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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/14 20060101AFI20241210BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
F02D41/14
F02D45/00 368F
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021069114
(22)【出願日】2021-04-15
(65)【公開番号】P2022163953
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】野瀬 勇喜
(72)【発明者】
【氏名】池田 悠人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 嵩允
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-194130(JP,A)
【文献】特開2019-100296(JP,A)
【文献】特開2019-039308(JP,A)
【文献】特開2010-038794(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0221655(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00-45/00
F01N 3/00- 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に空燃比センサを備えた内燃機関に適用され、
前記空燃比センサは、前記排気通路のうち、前記内燃機関の複数の気筒のそれぞれから排出される排気が通過する部分に設けられており、
ベース噴射量算出処理、フィードバック処理、噴射弁操作処理、一部停止処理、および補正寄与率低減処理を実行し、
前記ベース噴射量算出処理は、前記気筒に燃料を供給する燃料噴射弁による噴射量のベース値を算出する処理であり、
前記フィードバック処理は、前記空燃比センサの検出値がフィルタ処理された値を目標値にフィードバック制御すべく前記燃料噴射弁による噴射量を前記ベース値に対して補正する処理であり、
前記噴射弁操作処理は、前記フィードバック処理の出力に応じて前記燃料噴射弁を操作する処理であり、
前記一部停止処理は、前記複数の気筒のうちの一部の気筒への前記燃料噴射弁からの燃料の供給を停止し、前記複数の気筒のうちの残りの気筒への前記燃料噴射弁からの燃料の供給を継続する処理であり、
前記補正寄与率低減処理は、前記一部停止処理が実行される場合、実行される前と比較して、前記検出値の変化に対する前記フィードバック処理の制御量としての前記フィルタ処理の出力値の変化を低減する処理である内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1にみられるように、ディザ制御処理を実行する制御装置が記載されている。ディザ制御処理は、内燃機関の複数の気筒のうちの一部の気筒を、空燃比が理論空燃比よりもリッチであるリッチ燃焼気筒とし、残りの気筒を、空燃比が理論空燃比よりもリーンであるリーン燃焼気筒とする処理である。この制御装置は、複数の気筒から排出される排気全体の成分を、複数の気筒のそれぞれが燃焼対象とする混合気の空燃比を目標空燃比とした場合と同等とする。そして、この制御装置は、空燃比の検出値を目標値にフィードバック制御するためのゲインを、ディザ制御の実行中に小さくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-85948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、排気系に設けられた触媒の浄化能力が未燃燃料の影響で低下することを抑制すべく、排気系に未燃燃料と過不足なく反応する量に対して過剰な酸素を供給する回復処理を実行することを検討した。具体的には、複数の気筒の一部の気筒における燃料の供給を停止し、残りの気筒における燃料の供給を継続することを検討した。その場合、空燃比センサの検出値の目標値を的確に設定できない。しかし、回復処理の実行中に空燃比フィードバック制御を停止する場合、その後の制御性が低下するなどの不都合が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
