(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】多層グラフェンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/186 20170101AFI20241210BHJP
B01J 23/755 20060101ALI20241210BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C01B32/186
B01J23/755 M
B01J37/02 301P
(21)【出願番号】P 2021093797
(22)【出願日】2021-06-03
【審査請求日】2024-01-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 賢二郎
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-178644(JP,A)
【文献】特開2012-006824(JP,A)
【文献】特開2013-177273(JP,A)
【文献】特表2013-513544(JP,A)
【文献】特開2011-102231(JP,A)
【文献】特開2009-107921(JP,A)
【文献】特開2011-201735(JP,A)
【文献】国際公開第2021/002070(WO,A1)
【文献】特表2013-501695(JP,A)
【文献】NIILISK Ahti et al.,Carbon,2016年,98,p.658-665
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B01J 23/755
B01J 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄及びニッケルを含む触媒膜を、水素を含む雰囲気中で加熱する第1の加熱処理を行うことで、前記触媒膜を再結晶化させる工程と、
前記触媒膜を、水素及び炭化水素を含む雰囲気中で加熱する第2の加熱処理を行うことで、前記触媒膜の表面に、ランダム積層構造を有して積層された複数のグラフェンを形成する工程と、を含む
多層グラフェンの製造方法。
【請求項2】
基板上に鉄を含む第1の金属膜及びニッケルを含む第2の金属膜を順次形成することで、前記基板上に前記触媒膜を形成する工程を更に含み、
前記第1の加熱処理により、前記第1の金属膜に含まれる鉄及び前記第2の金属膜に含まれるニッケルを合金化させる
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
基板上に鉄及びニッケルを含む合金膜を前記触媒膜として形成する工程を更に含む
請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記基板は、サファイア単結晶基板である
請求項2又は請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記触媒膜におけるニッケルの体積比は40%以上80%以下である
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1の加熱処理及び前記第2の加熱処理を、気密性が保たれた同一のチャンバー内で連続して実施する
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、多層グラフェンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、炭素原子が六角形のハニカム格子状に配置された1原子分の厚さを有するシート状の材料である。グラフェンの製造方法に関する技術として以下のものが知られている。
【0003】
例えば、基板上に、合金触媒層を形成するステップと、合金触媒層上に炭化水素ガスを供給してグラフェン層を形成するステップと、を含むグラフェンの製造方法が知られている。合金触媒層は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、白金(Pt)、鉄(Fe)、金(Au)のうち選択された少なくとも二つの金属からなるものである。
【0004】
また、単結晶基板にエピタキシャルに成長した遷移金属単結晶薄膜を加熱し、遷移金属の表面に炭素を供給することでグラフェンを成長させるグラフェンの製造方法が記載されている。遷移金属はFe、Co、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Ir、Ptまたはこれらの合金である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-102231号公報
