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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】カット刃、及びカット刃の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B26D 1/06 20060101AFI20241210BHJP
   B26D 1/00 20060101ALI20241210BHJP
   B23P 15/40 20060101ALI20241210BHJP
   B23P 15/28 20060101ALI20241210BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20241210BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20241210BHJP
   C01B 32/26 20170101ALI20241210BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B26D1/06 Z
B26D1/00
B23P15/40 Z
B23P15/28 A
B23B27/14 A
B23B27/20
C01B32/26
C23C16/27
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021038568
(22)【出願日】2021-03-10
(65)【公開番号】P2022138599
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087985
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 宏司
(72)【発明者】
【氏名】中川 元気
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-112957(JP,A)
【文献】特開平03-215669(JP,A)
【文献】特開2009-174039(JP,A)
【文献】特開2009-028063(JP,A)
【文献】特開2001-062605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 1/06
B26D 1/00
B23P 15/40
B23P 15/28
B23B 27/14
B23B 27/20
C01B 32/26
C23C 16/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有する板状の基材と、
材質としてダイヤモンドを含み、前記基材の表面のうちの一部分を覆う第1被膜と、
材質としてダイヤモンドを含み、前記基材の表面のうちの前記第1被膜とは異なる一部分を覆う第2被膜と、を備え、
前記基材は、当該基材の端の一部に刃先を有するとともに、前記主面に直交する方向から視て前記刃先とは反対側の端に峰を有し
前記第1被膜は、少なくとも前記刃先を覆っており、
前記第2被膜は、少なくとも前記峰を覆っており、且つ、前記第1被膜に対して離れている
カット刃。
【請求項2】
主面を有する板状の基材と、
材質としてダイヤモンドを含み、前記基材の表面のうちの一部分を覆う第1被膜と、
材質としてダイヤモンドを含み、前記基材の表面のうちの前記第1被膜とは異なる一部分を覆う第2被膜と、を備え、
前記基材は、当該基材の端の一部に刃先を有し、
前記第1被膜は、少なくとも前記刃先を覆っており、
前記第2被膜は、前記主面に直交する方向から視て、少なくとも前記刃先とは反対側の端を覆っており、且つ、前記第1被膜に対して離れており、
前記主面に直交する方向から視たとき、前記基材は長方形状であり、前記刃先は、前記基材のいずれか1辺に位置しており、前記刃先に対して平行な軸を第1軸とし、
前記主面に直交する方向から視て前記第1軸に直交する軸を第2軸としたとき、
前記第1被膜の前記第2軸に沿う方向の平均寸法は、前記第2被膜の前記第2軸に沿う方向の平均寸法と同じ寸法である
カット刃。
【請求項3】
主面を有する板状の基材と、
材質としてダイヤモンドを含み、前記基材の表面のうちの一部分を覆う第1被膜と、
