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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】衛生設備機器
(51)【国際特許分類】
   E03D 5/10 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
E03D5/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021052349
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149976
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2024-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今尾 英子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 洋式
(72)【発明者】
【氏名】竹中 大豊
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-193838(JP,A)
【文献】特開2000-008445(JP,A)
【文献】特開2006-028816(JP,A)
【文献】特開2018-199955(JP,A)
【文献】特開2019-132030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 5/10
E03D 11/02-11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が排泄を行うボウルと、前記ボウルに溜水を形成するトラップと、前記ボウルを洗浄するための洗浄水供給装置と、を有する衛生設備機器において、前記溜水の状態を検出する溜水状態検出装置及び前記洗浄水供給装置の操作を記録する洗浄操作記録装置を有し、前記溜水状態検出装置の溜水の状態の検出結果と前記洗浄操作記録装置の操作記録に基づき、次回洗浄操作時の前記洗浄水供給装置の洗浄水量、洗浄工程、および/または、洗浄回数を変更することを特徴とする衛生設備機器。
【請求項2】
前記溜水状態検出装置は、前記ボウルの洗浄後の前記溜水の状態を測定し、前記洗浄水供給装置の操作の使用者の意図を判定することを特徴とする請求項1に記載の衛生設備機器。
【請求項3】
使用者の情報を記録する手段と、衛生設備機器の汚物残量状況を設置環境に起因するものとして情報を記録する手段と、衛生設備機器を使用した使用履歴教師データとして機械学習された予測データを用いて、前記使用者に最適な衛生設備機器の洗浄水量、洗浄工程、および/または、洗浄回数を設定する手段と、を備える洗浄操作設定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の排泄物状態、トイレットペーパーの使用量、排水配管内に停滞する汚物の量、洗浄状態に関する嗜好、および、排水配管の勾配、腐食、段差などの劣化状態などに起因する洗浄操作後の状態に差があることに配慮した洗浄操作を実施することにより、使用者が洗浄操作後に快適感を感じさせることに好適な水洗大便器に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来の水洗大便器は、ボウル面に排出される排泄物の質量またはトイレットペーパーの使用量に着目し、排出しなければならない排泄物やトイレットペーパーのような汚物の物理量(質量や使用量)に着目して洗浄操作を実施している(例えば、特許文献1、および、特許文献2参照。)。
このような場合、きれい嗜好の高い使用者が使用した場合、微細な汚物が溜水部などに残留し、使用者が再度洗浄操作を行う場合がある。また、排水配管の通気状態や排水配管の接続部の段差、勾配変化、湾曲など排出・搬送操作に影響を与えるような排水配管の状態の場合、ボウル面の状態に合わせた所定の洗浄操作を行っても、想定した洗浄性能が発揮できない可能性がある。
【0003】
また、ボウル面の汚物付着状態に注目して、洗浄操作を制御し洗浄性能を向上させているものもある(例えば、特許文献3参照。)。
