(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】負極活物質層およびアルカリ蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/02 20060101AFI20241210BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241210BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20241210BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20241210BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/62 C
H01M4/42
H01M4/48
(21)【出願番号】P 2021158977
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】陶山 博司
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-064061(JP,A)
【文献】特開昭49-119127(JP,A)
【文献】特開2014-026951(JP,A)
【文献】特開平08-069793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ蓄電池に用いられる負極活物質層であって、
前記負極活物質層は、Zn系活物質と、添加材と、を含有し、
前記添加材は、Mg、SrおよびLaの少なくとも一種を含み、
前記添加材は、濃度6Mの水酸化カリウム水溶液に対する溶解度(25℃)が、120mg/L以下であり、
前記添加材は、水酸化物、酸化物、フッ化物、リン酸塩、ピロリン酸塩またはチタン酸塩であり、
前記Zn系活物質に対する前記添加材の割合が、
20重量%以上、
40重量%以下である、負極活物質層。
【請求項2】
前記添加材は、Mg(OH)
2
、Mg
2
P
2
O
7
、Mg
2
TiO
3
、Mg
3
(PO
4
)
2
、MgO、MgF
2
、SrF
2
およびLaF
3
の少なくとも一種を含む、請求項1に記載の負極活物質層。
【請求項3】
前記添加材は、Mg
2
P
2
O
7
を少なくとも含む、請求項1に記載の負極活物質層。
【請求項4】
前記添加材は、Mg
2
TiO
3
を少なくとも含む、請求項1に記載の負極活物質層。
【請求項5】
前記添加材は、LaF
3
を少なくとも含む、請求項1に記載の負極活物質層。
【請求項6】
前記負極活物質層は、前記Zn系活物質として、Zn単体、Zn合金、Zn酸化物およびZn水酸化物の少なくとも一種を含有する、請求項1から
請求項5までのいずれかの請求項に記載の負極活物質層。
【請求項7】
正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に配置された電解質層と、を有するアルカリ蓄電池であって、
前記負極活物質層が、請求項1から
請求項6までのいずれかの請求項に記載の負極活物質層である、アルカリ蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、負極活物質層およびアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ蓄電池の負極活物質として、Zn系活物質が知られている。例えば特許文献1には、少なくとも亜鉛合金粉末、ゲル化剤およびアルカリ水溶液を含有するアルカリ電池用ゲル状負極組成物が開示されている。さらに、特許文献1には、水酸化マグネシウム粉末を亜鉛合金粉末に対して0.01~0.2wt%含有させることが開示されている。また、特許文献2には、亜鉛陰極を有するアルカリ性二次的電気化学発生器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4914983号
【文献】特開2013-016506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Zn系活物質は、例えば希土類元素を含む活物質(例えば、Ni-MH電池に用いられる水素吸蔵合金)に比べて、環境負荷が少なく、コスト面も有利である。一方、Zn系活物質を用いた場合、サイクル特性が低い傾向にある。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、良好なサイクル特性を有する負極活物質層を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示においては、アルカリ蓄電池に用いられる負極活物質層であって、上記負極活物質層は、Zn系活物質と、添加材と、を含有し、上記添加材は、Mg、SrおよびLaの少なくとも一種を含み、上記添加材は、濃度6Mの水酸化カリウム水溶液に対する溶解度(25℃)が、120mg/L以下であり、上記Zn系活物質に対する上記添加材の割合が、1重量%以上、60重量%以下である、負極活物質層を提供する。
