(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】無人搬送車の制御装置
(51)【国際特許分類】
G05D 3/00 20060101AFI20241210BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20241210BHJP
B61B 13/00 20060101ALI20241210BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G05D3/00 Z
G05D1/43
B61B13/00 A
G05B11/36 G
(21)【出願番号】P 2021094922
(22)【出願日】2021-06-07
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】安部 義隆
(72)【発明者】
【氏名】野村 昌克
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
(72)【発明者】
【氏名】米野 敬祐
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-059618(JP,A)
【文献】特開2000-010612(JP,A)
【文献】特開平11-143548(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181627(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 3/00
G05D 1/43
B61B 13/00
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動可能な走行体に搭載された基台と、
前記基台上の四隅に各々設置されたアクチュエータであり、出力軸が前記
基台上における前記設置
された面に対して垂直方向に運動自在に構成された第1~第4のアクチュエータと、
前記第1~第4のアクチュエータの各出力軸の先端部に対向して配設された被制御体と、
前記第1~第4のアクチュエータ駆動用のモータを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、推力指令対付加トルクの変換関数によって、推力指令から付加トルクに変換する推力-付加トルク変換部と、前記変換された付加トルクに最大静止摩擦トルクを加算してモータトルク参照値を出力する加算部とを有し、前記加算部の出力を、前記アクチュエータ駆動用のモータのモータトルク参照値とすることを特徴とする無人搬送車の制御装置。
【請求項2】
前記コントローラは、正の方向の最大静止摩擦トルクを用いたモータトルク参照値によるリフタ上昇制御と、前記付加トルクおよび最大静止摩擦トルクを加算したモータトルク参照値による推力制御と、負の方向の最大静止摩擦トルクを用いたモータトルク参照値によるリフタ下降制御と、を行うことを特徴とする請求項1に記載の無人搬送車の制御装置。
【請求項3】
前記推力-付加トルク変換部における推力指令対付加トルクの変換関数は、
前記モータトルク参照値をゼロから微小に上げていき、前記アクチュエータが動き出すときのモータトルク参照値を最大静止摩擦トルクとして記録し、このトルクで前記アクチュエータを壁面に押し付けた際の反力を力センサで計測した値も記録する第1の同定プロセスと、
前記第1の同定プロセスで記録された最大静止摩擦トルクに付加トルクを加えたものをモータトルク参照値として、前記アクチュエータを壁面に押し付けた際の反力を力センサで計測した反力計測値と、付加トルクとの関係を求める第2の同定プロセスを実行し、
前記第2の同定プロセスで求められた反力計測値と付加トルクの関係を、前記推力指令対付加トルクの変換関数に変換して設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の無人搬送車の制御装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
第1~第4のアクチュエータを一定速で各々上昇制御したときの、アクチュエータ駆動用のモータの角度を変数変換した各アクチュエータ出力軸の位置応答値が、アクチュエータ長さの指令値になるように制御してアクチュエータの力参照値を出力する位置制御器と、
