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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】積層シート
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20241210BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20241210BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20241210BHJP
   B32B 23/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H27/30 C
B32B27/12
B32B23/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021084170
(22)【出願日】2021-05-18
(65)【公開番号】P2021181673
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2024-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2020087681
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 利奈
(72)【発明者】
【氏名】伏見 速雄
(72)【発明者】
【氏名】錦織 義治
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-037031(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126432(WO,A1)
【文献】特開2020-019971(JP,A)
【文献】特開2017-066273(JP,A)
【文献】特開2020-062889(JP,A)
【文献】特開2014-141772(JP,A)
【文献】特開2020-055975(JP,A)
【文献】特開2014-034673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/18
D21H 27/30
B32B 27/12
B32B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維層と、前記繊維層の少なくとも一方の面に配される樹脂層と、を有する積層シートであって、
前記繊維層は、置換基導入量が0.5mmol/g未満であり、かつ繊維幅が1~10nmである繊維状セルロースを含み、
前記積層シートのYI値が2.0以下である、積層シート。
【請求項2】
前記置換基がアニオン性基である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記アニオン性基が、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する官能基である、請求項2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記繊維状セルロースはカルバミド基を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項5】
前記繊維層の厚みは20μm以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項6】
前記繊維層の密度は1.0g/cm以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項7】
前記樹脂層は、前記繊維層に直接積層されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項8】
前記樹脂層は、ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項9】
前記樹脂層は、密着助剤をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項10】
前記密着助剤はイソシアネート化合物及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の積層シート。
【請求項11】
前記密着助剤はイソシアネート化合物であり、前記イソシアネート化合物の含有量は前記樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して10質量部以上40質量部以下である、請求項9又は10に記載の積層シート。
【請求項12】
ヘーズが2.0%以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項13】
光学部材用である、請求項1~12のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の積層シートと、被着体とを含む積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
【0003】
繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。微細繊維状セルロースは、新たな素材として注目されており、その用途は多岐にわたる。例えば、微細繊維状セルロースを含むシートや樹脂複合体、増粘剤の開発が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、(a)微細繊維原料に静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基を導入して、置換基導入繊維を得る工程と、(b)置換基導入繊維を機械処理する工程と、(c)工程(b)で得られた置換基導入微細繊維より、導入置換基を一部或いは全部を脱離させて、置換基脱離微細繊維を得る工程を有する微細繊維の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、塩基性を示す窒素含有化合物の存在下において、リン酸由来のエステルおよび/またはカルボン酸由来のエステルを有する化合物を加熱する工程を含む、脱エステル化合物の製造方法が開示されている。これらの文献では、微細繊維に導入した置換基を脱離させることが検討されている。
【0005】
特許文献3には、微細繊維含有シートの製造方法において、少なくとも(a)繊維原料に静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基を導入して、置換基導入繊維を得る工程と、(b)工程(a)で得られた置換基導入繊維を機械処理して、置換基導入微細繊維を得る工程と、(c)工程(b)で得られた置換基導入微細繊維からシートを調製する工程と、(d)工程(c)で得られたシートから導入置換基の少なくとも一部を脱離させる工程を有する微細繊維含有シートの製造方法が開示されている。ここでは、置換基を有する微細繊維からシートを形成した後に、置換基を脱離させる方法が検討されている。
【0006】
さらに、特許文献4及び5においては、セルロースザンテート又はセルロースザンテートのカチオン置換体を解繊処理する、セルロースザンテートナノファイバーの製造方法が開示されている。特許文献4では、必要に応じてセルロースザンテートナノファイバーを再生処理することで、無変性セルロースに戻す方法の検討もなされている。また、特許文献5においては、セルロース誘導体の微細繊維から官能基を脱離させた、平均繊維径が3nm以上300nm以下である誘導体官能基脱離セルロース微細繊維含有シートが開示されている。
【0007】
ところで、近年は、微細繊維状セルロース含有シートと樹脂層を含む複合体の開発も進められている。このような複合体においては、例えば、微細繊維状セルロース含有シート(繊維層)と樹脂層の密着性を高めるための検討がなされている。例えば、特許文献6には、微細繊維状セルロースを含む繊維層と、繊維層の一方の面に接する樹脂層とを有する積層体が開示されている。また、特許文献7には、微細繊維状セルロースによって形成された繊維層と、樹脂層と、繊維層と樹脂層の間に設けられた接着剤層と、を備えた積層体が開示されており、特許文献8では、基材とアンカー層と、セルロースナノファイバー層とをこの順で設けた積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2013/176049号
【文献】特開2015-098526号公報
【文献】国際公開第2015/182438号
【文献】国際公開第2017/111103号
【文献】特開2019-7101号公報
【文献】国際公開第2017/126432号
【文献】特開2017-056715号公報
【文献】特開2014-079938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、微細繊維状セルロースを含むシート(繊維層)と樹脂層を有する積層シートについて研究を進める中で、このような積層シートにおいて透明性が低下したり、着色が生じたりする場合があることを突き止めた。
【0010】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、微細繊維状セルロースを含む繊維層と樹脂層を有する積層シートであって、高い透明性を有し、かつ着色が抑制された積層シートを提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、繊維層と、繊維層の少なくとも一方の面に配される樹脂層と、を有する積層シートにおいて、繊維層に置換基導入量が0.5mmol/g未満であり、かつ繊維幅が1~10nmである繊維状セルロースを含有することにより、高い透明性を有し、かつ着色が抑制された積層シートが得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0012】
[1] 繊維層と、繊維層の少なくとも一方の面に配される樹脂層と、を有する積層シートであって、
繊維層は、置換基導入量が0.5mmol/g未満であり、かつ繊維幅が1~10nmである繊維状セルロースを含む、積層シート。
[2] 置換基がアニオン性基である、[1]に記載の積層シート。
[3] アニオン性基が、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する官能基である、[2]に記載の積層シート。
[4] 繊維状セルロースはカルバミド基を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の積層シート。
[5] 繊維層の厚みは20μm以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の積層シート。
[6] 繊維層の密度は1.0g/cm以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の積層シート。
[7] 樹脂層は、繊維層に直接積層されている、[1]~[6]のいずれかに記載の積層シート。
[8] 樹脂層は、ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の積層シート。
[9] 樹脂層は、密着助剤をさらに含む、[1]~[8]のいずれかに記載の積層シート。
[10] 密着助剤はイソシアネート化合物及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種である、[9]に記載の積層シート。
[11] 密着助剤はイソシアネート化合物であり、イソシアネート化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して10質量部以上40質量部以下である、[9]又は[10]に記載の積層シート。
[12] YI値が2.0以下である、[1]~[11]のいずれかに記載の積層シート。
[13] ヘーズが2.0%以下である、[1]~[12]のいずれかに記載の積層シート。
[14] 光学部材用である、[1]~[13]のいずれかに記載の積層シート。
[15] [1]~[14]のいずれかに記載の積層シートと、被着体とを含む積層体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い透明性を有し、かつ着色が抑制された積層シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の積層シートの構成を説明する断面図である。
図2図2は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
(積層シート)
本発明は、繊維層と、繊維層の少なくとも一方の面に配される樹脂層とを有する積層シートに関する。ここで、繊維層は、置換基導入量が0.5mmol/g未満であり、かつ繊維幅が1~10nmである繊維状セルロースを含む。
【0017】
図1は、本発明の積層シートの構成を説明する断面図である。図1に示されているように、本発明の積層シート10は、樹脂層2と繊維層6を有する。樹脂層2は、繊維層6に直接積層されており、樹脂層2と繊維層6は、いずれか一方の面で接した状態となっている。本発明の積層シート10は、樹脂層2と繊維層6を少なくとも1層ずつ有していればよいが、樹脂層2を2層以上有していてもよく、繊維層6を2層以上有するものであってもよい。例えば、積層シートは、繊維層、樹脂層及び繊維層をこの順で積層した構成であってもよく、樹脂層、繊維層及び樹脂層をこの順で積層した構成であってもよい。
【0018】
従来、透明性が高いシートを得るために微細繊維状セルロースの置換基導入量を高め、それにより繊維幅が小さい微細繊維状セルロースを得ることが検討されていた。しかしながら、このように、高置換基量の微細繊維状セルロースをシートに配合した場合、シートの製造工程や使用環境において加熱されることでシートが着色する傾向があった。一方で、置換基導入工程をコントロールして置換基導入量を低く抑えた場合、微細繊維状セルロースの解繊が不十分となり、高透明なシートが得られにくかった。そこで、本発明者らは微細繊維状セルロースの製造工程等について検討を重ねることで、置換基導入量が0.5mmol/g未満といった低置換基量であるにも関わらず、繊維幅を1~10nmのレベルまで微細化することに成功した。そして、低置換基量であり、かつ繊維幅が1~10nmのレベルまで微細化した繊維状セルロースを配合するシートは高透明であり、かつ着色が抑制されていることを見出した。このような微細繊維状セルロース含有シートを樹脂層に積層した場合、樹脂層の透明性が損なわれることなく維持される。
【0019】
積層シートの全光線透過率は、88%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、91%以上がさらに好ましく、91.5%以上が特に好ましい。積層シートの全光線透過率を上記範囲とすることにより、従来は透明なガラスが適用されていた用途に本発明の積層シートを適用することも可能となる。ここで、全光線透過率は、JIS K 7361-1:1997に準拠し、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
【0020】
積層シートのヘーズは、2.0%以下であることが好ましく、1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。なお、積層シートのヘーズの下限値は特に限定されるものではなく、0%であってもよい。ここで、ヘーズは、JIS K 7136:2000に準拠し、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
【0021】
本発明の積層シートにおいては、繊維層と樹脂層の層間密着性にも優れている。具体的には、JIS K 5400に準拠して積層シートの繊維層側の表面に1mmのクロスカットを100個入れ、セロハンテープ(ニチバン社製)をその上に貼り付け、押し付けた後、90°方向に剥離した場合、繊維層が樹脂層から剥離したマス数が5点未満となる。このような場合に、繊維層と樹脂層の層間密着性が良好であると判定できる。剥離したマス数は3点以下であることがより好ましく、1点以下であることがさらに好ましく、0点であることが特に好ましい。
【0022】
本発明の積層シートは繊維層と樹脂層を有するものであり、繊維層は樹脂層を補強するための層としても機能し得る。このため、積層シート自体の強度が高められている。また、積層シートを他の樹脂フィルムや樹脂板といった被着体に貼合する場合においても、繊維層は、被着体を補強するための層としての機能を果たす。例えば、被着体としてポリカーボネート板といった樹脂板を用い、この樹脂板に積層シートを貼合することで、樹脂板の力学的強度を補強することができる。このように、繊維層を有する積層シートは、被着体を補強する効果も持ち合わせている。
【0023】
被着体に積層シートが貼合された際の補強効果は例えば、被着体の曲げ弾性率に比べて、被着体に積層シートを貼合した後の曲げ弾性率が1.5倍以上となっている場合に、優れた補強効果が発揮されたと評価できる。被着体に積層シートを貼合した後の曲げ弾性率は、被着体の曲げ弾性率に比べて、2.0倍以上であることが特に好ましい。なお、被着体と積層シートを貼合する際には、被着体と積層シートを重ね合わせた後に被着体のガラス転移温度以上に熱プレスすることで積層シートを作製する。
【0024】
本発明の積層シートはそれ自体が優れた機械的強度を有している。例えば、積層シートの23℃、相対湿度50%における引張弾性率は、2.5GPa以上であることが好ましく、5.0GPa以上であることがより好ましく、10GPa以上であることがさらに好ましい。また、積層シートの23℃、相対湿度50%における引張弾性率は、30GPa以下であることが好ましく、25GPa以下であることがより好ましく、20GPa以下であることがさらに好ましい。積層シートの引張弾性率は、JIS P 8113に準拠して測定される値である。
【0025】
積層シートの全体厚みは、特に制限されるものではないが、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、60μm以上であることが一層好ましく、70μm以上であることが特に好ましい。また、積層シートの全体厚みは、1000μm以下であることが好ましい。積層シートの厚みは用途に応じて適宜調整することができるが、被着体を補強する効果を発揮する観点からは、積層シートの全体の厚みは、50μm以上であることが好ましい。
【0026】
積層シートの繊維層の厚みは5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。また、繊維層の厚みは、500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。ここで、積層シートを構成する繊維層の厚さは、ウルトラミクロトームUC-7(JEOL社製)によって積層シートの断面を切り出し、当該断面を電子顕微鏡、拡大鏡又は目視で観察して、測定される値である。積層シートに繊維層が複数層含まれている場合は、合計の繊維層の厚みが上記範囲内であることが好ましい。
【0027】
