、
前記光学部材の使用波長に対する透過率が50%以上である基材に、配向膜を形成せずに波長200nm以下の直線偏光紫外光を照射することにより、前記基材自体の表面に配向処理を施すステップと、
前記直線偏光紫外光を照射後の前記基材上に重合性液晶化合物を積層するステップと、
前記重合性液晶化合物が前記基材の状態に応じて配向することにより、位相差層を形成するステップと、
を備えることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記位相差層が、前記直線偏光紫外光の偏光方向と平行な方向に配向することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記直線偏光紫外光の照射により誘起される前記基材の光化学反応が、分解反応であることを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
前記基材の材料が、PET(ポリエチレンテレフタレート)、TAC(トリアセチルセルロース)、環状オレフィンポリマーのいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記重合性液晶化合物が異常分散性を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記直線偏光紫外光の照射は、不活性ガス雰囲気にて行われることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記基材はPETであって、
前記直線偏光紫外光を照射するステップは、前記波長200nm以下の直線偏光紫外光に代えて、波長222nmまたは254nmの直線偏光紫外光を照射することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記基材はPETであって、
前記直線偏光紫外光の照射は、酸素を含む雰囲気にて行われることを特徴とする請求項1から
5,7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
光学部材の製造装置であって、
前記光学部材の使用波長
に対する透過率が50%以上であるフィルム状の基材を搬送する搬送手段と、
前記基材に、配向膜を形成せずに波長200nm以下の直線偏光紫外光を照射することにより、前記基材自体の表面に配向処理を施す照明装置と、
を備えることを特徴とする光学部材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、位相差層を有する光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学分野において、光の位相制御は重要な技術である。光の位相を制御する光学部材として、1/4波長板や1/2波長板などの波長板が広く用いられる。波長板は、位相差板、位相差フィルム、あるいは位相差層とも称される。
【0003】
たとえば液晶ディスプレイは、その原理上、輝度の制御に位相差フィルムが必要となる。有機ELディスプレイは、外光反射を抑制するための反射防止フィルムが必要であり、反射防止フィルムは、直線偏光板と1/4波長板の積層構造を有する。
【0004】
ディスプレイ装置などの用途に使用される位相差板/位相差フィルムには、広い波長域の光に対して均一な位相差を与えることが求められる。近年では光学部材の薄膜化の要請に応じるため、たとえば特許文献1に記載されるように、重合性液晶化合物を用いた位相差フィルムが提案されている。重合性液晶化合物としては、たとえば紫外線照射により硬化する紫外線硬化性液晶モノマー(UVキュアラブル液晶)が用いられる。
【0005】
従来の重合性液晶化合物を用いた位相差フィルムの従来の製造工程を説明する。
【0006】
この製造方法は、配向処理した支持体上に、重合性液晶化合物を含む重合性組成物を塗布し、溶剤を乾燥させ、液晶化合物を配向させた後、紫外線又は熱により重合させることによって製造される。
【0007】
図1は、位相差フィルムを備える光学部材900の従来の製造方法を示す断面図である。
【0008】
図1(a)に示すように、後に示す配向膜層、位相差層を支持する基材902を用意する。次に、
図1(b)に示すように、基材902の表面に、配向膜904を塗布する。そして、
図1(c)に示すように、配向膜904に配向性を付与する配向処理を施す。配向処理としては、ラビング法や光配向法等が用いられる。
図1(c)は光配向処理が示されている。すなわち、配向膜904に対して直線偏光した紫外線を照射して、当該配向膜の配向処理を行う。
【0009】
次いで、
図1(d)に示すように、配向処理が施されている配向膜904上に重合性液晶化合物906(たとえば、紫外線硬化性液晶モノマー等)を塗布等により成膜する。重合性液晶化合物906は、その下地である配向膜904の配向にしたがって、配向する。
【0010】
次いで、
図1(e)に示すように、
図1(d)において生成された基材902、配向膜904、重合性液晶化合物906の積層体910を加熱する。重合性液晶化合物906は乾燥し、配向状態を維持した状態で固定される。その後、
図1(f)に示すように、配向された重合性液晶化合物906に紫外線を照射する。この加熱またはUV照射により、重合性液晶化合物は硬化して固定される。これにより、配向状態が維持された重合性液晶化合物の硬化物が、位相差層908となる。
【0011】
次に
図1(g)に示すように、積層体910の位相差層908を、他の光学素子920(たとえば、偏光フィルムなど)に接合する。
【0012】
続いて
図1(h)に示すように、基材902および配向膜904を剥離することにより、位相差層908を他の光学素子920に転写する。
【0013】
たとえば、位相差層908が1/4波長板として機能するように構成され、光学素子920が直線偏光素子である場合には、光学部材900として、反射防止フィルムを構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の光学部材900の製造工程においては、重合性液晶化合物906を配向させるために、下地に配向膜904を使用している。
【0016】
配向膜904の配向処理には、ラビング法や光配向法が用いられる。ここで、光配向法は、ラビング法と比較すると以下のような利点を有する。光配向法は、ラビング法と異なり非接触処理であるので、粉塵や静電気を発生させないので歩留まりが向上する。また、ラビング法では対応できない微細部分も配向処理を行うことが可能となる。
【0017】
そのため、配向膜としては光配向処理可能な特殊な膜が採用されることが多い。しかしながら、光配向処理可能な膜の材料は高価であるので、光学部材900のコストが上昇する要因となる。
【0018】
また、重合性液晶化合物906を配向させる前に、基材902への配向膜904の成膜工程が必要となり、製造コストが高くなる。
【0019】
本開示は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、従来より簡単な、位相差フィルムを有する光学部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本開示のある態様の光学部材の製造方法は、光学部材の使用波長に対して実質的に透明である基材に波長200nm以下の直線偏光紫外光を照射するステップと、直線偏光紫外光を照射後の基材上に重合性液晶化合物を積層し、重合性液晶化合物が配向することにより、位相差層を形成するステップと、を備える。
【0021】
本開示の別の態様は、光学部材の製造装置である。この製造装置は、ポリカーボネートを除く樹脂であり光学部材の使用波長に対して実質的に透明である基材を搬送する搬送手段と、基材に波長200nm以下の直線偏光紫外光を照射する照明装置と、を備える。
【0022】
一実施形態に係る光学部材は、PET、TAC、環状オレフィンポリマー(COP,COC,CORともいう)のうちの少なくとも1つからなる基材と、基材の上に他の層を介さずに直接積層されている重合性液晶化合物であって、少なくとも一部が基材の状態に応じて配向されている重合性液晶化合物と、を備える。
【0023】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、本開示の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0024】
本開示のある態様によれば、従来より簡単に、位相差層を有する光学部材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】位相差フィルムを備える光学部材の従来の製造方法を示す断面図である。
【
図2】
図2(a)~(e)は、実施形態に係る光学部材の製造方法を示す断面図である。
【
図3】実施形態に係る製造方法のフローチャートである。
【
図4】
図4(a)~(d)は、光学部材の製造方法を示す断面図である。
【
図5】
