(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241210BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20241210BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20241210BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20241210BHJP
B60L 58/18 20190101ALI20241210BHJP
B60L 58/25 20190101ALI20241210BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P27/06
B60L9/18 J
B60L50/60
B60L58/18
B60L58/25
(21)【出願番号】P 2021066577
(22)【出願日】2021-04-09
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】風岡 諒哉
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-028702(JP,A)
【文献】特開2020-120566(JP,A)
【文献】米国特許第6882061(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 27/06
B60L 9/18
B60L 50/60
B60L 58/18
B60L 58/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上アームスイッチ(QUH,QVH,QWH)及び下アームスイッチ(QUL,QVL,QWL)の直列接続体を有し、スイッチング制御によりバッテリ(20)から供給される直流電力を交流電力に変換する電力変換器(30)を備え、前記電力変換器からの交流電力を、車両の車軸に連結され、巻線(41)を有する回転電機(40)に供給する電力変換装置(10)において、
前記電力変換器及び前記巻線を介して前記バッテリに電流が流れるように、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのスイッチング制御を行って、前記バッテリの昇温制御を行う制御部(70)を備え、
前記制御部は、車両停止時の昇温制御において、前記回転電機のトルクが上限トルク未満となる電流制御範囲内で、前記回転電機の電流値を徐々に増加させるように、電流を制御する電力変換装置。
【請求項2】
前記バッテリは、中間点において直列接続された第1蓄電池(21)及び第2蓄電池(22)から構成されており、
前記中間点と、前記巻線の中性点とを電気的に接続する接続経路(60)を備え、
前記制御部は、前記電力変換器、前記巻線及び前記接続経路を介して前記第1蓄電池と前記第2蓄電池との間に電流が流れるように、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのスイッチング制御を行う請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電流値を徐々に増加させた結果、前記電流制御範囲の上限値に達した場合、当該上限値又は上限値を下回る値となるように、前記電流値を制御する請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記回転電機のロータの位置を取得し、前記電流値を徐々に増加させる際、前記ロータの位置が動いたとき、動作時における電流値以下となるように、前記電流値を制御する請求項1~3のうちいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、車両の姿勢に関する車両姿勢情報を取得し、車両姿勢情報に応じて前記上限トルクを変更する請求項1~4のうちいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記巻線に流れる電流を交流電流とする請求項1~5のうちいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記回転電機の電流値の単位時間当たりの増加率又は減少率を変更可能に構成されている請求項1~6のうちいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記回転電機は、複数相の巻線(41U,41V,41W)を有し、
前記制御部は、前記回転電機のロータの位置を取得し、前記ロータの位置が動いた場合、前記各巻線の相電流の向きと前記ロータの位置に基づいて、前記各巻線の相電流がアンバランスとなるように制御する請求項1~7のうちいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記各巻線の相電流をアンバランスとなるように制御する際、複数相の相電流のうち少なくとも1つの相電流の振幅を大きくする一方、複数相の相電流のうち少なくとも1つの相電流の振幅を小さくする請求項8に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電力変換装置としては、蓄電池とコンデンサとの間でインバータを介して電力のやりとりを実施することにより、蓄電池の昇温制御を行うものが知られている。また、特許文献1では、インバータ、回転電機の巻線、及び接続回路を介して組電池を構成する第1蓄電池と第2蓄電池との間で電流を流すことにより、蓄電池の昇温制御を行っている。なお、電力変換装置は、車両に搭載されることが想定されおり、回転電機は、例えば、走行用モータである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両停止時において昇温制御を行う場合、回転電機の巻線に大電流を流すと、意図せず大きなモータトルクが発生し、パーキングブレーキの保持トルクを超えて、車両が動いてしまう虞があった。
【0005】