また、積層シートの樹脂層の厚みは0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることがさらに好ましく、3μm以上であることが特に好ましい。また、樹脂層の厚みは、15000μm以下であることが好ましく、5000μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましい。ここで、積層シートを構成する樹脂層の厚さは、ウルトラミクロトームUC-7(JEOL社製)によって積層シートの断面を切り出し、当該断面を電子顕微鏡、拡大鏡又は目視で観察して、測定される値である。積層シートに樹脂層が複数層含まれている場合は、合計の樹脂層の厚みが上記範囲内であることが好ましい。
【0028】
繊維層の厚みに対する樹脂層の厚みの比(樹脂層の厚み/繊維層の厚み)は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、1以下であることがさらに好ましい。また、例えば、樹脂層が塗工により形成された塗工層である場合には、繊維層の厚みに対する樹脂層の厚みの比(樹脂層の厚み/繊維層の厚み)は、0.5以下であってもよく、0.2以下であってもよく、0.15以下であってもよく、0.1以下であってもよい。なお、積層シートにおいて、繊維層が複数層存在する場合は、繊維層の厚みは繊維層の合計厚みであり、樹脂層が複数層存在する場合は、樹脂層の厚みは樹脂層の合計厚みである。
【0029】
本実施態様において、積層シートのYI値は2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。なお、積層シートのYI値の下限値は特に限定されるものではないが、0.1以上であることが好ましい。ここで、積層シートのYI値は、JIS K 7373:2006に準拠して測定されるYI値である。YI値の測定装置としては、例えば、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)を用いることができる。なお、上述したYI値は、後述するように積層シートを加熱する前に測定されたYI値であるため、初期YI値と呼ぶこともある。
【0030】
本実施態様において、積層シートを160℃で6時間加熱した後のYI値は20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。なお、160℃で6時間加熱した後の積層シートのYI値の下限値は特に限定されるものではないが、0.1以上であることが好ましい。なお、160℃で6時間加熱した後のYI値は、加熱後YI値と呼ぶこともある。
【0031】
本実施形態の積層シートにおけるYI増加率は、1500%以下であることが好ましく、1250%以下であることがより好ましく、1000%以下であることがさらに好ましく、800%以下であることが一層好ましく、600%以下であることが特に好ましい。なお、積層シートにおけるYI増加率の下限値は特に限定されるものではないが、0.1%以上であることが好ましい。ここで、積層シートのYI増加率とは、積層シートを160℃で6時間加熱した前後の積層シートのYI値の増加率である。具体的に、YI増加率は以下の式で算出される値である。
YI増加率(%)=(加熱後の積層シートのYI値-加熱前の積層シートのYI値)/加熱前の積層シートのYI値×100
なお、上記式において、積層シートのYI値はJIS K 7373:2006に準拠して測定したYI値である。
【0032】
(樹脂層)
積層シートは、樹脂層を少なくとも1層有する。ここで、樹脂層は、繊維層に直接積層されており、樹脂層と繊維層は、いずれか一方の面で接した状態となっている。なお、樹脂層は、塗工により形成された樹脂層(塗工樹脂層)であることが好ましい。
【0033】
樹脂層は、天然樹脂や合成樹脂を主成分とする層である。ここで、主成分とは、樹脂層の全質量に対して、50質量%以上含まれている成分を指す。樹脂の含有量は、樹脂層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。なお、樹脂の含有量は、100質量%とすることもでき、95質量%以下であってもよい。
【0034】
天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
【0035】
合成樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、合成樹脂はポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。なお、アクリル樹脂は、ポリアクリロニトリル及びポリ(メタ)アクリレートから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。
【0036】
樹脂層を構成するポリカーボネート樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。これらの具体的なポリカーボネート系樹脂は公知であり、例えば特開2010-023275号公報に記載されたポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
【0037】
本発明の積層シートにおいて、樹脂層は密着助剤を含有することが好ましい。密着助剤としては、例えば、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基、シラノール基及びアルコキシシリル基から選択される少なくとも1種を含む化合物や、有機ケイ素化合物が挙げられる。中でも、密着助剤はイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、例えば、シランカップリング剤縮合物や、シランカップリング剤を挙げることができる。
【0038】
イソシアネート化合物としては、ポリイソシアネート化合物又は多官能イソシアネートが挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、具体的には、NCO基中の炭素を除く炭素数が6以上20以下の芳香族ポリイソシアネート、炭素数2以上18以下の脂肪族ポリイソシアネート、炭素数6以上15以下の脂環式ポリイソシアネート、炭素数8以上15以下のアラルキル型ポリイソシアネート、これらのポリイソシアネートの変性物、およびこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。中でも、炭素数6以上15以下の脂環式ポリイソシアネート、すなわちイソシアヌレートは好ましく用いられる。
【0039】
脂環式ポリイソシアネートの具体例としては、例えばイソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-ノルボルナンジイソシアネート、2,6-ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0040】
有機ケイ素化合物としては、シロキサン構造を有する化合物、または縮合によりシロキサン構造を形成する化合物を挙げることができる。例えば、有機ケイ素化合物としては、シランカップリング剤、またはシランカップリング剤の縮合物を挙げることができる。シランカップリング剤としては、アルコキシシリル基以外の官能基を有するものであってもよいし、それ以外の官能基を有しないものであってもよい。アルコキシシリル基以外の官能基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基などが挙げられる。本実施形態で用いるシランカップリング剤は、メタクリロキシ基を含有するシランカップリング剤であることが好ましい。
【0041】
分子内にメタクリロキシ基を有するシランカップリング剤の具体的な例としては、例えば、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルジシロキサンなどが挙げられる。中でも、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及び1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルジシロキサンから選択される少なくとも1種は好ましく用いられる。シランカップリング剤は、アルコキシシリル基を3つ以上含有するものであることが好ましい。
【0042】
シランカップリング剤としては、アルコキシシリル基を有するものを用いてもよく、また、加水分解後にシラノール基が生成するものを用いてもよい。この場合、アルコキシシリル基及びシラノール基の少なくとも一部は繊維層を積層した後にも存在していることが好ましい。シラノール基は親水性基であるため、樹脂層の繊維層側の面の親水性を高めることで、樹脂層と繊維層の密着性をより効果的に高めることもできる。
【0043】
密着助剤は、樹脂層に均一に分散した状態で含まれていてもよい。ここで、密着助剤が樹脂層中に均一に分散した状態とは、以下の3つの領域((a)~(c))の濃度を測定して、どの2領域の濃度を比較しても2倍以上の差がでない状態をいう。
(a)樹脂層の繊維層側の面から樹脂層の全体の厚みの10%までの領域
(b)樹脂層の繊維層側の面とは反対側の面から樹脂層の全体の厚みの10%までの領域
(c)樹脂層の厚み方向の中心面から全体の厚みの±5%(合計10%)の領域
【0044】
また、密着助剤は、樹脂層の繊維層側の領域に偏在していてもよい。例えば、密着助剤として有機ケイ素化合物が用いられる場合、有機ケイ素化合物は、樹脂層の繊維層側の領域に偏在していてもよい。
ここで、樹脂層の繊維層側の領域に偏在している状態とは、以下の領域((d)及び(e))の2つの濃度を測定して、これらの濃度に2倍以上の差がでる状態をいう。
(d)樹脂層の繊維層側の面から樹脂層の全体の厚みの10%までの領域
(e)樹脂層の厚み方向の中心面から全体の厚みの±5%(合計10%)の領域
ここで、密着助剤の濃度は、X線電子分光装置又は赤外分光光度計によって測定される数値であり、ウルトラミクロトームUC-7(JEOL社製)によって積層シートの所定の領域の断面を切り出し、当該断面を当該装置によって測定して得る値である。
【0045】
樹脂層の繊維層側の面上には、有機ケイ素化合物含有層が設けられていてもよく、このような状態も有機ケイ素化合物が樹脂層の繊維層側の領域に偏在している状態に含まれる。有機ケイ素化合物含有層は、有機ケイ素化合物含有塗工液を塗工することで形成された塗工層であってもよい。
なお、樹脂層の繊維層側の面上に有機ケイ素化合物含有層が設けられている場合は、上記領域(d)において、「樹脂層の繊維層側の面」は、「有機ケイ素化合物含有層の露出表面」と読み替えるものとし、「樹脂層全体の厚み」は「樹脂層と有機ケイ素化合物含有層の合計厚み」と読み替えるものとする。
【0046】
密着助剤の含有量は、樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。また、密着助剤の含有量は、樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましい。
密着助剤がイソシアネート化合物である場合、イソシアネート化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましく、18質量部以上であることがさらに好ましい。また、イソシアネート化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましい。
密着助剤が有機ケイ素化合物である場合、有機ケイ素化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。また、有機ケイ素化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
密着助剤の含有量を上記範囲内とすることにより、より効果的に、繊維層と樹脂層の密着性を高めることができる。
【0047】
密着助剤がイソシアネート化合物である場合、樹脂層に含まれるイソシアネート基の含有量は、0.5mmol/g以上であることが好ましく、0.6mmol/g以上であることがより好ましく、0.8mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.9mmol/g以上であることが特に好ましい。また、樹脂層に含まれるイソシアネート基の含有量は、3.0mmol/g以下であることが好ましく、2.5mmol/g以下であることがより好ましく、2.0mmol/g以下であることがさらに好ましく、1.5mmol/g以下であることが特に好ましい。
【0048】
樹脂層の繊維層側の面には表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ放電処理、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を挙げることができる。中でも、表面処理は、コロナ処理及びプラズマ放電処理から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、プラズマ放電処理は真空プラズマ放電処理であることが好ましい。
【0049】
樹脂層の繊維層側の面は微細凹凸構造を形成してもよい。樹脂層の繊維層側の面が微細凹凸構造を有することにより、繊維層と樹脂層の密着性をより効果的に高めることができる。樹脂層の繊維層側の面が微細凹凸構造を有する場合、このような構造は、例えば、ブラスト加工処理、エンボス加工処理、エッチング処理、コロナ処理、プラズマ放電処理等の処理工程により形成されることが好ましい。なお、本明細書において、微細凹凸構造とは、任意箇所に引いた長さ1mmの一本の直線上に存在する凹部の数が10個以上である構造をいう。凹部の数を測定する際には、積層シートをイオン交換水中に24時間浸漬した後、樹脂層から繊維層をはく離する。その後、樹脂層の繊維層側の面を触針式表面粗さ計(小坂研究所社製、サーフコーダシリーズ)で走査することにより測定ができる。凹凸のピッチがサブミクロン、ナノオーダーの極めて小さいものである場合、走査型プローブ顕微鏡(日立ハイテクサイエンス社製、AFM5000II、およびAFM5100N)の観察画像から凹凸の数を測定することができる。
【0050】
樹脂層には合成樹脂以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、例えば、フィラー、顔料、染料、紫外線吸収剤等の樹脂フィルム分野で使用される公知成分が挙げられる。
【0051】
(繊維層)
繊維層は、置換基導入量が0.5mmol/g未満であり、かつ繊維幅が1~10nmである繊維状セルロースを含む。通常、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを微細繊維状セルロース又はCNFともいう。但し、本発明の繊維層に含まれる繊維状セルロースは、さらに繊維幅の小さい微細繊維状セルロースである。
【0052】
本実施態様において、繊維層の密度は、1.0g/cm以上であることが好ましく、1.2g/cm以上であることがより好ましく、1.4g/cm以上であることがさらに好ましい。また、繊維層の密度は、1.7g/cm以下であることが好ましく、1.65g/cm以下であることがより好ましく、1.6g/cm以下であることがさらに好ましい。積層シートに繊維層が2層以上含まれている場合は、各々の繊維層の密度が上記範囲内であることが好ましい。
【0053】
繊維層の密度は、繊維層の坪量と厚さから、JIS P 8118:2014に準拠して算出される。繊維層の坪量は、ウルトラミクロトームUC-7(JEOL社製)によって積層シートの繊維層のみが残るように切削し、JIS P 8124:2011に準拠し、算出することができる。なお、繊維層が微細繊維状セルロース以外の任意成分を含む場合は、繊維層の密度は、微細繊維状セルロース以外の任意成分を含む密度である。
【0054】
本実施態様においては、繊維層は非多孔性の層であることが好ましい。ここで、繊維層が非多孔性であるとは、繊維層全体の密度が1.0g/cm以上であることを意味する。繊維層全体の密度が1.0g/cm以上であれば、繊維層に含まれる空隙率が、所定値以下に抑えられていることを意味し、多孔性のシートや層とは区別される。また、繊維層が非多孔性であることは、空隙率が15体積%以下であることからも特徴付けられる。ここでいう繊維層の空隙率は簡易的に下記式(a)により求めるものである。
式(a):空隙率(体積%)={1-B/(M×A×t)}×100
ここで、Aは繊維層の面積(cm)、tは繊維層の厚み(cm)、Bは繊維層の質量(g)、Mはセルロースの密度である。
【0055】
本実施形態において、繊維層の少なくとも一方の面の表面粗さは50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。なお、繊維層の両面の表面粗さが上記範囲内であることも特に好ましい。表面粗さを上記範囲内とすることにより、繊維層の透明性をより高めることができ、結果として、積層シートの透明性も高めることができる。具体的には、繊維層及び積層シートのヘーズをより低くすることができる。ここで、繊維層の表面粗さ(算術平均)は、繊維層の少なくとも一方の表面の算術平均粗さである。表面粗さ(算術平均)は、原子間力顕微鏡(Veeco社製、NanoScope IIIa)を用いて、3μm四方の算術平均粗さを測定し、得られる値である。
【0056】
本実施形態において、繊維層の表面pHは、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。また、繊維層の表面pHは、10以下であることが好ましく、9以下であることがさらに好ましく、8以下であることがより好ましい。繊維層の表面pHを上記範囲とすることで、黄変抑制の効果が得られやすくなる。繊維層の表面pHを上記範囲とするためには、後述する製造工程で得られる微細繊維状セルロース分散液のpHを適宜調整することが好ましい。なお、繊維層の表面pHを測定する際には、繊維層表面の1cm四方の範囲内に10μLのイオン交換水をマイクロピペットで滴下し、その部分のpHをフラット形pH複合電極(6261-10C;HORIBA製)を用いて測定する。
【0057】
<微細繊維状セルロース>
本実施形態において、微細繊維状セルロースにおける置換基導入量は、0.5mmol/g未満であればよく、0.4mmol/g以下であることが好ましく、0.3mmol/g以下であることがより好ましく、0.25mmol/g以下であることがさらに好ましく、0.15mmol/g以下であることが特に好ましい。なお、微細繊維状セルロースにおける置換基導入量は、0.0mmol/gであってもよいが、0.03mmol/g以上であることが好ましく、0.04mmol/g以上であることがより好ましく、0.05mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.07mmol/g以上であることが特に好ましい。
【0058】
微細繊維状セルロースの繊維幅は、1~10nmであればよく、1~9nmであることが好ましく、1~8nmであることがより好ましく、1~7nmであることがさらに好ましい。ここで、微細繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察を用いて以下のようにして測定される。まず、微細繊維状セルロースを、セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水に分散し、親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストする。これを乾燥した後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子社製、JEOL-2000EX)により観察する。その際、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、倍率を調節する。この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交差する繊維の繊維幅を目視で読み取る。このようにして3枚の重複しない観察画像を撮影し、各々2つの軸に交差する繊維の繊維幅の値を読み取る(20本以上×2×3=120本以上)。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0059】