図5(a)、(b)は、評価対象となる試験フィルムを含む評価用の液晶セル構造体を示す図である。
【
図7】
図7(a)、(b)は、リファレンス試験フィルムの写真を示す図である。
【
図8】
図8(a)~(c)は、試験フィルムに偏光紫外光を照射して光配向処理を施す光配向処理システムの概略図である。
【
図9】
図9(a)~(c)は、Xeエキシマランプ、KrClエキシマランプ、Deep-UVランプの発光スペクトルを示す図である。
【
図10】VUV偏光板の消光比、透過率特性を示す図である。
【
図11】DUV偏光板の消光比、透過率特性を示す図である。
【
図12】TACフィルムを用いたサンプル#11~#15の写真を示す図である。
【
図13】PETフィルムを用いたサンプル#21~#27の写真を示す図である。
【
図14】COPフィルムを用いたサンプル#31~#35の写真を示す図である。
【
図15】PCフィルムを用いたサンプル#41~#45の写真を示す図である。
【
図16】PETフィルムを用いたサンプル#51~#59およびPI膜を用いたサンプル#61~#64の写真を示す図である。
【
図17】異なる材料、条件で作成したサンプルの結果一覧を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0027】
発明者らは位相差層を構成する基材に着目し、当該基材自体に配向性を付与する配向処理を行うことを試みた。その結果、光学部材(たとえば光学フィルム)に使用される所定の素材について、波長200nm以下(基材の材料によっては222nmあるいは254nm)の直線偏光紫外光を照射することにより、基材自体に直接、配向性を付与することが可能であることが判明した。
【0028】
すなわち、発明者らは、基材上に成膜した配向膜を下地とせずとも、基材を下地として重合性液晶化合物を配向させ、配向状態が維持された重合性液晶化合物の硬化物からなる位相差層を基板上に構成することが可能な光学部材の製造方法(配向性の付与方法)を見出した。
【0029】
一実施形態に係る光学部材の製造方法は、光学部材の使用波長に対して実質的に透明である基材に波長200nm以下の直線偏光紫外光を照射するステップと、直線偏光紫外光を照射後の基材上に重合性液晶化合物を積層するステップと、重合性液晶化合物が基材の状態に応じて配向することにより、位相差層を形成するステップと、を備える。
【0030】
この方法によれば、波長200nm以下の直線偏光紫外光の照射によって、基材に配向性を付与することができる。そして、配向した基材を下地として、重合性液晶化合物を積層することにより、重合性液晶化合物に、基材の状態に応じた配向を与えることができ、位相差層を形成できる。この方法では、(i)高価な配向膜の材料が不要であり、(ii)配向膜を塗布、硬化させる処理が不要であるため、処理を簡素化でき、製造コストを下げることができる。
【0031】
一実施形態において、基材が透明であるため、基材と位相差層の積層構造を、そのまま光学素子として使用することも可能である。この場合には、基材を剥離する必要がないため、製造コストをさらに下げることができる。
【0032】
一実施形態において、位相差層は、直線偏光紫外光の偏光方向と平行な方向に配向してもよい。従来技術で使用される光配向処理可能な膜の材料(配向膜)は、直線偏光紫外光の偏光方向と垂直方向に配向するものであり、一実施形態は、従来の材料とは配向処理のメカニズムが異なっているといえる。
【0033】
一実施形態において、直線偏光紫外光の照射により誘起される基材の光化学反応が、分解反応であってもよい。従来技術で使用される光配向処理可能な膜の材料(配向膜)は、架橋反応あるいは重合反応を利用したものであり、一実施形態は、従来の材料とは配向処理のメカニズムが異なっているといえる。
【0034】
一実施形態において、基材の材料が、PET(ポリエチレンテレフタレート)、TAC(トリアセチルセルロース)、環状オレフィンポリマーのいずれかであってもよい。PETやTACは安価で入手が容易であるため、これらの材料を用いることで、一層の低コスト化が可能となる。
【0035】
一実施形態において、重合性液晶化合物が異常分散性を有してもよい。これにより、光学部材の特性を、可視光全域にわたって均一化できる。
【0036】
一実施形態において、直線偏光紫外光の照射は、不活性ガス雰囲気にて行われてもよい。
【0037】
一実施形態において、基材はPETであってもよい。直線偏光紫外光を照射するステップは、波長200nm以下の直線偏光紫外光に代えて、波長222nmまたは254nmの直線偏光紫外光を照射してもよい。
【0038】
一実施形態において、基材はPETであって、直線偏光紫外光の照射は、酸素を含む雰囲気にて行われてもよい。
【0039】
一実施形態に係る光学部材の製造装置は、光学部材の使用波長に対して実質的に透明である基材を搬送する搬送手段と、基材に波長200nm以下の直線偏光紫外光を照射する照明装置と、を備える。製造装置は、直線偏光紫外光を照射後の基材上に重合性液晶化合物を塗布する塗布装置をさらに備えてもよい。
【0040】
一実施形態に係る光学部材は、PET、TAC、環状オレフィンポリマーのうちの少なくとも1つからなる基材と、基材の上に他の層を介さずに直接積層されている重合性液晶化合物であって、少なくとも一部が配向されている重合性液晶化合物と、を備える。基材を構成する分子は、重合や架橋ではなく、分解していてもよい。
【0041】
(実施形態)
以下、好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、開示や発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示や発明の本質的なものであるとは限らない。
【0042】
また図面に記載される各部材の寸法(厚み、長さ、幅など)は、理解の容易化のために適宜、拡大縮小されている場合がある。さらには複数の部材の寸法は、必ずしもそれらの大小関係を表しているとは限らず、図面上で、ある部材Aが、別の部材Bよりも厚く描かれていても、部材Aが部材Bよりも薄いこともあり得る。
【0043】
図2(a)~(e)は、実施形態に係る光学部材の製造方法を示す断面図である。
図3は、実施形態に係る製造方法のフローチャートである。
【0044】
図2(a)に示すように、まず、後に示す位相差層108を支持する基材102を用意する(
図3の処理S1)。
【0045】
基材102は、発明者が見出した直線偏光紫外光の照射により配向性が付与される樹脂材料からなる。なお、上記基材102は光学素子の基材として使用するので、その樹脂材料は、可視光に対して光透過性を有する材料、特に無色透明性を有する材料であることが好ましい。
【0046】
この光配向可能な透明基材102は、可視光領域における透過率が50%以上、好ましくは80%以上であることがより好ましい。
【0047】
次に、
図2(b)に示すように、処理S1で用意した基材表面に、波長200nm以下の直線偏光紫外光(以下、直線偏光真空紫外(VUV)光とも称する)を照射し、当該基材102に配向処理を施す(処理S2)。
【0048】
紫外線光源としては、たとえば、中心波長172nmの紫外線を放射するXeエキシマランプが用いることができる。なお、エキシマランプに代えて、波長193nmのエキシマレーザを用いてもよい。
【0049】
次いで
図2(c)に示すように、配向処理が施されている基材102上に重合性液晶化合物106(たとえば、紫外線硬化性液晶モノマー等)を塗布等により成膜する。そして、重合性液晶化合物106を、下地である基材102の配向性によって配向させる(処理S3)。
【0050】
そして
図2(d)に示すように、基材102、重合性液晶化合物106の積層体110を加熱する(処理S4)。重合性液晶化合物106は乾燥し、配向状態を維持した状態で固定される。なお、加熱手段としては、公知の加熱、乾燥手段を適宜選択すればよい。
【0051】
その後、
図2(e)に示すように、配向された重合性液晶化合物106に紫外線(たとえば、365nm)を照射して、重合性液晶化合物106を重合して硬化する(処理S5)。これにより、配向状態が維持された重合性液晶化合物の硬化物からなる位相差層108が得られる。
【0052】
以上により、透明の基材102および位相差層108からなる光学部材(位相差フィルム)100が得られる。この光学部材100を最終製品としてもよい。
【0053】
あるいは光学部材100を、別の光学部材200の中間材(部品)として用いてもよい。
図4(a)~(d)は、光学部材200の製造方法を示す断面図である。たとえば、位相差層108を他の光学素子と接合して、別の光学部材200を構成してもよい。
【0054】
図4(a)に示すように、光学部材100の位相差層108を、他の光学素子120と接合する。
図4(b)の状態を、最終的な光学部材200Aとしてもよい。基材102は、透明であるため、そのまま残しても、光学部材200Aの機能は失われない。
【0055】
あるいは、光学部材の薄型化が要求される場合には、