排気通路に空燃比センサを備えた内燃機関に適用され、前記空燃比センサは、前記排気通路のうち、前記内燃機関の複数の気筒のそれぞれから排出される排気が通過する部分に設けられており、ベース噴射量算出処理、フィードバック処理、噴射弁操作処理、一部停止処理、および補正寄与率低減処理を実行し、前記ベース噴射量算出処理は、前記気筒に燃料を供給する燃料噴射弁による噴射量のベース値を算出する処理であり、前記フィードバック処理は、前記空燃比センサの検出値がフィルタ処理された値を目標値にフィードバック制御すべく前記燃料噴射弁による噴射量を前記ベース値に対して補正する処理であり、前記噴射弁操作処理は、前記フィードバック処理の出力に応じて前記燃料噴射弁を操作する処理であり、前記一部停止処理は、前記複数の気筒のうちの一部の気筒への前記燃料噴射弁からの燃料の供給を停止し、前記複数の気筒のうちの残りの気筒への前記燃料噴射弁からの燃料の供給を継続する処理であり、前記補正寄与率低減処理は、前記一部停止処理が実行される場合、前記検出値の変化に対する前記フィルタ処理の出力値の変化を低減する処理である内燃機関の制御装置である。
【0006】
上記構成において、一部停止処理の実行開始から排気中の成分が変化するまでには応答遅れが生じる。また、一部停止処理の停止から排気中の成分が変化するまでにも応答遅れが生じる。そのため、一部停止処理によって上記目標値としての正しい値が定義できなくなるか、目標値を大きく変更する必要が生じるかする期間を特定することは困難である。そして、一定期間、フィードバック処理を停止する場合、その期間の特定の仕方によって空燃比の制御性が低下しうる。また、フィードバック処理を停止する場合、再開直後における補正量をどうするか等の問題も生じる。そこで、上記構成では、一部停止処理が実行される期間にわたって、検出値の変化に対するフィルタ処理の出力値の変化を低減する。これにより、フィードバック処理に対する一部停止処理の影響を簡易に低減できることから、一部停止処理によって空燃比の制御性が低下することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態にかかる車両の駆動系を示す図。
図2】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理を示すブロック図。
図3】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図。
図4】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、内燃機関10は、4つの気筒#1~#4を備える。内燃機関10の吸気通路12には、スロットルバルブ14が設けられている。吸気通路12の下流部分である吸気ポート12aには、吸気ポート12aに燃料を噴射するポート噴射弁16が設けられている。吸気通路12に吸入された空気やポート噴射弁16から噴射された燃料は、吸気バルブ18の開弁に伴って、燃焼室20に流入する。燃焼室20には、筒内噴射弁22から燃料が噴射される。また、燃焼室20内の空気と燃料との混合気は、点火プラグ24の火花放電に伴って燃焼に供される。そのときに生成される燃焼エネルギは、クランク軸26の回転エネルギに変換される。
【0009】
燃焼室20において燃焼に供された混合気は、排気バルブ28の開弁に伴って、排気として排気通路30に排出される。排気通路30には、酸素吸蔵能力を有した三元触媒32と、ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF34)とが設けられている。なお、本実施形態では、GPF34として、粒子状物質(PM)を捕集するフィルタに酸素吸蔵能力を有した三元触媒が担持されたものを想定している。
【0010】
クランク軸26は、動力分割装置を構成する遊星歯車機構50のキャリアCに機械的に連結されている。遊星歯車機構50のサンギアSには、第1モータジェネレータ52の回転軸52aが機械的に連結されている。また、遊星歯車機構50のリングギアRには、第2モータジェネレータ54の回転軸54aと駆動輪60とが機械的に連結されている。第1モータジェネレータ52の端子には、インバータ56によって交流電圧が印加される。また、第2モータジェネレータ54の端子には、インバータ58によって交流電圧が印加される。
【0011】