前記アクチュエータの力参照値および前記アクチュエータ出力軸の位置応答値を入力とし、アクチュエータの荷重に比例した推定外乱を出力する外乱オブザーバと、
被制御体を第1~第4のアクチュエータによって一定速で上昇制御したときの各アクチュエータの出力軸についての外乱オブザーバの出力の和と、各アクチュエータの出力軸にかかる荷重の和との関係式を予め設定する事前プロセスを実行した後、荷重が未知である被制御体を第1~第4のアクチュエータにより一定速で上昇制御したときの各アクチュエータの出力軸についての外乱オブザーバの出力の和を、前記関係式に代入して荷重を推定する荷重推定器と、からなる荷重推定装置を備え、
前記荷重推定装置により推定された荷重に基づいて前記推力指令を決定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の無人搬送車の制御装置。
【請求項5】
前記外乱オブザーバの出力は(5)式で定義され、
【数5】
(ただし、Mはアクチュエータ慣性、Grはアクチュエータの力参照値を変数変換したアクチュエータ駆動用のモータのトルク参照値から推力の換算ゲイン、Grnはトルク参照値から推力の換算ゲインGrのノミナル値、F
d
ricは動摩擦、gは重力加速度、Wは荷重)
前記事前プロセスの実行により設定された関係式で表現される近似直線の傾きaを用いて、前記(5)式のトルク参照値から推力の換算ゲインGrをGr=Grn/aに同定することを特徴とする請求項4に記載の無人搬送車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば台車を下から持ち上げて搬送するリフトアップ式の無人搬送車(Automated Guided Vehicle;以下、AGVと称することもある)に係り、特に台車の車輪を接地させたまま搬送する接地搬送を可能にするリフタの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
AGVの接地搬送に関する手法として、従来、次のような技術が挙げられる。特許文献1および特許文献2では、空気圧アクチュエータを用いた圧力制御により接地搬送を実現している。特許文献3では、電動アクチュエータの高さの制御により接地搬送を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6641994号公報(特願2015-255945)
【文献】特許第6848651号公報(特願2017-87864)
【文献】特開2020-77295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2では、空気圧アクチュエータを用いており、メンテナンスの頻度が高い、高精度制御が難しい、騒音といった問題点がある。特許文献3では電動アクチュエータを用いて高さの制御をしているが、うねりのある不整地や傾斜がある場合では台車の車輪が浮くことがある。
【0005】
本発明では、うねりや傾斜に対応するため電動アクチュエータの力制御によるアプローチを考える。力制御としてまず力センサを用いたものが考えられるが、コストの点でセンサレスの方が望ましい。センサレスで高精度な力制御を実現しようとする場合、アクチュエータの摩擦が問題となる。反力のオブザーバによる推定値のみでは、反力と摩擦の切り分けが困難である。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、力センサレスで推力制御を行うことができる無人搬送車の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に記載の無人搬送車の制御装置は、
移動可能な走行体に搭載された基台と、
前記基台上の四隅に各々設置されたアクチュエータであり、出力軸が前記基台上における前記設置された面に対して垂直方向に運動自在に構成された第1~第4のアクチュエータと、
前記第1~第4のアクチュエータの各出力軸の先端部に対向して配設された被制御体と、
