IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

特許7600804行動予測装置、行動予測方法、及び行動予測プログラム
<>
  • 特許-行動予測装置、行動予測方法、及び行動予測プログラム 図1
  • 特許-行動予測装置、行動予測方法、及び行動予測プログラム 図2
  • 特許-行動予測装置、行動予測方法、及び行動予測プログラム 図3
  • 特許-行動予測装置、行動予測方法、及び行動予測プログラム 図4
  • 特許-行動予測装置、行動予測方法、及び行動予測プログラム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】行動予測装置、行動予測方法、及び行動予測プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20241210BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20241210BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20241210BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20241210BHJP
   H02J 3/14 20060101ALI20241210BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q10/04
H02J3/00 180
H02J3/00 170
H02J3/32
H02J3/14 130
H02J7/00 P
H02J7/00 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021047777
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2022146683
(43)【公開日】2022-10-05
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒木 錬太郎
【審査官】谷川 智秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-135926(JP,A)
【文献】特開2017-157170(JP,A)
【文献】特開2019-192165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
H02J 3/00
H02J 3/32
H02J 3/14
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
VGIに参加する車両の行動を予測する行動予測装置であって、
少なくとも1つのプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、
前記少なくとも1つのメモリと結合された少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記少なくとも1つのメモリは、前記車両の過去の行動履歴に基づいて前記車両の将来の行動を統計的に予測するためのモデルであって、ベイズ推定又は機械学習を用いて作成された予測モデルを記憶し、
前記行動履歴は出発時間履歴、帰着時間履歴、駐車場所履歴、及び走行距離履歴を含み、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記少なくとも1つのプログラムの実行により、
出発時間履歴、帰着時間履歴、駐車時間履歴、及び走行距離履歴をデータ項目として含む直近の行動履歴データと、当該行動履歴データが得られたデータ取得日の属性とを用いて前記予測モデルを学習更新し、
前記属性は曜日、祝日、連休、天候、季節の少なくとも一つを含み、
前記車両の行動を予測する予測対象日の前記属性を前記予測モデルに入力することによって、予測出発時間、予測帰着時間、予測駐車時間、及び予測走行距離をデータ項目として含むモデル予測データを前記予測モデルから取得し、
前記車両を使用するユーザから前記車両の予定出発時間、予定帰着時間、予定駐車時間、及び予定走行距離をデータ項目として含むユーザ入力データを取得し、
過去所定期間に前記予測モデルで得られた過去のモデル予測データと当該過去のモデル予測データに対応する前記車両の行動の実績データとの間のデータ項目ごとの誤差をデータ項目ごとに前記過去所定期間について積算することによってデータ項目ごとに第1積算誤差を計算し、
前記過去所定期間に前記ユーザより入力された過去のユーザ入力データと当該過去のユーザ入力データに対応する前記車両の行動の実績データとの間のデータ項目ごとの誤差をデータ項目ごとに前記過去所定期間について積算することによってデータ項目ごとに第2積算誤差を計算し、
