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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20241210BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 21/76 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 27/06 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 27/088 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 21/822 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 27/04 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H01L29/78 655A
H01L29/78 653A
H01L29/78 657D
H01L29/78 652R
H01L29/91 C
H01L29/78 652J
H01L29/78 655B
H01L27/06 102A
H01L27/088 E
H01L27/088 331C
H01L27/04 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021075293
(22)【出願日】2021-04-27
(65)【公開番号】P2022169322
(43)【公開日】2022-11-09
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩一
【審査官】戸川 匠
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-125597(JP,A)
【文献】国際公開第2019/013286(WO,A1)
【文献】特開2004-146679(JP,A)
【文献】特開2002-343967(JP,A)
【文献】特開2015-177057(JP,A)
【文献】国際公開第2017/146148(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/220879(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/034127(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/76
H01L 21/822
H01L 21/8234
H01L 27/04
H01L 27/06
H01L 27/088
H01L 29/739
H01L 29/78
H01L 29/861
H01L 29/868
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置であって、
半導体基板と、
前記半導体基板の下面に接する下部電極と、
ゲート絶縁膜と、
ゲート電極、
を有し、
前記半導体基板が、
前記下部電極に接するp型のコレクタ領域と、
前記コレクタ領域に隣接する位置で前記下部電極に接するn型のカソード領域、
を有し、
前記半導体基板が、
前記半導体基板の厚み方向に沿って見たときに前記コレクタ領域と重複する絶縁ゲートバイポーラトランジスタ範囲と、
前記半導体基板の厚み方向に沿って見たときに前記カソード領域と重複するダイオード範囲、
を有し、
前記半導体基板が、
前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタ範囲と前記ダイオード範囲に跨って分布しており、前記コレクタ領域の上面と前記カソード領域の上面に接しており、前記カソード領域よりもn型不純物濃度が低いn型のバッファ領域と、
前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタ範囲と前記ダイオード範囲に跨って分布しており、前記バッファ領域の上面に接しており、前記バッファ領域よりもn型不純物濃度が低いn型のドリフト領域と、
前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタ範囲内に配置されており、前記ドリフト領域に接しているp型のボディ領域と、
前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタ範囲内に配置されており、前記ボディ領域によって前記ドリフト領域から分離されているn型のソース領域と、
前記ダイオード範囲内に配置されており、前記ドリフト領域に接しているp型のアノード領域と、
前記コレクタ領域と前記カソード領域の境界の上部に配置されており、前記バッファ領域の上面に接しており、前記ドリフト領域に接しており、前記バッファ領域と前記ドリフト領域によって構成されるn型領域内でフローティングしているp型の電流制限領域、
を有し、
前記ゲート電極が、前記ゲート絶縁膜を介して前記ボディ領域に対向している、
半導体装置。
【請求項2】
