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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/14 20160101AFI20241210BHJP
【FI】
H02P6/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021125015
(22)【出願日】2021-07-30
(65)【公開番号】P2023019931
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀宣
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-176220(JP,A)
【文献】特開2008-289355(JP,A)
【文献】特開2010-268673(JP,A)
【文献】特開2010-119220(JP,A)
【文献】特開2009-240041(JP,A)
【文献】特開2002-325493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転センサからの検出信号に基づいて、モータにおけるロータの回転位置を取得し、前記回転位置に応じて前記モータを通電制御するものであり、
前記ロータの回転速度が学習回転速度に達すると前記モータへの通電を停止し、前記モータのコイルに発生する誘起電圧と前記回転センサからの前記検出信号とを用いて、前記ロータと前記回転センサの位置ずれを補正するための補正量を学習値として取得する学習部(S33,S34)と、
前記学習値を不揮発性メモリに記憶する記憶部(S35,S36)と、
前記回転速度が前記学習回転速度に達するまでは、前記不揮発性メモリから前記学習値を読み出した前回の前記学習値を用いて前記位置ずれを補正して前記モータを通電制御し、前記回転速度が前記学習回転速度に達し、かつ、前記学習部にて前記学習値を取得した後は、前記学習部にて取得した最新の前記学習値を用いて前記位置ずれを補正して前記モータを通電制御する通電制御部(S32)と、を備えているモータ制御装置。
【請求項2】
前記学習部は、前記学習値を取得していない場合のみ前記学習値を取得する請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記記憶部は、規定範囲内の前記学習値のみを記憶対象として前記不揮発性メモリに記憶する請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記学習部は、前記通電制御を開始してから前記回転速度が学習回転速度を下回らない場合は、前記学習値の取得を行わない請求項1~3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ制御装置の一例として、特許文献1に開示されたブラシレスモータ制御装置がある。
【0003】
ブラシレスモータ制御装置は、ロータの所定回転後であって、ロータの回転が定常回転よりも低速回転域に、ステータコイルの全相への通電を停止してロータの慣性回転期間を設定する。ブラシレスモータ制御装置は、ロータの慣性回転期間においてステータコイルの少なくとも一相の誘起電圧を検出する。ブラシレスモータ制御装置は、ロータの慣性回転期間内で得た誘起電圧と、ロータの回転位置を検出する回転センサからの検出信号とから相互の位相差を検出し、位相差に基づいて通電タイミングの補正に用いる回転センサのズレ角を検出する。そして、ブラシレスモータ制御装置は、回転センサに生じ得る角度ズレに対応して通電タイミングを補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5144337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ブラシレスモータ制御装置は、低速回転域の慣性回転期間において誘起電圧を検出してズレ角を検出する。よって、ブラシレスモータ制御装置は、低速回転域に達しないとズレ角を検出しない。このため、ブラシレスモータ制御装置は、補正できない期間が生じてしまうという問題がある。
【0006】
開示される一つの目的は、回転センサに生じる位置ずれを常時補正できるモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示されたモータ制御装置は、
