(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20241210BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20241210BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20241210BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20241210BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20241210BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20241210BHJP
【FI】
F02D45/00 364A
F02D29/00 C
F02D43/00 301B
F02D43/00 301K
F02D29/06 D
F02P5/15 B
B60K6/48
(21)【出願番号】P 2021061726
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】早坂 昭人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小林 寛英
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0327102(US,A1)
【文献】国際公開第2011/004433(WO,A1)
【文献】特開2009-203953(JP,A)
【文献】特開2020-050321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 43/00-45/00
F02D 29/00-29/06
F02P 5/15
B60K 6/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと電動機とを含む駆動力源と、前記駆動力源の出力トルクを駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両の、制御装置であって、
駆動トルクが負トルクから正トルクへ変化させられる際に前記動力伝達装置におけるガタ詰め方向が反転する予め定められた前記駆動力源の出力トルクの所定トルク領域内では、前記駆動力源の出力トルクを、前記所定トルク領域外に比べて上昇勾配が小さな値とされた緩変化トルクとするように、前記エンジンと前記電動機とを制御する駆動力源制御部を含んでおり、
前記駆動力源制御部は、前記緩変化トルクを実現するように、前記電動機の出力トルクを固定した状態で前記エンジンの出力トルクを制御する
ものであり、
前記駆動力源制御部は、前記緩変化トルクを実現する緩変化制御の実行中において、前記緩変化トルクよりも所定トルク分高い、前記エンジンの吸入空気量の調整によって制御する前記エンジンの出力トルクの要求値である吸気要求トルクを設定し、前記吸気要求トルクに対して点火遅角制御によって低減した後の前記エンジンの出力トルクの要求値である遅角後要求トルクを前記緩変化トルクに設定することで前記エンジンの出力トルクを制御すると共に、前記電動機の出力トルクの要求値である要求電動機トルクをゼロに設定することで前記電動機の出力トルクを固定した状態とするものであり、
前記所定トルク分は、前記点火遅角制御によって前記緩変化トルクが形成可能となる為の予め定められたトルク分であることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記駆動力源制御部は、前記遅角後要求トルクが前記所定トルク領域の上限トルクを超えた場合には、前記遅角後要求トルクにおける前記点火遅角制御によるトルク低減量分を漸減して、前記点火遅角制御の終了準備を実行することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記駆動力源制御部は、前記エンジンの動力によって発電した前記電動機からの電力を充電する蓄電装置の充電要求が有る場合には、前記緩変化制御の実行中において、前記充電要求を実現する前記エンジンの出力トルクの要求値である充電要求トルクを前記緩変化トルクに加算したトルク値よりも前記所定トルク分高い前記吸気要求トルクを設定し、前記遅角後要求トルクを、前記緩変化トルクに前記充電要求トルクを加算したトルク値に設定することで前記エンジンの出力トルクを制御すると共に、前記要求電動機トルクを
ゼロに設定することに替えて前記充電要求トルクに設定することで前記電動機の出力トルクを固定した状態とすることを特徴とする請求項
1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記駆動力源制御部は、前記緩変化制御の実行中には、前記充電要求トルクを前記緩変化制御の開始時の値で保持することを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記駆動力源制御部は、前記点火遅角制御において前記遅角後要求トルクを実現できない場合には、
前記電動機の出力トルクを固定した状態とすることに替えて、前記遅角後要求トルクと前記点火遅角制御後の前記エンジンの出力トルクとのトルク差を補償するように前記電動機の出力トルクを制御することを特徴とする請求項
1又は2に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと電動機とを駆動力源として備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと電動機とを含む駆動力源と、前記駆動力源の出力トルクを駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載されたハイブリッド車のモータ制御装置がそれである。この特許文献1には、駆動トルクを負から正に変化させる際に、動力伝達装置における回転部材間のガタ例えばギヤのバックラッシュが詰められる方向が反転することによる歯打ちにより発生するガタ詰めショックである所謂チップインショックを抑制する為に、電動機の出力トルクによるガタ詰めトルクにより駆動トルクを負から正に変化させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の技術は、エンジン停止時におけるガタ詰めトルクの制御であり、エンジン運転中はエンジンの出力トルクと電動機の出力トルクとでガタ詰めトルクを実現することが想定される。