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特許7600901計測方法、計測装置、計測システム及び計測プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】計測方法、計測装置、計測システム及び計測プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20241210BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021108745
(22)【出願日】2021-06-30
(65)【公開番号】P2023006238
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】小林 祥宏
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-204952(JP,A)
【文献】特開2017-120208(JP,A)
【文献】特開2017-003556(JP,A)
【文献】特開2015-145577(JP,A)
【文献】特開2018-031189(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0316426(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111521247(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
G01H 1/00-17/00
G01M13/00-13/045
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の観測点を観測する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記構造物を移動する移動体の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量に基づく第1の測定データを生成する第1測定データ生成工程と、
前記第1の測定データをフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データを生成する第2測定データ生成工程と、
前記移動体の前記構造物に対する進入時刻及び進出時刻を含む観測情報を生成する観測情報生成工程と、
前記観測情報と、予め作成された前記移動体の寸法及び前記構造物の寸法を含む環境情報とに基づいて、前記移動体の平均速度を算出する平均速度算出工程と、
前記構造物のたわみの近似式と、前記観測情報と、前記環境情報と、前記平均速度とに基づいて、前記移動体による前記構造物の第1のたわみ量を算出する第1たわみ量算出工程と、
前記第1のたわみ量をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量を算出する第2たわみ量算出工程と、
前記第2の測定データを前記第2のたわみ量の1次関数で近似し、前記1次関数の1次係数及び0次係数を算出する係数算出工程と、
前記1次係数及び前記0次係数と、前記第2のたわみ量とに基づいて、第3のたわみ量を算出する第3たわみ量算出工程と、
前記0次係数と、前記第2のたわみ量と、前記第3のたわみ量とに基づいて、オフセットを算出するオフセット算出工程と、
前記1次係数と前記第1のたわみ量との積と、前記オフセットとを加算して、静的応答を算出する静的応答算出工程と、
前記第1の測定データから前記静的応答を減算して、第1の動的応答を算出する第1動的応答算出工程と、
前記第1の動的応答から不要な信号を減衰させるフィルター処理を行って第2の動的応答を算出する第2動的応答算出工程と、
前記第2の動的応答の包絡線振幅を算出する包絡線振幅算出工程と、
前記包絡線振幅に基づいて、前記第2の動的応答に含まれる振動成分の減衰率を算出する減衰率算出工程と、
を含む、計測方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記減衰率算出工程では、
前記第2の動的応答に含まれる前記振動成分が減衰する区間の少なくとも一部の第1区間において前記包絡線振幅を指数関数で近似して前記指数関数の冪の係数を算出し、前記冪の係数を前記第2の動的応答の固有振動数で除算して前記減衰率を算出する、計測方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記進出時刻は、前記移動体の前記複数の部位のうちの最後尾の部位が前記構造物の進出端を通過した時刻であり、
前記第1区間の開始時刻は、前記進出時刻以降である、計測方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項において、
前記第1の動的応答から不要な信号を減衰させる前記フィルター処理は、前記第1の動的応答に含まれる基本周波数の振動成分の高調波成分を減衰させるとともに、前記基本周波数における利得を補正するローパスフィルター処理を含む、計測方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記第1の動的応答から不要な信号を減衰させる前記フィルター処理は、前記基本周波数よりも低い周波数の信号成分を減衰させるハイパスフィルター処理を含む、計測方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項において、
前記包絡線振幅算出工程では、
前記第2の動的応答の絶対値をローパスフィルター処理し、かつ、π/2を乗算して、前記包絡線振幅を算出する、計測方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項において、
前記構造物は、橋梁の上部構造である、計測方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項において、
前記移動体は、車両又は鉄道車両であり、
前記複数の部位のそれぞれは車軸又は車輪である、計測方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項において、
前記構造物のたわみの近似式は、前記構造物の構造モデルに基づく式である、計測方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記構造モデルは、両端を支持した単純梁である、計測方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項において、
前記観測装置は、加速度センサー、衝撃センサー、感圧センサー、歪計、画像測定装置、ロードセル又は変位計である、計測方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項において、
前記構造物は、BWIM(Bridge Weigh in Motion)が機能する構造である、計測方法。
【請求項13】
構造物の観測点を観測する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記構造物を移動する移動体の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量に基づく第1の測定データを生成する第1測定データ生成部と、
前記第1の測定データをフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データを生成する第2測定データ生成部と、
前記移動体の前記構造物に対する進入時刻及び進出時刻を含む観測情報を生成する観測情報生成部と、
前記観測情報と、予め作成された前記移動体の寸法及び前記構造物の寸法を含む環境情報とに基づいて、前記移動体の平均速度を算出する平均速度算出部と、
前記構造物のたわみの近似式と、前記観測情報と、前記環境情報と、前記平均速度とに基づいて、前記移動体による前記構造物の第1のたわみ量を算出する第1たわみ量算出部と、
前記第1のたわみ量をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量を算出する第2たわみ量算出部と、
前記第2の測定データを前記第2のたわみ量の1次関数で近似し、前記1次関数の1次係数及び0次係数を算出する係数算出部と、
前記1次係数及び前記0次係数と、前記第2のたわみ量とに基づいて、第3のたわみ量を算出する第3たわみ量算出部と、
前記0次係数と、前記第2のたわみ量と、前記第3のたわみ量とに基づいて、オフセットを算出するオフセット算出部と、
前記1次係数と前記第1のたわみ量との積と、前記オフセットとを加算して、静的応答を算出する静的応答算出部と、
前記第1の測定データから前記静的応答を減算して、第1の動的応答を算出する第1動的応答算出部と、
前記第1の動的応答から不要な信号を減衰させるフィルター処理を行って第2の動的応答を算出する第2動的応答算出部と、
前記第2の動的応答の包絡線振幅を算出する包絡線振幅算出部と、
前記包絡線振幅に基づいて、前記第2の動的応答に含まれる振動成分の減衰率を算出する減衰率算出部と、
を含む、計測装置。
【請求項14】
請求項13に記載の計測装置と、
前記観測装置と、
を備えた、計測システム。
【請求項15】
構造物の観測点を観測する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記構造物を移動する移動体の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量に基づく第1の測定データを生成する第1測定データ生成工程と、
前記第1の測定データをフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データを生成する第2測定データ生成工程と、
前記移動体の前記構造物に対する進入時刻及び進出時刻を含む観測情報を生成する観測情報生成工程と、
前記観測情報と、予め作成された前記移動体の寸法及び前記構造物の寸法を含む環境情報とに基づいて、前記移動体の平均速度を算出する平均速度算出工程と、
前記構造物のたわみの近似式と、前記観測情報と、前記環境情報と、前記平均速度とに基づいて、前記移動体による前記構造物の第1のたわみ量を算出する第1たわみ量算出工程と、
前記第1のたわみ量をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量を算出する第2たわみ量算出工程と、
前記第2の測定データを前記第2のたわみ量の1次関数で近似し、前記1次関数の1次係数及び0次係数を算出する係数算出工程と、
前記1次係数及び前記0次係数と、前記第2のたわみ量とに基づいて、第3のたわみ量を算出する第3たわみ量算出工程と、
前記0次係数と、前記第2のたわみ量と、前記第3のたわみ量とに基づいて、オフセットを算出するオフセット算出工程と、
前記1次係数と前記第1のたわみ量との積と、前記オフセットとを加算して、静的応答を算出する静的応答算出工程と、
前記第1の測定データから前記静的応答を減算して、第1の動的応答を算出する第1動的応答算出工程と、
前記第1の動的応答から不要な信号を減衰させるフィルター処理を行って第2の動的応答を算出する第2動的応答算出工程と、
前記第2の動的応答の包絡線振幅を算出する包絡線振幅算出工程と、
前記包絡線振幅に基づいて、前記第2の動的応答に含まれる振動成分の減衰率を算出する減衰率算出工程と、をコンピューターに実行させる、計測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測方法、計測装置、計測システム及び計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、列車の先頭車両と最後尾車両にそれぞれ上下加速度を計測する加速度計を設け、走行時の先頭車両と最後尾車両の上下加速度を計測し、橋梁通過時の加速度計の計測データを抽出し、最後尾車両の加速度計で計測した上下加速度の特徴量を、先頭車両で計測した上下加速度の特徴量で除して加速度増幅率を算出し、予め求めた橋梁の衝撃係数と加速度増幅係数の関係式に加速度増幅係数を当てはめて橋梁の衝撃係数(動的応答成分)を算出する鉄道橋の動的応答評価方法が記載されている。この動的応答評価方法では、先頭車両の通過時には橋梁に動的応答がほとんど発生せず、最後尾車両の通過時には橋梁に静的応答と動的応答が発生することに着目し、列車の先頭車両と最後尾車両にそれぞれ設けた加速度計が計測する上下加速度に基づいて、簡易に且つ網羅的に橋梁の衝撃係数(動的応答成分)を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-20172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の動的応答評価方法では、最後尾車両の加速度計で計測した上下加速度の特徴量を先頭車両で計測した上下加速度の特徴量で除した加速度増幅率は静的応答と動的応答とを十分に分離することができない、橋梁の衝撃係数と加速度増幅係数の関係式の精度が十分でない、上下加速度の計測箇所や車両振動に起因する誤差が存在する等の要因により、動的応答の算出精度が十分ではない。したがって、特許文献1に記載の動的応答評価方法では、動的応答の減衰率を精度良く算出することが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る計測方法の一態様は、
構造物の観測点を観測する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記構造物を移動する移動体の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量に基づく第1の測定データを生成する第1測定データ生成工程と、
前記第1の測定データをフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データを生成する第2測定データ生成工程と、
前記移動体の前記構造物に対する進入時刻及び進出時刻を含む観測情報を生成する観測情報生成工程と、
前記観測情報と、予め作成された前記移動体の寸法及び前記構造物の寸法を含む環境情報とに基づいて、前記移動体の平均速度を算出する平均速度算出工程と、
前記構造物のたわみの近似式と、前記観測情報と、前記環境情報と、前記平均速度とに基づいて、前記移動体による前記構造物の第1のたわみ量を算出する第1たわみ量算出工程と、
前記第1のたわみ量をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量を算出する第2たわみ量算出工程と、
前記第2の測定データを前記第2のたわみ量の1次関数で近似し、前記1次関数の1次係数及び0次係数を算出する係数算出工程と、
前記1次係数及び前記0次係数と、前記第2のたわみ量とに基づいて、第3のたわみ量を算出する第3たわみ量算出工程と、
前記0次係数と、前記第2のたわみ量と、前記第3のたわみ量とに基づいて、オフセットを算出するオフセット算出工程と、
前記1次係数と前記第1のたわみ量との積と、前記オフセットとを加算して、静的応答を算出する静的応答算出工程と、
前記第1の測定データから前記静的応答を減算して、第1の動的応答を算出する第1動的応答算出工程と、
前記第1の動的応答から不要な信号を減衰させるフィルター処理を行って第2の動的応答を算出する第2動的応答算出工程と、
前記第2の動的応答の包絡線振幅を算出する包絡線振幅算出工程と、
前記包絡線振幅に基づいて、前記第2の動的応答に含まれる振動成分の減衰率を算出する減衰率算出工程と、
を含む。
【0006】
本発明に係る計測装置の一態様は、
構造物の観測点を観測する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記構造物を移動する移動体の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量に基づく第1の測定データを生成する第1測定データ生成部と、
前記第1の測定データをフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データを生成する第2測定データ生成部と、
前記移動体の前記構造物に対する進入時刻及び進出時刻を含む観測情報を生成する観測情報生成部と、
前記観測情報と、予め作成された前記移動体の寸法及び前記構造物の寸法を含む環境情報とに基づいて、前記移動体の平均速度を算出する平均速度算出部と、
前記構造物のたわみの近似式と、前記観測情報と、前記環境情報と、前記平均速度とに基づいて、前記移動体による前記構造物の第1のたわみ量を算出する第1たわみ量算出部と、
前記第1のたわみ量をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量を算出する第2たわみ量算出部と、
前記第2の測定データを前記第2のたわみ量の1次関数で近似し、前記1次関数の1次係数及び0次係数を算出する係数算出部と、
