(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0247 20160101AFI20241210BHJP
H01M 8/0273 20160101ALI20241210BHJP
H01M 8/1004 20160101ALI20241210BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241210BHJP
【FI】
H01M8/0247
H01M8/0273
H01M8/1004
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2021174697
(22)【出願日】2021-10-26
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉野 祐記
(72)【発明者】
【氏名】近藤 考司
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-059065(JP,A)
【文献】特開2008-146872(JP,A)
【文献】特開平07-249417(JP,A)
【文献】特開2006-032041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜電極接合体と、前記膜電極接合体を間に挟む一対のガス拡散層と、前記膜電極接合体および前記一対のガス拡散層を厚さ方向の両側から挟持する一対の燃料電池用セパレータと、を有する燃料電池であって、
前記燃料電池用セパレータは、板状をなすとともに、第1材料によって構成されるとともに
前記厚さ方向から見た平面視における中央部分を構成する中央部と
、前記第1材料とは熱膨張率の異なる第2材料によって構成されるとともに前記平面視において前記中央部の周囲を囲む形状を
なす周囲部と、を有し、
前記一対の燃料電池用セパレータの前記周囲部の間にはシート状のスペーサ部材が挟持されており、
前記中央部の外縁と前記周囲部の内縁とは、前記厚さ方向において重なる構造をなすとともに、弾性体を介して接合されている
燃料電
池。
【請求項2】
前記弾性体は、接着剤によって前記中央部の外縁および前記周囲部の内縁に接着されている
請求項1に記載の燃料電
池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料電池が開示されている。この燃料電池は、膜電極接合体と、一対のガス拡散層と、一対の燃料電池用セパレータとを備えている。膜電極接合体は、電解質膜と、電解質膜の各々の面に形成された触媒電極層であるアノードおよびカソードとを備えている。燃料電池は、この膜電極接合体が一対のガス拡散層に挟み込まれた構造をなすとともに、膜電極接合体および一対のガス拡散層が厚さ方向の両側から一対の燃料電池用セパレータによって挟持された構造をなしている。
【0003】
また特許文献1には、燃料電池用セパレータの構造として、膜電極接合体に対向する部分である平面視の中央部分を金属板によって構成するとともに、中央部分の周囲を囲む周囲部分を合成樹脂材料によって構成する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、金属材料の熱膨張率と比較して、合成樹脂材料の熱膨張率は高い。このことから上記燃料電池用セパレータは、金属材料によって構成される中央部分の熱膨張率に対して合成樹脂材料によって構成される周囲部分の熱膨張率が高くなるといったように、中央部分と周囲部分との間に熱膨張率の差を有する構造になる。
【0006】
上記燃料電池用セパレータでは、この熱膨張率の差に起因して、中央部分や周囲部分に熱応力が生じたり、中央部分や周囲部分が変形したりするおそれがある。この場合には、燃料電池用セパレータの耐久性能の低下や、燃料電池用セパレータを有する燃料電池の発電性能の低下を招くおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための燃料電池用セパレータは、板状をなす燃料電池用セパレータであって、第1材料によって構成されるとともに厚さ方向から見た平面視における中央部分を構成する中央部と、前記第1材料とは熱膨張率の異なる第2材料によって構成されるとともに前記平面視において前記中央部の周囲を囲む形状をなす周囲部と、を有し、前記中央部の外縁と前記周囲部の内縁とは、前記厚さ方向において重なる構造をなすとともに、弾性体を介して接合されている。
【0008】
上記構成では、燃料電池用セパレータの温度が変化すると、中央部の熱膨張量と周囲部の熱膨張量との違いに起因して、中央部の外縁と周囲部の内縁とを燃料電池用セパレータの厚さ方向と交差する方向にずらす力が作用するようになる。
