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特許7600823動力伝達装置及び動力伝達装置の組付方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】動力伝達装置及び動力伝達装置の組付方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/12 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
F16D3/12 G
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021057974
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022095516
(43)【公開日】2022-06-28
【審査請求日】2024-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2020208748
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】安藤 甲一
(72)【発明者】
【氏名】松原 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】田代 裕二
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0138410(US,A1)
【文献】特表2008-544193(JP,A)
【文献】特開2005-090542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/12
F16D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプライン嵌合されて組み付けられる第1動力伝達部材及び第2動力伝達部材を備えた動力伝達装置であって、
回転方向に弾性変位可能であるバネ部と、前記バネ部の一端側に設けられて前記第1動力伝達部材に係止される係止部と、前記バネ部の他端側に設けられるスプライン部とを有し、前記第1動力伝達部材より軸方向一方側に配置されて前記第1動力伝達部材に係止されると共に前記バネ部の第1弾性変位状態で前記スプライン部が前記第2動力伝達部材のスプライン部に係合されて前記第1動力伝達部材に対して前記第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢する付勢部材と、
前記付勢部材より軸方向一方側に配置されて前記バネ部が前記第1弾性変位状態より弾性変位された第2弾性変位状態で前記付勢部材を前記第1動力伝達部材に仮止めする仮止め部を有する仮止め部材とを備え、
前記第2動力伝達部材のスプライン部の軸方向一方側に、前記仮止め部材の軸方向一方側から前記第2動力伝達部材のスプライン部が前記付勢部材のスプライン部を通じて前記第1動力伝達部材のスプライン部にスプライン嵌合されるときに、前記バネ部の前記第1弾性変位状態で前記付勢部材のスプライン部が前記第2動力伝達部材のスプライン部に係合して前記第1動力伝達部材に対して前記第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢するように前記仮止め部材の仮止め部による前記第1動力伝達部材に対する前記付勢部材の仮止めを解除操作する解除操作部が設けられる、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記付勢部材は、前記バネ部と、前記係止部と、前記スプライン部と、径方向内側に配置される環状の内側環状部と、径方向外側に配置される環状の外側環状部と、前記仮止め部に仮止めされる被仮止め部とを備え、
前記係止部は、前記外側環状部に接続され、
前記スプライン部及び前記被仮止め部は、前記内側環状部に接続され、
前記バネ部は、前記バネ部の一端側が前記外側環状部に接続されると共に前記バネ部の他端側が前記内側環状部に接続され、前記外側環状部に対して前記内側環状部が回転方向他方側に移動されることにより回転方向に弾性変位される、
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記仮止め部材は、前記第2動力伝達部材のスプライン部が挿通される仮止め本体部と、前記仮止め本体部から軸方向他方側に延びる前記仮止め部とを備え、
前記仮止め部は、回転方向一方側に前記第1動力伝達部材に規制される被規制部を有すると共に、回転方向他方側に前記被仮止め部に当接する当接部と前記当接部の軸方向一方側に回転方向一方側に窪む凹部とを有し、
前記凹部は、前記解除操作部によって前記第1動力伝達部材に対する前記付勢部材の仮止めが解除操作されるときに、前記第2動力伝達部材の解除操作部によって前記仮止め本体部及び前記仮止め部が軸方向他方側に移動されて前記被仮止め部が前記凹部内に配置されるように形成される
ことを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記解除操作部による前記付勢部材の仮止めの解除操作をアシストするアシスト機構を備えている
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記付勢部材は、前記仮止め部に仮止めされる被仮止め部を備え、
前記仮止め部は、回転方向一方側に前記第1動力伝達部材に規制される被規制部を有すると共に、回転方向他方側に前記被仮止め部に当接する当接部を有し、
前記当接部は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜する傾斜面部によって形成され、
前記アシスト機構は、前記傾斜面部によって構成されている
ことを特徴とする請求項4に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記仮止め部材は、前記付勢部材の外側環状部に固定して取り付けられる
ことを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記仮止め部材は、前記付勢部材に周方向に等間隔に複数取り付けられる
ことを特徴とする請求項6に記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記仮止め部材は、前記付勢部材に固定される固定部と、前記仮止め部と、前記固定部と前記仮止め部とを接続すると共に前記固定部に対して前記仮止め部が軸方向他方側に弾性変位された状態で前記固定部が前記付勢部材に固定される接続部とを有し、前記付勢部材に固定された前記固定部に対して前記仮止め部が軸方向一方側に弾性力によって移動して前記仮止め部が前記付勢部材を仮止めするように構成されている
ことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の動力伝達装置。
【請求項9】
前記解除操作部は、前記第2動力伝達部材を回転可能に支持するケースに設けられている
ことを特徴とする請求項6から請求項8の何れか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項10】
前記解除操作部による前記付勢部材の仮止めの解除操作をアシストするアシスト機構を備えている
ことを特徴とする請求項6から請求項9の何れか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項11】
前記付勢部材は、前記仮止め部に仮止めされる被仮止め部を備え、
前記仮止め部は、回転方向他方側に前記被仮止め部に当接する当接部を有し、
前記当接部は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜する傾斜面部によって形成され、
前記アシスト機構は、前記傾斜面部によって構成されている
ことを特徴とする請求項10に記載の動力伝達装置。
【請求項12】
前記第1動力伝達部材は、エンジンの出力軸に連結されたフライホイールであり、
前記第2動力伝達部材は、変速機の入力軸である
ことを特徴とする請求項1から請求項11の何れか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項13】
スプライン嵌合されて組み付けられる第1動力伝達部材及び第2動力伝達部材を備えた動力伝達装置の組付方法であって、
回転方向に弾性変位可能であるバネ部と、前記バネ部の一端側に設けられて前記第1動力伝達部材に係止される係止部と、前記バネ部の他端側に設けられるスプライン部とを有し、前記バネ部の第1弾性変位状態で前記スプライン部を前記第2動力伝達部材のスプライン部に係合させて前記第1動力伝達部材に対して前記第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢する付勢部材を、軸方向一方側から前記第1動力伝達部材に前記係止部を係止させて取り付けるステップと、
前記バネ部が前記第1弾性変位状態より弾性変位された第2弾性変位状態で前記付勢部材を前記第1動力伝達部材に仮止めする仮止め部を有する仮止め部材を、前記付勢部材より軸方向一方側から前記第1動力伝達部材及び前記付勢部材に取り付けて前記バネ部の前記第2弾性変位状態で前記付勢部材を前記第1動力伝達部材に仮止めするステップと、
前記第2動力伝達部材を、前記仮止め部材より軸方向一方側から前記第2動力伝達部材のスプライン部を前記付勢部材のスプライン部を通じて前記第1動力伝達部材のスプライン部にスプライン嵌合させて前記第1動力伝達部材に組み付けるステップとを備え、
前記第2動力伝達部材のスプライン部の軸方向一方側に、前記第2動力伝達部材のスプライン部が前記第1動力伝達部材のスプライン部にスプライン嵌合されるときに、前記バネ部の前記第1弾性変位状態で前記付勢部材のスプライン部が前記第2動力伝達部材のスプライン部に係合して前記第1動力伝達部材に対して前記第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢するように前記仮止め部材の仮止め部による前記第1動力伝達部材に対する前記付勢部材の仮止めを解除操作する解除操作部が設けられる
ことを特徴とする動力伝達部材の組付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置及び動力伝達装置の組付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源としてエンジンを備えて駆動源から変速機を介して駆動輪に動力が伝達される車両では、エンジンのトルク変動に起因する振動を抑制するためなどエンジンの出力軸にフライホイールに取り付けて、フライホイールと変速機の入力軸とを連結させることが行われている。
【0003】
エンジンの出力軸に取り付けられたフライホイールと変速機の入力軸とがスプライン嵌合されて連結される場合など、駆動源から駆動輪に至る動力伝達経路に回転可能に設けられる第1動力伝達部材と第2動力伝達部材とがスプライン嵌合されて組み付けられることがある。
【0004】
動力伝達経路に回転可能に設けられる第1動力伝達部材と第2動力伝達部材のスプライン部がスプライン嵌合されて組み付けられる場合、第1動力伝達部材と第2動力伝達部材のスプライン嵌合部において動力を伝達しないときに歯打ち音が発生して車室内の騒音を引き起こし得る。
【0005】
これに対し、第1動力伝達部材に対して第2動力伝達部材を回転方向に付勢させるスプリングを用い、第1動力伝達部材のスプライン部に対して第2動力伝達部材のスプライン部を回転方向に付勢させることで、第1動力伝達部材と第2動力伝達部材のスプライン嵌合部において第1及び第2動力伝達部材間の歯打ち音を抑制することが考えられている。
【0006】
例えば特許文献1には、スプリングを保持するスプリング保持部材を第1動力伝達部材のスプライン部に係合させて第1動力伝達部材に取り付けた後に、第1動力伝達部材に第2動力伝達部材をスプライン嵌合させ、第2動力伝達部材のスプライン部によって第1動力伝達部材のスプライン部に対するスプリング保持部材の係合を解除して第1動力伝達部材と第2動力伝達部材との間に回転方向の付勢力を作用させるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2008-544193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1に記載のものは、第1動力伝達部材に対して第2動力伝達部材を回転方向に付勢させるスプリングによって第1動力伝達部材と第2動力伝達部材のスプライン嵌合部における歯打ち音を抑制できるものの、スプリングを保持するスプリング保持部材を第1動力伝達部材と第2動力伝達部材のスプライン部に係合させている。
【0009】
このため、スプリング保持部材に応じて第1動力伝達部材と第2動力伝達部材のスプライン部の形状を変更させる必要があり、スプライン部の形状変更は構成の複雑化や高コスト化を引き起こし得ることから、比較的簡素な構成によって歯打ち音を抑制することが望まれる。また、第1動力伝達部材と第2動力伝達部材とがスプライン嵌合されて組み付けられる動力伝達装置では、第1動力伝達部材と第2動力伝達部材とを比較的容易に組み付けることが望まれる。
【0010】
そこで、本発明は、スプライン嵌合されて組み付けられる第1及び第2動力伝達部材を備えた動力伝達装置において、比較的簡素な構成によって組付性良く第1及び第2動力伝達部材のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、スプライン嵌合されて組み付けられる第1動力伝達部材及び第2動力伝達部材を備えた動力伝達装置であって、回転方向に弾性変位可能であるバネ部と、前記バネ部の一端側に設けられて前記第1動力伝達部材に係止される係止部と、前記バネ部の他端側に設けられるスプライン部とを有し、前記第1動力伝達部材より軸方向一方側に配置されて前記第1動力伝達部材に係止されると共に前記バネ部の第1弾性変位状態で前記スプライン部が前記第2動力伝達部材のスプライン部に係合されて前記第1動力伝達部材に対して前記第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢する付勢部材と、前記付勢部材より軸方向一方側に配置されて前記バネ部が前記第1弾性変位状態より弾性変位された第2弾性変位状態で前記付勢部材を前記第1動力伝達部材に仮止めする仮止め部を有する仮止め部材とを備え、前記第2動力伝達部材のスプライン部の軸方向一方側に、前記仮止め部材の軸方向一方側から前記第2動力伝達部材のスプライン部が前記付勢部材のスプライン部を通じて前記第1動力伝達部材のスプライン部にスプライン嵌合されるときに、前記バネ部の前記第1弾性変位状態で前記付勢部材のスプライン部が前記第2動力伝達部材のスプライン部に係合して前記第1動力伝達部材に対して前記第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢するように前記仮止め部材の仮止め部による前記第1動力伝達部材に対する前記付勢部材の仮止めを解除操作する解除操作部が設けられる動力伝達装置を提供する。
