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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】光送信装置、光変調器及び起動方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/01 20060101AFI20241210BHJP
   H01S 5/062 20060101ALI20241210BHJP
   H04B 10/50 20130101ALI20241210BHJP
【FI】
G02F1/01 B
H01S5/062
H04B10/50
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021057702
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154591
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神成 謙太
(72)【発明者】
【氏名】石井 俊雄
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-061632(JP,A)
【文献】特開2019-071531(JP,A)
【文献】特開2018-014473(JP,A)
【文献】特開2018-085708(JP,A)
【文献】国際公開第2009/153840(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/132283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
H01S 5/00-5/50
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアス電流に応じて光信号を発光する発光部と、前記光信号を電気信号に応じて光変調するマッハツェンダ型の光変調器とを有する光送信装置であって、
前記光変調器は、
前記光変調器内の温度を検出する検出部と、
電源起動を検出した場合に、前記検出部により検出された温度が目標温度になるように、運用中に供給する前記バイアス電流の電流値に比べて高い電流値の前記バイアス電流を前記発光部に供給して前記光変調器内の温度を制御する制御部と
を有することを特徴とする光送信装置。
【請求項2】
前記光変調器は、
前記発光部から前記光変調器に入力する前記光信号の出力レベルを検出するレベル検出部を有し、
前記制御部は、
前記検出部により検出された前記温度が前記目標温度になるように、前記バイアス電流を前記発光部に供給する第1の電流制御方式を実行した後、前記光変調器の温度が目標温度になった場合に、前記光信号の出力レベルが目標レベルになるように前記バイアス電流を前記発光部に供給する第2の電流制御方式に切り替えることを特徴とする請求項に記載の光送信装置。
【請求項3】
前記光変調器は、
前記発光部から前記光変調器に入力する前記光信号の出力レベルを検出するレベル検出部を有し、
前記制御部は、
前記電源起動を検出した場合に、前記検出部により検出された前記温度が前記目標温度になるように、前記発光部の上限閾値の前記バイアス電流を所定時間、前記発光部に供給する第1の電流制御方式を実行し、前記光変調器内の温度が目標温度になった場合に、前記光信号の出力レベルが目標レベルになるように前記バイアス電流を前記発光部に供給する第2の電流制御方式に切り替えることを特徴とする請求項に記載の光送信装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記光変調器内の現在温度と目標温度との差分と、前記光変調器の外乱影響を与える要素と、前記光変調器の熱抵抗と、外乱の時定数情報とを用いて、前記上限閾値の前記バイアス電流を供給する前記所定時間を算出し、前記第1の電流制御方式の前記所定時間を設定することを特徴とする請求項に記載の光送信装置。
【請求項5】
前記光信号の出力レベルが目標レベルになるまで前記光変調器から光変調する光信号の出力をOFFするシャッタを有することを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載の光送信装置。
【請求項6】
前記発光部は、
第1の波長の光信号を発光する第1の発光部と、
第2の波長の光信号を発光する第2の発光部と、を有し、
前記第1の発光部からの前記第1の波長の光信号を電気信号に応じて第1の光変調信号を出力する第1の光変調部と、
前記第2の発光部からの前記第2の波長の光信号を電気信号に応じて第2の光変調信号を出力する第2の光変調部と、
前記第1の光変調部からの前記第1の光変調信号の出力と前記第2の光変調部からの前記第2の光変調信号の出力とをON/OFFするシャッタと
を有することを特徴とする請求項1~の何れか一つに記載の光送信装置。
【請求項7】
前記光変調器は、
シリコンフォトニクス光変調器であることを特徴とする請求項1~の何れか一つに記載の光送信装置。
【請求項8】
前記光変調器は、
ドライブ電流に応じて前記光変調器を加熱するヒータを有し、
前記制御部は、
前記電源起動を検出した場合に、前記検出部により検出された温度が目標温度になるように、前記ドライブ電流を前記ヒータに供給することを特徴とする請求項1に記載の光送信装置。
【請求項9】
バイアス電流に応じて発光部からの光信号を電気信号に応じて光変調するマッハツェンダ型の光変調器であって、
前記光変調器内の温度を検出する検出部と、
電源起動を検出した場合に、前記検出部により検出された温度が目標温度になるように、運用中に供給する前記バイアス電流の電流値に比べて高い電流値の前記バイアス電流を前記発光部に供給して前記光変調器内の温度を制御する制御部と
を有することを特徴とする光変調器。
【請求項10】
バイアス電流に応じて光信号を発光する発光部と、前記光信号を電気信号に応じて光変調するマッハツェンダ型の光変調器とを有する光送信装置の起動方法であって、
前記光変調器は、
前記光変調器内の温度を検出し、
電源起動を検出した場合に、検出された温度が目標温度になるように、運用中に供給する前記バイアス電流の電流値に比べて高い電流値の前記バイアス電流を前記発光部に供給して前記光変調器内の温度を制御する
処理を実行することを特徴とする起動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信装置、光変調器及び起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光送信装置では、装置の小型化及び低電力化が加速的に進んだことで、仕様も複雑化及び高機能化が求められている。また、光送信装置では、マッハツェンダ型の光変調器が広く採用されている。この際、例えば、光送信装置の電源起動開始から運用開始までの起動時間は、光送信装置の価値を決める重要なパラメータとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-329212号公報