【0009】
上記構成によれば、中央部の外縁と周囲部の内縁とが弾性体を介して接合されているため、この弾性体が弾性変形することで、中央部の外縁と周囲部の内縁との相対移動が許容されるようになる。これにより、燃料電池用セパレータの中央部や周囲部に熱応力が生じることを抑えることができ、中央部や周囲部の熱変形を抑えることができる。したがって、燃料電池用セパレータの性能(耐久性能など)の向上を図ることができる。
【0010】
上記燃料電池用セパレータにおいて、前記弾性体は、接着剤によって前記中央部の外縁および前記周囲部の内縁に接着されている。
上記構成によれば、適度の弾性を有する弾性体を、適当な接着剤を利用して中央部の外縁と周囲部の内縁との間に取り付けることができる。
【0011】
前記課題を解決するための燃料電池は、膜電極接合体と、前記膜電極接合体を間に挟む一対のガス拡散層と、前記膜電極接合体および前記一対のガス拡散層を厚さ方向の両側から挟持する一対の燃料電池用セパレータと、を有する燃料電池であって、前記燃料電池用セパレータは、板状をなすとともに、第1材料によって構成されるとともに前記厚さ方向から見た平面視における中央部分を構成する中央部と、前記第1材料とは熱膨張率の異なる第2材料によって構成されるとともに前記平面視において前記中央部の周囲を囲む形状をなす周囲部と、を有し、前記中央部の外縁と前記周囲部の内縁とは、前記厚さ方向において重なる構造をなすとともに、弾性体を介して接合されている。
【0012】
上記構成によれば、燃料電池用セパレータの中央部の外縁と周囲部の内縁とが弾性体を介して接合されているため、この弾性体が弾性変形することで、中央部の外縁と周囲部の内縁との相対移動が許容されるようになる。これにより、燃料電池用セパレータの中央部や周囲部に熱応力が生じることを抑えることができ、中央部や周囲部の熱変形を抑えることができる。したがって、燃料電池用セパレータの性能(耐久性能など)の向上を図ることができ、ひいては燃料電池の発電性能の向上を図ることができる。
【0013】
上記燃料電池において、前記弾性体は、接着剤によって前記中央部の外縁および前記周囲部の内縁に接着されている。
上記構成によれば、適度の弾性を有する弾性体を、適当な接着剤を利用して中央部の外縁と周囲部の内縁との間に取り付けることができる。
【0014】
上記燃料電池において、前記一対の燃料電池用セパレータの前記周囲部の間にはシート状のスペーサ部材が挟持されており、前記一対の燃料電池用セパレータの前記中央部の間には、前記膜電極接合体および前記一対のガス拡散層が挟持されており、前記弾性体の形成材料の弾性率は前記ガス拡散層の形成材料の弾性率よりも小さいことが好ましい。
【0015】
燃料電池の一部を構成するガス拡散層は、その構造上、他の構成部材と比較して寸法のばらつきが大きくなり易い。このことから上記構成では、一対の燃料電池用セパレータの間隔、詳しくはガス拡散層を挟み込む部分である中央部の間隔にばらつきが生じ易いと云える。そのため、燃料電池用セパレータを組み付ける際には、上記中央部の間隔のばらつきに起因して、中央部と周囲部との厚さ方向における相対位置にばらつきが生じるおそれがある。
【0016】
上記構成によれば、中央部と周囲部との間に弾性体が設けられているため、中央部と周囲部との相対位置のばらつきによるずれ分が、弾性体の弾性変形を通じて許容されるようになる。しかも、弾性体としてガス拡散層よりも弾性率の小さいものが用いられるため、燃料電池用セパレータを組み付ける際には、ガス拡散層の変形を抑えながら弾性体を弾性変形させることができる。したがって上記構成によれば、中央部と周囲部とが異材料によって構成される燃料電池用セパレータを、同中央部によって挟持されるガス拡散層の寸法ばらつきに応じたかたちで、同ガス拡散層の形状変化を抑えつつ好適に組み付けることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、燃料電池用セパレータの性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】第1セパレータ側から見た燃料電池の概略構成を示す平面図である。
【
図3】斜め上方から見た第1セパレータの概略構成を示す分解斜視図である。
【
図4】第1セパレータの弾性体およびその周辺を拡大して示す側断面図である。
【
図5】第2セパレータ側から見た燃料電池の概略構成を示す平面図である。
【
図6】斜め下方から見た第2セパレータの概略構成を示す分解斜視図である。
【
図7】第2セパレータの弾性体およびその周辺を拡大して示す側断面図である。
【