回転センサからの検出信号に基づいて、モータにおけるロータの回転位置を取得し、回転位置に応じてモータを通電制御するものであり、
ロータの回転速度が学習回転速度に達するとモータへの通電を停止し、モータのコイルに発生する誘起電圧と回転センサからの検出信号とを用いて、ロータと回転センサの位置ずれを補正するための補正量を学習値として取得する学習部(S33,S34)と、
学習値を不揮発性メモリに記憶する記憶部(S35,S36)と、
回転速度が学習回転速度に達するまでは、不揮発性メモリから学習値を読み出した前回の学習値を用いて位置ずれを補正してモータを通電制御し、回転速度が学習回転速度に達し、かつ、学習部にて学習値を取得した後は、学習部にて取得した最新の学習値を用いて位置ずれを補正してモータを通電制御する通電制御部(S32)と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
このように、モータ制御装置は、学習値を不揮発性メモリに記憶しておく。よって、モータ制御装置は、回転速度が学習回転速度に達するまでは、不揮発性メモリに記憶した学習値を用いて補正することができる。
【0009】
また、モータ制御装置は、回転速度が学習回転速度に達すると学習値を取得する。よって、モータ制御装置は、学習値を取得した後は、最新の学習値を用いて補正することができる。
【0010】
この明細書において開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態におけるブロワモータ制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】実施形態におけるブロワモータ制御装置の処理動作を示すフローチャートである。
図3】実施形態におけるブロワモータ制御装置のモータ作動時の処理動作を示すフローチャートである。
図4】実施形態におけるブロワモータ制御装置の通常通電時の処理動作を示すフローチャートである。
図5】実施形態における電源投入時の回転速度が学習速度を超えていない場合のタイムチャートである。
図6】実施形態における電源投入時の回転速度が学習速度を超えている場合のタイムチャートである。
図7】実施形態における学習処理を行わない場合のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態を説明する。
【0013】
本実施形態では、一例として、本開示のモータ制御装置を車両用のブロワモータ制御装置100に適用した例を採用する。ブロワモータ制御装置100は、車載エアコンの送風に用いられる、所謂ブロワモータを制御するものである。よって、以下におけるモータ30は、ブロワモータを示している。しかしながら、本開示のモータ制御装置は、ブロワモータとは異なるモータを制御するものであってもよい。本開示のモータ制御装置は、電動ファンモータを制御する装置にも適用できる。
【0014】
ブロワモータ制御装置100は、少なくともマイコン10を備えている。しかしながら、本実施形態では、一例として、マイコン10に加えて、インバータ回路20、ホール素子41、コンパレータ42、分圧回路50、電流センサ60、チョークコイル71、逆接防止FET72などの回路要素を備えた構成を採用している。なお、マイコン10は、モータ制御装置に相当するともいえる。
【0015】
ブロワモータ制御装置100は、モータ30、バッテリ200、エアコンECU300と電気的に接続されている。ブロワモータ制御装置100は、モータ30と一体的に構成されていてもよい。ブロワモータ制御装置100とモータ30とが一体化された構造体は、モータユニットともいえる。モータユニットは、例えば、ブロワモータ制御装置100を収容するケースに、モータ30が取り付けられている。しかしながら、ブロワモータ制御装置100は、これに限定されず、モータ30と別体に設けられていてもよい。
【0016】
<インバータ回路>ぶ
インバータ回路20は、モータ30のステータ31のコイルに供給する電力をスイッチングする。例えば、インバータFET21A,21Dは、U相のコイル31Uに、インバータFET21B,21EはV相のコイル31Vに、インバータFET21C,21FはW相のコイル31Wに、各々供給する電力のスイッチングを行う。
【0017】