しかし、この場合も使用者の体調や服薬している薬剤の影響によって排泄物のボウル面への付着度合いは変化することから、ボウル面の汚物付着状態に合わせて洗浄操作を行ったとしても、想定した洗浄性能を発揮できない可能性がある。また、上述するような排水配管の状態によっては、所定の洗浄操作を行っても、想定した洗浄性能が発揮できない可能性がある。
【0004】
また、排水配管の閉塞状態や、溜水の変化に着目して、設備保護洗浄を行っているものもある(例えば、特許文献4、特許文献5および特許文献6参照。)。
しかし、この場合も排水配管の状態を仮定して設備保護洗浄を実施するしかなく、充分な洗浄性能を発揮できない可能性がある。
【0005】
また、抗がん剤などの投薬を受けている使用者の排泄物には、代謝された薬物が含まれており、使用者だけでなく、家族や医療関係者、管理者が排泄物に含まれる薬物に曝露されることを防止するために、洗浄操作を毎回2回することを促しているガイドラインもある(例えば、非特許文献1参照。)。
しかし、この場合も排泄物の付着または残渣状態には個人差だけでなく、排水配管の状態差もあることから、一律に2回洗浄しただけでは、排泄物に含まれる薬物による曝露リスクが、使用者だけでなく、家族や医療関係者、管理者に及ぼされることを防止することが充分にできない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-058201号公報
【文献】特開2019-143424号公報
【文献】特開2017-193838号公報
【文献】特開2017-179754号公報
【文献】特開2018-162649号公報
【文献】特開2019-210728号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本がん看護学会,日本臨床腫瘍学会,日本臨床腫瘍薬学会;がん薬物療法における暴露対策合同ガイドライン2015年版,金原出版,2015年7月15日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、使用者の洗浄状態に関する嗜好、排泄物やトイレットペーパーなどの汚物の状態および排水配管の状態に応じた洗浄操作を行い、使用者が感じる快適感と衛生性を両立させた洗浄操作を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、使用者が排泄を行うボウルと、ボウルに溜水を形成するトラップと、ボウルを洗浄するための洗浄水供給装置と、を有する衛生設備機器において、溜水の状態を検出する溜水状態検出装置及び洗浄水供給装置の操作を記録する洗浄操作記録装置を有し、溜水状態検出装置の溜水の状態の検出結果と洗浄操作記録装置の操作記録に基づき、次回洗浄操作時の洗浄水供給装置の洗浄水量、洗浄工程、および/または、洗浄回数を変更することを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、実際の洗浄操作と洗浄操作後の状態を溜水の状態から予測し、次の洗浄操作の設定を変更するため、排水配管の状態や排泄物の状態により影響が生じたとしても、洗浄操作後の検出結果に基づいて、適切な洗浄を行うことができ、洗浄不足や不適切な洗浄操作を抑制することができるため、衛生性と節水性を両立した便器洗浄を実現することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、溜水状態検出装置は、ボウルの洗浄後の溜水の状態を測定し、洗浄水供給装置の操作の使用者の意図を判定することを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、排泄物などの汚物残留状況と洗浄操作の関係から洗浄操作を行った使用者の意図を判定することにより、行われた洗浄操作が汚物残留状況によるものなのか、使用者の嗜好や特段の事情によるものか判定することができ、使用者の意図を維持しつつ最適な洗浄操作を提供することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、使用者の情報を記録する手段と、衛生設備機器の汚物残量状況を設置環境に起因するものとして情報を記録する手段と、衛生設備機器を使用した使用履歴教師データとして機械学習された予測データを用いて、前記使用者に最適な衛生設備機器の洗浄水量、洗浄工程、および/または、洗浄回数を設定する手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