前記1次係数及び前記0次係数と、前記第2のたわみ量とに基づいて、第3のたわみ量を算出する第3たわみ量算出部と、
前記0次係数と、前記第2のたわみ量と、前記第3のたわみ量とに基づいて、オフセットを算出するオフセット算出部と、
前記1次係数と前記第1のたわみ量との積と、前記オフセットとを加算して、静的応答を算出する静的応答算出部と、
前記第1の測定データから前記静的応答を減算して、第1の動的応答を算出する第1動的応答算出部と、
前記第1の動的応答から不要な信号を減衰させるフィルター処理を行って第2の動的応答を算出する第2動的応答算出部と、
前記第2の動的応答の包絡線振幅を算出する包絡線振幅算出部と、
前記包絡線振幅に基づいて、前記第2の動的応答に含まれる振動成分の減衰率を算出する減衰率算出部と、
を含む。
【0007】
本発明に係る計測システムの一態様は、
前記計測装置の一態様と、
前記観測装置と、
を備える。
【0008】
本発明に係る計測プログラムの一態様は、
構造物の観測点を観測する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記構造物を移動する移動体の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量に基づく第1の測定データを生成する第1測定データ生成工程と、
前記第1の測定データをフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データを生成する第2測定データ生成工程と、
前記移動体の前記構造物に対する進入時刻及び進出時刻を含む観測情報を生成する観測情報生成工程と、
前記観測情報と、予め作成された前記移動体の寸法及び前記構造物の寸法を含む環境情報とに基づいて、前記移動体の平均速度を算出する平均速度算出工程と、
前記構造物のたわみの近似式と、前記観測情報と、前記環境情報と、前記平均速度とに基づいて、前記移動体による前記構造物の第1のたわみ量を算出する第1たわみ量算出工程と、
前記第1のたわみ量をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量を算出する第2たわみ量算出工程と、
前記第2の測定データを前記第2のたわみ量の1次関数で近似し、前記1次関数の1次係数及び0次係数を算出する係数算出工程と、
前記1次係数及び前記0次係数と、前記第2のたわみ量とに基づいて、第3のたわみ量を算出する第3たわみ量算出工程と、
前記0次係数と、前記第2のたわみ量と、前記第3のたわみ量とに基づいて、オフセットを算出するオフセット算出工程と、
前記1次係数と前記第1のたわみ量との積と、前記オフセットとを加算して、静的応答を算出する静的応答算出工程と、
前記第1の測定データから前記静的応答を減算して、第1の動的応答を算出する第1動的応答算出工程と、
前記第1の動的応答から不要な信号を減衰させるフィルター処理を行って第2の動的応答を算出する第2動的応答算出工程と、
前記第2の動的応答の包絡線振幅を算出する包絡線振幅算出工程と、
前記包絡線振幅に基づいて、前記第2の動的応答に含まれる振動成分の減衰率を算出する減衰率算出工程と、をコンピューターに実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】計測システムの構成例を示す図。
図2図1の上部構造をA-A線で切断した断面図。
図3】加速度センサーが検出する加速度の説明図。
図4】測定データu(t)の一例を示す図。
図5】測定データu(t)のパワースペクトラム密度を示す図。
図6】測定データulp(t)の一例を示す図。
図7】測定データulp(t)と進入時刻t及び進出時刻tとの関係の一例を示す図。
図8】車両の長さL(C)及び車軸間の距離La(a(C,n))の一例を示す図。
図9】橋梁の上部構造の構造モデルの説明図。
図10】たわみ量wstd(a(C,n),t)の一例を示す図。
図11】たわみ量Cstd(C,t)の一例を示す図。
図12】たわみ量Tstd(t)の一例を示す図。
図13】たわみ量Tstd_lp(t)の一例を示す図。
図14】測定データulp(t)とたわみ量Tstd_lp(t)とを重ねて示す図。
図15】たわみ量TEstd_lp(t)の一例を示す図。
図16】たわみ量TEstd(t)の一例を示す図。
図17】たわみ量TEstd_lp(t)及びたわみ量Tstd_lp(t)とそれらの平均値を算出する所定区間Tavgとの関係の一例を示す図。
図18】オフセットToffset_std(t)の一例を示す図。
図19】たわみ量TEOstd(t)の一例を示す図。
図20】測定データu(t)とたわみ量TEOstd(t)との関係を示す図。
図21】固有振動unv(t)の一例を示す図。
図22】固有振動unv(t)のパワースペクトラム密度を示す図。
図23】ハイパスフィルターの周波数特性を示す図。
図24】固有振動unv_hp(t)の一例を示す図。
図25】移動平均フィルターの伝達特性を示す図。
図26】固有振動unv_3lp(t)の一例を示す図。
図27】包絡線振幅unv_mag(t)の一例を示す図。
図28】包絡線振幅unv_mag(t)の対数y(t)及び第1区間Tの一例を示す図。
図29】減衰振動uenv(t)と固有振動unv_3lp(t)とを重ねて示す図。
図30】本実施形態の計測方法の手順の一例を示すフローチャート図。
図31】第1測定データ生成工程の手順の一例を示すフローチャート図。
図32】第2測定データ生成工程の手順の一例を示すフローチャート図。
図33】観測情報生成工程の手順の一例を示すフローチャート図。
図34】平均速度算出工程の手順の一例を示すフローチャート図。
図35】第1たわみ量算出工程の手順の一例を示すフローチャート図。
図36】第2たわみ量算出工程の手順の一例を示すフローチャート図。
図37】オフセット算出工程の手順の一例を示すフローチャート図。
図38】第2動的応答算出工程の手順の一例を示すフローチャート図。
図39】減衰率算出工程の手順の一例を示すフローチャート図。
図40】センサー、計測装置及び監視装置の構成例を示す図。
図41】計測システムの他の構成例を示す図。
図42】計測システムの他の構成例を示す図。
図43】計測システムの他の構成例を示す図。
図44図43の上部構造をA-A線で切断した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0011】
1.計測システムの構成
本実施形態に係る構造物である橋梁の上部構造を通過する移動体は、重量が大きく、BWIMで計測可能な車両又は鉄道車両等である。BWIMは、Bridge Weigh in Motionの略であり、橋梁を「はかり」に見立て、橋梁の変形を計測することにより、橋梁を通過する移動体の重量、軸数などを測定する技術である。変形やひずみなどの応答から通過する移動体の重量を解析可能な橋梁の上部構造は、BWIMが機能する構造であり、橋梁の上部構造への作用と応答の間の物理的なプロセスを応用するBWIMシステムが通行する移動体の重量の計測を可能にする。以下では、移動体が鉄道車両である場合を例に挙げ、本実施形態の計測方法を実現するための計測システムについて説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る計測システムの一例を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る計測システム10は、計測装置1と、橋梁5の上部構造7に設けられる少なくとも1つのセンサー2と、を備えている。また、計測システム10は、監視装置3を備えていてもよい。
【0013】
橋梁5は上部構造7と下部構造8からなる。図2は、上部構造7を図1のA-A線で切断した断面図である。図1及び図2に示すように、上部構造7は、床板F、主桁G、不図示の横桁等からなる橋床7aと、支承7bと、レール7cと、枕木7dと、バラスト7eと、を含む。また、図1に示すように、下部構造8は、橋脚8aと、橋台8bと、を含む。上部構造7は、隣り合う橋台8bと橋脚8a、隣り合う2つの橋台8b、又は、隣り合う2つの橋脚8aのいずれか1つに渡された構造である。上部構造7の両端部は、隣り合う橋台8bと橋脚8aの位置、隣り合う2つの橋台8bの位置、又は、隣り合う2つの橋脚8aの位置にある。
【0014】
鉄道車両6が上部構造7に進入すると、鉄道車両6の荷重によって上部構造7が撓むが、鉄道車両6は複数の車両が連結されているので、各車両の通過に伴って上部構造7の撓みが周期的に繰り返されるという現象が起きる。この現象は静的応答と呼ばれている。これに対して、上部構造7は構造物としての固有振動周波数を有しているため、鉄道車両6が上部構造7を通過することにより上部構造7の固有振動が励振される場合がある。上部構造7の固有振動が励振されることにより、上部構造7の撓みが周期的に繰り返されるという現象が起きる。この現象は動的応答と呼ばれている。
【0015】
計測装置1と各センサー2とは、例えば、不図示のケーブルで接続され、CAN等の通信ネットワークを介して通信を行う。CANは、Controller Area Networkの略である。あるいは、計測装置1と各センサー2とは、無線ネットワークを介して通信を行ってもよい。
【0016】
各センサー2は、移動体である鉄道車両6が構造物である上部構造7を移動したときの動的応答の減衰率を算出するために用いられるデータを出力する。本実施形態では、各センサー2は加速度センサーであり、例えば、水晶加速度センサーであってもよいし、MEMS加速度センサーであってもよい。MEMSは、Micro Electro Mechanical Systemsの略である。
【0017】
本実施形態では、各センサー2は上部構造7の長手方向の中央部、具体的には、主桁Gの長手方向の中央部に設置されている。ただし、各センサー2は、動的応答の減衰率を算出するための加速度を検出することができればよく、その設置位置は上部構造7の中央部に限定されない。なお、各センサー2を上部構造7の床板Fに設けると、鉄道車両6の走行によって破壊するおそれがあり、また橋床7aの局部的な変形により測定精度が影響を受けるおそれがあるため、図1及び図2の例では、各センサー2は上部構造7の主桁Gに設けられている。
【0018】
上部構造7の床板Fや主桁G等は、上部構造7を通過する鉄道車両6による荷重によって、垂直方向に撓む。各センサー2は、上部構造7を通過する鉄道車両6の荷重による床板Fや主桁Gの撓みの加速度を検出する。
【0019】
計測装置1は、各センサー2から出力される加速度データに基づいて、鉄道車両6が上部構造7を通過したときの動的応答の減衰率を算出する。計測装置1は、例えば、橋台8bに設置される。
【0020】
計測装置1と監視装置3とは、例えば、携帯電話の無線ネットワーク及びインターネット等の通信ネットワーク4を介して、通信を行うことができる。計測装置1は、鉄道車両6が上部構造7を通過したときの動的応答の減衰率を含む計測データを監視装置3に送信する。監視装置3は、当該情報を不図示の記憶装置に記憶し、例えば、当該情報に基づいて鉄道車両6の監視や上部構造7の異常判定等の処理を行ってもよい。
【0021】
なお、本実施形態では、橋梁5は、鉄道橋であり、例えば、鋼橋や桁橋、RC橋等である。RCは、Reinforced-Concreteの略である。
【0022】
図2に示すように、本実施形態では、センサー2に対応付けて観測点Rが設定されている。図2の例では、観測点Rは、主桁Gに設けられたセンサー2の鉛直上方向にある上部構造7の表面の位置に設定されている。すなわち、センサー2は、観測点Rを観測する観測装置であり、構造物である上部構造7を移動する鉄道車両6の複数の部位の観測点Rへの作用に対する応答である物理量を検出し、検出した物理量を含むデータを出力する。例えば、鉄道車両6の複数の部位のそれぞれは車軸又は車輪であるが、以降では車軸であるものとする。また、本実施形態では、各センサー2は加速度センサーであり、物理量として加速度を検出する。センサー2は、鉄道車両6の走行により観測点Rに生じる加速度を検出可能な位置に設けられていればよいが、観測点Rの鉛直上に近い位置に設けられることが望ましい。
【0023】
なお、センサー2の数及び設置位置は、図1及び図2に示した例には限定されず種々の変形実施が可能である。
【0024】
計測装置1は、センサー2から出力される加速度データに基づいて、鉄道車両6が移動する上部構造7の面と交差する方向の加速度を取得する。鉄道車両6が移動する上部構造7の面は、鉄道車両6が移動する方向、すなわち上部構造7の長手方向であるX方向と、鉄道車両6が移動する方向と直交する方向、すなわち上部構造7の幅方向であるY方向とによって規定される。鉄道車両6の走行によって、観測点Rは、X方向及びY方向と直交する方向に撓むので、計測装置1は、撓みの加速度の大きさを正確に算出するために、X方向及びY方向と直交する方向、すなわち、床板Fの法線方向であるZ方向の加速度を取得するのが望ましい。
【0025】
図3は、センサー2が検出する加速度を説明する図である。センサー2は、互いに直交する3軸の各軸方向に生じる加速度を検出する加速度センサーである。
【0026】
鉄道車両6の走行による観測点Rの撓みの加速度を検出するために、センサー2は、3つの検出軸であるx軸、y軸、z軸のうち、1軸がX方向及びY方向と交差する方向となるように設置される。図1及び図2では、センサー2は、1軸がX方向及びY方向と交差する方向となるように設置される。観測点Rは、X方向及びY方向と直交する方向に撓むので、撓みの加速度を正確に検出するために、理想的には、センサー2は、1軸をX方向及びY方向と直交するZ方向、すなわち、床板Fの法線方向に合わせて設置される。
【0027】
ただし、センサー2を上部構造7に設置する場合、設置場所が傾いている場合もある。計測装置1は、センサー2の3つの検出軸の1軸が、床板Fの法線方向に合わせて設置されなくても、概ね法線方向に向いていることで誤差は小さく無視できる。また、計測装置1は、センサー2の3つの検出軸の1軸が、床板Fの法線方向に合わせて設置されなくても、x軸、y軸、z軸の加速度を合成した3軸合成加速度によって、センサー2の傾斜による検出誤差の補正を行うことができる。また、センサー2は、少なくとも鉛直方向にほぼ平行な方向に生ずる加速度、あるいは、床板Fの法線方向の加速度を検出する1軸加速度センサーであってもよい。
【0028】
以下、計測装置1が実行する本実施形態の計測方法の詳細について説明する。
【0029】
2.計測方法の詳細
まず、計測装置1は、式(1)のように、加速度センサーであるセンサー2から出力される加速度データa(k)を積分して速度データv(k)を生成し、さらに、式(2)のように、速度データv(k)を積分して測定データu(k)を生成する。加速度データa(k)は、鉄道車両6が橋梁5を通過した時の変位変化を算出するために不要な加速度バイアスを除いた加速度変化のデータである。例えば、鉄道車両6が橋梁5を通過する直前の加速度を0として、以降の加速度変化を加速度データa(k)としても良い。式(1)及び式(2)において、kはサンプル番号であり、ΔTはサンプルの時間間隔である。測定データu(k)は、鉄道車両6の走行による観測点Rの変位のデータである。
【0030】
【数1】
【0031】
【数2】
【0032】
サンプル番号kを変数とする測定データu(k)は、時刻t=kΔTとして、時刻tを変数とする測定データu(t)に変換される。図4に、測定データu(t)の一例を示す。測定データu(t)は、観測点Rを観測するセンサー2から出力される加速度データa(t)に基づいて生成されるので、上部構造7を移動する鉄道車両6の複数の車軸の観測点Rへの作用に対する応答である加速度に基づくデータである。
【0033】
次に、計測装置1は、測定データu(t)に含まれる基本周波数Fの振動成分及びその高調波を低減させるために、測定データu(t)をフィルター処理した測定データulp(t)を生成する。フィルター処理は、例えば、ローパスフィルター処理であってもよいし、バンドパスフィルター処理であってもよい。
【0034】
具体的には、まず、計測装置1は、測定データu(t)を高速フーリエ変換処理してパワースペクトラム密度を算出し、パワースペクトラム密度のピークを基本周波数Fとして算出する。図5に、図4の測定データu(t)を高速フーリエ変換処理して得られたパワースペクトラム密度を示す。図5の例では、基本周波数Fは約3Hzとして算出される。そして、計測装置1は、式(3)により、基本周波数Fから基本周期Tを算出し、式(4)のように、基本周期TをΔTで除してデータの時間分解能に調整した移動平均区間kmfを算出する。基本周期Tは、基本周波数Fに対応する周期であり、T>2ΔTである。
【0035】
【数3】
【0036】
【数4】
【0037】