【0012】
本発明によれば、第1及び第2動力伝達部材をスプライン嵌合して組み付ける際に、第1動力伝達部材に係止されると共にバネ部の第1弾性変位状態でスプライン部が第2動力伝達部材のスプライン部に係合されて第1動力伝達部材に対して第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢する付勢部材と、バネ部が第1弾性変位状態より弾性変位された第2弾性変位状態で付勢部材を第1動力伝達部材に仮止めする仮止め部を有する仮止め部材とが用いられ、第2動力伝達部材のスプライン部の軸方向一方側に、仮止め部による第1動力伝達部材に対する付勢部材の仮止めを解除操作する解除操作部が設けられる。
【0013】
これにより、付勢部材を第1動力伝達部材に係止させて取り付け、仮止め部材を第1動力伝達部材及び付勢部材に取り付けてバネ部の第2弾性変位状態で付勢部材を第1動力伝達部材に仮止めし、第2動力伝達部材のスプライン部を付勢部材のスプライン部を通じて第1動力伝達部材のスプライン部にスプライン嵌合させて第2動力伝達部材を第1動力伝達部材に組み付けることで、仮止め部材の仮止め部による第1動力伝達部材に対する付勢部材の仮止めが解除されて第1動力伝達部材に対して第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢させ、第1及び第2動力伝達部材のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0014】
第1及び第2動力伝達部材のスプライン部の形状を変更することなく、付勢部材を第1動力伝達部材に係止させ、仮止め部材によって付勢部材を第1動力伝達部材に仮止めし、第2動力伝達部材を第1動力伝達部材にスプライン嵌合させることで、第1動力伝達部材に対して第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢させることができるので、比較的容易に組み付けることができる。したがって、比較的簡素な構成によって組付性良く第1及び第2動力伝達部材のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0015】
前記付勢部材は、バネ部と、係止部と、スプライン部と、内側環状部と、外側環状部と、仮止め部に仮止めされる被仮止め部とを備え、係止部は、外側環状部に接続され、スプライン部及び被仮止め部は、内側環状部に接続され、バネ部は、バネ部の一端側が外側環状部に接続されると共にバネ部の他端側が内側環状部に接続され、外側環状部に対して内側環状部が回転方向他方側に移動されることにより回転方向に弾性変位され得る。
【0016】
本構成によれば、外側環状部に対して内側環状部が回転方向他方側に移動されることにより回転方向に弾性変位されるバネ部を備えた付勢部材が用いられるので、付勢部材としてのスプリングを用いる場合のように、スプリングを保持するスプリング保持部材などを用いる必要がなく、組付性を向上させることができる。
【0017】
前記仮止め部材は、第2動力伝達部材のスプライン部が挿通される仮止め本体部と、仮止め本体部から軸方向他方側に延びる仮止め部とを備え、仮止め部は、回転方向一方側に第1動力伝達部材に規制される被規制部を有すると共に、回転方向他方側に被仮止め部に当接する当接部と当接部の軸方向一方側に回転方向一方側に窪む凹部とを有し、凹部は、解除操作部によって第1動力伝達部材に対する付勢部材の仮止めが解除操作されるときに、第2動力伝達部材の解除操作部によって仮止め本体部及び仮止め部が軸方向他方側に移動されて被仮止め部が凹部内に配置されるように形成され得る。
【0018】
本構成によれば、仮止め部材の仮止め部の回転方向他方側に、当接部の軸方向一方側に凹部が設けられるので、第1動力伝達部材に対する付勢部材の仮止めが解除操作されるときに被仮止め部を凹部内に配置させて、第1動力伝達部材に対する付勢部材の仮止めを解除させることができる。
【0019】
前記解除操作部による付勢部材の仮止めの解除操作をアシストするアシスト機構を備えることが好ましい。
【0020】
本構成によれば、アシスト機構によって解除操作部による付勢部材の仮止めの解除操作がアシストされるので、付勢部材の仮止めの解除を比較的容易に行うことができ、第1動力伝達部材に対する第2動力伝達部材の組付性を向上させることができる。
【0021】
前記付勢部材は、仮止め部に仮止めされる被仮止め部を備え、仮止め部は、回転方向一方側に第1動力伝達部材に規制される被規制部を有すると共に、回転方向他方側に被仮止め部に当接する当接部を有し、当接部は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜する傾斜面部によって形成され、前記アシスト機構は、傾斜面部によって構成されることが好ましい。
【0022】
本構成によれば、アシスト機構を構成する仮止め部の当接部に形成された傾斜面部は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜するので、付勢部材のバネ部によって仮止め部の当接部に付勢部材の被仮止め部から回転方向一方側に付勢される付勢力を、第1動力伝達部材に対する付勢部材の仮止めを解除操作する方向の力に変換させることができる。これによって、付勢部材の仮止めを解除操作する操作力を低減させることができ、組付性を向上させることができる。
【0023】
前記仮止め部材は、前記付勢部材の外側環状部に固定して取り付けられることが好ましい。
【0024】
本構成によれば、付勢部材の外側環状部に仮止め部材が固定して取り付けられるので、第1及び第2動力伝達部材がスプライン嵌合されて組み付けられたときに仮止め部材の周方向のガタつきを抑制することができる。
【0025】
前記仮止め部材は、前記付勢部材に周方向に等間隔に複数取り付けられることが好ましい。
【0026】
本構成によれば、付勢部材に周方向に等間隔に複数取り付けられる仮止め部材によって、第1及び第2動力伝達部材のスプライン嵌合部の歯打ち音を有効に抑制することができる。
【0027】
前記仮止め部材は、付勢部材に固定される固定部と、仮止め部と、固定部と仮止め部とを接続すると共に固定部に対して仮止め部が軸方向他方側に弾性変位された状態で固定部が付勢部材に固定される接続部とを有し、付勢部材に固定された固定部に対して仮止め部が軸方向一方側に弾性力によって移動して仮止め部が付勢部材を仮止めするように構成され得る。
【0028】
本構成によれば、付勢部材に固定された固定部に対して仮止め部が軸方向一方側に弾性力によって移動して仮止め部が付勢部材を仮止めするように構成される仮止め部材を用いて、第1及び第2動力伝達部材のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制するとともに、第1及び第2動力伝達部材がスプライン嵌合されて組み付けられたときに仮止め部材の周方向のガタつきを抑制することができる。
【0029】
前記解除操作部は、前記第2動力伝達部材を回転可能に支持するケースに設けられ得る。
【0030】
本構成によれば、解除操作部は、第2動力伝達部材を回転可能に支持するケースに設けられるので、第2動力伝達部材とともに軸方向他方側に移動されるケースに設けられた解除操作部によって付勢部材の仮止めを解除させ、ケースの慣性質量を用いて付勢部材の仮止めを解除操作することができる。
【0031】
前記解除操作部による付勢部材の仮止めの解除操作をアシストするアシスト機構を備えていることが好ましい。
【0032】
本構成によれば、アシスト機構によって解除操作部による付勢部材の仮止めの解除操作がアシストされるので、付勢部材の仮止めの解除を比較的容易に行うことができ、第1動力伝達部材に対する第2動力伝達部材の組付性を向上させることができる。
【0033】
前記付勢部材は、仮止め部に仮止めされる被仮止め部を備え、仮止め部は、回転方向他方側に被仮止め部に当接する当接部を有し、当接部は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜する傾斜面部によって形成され、アシスト機構は、傾斜面部によって構成されることが好ましい。
【0034】
本構成によれば、アシスト機構を構成する仮止め部の当接部に形成された傾斜面部は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜するので、付勢部材のバネ部によって仮止め部の当接部に付勢部材の被仮止め部から回転方向一方側に付勢される付勢力を、第1動力伝達部材に対する付勢部材の仮止めを解除操作する方向の力に変換させることができ、付勢部材の仮止めを解除操作する操作力を低減させることができ、組付性を向上させることができる。
【0035】
前記第1動力伝達部材は、エンジンの出力軸に連結されたフライホイールであり、前記第2動力伝達部材は、変速機の入力軸である。
【0036】
本構成によれば、スプライン嵌合されて組み付けられるフライホイール及び変速機の入力軸を備えた動力伝達装置において、比較的簡素な構成によって組付性良くフライホイールと変速機の入力軸のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0037】
本発明はまた、スプライン嵌合されて組み付けられる第1動力伝達部材及び第2動力伝達部材を備えた動力伝達装置の組付方法であって、回転方向に弾性変位可能であるバネ部と、前記バネ部の一端側に設けられて前記第1動力伝達部材に係止される係止部と、前記バネ部の他端側に設けられるスプライン部とを有し、前記バネ部の第1弾性変位状態で前記スプライン部を前記第2動力伝達部材のスプライン部に係合させて前記第1動力伝達部材に対して前記第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢する付勢部材を、軸方向一方側から前記第1動力伝達部材に前記係止部を係止させて取り付けるステップと、前記バネ部が前記第1弾性変位状態より弾性変位された第2弾性変位状態で前記付勢部材を前記第1動力伝達部材に仮止めする仮止め部を有する仮止め部材を、前記付勢部材より軸方向一方側から前記第1動力伝達部材及び前記付勢部材に取り付けて前記バネ部の前記第2弾性変位状態で前記付勢部材を前記第1動力伝達部材に仮止めするステップと、前記第2動力伝達部材を、前記仮止め部材より軸方向一方側から前記第2動力伝達部材のスプライン部を前記付勢部材のスプライン部を通じて前記第1動力伝達部材のスプライン部にスプライン嵌合させて前記第1動力伝達部材に組み付けるステップとを備え、前記第2動力伝達部材のスプライン部の軸方向一方側に、前記第2動力伝達部材のスプライン部が前記第1動力伝達部材のスプライン部にスプライン嵌合されるときに、前記バネ部の前記第1弾性変位状態で前記付勢部材のスプライン部が前記第2動力伝達部材のスプライン部に係合して前記第1動力伝達部材に対して前記第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢するように前記仮止め部材の仮止め部による前記第1動力伝達部材に対する前記付勢部材の仮止めを解除操作する解除操作部が設けられる動力伝達装置の組付方法を提供する。
【0038】
本発明によれば、第1及び第2動力伝達部材をスプライン嵌合して組み付ける際に、第1動力伝達部材に係止されると共にバネ部の第1弾性変位状態でスプライン部が第2動力伝達部材のスプライン部に係合されて第1動力伝達部材に対して第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢する付勢部材と、バネ部が第1弾性変位状態より弾性変位された第2弾性変位状態で付勢部材を第1動力伝達部材に仮止めする仮止め部を有する仮止め部材とが用いられ、第2動力伝達部材のスプライン部の軸方向一方側に、仮止め部による第1動力伝達部材に対する付勢部材の仮止めを解除操作する解除操作部が設けられる。
【0039】
これにより、付勢部材を第1動力伝達部材に係止させて取り付け、仮止め部材を第1動力伝達部材及び付勢部材に取り付けてバネ部の第2弾性変位状態で付勢部材を第1動力伝達部材に仮止めし、第2動力伝達部材のスプライン部を付勢部材のスプライン部を通じて第1動力伝達部材のスプライン部にスプライン嵌合させて第2動力伝達部材を第1動力伝達部材に組み付けることで、仮止め部材の仮止め部による第1動力伝達部材に対する付勢部材の仮止めが解除されて第1動力伝達部材に対して第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢させ、第1及び第2動力伝達部材のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0040】
第1及び第2動力伝達部材のスプライン部の形状を変更することなく、付勢部材を第1動力伝達部材に係止させ、仮止め部材によって付勢部材を第1動力伝達部材に仮止めし、第2動力伝達部材を第1動力伝達部材にスプライン嵌合させることで、第1動力伝達部材に対して第2動力伝達部材を回転方向一方側に付勢させることができるので、比較的容易に組み付けることができる。したがって、比較的簡素な構成によって組付性良く第1及び第2動力伝達部材のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係る動力伝達装置及び動力伝達装置の組付方法によれば、比較的簡素な構成によって組付性良く第1動力伝達部材及び第2動力伝達部材のスプライン嵌合部による歯打ち音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の第1実施形態に係る動力伝達装置を備えたパワーユニットの概略図である。
図2】動力伝達装置の斜視図である。
図3】動力伝達装置の側面図である。
図4】動力伝達装置の分解斜視図である。
図5】フライホイール、付勢部材及び仮止め部材の正面図である。
図6】フライホイール及び付勢部材の正面図である。
図7図5のY7-Y7線に沿ったフライホイール及び付勢部材の断面図である。
図8】内側環状部が外側環状部に対して回転方向他方側に移動された付勢部材及びフライホイールの正面図である。