得られた使用履歴を教師データとして機械学習を行うことで学習済みモデルを作成し、新規な使用者情報を学習済みモデルによってシミュレーションすることで、最適な洗浄操作を設定することができ、衛生設備機器を日常的に使用する使用者だけでなく、衛生設備機器を初めて使用する使用者にも快適感を満たした洗浄操作を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、使用者の嗜好に配慮しながら、排泄物やトイレットペーパーなどの汚物の状態および排水配管の状態に応じた洗浄操作を行い、使用者が感じる快適感と、衛生性を両立させた洗浄操作を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の衛生設備機器を示す斜視図である。
図2】本発明の衛生設備機器を示すシステムブロック図である。
図3】本発明の便器の図1のIII-III断面図である。
図4】本発明の衛生設備機器の使用情報を記録するフローチャートである。
図5】本発明の衛生設備機器の使用情報に基づき行われる洗浄操作のフローチャートである。
図6】本発明の衛生設備機器の記録された情報に基づき行われる洗浄操作の概要を現した概念図である。
図7】本発明における使用者の実際の洗浄操作と衛生設備機器によって設定される洗浄操作を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の衛生設備機器100を示す斜視図であり、図3は、図1の便器10のIII-III断面図である。図2は、本発明の衛生設備機器100を示すシステムブロック図である。本発明は、使用者の嗜好に配慮しながら、衛生設備機器100の状態に応じた洗浄操作を実施し、使用者が感じる快適感と、衛生性を両立させた洗浄操作を実現するものである。
【0018】
図1~3に記載の衛生設備機器100は、便器10の背部にキャビネット95が配置されている。便器10の上には回動自在に便ふた20が配置され、手動で開閉または自動で開閉できるよう開閉装置21が組み付けられている。便器10の内部には排泄物を受けるボウル11と、ボウル11に受けた排泄物を排出するためのトラップ12が形成されており、トラップ12は排水ソケット14を介して図示しない排水排管2へ排泄物を排出するようになっている。また、トラップ12には、排水配管2から匂いや虫などの侵入を防ぐため封水として溜水13を備えている。キャビネット95には、ボウル11に対して洗浄水を供給する給水装置90が設けられており、給水装置90に供給される洗浄水は、市水などの給水源1から供給されている。ボウル11に給水装置90から供給された洗浄水は、ボウル11を洗浄すると共に排泄物が含まれる溜水13を、排水ソケット14を経由して排水配管2へ排出する。ボウル11への洗浄操作は、便器10または便器10が設置されたトイレ空間の壁などへ設けた入力装置40の洗浄スイッチ41によって開始される。なお、洗浄スイッチ41の操作は、有線または無線などの手段によってキャビネット95に設けられた制御装置30へ伝えられ、給水装置5を作動させる。
【0019】
入力装置40には、洗浄スイッチ41の他に、使用者の使用条件を入力することができる設定スイッチ42や人体検知装置50が設けられており、使用者の各種情報を制御装置30に伝達し、洗浄操作記録装置70や使用者情報記録装置80に保存されるようになっている。制御装置30は、入力装置40の入力情報を処理または制御するだけでなく、入力情報や保存された情報に基づき後述するような演算処理を行うことができる。制御装置30は、CPU(中央演算処理装置)、GPU(画像演算処理装置)、メモリ、ハードディスクドライブ等のデータ保存手段を具備しており、一般的なコンピュータなどのようにプログラムよって各種処理を実行することができる。なお、制御装置30や洗浄操作記録装置70、使用者情報記録装置80は、本実施例ではキャビネット95に設けられているが、制御装置30の代わりに通信手段をキャビネット95へ設け、制御装置30や洗浄操作記録装置70、使用者情報記録装置80をキャビネット95の外部やトイレ空間の外部へ設け通信手段を介して保存や演算を行っても良い。キャビネット95には、報知装置60が設けられている。報知装置60は、使用者の衛生設備機器100の使用履歴に伴う後述する演算処理の結果を使用者へ音として報知するための音声出力装置や画像として報知するための画像出力装置のいずれかまたは両方が設けられている。なお、本実施例では報知装置60は、キャビネット95に設けているが、キャビネット95に通信手段を設け、トイレ空間の壁や使用者や管理者が所有する携帯電子機器へ伝達し、報知してもよい。