そして、計測装置1は、フィルター処理として、式(5)により、基本周期Tで測定データu(t)を移動平均処理して、測定データu(t)に含まれる振動成分を低減させた測定データulp(t)を生成する。この移動平均処理は、必要な計算量が小さいだけでなく、基本周波数Fの信号成分及びその高調波成分の減衰量が非常に大きいので振動成分が効果的に低減された測定データulp(t)が得られる。図6に、測定データulp(t)の一例を示す。図6に示すように、測定データu(t)に含まれる振動成分がほとんど除かれた測定データulp(t)が得られる。
【0038】
【数5】
【0039】
なお、計測装置1は、フィルター処理として、測定データu(t)に対して基本周波数F以上の周波数の信号成分を減衰させるFIRフィルター処理を行って測定データulp(t)を生成してもよい。FIRは、Finite Impulse Responseの略である。このFIRフィルター処理は、移動平均処理よりも計算量が大きいが、基本周波数F以上の周波数の信号成分をすべて減衰させることができる。
【0040】
次に、計測装置1は、測定データulp(t)の振幅が、予め定められた係数Cと測定データulp(t)から算出される振幅uとの積である閾値Cと一致し、又は、閾値Cを超える2つの時刻を、鉄道車両6の上部構造7に対する進入時刻t及び進出時刻tとして算出する。但し、0<C<1とし、振幅uは、例えば、測定データulp(t)の振幅がシフトしている時刻tから時刻tまでの区間の平均値とし、式(6)によって算出される。
【0041】
【数6】
【0042】
進入時刻tは、鉄道車両6の複数の車軸のうちの先頭の車軸が上部構造7の進入端を通過した時刻である。また、進出時刻tは、鉄道車両6の複数の車軸のうちの最後尾の車軸が上部構造7の進出端を通過した時刻である。図7に、測定データulp(t)と進入時刻t及び進出時刻tとの関係の一例を示す。
【0043】
次に、計測装置1は、式(7)により、進出時刻tと進入時刻tとの差として、鉄道車両6が橋梁5の上部構造7を通過する通過時間tを算出する。
【0044】
【数7】
【0045】
また、計測装置1は、式(8)により、鉄道車両6の車両数Cとして、通過時間tと基本周波数Fとの積から1を減算した数以下の最大の整数を算出する。
【0046】
【数8】
【0047】
計測装置1は、進入時刻t、進出時刻t、通過時間t及び車両数Cを含む観測情報を不図示の記憶部に記憶する。なお、図7の例では、進入時刻t=7.155秒、進出時刻t=12.845秒、通過時間t=5.69秒、車両数C=16である。
【0048】
そして、計測装置1は、観測情報と、予め作成された鉄道車両6の寸法及び上部構造7の寸法を含む環境情報とに基づいて、以降の処理を行う。
【0049】
環境情報は、上部構造7の寸法として、例えば、上部構造7の長さL及び観測点Rの位置Lを含む。上部構造7の長さLは、上部構造7の進入端と進出端との間の距離である。また、観測点Rの位置Lは、上部構造7の進入端から観測点Rまでの距離である。また、環境情報は、鉄道車両6の寸法として、例えば、鉄道車両6の各車両の長さL(C)、各車両の車軸数a(C)及び各車両の車軸間の距離La(a(C,n))を含む。Cは車両番号であり、各車両の長さL(C)は、先頭からC番目の車両の両端の間の距離である。各車両の車軸数a(C)は、先頭からC番目の車両の車軸数である。nは、各車両の車軸番号であり、1≦n≦a(C)である。各車両の車軸間の距離La(a(C,n))は、n=1のときは先頭からC番目の車両の先端と先頭から1番目の車軸との間の距離であり、n≧2のときは先頭からn-1番目の車軸とn番目の車軸との間の距離である。図8に、鉄道車両6のC番目の車両の長さL(C)及び車軸間の距離La(a(C,n))の一例を示す。鉄道車両6の寸法や上部構造7の寸法は、公知の手法によって測定することができる。予め、橋梁5を通過する鉄道車両6の寸法のデータベースを作成し、通過時刻から該当する車両の寸法を参照しても良い。
【0050】
なお、橋梁5の上部構造7を、寸法が同じである任意の数の車両が連結された鉄道車両6が走行すると想定される場合、環境情報は、1両分についての、車両の長さL(C)、車両の車軸数a(C)及び車軸間の距離La(a(C,n))を含んでいればよい。
【0051】
鉄道車両6の総車軸数Taは、観測情報に含まれる車両数Cと環境情報に含まれる各車両の車軸数a(C)を用いて、式(9)により算出される。
【0052】
【数9】
【0053】
鉄道車両6の先頭の車軸からC番目の車両のn番目の車軸までの距離Dwa(a(C,n))は、環境情報に含まれる各車両の長さL(C)、各車両の車軸数a(C)及び各車両の車軸間の距離La(a(C,n))を用いて、式(10)により算出される。なお、式(10)では、L(C)=L(1)であるものとしている。
【0054】
【数10】
【0055】
計測装置1は、式(10)においてC=C、n=a(C)とした式(11)により、鉄道車両6の先頭の車軸から最後尾の車両の最後尾の車軸までの距離Dwa(a(C,a(C)))を算出する。
【0056】
【数11】
【0057】
鉄道車両6の平均速度vは、環境情報に含まれる上部構造7の長さL、観測情報に含まれる通過時間t及び算出した距離Dwa(a(C,a(C)))を用いて、式(12)により、鉄道車両6の平均速度vを算出する。
【0058】
【数12】
【0059】
計測装置1は、式(12)に式(11)を代入した式(13)により、鉄道車両6の平均速度vを算出する。
【0060】
【数13】
【0061】
次に、計測装置1は、以下のようにして、鉄道車両6の走行により生じる上部構造7のたわみ量を算出する。
【0062】
本実施形態では、橋梁5の上部構造7において、床板Fと主桁Gなどで構成される橋床7aが1つ或いは複数の連続配置される構成として考え、計測装置1は、1つの橋床7aの変位を長手方向の中央部における変位として算出する。上部構造7に印加される荷重は上部構造7の一端から他端へ移動する。この時、荷重の上部構造7上の位置と荷重量を用いて、上部構造7の中間部の変位であるたわみ量を表すことができる。本実施形態では、鉄道車両6の車軸が上部構造7上を移動するときのたわみ変形を、1点荷重の梁上の移動によるたわみ量の軌跡として表すために、図9に示す構造モデルを考え、当該構造モデルにおいて、中央部におけるたわみ量を算出する。図9において、Pは荷重である。aは、鉄道車両6が進入する側の上部構造7の進入端からの荷重位置である。bは、鉄道車両6が進出する側の上部構造7の進出端からの荷重位置である。Lは、上部構造7の長さ、すなわち、上部構造7の両端の間の距離である。図9に示す構造モデルは、両端を支点とする両端を支持した単純梁である。
【0063】
図9に示す構造モデルにおいて、上部構造7の進入端の位置をゼロとしてたわみ量の観測位置をxとしたとき、単純梁の曲げモーメントMは式(14)で表される。
【0064】
【数14】
【0065】
式(14)において、関数Hは式(15)のように定義される。
【0066】
【数15】
【0067】
式(14)を変形し、式(16)が得られる。
【0068】
【数16】
【0069】
一方、曲げモーメントMは式(17)で表される。式(17)において、θは角度であり、Iは二次モーメントであり、Eはヤング率である。
【0070】
【数17】
【0071】
式(17)を式(16)に代入し、式(18)が得られる。
【0072】
【数18】
【0073】
式(18)を観測位置xについて積分する式(19)を計算し、式(20)が得られる。式(20)において、Cは積分定数である。
【0074】
【数19】
【0075】
【数20】
【0076】
さらに、式(20)を観測位置xについて積分する式(21)を計算し、式(22)が得られる。式(22)において、Cは積分定数である。
【0077】
【数21】
【0078】
【数22】
【0079】
式(22)において、θxはたわみ量を表し、θxをたわみ量wに置き換えて式(10)が得られる。
【0080】
【数23】
【0081】
図9より、b=L-aなので、式(23)は式(24)のように変形される。
【0082】
【数24】
【0083】
x=0でたわみ量w=0として、x≦aよりH=0であるから、式(24)にx=w=H=0を代入して整理すると、式(25)が得られる。
【0084】
【数25】
【0085】
また、x=Lでたわみ量w=0として、x>aよりH=1であるから、式(24)にx=L,w=0,H=1を代入して整理すると、式(26)が得られる。
【0086】
【数26】
【0087】
式(26)にb=L-aを代入し、式(27)が得られる。
【0088】
【数27】
【0089】
式(23)に式(25)の積分定数C及び式(26)の積分定数Cを代入し、式(28)が得られる。
【0090】
【数28】
【0091】
式(28)を変形し、荷重Pが位置aに印加された時の観測位置xにおけるたわみ量wは、式(29)で表される。
【0092】
【数29】
【0093】
荷重Pが上部構造7の中央にある時の中央の観測位置xにおけるたわみ量w0.5LBは、x=0.5LB,a=b=0.5LB,H=0として、式(30)で表される。このたわみ量w0.5LBが、たわみ量wの最大振幅となる。
【0094】
【数30】
【0095】
任意の観測位置xにおけるたわみ量wは、たわみ量w0.5LBで規格化される。荷重Pの位置aが観測位置xよりも進入端側にある場合、x>aより、式(30)にH=1を代入して式(31)が得られる。
【0096】
【数31】
【0097】
荷重Pの位置aをa=Lrとし、式(31)にa=Lr,b=L(1-r)を代入して整理すると、式(32)により、たわみ量wが規格化されたたわみ量wstdが得られる。rは、上部構造7の長さLに対する荷重Pの位置aの比を示す。
【0098】
【数32】
【0099】
同様に、荷重Pの位置aが観測位置xよりも進出端側にある場合、x≦aより、式(30)にH=0を代入して式(33)が得られる。
【0100】
【数33】
【0101】
荷重Pの位置aをa=Lrとし、式(33)にa=Lr,b=L(1-r)を代入して整理すると、式(34)により、たわみ量wが規格化されたたわみ量wstdが得られる。
【0102】
【数34】
【0103】
式(32)、式(34)をまとめて、任意の観測位置x=Lにおけるたわみ量wstd(r)は、式(35)で表される。式(35)において、関数R(r)は式(36)で表される。式(35)は、構造物である上部構造7のたわみの近似式であり、上部構造7の構造モデルに基づく式である。具体的には、式(35)は、上部構造7の進入端と進出端との中央位置におけるたわみの最大振幅で規格化された近似式である。
【0104】
【数35】
【0105】
【数36】
【0106】
本実施形態では、荷重Pは鉄道車両6の任意の車軸の荷重である。鉄道車両6の任意の車軸が上部構造7の進入端から観測点Rの位置Lに至るまでに要する時間txnは、式(12)によって算出される平均速度vを用いて、式(37)により算出される。
【0107】
【数37】
【0108】
また、鉄道車両6の任意の車軸が長さLの上部構造7を通過するのに要する時間tlnは、式(38)により算出される。
【0109】
【数38】
【0110】
鉄道車両6のC番目の車両のn番目の車軸が上部構造7の進入端に到達する時刻t(C,n)は、観測情報に含まれる進入時刻t、式(10)によって算出される距離Dwa(a(C,n))及び式(12)によって算出される平均速度vを用いて、式(39)により算出される。
【0111】
【数39】
【0112】
計測装置1は、式(37)、式(38)及び式(39)を用いて、式(40)により、C番目の車両のn番目の車軸による式(35)で表されるたわみ量wstd(r)を時間に置き換えたたわみ量wstd(a(C,n),t)を算出する。式(40)において、関数R(t)は式(41)で表される。図10に、たわみ量wstd(a(C,n),t)の一例を示す。
【0113】
【数40】
【0114】
【数41】
【0115】
また、計測装置1は、式(42)により、C番目の車両によるたわみ量Cstd(C,t)を算出する。図11に、車軸数n=4のC番目の車両によるたわみ量Cstd(C,t)の一例を示す。
【0116】
【数42】
【0117】
さらに、計測装置1は、式(43)により、鉄道車両6によるたわみ量Tstd(t)を算出する。図12に、車両数C=16の鉄道車両6によるたわみ量Tstd(t)の一例を示す。なお、図12において、破線は16個のたわみ量Cstd(1,t)~Cstd(16,t)を示す。
【0118】
【数43】
【0119】
次に、計測装置1は、たわみ量Tstd(t)に含まれる基本周波数Fの振動成分及びその高調波を低減させるために、たわみ量Tstd(t)をフィルター処理したたわみ量Tstd_lp(t)を生成する。フィルター処理は、例えば、ローパスフィルター処理であってもよいし、バンドパスフィルター処理であってもよい。
【0120】
具体的には、まず、計測装置1は、たわみ量Tstd(t)を高速フーリエ変換処理してパワースペクトラム密度を算出し、パワースペクトラム密度のピークを基本周波数Fとして算出する。そして、計測装置1は、式(44)により、基本周波数Fから基本周期Tを算出し、式(45)のように、基本周期TをΔTで除してデータの時間分解能に調整した移動平均区間kmMを算出する。基本周期Tは、基本周波数Fに対応する周期であり、T>2ΔTである。
【0121】
【数44】
【0122】
【数45】
【0123】
そして、計測装置1は、フィルター処理として、式(46)により、基本周期Tでたわみ量Tstd(t)を移動平均処理して、たわみ量Tstd(t)に含まれる振動成分を低減させたたわみ量Tstd_lp(t)を算出する。この移動平均処理は、必要な計算量が小さいだけでなく、基本周波数Fの信号成分及びその高調波成分の減衰量が非常に大きいので振動成分が効果的に低減されたたわみ量Tstd_lp(t)が得られる。図13に、たわみ量Tstd_lp(t)の一例を示す。図13に示すように、たわみ量Tstd(t)に含まれる振動成分がほとんど除かれたたわみ量Tstd_lp(t)が得られる。
【0124】
【数46】
【0125】
なお、計測装置1は、フィルター処理として、たわみ量Tstd(t)に対して基本周波数F以上の周波数の信号成分を減衰させるFIRフィルター処理を行ってたわみ量Tstd_lp(t)を算出してもよい。このFIRフィルター処理は、移動平均処理よりも計算量が大きいが、基本周波数F以上の周波数の信号成分をすべて減衰させることができる。
【0126】
図14に、図6に示した測定データulp(t)と図13に示したたわみ量Tstd_lp(t)とを重ねて示す。たわみ量Tstd_lp(t)を、上部構造7を通過する鉄道車両6の荷重に比例するたわみ量と考え、たわみ量Tstd_lp(t)の1次関数が測定データulp(t)とほぼ等しくなると仮定する。すなわち、計測装置1は、式(47)のように、測定データulp(t)をたわみ量Tstd_lp(t)の1次関数で近似する。なお、近似する時間区間を進入時刻tと進出時刻tの間、または、たわみ量Tstd_lp(t)の振幅が0でない時間区間とする。
【0127】
【数47】
【0128】
そして、計測装置1は、式(47)で表される1次関数の1次係数c及び0次係数cを算出する。例えば、計測装置1は、最小二乗法により、式(48)で表される誤差e(t)、すなわち、測定データulp(t)と式(47)の1次関数との差が最小となる1次係数c及び0次係数cを算出する。
【0129】
【数48】
【0130】
1次係数c及び0次係数cは、それぞれ、式(49)及び式(50)によって算出される。近似する時間区間に対応するデータ区間をk≦k≦kとする。
【0131】
【数49】
【0132】
【数50】
【0133】
そして、計測装置1は、式(51)のように、1次係数c及び0次係数cを用いてたわみ量Tstd_lp(t)を調整したたわみ量TEstd_lp(t)を算出する。式(51)で示されるように、たわみ量TEstd_lp(t)は、基本的に式(47)の右辺に相当するが、進入時刻tよりも前の区間と進出時刻tよりも後の区間では0次係数cを0としている。図15に、たわみ量TEstd_lp(t)の一例を示す。
【0134】
【数51】
【0135】
また、式(52)のように、式(49)で算出された1次係数c及び式(50)で算出された0次係数cを用いたたわみ量Tstd(t)の1次関数が測定データu(t)とほぼ等しくなると仮定する。
【0136】
【数52】
【0137】
1次係数c及び0次係数cを用いてたわみ量Tstd(t)を調整したたわみ量TEstd(t)は、式(53)によって算出される。式(53)の右辺は、式(51)の右辺のTstd_lp(t)をTstd(t)に置き換えたものである。図16に、たわみ量TEstd(t)の一例を示す。
【0138】
【数53】
【0139】
次に、計測装置1は、t=kΔTとして、式(54)により、所定区間におけるたわみ量TEstd_lp(t)とたわみ量Tstd_lp(t)との振幅比Rを算出する。式(54)において、分子は、たわみ量TEstd_lp(t)の波形及びたわみ量Tstd_lp(t)の波形がシフトしている区間の一部の所定区間に含まれるたわみ量TEstd_lp(t)のn+1個のサンプルの平均値であり、分母は当該所定区間に含まれるたわみ量Tstd_lp(t)のn+1個のサンプルの平均値である。図17に、たわみ量TEstd_lp(t)及びたわみ量Tstd_lp(t)とそれらの平均値を算出する所定区間Tavgとの関係の一例を示す。