図9】フライホイールに仮止め部材によって付勢部材が仮止めされた状態を示す斜視図である。
図10図9に示す仮止め部材の仮止め部及びその近傍の拡大図である。
図11図10のY11-Y11線に沿ったフライホイール、付勢部材及び仮止め部材の断面図である。
図12】フライホイールへの入力軸の組み付けを説明するための説明図である。
図13】フライホイールに対する付勢部材の仮止めの解除操作を説明するための説明図である。
図14】フライホイールに対する付勢部材の仮止めの解除操作を説明するための別の説明図である。
図15】付勢部材によってフライホイールに対して入力軸が付勢されたスプライン嵌合部を示す図である。
図16】本発明の第2実施形態に係る動力伝達装置の斜視図である。
図17】動力伝達装置の分解斜視図である。
図18】付勢部材の正面図である。
図19】付勢部材及び仮止め部材の正面図である。
図20】付勢部材及び仮止め部材の斜視図である。
図21図20に示す仮止め部材の仮止め部及びその近傍の拡大図である。
図22図21のY22-Y22線に沿った付勢部材及び仮止め部材の断面図である。
図23】付勢部材が仮止め部材によって仮止めされた状態を示す図である。
図24】付勢部材及び仮止め部材がフライホイールに取り付けられた状態を示す図である。
図25】フライホイールへの入力軸の組み付けを説明するための説明図である。
図26】第2実施形態に係る付勢部材の変形例を示す図である。
図27】第2実施形態に係る仮止め部材の変形例を示す図である。
図28】前記仮止め部材による付勢部材の仮止めを説明するための説明図である。
図29】本発明の第3実施形態に係る動力伝達装置の斜視図である。
図30】動力伝達装置の分解斜視図である。
図31】付勢部材の正面図である。
図32】付勢部材及び仮止め部材の正面図である。
図33】付勢部材及び仮止め部材の斜視図である。
図34図33に示す仮止め部材の仮止め部及びその近傍の断面図である。
図35】付勢部材が仮止め部材によって仮止めされた状態を示す図である。
図36】付勢部材及び仮止め部材がフライホイールに取り付けられた状態を示す図である。
図37】フライホイールへの入力軸の組み付けを説明するための説明図である。
図38】第3実施形態に係る仮止め部材の変形例を示す図である。
図39】前記仮止め部材による付勢部材の仮止めを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0044】
図1は、本発明の第1実施形態に係る動力伝達装置を備えたパワーユニットの概略図である。図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る動力伝達装置を備えたパワーユニット1は、フロントエンジン・リヤドライブ車等の車両に搭載されて軸心が車体前後方向に延びるように配置されるものであり、駆動源としてのエンジン2と、エンジン2に連結される変速機としての自動変速機3とを備えている。エンジン2は、これに限定されるものではないが、4つの気筒が直列に配置された直列4気筒エンジンである。
【0045】
自動変速機3は、エンジン2の出力軸4と同一軸線上に配置され、エンジン2の出力軸4に固定して取り付けられたフライホイール10にトルクコンバータを介することなく連結されている。自動変速機3は、変速機ケース5内に収容されて変速機ケース5に回転可能に支持された入力軸20を備えている。
【0046】
自動変速機3はまた、図示されていないが、複数のプラネタリギヤセット(遊星歯車機構)とクラッチやブレーキなどの複数の摩擦締結要素とを有する変速機構と、出力軸とを備えている。前記変速機構は、複数の摩擦締結要素を選択的に締結することにより各プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路を切り換えて車両の運転状態に応じた所定の変速段を達成するように構成されている。
【0047】
自動変速機3は、エンジン2の出力軸4に取り付けられたフライホイール10に、入力軸20をスプライン嵌合させて組み付けることによりエンジン2に取り付けられる。自動変速機3は、フライホイール10から入力軸20にエンジン2からの動力が伝達され、エンジン2からの動力が前記変速機構を通じて前記出力軸から駆動輪に伝達されるようになっている。
【0048】
本実施形態に係る動力伝達装置6は、スプライン嵌合されて組み付けられる第1動力伝達部材としてのフライホイール10と第2動力伝達部材としての入力軸20とを備えている。動力伝達装置6は、フライホイール10に対して入力軸20を回転方向に付勢する付勢部材と、付勢部材をフライホイール10に仮止めする仮止め部材とを用い、組付性良くフライホイール10と入力軸20のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制するように構成されている。
【0049】
図2は、動力伝達装置の斜視図、図3は、動力伝達装置の側面図、図4は、動力伝達装置の分解斜視図、図5は、フライホイール、付勢部材及び仮止め部材の正面図、図6は、フライホイール及び付勢部材の正面図、図7は、図5のY7-Y7線に沿ったフライホイール及び付勢部材の断面図である。
【0050】
図2から図7に示すように、エンジン2から駆動輪に至る動力伝達経路に回転可能に設けられるフライホイール10と入力軸20とがスプライン嵌合されて組み付けられる動力伝達装置6は、フライホイール10と入力軸20との間に配置される付勢部材30と仮止め部材40とを備えている。
【0051】
図3に示すように、付勢部材30は、フライホイール10より反エンジン側である軸方向一方側に配置され、仮止め部材40は、付勢部材30より軸方向一方側に配置され、入力軸20は、仮止め部材40より軸方向一方側に配置されている。付勢部材30と仮止め部材40とはそれぞれ、フライホイール10及び入力軸20の軸方向に略直交する径方向に略平板状に形成されている。
【0052】
フライホイール10は、図示されていないが、エンジン2の出力軸4に締結ボルトを用いて固定され、軸方向に略直交する径方向に板状に延びて円環状に形成されている。フライホイール10は、図4に示すように、径方向中央側に軸方向一方側に突出する突出部11を備え、突出部11の突出面は、軸方向に略直交する方向に平面状に形成されている。フライホイール10はまた、径方向中心に入力軸20にスプライン嵌合されるスプライン部12が形成されている。スプライン部12は、歯筋が軸方向に延びるスプラインを有し、フライホイール10の内周面に形成されている。
【0053】
フライホイール10には、付勢部材30が係止される被係止部13としての第1開口部13と、仮止め部材40が回転方向一方側に移動することを規制する規制部14としての第2開口部14とが形成されている。第1開口部13及び第2開口部14はそれぞれ、スプライン部12より径方向外側に配置され、フライホイール10の回転方向である周方向に等間隔に複数、具体的には3つ形成されている。第1開口部13と第2開口部14は、フライホイール10の径方向にオーバーラップする位置に、フライホイール10の周方向に交互に配置されている。
【0054】
フライホイール10の第1開口部13は、図5及び図7に示すように、フライホイール10の軸方向に貫通し、径方向に直線状に延びて長穴状に形成されている。フライホイール10の第2開口部14は、図5及び後述する図11に示すように、フライホイール10の軸方向に貫通し、径方向に直線状に延びて長穴状に形成されている。
【0055】
付勢部材30は、図4及び図6に示すように、軸方向と直交する方向に板状に延びて円環状に形成されている。付勢部材30は、径方向内側に配置されて円形状に環状に形成される内側環状部32と、径方向外側に配置されて円形状に環状に形成される外側環状部31とを備え、外側環状部31は、内側環状部32より径方向外側に同心状に配置されている。
【0056】
付勢部材30はまた、回転方向に圧縮可能であるバネ部33と、フライホイール10に係止される係止部34と、入力軸20にスプライン嵌合されるスプライン部35と、仮止め部材40に仮止めされる被仮止め部36とを備えている。付勢部材30のスプライン部35は、歯筋が軸方向に延びるスプラインを有し、内側環状部32の内周面に形成されて内側環状部32に接続されている。付勢部材30のスプライン部35は、入力軸20のスプライン部21に係合して付勢するためのものであり、フライホイール10及び入力軸20よりスプライン部21の加工精度を低く形成することができる。
【0057】
付勢部材30のバネ部33は、内側環状部32から径方向外側に直線状に延びる第1径方向延設部33aと、外側環状部31から径方向内側に第1径方向延設部33aに略平行に直線状に延びる第2径方向延設部33bと、第1径方向延設部33aと第2径方向延設部33bの間で第1径方向延設部33a及び第2径方向延設部33bに略平行に径方向に直線状に延びる第3径方向延設部33cと、第1径方向延設部33aと第3径方向延設部33cの径方向外側を連結して円弧状に延びる外側連結部33dと、第3径方向延設部33cと第2径方向延設部33bの径方向内側を連結して円弧状に延びる内側連結部33eとを備えている。
【0058】
バネ部33は、一端側が外側環状部31に接続されると共に他端側が内側環状部32に接続され、軸方向他方側から見て略S字状に形成されている。バネ部33は、外側環状部31に対して内側環状部32が回転方向他方側に移動されることにより、第2径方向延設部33bに対して第1径方向延設部33aが回転方向他方側に移動されて回転方向に圧縮可能に構成されている。
【0059】
付勢部材30の係止部34は、バネ部33の回転方向一方側において外側環状部31から径方向内側に延びる第1アーム部37の先端側から軸方向一方側に延びている(図7参照)。係止部34は、軸方向に直交する断面において略矩形状に形成され、フライホイール10の第1開口部13に挿通されて係止されるようになっている。
【0060】
付勢部材30の被仮止め部36は、バネ部33の回転方向他方側において内側環状部32から径方向外側に略直線状に延びる第2アーム部38の先端側に設けられている。付勢部材30の被仮止め部36は、第2アーム部38の回転方向一方側の端面に回転方向他方側に窪んで形成され、フライホイール10の第2開口部14に対応する位置に設けられている。
【0061】
バネ部33、係止部34及び被仮止め部36はそれぞれ、付勢部材30の周方向に等間隔に複数、具体的には3つ形成されている。バネ部33はそれぞれ、回転方向において回転方向一方側に配置される係止部34と回転方向他方側に配置される被仮止め部36との間に配置されている。
【0062】
付勢部材30は、フライホイール10に係止されると共に外側環状部31に対して内側環状部32が回転方向他方側に移動されたバネ部33の第1圧縮状態でスプライン部35が入力軸20のスプライン部21に係合されてフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するようになっている。
【0063】
付勢部材30の第2アーム部38の先端部にはピン挿通穴39が形成されている。ピン挿通穴39は、図示しない回転工具に設けられたピンが挿入されるように形成されている。付勢部材30は、前記回転工具のピンをピン挿通穴39に挿通させた状態で前記回転工具を回転方向他方側に移動させることにより内側環状部32が回転方向他方側に移動される。
【0064】
仮止め部材40は、図4に示すように、軸方向と直交する方向に板状に延びて円環状に形成される仮止め本体部41と、仮止め本体部41から軸方向他方側に延びる仮止め部42とを備えている。仮止め本体部41は、入力軸20のスプライン部21が挿通されるようになっている。
【0065】
仮止め部42は、仮止め本体部41から断面略矩形状に軸方向他方側に延び、付勢部材30のバネ部33が第1圧縮状態より圧縮された第2圧縮状態で付勢部材30をフライホイール10に仮止めするように形成されている。仮止め部42は、仮止め部材40の周方向に等間隔に複数、具体的には3つ形成されている。仮止め部42は、フライホイール10の第2開口部14に挿通されるようにフライホイール10の第2開口部14に対応して形成されている。
【0066】
仮止め部42は、後述する図11に示すように、回転方向一方側にフライホイール10の第2開口部14に規制される被規制部43を有すると共に、回転方向他方側に付勢部材30の被仮止め部36に当接する当接部44と当接部44の軸方向一方側に回転方向一方側に窪む凹部45とを有している。
【0067】
被規制部43は、仮止め部材40の軸方向に直線状に延びる仮止め部42の回転方向一方側の端面によって形成され、当接部44は、仮止め部材40の軸方向に対して所定角度で直線状に延びる仮止め部42の回転方向他方側の端面によって形成されている。
【0068】
当接部44は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜する傾斜面部によって形成されている。当接部44には、軸方向一方側に設けられて軸方向に対して所定角度θ1で直線状に延びる第1当接部44aとしての第1傾斜面部44aと、軸方向他方側に設けられて軸方向に対して所定角度θ2で直線状に延びる第2当接部44bとしての第2傾斜面部44bとが設けられ、所定角度θ2は、所定角度θ1より大きく形成されている。所定角度θ1は、例えば5度から15度の間の角度に設定され、所定角度θ2は、例えば30度から45度に設定される。
【0069】
仮止め部42の凹部45は、仮止め部42の回転方向他方側の端面によって形成され、回転方向一方側に略矩形状に窪んで形成されている。凹部45は、フライホイール10に入力軸20がスプライン嵌合されるときに、付勢部材30の被仮止め部36が凹部45に当接することなく凹部45内に配置されるように形成されている。
【0070】
入力軸20は、図4に示すように、エンジン側である軸方向他方側の外周面にスプライン部21を有している。入力軸20のスプライン部21は、歯筋が軸方向に延びるスプラインを有し、フライホイール10のスプライン部12及び付勢部材30のスプライン部35にスプライン嵌合されるように形成されている。
【0071】
入力軸20はまた、スプライン部21の軸方向一方側に仮止め部材40の仮止め部42によるフライホイール10に対する付勢部材30の仮止めを解除操作する解除操作部22が設けられている。解除操作部22は、入力軸20の外周面から径方向外側に軸方向に直交する方向に板状に延び、円形状に形成されている。解除操作部22は、仮止め部材40の仮止め本体部41の内周面より外周面が大きく形成されている。
【0072】