図4(c)に示すように、基材102を剥離し、
図4(d)に示すような位相差層108と光学素子120の積層構造を、最終的な光学部材200Bとしてもよい。
【0056】
たとえば、位相差層108が1/4波長板として機能するように構成されている場合、この位相差層108を直線偏光素子である光学素子120に接合あるいは転写することにより、反射防止フィルムを構成することができる。
【0057】
以上が実施形態に係る、光学部材の製造方法である。
【0058】
続いて、この製造方法を用いて作成したサンプルおよびその評価について説明する。
【0059】
〔光配向基材の評価〕
はじめに、直線偏光VUV光の照射によって基材に生ずる配向の評価を説明する。
【0060】
1.評価システム
発明者らは、直線偏光VUV光を照射した基材の光配向の品質を評価する評価システムを構築した。
【0061】
図5(a)、(b)は、評価対象となる試験フィルムを含む評価用の液晶セル構造体400を示す図である。試験フィルム300は、基材102を模擬したものであり、基材102と同じ材料で構成される。試験フィルム300は、その一部(光配向領域という)302が、直線偏光VUV光の照射によって配向処理されている。試験フィルム300の残りの部分(非光配向領域という)304は、直線偏光VUV光の照射を行わないもとの樹脂材料であり、配向処理がされないリファレンス領域である。
【0062】
図5(a)に示すように、液晶セル構造体400は、試験フィルム300に加えて、TN液晶410、配向膜基板420を備える。配向膜基板420は、ガラス基板422上に、配向膜424を形成したものである。この配向膜424は、たとえば、ポリイミド(PI)塗布膜であり、ラビングにより配向性が付与されている。
【0063】
この配向膜基板420に、5CB(4-pentyl-4’-Cyanobiphenyl)液晶を滴下して、液晶層410を形成し、その上部に評価する基材(試験フィルム300)を積層する。
【0064】
直線偏光VUV光の照射後の試験フィルム300には、上述の原理によって配向性が付与される。液晶層410の配向は、それと接する試験フィルム300の配向状態に応じて変化する。試験フィルム300と接する界面での液晶層410の配向方向が、その下側に配置されている配向膜基板420の配向膜424の配向方向と直交する場合、液晶層410内の液晶分子は90度捻れた状態となり、液晶層410内を通過する偏光光の偏光方向を90度回転させる作用を示すこととなり、液晶セル構造体400は、TN型液晶セル構造体(以下、TNセル構造体ともいう)となる。なお液晶層410は、光学部材100の重合性液晶化合物106を模擬したものとなる。
【0065】
図6は、評価システム500の断面図である。評価システム500は、液晶セル構造体400に加えて、第1偏光フィルム510、第2偏光フィルム520、バックライト照明530を備える。液晶セル構造体400は、第1偏光フィルム510と第2偏光フィルム520によって挟まれる。
【0066】
バックライト照明530は、内部に蛍光灯を有するトレース台であり、その上に、第2偏光フィルム520を配置し、その上部に液晶セル構造体400を置く。そしてこの液晶セル構造体400の上部に第1偏光フィルム510を配置する。ここで、第1偏光フィルム510と第2偏光フィルム520は、偏光方向が直交するように配置される(クロスニコル配置)。
【0067】
光配向領域302に付与された配向処理が良好であって、液晶セル構造体400がTNセル構造体として機能する場合、バックライト照明530から放射された光は第2偏光フィルム520で直線偏光になった後、液晶セル構造体400を通過する際に光の偏光方向が90度回転して、第1偏光フィルム510の偏光軸方向と一致し、バックライト照明530からの光(バックライト)は第1偏光フィルム510を透過する。
【0068】
すなわち、液晶セル構造体400がTNセル構造体として機能する場合、上記した光配向領域302の配向規制力が強く、液晶層410内の液晶分子が整然と揃って配向していれば、第1偏光フィルム510を通して液晶セル構造体400を目視したとき、液晶セル構造体(TNセル構造体)400の光配向領域302は、透過するバックライト照明530からの光により白く見える。反対に、光配向領域302の配向規制力が弱く、液晶層410内の液晶分子が整然と配向していない場合、第1偏光フィルム510を通して液晶セル構造体400を目視したとき、光配向領域302は液晶落下痕等のムラやハーフトーンに見える。
【0069】
ここで、試験フィルムのリファレンス(リファレンス試験フィルムという)として、ガラス基板にポリイミド(PI:日立化成製LX-1400)を塗布して波長254nmの直線偏光紫外光を、当該ポリイミド面に対して垂直な方向から照射したサンプルを作製した。
【0070】
このサンプルも波長254nmの偏光紫外光照射により配向処理を行った領域と、波長254nmの偏光紫外光を照射していない領域とを有する。
【0071】
なお、波長254nmの偏光紫外光の照射方向は、PI成膜面に対して垂直である。
【0072】
このリファレンス試験フィルムを用いて
図5(a)に示す液晶セル(TNセル)を作製し、
図6に示す評価システムにこの液晶セルを配置して、バックライト照明530を点灯した。
【0073】
図7(a)、(b)は、リファレンス試験フィルムの評価結果を示す写真を示す図である。
図7(a)は、リファレンス試験フィルムのうち波長254nmの偏光紫外光照射により配向処理した領域とオーバーラップする第1偏光フィルム510の写真を、
図7(b)はリファレンス試験フィルムのうち波長254nmの偏光紫外光照射を行っていない領域とオーバーラップする第1偏光フィルム510の写真を示す。
【0074】
一般に、上記したようにPI(ポリイミド)に対して波長254nmの垂直偏光紫外光照射を行うと、液晶は配向はするもののプレチルトアングルを生成しないことが知られている。プレチルトアングルとは、配向膜界面とそれに接する液晶分子とが成す角度(立ち上がり角)のことで、ラビング法の場合は強く一定方向にラビングすることでプレチルトアングルが生成され、かつ同じ向きに同じ角度で揃い、液晶反転、すなわちディスクリネーション(線欠陥)のない均一な画面が得られる。光配向法の場合は垂直方向からの照射ではプレチルトアングルが殆ど生成しない(すなわち、液晶分子が配向膜面に対してほぼ平行に配列する)ことが知られている。そのため、光配向法では、垂直方向からの照射に続いて偏光光を垂直方向からオフセット角を掛けて斜めから照射することで、配向膜深さ方向への異方性を付与してプレチルトアングルを生成し、かつ、立ち上がり方向を揃えることが行われる(2回照射法)。このとき、従来の報告では、DUV偏光光によるPI(ポリイミド)膜の光配向法では、配向方向は偏光軸と直交方向となるため、最初の垂直方向からの照射は配向させたい方向と直交方向の偏光軸のDUV偏光光を照射し、2回目のプレチルトアングルを生成する照射では偏光軸を最初の照射から90度回転させた後に傾斜させて照射することが行われる。これは、偏光軸を90度回転させないと、光を傾斜させても深さ方向への異方性が付与できない(等方性になってしまう)のでプレチルトアングルが生成できないためである。本開示における実施例では、配向性の付与の有無の確認が目的のため、垂直方向からの1回の照射のみで評価しており、プレチルトアングルは生成しない。そのため、
図7(a)を観察すると、ディスクリネーション(線欠陥)が認められる(黒く線状に見える部分)が、評価用液晶セル構造体400および第1偏光フィルム510を通過した光は全体的に白く見える。つまり、リファレンス試験フィルムは波長254nmの照射により、光配向したことが確認されている。
【0075】
一方、
図7(b)に示すように、PIに対して波長254nmの偏光紫外光が照射されていない領域の写真では、液晶の落下痕が出て全体的にムラが観察される。この状態は、波長254nmの偏光紫外光が照射されていない領域において液晶が配向していないことを示す。なお、
図5(a)に示す液晶層410の下側のガラス基板422上の配向膜424には予めラビングにより配向性が付与されているので、
図7(b)に示す図は、
図5(a)に示す液晶層410の上側の試験フィルム(PIサンプル)300のみに起因するムラを示す。
【0076】
上述したように、
図6に示す評価システムを用いて試験フィルムを観察することにより、試験フィルムの光配向領域302の配向状態や配向規制力の評価を行うことが可能となる。
【0077】
2.光配向処理システム
続いて試験フィルムの作製に使用する装置について説明する。
【0078】
図8(a)~(c)は、試験フィルムに偏光紫外光を照射して光配向処理を施す光配向処理システム600の概略図である。光源としては、Xeエキシマランプ、KrClエキシマランプ、Deep-UVランプ(超高圧水銀ランプ、または超高圧UVランプとも言う)を使用した。
図9(a)~(c)は、Xeエキシマランプ、KrClエキシマランプ、Deep-UVランプの発光スペクトルを示す図である。