【0140】
【数54】
【0141】
次に、計測装置1は、振幅比Rとたわみ量Tstd_lp(t)との積Rstd_lp(t)を0次係数cと比較してオフセットToffset_std(t)を算出する。具体的には、計測装置1は、式(55)のように、振幅比Rとたわみ量Tstd_lp(t)との積Rstd_lp(t)の絶対値が0次係数cの絶対値よりも大きい積Rstd_lp(t)の区間を0次係数cに置き換えてオフセットToffset_std(t)を算出する。図18に、オフセットToffset_std(t)の一例を示す。図18の例では、たわみ量Tstd_lp(t)の振幅が0又は負であるので、計測装置1は、積Rstd_lp(t)の0次係数cよりも小さい区間を0次係数cに置き換えてオフセットToffset_std(t)を算出している。
【0142】
【数55】
【0143】
次に、計測装置1は、式(56)のように、1次係数cとたわみ量Tstd(t)との積cstd(t)と、オフセットToffset_std(t)とを加算して、たわみ量TEOstd(t)を算出する。このたわみ量TEOstd(t)は、鉄道車両6が上部構造7を通過したときの静的応答に相当する。図19に、たわみ量TEOstd(t)の一例を示す。また、図20に、測定データu(t)とたわみ量TEOstd(t)との関係を示す。
【0144】
【数56】
【0145】
そして、計測装置1は、式(57)のように、測定データu(t)からたわみ量TEOstd(t)を減算して、固有振動unv(t)を算出する。この固有振動unv(t)は、鉄道車両6が上部構造7を通過したときの動的応答に相当する。図21に、固有振動unv(t)の一例を示す。
【0146】
【数57】
【0147】
式(57)により算出された第1の動的応答としての固有振動unv(t)は、基本波以外に不要な信号も含む。そのため、計測装置1は、固有振動unv(t)の基本波を抽出するために、第1の動的応答である固有振動unv(t)から不要な信号を減衰させるフィルター処理を行って第2の動的応答としての固有振動unv_3lp(t)を算出する。不要な信号は、例えば、基本波の周波数Fよりも低い周波数の信号成分や高調波成分である。
【0148】
固有振動unv(t)から不要な信号を減衰させるフィルター処理は、固有振動unv(t)に含まれる基本周波数Fの振動成分の高調波成分を減衰させるとともに、基本周波数Fにおける利得を補正するローパスフィルター処理を含む。さらに、固有振動unv(t)から不要な信号を減衰させるフィルター処理は、基本周波数Fよりも低い周波数の信号成分を減衰させるハイパスフィルター処理を含んでもよい。
【0149】
例えば、計測装置1は、固有振動unv(t)に対して、ハイパスフィルター処理を行った後、さらに、ローパスフィルター処理を行ってもよい。具体的には、まず、計測装置1は、固有振動unv(t)に対して、固有振動unv(t)の基本周波数Fよりも低い周波数の信号成分を減衰させるハイパスフィルター処理を行って、固有振動unv_hp(t)を算出する。
【0150】
具体的には、まず、計測装置1は、固有振動unv(t)を高速フーリエ変換処理してパワースペクトラム密度を算出し、パワースペクトラム密度のピークを基本周波数Fとして算出する。図22に、図21の固有振動unv(t)を高速フーリエ変換処理して得られたパワースペクトラム密度を示す。図22の例では、基本周波数Fは約3Hzとして算出される。そして、計測装置1は、式(58)により、基本周波数Fから基本周期Tを算出し、式(59)のように、基本周期TをΔTで除してデータの時間分解能に調整した移動平均区間kmNを算出する。基本周期Tは、基本周波数Fに対応する周期であり、T>2ΔTである。
【0151】
【数58】
【0152】
【数59】
【0153】
そして、計測装置1は、式(60)により、固有振動unv(t)から、基本周期Tで固有振動unv(t)を移動平均処理して振動成分を低減させた低域信号成分を減算するハイパスフィルター処理を行って、固有振動unv_hp(t)を算出する。この移動平均処理は、必要な計算量が小さいだけでなく、基本周波数Fの信号成分及びその高調波成分の減衰量が非常に大きいので振動成分が効果的に低減された低域信号成分が得られる。そのため、式(60)により、低域信号成分が効果的に低減された固有振動unv_hp(t)が得られる。図23に、式(60)によるハイパスフィルターの周波数特性を示す。また、図24に、固有振動unv_hp(t)の一例を示す。
【0154】
【数60】
【0155】
なお、計測装置1は、ハイパスフィルター処理として、固有振動unv(t)に対して基本周波数Fよりも低い周波数の信号成分を減衰させるFIRフィルター処理を行って固有振動unv_hp(t)を算出してもよい。
【0156】
さらに、計測装置1は、固有振動unv_hp(t)に含まれる基本周波数Fの振動成分の高調波成分を減衰させるとともに、基本周波数Fにおける利得を補正するローパスフィルター処理を行って、第2の動的応答としての固有振動unv_3lp(t)を算出する。例えば、図22に示した固有振動unv(t)のパワースペクトラム密度では3次高調波成分が大きい。そのため、計測装置1は、3次高調波成分を減衰させるために、式(61)のように、基本周期Tの3倍の周期をΔTで除してデータの時間分解能に調整した移動平均区間kmLを算出する。ただし、3T>2ΔTである。
【0157】
【数61】
【0158】
固有振動unv_hp(t)を移動平均区間kmLで移動平均処理すると、基本周波数Fとその3倍の周波数3Fとの周波数間隔が小さいので、図25に示すように、基本周波数Fの利得gが1よりも小さくなる。移動平均フィルターの伝達特性は式(62)で表されるので、計測装置1は、式(62)より、ω=2πFの時の利得gを算出することができる。
【0159】
【数62】
【0160】
したがって、基本周波数Fの利得を1に補正する補正係数をg -1とし、計測装置1は、式(63)により、固有振動unv(t)に含まれる3次高調波成分を減衰させるとともに、基本周波数Fにおける利得を1に補正するローパスフィルター処理を行って、第2の動的応答としての固有振動unv_3lp(t)を算出する。このようにして算出される固有振動unv_3lp(t)は、基本的に、固有振動unv(t)に含まれる基本周波数Fの振動成分とみなすことができる。図26に、固有振動unv_3lp(t)の一例を示す。
【0161】
【数63】
【0162】
なお、固有振動unv(t)に含まれる2次高調波成分が大きい場合は、計測装置1は、2次高調波成分を減衰させる移動平均処理を行う。また、固有振動unv(t)に含まれる2次高調波成分と3次高調波成分がともに大きい場合は、計測装置1は、2次高調波成分を減衰させる移動平均処理と3次高調波成分を減衰させる移動平均処理の両方を行えばよい。一般化すると、固有振動unv(t)に含まれるn次高調波成分が大きい場合は、計測装置1は、n次高調波成分を減衰させる移動平均処理を行えばよい。
【0163】
また、計測装置1は、ローパスフィルター処理として、固有振動unv_hp(t)に対して基本周波数Fよりも高い周波数の信号成分を減衰させるFIRフィルター処理を行って固有振動unv_3lp(t)を算出してもよい。
【0164】
なお、計測装置1が固有振動unv(t)に対してハイパスフィルター処理を行った後にローパスフィルター処理を行う場合について説明したが、計測装置1は、固有振動unv(t)に対してローパスフィルター処理を行った後にハイパスフィルター処理を行ってもよい。また、固有振動unv(t)に含まれる基本周波数Fよりも低い周波数の信号成分が小さい場合には、計測装置1は、ハイパスフィルター処理を行わなくてもよい。
【0165】
次に、計測装置1は、固有振動unv_3lp(t)の包絡線振幅unv_mag(t)を算出する。具体的には、固有振動unv_3lp(t)はほぼ基本周波数Fの振動成分とみなすことができるので、計測装置1は、波高率をπ/2として、式(64)により、固有振動unv_3lp(t)の絶対値をローパスフィルター処理して包絡線振幅unv_mag(t)を算出する。図27に、包絡線振幅unv_mag(t)の一例を示す。
【0166】
【数64】
【0167】
固有振動unv_3lp(t)の絶対値は、基本周波数Fの2倍の周波数の信号成分を含むので、ローパスフィルター処理の通過帯域は2Fよりも低い範囲とすることが望ましい。例えば、ローパスフィルター処理が式(64)のように移動平均処理である場合、移動平均区間長tMAを、整数kを基本周波数Fで除した値とし、k=4,F=2.7917Hz,ΔT=0.012秒とすると、式(65)のようにtMA=118ΔTに設定すればよい。
【0168】
【数65】
【0169】
次に、計測装置1は、固有振動unv_3lp(t)に含まれる振動成分が減衰する区間の少なくとも一部の第1区間Tにおいて包絡線振幅unv_mag(t)を指数関数で近似する。第1区間Tは時刻te0から時刻te1までの区間であり、第1区間Tの開始時刻te0は、進出時刻t以降である。例えば、計測装置1は、式(66)により、鉄道車両6の最後尾の車軸の上部構造7からの退出時刻toutを算出し、式(67)を満たす時刻tの範囲を第1区間Tとしてもよい。前出の式(7)、前出の式(12)及び式(66)の関係から、退出時刻toutは進出時刻tと等しいので、式(67)を満たす第1区間Tの開始時刻te0は、進出時刻t以降である。
【0170】
【数66】
【0171】
【数67】
【0172】
第1区間Tの開始時刻te0及び終了時刻te1は、例えば、式(68)で示される包絡線振幅unv_mag(t)の対数y(t)が凡そ直線となる範囲で選択される。図28に、包絡線振幅unv_mag(t)の対数y(t)及び第1区間Tの一例を示す。
【0173】
【数68】
【0174】
図28に示すように、鉄道車両6の通過後、上部構造7の振動が減衰する第1区間Tで対数y(t)はほぼ直線となる。第1区間Tにおける対数y(t)は式(69)で示される1次関数Q(t)で近似される。
【0175】
【数69】
【0176】
計測装置1は、最小二乗法により、式(70)で表される誤差e(t)、すなわち、対数y(t)と式(69)の1次関数Q(t)との差が最小となる1次係数q及び0次係数qを算出する。
【0177】
【数70】
【0178】
1次係数q及び0次係数qは、それぞれ、式(71)及び式(72)によって算出される。ここで、近似する時間区間に対応するデータ区間をte0≦t≦te1とする。
【0179】
【数71】
【0180】
【数72】
【0181】
第1区間Tにおいて包絡線振幅unv_mag(t)を近似する指数関数を減衰振動曲線uenv_b(t)とすると、減衰振動曲線uenv_b(t)は、1次係数q及び0次係数qを用いて、式(73)によって算出される。
【0182】
【数73】
【0183】
一方、運動方程式から減衰振動u(t)は、式(74)で表される。式(74)において、ζは減衰率であり、ωは固有振動数である。
【0184】
【数74】
【0185】
減衰振動u(t)の包絡線部分と減衰振動曲線uenv_b(t)を対応させると、式(75)が得られる。
【0186】
【数75】
【0187】
式(75)より、減衰率ζは、式(76)によって算出される。
【0188】
【数76】
【0189】
減衰振動u(t)の包絡線部分の開始時の値を第1区間Tの開始時刻te0における減衰振動曲線uenv_b(t)の振幅と対応させると、式(77)及び式(78)が得られる。
【0190】
【数77】
【0191】
【数78】
【0192】
減衰振動uenv(t)は、式(79)で表される。図29に、減衰振動uenv(t)と第2の動的応答である固有振動unv_3lp(t)とを重ねて示す。図29に示すように、減衰振動uenv(t)と固有振動unv_3lp(t)とは精度良く近似している。
【0193】
【数79】
【0194】
3.計測方法の手順
図30は、本実施形態の計測方法の手順の一例を示すフローチャート図である。本実施形態では、計測装置1が図30に示す手順を実行する。
【0195】
図30に示すように、まず、観測データ取得工程S10において、計測装置1は、観測装置であるセンサー2から出力される観測データである加速度データa(k)を取得する。
【0196】
次に、第1測定データ生成工程S20において、計測装置1は、工程S10で取得した観測データである加速度データa(k)に基づいて、上部構造7を移動する鉄道車両6の複数の車軸の観測点Rへの作用に対する応答である物理量としての加速度に基づく第1の測定データである測定データu(t)を生成する。第1測定データ生成工程S20の手順の一例については後述する。
【0197】
次に、第2測定データ生成工程S30において、計測装置1は、工程S20で生成した測定データu(t)をフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データである測定データulp(t)を生成する。例えば、計測装置1は、フィルター処理として、測定データu(t)の基本周波数F以上の周波数の振動成分を減衰させるローパスフィルター処理を行う。第2測定データ生成工程S30の手順の一例については後述する。
【0198】
次に、観測情報生成工程S40において、計測装置1は、鉄道車両6の上部構造7に対する進入時刻t及び進出時刻tを含む観測情報を生成する。進入時刻tは、鉄道車両6の複数の車軸のうちの先頭の車軸が上部構造7の進入端を通過した時刻であり、進出時刻tは、鉄道車両6の複数の車軸のうちの最後尾の車軸が上部構造7の進出端を通過した時刻である。本実施形態では、計測装置1は、工程S30で生成した測定データulp(t)に基づいて、進入時刻t及び進出時刻tを算出する。更に、計測装置1は、車両数Cを生成する。観測情報生成工程S40の手順の一例については後述する。
【0199】
次に、平均速度算出工程S50において、計測装置1は、工程S40で生成した観測情報と、予め作成された鉄道車両6の寸法及び上部構造7の寸法を含む環境情報とに基づいて、鉄道車両6の平均速度vを算出する。環境情報は、上部構造7の長さL、観測点Rの位置L、鉄道車両6の各車両の長さL(C)、各車両の車軸数a(C)及び鉄道車両6の複数の車軸の各々の位置に相当する各車軸間の距離La(a(C,n))を含む。平均速度算出工程S50の手順の一例については後述する。
【0200】
次に、第1たわみ量算出工程S60において、計測装置1は、前出の式(35)である上部構造7のたわみの近似式と、工程S40で生成した観測情報と、環境情報と、工程S50で算出した鉄道車両6の平均速度vとに基づいて、鉄道車両6による上部構造7の第1のたわみ量であるたわみ量Tstd(t)を算出する。具体的には、計測装置1は、上部構造7のたわみの近似式と、観測情報と、環境情報と、平均速度vとに基づいて、複数の車軸のそれぞれによる上部構造7のたわみ量wstd(a(C,n),t)を算出し、複数の車軸のそれぞれによる上部構造7のたわみ量wstd(a(C,n),t)を加算してたわみ量Tstd(t)を算出する。第1たわみ量算出工程S60の手順の一例については後述する。
【0201】
次に、第2たわみ量算出工程S70において、計測装置1は、工程S60で算出したたわみ量Tstd(t)をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量であるたわみ量Tstd_lp(t)を算出する。例えば、計測装置1は、フィルター処理として、たわみ量Tstd(t)の基本周波数F以上の周波数の振動成分を減衰させるローパスフィルター処理を行う。第2たわみ量算出工程S70の手順の一例については後述する。
【0202】
次に、係数算出工程S80において、計測装置1は、工程S30で生成した測定データulp(t)を工程S70で算出したたわみ量Tstd_lp(t)の1次関数で近似し、当該1次関数の1次係数c及び0次係数cを算出する。具体的には、計測装置1は、前出の式(47)のように、測定データulp(t)をたわみ量Tstd_lp(t)の1次関数で近似し、最小二乗法を用いて前出の式(49)及び式(50)により、1次係数c及び0次係数cを算出する。
【0203】
次に、第3たわみ量算出工程S90において、計測装置1は、工程S80で算出した1次係数c及び0次係数cと、工程S70で算出したたわみ量Tstd_lp(t)とに基づいて、第3のたわみ量であるたわみ量TEstd_lp(t)を算出する。具体的には、計測装置1は、前出の式(51)のように、進入時刻tよりも前の区間及び進出時刻tよりも後の区間では1次係数cとたわみ量Tstd_lp(t)との積cstd_lp(t)であり、進入時刻tと進出時刻tとの間の区間では積cstd_lp(t)と0次係数cとの和であるたわみ量TEstd_lp(t)を算出する。
【0204】