なお、繊維層に含まれる微細繊維状セルロースについては、上記方法で得られた繊維幅から数平均繊維幅を算出することができる。繊維層に含まれる繊維状セルロースの数平均繊維幅は、1~10nmであることが好ましく、1~9nmであることがより好ましく、1~8nmであることがさらに好ましく、1~7nmであることが特に好ましい。なお、繊維層に含まれる繊維状セルロースの数平均繊維幅が上記範囲内であるということは、繊維層には、粗大セルロース繊維が実質的に含まれておらず、さらに、70%以上の繊維状セルロースの繊維幅が10nm以下であることを意味している。繊維層に含まれる全繊維状セルロースのうち、繊維幅が10nm以下の微細繊維状セルロースの割合は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
ここで、繊維幅が10nm以下の微細繊維状セルロースの割合とは、下記式で表される値である。
繊維幅が10nm以下の微細繊維状セルロースの割合(%)=(繊維幅が10nm以下の微細繊維状セルロースの本数/全繊維状セルロースの本数)×100
【0060】
積層シート中の微細繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば原子間力顕微鏡観察を用いて以下のように測定される。まず、積層シートの繊維層を原子間力顕微鏡(Veeco社製、NanoScope IIIa)により観察する。その際、画像は500nm視野角とする。得られた画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交差する繊維を無作為で20本以上選択し、繊維幅を目視で読み取る。このようにして3枚の重複しない観察画像を撮影し、各々2つの軸に交差する繊維の繊維幅の値を読み取る。(20本以上×2×3=120本以上)
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、交差する繊維を無作為で20本以上選択する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、交差する繊維を無作為で20本以上選択する。
なお、積層シートにおいて繊維層が露出していない場合、ウルトラミクロトームなどを用いて積層シートを切削して繊維層の断面を切り出し、上述の方法で観察する。
【0061】
微細繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0062】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0063】
微細繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、たとえば50以上10000以下であることが好ましく、100以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば繊維状セルロースを分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0064】
本実施形態における微細繊維状セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が上記範囲内にある微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
【0065】
微細繊維状セルロースにおけるセルロース成分はα-セルロース成分とヘミセルロース成分に分類できる。ヘミセルロースの比率が低い方が、経時黄変や加熱黄変の抑制効果が得られやすいため好ましい。本発明の微細繊維状セルロースのヘミセルロースの比率は30%未満であることが好ましく、25%未満であることがより好ましく、20%未満であることがさらに好ましい。
【0066】
微細繊維状セルロースに含まれる窒素と微細繊維状セルロース分散液中に含まれる遊離窒素の合計量(以下、「窒素量」、「微細繊維状セルロースに含まれる窒素量」もしくは、「微細繊維状セルロース中の窒素量」と呼ぶこともある)は0.08mmol/g以下であることが好ましく、0.04mmol/g以下であることがより好ましく、0.02mmol/g以下であることがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロースに含まれる窒素量は0.001mmol/g以上であることが好ましい。なお、微細繊維状セルロース中の窒素量は、以下の方法で測定される値である。まず、微細繊維状セルロースを含む分散液を固形分濃度1質量%に調整し、ケルダール法(JIS K 0102 2016 44.1)で分解する。分解後、陽イオンクロマトグラフィでアンモニウムイオン量(mmol)を測定し、測定に使用したセルロース量(g)で除して窒素含有量(mmol/g)を算出する。上記窒素量は、微細繊維状セルロースにイオン結合および/または共有結合で結合した窒素と、微細繊維状セルロースにイオン結合および/または共有結合で結合していない、分散液中に溶存した遊離窒素の合計量である。
【0067】
本実施形態において、微細繊維状セルロースにおける置換基導入量は0.5mmol/g未満であり、ここで言う置換基は、アニオン性基であることが好ましい。すなわち、本発明の微細繊維状セルロースは、アニオン性基を有する微細繊維状セルロースに対して置換基除去処理を施して得られたものであり、本発明の微細繊維状セルロースは、置換基除去微細繊維状セルロースである。
【0068】
アニオン性基としては、たとえばリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、カルボキシ基又はカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)、スルホン基又はスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)、ザンテート基又はザンテート基に由来する置換基(単にザンテート基ということもある)を挙げることができる。スルホン基またはスルホン基に由来する置換基が、エステル結合を介して導入されている場合、同置換基を、硫黄オキソ酸基又は硫黄オキソ酸基に由来する置換基(単に硫黄オキソ酸基ということもある)ということもある。この中でも、アニオン性基は、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基、及び、スルホン基又はスルホン基に由来する置換基から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基であることがより好ましい。
【0069】
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、例えば下記式(1)で表される置換基である。各微細繊維状セルロースには、下記式(1)で表される置換基が複数導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(1)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0070】
【化1】
【0071】
式(1)中、a、bおよびnは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。n個あるαおよびα’のうち少なくとも1つはOであり、残りはR又はORである。なお、各αおよびα’の全てがOであっても構わない。n個あるαは全て同じでも、それぞれ異なっていてもよい。βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0072】
Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、式(1)においては、nは1であることが好ましい。
【0073】
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0074】
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、カルボキシレート基(-COO)、ヒドロキシ基、アミノ基及びアンモニウム基などの官能基から選択される少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。なお、式(1)中にRが複数個存在する場合や微細繊維状セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0075】
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機オニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機オニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、式(1)中にβb+が複数個存在する場合や微細繊維状セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0076】
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基としては、より具体的には、リン酸基(-PO)、リン酸基の塩、亜リン酸基(ホスホン酸基)(-PO)、亜リン酸基(ホスホン酸基)の塩が挙げられる。また、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(例えば、ピロリン酸基)、ホスホン酸が縮合した基(例えば、ポリホスホン酸基)、リン酸エステル基(例えば、モノメチルリン酸基、ポリオキシエチレンアルキルリン酸基)、アルキルホスホン酸基(例えば、メチルホスホン酸基)などであってもよい。
【0077】
また、スルホン基(スルホン基又はスルホン基に由来する置換基)は、硫黄オキソ酸基(硫黄オキソ酸基又は硫黄オキソ酸基に由来する置換基)であることが好ましく、例えば下記式(2)で表される置換基であることが好ましい。各微細繊維状セルロースには、下記式(2)で表される置換基が複数導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(2)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0078】
【化2】
【0079】
上記構造式中、bおよびnは自然数であり、pは0または1であり、mは任意の数である(ただし、1=b×mである)。なお、nが2以上である場合、複数あるpは同一の数であってもよく、異なる数であってもよい。上記構造式中、βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機オニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機オニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、微細繊維状セルロースに上記式(2)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0080】
微細繊維状セルロースに対するアニオン性基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた微細繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0081】
図2は、リンオキソ酸基を有する微細繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。微細繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、微細繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図2の上側部に示すような滴定曲線を得る。図2の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図2の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる微細繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる微細繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる微細繊維状セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(又はリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図2において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
【0082】
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の微細繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の微細繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの微細繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである微細繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:微細繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0083】
滴定法によるアニオン性基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いアニオン性基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5~30秒に10~50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、微細繊維状セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
【0084】
また、微細繊維状セルロースに対するスルホン基の導入量は、微細繊維状セルロースを含むスラリーを凍結乾燥し、さらに粉砕した試料の硫黄量を測定することで算出することができる。具体的には、微細繊維状セルロースを含むスラリーを凍結乾燥し、さらに粉砕した試料を、密閉容器中で硝酸を用いて加圧加熱分解した後、適宜希釈してICP-OESで硫黄量を測定する。供試した微細繊維状セルロースの絶乾質量で割り返して算出した値を微細繊維状セルロースのスルホン基量(単位:mmol/g)とする。
【0085】
微細繊維状セルロースに対するザンテート基量の導入量は、Bredee法により以下の方法で測定することができる。まず、微細繊維状セルロース1.5質量部(絶乾質量)に飽和塩化アンモニウム溶液を40mL添加し、ガラス棒でサンプルを潰しながらよく混合し、約15分間放置後、GFPろ紙(ADVANTEC社製GS-25)でろ過して、飽和塩化アンモニウム溶液で十分に洗浄する。次いで、サンプルをGFPろ紙ごと500mLのトールビーカーに入れ、0.5M水酸化ナトリウム溶液(5℃)を50mL添加して撹拌し、15分間放置する。溶液がピンク色になるまでフェノールフタレイン溶液を添加した後、1.5M酢酸を添加して、溶液がピンク色から無色になった点を中和点とする。中和後蒸留水を250mL添加してよく撹拌し、1.5M酢酸10mL、0.05mol/Lヨウ素溶液10mLをホールピペットを使用して添加する。そして、この溶液を0.05mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し、チオ硫酸ナトリウムの滴定量、微細繊維状セルロースの絶乾質量より次式からザンテート基量を算出する。
ザンテート基量(mmol/g)=(0.05×10×2-0.05×チオ硫酸ナトリウム滴定量(mL))/1000/微細繊維状セルロースの絶乾質量(g)
【0086】
本実施形態において、微細繊維状セルロースは、カルバミド基を有していることが好ましい。本明細書において、カルバミド基は、下記構造式で表される基であることが好ましい。
【0087】
【化3】
【0088】
上記構造式中、Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である。中でも、Rは水素原子であることが特に好ましい。
【0089】
微細繊維状セルロースにおけるカルバミド基の導入量は、0.001mmol/g以上であることが好ましい。また、微細繊維状セルロースにおけるカルバミド基の導入量は、0.08mmol/g以下であることが好ましく、0.04mmol/g以下であることがより好ましく、0.02mmol/g以下であることがさらに好ましい。ここで、微細繊維状セルロースにおけるカルバミド基の導入量は、微細繊維状セルロースを含むスラリーを凍結乾燥し、さらに粉砕した試料を、微量窒素分析することで算出することができる。微細繊維状セルロース単位質量あたりのカルバミド基の導入量(mmol/g)は、微量窒素分析で得られた微細繊維状セルロース単位質量あたりの窒素含有量(g/g)を窒素の原子量で除することで算出できる。
【0090】
本実施形態において、繊維層の形成に用いる微細繊維状セルロースを0.1質量%濃度の水分散液とし、下記式でナノファイバー収率を算出した場合、ナノファイバー収率は95質量%以上であることが好ましく、96質量%以上であることがより好ましい。なお、ナノファイバー収率は100質量%であってもよい。
ナノファイバー収率[質量%]=C/0.1×100
ここで、Cは、微細繊維状セルロースの濃度が0.1質量%の水分散液を、12000G、10分の条件で遠心分離した際に得られる上澄み液に含まれる微細繊維状セルロースの濃度である。
【0091】
また、本実施形態において、繊維層の形成に用いる微細繊維状セルロースを0.2質量%濃度の水分散液とした場合、該水分散液のヘーズは5.0%以下であることが好ましく、4.0%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましい。なお、水分散液のヘーズは0%であってもよい。0.2質量%濃度の水分散液のヘーズが上記範囲内であれば、分散液が透明であると判定できる。ここで、水分散液のヘーズは、ヘーズメーターと光路長1cmの液体用ガラスセルを用い、JIS K 7136:2000に準拠して測定される値である。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置し、分散液の液温を23℃とする。
【0092】
本実施形態において、繊維層の形成に用いる微細繊維状セルロースを1質量%濃度の分散液(水分散液)とした場合、該分散液のpHは、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。また、該分散液のpHは10以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。分散液のpHを上記範囲とすることで、分散液やシートの黄変をより効果的に抑制することができる。なお、分散液のpHを上記範囲とするために、後述する<pH調整工程>と同様の手法を取ることもできる。