【0079】
図8(a)に示す光配向処理システム600Aは、光源としてXeエキシマランプ610aを用いたものである。
図9(a)に示すように、Xeエキシマランプ610aから放射される光の中心波長は172nmである。
【0080】
図8(a)戻る。Xeエキシマランプ610aは、ランプハウス614内に配置される。ランプハウス614の下側(
図8(a)の下側)には、反射鏡612が設けられている。よって、Xeエキシマランプ610aから放射される光は、ランプハウス614より上方向(
図8(a)に示す矢印の方向)に進む。
【0081】
ランプハウス614の光出射口上には、真空紫外光(VUV)用の偏光板(以下、VUV偏光板ともいう)620aが配置される。
図10は、VUV偏光板620aの消光比、透過率特性を示す図である。同図において、実線が消光比特性を示し、破線が透過率特性を示す。
【0082】
今回用いたVUV偏光板620aにおいては、Xeエキシマランプ光の中心波長172nmにて消光比は16:1、透過率は16%である(平行光線での測定値)。なお、
図9(a)に示したように、Xeエキシマランプ610aの発光する波長は半値全幅で14nmの幅に広がっており、長波長側にやや長めに裾を引くスペクトルである。この半値全幅である165~179nmの波長範囲での消光比は10:1~70:1である。従って、波長配分を考慮した平均的な消光比は約25:1程度である。なお、Xeエキシマランプは発散光であるので斜め入射成分により消光比が悪化するため、消光比は約1/5~約1/10となり、約5:1~約3:1と考えられる。
【0083】
図8(a)に戻り、VUV偏光板620aの上部には、L字型の遮光板630が配置される。L字型遮光板630は、光輝アルミニウム合金からなるL字アングルであり、板厚は0.5mmである。
【0084】
L字型の遮光板630の平面部分は、試験フィルム300のうち、非光配向領域304とすべき領域を覆っている。遮光板630によりXeエキシマランプ光が遮光されるので、試験フィルム300の約1/2の領域は、Xeエキシマランプ光は照射されない。これにより試験フィルム300は、
図5(b)のような光配向領域302、非光配向領域304を有することとなる。
【0085】
Xeエキシマランプ610aを含むランプハウス614、VUV偏光板620a、遮光板630は、パージボックス640内に配置される。このパージボックス640は、窒素(N2)ガスによりパージボックス640内の酸素濃度を0.1%以下までパージすることが可能となっている。
【0086】
Xeエキシマランプ610aを用いる光配向処理システム600Aは、大気雰囲気および酸素パージ雰囲気の両方にて、試験フィルム300に光照射が可能となっている。大気雰囲気中で真空紫外光の照射を行うと、大気中の酸素の光分解反応により活性酸素とオゾンが生成するので酸化性雰囲気となる。
【0087】
図8(b)に示す光配向処理システム600Bは、光源としてKrClエキシマランプ610bを用いたものである。
【0088】
KrClエキシマランプ610bは、ランプハウス614内に配置される。ランプハウス614の下側(
図8(b)の下側)には、反射鏡612が設けられている。よって、KrClエキシマランプ610bから放射される光は、ランプハウス614より上方向(
図8(b)に示す矢印の方向)に進む。
【0089】
ランプハウス614の上部には、波長選択フィルタ622が配置される。
図9(b)には、KrClエキシマランプから放射される光のスペクトル分布を示す。同図において、破線は波長選択フィルタ622を配置しないときのスペクトル分布であり、実線は波長選択フィルタ622を配置し、当該波長選択フィルタ622透過後のスペクトル分布である。
【0090】
なお、両スペクトル特性とも、ピーク波長の光量を100(a.u.)としている。同図に示すように、KrClエキシマランプから放射される光の中心波長は222nmである。半値全幅は2nmであり、Xeエキシマランプに比べて幅の狭いシャープなスペクトルである。
【0091】
波長選択フィルタ622の光出射面上には、深紫外光(DUV)用偏光板(以下、DUV偏光板ともいう)620bが配置される。
図11は、DUV偏光板の消光比、透過率特性を示す図である。同図において、実線が消光比特性を示し、破線が透過率特性を示す。
【0092】
今回用いたDUV偏光板620bにおいては、KrClエキシマランプ光の中心波長222nmにて消光比は685:1である(平行光線での測定値)。前述したようにKrClエキシマランプのスペクトルの半値全幅は2nmと狭いので、この波長範囲では消光比は大きく変化せず、平均的な消光比は約700:1程度である。なお、KrClエキシマランプは発散光源であるので、DUV偏光板620bに対して斜めに入射する成分が生じる。そのため実際の消光比は上記に比べて若干悪化し、約140:1~約70:1になると考えられる。また、透過率は23%であった。
【0093】
図8(b)に戻る。DUV偏光板620bの上部には、
図8(a)と同様に、L字型の遮光板630が配置される。この遮光板630によって、試験フィルム300には、光配向領域302と非光配向領域304が形成される。
【0094】
なお、KrClエキシマランプ610bを用いる場合、大気中の酸素の光分解が起こらず活性酸素およびオゾンが発生しないので、試験フィルムへ300の光照射は大気雰囲気で行われる。よって、KrClエキシマランプ610bを用いる光配向処理システム600Bにおいては、パージボックス640は不要である。
【0095】
図8(c)に示す光配向処理システム600Cは、光源としてDeep-UVランプ610cを用いたものである。Deep-UVランプ610cとしては、ウシオ電機製USH-250BYを使用した。Deep-UVランプ610cは、平行光照射システム(ウシオライティング製マルチライト)650に搭載される。Deep-UVランプ610cから放射される光は、平行光照射システム650より下方向(
図8(c)に示す矢印の方向)に進む。
【0096】
図9(c)には、Deep-UVランプ(USH-250BY)から放射される光のスペクトル分布が示される。同図に示すように、Deep-UVランプ610cからは、DUV領域においては230nm以上の光が放射される。なお、PI(ポリイミド)に対しては230~260nmに見られる水銀の発光が有効であることが過去の報告より知られており、この波長域の発光は水銀の特性線254nmを中心に広がる発光である。本明細書で言う「波長254nmの照射」とはこの領域の発光を指す。
【0097】
図8(c)に戻る。平行光照射システム650の下側(光照射側)にはDUV偏光板620cが配置される。DUV偏光板620cは、
図8(b)に示す光配向処理システム600Bに用いるものと同等のものであり、DUV偏光板620cの消光比、透過率特性は
図11に示される。
【0098】
従来の光配向処理の際に使用される代表的な波長域230~260nmにおいて、消光比は約850:1~2300:1である(平行光線での測定値)。また、透過率は24~29%となっている。なお、平行光照射システムから入射する光は平行光であり斜め入射成分が無いため、消光比は悪化せず前記数値をそのまま適用できる。
【0099】
図8(c)に戻る。DUV偏光板620cの下部には、試験フィルム300を支持するステージ660が設けられる。このステージ660上に、試験フィルム300が載置され、試験フィルム300上にL字型の遮光板630が配置される。遮光板630によって、試験フィルム300は、光配向領域302と非光配向領域304を有することとなる。
【0100】
なお、KrClエキシマランプ610bを用いる場合と同様、Deep-UVランプ610cを用いる場合、試験フィルム300への光照射は大気雰囲気で行われる。よって、Deep-UVランプ610cを用いる光配向処理システム600Cにおいては、パージボックス640は使用されない。
【0101】
〔実験〕
いくつかの異なる材料に対して、光配向処理システム600A~600Cを用いて光配向を形成し、試験フィルム300のサンプルを作成し、それらを評価した。
・TAC(Triacetylcellulose:トリアセチルセルロース)
・PET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)
・COP(Cyclo-Olefin Polymer:シクロオレフィンポリマー)
・PC(polycarbonate:ポリカーボネイト)
・PI(polyimide:ポリイミド)膜
【0102】
1. TACフィルムを用いた実験
1.1 サンプル作製条件
TACフィルムを用いて、複数のサンプル(以下、サンプル#11~#15とする)を作製した。
フィルム材料: TAC(Triacetylcellulose:トリアセチルセルロース)、厚み60μm。(TacBright Optronics Corporation製)
【0103】