本発明は、車両停止中の昇温制御時において、回転電機から所定以上のトルクを出力させない電力変換装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、上アームスイッチ及び下アームスイッチの直列接続体を有し、スイッチング制御によりバッテリから供給される直流電力を交流電力に変換する電力変換器を備え、前記電力変換器からの交流電力を、車軸に連結され、巻線を有する回転電機に供給する電力変換装置は、前記電力変換器及び前記巻線を介して前記バッテリに電流が流れるように、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのスイッチング制御を行って、前記バッテリの昇温制御を行う制御部を備え、前記制御部は、前記車両停止時の昇温制御において、前記巻線の中性点に流れる前記回転電機の電流値を取得し、前記回転電機のトルクが閾値未満となる電流制御範囲内で、前記電流値を徐々に増加させるように、電流を制御する。
【0007】
これにより、制御装置は、車両停止時の昇温制御において、回転電機の電流値を取得し、回転電機のトルクが閾値未満となる電流制御範囲内で、電流値を徐々に増加させるように、電流を制御する。これにより、車両停止時において昇温制御を行う場合、回転電機の巻線にいきなり大電流が流れて、意図せず大きなトルクが発生することを抑制することができる。このため、車両が動いてしまうことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図6】スイッチの制御態様等の推移を示すタイムチャート。
【
図9】中性点を流れる電流とトルクの推移を示すタイムチャート。
【
図10】第2実施形態における指令電流設定処理のフローチャート。
【
図11】第2実施形態における中性点を流れる電流とトルクの推移を示すタイムチャート。
【
図12】第3実施形態における指令電流設定処理のフローチャート。
【
図13】相電流アンバランス制御を説明するための図。
【
図16】第3実施形態における相電流とトルクの推移を示すタイムチャート。
【
図17】第4実施形態における指令電流設定処理のフローチャート。
【
図18】第4実施形態における中性点を流れる電流とトルクの推移を示すタイムチャート。
【
図19】第5実施形態における指令電流設定処理のフローチャート。
【
図20】第5実施形態における中性点を流れる電流とトルクの推移を示すタイムチャート。
【
図21】変形例における中性点を流れる電流とトルクの推移を示すタイムチャート。
【
図22】変形例における中性点を流れる電流とトルクの推移を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る電力変換装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態において、電力変換装置は車両に搭載されている。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一又は均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0010】
図1に示すように、電力変換装置10は、回転電機40に接続された電力変換器としてのインバータ30を備えている。電力変換装置10は、バッテリとしての組電池20を昇温させるために、インバータ30を介して組電池20と回転電機40との間の電力のやりとりを行う機能を有している。
【0011】
回転電機40は、3相の同期機であり、ステータ巻線として星形結線されたU,V,W相巻線41U,41V,41Wを備えている。各相巻線41U,41V,41Wは、電気角で120°ずつずれて配置されている。回転電機40は、例えば永久磁石同期機である。本実施形態において、回転電機40は車載主機であり、車両の走行動力源となる。つまり、回転電機40は、車軸に連結されている。
【0012】
インバータ30は、上アームスイッチQUH,QVH,QWHと下アームスイッチQUL,QVL,QWLとの直列接続体を3相分備えている。本実施形態では、各スイッチQUH,QVH,QWH,QUL,QVL,QWLとして、電圧制御形の半導体スイッチング素子が用いられており、具体的にはIGBTやMOSFETなどが用いられている。各スイッチQUH,QVH,QWH,QUL,QVL,QWLには、フリーホイールダイオードとしての各ダイオードDUH,DVH,DWH,DUL,DVL,DWLが逆並列に接続されている。
【0013】
U相上アームスイッチQUHの低電位側端子と、U相下アームスイッチQULの高電位側端子とには、バスバー等のU相導電部材32Uを介して、回転電機40のU相巻線41Uの第1端が接続されている。V相上アームスイッチQVHの低電位側端子と、V相下アームスイッチQVLの高電位側端子とには、バスバー等のV相導電部材32Vを介して、回転電機40のV相巻線41Vの第1端が接続されている。W相上アームスイッチQWHの低電位側端子と、W相下アームスイッチQWLの高電位側端子とには、バスバー等のW相導電部材32Wを介して、回転電機40のW相巻線41Wの第1端が接続されている。U,V,W相巻線41U,41V,41Wの第2端同士は、中性点Oで接続されている。なお、本実施形態において、各相巻線41U,41V,41Wは、ターン数が同じに設定されている。これにより、各相巻線41U,41V,41Wは、例えばインダクタンスが同じに設定されている。
【0014】
各上アームスイッチQUH,QVH,QWHの高電位側端子と、組電池20の正極端子とは、バスバー等の正極側母線Lpにより接続されている。各下アームスイッチQUL,QVL,QWLの低電位側端子と、組電池20の負極端子とは、バスバー等の負極側母線Lnにより接続されている。
【0015】
電力変換装置10は、正極側母線Lpと負極側母線Lnとを接続するコンデンサ(平滑コンデンサ)31を備えている。なお、コンデンサ31は、インバータ30に内蔵されていてもよいし、インバータ30の外部に設けられていてもよい。
【0016】