【文献】特開2018-14473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、光送信装置に使用するマッハツェンダ型の光変調器は、温度依存性が高く、光変調器の温度を目標温度に安定化する必要があるが、その光変調器の温度を目標温度に安定化するまでには時間を要する。その結果、光送信装置の起動時間が長くなるのが実情である。
【0005】
一つの側面では、光送信装置の起動時間を短縮化できる光送信装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの態様の光送信装置は、バイアス電流に応じて光信号を発光する発光部と、前記光信号を電気信号に応じて光変調するマッハツェンダ型の光変調器とを有する。前記光変調器は、前記光変調器内の温度を検出する検出部と、電源起動を検出した場合に、前記検出部により検出された温度が目標温度になるように前記光変調器内の温度を制御する制御部とを有する。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面によれば、光送信装置の起動時間を短縮化できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1~4の光送信装置の一例を示すブロック図である。
図2図2は、実施例1の光送信装置の電源起動開始から運用開始までのヒータ電力、LD電流、温度、光出力の時間推移の一例を示す説明図である。
図3図3は、実施例1の光送信装置の第1の起動処理に関わる処理動作の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、実施例2の光送信装置の電源起動開始から運用開始までのヒータ電力、LD電流、温度、光出力の時間推移の一例を示す説明図である。
図5図5は、実施例2の光送信装置の第2の起動処理に関わる処理動作の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、実施例3の光送信装置に関わる熱モデルの一例を示す説明図である。
図7図7は、実施例3のMZM(Mach-Zehnder Modulator)の温度関係式の一例を示す説明図である。
図8図8は、実施例3のMZMの起動開始から温度収束までの温度推移の一例を示す説明図である。
図9図9は、実施例3の光送信装置の第3の起動処理に関わる処理動作の一例を示すフローチャートである。
図10図10は、実施例4の光送信装置の一例を示すブロック図である。
図11図11は、実施例5の光送信装置の一例を示すブロック図である。
図12図12は、実施例5の光送信装置の電源起動開始から運用開始までのヒータ電力、LD電流、温度、光出力の時間推移の一例を示す説明図である。
図13図13は、実施例5の光送信装置の第4の起動処理に関わる処理動作の一例を示すフローチャートである。
図14図14は、比較例の光送信装置の一例を示すブロック図である。
図15図15は、比較例の光送信装置の電源起動開始から運用開始までのヒータ電力、LD電流、温度、光出力の時間推移の一例を示す説明図である。
図16図16は、比較例の光送信装置の起動処理に関わる処理動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、比較例の光送信装置100について説明する。図14は、比較例の光送信装置100の一例を示すブロック図である。図14に示す比較例の光送信装置100は、LD(Laser Diode)110と、光変調器120と、制御部130と、装置サーミスタ141と、装置温度モニタ142とを有する。LD110は、バイアス電流に応じてCW(Continuous Wave)光を発光し、バイアス電流の電流量に応じて光信号の出力レベルを可変する。光変調器120は、温度依存性の高いシリコンフォトニクス光変調器である。光変調器120は、PD(Photo Diode)121と、光変調器サーミスタ122と、変調部123と、開閉部124とを有する。PD121は、LD110からの光信号を電流変換し、電流変換後の光信号の出力レベルを検出する。光変調器サーミスタ122は、光変調器120内の温度を電圧変換する。
【0010】
変調部123は、LD110からの光信号を印加電圧に応じて光変調する。変調部123は、MZM123Aと、MZMヒータ123Bとを有する。MZM123Aは、2本のアーム上に信号電極を配置し、信号電極に電圧が印加されると、アーム内に電界が発生し、この電界によってアーム内の光屈折率が変化する。その結果、アームを伝搬する光信号の位相を変化し、アーム間の位相差に応じて光信号を変調することになる。MZMヒータ123Bは、MZM123Aの各アームを加熱することで各アームを伝搬する光信号の位相量を調整する。そして、MZM123Aは、LD110からの光信号に電圧を印加することで光変調信号を出力する。
【0011】
開閉部124は、シャッタ124Aと、シャッタヒータ124Bとを有する。シャッタ124Aは、MZM123Aからの光変調信号の位相量を調整することで、光変調信号の出力をON/OFFする。シャッタヒータ124Bは、シャッタ124Aを加熱することで光変調信号の位相量を調整する。
【0012】
制御部130は、PDモニタ131と、LD電流設定部132と、光変調器温度モニタ133と、MZMヒータ電流設定部134と、切替判定部135と、シャッタ電流設定部136とを有する。PDモニタ131は、光変調器120内のPD121で検出した電流値に応じたPDモニタ結果であるLD110の光信号の出力レベルを検出する。LD電流設定部132は、PDモニタ結果である光信号の出力レベルが安定化した目標レベルになるようにLD110に供給するバイアス電流を設定する。
【0013】
光変調器温度モニタ133は、光変調器サーミスタ122を通じて光変調器120内の温度に応じた電圧を検出し、電圧に応じた光変調器120内の温度を光変調器温度モニタ結果として取得する。
【0014】
MZMヒータ電流設定部134は、光変調器温度モニタ133で取得した光変調器120の温度に基づき、MZMヒータ123Bに供給するドライブ電流を設定する。切替判定部135は、光変調器120の温度に基づき、シャッタ124AをON/OFFする。シャッタ電流設定部136は、シャッタ124AのON/OFFの切替判定結果に基づき、シャッタヒータ124Bに供給するドライブ電流を設定する。
【0015】
装置サーミスタ141は、光送信装置100内の温度を電圧変換する。装置温度モニタ142は、装置サーミスタ141を通じて光送信装置100内の温度に応じた電圧を検出し、電圧に応じた光送信装置100内の温度を取得する。
【0016】