材質としてダイヤモンドを含み、前記基材の表面のうちの前記第1被膜とは異なる一部分を覆う第2被膜と、を備え、
前記基材は、当該基材の端の一部に刃先を有し、
前記第1被膜は、少なくとも前記刃先を覆っており、
前記第2被膜は、前記主面に直交する方向から視て、少なくとも前記刃先とは反対側の端を覆っており、且つ、前記第1被膜に対して離れており、
前記主面に直交する方向から視たとき、前記基材は長方形状であり、前記刃先は、前記基材のいずれか1辺に位置しており、前記刃先に対して平行な軸を第1軸とし、
前記主面に直交する方向から視て前記第1軸に直交する軸を第2軸としたとき、
前記主面のうち、前記第1被膜と前記第2被膜との間から露出している露出範囲の前記第2軸に沿う方向の平均寸法は、前記基材の前記第2軸に沿う方向の寸法の50%以上である
カット刃。
【請求項4】
前記基材のうち、前記刃先を含み、且つ前記主面に直交する方向の厚みが前記刃先側に向かうほど小さくなる部分を刃側部分としたとき、
前記第1被膜は、前記刃側部分の全面を覆っている
請求項1~3の何れか一項に記載のカット刃。
【請求項5】
主面を有する板状であり、端に刃先を有するとともに前記主面に直交する方向から視て前記刃先とは反対側の端に峰を有する基材を準備する基材準備工程と、
前記基材の表面のうちの一部分にダイヤモンドコーティングする被膜形成工程と、
を備え、
前記被膜形成工程では、少なくとも前記刃先を覆う第1被膜と、少なくとも前記峰を覆う第2被膜とを、互いに離れた位置に製膜する
カット刃の製造方法。
【請求項6】
主面を有する板状であり、端に刃先を有する基材を準備する基材準備工程と、
前記基材の表面のうちの一部分にダイヤモンドコーティングする被膜形成工程と、
を備え、
前記被膜形成工程では、
反応ガスが流入されるチャンバと、前記基材を前記チャンバ内において保持する保持具と、前記チャンバ内の前記基材を加熱する熱源と、を備える製膜装置を用い、
前記保持具から視て、前記刃先側と前記刃先とは反対側それぞれに熱源を配置し、
少なくとも前記刃先及び前記刃先とは反対側の端が露出するように前記保持具で前記基材を保持した状態で、同一の前記チャンバ内でダイヤモンドコーティングすることにより、少なくとも前記刃先を覆う第1被膜と、前記主面に直交する方向から視て、少なくとも前記刃先とは反対側の端を覆う第2被膜とを、互いに離れた位置に同時に製膜する
カット刃の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カット刃、及びカット刃の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のカット刃は、刃先を有する基材を備えている。基材は、主面を有する板状である。主面に直交する方向から視たときに、基材は、長方形状である。刃先は、主面に直交する方向から視たときに、長方形の1辺の範囲に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-185648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のようなカット刃において、切断する材料や、基材の材質によっては、基材のみでは硬度が不足する場合がある。そこで、カット刃の刃先の表面の硬度を向上させるために、ダイヤモンドを含む被膜を、刃先に設ける場合がある。しかしながら、被膜の材質であるダイヤモンドと基材の材質とでは、熱膨張係数が異なる。そのため、被膜が製膜されるときの基材の熱膨張量と被膜の熱膨張量との違いが、被膜製膜後のカット刃において、刃先の応力として残存する。カット刃の特定の箇所に応力が残存していると、カット刃の歪み等の原因となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本開示の一態様は、主面を有する板状の基材と、材質としてダイヤモンドを含み、前記基材の表面のうちの一部分を覆う第1被膜と、材質としてダイヤモンドを含み、前記基材の表面のうちの前記第1被膜とは異なる一部分を覆う第2被膜と、を備え、前記基材は、当該基材の端の一部に刃先を有し、前記第1被膜は、少なくとも前記刃先を覆っており、前記第2被膜は、前記主面に直交する方向から視て、少なくとも前記刃先とは反対側の端を覆っており、且つ、前記第1被膜に対して離れているカット刃である。
【0006】