前記電流制限領域の側面に前記ドリフト領域が接している、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記バッファ領域と前記ドリフト領域によって構成される前記n型領域内でフローティングしているp型の領域が、前記電流制限領域以外に存在しない、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記コレクタ領域と前記カソード領域の前記境界から前記カソード領域の上部の前記電流制限領域の側面までの前記半導体基板の前記下面に沿う方向における距離が20μm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、半導体装置に関する。
【0002】
特許文献1に、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(以下、IGBT(insulated gate bipolar transistor)という場合がある。)とダイオードを有する半導体装置が開示されている。この半導体装置の半導体基板は、IGBT範囲とダイオード範囲を有している。半導体基板の下面には下部電極が設けられている。IGBT範囲内には、下部電極に接するp型のコレクタ領域が設けられている。ダイオード範囲内には、下部電極に接するn型のカソード領域が設けられている。コレクタ領域とカソード領域は隣接している。コレクタ領域とカソード領域上には、n型のバッファ層及びドリフト層が設けられている。IGBT範囲の上部に、p型のボディ領域とn型のソース領域が設けられている。ボディ領域は、ゲート絶縁膜を介してゲート電極に対向している。ダイオード範囲の上部に、p型のアノード領域が設けられている。IGBT範囲内にIGBTが形成されており、ダイオード範囲内にダイオードが形成されている。IGBTが動作する場合には、上部電極がエミッタ電極として機能し、下部電極がコレクタ電極として機能する。ダイオードが動作する場合には、上部電極がアノード電極として機能し、下部電極がカソード電極として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-132620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の半導体装置では、上部電極の電位が下部電極の電位よりも高くなると、ダイオードがオンする。すなわち、ダイオード範囲内において、アノード領域からカソード領域に向かって電流が流れる。このときに、IGBT範囲内のボディ領域からダイオード範囲内のカソード領域に向かってホールが流れる。すなわち、IGBT範囲とダイオード範囲の境界を跨ってホールが流れる。その後、半導体装置への印加電圧が反転すると、ドリフト領域内に存在するホールが逆流して上部電極へ排出される。これによって、逆回復損失が発生する。このとき、IGBT範囲とダイオード範囲の境界近傍のドリフト領域内に存在するホールも逆流して上部電極へ排出される。このように、IGBT範囲とダイオード範囲の境界でホールが逆流すると、高い逆回復損失が生じる。したがって、本明細書では、IGBT範囲とダイオード範囲の境界におけるホールの逆流を抑制する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体装置は、半導体基板と、前記半導体基板の下面に接する下部電極と、ゲート絶縁膜と、ゲート電極、を有する。前記半導体基板が、前記下部電極に接するp型のコレクタ領域と、前記コレクタ領域に隣接する位置で前記下部電極に接するn型のカソード領域、を有する。前記半導体基板が、前記半導体基板の厚み方向に沿って見たときに前記コレクタ領域と重複する絶縁ゲートバイポーラトランジスタ範囲と、前記半導体基板の厚み方向に沿って見たときに前記カソード領域と重複するダイオード範囲、を有する。前記半導体基板が、バッファ領域と、ドリフト領域と、ボディ領域と、ソース領域と、アノード領域と、電流制限領域を有する。前記バッファ領域は、前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタ範囲と前記ダイオード範囲に跨って分布しており、前記コレクタ領域の上面と前記カソード領域の上面に接しており、前記カソード領域よりもn型不純物濃度が低いn型領域である。前記ドリフト領域は、前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタ範囲と前記ダイオード範囲に跨って分布しており、前記バッファ領域の上面に接しており、前記バッファ領域よりもn型不純物濃度が低いn型領域である。前記ボディ領域は、前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタ範囲内に配置されており、前記ドリフト領域に接しているp型領域である。前記ソース領域は、前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタ範囲内に配置されており、前記ボディ領域によって前記ドリフト領域から分離されているn型領域である。前記アノード領域は、前記ダイオード範囲内に配置されており、前記ドリフト領域に接しているp型領域である。前記電流制限領域は、前記コレクタ領域と前記カソード領域の境界の上部に配置されており、前記バッファ領域の上面に接しており、前記ドリフト領域に接しており、前記バッファ領域と前記ドリフト領域によって構成されるn型領域内でフローティングしているp型領域である。前記ゲート電極が、前記ゲート絶縁膜を介して前記ボディ領域に対向している。
【0006】