解除操作部22は、仮止め部材40の軸方向一方側から入力軸20のスプライン部21が仮止め部材40を挿通して付勢部材30のスプライン部35を通じてフライホイール10のスプライン部12にスプライン嵌合されるときに、バネ部33の第1圧縮状態で付勢部材30のスプライン部35が入力軸20のスプライン部21に係合してフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するように形成されている。
【0073】
動力伝達装置6では、付勢部材30を軸方向一方側からフライホイール10に係止させて取り付けた後に、仮止め部材40を軸方向一方側からフライホイール10及び付勢部材30に取り付けてバネ部33の第2圧縮状態で付勢部材30をフライホイール10に仮止めし、その後に、入力軸20を軸方向一方側から入力軸20のスプライン部21を付勢部材30のスプライン部35を通じてフライホイール10のスプライン部12にスプライン嵌合させ、フライホイール10に入力軸20がスプライン嵌合されて組み付けられる。
【0074】
図8は、内側環状部が外側環状部に対して回転方向他方側に移動された付勢部材及びフライホイールの正面図である。フライホイール10に入力軸20をスプライン嵌合させて組み付ける際には先ず、図6に示すように、フライホイール10に、付勢部材30の係止部34をフライホイール10の被係止部13に係止させて付勢部材30を取り付ける。
【0075】
そして、図8に示すように、付勢部材30は、係止部34がフライホイール10の被係止部13に係止された状態で第2アーム部38が回転方向他方側に移動される。付勢部材30は、バネ部33がフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢する第1圧縮状態より圧縮された第2圧縮状態になるように外側環状部31に対して内側環状部32が回転方向他方側に移動される。
【0076】
図9は、フライホイールに仮止め部材によって付勢部材が仮止めされた状態を示す斜視図、図10は、図9に示す仮止め部材の仮止め部及びその近傍の拡大図、図11は、図10のY11-Y11線に沿ったフライホイール、付勢部材及び仮止め部材の断面図である。図9に示すように、付勢部材30のバネ部33が第2圧縮状態に圧縮された状態で、フライホイール10及び付勢部材30に仮止め部材40を取り付けて付勢部材30をフライホイール10に仮止めする。
【0077】
仮止め部材40は、図10及び図11に示すように、仮止め部42の当接部44を付勢部材30の被仮止め部36に当接させると共に仮止め部42の被規制部43をフライホイール10の規制部14に規制させるように仮止め部42をフライホイール10の第2開口部14に挿入し、付勢部材30をフライホイール10に仮止めする。仮止め部材40によって付勢部材30がフライホイール10に仮止めされるとき、付勢部材30のスプライン部35とフライホイール10のスプライン部12とは、スプラインが略一致するように設けられている。
【0078】
図12は、フライホイールへの入力軸の組み付けを説明するための説明図である。次に、入力軸20を、図12に示すように、スプライン部21を仮止め部材40を挿通させて付勢部材30のスプライン部35を通じてフライホイール10のスプライン部12にスプライン嵌合させるように軸方向一方側から組み付ける。
【0079】
図13は、フライホイールに対する付勢部材の仮止めの解除操作を説明するための説明図である。入力軸20をフライホイール10に組み付ける際、図13に示すように、入力軸20のスプライン部21が仮止め部材40を挿通して付勢部材30のスプライン部35を通じてフライホイール10のスプライン部12にスプライン嵌合され、入力軸20がフライホイール10にスプライン嵌合される。
【0080】
入力軸20がフライホイール10にスプライン嵌合されるとき、入力軸20の解除操作部22が仮止め部材40の仮止め本体部41に当接して入力軸20の軸方向他方側への移動に伴って解除操作部22によって仮止め部材40が軸方向他方側に移動され、仮止め部42が軸方向他方側へ移動される。
【0081】
仮止め部42が軸方向他方側へ移動されるとき、圧縮状態にある付勢部材30のバネ部33によって仮止め部42の当接部44に付勢部材30の被仮止め部36から回転方向一方側の付勢力F1が作用する。仮止め部42は、付勢力F1によって、被仮止め部36と当接部44との接触部分において当接部44の傾斜面部に直交する方向の押圧力F2で押圧される。
【0082】
押圧力F2は、軸方向の押圧力F2aと回転方向の押圧力F2bとに分解され、仮止め部42は、軸方向の押圧力F2aによって軸方向に押圧される。押圧力F2aは、第1当接部44aではF1・tanθ1で表され、第2当接部44bではF1・tanθ2で表される。
【0083】
当接部44に形成された傾斜面部44によって、付勢部材30のバネ部33による付勢力F1は、フライホイール10に対する付勢部材30の仮止めを解除操作する方向の力F2aに変換される。当接部44に形成された傾斜面部44は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜し、入力軸20の解除操作部22による付勢部材30の仮止めの解除操作をアシストするアシスト機構を構成する。
【0084】
図14は、フライホイールに対する付勢部材の仮止めの解除操作を説明するための別の説明図である。図14に示すように、入力軸20は、解除操作部22によって仮止め本体部41及び仮止め部42が軸方向他方側に移動されて被仮止め部36が凹部45に接触することなく凹部45内に配置されるまで軸方向他方側に移動されると、解除操作部22によってフライホイール10に対する付勢部材30の仮止めが解除操作され、フライホイール10にスプライン嵌合されて組み付けられる。
【0085】
被仮止め部36が凹部45内に配置されるまで入力軸20が軸方向他方側に移動されると、付勢部材30は、バネ部33によって外側環状部31に対して内側環状部32が回転方向一方側に移動し、付勢部材30は、フライホイール10に係止されると共にバネ部33の第1圧縮状態でスプライン部35が入力軸20のスプライン部21に係合されてフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢する。
【0086】
図15は、付勢部材によってフライホイールに対して入力軸が付勢されたスプライン嵌合部を示す図である。図15に示すように、フライホイール10のスプライン部12と入力軸20のスプライン部21がスプライン嵌合されたスプライン嵌合部では、付勢部材30によって入力軸20が回転方向一方側に付勢され、入力軸20のスプライン部21の歯部21aの回転方向他方側が付勢部材30のスプライン部35の歯部35aの回転方向一方側に係合され、入力軸20のスプライン部21の歯部21aの回転方向一方側がフライホイール10のスプライン部12の歯部12aの回転方向他方側に係合される。
【0087】
このようにして、動力伝達装置6は、フライホイール10に対して入力軸20を回転方向に付勢する付勢部材30と、付勢部材30をフライホイール10に仮止めする仮止め部材40とを用い、付勢部材30によってフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢し、フライホイール10と入力軸20のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0088】
動力伝達装置6では、付勢部材30をフライホイール10に係止させて取り付け、仮止め部材40をフライホイール10及び付勢部材30に取り付けてバネ部33の圧縮状態で付勢部材30をフライホイール10に仮止めし、入力軸20をフライホイール10にスプライン嵌合させて組み付けることで、フライホイール10に入力軸20を組付性良くスプライン嵌合させて組み付けることができる。エンジン2の出力軸4に取り付けられたフライホイール10に、自動変速機3に取り付けられた入力軸20を組み付ける場合に、組付性良くスプライン嵌合させて組み付けることができる。
【0089】
本実施形態では、付勢部材30によってフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するように構成されているが、付勢部材30によってフライホイール10に対して入力軸20を回転方向他方側に付勢するようにしてもよい。フライホイール10に形成される被係止部13及び規制部14は、フライホイール10を貫通して形成されているが、フライホイール10を貫通することなく軸方向一方側から軸方向他方側に凹状に窪んで形成される開口部としてもよい。仮止め部42の当接部44は、第1当接部44aと第2当接部44bを有しているが、第1当接部44aのみによって形成してもよい。
【0090】
本実施形態では、付勢部材30の係止部34、バネ部33及び被仮止め部36はそれぞれ、付勢部材30の周方向に略等間隔に3つ設けられているが、付勢部材30の周方向に略等間隔に2つ又は4つなど複数設けるようにしてもよい。かかる場合についても、付勢部材30の係止部34及び被仮止め部36に応じて、フライホイール10の被係止部13及び規制部14、並びに仮止め部材40の仮止め部42が設けられる。
【0091】
本実施形態では、付勢部材30は、回転方向に圧縮可能であるバネ部33を備え、バネ部33の第1圧縮状態でフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するように形成され、仮止め部材40は、バネ部33が第1圧縮状態より圧縮された第2圧縮状態で付勢部材30をフライホイール10に仮止めするように形成され、バネ部33は、回転方向に圧縮方向に弾性変位可能に構成されているが、回転方向に引張方向に弾性変位可能に構成することも可能である。
【0092】
付勢部材30は、回転方向に引張可能であるバネ部を備え、前記バネ部の第1引張状態でフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するように形成し、仮止め部材40は、前記バネ部が第1引張状態より引張された第2引張状態で付勢部材30をフライホイール10に仮止めするように形成することも可能である。
【0093】
かかる場合、前記バネ部は、外側環状部31に対して内側環状部32が回転方向他方側に移動されることにより回転方向に引張され、入力軸20のスプライン部21の軸方向一方側に設けられる解除操作部22は、入力軸20のスプライン部21が付勢部材30のスプライン部35を通じてフライホイール10のスプライン部12にスプライン嵌合されるときに、前記バネ部の第1引張状態で付勢部材30のスプライン部35が入力軸20のスプライン部21に係合してフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するように仮止め部材40の仮止め部によるフライホイール10に対する付勢部材30の仮止めを解除操作するように形成される。
【0094】
このように、本実施形態に係る動力伝達装置6では、第1及び第2動力伝達部材10,20をスプライン嵌合して組み付ける際に、第1動力伝達部材10に係止されると共にバネ部33の第1弾性変位状態でスプライン部35が第2動力伝達部材20のスプライン部21に係合されて第1動力伝達部材10に対して第2動力伝達部材20を回転方向一方側に付勢する付勢部材30と、バネ部33が第1弾性変位状態より弾性変位された第2弾性変位状態で付勢部材30を第1動力伝達部材10に仮止めする仮止め部42を有する仮止め部材40とが用いられ、第2動力伝達部材20のスプライン部21の軸方向一方側に、仮止め部42による第1動力伝達部材10に対する付勢部材30の仮止めを解除操作する解除操作部22が設けられる。
【0095】
これにより、付勢部材30を第1動力伝達部材10に係止させて取り付け、仮止め部材40を第1動力伝達部材10及び付勢部材30に取り付けてバネ部33の第2弾性変位状態で付勢部材30を第1動力伝達部材10に仮止めし、第2動力伝達部材20のスプライン部21を付勢部材30のスプライン部35を通じて第1動力伝達部材10のスプライン部12にスプライン嵌合させて第2動力伝達部材20を第1動力伝達部材10に組み付けることで、仮止め部材40の仮止め部42による第1動力伝達部材10に対する付勢部材30の仮止めが解除されて第1動力伝達部材10に対して第2動力伝達部材20を回転方向一方側に付勢させ、第1及び第2動力伝達部材10,20のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0096】
第1及び第2動力伝達部材10,20のスプライン部12,21の形状を変更することなく、付勢部材30を第1動力伝達部材10に係止させ、仮止め部材40によって付勢部材30を第1動力伝達部材10に仮止めし、第2動力伝達部材20を第1動力伝達部材10にスプライン嵌合させることで、第1動力伝達部材10に対して第2動力伝達部材20を回転方向一方側に付勢させることができるので、比較的容易に組み付けることができる。したがって、比較的簡素な構成によって組付性良く第1及び第2動力伝達部材10,20のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0097】
また、付勢部材30は、バネ部33と、係止部34と、スプライン部35と、内側環状部32と、外側環状部31と、仮止め部42に仮止めされる被仮止め部36とを備え、係止部34は、外側環状部31に接続され、スプライン部35及び被仮止め部36は、内側環状部32に接続され、バネ部33は、バネ部33の一端側が外側環状部31に接続されると共にバネ部33の他端側が内側環状部32に接続され、外側環状部31に対して内側環状部32が回転方向他方側に移動されることにより回転方向に弾性変位される。
【0098】
これにより、外側環状部31に対して内側環状部32が回転方向他方側に移動されることにより回転方向に弾性変位されるバネ部33を備えた付勢部材30が用いられるので、付勢部材30としてのスプリングを用いる場合のように、スプリングを保持するスプリング保持部材などを用いる必要がなく、組付性を向上させることができる。
【0099】
また、仮止め部材40は、第2動力伝達部材20のスプライン部21が挿通される仮止め本体部41と、仮止め本体部41から軸方向他方側に延びる仮止め部42とを備え、仮止め部42は、回転方向一方側に第1動力伝達部材10に規制される被規制部43を有すると共に、回転方向他方側に被仮止め部36に当接する当接部44と当接部44の軸方向一方側に回転方向一方側に窪む凹部45とを有し、凹部45は、解除操作部22によって第1動力伝達部材10に対する付勢部材30の仮止めが解除操作されるときに、第2動力伝達部材20の解除操作部22によって仮止め本体部41及び仮止め部42が軸方向他方側に移動されて被仮止め部36が凹部45内に配置されるように形成される。