【文献】特開2012-232860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グラフェンは、バルクと比較して電子移動度が非常に高いといった特長を有することから、高周波デバイス、透明導電膜、フレキシブルデバイス及び光センサへの応用が研究されている。しかしながら、単層のグラフェンは、機械強度及び光吸収率が低いといった各種デバイスに応用する上で好ましくない特性を有する。
【0007】
ランダム積層構造を有する多層グラフェンは、単層のグラフェンの優れた特長を保持しつつ、機械強度及び光吸収率の問題を改善することができる材料である。ここで、
図1及び
図2は、それぞれ、ランダム積層構造を有する多層グラフェンの構造を示す斜視図及び平面図である。ランダム積層構造とは、
図1及び
図2に示すように、複数のグラフェン11が積層された多層グラフェン10において、各層の積層方向を回転軸とする回転角度がランダムな構造である。
【0008】
ランダム積層構造を有する多層グラフェンは、鉄(Fe)を触媒膜として用いたCVD(chemical vapor deposition)により製造することが可能である。しかしながら、触媒膜として鉄を用いた場合、層数が多く(例えば100層以上)且つ層数の面内ばらつきが大きい多層グラフェンが製造される。多層グラフェンの層数が過度に多いと、パターニングが困難となり、多層グラフェンを用いたデバイスの製造が困難になる。また、グラフェンの層数の面内ばらつきが大きいと、デバイスの歩留まりが低下するおそれがある。
【0009】
開示の技術は、上記の点に鑑みてなされたものであり、グラフェンの層数及び層数の面内ばらつきを抑制することができるランダム積層構造を有する多層グラフェンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
開示の技術に係る多層グラフェンの製造方法は、鉄及びニッケルを含む触媒膜を、水素を含む雰囲気中で加熱する第1の加熱処理を行うことで、前記触媒膜を再結晶化させる工程を含む。また、開示の技術に係る製造方法は、前記触媒膜を、水素及び炭化水素を含む雰囲気中で加熱する第2の加熱処理を行うことで、前記触媒膜の表面に、ランダム積層構造を有して積層された複数のグラフェンを形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0011】
開示の技術によれば、グラフェンの層数及び層数の面内ばらつきを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ランダム積層構造を有する多層グラフェンの構造を示す斜視図である。
【
図2】ランダム積層構造を有する多層グラフェンの構造を示す平面図である。
【
図3】開示の技術の実施形態に係る多層グラフェンの製造方法の一例を示す図である。
【
図4】開示の技術の実施形態に係る多層グラフェンの製造方法の一例を示す図である。
【
図5】開示の技術の実施形態に係る多層グラフェンの製造方法の一例を示す図である。
【
図6】開示の技術の実施形態に係る多層グラフェンの製造方法の一例を示す図である。
【
図7】開示の技術の実施形態に係る第1の加熱処理及び第2の加熱処理に用いられるCVD装置の構成の一例を示す図である。
【
図8A】比較例に係る製造方法によって製造された多層グラフェンの断面のTEM画像である。
【
図9】比較例に係る製造方法によって製造された多層グラフェンの平面視における光学顕微鏡画像である。
【
図10】開示の技術の実施形態に係る製造方法によって製造された多層グラフェンの平面視における光学顕微鏡画像である。
【
図11】開示の技術の実施形態に係る多層グラフェンについて取得したラマンスぺクトルである。
【
図12A】触媒膜におけるニッケルの体積比を15%とした場合の多層グラフェンの平面視における光学顕微鏡画像である。
【
図12B】触媒膜におけるニッケルの体積比を30%とした場合の多層グラフェンの平面視における光学顕微鏡画像である。
【
図12C】触媒膜におけるニッケルの体積比を45%とした場合の多層グラフェンの平面視における光学顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、開示の技術の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与し、重複する説明は省略する。