【0020】
図3に示すように便器10には、溜水13の状態を測定または検出する溜水状態測定装置90が設けられている。溜水状態測定装置90は、溜水13の汚れや汚物の残渣を検出する画像撮影手段や水位を検出する水位検出手段など溜水13の状態を測定または検出できる各種装置によって形成されている。水位検出手段としては水圧を検出したり、水面までの位置を測定したり、静電容量で溜水13の体積を測定したり、様々な方法が実現されている。本実施例では、ボウル11に設けられた開口から溜水13を測定する画像撮影手段によって形成されているが、画像撮影手段と別の測定手段を組合せてもよく、溜水13の状態を確認することができればよい。また、本実施例では、ボウル11に設けられた開口から溜水13を測定しているが、便器10に設けられる弁座(図示しない)や衛生洗浄装置(図示しない)などに設けてもよい。なお、溜水状態測定装置90以外にも、ボウル11の状態を測定する測定装置などを組合せてもよい。図示しないが、溜水状態測定装置90は、測定結果を保存する記録装置を備えている。
【0021】
図4のフローチャートを用いて衛生設備機器100の使用者の使用履歴を記録し洗浄操作設定を変更する方法について説明する。本実施例では、図4のフローチャートに従い使用者の使用履歴を記録し、記録された使用履歴と便器10の状態の測定結果を用いて使用者に最適な洗浄操作を設定する。
【0022】
使用者が人体検知装置50の作動、または、便ふた20の開放操作を実施する(ステップS1)と、人体検知装置50によって使用者の情報が使用者情報記録装置80へ保存される(ステップS2)。なお、使用者情報の記録は、人体検知装置50や設定スイッチ42に個人識別情報を直接入力する方法や携帯電子機器を介した通信、画像撮影手段などを使用した使用者の操作を必要とせず行う方法などにより行うことができる。図示しないステップとして、使用者は便ふた20を開状態とし、便器10へ排泄物を排泄する。
【0023】
使用者は、排泄終了後または使用者の臀部の洗浄後に洗浄スイッチ41を操作し、便器10の洗浄操作を開始する(ステップS3)。給水装置5には、大容量の洗浄水を便器10へ供給する大洗浄モードと小容量の洗浄水を便器10へ供給する小洗浄モードを備えており、使用者が便器10の使用状況に応じて大洗浄モードまたは小洗浄モードを選択できるようになっている。使用者選択した各洗浄モードに対応した洗浄スイッチ41の操作を洗浄操作記録装置70へ記録する(ステップS4)。洗浄スイッチ41が操作された際の便ふた20の開閉状態を記録する(ステップS5)。なお、洗浄スイッチ41を操作した後に、便ふた20を閉状態とする使用状況を考慮して、洗浄スイッチ41を操作し、例えば3秒後などの一定時間後の便ふた20の状態を記録する。
【0024】
洗浄終了後の溜水13の状況を撮影し(ステップS6)、撮影した画像を記録装置に保存する(ステップS7)。なお、洗浄終了後すぐは、封水が波打っており撮影した溜水13の画像を後述するステップS8に使用できない可能性があるため溜水13が安定した後に撮影を行っている。溜水13の安定は、設定された時間経過後に撮影することが好ましい。別の溜水13の安定確認手段として、トラップ12に印を印字し、溜水13越しに印字を溜水状態測定装置90で撮影することにより判定することができる。印を確認することにより、安定確認することにより、設置場所の状況により、溜水13の安定化にかかる時間が変化したとしても、影響を抑えて溜水状態を測定することができる。溜水13の濁りの状態が印との見え方で確認できることは、公開技報2018-500570にも記載されている。
【0025】
