(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】電動ドライバー用ボルト保持具
(51)【国際特許分類】
B25B 23/10 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
B25B23/10 C
(21)【出願番号】P 2021167802
(22)【出願日】2021-10-13
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 秀一
(72)【発明者】
【氏名】田坂 雅弘
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-126566(JP,U)
【文献】特開2015-120217(JP,A)
【文献】実開昭62-150069(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0059538(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0000801(KR,A)
【文献】実開昭54-29498(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動ドライバーのドライバービットの先端部に取り付けられてボルトを保持する、シリコン製の電動ドライバー用ボルト保持具であって、
上記ドライバービットの先端部が挿入されることで、当該先端部に取り付けられる筒状の取付け部と、
上記ボルトの頭部が挿入されることで弾性変形して、当該頭部を締め付け保持する略筒状の保持部と、を備え、
上記保持部は、上記取付け部と同心的に、且つ、上記取付け部の軸方向両端部に形成されて
おり、
上記保持部は、その中央部に、当該電動ドライバー用ボルト保持具の先端から軸方向中心側に向かって拡径する切頭円錐状の保持孔を有しており、
該保持孔の孔径は、当該電動ドライバー用ボルト保持具の先端側の端部では、保持対象である上記ボルトの頭部の外径よりも小さく設定されている一方、当該電動ドライバー用ボルト保持具の軸方向中心側の端部では、上記ボルトの頭部の外径よりも大きく設定されており、
上記保持部における上記先端側の端部の開口縁およびその周縁部が弾性変形して上記ボルトの頭部の側面のみに当接して該ボルトの頭部を締め付け保持する構成となっていることを特徴とする電動ドライバー用ボルト保持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ドライバーのドライバービットの先端部に取り付けられてボルトを保持するための電動ドライバー用ボルト保持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動ドライバーを用いてボルト締めを行う場合には、利き手に持った電動ドライバーにおけるドライバービットのプラス状(またはマイナス状)の先端を、利き手と反対側の手で支えているボルトの頭部に形成されたプラス状(またはマイナス状)の溝に嵌めた状態で、電動ドライバーを駆動させて、ボルトを対象物(締め付け部位)にねじ込む手法が一般的である。
【0003】
もっとも、このような一般的な手法には、以下のような問題がある。すなわち、ボルトが小さく手で支え辛い場合には、ドライバービットの先端をボルトの溝に嵌めた状態を維持することが難しいことから、作業効率が低下するおそれがある。また、締め付け部位が狭い箇所にある場合には、ボルトを支え辛い上、ボルトを支えている手(指)をエッジ等で傷付けてしまうおそれや、ボルトを隙間に落下させてしまうおそれがある。
【0004】
このため、従来から、ドライバービットの先端部を永久磁石化させて、ボルトを磁力により保持することで、ボルトを手で支えることなく、ドライバービットの先端をボルトの溝に嵌めた状態を維持する手法が広く用いられている。
【0005】
しかしながら、このような磁力を用いてボルトを保持する手法は、締め付け部位が磁場を嫌う装置である場合や、非磁性体ボルトの場合にはそもそも適用することが困難であるという問題がある。
【0006】
そこで、例えば特許文献1には、弾性特性を有する素材からなり、保持部と工具取付部とから構成され、螺合部材(ボルト)を保持するための係止溝と、螺合部材を係止溝から離脱させるための着脱機構と、を保持部に備えたドライバー用のアタッチメント型の螺合部材保持具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1のものによれば、弾性特性を利用してボルトを保持することから、非磁性体ボルトであっても、ボルトを手で支えることなく、また、ボルトを脱落させることなく、締め付け部位に対してねじ込むことが可能となる。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1のものでは、シリコン等の弾性特性を利用してボルトを保持することから、換言すると、螺合部材保持具を使用する度に保持部が変形を繰り返すことから、相対的に保持部の劣化が早いため、螺合部材保持具を頻繁に交換しなければならないという問題がある。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電動ドライバー用ボルト保持具において、使用する度に弾性変形が繰り返される材質からなる場合で