図15は、比較例の光送信装置100の電源起動開始から運用開始までのヒータ電力、LD電流、温度、光出力の時間推移の一例を示す説明図である。電源起動開始から運用開始までの期間をt10、t11、t12及びt13のタイミングに区分する。t10は、光送信装置100の電源を起動して制御を開始するタイミングである。t11は、LD110へのバイアス電流の制御を開始するタイミングである。t12は、LD110のLD温度が安定温度(第1の目標温度)に収束するタイミングである。t13は、光変調器20の温度が安定温度(第2の目標温度)に収束し、光変調信号の出力がONとなる光送信装置100の運用を開始するタイミングである。
【0017】
MZMヒータ123Bは、t10のタイミングで電力制御を開始し、シャッタヒータ124Bは、t13のタイミングで電力制御を開始する。LD電流は、t11のタイミングからLD110へのバイアス電流の制御を開始してLD電流を目標LD電流に収束する。
【0018】
LD温度は、t11のタイミングからのLD110へのバイアス電流の供給に応じて徐々に上昇し、t12のタイミングでLD温度を安定温度(第1の目標温度:目標LD温度)に収束する。更に、光変調器温度も、t11のタイミングからLD110へのバイアス電流の供給を開始しながら、LD温度の上昇に応じて徐々に上昇し、t13のタイミング付近で光変調器20の温度を安定温度(第2の目標温度)に収束する。
【0019】
光パワーは、t11のタイミングでLD電流制御を開始し、LD電流が目標LD電流に収束することで光信号の出力レベルが目標光パワー(目標レベル)に収束する。そして、シャッタ124Aは、光変調器20の温度が第2の目標温度に収束したt13のタイミングでシャッタ124AをOFFにして、目標光パワーの光変調信号を出力することになる。
【0020】
LD電流設定部132のLD電流制御は、t11のタイミングに応じてLD電流制御のAPC(Auto Power Control)を開始する。MZMヒータ電流設定部134のMZMヒータ制御は、t10のタイミングに応じてMZMヒータ制御のAPCを開始する。切替判定部135のシャッタ制御は、通常ON状態にし、t13のタイミングに応じてOFF状態にする。尚、シャッタ124AがONの場合、変調部123の光変調信号の出力をOFF、シャッタ124AがOFFの場合、変調部123の光変調信号の出力をONにする。更に、光送信装置100の状態は、t10のタイミングで起動を開始し、t13のタイミングに応じて起動中から運用中に切り替える。
【0021】
図16は、比較例の光送信装置100の起動処理に関わる処理動作の一例を示すフローチャートである。光送信装置100内の切替判定部135は、電源起動に応じて、シャッタ124AをON状態にして変調部123からの光変調信号の出力を停止する(ステップS111)。光送信装置100内のMZMヒータ電流設定部134は、シャッタ124AをON状態でMZMヒータ123Bの電力制御を開始する(ステップS112)。尚、MZMヒータ電流設定部134は、t10のタイミングでMZMヒータ123Bの電力制御を開始する。
【0022】
光送信装置100内のLD電流設定部132は、MZMヒータ電力制御を開始した後、LD電流制御を開始すべく、LD電流制御のAPCを開始する(ステップS113)。尚、LD電流設定部132は、t11のタイミングでLD電流制御のAPCを開始する。その結果、光送信装置100は、LD110に供給するバイアス電流に応じてLD110が発熱し、このLD110の発熱で光変調器120内の温度が徐々に上昇することになる。
【0023】
光送信装置100内の切替判定部135は、例えば、光変調器120内の温度が第2の目標温度(安定温度)に収束したか否かを判定する(ステップS114)。尚、光変調器温度モニタ133は、光変調器120内の温度を取得する。光送信装置100は、光変調器120内の温度が第2の目標温度(安定温度)に収束した場合(ステップS114:Yes)、シャッタ124AをOFFにして変調部123からの光変調信号の出力を開始する(ステップS115)。そして、図16に示す処理動作を終了する。また、光送信装置100は、光変調器120内の温度が第2の目標温度(安定温度)に収束しなかった場合(ステップS114:No)、光変調器120内の温度が第2の目標温度に収束したか否かを判定すべく、ステップS114に移行する。
【0024】
例えば、LD温度が第1の目標温度に安定化したとしても、光変調器120の温度が第2の目標温度に安定化するまでには時間がかかる。また、MZMヒータ123Bの温度最適点は、温度依存性があり、最適ヒータ電力は、光変調器120の温度に合わせて変動する。光変調器120に熱影響を与える外乱は時定数が長い。外乱による熱影響としては、光変調器120の外部にあるLD110、図示せぬ放熱部品等や光変調器120内の他のヒータ(MZM123A⇔シャッタ124A)から受ける熱影響がある。時定数としては、ヒータ自体の熱時定数は問題にならないほど速く、マイクロ秒オーダであるのに対し、外乱から受ける熱影響の時定数が遅く、秒オーダである。外乱による熱影響により温度が安定するまでには時間がかかる。その結果、光変調器120の温度が第2の目標温度に安定化するまでに時間を要し、光送信装置100の電源起動から運用開始までの起動時間が長くなる。
【0025】
比較例の光送信装置100は、LD110にバイアス電流を供給することで、光変調器120温度を徐々に上昇して第2の目標温度(安定温度)に収束させることになる。しかしながら、光送信装置100は、光変調器120内の温度を安定温度に収束させるまでには時間を要し、電源起動から運用開始までの起動時間を短縮化することが求められている。そこで、このような事態を回避できる光送信装置1の実施の形態につき、実施例1として以下に説明する。尚、各実施例により、開示技術が限定されるものではない。また、以下に示す各実施例は、矛盾を起こさない範囲で適宜組み合わせても良い。
【実施例1】
【0026】
図1は、実施例1~4の光送信装置1の一例を示すブロック図である。図1に示す光送信装置1は、LD10と、光変調器20と、制御部30と、装置サーミスタ41と、装置温度モニタ42とを有する。LD10は、バイアス電流に応じてCW(Continuous Wave)光を発光し、バイアス電流の電流量に応じて光信号の出力レベルを可変する。光変調器20は、例えば、シリコンフォトニクス光変調器である。光変調器20は、PD21と、光変調器サーミスタ22と、変調部23と、開閉部24とを有する。PD21は、LD10からの光信号を電流変換し、電流変換後の光信号の出力レベルを検出する。光変調器サーミスタ22は、光変調器20内の温度を電圧変換する。
【0027】
変調部23は、LD10からの光信号を印加電圧に応じて光変調する。変調部23は、MZM23Aと、MZMヒータ23Bとを有する。MZM23Aは、LD10からの光信号を伝搬する2本のアームを有し、各アーム上に信号電極を配置した構成である。MZM23Aは、信号電極に電圧が印加されると、アーム内に電界が発生し、この電界によってアーム内の光屈折率が変化する。その結果、アームを伝搬する光信号の位相が変化し、アーム間の位相差に応じて光信号を変調することになる。更に、MZMヒータ23Bは、MZM23A内のアーム間に温度差を発生し、温度差の発生に応じて両アームに光路差が生じてアーム間で位相差が生じて光変調信号の位相量を調整する。そして、MZM23Aは、LD10からの光信号に電圧を印加することで光変調信号を出力する。