【0006】
本開示によれば、所定の添加材を、所定の割合で含有することから、良好なサイクル特性を有する負極活物質層となる。
【0007】
上記開示において、上記添加材は、水酸化物、酸化物、フッ化物、リン酸塩、ピロリン酸塩またはチタン酸塩であってもよい。
【0008】
上記開示において、上記添加材は、Mgを含む水酸化物であってもよい。
【0009】
上記開示において、上記添加材は、Mgを含む、酸化物、フッ化物、リン酸塩、ピロリン酸塩またはチタン酸塩であってもよい。
【0010】
上記開示において、上記添加材は、SrおよびLaの少なくとも一種を含むフッ化物であってもよい。
【0011】
上記開示において、上記Zn系活物質に対する上記添加材の割合は、35重量%より大きく、60重量%以下であってもよい。
【0012】
上記開示において、上記負極活物質層は、上記Zn系活物質として、Zn単体、Zn合金、Zn酸化物およびZn水酸化物の少なくとも一種を含有していてもよい。
【0013】
また、本開示においては、正極活物質層と、負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に配置された電解質層と、を有するアルカリ蓄電池であって、上記負極活物質層が、上述した負極活物質層である、アルカリ蓄電池を提供する。
【0014】
本開示によれば、上述した負極活物質層を用いることで、良好なサイクル特性を有するアルカリ蓄電池となる。
【発明の効果】
【0015】
本開示における負極活物質層は、良好なサイクル特性を有するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示におけるアルカリ蓄電池を例示する概略断面図である。
【
図2】実施例1~5および比較例1で得られた評価用電池に対するサイクル安定性の評価結果である。
【
図3】実施例6~10および比較例1で得られた評価用電池に対するサイクル安定性の評価結果である。
【
図4】実施例10~12および比較例1~3で得られた評価用電池に対するサイクル安定性の評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、負極活物質層およびアルカリ蓄電池について、詳細に説明する。
【0018】
A.負極活物質層
本開示における負極活物質層は、アルカリ蓄電池に用いられ、Zn系活物質と、添加材と、を含有する。添加材は、Mg、SrおよびLaの少なくとも一種を含む。また、添加材は、濃度6Mの水酸化カリウム水溶液に対する溶解度(25℃)が、120mg/L以下である。また、Zn系活物質に対する添加材の割合は、通常、1重量%以上、60重量%以下である。
【0019】
本開示によれば、所定の添加材を、所定の割合で含有することから、良好なサイクル特性を有する負極活物質層となる。上述したように、Zn系活物質は、例えば希土類元素を含む活物質(例えば、Ni-MH電池に用いられる水素吸蔵合金)に比べて、環境負荷が少なく、コスト面も有利である。一方、Zn系活物質を用いた場合、サイクル特性が低い傾向にある。サイクル特性が低い理由の一つとして、ZnOのシェイプチェンジと呼ばれる現象が知られている。
【0020】
ZnOのシェイプチェンジは、ZnOの溶解析出場が局在化することで、活物質の利用率が低下する現象である。ZnOのシェイプチェンジについて化学反応式を用いて説明する。下記式(1)に記載するように、充放電時に負極では、金属亜鉛の電析-溶出反応が生じる。
Zn+2OH- ⇔ ZnО+H2O+2e- 式(1)
【0021】
式(1)は、厳密には、下記式(2)および式(3)から構成されている。式(2)および式(3)は、電解液中に溶解したZn(OH)4
2-の濃度を、ZnOの溶解-析出反応により維持する反応機構を示している。
Zn+4OH- ⇔ Zn(OH)4
2-+2e- 式(2)
Zn(OH)4
2- ⇔ ZnO+H2O+2ОH- 式(3)
【0022】
Zn(OH)4
2-の溶解度は、電解液の環境(例えば、溶質の濃度、電解液の温度)に対して応答性を有する。電解液の環境は、充放電反応時に電池内で不均一になる。それに伴い、電解液におけるZn(OH)4
2-の濃度も不均一になる。そのため、Zn(OH)4
2-の濃度が高いところで優先的にZnOが析出し、結果として、ZnOのシェイプチェンジ(ZnからZnOが生じる際に、その形状が変化すること)が生じる。
【0023】