も、耐久性を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明に係る電動ドライバー用ボルト保持具では、ボルトの頭部を締め付け保持する保持部を、ドライバービットの先端部に取り付けられる取付け部の軸方向両端部に形成するようにしている。
【0012】
具体的には、本発明は、電動ドライバーのドライバービットの先端部に取り付けられてボルトを保持する、シリコン製の電動ドライバー用ボルト保持具を対象としている。
【0013】
そして、この電動ドライバー用ボルト保持具は、上記ドライバービットの先端部が挿入されることで、当該先端部に取り付けられる筒状の取付け部と、上記ボルトの頭部が挿入されることで弾性変形して、当該頭部を締め付け保持する略筒状の保持部と、を備え、上記保持部は、上記取付け部と同心的に、且つ、上記取付け部の軸方向両端部に形成されており、上記保持部は、その中央部に、当該電動ドライバー用ボルト保持具の先端から軸方向中心側に向かって拡径する切頭円錐状の保持孔を有しており、該保持孔の孔径は、当該電動ドライバー用ボルト保持具の先端側の端部では、保持対象である上記ボルトの頭部の外径よりも小さく設定されている一方、当該電動ドライバー用ボルト保持具の軸方向中心側の端部では、上記ボルトの頭部の外径よりも大きく設定されており、上記保持部における上記先端側の端部の開口縁およびその周縁部が弾性変形して上記ボルトの頭部の側面のみに当接して該ボルトの頭部を締め付け保持する構成となっていることを特徴とするものである。
【0014】
この構成によれば、弾性変形することでボルトの頭部を締め付け保持する保持部を備えていることから、ボルトを手で支え辛い場合や、ボルトが非磁性体ボルトである場合にも、ドライバービットの先端をボルトの溝に嵌めた状態を維持することができ、これにより、ボルトを落下させることなく、締め付け部位に対して確実にねじ込むことが可能となる。
【0015】
また、ボルトを手で支える必要がないことから、締め付け部位が狭い箇所にある場合でも、ボルトを支えている手(指)をエッジ等で傷付けてしまうのを抑えて、安全性を高めることができる。さらに、ボルトを手で支える必要がなく、締め付け部位が手で遮られないことから、換言すると、視認性があることから、締め付け部位の状態を目視で確認しながら作業を行えるので、ボルト締結ミスの発生を抑えることができる。
【0016】
そうして、かかる保持部をドライバービットの先端部に取り付けられる取付け部の軸方向両端部に形成することから、両方の保持部を使用することが可能となる。これにより、使用する度に弾性変形が繰り返されるため、相対的に劣化が早い、シリコン製の電動ドライバー用ボルト保持具の耐久性を2倍向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明に係る電動ドライバー用ボルト保持具によれば、使用する度に弾性変形が繰り返される材質からなる場合でも、耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係るボルト保持ソケットを模式的に示す図であり、同図(a)は軸方向に見た図であり、同図(b)は軸直角方向に見た図である。
【
図2】ボルト保持ソケットの使用態様を模式的に説明する図であり、同図(a)はドライバービットの先端部に取り付けられた状態を示す図であり、同図(b)はボルトを保持した状態を示す図である。
【
図3】電動ドライバーを用いたボルトの締め付け作業を模式的に示す斜視図であり、同図(a)はボルト保持ソケットを用いた場合を示す図であり、同図(b)はボルト保持ソケットを用いていない場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
-ボルト保持ソケットの構成-
図1は、本実施形態に係るボルト保持ソケット1を模式的に示す図であり、同図(a)は軸方向に見た図であり、同図(b)は軸直角方向に見た図である。また、
図2は、ボルト保持ソケット1の使用態様を模式的に説明する図であり、同図(a)はドライバービット31の先端部31aに取り付けられた状態を示す図であり、同図(b)はボルト40を保持した状態を示す図である。なお、