次に、オフセット算出工程S100において、計測装置1は、工程S80で算出した0次係数cと、工程S70で算出したたわみ量Tstd_lp(t)と、工程S90で算出したたわみ量TEstd_lp(t)とに基づいて、オフセットToffset_std(t)を算出する。オフセット算出工程S100の手順の一例については後述する。
【0205】
次に、静的応答算出工程S110において、計測装置1は、前出の式(56)のように、工程S80で算出した1次係数cと工程S60で算出したたわみ量Tstd(t)との積cstd(t)と、工程S100で算出したオフセットToffset_std(t)とを加算して、静的応答としてのたわみ量TEOstd(t)を算出する。
【0206】
次に、第1動的応答算出工程S120において、計測装置1は、前出の式(57)のように、工程S20で生成した測定データu(t)から工程S110で算出した静的応答としてのたわみ量TEOstd(t)を減算して、第1の動的応答としての固有振動unv(t)を算出する。
【0207】
次に、第2動的応答算出工程S130において、計測装置1は、工程S120で算出した第1の動的応答である固有振動unv(t)から不要な信号を減衰させるフィルター処理を行って第2の動的応答としての固有振動unv_3lp(t)を算出する。このフィルター処理は、固有振動unv(t)に含まれる基本周波数Fの振動成分の高調波成分を減衰させるとともに、基本周波数Fにおける利得を補正するローパスフィルター処理を含んでもよい。さらに、このフィルター処理は、基本周波数Fよりも低い周波数の信号成分を減衰させるハイパスフィルター処理を含んでもよい。第2動的応答算出工程S130の手順の一例については後述する。
【0208】
次に、包絡線振幅算出工程S140において、計測装置1は、工程S130で算出した第2の動的応答である固有振動unv_3lp(t)の包絡線振幅unv_mag(t)を算出する。具体的には、計測装置1は、前出の式(64)のように、固有振動unv_3lp(t)の絶対値をローパスフィルター処理し、かつ、π/2を乗算して、包絡線振幅unv_mag(t)を算出する。
【0209】
次に、減衰率算出工程S150において、計測装置1は、工程S140で算出した包絡線振幅unv_mag(t)に基づいて、第2の動的応答である固有振動unv_3lp(t)に含まれる振動成分の減衰率ζを算出する。減衰率算出工程S150の手順の一例については後述する。
【0210】
次に、計測データ出力工程S160において、計測装置1は、工程S150で算出した減衰率ζを含む計測データを監視装置3に出力する。具体的には、計測装置1は、計測データを、通信ネットワーク4を介して監視装置3に送信する。計測データは、減衰率ζに加えて、測定データu(t),ulp(t)、たわみ量Tstd(t),Tstd_lp(t),TEstd_lp(t),たわみ量TEOstd(t)、固有振動unv(t),unv_3lp(t)、包絡線振幅unv_mag(t)等を含んでもよい。
【0211】
そして、工程S170において計測を終了するまで、計測装置1は、工程S10~S160の処理を繰り返し行う。
【0212】
図31は、図30の第1測定データ生成工程S20の手順の一例を示すフローチャート図である。
【0213】
図31に示すように、工程S201において、計測装置1は、前出の式(1)のように、センサー2から出力される加速度データa(t)を積分して速度データv(t)を生成する。
【0214】
そして、工程S202において、計測装置1は、前出の式(2)のように、工程S201で生成した速度データv(t)を積分して測定データu(t)を生成する。
【0215】
このように、本実施形態では、測定データu(t)は、構造物である上部構造7を移動する移動体である鉄道車両6による上部構造7の変位のデータであり、鉄道車両6が移動する上部構造7の面と交差する方向の加速度を2回積分したデータである。したがって、測定データu(t)は、正方向又は負方向に凸の波形、具体的には、矩形波形、台形波形又は正弦半波波形のデータを含む。なお、矩形波形には、正確な矩形波形のみならず矩形波形に近似する波形も含まれる。同様に、台形波形には、正確な台形波形のみならず台形波形に近似する波形も含まれる。同様に、正弦半波波形には、正確な正弦半波波形のみならず正弦半波波形に近似する波形も含まれる。
【0216】
図32は、図30の第2測定データ生成工程S30の手順の一例を示すフローチャート図である。
【0217】
図32に示すように、工程S301において、計測装置1は、図31の工程S202で算出した測定データu(t)を高速フーリエ変換処理してパワースペクトラム密度を算出し、パワースペクトラム密度のピークを基本周波数Fとして算出する。
【0218】
そして、工程S302において、計測装置1は、測定データu(t)の基本周波数F以上の周波数の振動成分を減衰させるローパスフィルター処理を行って測定データulp(t)を生成する。計測装置1は、ローパスフィルター処理として、前出の式(5)のように、基本周波数Fに対応する基本周期Tで測定データu(t)を移動平均処理して測定データulp(t)を生成してもよい。あるいは、計測装置1は、ローパスフィルター処理として、測定データu(t)に対して基本周波数F以上の周波数の信号成分を減衰させるFIRフィルター処理を行って測定データulp(t)を生成してもよい。
【0219】
図33は、図30の観測情報生成工程S40の手順の一例を示すフローチャート図である。
【0220】
図33に示すように、まず、工程S401において、計測装置1は、振幅uとして、前出の式(6)により、図32の工程S302で生成した測定データulp(t)の振幅がシフトしている時刻tから時刻tまでの区間の平均値を算出する。
【0221】
次に、工程S402において、計測装置1は、進入時刻tとして、測定データulp(t)の振幅が予め定められた係数Cと工程S401で算出した振幅uとの積である閾値Cと一致し、又は、閾値Cを超える第1の時刻を算出する。
【0222】
また、工程S403において、計測装置1は、進出時刻tとして、測定データulp(t)の振幅が閾値Cと一致し、又は、閾値Cを超える、第1の時刻よりも後の第2の時刻を算出する。
【0223】
また、工程S404において、計測装置1は、前出の式(7)のように、通過時間tとして、進出時刻tと進入時刻tとの差を算出する。
【0224】
次に、工程S405において、計測装置1は、前出の式(8)のように、鉄道車両6の車両数Cとして、工程S404で算出した通過時間t図32の工程S301で算出した基本周波数Fとの積tから1を減算した数以下の最大の整数を算出する。
【0225】
そして、工程S406において、計測装置1は、工程S402で算出した進入時刻t、工程S403で算出した進出時刻t、工程S404で算出した通過時間t及び工程S405で算出した車両数Cを含む観測情報を生成する。
【0226】
図34は、図30の平均速度算出工程S50の手順の一例を示すフローチャート図である。
【0227】
工程S501において、計測装置1は、環境情報に基づいて、前出の式(11)により、鉄道車両6の先頭の車軸から最後尾の車軸までの距離Dwa(a(C,a(C)))を算出する。
【0228】
また、工程S502において、計測装置1は、環境情報に基づいて、上部構造7の進入端から進出端までの距離を算出する。本実施形態では、上部構造7の進入端から進出端までの距離は、環境情報に含まれる上部構造7の長さLである。
【0229】
そして、工程S503において、計測装置1は、図33の工程S406で生成した観測情報に含まれる進入時刻t及び進出時刻t、工程S501で算出した鉄道車両6の先頭の車軸から最後尾の車軸までの距離Dwa(a(C,a(C)))、及び、工程S502で算出した上部構造7の進入端から進出端までの距離である上部構造7の長さLに基づいて、前出の式(12)により、鉄道車両6の平均速度vを算出する。
【0230】
図35は、図30の第1たわみ量算出工程S60の手順の一例を示すフローチャート図である。
【0231】
まず、工程S601において、計測装置1は、環境情報に基づいて、前出の式(10)により、鉄道車両6の先頭の車軸からC番目の車両のn番目の車軸までの距離Dwa(a(C,n))をそれぞれ算出する。
【0232】
次に、工程S602において、計測装置1は、環境情報に含まれる観測点Rの位置Lと、図34の工程S503で算出した平均速度vとを用いて、前出の式(37)により、鉄道車両6の任意の車軸が上部構造7の進入端から観測点Rの位置Lに至るまでに要する時間txnを算出する。
【0233】
また、工程S603において、計測装置1は、図34の工程S502で算出した上部構造7の進入端から進出端までの距離である上部構造7の長さLと、平均速度vとを用いて、前出の式(38)により、鉄道車両6の任意の車軸が上部構造7を通過するのに要する時間tlnを算出する。
【0234】
さらに、工程S604において、計測装置1は、図33の工程S406で生成した観測情報に含まれる進入時刻tと、工程S601で算出した距離Dwa(a(C,n))と、平均速度vとを用いて、前出の式(39)により、鉄道車両6のC番目の車両のn番目の車軸が上部構造7の進入端に到達する時刻t(C,n)をそれぞれ算出する。
【0235】
次に、工程S605において、計測装置1は、前出の式(35)である上部構造7のたわみの近似式と、工程S602で算出した時間txnと、工程S603で算出した時間tlnと、工程S604で算出した時刻t(C,n)とを用いて、前出の式(40)により、C番目の車両のn番目の車軸による上部構造7のたわみ量wstd(a(C,n),t)をそれぞれ算出する。
【0236】
次に、工程S606において、計測装置1は、前出の式(42)により、車両毎に工程S605で算出した各車軸による上部構造7のたわみ量wstd(a(C,n),t)を加算して、各車両による上部構造7のたわみ量Cstd(C,t)を算出する。
【0237】
そして、工程S607において、計測装置1は、前出の式(43)により、工程S606で算出した各車両による上部構造7のたわみ量Cstd(C,t)を加算して、鉄道車両6による上部構造7のたわみ量Tstd(t)を算出する。
【0238】
図36は、図30の第2たわみ量算出工程S70の手順の一例を示すフローチャート図である。
【0239】
図36に示すように、工程S701において、計測装置1は、図35の工程S607で算出したたわみ量Tstd(t)を高速フーリエ変換処理してパワースペクトラム密度を算出し、パワースペクトラム密度のピークを基本周波数Fとして算出する。
【0240】
そして、工程S702において、計測装置1は、たわみ量Tstd(t)の基本周波数F以上の周波数の振動成分を減衰させるローパスフィルター処理を行ってたわみ量Tstd_lp(t)を算出する。計測装置1は、ローパスフィルター処理として、前出の式(46)のように、基本周波数Fに対応する基本周期Tでたわみ量Tstd(t)を移動平均処理してたわみ量Tstd_lp(t)を算出してもよい。あるいは、計測装置1は、ローパスフィルター処理として、たわみ量Tstd(t)に対して基本周波数F以上の周波数の信号成分を減衰させるFIRフィルター処理を行ってたわみ量Tstd_lp(t)を算出してもよい。
【0241】
図37は、図30のオフセット算出工程S100の手順の一例を示すフローチャート図である。
【0242】
図37に示すように、工程S1001において、計測装置1は、前出の式(54)により、所定区間における図30の工程S90で算出したたわみ量TEstd_lp(t)と図36の工程S702で算出したたわみ量Tstd_lp(t)との振幅比Rを算出する。
【0243】
そして、工程S1002において、計測装置1は、前出の式(55)のように、工程S1001で算出した振幅比Rとたわみ量Tstd_lp(t)との積Rstd_lp(t)の絶対値が図30の工程S80で算出した0次係数cの絶対値よりも大きい積Rstd_lp(t)の区間を0次係数cに置き換えてオフセットToffset_std(t)を算出する。
【0244】
図38は、図30の第2動的応答算出工程S130の手順の一例を示すフローチャート図である。
【0245】
図38に示すように、工程S1301において、計測装置1は、前出の式(60)により、図30の工程S120で算出した固有振動unv(t)から、基本周期Tで固有振動unv(t)を移動平均処理して振動成分を低減させた低域信号成分を減算するハイパスフィルター処理を行って、固有振動unv_hp(t)を算出する。
【0246】
さらに、工程S1302において、計測装置1は、前出の式(63)により、工程S1301で算出した固有振動unv_hp(t)に含まれる基本周波数Fの振動成分の高調波成分を減衰させるとともに、基本周波数Fにおける利得を補正するローパスフィルター処理を行って、第2の動的応答としての固有振動unv_3lp(t)を算出する。
【0247】
図39は、図30の減衰率算出工程S150の手順の一例を示すフローチャート図である。
【0248】
図39に示すように、工程S1501において、計測装置1は、図38の工程S1302で算出した第2の動的応答である固有振動unv_3lp(t)に含まれる振動成分が減衰する区間の少なくとも一部の第1区間Tにおいて、図30の工程S140で算出した包絡線振幅unv_mag(t)を指数関数で近似して指数関数の冪の係数qを算出する。第1区間Tの開始時刻te0は、進出時刻t以降である。例えば、計測装置1は、前出の式(69)のように、第1区間Tにおいて包絡線振幅unv_mag(t)の対数y(t)を1次関数Q(t)で近似し、前出の式(71)により、冪の係数qを算出する。
【0249】
そして、工程S1502において、計測装置1は、前出の式(76)のように、工程S1501で算出した冪の係数qを第2の動的応答である固有振動unv_3lp(t)の固有振動数ω=2πFで除算して減衰率ζを算出する。
【0250】
4.観測装置、計測装置及び監視装置の構成
図40は、観測装置であるセンサー2、計測装置1及び監視装置3の構成例を示す図である。
【0251】
図40に示すように、センサー2は、通信部21と、加速度センサー22と、プロセッサー23と、記憶部24と、を備えている。
【0252】
記憶部24は、プロセッサー23が計算処理や制御処理を行うための各種のプログラムやデータ等を記憶するメモリーである。また、記憶部24は、プロセッサー23が所定のアプリケーション機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶している。
【0253】
加速度センサー22は、3軸の各軸方向に生じる加速度を検出する。
【0254】
プロセッサー23は、記憶部24に記憶された観測プログラム241を実行することにより、加速度センサー22を制御し、加速度センサー22が検出した加速度に基づいて観測データ242を生成し、生成した観測データ242を記憶部24に記憶させる。本実施形態では、観測データ242は、加速度データa(k)である。
【0255】
通信部21は、プロセッサー23の制御により、記憶部24に記憶されている観測データ242を計測装置1に送信する。
【0256】
図40に示すように、計測装置1は、第1通信部11と、第2通信部12と、記憶部13と、プロセッサー14と、を備えている。
【0257】
第1通信部11は、センサー2から観測データ242を受信し、受信した観測データ242をプロセッサー14に出力する。前述の通り、観測データ242は、加速度データa(k)である。
【0258】
記憶部13は、プロセッサー14が計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶するメモリーである。また、記憶部13は、プロセッサー14が所定のアプリケーション機能を実現するための各種のプログラムやデータ等を記憶している。また、プロセッサー14が通信ネットワーク4を介して各種のプログラムやデータ等を受信して記憶部13に記憶させてもよい。
【0259】
プロセッサー14は、第1通信部11が受信した観測データ242及び予め記憶部13に記憶されている環境情報132に基づいて計測データ135を生成し、生成した計測データ135を記憶部13に記憶させる。
【0260】
本実施形態では、プロセッサー14は、記憶部13に記憶された計測プログラム131を実行することにより、観測データ取得部141、第1測定データ生成部142、第2測定データ生成部143、観測情報生成部144、平均速度算出部145、第1たわみ量算出部146、第2たわみ量算出部147、係数算出部148、第3たわみ量算出部149、オフセット算出部150、静的応答算出部151、第1動的応答算出部152、第2動的応答算出部153、包絡線振幅算出部154、減衰率算出部155及び計測データ出力部156として機能する。すなわち、プロセッサー14は、観測データ取得部141、第1測定データ生成部142、第2測定データ生成部143、観測情報生成部144、平均速度算出部145、第1たわみ量算出部146、第2たわみ量算出部147、係数算出部148、第3たわみ量算出部149、オフセット算出部150、静的応答算出部151、第1動的応答算出部152、第2動的応答算出部153、包絡線振幅算出部154、減衰率算出部155及び計測データ出力部156を含む。