又、チップインショックが抑制されたガタ詰めを実現するには、精度の高いトルク制御が必要とされる。しかしながら、エンジンの出力トルクと電動機の出力トルクとを組み合わせてチップインショックを抑制する為の狙いのトルクを実現しようとすると、各々の通信遅れの違いによる指令トルクのずれや各々のアクチュエータの応答遅れの違いによるトルク精度の違いなどによって、ガタ詰め時のトルク制御を精度良くできないおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンと電動機との2つの駆動力源が使える場合に、チップインショックを適切に抑制することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)エンジンと電動機とを含む駆動力源と、前記駆動力源の出力トルクを駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)駆動トルクが負トルクから正トルクへ変化させられる際に前記動力伝達装置におけるガタ詰め方向が反転する予め定められた前記駆動力源の出力トルクの所定トルク領域内では、前記駆動力源の出力トルクを、前記所定トルク領域外に比べて上昇勾配が小さな値とされた緩変化トルクとするように、前記エンジンと前記電動機とを制御する駆動力源制御部を含んでおり、(c)前記駆動力源制御部は、前記緩変化トルクを実現するように、前記電動機の出力トルクを固定した状態で前記エンジンの出力トルクを制御するものであり、(d)前記駆動力源制御部は、前記緩変化トルクを実現する緩変化制御の実行中において、前記緩変化トルクよりも所定トルク分高い、前記エンジンの吸入空気量の調整によって制御する前記エンジンの出力トルクの要求値である吸気要求トルクを設定し、前記吸気要求トルクに対して点火遅角制御によって低減した後の前記エンジンの出力トルクの要求値である遅角後要求トルクを前記緩変化トルクに設定することで前記エンジンの出力トルクを制御すると共に、前記電動機の出力トルクの要求値である要求電動機トルクをゼロに設定することで前記電動機の出力トルクを固定した状態とするものであり、(e)前記所定トルク分は、前記点火遅角制御によって前記緩変化トルクが形成可能となる為の予め定められたトルク分であることにある。
【0007】
また、第2の発明は、前記第1の発明に記載の車両の制御装置において、前記駆動力源制御部は、前記遅角後要求トルクが前記所定トルク領域の上限トルクを超えた場合には、前記遅角後要求トルクにおける前記点火遅角制御によるトルク低減量分を漸減して、前記点火遅角制御の終了準備を実行することにある。
【0008】
また、第3の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載の車両の制御装置において、前記駆動力源制御部は、前記エンジンの動力によって発電した前記電動機からの電力を充電する蓄電装置の充電要求が有る場合には、前記緩変化制御の実行中において、前記充電要求を実現する前記エンジンの出力トルクの要求値である充電要求トルクを前記緩変化トルクに加算したトルク値よりも前記所定トルク分高い前記吸気要求トルクを設定し、前記遅角後要求トルクを、前記緩変化トルクに前記充電要求トルクを加算したトルク値に設定することで前記エンジンの出力トルクを制御すると共に、前記要求電動機トルクをゼロに設定することに替えて前記充電要求トルクに設定することで前記電動機の出力トルクを固定した状態とすることにある。
【0009】
また、第4の発明は、前記第3の発明に記載の車両の制御装置において、前記駆動力源制御部は、前記緩変化制御の実行中には、前記充電要求トルクを前記緩変化制御の開始時の値で保持することにある。
【0010】
また、第5の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載の車両の制御装置において、前記駆動力源制御部は、前記点火遅角制御において前記遅角後要求トルクを実現できない場合には、前記電動機の出力トルクを固定した状態とすることに替えて、前記遅角後要求トルクと前記点火遅角制御後の前記エンジンの出力トルクとのトルク差を補償するように前記電動機の出力トルクを制御することにある。
【発明の効果】
【0011】
前記第1の発明によれば、駆動トルクが負トルクから正トルクへ変化させられる際に動力伝達装置におけるガタ詰め方向が反転する予め定められた駆動力源の出力トルクの所定トルク領域内では、駆動力源の出力トルクを、所定トルク領域外に比べて上昇勾配が小さな値とされた緩変化トルクとするように、エンジンと電動機とが制御されるので、車両が被駆動状態から駆動状態へ切り換えられる際にチップインショックを抑制し易くされる。更に、所定トルク領域内で緩変化トルクを実現するように、電動機の出力トルクが固定された状態でエンジンの出力トルクが制御されるので、所定トルク領域内では専らエンジンの出力トルクの変化によって駆動力源の出力トルクが緩変化トルクに精度良く制御される。よって、エンジンと電動機との2つの駆動力源が使える場合に、チップインショックを適切に抑制することができる。
【0012】
また、前記第1の発明によれば、緩変化トルクを実現する緩変化制御の実行中において、緩変化トルクよりも所定トルク分高い吸気要求トルクが設定され、その吸気要求トルクに対して点火遅角制御によって低減した後の遅角後要求トルクが緩変化トルクに設定されることでエンジンの出力トルクが制御されると共に、要求電動機トルクがゼロに設定されることで電動機の出力トルクが固定された状態とされるので、所定トルク領域内では専らエンジンの出力トルクの変化によって駆動力源の出力トルクが緩変化トルクに適切に精度良く制御される。
【0013】
また、前記第3の発明によれば、蓄電装置の充電要求が有る場合には、緩変化制御の実行中において、充電要求トルクを緩変化トルクに加算したトルク値よりも所定トルク分高い吸気要求トルクが設定され、遅角後要求トルクが、緩変化トルクに充電要求トルクを加算したトルク値に設定されることでエンジンの出力トルクが制御されると共に、要求電動機トルクが充電要求トルクに設定されることで電動機の出力トルクが固定された状態とされるので、蓄電装置の充電要求が実現されつつ、所定トルク領域内では専らエンジンの出力トルクの変化によって駆動力源の出力トルクが緩変化トルクに精度良く制御される。
【0014】
また、前記第4の発明によれば、緩変化制御の実行中には、充電要求トルクが緩変化制御の開始時の値で保持されるので、緩変化制御の実行中に蓄電装置の充電要求が変動しても駆動力源の出力トルクが緩変化トルクに精度良く制御される。