インバータFET21A,21B,21Cの各々のドレインは、ノイズ除去用のチョークコイル71を介して車載のバッテリ200の正極に接続されている。また、インバータFET21D,21E,21Fの各々のソースは、逆接防止FET72を介してバッテリ200の負極に接続されている。インバータ回路20は、駆動部に相当する。
【0018】
<モータ>
図1に示すように、モータ30は、ステータ31、ロータマグネット32を備えている。また、モータ30は、これらの他に、ロータ、シャフト、ファンなどを備えている。モータ30は、ブラシレス三相モータである。
【0019】
ステータ31は、コア部材にコイル31U,31V,31Wが巻かれた電磁石であって、U相,V相,W相の三相を構成している。ステータ31のU相,V相,W相の各々は、ブロワモータ制御装置100の制御により、電磁石で発生する磁界の極性が切り替えられることで回転磁界を発生する。
【0020】
ロータマグネット32は、ロータの内側に設けられている。ロータマグネット32は、ステータ31で生じた回転磁界に対応することにより、ロータを回転させる。ロータには、シャフトが設けられている。シャフトは、ロータと一体になって回転する。シャフトには、所謂シロッコファン等のファンが設けられている。車載エアコンは、ファンがシャフトとともに回転することにより送風が可能となる。
【0021】
<検出部>
ホール素子41は、各相に対応したホールセンサを有している。ホール素子41は、シャフトと同軸に設けられたロータマグネット32の磁界をロータの回転位置を示す磁界として検出する。ホール素子41は、検出した検出信号(出力信号)をマイコン10に出力する。ホール素子41は、回転センサに相当する。
【0022】
コンパレータ42は、マイナス側入力端子に各相コイル31U,31V,31Wの中性点が接続され、プラス側入力端子にU相コイル31Uの一端が接続されている。コンパレータ42には、U相コイル31Uの相電圧(駆動電圧と誘起電圧との合成電圧)が入力される。そして、コンパレータ42は、U相コイル31Uの相電圧のうちで誘起電圧に対応した信号を出力する。このため、コンパレータ42は、誘起電圧を検出するための回路部品といえる。
【0023】
分圧回路50は、サーミスタ51Aと抵抗51Bとを有している。サーミスタ51Aは、回路の基板の温度に応じて抵抗値が変化するので、分圧回路50が出力する信号の電圧は基板の温度に応じて変化する。電流センサ60は、シャント抵抗60Aとシャント抵抗60Aの両端の電位差を増幅するアンプ60Bとを有している。
【0024】
<マイコン>
マイコン10は、例えば、上記各回路要素とともに、基板に実装されている。マイコン10は、CPU11、揮発性メモリ12、不揮発性メモリ13、入出力インターフェース、およびこれらを接続するバス等を備えたマイクロコンピュータである。マイコン10は、インバータ回路20、ホール素子41、コンパレータ42、分圧回路50、電流センサ60、バッテリ200、エアコンECU300と電気的に接続されている。
【0025】
CPU11は、不揮発性メモリ13に記憶されたプログラムを実行することで、揮発性メモリ12に記憶されたデータや入出力インターフェースで取得した信号を用いて演算を実行する。マイコン10は、CPU11がプログラムを実行することで処理動作を行う。
【0026】
不揮発性メモリ13は、CPU11によって行される種々のプログラムを格納している。また、不揮発性メモリ13には、後ほど説明する学習値が書き換え可能に記憶される。
【0027】
CPU11は、揮発性メモリ12の一部を学習フラグとして用いる。学習フラグは、学習値を不揮発性メモリ13に記憶したか否かを示す値が設定される。CPU11は、例えば、学習値を不揮発性メモリ13に記憶した場合に学習フラグの値を1とし、学習値を不揮発性メモリ13に記憶してない場合に学習フラグの値を0とする。また、学習フラグの値は、マイコン10への電源供給が停止すると0になる。つまり、マイコン10は、動作電源の供給が開始(電源投入)から動作電源の供給が停止(電源オフ)するまでに、学習値を取得して不揮発性メモリ13に記憶した場合に、学習フラグの値を1とする。このため、学習フラグは、電源投入から電源オフまでに、学習値を不揮発性メモリ13に記憶したか否かを示す情報といえる。言い換えると、学習フラグは、電源投入から電源オフまでに、学習処理を実行したか否かを示す情報である。よって、学習フラグは、不揮発性メモリ13に学習値が記憶されていても、電源供給が停止すると0になる。
【0028】