【0028】
開閉部24は、シャッタ24Aと、シャッタヒータ24Bとを有する。シャッタ24Aは、MZM23Aからの光変調信号の位相量を調整することで、MZM23Aからの光変調信号の出力をON/OFFする。シャッタヒータ24Bは、シャッタ24Aを加熱することで光変調信号の位相量を調整する。
【0029】
装置サーミスタ41は、光送信装置1内の温度を電圧変換する。装置温度モニタ42は、装置サーミスタ41を通じて光送信装置1内の温度に応じた電圧を検出し、電圧に応じた光送信装置1内の装置温度を取得する。
【0030】
制御部30は、PDモニタ31と、LD電流設定部32と、光変調器温度モニタ33と、MZMヒータ電流設定部34と、切替判定部35と、シャッタ電流設定部36と、電流制御切替部37とを有する。PDモニタ31は、光変調器20内のPD21で検出した電流値に応じたPDモニタ結果であるLD10の光信号の出力レベルを検出する。LD電流設定部32は、LD10に供給するバイアス電流を設定するLD電流制御を実行する。LD電流制御は、ATC(Auto Temperature Control)と、APC(Auto Power Control)とを有する。ATCは、光変調器20の温度が第2の目標温度になるようにLD10に供給するバイアス電流を設定するLD電流制御である。ATC時のLD10に供給するバイアス電流は、運用中に供給するバイアス電流の電流値に比較して高い電流値のバイアス電流である。APCは、LD10の光信号の出力レベルが目標レベルになるようにLD10に供給するバイアス電流を設定する運用中のLD電流制御である。LD電流設定部32は、光変調器20の温度が第2の目標温度になるようにATCを実行した後、光変調器20の温度が第2の目標温度になると、ATCからAPCに切り替える。
【0031】
光変調器温度モニタ33は、光変調器サーミスタ22を通じて光変調器20内の温度に応じた電圧を検出し、電圧に応じた光変調器20内の温度を取得する。MZMヒータ電流設定部34は、光変調器温度モニタ33で取得した光変調器20内の温度に基づき、MZMヒータ23Bに供給するドライブ電流を設定する。切替判定部35は、光変調器温度モニタ33で取得した光変調器20の温度に基づき、シャッタ24AをON/OFF制御する。シャッタ電流設定部36は、シャッタ24AのON/OFFの切替判定結果に基づき、シャッタヒータ24Bに供給するドライブ電流を設定する。
【0032】
電流制御切替部37は、PDモニタ31の光信号の出力レベル、光変調器温度モニタ33の光変調器20の温度、切替判定部35の切替判定結果、装置温度モニタ42の装置温度に基づき、LD10に供給するバイアス電流を調整する設定電流情報を生成する。そして、電流制御切替部37は、設定電流情報をLD電流設定部32に設定する。
【0033】
電流制御切替部37は、光送信装置1の電源起動を検出した場合、光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束するように、運用時の目標バイアス電流(目標LD電流)に比べて高いバイアス電流をLD10に供給する、LD電流制御のATCを開始する。更に、電流制御切替部37は、ATC実行中に光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束した場合、LD10の光信号の出力レベルが目標レベルに安定化するように、LD電流制御のAPCに切り替える。
【0034】
電流制御切替部37では、光変調器20の温度が第2の目標温度に収束するまでの時間を短縮させるために最も支配的な外乱の一つであるLD10の発熱を利用する。運用時に比べて高いバイアス電流をLD10に供給し、LD10を過熱状態にする。その結果、LD10の過熱状態で、比較例に比較して、光変調器20の温度が早く上昇し、光変調器20の温度を熱平衡状態(第2の目標温度)に収束するまでの時間を大幅に短縮化できる。その際、LD10のバイアス電流を定常状態(運用中)に比較して増大させている間、光送信装置1の過発光の出力を抑制するため、変調部23の後段に配置したシャッタ24AをONにし、過発光の光変調信号の出力を遮断する。そして、光変調器20の温度が第2の目標温度(熱平衡状態)に収束後にシャッタ24AをOFFにする。
【0035】
図2は、実施例1の光送信装置1の電源起動開始から運用開始までのヒータ電力、LD電流、温度、光出力の時間推移の一例を示す説明図である。光送信装置1の電源起動開始から運用開始までの期間をt0、t1、t2及びt3のタイミングに区分する。t0は、光送信装置1の電源を起動してMZMヒータ制御を開始するタイミングである。t1は、LD10に供給するバイアス電流を制御するLD電流制御を開始するタイミングである。t2は、LD10のLD温度が第1の目標温度(安定温度)に収束するタイミングである。t3は、光変調器20の温度が第2の目標温度(安定温度)に収束し、光出力がONとなる光送信装置1の運用を開始するタイミングである。
【0036】
MZMヒータ23Bは、t0のタイミングで電力制御を開始し、シャッタヒータ24Bは、t3のタイミングで電力制御を開始する。LD電流は、t1のタイミングからLD10へのバイアス電流の供給を開始し、運用時に比較して高いバイアス電流をLD10に供給した後、LD電流(バイアス電流)の出力レベルを目標LD電流(目標レベル)に安定化させる。
【0037】
LD温度は、t1のタイミングからのLD10に供給する高いバイアス電流の供給に応じて上昇する。更に、光変調器温度も、t1のタイミングからLD10に供給する高いバイアス電流に応じて上昇し、t2のタイミングで光変調器20の温度を安定温度(第2の目標温度)に収束する。
【0038】
光信号の出力レベル(光パワー)は、t1のタイミングでLD電流制御を開始し、LD10への高いバイアス電流の供給に応じて上昇する。光信号の出力レベルは、光変調器20の温度を第2の目標温度付近になると、LD電流を目標LD電流に安定化し、光信号の出力レベルが目標光パワー(目標レベル)に収束する。そして、シャッタ124Aは、光変調器20の温度が第2の目標温度、かつ、光信号の出力レベルが目標レベルに収束すると、t3のタイミングでシャッタ124AをOFFにして、目標光パワーの光変調信号を出力する。
【0039】
電流制御切替部37のLD電流制御は、OFF中のt1のタイミングに応じてLD電流制御のATCを開始する。この際、LD電流設定部32は、光変調器20の温度が第2の目標温度に収束するまで運用時に比較して高いバイアス電流をLD10に供給するATCのLD電流制御を開始する。電流制御切替部37は、光変調器20の温度が第2の目標温度に収束したt2のタイミングに応じて、LD電流制御のATCをAPCに切り替える。この際、LD電流設定部32は、ATCからAPCに切り替え、光変調信号の出力レベルが目標レベルに安定化させる。
【0040】