【0261】
観測データ取得部141は、第1通信部11が受信した観測データ242を取得し、観測データ133として記憶部13に記憶させる。すなわち、観測データ取得部141は、図30における観測データ取得工程S10の処理を行う。
【0262】
第1測定データ生成部142は、記憶部13に記憶されている観測データ133を読み出し、観測データ133である加速度データa(t)に基づいて、上部構造7を移動する鉄道車両6の複数の車軸の観測点Rへの作用に対する応答である物理量としての加速度に基づく第1の測定データである測定データu(t)を生成する。具体的には、第1測定データ生成部142は、前出の式(1)のように、観測データ133である加速度データa(t)を積分して速度データv(t)を生成し、さらに、前出の式(2)のように、速度データv(t)を積分して測定データu(t)を生成する。すなわち、第1測定データ生成部142は、図30における第1測定データ生成工程S20の処理、具体的には図31の工程S201,S202の処理を行う。
【0263】
第2測定データ生成部143は、第1測定データ生成部142が生成した測定データu(t)をフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データである測定データulp(t)を生成する。例えば、第2測定データ生成部143は、フィルター処理として、測定データu(t)の基本周波数F以上の周波数の振動成分を減衰させるローパスフィルター処理を行う。具体的には、第2測定データ生成部143は、測定データu(t)を高速フーリエ変換処理してパワースペクトラム密度を算出し、パワースペクトラム密度のピークを基本周波数Fとして算出し、測定データu(t)の基本周波数F以上の周波数の振動成分を減衰させるローパスフィルター処理を行って測定データulp(t)を生成する。第2測定データ生成部143は、ローパスフィルター処理として、前出の式(5)のように、基本周波数Fに対応する基本周期Tで測定データu(t)を移動平均処理して測定データulp(t)を生成してもよい。あるいは、第2測定データ生成部143は、ローパスフィルター処理として、測定データu(t)に対して基本周波数F以上の周波数の信号成分を減衰させるFIRフィルター処理を行って測定データulp(t)を生成してもよい。すなわち、第2測定データ生成部143は、図30における第2測定データ生成工程S30の処理、具体的には図32の工程S301,S302の処理を行う。
【0264】
観測情報生成部144は、第2測定データ生成部143が生成した測定データulp(t)に基づいて、鉄道車両6の上部構造7に対する進入時刻t及び進出時刻tを含む観測情報134を生成し、記憶部13に記憶させる。具体的には、まず、観測情報生成部144は、振幅uとして、前出の式(6)により、測定データulp(t)の振幅がシフトしている時刻tから時刻tまでの区間の平均値を算出する。次に、観測情報生成部144は、進入時刻tとして、測定データulp(t)の振幅が予め定められた係数Cと振幅uとの積である閾値Cと一致し、又は、閾値Cを超える第1の時刻を算出する。また、観測情報生成部144は、進出時刻tとして、測定データulp(t)の振幅が閾値Cと一致し、又は、閾値Cを超える、第1の時刻よりも後の第2の時刻を算出する。また、観測情報生成部144は、前出の式(7)のように、通過時間tとして、進出時刻tと進入時刻tとの差を算出する。次に、観測情報生成部144は、前出の式(8)のように、鉄道車両6の車両数Cとして、通過時間tと基本周波数Fとの積tから1を減算した数以下の最大の整数を算出する。そして観測情報生成部144は、進入時刻t、進出時刻t、通過時間t及び車両数Cを含む観測情報134を生成する。すなわち、観測情報生成部144は、図30における観測情報生成工程S40の処理、具体的には図33の工程S401~S406の処理を行う。
【0265】
平均速度算出部145は、記憶部13に記憶されている観測情報134と、予め作成されて記憶部13に記憶されている鉄道車両6の寸法及び上部構造7の寸法を含む環境情報132とに基づいて、鉄道車両6の平均速度vを算出する。具体的には、平均速度算出部145は、環境情報132に基づいて、前出の式(11)により、鉄道車両6の先頭の車軸から最後尾の車軸までの距離Dwa(a(C,a(C)))を算出する。また、平均速度算出部145は、環境情報132に基づいて、上部構造7の進入端から進出端までの距離である上部構造7の長さLを算出する。そして、平均速度算出部145は、観測情報134に含まれる進入時刻t及び進出時刻t、距離Dwa(a(C,a(C)))及び上部構造7の長さLに基づいて、前出の式(12)により、鉄道車両6の平均速度vを算出する。すなわち、平均速度算出部145は、図30における平均速度算出工程S50の処理、具体的には図34の工程S501,S502,S503の処理を行う。
【0266】
第1たわみ量算出部146は、前出の式(35)である上部構造7のたわみの近似式と、記憶部13に記憶されている観測情報134と、記憶部13に記憶されている環境情報132と、平均速度算出部145が算出した鉄道車両6の平均速度vとに基づいて、鉄道車両6による上部構造7の第1のたわみ量であるたわみ量Tstd(t)を算出する。具体的には、まず、第1たわみ量算出部146は、環境情報132に基づいて、前出の式(10)により、鉄道車両6の先頭の車軸からC番目の車両のn番目の車軸までの距離Dwa(a(C,n))を算出する。次に、第1たわみ量算出部146は、環境情報132に含まれる観測点Rの位置Lと、平均速度vとを用いて、前出の式(37)により、鉄道車両6の任意の車軸が上部構造7の進入端から観測点Rの位置Lに至るまでに要する時間txnを算出する。また、第1たわみ量算出部146は、上部構造7の進入端から進出端までの距離である上部構造7の長さLと、平均速度vとを用いて、前出の式(38)により、鉄道車両6の任意の車軸が上部構造7を通過するのに要する時間tlnを算出する。さらに、第1たわみ量算出部146は、観測情報134に含まれる進入時刻tと、距離Dwa(a(C,n))と、平均速度vとを用いて、前出の式(39)により、鉄道車両6のC番目の車両のn番目の車軸が上部構造7の進入端に到達する時刻t(C,n)を算出する。次に、第1たわみ量算出部146は、前出の式(35)である上部構造7のたわみの近似式と、時間txnと、時間tlnと、時刻t(C,n)とを用いて、前出の式(40)により、C番目の車両のn番目の車軸による上部構造7のたわみ量wstd(a(C,n),t)を算出する。次に、第1たわみ量算出部146は、たわみ量wstd(a(C,n),t)を用いて、前出の式(42)により、C番目の車両による上部構造7のたわみ量Cstd(C,t)を算出する。そして、第1たわみ量算出部146は、たわみ量Cstd(C,t)を用いて、前出の式(43)により、鉄道車両6による上部構造7のたわみ量Tstd(t)を算出する。すなわち、第1たわみ量算出部146は、図30における第1たわみ量算出工程S60の処理、具体的には図35の工程S601~S607の処理を行う。
【0267】
第2たわみ量算出部147は、第1たわみ量算出部146が算出したたわみ量Tstd(t)をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量であるたわみ量Tstd_lp(t)を算出する。例えば、第2たわみ量算出部147は、フィルター処理として、たわみ量Tstd(t)の基本周波数F以上の周波数の振動成分を減衰させるローパスフィルター処理を行う。具体的には、第2たわみ量算出部147は、たわみ量Tstd(t)を高速フーリエ変換処理して基本周波数Fとして算出し、たわみ量Tstd(t)の基本周波数F以上の周波数の振動成分を減衰させるローパスフィルター処理を行ってたわみ量Tstd_lp(t)を算出する。第2たわみ量算出部147は、ローパスフィルター処理として、前出の式(46)のように、基本周波数Fに対応する基本周期Tでたわみ量Tstd(t)を移動平均処理してたわみ量Tstd_lp(t)を算出してもよい。あるいは、第2たわみ量算出部147は、ローパスフィルター処理として、たわみ量Tstd(t)に対して基本周波数F以上の周波数の信号成分を減衰させるFIRフィルター処理を行ってたわみ量Tstd_lp(t)を算出してもよい。すなわち、第2たわみ量算出部147は、図30における第2たわみ量算出工程S70の処理、具体的には図36の工程S701,S702の処理を行う。
【0268】
係数算出部148は、第2測定データ生成部143が生成した測定データulp(t)を第2たわみ量算出部147が算出したたわみ量Tstd_lp(t)の1次関数で近似し、当該1次関数の1次係数c及び0次係数cを算出する。具体的には、係数算出部148は、前出の式(47)のように、測定データulp(t)をたわみ量Tstd_lp(t)の1次関数で近似し、最小二乗法を用いて前出の式(49)及び式(50)により、1次係数c及び0次係数cを算出する。すなわち、係数算出部148は、図30における係数算出工程S80の処理を行う。
【0269】
第3たわみ量算出部149は、係数算出部148が算出した1次係数c及び0次係数cと、第2たわみ量算出部147が算出したたわみ量Tstd_lp(t)とに基づいて、第3のたわみ量であるたわみ量TEstd_lp(t)を算出する。具体的には、第3たわみ量算出部149は、前出の式(51)のように、進入時刻tよりも前の区間及び進出時刻tよりも後の区間では1次係数cとたわみ量Tstd_lp(t)との積cstd_lp(t)であり、進入時刻tと進出時刻tとの間の区間では積cstd_lp(t)と0次係数cとの和であるたわみ量TEstd_lp(t)を算出する。すなわち、第3たわみ量算出部149は、図30における第3たわみ量算出工程S90の処理を行う。
【0270】
オフセット算出部150は、係数算出部148が算出した0次係数cと、第2たわみ量算出部147が算出したたわみ量Tstd_lp(t)と、第3たわみ量算出部149が算出したたわみ量TEstd_lp(t)とに基づいて、オフセットToffset_std(t)を算出する。具体的には、オフセット算出部150は、前出の式(54)により、所定区間におけるたわみ量TEstd_lp(t)とたわみ量Tstd_lp(t)との振幅比Rを算出する。そして、オフセット算出部150は、前出の式(55)のように、振幅比Rとたわみ量Tstd_lp(t)との積Rstd_lp(t)の0次係数cよりも小さい区間を0次係数cに置き換えてオフセットToffset_std(t)を算出する。すなわち、オフセット算出部150は、図30におけるオフセット算出工程S100の処理、具体的には図37の工程S1001,S1002の処理を行う。
【0271】
静的応答算出部151は、前出の式(56)のように、係数算出部148が算出した1次係数cと第1たわみ量算出部146が算出したたわみ量Tstd(t)との積cstd(t)と、オフセット算出部150が算出したオフセットToffset_std(t)とを加算して、静的応答としてのたわみ量TEOstd(t)を算出する。すなわち、静的応答算出部151は、図30における静的応答算出工程S110の処理を行う。
【0272】
第1動的応答算出部152は、前出の式(56)のように、第1測定データ生成部142が生成した測定データu(t)から静的応答算出部151が算出した静的応答としてのたわみ量TEOstd(t)を減算して、第1の動的応答としての固有振動unv(t)を算出する。すなわち、第1動的応答算出部152は、図30における第1動的応答算出工程S120の処理を行う。
【0273】
第2動的応答算出部153は、第1動的応答算出部152が算出した第1の動的応答である固有振動unv(t)から不要な信号を減衰させるフィルター処理を行って第2の動的応答としての固有振動unv_3lp(t)を算出する。このフィルター処理は、固有振動unv(t)に含まれる基本周波数Fの振動成分の高調波成分を減衰させるとともに、基本周波数Fにおける利得を補正するローパスフィルター処理を含んでもよい。さらに、このフィルター処理は、基本周波数Fよりも低い周波数の信号成分を減衰させるハイパスフィルター処理を含んでもよい。例えば、第2動的応答算出部153は、前出の式(60)により、固有振動unv(t)から、基本周期Tで固有振動unv(t)を移動平均処理して振動成分を低減させた低域信号成分を減算するハイパスフィルター処理を行って、固有振動unv_hp(t)を算出する。さらに、第2動的応答算出部153は、前出の式(63)により、固有振動unv_hp(t)に含まれる基本周波数Fの振動成分の高調波成分を減衰させるとともに、基本周波数Fにおける利得を補正するローパスフィルター処理を行って、第2の動的応答としての固有振動unv_3lp(t)を算出する。すなわち、第2動的応答算出部153は、図30における第2動的応答算出工程S130の処理、具体的には図38の工程S1301,S1302の処理を行う。
【0274】
包絡線振幅算出部154は、第2動的応答算出部153が算出した第2の動的応答である固有振動unv_3lp(t)の包絡線振幅unv_mag(t)を算出する。具体的には、包絡線振幅算出部154は、前出の式(64)のように、固有振動unv_3lp(t)の絶対値をローパスフィルター処理し、かつ、π/2を乗算して、包絡線振幅unv_mag(t)を算出する。すなわち、包絡線振幅算出部154は、図30における包絡線振幅算出工程S140の処理を行う。
【0275】
減衰率算出部155は、包絡線振幅算出部154が算出した包絡線振幅unv_mag(t)に基づいて、第2動的応答算出部153が算出した第2の動的応答である固有振動unv_3lp(t)に含まれる振動成分の減衰率ζを算出する。具体的には、減衰率算出部155は、第2の動的応答である固有振動unv_3lp(t)に含まれる振動成分が減衰する区間の少なくとも一部の第1区間Tにおいて、包絡線振幅unv_mag(t)を指数関数で近似して指数関数の冪の係数qを算出する。第1区間Tの開始時刻te0は、進出時刻t以降である。例えば、減衰率算出部155は、前出の式(69)のように、第1区間Tにおいて包絡線振幅unv_mag(t)の対数y(t)を1次関数Q(t)で近似し、前出の式(71)により、冪の係数qを算出する。そして、減衰率算出部155は、前出の式(76)のように、冪の係数qを固有振動unv_3lp(t)の固有振動数ω=2πFで除算して減衰率ζを算出する。すなわち、減衰率算出部155は、図30における減衰率算出工程S150の処理、具体的には図39の工程S1501,S1502の処理を行う。
【0276】
減衰率ζは、計測データ135の少なくとも一部として記憶部13に記憶される。計測データ135は、減衰率ζに加えて、測定データu(t),ulp(t)、たわみ量Tstd(t),Tstd_lp(t),TEstd_lp(t),TEOstd(t)、固有振動unv(t),unv_3lp(t)、包絡線振幅unv_mag(t)等を含んでもよい。
【0277】
計測データ出力部156は、記憶部13に記憶されている計測データ135を読み出し、計測データ135を監視装置3に出力する。具体的には、計測データ出力部156の制御により、第2通信部12が、記憶部13に記憶されている計測データ135を、通信ネットワーク4を介して、監視装置3に送信する。すなわち、計測データ出力部156は、図30における計測データ出力工程S160の処理を行う。
【0278】
このように、計測プログラム131は、図30に示したフローチャートの各手順を、コンピューターである計測装置1に実行させるプログラムである。
【0279】
図40に示すように、監視装置3は、通信部31と、プロセッサー32と、表示部33と、操作部34と、記憶部35と、を備えている。
【0280】
通信部31は、計測装置1から計測データ135を受信し、受信した計測データ135をプロセッサー32に出力する。
【0281】
表示部33は、プロセッサー32の制御により、各種の情報を表示させる。表示部33は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイであってもよい。ELは、Electro Luminescenceの略である。
【0282】
操作部34は、ユーザーによる操作に対応する操作データをプロセッサー32に出力する。操作部34は、例えば、マウス、キーボード、マイクロフォン等の入力装置であってもよい。
【0283】
記憶部35は、プロセッサー32が計算処理や制御処理を行うための各種のプログラムやデータ等を記憶するメモリーである。また、記憶部35は、プロセッサー32が所定のアプリケーション機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶している。
【0284】
プロセッサー32は、通信部31が受信した計測データ135を取得し、取得した計測データ135に基づいて上部構造7の変位の経時的な変化を評価して評価情報を生成し、生成した評価情報を表示部33に表示させる。