組電池20は、単電池としての電池セルの直列接続体として構成されており、端子電圧が例えば数百Vとなるものである。本実施形態では、組電池20を構成する各電池セルの端子電圧(例えば定格電圧)が互いに同じに設定されている。電池セルとしては、例えば、リチウムイオン電池等の2次電池を用いることができる。
【0017】
本実施形態では、組電池20を構成する電池セルのうち、高電位側の複数の電池セルの直列接続体が第1蓄電池21を構成し、低電位側の複数の電池セルの直列接続体が第2蓄電池22を構成している。つまり、組電池20が2つのブロックに分けられている。本実施形態では、第1蓄電池21を構成する電池セル数と、第2蓄電池22を構成する電池セル数とが同じである。このため、第1蓄電池21の端子電圧(例えば定格電圧)と、第2蓄電池22の端子電圧(例えば定格電圧)とが同じである。
【0018】
組電池20において、第1蓄電池21の負極端子と第2蓄電池22の正極端子とには中間端子Bが接続されている。
【0019】
電力変換装置10は、監視ユニット50(電圧情報検出部に相当)を備えている。監視ユニット50は、組電池20を構成する各電池セルの端子電圧、SOC、SOH及び温度等を監視する。
【0020】
電力変換装置10は、接続経路60と、接続スイッチ61とを備えている。接続経路60は、組電池20の中間端子Bと中性点Oとを電気的に接続する。接続スイッチ61は、接続経路60上に設けられている。本実施形態では、接続スイッチ61としてリレーが用いられている。接続スイッチ61がオン状態とされることにより、中間端子Bと中性点Oとが電気的に接続される。一方、接続スイッチ61がオフ状態とされることにより、中間端子Bと中性点Oとの間が電気的に遮断される。
【0021】
電力変換装置10は、接続経路60に流れる電流(つまり、中性点を流れる電流)を検出する電流センサ62を備えている。電流センサ62の検出値は、電力変換装置10が備える制御装置70(制御部に相当)に入力される。
【0022】
制御装置70は、マイコンを主体として構成され、回転電機40の制御量をその指令値にフィードバック制御すべく、インバータ30を構成する各スイッチのスイッチング制御を行う。これにより、電力変換装置10は、組電池20の直流電力を交流電力に変換し、回転電機40に供給する。制御量は、例えばトルクである。
【0023】
制御装置70は、接続スイッチ61をオンオフ制御し、また、監視ユニット50と通信可能とされている。また、制御装置70は、電力変換装置10の外部に設けられた上位制御装置80と通信可能とされている。上位制御装置80は、車両の制御を統括する。
【0024】
ちなみに、制御装置70は、自身が備える記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、各種制御機能を実現する。各種機能は、ハードウェアである電子回路によって実現されてもよいし、ハードウェア及びソフトウェアの双方によって実現されてもよい。
【0025】
続いて、制御装置70により実行される組電池20の昇温制御について説明する。
図2は、昇温制御処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、制御装置70により、例えば所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0026】
ステップS10では、組電池20の昇温要求があるか否かを判定する。例えば、上位制御装置80から組電池20の昇温指示があったと判定した場合、又は監視ユニット50により検出された組電池20の温度が閾値温度未満であると判定した場合、昇温要求があると判定すればよい。ここで、閾値温度と比較する温度は、例えば、検出された各電池セルの温度のうち最も低い温度、又は検出された各電池セルの温度に基づいて算出した各電池セルの平均温度としてもよい。なお、本実施形態において、ステップS10で肯定判定される状況は、回転電機40の駆動前における車両の停車中の状況を想定している。
【0027】
ステップS10において昇温要求がないと判定した場合には、ステップS11に進み、回転電機40の駆動要求があるか否かを判定する。本実施形態において、この駆動要求には、回転電機40の回転駆動により車両を走行させる要求が含まれる。
【0028】
ステップS11において駆動要求がないと判定した場合には、ステップS12に進み、待機モードに設定する。このモードを設定することにより、インバータ30の各スイッチQUH~QWLがオフ制御される。そして、ステップS13において、接続スイッチ61をオフ制御する。これにより、中間端子Bと中性点Oとが電気的に遮断される。
【0029】
ステップS11において駆動要求があると判定した場合には、ステップS14に進み、回転電機40の駆動モードに設定する。そして、ステップS16において、接続スイッチ61をオン制御する。これにより、中間端子Bと中性点Oとが接続経路60を介して電気的に接続される。その後、ステップS16において、回転電機40を回転駆動させるべく、インバータ30の各スイッチQUH~QWLのスイッチング制御を行う。これにより、車両の駆動輪が回転し、車両を走行させることができる。なお、ステップS16におけるスイッチング制御は、例えば、各相巻線41U~41Wに印加する指令電圧とキャリア信号(例えば三角波信号)との大小比較に基づくPWM、又はパルスパターンを用いて実施されればよい。
【0030】
ステップS10において昇温要求があると判定した場合には、ステップS17に進み、昇温制御モードに設定する。ステップS18では、接続スイッチ61をオン制御する。ステップS19では、組電池20を昇温させる昇温PWM制御を行う。以下、この制御について説明する。
【0031】
図3(a)に、昇温PWM制御で用いられる電力変換装置10の等価回路を示す。
図3(a)では、各相巻線41U~41Wを巻線41として示し、各上アームスイッチQUH,QVH,QWHを上アームスイッチQHとして示し、各上アームダイオードDUH,DVH,DWHを上アームダイオードDHとして示している。また、各下アームスイッチQUL,QVL,QWLを下アームスイッチQLとして示し、各下アームダイオードDUL,DVL,DWLを下アームダイオードDLとして示している。