【0093】
本実施形態において、繊維層の形成に用いる微細繊維状セルロースを0.4質量%濃度の分散液(水分散液)とした場合、該分散液の23℃における粘度は、100mPa・s以上であることが好ましく、1000mPa・s以上であることがより好ましく、2000mPa・s以上であることがさらに好ましい。また、該分散液の23℃における粘度は、200000mPa・s以下であることが好ましく、100000mPa・s以下であることがより好ましい。微細繊維状セルロース濃度が0.4質量%の分散液の粘度は、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVT)を用いて測定することができる。測定条件は23℃とし、回転速度3rpmとし、測定開始から3分後の粘度を測定する。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置し、分散液の液温を23℃とする。
【0094】
繊維層の形成に用いる微細繊維状セルロースを含む分散液中の遊離窒素量は少ないことが好ましい。分散液中の遊離窒素量は微細繊維状セルロース分散液を濾過した際の濾液中の窒素濃度を測定することで測定が可能である。例えば、微細繊維状セルロース濃度が0.2質量%の分散液中の遊離窒素濃度は、100ppm以下であることが好ましく、80ppm以下であることがより好ましく、70ppm以下であることがさらに好ましく、60ppm以下であることが一層好ましく、50ppm以下であることがより一層好ましく、40ppm以下であることがさらに一層好ましく、30ppm以下であることが特に好ましい。なお、微細繊維状セルロース濃度が0.2質量%の分散液中の窒素濃度は0ppmであってもよい。分散液中に存在する遊離窒素は、着色の原因となるため、濾液中の窒素濃度を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースを含む分散液やシートの黄変をより効果的に抑制することができる。ここで、濾液中の窒素濃度の測定方法は以下のとおりである。まず、微細繊維状セルロース濃度が0.2質量%となるように蒸留水を添加し、24時間撹拌後、孔径0.45μmの濾材を使用して濾過を行い濾液を得る。そして、微量窒素分析により濾液中の窒素濃度(ppm)を測定する。
【0095】
<任意成分>
繊維層には、微細繊維状セルロース以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、例えば、後述するようなスペーサー分子、親水性高分子や有機イオン等が挙げられる。親水性高分子は、親水性の含酸素有機化合物(但し、上記セルロース繊維は除く)であることが好ましい。含酸素有機化合物は非繊維状であることが好ましく、このような非繊維状の含酸素有機化合物には、微細繊維状セルロースや熱可塑性樹脂繊維は含まれない。
【0096】
含酸素有機化合物は、親水性の有機化合物であることが好ましい。親水性の含酸素有機化合物は、繊維層の強度、密度及び化学的耐性などを向上させることができる。親水性の含酸素有機化合物は、たとえばSP値が9.0以上であることが好ましい。また、親水性の含酸素有機化合物は、たとえば100mlのイオン交換水に含酸素有機化合物が1g以上溶解するものであることが好ましい。
【0097】
含酸素有機化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等の親水性高分子;グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール等の親水性低分子が挙げられる。これらの中でも、繊維層の強度、密度、化学的耐性などを向上させる観点から、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、グリセリン、ソルビトールが好ましく、ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキサイドから選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。
【0098】
含酸素有機化合物は、分子量が5万以上800万以下の有機化合物高分子であることが好ましい。含酸素有機化合物の分子量は、10万以上500万以下であることも好ましいが、例えば分子量が1000未満の低分子であってもよい。
【0099】
繊維層に含まれる含酸素有機化合物の含有量は、繊維層に含まれる微細繊維状セルロース100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましい。また、繊維層に含まれる含酸素有機化合物の含有量は、繊維層に含まれる微細繊維状セルロース100質量部に対して、1000質量部以下であることが好ましく、500質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることがさらに好ましく、50質量部以下であることが特に好ましい。含酸素有機化合物の含有量を上記範囲内とすることにより、高い透明性と強度を有する積層シートを形成することができる。
【0100】
有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn-プロピルオニウムイオン、テトラn-ブチルオニウムイオンなども挙げることができる。
【0101】
また、任意成分としては、さらに、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤、防腐剤(例えば、フェノキシエタノール)等を挙げることができる。
【0102】
(微細繊維状セルロースの製造方法)
上述した微細繊維状セルロースの製造方法は、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースから、置換基の少なくとも一部を除去する工程(A)と、工程(A)の後に、均一分散処理する工程(B)と、を含む。ここで、工程(A)に供される微細繊維状セルロースが有する置換基はアニオン性基であることが好ましく、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基であることがより好ましい。さらに、工程(A)に供される微細繊維状セルロースはカルバミド基を有することが好ましい。
【0103】
(工程(A))
工程(A)は、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースから、置換基の少なくとも一部を除去する工程である。以下では、まず、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロース(工程(A)に供される微細繊維状セルロース)の製造方法について説明する。
【0104】
<繊維原料>
工程(A)に供される微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、及び脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)及び酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)及びケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)及びサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンター及びコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら及びバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプ及び脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
【0105】
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
【0106】
<リンオキソ酸基導入工程>
工程(A)に供される微細繊維状セルロースは置換基を有する。このため、工程(A)に供される微細繊維状セルロースの製造工程は、置換基導入工程を有することが好ましく、アニオン性基導入工程を有することがより好ましい。アニオン性基導入工程としては、例えば、リンオキソ酸基導入工程が挙げられる。リンオキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リンオキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リンオキソ酸基導入繊維が得られることとなる。
【0107】
本実施形態に係るリンオキソ酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行うことが好ましい。
【0108】
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態又はスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態又は湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、特に限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物A及び化合物Bは、それぞれ粉末状又は溶媒に溶解させた溶液状又は融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0109】
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸又は脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩又は亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、又は亜リン酸、亜リン酸ナトリウムがより好ましい。
【0110】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0111】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、及び1-エチル尿素などが挙げられる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
【0112】
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0113】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類又はアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0114】
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A及び化合物Bを添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば熱風乾燥装置、撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0115】
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリンオキソ酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
【0116】
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
【0117】
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0118】
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリンオキソ酸基を導入することができる。
【0119】
リンオキソ酸基導入工程におけるリンオキソ酸基の導入量は、繊維原料1g(質量)あたり0.60mmol/g以上であることが好ましく、0.70mmol/g以上であることがより好ましく、0.80mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが一層好ましく、1.20mmol/g以上であることが特に好ましい。また、リンオキソ酸基の導入量は、たとえば繊維原料1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。なお、リンオキソ酸基導入工程におけるリンオキソ酸基の導入量が上記範囲内であるということは、工程(A)に供される微細繊維状セルロースの置換基導入量が上記範囲内であることを意味する。リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、工程(A)に供される微細繊維状セルロースの置換基導入量を上記範囲内とすることができ、その結果、最終的な繊維幅が10nm以下の微細繊維状セルロースを製造しやすくなる。また、本発明の微細繊維状セルロースを含む分散液やシートの透明性をより効果的に高めることができる。
【0120】
<スルホン基(硫黄オキソ酸基)導入工程>
工程(A)に供される微細繊維状セルロースの製造工程は、アニオン性基導入工程として、スルホン基導入工程を含んでもよい。スルホン基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基とスルホン酸が反応することで、スルホン基を有するセルロース繊維(スルホン基導入繊維)を得ることができる。
【0121】
スルホン基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Aに代えて、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、スルホン基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物C」ともいう)を用いる。化合物Cとしては、硫黄原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、硫酸もしくはその塩、亜硫酸もしくはその塩、硫酸アミドなどが挙げられるが特に限定されない。硫酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば96%硫酸(濃硫酸)を使用することができる。亜硫酸としては、5%亜硫酸水が挙げられる。硫酸塩又は亜硫酸塩としては、硫酸塩又は亜硫酸塩のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。硫酸アミドとしては、スルファミン酸などを使用することができる。スルホン基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることが好ましい。
【0122】
スルホン基導入工程においては、セルロース原料にスルホン酸、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を混合した後、当該セルロース原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、スルホン基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱処理温度は、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
【0123】
加熱処理工程では、実質的に水分がなくなるまで加熱をすることが好ましい。このため、加熱処理時間は、セルロース原料に含まれる水分量や、スルホン酸、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液の添加量によって、変動するが、例えば、10秒以上10000秒以下とすることが好ましい。加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば熱風乾燥装置、撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0124】
スルホン基導入工程におけるスルホン基の導入量は、繊維原料1g(質量)あたり0.60mmol/g以上であることが好ましく、0.70mmol/g以上であることがより好ましく、0.80mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが一層好ましく、1.20mmol/g以上であることが特に好ましい。また、スルホン基の導入量は、たとえば繊維原料1g(質量)あたり5.00mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましい。なお、スルホン基導入工程におけるスルホン基の導入量が上記範囲内であるということは、工程(A)に供される微細繊維状セルロースの置換基導入量が上記範囲内であることを意味する。スルホン基の導入量を上記範囲内とすることにより、工程(A)に供される微細繊維状セルロースの置換基導入量が上記範囲内とすることができ、その結果、繊維幅が10nm以下の微細繊維状セルロースを製造しやすくなる。また、本発明の微細繊維状セルロースを含む分散液やシートの透明性をより効果的に高めることができる。
【0125】
<ザンテート基導入工程>
工程(A)に供される微細繊維状セルロースの製造工程は、アニオン性基導入工程として、ザンテート基導入工程を含んでもよい。ザンテート基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基を下記式(2)で表されるザンテート基で置換することで、ザンテート基を有するセルロース繊維(ザンテート基導入繊維)を得ることができる。
―OCSS……(2)
ここで、Mは水素イオン、一価金属イオン、アンモニウムイオン、脂肪族又は芳香族アンモニウムイオンから選ばれる少なくとも一種である。
【0126】
ザンテート基導入工程では、まず、上記セルロースを含む繊維原料をアルカリ溶液で処理するアルカリ処理を行って、アルカリセルロースを得る。アルカリ溶液としては、水酸化アルカリ金属水溶液、水酸化アルカリ土類金属水溶液などが挙げられる。中でも、アルカリ溶液は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属水溶液であることが好ましく、水酸化ナトリウム水溶液であることが特に好ましい。アルカリ溶液が水酸化アルカリ金属水溶液の場合、水酸化アルカリ金属水溶液中の水酸化アルカリ金属濃度は4質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、水酸化アルカリ金属水溶液中の水酸化アルカリ金属濃度は9質量%以下であることが好ましい。水酸化アルカリ金属濃度を上記下限値以上とすることにより、セルロースのマーセル化を十分に進行させることができ、その後のザンテート化の際に生じる副生成物の量を減らすことができ、結果として、ザンテート基導入繊維の収率を高めることができる。これにより、後述する解繊処理をより効果的に行うことができる。また、水酸化アルカリ金属濃度を上記上限値以下とすることにより、マーセル化を進行させつつも、セルロースの結晶領域にまで水酸化アルカリ金属水溶液が浸透することを抑制することができるため、セルロースI型の結晶構造が維持されやすくなり、微細繊維状セルロースの収率をより高めることができる。