サンプル#11~#14において、TACフィルムへの直線偏光紫外光の照射は、
図8(a)に示す光配向処理システム600Aを用いて行った。すなわち、Xeエキシマランプからの放射光(以下、172nm光ともいう)を、VUV偏光板を介して直線偏光化して、TACフィルムの1/2の領域に照射した。
【0104】
サンプル#11~#14は照射条件が異なっており、サンプル#11および#12では、TACフィルムへの172nm光の偏光VUV照射は、大気雰囲気(大気中)にて実施し、サンプル#13および#14では、N2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)にて実施した。
【0105】
またサンプル#11と#12は、照射量が異なっており、サンプル#11では、1J/cm2であり、サンプル#12では、5J/cm2である。同様にサンプル#13と#14は、照射量が異なっており、サンプル#13では、1J/cm2であり、サンプル#14では、5J/cm2である。
【0106】
比較のためのサンプル#15は、光照射ではなく、簡易的にラビングによって作製した。ラビングはセルロース(キュプラ)繊維(ベンコット(商標):旭化成製)を用いて実施した。具体的には、ラビングは、上記ベンコットを用いてTACフィルム表面を一方向に擦ることで実施した。サンプル#11~#14と同様、サンプル#15も、フィルム表面の1/2の領域のみラビング処理を施した。
【0107】
1.2 サンプル#11~#15の評価結果
サンプル#11~#15の光配向状態の評価には、上述した評価システム500を用いた。具体的には、各試験フィルム300のサンプルそれぞれを用いて、
図5(a)に示す液晶セル構造体400を作製し、この液晶セル構造体400を、
図6の評価システム500を利用して評価した。
【0108】
図12は、TACフィルムを用いたサンプル#11~#15の評価結果を示す写真を示す図である。
【0109】
同図の写真は、評価システム500に、液晶セル構造体400を異なる2つの向きに配置し、評価システム500の第1偏光フィルム510を撮影したものである。
図12における偏光軸方向は、試験フィルム300に照射した偏光VUV光の偏光軸方向であり、液晶セル構造体400の配置される向きを示している。また、サンプル#11~#14に関して、写真に追加される黒枠は、試験フィルム300の光配向領域302を示す。
【0110】
また、評価システム500の第2偏光フィルム520の偏光方向は、
図12における紙面上下方向であり、第1偏光フィルム510の偏光方向は、
図12における紙面左右方向である。液晶セル構造体400がTNセル構造体として機能した場合、試験フィルム300と液晶層410との界面での液晶の配向方向(以下単に、液晶層410の配向方向ともいう)が紙面左右方向であるときに、バックライト照明530の光が第1偏光フィルム510を通過し、写真では白く見えることになる。
【0111】
[サンプル#15]
比較用のサンプル#15に関して黒枠で示している部分は、試験フィルム300にラビング処理を施した領域を示す。簡易ラビングを実施した比較試験用のサンプル#15においては、液晶層410の配向方向はラビング方向と同方向である。評価システム500における第2偏光フィルム520の偏光方向は紙面上下方向であり、第1偏光フィルム510の偏光方向紙面左右方向であるから、液晶セル構造体400を、サンプル#15の試験フィルム300のラビング方向が紙面左右方向となるように配置したときに、写真の黒枠内が白く見える。
【0112】
〔サンプル#11〕
大気中でTACフィルムへ172nm光の偏光VUV光を照射する光配向処理を実施した場合、波長172nm光(直線偏光VUV光)の照射量が1J/cm2のときはTACフィルムに配向性が付与されていることが観察された。すなわち、液晶セル構造体をTACフィルムに照射した偏光VUV光の偏光軸方向が紙面上下方向となるように配置したときは、黒枠内の光配向領域302は黒く見えるが、液晶セル構造体を、TACフィルムに照射した偏光VUV光の偏光軸方向が紙面左右方向となるように配置したときは、黒枠内の光配向領域302が白く見える。よって、172nm光の偏光VUV光照射により、TACフィルムに配向性が付与され、TACフィルムの配向性に伴って、液晶層410が配向していることが分かる。なお若干ムラが観測されるので、配向規制力は比較的弱いものと推測される。
【0113】
ここで、液晶セル構造体400の配向膜基板420のラビング方向と、TACフィルムに照射した172nm光の偏光VUV光の偏光軸方向が直交する場合、
図12の黒枠部分が白く見えている。第2偏光フィルム520と第1偏光フィルム510はクロスニコル配置であるので、TACフィルムに付与された配向性に伴う液晶層410の配向方向は、紙面左右方向であることが分かる。すなわち、TACフィルムに照射される172nm光の偏光VUV光の偏光軸方向と平行な方向に液晶層410が配向されている。
【0114】
本実施形態において、光配向処理が行われる樹脂製の基材102は、直線偏光VUV光を照射すると、光活性による分解反応により配向性が付与される。従来の200nmより長波長の深紫外光を使用した光配向法に関する報告では、このような分解型の材料の場合、液晶は、配向膜に照射される直線偏光紫外光の偏光軸方向と直交する方向に配向されるとされてきた。
【0115】
これに対して、サンプル#11に係るTACフィルムでは、試験フィルム300へ照射される直線偏光VUV光の偏光軸方向と平行な方向に液晶が配向されており、従来の深紫外光を使用した光配向法とは異なる配向特性を示すことが確認された。
【0116】
[サンプル#12]
波長172nmの照射量が5J/cm
2のときは、液晶セル構造体の向きをTACフィルムに照射した偏光紫外光の偏光軸方向が紙面上下方向にしたときも左右方向にしたときも
図12の黒枠部分は暗く見える。よって、一見するとTACフィルムには配向性が付与されていないように見受けられる。
【0117】
ここで発明者は、大気中での波長172nm光(直線偏光紫外光)の照射量が大きくなると、TACフィルム表面の酸化の影響より、垂直配向性(VA:Vertical Alignment、以降VAと称する)が付与されているのではないかと仮定した。
【0118】
そこで、TNセル構造体において、TACフィルムに換えて、VA方式の液晶セルからVA配向膜が施されたガラス基板を取り出し、このVA配向膜付きガラス基板(以下、VAガラス基板と称する)を試験フィルム(TAC)に換えて配置して評価した。
図12のVAガラス基板と記載した欄にある写真がその結果である。このVAガラス基板を搭載したTNセル構造体を、評価システム500に配置する向きをどの方向にしても、第1偏光フィルム510はほぼ均一に黒く見える。よって、大気中においてTACフィルムへの照射量が大きくなると(オーバー露光状態となると)、酸化の影響より当該TACフィルムは垂直配向状態となっている可能性が示唆される。
【0119】
〔サンプル#13,#14〕
N2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)で172nm光の直線偏光紫外光をTACフィルムに照射した場合、波長172nm光(直線偏光紫外光)の照射量が1J/cm2の場合も、5J/cm2の場合もTACフィルムに配向性が付与されていることが観察された。
【0120】
大気中での172nm光(直線偏光紫外光)の照射と、N2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)での172nm光(直線偏光紫外光)の照射とを比較すると、波長172nm光(直線偏光紫外光)の照射量が5J/cm2の場合(サンプル#12,#14)、大気中ではTACフィルムへの配向性の付与は観察されなかったが(#12)、N2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)では配向性の付与が観察された(#14)。これにより、酸素が172nm光(直線偏光紫外光)の照射による配向性の付与を阻害するように機能していることが分かる。
【0121】
なお、N2パージ雰囲気にて波長172nm光(直線偏光VUV光)の照射量を1J/cm2から5J/cm2と変化させても、液晶の配向状態の向上は見られるものの大きな変化は観察されなかった。また、TACフィルムに配向性が付与されたことは確認されたものの、写真には液晶の滴下痕に相当する部分が見受けられるので、全般に配向規制力は弱いものと考えられる。
【0122】
なお、TACフィルムの波長172nm光(直線偏光VUV光)を照射していない領域(黒枠で示していない領域)に対応する部分の写真は、液晶セル構造体の向きにより色合いが変わっている。これは、TACフィルムの製造段階における引っ張り処理などにより、延伸フィルムで見られるようなTACフィルムを構成する分子の一部が一方向に向いていることにより弱い配向性が付与されていることが考えられる。後で示す他の試験フィルムでも同様な傾向が観察される。
【0123】