【0014】
図3~
図6は、開示の技術の実施形態に係る多層グラフェンの製造方法の一例を示す図である。本実施形態に係る製造方法は、層数が比較的少ない(例えば1層~10層程度)ランダム積層構造の多層グラフェンの製造に特に適する。
【0015】
初めに、多層グラフェンの合成に用いる基板20を用意する(
図3)。基板20は、例えば、(0001)配向面(C面)を表面に有するサファイア単結晶基板(Al
2O
3)を好適に用いることが可能である。基板20は、例えば、化学機械研磨処理(CMP)を施した原子レベルで平滑な面を有するものが望ましい。基板20として、酸化マグネシウム単結晶基板(MgO)及びスピネル単結晶基板(MgAl
2O
4)を用いることも可能である。
【0016】
次に、基板20の表面に鉄(Fe)及びニッケル(Ni)を含む触媒膜30を形成する。具体的には、基板20の表面に、主として鉄(Fe)を含む第1の金属膜31及び主としてニッケル(Ni)を含む第2の金属膜32を順次形成する(
図4)。第1の金属膜31及び第2の金属膜32は、それぞれ触媒膜30を構成するものである。第1の金属膜31及び第2の金属膜32の成膜には、例えば蒸着法及びスパッタ法を用いることが可能である。第1の金属膜31及び第2の金属膜32の形成順序は、特に限定されるものではなく、いずれを先に形成してもよい。第1の金属膜31及び第2の金属膜32の形成は、これらの膜の界面の酸化及び不純物の混入を抑制するために、真空中で連続的に行われることが好ましい。触媒膜30におけるニッケル(Ni)の体積比は、40%以上80%以下であることが好ましい。また触媒膜30の厚さは、100nm以上1000nm以下であることが好ましい。ニッケル(Ni)の体積比及び触媒膜30の厚さは、第1の金属膜31及び第2の金属膜32の膜厚を調整することによって制御することが可能である。
【0017】
次に、第1の金属膜31及び第2の金属膜32を含む触媒膜30を、水素(H2)を含む雰囲気中で加熱する第1の加熱処理を行う。これにより、第1の金属膜31に含まれる鉄(Fe)及び第2の金属膜32に含まれるニッケル(Ni)を合金化させる。また、第1の加熱処理により、触媒膜30を再結晶化させる。触媒膜30の再結晶化により、触媒膜30は、その結晶の配向が、基板20の結晶面(例えばC面)の配向に整合したエピタキシャル膜となる。また、第1の加熱処理を、還元作用を有する水素(H2)中で行うことで、触媒膜30の酸化を抑制することが可能である。
【0018】
本実施形態において、第1の加熱処理及び後述する第2の加熱処理はCVD装置を用いて行われる。
図7は、第1の加熱処理及び後述する第2の加熱処理に用いられるCVD装置50の構成の一例を示す図である。CVD装置50は、気密性が保たれたチャンバー51、チャンバー51内に設けられたサセプタ52、チャンバー51内に各種ガスを導入するためのガス導入部53、各種ガスを排出するためのガス排出部54を有する。
【0019】
触媒膜30が形成された基板20は、サセプタ52の表面に設置される。サセプタ52は、例えば公知の誘導加熱方式により加熱される。基板20及び触媒膜30は、サセプタ52を介して加熱される。第1の加熱処理における加熱温度は、例えば、800℃以上1200℃以下が好ましい。第1の加熱処理における処理時間は、10分以上600分以下が好ましい。第1の加熱処理が行われている間、チャンバー51の内部には、ガス導入部53を介して水素ガス(H2)及び不活性ガスが導入される。不活性ガスとして、例えば、アルゴンガス(Ar)又は窒素ガス(N2)を好適に用いることが可能である。第1の加熱処理における水素ガスの流量は1sccm以上1000sccm以下であることが好ましく、不活性ガスの流量は10sccm以上10000sccm以下であることが好ましい。なお、sccmは、standard cubic centimeter per minuteである。
【0020】
第1の加熱処理の完了後、基板20及び触媒膜30を、水素(H
2)及び炭化水素を含む雰囲気中で加熱する第2の加熱処理を行う。これにより、触媒膜30の表面に、ランダム積層構造を有して積層された複数のグラフェンを含む多層グラフェン10を形成する(
図6)。本実施形態において、第2の加熱処理は、第1の加熱処理で用いたCVD装置50を用いて行われる。すなわち、第1の加熱処理及び第2の加熱処理は、気密性が保たれた同一のチャンバー51内で連続して実施される。これにより、酸化及び不純物の混入を抑制することが可能となる。
【0021】