上記課題を解決するため、本開示の一態様は、主面を有する板状であり、端に刃先を有する基材を準備する基材準備工程と、前記基材の表面のうちの一部分にダイヤモンドコーティングをすることにより製膜する被膜形成工程と、を備え、前記被膜形成工程では、少なくとも前記刃先を覆う第1被膜と、前記主面に直交する方向から視て、少なくとも前記刃先とは反対側の端を覆う第2被膜とを、互いに離れた位置に製膜するカット刃の製造方法である。
【0007】
上記各構成では、基材における刃先の周辺に、第1被膜の製膜に伴う応力が生じる。その一方で、基材における刃先とは反対側の端の周辺にも、第2被膜の製膜に伴う応力が生じる。このように、基材の両側に同種の被膜による応力が生じるので、基材全体としては応力が偏在せずバランスが取れる。したがって、被膜製膜後のカット刃に歪み等が生じることを抑制できる。
【発明の効果】
【0008】
ダイヤモンドコーティングに伴うカット刃の歪みを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】カット刃の斜視図。
図2】カット刃の平面図。
図3図2における3-3線に沿うカット刃の断面図。
図4】カット刃の製造方法を説明する説明図。
図5】カット刃の製造方法を説明する説明図。
図6】変更例のカット刃の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<カット刃及びカット刃の製造方法の一実施形態>
以下、カット刃及びカット刃の製造方法の一実施形態について説明する。なお、図面は理解を容易にするため構成要素を拡大して示している場合がある。構成要素の寸法比率は実際のものと、又は別の図中のものと異なる場合がある。
【0011】
(カット刃)
図1に示すように、カット刃10は、基材20を備えている。基材20は、主面MFを有する板状である。図2に示すように、主面MFに直交する方向から視たときに、基材20は、長方形状である。
【0012】
ここで、図1に示すように、主面MFに直交する方向から視たときに四角形の基材20の4つの辺のうちの長辺に沿う軸を、第1軸Xとする。また、主面MFに直交する方向から視たときに、四角形の基材20の4つの辺のうちの短辺に沿う軸を、第2軸Yとする。さらに、主面MFに直交する方向に延びる軸を第3軸Zとする。そして、第1軸Xに沿う方向の一方を第1正方向X1とし、第1軸Xに沿う方向の他方を第1負方向X2とする。第2軸Yに沿う方向の一方を第2正方向Y1とし、第2軸Yに沿う方向の他方を第2負方向Y2とする。第3軸Zに沿う方向の一方を第3正方向Z1とし、第3軸Zに沿う方向の他方を第3負方向Z2とする。
【0013】
図2に示すように、基材20は、峰側部分21と、刃側部分22と、に大別できる。峰側部分21は、基材20のうちの第2負方向Y2の端を含む部分である。峰側部分21は、第3軸Zに沿う方向から視たときに、第1軸Xに沿う方向に長い長方形状である。峰側部分21の第3軸Zに沿う方向の寸法は、同一である。
【0014】
刃側部分22は、基材20のうちの第2正方向Y1の端を含む部分である。刃側部分22の第1軸Xに沿う方向の寸法は、峰側部分21の第1軸Xに沿う方向の寸法と同一である。
【0015】
図3に示すように、刃側部分22の第3正方向Z1を向く面は、第2正方向Y1に向かうほど、第3負方向Z2に位置するように傾斜している。刃側部分22の第3負方向Z2を向く面は、第2正方向Y1に向かうほど、第3正方向Z1に位置するように傾斜している。そのため、刃側部分22は、第2正方向Y1ほど第3軸Zに沿う方向の寸法、すなわち厚みが小さくなっている。
【0016】
このように、刃側部分22の第2正方向Y1の端が、基材20の刃先23となっている。つまり、基材20は、基材20の第2正方向Y1の端の全域に刃先23を有している。そして、図2に示すように、刃先23は、第1軸Xと平行である。また、峰側部分21の第2負方向Y2の端が、基材20の峰24となっている。つまり、第3軸Zに沿う方向から視たときに、基材20における刃先23とは反対側の端が峰24である。
【0017】
基材20の第1軸Xに沿う方向の寸法は、例えば100~250mmである。基材20の第2軸Yに沿う方向の寸法は、例えば20~30mmである。峰側部分21の第3軸Zに沿う方向の寸法は、例えば0.05~0.5mmである。
【0018】
基材20の材質は、超硬合金である。超硬合金は、硬質の金属炭化物の粉末が焼結されたものである。例えば、炭化タングステンと結合剤であるコバルトとを混合して焼結したものである。