この半導体装置では、p型の電流制限領域が、バッファ領域とドリフト領域によって構成されるn型領域内でフローティングしている。このため、ダイオードがオンしているときに、ホールがドリフト領域から電流制限領域に流入できない。電流制限領域がコレクタ領域とカソード領域の境界の上部に配置されているので、コレクタ領域とカソード領域の境界近傍においてドリフト領域からカソード領域にホールが流入することが抑制される。すなわち、ダイオードがオンしている状態において、IGBT範囲とダイオード範囲の境界にホールが流れることが抑制される。したがって、その後に半導体装置への印加電圧が反転した場合に、IGBT範囲とダイオード範囲の境界おいてホールが逆流することが抑制される。したがって、この半導体装置では、逆回復損失が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】半導体装置10の断面図。
図2】比較例の半導体装置の断面図。
図3】幅L1と逆回復損失Errと順電圧VFPの関係を示すグラフ。
図4】変形例1の半導体装置の断面図。
図5】変形例2の半導体装置の断面図。
図6】参考例1の半導体装置の断面図。
図7】参考例2の半導体装置の断面図。
図8】参考例3の半導体装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記電流制限領域の側面に前記ドリフト領域が接していてもよい。
【0009】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記バッファ領域と前記ドリフト領域によって構成される前記n型領域内でフローティングしているp型の領域が、前記電流制限領域以外に存在しなくてもよい。
【0010】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記コレクタ領域と前記カソード領域の前記境界から前記カソード領域の上部の前記電流制限領域の側面までの前記半導体基板の前記下面に沿う方向における距離が20μm以上であってもよい。
【0011】
この構成によれば、逆回復損失を効果的に抑制することができる。
【0012】
図1に示す実施形態の半導体装置10は、半導体基板12を有している。半導体基板12の下面12bは、下部電極18によって覆われている。半導体基板12の内部であって下部電極18に接する範囲内に、p型のコレクタ領域32とn型のカソード領域52が設けられている。以下では、半導体基板12のうち、半導体基板12の厚み方向に沿って見たときにコレクタ領域32と重複する範囲を、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ範囲30(すなわち、IGBT範囲30)という。また、半導体基板12のうち、半導体基板12の厚み方向に沿って見たときにカソード領域52と重複する範囲をダイオード範囲50という。
【0013】
半導体基板12の上面12aは、層間絶縁膜14によって覆われている。層間絶縁膜14は、IGBT範囲30とダイオード範囲50に跨る範囲で上面12aを覆っている。層間絶縁膜14の上面は、上部電極16によって覆われている。上部電極16は、IGBT範囲30とダイオード範囲50に跨る範囲で層間絶縁膜14の上面を覆っている。層間絶縁膜14には、複数のコンタクトホール14aが設けられている。IGBT範囲30とダイオード範囲50のそれぞれに、複数のコンタクトホール14aが設けられている。上部電極16は、コンタクトホール14a内に配置された埋め込み金属層16aと、層間絶縁膜14上に配置された表層金属層16bを有している。各埋め込み金属層16aは、主にタングステンにより構成されている。表層金属層16bは、主にアルミニウムにより構成されている。上部電極16は、各コンタクトホール14a内で半導体基板12の上面12aに接している。
【0014】
半導体基板12の上面12aには、複数のトレンチ20が設けられている。各トレンチ20は、略平行に伸びている。IGBT範囲30とダイオード範囲50のそれぞれに、複数のトレンチ20が設けられている。各トレンチ20の内面は、ゲート絶縁膜22によって覆われている。各トレンチ20内に、ゲート電極24が設けられている。各ゲート電極24は、ゲート絶縁膜22によって半導体基板12から絶縁されている。各ゲート電極24の上面は、層間絶縁膜14によって覆われている。各ゲート電極24は、層間絶縁膜14によって上部電極16から絶縁されている。
【0015】
コレクタ領域32は、高いp型不純物濃度を有するp型領域である。上述したように、コレクタ領域32は、IGBT範囲30内で下部電極18に接している。コレクタ領域32は、下部電極18にオーミック接触している。
【0016】
カソード領域52は、高いn型不純物濃度を有するn型領域である。上述したように、カソード領域52は、ダイオード範囲50内で下部電極18に接している。より詳細には、カソード領域52は、コレクタ領域32に隣接する範囲で下部電極18に接している。カソード領域52は、下部電極18にオーミック接触している。コレクタ領域32とカソード領域52の間の境界60は、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界と一致している。
【0017】
半導体基板12は、バッファ領域34、ドリフト領域36、電流制限領域38、上部p型領域40、及び、複数のエミッタ領域42を有している。
【0018】
バッファ領域34は、カソード領域52よりもn型不純物濃度が低いn型領域である。バッファ領域34は、IGBT範囲30からダイオード範囲50まで分布している。バッファ領域34は、コレクタ領域32の上面とカソード領域52の上面に接している。
【0019】