なお、学習フラグの値としての1は、学習値を不揮発性メモリ13に記憶したことを示す情報といえる。学習フラグの値としての0は、学習値を不揮発性メモリ13に記憶してないことを示す情報といえる。また、学習値を不揮発性メモリ13に記憶したことを示す情報は、不揮発性メモリ13への学習値の記憶が完了したことを示す情報ともいえる。一方、学習値を不揮発性メモリ13に記憶してないことを示す情報は、不揮発性メモリ13への学習値の記憶が未完了であることを示す情報ともいえる。
【0029】
しかしながら、本開示は、これに限定されない。CPU11は、学習値を不揮発性メモリ13に記憶したことを示す情報、および学習値を不揮発性メモリ13に記憶してないことを示す情報を揮発性メモリ12に記憶してもよい。なお、学習値や学習処理などに関しては、後ほど詳しく説明する。
【0030】
マイコン10は、ホール素子41により検出された磁界(検出信号)に基づいてロータの回転速度および位置(回転位置)を取得する。マイコン10は、コンパレータ42から出力された、U相コイル31Uの誘起電圧に対応した信号を取得する。なお、ロータの回転速度や回転位置は、モータ30の回転速度や回転位置ともいえる。
【0031】
なお、マイコン10は、分圧回路50から出力される信号の電圧の変化に基づいて、基板の温度を算出してもよい。本実施形態では、便宜上、分圧回路50から出力される信号をサーミスタ51Aの検知結果に基づく信号とする。また、本実施形態では、サーミスタ51Aの検知結果に基づいて算出された基板の温度を、サーミスタ51Aが検知した基板の温度とする。マイコン10は、アンプ60Bが出力した信号に基づいて、インバータ回路20の電流値を算出してもよい。
【0032】
マイコン10には、エアコンのスイッチ操作に対応してエアコンを制御するエアコンEU300からの回転数の指令値を含む制御信号が入力される。エアコンのスイッチ操作には種々の場合がある。モータ30(ロータ)の回転を低下させる操作には、エアコンの風量を低下させる操作およびエアコンの設定温度を高くする操作等がある。例えば、エアコンの風量を低下させるスイッチ操作およびエアコンの設定温度を高くするスイッチ操作が行われると、エアコンECU300は、モータ30の回転数を低下させる指令をマイコン10に出力する。なお、エアコンECU300は、上位ECUともいえる。よって、制御信号は、上位指令ともいえる。
【0033】
また、マイコン10は、例えば、エアコンECU300からの制御信号、並びに、ホール素子41からの信号に基づくロータの回転速度および回転位置に基づいて、インバータ回路20のスイッチングの制御に係るPWM制御のデューティ比を算出する。PWMは、Pulse Width Modulationの略称である。マイコン10は、デューティ比の電圧を生成するようにインバータ回路20のスイッチングを制御する。このように、マイコン10は、インバータ回路20を介してモータ30を通電制御する。なお、ブロワモータ制御装置100は、マイコン10とインバータ回路20との間にドライバ回路を備えていてもよい。この場合、マイコン10は、ドライバ回路を介してインバータ回路20をスイッチング制御する。
【0034】
ところで、不揮発性メモリ13には、各種機能を含むプログラムを有しているといえる。よって、マイコン10は、プログラムを実行することで各種機能を実行することができる。マイコン10は、機能ごとに表すことができる。つまり、マイコン10は、機能ブロックとして、補正部11aを備えている。
【0035】
ロータ(ロータマグネット32)とホール素子41は、ホール素子41を実装する際の実装誤差や、ホール素子41の経年劣化などによる特性ばらつきによって生じる。補正部11aは、ロータとホール素子41の位置ずれを補正する。補正部11aは、位置ずれを補正するための補正量(電気角)を学習値として取得する。
【0036】
例えば、補正部11aは、ロータが学習速度に達するとモータ30への通電を停止する。補正部11aは、各相コイル31U,31V,31Wへの通電を停止すべくインバータFET21A~21Fを全てオフさせる。これは、コンパレータ42に入力するU相コイル31Uの相電圧を誘起電圧のみとするためである。つまり、各相31U,31V,31Wに生じる誘起電圧は、ロータの実磁極位置を反映するものであり、各ホールセンサの理想位置を示すものである。したがって、ロータを所定回転速度で回転させた後の慣性回転で各相コイル31U,31V,31Wに誘起電圧を生じさせ、その中でU相コイル31Uの誘起電圧を利用する。学習速度は、学習回転速度に相当する。