第2の加熱処理における加熱温度は、例えば、800℃以上1200℃以下が好ましく、第1の加熱処理における加熱温度と同じ温度であってもよいし、異なる温度であってもよい。第2の加熱処理における処理時間は、加熱温度及び使用する炭化水素の種類に依存するが、典型的には1分以上60分以下が好ましい。第2の加熱処理が行われている間、チャンバー51の内部には、ガス導入部53を介して水素ガス(H2)及び不活性ガスに加え、炭化水素ガスが導入される。不活性ガスとして、例えば、アルゴンガス(Ar)又は窒素ガス(N2)を好適に用いることが可能である。炭化水素ガスとして、例えば、メタンガス(CH4)を好適に用いることができる。第2の加熱処理における水素ガス(H2)及び不活性ガスの流量は、それぞれ、第1の加熱処理における流量をそのまま維持してもよい。炭化水素ガスの流量は0.1sccm以上100sccm以下であることが好ましい。
【0022】
グラフェンの層数は、触媒膜30におけるニッケル(Ni)の体積比によって制御することが可能である。触媒膜30におけるニッケル(Ni)の体積比が大きくなる程、グラフェンの層数が少なくなる傾向がある。触媒膜30におけるニッケル(Ni)の体積比を40%以上80%以下とすることで、グラフェンの層数が10層以下の多層グラフェンが形成される。また、グラフェンの層数は、炭化水素ガスの量(濃度)によっても制御することが可能である。チャンバー51内に導入する炭化水素ガスの流量が多くなる程、グラフェンの層数が多くなる傾向がある。すなわち、触媒膜30におけるニッケル(Ni)の体積比及び炭化水素ガス流量によって、所望の層数を有する多層グラフェンを得ることができる。
【0023】
なお、上記の説明では、基板20上に、鉄(Fe)を含む第1の金属膜31及びニッケル(Ni)を含む第2の金属膜32を順次形成することにより触媒膜30を形成する態様を例示したが、開示の技術は、この態様に限定されない。例えば、基板20上に鉄(Fe)及びニッケル(Ni)を含む合金膜を触媒膜30として形成してもよい。すなわち、Fe-Ni合金を供給源とするスパッタ法又は蒸着法によって基板20上に触媒膜30を成膜してもよい。
【0024】
また、上記の説明では、基板20上に形成された触媒膜30を用いる場合を例示したが、触媒膜30は、基板20上に形成されたものでなくてもよい。例えば、箔状又は板状の触媒膜を用いることが可能である。
【0025】
[実施例]
上記した開示の技術の実施形態に係る製造方法を用いて多層グラフェンを製造した。鉄(Fe)及びニッケル(Ni)を含む触媒膜をC面サファイア基板上に形成した。触媒膜におけるニッケル(Ni)の体積比を45%とした。なお、触媒膜における鉄(Fe)の体積比は55%である。第1の加熱処理をCVD装置を用いて行った。第1の加熱処理における加熱温度を1100℃、処理時間を60分とした。不活性ガスとしてアルゴンガス(Ar)を用いた。アルゴンガス(Ar)の流量を500sccmとし、水素ガス(H2)の流量を50sccmとした。チャンバー内の圧力を大気圧(100kPa)とした。
【0026】
第1の加熱処理に引き続き、同一のCVD装置を用いて第2の加熱処理を行った。第2の加熱処理における加熱温度を1000℃、処理時間を20分とした。不活性ガスとしてアルゴンガス(Ar)を用い、炭化水素ガスとしてメタンガス(CH4)を用いた。アルゴンガス(Ar)の流量を500sccmとし、水素ガス(H2)の流量を50sccmとし、メタンガス(CH4)の流量を0.4sccmとした。チャンバー内の圧力を50kPaとした。
【0027】
比較例として、ニッケル(Ni)を含まない(すなわち鉄(Fe)のみを含む)触媒膜を用いて多層グラフェンを製造した。比較例に係る製造条件は、上記した本実施例に係る製造条件と同一である。実施例及び比較例について第1の加熱処理及び第2の加熱処理を同一のCVD装置を用いて同時に行った。
【0028】
図8Aは、比較例に係る製造方法によって製造された多層グラフェンの断面のTEM(Transmission Electron Microscope)画像であり、
図8Bは、
図8Aにおける領域Aの拡大図である。
【0029】
図9は、比較例に係る製造方法によって製造された多層グラフェンの平面視における光学顕微鏡画像である。
図10は、開示の技術の実施例に係る製造方法によって製造された多層グラフェンの平面視における光学顕微鏡画像である。これらの光学顕微鏡画像は、C面サファイア基板上に形成された多層グラフェンを、表面に熱酸化膜が形成されたシリコン基板上に転写して撮影したものである。
図9及び