前記第1~第4のアクチュエータ駆動用のモータを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、推力指令対付加トルクの変換関数によって、推力指令から付加トルクに変換する推力-付加トルク変換部と、前記変換された付加トルクに最大静止摩擦トルクを加算してモータトルク参照値を出力する加算部とを有し、前記加算部の出力を、前記アクチュエータ駆動用のモータのモータトルク参照値とすることを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の無人搬送車の制御装置は、請求項1において、
前記コントローラは、正の方向の最大静止摩擦トルクを用いたモータトルク参照値によるリフタ上昇制御と、前記付加トルクおよび最大静止摩擦トルクを加算したモータトルク参照値による推力制御と、負の方向の最大静止摩擦トルクを用いたモータトルク参照値によるリフタ下降制御と、を行うことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の無人搬送車の制御装置は、請求項1又は2において、
前記推力-付加トルク変換部における推力指令対付加トルクの変換関数は、
前記モータトルク参照値をゼロから微小に上げていき、前記アクチュエータが動き出すときのモータトルク参照値を最大静止摩擦トルクとして記録し、このトルクで前記アクチュエータを壁面に押し付けた際の反力を力センサで計測した値も記録する第1の同定プロセスと、
前記第1の同定プロセスで記録された最大静止摩擦トルクに付加トルクを加えたものをモータトルク参照値として、前記アクチュエータを壁面に押し付けた際の反力を力センサで計測した反力計測値と、付加トルクとの関係を求める第2の同定プロセスを実行し、
前記第2の同定プロセスで求められた反力計測値と付加トルクの関係を、前記推力指令対付加トルクの変換関数に変換して設定されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の無人搬送車の制御装置は、請求項1から3のいずれか1項において、
前記コントローラは、
第1~第4のアクチュエータを一定速で各々上昇制御したときの、アクチュエータ駆動用のモータの角度を変数変換した各アクチュエータ出力軸の位置応答値が、アクチュエータ長さの指令値になるように制御してアクチュエータの力参照値を出力する位置制御器と、
前記アクチュエータの力参照値および前記アクチュエータ出力軸の位置応答値を入力とし、アクチュエータの荷重に比例した推定外乱を出力する外乱オブザーバと、
被制御体を第1~第4のアクチュエータによって一定速で上昇制御したときの各アクチュエータの出力軸についての外乱オブザーバの出力の和と、各アクチュエータの出力軸にかかる荷重の和との関係式を予め設定する事前プロセスを実行した後、荷重が未知である被制御体を第1~第4のアクチュエータにより一定速で上昇制御したときの各アクチュエータの出力軸についての外乱オブザーバの出力の和を、前記関係式に代入して荷重を推定する荷重推定器と、からなる荷重推定装置を備え、
前記荷重推定装置により推定された荷重に基づいて前記推力指令を決定することを特徴としている。
【0011】
請求項5に記載の無人搬送車の制御装置は、請求項4において、
前記外乱オブザーバの出力は(5)式で定義され、
【数5】
(ただし、Mはアクチュエータ慣性、Grはアクチュエータの力参照値を変数変換したアクチュエータ駆動用のモータのトルク参照値から推力の換算ゲイン、Grnはトルク参照値から推力の換算ゲインGrのノミナル値、F
d
ricは動摩擦、gは重力加速度、Wは荷重)
前記事前プロセスの実行により設定された関係式で表現される近似直線の傾きaを用いて、前記(5)式のトルク参照値から推力の換算ゲインGrをGr=Grn/aに同定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
(1)請求項1~5に記載の発明によれば、推力指令値を変えるだけで、力センサレスの推力制御、リフタ上昇と被制御体への接触、リフタ下降をそれぞれ達成することができる。被制御体が、車輪つきの台車である場合、推力制御により、台車の車輪を接地させたままの搬送が可能となる。第1~第4のアクチュエータの各軸の推力制御であるため、斜面やうねりがある場合でも路面に応じた走行が可能である。
(2)請求項3に記載の発明によれば、静止時の推力とモータのトルク参照値の関係を同定することができる。これを用いることで、力センサレスの推力制御を高い精度で実現することができる。実際の効率の同定、最大静止摩擦トルク時の推力の同定が可能になるため、より高精度な力制御が可能となる。