【0037】
そして、補正部11aは、モータ30への通電を停止すると、モータ30のU相コイル31U,V相コイル31V,W相コイル31Wのそれぞれに発生する誘起電圧を取得(検出)する。本実施形態では、一例として、U相コイル31Uの誘起電圧を取得する例を採用する。補正部11aは、誘起電圧とホール素子41からの検出信号とを用いて学習値を取得する。また、補正部11aは、取得した学習値に基づいて、位置ずれを補正する。
【0038】
なお、学習値の取得方法および補正方法は、例えば、特許第5144337号公報などに記載の方法を適用することができる。しかしながら、学習値の取得方法および補正方法は、これに限定されず、ロータの回転速度が学習速度に達するとモータ30への通電を停止し、誘起電圧とホール素子41からの検出信号とを用いて学習値を取得するものであれば採用できる。
【0039】
学習速度は、モータ30への通電を停止するか否かを判断するための基準値である。モータ30は、高速回転時に通電を停止させると、異音等を生じ、ユーザに違和感を与える可能性がある。そこで、学習速度は、モータ30の起動時の回転速度が上昇する途中の低速回転域が好ましい。つまり、補正部11aは、低電流でトルクリプルも小さく異音等が生じにくい回転数が低い状態で、モータ30への通電を遮断することが好ましい。
【0040】
学習値を取得する処理は、学習処理ともいえる。また、位置ずれを補正する処理は、補正処理ともいえる。補正部11aは、マイコン10とは別体に設けられていてもよい。
【0041】
<処理動作>
ここで、図2図7を用いて、ブロワモータ制御装置100の処理動作に関して説明する。図2図4は、主にマイコン10が実行する処理を示したフローチャートである。マイコン10は、電源が投入されると図2のフローチャートに示す処理を開始する。言い換えると、マイコン10は、自身に対して動作電源が供給されると起動して、図2のフローチャートに示す処理を開始する。また、マイコン10は、電源オフするまで図2のフローチャートに示す処理を行う。
【0042】
ステップS10では、初期値設定処理を行う。マイコン10は、今回の補正処理で用いる学習値(使用学習値)として、前回の学習処理で取得した学習値(前回学習値)を設定する。また、補正処理で用いる学習値は、回転速度や学習値の記憶状況によって変わってくる。このため、ステップS10で設定する使用学習値は、仮の学習値ともいえる。
【0043】
マイコン10は、不揮発性メモリ13から前回学習値を読み出す。そして、マイコン10は、読みだした前回学習値を今回の補正処理で用いるために揮発性メモリ12などに記憶する。
【0044】
ステップS20では、メイン処理を行う。マイコン10は、メイン処理として、エアコンECU300からの制御信号に応じて、モータ30の駆動(作動)や駆動の停止などを行う。マイコン10は、メイン処理の一つとして、図3のフローチャートに示す処理を開始する。詳述すると、マイコン10は、エアコンECU300からの制御信号として、モータ30の作動を示す上位指令に応じて、モータ30を作動させる。
【0045】
ここで、図3を用いて、マイコン10のモータ作動処理に関して説明する。なお、図3のフローチャートは、補正部11aでの処理とみなすことができる。
【0046】
ステップS31では、学習フラグ=完了であるか否かを判定する。マイコン10は、学習フラグの値に基づいて、電源投入から電源オフの間に、不揮発性メモリ13への学習値の記憶が完了しているか否かを判定する。つまり、マイコン10は、学習フラグの値に基づいて、今回の電源投入後から電源オフするまでの間に学習処理を行ったか否かを判定する。
【0047】
マイコン10は、学習フラグの値が1の場合、不揮発性メモリ13への学習値の記憶が完了しているとみなしてステップS32へ進む。また、マイコン10は、学習フラグの値が0の場合、不揮発性メモリ13への学習値の記憶が未完了であるとみなしてステップS33へ進む。
【0048】
後ほど説明するが、ステップS33では、学習処理を行う。このため、マイコン10は、学習値を取得していない場合のみ学習値を取得する。これによって、マイコン10は、不揮発性メモリ13の書き込み回数または消去回数を抑制できる。
【0049】