ドリフト領域36は、バッファ領域34よりもn型不純物濃度が低いn型領域である。ドリフト領域36は、IGBT範囲30からダイオード範囲50まで分布している。ドリフト領域36は、IGBT範囲30内及びダイオード範囲50内において、バッファ領域34の上面に接している。
【0020】
電流制限領域38は、バッファ領域34とドリフト領域36によって構成されるn型領域35内に配置されている。電流制限領域38の周囲全体は、n型領域35によって囲まれている。したがって、電流制限領域38は、n型領域35内でフローティングしている。n型領域35内には、電流制限領域38以外に、フローティングしているp型領域が存在しない。電流制限領域38は、コレクタ領域32とカソード領域52の境界60の上部に配置されている。すなわち、電流制限領域38は、IGBT範囲30とダイオード範囲50に跨って分布している。電流制限領域38は、バッファ領域34の上面に接している。ドリフト領域36は、電流制限領域38の上面に接している。すなわち、境界60の上部において、バッファ領域34上に電流制限領域38が配置されており、電流制限領域38上にドリフト領域36が配置されている。電流制限領域38の側面には、ドリフト領域36が接している。電流制限領域38は、IGBT範囲30内よりもダイオード範囲50内に広く分布している。すなわち、半導体基板12の下面12bに平行であって境界60に直交する方向において、境界60からカソード領域52上の電流制限領域38の端部(すなわち、側面)までの距離(以下、幅L1という)は、境界60からコレクタ領域32上の電流制限領域38の端部(すなわち、側面)までの距離(以下、幅L2という)よりも長い。幅L1は、20μmよりも長い。
【0021】
各エミッタ領域42は、n型領域であり、半導体基板12の上面12aの一部を含む範囲に配置されている。各エミッタ領域42は、対応するコンタクトホール14a内の上部電極16にオーミック接触している。各エミッタ領域42は、対応するトレンチ20の側面においてゲート絶縁膜22に接している。本実施形態では、IGBT範囲30内とダイオード範囲50内のそれぞれに複数のエミッタ領域42が設けられている。但し、他の実施形態では、ダイオード範囲50内にエミッタ領域42が設けられていなくてもよい。
【0022】
上部p型領域40は、半導体基板12の上面12aの一部を含む範囲に配置されている。上部p型領域40は、IGBT範囲30からダイオード範囲50まで分布している。以下では、IGBT範囲30内の上部p型領域40をボディ領域44といい、ダイオード範囲50内の上部p型領域40をアノード領域54という。
【0023】
ボディ領域44は、IGBT範囲30内において、エミッタ領域42の側方からエミッタ領域42の下側まで分布しており、各エミッタ領域42をドリフト領域36から分離している。ボディ領域44は、複数のコンタクト領域44aと低濃度領域44bを有している。各コンタクト領域44aのp型不純物濃度は、低濃度領域44bのp型不純物濃度よりも高い。各コンタクト領域44aは、エミッタ領域42の側方であって、半導体基板12の上面12aの一部を含む範囲に配置されている。各コンタクト領域44aは、対応するコンタクトホール14a内の上部電極16にオーミック接触している。低濃度領域44bは、コンタクト領域44a及びエミッタ領域42の下側に配置されている。低濃度領域44bは、エミッタ領域42の下側でゲート絶縁膜22に接している。低濃度領域44bは、ドリフト領域36の上面に接している。
【0024】
アノード領域54は、ダイオード範囲50内において、エミッタ領域42の側方からエミッタ領域42の下側まで分布しており、各エミッタ領域42をドリフト領域36から分離している。アノード領域54は、複数のコンタクト領域54aと低濃度領域54bを有している。各コンタクト領域54aのp型不純物濃度は、低濃度領域54bのp型不純物濃度よりも高い。各コンタクト領域54aは、エミッタ領域42の側方であって、半導体基板12の上面12aの一部を含む範囲に配置されている。各コンタクト領域54aは、対応するコンタクトホール14a内の上部電極16にオーミック接触している。低濃度領域54bは、コンタクト領域54a及びエミッタ領域42の下側に配置されている。低濃度領域54bは、エミッタ領域42の下側でゲート絶縁膜22に接している。低濃度領域54bは、ドリフト領域36の上面に接している。
【0025】
ドリフト領域36は、低濃度領域44b及び54bの下側でゲート絶縁膜22に接している。
【0026】
IGBT範囲30内には、エミッタ領域42、ボディ領域44、ドリフト領域36、バッファ領域34、コレクタ領域32、ゲート電極24、及び、ゲート絶縁膜22等によって、IGBTが形成されている。IGBTを動作させるときには、下部電極18に上部電極16よりも高い電位を印加する。ゲート電極24にゲート閾値以上の電位を印加すると、ボディ領域44の低濃度領域44bにチャネルが形成され、チャネルによってエミッタ領域42とドリフト領域36が接続される。これによって、IGBTがオンし、下部電極18から上部電極16へ向かって電流が流れる。
【0027】
ダイオード範囲50内には、アノード領域54、ドリフト領域36、バッファ領域34、及び、カソード領域52によってPIN型のダイオードが形成されている。上部電極16に下部電極18よりも高い電位を印加すると、ダイオードがオンし、上部電極16から下部電極18へ電流が流れる。
【0028】