前記第1積算誤差が前記第2積算誤差よりも大きいデータ項目については、前記ユーザ入力データを前記車両の将来の行動の最終予測データとして決定し、
前記第1積算誤差が前記第2積算誤差以下のデータ項目については、前記モデル予測データを前記最終予測データとして決定する
ことを特徴とする行動予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の行動予測装置において、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記少なくとも1つのプログラムの実行により、
前記ユーザから取得された前記ユーザ入力データのいずれかのデータ項目に繰り返しの予定ではない単発の予定が入っている場合、前記単発の予定が入ったデータ項目については、前記モデル予測データに優先して前記ユーザ入力データを前記最終予測データとして決定する
ことを特徴とする行動予測装置。
【請求項3】
コンピュータを用いてVGIに参加する車両の行動を予測する行動予測方法であって、
前記車両の過去の行動履歴に基づいて前記車両の将来の行動を統計的に予測するためのモデルであって、ベイズ推定又は機械学習を用いて作成された予測モデルを予めメモリに記憶しておくステップと、
前記行動履歴は出発時間履歴、帰着時間履歴、駐車場所履歴、及び走行距離履歴を含み、
出発時間履歴、帰着時間履歴、駐車時間履歴、及び走行距離履歴をデータ項目として含む直近の行動履歴データと、当該行動履歴データが得られたデータ取得日の属性とを用いて前記予測モデルを学習更新するステップと、
前記属性は曜日、祝日、連休、天候、季節の少なくとも一つを含み、
前記車両の行動を予測する予測対象日の前記属性を前記予測モデルに入力することによって、予測出発時間、予測帰着時間、予測駐車時間、及び予測走行距離をデータ項目として含むモデル予測データを前記予測モデルから取得するステップと、
前記車両を使用するユーザから前記車両の予定出発時間、予定帰着時間、予定駐車時間、及び予定走行距離をデータ項目として含むユーザ入力データを取得するステップと、
過去所定期間に前記予測モデルで得られた過去のモデル予測データと当該過去のモデル予測データに対応する前記車両の行動の実績データとの間のデータ項目ごとの誤差をデータ項目ごとに前記過去所定期間について積算することによってデータ項目ごとに第1積算誤差を計算するステップと、
前記過去所定期間に前記ユーザより入力された過去のユーザ入力データと当該過去のユーザ入力データに対応する前記車両の行動の実績データとの間のデータ項目ごとの誤差をデータ項目ごとに前記過去所定期間について積算することによってデータ項目ごとに第2積算誤差を計算するステップと、
前記第1積算誤差が前記第2積算誤差よりも大きいデータ項目については、前記ユーザ入力データを前記車両の将来の行動の最終予測データとして決定するステップと、
前記第1積算誤差が前記第2積算誤差以下のデータ項目については、前記モデル予測データを前記最終予測データとして決定するステップと、を前記コンピュータが実行する
ことを特徴とする行動予測方法。
【請求項4】
VGIに参加する車両の行動を予測することをコンピュータに実行させる行動予測プログラムであって、
前記車両の過去の行動履歴に基づいて前記車両の将来の行動を統計的に予測するためのモデルであって、ベイズ推定又は機械学習を用いて作成された予測モデルをメモリから読み出し、
前記行動履歴は出発時間履歴、帰着時間履歴、駐車場所履歴、及び走行距離履歴を含み、
出発時間履歴、帰着時間履歴、駐車時間履歴、及び走行距離履歴をデータ項目として含む直近の行動履歴データと、当該行動履歴データが得られたデータ取得日の属性とを用いて前予測モデルを学習更新し、
前記属性は曜日、祝日、連休、天候、季節の少なくとも一つを含み、
前記車両の行動を予測する予測対象日の前記属性を前記予測モデルに入力することによって、予測出発時間、予測帰着時間、予測駐車時間、及び予測走行距離をデータ項目として含むモデル予測データを前記予測モデルから取得し、
前記車両を使用するユーザから前記車両の予定出発時間、予定帰着時間、予定駐車時間、及び予定走行距離をデータ項目として含むユーザ入力データを取得し、
過去所定期間に前記予測モデルで得られた過去のモデル予測データと当該過去のモデル予測データに対応する前記車両の行動の実績データとの間のデータ項目ごとの誤差をデータ項目ごとに前記過去所定期間について積算することによってデータ項目ごとに第1積算誤差を計算し、
前記過去所定期間に前記ユーザより入力された過去のユーザ入力データと当該過去のユーザ入力データに対応する前記車両の行動の実績データとの間のデータ項目ごとの誤差をデータ項目ごとに前記過去所定期間について積算することによってデータ項目ごとに第2積算誤差を計算し、