(3)請求項4に記載の発明によれば、力センサレスで荷重を推定することが可能となり、推力制御における推力指令の生成に応用することができる。
(4)請求項5に記載の発明によれば、力センサレスでモータのトルク参照値から推力の換算ゲインを同定することができる。換算ゲイン(=実際の効率)の同定が可能になるため、より高精度な力制御が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態例による装置の概要を示し、(a)は外観図、(b)は装置上面から俯瞰したアクチュエータの番号の説明図。
【
図2】本実施形態例による装置の、アクチュエータ出力軸と被制御体の接続例を示す説明図。
【
図4】本発明の実施例1におけるコントローラの構成図。
【
図5】本発明の実施例1における推力-付加トルク変換部の変換関数の説明図。
【
図7】本発明の実施例2における推力-付加トルク変換部の変換変数の説明図。
【
図8】本発明の実施例2における実験結果の、アクチュエータの反力計測値と付加トルクの関係性を示す説明図。
【
図9】本発明の実施例2における推力制御の実験結果の、リフタ平均位置と力センサ出力の合計を示す説明図。
【
図11】本発明の実施例3におけるコントローラの構成図。
【
図12】本発明の実施例3における外乱オブザーバ出力和と荷重和の関係を表す説明図。
【
図13】斜面進入時の応答を表し、(a)は高さ制御に基づく接地搬送の説明図、(b)は本発明の力制御に基づく接地搬送の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本発明の実施例1では、力センサレスで静止摩擦のみを考慮したフィードフォワード型の力制御の一例を記載する。実施例2では力センサを用いた事前同定を行い、より高精度なセンサレス力制御を実現する。実施例3では力制御の指令値生成に関連して、外乱オブザーバを用いた荷重推定法を記載する。
【実施例1】
【0015】
図1に、本発明の実施例によるリフタ装置(以下4軸リフタと称することもある)の概要を示す。
図1(a)において、無人搬送車(AGV:移動可能な走行体)10には基台20が搭載され、固定され、基台20上の四隅には、サーボモータを備えた第1~第4のアクチュエータ31~34の各固定子が固定されている。
【0016】
第1~第4のアクチュエータ31~34の各出力軸は、それぞれの垂直方向
(図1に示す通り、基台20上における第1~第4のアクチュエータ31~34が設置されている面に対して垂直方向)の運動の自由度を有しており、この垂直方向の運動は、アクチュエータの出力軸(図示a)を垂直方向に移動させるサーボモータの作用によって行われる。
【0017】
第1~第4アクチュエータ31~34の各出力軸の先端部には、該先端部によって支持されるように、被制御体を構成する天板40が配設されている。本発明の被制御体は、天板40に限らず、天板40上に搭載される荷物、かご台車、車輪付き台車等を含めて被制御体としている。
【0018】
天板40における各アクチュエータの位置関係を
図1(b)に示す。図中Actuator1~4は第1~第4のアクチュエータ31~34の位置を示し、x軸をAGVの走行方向としている。
【0019】
尚、本実施形態例のアクチュエータ31~34は、一例としてボールねじ機構を採用した。
【0020】
アクチュエータ31~34のうち、第1のアクチュエータ31の出力軸31aと天板40の接続例を
図2に示す。
図2において、出力軸31aの先端部には球面座ナット51-1が取り付けられている。
【0021】
球面座ナット51-1と天板40の間には球面座受52-1が配設されている。
【0022】
球面座ナット51-1、球面座受52-1、球面座受52-1の配設位置に対向する天板40の部位には、全ねじ(ねじ)53-1の一端が挿通され、球面座ナット51-1、球面座受52-1、天板40を接続している。
【0023】
前記、球面座ナット51-1、球面座受52-1に代えて球面ジョイントを用いてもよい。
【0024】
図2の接続構成により、天板40が傾く場合でもアクチュエータの出力軸と天板40が接することができ、天板の傾斜を機構的に許容することができる。
【0025】