ダイオード範囲50内のダイオードの動作について、詳細に説明する。上部電極16に下部電極18よりも高い電位を印加すると、図1の矢印100に示すように、アノード領域54(すなわち、コンタクト領域54aと低濃度領域54b)からドリフト領域36へホールが流入する。矢印100に示すように、アノード領域54からドリフト領域36へ流入したホールは、バッファ領域34を介してカソード領域52へ流れる。また、この状態では、カソード領域52からバッファ領域34とドリフト領域36を介してアノード領域54へ電子が流れる。すなわち、矢印100の逆向きに電子が流れる。このようにホール及び電子が流れるので、ダイオード範囲50内に上部電極16から下部電極18に向かって電流が流れる。その後、上部電極16の電位が下部電極18の電位よりも低くなると、ダイオードが逆回復動作を行う。すなわち、ドリフト領域36内に存在するホールが、アノード領域54を介して上部電極16へ排出される。このため、ダイオードに瞬間的に逆方向に電流(いわゆる、逆回復電流)が流れる。このように逆回復電流が流れることで、ダイオードで逆回復損失Errが発生する。
【0029】
また、図2は、比較例の半導体装置を示している。比較例の半導体装置は、電流制限領域38を有していない点で、図1に示す実施形態の半導体装置とは異なる。比較例の半導体装置でも、実施例1の半導体装置と同様に、ダイオードのオン状態において矢印100に示すようにダイオード範囲50内にホールが流れる。また、比較例の半導体装置では、図2の矢印102に示すように、ダイオードがオンしているときに、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界にホールが流れる。すなわち、ダイオードがオンしているときに、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界近傍のボディ領域44からドリフト領域36へホールが流入する。矢印102に示すように、ボディ領域44からドリフト領域36へ流入したホールは、バッファ領域34を介して、境界60近傍のカソード領域52へ流入する。このように、電流制限領域38が存在しないと、IGBT範囲30内のボディ領域44からダイオード範囲50内のカソード領域52へホールが流れる。その後、上部電極16の電位が下部電極18の電位よりも低くなると、ダイオードが逆回復動作を行う。比較例の半導体装置の逆回復動作でも、実施例の半導体装置10の逆回復動作と同様に、ダイオード範囲50内に逆回復電流が流れる。また、比較例の半導体装置では、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界近傍のドリフト領域36内に存在するホール(すなわち、矢印102に示す経路上に存在するホール)が、ボディ領域44を介して上部電極16へ流れる。すなわち、比較例の半導体装置では、ダイオード範囲50内だけでなく、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界にも逆回復電流が流れる。このため、比較例の半導体装置では、逆回復損失Errが生じやすい。
【0030】
これに対し、図1に示す実施形態の半導体装置10では、コレクタ領域32とカソード領域52の境界60の上部に、p型の電流制限領域38が設けられている。したがって、ダイオードがオンしているときに、電流制限領域38とドリフト領域36の界面のpn接合が障壁となり、ドリフト領域36から電流制限領域38にホールが流入することが防止される。すなわち、実施形態の半導体装置10では、矢印102に示すホールの流れ(すなわち、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界におけるホールの流れ)が、電流制限領域38によって防止される。このため、ダイオードがオンしているときに、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界近傍のドリフト領域36内に存在するホールが極めて少ない。したがって、逆回復動作において、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界に流れる逆回復電流が極めて小さい。したがって、実施形態の半導体装置10では、逆回復損失Errが生じ難い。
【0031】
図3は、電流制限領域38のダイオード範囲50内における幅L1及び電流制限領域38のp型不純物濃度Npが異なる半導体装置のサンプルを作成し、各サンプルについてダイオードの順電圧VFPと逆回復損失Errを測定した結果を示している。図3に示すように、p型不純物濃度Npが何れであっても、電流制限領域38の幅L1が広いほど、逆回復損失Errが少なくなる。これは、電流制限領域38の幅L1が広いほど、図1、2の矢印102に示すホールの流れが抑制されるためであると考えられる。また、図3に示すように、p型不純物濃度Npが何れであっても、電流制限領域38の幅L1が広いほど、ダイオードの順電圧VFPが高くなる。これは、電流制限領域38の幅L1が広いほど、ダイオード範囲50内で電流が流れる範囲が狭くなるためであると考えられる。図3から明らかなように、幅L1を10μmから20μmに増加させたときの逆回復損失Errの減少量は、幅L1を0μmから10μmに増加させたときの逆回復損失Errの減少量、及び、幅L1を20μmから30μmに増加させたときの逆回復損失Errの減少量のいずれよりも大きい。このように、幅L1を20μm以上とすることで、逆回復損失Errをより効果的に抑制できる。
【0032】