前記第1積算誤差が前記第2積算誤差よりも大きいデータ項目については、前記ユーザ入力データを前記車両の将来の行動の最終予測データとして決定し、
前記第1積算誤差が前記第2積算誤差以下のデータ項目については、前記モデル予測データを前記最終予測データとして決定する、ことを前記コンピュータに実行させる
ことを特徴とする行動予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、VGIに参加する車両の行動を予測する行動予測装置、行動予測方法、及び行動予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、電動車(バッテリのみをエネルギ源とする純電気自動車及びプラグインハイブリッド車が含まれる)を電力供給インフラの一部として利用するVGI(Vehicle-Grid Integration)についての研究が進んでいる。特許文献1には、その一例が開示されている。特許文献1には、車両の過去の運用実績データを日付、曜日、気象を含む取得日の属性データと共に保存しておき、予測対象日と同様もしくは近似した属性データに対応した実績データから車両の運用計画を推定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-134160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、各車両の運用計画は、必ずしも過去の運用実績と類似するとは限らない。このため、過去の運用実績データだけに基づいた予測モデルでは、車両の行動を高い精度で予測することができない。特に、決まった行動パターンを有していない車両の場合には、予測モデルによる予測との現実との間に乖離が生じやすい。
【0005】
本開示は、VGIに参加する車両の行動の予測精度を向上させることができる行動予測装置、行動予測方法、及び行動予測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る行動予測装置は、少なくとも1つプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、上記少なくとも1つのメモリと結合された少なくとも1つのプロセッサとを備える。上記少なくとも1つのプロセッサは、上記少なくとも1つのプログラムの実行により、以下の第1乃至第6の処理を実行する。
【0007】
第1の処理は、車両の過去の行動履歴に基づいて車両の将来の行動を統計的に予測した予測値を計算する処理である。第2の処理は、車両を使用するユーザから車両の将来の行動の予定を表す予定値を取得する処理である。第3の処理は、車両の行動の実績値に対する行動履歴に基づいた予測値の過去の所定期間における誤差に基づき、行動履歴に基づいた予測値の信頼度を計算する処理である。第4の処理は、車両の行動の実績値に対するユーザから取得した予定値の過去の所定期間における誤差に基づき、ユーザから取得した予定値の信頼度を計算する処理である。第5の処理は、ユーザから取得した予定値の信頼度が行動履歴に基づいた予測値の信頼度よりも高い場合に実行される処理であって、ユーザから取得した予定値を車両の将来の行動の最終予測値として決定することが行われる。第6の処理は、ユーザから取得した予定値の信頼度が行動履歴に基づいた予測値の信頼度以下の場合に実行される処理であって、行動履歴に基づいた予測値を最終予測値として決定することが行われる。
【0008】
本行動予測装置において、上記少なくとも1つのプロセッサは、ユーザから取得した予定値に繰り返しの予定ではない単発の予定を表す単発予定値が含まれる場合、行動履歴に基づいた予測値に優先して単発予定値を最終予測値として決定してもよい。ユーザから取得した予定値に単発予定値が複数含まれるのであれば、最新の単発予定値を最終予測値として決定してもよい。また、行動履歴に基づいた予測値の信頼度に相関する数値として、行動履歴に基づいた予測値の実績値に対する誤差の積算値を計算し、ユーザから取得した予定値の信頼度に相関する数値として、ユーザから取得した予定値の実績値に対する誤差の積算値を計算してもよい。
【0009】
本開示に係る行動予測方法は、以下の第1乃至第6のステップを含む。第1のステップは、車両の過去の行動履歴に基づいて車両の将来の行動を統計的に予測した予測値を計算するステップである。第2のステップは、車両を使用するユーザから車両の将来の行動の予定を表す予定値を取得するステップである。第3のステップは、車両の行動の実績値に対する行動履歴に基づいた予測値の過去の所定期間における誤差に基づき、行動履歴に基づいた予測値の信頼度を計算するステップである。第4のステップは、車両の行動の実績値に対するユーザから取得した予定値の過去の所定期間における誤差に基づき、ユーザから取得した予定値の信頼度を計算するステップである。第5のステップは、ユーザから取得した予定値の信頼度が行動履歴に基づいた予測値の信頼度よりも高い場合に実行されるステップであって、ユーザから取得した予定値を車両の将来の行動の最終予測値として決定するステップである。第6のステップは、ユーザから取得した予定値の信頼度が行動履歴に基づいた予測値の信頼度以下の場合に実行されるステップであって、行動履歴に基づいた予測値を最終予測値として決定するステップである。