制御装置70は、内燃機関10を制御対象とし、その制御量としてのトルクや排気成分比率等を制御するために、スロットルバルブ14、ポート噴射弁16、筒内噴射弁22、および点火プラグ24等の内燃機関10の操作部を操作する。また、制御装置70は、第1モータジェネレータ52を制御対象とし、その制御量である回転速度を制御すべく、インバータ56を操作する。また、制御装置70は、第2モータジェネレータ54を制御対象とし、その制御量であるトルクを制御すべくインバータ58を操作する。図1には、スロットルバルブ14、ポート噴射弁16、筒内噴射弁22、点火プラグ24、およびインバータ56,58のそれぞれの操作信号MS1~MS6を記載している。制御装置70は、内燃機関10の制御量を制御するために、エアフローメータ80によって検出される吸入空気量Ga、クランク角センサ82の出力信号Scr、および水温センサ84によって検出される水温THWを参照する。また制御装置70は、三元触媒32の上流に設けられた上流側空燃比センサ86によって検出される上流側空燃比Afuと、三元触媒32の下流に設けられた下流側空燃比センサ88によって検出される下流側空燃比Afdとを参照する。また、制御装置70は、第1モータジェネレータ52の制御量を制御するために、第1モータジェネレータ52の回転角を検知する第1回転角センサ90の出力信号Sm1を参照する。また、制御装置70は、第2モータジェネレータ54の制御量を制御するために、第2モータジェネレータ54の回転角を検知する第2回転角センサ92の出力信号Sm2を参照する。また、制御装置70は、アクセルセンサ94によって検出されるアクセルペダルの踏み込み量である、アクセル操作量ACCPを参照する。
【0012】
制御装置70は、CPU72、ROM74、および周辺回路76を備えており、それらが通信線78によって通信可能とされている。ここで、周辺回路76は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路、およびリセット回路等を含む。制御装置70は、ROM74に記憶されたプログラムをCPU72が実行することにより制御量を制御する。
【0013】
なお、以下では、制御装置70が実行する燃料噴射に関する処理を、基本となる処理、三元触媒32の回復処理、および回復処理の有無によるパラメータの設定処理の順に説明する。
【0014】
(基本となる処理)
図2に、制御装置70が実行する処理を示す。図2に示す処理は、ROM74に記憶されたプログラムをCPU72が実行することにより実現される。
【0015】
ベース噴射量算出処理M10は、充填効率ηに基づき、燃焼室20内の混合気の空燃比を目標空燃比とするための燃料量のベース値であるベース噴射量Qbを算出する処理である。詳しくは、ベース噴射量算出処理M10は、たとえば充填効率ηが百分率で表現される場合、空燃比を目標空燃比とするための充填効率ηの1%当たりの燃料量QTHに、充填効率ηを乗算することによりベース噴射量Qbを算出する処理とすればよい。ベース噴射量Qbは、燃焼室20内に充填される空気量に基づき、空燃比を目標空燃比に制御するために算出された燃料量である。ちなみに、本実施形態において、目標空燃比は、理論空燃比である。なお、充填効率ηは、CPU72により、吸入空気量Gaおよび回転速度NEに基づき算出される。また、回転速度NEは、CPU72により、出力信号Scrに基づき算出される。
【0016】
フィルタ処理M12は、上流側空燃比Afuの変化を抑制した平均空燃比Afaを算出する処理である。ここで、平均空燃比Afaは、上流側空燃比Afuの指数移動平均処理値とされる。詳しくは、平均空燃比Afaは、上流側空燃比Afuが新たにサンプリングされる都度、平均空燃比Afaに重み係数αを乗算した値と、上流側空燃比Afuに「1-α」を乗算した値との和に更新される。
【0017】
フィードバック補正係数算出処理M14は、フィードバック補正係数KAFを算出して出力する処理である。フィードバック補正係数KAFは、平均空燃比Afaを目標値Afu*にフィードバック制御するための操作量であるフィードバック操作量としてのベース噴射量Qbの補正比率δに「1」を加算した値である。
【0018】