MZMヒータ電流設定部34のMZMヒータ制御は、OFF中のt0のタイミングに応じてMZMヒータ制御のAPCを開始する。切替判定部35のシャッタ制御も、ON状態からt3のタイミングに応じてOFF状態に切り替える。尚、シャッタ24AがONの場合、変調部23の光変調信号の出力をOFF、シャッタ24AがOFFの場合、変調部23の光変調信号の出力をONにする。光送信装置1の状態は、t0のタイミングで起動を開始し、t3のタイミングに応じて起動中から運用中に切り替える。
【0041】
光送信装置1は、電源起動を検出した場合、LD10のLD電流制御のAPCを開始する前に、光変調器20の温度が第2の目標温度に収束するようにLD電流制御のATCを実行する。つまり、光送信装置1は、t0のタイミングでMZMヒータ23Bの電流制御を開始し、t1のタイミングでLD電流制御のATCを開始し、光変調器20の温度が第2の目標温度に収束した場合、LD電流制御のAPCに切り替える。
【0042】
図3は、実施例1の光送信装置1の第1の起動処理に関わる処理動作の一例を示すフローチャートである。光送信装置1内の切替判定部35は、電源起動に応じて、シャッタ24AをON状態にして変調部23からの光変調信号の出力を停止する(ステップS11)。光送信装置1内のMZMヒータ電流設定部34は、シャッタ24AをON状態でMZMヒータ23Bの電力制御を開始する(ステップS12)。尚、MZMヒータ電力設定部34は、t0のタイミングでMZMヒータ23Bの電力制御のAPCを開始する。
【0043】
光送信装置1内のLD電流設定部32は、MZMヒータ電力制御を開始した後、LD電流制御を開始すべく、運用時に比較して高いバイアス電流をLD10に供給するLD電流制御のATCを開始する(ステップS13)。尚、LD電流設定部32は、t1のタイミングでLD電流制御のATCを開始する。
【0044】
光送信装置1内の電流制御切替部37は、例えば、光変調器20内の温度が第2の目標温度(安定温度)に収束したか否かを判定する(ステップS14)。電流制御切替部37は、光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束した場合(ステップS14:Yes)、LD電流制御としてATCからAPCに切り替える(ステップS15)。尚、電流制御切替部37は、LD電流設定部32をt3のタイミングでATCからAPCに切り替える。
【0045】
更に、光送信装置1内の切替判定部35は、LD電流制御のAPCに切り替えた後、シャッタ24AをOFFにして変調部23からの光変調信号の出力を開始し(ステップS16)、図3に示す処理動作を終了する。光送信装置1は、光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束しなかった場合(ステップS14:No)、光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束したか否かを判定すべく、ステップS14に移行する。
【0046】
実施例1の光送信装置1では、電源起動を検出した場合、光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束するように、LD10に供給する運用時のバイアス電流に比較して高いバイアス電流をLD10に供給する。その結果、LD10へのバイアス電流の供給増で光変調器20の温度が第2の目標温度に収束するまでの時間を短縮化することで光送信装置2の起動時間を短縮化できる。
【0047】
実施例1の電流制御切替部37は、電源起動を検出した後、t1のタイミングで運用時のバイアス電流に比較して高いバイアス電流をLD10に供給してLD電流制御のATCを開始する場合を例示した。しかしながら、t1のタイミングでLD10に供給するバイアス電流をLD10の許容できる上限値のバイアス電流に設定する場合の実施の形態につき、実施例2として以下に説明する。尚、実施例1の光送信装置1と同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明ついては省略する。
【実施例2】
【0048】
実施例2の光送信装置1内の電流制御切替部37は、光送信装置1の電源起動を検出した場合に、LD10に供給するバイアス電流をLD10の許容できる上限値のバイアス電流に設定する。電流制御切替部37は、光送信装置1の電源起動を検出した場合、光変調器20の温度が第2の目標温度に収束するまで、上限値のバイアス電流をLD10に供給するLD電流制御のATCを開始する。更に、電流制御切替部37は、LD電流制御のATC実行中に光変調器20の温度が第2の目標温度に収束した場合、光信号の出力レベルが目標レベルになるようにLD10に供給するバイアス電流を制御するLD電流制御のAPCに切り替える。
【0049】
図4は、実施例2の光送信装置1の電源起動開始から運用開始までのヒータ電力、LD電流、温度、光出力の時間推移の一例を示す説明図である。LD10のバイアス電流に対するAPCを実行する前にLD10の上限値のバイアス電流を供給することでLD10を過熱状態にする。尚、LD10の過熱状態は、LD10が許容できる温度である。
【0050】
MZMヒータ電流設定部34のMZMヒータ制御は、t0のタイミングでMZMヒータ23Bの電力制御を開始する。電流制御切替部37は、t1のタイミングで上限値のバイアス電流をLD10に供給するLD電流制御のATCを開始する。更に、電流制御切替部37は、光変調器20の温度が第2の目標温度に収束した場合に、LD10の光信号の出力レベルが目標レベルになるようにLD電流制御のAPCに切り替える。
【0051】
図5は、実施例2の光送信装置1の第2の起動処理に関わる処理動作の一例を示すフローチャートである。光送信装置1内の切替判定部35は、電源起動に応じて、シャッタ24AをON状態にして変調部23からの光変調信号の出力を停止する(ステップS21)。光送信装置1内のMZMヒータ電流設定部34は、シャッタ24AをON状態でMZMヒータ23Bの電力制御を開始する(ステップS22)。尚、MZMヒータ電流設定部34は、t0のタイミングでMZMヒータ23Bの電力制御のAPCを開始する。
【0052】
光送信装置1内のLD電流設定部32は、MZMヒータ電力制御を開始した後、LD電流制御を開始すべく、上限値のバイアス電流をLD10に供給するLD電流制御のATCを開始する(ステップS23)。光送信装置1内の電流制御切替部37は、例えば、上限値のバイアス電流をLD10に供給するATCを実行した状態で、光送信装置1内の温度が第2の目標温度(安定温度)に収束したか否かを判定する(ステップS24)。
【0053】
光送信装置1内の電流制御切替部37は、光変調器20内の温度が第2の目標温度(安定温度)に収束した場合(ステップS24:Yes)、LD電流制御をATCからAPCに切り替える(ステップS25)。更に、光送信装置1内の切替判定部35は、APCに切り替えた後、シャッタ24AをOFFにして変調部23からの光変調信号の出力を開始し(ステップS26)、図5に示す処理動作を終了する。光送信装置1は、光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束しなかった場合(ステップS24:No)、光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束したか否かを判定すべく、ステップS24に移行する。