【0019】
図2に示すように、カット刃10は、第1被膜30と、第2被膜40と、を備えている。第1被膜30は、基材20の表面のうちの、刃側部分22の全面と、峰側部分21の刃側部分22との接続箇所の近傍を含む一部分を覆っている。そのため、第1被膜30は、基材20の刃先23を覆っている。第1被膜30の第2軸Yに沿う方向の寸法は、第1軸Xに沿う方向の全域に亘って略一定である。
【0020】
第1被膜30の材質は、ダイヤモンドである。そのため、第1被膜30の材質は、基材20の材質である超硬合金よりも、硬度が大きい。第1被膜30の厚さは、例えば1~20μmである。
【0021】
第2被膜40は、基材20の表面のうちの、峰側部分21の第2負方向Y2の端を含む一部分を覆っている。そのため、第2被膜40は、基材20の峰24を覆っている。第2被膜40の第2軸Yに沿う方向の寸法は、第1軸Xに沿う方向の全域に亘って略一定である。また、第2被膜40の第2軸Yに沿う方向の平均寸法は、第1被膜30の第2軸Yに沿う方向の平均寸法と、同一である。
【0022】
各被膜の第2軸Yに沿う方向の平均寸法は、カット刃10を第3軸Zに沿う方向から撮影した1枚の画像のうち、各被膜の第2軸Yに沿う方向の3箇所の寸法の平均値とする。
第2被膜40の材質は、第1被膜30の材質と同一のダイヤモンドである。第2被膜40の厚さは、1~20μmである。
【0023】
第1被膜30と第2被膜40とは、接触していない。そのため、第1被膜30と第2被膜40との間からは、基材20の表面が露出している。第1被膜30と第2被膜40との間から露出している基材20の範囲を露出範囲ERとする。露出範囲ERの第2軸Yに沿う方向の平均寸法は、前記基材の第2軸Yに沿う方向の寸法の50%以上である。
【0024】
露出範囲ERの第2軸Yに沿う方向の平均寸法は、カット刃10を第3軸Zに沿う方向から撮影した1枚の画像のうち、露出範囲ERの第2軸Yに沿う方向の3箇所の寸法の平均値とする。
【0025】
(カット刃の製造方法)
次に、カット刃10の製造方法を説明する。
図4に示すように、カット刃10の製造方法は、基材準備工程S11と、被膜形成工程S12と、を備えている。
【0026】
先ず、主面MFを有する板状であり、端に刃先23を有する基材20を準備する基材準備工程S11を行う。例えば、超硬合金の板材を切削及び研磨して刃側部分22を形成することにより、基材20を準備する。
【0027】
次に、基材準備工程S11で準備した基材20の表面のうちの一部分にダイヤモンドコーティングする被膜形成工程S12を行う。被膜形成工程S12では、化学蒸着、いわゆるCVD(chemical vapor deposition)方式によって、ダイヤモンドコーティングを行う。
【0028】
具体的には、先ず、基材20の前処理を行う、基材20の前処理では、基材20の表面から、薬液等により、結合剤であるコバルトを除去する。これにより、基材20の表面に、炭化タングステンの粒子を露出させる。
【0029】
次に、前処理をした基材20の表面に、ダイヤモンドのナノ粒子を種付けする種付け処理を行う。種付け処理では、ダイヤモンドのナノ粒子を分散させた溶媒に、基材20を浸漬させる。これにより、基材20の表面における炭化タングステンに、ダイヤモンドのナノ粒子を付着させる。
【0030】
次に、図5に示す製膜装置50を用いて、ダイヤモンドコーティングを行う。製膜装置50は、反応ガスが流入されるチャンバ60を備えている。チャンバ60は、化学蒸着させるための反応空間61を有している。また、チャンバ60は、反応空間61に反応ガスを流入するための流入口62を有している。また、チャンバ60は、反応空間61から反応したガスを排気するための排気口63を有している。
【0031】
製膜装置50は、基材20をチャンバ60内において保持する保持具70を備えている。保持具70は、重力方向及びその反対方向の上下に2つに分離できるとともに、基材20の露出範囲ERに相当する範囲を上下から挟むことができる。そのため、保持具70が基材20を挟んだときに、基材20の刃先23側の一部分と、基材20の峰24側の一部分は、保持具70によって覆われておらず、保持具70から露出している。
【0032】