保存した溜水13の画像と衛生設備機器100を設置時または便器10の使用前の溜水13の画像を比較し、溜水13の汚物残留状況を判定する(ステップS8)。なお、衛生設備機器100の洗浄水を着色する芳香剤などを使用している場合、溜水13の着色状況が時期によって芳香剤の残量などの影響を受けて変化してしまい溜水13の汚物残留状況の判定に影響が生じる可能があるため、比較対象とする溜水13の画像は、できるだけ便器10の使用前の溜水13の状況が好ましい。画像を用いた溜水13の汚物残留状況の判定する方法としては、画素ごとに差分をとって平均二乗誤差やSN比を用いる方法や、画像を二極化し色差を比較する方法などを採用することができる。一定値以上の閾値の差分が得られた場合は汚物残留ありと認定し(YES)、一定値以上の閾値の差分が得られなかった場合は、汚物残留なしと認定する(NO)。汚物残留ありと認定する閾値の差分は、後述する追加の洗浄操作の有無と蓄積されている溜水13の画像を比較することにより変更することができる。設定された閾値以上の差分であっても、追加の洗浄操作が行われない場合は、例え差分が生じたとしても使用者が許容できる汚物残留量であるため、閾値を変更し、汚物残留なしと判定する。なお、使用者が許容できる汚物残留であっても、衛生面などの観点から不都合が生じる汚物残留を防ぐため、一定以上の差分よりも閾値は変更できないようになっている。また、洗浄操作後に汚物残留がある場合は、衛生設備機器100の設置環境、使用者の使用状況(排泄物の性質や落とし紙の使用量)に起因するものとして記録し、洗浄設定を変更し汚物残留をなくすよう設定する。
【0026】
ステップS8で汚物残留ありと認定された場合は、次回からの洗浄時の洗浄水供給量を増やすよう洗浄装置5の設定を変更する(ステップS10)。洗浄水供給量を増やす方法としては、洗浄時間を長くする方法や瞬間洗浄水量を増加させる方法など衛生設備機器100が備える洗浄装置5の機構に合わせて設定する。ステップS8で汚物残留なしや溜水水位変化なしと認定された場合は、洗浄装置5の設定を維持する(ステップS9)。溜水13の汚物残留判定中または判定後の一定時間以内に再度洗浄スイッチ41が操作されたかどうかを判定する(ステップS11)。
【0027】
追加の洗浄操作が行われなかった場合は、洗浄操作を終了とする(ステップS12)。追加の洗浄操作が行われた場合は、追加の洗浄操作が溜水13の汚物残留に起因するものなのか、使用者の嗜好に起因するものなのか、特段の事情によるものなのか判定するためステップS14からステップS21を行う。追加の洗浄操作が行われたことを記録し(ステップS13)、ステップS6、7と同様に洗浄後の溜水13の状況を測定する(ステップS14、15)。追加の洗浄後の溜水13の画像とS7で測定した溜水13の画像を比較する(ステップS16)。ステップS7の画像とステップS15の画像の差分が閾値以下である場合は、ステップS6で汚物残留状況をどのように判定したか参照する(ステップS17)。
【0028】
ステップS6で汚物残留ありと判定している場合は、詰まりリスクありとして報知装置60を使用して使用者または管理者へ報知する(ステップS20)。追加洗浄を行ったにもかかわらず溜水13に汚物残留があるということは、洗浄装置5またはトラップ12に異常があることが推定されるため使用者へ報知し、修理や改善を促すことができる。ステップS6で汚物残留なしと判定したにもかかわらず追加の洗浄操作が行われた場合は、洗浄が行えているにも拘わらず追加の洗浄操作が行われたと判定し、余分な洗浄水を減らすため洗浄装置5から供給する洗浄水量を減らすよう設定する(ステップS18)。洗浄が行えているにも拘わらず追加の洗浄操作が行われる要素としては、使用者の嗜好に起因するものと考えられるため嗜好に起因する追加の洗浄操作として記録する。洗浄水量を減らす方法としては、洗浄時間を短くする方法や瞬間洗浄水量を減らす方法など衛生設備機器100が備える洗浄装置5の機構に合わせて設定する。なお、追加の洗浄操作(2回目の操作)が行われた後にさらに追加の洗浄操作(3回目の操作)が行われた場合は、ステップS11に戻り同様の処理を繰り返す。洗浄が行えているにも拘わらず追加の洗浄操作(3回目またはそれ以上の回数)が行われた場合は、余分な洗浄水を減らすため洗浄装置5から供給する洗浄水量をさらに減らすように設定する。
【0029】