【0285】
本実施形態では、プロセッサー32は、記憶部35に記憶された監視プログラム351を実行することにより、計測データ取得部321及び監視部322として機能する。すなわち、プロセッサー32は、計測データ取得部321及び監視部322を含む。
【0286】
計測データ取得部321は、通信部31が受信した計測データ135を取得し、取得した計測データ135を記憶部35に記憶される計測データ列352に追加する。
【0287】
監視部322は、記憶部35に記憶される計測データ列352に基づいて、統計的に上部構造7のたわみ量の経時的な変化を評価する。そして、監視部322は、評価結果を示す評価情報を生成し、生成した評価情報を表示部33に表示させる。ユーザーは、表示部33に表示される評価情報に基づいて、上部構造7の状態を監視することができる。
【0288】
監視部322は、記憶部35に記憶される計測データ列352に基づいて、鉄道車両6の監視や上部構造7の異常判定等の処理を行ってもよい。
【0289】
また、プロセッサー32は、操作部34から出力される操作データに基づいて、計測装置1やセンサー2の動作状況を調整するための情報を、通信部31を介して計測装置1に送信する。計測装置1は、第2通信部12を介して受信した情報によって動作状況が調整される。また、計測装置1は、第2通信部12を介して受信したセンサー2の動作状況を調整するための情報を、第1通信部11を介してセンサー2に送信する。センサー2は、通信部21を介して受信した情報によって動作状況が調整される。
【0290】
なお、プロセッサー14,23,32は、例えば各部の機能が個別のハードウェアで実現されてもよいし、或いは各部の機能が一体のハードウェアで実現されてもよい。例えば、プロセッサー14,23,32はハードウェアを含み、そのハードウェアは、デジタル信号を処理する回路及びアナログ信号を処理する回路の少なくとも一方を含むことができる。プロセッサー14,23,32は、CPU、GPU、或いはDSP等であってもよい。CPUはCentral Processing Unitの略であり、GPUはGraphics Processing Unitの略であり、DSPはDigital Signal Processorの略である。また、プロセッサー14,23,32は、ASICなどのカスタムICとして構成され、各部の機能を実現してもよいし、CPUとASICとによって各部の機能を実現してもよい。ASICはApplication Specific Integrated Circuitの略であり、ICはIntegrated Circuitの略である。
【0291】
また、記憶部13,24,35は、例えば、ROMやフラッシュROM、RAM等の各種ICメモリーやハードディスク、メモリーカードなどの記録媒体等により構成される。ROMはRead Only Memoryの略であり、RAMはRandom Access Memoryの略であり、ICはIntegrated Circuitの略である。記憶部13,24,35は、コンピューターにより読み取り可能な装置や媒体である不揮発性の情報記憶装置を含み、各種のプログラムやデータ等は当該情報記憶装置に記憶されていてもよい。情報記憶装置は、光ディスクDVD、CD等の光ディスク、ハードディスクドライブ、或いはカード型メモリーやROM等の各種のメモリー等であってもよい。
【0292】
なお、図40ではセンサー2は1つのみ図示されているが、複数のセンサー2がそれぞれ観測データ242を生成し、計測装置1に送信してもよい。この場合、計測装置1は、複数のセンサー2から送信された複数の観測データ242を受信して複数の計測データ135を生成し、監視装置3に送信する。また、監視装置3は、計測装置1から送信された複数の計測データ135を受信し、受信した複数の計測データ135に基づいて、複数の上部構造7の状態を監視する。
【0293】
5.作用効果
以上に説明した本実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、測定データu(t)をフィルター処理して振動成分を低減させた測定データulp(t)を、たわみ量Tstd(t)をフィルター処理して振動成分を低減させたたわみ量Tstd_lp(t)の1次関数で近似することにより、測定データu(t)に含まれる静的応答及び動的応答から静的応答を分離して算出することができる。
【0294】
また、本実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、測定データulp(t)を近似する1次関数の1次項である1次係数cとたわみ量Tstd(t)との積cstd(t)は鉄道車両6の荷重に比例する上部構造7の変位に相当し、オフセットToffset_std(t)は上部構造7のあそびや浮き等の鉄道車両6の荷重に比例しない変位に相当するので、積cstd(t)とオフセットToffset_std(t)とを加算することにより、静的応答を精度良く算出することができる。
【0295】
また、本実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、測定データu(t)に含まれる基本周波数F以上の振動成分が減衰された測定データulp(t)をたわみ量Tstd_lp(t)の1次関数で近似することにより、当該1次関数の1次係数c及び0次係数cの算出精度が向上するので、静的応答を精度良く算出することができる。
【0296】
また、本実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、前出の式(55)により、鉄道車両6が上部構造7を通過する区間では上部構造7のあそびや浮き等の鉄道車両6の荷重に比例しない変位が生じ、それ以外の区間では上部構造7の変位が生じないことを反映したオフセットToffset_std(t)を算出するので、静的応答を精度良く算出することができる。
【0297】
また、本実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、前出の式(8)により、鉄道車両6の上部構造7への進入時刻t及び進出時刻tに基づいて鉄道車両6の車両数Cを算出することができるので、車両数Cが未知の鉄道車両6が上部構造7を移動したときの静的応答を精度良く算出することができる。
【0298】
また、本実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、振動成分が低減された測定データulp(t)に基づいて、鉄道車両6の上部構造7への進入時刻t及び進出時刻tを精度よく算出することができるので、静的応答を精度良く算出することができる。
【0299】
また、本実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、前出の式(57)により、測定データu(t)から精度良く算出された静的応答であるたわみ量TEOstd(t)を減算して第1の動的応答である固有振動unv(t)を算出し、さらに、不要な信号を減衰させるフィルター処理を行うことにより、第2の動的応答である固有振動unv_3lp(t)を精度よく算出することができる。
【0300】
特に、計測装置1は、固有振動unv(t)に対して、基本周波数Fよりも低い周波数の信号成分を減衰させるハイパスフィルター処理を行うことにより、低周波ノイズや環境振動等に起因する信号成分が低減された固有振動unv_hp(t)が得られる。さらに、計測装置1は、固有振動unv_hp(t)に対して、基本周波数Fの振動成分の高調波成分を減衰させるとともに、基本周波数Fにおける利得を補正するローパスフィルター処理を行うことにより、高調波成分が低減されて基本周波数の信号成分が強調された固有振動unv_3lp(t)が得られる。したがって、本実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、精度良く算出された第2の動的応答である固有振動unv_3lp(t)の包絡線振幅unv_mag(t)に基づいて、動的応答の減衰率を精度良く算出することができる。
【0301】
また、本実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、センサー2から出力される加速度データa(t)に基づいて測定データu(t)を生成し、測定データu(t)と橋梁5の上部構造7の構造を反映した構造モデルに基づくたわみの近似式である式(35)とに基づいて、鉄道車両6による上部構造7のたわみ量Tstd(t)を算出する。そして、計測装置1は、測定データu(t)とたわみ量Tstd(t)とを用いた比較的簡単な処理で、鉄道車両6が上部構造7を移動したときの動的応答の減衰率を算出する。したがって、本実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、計算量が比較的小さい処理で動的応答の減衰率を算出することができる。
【0302】
また、本実施形態の計測方法によれば、実際には鉄道車両6の速度はわずかに変化するもののほとんど変化しないため、計測装置1は、鉄道車両6が一定の平均速度vで走行するものとして、平均速度vに基づいてたわみ量Tstd(t)を算出することにより、たわみ量Tstd(t)の計算精度を維持しつつ計算量を大幅に低減させることができる。
【0303】
また、本実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、直接的に鉄道車両6の平均速度vを測定することなく、センサー2から出力される加速度データa(t)に基づいて、式(13)による簡易な計算によって鉄道車両6の平均速度vを算出することができる。
【0304】
6.変形例
本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0305】
上記の各実施形態では、観測装置であるセンサー2は、加速度データa(k)を出力する加速度センサーであるが、観測装置は加速度センサーに限られない。例えば、観測装置は、衝撃センサー、感圧センサー、歪計、画像測定装置、ロードセル又は変位計であってもよい。
【0306】
衝撃センサーは、鉄道車両6の各車軸の観測点Rへの作用に対する応答として衝撃加速度を検出する。感圧センサー、歪計、ロードセルは、鉄道車両6の各車軸の観測点Rへの作用に対する応答として応力変化を検出する。画像測定装置は、画像処理により、鉄道車両6の各車軸の観測点Rへの作用に対する応答として変位を検出する。変位計は、例えば、接触式変位計、リング式変位計、レーザー変位計、感圧センサー又は光ファイバーによる変位計測機器等であり、鉄道車両6の各車軸の観測点Rへの作用に対する応答として変位を検出する。
【0307】
一例として、図41に、観測装置としてリング式変位計を用いた計測システム10の構成例を示す。また、図42に、観測装置として画像測定装置を用いた計測システム10の構成例を示す。図41及び図42において、図1と同じ構成要素には同じ符号が付されており、その説明を省略する。図41に示す計測システム10では、リング式変位計40の上面とその直上にある主桁Gの下面との間にピアノ線41が固定されており、リング式変位計40が上部構造7の撓みによるピアノ線41の変位を計測し、計測した変位データを計測装置1に送信する。計測装置1は、リング式変位計40から送信され変位データに基づいて計測データ135を生成する。また、図42に示す計測システム10では、カメラ50が、主桁Gの側面に設けられたターゲット51を撮影した画像を計測装置1に送信する。計測装置1は、カメラ50から送信された画像を処理し、上部構造7の撓みによるターゲット51の変位を算出して変位データを生成し、生成した変位データに基づいて計測データ135を生成する。図42の例では、計測装置1が、画像測定装置として変位データを生成しているが、計測装置1とは異なる不図示の画像測定装置が画像処理によって変位データを生成してもよい。
【0308】
また、上記の各実施形態では、橋梁5は鉄道橋であり、橋梁5を移動する移動体は鉄道車両6であるが、橋梁5が道路橋であり、橋梁5を移動する移動体が自動車、路面電車、トラック、建設車両等の車両であってもよい。図43に、橋梁5が道路橋であり、橋梁5を車両6aが移動する場合の計測システム10の構成例を示す。図43において、図1と同じ構成要素には同じ符号が付されている。図43に示すように、道路橋である橋梁5は、鉄道橋と同様、上部構造7と下部構造8からなる。図44は、上部構造7を図43のA-A線で切断した断面図である。図43及び図44に示すように、上部構造7は、床板F、主桁G、不図示の横桁等からなる橋床7aと、支承7bと、を含む。また、図43に示すように、下部構造8は、橋脚8aと、橋台8bと、を含む。上部構造7は、隣り合う橋台8bと橋脚8a、隣り合う2つの橋台8b、又は、隣り合う2つの橋脚8aのいずれか1つに渡された構造である。上部構造7の両端部は、隣り合う橋台8bと橋脚8aの位置、隣り合う2つの橋台8bの位置、又は、隣り合う2つの橋脚8aの位置にある。橋梁5は、例えば、鋼橋や桁橋、RC橋等である。
【0309】
各センサー2は上部構造7の長手方向の中央部、具体的には、主桁Gの長手方向の中央部に設置されている。ただし、各センサー2は、上部構造7の変位を算出するための加速度を検出することができればよく、その設置位置は上部構造7の中央部に限定されない。なお、各センサー2を上部構造7の床板Fに設けると、車両6aの走行によって破壊するおそれがあり、また橋床7aの局部的な変形により測定精度が影響を受けるおそれがあるため、図43及び図44の例では、各センサー2は上部構造7の主桁Gに設けられている。
【0310】
図44に示すように、上部構造7は、移動体である車両6aが移動し得る2つのレーンL,L及び3個の主桁Gを有している。図43及び図44の例では、上部構造7の長手方向の中央部において、両端の2つの主桁のそれぞれにセンサー2が設けられており、一方のセンサー2の鉛直上方向にあるレーンLの表面の位置に観測点Rが設けられ、他方のセンサー2の鉛直上方向にあるレーンLの表面の位置に観測点Rが設けられている。すなわち、2つのセンサー2は、それぞれ観測点R,Rを観測する観測装置である。観測点R,Rをそれぞれ観測する2つのセンサー2は、車両6aの走行により観測点R,Rに生じる加速度を検出可能な位置に設けられていればよいが、観測点R,Rに近い位置に設けられることが望ましい。なお、センサー2の数及び設置位置やレーンの数は、図43及び図44に示した例には限定されず種々の変形実施が可能である。
【0311】
計測装置1は、各センサー2から出力される加速度データに基づいて、車両6aの走行によるレーンL,Lの撓みの変位を算出し、レーンL,Lの変位の情報を、通信ネットワーク4を介して、監視装置3に送信する。監視装置3は、当該情報を不図示の記憶装置に記憶し、例えば、当該情報に基づいて車両6aの監視や上部構造7の異常判定等の処理を行ってもよい。
【0312】
また、上記の各実施形態では、各センサー2は、それぞれ上部構造7の主桁Gに設けられているが、上部構造7の表面や内部、床板Fの下面、橋脚8a等に設けられていてもよい。また、上記の各実施形態では、構造物として橋梁の上部構造を例に挙げたが、これに限られず、構造物は移動体の移動によって変形するものであればよい。
【0313】
また、上記の各実施形態では、計測装置1は、観測点Rを観測する観測装置から出力される観測データに基づいて進入時刻tを算出しているが、上部構造7の進入端を観測する他の観測装置から出力される観測データに基づいて進入時刻tを算出してもよい。同様に、上記の各実施形態では、計測装置1は、観測点Rを観測する観測装置から出力される観測データに基づいて進出時刻tを算出しているが、上部構造7の進出端を観測する他の観測装置から出力される観測データに基づいて進出時刻tを算出してもよい。
【0314】
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0315】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0316】
上述した実施形態および変形例から以下の内容が導き出される。
【0317】
計測方法の一態様は、
構造物の観測点を観測する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記構造物を移動する移動体の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量に基づく第1の測定データを生成する第1測定データ生成工程と、
前記第1の測定データをフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データを生成する第2測定データ生成工程と、
前記移動体の前記構造物に対する進入時刻及び進出時刻を含む観測情報を生成する観測情報生成工程と、
前記観測情報と、予め作成された前記移動体の寸法及び前記構造物の寸法を含む環境情報とに基づいて、前記移動体の平均速度を算出する平均速度算出工程と、