詳しくは、偏差算出処理M16は、平均空燃比Afaと目標値Afu*との差を出力する。通常偏差補正項算出処理M18は、偏差算出処理M16の出力値を入力とする比例要素および微分要素の各出力値と、同差に応じた値の積算値を保持し出力する積分要素の出力値との和を出力する処理である。ハイパスフィルタM20は、偏差算出処理M16の出力値から高周波成分を抽出して出力する処理である。比例ゲイン乗算処理M22は、ハイパスフィルタM20の出力値に比例ゲインKphを乗算する処理である。加算処理M24は、通常偏差補正項算出処理M18の出力値に比例ゲイン乗算処理M22の出力値を加算して、補正比率δを算出する処理である。補正係数算出処理M26は、補正比率δに「1」を加算した値を、フィードバック補正係数KAFとする処理である。
【0019】
切替処理M30は、目標値Afu*をフィードバック用リッチ空燃比Afrとフィードバック用リーン空燃比Aflとの2つの値のいずれか1つからもう1つへと交互に切り替える処理である。切替処理M30は、以下の条件の論理和が真となる場合に、目標値Afu*をフィードバック用リッチ空燃比Afrに切り替える処理である。
【0020】
・酸素吸蔵量OSが切り替え用上限値OSfl以上となる旨の条件である。
・下流側空燃比Afdが、「Afs+Δ」以上となる旨の条件である。ここで、ストイキ点Afsは、理論空燃比に対応する。また、微小量Δは、たとえば0.1~0.3程度である。
【0021】
また、切替処理M30は、以下の条件の論理和が真となる場合に、目標値Afu*をフィードバック用リーン空燃比Aflに切り替える処理である。
・酸素吸蔵量OSが切り替え用下限値OSfr以下となる旨の条件である。
【0022】
・下流側空燃比Afdが、「Afs-Δ」以下となる旨の条件である。
なお、切替処理M30は、吸入空気量Gaおよび上流側空燃比Afuに基づき酸素吸蔵量OSを算出する処理を含む。
【0023】
切替処理M30は、三元触媒32の酸素吸蔵量OSを、最大値の「1/2」よりもかなり小さい値に制御することを狙っている。これは、三元触媒32の酸素吸蔵量が多い場合には、三元触媒32の下流にNOxが多量に流出する懸念があるためである。三元触媒32の酸素吸蔵量が少量の場合、三元触媒32の下流に未燃燃料が流出する懸念があるが、その量は、上記NOxが流出する量と比較すると小さい。そして三元触媒32の下流にわずかに未燃燃料が流出しても、これはGPF34が備える三元触媒によって浄化される。
【0024】
要求噴射量算出処理M40は、ベース噴射量Qbにフィードバック補正係数KAFを乗算することによって、1燃焼サイクルにおいて要求される燃料量(要求噴射量Qd)を算出する処理である。
【0025】
噴射弁操作処理M42は、ポート噴射弁16を操作すべくポート噴射弁16に操作信号MS2を出力し、筒内噴射弁22を操作すべく筒内噴射弁22に操作信号MS3を出力する処理である。特に、噴射弁操作処理M42は、ポート噴射弁16および筒内噴射弁22から1燃焼サイクル内に噴射される燃料量を要求噴射量Qdに応じた量とする処理である。
【0026】
(三元触媒32の回復処理)
上述したように、三元触媒32の酸素吸蔵量を少量に制御する場合、三元触媒32の表面に未燃燃料が付着するHC被毒が生じるおそれがある。HC被毒が生じる場合、未燃燃料の浄化能力が低下する。そこで、本実施形態では、HC被毒からの回復処理を実行する。
【0027】
図3に、HC被毒からの回復処理の手順を示す。図3に示す処理は、ROM74に記憶されたプログラムをCPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を付与する。
【0028】
図3に示す一連の処理において、CPU72は、まず実行フラグFが「1」であるか否かを判定する(S10)。実行フラグFは、「1」である場合に、回復処理の実行中であることを示し、「0」である場合に、回復処理を実行していないことを示す。CPU72は、実行フラグFが「0」であると判定する場合(S10:NO)、フューエルカット処理を実行しているときであるか否かを判定する(S12)。フューエルカット処理は、気筒#1~#4の全ての燃料の供給を停止する処理である。フューエルカット処理の実行条件は、アクセルペダルが解放されるなどして、内燃機関10に対する要求トルクが所定以下となって且つ、回転速度NEが所定速度以上である旨の条件である。
【0029】
CPU72は、フューエルカット処理を実行していないと判定する場合(S12:NO)、積算空気量InGaに吸入空気量Gaを加算した値を積算空気量InGaに代入する(S14)。積算空気量InGaは、噴射量の積算値と相関を有する量であることから、HC被毒の度合いを示す変数となっている。次に、CPU72は、積算空気量InGaが閾値InGath以上であるか否かを判定する(S16)。この処理は、HC被毒の回復処理を実行するか否かを判定する処理である。閾値InGathは、三元触媒32のHC被毒によって未燃燃料の浄化率が許容範囲の下限値となったときの積算空気量InGaに設定されている。