ステップS16で、ステップS7の画像とステップS15の画像の差分が閾値以上である場合は、ステップS14での汚物残留状況の判定を参照する(ステップS19)。ステップS14で汚物が残留しており、ステップS7の画像と差分が生じている場合は、洗浄不足または追加の洗浄操作後に汚物が逆流した可能性があるため、ステップS20として詰まりリスクを報知する。ステップS14で汚物が残留しておらず、ステップS7の画像と差分が生じている場合は追加の洗浄操作によって洗浄が充分行われたと判定し、ステップS10で設定した洗浄操作設定を保存し(ステップS21)、洗浄操作を終了とする(ステップS12)。
【0030】
図4のフローチャートを使用して通常の使用者の使用履歴を記録し洗浄操作設定を変更する方法について説明したが、特段な事情における使用履歴の記録と洗浄操作設定の変更について説明する。使用者の中には、抗がん剤などの投薬を受けている場合やノロウィルスなどのウィルス疾病に罹患しており排泄物に消化器系の疾病と関連するウィルスが含有されている場合が存在する。このような事情を持つ使用者が衛生設備機器100を使用した場合、後の使用者や管理者がメンテナンスする際に排泄物に含まれる薬物やウィルスなどに曝露することを防ぐために複数回洗浄することが推奨されている。そのため、ステップS2で人体検知装置50によって使用者の情報が使用者情報記録装置80へ保存される際に投薬または疾病の罹患情報を合わせて保存する。このような特段な事情では、図4のフローチャートに従って、使用者の嗜好に合わせて洗浄操作を最適化した場合、便器10に薬剤やウィルスが残留し、後の使用者や管理者を曝露することを防ぐ必要がある。そのため、ステップS8による洗浄水量を増加させる設定は有効とするが、ステップS18のような洗浄水量を減少させる設定は無効とするようになっている。また、上記条件下でステップS5において便ふた20が開状態である場合は、便ふた20を閉じて洗浄操作を行う。ステップS5で便ふた20が閉状態で、追加の洗浄操作が行われた場合は、特段な事情の入力漏れの可能性を考慮してステップS18での洗浄水量の減少を一旦保留することもできる。
【0031】
このように使用者の情報と実際の洗浄操作設定を測定することにより、使用者の情報と実際の洗浄操作の紐づけを行う。使用者の使用履歴を記録し、それに基づき洗浄操作の設定を随時変更していくことにより、使用者に対して最適な洗浄操作設定を作成することができる。また、図4のようなフローチャートを用いて使用者の使用履歴を記録し、それに基づき洗浄操作設定を設定する方法について説明したが、本発明はこのようなフローチャートに限定されず、使用者の情報や実際の洗浄操作、便器の設置場所の情報、使用者の嗜好、便ふた20の開閉状況、その他の特段な事情と、を教師データとして機械学習された予測モデルを作成することもできる。図4のフローチャートでは、図示しないが使用者の情報として衛生設備機器100を使用した時間などを同時に記録しており、時間帯における使用者の嗜好や特段な事情を合わせて記録し、最適な洗浄操作設定を作成することができる。時間帯に起因する使用者の嗜好としては、最初の使用時(例えば朝方)はきれい嗜好で過剰に洗浄操作を行い、その後(例えば日中)の洗浄操作はエコ嗜好で不十分な洗浄操作を行うなどが考えられる。また、午前中は、服薬の関係上2回洗浄が必要であり、午後はその必要がないということも考えられる。服薬している薬物の代謝や排泄物の状況は、ホルモン分泌の影響もあり、日時の情報も最適化に使用することにより、概日リズムも配慮した最適な洗浄操作設定を行うことができる。
【0032】
使用者の衛生設備機器100の使用履歴を記録し洗浄操作設定を変更する追加の要素として、便器10の使用前に行われる洗浄操作の有無を判定するステップを追加することもできる。使用者の嗜好などにより、便器10の使用前に洗浄操作を行いその後、便器10を使用し排泄することも想定される。衛生設備機器100の使用前の洗浄操作を記録し、溜水13の画像や水位変化を判定することにより、使用前の洗浄操作が嗜好に基づくものなのか、前の洗浄操作の洗浄不足に起因するものなのか、予測し次の洗浄操作設定を変更する。また、追加の要素としてボウル11の状態に関する判定のステップを追加することもできる。このように使用者の使用履歴を記録し、洗浄操作設定を変更していくことにより、使用者に最適な洗浄操作設定いていく。使用者の使用履歴の記録は、少なくとも1回行えば、使用者に応じた最適な洗浄操作設定を設定することができるが、複数回の使用履歴を記録し最適な洗浄操作設定を設定することが好ましい。
【0033】