また、全ねじ53-1によって天板40が崩れ落ちないようになっており、また全ねじ53-1の他端には袋ナット54-1(天板離脱防止具)が被せられており、これによって天板40が全ねじ53-1から外れることは防止される。
【0026】
第2~第4のアクチュエータ32~34についても
図2と同様の接続構成となる。
【0027】
実施例1のシステム全体の構成を
図3に示す。
図3において
図1と同一部分は同一符号をもって示している。
図3の太線は機械的な接続を示す。下から、AGV10、基台20、アクチュエータ駆動用のモータ100、アクチュエータ31~34、天板40、荷物50が接続されている。
【0028】
荷物50は天板40上に搭載されるものであるが、本実施形態例では、車輪付きの台車を想定している。モータ100とはモータドライバとモータ自体を合わせたものであり、アクチュエータ(31~34)とはボールねじやギヤなどの伝動機構である。
【0029】
コントローラ60はモータ100にトルク参照値を与える。実施例1では、コントローラ60はフィードバック信号を必要としない。
【0030】
コントローラ60の構成(実施例1)を
図4に示す。実施例1のコントローラ60では推力指令f
cmdを入力とし、推力-付加トルク変換部61において、推力指令対付加トルクの変換関数Gにより付加トルクτ
adを算出し、加算部62において最大静止摩擦トルクτ
sfと足し合わせてモータトルク参照値τ
refを算出する。これを各アクチュエータ単位で実装する。
【0031】
推力指令fcmdは予め計算した一定値とする(例えば、荷重の1以下の定数倍など)。最大静止摩擦トルクτsfも一定値とする。最大静止摩擦トルクτsfの値については、トルク参照値を微小に上げていきアクチュエータ(31~34)が動いた際のトルク参照値とする。
【0032】
なお、推力-付加トルク変換部61の中身は
図5のように推力指令に対する付加トルクの関数で表されることを想定している。今回は線形とする。事前同定をしない実施例1の場合は、ボールねじのリードあるいはギヤ比のカタログ値から
図5の直線の傾きを計算する。例えばボールねじの場合、「傾き=リード/(2π×効率)」として傾きが求まる。
【0033】
実施例1では最大静止摩擦トルク時の推力をゼロと仮定するが、実際はゼロではない。この点も考慮したより高精度な関数の同定法は実施例2で述べる。
【0034】
図4のモータトルク参照値τ
refは
図3のモータ100のブロック内のモータドライバへ入力される。モータドライバは、モータトルク参照値τ
refに基づいて電流を制御する。
【0035】
荷物50が車輪付きの台車である場合の接地搬送では、「リフタ上昇→一定推力を印加し接地搬送→リフタ下降」という流れになるが、各項目の詳細としては次のものを想定している。
【0036】
(1)リフタ上昇:押し付け力を必要としないリフトアップ動作では最大静止摩擦トルク(に微小トルクを加えたもの)をトルク参照値とし、リフタをゆっくり上昇させ台車に接触させる。
【0037】
(2)推力制御:接触後一定時間が経過した後、
図4のように「推力指令に該当する付加トルクτ
ad+最大静止摩擦トルクτ
sf」である加算部62の出力をトルク参照値τ
refとして与え、推力制御を行う。トルク参照値変更後、AGV10の車輪を駆動し搬送する。これにより接地搬送が実施される。
【0038】
(3)リフタ下降:接地搬送が終了しAGV10が停車した後、リフタ下降に移る。負の方向の最大静止摩擦トルク(に微小トルクを加えたもの)をトルク参照値として入力し、ゆっくりリフタを下降させる。今回の機械システムでは可動域の端が原点であるため、原点復帰が実現される。
【0039】
図4のように最大静止摩擦トルクτ
sfと付加トルクτ
adを分けた構成にすることにより、各アクチュエータ(31~34)の摩擦の個体差がある際もそれらに対応した推力制御を実現することができる。今回の制御系はフィードフォワード型の推力制御系である。
【0040】
前記(2)の推力制御による接地搬送時の斜面(うねり)進入時の応答を
図13に示す。
図13は、
図1(a)のAGV10上の天板40に搭載した車輪55a,55b付きの台車55を接地搬送している様子を表し、(a)は高さ(位置)制御に基づく接地搬送であり、片方の車輪55aが傾斜面91に進入したとき、他方の車輪55bが水平路面92から浮き上がってしまい、正常な接地搬送ができない。