【0015】
また、前記第5の発明によれば、点火遅角制御において遅角後要求トルクが実現され得ない場合には、遅角後要求トルクと点火遅角制御後のエンジンの出力トルクとのトルク差を補償するように電動機の出力トルクが制御されるので、所定トルク領域内では駆動力源の出力トルクが緩変化トルクに一層精度良く制御される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【
図2】緩変化制御を精度良く実行することについて説明する図である。
【
図3】バッテリの充電要求が有るときに、緩変化制御を精度良く実行することについて説明する図である。
【
図4】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、エンジンと電動機との2つの駆動力源が使える場合にチップインショックを適切に抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図1において、車両10は、走行用の駆動力源SPである、エンジン12及び電動機MGを備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0019】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0020】
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。バッテリ54は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGの出力トルクであるMGトルクTmが制御される。MGトルクTmは、例えば電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。電動機MGは、例えばエンジン12の動力によって発電し、バッテリ54は、その電動機MGからの電力を充電する。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギも同意である。前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
【0021】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、K0クラッチ20、トルクコンバータ22、自動変速機24等を備えている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と電動機MGとの間に設けられたクラッチである。トルクコンバータ22は、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。又、動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備えている。又、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結する電動機連結軸36等を備えている。
【0022】
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、K0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、電動機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。
【0023】
トルクコンバータ22は、電動機連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、及び自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。トルクコンバータ22は、駆動力源SPからの駆動力を流体を介して電動機連結軸36から変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結する、つまり電動機連結軸36と変速機入力軸38とを連結する直結クラッチとしてのLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、公知のロックアップクラッチである。
【0024】
自動変速機24は、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、複数の係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば公知の油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や解放状態などの作動状態つまり制御状態が切り替えられる。
【0025】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合されることによって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Ntと同値である。AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0026】
K0クラッチ20は、例えば多板式或いは単板式のクラッチにより構成される油圧式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるK0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0027】
車両10において、K0クラッチ20の係合状態では、エンジン12とトルクコンバータ22とが動力伝達可能に連結される。一方で、K0クラッチ20の解放状態では、エンジン12とトルクコンバータ22との間の動力伝達が遮断される。電動機MGはトルクコンバータ22に連結されているので、K0クラッチ20は、エンジン12を電動機MGと断接するクラッチとして機能する。
【0028】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合された場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。又、電動機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。このように、動力伝達装置16は、駆動力源SPの出力トルクである駆動力源トルクTspを駆動輪14へ伝達する。駆動力源トルクTspは、エンジントルクTeとMGトルクTmとの合計トルクである。