次に図5のフローチャートを使用して使用者の使用履歴に基づき使用者に応じた最適な洗浄操作設定を行い、洗浄操作を行う方法の一例について説明する。使用者が人体検知装置50の作動、または、便ふた20の開操作を実施する(ステップS31)。衛生設備機器100の仕様が確認されると人体検知装置50や設定スイッチ42を使用して使用者情報の参照を行う(ステップS32)。使用者情報の参照を行い記録されている使用履歴から最適な洗浄操作設定を参照し、衛生設備機器100の設定変更を開始する(ステップS33)。まず、最初の洗浄操作で溜水13に汚物残留が確認された履歴がないか参照を行う(ステップS34)。これまでの使用で洗浄操作後に溜水13で汚物残留が確認された場合は、過去の使用で汚物残留がない洗浄操作設定へ変更する(ステップS36)。通常の洗浄設定で汚物残留が確認された履歴がない場合は、洗浄操作設定を変更しない(ステップS35)。
【0034】
次に使用者情報に基づき図4のフローチャートで記録した洗浄操作の中で追加の洗浄操作として記録されたものの中で使用者の嗜好に起因する履歴がないか参照する(ステップS37)。その結果、使用者の嗜好に起因する洗浄操作履歴が存在する場合は、追加の洗浄操作を設定する(ステップS39)。なお、追加の洗浄操作の設定は、追加の洗浄操作の回数や追加の洗浄操作の洗浄水量などである。使用者の嗜好に起因する追加の洗浄操作履歴がない場合は、追加の洗浄操作設定を行わない(ステップS38)。
【0035】
参照された使用者情報に特段な事情が存在しないか参照する(ステップS40)。特段な事情が存在する場合は、追加の洗浄設定を行う(ステップS42)。特段の事情の中には、使用者や後の別の使用者、管理者の安全に関わるものも存在するため、ステップS37で参照した使用者の嗜好と反した洗浄設定であったとしても、特段の事情に起因する洗浄設定を優先するようになっている。なお、追加の洗浄操作の設定は、追加の洗浄操作の回数や追加の洗浄操作の洗浄水量などである。特段の事情が存在しない場合は、追加の洗浄操作設定を行わない(ステップS41)。
【0036】
ステップS34、S37、S40の判定によって、使用者の使用履歴に基づき設定した洗浄操作設定を報知装置60によって、使用者へ報知する(ステップS44)。使用者は、報知装置60による報知により、衛生設備機器100の使用後にどのような洗浄操作が行われるか把握でき、使用者は安心して洗浄操作を行うことができる。使用者へ報知後に洗浄操作を実行し(ステップS45)、衛生設備機器100の使用を終了する(ステップS46)。
【0037】
図5のフローチャートでは、図示しないが便ふた20の開閉状態や衛生設備機器100を使用した時間などの履歴を参照し洗浄操作の設定へ反映することができる。例えば、使用者が便ふた20を閉状態で洗浄する履歴が存在する場合は、自動的に便ふた20を閉状態にする。また、使用者が使用する時間などで洗浄操作履歴における残留汚物の有無や嗜好、特段の事情の傾向が異なる場合は、参照する洗浄操作履歴の範囲を特定の時間帯に設定することができる。
【0038】
図4、5のフローチャートを使用して、使用者の使用履歴から使用者に最適な洗浄操作を設定する方法について説明したが、図6を使用して作成した最適な洗浄操作を教師データとして学習済みモデルとし、他の使用者が衛生設備機器100を使用する際に他の使用者にあった最適な洗浄操作を提供する方法について説明する。図4、5のフローチャートにより、集められた使用者の洗浄操作履歴(設置場所に起因する洗浄操作、嗜好に起因する洗浄操作、特段の事情に起因する洗浄操作、時間帯に起因する洗浄操作)を教師データとして機械学習を行う。図4のフローチャートによる使用者の使用履歴の蓄積と図5のフローチャートによる蓄積された使用履歴を用いた操作設定の変更の実施と確認が訓練フェーズである。新たな使用者が、衛生設備機器100を初めて使用する際に入力される使用者情報と蓄積された使用者情報を比較し、近しい使用履歴とそれに基づく最適な洗浄操作設定を出力し洗浄操作を実行する。そうすることにより、新たな使用者に最適な洗浄操作設定を設定するための使用者の使用履歴の蓄積を短縮することができ、衛生設備機器100の使用時に、使用者が感じる快適感をより一層高めることができる。特に一般家庭や医療機関などの使用者の属性(嗜好や事情)が限定されやすい空間に設置された衛生設備機器100は、使用履歴の蓄積を少なくすることができる。