図8】面方向において弾性変形した状態の弾性体およびその周辺を示す側断面図である。
【
図9】弾性体の厚さ方向における弾性変形態様を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、燃料電池用セパレータおよび燃料電池の一実施形態について説明する。
図1および
図2に示すように、本実施形態の燃料電池10は平面視矩形状をなしている。本実施形態の燃料電池10は固体高分子形燃料電池である。燃料電池10は、膜電極ガス拡散層接合体(Membrane Electrode GasDiffusion Layer Assembly、以下、MEGA20)を備えている。燃料電池10は、MEGA20の両面を挟むとともに反応ガスの流路を構成する一対のセパレータ(第1セパレータ30、第2セパレータ40)を備えている。なお、以降において、燃料電池10の長辺方向を長さ方向Xとし、燃料電池10の短辺方向を幅方向Yとし、燃料電池10の積層方向を厚さ方向Zとして説明する。
【0020】
<マニホールド孔11~16>
図2に示すように、燃料電池10は、厚さ方向Zに貫通する複数の貫通孔(以下、マニホールド孔11~16)を有している。マニホールド孔11,16は、酸化剤ガスが流通するマニホールドを構成している。マニホールド孔12,15は、冷却水が流通するマニホールドを構成している。マニホールド孔13,14は、燃料ガスが流通するマニホールドを構成している。酸化剤ガスは、例えば酸素を含む空気である。燃料ガスは、例えば水素である。マニホールド孔11~16は、例えば平面視矩形状である。
【0021】
マニホールド孔11~13は、燃料電池10の長さ方向Xの一方(
図2の左側)の端縁に隣接するとともに幅方向Yにおいて互いに間隔をあけて設けられている。本実施形態では、マニホールド孔11,12,13が、幅方向Yの一側(
図2の上側)から順に設けられている。
【0022】
マニホールド孔14~16は、燃料電池10の長さ方向Xの他方(
図2の右側)の端縁に隣接するとともに幅方向Yにおいて互いに間隔をあけて設けられている。本実施形態では、マニホールド孔14,15,16が、幅方向Yの一側(
図2の上側)から順に設けられている。
【0023】
<MEGA20>
図1に示すように、MEGA20は、板状の膜電極接合体21と、膜電極接合体21を挟む一対のガス拡散層25,26とを備えている。膜電極接合体21は、電解質膜と、同電解質膜を挟む一対の触媒層(アノードおよびカソード)とによって構成されている。ガス拡散層25,26は、炭素繊維と炭素繊維を結合するバインダーとによって多孔質シート状に形成されたものである。MEGA20は、燃料電池10の面方向における中央部分に配置されている。
【0024】
<枠部材27>
燃料電池10の内部には、シート状の枠部材27が設けられている。枠部材27は、合成樹脂材料(例えばポリプロピレン)によって形成されている。枠部材27は矩形枠状をなしている。燃料電池10では、枠部材27の中央の貫通孔(以下、中央孔27A)にMEGA20が収容されている。枠部材27には、前記マニホールド孔11~16が形成されている。枠部材27は、第1セパレータ30と第2セパレータ40との間に挟持されている。燃料電池10では、この枠部材27を介して、第1セパレータ30と第2セパレータ40とが接合されている。本実施形態では、枠部材27がスペーサ部材に相当する。
【0025】
<第1セパレータ30>
図1~
図6に示すように、第1セパレータ30および第2セパレータ40は、同一の大きさの平面視矩形状である。
【0026】
図2および
図3に示すように、第1セパレータ30は板状をなすとともにマニホールド孔11~16を有している。
図1および
図2に示すように、第1セパレータ30におけるMEGA20側の部分には、燃料ガス流路部31、上流側分配部32、および下流側分配部33が区画形成されている。
図2中に二点鎖線で示すように、燃料ガス流路部31は、第1セパレータ30の面方向における中央部分、詳しくは上記MEGA20に対向する部分に設けられている。上流側分配部32は、マニホールド孔13と燃料ガス流路部31とを接続している。下流側分配部33は、マニホールド孔14と燃料ガス流路部31とを接続している。
【0027】
図1に示すように、第1セパレータ30には、厚さ方向ZにおいてMEGA20から離れるように突出する複数の突条34が設けられている。この突条34とMEGA20とによって区画される空間が、燃料ガス流路31Aを構成している。
【0028】
図1~
図3に示すように、第1セパレータ30は、厚さ方向Zから見た平面視における中央部分を構成する中央部35と、平面視において上記中央部35の周囲を囲む形状をなす周囲部36とに分割された構造をなしている。