【0010】
本開示に係る行動予測プログラムは、VGIに参加する車両の行動を予測することをコンピュータに実行させるプログラムであって上述の第1乃至第6の処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る行動予測装置、行動予測方法、及び行動予測プログラムによれば、過去の行動履歴に基づき統計的に予測された予測値が計算されるだけでなく、車両の将来の行動の予定を表す予定値がユーザから取得される。そして、行動履歴に基づいた予測値とユーザから取得した予定値のうち、過去の行動の実績に照らしてより信頼度の高い方が最終予測値として決定される。これによれば、VGIに参加する車両の行動の予測精度を向上させることができ、決まった行動パターンを有していない車両にも対応することができる。
【0012】
また、ユーザから取得した予定値に単発予定値が含まれる場合、行動履歴に基づいた予測値に優先して単発予定値を最終予測値として決定する場合には、車両の突発的な予定にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の実施形態の行動予測装置が適用されるVGIの全体構成を示す図である。
図2】本開示の実施形態の行動予測装置を備えるVGI制御システムの構成を示すブロック図である。
図3】本開示の実施形態の行動予測装置としての車両行動予測部の構成を示すブロック図である。
図4】車両行動予測部による処理の概要を説明するための図である。
図5】本開示の実施形態の行動予測方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る思想に必ずしも必須のものではない。
【0015】
1.VGIの全体構成
図1は、本開示の実施形態のVGI2の全体構成を示す図である。VGI2では、電力取引市場4、アグリゲータ6、及びVGI制御システム8の間で電力の取引が行われる。図1には1対1の関係で電力取引市場4とアグリゲータ6とが示されているが、1つの電力取引市場4に対して複数のアグリゲータ6が関係していてもよい。また、図1には1対1の関係でアグリゲータ6とVGI制御システム8が示されているが、1つのアグリゲータ6に対して複数のVGI制御システム8が関係していてもよい。
【0016】
電力取引市場4は、アグリゲータ6に対して電力の需要と供給のバランスを取るための電力調整役の募集をかける。電力取引市場4からアグリゲータ6には、電力調整役の募集とともに、希望する電力の売買価格や必要とする調達時間などの情報が提供される。アグリゲータ6は、電力取引市場4から提示された情報に基づいて募集に対して入札或いは応答するか判断する。アグリゲータ6が電力取引市場4からの募集に対して入札或いは応答し、電力取引市場4とアグリゲータ6との間で電力の取引が成立した場合、アグリゲータ6はVGI制御システム8を用いた充放電によって電力調整を行う。アグリゲータ6は、電力取引市場4に対してVGI制御システム8によって達成された充放電量の実績を報告し、電力取引市場4から報酬を得る。
【0017】
アグリゲータ6は、VGI制御システム8がアグリゲータ6との間で取引可能な電力量(以下、電力取引可能量と呼ぶ)について、前日のうちにVGI制御システム8から報告を受ける。そして、提供された電力取引可能量に基づいて、VGI制御システム8に要求する充放電の電力量と充放電の時間を計算し、電力調整が必要な日の前日までに或いは当日の朝までにVGI制御システム8に対して電力量調整計画を示す。VGI制御システム8は、VGI2に参加している車両14に対して充電した電力量、及び、車両14から放電を受けた電力量を集計し、その実績をアグリゲータ6に報告してアグリゲータ6から報酬を得る。なお、VGI2に参加する車両14は、純電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)とを含む電動車である。EVは、バッテリ16のみをエネルギ源として電気モータで走行する車両である。PHVは、電気モータと内燃機関とを有し、電気モータのエネルギ源であるバッテリ16に外部から直接充電することができる車両である。
【0018】
VGI制御システム8は、アグリゲータ6から受け取った電力量調整計画に基づいて各車両14に対して充放電を指示するとともに、VGI制御システム8の管理下にある充放電スタンド12に対しては制御データを送信する。充放電の指示は、4Gや5G等の移動体通信によって行われる。制御データの送信は、インターネットを含む通信ネットワークを介して行われる。充放電を指示された車両14が充放電スタンド12に接続され、制御データに従って充放電スタンド12と車両14との間で充放電が行われることで、各車両14の充放電電力が調整される。