図10に示す光学顕微鏡画像おける明部はグラフェンの層数が比較的多い部分であり、暗部はグラフェンの層数が比較的少ない部分である。グラフェンの層数の面内ばらつきは、光学顕微鏡画像における明部と暗部の入り組み具合に反映される。
【0030】
ニッケル(Ni)を含まない触媒膜を用いて製造される比較例に係る多層グラフェンは、グラフェンの層数が1層から100層程度の範囲でばらついた。個々のグレインのサイズは数μm程度であった。
【0031】
一方、ニッケル(Ni)を含む触媒膜を用いて製造された開示の技術の実施例に係る多層グラフェンは、グラフェンの層数が1層から5層程度の範囲に収まった。個々のグレインのサイズは、数十μm程度であった。すなわち、開示の技術の実施例に係る多層グラフェンは、比較例に係る多層グラフェンと比較して、グラフェンの層数が顕著に少なく、層数のバラツキも顕著に小さい。
【0032】
図11は、開示の技術の実施例に係る多層グラフェンについて取得したラマンスペクトルである。1340cm
-1付近に現れる欠陥由来のピークが殆ど観測されないことから、得られた多層グラフェンが高品質であることが示唆された。また、2700cm
-1付近のピーク形状がシングルピークであることから、得られた多層グラフェンがランダム積層構造を有していることが分かる。
【0033】
図12A、
図12B、
図12Cは、それぞれ、触媒膜におけるニッケル(Ni)の体積比を15%、30%、45%とした場合の多層グラフェンの平面視における光学顕微鏡画像である。これらの光学顕微鏡画像は、C面サファイア基板上に形成された多層グラフェンを、表面に熱酸化膜が形成されたシリコン基板上に転写して撮影したものである。触媒膜におけるニッケル(Ni)の体積比が大きくなる程、グラフェンの層数が少なくなり、層数の面内ばらつきが抑制された。
【0034】
以上のように、開示の技術の実施形態に係る多層グラフェンの製造方法は、下記の工程を含む。(1)鉄及びニッケルを含む触媒膜を、水素を含む雰囲気中で加熱する第1の加熱処理を行うことで、触媒膜を再結晶化させる工程。(2)触媒膜を、水素及び炭化水素を含む雰囲気中で加熱する第2の加熱処理を行うことで、触媒膜30の表面に、ランダム積層構造を有して積層された複数のグラフェンを形成する工程。開示の技術の実施形態に係る製造方法によれば、グラフェンの層数及び層数の面内ばらつきを抑制することができるランダム積層構造を有する多層グラフェンを製造することが可能である。
【0035】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
鉄及びニッケルを含む触媒膜を、水素を含む雰囲気中で加熱する第1の加熱処理を行うことで、前記触媒膜を再結晶化させる工程と、
前記触媒膜を、水素及び炭化水素を含む雰囲気中で加熱する第2の加熱処理を行うことで、前記触媒膜の表面に、ランダム積層構造を有して積層された複数のグラフェンを形成する工程と、を含む
多層グラフェンの製造方法。
【0036】
(付記2)
基板上に鉄を含む第1の金属膜及びニッケルを含む第2の金属膜を順次形成することで、前記基板上に前記触媒膜を形成する工程を更に含み、
前記第1の加熱処理により、前記第1の金属膜に含まれる鉄及び前記第2の金属膜に含まれるニッケルを合金化させる
付記1に記載の製造方法。
【0037】
(付記3)
基板上に鉄及びニッケルを含む合金膜を前記触媒膜として形成する工程を更に含む
付記1に記載の製造方法。
【0038】
(付記4)
前記基板は、サファイア単結晶基板である
付記2又は付記3に記載の製造方法。
【0039】
(付記5)
前記触媒膜におけるニッケルの体積比は40%以上80%以下である
付記1から付記4のいずれか1つに記載の製造方法。
【0040】
(付記6)
前記第1の加熱処理及び前記第2の加熱処理を、気密性が保たれた同一のチャンバー内で連続して実施する
付記1から付記5のいずれか1つに記載の製造方法。
【0041】
(付記7)
前記触媒膜におけるニッケルの体積比によって前記グラフェンの層数を制御する
付記1から付記6のいずれか1つに記載の製造方法。
【0042】
(付記8)
前記第1の加熱処理及び前記第2の加熱処理における加熱温度は、800℃以上1200℃以下である
付記1から付記7のいずれか1つに記載の製造方法。
【0043】
(付記9)
前記グラフェンの層数は10層以下である
付記1から付記8のいずれか1つに記載の製造方法。
【符号の説明】
【0044】
10 多層グラフェン
20 基板
30 触媒膜
31 第1の金属膜
32 第2の金属膜
50 CVD装置
51 チャンバー
52 サセプタ