これに対して、本開示においては、Mg、SrおよびLaの少なくとも一種を含み、かつ、電解液(アルカリ溶液)に対して難溶性を有する添加材を用いることで、サイクル特性が向上する。その理由は、電解液に対して難溶性を有する添加材が、ピラーとして機能することで、ZnOの溶解析出場が局在化することを抑制したためであると推測される。さらに、添加材がMg、SrおよびLaの少なくとも一種を含み、これらの元素とZn(OH)4
2-との親和性が高いことで、ZnOの溶解析出場が局在化することを抑制したためであると推測される。なお、本開示における難溶性は、不溶性を包含する概念である。
【0024】
また、特許文献2の[0064]には、「亜鉛酸塩の溶解性を減少させるために、ZnOに対しておよそ5から35重量%の割合で、活物質内に、例えば水酸化カルシウムCa(OH)2などのアルカリ土類水酸化物を加えることもまた有利である。」と記載されている。一般的に、アルカリ土類金属とは、周期律における第2族に属する元素に該当し、かつ、第4周期以降の元素をいう。具体的に、アルカリ土類金属とは、Ca、Sr、Ba、Raの4種の元素をいう。一方、後述する実施例では、添加剤としてMg(OH)2を用いている。Mgは、周期律における第2族に属する元素に該当するが、通常、アルカリ土類金属には分類されない。Mg(およびBe)は、原子半径が小さく、共有結合性を有し、アルカリ土類金属とは化学的性質が大きく異なるためである。参考までに、純水に対する溶解度になるものの、Ca(OH)2は1700mg/Lであるのに対して、Mg(OH)2は12mg/Lである。
【0025】
本開示における負極活物質層は、Zn系活物質と、添加材と、を含有する。負極活物質層は、導電材およびバインダーをさらに含有していてもよい。
【0026】
(1)添加材
本開示における添加材は、Mg、SrおよびLaの少なくとも一種を含む。また、添加材は、電解液(アルカリ溶液)に対して難溶性を有する。本開示においては、難溶性の指標として、濃度6Mの水酸化カリウム水溶液に対する溶解度(25℃)を採用する。具体的に、上記溶解度が120mg/L以下である場合に、添加材が電解液に対して難溶性を有すると判断できる。なお、溶解度が120mg/L以下である場合は、溶質1.2gを溶解させるための溶媒量が10000mL(10L)以上であることと同義である。上記溶解度は、100mg/L以下であってもよく、50mg/L以下であってもよく、25mg/L以下であってもよく、10mg/L以下であってもよく、1mg/L以下であってもよい。上記溶解度は、濃度6Mの水酸化カリウム水溶液に添加材を加え、25℃で一晩静置し、水溶液中に溶出した添加材の量を、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置で測定することにより特定できる。
【0027】
添加材は、Mgを少なくとも含有していてもよい。この場合、添加材は、カチオン成分として、Mgのみを含有していてもよく、Mgを主成分として含有し、さらに他の金属元素を含有していてもよい。本開示において、「主成分」とは、モル割合が最も多いことをいう。
【0028】
添加材は、Srを少なくとも含有していてもよい。この場合、添加材は、カチオン成分として、Srのみを含有していてもよく、Srを主成分として含有し、さらに他の金属元素を含有していてもよい。また、添加材は、Laを少なくとも含有していてもよい。この場合、添加材は、カチオン成分として、Laのみを含有していてもよく、Laを主成分として含有し、さらに他の金属元素を含有していてもよい。
【0029】
添加材は、水酸化物、酸化物、フッ化物、ピロリン酸塩、チタン酸塩またはリン酸塩であることが好ましい。水酸化物は、水酸化物イオン(OH-)を、アニオン成分の主成分として含有する化合物である。酸化物は、酸素イオン(O2-)を、アニオン成分の主成分として含有する化合物である。フッ化物は、フッ化物イオン(F-)を、アニオン成分の主成分として含有する化合物である。リン酸塩は、リン酸イオン(PO4
3-)を、アニオン成分の主成分として含有する化合物である。ピロリン酸塩は、ピロリン酸イオン(P2O7
4-)を、アニオン成分の主成分として含有する化合物である。チタン酸塩は、チタン酸イオン(TiO3
4-)を、アニオン成分の主成分として含有する化合物である。
【0030】
なお、フッ化物は、溶解度が低い場合が多い。参考までに、純水に対する溶解度になるものの、MgF2は87mg/Lであり、SrF2は、117mg/Lである。
【0031】
添加材の具体例としては、Mg(OH)2、Mg2P2O7、Mg2TiO3、Mg3(PO4)2、MgO、MgF2、SrF2、LaF3が挙げられる。負極活物質層は、添加材を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0032】