【0039】
図7は、使用者の実際の洗浄操作と、図4、5のフローチャートによって設定された洗浄操作の例を示した表である。使用者Aの場合は、衛生設備機器100の設置場所の排水配管が細く溜水13に汚物残留が多くみられるため、使用者Aが汚物残留を意識していなかったとしても、大洗浄操作(大洗浄モードの操作)を行ったとしても、特大洗浄操作(大洗浄モードよりも洗浄水の供給量が多い洗浄操作)を行い、汚物残留をなくすようになっている。使用者Bの場合は、使用履歴からきれい嗜好であることが判定されているが、特段の事情もなく、残留汚物がないにもかかわらず追加の洗浄操作を行っており、便ふた20を閉めて行っていることから追加の洗浄操作は、嗜好によるものと判定し、大洗浄操作を2回行ったとしても、大洗浄操作1回の後に小洗浄操作1回を行い使用者の使用感を満たしつつ節水を行っている。使用者Cの場合は、衛生設備機器100の設置場所の排水配管が細く溜水13に汚物残留が多くみられるため、追加の洗浄操作である小洗浄を行っており、また残留汚物が少なくとも追加の洗浄操作を行う傾向にあり、追加の洗浄操作が小洗浄操作(小洗浄モードの操作)であることからきれい嗜好、エコ嗜好を有していると判定されている。使用者Cは、服薬しており後の使用者や衛生設備機器100の管理者に便器10に残った排泄物の残滓に含まれる薬物による曝露のリスクがあることを使用者情報から判断し、便ふた20を開状態で洗浄操作を行う使用履歴であっても、特段の事情を考慮して閉状態で洗浄操作を行うよう設定される。また、エコ嗜好を有しているとしても特段の事情を優先し、大洗浄操作を1回、小洗浄操作を1回行ったとしても、特大洗浄操作1回の後に大洗浄操作1回を行い使用者の使用感を満たしつつ特段の事情に考慮した洗浄操作を行っている。
【0040】
本実施例では、使用者の嗜好に起因する洗浄操作が特段の事情に起因する洗浄操作と反した場合は、特段の事情に起因する洗浄操作を優先するよう設定したが、衛生設備機器100の設置場所や管理者、使用者の意向により優先する洗浄操作の履歴を任意に設定することができる。また、最適な洗浄操作を設定するため、その他の任意の操作や入力を記録し合わせて判定することができる。
【0041】
本実施例では、使用者の洗浄操作履歴を蓄積(学習)し、最適な洗浄操作を設定し実行する方法について説明したが、別の実施形態として例えば使用者の使用履歴ではなく、使用者が希望する洗浄操作を予め設定し設定スイッチ42を使用して入力することもできる。その場合は、入力された希望の洗浄操作と衛生設備機器100に蓄積された洗浄操作を比較し、希望の洗浄操作の最適化を行うこともできる。
【0042】
本発明は、溜水13の状況を測定することにより、汚物残留状況を判定して、便器10の状況を予測している。ボウル11は、範囲が広くまた使用による傷や洗浄のためのスタンプ式の洗浄剤などが使用されることもあり、溜水13に比べてボウル11の状況から汚物残留状況を判定することは難しい。それに対して溜水13は、判定すべき範囲が狭くまた、使用による影響を受けにくいため、汚物残留状況を判定しやすい。汚物残留状況と洗浄操作の関係から洗浄操作を行った使用者の意図を判定することにより、行われた洗浄操作が汚物残留状況によるものなのか、使用者の嗜好や特段の事情によるものか判定することができ、使用者の意図を維持しつつ最適な洗浄操作を提供することができる。
【0043】
本発明は、得られた使用履歴を教師データとして機械学習を行うことで学習済みモデルを作成し、新規な使用者情報を学習済みモデルによってシミュレーションすることで、最適な洗浄操作を設定することができ、衛生設備機器100を初めて使用する使用者にも使用用感を満たした洗浄操作を提供することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 給水源
2 排水配管
5 給水装置
10 便器
11 ボウル
12 トラップ
13 溜水
14 排水ソケット
20 便ふた
21 開閉装置
30 制御装置
40 入力装置
41 洗浄スイッチ
42 設定スイッチ
50 人体検知装置
60 報知装置
70 洗浄操作記録装置
80 使用者情報記録装置
90 溜水状態測定装置
95 キャビネット
100 衛生設備機器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7