【0127】
上記アルカリ処理の時間は、30分間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。また、アルカリ処理の時間は、6時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましい。アルカリ処理の時間を上記範囲内とすることにより、最終的な収率を高めることができ、生産性を高めることができる。
【0128】
上記アルカリ処理で得られたアルカリセルロースは、その後に固液分離して水溶液分をできるだけ除去しておくことが好ましい。これにより、次いで行われるザンテート化処理時の水分含有量を減らすことができ、反応を促進できる。固液分離の方法としては、例えば遠心分離や濾別などの一般的な脱水方法を用いることができる。なお、固液分離後のアルカリセルロースに含まれる水酸化アルカリ金属の濃度は固液分離後のアルカリセルロースの全質量に対して3質量%以上8質量%以下であることが好ましい。
【0129】
ザンテート基導入工程では、アルカリ処理の後にザンテート化処理工程を行う。ザンテート化処理工程ではアルカリセルロースに二硫化炭素(CS)を反応させて、(-ONa)基を(-OCSSNa)基にしてザンテート基導入繊維を得る。なお、上記において、アルカリセルロースに導入された金属イオンは、代表してNaで記述しているが、他のアルカリ金属イオンでも同様の反応が進行する。
【0130】
ザンテート化処理では、アルカリセルロース中のセルロースの絶乾質量に対して、10質量%以上の二硫化炭素を供給することが好ましい。また、ザンテート化処理において、二硫化炭素とアルカリセルロースとが接触する時間は、30分以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。アルカリセルロースに二硫化炭素が接触することでザンテート化は速やかに進行するが、アルカリセルロースの内部にまで二硫化炭素が浸透するには時間がかかるため、反応時間を上記範囲とすることが好ましい。一方で、二硫化炭素とアルカリセルロースとが接触する時間は6時間以下であればよく、これにより脱水後のアルカリセルロースの塊に対しても十分に浸透が進んで、反応可能なザンテート化をほぼ完了させることができる。
【0131】
ザンテート化処理における反応温度は、46℃以下であることが好ましい。反応温度を上記範囲内とすることにより、アルカリセルロースの分解を抑制し易くなる。また、反応温度を上記範囲内とすることにより、均一に反応し易くなるため、副生成物の生成を抑制でき、さらには、生成したザンテート基の除去を抑制することもできる。
【0132】
ザンテート基導入工程におけるザンテート基の導入量は、繊維原料1g(質量)あたり0.60mmol/g以上であることが好ましく、0.70mmol/g以上であることがより好ましく、0.80mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが一層好ましく、1.20mmol/g以上であることが特に好ましい。また、ザンテート基の導入量は、たとえば繊維原料1g(質量)あたり5.00mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましい。なお、ザンテート基導入工程におけるザンテート基の導入量が上記範囲内であるということは、工程(A)に供される微細繊維状セルロースの置換基導入量が上記範囲内であることを意味する。ザンテート基の導入量を上記範囲内とすることにより、工程(A)に供される微細繊維状セルロースの置換基導入量が上記範囲内とすることができ、その結果、繊維幅が10nm以下の微細繊維状セルロースを製造しやすくなる。また、本発明の微細繊維状セルロースを含む分散液やシートの透明性をより効果的に高めることができる。
【0133】
<洗浄工程>
工程(A)に供される微細繊維状セルロースの製造工程においては、必要に応じてアニオン性基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりアニオン性基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
【0134】
<アルカリ処理工程>
工程(A)に供される微細繊維状セルロースの製造工程においては、アニオン性基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、アニオン性基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
【0135】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水又は有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、又はアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、又は水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0136】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるアニオン性基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばアニオン性基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0137】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、アニオン性基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、アニオン性基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったアニオン性基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0138】
<酸処理工程>
工程(A)に供される微細繊維状セルロースの製造工程においては、アニオン性基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。例えば、アニオン性基導入工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行ってもよい。
【0139】
酸処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸又は硫酸を用いることが特に好ましい。
【0140】
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえば繊維原料の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0141】
<窒素除去処理>
工程(A)に供される微細繊維状セルロースの製造工程は、繊維状セルロースに導入された窒素量や系内に存在する窒素量を低減させる工程(窒素除去処理工程)をさらに含んでもよい。窒素量を低減させることで、さらに着色を抑制し得る微細繊維状セルロースを得ることができる。窒素除去処理工程は、後述する工程(B)における均一分散処理工程の後に設けられてもよいが、後述する工程(B)における均一分散処理工程の前に設けられることが好ましい。また、後述する工程(A)における解繊処理工程の前に設けられることが好ましい。
【0142】
窒素除去処理工程においては、アニオン性基導入繊維を含むスラリーのpHを10以上に調整し、加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理においては、スラリーの液温を50℃以上100℃以下とすることが好ましく、加熱時間は15分以上180分以下とすることが好ましい。アニオン性基導入繊維を含むスラリーのpHを調整する際には、上述したアルカリ処理工程で用いることができるアルカリ化合物をスラリーに添加することが好ましい。
【0143】
窒素除去処理工程の後、必要に応じてアニオン性基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりアニオン性基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
【0144】
<解繊処理>
工程(A)に供される微細繊維状セルロースの製造工程は、解繊処理工程を含む。これにより、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、又はビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0145】
解繊処理工程における処理条件は特に限定されないが、例えば高圧ホモジナイザーを用いる場合は、処理時の圧力は1MPa以上350MPa以下が好ましく、10MPa以上300MPa以下がより好ましく、50MPa以上250MPa以下がさらに好ましい。
【0146】
解繊処理工程においては、たとえばアニオン性基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、及び極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種又は2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、特に限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0147】
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、アニオン性基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのアニオン性基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
【0148】
工程(A)に供される解繊処理後の微細繊維状セルロースの繊維幅は、1~50nmであることが好ましく、1~25nmであることがより好ましく、1~15nmであることがさらに好ましく、1~10nmであることが特に好ましい。
【0149】
また、工程(A)に供される微細繊維状セルロースを0.1質量%濃度の水分散液とし、ナノファイバー収率を算出した場合、ナノファイバー収率は90質量%以上であることが好ましく、93質量%以上であることがより好ましく、96質量%以上であることがさらに好ましい。なお、ナノファイバー収率は100質量%であってもよい。ここで、ナノファイバー収率は、0.1質量%濃度の微細繊維状セルロース分散液を、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H-2000B)を用い、12000G、10分の条件で遠心分離し、得られた上澄み液のセルロース濃度から下記式に基づいて測定される値である。
ナノファイバー収率(質量%)=上澄みのセルロース濃度(質量%)/0.1×100
【0150】
さらに、工程(A)に供される微細繊維状セルロースを0.2質量%濃度の水分散液とした場合、該水分散液のヘーズは10%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましい。なお、水分散液のヘーズは0%であってもよい。ここで、微細繊維状セルロースの水分散液のヘーズは、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用い、JIS K 7136:2000に準拠して測定される値である。測定の際には、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG-40、逆光路)を用いる。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行い、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置し、分散液の液温を23℃とする。
【0151】
工程(A)に供される微細繊維状セルロースの繊維幅、微細繊維状セルロース分散液のナノファイバー収率やヘーズを上記範囲内とすることにより、工程(B)を経て得られる微細繊維状セルロースをスラリーやシートとした場合の透明性をより効果的に高めることができる。
【0152】
<置換基除去処理>
本発明の微細繊維状セルロースの製造方法は、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースから、置換基の少なくとも一部を除去する工程(A)を含む。本明細書において、微細繊維状セルロースから、置換基の少なくとも一部を除去する工程は、置換基除去処理工程とも言う。
【0153】
置換基除去処理工程としては、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを加熱処理する工程、酵素処理する工程、酸処理する工程、アルカリ処理する工程等が挙げられる。これらは単独で行ってもよく、組み合わせて行ってもよい。中でも、置換基除去処理工程は、加熱処理する工程又は酵素処理する工程であることが好ましい。上記処理工程を経ることで、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースから、置換基の少なくとも一部が除去され、置換基導入量が0.5mmol/g未満の微細繊維状セルロースを得ることができる。
【0154】
置換基除去処理工程は、スラリー状で行われることが好ましい。すなわち、置換基除去処理工程は、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを含むスラリーを、加熱処理する工程、酵素処理する工程、酸処理する工程、アルカリ処理する工程等であることが好ましい。置換基除去処理工程をスラリー状で実施することによって、置換基除去処理時の加熱等によって生じる着色物質や、添加もしくは発生する酸、アルカリ、塩などの残留を防ぐことができる。これにより、工程(B)を経て得られる微細繊維状セルロースをスラリーやシートとした場合の着色を抑制することができる。また、置換基除去処理後に除去した置換基由来の塩の除去処理を行う場合、塩の除去効率を高めることも可能となる。
【0155】
置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを含むスラリーに対して置換基除去処理を行う場合、該スラリー中の微細繊維状セルロースの濃度は、
0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましい。また、該スラリー中の微細繊維状セルロースの濃度は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。スラリー中の微細繊維状セルロースの濃度を上記範囲内とすることにより、置換基除去処理をより効率よく行うことができる。さらに、スラリー中の微細繊維状セルロースの濃度を上記範囲内とすることにより、置換基除去処理時の加熱等によって生じる着色物質や、添加もしくは発生する酸、アルカリ、塩などの残留を防ぐことができる。これにより、工程(B)を経て得られる微細繊維状セルロースをスラリーやシートとした場合の着色を抑制することができる。また、置換基除去処理後に除去した置換基由来の塩の除去処理を行う場合、塩の除去効率を高めることも可能となる。
【0156】
置換基除去処理工程が、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを加熱処理する工程である場合、加熱処理する工程における加熱温度は、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱処理する工程における加熱温度は、250℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。中でも、置換基除去処理工程に供する微細繊維状セルロースが有する置換基がリンオキソ酸基又はスルホン基である場合、加熱処理する工程における加熱温度は、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。
【0157】
置換基除去処理工程が加熱処理する工程である場合、加熱処理工程において使用できる加熱装置としては、特に限定されないが、熱風加熱装置、蒸気加熱装置、電熱加熱装置、水熱加熱装置、火力加熱装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波加熱装置、撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置を用いることができる。蒸発を防ぐ観点から、加熱は密閉系で行われることが好ましく、さらに加熱温度を高める観点から、耐圧性の装置内や容器内で行われることが好ましい。加熱処理はバッチ処理であってもよく、バッチ連続処理であってもよく、連続処理であってもよい。
【0158】
置換基除去処理工程が、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを酵素処理する工程である場合、酵素処理する工程では、リン酸エステル加水分解酵素、硫酸エステル加水分解酵素等を用いることが好ましい。
【0159】
酵素処理工程では、微細繊維状セルロース1gに対して酵素活性が0.1nkat以上となるよう酵素を添加することが好ましく、1.0nkat以上となるよう酵素を添加することがより好ましく、10nkat以上となるよう酵素を添加することがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロース1gに対して酵素活性が100000nkat以下となるよう酵素を添加することが好ましく、50000nkat以下となるよう酵素を添加することがより好ましく10000nkat以下となるよう酵素を添加することがさらに好ましい。微細繊維状セルロース分散液(スラリー)に酵素を添加した後には、0℃以上50℃未満の条件下で1分以上100時間以下処理を行うことが好ましい。
【0160】
酵素反応の後、酵素を失活させる工程を設けてもよい。酵素を失活させる方法としては、酵素処理を施したスラリーに酸成分もしくはアルカリ成分を添加して酵素を失活させる方法、酵素処理を施したスラリーの温度を90℃以上に上昇させて酵素を失活させる方法が挙げられる。
【0161】
置換基除去処理工程が、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを酸処理する工程である場合、酸処理する工程では、上述した酸処理工程で用いることができる酸化合物をスラリーに添加することが好ましい。
【0162】
置換基除去処理工程が、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースをアルカリ処理する工程である場合、アルカリ処理する工程では、上述したアルカリ処理工程で用いることができるアルカリ化合物をスラリーに添加することが好ましい。
【0163】
置換基除去処理工程では、置換基除去反応が均一に進むことが好ましい。反応を均一に進めるためには、例えば微細繊維状セルロースを含むスラリーを撹拌してもよく、スラリーの比表面積を高めてもよい。スラリーを撹拌する方法としては、外部からの機械的シェアを与えてもよく、反応中のスラリーの送液速度を上げることで自己撹拌を促してもよい。
【0164】