【0100】
これにより、仮止め部材40の仮止め部42の回転方向他方側に、当接部44の軸方向一方側に凹部45が設けられるので、第1動力伝達部材10に対する付勢部材30の仮止めが解除操作されるときに被仮止め部36を凹部45内に配置させて、第1動力伝達部材10に対する付勢部材30の仮止めを解除させることができる。
【0101】
また、解除操作部22による付勢部材30の仮止めの解除操作をアシストするアシスト機構44を備える。
【0102】
これにより、アシスト機構44によって解除操作部22による付勢部材30の仮止めの解除操作がアシストされるので、付勢部材30の仮止めの解除を比較的容易に行うことができ、第1動力伝達部材10に対する第2動力伝達部材20の組付性を向上させることができる。
【0103】
また、付勢部材30は、仮止め部42に仮止めされる被仮止め部36を備え、仮止め部42は、回転方向一方側に第1動力伝達部材10に規制される被規制部43を有すると共に、回転方向他方側に被仮止め部36に当接する当接部44を有し、当接部44は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜する傾斜面部44によって形成され、前記アシスト機構は、傾斜面部44によって構成される。
【0104】
これにより、アシスト機構44を構成する仮止め部42の当接部44に形成された傾斜面部44は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜するので、付勢部材30のバネ部33によって仮止め部42の当接部44に付勢部材30の被仮止め部36から回転方向一方側に付勢される付勢力F1を、第1動力伝達部材10に対する付勢部材30の仮止めを解除操作する方向の力F2aに変換させることができる。これによって、付勢部材30の仮止めを解除操作する操作力を低減させることができ、組付性を向上させることができる。
【0105】
また、第1動力伝達部材10は、エンジン2の出力軸4に連結されたフライホイール10であり、第2動力伝達部材20は、変速機3の入力軸20である。
【0106】
これにより、スプライン嵌合されて組み付けられるフライホイール10及び変速機3の入力軸20を備えた動力伝達装置6において、比較的簡素な構成によって組付性良くフライホイール10と変速機3の入力軸20のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0107】
図16は、本発明の第2実施形態に係る動力伝達装置の斜視図、図17は、動力伝達装置の分解斜視図、図18は、付勢部材の正面図、図19は、付勢部材及び仮止め部材の正面図、図20は、付勢部材及び仮止め部材の斜視図である。第2実施形態に係る動力伝達装置106は、第1実施形態に係る動力伝達装置6と同様に、図16から図20に示すように、フライホイール10と入力軸20との間に配置される付勢部材130と仮止め部材140とを備えている。
【0108】
付勢部材130は、フライホイール10より反エンジン側である軸方向一方側に配置され、仮止め部材140は、付勢部材130より軸方向一方側に配置され、入力軸20は、仮止め部材140より軸方向一方側に配置されている。付勢部材130と仮止め部材140とはそれぞれ、フライホイール10及び入力軸20の軸方向に略直交する径方向に略平板状に形成されている。本実施形態では、仮止め部材140は、周方向に等間隔に複数、具体的には3つに分割して構成されている。
【0109】
フライホイール10は、図17に示すように、径方向中央側に突出部11を備えると共に、径方向中心にスプライン部12が形成されている。フライホイール10には、付勢部材130が係止される被係止部13としての第1開口部13が形成され、本実施形態では、第1開口部13は、ネジ穴として形成されている。第1開口部13は、フライホイール10の回転方向である周方向に等間隔に複数、具体的には3つ形成されている。フライホイール10にはまた、仮止め部材140との干渉を回避するように第2開口部15が形成されている。第2開口部15は、円形状に形成され、フライホイール10の周方向に等間隔に複数、具体的には6つ形成されている。
【0110】
付勢部材130は、図17及び図18に示すように、軸方向と直交する方向に板状に延びて円環状に形成されている。付勢部材130は、径方向内側に配置されて円形状に環状に形成される内側環状部132と、径方向外側に配置されて円形状に環状に形成される外側環状部131とを備え、外側環状部131は、内側環状部132より径方向外側に同心状に配置されている。
【0111】
付勢部材130はまた、回転方向に圧縮可能であるバネ部133と、フライホイール10に係止される係止部134と、入力軸20にスプライン嵌合されるスプライン部135と、仮止め部材140に仮止めされる被仮止め部136とを備えている。スプライン部135は、内側環状部132の内周面に形成されて内側環状部132に接続されている。
【0112】
付勢部材130のバネ部133は、内側環状部132から径方向外側に直線状に延びる第1径方向延設部133aと、外側環状部131から径方向内側に第1径方向延設部133aに略平行に直線状に延びる第2径方向延設部133bと、第1及び第2径方向延設部133a,133bの間で略平行に径方向に直線状に延びる第3径方向延設部133cと、第1及び第3径方向延設部133a,133cの径方向外側を連結して円弧状に延びる外側連結部133dと、第3及び第2径方向延設部133c,133bの径方向内側を連結して円弧状に延びる内側連結部133eとを備えている。
【0113】
バネ部133は、一端側が外側環状部131に接続されると共に他端側が内側環状部132に接続され、軸方向一方側から見て略S字状に形成されている。バネ部133は、外側環状部131に対して内側環状部132が回転方向他方側に移動されることにより、第2径方向延設部133bに対して第1径方向延設部133aが回転方向他方側に移動されて回転方向に圧縮可能に構成されている。
【0114】
付勢部材130の係止部134は、バネ部133の回転方向他方側において外側環状部131から径方向内側に延びる第1アーム部137の先端部137aと、先端部137aに設けられたボルト挿通穴137bに軸方向一方側から挿入される締結ボルトB1(図17参照)とによって構成されている。付勢部材130は、締結ボルトB1がフライホイール10の第1開口部13に螺合されることにより、フライホイール10に係止されて固定されるようになっている。
【0115】
付勢部材130の被仮止め部136は、バネ部133の回転方向一方側において内側環状部132から径方向外側に略直線状に延びる第2アーム部138の先端側に設けられている。付勢部材130の被仮止め部136は、第2アーム部138の回転方向一方側の端面に回転方向他方側に窪んで形成されている。
【0116】
バネ部133、係止部134及び被仮止め部136はそれぞれ、付勢部材130の周方向に等間隔に複数、具体的には3つ形成されている。バネ部133はそれぞれ、回転方向他方側に配置される係止部134と回転方向一方側に配置される被仮止め部136との間に配置されている。
【0117】
付勢部材130は、フライホイール10に係止されると共に外側環状部131に対して内側環状部132が回転方向他方側に移動されたバネ部133の第1圧縮状態でスプライン部135が入力軸20のスプライン部21に係合されてフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するようになっている。
【0118】
本実施形態では、仮止め部材140は、図17に示すように、周方向に等間隔に配置された3つの仮止め部材140によって構成されている。仮止め部材140は、板状部材によって形成され、図19及び図20に示すように、付勢部材130に固定される固定部141と、付勢部材130をフライホイール10に仮止めする仮止め部142と、固定部141と仮止め部142とを接続して軸方向と略直交する方向に径方向に延びる仮止め本体部143と、仮止め本体部143の周方向一方側から仮止め部142より径方向内側に延びる径方向延設部144を備えている。仮止め本体部143は、固定部141と仮止め部142とを接続する接続部として機能する。
【0119】
固定部141は、仮止め本体部143の径方向外側に設けられ、付勢部材130の外側環状部131の軸方向一方側に沿って配置されて溶接等によって外側環状部131に固定される。固定部141はまた、外側環状部131の軸方向一方側から径方向外側を通って径方向内側に逆U字状に折り返されたフック部141a(図22参照)を有し、フック部141aが外側環状部131の径方向外側に嵌め込まれた状態で外側環状部131に固定される。なお、固定部141にフック部141aを設けないようにしてもよい。
【0120】
仮止め部材140は、固定部141が付勢部材130に固定されることにより、固定部141に対して仮止め本体部143の径方向内側が軸方向一方側に弾性変位可能に構成され、仮止め部142及び径方向延設部144が軸方向一方側に弾性変位可能になっている。
【0121】
仮止め部142は、仮止め本体部143の径方向内側に設けられて軸方向他方側に延び、付勢部材130のバネ部133が第1圧縮状態より圧縮された第2圧縮状態で付勢部材130をフライホイール10に仮止めするように形成されている。本実施形態では、仮止め部142は、フライホイール10に係止されて固定された付勢部材130に仮止め部材140が固定されることにより、付勢部材130をフライホイール10に仮止めするようになっている。仮止め部142は、フライホイール10との干渉を回避するように第2開口部15に対応して形成されている。
【0122】
図21は、図20に示す仮止め部材の仮止め部及びその近傍の拡大図、図22は、図21のY22-Y22線に沿った付勢部材及び仮止め部材の断面図である。仮止め部142は、図21及び図22に示すように、回転方向他方側に、付勢部材130の被仮止め部136に当接する当接部145と当接部145の軸方向一方側に回転方向一方側に窪む凹部146とを有している。
【0123】
当接部145は、軸方向に対して所定角度で直線状に延びる仮止め部142の回転方向他方側の端面によって形成されている。当接部145は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に所定角度θ3で傾斜する傾斜面部によって形成されている。所定角度θ3は、例えば5度から15度の間の角度に設定される。
【0124】
仮止め部142の凹部146は、仮止め部142の回転方向他方側の端面によって形成され、回転方向一方側に略矩形状に窪んで形成されている。凹部146は、フライホイール10に入力軸20がスプライン嵌合されるときに、付勢部材130の被仮止め部136が凹部146に当接することなく凹部146内に配置されるように形成されている。
【0125】
仮止め部材140の径方向延設部144は、仮止め本体部143の回転方向他方側から仮止め部142より径方向内側に延びている。径方向延設部144は、固定部141に対して仮止め本体部143の径方向内側が軸方向一方側に弾性変位されるとき、固定部141に対して仮止め本体部143より軸方向一方側に弾性変位される。
【0126】
仮止め部材140は、径方向延設部144が軸方向一方側に弾性変位されるとき、仮止め本体部143の径方向内側が軸方向一方側に弾性変位され、当接部145が付勢部材130の被仮止め部136に当接して付勢部材130のバネ部133が第1圧縮状態より圧縮された第2圧縮状態で付勢部材130を仮止めする。
【0127】
図23は、付勢部材が仮止め部材によって仮止めされた状態を示す図である。図23に示すように、仮止め部材140は、固定部141が付勢部材130に固定された状態で仮止め本体部143の径方向内側が軸方向一方側に作業者等によって弾性変位されると、仮止め部142が軸方向一方側に移動されて仮止め部142の当接部145が付勢部材130の被仮止め部136に当接して付勢部材130のバネ部133が第1圧縮状態より圧縮された第2圧縮状態で付勢部材130を仮止めする。
【0128】
なお、当接部145に、第1実施形態と同様に、軸方向一方側に設けられて軸方向に対して第1所定角度で直線状に延びる第1当接部としての第1傾斜面部と、軸方向他方側に設けられて軸方向に対して第1所定角度より大きい第2所定角度で直線状に延びる第2当接部としての第2傾斜面部とを設けて、第1所定角度を、例えば5度から15度の間の角度に設定し、第2所定角度を、例えば30度から45度に設定するようにしてもよい。
【0129】
入力軸20は、図17に示すように、軸方向他方側の外周面にスプライン部21を有している。スプライン部21は、歯筋が軸方向に延びるスプラインを有し、フライホイール10のスプライン部12及び付勢部材130のスプライン部135にスプライン嵌合されるように形成されている。
【0130】
入力軸20はまた、スプライン部21の軸方向一方側に仮止め部材140の仮止め部142によるフライホイール10に対する付勢部材130の仮止めを解除操作する解除操作部22が設けられている。解除操作部22は、円形状に形成され、仮止め部材140の径方向延設部144の径方向内端部より径方向外側に大きく形成されている。
【0131】
解除操作部22は、仮止め部材140の軸方向一方側から入力軸20のスプライン部21が仮止め部材140の径方向中央側を挿通して付勢部材130のスプライン部135を通じてフライホイール10のスプライン部12にスプライン嵌合されるときに、バネ部133の第1圧縮状態で付勢部材130のスプライン部135が入力軸20のスプライン部21に係合してフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するように形成されている。
【0132】
動力伝達装置106では、付勢部材130を軸方向一方側からフライホイール10に係止させて取り付けるとともに付勢部材130に仮止め部材140を軸方向一方側から取り付け、バネ部133の第2圧縮状態で付勢部材130をフライホイール10に仮止めし、その後に、入力軸20を軸方向一方側から入力軸20のスプライン部21を付勢部材130のスプライン部135を通じてフライホイール10のスプライン部12にスプライン嵌合させ、フライホイール10に入力軸20がスプライン嵌合されて組み付けられる。
【0133】
図24は、付勢部材及び仮止め部材がフライホイールに取り付けられた状態を示す図である。フライホイール10に入力軸20をスプライン嵌合させて組み付ける際には、図24に示すように、フライホイール10に、締結ボルトB1を用いて付勢部材130の係止部134を係止させて付勢部材130を取り付ける。付勢部材130は、スプライン部135がフライホイール10のスプライン部12に略一致するように取り付ける。