【0029】
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、駆動力源SPにより回転駆動させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動する為のEOP60専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58及び/又はEOP60が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0などを供給する。
【0030】
車両10は、更に、車両10の制御装置を含む電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0031】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、エアフローメータ82、ブレーキスイッチ84、バッテリセンサ86、油温センサ88など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、エンジン12の吸入空気量Qair、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、油圧制御回路56内の作動油OILの温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
【0032】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Sm、係合装置CBを制御する為のCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御する為のLU油圧制御指令信号Slu、EOP60を制御する為のEOP制御指令信号Seopなど)が、それぞれ出力される。
【0033】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、駆動力源制御手段すなわち駆動力源制御部92、及び変速制御手段すなわち変速制御部94を備えている。
【0034】
駆動力源制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部92aとしての機能と、インバータ52を介して電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部92bとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行するハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部である。
【0035】
駆動力源制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdemである。要求駆動トルクTrdem[Nm]は、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求AT出力トルク等を用いることもできる。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。
【0036】
駆動力源制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seと、電動機MGを制御するMG制御指令信号Smと、を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。MG制御指令信号Smは、例えばそのときのMG回転速度NmにおけるMGトルクTmを出力する電動機MGの消費電力Wmの指令値である。
【0037】
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ54の入力制限を示している。バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ54の出力制限を示している。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ充電量SOCに基づいて電子制御装置90により算出される。バッテリ充電量SOCは、バッテリ54の充電量に相当する充電状態を示すバッテリ54の充電状態値[%]であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置90により算出される。
【0038】
駆動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合には、走行モードをモータ走行(=EV走行)モードとする。駆動力源制御部92は、EV走行モードでは、K0クラッチ20の解放状態において、駆動力源SPのうちの電動機MGのみから駆動力を出力して走行するEV走行を行う。一方で、駆動力源制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求駆動トルクTrdemを賄えない場合には、走行モードをエンジン走行モードすなわちハイブリッド走行(=HV走行)モードとする。駆動力源制御部92は、HV走行モードでは、K0クラッチ20の係合状態において、駆動力源SPのうちの少なくともエンジン12から駆動力を出力して走行するエンジン走行すなわちHV走行を行う。他方で、駆動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合であっても、バッテリ充電量SOCがエンジン始動閾値SOCest未満となる場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。エンジン始動閾値SOCestは、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要があるバッテリ充電量SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
【0039】
変速制御部94は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の変速制御を実行する為のCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0040】