【0041】
これに対して
図13(b)は、実施例1の力制御による接地搬送であるため、傾斜面91に進入して台車55が傾斜すればリフタもそれに倣って自然に傾斜するので、車輪55bが浮き上がることはなく正常な接地搬送が行える。
【0042】
このように本実施例によれば、斜面やうねりがある場合でも、路面に応じた走行が可能である。
【0043】
最大静止摩擦トルクの事前同定のもう一つのメリットとして、最大静止摩擦トルク(に微小トルクを加えたもの)をトルク参照値とすることで、リフタの上昇・下降が実現できる点が挙げられる。
【0044】
推力およびリフタ上昇・下降はすべてトルク制御で構成されるため、推力指令値を変えるだけでそれぞれ達成することができ、実装が簡便である。
【実施例2】
【0045】
実施例1では「推力-トルク変換」についてカタログ値等を用いて力センサレスで与えたが、実施例2では力センサを用いた「推力-トルク変換」の同定法について述べる。
【0046】
実施例2のシステム全体の構成を
図6に示す。
図6において
図1、
図3と同一部分は同一符号をもって示している。実施例2では、コントローラ70はモータ100にトルク参照値を与え、モータ100からのモータ回転角と力センサ110からの反力をフィードバックする。反力を計測する力センサ110は各アクチュエータ31~34の先端に設置する。荷物50(例えば台車55)を持ち上げる際は、力センサ110で全重量を支えるようにする。
【0047】
同定プロセスは次のように「最大静止摩擦トルク時の推力同定→反力-付加トルクの関係性同定」の順序で行う。
【0048】
(1)最大静止摩擦トルクとその推力の同定:トルク参照値をゼロから微小に上げていき、アクチュエータ(31~34)が動き出すトルク参照値を最大静止摩擦トルクとして記録し、このトルクで壁面を押し付けた際の反力計測値も記録する(第1の同定プロセス)。最大静止摩擦トルクの同定自体は実施例1のものと同様である。なおモータ回転角は、モータ100が動き出すタイミングを検出するために用いる。
【0049】
(2)反力-付加トルクの関係性同定:最大静止摩擦トルクに付加トルクを加えたものをトルク参照値として、壁面(または十分に重いかご台車)をアクチュエータ(31~34)で押す。このときの反力計測値を記録し、
図7(a)のように反力計測値f
resと付加トルクτ
adの関係性をプロットする(第2の同定プロセス)。
【0050】
図7(a)の関係は、
図7(b)に示す推力指令f
cmdと付加トルクτ
adの関係として変換することができる。
図7(b)で求められる関係性を推力指令対付加トルクの変換関数として、実施例1の
図5を差し替えた構成とする。
【0051】
すなわち、
図6のコントローラ70は
図4と同様の推力-付加トルク変換部61および加算部62を備え、推力-付加トルク変換部61の推力指令対付加トルクの変換関数として、前記第1、第2の同定プロセスで得られた
図7(b)の推力指令f
cmdと付加トルクτ
adの関係の変換関数が設定されるものである。
【0052】
実施例2では実施例1に比べ、最大静止摩擦トルクの際の推力値、および実際の効率が同定できるため、より高精度な推力制御が可能となる。前記(1)、(2)の同定を実験した結果の例を示す。
【0053】
まず前記(1)の最大静止摩擦トルクの同定結果として、4つのアクチュエータ(31~34)の各トルクが(0.013、 0.011、 0.012、 0.018)[Nm]であると得られた。次に前記(2)の同定において、付加トルクを追加したことにより、
図8(a)~(d)のようにアクチュエータの反力計測値(縦軸)と付加トルク(横軸)の関係性が得られた。
図8によればアクチュエータ個体差が見受けられる。
【0054】
この
図8の反力計測値と付加トルクの対応関係に基づいて、
図6のコントローラ70内の推力-付加トルク変換部61の推力指令対付加トルクの変換関数を設定し、推力制御の実験を行った。
【0055】
今回の実験では、上記の(1)リフタ上昇(開始後6秒まで)、(2)推力制御(6秒以降)の順で行った。まず最大静止摩擦に該当するトルク参照値(に微小トルクを加えたもの)を与え、台車へのリフトアップ動作・接触を行った。ゆっくりリフタを上昇させているので、衝撃の緩和に繋がる。動作後3秒程度で接触し一定時間経過後の6秒以降、(2)のように所望の推力となるようトルク参照値を増加させた。