【0030】
CPU72は、閾値InGath以上であると判定する場合(S16:YES)、実行フラグFに「1」を代入し、気筒#1の要求噴射量Qdを強制的に「0」とする(S18)。CPU72は、S18の処理を完了する場合と、S12の処理において肯定判定する場合と、には、積算空気量InGaに「0」を代入する(S20)。
【0031】
一方、CPU72は、実行フラグFが「1」であると判定する場合(S10:YES)、気筒#1の圧縮上死点であるか否かを判定する(S22)。そしてCPU72は、気筒#1の圧縮上死点であると判定する場合(S22:YES)、S18の処理によって、気筒#1の燃料供給を停止した回数をカウントするカウンタCをインクリメントする(S24)。そしてCPU72は、カウンタCが所定値Cth以上であるか否かを判定する(S26)。この処理は、回復処理を停止するか否かを判定する処理である。所定値Cthは、たとえば「5」以下の値としてもよく、「10」以下の値としてもよい。
【0032】
CPU72は、所定値Cth以上と判定する場合(S26:YES)、実行フラグFに「0」を代入する(S28)。
なお、CPU72は、S20,S28の処理を完了する場合と、S16,S22,S26の処理において否定判定する場合と、には、図3に示す一連の処理を一旦終了する。
【0033】
(回復処理の有無によるパラメータの設定処理)
上記回復処理においては、気筒#1~#4から排気通路30に排出される排気中の酸素量は、未燃燃料と過不足なく反応する量に対して過剰となる。そのため、回復処理を実行していないときの目標値Afu*は回復処理の実行時においては適切な値とならない。しかも、酸素量が過剰に多い場合、上流側空燃比Afuは、上流側空燃比センサ86の出力の上限値によってガードされ、実際の値よりも小さいおそれもある。したがって、フィードバック補正係数算出処理M14によって適切なフィードバック補正係数KAFを算出することは困難である。そこで本実施形態では、回復処理を実行する場合、フィルタ処理M12およびフィードバック補正係数算出処理M14のパラメータの設定を変更する。
【0034】
図4に、上記変更にかかる処理の手順を示す。図4に示す処理は、ROM74に記憶されたプログラムをCPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0035】
図4に示す一連の処理において、CPU72は、まず、以下の条件(ア)および条件(イ)の論理和が真であるか否かを判定する(S30)。
条件(ア):実行フラグFが「1」である旨の条件である。
【0036】
条件(イ):実行フラグFが「1」から「0」に切り替わってから所定時間内である旨の条件である。
この処理は、回復処理の影響が空燃比フィードバック制御に及ぶ期間であるか否かを判定する処理である。ここで、条件(イ)は、影響が及ぶ期間の終点を定める。条件(イ)における所定時間は、回復処理の停止の影響が上流側空燃比センサ86に及ぶまでの応答遅れ時間に応じて設定されている。条件(ア)は、影響が及ぶ期間の始点を定める。回復処理の開始直後には、気筒#1から上流側空燃比センサ86付近への排気の流動に起因した応答遅れのために、回復処理による上流側空燃比Afuへの影響はない。ただし、影響が生じるタイミングを正確に把握することが困難なため、影響が及ぶ期間の始点を条件(ア)によって特定した。
【0037】
CPU72は、論理和が真であると判定する場合(S30:YES)、重み係数αに、回復時係数αLを代入し、比例ゲインKphに、回復時ゲインKphLを代入する(S32)。一方、CPU72は、論理和が偽であると判定する場合(S30:NO)、重み係数αに、基本係数α0を代入し、比例ゲインKphに通常ゲインKph0を代入する(S34)。基本係数α0は、回復時係数αLよりも小さく、通常ゲインKph0は、回復時ゲインKphLよりも大きい。
【0038】
なお、S32,S34の処理を完了する場合には、図4に示す一連の処理を一旦終了する。ちなみに、S32の処理において、切替処理M30に入力される下流側空燃比Afdの変化を低減すべくフィルタ処理を施すなどしてもよい。
【0039】
ここで、本実施形態の作用および効果について説明する。