【0054】
実施例2の光送信装置1では、光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束するまで、上限値のバイアス電流をLD10に供給するLD電流制御のATCを開始する。更に、光送信装置1は、光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束した後、光信号の出力レベルが目標レベルになるようにLD10に供給するバイアス電流を設定するLD電流制御のAPCに切り替える。その結果、LD10への上限値のバイアス電流の供給で光変調器20の温度が第2の目標温度に収束するまでの時間を短縮化することで光送信装置1の起動時間を短縮化できる。
【0055】
尚、実施例2の光送信装置1では、光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束するまで上限値のバイアス電流をLD10に供給し、光変調器20の温度が第2の目標温度に収束した場合にATCからAPCに切り替える場合を例示した。そして、LD電流制御のAPCの切替判断基準を光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束するか否かで判断する場合を例示した。しかしながら、光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束するまで上限値のバイアス電流をLD10に供給する供給時間を算出し、LD10に供給する上限値のバイアス電流の供給時間に基づき、LD電流制御のATCからAPCに切り替えても良い。その実施の形態につき、実施例3として以下に説明する。
【実施例3】
【0056】
実施例3の光送信装置1は、光変調器20の温度制御開始時の光変調器20の現在温度と第2の目標温度との差分と、予め取得した光変調器20に外乱影響を与える要素と、光変調器20の熱抵抗と、外乱の時定数情報とを用いて、LD10の上限値のバイアス電流を供給する供給時間(t2-t1)を算出する。
【0057】
図6は、実施例3の光送信装置1に関わる熱モデルの一例を示す説明図である。熱モデルは、LD10のLD定常消費電力(Pa)と、MZM23Aの平衡状態のMZM温度(Tmzm)と、MZMヒータ23BのMZMヒータ定常消費電力(Pb)と、LD10とMZM23Aとの間の熱抵抗θaとを有する。更に、熱モデルは、MZM23AとMZMヒータ23Bとの間の熱抵抗θbとを有する。
【0058】
図7は、実施例3のMZM温度関係式の一例を示す説明図である。Paは、LD10の定常消費電力[W]、Palimitは、LD10の消費電力上限[W]、Pbは、MZMヒータ23Bの定常消費電力[W]である。Tmzmは、平衡状態のMZM23Aの温度[℃]、Tmzm0は、MZM23Aの初期温度[℃]、θaは、LD10とMZM23Aとの間の熱抵抗[℃/W]、θbは、MZM23AとMZMヒータ23Bとの間の熱抵抗[℃/W]である。Taは、LD10がMZM23Aに与える上昇温度[℃]、Tbは:MZMヒータ23BがMZM23Aに与える上昇温度[℃]、τaは、LD10のMZM23Aへの熱伝導時定数[sec]、τbは、MZMヒータ23BのMZM23Aへの熱伝導時定数[sec]である。
【0059】
Tmzmは、LD10及びMZMヒータ23Bの発熱の影響を受けて温度上昇することになる。光送信装置1内の制御部30は、図4のタイムチャートにおいて、光変調器20の温度が第2の目標温度になるt2のタイミングを算出する。タイミングt1では、LD10及びMZMヒータ23Bの電力制御を開始し、その影響を受けてMZM23Aの温度が上昇する。尚、Pa、Palimit、Pb、Tmzm、Tmzm0、θa、θb、τa及びτbはそれぞれ既知である。
【0060】
Tmzm(t1≦t<t2)=T(∞)となる方程式をt(=t2)で解くことで、Tmzm(t2)がMZM23Aの収束温度となるため、t2の設定が最適となる。そして、(t2-t1)で供給時間を算出することになる。
【0061】
図8は、実施例3のMZM23Aの起動開始から温度収束までの温度推移の一例を示す説明図である。LD10の上限値のバイアス電流を供給するLD電流制御をATCからAPCに切り替えるまでの時間(t2-t1)が短過ぎると(t2<最適値)、MZM23Aの温度Tmzmが目標温度(MZM収束温度)未満の状態でAPCに切り替わる。その結果、MZM23Aの温度Tmzmが目標温度(MZM収束温度)に収束する前にAPCに切り替わることになる。
【0062】
また、時間(t2-t1)が長過ぎると(t2>最適値)、MZM23Aの温度Tmzmが目標温度(MZM収束温度)を超えた状態でLD電流制御をATCからAPCに切り替わる。その結果、MZM23Aの温度Tmzmが目標温度(MZM収束温度)を超えた状態でAPCに切り替わることになる。そこで、時間(t2-t1)が最適値の場合(t2=最適値)、MZM23Aの温度Tmzmが目標温度(MZM収束温度)に安定化した状態でAPCに切り替えることができる。
【0063】
図9は、実施例3の光送信装置1の第3の起動処理に関わる処理動作の一例を示すフローチャートである。光送信装置1内の切替判定部35は、電源起動に応じて、シャッタ24AをON状態にして変調部23からの光変調信号の出力を停止する(ステップS31)。光送信装置1内のMZMヒータ電流設定部34は、シャッタ24AをON状態でMZMヒータ23Bの電力制御を開始する(ステップS32)。尚、MZMヒータ電流設定部34は、t0のタイミングでMZMヒータ23Bの電力制御のAPCを開始する。
【0064】
光送信装置1内のLD電流設定部32は、MZMヒータ電力制御を開始した後、LD電流制御を開始すべく、上限値のバイアス電流をLD10に供給するLD電流制御を開始する(ステップS33)。光送信装置1内の電流制御切替部37は、例えば、上限値のバイアス電流をLD10に供給する状態で、ステップS33の上限値のバイアス電流の供給開始から、供給時間である算出時間を経過したか否かを判定する(ステップS34)。
【0065】
光送信装置1内の電流制御切替部37は、算出時間を経過した場合(ステップS34:Yes)、LD電流制御をAPCに切り替える(ステップS35)。更に、光送信装置1内の切替判定部35は、APCに切り替えた後、シャッタ24AをOFFにして変調部23からの光変調信号の出力を開始し(ステップS36)、図9に示す処理動作を終了する。光送信装置1は、ステップS33の上限値のバイアス電流の供給開始から算出時間を経過しない場合(ステップS34:No)、算出時間を経過したか否かを判定すべく、ステップS34に移行する。
【0066】