図2では、図を見易くするために、本来は孔壁がドライバービット31に密着している取付け孔11の孔径を、ドライバービット31の外径よりも大きく描いている。
【0021】
このボルト保持ソケット(電動ドライバー用ボルト保持具)1は、電動ドライバー30(
図3参照)を用いてボルト締めを行う場合に、電動ドライバー30におけるドライバービット31の先端部31aに取り付けられて、ボルト40を保持するものである。このボルト保持ソケット1は、半透明のシリコン製であり、
図1に示すように、取付け部10と、保持部20と、を備えている。
【0022】
取付け部10は、シリコン製の円筒状に形成された部位であり、
図1(a)に示すように、その中央部を貫通する断面円形の取付け孔11を有している。この取付け孔11は、その孔径が、電動ドライバー30におけるドライバービット31の外径よりも僅かに小さくなるように形成されている。これにより、取付け部10は、
図2(a)に示すように、ドライバービット31の先端部31aが取付け孔11に挿入されことで、ドライバービット31の外径よりも僅かに小さい径を有する取付け孔11の孔壁がドライバービット31を締め付けて、ドライバービット31の先端部31aに取り付けられる(固定される)ようになっている。
【0023】
このように、取付け部10がドライバービット31の先端部31aに取り付けられることで、電動ドライバー30を駆動させると、ボルト保持ソケット1がドライバービット31と共に回転するようになっている。なお、取付け部10は、電動ドライバー30を通常のボルト締結作業に使用する場合には、ドライバービット31から抜けないが、作業者がボルト保持ソケット1を軸方向に引っ張った場合には、ドライバービット31から容易に抜けるように、その硬さや取付け孔11の孔径が調整されている。
【0024】
保持部20は、シリコン製の略筒状に形成された部位であり、
図1(a)および(b)に示すように、その中央部に切頭円錐状の保持孔21を有している。保持部20は、取付け部10と同心的に、換言すると、保持孔21が取付け孔11と同心になるように、取付け部10と一体に形成されている。
【0025】
保持孔21は、
図1(b)に示すように、ボルト保持ソケット1の先端から軸方向中心側に向かって拡径し、段差面25を介して取付け孔11と繋がっている。保持孔21は、
図2(a)に示すように、その孔径が、開口23側(ボルト保持ソケット1の先端側)では、ボルト40の頭部41の外径よりも小さい一方、段差面25側では、ボルト40の頭部41の外径よりも大きくなるように形成されている。これにより、保持部20は、
図2(b)に示すように、ボルト40の頭部41が保持孔21に挿入されることで弾性変形して(開口23および孔壁が拡がって)、頭部41を締め付け保持するようになっている。
【0026】
このように、ボルト保持ソケット1の先端に向かって窄むように形成された保持孔21によって、ボルト40の頭部41を保持することで、ボルト保持ソケット1からボルト40が脱落しないようになっている。これにより、作業者がボルト40を手で支えなくても、ドライバービット31のプラス状(またはマイナス状)の先端を、ボルト40の頭部41に形成されたプラス状(またはマイナス状)の溝(図示せず)に嵌めた状態を維持することが可能となっている。
【0027】
以上のように構成された保持部20は、
図1(b)に示すように、取付け部10の軸方向両端部にそれぞれ形成されている。このように、本実施形態に係るボルト保持ソケット1では、弾性変形することでボルト40の頭部41を締め付け保持する保持部20を、取付け部10の軸方向両端部にそれぞれ形成することから、両方(2つ)の保持部20を使用することが可能となっている。したがって、使用する度に弾性変形が繰り返されるため、相対的に劣化が早い、シリコン製のボルト保持ソケット1の耐久性を2倍向上させることができる。
【0028】
-ボルト保持ソケットの使用例-
図3は、電動ドライバー30を用いたボルト40の締め付け作業を模式的に示す斜視図であり、同図(a)はボルト保持ソケット1を用いた場合を示す図であり、同図(b)はボルト保持ソケット1を用いていない場合を示す図である。
【0029】
電動ドライバー30を用いてボルト締めを行う場合には、
図3(b)に示すように、利き手(
図3の例では右手R)に持った電動ドライバー30におけるドライバービット31の先端を、利き手と反対側の手(
図3の例では左手L)で支えているボルト40の頭部41に形成された溝に嵌めた状態で、電動ドライバー30を駆動させて、ボルト40を対象物にねじ込む手法が一般的である(以下、このような手法を従来手法と称する。)。
【0030】
もっとも、
図3(b)に示すように、例えば車両サイドステップ50に対してランプをボルト締結する際に、上記従来手法を適用する場合には、以下のような問題が生じるおそれがある。
【0031】