TACフィルムの場合は、波長172nm光(直線偏光VUV光)を照射した領域に対応する部分と非照射領域に対応する部分とで白黒が反転している。これは、波長172nm光(直線偏光VUV光)により、TACフィルムの配向性が上書きされているものと考えられる。
【0124】
2. PETフィルムを用いた実験
2.1 サンプル作製条件
PETフィルムを用いて、いくつかのサンプル(以下、サンプル#21~#27とする)を作製した。
フィルム材料: PET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)、厚み100μm。(Shanghai Plastech International Trading Co., Ltd.製)
【0125】
サンプル#21~#26において、PETフィルムへの直線偏光紫外光の照射は、
図8(a)に示す光配向処理システム600Aを用いて行った。
【0126】
サンプル#21~#26は照射条件が異なっており、サンプル#21~#24では、PETフィルムへの172nm光の偏光VUV照射は、大気雰囲気(大気中)にて実施し、サンプル#25および#26では、N2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)にて実施した。
【0127】
またサンプル#21~#24は、照射量が異なっており、それぞれ、0.1J/cm2,0.2J/cm2,1J/cm2,5J/cm2である。またサンプル#25および#26に対する照射量はそれぞれ、1J/cm2および5J/cm2である。
【0128】
比較のためのサンプル#27は、光照射ではなく、簡易的にラビングによって作製した。ラビングの手法は、サンプル#15と同様である。サンプル#21~#26と同様、サンプル#27も、フィルム表面の1/2の領域のみラビング処理を施した。
【0129】
2.2 サンプル#21~#27の評価結果
サンプル#21~#27の光配向状態の評価には、上述した評価システム500を用いた。評価方法は、サンプル#11~#15と同様である。
【0130】
図13は、PETフィルムを用いたサンプル#21~#27の評価結果を示す写真を示す図である。
【0131】
〔サンプル#21~#26〕
PETを材料としたサンプル#21~#26の場合、大気中で172nm光の偏光紫外光を照射した場合も(#21~#24)、N2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)で172nm光の偏光紫外光を照射した場合も(#25,#26)、試験フィルム(PET)に配向性が付与されている。
【0132】
すなわち、液晶セル構造体400の向きを、PETフィルムに照射した偏光紫外光の偏光軸方向が紙面上下方向となるよう配置したときは、
図13の黒枠部分は黒く見えるが、液晶セル構造体400の向きを、PETフィルムに照射した偏光紫外光の偏光軸方向が紙面左右方向となるように配置したときは、
図13の黒枠部分が白く見える。よって、172nm光の偏光紫外光照射により、PETフィルムに配向性が付与され、PETフィルムの配向性に伴って液晶が配向していることが分かる。
【0133】
また、
図13の黒枠部分の白く見える写真は、ほぼ均一に白くなっており、液晶の配向が良好であり、大気中における波長172nm光(直線偏光紫外光)の照射量が0.2mJ/cm
2以上でほぼ飽和しており、ラビングした比較試験用のサンプル#27と比較しても遜色ない。
【0134】
ここで、172nm光(直線偏光紫外光)の照射によるPETフィルムへの配向性の付与については、TACフィルムの場合と異なり、酸素による影響は見受けられない。よって、N2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)でも、液晶の配向性は波長172nm光(直線偏光紫外光)の照射量が0.2mJ/cm2以上でほぼ飽和するものと考えられる。
【0135】
そして今回のPETフィルムの場合も、TACフィルムの場合と同様、試験フィルムへ照射される直線偏光VUV光の偏光軸方向と平行な方向に液晶が配向されている。
【0136】
なお、PETフィルムの場合、TACフィルムのときと比較すると、波長172nm光(直線偏光紫外光)を照射していない領域(黒枠で示していない領域)に対応する部分の配向性が強い。今回は、PETフィルムの製造段階における引っ張り処理の影響による液晶の配向方向は、波長172nm光(直線偏光紫外光)を照射した領域(黒枠で示す領域)における液晶の配向方向と同一である。
【0137】
図13に示す写真では分かりづらいが、写真を拡大すると波長172nm光(直線偏光VUV光)を照射した領域(黒枠で示す領域)に対応する部分と波長172nm光(直線偏光VUV光)を照射していない領域(黒枠の外側の領域)に対応する部分とでは、前者の方が液晶規制力が大きいことが見受けられる。また、波長172nm光(直線偏光VUV光)の照射量が0.2mJ/cm
2以上の場合、黒枠で示す領域において液晶の滴下痕は見受けられない。
【0138】
3. COPフィルムを用いた実験
3.1 サンプル作製条件
COPフィルムを用いて、いくつかのサンプル(以下、サンプル#31~#35とする)を作製した。
フィルム材料: COP(Cyclo-Olefin Polymer:シクロオレフィンポリマー)、厚み100μm。(日本ゼオン株式会社製)
【0139】
サンプル#31~#34において、COPフィルムへの直線偏光紫外光の照射は、
図8(a)に示す光配向処理システム600Aを用いて行った。
【0140】
サンプル#31~#34は照射条件が異なっており、サンプル#31,#32では、COPフィルムへの172nm光の偏光VUV照射は、大気雰囲気(大気中)にて実施し、サンプル#33および#34では、N2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)にて実施した。
【0141】
またサンプル#31と#32は、照射量が異なっており、それぞれ、1J/cm2と5J/cm2である。またサンプル#33および#34に対する照射量はそれぞれ、1J/cm2および5J/cm2である。
【0142】
比較のためのサンプル#35は、光照射ではなく、簡易的にラビングによって作製した。ラビングの手法は、サンプル#15や#27と同様であり、フィルム表面の1/2の領域のみラビング処理を施した。
【0143】
3.2 サンプル#31~#35の評価結果
サンプル#31~#35の光配向状態の評価には、上述した評価システム500を用いた。評価方法は、サンプル#11~#15と同様である。
【0144】
図14は、COPフィルムを用いたサンプル#31~#35の写真を示す図である。
【0145】
〔サンプル#31,#32〕
大気中でCOPフィルムへ172nm光の偏光紫外光を照射する光配向処理を実施した場合、波長172nm光(直線偏光紫外光)の照射量が1J/cm2であるサンプル#31は、ある程度配向性が付与されていることが観察されるものの、ラビングした比較試験用のサンプル#35と比較すると明らかに配向性の質は良くなく、TACフィルムと比較しても配向規制力が弱かった。また、波長172nm光(直線偏光紫外光)の照射量が5J/cm2であるサンプル#32は、配向性の付与はほぼ観察されず、TACフィルムのときのような垂直配向が示唆される状態でもなかった。
【0146】
〔サンプル#33,#34〕
N2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)で172nm光の直線偏光紫外光を照射した場合、照射量が1J/cm2のサンプル#33も、5J/cm2のサンプル#34も、配向規制力は弱いものの、COPフィルムに配向性が付与されていることが観察された。
【0147】
すなわち、液晶セル構造体の向きを、COPフィルムに照射した偏光紫外光の偏光軸方向が紙面上下方向となるように配置にしたときは、
図14の黒枠部分は黒く見えるが、液晶セル構造体の向きを、COPフィルムに照射した偏光紫外光の偏光軸方向が紙面左右方向となるように配置したときは、
図14の黒枠部分が白く見える。よって、172nm光の偏光紫外光照射により、COPフィルムに配向性が付与され、COPフィルムの配向性に伴って液晶が配向していることが分かる。
【0148】
以上のように、COPフィルムの場合、TACフィルムの時と同様、大気中での172nm光の直線偏光紫外光の照射の方が、N2パージ雰囲気での172nm光の直線偏光紫外光の照射のときより、COPフィルムへの配向性の付与の状態が良くないので、酸素が172nm光(直線偏光紫外光)の照射による配向性の付与を阻害するように機能しているものと思われる。
【0149】
しかしながら、172nm光の直線偏光紫外光の照射により
図14の黒枠部分において配向性が付与されていることは観察されるものの、液晶の滴下痕も観察される。よって、液晶の配向規制力も十分ではなく、TACフィルムよりも配向性が劣っていることがわかる。
【0150】