置換基除去処理工程では、スペーサー分子を添加してもよい。スペーサー分子は、隣接する微細繊維状セルロースの間に入り込み、それにより微細繊維状セルロース間に微細なスペースを設けるためのスペーサーとして働く。置換基除去処理工程において、このようなスペーサー分子を添加することで、置換基除去処理後の微細繊維状セルロースの凝集を抑制することができる。これにより、微細繊維状セルロースを含む分散液やシートの透明性をより効果的に高めることができる。
【0165】
スペーサー分子は水溶性有機化合物であることが好ましい。水溶性有機化合物としては、例えば、糖や水溶性高分子、尿素等を挙げることができる。具体的には、トレハロース、尿素、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)等を挙げることができる。また、水溶性有機化合物として、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリアクリルアミド、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、カラギーナン、ペクチン、カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、アミロース等のデンプン類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩を用いることもできる。
【0166】
また、スペーサー分子として公知の顔料を使用することができる。例えば、カオリン(含クレー)、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、非晶質シリカ(含コロイダルシリカ)、酸化アルミニウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、合成スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、ハイドロタルサイト、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等が挙げられる。
【0167】
<pH調整工程>
置換基除去処理工程がスラリー状で行われる場合、置換基除去処理工程の前に、微細繊維状セルロースを含むスラリーのpHを調整する工程を設けてもよい。例えば、セルロース繊維にアニオン性基を導入し、このアニオン性基の対イオンがNaである場合、解繊後の微細繊維状セルロースを含むスラリーは弱アルカリ性を示す。この状態で加熱を行うと、セルロースの分解により着色要因の一つである単糖が発生する場合があるため、スラリーのpHを8以下に調整することが好ましく、6以下に調整することがより好ましい。また、酸性条件においても同様に単糖が発生する場合があるため、スラリーのpHを3以上に調整することが好ましく、4以上に調整することがより好ましい。
【0168】
また、置換基を有する微細繊維状セルロースがリン酸基を有する微細繊維状セルロースである場合、置換基の除去効率向上の観点から、リン酸基のリンが求核攻撃を受けやすい状態であることが好ましい。求核攻撃を受けやすいのは、セルロース-O-P(=O)(-O-H)(-O-Na)と表される中和度1の状態であり、この状態とするには、スラリーのpHを3以上8以下に調整することが好ましく、pHを4以上6以下に調整することがさらに好ましい。
【0169】
pHを調整する手段は特に限定されないが、例えば微細繊維状セルロースを含むスラリーに酸成分やアルカリ成分を添加してもよい。酸成分は無機酸および有機酸のいずれであってもよく、無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸等が挙げられる。アルカリ成分は、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。無機アルカリ化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。有機アルカリ化合物としては、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、シクロヘキシルアミン、アニリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン等が挙げられる。
【0170】
また、pH調整工程では、pHを調整するためにイオン交換処理を行ってもよい。イオン交換処理に際しては、強酸性陽イオン交換樹脂もしくは弱酸性イオン交換樹脂を用いることができる。適切な量の陽イオン交換樹脂で十分な時間処理することにより、目的とするpHの微細繊維状セルロースを含むスラリーを得ることができる。さらに、pH調整工程では酸成分やアルカリ成分の添加とイオン交換処理を組み合わせてもよい。
【0171】
<塩の除去処理>
置換基除去処理工程の後には、除去した置換基由来の塩の除去処理を行うことが好ましい。置換基由来の塩を除去することで、着色を抑制し得る微細繊維状セルロースが得られ易くなる。置換基由来の塩を除去する手段は特に限定されないが、例えば洗浄処理が挙げられる。洗浄処理は、たとえば水や有機溶媒により、置換基除去処理で凝集した微細繊維状セルロースを洗浄することにより行われる。黄変をより効果的に抑制する観点から、洗浄処理は濾過脱水や、遠心脱水、遠心分離により行うことが好ましい。
【0172】
(工程(B))
本発明の微細繊維状セルロースの製造方法は、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースから、置換基の少なくとも一部を除去する工程(A)と、工程(A)の後に、均一分散処理する工程(B)と、を含む。均一分散処理する工程(B)は、工程(A)の置換基除去処理を経て得られた微細繊維状セルロースを均一分散処理する工程である。工程(A)において、微細繊維状セルロースに対して置換基除去処理を施すことにより、少なくとも一部の微細繊維状セルロースが凝集する。工程(B)においては、このように凝集した微細繊維状セルロースを均一分散する工程である。工程(B)における微細繊維状セルロースが均一分散された状態とは微細繊維状セルロースの繊維幅が10nm以下でとなる状態をいう。このように、本発明の製造方法で得られる微細繊維状セルロースは、置換基導入量が0.5mmol/g未満という低置換基導入量であるにも関わらず、その繊維幅が10nm以下となる。
【0173】
均一分散処理する工程(B)では、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機又はビーターなどを使用することができる。上記均一分散処理装置の中でも、高速解繊機、高圧ホモジナイザーを用いることがより好ましい。
【0174】
均一分散処理する工程(B)における処理条件は特に限定されないが、処理中の微細繊維状セルロースの最高移動速度や、処理時の圧力を大きくすることが好ましい。高速解繊機においては、その周速が20m/sec以上であることが好ましく、25m/sec以上であることがより好ましく、30m/sec以上であることがさらに好ましい。高圧ホモジナイザーは、高速解繊機よりも、処理中の微細繊維状セルロースの最高移動速度や、処理時の圧力が大きくなるため、より好ましく使用できる。高圧ホモジナイザー処理においては、処理時の圧力は1MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましく、50MPa以上であることがさらに好ましく、100MPa以上であることが特に好ましい。また、高圧ホモジナイザー処理においては、処理時の圧力は350MPa以下であることが好ましく、300MPa以下であることがより好ましく、250MPa以下がさらに好ましい。
【0175】
なお、工程(B)においては、上述したスペーサー分子を新たに添加してもよい。工程(B)の均一分散処理工程において、このようなスペーサー分子を添加することで、微細繊維状セルロースの均一分散をよりスムーズに行うことができる。これにより、微細繊維状セルロースを含む分散液やシートの透明性をより効果的に高めることができる。
【0176】
(積層シートの製造方法)
本発明の積層シートの製造方法は、置換基導入量が0.5mmol/g未満であり、かつ繊維幅が1~10nmである繊維状セルロースを含む繊維層を形成する工程と、繊維層上に樹脂組成物を塗工する工程とを含むことが好ましい。また、本発明の積層シートの製造方法は、樹脂層の上に、置換基導入量が0.5mmol/g未満であり、かつ繊維幅が1~10nmである繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を塗工する工程を含むものであってもよい。
【0177】
繊維層上に樹脂組成物を塗工する工程や樹脂層を形成する際には、樹脂を含む樹脂組成物を塗工し、塗膜を形成した後に乾燥工程を設けることが好ましい。
【0178】
積層シートの製造方法としては、上述した方法以外に、繊維層上に樹脂層を載置して熱プレスする方法も挙げられる。また、射出成形用の金型内に繊維層を設置して、当該金型内に加熱されて溶融した樹脂を射出して、繊維層に樹脂層を接合させる方法も挙げられる。
【0179】
置換基導入量が0.5mmol/g未満であり、かつ繊維幅が1~10nmである繊維状セルロースを含む繊維層を形成する工程は、微細繊維状セルロース分散液(微細繊維状セルロース含有スラリー)を基材上に塗工する工程又は、微細繊維状セルロース分散液を抄紙する工程を含むことが好ましい。また、樹脂層の上に、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を塗工する場合、基材を樹脂層に変更して後述する塗工方法を採用してもよい。
【0180】
なお、微細繊維状セルロース分散液(微細繊維状セルロース含有スラリー)には、繊維層に含まれる任意成分が含まれていてもよく、微細繊維状セルロース分散液のナノファイバー収率、ヘーズ、pH、粘度、遊離窒素量等は、上述した<微細繊維状セルロース>の項目で記載した数値範囲内であることが好ましい。
【0181】
<塗工工程>
微細繊維状セルロース分散液(微細繊維状セルロース含有スラリー)を基材上に塗工する工程(以下、塗工工程ともいう)は、微細繊維状セルロース分散液を基材上に塗工し、これを乾燥して形成された微細繊維状セルロース含有シートを基材から剥離することにより、シートを得る工程である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。塗工する微細繊維状セルロース分散液の濃度は特に限定されないが、0.05質量%以上5質量%以下が好ましい。
【0182】
塗工工程で用いる基材の質は、特に限定されないが、微細繊維状セルロース分散液に対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができる。
【0183】
塗工工程において、微細繊維状セルロース分散液の粘度が低く、基材上で展開してしまう場合、所定の厚み、坪量の微細繊維状セルロース含有シートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したもの用いることができる。
【0184】
微細繊維状セルロース分散液を塗工する塗工機としては、例えば、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、バーコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
【0185】
塗工温度は特に限定されないが、20℃以上45℃以下であることが好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、微細繊維状セルロース分散液を容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0186】
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が10g/m以上100g/m以下になるように微細繊維状セルロース分散液を塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れた繊維層が得られる。
【0187】
微細繊維状セルロース含有シートの製造工程は、基材上に塗工した微細繊維状セルロース分散液を乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0188】
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維状セルロースが熱によって変色することを抑制できる。
【0189】
乾燥後に、得られた微細繊維状セルロース含有シートを基材から剥離するが、基材がシートの場合には、微細繊維状セルロース含有シートと基材とを積層したまま巻き取って、微細繊維状セルロース含有シートの使用直前に微細繊維状セルロース含有シートを工程基材から剥離してもよい。このようにして、繊維層となる微細繊維状セルロース含有シートが得られる。
【0190】
なお、上記の繊維層上に樹脂組成物を塗工する工程では、微細繊維状セルロース含有シートの基材から剥離した側の面に樹脂組成物を塗工することが好ましい。これにより、繊維層と樹脂層の層間密着性をより高めることができる。
【0191】
<抄紙工程>
繊維層となる微細繊維状セルロース含有シートの製造工程は、微細繊維状セルロース分散液を抄紙する工程を含んでもよい。抄紙工程で抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
【0192】
抄紙工程では、微細繊維状セルロース分散液をワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得る。微細繊維状セルロース分散液の濃度は特に限定されないが、0.05質量%以上5質量%以下が好ましい。微細繊維状セルロース分散液を濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維状セルロースは通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
【0193】
微細繊維状セルロース分散液からシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細繊維状セルロース分散液を無端ベルトの上面に吐出し、吐出された微細繊維状セルロース分散液から分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
【0194】
本発明において使用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
【0195】
(積層体)
本発明は、上述した積層シートと、被着体を積層してなる積層体に関するものであってもよい。なお、被着体が、積層シートの樹脂層側に配されるものである場合、積層シートにおける樹脂層は接着層として機能してもよい。被着体としては、例えば、有機膜(以下、有機層ともいう)や無機膜(以下、無機層ともいう)を挙げることができる。中でも、本発明の積層体は、上述した積層シートと、有機膜を有する積層してなる積層体であることが好ましい。なお、有機膜としては、例えば、樹脂フィルムや樹脂板、樹脂成形体等が挙げられる。
【0196】
樹脂フィルム、樹脂板及び樹脂成形体(以下、単に樹脂フィルムともいう)は、天然樹脂や合成樹脂を主成分とする層である。ここで、主成分とは、樹脂フィルムの全質量に対して、50質量%以上含まれている成分を指す。樹脂成分の含有量は、樹脂フィルムの全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。なお、樹脂成分の含有量は、樹脂フィルムの全質量に対して、100質量%であってもよい。
【0197】
天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
【0198】
合成樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。中でも、合成樹脂は、ポリオレフィン樹脂であることが好ましく、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂から選択される少なくとも1種を有することが好ましい。
【0199】
有機層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、塗工法や射出成形法、加熱加圧法等が挙げられる。塗工法においては、有機層を形成する樹脂組成物を積層シートの樹脂層上に塗工し、熱硬化もしくは光硬化することが好ましい。また、加熱加圧法においては、樹脂フィルムを積層シートの樹脂層上に重ね合わせた状態で熱プレスすることが好ましい。この際の熱プレス条件は樹脂フィルムのガラス転移温度等を参考に適宜選択できる。
【0200】
無機層を構成する物質としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン;これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、もしくは酸化炭化窒化物;またはこれらの混合物が挙げられる。高い防湿性が安定に維持できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、またはこれらの混合物が好ましい。
【0201】
無機層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)や物理成膜法(Physical Vapor Deposition、PVD)を挙げることができる。CVD法としては、具体的には、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat-CVD)等が挙げられる。PVD法としては、具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられる。また、無機層の形成方法としては、原子層堆積法(AtomicLayer Deposition、ALD)を採用することもできる。ALD法は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料ガスを、層を形成する面に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する方法である。
【0202】
(用途)
本発明の積層シートは、透明で機械的強度が高く、着色が抑制された積層シートである。このような優れた光学特性を活かす観点から、光学部材用に適している。例えば、各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池等の光透過性基板の用途に用いることができる。また、本発明の積層シートは、電子機器の基板、家電の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適している。
【実施例
【0203】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0204】
<製造例1>
[リン酸化処理]
原料パルプとして、王子製紙製の広葉樹溶解パルプ(ドライシート)を使用した。この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥装置で250秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
【0205】
[洗浄処理]
次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0206】
[中和処理]