前記構造物のたわみの近似式と、前記観測情報と、前記環境情報と、前記平均速度とに基づいて、前記移動体による前記構造物の第1のたわみ量を算出する第1たわみ量算出工程と、
前記第1のたわみ量をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量を算出する第2たわみ量算出工程と、
前記第2の測定データを前記第2のたわみ量の1次関数で近似し、前記1次関数の1次係数及び0次係数を算出する係数算出工程と、
前記1次係数及び前記0次係数と、前記第2のたわみ量とに基づいて、第3のたわみ量を算出する第3たわみ量算出工程と、
前記0次係数と、前記第2のたわみ量と、前記第3のたわみ量とに基づいて、オフセットを算出するオフセット算出工程と、
前記1次係数と前記第1のたわみ量との積と、前記オフセットとを加算して、静的応答を算出する静的応答算出工程と、
前記第1の測定データから前記静的応答を減算して、第1の動的応答を算出する第1動的応答算出工程と、
前記第1の動的応答から不要な信号を減衰させるフィルター処理を行って第2の動的応答を算出する第2動的応答算出工程と、
前記第2の動的応答の包絡線振幅を算出する包絡線振幅算出工程と、
前記包絡線振幅に基づいて、前記第2の動的応答に含まれる振動成分の減衰率を算出する減衰率算出工程と、
を含む。
【0318】
この計測方法によれば、第1の測定データをフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データを、第1のたわみ量をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量の1次関数で近似することにより、第1の測定データに含まれる静的応答及び動的応答から静的応答を分離して算出することができる。
【0319】
また、この計測方法によれば、第1のたわみ量を近似する1次関数の1次項である1次係数と第1のたわみ量との積は移動体の荷重に比例する構造物の変位に相当し、オフセットは構造物のあそびや浮き等の移動体の荷重に比例しない変位に相当するので、1次係数と第1のたわみ量との積とオフセットとを加算することにより、静的応答を精度良く算出することができる。
【0320】
また、この計測方法によれば、第1の測定データから精度良く算出された静的応答を減算し、さらに、不要な信号を減衰させるフィルター処理を行うことにより、第2の動的応答を精度よく算出することができる。したがって、この計測方法によれば、精度良く算出された第2の動的応答の包絡線振幅に基づいて、動的応答の減衰率を精度良く算出することができる。
【0321】
また、この計測方法では、観測データに基づいて生成される第1の測定データと、構造物のたわみの近似式に基づいて生成される第1のたわみ量とを用いた比較的簡単な処理で、移動体が構造物を移動したときの動的応答の減衰率が算出される。したがって、この計測方法によれば、計算量が比較的小さい処理で動的応答の減衰率を算出することができる。
【0322】
また、この計測方法によれば、実際には移動体の速度はわずかに変化するもののほとんど変化しないため、移動体が一定の平均速度で移動するものとして、平均速度に基づいて第1のたわみ量を算出することにより、第1のたわみ量の計算精度を維持しつつ計算量を大幅に低減させることができる。
【0323】
前記計測方法の一態様において、
前記減衰率算出工程では、
前記第2の動的応答に含まれる前記振動成分が減衰する区間の少なくとも一部の第1区間において前記包絡線振幅を指数関数で近似して前記指数関数の冪の係数を算出し、前記冪の係数を前記第2の動的応答の固有振動数で除算して前記減衰率を算出してもよい。
【0324】
前記計測方法の一態様において、
前記進出時刻は、前記移動体の前記複数の部位のうちの最後尾の部位が前記構造物の進出端を通過した時刻であり、
前記第1区間の開始時刻は、前記進出時刻以降であってもよい。
【0325】
前記計測方法の一態様において、
前記第1の動的応答から不要な信号を減衰させる前記フィルター処理は、前記第1の動的応答に含まれる基本周波数の振動成分の高調波成分を減衰させるとともに、前記基本周波数における利得を補正するローパスフィルター処理を含んでもよい。
【0326】
この計測方法によれば、高調波成分が低減されて基本周波数の信号成分が強調された第2の動的応答の包絡線振幅が得られるので、当該包絡線振幅に基づいて動的応答の減衰率を高い精度で算出することができる。
【0327】
前記計測方法の一態様において、
前記第1の動的応答から不要な信号を減衰させる前記フィルター処理は、前記基本周波数よりも低い周波数の信号成分を減衰させるハイパスフィルター処理を含んでもよい。
【0328】
この計測方法によれば、高調波成分とともに低周波ノイズや環境振動等に起因する信号成分が低減されて基本周波数の信号成分が強調された第2の動的応答の包絡線振幅が得られるので、当該包絡線振幅に基づいて動的応答の減衰率を高い精度で算出することができる。
【0329】
前記計測方法の一態様において、
前記包絡線振幅算出工程では、
前記第2の動的応答の絶対値をローパスフィルター処理し、かつ、π/2を乗算して、前記包絡線振幅を算出してもよい。
【0330】
前記計測方法の一態様において、
前記構造物は、橋梁の上部構造であってもよい。
【0331】
この計測方法によれば、計算量が比較的小さい処理で移動体が橋梁の上部構造を移動したときの動的応答に含まれる振動成分の減衰率を算出することができる。
【0332】
前記計測方法の一態様において、
前記移動体は、車両又は鉄道車両であり、
前記複数の部位のそれぞれは車軸又は車輪であってもよい。
【0333】
この計測方法によれば、計算量が比較的小さい処理で車両又は鉄道車両が構造物を移動したときの動的応答に含まれる振動成分の減衰率を算出することができる。
【0334】
前記計測方法の一態様において、
前記構造物のたわみの近似式は、前記構造物の構造モデルに基づく式であってもよい。
【0335】
この計測方法によれば、移動体が移動する構造物の構造を反映した第1のたわみ量を算出し、動的応答に含まれる振動成分の減衰率を精度良く算出することができる。
【0336】
前記計測方法の一態様において、
前記構造モデルは、両端を支持した単純梁であってもよい。
【0337】
この計測方法によれば、移動体が単純梁に近い構造の構造物を移動したときの動的応答に含まれる振動成分の減衰率を精度良く算出することができる。
【0338】
前記計測方法の一態様において、
前記観測装置は、加速度センサー、衝撃センサー、感圧センサー、歪計、画像測定装置、ロードセル又は変位計であってもよい。
【0339】
この計測方法によれば、加速度、応力変化又は変位のデータを用いて動的応答に含まれる振動成分の減衰率を精度良く計測することができる。
【0340】
前記計測方法の一態様において、
前記構造物は、BWIM(Bridge Weigh in Motion)が機能する構造であってもよい。
【0341】
計測装置の一態様は、
構造物の観測点を観測する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記構造物を移動する移動体の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量に基づく第1の測定データを生成する第1測定データ生成部と、
前記第1の測定データをフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データを生成する第2測定データ生成部と、
前記移動体の前記構造物に対する進入時刻及び進出時刻を含む観測情報を生成する観測情報生成部と、
前記観測情報と、予め作成された前記移動体の寸法及び前記構造物の寸法を含む環境情報とに基づいて、前記移動体の平均速度を算出する平均速度算出部と、
前記構造物のたわみの近似式と、前記観測情報と、前記環境情報と、前記平均速度とに基づいて、前記移動体による前記構造物の第1のたわみ量を算出する第1たわみ量算出部と、
前記第1のたわみ量をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量を算出する第2たわみ量算出部と、
前記第2の測定データを前記第2のたわみ量の1次関数で近似し、前記1次関数の1次係数及び0次係数を算出する係数算出部と、
前記1次係数及び前記0次係数と、前記第2のたわみ量とに基づいて、第3のたわみ量を算出する第3たわみ量算出部と、
前記0次係数と、前記第2のたわみ量と、前記第3のたわみ量とに基づいて、オフセットを算出するオフセット算出部と、
前記1次係数と前記第1のたわみ量との積と、前記オフセットとを加算して、静的応答を算出する静的応答算出部と、
前記第1の測定データから前記静的応答を減算して、第1の動的応答を算出する第1動的応答算出部と、
前記第1の動的応答から不要な信号を減衰させるフィルター処理を行って第2の動的応答を算出する第2動的応答算出部と、
前記第2の動的応答の包絡線振幅を算出する包絡線振幅算出部と、
前記包絡線振幅に基づいて、前記第2の動的応答に含まれる振動成分の減衰率を算出する減衰率算出部と、
を含む。
【0342】
この計測装置によれば、第1の測定データをフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データを、第1のたわみ量をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量の1次関数で近似することにより、第1の測定データに含まれる静的応答及び動的応答から静的応答を分離して算出することができる。
【0343】
また、この計測装置によれば、第1のたわみ量を近似する1次関数の1次項である1次係数と第1のたわみ量との積は移動体の荷重に比例する構造物の変位に相当し、オフセットは構造物のあそびや浮き等の移動体の荷重に比例しない変位に相当するので、1次係数と第1のたわみ量との積とオフセットとを加算することにより、静的応答を精度良く算出することができる。
【0344】
また、この計測装置によれば、第1の測定データから精度良く算出された静的応答を減算し、さらに、不要な信号を減衰させるフィルター処理を行うことにより、第2の動的応答を精度よく算出することができる。したがって、この計測装置によれば、精度良く算出された第2の動的応答の包絡線振幅に基づいて、動的応答の減衰率を精度良く算出することができる。
【0345】
また、この計測装置では、観測データに基づいて生成される第1の測定データと、構造物のたわみの近似式に基づいて生成される第1のたわみ量とを用いた比較的簡単な処理で、移動体が構造物を移動したときの動的応答の減衰率が算出される。したがって、この計測装置によれば、計算量が比較的小さい処理で動的応答の減衰率を算出することができる。
【0346】
また、この計測装置によれば、実際には移動体の速度はわずかに変化するもののほとんど変化しないため、移動体が一定の平均速度で移動するものとして、平均速度に基づいて第1のたわみ量を算出することにより、第1のたわみ量の計算精度を維持しつつ計算量を大幅に低減させることができる。
【0347】
計測システムの一態様は、
前記計測装置の一態様と、
前記観測装置と、
を備える。
【0348】
計測プログラムの一態様は、
構造物の観測点を観測する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記構造物を移動する移動体の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量に基づく第1の測定データを生成する第1測定データ生成工程と、
前記第1の測定データをフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データを生成する第2測定データ生成工程と、
前記移動体の前記構造物に対する進入時刻及び進出時刻を含む観測情報を生成する観測情報生成工程と、
前記観測情報と、予め作成された前記移動体の寸法及び前記構造物の寸法を含む環境情報とに基づいて、前記移動体の平均速度を算出する平均速度算出工程と、
前記構造物のたわみの近似式と、前記観測情報と、前記環境情報と、前記平均速度とに基づいて、前記移動体による前記構造物の第1のたわみ量を算出する第1たわみ量算出工程と、
前記第1のたわみ量をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量を算出する第2たわみ量算出工程と、
前記第2の測定データを前記第2のたわみ量の1次関数で近似し、前記1次関数の1次係数及び0次係数を算出する係数算出工程と、
前記1次係数及び前記0次係数と、前記第2のたわみ量とに基づいて、第3のたわみ量を算出する第3たわみ量算出工程と、
前記0次係数と、前記第2のたわみ量と、前記第3のたわみ量とに基づいて、オフセットを算出するオフセット算出工程と、
前記1次係数と前記第1のたわみ量との積と、前記オフセットとを加算して、静的応答を算出する静的応答算出工程と、
前記第1の測定データから前記静的応答を減算して、第1の動的応答を算出する第1動的応答算出工程と、
前記第1の動的応答から不要な信号を減衰させるフィルター処理を行って第2の動的応答を算出する第2動的応答算出工程と、
前記第2の動的応答の包絡線振幅を算出する包絡線振幅算出工程と、
前記包絡線振幅に基づいて、前記第2の動的応答に含まれる振動成分の減衰率を算出する減衰率算出工程と、をコンピューターに実行させる。
【0349】
この計測プログラムによれば、第1の測定データをフィルター処理して振動成分を低減させた第2の測定データを、第1のたわみ量をフィルター処理して振動成分を低減させた第2のたわみ量の1次関数で近似することにより、第1の測定データに含まれる静的応答及び動的応答から静的応答を分離して算出することができる。
【0350】
また、この計測プログラムによれば、第1のたわみ量を近似する1次関数の1次項である1次係数と第1のたわみ量との積は移動体の荷重に比例する構造物の変位に相当し、オフセットは構造物のあそびや浮き等の移動体の荷重に比例しない変位に相当するので、1次係数と第1のたわみ量との積とオフセットとを加算することにより、静的応答を精度良く算出することができる。
【0351】
また、この計測プログラムによれば、第1の測定データから精度良く算出された静的応答を減算することにより、第1の動的応答を精度よく算出することができる。
【0352】
また、この計測プログラムによれば、第1の測定データから精度良く算出された静的応答を減算し、さらに、不要な信号を減衰させるフィルター処理を行うことにより、第2の動的応答を精度よく算出することができる。したがって、この計測プログラムによれば、精度良く算出された第2の動的応答の包絡線振幅に基づいて、動的応答の減衰率を精度良く算出することができる。
【0353】
また、この計測プログラムでは、観測データに基づいて生成される第1の測定データと、構造物のたわみの近似式に基づいて生成される第1のたわみ量とを用いた比較的簡単な処理で、移動体が構造物を移動したときの動的応答の減衰率が算出される。したがって、この計測プログラムによれば、計算量が比較的小さい処理で動的応答の減衰率を算出することができる。
【0354】
また、この計測プログラムによれば、実際には移動体の速度はわずかに変化するもののほとんど変化しないため、移動体が一定の平均速度で移動するものとして、平均速度に基づいて第1のたわみ量を算出することにより、第1のたわみ量の計算精度を維持しつつ計算量を大幅に低減させることができる。
【符号の説明】
【0355】
1…計測装置、2…センサー、3…監視装置、4…通信ネットワーク、5…橋梁、6…鉄道車両、6a…車両、7…上部構造、7a…橋床、7b…支承、7c…レール、7d…枕木、7e…バラスト、F…床板、G…主桁、8…下部構造、8a…橋脚、8b…橋台、10…計測システム、11…第1通信部、12…第2通信部、13…記憶部、14…プロセッサー、21…通信部、22…加速度センサー、23…プロセッサー、24…記憶部、31…通信部、32…プロセッサー、33…表示部、34…操作部、35…記憶部、40…リング式変位計、41…ピアノ線、50…カメラ、51…ターゲット、131…計測プログラム、132…環境情報、133…観測データ、134…観測情報、135…計測データ、141…観測データ取得部、142…第1測定データ生成部、143…第2測定データ生成部、144…観測情報生成部、145…平均速度算出部、146…第1たわみ量算出部、147…第2たわみ量算出部、148…係数算出部、149…第3たわみ量算出部、150…オフセット算出部、151…静的応答算出部、152…第1動的応答算出部、153…第2動的応答算出部、154…包絡線振幅算出部、155…減衰率算出部、156…計測データ出力部、241…観測プログラム、242…観測データ、321…計測データ取得部、322…監視部、351…監視プログラム、352…計測データ列
図1
図2
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