製膜装置50は、チャンバ60内の基材20を加熱する熱源80を備えている。熱源80は、第1熱フィラメント81と、第2熱フィラメント82とを有している。第1熱フィラメント81と、第2熱フィラメント82とは、保持具70を挟んで反対側に位置している。つまり、保持具70に基材20を挟んだ状態で、第1熱フィラメント81が基材20の刃先23側、第2熱フィラメント82が基材20の峰24側に、それぞれ位置している。したがって、上述のように、保持具70で基材20を挟むことにより、保持具70から視て、基材20の刃先23側と、刃先23とは反対側の峰24側のそれぞれに、熱源80を配置することになる。
【0033】
製膜装置50において基材20を保持具70で挟んだ状態で、チャンバ60内に、反応ガスであるメタンと水素とを流入させる。そして、基材20を600~800℃になるように熱源80を所定時間だけ制御する。これにより、基材20の表面に付着したダイヤモンドのナノ粒子が成長し、ダイヤモンドコーティングがされることで、第1被膜30と、第2被膜40と、を同時に製膜する。このように、基材20に第1被膜30と第2被膜40とが形成されて、カット刃10が製造される。
【0034】
(実施形態の作用)
上記実施形態では、第1被膜30の材質であるダイヤモンドと、基材20の材質である超硬合金とでは、熱膨張係数が異なる。したがって、被膜形成工程S12で第1被膜30が製膜されるときの基材20の熱膨張量と第1被膜30の熱膨張量との違いが、被膜を製膜後のカット刃10において、刃先23周辺の応力として残存する。同様に、被膜形成工程S12で第2被膜40が製膜されるときの基材20の熱膨張量と第2被膜40の熱膨張量との違いが、被膜を製膜後のカット刃10において、峰24周辺の応力として残存する。
【0035】
(実施形態の効果)
(1)上記実施形態によれば、上述したとおり、基材20の刃先23の周辺に、第1被膜30の製膜に伴う応力が生じる。その一方で、基材20の峰24の周辺にも、第2被膜40の製膜に伴う応力が生じる。このように、基材20の刃先23側及び峰24側の両側に応力が生じるので、基材20全体としては応力が偏在せずバランスが取れる。したがって、被膜製膜後のカット刃10に歪み等が生じることを抑制できる。
【0036】
(2)上記実施形態のカット刃10によれば、第3軸Zに沿う方向から視たときに、第1被膜30の第2軸Yに沿う方向の平均寸法と、第2被膜40の第2軸Yに沿う方向の平均寸法とは、同一の寸法である。そのため、刃先23側の部分に残存する応力の大きさと、峰24側の部分に残存する応力の大きさと、が揃いやすくなる。結果、基材20全体として視たときに、基材20の特定の箇所のみに大きな応力が生じることを防げる。
【0037】
(3)上記実施形態のカット刃10によれば、露出範囲ERの第2軸Yに沿う方向の寸法は、基材20の第2軸Yに沿う方向の寸法の50%以上である。つまり、基材20の刃先23、峰24の両方に被膜が存在するものの、基材20の表面積のうちの50%以上がダイヤモンドコーティングされていない露出範囲ERである。このように露出範囲ERを大きくすることで、基材20のうちの多くの部分を被膜に伴う応力の影響を受けにくい箇所とできる。その結果、被膜形成工程S12中に、カット刃10に割れやひびが生じることを抑制できる。
【0038】
(4)仮に、被膜形成工程S12において、第1被膜30と、第2被膜40とを、順番に形成すると、製造過程において、一方の被膜のみが形成されている状態が発生する。このように一方の被膜のみが形成されている状況でカット刃10が歪んでしまうと、後に他方の被膜を形成しても歪みを解消できないおそれがある。この点、上記実施形態のカット刃10の製造方法によれば、第1被膜30と第2被膜40とを同時に製膜することで、両側の応力のバランスを取りながら製膜でき、カット刃10の歪みをより効果的に抑制できる。
【0039】
(5)上記実施形態のカット刃10の製造方法によれば、保持具70から視て、刃先23側と峰24側のそれぞれに熱源80を配置している。そのため、基材20の表面のうち、刃先23側に露出している箇所と、峰24側に露出している箇所との、温度差を小さくできる。そのため、第1被膜30の厚さと第2被膜40の厚さとを揃えやすい。その結果、刃先23側に発生する応力と、峰24側に発生する応力とを、揃えやすい。
【0040】
<その他の実施形態>
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で組み合わせて実施することができる。