【0032】
図3(a)の等価回路は、
図3(b)の等価回路として示すことができる。
図3(b)の回路は、第1蓄電池21と第2蓄電池22との間で双方向の電力伝達が可能な昇降圧チョッパ回路である。
図3(b)において、VBHは第1蓄電池21の端子電圧を示し、IBHは第1蓄電池21に流れる電流を示し、VBLは第2蓄電池22の端子電圧を示し、IBLは第2蓄電池22に流れる電流を示す。第1,第2蓄電池21,22の充電電流が流れる場合にIBH,IBLは負となり、第1,第2蓄電池21,22の放電電流が流れる場合にIBH,IBLは正となる。また、VRは巻線41の端子電圧を示し、IRは中性点Oに流れる電流(回転電機の電流値に相当)を示す。巻線41から中間端子Bへと向かう正方向に中性点Oに電流が流れる場合にIRは負となり、その逆方向に中性点Oに電流が流れる場合にIRは正となる。
【0033】
図3(b)を参照して、上アームスイッチQHがオン状態になると、巻線41の端子電圧VRが「VBH」となる。一方、下アームスイッチQLがオン状態になると、巻線41の端子電圧VRが「-VBL」となる。つまり、上アームスイッチQHがオン状態になることにより、巻線41に正方向に励磁電流を流すことができ、下アームスイッチQLがオン状態になることにより、巻線41に負方向に励磁電流を流すことができる。
【0034】
図4に、昇温PWM制御のブロック図を示す。制御装置70において、電流偏差算出部71は、指令電流Im*から、電流センサ62により検出された電流(以下、検出電流IMr)を減算することにより、電流偏差を算出する。本実施形態において、指令電流Im*は、
図5に示すように、正弦波として設定される。詳しくは、指令電流Im*の1周期Tcにおいて、指令電流Im*のゼロクロスタイミングに対して、正の指令電流Im*と負の指令電流Im*とが点対称になるように指令電流Im*を設定する。これにより、指令電流Im*のゼロアップクロスタイミングからゼロダウンクロスタイミングまでの期間と、指令電流Im*のゼロダウンクロスタイミングからゼロアップクロスタイミングまでの期間とが同じになる。
【0035】
また、指令電流Im*の1周期Tcにおいて、第1領域の面積S1と第2領域の面積S2とが等しくなる。第1領域S1は、指令電流Im*の1周期Tcにおいて、指令電流Im*のゼロアップクロスタイミングからゼロダウンクロスタイミングまでの時間軸と、正の指令電流Im*とで囲まれる領域である。第2領域は、1周期Tcにおいて、指令電流Im*のゼロダウンクロスタイミングからゼロアップクロスタイミングまでの時間軸と、負の指令電流Im*とで囲まれる領域である。「S1=S2」に設定されることにより、1周期Tcにおける第1蓄電池21及び第2蓄電池22の充放電電流の収支を合わせることができ、昇温制御に伴って第1蓄電池21の端子電圧と第2蓄電池22の端子電圧との差が大きくなることを抑制できる。
【0036】
なお、指令電流Im*の1周期Tcの逆数である指令電流Im*の周波数fcは、例えば、人の可聴域の下限側の周波数に設定されることが望ましい。具体的には、周波数fcは、A特性において補正値(dB)が0以下となる周波数領域である1kHz以下に設定されることが望ましく、より望ましくは、30Hz~100Hzの間の周波数(例えば50Hz)に設定されることが望ましい。
【0037】
フィードバック制御部72は、算出された電流偏差を0にフィードバック制御するための操作量として、デューティ比Dutyを算出する。デューティ比Dutyは、各スイッチQUH~QWLの1スイッチング周期Tswにおけるオン時間Tonの比率(Ton/Tsw)を定める値である。なお、フィードバック制御部72で用いられるフィードバック制御は、例えば比例積分制御とすればよい。
【0038】
PWM生成部73は、算出されたデューティ比Dutyに基づいて、各上アームスイッチQUH,QVH,QWHのゲート信号を生成する。ゲート信号は、オン制御又はオフ制御を指示する信号である。本実施形態では、各上アームスイッチQUH,QVH,QWHのゲート信号は同期している。
【0039】
反転器74は、PWM生成部73により生成された各上アームスイッチQUH,QVH,QWHのゲート信号の論理を反転させることにより、各下アームスイッチQUL,QVL,QWLのゲート信号を生成する。本実施形態では、各下アームスイッチQUL,QVL,QWLのゲート信号は同期している。
【0040】
図6に、昇温PWM制御時のスイッチングパターン等の推移を示す。
図6(a)は、各上アームスイッチQUH,QVH,QWHのゲート信号の推移を示し、
図6(b)は、各下アームスイッチQUL,QVL,QWLのゲート信号の推移を示す。
図6(c)は、中性点Oに流れる電流IRの推移と、指令電流Im*の推移とを示す。
図6(d)は、第1蓄電池21に流れる電流IBHの推移を示し、
図6(e)は、第2蓄電池22に流れる電流IBLの推移を示す。
【0041】
図6(a),(b)のように、上アームスイッチQUH,QVH,QWHと下アームスイッチQUL,QVL,QWLとが交互にオン制御される昇温PWM制御が実施される。この制御は、
図2のステップS10の昇温要求がなくなるまで継続される。この制御により、
図6(d),(e)に示すように、第1蓄電池21及び第2蓄電池22にはパルス状の電流が流れる。指令電流Im*が正となる期間においては、第1蓄電池21から放電され、第2蓄電池22に充電される。一方、指令電流Im*が負となる期間においては、第2蓄電池22から放電され、第1蓄電池21に充電される。なお、上記パルス状の電流の平均値IBHave,IBLaveは、指令電流Im*の周波数と同じ周波数の成分を含む正弦波状の電流となる。
【0042】
図7に、本実施形態のシミュレーション結果を示す。
図7(a)~(c)は、先の
図6(c)~(e)に対応している。これにより、第1蓄電池21及び第2蓄電池22に正弦波状の電流が流れ、昇温させることができる。ちなみに、コンデンサ31の端子電圧は変動しない。
【0043】