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。次いで、中和処理後のリン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
【0207】
これにより得られたリンオキソ酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0208】
[解繊処理]
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。なお、後述する[リンオキソ酸基量]の測定に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量強酸性基量)は、1.45mmol/gだった。なお、総解離酸量は、2.45mmol/gであった。
【0209】
<製造例2>
リン酸化パルプの洗浄処理及び中和処理後に、下記の窒素除去処理を行った以外は製造例1と同様にして、リン酸化パルプ及び微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0210】
[窒素除去処理]
リン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が4質量%のスラリーを調製した。スラリーに48質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH13.4に調整し、液温85℃の条件で1時間加熱した。その後、このパルプスラリーを脱水し、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌し、濾過脱水する操作を繰り返すことにより余剰の水酸化ナトリウムを除去した。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、除去の終点とした。
【0211】
これにより得られたリンオキソ酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。なお、後述する[リンオキソ酸基量の測定]に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量強酸性基量)は、1.35mmol/gだった。なお、総解離酸量は、2.30mmol/gであった。
【0212】
<製造例3>
[亜リン酸化処理]
リン酸化処理においてリン酸二水素アンモニウムの代わりに亜リン酸(ホスホン酸)33質量部を用いた以外は、製造例1と同様に操作を行い、リン酸化パルプ及び微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0213】
これにより得られたリン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに(亜)リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。また、X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。なお、後述する[リンオキソ酸基量の測定]に記載の測定方法で測定される(亜)リン酸基量(第1解離酸量)は1.51mmol/gであり、総解離酸量は、1.54mmol/gであった。
【0214】
<製造例4>
[硫酸化処理]
リン酸化処理においてリン酸二水素アンモニウムの代わりにアミド硫酸(スルファミン酸)38質量部を用いて、加熱時間を19分間に延長した以外は、製造例1と同様に操作を行い、硫酸化パルプ及び微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0215】
これにより得られた硫酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1220-1260cm-1付近に硫酸基(スルホン基)に基づく吸収が観察され、パルプに硫酸基(スルホン基)が付加されていることが確認された。また、X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。なお、後述する[スルホン基量の測定]に記載の測定方法で測定されるスルホン基量は1.12mmol/gであった。
【0216】
<製造例5>
リン酸化処理に代えて下記のザンテート化処理を行った以外は、製造例1と同様に操作を行い、ザンテート化パルプ及び微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0217】
[ザンテート化処理]
原料パルプ(王子製紙製の広葉樹溶解パルプ(ドライシート))100質量部(絶乾質量)に、8.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液2500質量部を添加し、室温にて3時間撹拌してアルカリ処理を行った。このアルカリ処理後のパルプを遠心分離(ろ布400メッシュ、3000rpmで5分間)により固液分離してアルカリセルロースの脱水物を得た。得られたアルカリセルロース10質量部(絶乾質量)に対して、二硫化炭素を3.5質量部添加し、室温で4.5時間硫化反応を進行させてザンテート化処理を行った。
【0218】
X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。なお、後述する[ザンテート基量の測定]に記載の測定方法で測定されるザンテート基量は1.73mmol/gであった。
【0219】
<製造例6>
原料パルプ(王子製紙製の広葉樹溶解パルプ(ドライシート))にイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて30回処理し、粗大繊維状セルロースを含むセルロース分散液を得た。
【0220】
[測定]
[分散液のヘーズの測定]
分散液のヘーズの測定は、繊維状セルロース分散液をイオン交換水で0.2質量%となるように希釈した後、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM-150)で、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG-40、逆光路)を用いて、JIS K 7136:2000に準拠して測定した。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行った。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時の分散液の液温は23℃であった。
【0221】
[ナノファイバー収率の測定]
繊維状セルロース分散液を遠心分離した後のナノファイバー収率を以下に記載の方法により測定した。ナノファイバー収率は、微細繊維状セルロースの収率の指標となり、ナノファイバー収率が高い程、微細繊維状セルロースの収率が高い。各分散液をセルロース濃度0.1質量%に調整し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H-2000B)を用い、12000G、10分の条件で遠心分離した。得られた上澄み液を回収し、上澄み液のセルロース濃度を測定した。下記式に基づいて、微細繊維状セルロースの収率を求めた。
ナノファイバー収率(質量%)=上澄みのセルロース濃度(質量%)/0.1×100
【0222】
[窒素量の測定]
繊維状セルロースに含まれる窒素と繊維状セルロース分散液中に含まれる遊離窒素の合計量を以下に記載の方法により測定した。各分散液を固形分濃度1質量%に調整し、ケルダール法(JIS K 0102:2016 44.1)で分解した。分解後、陽イオンクロマトグラフィでアンモニウムイオン量(mmol)を測定し、測定に使用したセルロース量(g)で除して窒素含有量(mmol/g)を算出した。
【0223】
【表1】
【0224】
<実施例1>
[置換基除去処理(高温熱処理)]
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液に、20質量%のクエン酸水溶液を添加し、分散液のpHを5.5に調整した。得られたスラリーを耐圧容器に入れ、液温160℃で15分間、リン酸基量が0.08mmol/gとなるまで加熱を行った。この操作により微細繊維状セルロース凝集物の生成が確認された。
【0225】
[置換基除去後スラリーの洗浄処理]
加熱後のスラリーに、スラリーと同量のイオン交換水を加えて固形分濃度が約1質量%のスラリーとし、スラリーを撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより、スラリーの洗浄を行った。ろ液の電気伝導度が10μS/cm以下となった時点で、再びイオン交換水を添加して約1質量%のスラリーとし、24時間静置した。そこからさらに濾過脱水する操作を繰り返し、再びろ液の電気伝導度が10μS/cm以下となった時点を洗浄終点とした。得られた微細繊維状セルロース凝集物にイオン交換水を加え、置換基除去後スラリーを得た。このスラリーの固形分濃度は1.7質量%であった。
【0226】
[置換基除去後スラリーの均一分散]
得られた置換基除去後スラリーにイオン交換水を加え、固形分濃度が1.0質量%のスラリーとした。このスラリーはpH5.5であった。湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて3回処理し、置換基除去微細繊維状セルロースを含む置換基除去微細繊維状セルロース分散液を得た。後述する[繊維幅の測定]で測定した置換基除去微細繊維状セルロースの数平均繊維幅は4nmであり、10nm以下の繊維幅の割合は98%であった。
【0227】
[シートの作製1]
イオン交換水に、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール(三菱ケミカル株式会社製、ゴーセネックスZ-200)を12質量%になるように加え、95℃で1時間撹拌し、溶解した。以上の手順により、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0228】
置換基除去微細繊維状セルロース分散液、及び上記ポリビニルアルコール水溶液をそれぞれ固形分濃度が0.6質量%となるようにイオン交換水で希釈した。次いで、希釈後の置換基除去微細繊維状セルロース分散液70質量部に対し、希釈後のポリビニルアルコール水溶液が30質量部になるように混合し、混合液を得た。さらに、シートの仕上がり坪量が37.5g/mになるように混合液を計量して、市販のアクリル板上に展開した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の枠(内寸250mm×250mm、高さ5cm)を配置した。そのあと70℃の乾燥機で24時間乾燥し、アクリル板から剥離することで、置換基除去微細繊維状セルロース含有シートを得た。シートの厚みは25μmであった。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.8であった。
【0229】
[樹脂層の形成]
水酸基を有するアクリロイル基がグラフト重合したアクリル樹脂(大成ファインケミカル社製、アクリット8KX-012C、固形分濃度は39質量%)100質量部と、ポリイソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、TPA-100)38質量部と、メチルエチルケトン100質量部を混合して樹脂組成物を得た。次いで、上記樹脂組成物を、置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの一方の面に、バーコーターにて塗布した後、100℃で1時間加熱して硬化させて樹脂層を積層した。さらに、置換基除去微細繊維状セルロース含有シートのもう一方の面にも同様の手順で樹脂層を積層した。樹脂層の厚みは片面あたり5μmであった。上記の手順により、置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの両面に樹脂層が積層された、積層シートを得た。
【0230】
<実施例2>
置換基除去処理を、液温85℃で5日間行った以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.7であった。
【0231】
<実施例3>
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液を0.7質量%に希釈し、置換基除去処理を行い、置換基除去後の洗浄処理工程の後、得られた微細繊維状セルロース凝集物にイオン交換水を加え、固形分濃度が1.0質量%のスラリーとした以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.8であった。
【0232】
<実施例4>
置換基除去処理を液温160℃で40分間行い、リン酸基量が0.05mmol/gとなるまで行った以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.8であった。
【0233】
<実施例5>
置換基除去処理を液温150℃で15分間行い、リン酸基量が0.21mmol/g程度となるまで行った以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.9であった。
【0234】
<実施例6>
置換基除去処理を液温140℃で20分間行い、リン酸基量が0.40mmol/g程度となるまで行った以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.7であった。
【0235】
<実施例7>
置換基除去処理に供する微細繊維状セルロース分散液のpHを2.4に調整し、置換基除去後スラリーの洗浄処理後にはpH5.5に調整した以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。置換基除去後のリン酸基量は0.22mmol/gであった。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.7であった。
【0236】
<実施例8>
置換基除去処理に供する微細繊維状セルロース分散液のpH調整を行わず加熱処理を行い、置換基除去後スラリーの洗浄処理後にはpH5.5に調整した以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。置換基除去後のリン酸基量は0.29mmol/gであった。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.9であった。
【0237】
<実施例9>
置換基除去後スラリーの均一分散を、高速解繊機(エムテクニック社製、クレアミックス-11S)を用いて、周速34m/secの条件で180分間処理した以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.8であった。
【0238】
<実施例10>
置換基除去処理を、加熱処理ではなく下記の酵素処理で行い、さらに置換基除去後スラリーの洗浄処理を下記の方法で行った以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.8であった。
【0239】
[置換基除去処理(酵素処理)]
得られた微細繊維状セルロース分散液に、20質量%のクエン酸水溶液を添加し、スラリーをpH5.5に調整した。得られたスラリーに、酸性ホスファターゼ(新日本化学工業製スミチームPM)を微細繊維状セルロース100質量部に対して3質量部となるように添加し、37℃の湯浴中で2.5時間酵素処理を行った。この操作により微細繊維状セルロース凝集物の生成が確認された。
【0240】
[酵素処理による置換基除去後スラリーの洗浄処理]
得られた置換基除去後スラリーに、体積で1/5の強塩基性イオン交換樹脂(アンバージェット4400;オルガノ株式会社、コンディショニング済)及び弱酸性イオン交換樹脂(アンバーライトIRC76;オルガノ株式会社、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することによりスラリーを洗浄した。
【0241】
<実施例11>
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液に代えて、製造例2で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.7であった。
【0242】
<実施例12>
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液に代えて、製造例3で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.7であった。
【0243】
<実施例13>
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液に代えて、製造例4で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.8であった。
【0244】
<実施例14>
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液に代えて、製造例5で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いた。さらに置換基除去処理(高温熱処理)の代わりに後述する置換基除去処理(低温熱処理)を行った。その他は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、6.9であった。
【0245】
[置換基除去(低温熱処理)]
得られた微細繊維状セルロース分散液を、液温40℃で45分間加熱し、ザンテート基量が0.08mmol/g未満となるまで加熱を行った。
【0246】
<実施例15>
[樹脂層の形成]において、置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの一方の面のみに樹脂層を形成した以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.8であった。
【0247】
<実施例16>
[シートの作製1]において、固形分濃度が0.6質量%のポリビニルアルコール水溶液に代えて、固形分濃度が0.6質量%となるように希釈したポリエチレンオキサイド(住友精化社製、PEO-18;粘度平均分子量430万~480万)を用いた。その他は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.8であった。
【0248】
<実施例17>
[樹脂層の形成]の手順を下記のように変更した以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。変性ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学株式会社製、ユピゼータFPC-2136)15質量部、トルエン57質量部、メチルエチルケトン28質量部を混合し、樹脂塗工液を得た。次いで上記樹脂塗工液に密着助剤としてイソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ株式会社製、デュラネートTPA-100)を2.25質量部添加し、混合して樹脂組成物を得た。次いで、上記樹脂組成物を、置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの一方の面に、バーコーターにて塗布した後、100℃で1時間加熱して硬化させて樹脂層を積層した。さらに、置換基除去微細繊維状セルロース含有シートのもう一方の面にも同様の手順で樹脂層を積層した。樹脂層の厚みは片面あたり5μmであった。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.8であった。