ここで、要求駆動トルクTrdemが増加させられた際に、駆動トルクTrが、車両10が被駆動状態となる負トルクから車両10が駆動状態となる正トルクへ切り替えられる場合がある。この場合、動力伝達装置16を構成する部品間のガタが詰められる方向が反転する為、急激なガタ詰めが発生すると、ガタ打ちによるチップインショックが発生するおそれがある。車両10の駆動状態は、駆動力源SPから出力されるトルクによって駆動輪14が回転させられる状態である。車両10の被駆動状態は、駆動輪14から入力されるトルクによって動力伝達装置16の回転部材等が回転させられる状態である。駆動力源制御部92は、ガタが詰められる方向が反転させられるときの急激なガタ詰めを抑制してチップインショックを抑制するという制御機能を有している。
【0041】
具体的には、駆動力源制御部92は、要求駆動トルクTrdemが負トルクから正トルクへ増加させられた場合に、ガタ詰めトルク領域SPsl内では、駆動力源トルクTspを、ガタ詰めトルク領域SPsl外に比べて上昇勾配が小さな値とされた緩変化トルクTspslとするように、エンジン12と電動機MGとを制御する。ガタ詰めトルク領域SPslは、駆動トルクTrが負トルクから正トルクへ変化させられる際に動力伝達装置16におけるガタ詰め方向が反転する予め定められた駆動力源トルクTspの所定トルク領域である。つまり、ガタ詰めトルク領域SPslは、実際の駆動トルクTrがゼロとなるガタ打ちポイントと、そのガタ打ちポイント近傍の駆動トルクTrの領域と、を実現する駆動力源トルクTspの所定トルク領域である。本実施例では、動力伝達装置16におけるガタ詰め方向が反転するトルク領域を、駆動トルクTrではなく駆動力源トルクTspにて設定する。駆動力源トルクTspは、駆動トルクTrを実現する為の、電動機連結軸36上又は変速機入力軸38上のトルクである。緩変化トルクTspslは、ガタが詰められる方向が反転させられるときの急激なガタ詰めが抑制される為の予め定められた駆動力源トルクTspの上昇勾配である。ガタ詰めトルク領域SPsl外における駆動力源トルクTspの上昇勾配は、例えば要求駆動トルクTrdemの最終的な到達トルクを実現する為の駆動力源トルクTspに向けて立ち上がるときやその最終的な到達トルクを実現する為の駆動力源トルクTspに近づくときの予め定められた上限値によって設定される。
【0042】
ところで、チップインショックが抑制されたガタ詰めを実現するには、ガタ詰めトルク領域SPsl内において精度の高い緩変化トルクTspslの制御が必要である。しかしながら、駆動力源トルクTspとしてのエンジントルクTeとMGトルクTmとを組み合わせて狙いの緩変化トルクTspslを実現しようとすると、エンジン制御指令信号SeとMG制御指令信号Smとの通信遅れの違いやエンジン制御装置50とインバータ52との応答遅れの違いなどによって、緩変化トルクTspslの制御を精度良くできないおそれがある。例えば、エンジントルクTeの立ち上がり過渡時は応答遅れによりエンジントルクTeの推定精度が悪く、エンジントルクTeの推定値がエンジントルクTeの実際値よりも高めに設定されてしまう一方で、MGトルクTmの要求値は比較的実現精度が高い為、駆動力源トルクTspの目標値とエンジントルクTeの推定値とに基づいてMGトルクTmの要求値を設定すると、MGトルクTmの要求値が負トルクとなり、実際の駆動力源トルクTspが負トルク側に振れてしまう可能性がある。
【0043】
そこで、駆動力源制御部92は、緩変化トルクTspslを実現するように、MGトルクTmを固定した状態でエンジントルクTeを制御する。
【0044】
図2は、緩変化トルクTspslを実現する緩変化制御CTspslを精度良く実行することについて説明する図である。
図2において、t1a時点は、車両10が被駆動状態にあるときに、運転者によるアクセル操作によって、二点鎖線Aaで示された静的目標駆動力源トルクTsptsが負トルクから正トルクへ変化させられた時点を示している。静的目標駆動力源トルクTsptsは、運転者による要求駆動トルクTrdemの最終的な到達トルクを実現する為の駆動力源トルクTspの目標値として設定される。又、静的目標駆動力源トルクTsptsに対して太実線Baで示された動的目標駆動力源トルクTsptdが設定される。動的目標駆動力源トルクTsptdは、例えば静的目標駆動力源トルクTsptsに対してステップ応答における一次遅れ系の関数で設定される駆動力源トルクTspの目標値である。但し、動的目標駆動力源トルクTsptdは、下限トルクTllimと上限トルクTulimとの間の領域で示されたガタ詰めトルク領域SPsl内では緩変化トルクTspslが設定される(t2a時点-t3a時点参照)。緩変化トルクTspslが設定される期間は、動力伝達装置16におけるガタ詰め方向が反転する正味のガタ詰め期間である。この正味のガタ詰め期間は、動的目標駆動力源トルクTsptdをガタ詰めトルク領域SPslに滞在させる時間である。尚、動力伝達装置16におけるトルク伝達では各ギヤ損失やフリクションに打ち勝つ分のトルクが必要である為、ガタ詰めトルク領域SPslは、ゼロ点よりも正側に設定されている。
【0045】
図2では、動的目標駆動力源トルクTsptdを、例えばスロットル弁開度θthの制御によるエンジントルクTeにて実現する為の、実線Caで示された吸気要求トルクTebsが設定される。吸気要求トルクTebsは、例えばエンジン12の吸入空気量Qairの調整によって制御するエンジントルクTeの要求値であり、緩変化トルクTspslが形成される為の大まかなトルクが設定されれば良い。具体的には、吸気要求トルクTebsは、大き過ぎるとエンジン12の点火遅角制御CTsdにより緩変化トルクTspslを形成できない場面が増える一方で、小さ過ぎると緩変化トルクTspslを形成できないおそれがある為、緩変化トルクTspslよりも所定トルクTspf分高めが狙いのトルクとされ、例えば実線Daで示された点火遅角制御CTsdが未実施のときの実際のエンジントルクTeである実エンジントルクTeactが、ガタ詰めトルク領域SPslにおいて動的目標駆動力源トルクTsptdから大きく乖離しないような値に設定される。所定トルクTspfは、例えば点火遅角制御CTsdによって緩変化トルクTspslが形成可能となる為の予め定められたトルク値である。エンジン12の点火遅角制御CTsdは、エンジン12の点火時期を遅角することによってエンジントルクTeを低減するトルクダウン制御の一つである。吸気要求トルクTebsによる、エンジン12の吸入空気量Qairの調整によって制御されるエンジントルクTeの初期応答ばらつきについては、例えば正味のガタ詰め期間を十分に確保することによって影響が抑制される。