CPU72は、積算空気量InGaが閾値InGa以上となる場合、HC被毒によって三元触媒32による未燃燃料の浄化率が許容範囲の下限値に達すると判定し、回復処理を実行する。そしてCPU72は、回復処理の開始から回復処理の停止後、所定時間にわたって、重み係数αを大きくする。これにより、上流側空燃比Afuの変化に対する平均空燃比Afaの変化を小さくすることができることから、回復処理によってフィードバック補正係数KAFが大きく変化することを抑制できる。また、CPU72は、所定期間にわたって、比例ゲインKphを小さくする。これにより、比例ゲイン乗算処理M22の出力値を小さくすることができる。そのため、回復処理の開始によって補正比率δが過度に大きくなることを抑制できる。
【0040】
しかも、所定期間は、比較的短い期間である。そのため、所定期間のみフィードバック処理を停止する場合と比較すると、空燃比フィードバック制御の連続性を保つことで制御を簡素化しやすい。
【0041】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1)S32の処理を、回復処理の停止後、所定時間にわたって継続した。これにより、気筒#1~#4から排出された排気が上流側空燃比Afuに影響を及ぼすまでの遅延を考慮することができる。
【0042】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。ベース噴射量算出処理は、ベース噴射量算出処理M10に対応する。フィードバック処理は、フィードバック補正係数算出処理M14および要求噴射量算出処理M40に対応する。噴射弁操作処理は、噴射弁操作処理M42に対応する。一部停止処理は、S18の処理に対応する。補正寄与率低減処理は、S32の処理に対応する。
【0043】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0044】
・HC被毒の度合いを示す変数としては、積算空気量InGaに限らない。たとえば充填効率ηの積算値であってもよい。また気筒に吸入される空気量を示す変数に限らず、たとえば噴射量の積算値等、要は、負荷の積算値であればよい。フューエルカット処理時以外の全ての期間における負荷の積算値にも限らない。たとえば、負荷が一定値以上である場合に限った負荷の積算値であってもよい。
【0045】
・フィルタ処理M12としては、指数移動平均処理に限らない。たとえば1次遅れフィルタによる処理であってもよい。
・フィードバック処理としては、図2に例示した処理に限らない。たとえば、ハイパスフィルタM20、比例ゲイン乗算処理M22および加算処理M24を削除してもよい。その場合、通常偏差補正項算出処理M18の出力値が補正比率δとなる。また、通常偏差補正項算出処理M18としては、偏差算出処理M16の出力値を入力とする、比例要素、積分要素、および微分要素の各出力値の和を出力値とする処理に限らない。たとえば、比例要素の出力値および積分要素の出力値の和を出力値とする処理であってもよい。またたとえば、積分要素の出力値を出力値とする処理であってもよい。ハイパスフィルタM20の入力としては、平均空燃比Afaと目標値Afu*との差に限らない。たとえば、上流側空燃比Afuと目標値Afu*との差であってもよい。
【0046】
・目標値Afu*をフィードバック用リーン空燃比Aflに切り替える条件としては、酸素吸蔵量OSが切り替え用下限値OSfr以下となることと、下流側空燃比Afdが「Afs-Δ」以下となることとの論理和が真となることに限らない。たとえば、酸素吸蔵量OSが切り替え用下限値OSfr以下となることのみであってもよい。またたとえば、下流側空燃比Afdが「Afs-Δ」以下となることのみであってもよい。
【0047】
・目標値Afu*をフィードバック用リッチ空燃比Afrに切り替える条件としては、酸素吸蔵量OSが切り替え用上限値OSfl以上となることと、下流側空燃比Afdが「Afs+Δ」以上となることとの論理和が真となることに限らない。たとえば、酸素吸蔵量OSが切り替え用上限値OSfl以上となることのみであってもよい。またたとえば、下流側空燃比Afdが「Afs+Δ」以上となることのみであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…内燃機関
30…排気通路
32…三元触媒
34…GPF
50…遊星歯車機構
70…制御装置
86…上流側空燃比センサ
図1
図2
図3
図4