実施例3の光送信装置1では、LD10に対して上限値のバイアス電流を事前に算出した算出時間供給することで、ATCを実行することなく、上限値のバイアス電流の供給開始から算出時間経過後に光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束することになる。そして、光送信装置1は、光変調器20内の温度が第2の目標温度に収束した後、光信号の出力レベルが目標レベルになるようにLD10に供給するバイアス電流を制御するLD電流制御のAPCを実行する。その結果、LD10への上限値のバイアス電流の供給で光変調器20の温度が第2の目標温度に収束するまでの時間を短縮化することで光送信装置1の起動時間を短縮化できる。
【0067】
尚、実施例3の光送信装置1は、単一のLD10を単一の変調部23で光変調し、シャッタ24Aで光変調信号の出力をON/OFFする場合を例示したが、単一のLD10に限定されるものではなく、その実施の形態につき、実施例4として以下に説明する。
【実施例4】
【0068】
図10は、実施例4の光送信装置1Aの一例を示すブロック図である。図10に示す光送信装置1Aは、第1のLD10Aと、第2のLD10Bとを有する。光変調器20Aは、第1のPD21Aと、第1の変調部231と、第2のPD21Bと、第2の変調部232と、MUX240とを有する。制御部30Aは、PDモニタ31、LD電流設定部32、光変調器温度モニタ33、MZMヒータ電流設定部34、切替判定部35及びシャッタヒータ電流設定部36の他に、電流制御切替部37を有する。尚、説明の便宜上、第1のLD10Aに電流を供給するLD電流設定部、第1のPD21AのPD電流をモニタするPDモニタ、および第1のMZMヒータ23B1に電流を供給するMZMヒータ電流設定部は、図示しないが、制御部30A内には、第1のLD10Aに電流を供給する他のLD電流設定部32、第1のPD21AのPD電流をモニタする他のPDモニタ31及び第1ののMZMヒータ23B1に電流を供給する他のMZMヒータ電流設定部33を配置しているものとする。
【0069】
第1のLD10Aは、バイアス電流に応じて第1の波長の第1の光信号を発光する。第1のPD21Aは、第1のLD10Aからの第1の光信号を電流変換し、電流変換後の第1の光信号の出力レベルを検出する。第1の変調部231は、第1のMZM23A1と、第1のMZMヒータ23B1とを有する。第1のMZM23A1は、電圧を印加することで第1の光信号を光変調する。第1のMZMヒータ23B1は、第1のMZM23A1内のアーム間に温度差を発生し、温度差の発生に応じて両アームに光路差が生じてアーム間で位相差を調整する。そして、第1のMZM23A1は、第1のLD10Aからの第1の光信号に電圧を印加することで第1の光変調信号を出力する。
【0070】
第2のLD10Bは、バイアス電流に応じて第2の波長の第2の光信号を発光する。第2のPD21Bは、第2のLD10Bからの第2の光信号を電流変換し、電流変換後の第2の光信号の出力レベルを検出する。第2の変調部232は、第2のMZM23A2と、第2のMZMヒータ23B2とを有する。第2のMZM23A2は、電圧を印加することで第2の光信号を光変調する。第2のMZMヒータ23B2は、第2のMZM23A2内のアーム間に温度差を発生し、温度差の発生に応じて両アームに光路差が生じてアーム間で位相差を調整する。そして、第2のMZM23A2は、第2のLD10Bからの第2の光信号に電圧を印加することで第2の光変調信号を出力する。
【0071】
MUX240内のシャッタ241は、第1の光変調信号又は第2の光変調信号の位相量を調整することで、第1のMZM23A1からの第1の光変調信号の出力ON/OFFすると共に、第2のMZM23A2からの第2の光変調信号の出力ON/OFFする。シャッタヒータ242は、シャッタ241を加熱することで第1の光変調信号又は第2の光変調信号の位相量を調整する。MUX240は、光変調後の第1の光変調信号及び/又は、光変調後の第2の光変調信号を出力する。その結果、MUX240は、シャッタヒータ242でシャッタ241を加熱して第1の光変調信号又は第2の光変調信号の位相量を調整することで、第1の光変調信号又は第2の光変調信号の出力をON/OFFできる。
【0072】
実施例4の光送信装置1Aでは、電源起動を検出した場合、光変調器20A内の温度が第2の目標温度に収束するまで、運用時のバイアス電流に比較して高いバイアス電流をLD10に供給するLD電流制御のATCを開始する。更に、光送信装置1Aは、光変調器20A内の温度が第2の目標温度に収束した後、光信号の出力レベルが目標レベルになるようにLD10に供給するバイアス電流を設定するLD電流制御のAPCに切り替える。その結果、LD10へのバイアス電流の供給増で光変調器20Aの温度が第2の目標温度に収束するまでの時間を短縮化することで光送信装置1Aの起動時間を短縮化できる。
【0073】
尚、実施例1の光送信装置1は、光変調器20の温度を第2の目標温度に収束すべく、LD10に供給するバイアス電流を調整する場合を例示した。しかしながら、LD10に供給するバイアス電流を調整するのではなく、光変調器20の温度を調整する光変調器ヒータ25を調整しても良く、その実施の形態につき、実施例5として以下に説明する。尚、実施例1の光送信装置1と同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。
【実施例5】
【0074】
図11は、実施例5の光送信装置1Bの一例を示すブロック図である。図11に示す光送信装置1B内の光変調器20Bは、光変調器20B本体を加熱する光変調器ヒータ25を有する。光送信装置1B内の制御部30Bは、電流制御切替部37の代わりに、光変調器ヒータ25にドライブ電流を供給する光変調器ヒータ電流設定部38を有する。
【0075】
光変調器ヒータ電流設定部38は、光変調器温度モニタ33の光変調器20Bの温度、切替判定部35の切替判定結果及び装置温度モニタ42の光送信装置1Bの温度に基づき、光変調器ヒータ25に供給するドライブ電流を設定する。光変調器ヒータ電流設定部38は、光変調器20Bの温度が第2の目標温度に収束するように、光変調器ヒータ25に供給するドライブ電流を設定する。
【0076】
図12は、実施例5の光送信装置1Bの電源起動開始から運用開始までのヒータ電力、LD電流、温度、光出力の時間推移の一例を示す説明図である。t0のタイミングでMZMヒータ23B及び光変調器ヒータ25の電力制御を開始する。
【0077】
LD電流設定部32は、OFF中のt1のタイミングに応じてLD電流制御のAPCを開始する。MZMヒータ電流設定部34のMZMヒータ制御は、t0のタイミングに応じてMZMヒータ制御のAPCを開始する。光変調器ヒータ電流設定部38は、t0のタイミングに応じて、光変調器20Bの温度が第2の目標温度に収束するまで光変調器ヒータ制御のATCを開始し、光変調器20Bの温度が第2の目標温度に収束した場合に光変調器ヒータ25をOFFする。切替判定部35のシャッタ制御は、通常ON状態からt3のタイミングに応じてOFF状態に切り替える。尚、シャッタ24AがONの場合、変調部23の光変調信号の出力をOFF、シャッタ24AがOFFの場合、変調部23の光変調信号の出力をONにする。光送信装置1の状態は、t0のタイミングで起動を開始し、t3のタイミングに応じて起動中から運用中に切り替える。