以上に説明したように、コレクタ領域32とカソード領域52の境界60の上部に電流制限領域38を有する実施形態の半導体装置10によれば、ダイオードの逆回復損失Errを抑制することができる。
【0033】
なお、他の実施形態では、図4に示すように、上部p型領域40を上下に分割するn型領域41が設けられていてもよい。n型領域41によって、低濃度領域44bが、n型領域41の上側に位置する第1低濃度領域44b-1と、n型領域41の下側に位置する第2低濃度領域44b-2に分割されている。また、n型領域41によって、低濃度領域54bが、n型領域41の上側に位置する第1低濃度領域54b-1と、n型領域41の下側に位置する第2低濃度領域54b-2に分割されている。このような構成でも、n型領域41のn型不純物濃度を調整することで、第1低濃度領域44b-1と第2低濃度領域44b-2の間、及び、第1低濃度領域54b-1と第2低濃度領域54b-2の間に電流を流すことができる。したがって、第1低濃度領域44b-1と第2低濃度領域44b-2がボディ領域44として機能し、第1低濃度領域54b-1と第2低濃度領域54b-2がアノード領域54として機能することができる。
【0034】
また、他の実施形態では、図5に示すように、電流制限領域38の側面にバッファ領域34が接していてもよい。この構成でも、電流制限領域38によって逆回復損失Errを抑制できる。
【0035】
以下に、参考例1~3として、電流制限領域38以外によって境界部の逆回復電流を抑制する構成について説明する。すなわち、参考例1~3の半導体装置は、電流制限領域38を有さない。
【0036】
(参考例1)
図6に示す参考例1の半導体装置では、IGBT範囲30内の表層金属層16bうちのダイオード範囲50に隣接する部分16b-2が、その他の部分16b-1よりも抵抗率が高い金属により構成されている。より詳細には、部分16b-1がアルミニウムにより構成されており、部分16b-2がアルミニウムよりも抵抗率が高い金属により構成されている。したがって、ダイオードがオンしているときに、図6の矢印102に示す経路(すなわち、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界)にホールが流れることが抑制される。したがって、ダイオードの逆回復動作において、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界に逆回復電流が流れることが抑制される。したがって、逆回復損失Errを抑制することができる。
【0037】
(参考例2)
図7に示す参考例2の半導体装置では、バッファ領域34が、高濃度領域34aと低濃度領域34bを有している。低濃度領域34bのn型不純物濃度は、高濃度領域34aのn型不純物濃度よりも低い。低濃度領域34bは、ダイオード範囲50内であって、コレクタ領域32とカソード領域52の境界60に隣接する位置に配置されている。高濃度領域34aは、IGBT範囲30内のバッファ領域34の全体と、ダイオード範囲50内のバッファ領域34の境界60近傍以外の部分を構成している。低濃度領域34bのn型不純物濃度が高濃度領域34aのn型不純物濃度よりも低いので、低濃度領域34bの抵抗率は高濃度領域34aの抵抗率よりも低い。したがって、ダイオードがオンしているときに、図7の矢印102に示す経路(すなわち、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界)にホールが流れることが抑制される。したがって、ダイオードの逆回復動作において、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界に逆回復電流が流れることが抑制される。したがって、逆回復損失Errを抑制することができる。
【0038】
(参考例3)
図8に示す参考例3の半導体装置では、IGBT範囲30内のうちのIGBT範囲30とダイオード範囲50の境界に隣接する範囲30xにおいて、その他の範囲よりもトレンチ20の間の間隔が狭い。このため、範囲30x内において、トレンチ20に挟まれた部分のボディ領域44の幅が狭い。このため、ダイオードがオンしているときに、範囲30x内のボディ領域44からドリフト領域36にホールが流入し難い。また、範囲30x内においてコンタクトホール14aの幅が細いことによっても、範囲30x内のボディ領域44からドリフト領域36にホールが流入することが抑制される。したがって、ダイオードがオンしているときに、図8の矢印102に示す経路(すなわち、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界)にホールが流れることが抑制される。したがって、ダイオードの逆回復動作において、IGBT範囲30とダイオード範囲50の境界に逆回復電流が流れることが抑制される。したがって、逆回復損失Errを抑制することができる。
【0039】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0040】
10:半導体装置
12:半導体基板
14:層間絶縁膜
16:上部電極
18:下部電極
20:トレンチ
22:ゲート絶縁膜
24:ゲート電極
30:IGBT範囲
32:コレクタ領域
34:バッファ領域
36:ドリフト領域
38:電流制限領域
42:エミッタ領域
44:ボディ領域
50:ダイオード範囲
52:カソード領域
54:アノード領域
60:境界
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8