添加材の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。添加材の平均粒径(D50)は、例えば、1μm以上、300μm以下である。平均粒径(D50)は、いわゆるメディアン径であり、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0033】
負極活物質層において、Zn系活物質に対する添加材の割合は、通常、1重量%以上であり、5重量%以上であってもよく、10重量%以上であってもよい。添加材の割合が少なすぎると、十分にサイクル特性が向上しない可能性がある。一方、Zn系活物質に対する添加材の割合は、通常、60重量%以下である。添加材の割合が多すぎると、Zn系活物質の割合が相対的に少なくなり、体積エネルギー密度が低下する可能性がある。また、Zn系活物質に対する添加材の割合は、例えば35重量%より大きくてもよく、37重量%以上であってもよく、40重量%以上であってもよい。
【0034】
(2)Zn系活物質
Zn系活物質は、亜鉛(Zn)元素を含有する。Zn系活物質としては、Zn単体、Zn合金、Zn酸化物、Zn水酸化物が挙げられる。Zn合金は、Znを主成分とする合金であることが好ましい。Zn合金におけるZnの割合は、例えば50atm%以上であり、70atm%以上であってもよく、90atm%以上であってもよい。Zn合金は、例えば、In、Al、Bi、MgおよびCaの少なくとも一種をさらに含有していてもよい。Zn酸化物としては、例えばZnOが挙げられる。また、Zn水酸化物としては、例えばZn(OH)2が挙げられる。負極活物質層は、Zn系活物質を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0035】
Zn系活物質の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。Zn系活物質の平均粒径(D50)は、例えば、1μm以上、300μm以下である。負極活物質層におけるZn系活物質の割合は、例えば50重量%以上であり、70重量%以上であってもよい。一方、負極活物質層におけるZn系活物質の割合は、例えば100重量%未満である。
【0036】
(3)負極活物質層
負極活物質層は、導電材およびバインダーの少なくとも一つをさらに含有していてもよい。導電材を用いることで、負極活物質層の電子伝導性が向上する。導電材としては、例えば、Ni粉末等の金属粉末;酸化コバルト等の酸化物;グラファイト、カーボンナノチューブ等のカーボン材料が挙げられる。また、バインダーとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム等のゴム系バインダー;カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系バインダー;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂系バインダーが挙げられる。また、本開示における負極活物質層は、通常、アルカリ蓄電池に用いられる。
【0037】
B.アルカリ蓄電池
図1は、本開示におけるアルカリ蓄電池を例示する概略断面図である。
図1に示すアルカリ蓄電池10は、正極活物質としてNi(OH)
2を含有する正極活物質層1と、上述した負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成され、電解液(アルカリ溶液)を含有する電解質層3と、を有する。
図1に示すアルカリ蓄電池10は、いわゆるニッケル-亜鉛電池(Ni-Zn電池)に該当し、以下の反応が生じる。
正極:NiOOH+H
2O+e
- ⇔ Ni(OH)
2+OH
-
負極:Zn+2OH
- ⇔ ZnO+H
2O+2e
-
【0038】
また、正極活物質として、Ni(OH)2の代わりに、酸素(O2)を用いてもよい。酸素は、例えば、放電時に大気中から供給され、充電時に大気中に放出される。そのようなアルカリイオン電池は、空気-亜鉛電池(Air-Zn)に該当し、以下の反応が生じる。
正極:O2+2H2O+4e- ⇔ 4OH-
負極:Zn+2OH- ⇔ ZnO+H2O+2e-
【0039】
本開示によれば、上述した負極活物質層を用いることで、良好なサイクル特性を有するアルカリ蓄電池となる。
【0040】
1.負極活物質層
本開示における負極活物質層については、上記「A.負極活物質層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。アルカリ蓄電池において、負極活物質層に含まれる添加材は、通常、固体として存在している。
【0041】
2.正極活物質層