【0046】
図2では、吸気要求トルクTebsに対して点火遅角制御CTsdによって低減した後のエンジントルクTeの要求値である、太破線Eaで示された遅角後要求トルクTesdが設定される。点火遅角制御CTsdは、例えば車両10がアクセルオフの被駆動状態にあるときに、運転者によるアクセルオンによって静的目標駆動力源トルクTsptsが負側からガタ詰めトルク領域SPslに到達したときに開始させられる(t1a時点参照)。この際、点火遅角制御CTsdの開始判断に動的目標駆動力源トルクTsptdが用いられると、アクセルオンとのタイミングがずれたり、動的目標駆動力源トルクTsptdよりも実エンジントルクTeactが早く立ち上がったりした場合にエンジントルクTeの急変を抑えられない為、点火遅角制御CTsdの開始判断には静的目標駆動力源トルクTsptsが用いられる。遅角後要求トルクTesdは、点火遅角制御CTsdの開始後、動的目標駆動力源トルクTsptdがガタ詰めトルク領域SPslに到達するまでの期間には、ガタ詰めトルク領域SPslの下限トルクTllimが設定される(t1a時点-t2a時点参照)。これは、実エンジントルクTeactが急速に立ち上がってきても、ガタ詰めトルク領域SPslの下限トルクTllimを超えないように点火遅角制御CTsdでガードする為である。又、遅角後要求トルクTesdは、動的目標駆動力源トルクTsptdがガタ詰めトルク領域SPslの下限トルクTllimを超えてからガタ詰めトルク領域SPslの上限トルクTulimを超えるまでの期間には、動的目標駆動力源トルクTsptdつまり緩変化トルクTspslに設定される(t2a時点-t3a時点参照)。点火遅角制御CTsdは、点火遅角制御CTsdの実施後の実エンジントルクTeactが緩変化トルクTspslとなるように実行される。これにより、緩変化制御CTspslの実行中には、専らエンジントルクTeの変化によって駆動力源トルクTspが緩変化トルクTspslに精度良く制御される。従って、緩変化制御CTspslの実行中には、MGトルクTmは不要とされるので、MGトルクTmの要求値である要求電動機トルクつまり要求MGトルクTmdemは、基本的にはゼロに設定される。又、遅角後要求トルクTesdは、動的目標駆動力源トルクTsptdがガタ詰めトルク領域SPslの上限トルクTulimを超えると、点火遅角制御CTsdによるトルク低減量分が漸減させられ、点火遅角制御CTsdの終了準備が実行される(t3a時点-t4a時点参照)。これにより、点火遅角制御CTsdの終了準備中は、トルク急変によるドライバビリティーの悪化が抑制される。又、点火遅角制御CTsdは、実エンジントルクTeactの連続性を考慮して、遅角後要求トルクTesdが実エンジントルクTeactを超えたら完全に終了させられる(t4a時点参照)。尚、遅角後要求トルクTesdは、エンジントルクTeが実現できない領域まで遅角要求が為されないように、エンジントルクTeが実現可能なエンジン下限トルクでガードされても良い。又、動的目標駆動力源トルクTsptdがガタ詰めトルク領域SPslの上限トルクTulimを超えないことによる点火遅角制御CTsdが終了しないことを防止する為に、点火遅角制御CTsdが所定遅角時間以上継続した場合には、点火遅角制御CTsdを終了させても良い。この所定遅角時間は、例えば点火遅角制御CTsdを強制的に終了させる為の予め定められたバックアップタイマーである。
【0047】
このように、駆動力源制御部92は、緩変化制御CTspslの実行中において、緩変化トルクTspslよりも所定トルクTspf分高い吸気要求トルクTebsを設定し、遅角後要求トルクTesdを緩変化トルクTspslに設定することでエンジントルクTeを制御すると共に、要求MGトルクTmdemをゼロに設定することでMGトルクTmを固定した状態とする。
【0048】
エンジン12等の何らかの不良により点火遅角制御CTsdによるトルク低減量が狙いとずれた場合には、遅角後要求トルクTesdが実現できない。この場合、遅角後要求トルクTesdと、点火遅角制御CTsdの実施後のエンジントルクTeと、のトルク差を電動機MGの力行や発電により補償しても良い。例えば、点火遅角制御CTsdによるトルク低減量が狙いよりも少ない場合には、実現できなかったトルク低減量分を電動機MGの発電によるバッテリ54の充電により回収する。このように、駆動力源制御部92は、点火遅角制御CTsdにおいて遅角後要求トルクTesdを実現できない場合には、遅角後要求トルクTesdと点火遅角制御CTsd後のエンジントルクTeとのトルク差を補償するようにMGトルクTmを制御する。例えば、駆動力源制御部92は、点火遅角制御CTsdにおける実際の遅角量に基づいてMGトルクTmを制御する。要求MGトルクTmdemとなる電動機MGによる補償量は、点火遅角制御CTsdによって実現できなかったトルク低減量分だけであるので、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout、又は、MG回転速度NmなどによってMGトルクTmが制限を受けていても、専らエンジントルクTeの制御によって緩変化トルクTspslを実現し易くされる。
【0049】
図3は、バッテリ54の充電要求が有るときに、緩変化制御CTspslを精度良く実行することについて説明する図である。
図3の緩変化制御CTspslは、バッテリ54の充電要求が有るときである点で
図2の緩変化制御CTspslと主に相違する。相違点について主に説明する。
図3において、t1b時点は、車両10が被駆動状態にあるときに、運転者によるアクセル操作によって、二点鎖線Abで示された静的目標駆動力源トルクTsptsが負トルクから正トルクへ変化させられた時点を示している。静的目標駆動力源トルクTsptsに対して太実線Bbで示された動的目標駆動力源トルクTsptdが設定される。
【0050】
図3では、t1b時点よりも前から、電動機MGからの電力を充電するバッテリ54の充電要求が為されている。その為、実線Cbで示された吸気要求トルクTebsには、バッテリ54の充電要求を実現するエンジントルクTeの要求値である充電要求トルクTechgが加味されている(矢印Fa参照)。つまり、実線Cbで示された吸気要求トルクTebsは、
図2における実線Caで示された吸気要求トルクTebsよりも充電要求トルクTechg分だけ正側に設定されている。具体的には、正味のガタ詰め期間においては、