なお、COPフィルムにおいても、TACフィルム、PETフィルムの場合と同様、試験フィルムへ照射される直線偏光VUV光の偏光軸方向と平行な方向に液晶が配向されている。
【0151】
なお、COPフィルムの場合、TACフィルム、PETフィルムのときと比較すると、波長172nm光(直線偏光紫外光)を照射していない領域(黒枠で示していない領域)に対応する部分においては、配向性は観察されなかった。よって、COPフィルムの場合、素材自体は配向方向がランダムなガラスに近い状態と考えられる。
【0152】
4. PCフィルムを用いた実験
4.1 サンプル作製条件
PCフィルムを用いて、いくつかのサンプル(以下、サンプル#41~#45とする)を作製した。
フィルム材料: PC(polycarbonate:ポリカーボネイト)、厚み100μm。(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)
【0153】
サンプル#41~#44において、PCフィルムへの直線偏光紫外光の照射は、
図8(a)に示す光配向処理システム600Aを用いて行った。
【0154】
サンプル#41~#44は照射条件が異なっており、サンプル#41,#42では、PCフィルムへの172nm光の偏光VUV照射は、大気雰囲気(大気中)にて実施し、サンプル#43および#44では、N2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)にて実施した。
【0155】
またサンプル#41と#42は、照射量が異なっており、それぞれ、1J/cm2と5J/cm2である。またサンプル#43および#44に対する照射量はそれぞれ、1J/cm2および5J/cm2である。
【0156】
比較のためのサンプル#45は、光照射ではなく、簡易的にラビングによって作製した。ラビングの手法は、サンプル#15や#27等と同様であり、フィルム表面の1/2の領域のみラビング処理を施した。
【0157】
4.2 サンプル#41~#45の評価結果
サンプル#41~#45の光配向状態の評価には、上述した評価システム500を用いた。評価方法は、上述した通りである。
【0158】
図15は、PCフィルムを用いたサンプル#41~#45の写真を示す図である。
【0159】
[サンプル#45]
簡易ラビングを実施した比較試験用のサンプル#45においては、第2偏光フィルム520のラビング方向が紙面上下方向であるので、サンプル#45のラビング方向が紙面左右方向となるように液晶セル構造体400を配置したときに、写真の黒枠部分が幾分白く見える。
【0160】
〔サンプル#41,#42〕
大気中でPCフィルムへ172nm光の偏光紫外光を照射する光配向処理を実施した場合、波長172nm光(直線偏光紫外光)の照射量が1J/cm2であるサンプル#41、5J/cm2であるサンプル#42のいずれもの場合も、PCフィルムへは配向性が付与されていない。
【0161】
〔サンプル#43,#44〕
一方、N2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)で172nm光の直線偏光紫外光をPCフィルムに照射した場合、波長172nm光(直線偏光紫外光)の照射量が1J/cm2であるサンプル#43、5J/cm2であるサンプル#44のいずれについても、172nm光の直線偏光紫外光を照射していない領域に対応する部分と比較すると、ある程度の変化は観察されるものの、配向性が付与されているとは言い難い状態であることが見て取れる。
【0162】
なお、PCフィルムへラビング処理したサンプル#45をみると、ラビングした領域における液晶の配向性は良くない。よって、PCフィルムは、ラビング処理でも光配向処理でも配向性の付与することが難しいものと考えられる、
【0163】
5. 波長依存性に関する実験
いくつかの異なる材料のフィルムのうち、172nm光の偏光紫外光の照射による配向性の付与の結果が最も良好であったPETフィルムについて、照射光(偏光紫外光)の波長依存性を調べる実験を行った。比較のために、ポリイミド(PI)についても波長依存性を調べた。
【0164】
5.1 サンプル作製条件
PETフィルムおよびPIフィルムを用いて、いくつかのサンプル(以下、サンプル#51~#59、#61~#64とする)を作製した。
【0165】
[サンプル#51~#59]
サンプル#51~#59の材料は以下の通りである。
フィルム材料: PET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)、厚み100μm。(Shanghai Plastech International Trading Co., Ltd.製)
【0166】
サンプル#51,#52,#55,#56について、PETフィルムへの直線偏光紫外光の照射は、
図8(a)に示す光配向処理システム600Aを用いて行った。サンプル#51,#55について照射は大気中で行い、サンプル#52,#56について照射はN
2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)にて行った。
【0167】
またサンプル#53,#57について、PETフィルムには中心波長222nmの深紫外(DUV)光を照射しており、DUV光の照射は、
図8(b)の光配向処理システム600Bを用いて行った。
【0168】
またサンプル#54,#58について、PETフィルムには、波長254nmを含む深紫外(DUV)光を照射しており、DUV光の照射は、
図8(c)の光配向処理システム600Cを用いて行った。
【0169】
サンプル#51~#54の照射量は、1J/cm2であり、サンプル#55~#58の照射量は、5J/cm2である。
【0170】
サンプル#59は比較試験用フィルムであり、PCフィルムを簡易的にラビングしたものである。
【0171】
[サンプル#61~#64]
サンプル#61~#64の材料は以下の通りである。
・PI(polyimide:ポリイミド)膜・・・ガラス基板上に成膜。(PI膜は日立化成株式会社製)
【0172】
サンプル#61~#64では、配向膜としてPI膜が施されたガラス基板(ラビング処理なし)を用いた。
【0173】
サンプル#61,#62について、PETフィルムへの直線偏光紫外光の照射は、
図8(a)に示す光配向処理システム600Aを用いて行った。サンプル#61について照射は大気中で行い、サンプル#62は、N
2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)にて行った。
【0174】
またサンプル#63について、PETフィルムには、中心波長222nmの深紫外(DUV)光を照射しており、DUV光の照射は、
図8(b)の光配向処理システム600Bを用いて行った。またサンプル#64について、波長254nmを含む深紫外(DUV)光を照射しており、PETフィルムへの直線偏光紫外光の照射は、
図8(c)の光配向処理システム600Cを用いて行った。
【0175】
サンプル#61~#64の照射量はすべて1J/cm2である。
【0176】
5.2 波長依存性の評価結果
サンプル#51~#59,#61~#64の評価には、上述した評価システム500を用いた。評価方法は上述した通りであるが、サンプル#51~#58を含む液晶セル構造体400の向きは、フィルムに照射した偏光紫外光の偏光軸方向が、紙面左右方向となる向きに固定して撮影を行った。またサンプル#59についても、PETフィルムに処理した簡易ラビングの方向が紙面左右方向にした場合についてのみ、撮影を行った。またサンプル#61~#64を含む液晶セル構造体400の向きは、フィルムに照射した偏光紫外光の偏光軸方向が、紙面上下方向となる向きに固定して撮影を行った。
【0177】
図16は、PETフィルムを用いたサンプル#51~#59およびPI膜を用いたサンプル#61~#64の写真を示す図である。
【0178】
[サンプル#61~#64]
PI配向膜が施されたガラス基板の場合、従来の報告では直線偏光DUV光をPI配向膜へ照射するとPIの分解反応により当該PI配向膜に配向性が付与され、直線偏光DUV光の偏光軸方向と直交方向に液晶が配向されることが知られている。
【0179】
そのため、液晶セル構造体400の向きを上記のようにすることにより、評価システム500における液晶セル構造体400は、TNセル構造体として機能し、
図16に示すPI膜の黒枠で囲んだ部分ではバックライト照明530の光が通過し、同図では白く見えることになる。
【0180】
[サンプル#51~#58]