すなわち、車両サイドステップ50に対してランプを締結するためのボルト40は、φ6~φ18の非常に小さな段付きボルトであるため、左手Lでボルト40を支え辛く、ドライバービット31の先端をボルト40の溝に嵌めた状態を維持することが困難であることから、作業効率が低下するという問題がある。また、車両サイドステップ50に対してランプをボルト締結する場合には、締め付け部位が非常に狭く、左手Lでボルト40を支え辛い上、ボルト40を支えている左手Lの指をブラケットエッジ等で傷付けてしまうおそれもある。
【0032】
さらに、ボルト40を左手Lで支え辛いため、隙間にボルト40が落下してしまい、生産効率が低下するおそれがある。加えて、ボルト40を左手Lで支えようとすると、左手Lによって締結部位が隠れてしまうため、締結部位の状態を目視で確認しながら作業を行ことが困難となり、ボルト締結ミスが発生し易くなるところ、車両サイドステップはアルミ材であるため、ボルト締結ミスが発生すると修正不可となることから、不良率の増加により、生産効率が更に低下するという問題もある。
【0033】
ここで、ドライバービット31の先端部31aを永久磁石化させて、ボルト40を磁力により保持することで、ドライバービット31の先端をボルト40の溝に嵌めた状態を維持することも考えられるが、車両サイドステップに対してランプを締結するためのボルト40は、材質が非磁性体(例えばSUS304)でるため、換言すると、磁石に付かないため、このような手法はそもそも適用することができない。
【0034】
これらに対し、
図3(a)に示すように、本実施形態のボルト保持ソケット1を用いれば、作業効率や生産効率を低下させることなく、車両サイドステップに対してランプを安全にボルト締結することができる。
【0035】
より詳しくは、ボルト保持ソケット1を用いれば、
図3(a)に示すように、保持孔2
1によってボルト40の頭部41を保持することで、作業者がボルト40を左手Lで支えなくても、ドライバービット31の先端をボルト40の頭部41に形成された溝に嵌めた状態を維持することが可能な片手作業となることから、従来手法に比して締付作業時間を2/3に短縮することができ、これにより、作業効率を向上させることができる。
【0036】
しかも、保持孔21によってボルト40の頭部41を保持することから、ボルト40を支えるために、非常に狭い締め付け部位へ左手Lを入れる必要がなくなるため、左手Lの指をブラケットエッジ等で傷付けるおそれがない上、回転しているドライバービット31による手袋の巻き込みや、締め付け部位とボルト40との間に指が挟まれるのを抑えることができるので、従来手法に比して安全性を大幅に向上させることができる。
【0037】
さらに、先端に向かって窄むように形成された保持孔21によって、ボルト40の頭部41を保持することで、ボルト保持ソケット1からボルト40が脱落しないので、隙間にボルト40が落下するのを確実に抑えることができる。また、ボルト40を左手Lで支える必要がなく、締め付け部位が左手Lで遮られないことから、換言すると、視認性があることから、締結部位の状態を目視で確認しながら作業を行えるので、ボルト締結ミスの発生を抑えることができる。これらが相まって、生産効率が低下するのを抑制することが可能となる。
【0038】
加えて、取付け部10の軸方向両端部に保持部20が設けられていることから、両方の保持部20を使用することで、ボルト保持ソケット1の耐久性を2倍向上させることができ、これにより、ボルト保持ソケット1の劣化による交換回数を減らして、製造コストの削減に寄与することができる。
【0039】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0040】
上記実施形態では、非磁性体ボルトを締結する場合に本発明を適用したが、これに限らず、磁性を有するボルトを締結する場合にも本発明を適用してもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、取付け部10の軸方向両端部に同じ形状の保持部20を形成するようにしたが、これに限らず、例えば頭部の大きさが大きく異なるボルトを保持することが可能となるように、異なる形状の保持部を取付け部10の軸方向両端部にそれぞれ形成するようにしてもよい。
【0042】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によると、使用の度に弾性変形が繰り返される場合でも、耐久性を向上させることができるので、電動ドライバーの先端部に取り付けられてボルトを保持する電動ドライバー用ボルト保持具に適用して極めて有益である。
【符号の説明】
【0044】
1 ボルト保持ソケット(電動ドライバー用ボルト保持具)
10 取付け部
20 保持部
30 電動ドライバー
31 ドライバービット
31a 先端部
40 ボルト
41 頭部