図3の吸気要求トルクTebsは、緩変化トルクTspslに充電要求トルクTechg分を加算したトルクよりも所定トルクTspf分高めが狙いのトルクとされ、例えば充電要求トルクTechgが加味されている、実線Dbで示された点火遅角制御CTsdが未実施のときの実エンジントルクTeactが、充電要求トルクTechg分だけ低減させられたときに、ガタ詰めトルク領域SPslにおいて動的目標駆動力源トルクTsptdから大きく乖離しないような値に設定される。バッテリ54の充電要求は、例えばバッテリ充電量SOCがエンジン始動閾値SOCest未満となった場合に為されるものであり、エンジン12に対する充電要求トルクTechgとして設定される。従って、充電要求時におけるバッテリ54の入力電力つまり充電電力[W]は、その時のエンジン回転速度Neと充電要求トルクTechgとに基づく電力とされる。
【0051】
図3では、点火遅角制御CTsdは、例えば車両10がアクセルオフの被駆動状態にあるときに、運転者によるアクセルオンによって静的目標駆動力源トルクTsptsが負側からガタ詰めトルク領域SPslに到達したときに開始させられ(t1b時点参照)、点火遅角制御CTsdでは、太破線Ebで示された遅角後要求トルクTesdが設定される。遅角後要求トルクTesdは、点火遅角制御CTsdの開始後、動的目標駆動力源トルクTsptdがガタ詰めトルク領域SPslに到達するまでの期間には、ガタ詰めトルク領域SPslの下限トルクTllimに充電要求トルクTechg分(矢印Fb参照)を加算したトルク値が設定される(t1b時点-t2b時点参照)。又、遅角後要求トルクTesdは、動的目標駆動力源トルクTsptdがガタ詰めトルク領域SPslの下限トルクTllimを超えてからガタ詰めトルク領域SPslの上限トルクTulimを超えるまでの期間には、緩変化トルクTspslに充電要求トルクTechg分(矢印Fb、Fc、Fd参照)を加算したトルク値に設定される(t2b時点-t3b時点参照)。点火遅角制御CTsdは、点火遅角制御CTsdの実施後の実エンジントルクTeactが緩変化トルクTspslに充電要求トルクTechg分を加算したトルクとなるように実行される。充電要求トルクTechgは、点火遅角制御CTsdの開始時から動的目標駆動力源トルクTsptdが上限トルクTulimを超えるまでの期間には、点火遅角制御CTsdの開始時の充電要求トルクTechgで保持される(矢印Fa、Fb、Fc、Fd参照)。従って、充電要求トルクTechgは、緩変化制御CTspslの実行中には、緩変化制御CTspslの開始時の充電要求トルクTechgで保持される。緩変化制御CTspslの実行中には、MGトルクTmは充電要求トルクTechg分を電動機MGが発電によって回収するトルク値とされれば良いので、斜線部Gで示された要求MGトルクTmdemは、基本的には充電要求トルクTechg、つまり動的目標駆動力源トルクTsptd(=緩変化トルクTspsl)と遅角後要求トルクTesdとの差トルクに設定される。これにより、緩変化制御CTspslの実行中には、専らエンジントルクTeの変化によって駆動力源トルクTspが緩変化トルクTspslに精度良く制御される。又、遅角後要求トルクTesdは、動的目標駆動力源トルクTsptdがガタ詰めトルク領域SPslの上限トルクTulimを超えると、点火遅角制御CTsdによるトルク低減量分が漸減させられる(t3b時点-t4b時点参照)。又、点火遅角制御CTsdは、MGトルクTmの連続性及び実エンジントルクTeactの連続性を考慮して、遅角後要求トルクTesdが動的エンジントルクTebsdと実エンジントルクTeactとを超えたら完全に終了させられる(t4b時点参照)。動的エンジントルクTebsdは、例えば吸気要求トルクTebsに対してステップ応答における一次遅れ系の関数で設定されるトルク値である(破線H参照)。
図3では、点火遅角制御CTsdによるトルク低減量は、例えば遅角後要求トルクTesdと動的エンジントルクTebsdとの差トルクとされる(網掛け部I参照)。この場合、遅角後要求トルクTesdは、動的エンジントルクTebsdに対して点火遅角制御CTsdによって低減した後のエンジントルクTeの要求値が設定される。斜線部Gで示された要求MGトルクTmdemは、点火遅角制御CTsdによるトルク低減量分が漸減させられる期間には、動的目標駆動力源トルクTsptdと遅角後要求トルクTesdとの差トルクに設定される(t3b時点-t4b時点参照)。又、斜線部Gで示された要求MGトルクTmdemは、点火遅角制御CTsdの終了後には、動的目標駆動力源トルクTsptdと動的エンジントルクTebsdとの差トルクに設定される(t4b時点以降参照)。尚、点火遅角制御CTsdの実行中の要求MGトルクTmdemは、点火遅角制御CTsdの実行前の要求MGトルクTmdemとの連続性を考慮すると、動的目標駆動力源トルクTsptdと、遅角後要求トルクTesd及び動的エンジントルクTebsdのうちの小さい方のトルク値と、の差トルク(=Tsptd-MIN(Tesd、Tebsd))で設定される。これにより、点火遅角制御CTsdの開始時も終了時も要求MGトルクTmdemの連続性は担保される。
【0052】
このように、駆動力源制御部92は、バッテリ54の充電要求が有る場合には、緩変化制御CTspslの実行中において、充電要求トルクTechgを緩変化トルクTspslに加算したトルク値よりも所定トルクTspf分高い吸気要求トルクTebsを設定し、遅角後要求トルクTesdを、緩変化トルクTspslに充電要求トルクTechgを加算したトルク値に設定することでエンジントルクTeを制御すると共に、要求MGトルクTmdemを充電要求トルクTechgに設定することでMGトルクTmを固定した状態とする。又、駆動力源制御部92は、緩変化制御CTspslの実行中には、充電要求トルクTechgを緩変化制御CTspslの開始時の値で保持する。
【0053】
より具体的には、駆動力源制御部92は、走行モードがHV走行モードであるか否かを判定する。駆動力源制御部92は、走行モードがHV走行モードであると判定した場合には、静的目標駆動力源トルクTspts、動的目標駆動力源トルクTsptd、吸気要求トルクTebs、動的エンジントルクTebsd、要求MGトルクTmdemなどを設定し、エンジン12と電動機MGとを制御する。この際、駆動力源制御部92は、バッテリ54の充電要求が有る場合には、充電要求トルクTechgを加味する。
【0054】
駆動力源制御部92は、運転者によるアクセルオンによって静的目標駆動力源トルクTsptsが負側からガタ詰めトルク領域SPslに到達したか否かを判定する。駆動力源制御部92は、静的目標駆動力源トルクTsptsが負側からガタ詰めトルク領域SPslに到達したと判定した場合には、遅角後要求トルクTesdを設定し、点火遅角制御CTsdを実行して、緩変化制御CTspslを実行する。