【0019】
また、VGI2では、データサーバ10が用いられる。データサーバ10は、VGI2に参加する全ての車両14のデータを管理する。データサーバ10で管理されるデータには、車両14を識別するための車両ID、各車両14の現在位置、各車両14のバッテリ16の充電状態や劣化状態、そして、各車両14の過去の行動履歴が含まれる。車両14の行動履歴には、出発時間の履歴、帰着時間の履歴、駐車場所の履歴、走行距離の履歴(或いは走行エネルギの履歴)などが含まれる。データサーバ10は、移動体通信によって各車両14から車両データを個別に吸い上げ、管理している各車両14のデータを最新の情報に更新する。
【0020】
データサーバ10で管理されるデータは、VGI制御システム8において車両14ごとの行動予測に用いられる。VGI制御システム8における車両14の行動予測については、次章以降で詳細に説明する。
【0021】
2.VGI制御システムの構成
VGI制御システム8の構成について図2を用いて説明する。図2は、VGI制御システム8の構成を示すブロック図である。VGI制御システム8は、その物理構成として、少なくとも1つのプロセッサ8a(以下、単にプロセッサと呼ぶ)とプロセッサ8aに結合された少なくとも1つのメモリ8b(以下、単にメモリと呼ぶ)とを備える。メモリ8bには、プロセッサ8aで実行可能な少なくとも1つのプログラム8c(以下、単にプログラムと呼ぶ)とそれに関連する種々のデータとが記憶されている。プロセッサ8aがプログラム8cを実行することにより、プロセッサ8aによる各種処理が実現される。
【0022】
VGI制御システム8は、車両行動予測部81、電力取引可能量予測部82、充放電計画立案部83、充放電指示部84、及び実績集計部85を備える。これらは、メモリ8bに記憶されたプログラム8cがプロセッサ8aで実行されたときに、VGI制御システム8の機能として実現される。特に、車両行動予測部81は、本実施形態の行動予測装置としてのVGI制御システム8の機能である。
【0023】
車両行動予測部81は、VGI2に参加する全ての車両14の行動、例えば、車両14の明日の行動を個別に予測する。車両行動予測部81が予測する車両14の行動には、出発時間、帰着時間、駐車場所、走行距離(或いは走行エネルギ)などが含まれる。車両行動予測部81による車両14の行動予測には、データサーバ10から取得される予測用データが用いられる。車両行動予測部81の機能については追って詳細に説明する。車両行動予測部81は、車両14ごとの行動予測により得られた行動予測データを電力取引可能量予測部82と充放電計画立案部83とに与える。
【0024】
電力取引可能量予測部82は、車両行動予測部81から与えられた車両14ごとの行動予測データに基づいて電力取引可能量を予測する。車両14のバッテリ16の充電状態は車両14の行動に依存し、充放電スタンド12と車両14との間での充放電の機会も車両14の行動に依存する。ゆえに、個々の車両14の明日の行動を予測することができれば、個々の車両14とVGI制御システム8との間での充放電量を予測することができる。そして、全ての車両14について充放電量の予測値を集計することで、電力取引可能量を予測することができる。電力取引可能量予測部82は、車両14ごとの行動予測データから車両14ごとの充放電量の予測値を計算し、車両14ごとの充放電量の予測値を集計して電力取引可能量を算出する。
【0025】
充放電計画立案部83は、アグリゲータ6から取得した電力量調整計画と、車両行動予測部81から与えられた車両14ごとの行動予測データとに基づき、電力調整計画を満たすための充放電計画を車両14ごとに立案する。充放電計画立案部83は、例えば、車両14の移動に関する車両本来の目的を損なわない範囲で、電気収益の最大化とバッテリ16の劣化の最小化とを両立させるように最適化された充放電計画を立案する。充放電計画立案部83は、立案した充放電計画を充放電指示部84に与える。
【0026】
充放電指示部84は、充放電計画立案部83から与えられた充放電計画に従って各車両14に充放電を指示する。充放電指示部84から車両14への充放電の指示は、カーナビゲーションシステムに対して行われてもよいし、車両14のユーザが所持する情報端末に対して行われてもよい。或いは、指示されたとおり充放電を行うことが例えば契約によって決定しているのであれば、車両14を制御するECU(Electronic Control Unit)に対して充放電が指示されてもよい。また、図示は省略するが、充放電指示部84は、充放電計画に従って作成された車両14ごとの制御データを充放電スタンド12に送信する。車両14が充放電スタンド12に接続され、制御データに従って充放電スタンド12が作動することによって、充放電計画に沿った充放電が車両14において行われる。