【0134】
付勢部材130には、軸方向一方側に仮止め部材140が配置され、仮止め部材140のフック部141aが付勢部材130の外側環状部131に嵌め込まれるとともに仮止め部材140の凹部146内に付勢部材130の被仮止め部136が配置された状態で外側環状部131に仮止め部材140の固定部141が溶接等によって固定され、仮止め部材140が取り付けられる。
【0135】
付勢部材130に取り付けられた仮止め部材140は、付勢部材130の被仮止め部136を回転方向他方側に移動させて付勢部材130のバネ部133を圧縮させた状態で径方向延設部144を軸方向一方側に弾性変位させ、付勢部材130のバネ部133が第2圧縮状態に圧縮された状態で付勢部材130の被仮止め部136を仮止め部142の当接部145に当接させて、付勢部材130を仮止めする。
【0136】
図25は、フライホイールへの入力軸の組み付けを説明するための説明図である。次に、入力軸20を、図25に示すように、スプライン部21を付勢部材130のスプライン部135を通じてフライホイール10のスプライン部12にスプライン嵌合させるように軸方向一方側から組み付ける。
【0137】
入力軸20がフライホイール10にスプライン嵌合されるとき、入力軸20の解除操作部22が仮止め部材140の径方向延設部144に当接して入力軸20の軸方向他方側への移動に伴って解除操作部22によって仮止め部材140の仮止め本体部143の径方向内側が軸方向他方側に移動され、仮止め部142が軸方向他方側へ移動される。
【0138】
図23に示すように、仮止め部142が軸方向他方側へ移動されるとき、圧縮状態にある付勢部材130のバネ部133によって仮止め部142の当接部145に付勢部材130の被仮止め部136から回転方向一方側の付勢力F1が作用する。仮止め部142は、付勢力F1によって、被仮止め部136と当接部145との接触部分において当接部145の傾斜面部に直交する方向の押圧力F2で押圧される。
【0139】
当接部145に形成された傾斜面部145によって、付勢部材130のバネ部133による付勢力F1は、フライホイール10に対する付勢部材130の仮止めを解除操作する方向の力F2aに変換される。当接部145に形成された傾斜面部145は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜し、入力軸20の解除操作部22による付勢部材130の仮止めの解除操作をアシストするアシスト機構を構成する。
【0140】
入力軸20は、解除操作部22によって仮止め部142が軸方向他方側に移動されて被仮止め部136が凹部146に接触することなく凹部146内に配置されるまで軸方向他方側に移動されると、解除操作部22によってフライホイール10に対する付勢部材130の仮止めが解除操作され、フライホイール10にスプライン嵌合されて組み付けられる。
【0141】
被仮止め部136が凹部146内に配置されるまで入力軸20が軸方向他方側に移動されると、付勢部材130は、バネ部133によって外側環状部131に対して内側環状部132が回転方向一方側に移動し、付勢部材130は、フライホイール10に係止されると共にバネ部133の第1圧縮状態でスプライン部135が入力軸20のスプライン部21に係合されてフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢する。
【0142】
動力伝達装置106についても、フライホイール10のスプライン部12と入力軸20のスプライン部21がスプライン嵌合されたスプライン嵌合部では、付勢部材130によって入力軸20が回転方向一方側に付勢され、入力軸20のスプライン部21の歯部の回転方向他方側が付勢部材130のスプライン部135の歯部の回転方向一方側に係合され、入力軸20のスプライン部21の歯部の回転方向一方側がフライホイール10のスプライン部12の歯部の回転方向他方側に係合される。
【0143】
このようにして、動力伝達装置106についても、フライホイール10に対して入力軸20を回転方向に付勢する付勢部材130と、付勢部材130をフライホイール10に仮止めする仮止め部材140とを用い、付勢部材130によってフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢し、フライホイール10と入力軸20のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0144】
動力伝達装置106についても、付勢部材130をフライホイール10に係止させて取り付け、仮止め部材140をフライホイール10及び付勢部材130に取り付けてバネ部133の圧縮状態で付勢部材130をフライホイール10に仮止めし、入力軸20をフライホイール10にスプライン嵌合させて組み付けることで、フライホイール10に入力軸20を組付性良くスプライン嵌合させて組み付けることができる。
【0145】
動力伝達装置106では、仮止め部材140は、付勢部材130がフライホイール10に係止されて取り付けられる前に付勢部材130に固定して取り付けるようにしてもよく、また、付勢部材130がフライホイール10に係止されて取り付けられた後に付勢部材130に固定して取り付けるようにしてもよい。
【0146】
本実施形態では、付勢部材130によってフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するように構成されているが、付勢部材130によってフライホイール10に対して入力軸20を回転方向他方側に付勢するようにしてもよい。
【0147】
付勢部材130は、回転方向に圧縮可能であるバネ部133を備え、バネ部133の第1圧縮状態でフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するように形成され、仮止め部材140は、バネ部133が第1圧縮状態より圧縮された第2圧縮状態で付勢部材130をフライホイール10に仮止めするように形成され、バネ部133は、回転方向に圧縮方向に弾性変位可能に構成されているが、回転方向に引張方向に弾性変位可能に構成することも可能である。
【0148】
このように、本実施形態に係る動力伝達装置106では、第1及び第2動力伝達部材10,20をスプライン嵌合して組み付ける際に、第1動力伝達部材10に係止されると共にバネ部133の第1弾性変位状態でスプライン部135が第2動力伝達部材20のスプライン部21に係合されて第1動力伝達部材10に対して第2動力伝達部材20を回転方向一方側に付勢する付勢部材130と、バネ部133が第1弾性変位状態より弾性変位された第2弾性変位状態で付勢部材130を第1動力伝達部材10に仮止めする仮止め部142を有する仮止め部材140とが用いられ、第2動力伝達部材20のスプライン部21の軸方向一方側に、仮止め部142による第1動力伝達部材10に対する付勢部材130の仮止めを解除操作する解除操作部22が設けられる。
【0149】
これにより、付勢部材130を第1動力伝達部材10に係止させて取り付け、仮止め部材140を第1動力伝達部材10及び付勢部材30に取り付けてバネ部133の第2弾性変位状態で付勢部材130を第1動力伝達部材10に仮止めし、第2動力伝達部材20のスプライン部21を付勢部材130のスプライン部135を通じて第1動力伝達部材10のスプライン部12にスプライン嵌合させて第2動力伝達部材20を第1動力伝達部材10に組み付けることで、仮止め部材140の仮止め部142による第1動力伝達部材10に対する付勢部材130の仮止めが解除されて第1動力伝達部材10に対して第2動力伝達部材20を回転方向一方側に付勢させ、第1及び第2動力伝達部材10,20のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0150】
第1及び第2動力伝達部材10,20のスプライン部12,21の形状を変更することなく、付勢部材130を第1動力伝達部材10に係止させ、仮止め部材140によって付勢部材130を第1動力伝達部材10に仮止めし、第2動力伝達部材20を第1動力伝達部材10にスプライン嵌合させることで、第1動力伝達部材10に対して第2動力伝達部材20を回転方向一方側に付勢させることができるので、比較的容易に組み付けることができる。したがって、比較的簡素な構成によって組付性良く第1及び第2動力伝達部材10,20のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0151】
また、付勢部材130は、バネ部133と、係止部134と、スプライン部135と、内側環状部132と、外側環状部131と、仮止め部142に仮止めされる被仮止め部136とを備え、係止部134は、外側環状部131に接続され、スプライン部135及び被仮止め部136は、内側環状部132に接続され、バネ部133は、バネ部133の一端側が外側環状部131に接続されると共にバネ部133の他端側が内側環状部132に接続され、外側環状部131に対して内側環状部132が回転方向他方側に移動されることにより回転方向に弾性変位される。
【0152】
これにより、外側環状部131に対して内側環状部132が回転方向他方側に移動されることにより回転方向に弾性変位されるバネ部133を備えた付勢部材130が用いられるので、付勢部材130としてのスプリングを用いる場合のように、スプリングを保持するスプリング保持部材などを用いる必要がなく、組付性を向上させることができる。
【0153】
また、仮止め部材140は、付勢部材130の外側環状部131に固定して取り付けられる。これにより、第1及び第2動力伝達部材10,20がスプライン嵌合されて組み付けられたときに仮止め部材140の周方向のガタつきを抑制することができる。
【0154】
また、仮止め部材140は、付勢部材130に周方向に等間隔に複数取り付けられる。これにより、付勢部材130に周方向に等間隔に複数取り付けられる仮止め部材140によって、第1及び第2動力伝達部材10,20のスプライン嵌合部の歯打ち音を有効に抑制することができる。
【0155】
また、解除操作部22による付勢部材130の仮止めの解除操作をアシストするアシスト機構145を備える。これにより、アシスト機構145によって解除操作部22による付勢部材130の仮止めの解除操作がアシストされるので、付勢部材130の仮止めの解除を比較的容易に行うことができ、第1動力伝達部材10に対する第2動力伝達部材20の組付性を向上させることができる。
【0156】
また、付勢部材130は、仮止め部142に仮止めされる被仮止め部136を備え、仮止め部142は、回転方向他方側に被仮止め部136に当接する当接部145を有し、当接部145は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜する傾斜面部145によって形成され、アシスト機構145は、傾斜面部145によって構成される。
【0157】
これにより、アシスト機構145を構成する仮止め部142の当接部145に形成された傾斜面部145は、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜するので、付勢部材130のバネ部133によって仮止め部142の当接部145に付勢部材130の被仮止め部136から回転方向一方側に付勢される付勢力を、第1動力伝達部材10に対する付勢部材130の仮止めを解除操作する方向の力に変換させることができ、付勢部材130の仮止めを解除操作する操作力を低減させることができ、組付性を向上させることができる。
【0158】
図26は、第2実施形態に係る付勢部材の変形例を示す図である。図26に示すように、付勢部材130のバネ部として、バネ部133´の第2径方向延設部133b´が外側環状部131から径方向内側に延びる第1アーム部137に接続されることで、バネ部133´の一端側が外側環状部131に接続されるバネ部133´を用いるようにしてもよい。
【0159】
図27は、第2実施形態に係る仮止め部材の変形例を示す図である。図27に示す仮止め部材140´は、仮止め部材140と同様に、付勢部材130に固定される固定部141と、付勢部材130をフライホイール10に仮止めする仮止め部142と、固定部141と仮止め部142とを接続して軸方向と略直交する方向に径方向に延びる仮止め本体部143と、仮止め本体部143の周方向一方側から仮止め部142より径方向内側に延びる径方向延設部144を備えている。
【0160】
固定部141はまた、仮止め本体部143の径方向外側に設けられて溶接等によって外側環状部131に固定されるとともに、外側環状部131の軸方向一方側から径方向外側を通って径方向内側に逆U字状に折り返されたフック部141a(図28参照)を有し、フック部141aが外側環状部131の径方向外側に嵌め込まれた状態で外側環状部131に固定されるようになっている。
【0161】
仮止め部材140では、フック部141aの折り返し部分と仮止め本体部143とは平行に径方向に延びているが、仮止め部材140´では、フック部141aの折り返し部分と仮止め本体部143とが所定角度θ4開くように形成される。所定角度θ4として、例えば5度から10度の間の角度が設定される。
【0162】
図28は、前記仮止め部材による付勢部材の仮止めを説明するための説明図である。図28(a)に示すように、仮止め部材140´では、フック部141aの折り返し部分と仮止め本体部143とが平行になるように仮止め本体部143が軸方向他方側に弾性変位させた状態で、固定部141が付勢部材130に溶接等によって固定される。これにより、仮止め部材140´は、固定部141に対して仮止め本体部143の径方向内側が軸方向一方側に弾性力によって移動可能に構成され、仮止め部142及び径方向延設部144が軸方向一方側に移動可能になっている。
【0163】
固定部141に対して仮止め部142及び径方向延設部144が仮止め部材140´の弾性力によって軸方向一方側に移動可能になっているが、付勢部材130の被仮止め部136が仮止め部材140´の凹部146の軸方向他方側の側面によって軸方向一方側に移動されることが規制される。
【0164】
そして、図28(b)に示すように、付勢部材130の被仮止め部136が作業者等によって回転方向他方側に移動されて付勢部材130のバネ部133が圧縮されるとき、固定部141に対して仮止め部142及び径方向延設部144が仮止め部材140´の弾性力によって軸方向一方側に移動され、仮止め部142は、付勢部材130のバネ部133が第1圧縮状態より圧縮された第2圧縮状態で付勢部材130を仮止めする。
【0165】