PETフィルムの場合、大気中ならびにN2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)で172nm光の偏光紫外光を照射した場合も、波長222nmの偏光紫外光を照射した場合も、波長254nm光の偏光紫外光を照射した場合も、PETフィルムに配向性が付与された。特に、波長172nm光の偏光紫外光を照射した場合が、最も良好にPETフィルムに配向性が付与された。また、波長によらず、PETフィルムに付与された配向方向は偏光軸と平行な方向だった。DUV光でもVUV光と同じ配向方向であったことから、従来のPI膜でのDUV偏光軸と直交する報告結果とは異なることが今回初めて見出された。このことは、従来のPI(ポリイミド)へのDUV偏光光による直交方向の配向性付与ではプレチルトアングル生成のために2回照射が必要だったものが、今回は傾斜させた1回の照射で配向性とプレチルトアングルを同時に生成できることを示している。
【0181】
[サンプル#61~#64]
一方、PI配向膜が施されたガラス基板の場合、波長222nmの偏光紫外光を照射したサンプル#63および波長254nmの偏光紫外光を照射したサンプル#64の両方において、PI膜に配向性が付与された。特に波長222nmの偏光紫外光を照射したサンプル#63では、PI配向膜への配向性の付与がより良好であった。このとき、配向方向は従来の254nm偏光光での報告通りで直交であった。一方、172nm光の偏光紫外光を大気中ならびにN2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)にて照射したサンプル#61,62には、配向性が付与されなかった。
【0182】
このことにより、PI配向膜が施されたガラス基板の場合、波長172nmの偏光紫外光を照射した場合と、波長222nmの偏光紫外光、波長254nm光の偏光紫外光を照射した場合とは、配向反応(分解反応)に違いが生じている可能性が示唆された。この差異は必ずしも明らかではないが、PI配向膜においては、波長172nmの偏光紫外光のフォトンエネルギーが大きすぎてPIの主鎖特定箇所の切断では収まらず、バラバラになって無秩序になっている可能性があるためと考えられる。
【0183】
6. まとめ
図17は、異なる材料、条件で作成したサンプルの結果一覧を示す図である。
上記の通り、波長200nm以下(波長172nm)の直線偏光紫外光の照射により、基材自体に配向性を付与することが可能であることが判明した。図中、配向性の付与状態が良いものから悪いものに順に、A,B,C,Dを付している。
【0184】
配向性の付与については基材の材料依存性が大きく、配向性の付与状態がより良好な順(配向規制力、感度が良好な順)は、PET、TAC、COPの順であり、PETが最も配向性の付与状態、配向規制力、照射される直線偏光紫外光への感度が良好で、波長172nmの直線偏光紫外光の照射量(積算光量)が0.2J/cm2以上で良好に配向性が付与されることが分かった。
【0185】
また、PETの場合、偏光紫外光の照射時において酸素の影響を受けないことが分かった。
【0186】
一方、TAC、COPは、偏光紫外光の照射時において酸素の影響を受けることが分かった。TACの場合は、大気雰囲気(酸素含有雰囲気)において、波長172nmの偏光紫外光の照射量が大きすぎると(たとえば5J/cm2)、配向性は付与されなかった。
また、COPの場合は、波長172nmの偏光紫外光の照射時にはN2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)が必須であることが分かった。なお、TAC、COP双方とも、PETと比較すると、波長200nm以下(波長172nm)の直線偏光紫外光の照射による配向性の付与の状態は良くない。すなわち、配向規制力はPETとより弱く、ムラが目立った。
【0187】
また、PCの場合、波長200nm以下(波長172nm)の直線偏光紫外光を大気雰囲気ならびにN2パージ雰囲気(酸素濃度0.1%以下)で照射しても、配向性は付与されなかった。
【0188】
また、配向性の付与状態が最も良好であったPETと、リファレンスとして配向膜としてPI膜を施したガラス基板とについて照射する偏光紫外光の波長依存性を調査したところ、PETの場合、波長222nmの偏光紫外光でも波長254nmの偏光紫外光でも配向性が付与されることが分かった。またPETの場合、波長が短波長になるほど良好に配向性が付与され、偏光紫外光に対する感度が高くなった。
【0189】
一方、リファレンス(参照用)のPI膜(ラビング処理なし)の場合、照射する偏光紫外光の波長が200nm以下(波長172nm)のときには、配向性が付与されなかった。
【0190】
上記波長が222nm、254nmの場合は、PI膜に配向性が付与された。特に波長222nmの偏光紫外光を照射した場合が、PI配向膜への配向性の付与がより良好であり、偏光紫外光に対して感度が高かった。
【0191】
今回の基板への偏光紫外光の照射において特筆すべきことは、光分解反応にて配向性が付与されるPI膜(配向膜)の場合液晶の配向方向がPI膜に照射する偏光紫外光の偏光軸に対して直交であるのに対し、今回の基板(PET、TAC、COP)の場合、液晶の配向方向が各基板に照射する偏光紫外光の偏光軸に対し平行であることである。
【0192】
従来のPI膜の光配向処理の場合と異なり、配向性の付与のメカニズムが異なる可能性がある(偏光紫外光の照射による分解反応において、切断される主鎖等の場所が異なる可能性がある)ことが、今回初めて分かった。
【0193】
光学フィルムの構築には、液晶のプレチルトアングルの制御が重要である。プレチルトアングルの制御を行う場合、従来のDeep-UV光(たとえば、254nm)分解型の光配向処理では、偏光紫外光の偏光軸に対し液晶が直交方向に配向するため、1回目のDeep-UV偏光紫外光の照射のあと、偏光軸の向きを90度変え、かつ入射角度を変えて2回目のDeep-UV偏光紫外光の照射が必要であった。
【0194】
今回の基板の場合、偏光紫外光(特に波長200nm以下)を照射すると、偏光紫外光の偏光軸に対し液晶が平行方向に配向するため、上述したようにプレチルトアングルの制御を行う場合も偏光紫外光の照射は1回でよい。したがって、製造工程を簡略化し、低コストで光学素子を製造することができる。
【0195】
続いて、光学部材100の製造に使用可能な製造装置について説明する。
図18(a)、(b)は、製造装置800を示す図である。
図18(a)の製造装置800は、搬送手段810および照明装置820を備える。搬送手段810は、光学部材100の使用波長に対して実質的に透明である基材102に相当するワークW1を搬送する。ワークW1は、ロール状に巻かれており、送り出しローラR1から引き出され、搬送されながら、巻き取りローラR2によって巻き取られる。
【0196】
照明装置820は、その直下を通過するワークW1に、波長200nm以下(あるいは、波長222nm、あるいは波長254nm)の直線偏光紫外光を照射する。照明装置820は、
図8(a)~(c)の光源を用いることができる。
【0197】
図18(b)の製造装置800において、搬送手段810は、板状の基材102であるワークW2を搬送する。搬送手段810は、ベルトコンベアやステージである。照明装置820は、その直下をワークW2が通過するときに発光して、ワークW2に直線偏光紫外光を照射する。
【0198】
図18(a)、(b)の製造装置800によって処理されたワークW1,W2は、後段の処理に供される。後段の処理では、塗布手段によって、ワーク上に重合性液晶化合物106が塗布される。
【0199】
実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【0200】
本開示によれば、従来のように基材に配向膜を施して当該配向膜に配向性を付与するのではなく、基材自体に配向性を付与することが可能となる。よって、光学部材の製造工程のうち、配向膜塗布工程を削除することが可能となり、製造時間、製造コストを削減することができる。
【0201】
また、前記製造工程において配向膜が不要となるので、配向膜を構成する有機物化合物を使用する必要がなく、クリーンな光学部材の製造工程を実現でき、また、環境に対する負荷を低減することができる。
【0202】
このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る」に対応し、またターゲット9.4「2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能力に応じた取組を行う」に大きく貢献するものである。
【符号の説明】
【0203】
100 光学部材
102 基材
106 重合性液晶化合物
108 位相差層
110 積層体
200 光学部材
300 試験フィルム
302 光配向領域
304 非光配向領域
400 液晶セル構造体
410 液晶層
420 配向膜基板
422 ガラス基板
424 配向膜
500 評価システム
510 第1偏光フィルム
520 第2偏光フィルム
530 バックライト照明
600 光配向処理システム
610a Xeエキシマランプ
610b KrClエキシマランプ
610c Deep-UVランプ
612 反射鏡
614 ランプハウス
620a VUV偏光板
620b,620c DUV偏光板
622 波長選択フィルタ
630 遮光板
640 パージボックス
650 平行光照射システム
660 ステージ