しかしながら、本開示は、学習フラグを備えていなくてもよい。つまり、本開示は、電源投入から電源オフまでに、学習処理を実行したか否かを判定する必要がない場合は学習フラグを備えていなくてもよい。例えば、本開示は、モータ30の停止から駆動させるたびに学習処理を行う場合は、学習フラグおよび学習フラグの値を判定する処理(ステップS31)を備えていなくてもよい。この場合、マイコン10は、常時、最新の学習値を用いて補正処理を行うことができる。
【0050】
ステップS33では、学習用通電処理を行う(学習部)。マイコン10は、学習値を取得するために、モータ30を通電制御して学習値を取得する。ステップS33は、最新の学習値を取得するための処理である。マイコン10は、誘起電圧とホール素子41からの検出信号とを用いて学習値を取得する。
【0051】
ここで、図5図6図7を用いて、学習処理に関して説明する。図5図7では、タイミングt1が電源投入のタイミングである。タイミングt2は、エアコンECU300からモータ30の作動を示す上位指令の開始タイミングである。一点鎖線は、上位指令を示している。実線は、モータ30の回転速度を示している。
【0052】
図5の例では、タイミングt1以降に回転速度が学習速度に達していない期間が存在する。そして、マイコン10は、回転速度が学習速度に達したタイミングt3から、タイミングt4の期間で学習処理を行う。不揮発性メモリ13には、タイミングt1~t4の期間であっても前回学習値が記憶されている。このため、マイコン10は、タイミングt1~t4の期間においても学習値を用いて補正処理を行うことができる。よって、マイコン10は、回転速度が学習速度に達するまでは、不揮発性メモリ13から学習値を読み出した前回学習値を用いて補正処理を行い、モータ30を通電制御する。
【0053】
また、ブロワモータ制御装置100は、例えば、車両の窓が開いた状態で高速で走行しているときなどにモータ30が高負荷となる。
【0054】
このような状況では、図6に示すように、回転速度が学習速度を超えた状態からの起動となる。つまり、マイコン10は、回転速度を学習速度に向けて減速させるため、上位指令(指令回転速度)とは異なる動作をする。この場合であっても、マイコン10は、タイミングt1~t4の期間においても学習値を用いて補正処理を行うことができる。
【0055】
なお、図7に示すように、回転速度が学習速度を超えた状態からの起動となった場合に、マイコン10は、減速動作を避け上位指令にしたがって加速させることもできる。この場合、回転速度が学習速度にならないため学習処理を行わない。しかしながら、マイコン10は、不揮発性メモリ13から学習値を読み出した前回学習値を用いて補正処理を行い、モータ30を通電制御することができる。
【0056】
ステップS34では、学習値は範囲内であるか否かを判定する(学習部)。マイコン10は、ステップS33で取得した学習値が、予め規定された範囲内であるか否かを判定する。つまり、マイコン10は、ステップS33で取得した学習値と、範囲を規定する上限値および下限値とを比較する。なお、ここでの範囲は、学習値として取り得る、すなわち想定可能な範囲である。また、ここでの範囲は、学習値に基づいて補正を行った場合に、モータ30へ通電が正常範囲内で行われるとみなせる範囲といえいる。範囲は、規定範囲に相当する。このように、マイコン10は、ステップS33で取得した学習値が補正に用いることができるか否かを判定する。
【0057】
マイコン10は、ステップS33で取得した学習値が範囲内と判定した場合はステップS35へ進む。言い換えると、マイコン10は、範囲内と判定した場合は、ステップS33で取得した学習値が補正に用いることができるとみなしてステップS35へ進む。
【0058】
一方、マイコン10は、ステップS33で取得した学習値が範囲内と判定しなかった場合はステップS38へ進む。言い換えると、マイコン10は、範囲内と判定しなかった場合は、ステップS33で取得した学習値が補正に用いることができないとみなしてステップS38へ進む。
【0059】
ステップS38では、学習フラグに未完了を設定する。つまり、マイコン10は、学習フラグに0を設定する。このように、マイコン10は、ステップS33で取得した学習値が範囲外と判定した場合、その学習値を不揮発性メモリ13に記憶することなくステップS32へ進むことになる。しかしながら、本開示は、これに限定されず、ステップS34、S38を省略してもよい。
【0060】