正極活物質層は、正極活物質を少なくとも含有する。正極活物質層は、導電材およびバインダーの少なくとも一つをさらに含有していてもよい。正極活物質としては、例えば、金属単体、合金、水酸化物が挙げられる。特に、正極活物質は、Ni元素を含有することが好ましく、水酸化ニッケルであることがより好ましい。導電材およびバインダーについては、「A.負極活物質層」に記載した内容と同様である。また、正極活物質層の正極活物質が空気である場合、電極反応を促進する触媒を含有することが好ましい。触媒としては、例えば、Pt等の貴金属、ペロブスカイト型酸化物等の複合酸化物が挙げられる。
【0042】
3.電解質層
電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成され、電解液として、アルカリ溶液を含有する。アルカリ溶液の溶質としては、例えば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等の金属水酸化物が挙げられる。アルカリ溶液の溶媒としては、例えば水が挙げられる。電解液の溶媒全体に対する水の割合は、例えば50mol%以上であり、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。また、アルカリ溶液における溶質の濃度は、例えば3mol/L以上であり、5mol/L以上であってもよい。一方、アルカリ溶液における溶質の濃度は、例えば8mol/L以下である。また、正極活物質層および負極活物質層の間にセパレータが配置され、セパレータにアルカリ溶液が含浸されていてもよい。セパレータとして、公知のセパレータを用いることができる。
【0043】
4.アルカリ蓄電池
本開示におけるアルカリ蓄電池は、上述した負極活物質層、正極活物質層および電解質層を少なくとも含有する。アルカリ蓄電池は、正極活物質層から電子を集電する正極集電体を有していてもよい。正極集電体の材料としては、例えば、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン等が挙げられる。正極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状が挙げられる。また、アルカリ蓄電池は、負極活物質層から電子を集電する負極集電体を有していてもよい。負極集電体の材料としては、例えば、銅、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン、カーボンが挙げられる。負極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状が挙げられる。また、アルカリ蓄電池の外装体として、公知の外装体を用いることができる。
【0044】
本開示におけるアルカリ蓄電池は、二次電池であることが好ましい。また、アルカリ蓄電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)等の車両の電源が挙げられる。
【0045】
本開示は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態は例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0046】
[比較例1]
(電解液の調製)
濃度4M(mol/L)の水酸化カリウム(KOH)水溶液と、濃度8M(mol/L)の水酸化カリウム(KOH)水溶液とを混合して、濃度6M(mol/L)の水酸化カリウム(KOH)水溶液を調製した。その後、得られた水溶液に、酸化亜鉛(ZnO)を、沈殿物が残存するまで加えた。その後、25℃の恒温槽で一晩静置した。これにより、濃度6M(mol/L)の水酸化カリウム(KOH)と、飽和濃度のZnOと、を含有する電解液を得た。
【0047】
(セパレータの作製)
ポリプロピレンセパレータ(PPセパレータ、20μm×58mm×70mm)を準備し、その親水化処理を行った。具体的には、エタノール50gと、超純水50gとを混合した溶液に、フッ素系界面活性剤を1g加え、撹拌した。撹拌後の溶液に、PPセパレータを1分間浸漬させ、その後、自然乾燥を行った。これにより、親水化処理したPPセパレータを得た。その後、不織布PPセパレータの両面に、親水化処理したPPセパレータをそれぞれ配置し、セパレータを得た。
【0048】
(正極の作製)
正極活物質(水酸化ニッケル、Ni(OH)2)と、導電材(酸化コバルト、CoO)と、第1バインダー(スチレンブタジエンゴム、SBR)と、第2バインダー(カルボキシメチルセルロース、CMC)とを、重量比が、Ni(OH)2:CoO:SBR:CMC=87:10:2.5:0.5となるように秤量し、乳鉢で混錬した。その後、超純水を加え、自転・公転ミキサー(あわとり練太郎、シンキー製)を用いて、2000rpm、1分間の条件で混合し、インクを得た。得られたインクを、正極集電体(Ni箔)の表面に、ドクターブレードで塗工した。自然乾燥後、80℃の減圧環境で一晩乾燥させた。これにより、正極集電体および正極活物質層を有する正極を得た。