ところで、スイッチング制御を同期させることにより、回転電機40のロータが回転駆動することを抑制している。しかしながら、ロータの位置などによっては、ロータが回転駆動する可能性がある。本実施形態では、車両停止中に昇温制御を行うことが想定されているため、いきなり回転電機40に大きな電流を流した場合、ロータが回転駆動し、回転電機40によって意図せず所定値以上のトルクが出力され、パーキングブレーキの保持トルクを超えて、車両が動いてしまう虞があった。
【0044】
そこで、本実施形態では、以下のように指令電流Im*を設定し、中性点Oに流れる電流IRの大きさを制御している。制御装置70は、昇温制御を開始すると、
図8に示す指令電流Im*を決定するための指令電流設定処理を実行する。指令電流設定処理は、昇温制御中、所定周期ごとに実行される。
【0045】
制御装置70は、指令電流設定処理を開始すると、指令電流Im*(n)≧目標値Imrefであるか否かを判定する(ステップS101)。指令電流Im*(n)は、今回の処理における指令電流Im*であり、「n」は、指令電流設定処理の実行回数を示す。本実施形態において、指令電流Im*(n)の初期値である指令電流Im*(0)は、ゼロである。なお、目標値Imrefを十分下回る値であれば、初期値を任意に変更してもよい。また、この目標値Imrefは、第1蓄電池21及び第2蓄電池22の昇温に望ましい電流IRの振幅指令値であり、回転電機40のトルクが上限トルク未満となる電流制御範囲内で設定される。本実施形態では、目標値Imrefは、電流制御範囲の上限値に相当する。なお、上限トルクは、車両を停止状態に維持することができるパーキングブレーキ保持トルクに基づいて設定されるトルクであり、パーキングブレーキ保持トルク以下の値が設定される。
【0046】
ステップS101の判定結果が肯定の場合、制御装置70は、目標値Imrefを、次回処理における指令電流Im*(n+1)として設定する(ステップS102)。ステップS102の処理後、制御装置70は、指令電流設定処理を終了する。
【0047】
一方、ステップS101の判定結果が否定の場合、制御装置70は、今回の指令電流Im*(n)に振幅増加量ΔImを加算した値を、次回処理における指令電流Im*(n+1)として設定する(ステップS103)。ここで、振幅増加量ΔImは、単位時間当たりの振幅増加量のこと(時間変化レート、増加率)であり、少なくとも上限トルク未満の値が設定される。好ましくは、昇温の速度があまり遅くならないように、複数回(例えば、5~10回程度)の処理で、指令電流Im*が目標値Imrefに達するように振幅増加量ΔImが設定されることが望ましい。ステップS103の処理後、制御装置70は、指令電流設定処理を終了する。
【0048】
これにより、
図9(a)に示すように中性点Oに流れる電流IR(の振幅)は、昇温制御開始時点T0から、上限トルクで定められた電流制御範囲内で徐々に増加することとなる。これに伴い、
図9(b)に示すように回転電機40のトルクも、徐々に増加することとなるが、上限トルク(破線で示す)を超えないようにすることができる。つまり、パーキングブレーキ保持トルクを超えないようにすることができる。
【0049】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0050】
制御装置は、車両停止時において、昇温制御を開始する場合、回転電機40のトルクが上限トルク未満となる電流制御範囲内で、電流IRを徐々に増加させるように、電流を制御する。これにより、車両停止時において昇温制御を行う場合、回転電機40の巻線41にいきなり大電流が流れて、意図せず大きなトルクが発生することを抑制することができる。このため、パーキングブレーキ保持トルクを超えて、車両が動いてしまうことを抑制できる。
【0051】
中間端子B(中間点に相当)と中性点Oとが、インバータ30の各スイッチQUH~QWLを介さずに接続経路60により接続されている。この構成において、制御装置70は、インバータ30、各相巻線41U,41V,41W及び接続経路60を介して第1蓄電池21と第2蓄電池22との間にリプル電流が流れるように、インバータ30のスイッチング制御を行う。これにより、無効電力(リプル電流)の周波数fc(=1/Tc)を高くすることなく、コンデンサ31の端子電圧の変動量を低減することができる。したがって、組電池20の昇温制御時に発生する騒音を低減することができる。
【0052】
また、コンデンサ31の端子電圧の変動量を低減できるため、コンデンサ31の容量と小さくし、コンデンサ31を小型化することもできる。
【0053】
制御装置70は、昇温制御において、全相の上アームスイッチQUH,QVH,QWHのスイッチング制御を同期させ、また、全相の下アームスイッチQUL,QVL,QWLのスイッチング制御を同期させる。これにより、各相巻線41U,41V,41Wは、巻線が並列接続された等価回路とみなすことができる。このため、昇温制御時における巻線のインダクタンスを小さくすることができる。これにより、1スイッチング周期Tswにおいて中性点Oに流れる電流の変化量を大きくすることができ、大きな電流を用いて昇温制御を行うことができる。
【0054】
また、スイッチング制御を同期させることにより、回転電機40のロータが回転駆動することを抑制できる。
【0055】
制御装置70は、組電池20の昇温要求があると判定した場合、接続スイッチ61をオン状態にし、昇温要求がないと判定した場合、接続スイッチ61をオフ状態にする。これにより、車両走行時に中性点Oから中間端子Bに電流が流れることを抑制できる。
【0056】
(第2実施形態)
第2実施形態における指令電流設定処理について
図10に基づいて説明する。第2実施形態では、第1実施形態における基本構成を採用し、第1実施形態と異なる構成を中心に説明する。
【0057】
制御装置70は、
図10に示す指令電流設定処理を開始すると、ステップS101と同様に、指令電流Im*(n)≧目標値Imrefであるか否かを判定する(ステップS201)。この判定結果が肯定の場合、制御装置70は、ステップS102と同様に、目標値Imrefを、次回処理における指令電流Im*(n+1)として設定する(ステップS202)。そして、制御装置70は、指令電流設定処理を終了する。