【0055】
図4は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、エンジン12と電動機MGとの2つの駆動力源SPが使える場合にチップインショックを適切に抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。
【0056】
図4において、フローチャートの各ステップは駆動力源制御部92の機能に対応している。ステップ(以下、ステップを省略する)S10において、走行モードがHV走行モードであるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は、本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合はS20において、静的目標駆動力源トルクTspts、動的目標駆動力源トルクTsptd、吸気要求トルクTebs、動的エンジントルクTebsd、要求MGトルクTmdemなどが設定され、エンジン12と電動機MGとが制御される。この際、バッテリ54の充電要求が有る場合には、充電要求トルクTechgが加味される。次いで、S30において、運転者によるアクセルオンによって静的目標駆動力源トルクTsptsが負側からガタ詰めトルク領域SPslに到達したか否かが判定される。このS30の判断が否定される場合は、本ルーチンが終了させられる。このS30の判断が肯定される場合はS40において、遅角後要求トルクTesdが設定され、点火遅角制御CTsdが実行されて、緩変化制御CTspslが実行される。
【0057】
上述のように、本実施例によれば、ガタ詰めトルク領域SPsl内では、駆動力源トルクTspを、ガタ詰めトルク領域SPsl外に比べて上昇勾配が小さな値とされた緩変化トルクTspslとするように、エンジン12と電動機MGとが制御されるので、車両10が被駆動状態から駆動状態へ切り換えられる際にチップインショックを抑制し易くされる。更に、ガタ詰めトルク領域SPsl内で緩変化トルクTspslを実現するように、MGトルクTmが固定された状態でエンジントルクTeが制御されるので、ガタ詰めトルク領域SPsl内では専らエンジントルクTeの変化によって駆動力源トルクTspが緩変化トルクTspslに精度良く制御される。よって、エンジン12と電動機MGとの2つの駆動力源SPが使える場合に、チップインショックを適切に抑制することができる。
【0058】
また、本実施例によれば、緩変化制御CTspslの実行中において、緩変化トルクTspslよりも所定トルクTspf分高い吸気要求トルクTebsが設定され、遅角後要求トルクTesdが緩変化トルクTspslに設定されることでエンジントルクTeが制御されると共に、要求MGトルクTmdemがゼロに設定されることでMGトルクTmが固定された状態とされるので、ガタ詰めトルク領域SPsl内では専らエンジントルクTeの変化によって駆動力源トルクTspが緩変化トルクTspslに適切に精度良く制御される。
【0059】
また、本実施例によれば、バッテリ54の充電要求が有る場合には、緩変化制御CTspslの実行中において、充電要求トルクTechgを緩変化トルクTspslに加算したトルク値よりも所定トルクTspf分高い吸気要求トルクTebsが設定され、遅角後要求トルクTesdが、緩変化トルクTspslに充電要求トルクTechgを加算したトルク値に設定されることでエンジントルクTeが制御されると共に、要求MGトルクTmdemが充電要求トルクTechgに設定されることでMGトルクTmが固定された状態とされるので、バッテリ54の充電要求が実現されつつ、ガタ詰めトルク領域SPsl内では専らエンジントルクTeの変化によって駆動力源トルクTspが緩変化トルクTspslに精度良く制御される。
【0060】
また、本実施例によれば、緩変化制御CTspslの実行中には、充電要求トルクTechgが緩変化制御CTspslの開始時の値で保持されるので、緩変化制御CTspslの実行中にバッテリ54の充電要求が変動しても駆動力源トルクTspが緩変化トルクTspslに精度良く制御される。
【0061】
また、本実施例によれば、点火遅角制御CTsdにおいて遅角後要求トルクTesdが実現され得ない場合には、遅角後要求トルクTesdと点火遅角制御CTsd後のエンジントルクTeとのトルク差を補償するようにMGトルクTmが制御されるので、ガタ詰めトルク領域SPsl内では駆動力源トルクTspが緩変化トルクTspslに一層精度良く制御される。
【0062】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0063】
例えば、前述の実施例において、LUクラッチ40が完全係合状態となるロックアップ時は、そのロックアップ時以外と比べてチップインショックが大きくなるのであれば、緩変化制御CTspslを精度良く実行することは、LUクラッチ40のロックアップ時に有用な制御である。
【0064】
また、前述の実施例では、自動変速機24として遊星歯車式の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。自動変速機24は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機などであっても良い。又は、自動変速機24は、必ずしも備えられている必要はない。又、エンジン12は、過給機を有するエンジンなどであっても良い。要は、エンジンと電動機とを含む駆動力源と、前記駆動力源の出力トルクを駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両であれば、本発明を適用することができる。
【0065】
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又は、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はなく、例えば発進用のクラッチに置き換えられても良い。
【0066】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
10:車両
12:エンジン
14:駆動輪
16:動力伝達装置
54:バッテリ(蓄電装置)
90:電子制御装置(制御装置)
92:駆動力源制御部
MG:電動機
SP:駆動力源