【0056】
実験結果を
図9に示す。
図9の上段はリフタ各軸の高さの平均(COG height)、下段は力センサ(110)出力の各軸の合計(fres All)である。力センサ出力では5rad/sのローパスフィルタを入れている。
図9の0~6秒までの期間において、位置応答よりリフタ上昇が達成され、
図9の6~10秒の期間において、力応答より推力制御が達成されていることがわかる。推力指令は36kgfであり、力センサの応答もほぼ36kgfを示している。
【0057】
実施例2によれば、静止時の推力とトルク参照値の関係を同定することができる。これを用いることで、力センサレスの推力制御を高い精度で実現することができる。実施例1に比べて、実際の効率の同定、最大静止摩擦トルク時の推力の同定が可能になるため、より高精度な力制御が可能となる。
【実施例3】
【0058】
推力指令(
図4の推力-付加トルク変換部61に入力される推力指令f
cmd)は一定値とするが、荷重の定数倍などと荷重を考慮して決めることが多い。実施例3では、推力指令の選定に関連して、力センサレスでの荷重の推定を扱う。
【0059】
実施例3のシステム全体の構成を
図10に示す。
図10において
図1、
図6と同一部分は同一符号をもって示している。
図10のコントローラ80は、モータ100にトルク参照値を与え、モータ100からのモータ回転角をフィードバックするが、力センサは必要としない。
【0060】
コントローラ80は、
図4の推力-付加トルク変換部61と加算部62と、後述する
図11の荷重推定装置とを備え、荷重推定装置で推定された荷重に基づいて前記推力-付加トルク変換部61の入力である推力指令f
cmdを決定するものである。
【0061】
荷重推定は次のようなフローで構成される。(1)~(3)の事前プロセスと(4)、(5)の荷重推定プロセスから成る。
【0062】
<事前プロセス>
(1)各アクチュエータ軸に定速の位置制御を実装し、荷重を持ち上げる。定速時の外乱オブザーバの各軸の出力を記録する。ここでいう外乱オブザーバとは、位置とトルク参照値を入力とし、規範モデルは単慣性系とする標準的な外乱オブザーバを想定している。ただし、プラントが単慣性系でない場合など、プラントに合わせて規範モデルを変更してもよい。荷重推定装置の制御のブロック線図を
図11に示す。
【0063】
図11において、81は、
図10のモータ100からフィードバックされるモータの角度θ
resを変数変換してアクチュエータ長さX
res(アクチュエータ出力軸の位置応答値)を出力する変数変換部である。
【0064】
82は、第1~第4のアクチュエータを一定速で各々上昇制御したときの、各アクチュエータ出力軸の位置応答値Xresが、アクチュエータ長さの指令値Xcmdになるように制御してアクチュエータの力参照値Frefを出力する位置制御器である。
【0065】
83は、アクチュエータの力参照値Frefを変数変換してモータのトルク参照値τrefを出力する変数変換部である。
【0066】
84は、アクチュエータの力参照値Frefおよび各アクチュエータ出力軸の位置応答値Xresを入力とし、アクチュエータの荷重に比例した推定外乱(外乱推定値)F^disを出力する外乱オブザーバである。
【0067】
85は、外乱オブザーバ84の外乱推定値F^disを位置制御器82の出力に加算する加算器であるが、この加算器85はなくてもよい。
【0068】
86は、荷物50(台車などの被制御体)を第1~第4のアクチュエータによって一定速で上昇制御したときの各アクチュエータの出力軸についての外乱オブザーバ84の出力(F^dis)の和と、各アクチュエータの出力軸にかかる荷重の和との関係を用いて荷重推定値W^を求める荷重推定器である。
【0069】
この
図11のブロックでは各アクチュエータの出力軸にかかる荷重Wを推定している。
【0070】
(2)オブザーバ出力和と荷重和との関係を、複数パターンの荷重での実験を通してプロットする。ただし、オブザーバ出力和とは各アクチュエータの出力軸についての外乱オブザーバ84の出力の合計であり、荷重和とは各アクチュエータの出力軸にかかる荷重の合計である。
【0071】
(3)オブザーバ出力和-荷重和の関係式を導く(最小二乗法など)。