【0058】
一方、ステップS201の判定結果が否定の場合、制御装置70は、位置センサ(角度センサなど)が検出した回転電機40のロータの位置θ(n)を取得し、前回のロータの位置θ(n-1)と同じであるか否かを判定する(ステップS203)。すなわち、ロータが動いていないか否かを判定する。
【0059】
この判定結果が肯定の場合、つまり、ロータが動いていない場合、制御装置70は、ステップS103と同様に、今回の指令電流Im*(n)に振幅増加量ΔImを加算した値を、次回処理における指令電流Im*(n+1)として設定する(ステップS204)。そして、制御装置70は、指令電流設定処理を終了する。
【0060】
一方、ステップS203の判定結果が否定の場合、つまり、ロータが動いた場合、制御装置70は、今回の指令電流Im*(n)から振幅マージンΔImmを減算した値を、次回処理における指令電流Im*(n+1)として設定する(ステップS205)。振幅マージンΔImmとは、正の所定値であり、ロータの停止状態を維持することができる値が予め設定されている。振幅マージンΔImmとして、任意の値を設定してもよいが、振幅増加量ΔImの半分程度~振幅増加量ΔImと同等の値であることが望ましい。これにより、今回の指令電流Im*(n)よりも振幅マージンΔImmだけ小さい値を次回処理以降における指令電流Im*(n+1)として設定する。
【0061】
以上により、
図11(a)に示すように中性点Oに流れる電流IR(の振幅)は、昇温制御の開始時点T0から徐々に増加する。これに伴い、
図11(b)に示すように回転電機40のトルクも、時点T0から徐々に増加する。
【0062】
そして、ロータが動いた時点T1、振幅マージンΔImmだけ電流IRの振幅が減少し、その状態が維持される。これに伴い、回転電機40のトルクは、上限トルクに達した時点T1において、トルクを減少させ、その状態を維持させる。
【0063】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0064】
制御装置70は、ロータが動いたとき、上限トルクに達したものと判定し、それ以上動かないように今回の指令電流Im*(n)よりも振幅マージンΔImmだけ小さい値を次回処理以降における指令電流Im*(n+1)として設定する。これにより、車両の動作を抑制することができるとともに、上限トルクのぎりぎりまで指令電流Im*を大きくすることができる。これにより、素早く昇温を行うことが可能となる。
【0065】
振幅増加量ΔImは、前述したように、昇温の速度があまり遅くならないように、できるだけ大きな値が設定されることが望ましい。しかしながら、あまり大きくしすぎると、上限トルクを大きく超えて、車両が動く可能性がある。そこで、制御装置70は、ロータが動いたとき、振幅マージンΔImmだけ小さい値を次回処理以降における指令電流Im*(n+1)として設定することとしている。これにより、振幅増加量ΔImをできるだけ大きな値にして、早期昇温を実現しつつ、車両の前進を抑制することができる。
【0066】
(第3実施形態)
第3実施形態における指令電流設定処理について
図12に基づいて説明する。第3実施形態では、第1実施形態における基本構成を採用し、第1実施形態と異なる構成を中心に説明する。
【0067】
第3実施形態において、制御装置70は、回転電機40の各相の巻線41の相電流を制御可能に構成されている。すなわち、電力変換装置10では、回転電機40の各相の巻線41の相電流(第3実施形態における回転電機の電流値に相当)を検出し、検出値と各相電流の指令値とを比較して、回転電機40の各相の巻線41の相電流を制御している。
【0068】
制御装置70は、
図12に示す指令電流設定処理を開始すると、各相の巻線41の相電流の振幅を指令する指令電流Iu*(n),Iv*(n),Iw*(n)を取得する(ステップS301)。指令電流Iu*(n)は、今回の処理におけるU相の相電流の振幅を指令するものである。指令電流Iv*(n)は、今回の処理におけるV相の相電流の振幅を指令するものである。指令電流Iw*(n)は、今回の処理におけるW相の相電流の振幅を指令するものである。そして、制御装置70は、指令電流Iu*(n)+Iv*(n)+Iw*(n)≧目標値Imrefであるか否かを判定する(ステップS301)。つまり、指令電流Iu*(n),Iv*(n),Iw*(n)の合計が、目標値Imref以上の値となっているかを判定する。
【0069】
この判定結果が肯定の場合、制御装置70は、
図12に示す指令電流設定処理を終了する。そして、今回の指令電流Iu*(n),Iv*(n),Iw*(n)をそのまま次回の指令電流Iu*(n+1),Iv*(n+1),Iw*(n+1)とする。
【0070】
一方、ステップS301の判定結果が否定の場合、制御装置70は、位置センサが検出した回転電機40のロータの位置θ(n)を取得し、前回のロータの位置θ(n-1)と同じであるか否かを判定する(ステップS302)。すなわち、ロータが動いていないか否かを判定する。
【0071】
ステップS302の判定結果が肯定の場合、つまり、ロータが動いていない場合、制御装置70は、今回の各指令電流Iu*(n),Iv*(n),Iw*(n)に対して、振幅増加量ΔIm/3をそれぞれ加算した値を、次回処理における各指令電流Iu*(n+1),Iv*(n+1),Iw*(n+1)として設定する(ステップS303)。なお、振幅増加量ΔIm/3は、第1実施形態で説明した振幅増加量ΔImを1/3にしたものである。
【0072】
一方、ステップS303の判定結果が否定の場合、つまり、ロータが動いた場合、制御装置70は、相電流アンバランス制御を実施して、次回処理における指令電流Iu*(n+1),Iv*(n+1),Iw*(n+1)を決定する(ステップS304)。
【0073】
相電流アンバランス制御について
図13に基づいて説明する。
図13に示すように、制御装置70は、各相の巻線41の相電流の方向及びロータの位置θeに基づいて、次回処理における指令電流Iu*(n+1),Iv*(n+1),Iw*(n+1)を決定する。相電流の方向とは、