【0027】
実績集計部85は、車両14ごとの充放電の実績を各車両14から収集する。充放電の実績は、車両14との間の移動体通信によって各車両14から直接収集してもよいし、車両14との間で充放電を行った充放電スタンド12から収集してもよい。実績集計部85は、各車両14から収集した充放電実績を集計し、VGI制御システム8全体としての充放電実績を計算する。そして、VGI制御システム8全体としての充放電実績をアグリゲータ6に報告する。
【0028】
以上の説明のとおり、車両行動予測部81で得られる車両14ごとの行動予測データは、VGI制御システム8における電力取引可能量の計算で用いられ、さらに、車両14ごとの充放電計画の立案にも用いられる。ゆえに、各車両14がどのように行動するのか高い精度で予測できれば、電力取引可能量もまた高い精度で予測することができ、さらに、実現性の高い充放電計画を立案することができる。その結果、電力取引市場4で取引できる電力量が増え、また、事前の車両14ごとの充放電計画通りに充放電が確実に実行できるようになる。つまり、車両14の行動予測の精度を向上させることで、VGI2の収益性を高めることができる。
【0029】
3.車両行動予測部の構成
車両行動予測部81の構成について図3を用いて説明する。図3は、車両行動予測部81の構成を示すブロック図である。なお、これ以降の説明では、車両行動予測部81で予測される車両14の行動とは、出発時間、帰着時間、駐車場所、及び走行距離であるとする。ただし、走行距離に代えて、走行距離(km)に推定電費(kWh/km)を乗じることで得られる電気エネルギ、すなわち、次回の走行に使用する電気エネルギを用いてもよい。
【0030】
車両行動予測部81は、出発時間予測部811、帰着時間予測部812、出発時間予測部811、駐車場所予測部813、及び走行距離予測部814を備える。これらは、メモリ8bに記憶されたプログラム8cがプロセッサ8aで実行されたときに、車両行動予測部81としてのVGI制御システム8の機能として実現される。
【0031】
出発時間予測部811、帰着時間予測部812、駐車場所予測部813、及び走行距離予測部814のそれぞれは、予測モデル811a,812a,813a,814aを備える。予測モデル811a,812a,813a,814aは、過去の行動履歴から車両14の将来の行動を統計的に予測するための統計モデルであり、例えば、ベイズ推定や機械学習を用いて作成されている。詳しくは、出発時間予測部811の予測モデル811aは、出発時間の過去の履歴データに基づいて作成されており、直近の履歴データに基づいて逐次学習更新される。帰着時間予測部812の予測モデル812aは、帰着時間の過去の履歴データに基づいて作成されており、直近の履歴データに基づいて逐次学習更新される。駐車場所予測部813の予測モデル813aは、駐車場所の過去の履歴データに基づいて作成されており、直近の履歴データに基づいて逐次学習更新される。そして、走行距離予測部814の予測モデル814aは、走行距離の過去の履歴データに基づいて作成されており、直近の履歴データに基づいて逐次学習更新される。
【0032】
出発時間予測部811、帰着時間予測部812、駐車場所予測部813、及び走行距離予測部814のそれぞれに、データサーバ10から行動履歴データとユーザ入力データとが入力される。より詳しくは、出発時間予測部811には、出発時間の履歴データとユーザ入力データとが入力される。出発時間予測部811は、それらのデータに基づいて予測出発時間を計算する。帰着時間予測部812には、帰着時間の履歴データとユーザ入力データとが入力される。帰着時間予測部812は、それらのデータに基づいて予測帰着時間を計算する。駐車場所予測部813には、駐車場所の履歴データとユーザ入力データとが入力される。駐車場所予測部813は、それらのデータに基づいて予測駐車場所を計算する。そして、走行距離予測部814には、走行距離の履歴データとユーザ入力データとが入力される。走行距離予測部814は、それらのデータに基づいて予測走行距離を計算する。このように、車両行動予測部81は、予測出発時間、予測帰着時間、予測駐車場所、及び予測走行距離のそれぞれを相互に独立に計算する。
【0033】
以上の説明にもあるように、車両行動予測部81による車両14の行動予測には、車両14の行動履歴データだけでなく、ユーザ入力データが用いられている。ユーザ入力データとは、車両14を利用するユーザが自身で入力した車両14の行動の予定に関するデータである。ただし、図3ではユーザ入力データは行動路歴データとともにデータサーバ10に登録されているが、データサーバ10とは異なるサーバに登録されてもよい。以下、図4を用いて車両行動予測部81による処理の概要について説明する。
【0034】