【0072】
<荷重推定プロセス>
(4)対象の未知荷重(荷重が未知である被制御体)を前記(1)と同じく定速の位置制御で持ち上げ、定速時の外乱オブザーバ84の出力和を記録する。
【0073】
(5)オブザーバ出力和-荷重和の関係式に(4)で得られた出力を代入し、推定荷重を導出する。
【0074】
アクチュエータの静止時の摩擦は同定が困難であるが、動摩擦、特に一定速で動く際は速度依存のクーロン摩擦が一定となるため同定が比較的容易である。実施例3の荷重推定はこの性質を利用したものである。アクチュエータの運動方程式は(1)式で表される。
【数1】
ここでMはアクチュエータ慣性、Grはトルク参照値τ
refから推力の換算ゲイン、F
d
ricは動摩擦、gは重力加速度、Wは荷重である。このとき外乱オブザーバ84の出力F^
disは(2)式で表される。
【数2】
ΔGr=Gr-Grnは換算ゲインのノミナル誤差である。トルク参照値τ
refは(1)式における定速でのつり合いの式から(3)式として導出され、(3)式を(2)式に代入して整理すると外乱オブザーバ84の出力は(4)式で表すことができる。
【数3】
【数4】
Grnはトルク参照値から推力の換算ゲインGrのノミナル値である。
【0075】
(4)式より、外乱オブザーバ84の出力F^disおよびトルク参照値τrefは荷重に比例することがわかる。
【0076】
前記荷重推定フローの実験結果の例を次に示す。事前プロセスの(1)、(2)に関して、天板40の荷重(台車)を0~40Kgで変えた場合の外乱オブザーバ出力和の時系列応答を
図12(a)に示す。
図12(a)において、一定速で持ち上げている際(6~10sの期間)は、オブザーバ出力和が一定となり天板40の荷重に応じて変化しているのがわかる。
【0077】
事前プロセスの(3)として、オブザーバ出力和が一定で安定している8~10sの期間の平均をとり、天板の荷重との関係性をプロットしたものが
図12(b)である。ここで得られた近似直線が
図11の荷重推定器86の中身となる。
【0078】
荷重推定プロセスの(4)では未知荷重を定速の位置制御で持ち上げ、外乱オブザーバ84の出力和を記録する。
【0079】
荷重推定プロセスの(5)では、記録した出力和を
図12(b)に照らし合わせ、対応する荷重を導出する。
【0080】
図12(b)の近似直線(y=ax+b)のyは外乱オブザーバの出力和、aは傾き、xは荷重であるので、例えば外乱オブザーバの出力和がy(N)であれば荷重和は(y-b)/a(kg)であると推定できる。
【0081】
このように
図11の荷重推定器86で推定された荷重推定値(W^)を考慮して
図4の推力指令f
cmdを決定する。
【0082】
以上のように実施例3によれば、力センサレスで荷重が推定でき、推力制御における推力指令の生成に応用することができる。
【実施例4】
【0083】
本実施例4のシステム構成、コントローラ構成は実施例3と同様に
図10、
図11とする。実施例4では、外乱オブザーバの出力和を表す次の(4)式
【数4】
を活用して、次のようにトルク参照値から推力の換算ゲインを同定する。
【0084】
(1)実施例3の事前プロセス(1)~(3)を行い、
図12(b)の近似直線の傾きaを求める。
【0085】
(2)トルク参照値τrefから推力の換算ゲインをGr=Grn/aとして変更する。
【0086】
(4)式を変形すると(5)式のように、外乱オブザーバの出力F^
disは荷重Wの一次関数として表すことができる。
【数5】
これは、
図12(b)の近似直線y=ax+bに対応する(xは荷重、yは外乱オブザーバ出力)。一次の係数比較より(6)式が成り立つ。
【数6】
この関係を用いて、トルク参照値から推力の換算ゲインを求めることができる。
【0087】
実施例4によれば、トルク参照値から推力の換算ゲイン(=実際の効率)の同定が可能になるため、より高精度な力制御が実現される。
【符号の説明】
【0088】
10…AGV
20…基台
31~34…アクチュエータ
40…天板
50…荷物
55…台車
55a,55b…車輪
60,70,80…コントローラ
61…推力-付加トルク変換部
62…加算部
81,83…変数変換部
82…位置制御器
84…外乱オブザーバ
86…荷重推定器
100…モータ
110…力センサ