【0078】
光送信装置1Bは、電源起動を検出した場合、光変調器20Bの温度が第2の目標温度に収束するように光変調器ヒータ制御のATCを開始する。そして、光変調器20の温度が第2の目標温度に収束した場合、光変調器ヒータ制御のATCをOFFにする。その結果、光変調器ヒータ25を加熱することで光変調器20Bの温度が第2の目標温度に収束するまでの時間を短縮化することで光送信装置1Bの起動時間を短縮化できる。
【0079】
図13は、実施例5の光送信装置1Bの第4の起動処理に関わる処理動作の一例を示すフローチャートである。光送信装置1B内の切替判定部35は、電源起動に応じて、シャッタ24AをONにして変調部23からの光変調信号の出力を停止する(ステップS41)。光送信装置1B内のMZMヒータ電流設定部34は、シャッタ24AをON状態でMZMヒータ23Bの電力制御を開始する(ステップS42)。尚、MZMヒータ電流設定部34は、t0のタイミングでMZMヒータ23Bの電力制御のAPCを開始する。
【0080】
光送信装置1B内の光変調器ヒータ電流設定部38は、MZMヒータ電力制御を開始した後、光変調器ヒータ25の電力制御のATCを開始する(ステップS43)。尚、光変調器20Bは、光変調器ヒータ25への電力制御で光変調器20B内の温度が上昇する。更に、光送信装置1B内のLD電流設定部32は、LD電流制御のAPCを開始する(ステップS44)。光送信装置1Bは、光変調器20Bの温度が第2の目標温度に収束したか否かを判定する(ステップS45)。
【0081】
光送信装置1B内の光変調器ヒータ電流設定部38は、光変調器20B内の温度が第2の目標温度に収束した場合(ステップS45:Yes)、光変調器ヒータ電力制御のATCをOFFにする(ステップS46)。更に、光送信装置1B内の切替判定部35は、光変調器ヒータ電力制御をOFFにした後、シャッタ24AをOFFにして変調部23からの光変調信号の出力を開始し(ステップS47)、図13に示す処理動作を終了する。光送信装置1Bは、光変調器20B内の温度が第2の目標温度に収束しなかった場合(ステップS45:No)、光変調器20B内の温度が第2の目標温度に収束したか否かを判定すべく、ステップS45に移行する。
【0082】
実施例5の光送信装置1Bは、電源起動に応じて光変調器ヒータ25に対してドライブ電流を供給することで、LD10の発熱温度に依存する場合に比較して、光変調器20Bの温度を第2の目標温度に速やかに収束できる。その結果、光送信装置1Bの起動時間を大幅に短縮化できる。
【0083】
尚、実施例5の光送信装置1Bは、電源起動に応じて光変調器20Bを加熱するための光変調器ヒータ25にドライブ電流を多く流しながらLD10の光信号の出力レベルが目標レベルになるように安定したバイアス電流を供給する場合を例示した。しかしながら、LD10に対してバイアス電流を安定供給しながら、光変調器20Bの温度が上昇するに連れて光変調器ヒータ25へのドライブ電流を徐々に抑制しても良い。
【0084】
尚、実施例1乃至5の光変調器20(20A,20B)は、シリコンフォトニクス光変調器を例示した。しかしながら、例えば、LN(Lithium Niobate)光変調器、InP(Indium Phoshide)光変調器、ポリマ光変調器、DML(Directly Modulated Laser)変調器やEML(Electro-absorption Modulator Laser)変調器等の光変調器にも適用可能である。
【0085】
尚、InP光変調器及びEML光変調器は、温度特性が大きいデバイス温度制御のため、ペルチェ素子(TEC:Thermoelectric Coolers)の搭載が一般的である。従って、TECを構成部品に含んだケースでは本発明の効果は見いだせないため、必要に応じてTECを部品に含まない構成の光変調器内の空間の温度が第2の目標温度に収束したか否かを判定することが必要となる。光変調器からTEC部品を隔離した構成とした場合には、例えば、InP光変調器及びEML光変調器等でも同様の効果が得られる。
【0086】
また、本願発明は、LN光変調器及びDML光変調器にも適用可能であるが、LN光変調器及びDML変調器は温度変動が小さいため、温度変動が大きいと考えられるシリコンフォトニクス光変調器に関しては顕著な効果が得られる。
【0087】
導波路がシリコン、MZMがポリマ等のハイブリッド構成にした光変調器にも適用可能である。また、説明の便宜上、光送信装置1を例示したが、当該光送信装置1の他に光受信装置を内蔵した光通信装置にも適用可能である。
【0088】
実施例1の光送信装置1は、実施例5の光変調器ヒータ電流設定部38及び光変調器ヒータ25を内蔵しても良い。この場合、光送信装置1は、電源起動時に、LD10へのATC制御に加え、光変調器ヒータ25に対してドライブ電流を供給することで、光変調器20の温度を第2の目標温度に早期に収束できる。その結果、実施例1の光送信装置1に比較して電源起動開始から運用開始までの起動時間を大幅に短縮できる。
【0089】
光送信装置1は、光変調器20の温度が第2の目標温度になるように、光変調器20の温度が第2の目標温度に収束させる場合を例示したが、光変調器20の温度が第2の目標温度に到達若しくは第2の目標温度付近に到達するようにしても良い。
【0090】
また、図示した各部の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各部の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【0091】
更に、各装置で行われる各種処理機能は、CPU(Central Processing Unit)(又はMPU(Micro Processing Unit)、MCU(Micro Controller Unit)等のマイクロ・コンピュータ)上で、その全部又は任意の一部を実行するようにしても良い。また、各種処理機能は、CPU(又はMPU、MCU等のマイクロ・コンピュータ)で解析実行するプログラム上、又はワイヤードロジックによるハードウェア上で、その全部又は任意の一部を実行するようにしても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0092】
1,1A,1B 光送信装置
10 LD
10A 第1のLD
10B 第2のLD
20,20A,20B 光変調器
21 PD
22 光変調器サーミスタ
23 変調部
23A MZM
23A1 第1のMZM
23A2 第2のMZM
24 開閉部
24A シャッタ
25 光変調器ヒータ
30,30A,30B 制御部
31 PDモニタ
32 LD電流設定部
33 光変調器温度モニタ
37 電流制御切替部
38 光変調器ヒータ電流設定部
241 シャッタ
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