【0049】
(負極の作製)
第1負極活物質(酸化亜鉛、ZnO)と、第2負極活物質(亜鉛、Zn)と、第1バインダー(スチレンブタジエンゴム、SBR)と、第2バインダー(カルボキシメチルセルロース、CMC)とを、重量比が、ZnO:Zn:SBR:CMC=77:20:2.5:0.5となるように秤量し、乳鉢で混錬した。その後、超純水を加え、自転・公転ミキサー(あわとり練太郎、シンキー製)を用いて、2000rpm、1分間の条件で混合し、インクを得た。得られたインクを、負極集電体(Snめっきを施したCu箔)の表面に、ドクターブレードで塗工した。自然乾燥後、80℃の減圧環境で一晩乾燥させた。これにより、負極集電体および負極活物質層を有する負極を得た。
【0050】
(評価用電池の作製)
得られた正極、負極、セパレータおよび電解液を、樹脂2極セル(SB8、イーシーフロンティア製)に配置し、評価用電池を得た。
【0051】
[実施例1]
負極の作製時において、添加材としてMg(OH)2を用い、添加材の重量割合を、Zn系活物質(ZnO+Zn)に対して1重量%となるように変更(具体的には、負極活物質層におけるZnの割合を10重量%に固定し、ZnOの割合を減らすことで調整)したこと以外は、比較例1と同様にして評価用電池を得た。
【0052】
[実施例2~5]
添加材の重量割合を、Zn系活物質(ZnO+Zn)に対して、それぞれ、10重量%、20重量%、40重量%、60重量%となるように変更こと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を得た。
【0053】
[評価]
実施例1~5および比較例1で得られた評価用電池を用いて充放電測定を行い、サイクル安定性を評価した。充放電測定には、電気化学測定システム(VMP3、バイオロジック製)および恒温槽(SU-642、エスペック製)を用いた。また、充放電条件は、以下の通りである。
充放電範囲:SOC0%~100%(正極の理論容量を100%とする)
充放電電流:3.5mA/cm2
カット電圧:充電2V、放電1.3V
Rest:5分間
【0054】
充放電測定では、初回放電容量を100%とし、放電容量が70%に低下するまでのサイクル数を測定した。また、そのサイクル数を、容量比(負極容量/正極容量)で除することで規格化した。その結果を表1および
図2に示す。
【0055】
【0056】
表1および
図2に示すように、実施例1~5は、比較例1に比べて、サイクル安定性が良好であった。
【0057】
[実施例6~10]
添加材として、それぞれ、Mg2P2O7、Mg2TiO3、Mg3(PO4)4、MgO、MgF2を用いたこと以外は、実施例3と同様にして電池を得た。
【0058】
[評価]
実施例6~10で得られた評価用電池を用いて充放電測定を行い、上記と同様にして、サイクル安定性を評価した。その結果を表2および
図3に示す。
【0059】
【0060】
表2および
図3に示すように、実施例6~10は、比較例1に比べて、サイクル安定性が良好であった。また、実施例6~10と、実施例1との結果から、Mgを含有する種々の添加材において、良好なサイクル安定性が得られることが確認された。
【0061】
[実施例11、12]
添加材として、それぞれ、SrF2およびLaF3を用いたこと以外は、実施例3と同様にして評価用電池を得た。
【0062】
[比較例2、3]
添加材として、それぞれ、NiF2およびCaF2を用いたこと以外は、実施例3と同様にして評価用電池を得た。
【0063】
[評価]
実施例11、12および比較例2、3で得られた評価用電池を用いて充放電測定を行い、上記と同様にして、サイクル安定性を評価した。その結果を表3および
図4に示す。
【0064】
【0065】
表3および
図4に示すように、実施例11、12は、比較例1に比べて、サイクル安定性が良好であった。また、実施例11、12と、実施例10との結果から、MgF
2以外のフッ化物である、SrF
2およびLaF
3でも、良好なサイクル安定性が得られた。一方、比較例2、3のように、NiF
2およびLaF
3では、良好なサイクル安定性が得られなかった。
【0066】
[参考例]
濃度6M(mol/L)の水酸化カリウム(KOH)水溶液に、Mg(OH)2を加え、25℃の恒温槽で一晩静置した。その後、水溶液中に溶解したMg(OH)2の濃度を、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置で測定したところ、検出限界(0.01mg/L)以下であり、Mg(OH)2は、KOH水溶液に対して難溶であることが確認された。
【符号の説明】
【0067】
1 … 正極活物質層
2 … 負極活物質層
3 … 電解質層
10 … アルカリ蓄電池