車両行動予測部81には直近の行動履歴データが入力される。行動履歴データは、データ項目として、出発時間履歴、帰着時間履歴、駐車時間履歴、及び走行距離履歴を含む。各データ項目は数値で表される。入力された直近の行動履歴データは、予測モデルの学習更新に用いられる。予測モデルの学習更新の際には、行動履歴データが得られたデータ取得日の属性が行動履歴データに関連付けられている。ここでいうデータ取得日の属性とは、例えば、曜日、祝日、連休、天候、季節など車両14の行動に影響を与える属性である。
【0035】
車両行動予測部81は、車両20の行動を予測したい予測対象日の属性を予測モデルに入力し、モデル予測データを取得する。例えば、予測対象日が月曜日で、予報されている天気が晴れ、季節が夏であれば、それらの情報が予測対象日の属性として予測モデルに入力される。予測モデルで得られるモデル予測データは、データ項目として、予測出発時間、予測帰着時間、予測駐車時間、及び予測走行距離を含む。各データ項目は数値で表される。
【0036】
車両行動予測部81にはユーザ入力データが入力される。ユーザ入力データは、ユーザの個人的なスケジュールなどスマートフォンやWebサイトに登録されたユーザ情報から取得される車両14の行動の予定に関するデータである。車両14の行動の予定には、例えば週単位や月単位で繰り返される繰り返し予定(固定スケジュール)と、繰り返しのない単発の予定とが含まれる。ユーザ入力データは、データ項目として、予定出発時間、予定帰着時間、予定駐車時間、及び予定走行距離を含む。各データ項目は数値で表される。ただし、これら全てのデータ項目についてデータが入力されている必要はない。ユーザがこれらのデータを入力することはあくまでも任意であり、ユーザがデータを入力した場合に限り、その入力データが車両14の行動履歴の予測に用いられる。
【0037】
車両行動予測部81は、条件判定の結果に応じてモデル予測データとユーザ入力データのいずれか一方を最終予測データとして選択する。最終予測データは、データ項目として、予測出発時間、予測帰着時間、予測駐車時間、及び予測走行距離を含む。各データ項目は数値で表される。条件判定は、追ってフローチャートにて説明されるようにデータの信頼度の観点で行われる。つまり、ユーザ入力データの方がモデル予測データよりも信頼度が高いと判定されれば、ユーザ入力データが最終予測データとして決定される。逆に、モデル予測データの方がユーザ入力データよりも信頼度が高いと判定されれば、モデル予測データが最終予測データとして決定される。ただし、データ項目ごとに信頼度には違いがあるので、最終予測データの選択はデータ項目ごとに行われる。例えば、予測出発時間のみユーザ入力データが用いられ、他のデータ項目ではモデル予測データが用いられる場合もありうる。
【0038】
4.車両の行動予測方法
本実施形態では、上記の構成を有する車両行動予測部81によって車両14の行動予測が行われる。以下、車両行動予測部81による行動予測方法について図5を用いて説明する。図5には、車両行動予測部81による行動予測方法の手順がフローチャートで表されている。なお、車両行動予測部81は、このフローチャートに示す手順をデータ項目ごとに実行する。
【0039】
図5に表されたフローチャートによれば、ステップS1において、直近の行動履歴データがデータサーバ10から取得される。ステップS2では、ステップS1で取得された行動履歴データを用いて予測データが学習更新される。
【0040】
次に、ステップS3では、予測対象日の属性が取得される。属性に天気や気温が含まれている場合には、予測対象日の天気予報から情報が取得される。ステップS4では、ステップS3で取得された予測対象日の属性をステップS2で更新された予測モデルに入力することによって、予測対象日における車両20の行動の予測値が計算される。ステップS4で計算される予測値とは、図4に示すモデル予測データの予測対象のデータ項目の値である。
【0041】
次に、ステップS5では、データサーバ10が参照され、予測対象日における予測対象のデータ項目についてユーザ入力データがデータサーバ10に登録されているか否か判定される。予測対象日における予測対象のデータ項目についてユーザ入力データが存在しない場合、つまり、ユーザがデータを入力していない場合、ステップS12が実行される。ステップS12では、ステップS4で計算された予測モデルによる予測値が最終予測値に決定される。ステップS12で計算される最終予測値とは、図4に示す最終予測データの予測対象のデータ項目の値である。
【0042】