しかしながら、本開示は、これに限定されない。マイコン10は、例えば、ステップS34でNO判定の場合、補正に用いる学習値としてデフォルト値を採用してもよい。そして、マイコン10は、ステップS38に進むことなく、ステップS36へ進む。よって、マイコン10は、ステップS36において、学習値としてデフォルト値を不揮発性メモリ13に記憶する。この場合、ステップS38は省略してもよい。
【0061】
ステップS35では、学習値を今回学習値とする(記憶部)。そして、ステップS36では、不揮発性メモリ13に記憶する(記憶部)。マイコン10は、補正に用いる学習値として、ステップS33で取得した学習値(今回学習値)を採用する。そして、マイコン10は、今回学習値を不揮発性メモリ13に記憶する。つまり、マイコン10は、ステップS10で設定した学習値を今回学習値で上書き更新する。また、マイコン10は、ステップS10で設定した学習値にかえて、今回学習値を不揮発性メモリ13に記憶するともいえる。なお、今回学習値は、最新学習値ともいえる。
【0062】
本実施形態では、ステップS34でYES判定の場合に限って、今回学習値を不揮発性メモリ13に記憶する。つまり、マイコン10は、範囲内の学習値のみを記憶対象として不揮発性メモリ13に記憶する。これによって、マイコン10は、不適切な学習値を記憶することを抑制できる。また、マイコン10は、モータ30に対して正常ではない通電を行うことを抑制できるともいえる。
【0063】
ステップS37では、学習フラグに完了を設定する。つまり、マイコン10は、学習フラグに1を設定する。このように、マイコン10は、ステップS33で取得した学習値が範囲内と判定した場合、その学習値を不揮発性メモリ13に記憶してステップS32へ進むことになる。なお、ステップS34を省略した場合、マイコン10は、ステップS33で取得した学習値を不揮発性メモリ13に記憶してステップS32へ進むことになる。
【0064】
ステップS32では、通常通電処理を行う(通電制御部)。マイコン10は、図4に示すように、通常通電処理を行う。つまり、マイコン10は、学習値を用いて補正処理を行う(S40)。このとき、マイコン10は、最新学習値を用いて補正処理を行うことができる。そして、マイコン10は、エアコンECU300からの制御信号に応じて、インバータ回路20介してモータ30への通電処理を行う(S41)。このように、マイコン10は、回転速度が学習速度に達し、かつ、学習値を取得した後は、最新学習値を用いて位置ずれを補正してモータ30を通電制御することができる。マイコン10は、例えば図5のタイミングt4以降において、最新学習値を用いて位置ずれを補正してモータ30を通電制御する
【0065】
<効果>
このように、ブロワモータ制御装置100は、学習値を不揮発性メモリ13に記憶しておく。よって、モータ制御装置は、回転速度が学習速度に達するまでは、不揮発性メモリ13に記憶した学習値を用いて補正することができる。また、ブロワモータ制御装置100は、回転速度が学習速度に達すると学習値を取得する。よって、ブロワモータ制御装置100は、学習値を取得した後は、最新の学習値を用いて補正することができる。このように、ブロワモータ制御装置100は、ホール素子41に生じる位置ずれを常時補正できる。
【0066】
したがって、ブロワモータ制御装置100は、位置ずれに伴ってモータ30の静音性やモータ性能が低下することを常時抑制できる。つまり、ブロワモータ制御装置100は、位置ずれが生じていたとしても、モータ30の静音性やモータ性能を常時確保することができる。
【0067】
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態が本開示に示されているが、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範畴や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0068】
10…マイコン、11…CPU、11a…補正部、12…揮発性メモリ、13…不揮発性メモリ、20…インバータ回路、21A~21F…インバータFET、30…モータ、31…ステータ、31U,31V,31W…コイル、32…ロータマグネット、40…ホール素子、50…分圧回路、51A…サーミスタ、51B…抵抗、60…電流センサ、60A…シャント抵抗、60B…アンプ、71…チョークコイル、72…逆接防止FET、100…ブロワモータ制御装置、200…バッテリ、300…エアコンECU
図1
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図7