【0041】
・基材20の形状は、上記実施形態の例に限られない。例えば、基材20の形状は、第3軸Zに沿う方向から視たときに、正方形状や、第1軸Xに沿う方向よりも第2軸Yに沿う方向の寸法が長い長方形状であってもよい。また例えば、基材20の形状は、第3軸Zに沿う方向から視たときに、刃先23及び峰24の一方又は両方が、円弧状に延びていても、波状に延びていてもよい。
【0042】
また、基材20の形状は、両刃に限られず、片刃であってもよい。さらに、刃先23は、所謂のこぎり刃であってもよい。
・基材20の材質は、上記実施形態の例に限られない。例えば、基材20の材質は、炭化チタンや、炭窒化チタン等を含む超硬合金であってもよい。また、基材20の材質は、超硬合金に限られず、鋼材や、セラミックスであってもよい。
【0043】
・基材20の大きさは、上記実施形態の例に限られない。基材20の第1軸Xに沿う方向の寸法は、100mmより小さくてもよいし、250mmより大きくてもよい。基材20の第2軸Yに沿う方向の寸法は、20mmより小さくてもよいし、30mmより大きくてもよい。また、峰側部分21の第3軸Zに沿う方向の寸法は、0.05mmより小さくてもよいし、0.5mmより大きくてもよい。
【0044】
・基材20のうち刃先23が存在する範囲は、上記実施形態の例に限らない。例えば、第3軸Zに沿う方向から視たときに、長方形の短辺に刃先23が位置していてもよいし、長方形の1辺のうちの一部に刃先23が位置していてもよい。
【0045】
・基材20の表面のうち、第1被膜30に覆われる範囲は、上記実施形態の例に限られない。第1被膜30は、少なくとも刃先23を覆っていればよい。
また、第3軸Zに沿う方向から視たときに、第1被膜30の第2軸Yに沿う方向の寸法は、第1軸Xに沿う方向の位置によって、ばらついていてもよい。この場合であっても、第3軸Zに沿う方向から視たときに、第1被膜30の第2軸Yに沿う方向の平均寸法が、第2被膜40の第2軸Yに沿う方向の平均寸法と、同一であることが好ましい。なお、両平均寸法が同一であるとは、両平均寸法の差が、5%以内であることをいう。これは、第1被膜30及び第2被膜40は、製造上の誤差等を許容するものである。
【0046】
・基材20の表面のうち、第2被膜40に覆われる範囲は、上記実施形態の例に限られない。例えば、図6に示す変更例のカット刃110のように、第2被膜40は、少なくとも峰24を覆っていればよい。そして、第2被膜40は、第1被膜30と離れていればよい。
【0047】
・露出範囲ERの大きさは、上記実施形態の例に限られない。第2被膜40が第1被膜30に対して離れていることで、露出範囲ERが存在していればよく、露出範囲ERの第2軸Yに沿う方向の寸法は、基材20の第2軸Yに沿う方向の寸法の50%未満であってもよい。
【0048】
・第1被膜30の厚さと、第2被膜40の厚さとは、異なっていてもよい。
・第1被膜30の材質及び第2被膜40の材質は、ダイヤモンドを含んでいればよく、基材20の表面を硬化できる材質であればよい。
【0049】
・上記製造方法の実施形態において、被膜形成工程S12での前処理及び種付け処理の一方又は両方を省略してもよいし、他の処理に代えてもよい。
・上記製造方法の実施形態において、被膜形成工程S12では、製膜装置50を用いなくてもよい。この場合、保持具70や熱源80等の構成に拘わらず、第1被膜30と第2被膜40とを形成すればよい。例えば、1つの熱源80によって、第1被膜30と第2被膜40とを形成してもよい。
【0050】
・上記製造方法の実施形態において、被膜形成工程S12では、第1被膜30と第2被膜40とを同時に製膜しなくてもよい。先に第1被膜30を製膜して、次に第2被膜40を製膜してもよい。この場合、第1被膜30を形成する工程と第2被膜40を製膜する工程を合わせて被膜形成工程S12である。
【符号の説明】
【0051】
10…カット刃
20…基材
21…峰側部分
22…刃側部分
23…刃先
24…峰
30…第1被膜
40…第2被膜
50…製膜装置
60…チャンバ
70…保持具
80…熱源
81…第1熱フィラメント
82…第2熱フィラメント
ER…露出範囲
MF…主面
S11…基材準備工程
S12…被膜形成工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6