ステップS5の判定の結果、予測対象日における予測対象のデータ項目についてユーザ入力データがデータサーバ10に存在する場合、次に、ステップS6の判定が行われる。ステップS6では、ステップS5で登録が確認されたユーザ入力データに単発予定が含まれているかどうか判定される。ユーザ入力データに単発予定が含まれている場合、ステップS11が実行される。ステップS11では、単発予定を優先して最終予測値が決定される。単発予定を優先するとは、週間予定や月間予定のような繰り返し予定も予測対象日に登録されている場合、繰り返し予定ではなく単発の予定を最終予測値として決定することを意味する。さらに、予測対象日の同一のデータ項目に複数の単発予定が登録されている場合、最新の単発予定が最終予測値として決定される。
【0043】
ステップS6の判定の結果、単発予定が無く週間予定や月間予定のような繰り返し予定のみの場合、ステップS7及びステップS8が実行される。ステップS7では、過去所定期間内の実績値に対する予測値の誤差を積算することによって第1積算誤差が算出される。ここでいう予測値とは、過去の行動履歴に基づいて統計的に予測された車両14の行動を表す数値であって、図4に示すユーザ入力データの予測対象のデータ項目の値である。第1積算誤差の計算式は、以下の式1で表すことができる。式1におけるNは過去所定期間におけるデータの個数である。
【0044】
ステップS8では、過去所定期間内の実績値に対する予定値の誤差を積算することによって第2積算誤差が算出される。ここでいう予定値とは、ユーザにより入力された車両14の行動の予定を表す数値であって、図4に示すユーザ入力データの予測対象のデータ項目の値である。第2積算誤差の計算式は、以下の式2で表すことができる。式2におけるNは過去所定期間におけるデータの個数である。
【0045】
そして、ステップS9では、ステップS7で計算された第1積算誤差とステップS8で計算された第2積算誤差とが比較される。実績値に対する予測値の誤差が小さいほど、予測値の信頼度は高いと言えるので、第1積算誤差は予測値の信頼度に相関する数値とみなすことができる。また、実績値に対する予定値の誤差が小さいほど、予定値の信頼度は高いと言えるので、第2積算誤差は予定値の信頼度に相関する数値とみなすことができる。したがって、第1積算誤差と第2積算誤差とを比較することで、過去の行動履歴に基づき統計的に予測された予測値と、ユーザにより入力された予定値のどちらの信頼度が高いか判定することができる。
【0046】
ステップS9の判定の結果、第1積算誤差が第2積算誤差よりも大きい場合、ステップS10が実行される。ステップS10では、ユーザにより入力された予定値が最終予測値に決定される。一方、第1積算誤差が第2積算誤差以下の場合、ステップS12が実行される。ステップS12では、ステップS4で計算された予測モデルによる予測値、すなわち、過去の行動履歴に基づき統計的に予測された予測値が最終予測値に決定される。
【0047】
なお、先に述べた通り、ユーザ入力データについては、必ずしも全てのデータ項目についてデータが入力されている必要はない。このため、例えば、予定出発時間は入力されているが予定帰着時間は入力されてないことがある。その場合、出発時間の最終予測値としてユーザにより入力された予定出発時間が選択されるが、帰着時間の最終予測値として予測モデルによる予測帰着時間が選択されることがありうる。そして、このようなケースでは、帰着時間の最終予測値よりも出発時間の最終予測値の方が遅い時間になってしまう可能性が無いとは言えない。この問題に関し、車両行動予測部81は、出発時間の最終予測値と帰着時間の最終予測値との間で矛盾が生じる場合には、今回値は採用せずに前回値を使用することにしている。
【0048】
5.本実施形態の効果
車両14の行動履歴データを使って統計的に予測する予測モデルによれば、例えば、平日の通勤パターンのように定常的な行動パターンに対しては、精度の高い予測が可能である。しかし、その一方で、決まった行動パターンを有していない車両や突発的な予定に対しては、予測モデルでは対応することは難しい。
【0049】
この点に関して、本実施形態では、予測モデルによって車両14の行動の予測値が計算されるだけでなく、車両14の将来の行動の予定を表す予定値がユーザから入力される。そして、予測モデルによる予測値とユーザにより入力された予定値のうち、過去の行動の実績に照らしてより信頼度の高い方が最終予測値として決定される。これによれば、VGI2に参加する車両14の行動の予測精度を向上させることができ、決まった行動パターンを有していない車両にも対応することができる。さらに、ユーザにより入力された予定値に単発予定値が含まれる場合、予測モデルによる予測値に優先して単発予定値が最終予測値として決定されるので、車両14の突発的な予定にも対応することができる。
【符号の説明】
【0050】
2 VGI
4 電力取引市場
6 アグリゲータ
8 VGI制御システム
8a プロセッサ
8b メモリ
8c プログラム
10 データサーバ
12 充放電スタンド
14 車両
16 バッテリ
81 車両行動予測部
82 電力取引可能量予測部
83 充放電計画立案部
84 充放電指示部
85 実績集計部
図1
図2
図3
図4
図5