図14に示すように、インバータ30の側から中性点Oの側に相電流が流れる場合と、
図15に示すように、中性点Oの側からインバータ30の側に流れる場合とで分けられている。また、
図14に示すように、ロータの位置θeは、U相巻線41Uの位置を0°(基準)として、ロータの磁極90(例えば、N極)の位置を電気角で表したものである。これは例示であり、基準をどの巻線41の位置としてもよいし、S極を対象としてもよい。
【0074】
例えば、ロータの位置θeが20°(0°≦θe<30°)であり、インバータ30の側から中性点Oの側(インバータ→中性点)に相電流が流れている場合、今回の指令電流Iu*(n)を次回の指令電流Iu*(n+1)として設定する。同様に、ロータの位置θeが20°であり、インバータ30の側から中性点Oの側に相電流が流れている場合、今回の指令電流Iv*(n)に振幅増加量ΔIm/3を加算したものを、次回の指令電流Iv*(n+1)として設定する。同様に、ロータの位置θeが20°であり、インバータ30の側から中性点Oの側に相電流が流れている場合、今回の指令電流Iw*(n)に振幅増加量ΔIm/3を減算したものを、次回の指令電流Iw*(n+1)として設定する。
【0075】
この結果、
図14(b)に示すように、次回以降の処理においては、相電流の振幅の大きさがアンバランスとなり、回転電機40のトルクが減少することとなる。なお、
図15(b)は、ロータの位置θeが20°(0°≦θe<30°)であり、中性点Oの側からインバータ30の側(中性点→インバータ)に相電流が流れている場合において、相電流をアンバランスにした様子を示すものである。
【0076】
第3実施形態における指令電流設定処理により、
図16(a)に示すように各相電流(の振幅)は、制御開始時点T10から徐々に増加する。これに伴い、
図16(b)に示すように回転電機40のトルクも、時点T10から徐々に増加する。
【0077】
そして、ロータが動いた時点T11において、各相電流Iu,Iv,Iwをアンバランスに制御し、その状態を維持する。これに伴い、回転電機40のトルクは、上限トルクに達した時点T11から、トルクを減少させ、その状態を維持させる。なお、
図16において、相電流Iuを実線で示し相電流Ivを一点鎖線で示し、相電流Iwを二点鎖線で示す。
【0078】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0079】
制御装置70は、ロータが動いたとき、上限トルクを超えたものと判定し、それ以上動かないように各相の巻線41の相電流の振幅の大きさがアンバランスとなるように制御する。具体的には、制御装置70は、ロータの位置θeを取得し、各巻線41の相電流の向きとロータの位置θeに基づいて、各巻線41の相電流がアンバランスとなるように、次回以降における指令電流Iu*(n+1),Iv*(n+1),Iw*(n+1)を決定する。例えば、相電流の向きとロータの位置θeに基づいて、3相のうち振幅を大きくするものと、3相のうち振幅を小さくするものと、3相のうち振幅を維持するものを決定する。そして、振幅を大きくする巻線41に対しては、振幅増加量ΔIm/3を加算し、振幅を小さくする巻線41に対しては、振幅増加量ΔIm/3を減算する。これにより、相電流の大きさをアンバランスとして、トルクを減少させることができる。また、加減算する振幅増加量ΔIm/3は、同じ値であるため、指令電流Iu*(n),Iv*(n),Iw*(n)の合計値を維持することができる。つまり、合計値を減少させなくても、トルクを減少させることができる。よって、より早く昇温させることができる。
【0080】
(第4実施形態)
第4実施形態における指令電流設定処理について
図17に基づいて説明する。第4実施形態では、第1実施形態における基本構成を採用し、第1実施形態と異なる構成を中心に説明する。
【0081】
制御装置70は、
図17に示す指令電流設定処理を開始すると、車両姿勢情報を取得し、車両姿勢情報に基づいて、上限トルクを決定する(ステップS400)。車両姿勢情報とは、車両の傾きに基づいて、車両がどのような勾配の道路上に停止しているかを把握するための情報である。例えば、下り勾配の坂に車両が停止している場合、平地若しくは上り勾配の坂に停止している場合に比較して、車両の重量の影響により、パーキングブレーキ保持トルクが小さくなる。つまり、回転電機40のトルクが小さくても、前方に移動しやすくなる。そこで、ステップS400では、これを考慮して上限トルクを車両姿勢情報に基づいて決定する。
【0082】
具体的には、下り勾配が大きいほど、上限トルクを小さくする。なお、本実施形態では、上り勾配の場合であっても平地の場合と同様の上限トルクを設定するようにしているが、上り勾配の場合には上限トルクを大きくしてもよい。
【0083】
次に制御装置70は、ステップS101と同様に、指令電流Im*(n)≧目標値Imrefであるか否かを判定する(ステップS401)。第3実施形態では、上限トルクに応じて、電流制限範囲を変更し、それに伴い、目標値Imrefを変更する場合がある。つまり、上限トルクが小さくなったことに伴い、回転電機40のトルクが上限トルクを超えないように、目標値Imrefを小さくする場合がある。
【0084】
ステップS401の判定結果が肯定の場合、制御装置70は、ステップS102と同様に、目標値Imrefを、次回処理における指令電流Im*(n+1)として設定する(ステップS402)。
【0085】
一方、ステップS401の判定結果が否定の場合、制御装置70は、今回の指令電流Im*(n)に振幅増加量ΔImを加算した値を、次回処理における指令電流Im*(n+1)として設定する(ステップS403)。ここで、振幅増加量ΔImは、少なくとも上限トルク未満の値が設定される。好ましくは、昇温の速度があまり遅くならないように、複数回(例えば、5~10回程度)の処理で、指令電流Im*が目標値Imrefに達するように振幅増加量ΔImが設定されることが望ましい。このため、目標値Imrefに応じて振幅増加量ΔImを変更してもよい。