【0249】
<実施例18>
[シートの作製1]において、希釈後の置換基除去微細繊維状セルロース分散液40質量部に対し、希釈後のポリビニルアルコール水溶液が60質量部になるように混合し、混合液を得た。さらに、シートの仕上がり坪量が35.0g/mになるように混合液を計量して、市販のアクリル板上に展開した。その他は実施例17と同様にして、積層シートを得た。なお、置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの厚みは25μmであった。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、3.2であった。
【0250】
<実施例19>
[シートの作製1]において、希釈後の置換基除去微細繊維状セルロース分散液10質量部に対し、希釈後のポリビニルアルコール水溶液が90質量部になるように混合し、混合液を得た。さらに、シートの仕上がり坪量が31.0g/mになるように混合液を計量して、市販のアクリル板上に展開した。その他は実施例17と同様にして、積層シートを得た。なお、置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの厚みは25μmであった。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、3.0であった。
【0251】
<実施例20>
[シートの作製1]において、シートの仕上がり坪量が105.0g/mになるように混合液を計量して、市販のアクリル板上に展開した以外は実施例17と同様にして、積層シートを得た。なお、置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの厚みは70μmであった。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.8であった。
【0252】
<実施例21>
[樹脂層の形成]の手順を下記のように変更した以外は実施例20と同様にして、積層シートを得た。変性ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学株式会社製、ユピゼータFPC-2136)15質量部、トルエン57質量部、メチルエチルケトン28質量部を混合し、樹脂塗工液を得た。次いで上記樹脂塗工液に密着助剤として有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)であるメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製、SILQUEST A-174 SILANE)を0.75質量部添加し、混合して樹脂組成物を得た。次いで、上記樹脂組成物を、置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの一方の面に、バーコーターにて塗布した後、100℃で1時間加熱して硬化させて樹脂層を積層した。さらに、置換基除去微細繊維状セルロース含有シートのもう一方の面にも同様の手順で樹脂層を積層した。樹脂層の厚みは片面あたり5μmであった。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.8であった。
【0253】
<比較例1>
[シートの作製1]において、置換基除去微細繊維状セルロース分散液に代えて、製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は、上記[シートの作製1]と同様の操作を行い、微細繊維状セルロース含有シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、7.3であった。
【0254】
<比較例2>
製造例3で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は比較例1と同様にして、微細繊維状セルロース含有シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、7.2であった。
【0255】
<比較例3>
製造例4で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は比較例1と同様にして、微細繊維状セルロース含有シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、6.9であった。
【0256】
<比較例4>
製造例5で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は比較例1と同様にして、微細繊維状セルロース含有シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、6.3であった。
【0257】
<比較例5>
置換基除去処理を液温140℃で10分間行い、リン酸基量が0.74mmol/g程度となるまで行った以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.9であった。
【0258】
<比較例6>
製造例6で得られた粗大繊維状セルロースを含むセルロース分散液を用いた以外は比較例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の粗大繊維状セルロース含有シートの表面pHは、5.8であった。
【0259】
<比較例7>
置換基除去後スラリーの均一分散を行わなかった以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.8であった。
【0260】
<比較例8>
置換基除去後スラリーの均一分散を行わなかった以外は実施例12と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.6であった。
【0261】
<比較例9>
置換基除去後スラリーの均一分散を行わなかった以外は実施例13と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去繊維状セルロース含有シートの表面pHは、4.5であった。
【0262】
<比較例10>
置換基除去後スラリーの均一分散を行わなかった以外は実施例14と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去繊維状セルロース含有シートの表面pHは、6.8であった。
【0263】
<比較例11>
[シートの作製1]において、置換基除去微細繊維状セルロース分散液に代えて、製造例1で得た微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は実施例15と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、7.3であった。
【0264】
<比較例12>
[シートの作製1]において、置換基除去微細繊維状セルロース分散液に代えて、製造例1で得た微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は実施例16と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、7.2であった。
【0265】
<比較例13>
[シートの作製1]において、置換基除去微細繊維状セルロース分散液に代えて、製造例1で得た微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は実施例17と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、7.3であった。
【0266】
<比較例14>
[シートの作製1]において、置換基除去微細繊維状セルロース分散液に代えて、製造例1で得た微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は実施例18と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、6.9であった。
【0267】
<比較例15>
[シートの作製1]において、置換基除去微細繊維状セルロース分散液に代えて、製造例1で得た微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は実施例20と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、7.2であった。
【0268】
<比較例16>
[シートの作製1]において、置換基除去微細繊維状セルロース分散液に代えて、製造例1で得た微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は実施例21と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、7.2であった。
【0269】
<比較例17>
[置換基除去後スラリーの洗浄処理]の代わりに下記[置換基除去後スラリーのイオン交換樹脂処理]を行った以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、2.4であった。
【0270】
[置換基除去後スラリーのイオン交換樹脂処理]
[置換基除去処理(高温熱処理)]で得られた加熱後のスラリーにイオン交換水を加えて固形分濃度が約1.1質量%のスラリーとした後、体積比で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショニング済)および体積比で1/10の強塩基性イオン交換樹脂(アンバージェット4400;オルガノ株式会社、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離した。得られたスラリーはpH3.1であった。
【0271】
<比較例18>
[置換基除去処理(高温熱処理)]においてクエン酸を添加せず、微細繊維状セルロース分散液の1/10量の尿素を添加した以外は比較例17と同様にして、積層シートを得た。なお、樹脂層を積層する前の置換基除去微細繊維状セルロース含有シートの表面pHは、2.4であった。
【0272】
[評価]
実施例及び比較例で得られた積層シートについて、下記の方法で評価を行った。
【0273】
[繊維幅の測定]
繊維状セルロースの繊維幅を下記の方法で測定した。各繊維状セルロース分散液を、セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストした。これを乾燥した後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子社製、JEOL-2000EX)により観察した。その際、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、倍率を調節した。この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交差する繊維の繊維幅を目視で読み取っていった。各分散液につき3枚の重複しない観察画像を撮影し、各々2つの軸に交差する繊維の繊維幅の値を読み取った(20本以上×2×3=120本以上)。なお、このようにして得られた繊維幅から数平均繊維幅を算出した。但し、実施例1~21および比較例5、7~10については、置換基除去微細繊維状セルロース分散液を、比較例1~4、11~16については微細繊維状セルロース分散液を使用して測定を行った。また、比較例6で使用した粗大繊維状セルロースのみ、分散液をセルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、ガラス上へキャストして走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
また、下記式に基づいて、繊維幅が10nm以下の微細繊維状セルロースの割合を求めた。
繊維幅が10nm以下の微細繊維状セルロースの割合(%)=(繊維幅が10nm以下の微細繊維状セルロースの本数/全繊維状セルロースの本数)×100
【0274】
[リンオキソ酸基量の測定]
リンオキソ酸基量(リン酸基もしくは亜リン酸基量)の測定においては、まず、対象となる微細繊維状セルロースにイオン交換水を添加し、固形分濃度が0.2質量%のスラリーを調製した。得られたスラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図2)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値をリンオキソ酸基量(mmol/g)とした。
【0275】
[スルホン基量の測定]
スルホン基量は、次のように測定した。微細繊維状セルロースを冷凍庫で凍結させた後、凍結乾燥機(ラブコンコ社製FreeZone)で3日間乾燥させた。得られた凍結乾燥物をハンドミキサー(大阪ケミカル製、ラボミルサーPLUS)を用い、回転数20,000rpmで60秒、粉砕処理を行って粉末状にした。凍結乾燥及び粉砕処理後の試料を密閉容器中で硝酸を用いて加圧加熱分解した。その後、適宜希釈してICP-OESで硫黄量を測定した。供試した微細繊維状セルロースの絶乾質量で割り返して算出した値を硫酸エステル基量(単位:mmol/g)とした。
【0276】
[ザンテート基量の測定]
ザンテート基量は、Bredee法により測定した。具体的には、繊維状セルロース1.5質量部(絶乾質量)に飽和塩化アンモニウム溶液を40mL添加し、ガラス棒でサンプルを潰しながらよく混合し、約15分間放置後、GFPろ紙(ADVANTEC社製GS-25)でろ過して、飽和塩化アンモニウム溶液で十分に洗浄した。サンプルをGFPろ紙ごと500mLのトールビーカーに入れ、0.5M水酸化ナトリウム溶液(5℃)を50mL添加して撹拌した。15分間放置後、溶液がピンク色になるまでフェノールフタレイン溶液を添加した後、1.5M酢酸を添加して、溶液がピンク色から無色になった点を中和点とした。中和後蒸留水を250mL添加してよく撹拌し、1.5M酢酸10mL、0.05mol/Lヨウ素溶液10mLをホールピペットを使用して添加した。この溶液を0.05mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した。チオ硫酸ナトリウムの滴定量、繊維状セルロースの絶乾質量より次式からザンテート基量を算出した。
ザンテート基量(mmol/g)=(0.05×10×2-0.05×チオ硫酸ナトリウム滴定量(mL))/1000/繊維状セルロースの絶乾質量(g)
【0277】
[積層シートの全光線透過率測定]
JIS K 7361-1:1997に準拠し、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて積層シートの全光線透過率を測定した。
【0278】
[積層シートのヘーズ測定]
JIS K 7136:2000に準拠し、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて積層シートのヘーズを測定した。
【0279】
[積層シートの加熱前後の黄色度測定]
JIS K 7373:2006に準拠し、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)を用いて積層シートの加熱前後の黄色度(YI値)を測定した。なお、加熱後のYI値は、160℃で6時間加熱した積層シートのYI値とした。また、下記の方法でYI増加率を測定した。
YI増加率(%)=(加熱後のシートのYI値-加熱前のシートのYI値)/加熱前のシートのYI値×100
【0280】
[樹脂層積層前のシート(CNFシート)の表面pHの測定]
シート表面の1cm四方の範囲内に10μLのイオン交換水をマイクロピペットで滴下し、その部分のpHをフラット形pH複合電極(6261-10C;HORIBA製)を用いて測定した。
【0281】
【表2】
【0282】
【表3】
【0283】
【表4】
【0284】
【表5】
【0285】
AC:アクリル
PIC:ポリイソシアネート
PC:ポリカーボネート
OSi:オルガノシラン
【0286】
実施例で得られた積層シートは高透明であり、加熱前のYIに加えて加熱後のYIも低かった(実施例1~21)。一方、置換基除去処理を行わない場合、または除去処理が不十分の場合、得られた積層シートは加熱後のYIが高かった(比較例1~5、11~16)。未変性の粗大繊維状セルロースを用いた場合、得られた積層シートは不透明であった(比較例6)。置換基除去後の均一分散を行わない場合、積層シートの透明度が低かった(比較例7~10)。
【0287】
<実施例101>
実施例20で得た積層シートを、100mm角にトリミングしたものを2枚用意した。寸法100mm角、厚み2mmのポリカーボネート板を、この積層シート2枚で挟み、さらにこれらを寸法200mm角のステンレス板2枚で挟んだ。その後、常温に設定したミニテストプレス(東洋精機工業社製、MP-WCH)に挿入して0.2MPaのプレス圧力下、3分かけて160℃まで昇温した。この状態で30秒間保持した後、3分かけて30℃まで冷却した。上記の手順により、ポリカーボネート板との積層体を得た。
【0288】
<実施例102>
実施例21で得た積層シートを使用した以外は実施例101と同様にして、ポリカーボネート板との積層体を得た。
【0289】
<比較例101>
比較例15で得た積層シートを使用した以外は実施例101と同様にして、ポリカーボネート板との積層体を得た。
【0290】
<比較例102>
比較例16で得た積層シートを使用した以外は実施例101と同様にして、ポリカーボネート板との積層体を得た。
【0291】
<比較例103>
実施例101において、ポリカーボネート板を積層シート2枚で挟まずに、ミニテストプレスによる処理を行った。この板を評価に使用した。
【0292】
[評価]
実施例及び比較例で得られた積層体及び板について、下記の方法で評価を行った。
【0293】
[曲げ弾性率の測定]
積層体及び板から寸法80mm×10mmの試験片を切り出し、JIS K 7171:2016にしたがって曲げ試験を行い、曲げ弾性率を測定した。
【0294】
[外観]
JIS K 7373:2006に準拠し、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)を用いて積層体及び板のYI値を測定した。測定結果より、下記の基準にしたがって外観を評価した。
A:YIが10未満
B:YIが10以上
【0295】
[外観]
積層体、および板を、90℃で720時間加熱した。その後、JIS K 7373:2006に準拠し、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)を用いて積層体、および板のYI値を測定した。測定結果より、下記の基準にしたがって外観を評価した。
A:YIが15未満
B:YIが15以上
【0296】
【表6】
【0297】
実施例で得られた積層シートは、加熱前後のYIが低く、外観が良好であった。さらに、積層体とした場合、曲げ弾性率も高くなっており、樹脂材料の補強効果にも優れていた(実施例101、102)。置換基除去処理を含む工程を経ていない積層シートは、曲げ弾性率がやや低くなっており、積層体とした場合の外観も不良であった(比較例101、102)。
【符号の説明】
【0298】
2 樹脂層
6 繊維層
10 積層シート
図1
図2