このように、仮止め部材140´は、付勢部材130に固定される固定部141と、仮止め部142と、固定部141と仮止め部142とを接続すると共に固定部141に対して仮止め部142が軸方向他方側に弾性変位された状態で固定部141が付勢部材130に固定される接続部143とを有し、付勢部材130に固定された固定部141に対して仮止め部142が軸方向一方側に弾性力によって移動して仮止め部142が付勢部材130を仮止めするように構成するようにしてもよい。
【0166】
かかる場合についても、付勢部材130に固定された固定部141に対して仮止め部142が軸方向一方側に弾性力によって移動して仮止め部142が付勢部材130を仮止めするように構成される仮止め部材140´を用いて、第1及び第2動力伝達部材10,20のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制するとともに、第1及び第2動力伝達部材10,20がスプライン嵌合されて組み付けられたときに仮止め部材140´の周方向のガタつきを抑制することができる。
【0167】
図29は、本発明の第3実施形態に係る動力伝達装置の斜視図、図30は、動力伝達装置の分解斜視図、図31は、付勢部材の正面図、図32は、付勢部材及び仮止め部材の正面図、図33は、付勢部材及び仮止め部材の斜視図である。第3実施形態に係る動力伝達装置206は、第1実施形態に係る動力伝達装置6と同様に、図29から図33に示すように、フライホイール10と入力軸20との間に配置される付勢部材230と仮止め部材240とを備えている。
【0168】
付勢部材230は、フライホイール10より反エンジン側である軸方向一方側に配置され、仮止め部材240は、付勢部材230より軸方向一方側に配置され、入力軸20は、仮止め部材240より軸方向一方側に配置されている。付勢部材230は、フライホイール10及び入力軸20の軸方向に略直交する径方向に略平板状に形成されている。本実施形態では、仮止め部材240は、周方向に等間隔に複数、具体的には4つに分割して構成されている。
【0169】
フライホイール10は、図30に示すように、径方向中央側に突出部11を備えると共に、径方向中心にスプライン部12が形成されている。フライホイール10には、付勢部材230が係止される被係止部13としての第1開口部13が形成され、本実施形態では、第1開口部13は、ネジ穴として形成されている。第1開口部13は、フライホイール10の突出部11から径方向外側に延びて付勢部材230を支持する支持部16に形成されている。フライホイール10には、回転方向である周方向に延びる支持部16が周方向に等間隔に複数、具体的には4つ形成されている。支持部16にそれぞれ第1開口部13が形成されている。
【0170】
付勢部材230は、図30及び図31に示すように、軸方向と直交する方向に板状に延びて円環状に形成されている。付勢部材230は、径方向内側に配置されて円形状に環状に形成される内側環状部232と、径方向外側に配置されて円形状に環状に形成される外側環状部231とを備え、外側環状部231は、内側環状部232より径方向外側に同心状に配置されている。外側環状部231は、内側環状部232より軸方向他方側にオフセットして配置され、外側環状部231に、内周側から略円筒状に軸方向一方側に内側環状部232と軸方向同一位置まで延びるフランジ部231bが設けられている。
【0171】
付勢部材230はまた、回転方向に引張可能であるバネ部233と、フライホイール10に係止される係止部234と、入力軸20にスプライン嵌合されるスプライン部235と、仮止め部材240に仮止めされる被仮止め部236とを備えている。スプライン部235は、内側環状部232の内周面に形成されて内側環状部232に接続されている。
【0172】
付勢部材230のバネ部233は、内側環状部232から径方向外側に直線状に延びる第1径方向延設部233aと、外側環状部231から径方向内側に第1径方向延設部233aに略平行に直線状に延びる第2径方向延設部233bと、第1及び第2径方向延設部233a,233bの間で略平行に径方向に直線状に延びる第3径方向延設部233cと、第1及び第3径方向延設部233a,233cの径方向外側を連結して円弧状に延びる外側連結部233dと、第3及び第2径方向延設部233c,233bの径方向内側を連結して円弧状に延びる内側連結部233eとを備えている。
【0173】
バネ部233は、一端側が外側環状部231に接続されると共に他端側が内側環状部232に接続され、軸方向他方側から見て略S字状に形成されている。バネ部233は、外側環状部231に対して内側環状部232が回転方向他方側に移動されることにより、第2径方向延設部233bに対して第1径方向延設部233aが回転方向他方側に移動されて回転方向に引張可能に構成されている。
【0174】
付勢部材230の係止部234は、外側環状部231と、外側環状部231に設けられたボルト挿通穴231aに軸方向一方側から挿入される締結ボルトB2(図30参照)とによって構成されている。付勢部材230は、締結ボルトB2がフライホイール10の第1開口部13に螺合されることにより、フライホイール10に係止されて固定されるようになっている。
【0175】
付勢部材230の被仮止め部236は、バネ部233の回転方向他方側において内側環状部232から径方向外側に略直線状に延びるアーム部238の先端側に設けられている。アーム部238は、内側環状部232から径方向外側に断面略矩形状に延び、被仮止め部236が設けられた先端側が外側環状部231と略面一になるように形成されている。外側環状部231には、径方向内側から径方向外側に軸方向から見て略矩形状に切り欠かれた切欠部231cが形成され、切欠部231c内に、被仮止め部236及び仮止め部242が配置されている。
【0176】
バネ部233、係止部234及び被仮止め部236はそれぞれ、付勢部材230の周方向に等間隔に複数、具体的には4つ形成されている。係止部234は、バネ部233と回転方向にオーバーラップする位置に配置され、被仮止め部236は、バネ部233の回転方向他方側に配置されている。
【0177】
付勢部材230は、フライホイール10に係止されると共に外側環状部231に対して内側環状部232が回転方向他方側に移動されたバネ部233の第1引張状態でスプライン部235が入力軸20のスプライン部21に係合されてフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するようになっている。
【0178】
本実施形態では、仮止め部材240は、図30に示すように、周方向に等間隔に配置された4つの仮止め部材240によって構成されている。仮止め部材240は、板状部材によって形成され、図32及び図33に示すように、付勢部材230に固定される固定部241と、付勢部材230をフライホイール10に仮止めする仮止め部242と、固定部241と仮止め部242とを接続して周方向に延びる仮止め本体部243とを備えている。仮止め本体部243は、固定部241と仮止め部242とを接続する接続部として機能する。
【0179】
仮止め本体部243は、軸方向他方側に配置されて周方向に延びる第1周方向延設部243aと、軸方向一方側に配置されて周方向に延びる第2周方向延設部243bと、第1及び第2周方向延設部243a,243bの周方向一端側である回転方向一方側を連結して円弧状に延びる連結部243cとを備え、略U字状に形成されている。
【0180】
固定部241は、仮止め本体部243の第1周方向延設部243aの回転方向他方側に設けられ、付勢部材230の外側環状部231の軸方向一方側に沿って配置されて溶接等によって外側環状部131に固定される。
【0181】
仮止め部242は、仮止め本体部243の第2周方向延設部243bの回転方向他方側に設けられている。仮止め部材240は、固定部241が付勢部材230に固定されることにより、固定部241に対して仮止め本体部243の第2周方向延設部243bの回転方向他方側が軸方向一方側に弾性変位可能に構成され、仮止め部242が軸方向一方側に弾性変位可能になっている。
【0182】
仮止め部242は、仮止め本体部243の第2周方向延設部243bの回転方向他方側から軸方向他方側に延び、付勢部材230のバネ部233が第1引張状態より引張された第2引張状態で付勢部材230をフライホール10に仮止めするように形成されている。本実施形態では、仮止め部242は、フライホイール10に係止されて固定された付勢部材230に仮止め部材240が固定されることにより、付勢部材230をフライホイール10に仮止めするようになっている。仮止め部242は、フライホイール10との干渉を回避するようにフライホイール10に形成された支持部16と周方向に異なる位置に配置されている。
【0183】
図34は、図33に示す仮止め部材の仮止め部及びその近傍の断面図である。仮止め部242は、図34に示すように、回転方向他方側に、付勢部材230の被仮止め部236に当接する当接部244と当接部244の軸方向一方側に回転方向一方側に窪む凹部245とを有している。
【0184】
当接部244は、軸方向に略平行に直線状に延びる仮止め部242の回転方向他方側の端面によって形成されている。当接部244は、前述した実施形態と同様に、軸方向一方側に向かうにつれて回転方向一方側に傾斜する傾斜面部によって形成するようにしてもよい。
【0185】
図35は、付勢部材が仮止め部材によって仮止めされた状態を示す図である。図35に示すように、仮止め部242の凹部245は、仮止め部242の回転方向他方側の端面によって形成され、回転方向一方側に略台形状に窪んで形成されている。凹部245は、軸方向一方側の側面が軸方向と直交する方向に直線状に延び、軸方向他方側の側面が回転方向一方側に向かうにつれて軸方向一方側に傾斜して形成されている。凹部245は、フライホイール10に入力軸20がスプライン嵌合されるときに、付勢部材230の被仮止め部236が凹部245に当接することなく凹部245内に配置されるように形成されている。なお、凹部245は、仮止め部材140と同様に略矩形状に形成するようにしてよい。
【0186】
仮止め部材240にはまた、図34に示すように、仮止め本体部243の第1周方向延設部243aに、切欠部231cを通じて外側環状部231の軸方向他方側に延びてから回転方向他方側に延びるガイド部243dが設けられている。ガイド部243dは、付勢部材230の被仮止め部236の軸方向他方側に配置されて被仮止め部236が回転方向に移動するようにガイドする。仮止め部材240のガイド部243dは、仮止め部242より径方向内側に設けられている。
【0187】
図35に示すように、仮止め部材240は、固定部241に対して仮止め本体部243の第2周方向延設部243bの回転方向他方側が軸方向一方側に作業者等によって弾性変位されると、仮止め部242が軸方向一方側に弾性変位され、当接部244が付勢部材230の被仮止め部236に当接して付勢部材230のバネ部233が第1引張状態より引張された第2引張状態で付勢部材230を仮止めする。
【0188】
入力軸20は、図29に示すように、軸方向他方側の外周面にスプライン部21を有している。スプライン部21は、歯筋が軸方向に延びるスプラインを有し、フライホイール10のスプライン部12及び付勢部材230のスプライン部235にスプライン嵌合されるように形成されている。
【0189】
入力軸20のスプライン部21の軸方向一方側には、仮止め部材240の仮止め部242によるフライホイール10に対する付勢部材230の仮止めを解除操作する解除操作部22´が設けられている。本実施形態では、解除操作部22´は、入力軸20を回転可能に支持する変速機ケース5に設けられ、変速機ケース5の外周部から径方向内側に延びる縦壁部5aに形成されている。
【0190】
解除操作部22´は、仮止め部材240の軸方向一方側から入力軸20のスプライン部21が仮止め部材240の径方向中央側を挿通して付勢部材230のスプライン部235を通じてフライホイール10のスプライン部12にスプライン嵌合されるときに、バネ部233の第1引張状態で付勢部材230のスプライン部235が入力軸20のスプライン部21に係合してフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するように形成されている。
【0191】
動力伝達装置206では、付勢部材230を軸方向一方側からフライホイール10に係止させて取り付けるとともに付勢部材230に仮止め部材240を軸方向一方側から取り付け、バネ部233の第2引張状態で付勢部材230をフライホイール10に仮止めし、その後に、入力軸20を軸方向一方側から入力軸20のスプライン部21を付勢部材230のスプライン部235を通じてフライホイール10のスプライン部12にスプライン嵌合させ、フライホイール10に入力軸20がスプライン嵌合されて組み付けられる。
【0192】
図36は、付勢部材及び仮止め部材がフライホイールに取り付けられた状態を示す図である。フライホイール10に入力軸20をスプライン嵌合させて組み付ける際には、図36に示すように、フライホイール10に、締結ボルトB2を用いて付勢部材230の係止部234を係止させて付勢部材230を取り付ける。付勢部材230は、スプライン部235がフライホイール10のスプライン部12に略一致するように取り付ける。
【0193】
付勢部材230には、軸方向一方側に仮止め部材240が配置され、仮止め本体部243の第1周方向延設部243aが外側環状部231に重ね合わせられると共に仮止め部材240の凹部245内に付勢部材230の被仮止め部236が配置された状態で、外側環状部131に仮止め部材240の固定部241が溶接等によって固定され、仮止め部材240が取り付けられる。
【0194】
付勢部材230に取り付けられた仮止め部材240は、付勢部材230の被仮止め部236を回転方向他方側に移動させて付勢部材230のバネ部233を引張させた状態で第2周方向延設部243bを軸方向一方側に弾性変位させ、付勢部材230のバネ部233が第2引張状態に引張された状態で、付勢部材230の被仮止め部236を仮止め部242の当接部244に当接させて、付勢部材230を仮止めする。
【0195】
図37は、フライホイールへの入力軸の組み付けを説明するための説明図である。次に、入力軸20を、図37に示すように、スプライン部21を付勢部材230のスプライン部235を通じてフライホイール10のスプライン部12にスプライン嵌合させるように軸方向一方側から組み付ける。
【0196】
入力軸20がフライホイール10にスプライン嵌合されるとき、入力軸20とともに軸方向他方側に移動される変速機ケース5に設けられた解除操作部22´が仮止め部材240の第2周方向延設部243bに当接して入力軸20の軸方向他方側への移動に伴って解除操作部22´によって仮止め部材240の第2周方向延設部243bの回転方向他方側が軸方向他方側に移動され、仮止め部242が軸方向他方側へ移動される。