【0086】
これにより、
図18(a)に示すように中性点Oに流れる電流IR(の振幅)は、電流制御範囲内で、徐々に増加することとなる。これに伴い、
図18(b)に示すように回転電機40のトルクも、徐々に増加することとなるが、上限トルクを超えないようにすることができる。なお、勾配が0%(破線でその上限トルクを示す)に比較して、下り勾配が大きくなる(例えば、10%)であるときには、上限トルクが小さくなる(一点鎖線で示す)。
【0087】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0088】
制御装置70は、車両停止時において、車両姿勢情報を取得し、車両姿勢情報に基づいて、上限トルクを変更する。それに伴い、制御装置70は、上限トルクを超えない電流制限範囲内で目標値Imrefを設定する。これにより、制御装置70は、回転電機40のトルクが上限トルク未満となる電流制御範囲内で、電流IRを徐々に増加させるように、電流を制御する。このため、下り勾配の坂道に車両を停止させている場合において、昇温制御に基づいて、車両が動いてしまうことを防止できる。
【0089】
(第5実施形態)
第5実施形態における指令電流設定処理について
図19に基づいて説明する。第5実施形態では、第1実施形態における基本構成を採用し、第1実施形態と異なる構成を中心に説明する。
【0090】
制御装置70は、
図19に示す指令電流設定処理を開始すると、振幅増加量ΔIm1及び振幅減少量ΔIm2を決定する(ステップS500)。具体的には、制御装置70は、組電池20の状態(電池温度、SOC)や、上限トルク、電流制御範囲、目標値Imrefなどのいずれかの値若しくはそれらの組み合わせに応じて、振幅増加量ΔIm1を決定すればよい。振幅増加量ΔIm1は、第1実施形態における振幅増加量ΔImと同様、単位時間当たりの振幅増加量のこと(時間変化レート、増加率)のことである。一方、振幅減少量ΔIm2は、単位時間当たりの振幅減少量のこと(時間変化レート、減少率)のことである。本実施形態では、振幅減少量ΔIm2として、振幅増加量ΔIm1と同じ値が設定される(ΔIm1=ΔIm2)が、異なる値であってもよい。例えば、振幅減少量ΔIm2として、振幅増加量ΔIm1よりも小さい値が設定されてもよい。
【0091】
そして、制御装置70は、第1実施形態におけるステップS101と同様に、指令電流Im*(n)≧目標値Imrefであるか否かを判定する(ステップS501)。
【0092】
ステップS501の判定結果が肯定の場合、制御装置70は、指令電流Im*(n)=目標値Imrefであるか否かを判定する(ステップS501)。ステップS502の判定結果が肯定の場合、制御装置70は、ステップS102と同様に、目標値Imrefを、次回処理における指令電流Im*(n+1)として設定する(ステップS503)。そして、制御装置70は、指令電流設定処理を終了する。
【0093】
一方、ステップS502の判定結果が否定の場合、制御装置70は、今回の指令電流Im*(n)に、ステップS500で決定された振幅減少量ΔIm2を減算した値を、次回処理における指令電流Im*(n+1)として設定する(ステップS504)。そして、制御装置70は、指令電流設定処理を終了する。
【0094】
一方、ステップS501の判定結果が否定の場合、制御装置70は、今回の指令電流Im*(n)に、ステップS500で決定された振幅増加量ΔIm1を加算した値を、次回処理における指令電流Im*(n+1)として設定する(ステップS505)。そして、制御装置70は、指令電流設定処理を終了する。
【0095】
これにより、
図20(a)に示すように中性点Oに流れる電流IR(の振幅)の増加率(破線で示す)を任意に変更することができる。また、目標値Imrefを超えてしまった場合、電流IR(の振幅)の減少率を任意に変更することができる。
【0096】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0097】
組電池20の状態(電池温度、SOC)や、上限トルク、電流制御範囲、目標値Imrefなどの値に基づいて、適切な振幅増加量ΔIm1を設定することができる。これにより、速やかに電流を上昇させることができる。また、適切な振幅増加量ΔIm1が設定されるため、回転電機40の上限トルクを超えてしまうことを抑制できる。また、振幅減少量ΔIm2を設定することができるため、目標値Imrefを超えてしまった場合、次回以降の処理における指令電流Im*(n+1)を、速やかに目標値Imref以下にすることができる。
【0098】
(上記実施形態の変形例)
上記実施形態における構成の一部を、以下に説明するように変更してもよい。以下、変形例について説明する。
【0099】
・上記実施形態において、相互に組み合わせて実施してもよい。
【0100】
・上記実施形態において、
図21に示すように、組電池20に直流電流を流すことにより、昇温制御を実施してもよい。また、
図22に示すように、組電池20に直流電流と交流電流とを組み合わせた電流を流して、昇温制御を実施してもよい。
【0101】
・上記実施形態において、組電池20を採用したが、単電池であってもよい。
【0102】
・上記実施形態において、3相のうち2相分をオンオフ制御して昇温PWM制御を実施してもよい。
【0103】
・上記実施形態において、制御装置70は、インバータ30と巻線41を介して、コンデンサ31と組電池20との間に電流が流れるようにしてもよい。
【0104】
・上記第4実施形態の相電流アンバランス制御において、同じ振幅増加量ΔIm/3を加減算することにより、アンバランスにしていたが、加算する振幅増加量と減算する振幅増加量とを異なる値にしてもよい。結果的にアンバランスになっていればよい。
【符号の説明】
【0105】
10…電力変換装置、20…組電池、30…インバータ、40…回転電機、41…巻線、70…制御装置、DUH…上アームダイオード、DUL…下アームダイオード、DVH…上アームダイオード、DVL…下アームダイオード、DWH…上アームダイオード、DWL…下アームダイオード。