【0197】
入力軸20は、解除操作部22´によって仮止め部242が軸方向他方側に移動されて被仮止め部236が凹部245に接触することなく凹部245内に配置されるまで軸方向他方側に移動されると、解除操作部22´によってフライホイール10に対する付勢部材230の仮止めが解除操作され、フライホイール10にスプライン嵌合されて組み付けられる。
【0198】
被仮止め部236が凹部245内に配置されるまで入力軸20が軸方向他方側に移動されると、付勢部材230は、バネ部233によって外側環状部231に対して内側環状部232が回転方向一方側に移動し、付勢部材230は、フライホイール10に係止されると共にバネ部233の第1引張状態でスプライン部235が入力軸20のスプライン部21に係合されてフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢する。
【0199】
動力伝達装置206についても、フライホイール10のスプライン部12と入力軸20のスプライン部21がスプライン嵌合されたスプライン嵌合部では、付勢部材230によって入力軸20が回転方向一方側に付勢され、入力軸20のスプライン部21の歯部の回転方向他方側が付勢部材230のスプライン部235の歯部の回転方向一方側に係合され、入力軸20のスプライン部21の歯部の回転方向一方側がフライホイール10のスプライン部12の歯部の回転方向他方側に係合される。
【0200】
このようにして、動力伝達装置206についても、フライホイール10に対して入力軸20を回転方向に付勢する付勢部材230と、付勢部材230をフライホイール10に仮止めする仮止め部材240とを用い、付勢部材230によってフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢し、フライホイール10と入力軸20のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0201】
動力伝達装置206では、付勢部材230をフライホイール10に係止させて取り付け、仮止め部材240をフライホイール10及び付勢部材230に取り付けてバネ部233の引張状態で付勢部材230をフライホイール10に仮止めし、変速機ケース5に支持された入力軸20をフライホイール10にスプライン嵌合させて組み付けることで、フライホイール10に入力軸20を組付性良くスプライン嵌合させて組み付けることができる。
【0202】
動力伝達装置206では、仮止め部材240は、付勢部材230がフライホイール10に係止されて取り付けられる前に付勢部材230に固定して取り付けるようにしてもよく、また、付勢部材230がフライホイール10に係止されて取り付けられた後に付勢部材230に固定して取り付けるようにしてもよい。
【0203】
本実施形態では、付勢部材230によってフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するように構成されているが、付勢部材230によってフライホイール10に対して入力軸20を回転方向他方側に付勢するようにしてもよい。
【0204】
付勢部材230は、回転方向に引張可能であるバネ部233を備え、バネ部233の第1引張状態でフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するように形成され、仮止め部材240は、バネ部233が第1引張状態より引張された第2引張状態で付勢部材230をフライホイール10に仮止めするように形成され、バネ部233は、回転方向に引張方向に弾性変位可能に構成されているが、回転方向に圧縮方向に弾性変位可能に構成することも可能である。
【0205】
付勢部材230は、回転方向に圧縮可能であるバネ部を備え、前記バネ部の第1圧縮状態でフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するように形成し、仮止め部材240は、前記バネ部が第1圧縮状態より圧縮された第2圧縮状態で付勢部材230をフライホイール10に仮止めするように形成することも可能である。
【0206】
かかる場合、前記バネ部は、外側環状部231に対して内側環状部232が回転方向他方側に移動されることにより回転方向に圧縮され、入力軸20のスプライン部21の軸方向一方側に設けられる解除操作部22´は、入力軸20のスプライン部21が付勢部材230のスプライン部235を通じてフライホイール10のスプライン部12にスプライン嵌合されるときに、前記バネ部の第1圧縮状態で付勢部材230のスプライン部235が入力軸20のスプライン部21に係合してフライホイール10に対して入力軸20を回転方向一方側に付勢するように仮止め部材240の仮止め部によるフライホイール10に対する付勢部材230の仮止めを解除操作するように形成される。
【0207】
このように、本実施形態に係る動力伝達装置206では、第1及び第2動力伝達部材10,20をスプライン嵌合して組み付ける際に、第1動力伝達部材10に係止されると共にバネ部233の第1弾性変位状態でスプライン部235が第2動力伝達部材20のスプライン部21に係合されて第1動力伝達部材10に対して第2動力伝達部材20を回転方向一方側に付勢する付勢部材230と、バネ部233が第1弾性変位状態より弾性変位された第2弾性変位状態で付勢部材230を第1動力伝達部材10に仮止めする仮止め部242を有する仮止め部材240とが用いられ、第2動力伝達部材20のスプライン部21の軸方向一方側に、仮止め部242による第1動力伝達部材10に対する付勢部材230の仮止めを解除操作する解除操作部22´が設けられる。
【0208】
これにより、付勢部材230を第1動力伝達部材10に係止させて取り付け、仮止め部材240を第1動力伝達部材10及び付勢部材30に取り付けてバネ部233の第2弾性変位状態で付勢部材230を第1動力伝達部材10に仮止めし、第2動力伝達部材20のスプライン部21を付勢部材230のスプライン部235を通じて第1動力伝達部材10のスプライン部12にスプライン嵌合させて第2動力伝達部材20を第1動力伝達部材10に組み付けることで、仮止め部材240の仮止め部242による第1動力伝達部材10に対する付勢部材230の仮止めが解除されて第1動力伝達部材10に対して第2動力伝達部材20を回転方向一方側に付勢させ、第1及び第2動力伝達部材10,20のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0209】
第1及び第2動力伝達部材10,20のスプライン部12,21の形状を変更することなく、付勢部材230を第1動力伝達部材10に係止させ、仮止め部材240によって付勢部材230を第1動力伝達部材10に仮止めし、第2動力伝達部材20を第1動力伝達部材10にスプライン嵌合させることで、第1動力伝達部材10に対して第2動力伝達部材20を回転方向一方側に付勢させることができるので、比較的容易に組み付けることができる。したがって、比較的簡素な構成によって組付性良く第1及び第2動力伝達部材10,20のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することができる。
【0210】
また、付勢部材230は、バネ部233と、係止部234と、スプライン部235と、内側環状部232と、外側環状部231と、仮止め部242に仮止めされる被仮止め部236とを備え、係止部234は、外側環状部231に接続され、スプライン部235及び被仮止め部236は、内側環状部232に接続され、バネ部233は、バネ部233の一端側が外側環状部231に接続されると共にバネ部233の他端側が内側環状部232に接続され、外側環状部231に対して内側環状部232が回転方向他方側に移動されることにより回転方向に弾性変位される。
【0211】
これにより、外側環状部231に対して内側環状部232が回転方向他方側に移動されることにより回転方向に弾性変位されるバネ部233を備えた付勢部材230が用いられるので、付勢部材230としてのスプリングを用いる場合のように、スプリングを保持するスプリング保持部材などを用いる必要がなく、組付性を向上させることができる。
【0212】
また、仮止め部材240は、付勢部材230の外側環状部231に固定して取り付けられる。これにより、第1及び第2動力伝達部材10,20がスプライン嵌合されて組み付けられたときに仮止め部材240の周方向のガタつきを抑制することができる。
【0213】
また、仮止め部材240は、付勢部材230に周方向に等間隔に複数取り付けられる。これにより、付勢部材230に周方向に等間隔に複数取り付けられる仮止め部材240によって、第1及び第2動力伝達部材10,20のスプライン嵌合部の歯打ち音を有効に抑制することができる。
【0214】
また、解除操作部22´は、第2動力伝達部材20を回転可能に支持するケース5に設けられる。これにより、第2動力伝達部材20とともに軸方向他方側に移動されるケース5に設けられた解除操作部22´によって付勢部材230の仮止めを解除させ、ケース5の慣性質量を用いて付勢部材230の仮止めを解除操作することができる。
【0215】
図38は、第3実施形態に係る仮止め部材の変形例を示す図である。図38に示す仮止め部材240´は、仮止め部材240と同様に、付勢部材230に固定される固定部241と、付勢部材230をフライホイール10に仮止めする仮止め部242と、固定部241と仮止め部242とを接続して周方向に延びる仮止め本体部243とを備えている。
【0216】
仮止め本体部243はまた、第1周方向延設部243aと、第2周方向延設部243bと、第1周方向延設部243aと第2周方向延設部243bとを連結して円弧状に延びる連結部243cとを備え、略U字状に形成されている。
【0217】
固定部241はまた、仮止め本体部243の第1周方向延設部243aの回転方向他方側に設けられ、付勢部材230の外側環状部231の軸方向一方側に沿って配置されて溶接等によって外側環状部131に固定されるようになっている。
【0218】
仮止め部材240では、仮止め本体部243の第2周方向延設部243bと第1周方向延設部243aとは平行に周方向に延びているが、仮止め部材240´では、第2周方向延設部243bと第1周方向延設部243aとが所定角度θ5開くように形成される。所定角度θ5として、例えば5度から10度の間の角度が設定される。
【0219】
図39は、前記仮止め部材による付勢部材の仮止めを説明するための説明図である。図39(a)に示すように、仮止め部材240´では、仮止め本体部243の第2周方向延設部243bと第1周方向延設部243aとが平行になるように第2周方向延設部243bが軸方向他方側に弾性変位させた状態で、固定部241が付勢部材230に溶接等によって固定される。これにより、仮止め部材240´は、固定部241に対して仮止め本体部243の第2周方向延設部232bの回転方向他方側が軸方向一方側に弾性力によって移動可能に構成され、仮止め部242が軸方向一方側に移動可能になっている。
【0220】
固定部241に対して仮止め部242が仮止め部材240´の弾性力によって軸方向一方側に移動可能になっているが、付勢部材230の被仮止め部236が仮止め部材240´の凹部245の軸方向他方側の側面によって軸方向一方側に移動されることが規制される。
【0221】
そして、図39(b)に示すように、付勢部材230の被仮止め部236が作業者等によって回転方向他方側に移動されて付勢部材230のバネ部233が引張されるときに、固定部241に対して仮止め部242が仮止め部材240´の弾性力によって軸方向一方側に移動され、仮止め部242は、付勢部材230のバネ部233が第1引張状態より引張された第2引張状態で付勢部材230を仮止めする。
【0222】
このように、仮止め部材240´は、付勢部材230に固定される固定部241と、仮止め部242と、固定部241と仮止め部242とを接続すると共に固定部241に対して仮止め部242が軸方向他方側に弾性変位された状態で固定部241が付勢部材230に固定される接続部243とを有し、付勢部材230に固定された固定部241に対して仮止め部242が軸方向一方側に弾性力によって移動して仮止め部242が付勢部材230を仮止めするように構成するようにしてもよい。
【0223】
かかる場合についても、付勢部材230に固定された固定部241に対して仮止め部242が軸方向一方側に弾性力によって移動して仮止め部242が付勢部材230を仮止めするように構成される仮止め部材240´を用いて、第1及び第2動力伝達部材10,20のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制するとともに、第1及び第2動力伝達部材10,20がスプライン嵌合されて組み付けられたときに仮止め部材240´の周方向のガタつきを抑制することができる。
【0224】
前述した実施形態では、第1動力伝達部材としてフライホイール10を用い、第2動力伝達部材として変速機3の入力軸20を用いているが、フライホイール10にダンパ装置が連結される場合についても、第1動力伝達部材としてフライホイールに代えてダンパ装置の出力部材を用い、同様に適用することができる。
【0225】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0226】
以上のように、本発明によれば、比較的簡素な構成によって組付性良く第1及び第2動力伝達部材のスプライン嵌合部の歯打ち音を抑制することが可能であるから、スプライン嵌合されて組み付けられる第1及び第2動力伝達部材を備えた動力伝達装置が搭載される車両において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0227】
5 変速機ケース
6,106,206 動力伝達装置
10 フライホイール(第1動力伝達部材)
12 フライホイールのスプライン部
20 入力軸(第2動力伝達部材)
21 入力軸のスプライン部
22,22´ 解除操作部
30,130,230 付勢部材
31,131,231 外側環状部
32,132,232 内側環状部
33,133,233 バネ部
34,134,234 係止部
35,135,235 付勢部材のスプライン部
36,136,236 被仮止め部
40,140,240 仮止め部材
41,143,243 仮止め本体部
42,142,242 仮止め部
43 被規制部
44,145,244 当接部
45,146,245 凹部
141 固定部
図1
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