【0029】
<中央部35>
中央部35は、第1材料としての金属材料(例えばステンレス鋼板)によって平面視矩形状に形成されている。なお本実施形態では、中央部35を構成する金属材料が第1材料に相当する。中央部35は、主に、第1セパレータ30における上記MEGA20に対向する部分、詳しくはMEGA20に接触する部分を構成する。この中央部35には前記突条34が形成されている。中央部35の外縁部分には段差部37が設けられている。段差部37は、中央部35における外縁側の部分が中央側の部分よりも上記MEGA20から離間した位置(
図1における上方)になる段差形状をなしている。段差部37は、中央部35の外縁全周にわたって延びている。
【0030】
<周囲部36>
周囲部36は、合成樹脂材料(例えばポリプロピレン)によって、平面視矩形枠状に形成されている。なお本実施形態では、周囲部36を構成する合成樹脂材料が、第1材料とは熱膨張率の異なる第2材料に相当する。周囲部36は、主に、第1セパレータ30における上記枠部材27に対向する部分、すなわち枠部材27に接触する部分を構成する。周囲部36には、前記マニホールド孔11~16が形成されている。本実施形態では、周囲部36の中央の貫通孔(中央孔36A)を塞ぐ態様で、周囲部36に対して中央部35が取り付けられる。これら周囲部36および中央部35によって第1セパレータ30は構成されている。
【0031】
図3および
図4に示すように、第1セパレータ30は、中央部35の外縁(具体的には、段差部37)と周囲部36の内縁36Bとが、同第1セパレータ30の厚さ方向Zにおいて重なる構造をなしている。
【0032】
<弾性体38>
そして、中央部35の外縁をなす段差部37と周囲部36の内縁36Bとが重なる部分において、中央部35と周囲部36とが、弾性体38を介して接合されている。弾性体38は、弾性を有する合成樹脂材料(例えばウレタン)によって形成されている。これにより本実施形態では、弾性体38の形成材料の弾性率が、ガス拡散層25,26の形成材料の弾性率よりも小さくなっている。弾性体38は、断面矩形状で、中央部35の周囲全周にわたって延びる四角環状をなしている。本実施形態では、接着剤からなる接着層39(
図4)を介して、弾性体38における上記中央部35の段差部37側の面が同段差部37に接着されるとともに、同弾性体38における上記周囲部36の内縁36B側の面が同内縁36Bに接着されている。本実施形態では、弾性体38が接着剤により、中央部35の段差部37と周囲部36の内縁36Bとにそれぞれ接着されている。
【0033】
<第2セパレータ40>
図5および
図6に示すように、第2セパレータ40は板状をなすとともにマニホールド孔11~16を有している。
【0034】
図1および
図5に示すように、第2セパレータ40におけるMEGA20側の部分には、酸化剤ガス流路部41、上流側分配部42、および下流側分配部43が設けられている。
図5中に二点鎖線で示すように、酸化剤ガス流路部41は、第2セパレータ40の面方向における中央部分、詳しくは上記MEGA20に対向する部分に設けられている。上流側分配部42は、マニホールド孔16と酸化剤ガス流路部41とを接続している。下流側分配部43は、マニホールド孔11と酸化剤ガス流路部41とを接続している。
【0035】
図1に示すように、第2セパレータ40には、厚さ方向ZにおいてMEGA20から離れるように突出する複数の突条44が設けられている。突条44とMEGA20とによって区画される空間が、酸化剤ガス流路41Aを構成している。
【0036】
図1、
図5および
図6に示すように、第2セパレータ40は、厚さ方向Zから見た平面視における中央部分を構成する中央部45と、平面視において上記中央部45の周囲を囲む形状をなす周囲部46とに分割された構造をなしている。
【0037】
<周囲部46>
周囲部46は、第2材料としての合成樹脂材料(例えばポリプロピレン)によって、平面視矩形枠状に形成されている。周囲部46は、主に、第2セパレータ40における上記枠部材27に対向する部分、すなわち枠部材27に接触する部分を構成する。周囲部46には、前記マニホールド孔11~16が形成されている。本実施形態では、周囲部46の中央の貫通孔(以下、中央孔46A)を塞ぐ態様で、周囲部46に対して中央部45が取り付けられる。これら周囲部46および中央部45によって第2セパレータ40は構成されている。
【0038】
図6および
図7に示すように、第2セパレータ40は、中央部45の外縁(具体的には、段差部47)と周囲部46の内縁46Bとが、同第2セパレータ40の厚さ方向Zにおいて重なる構造をなしている。
【0039】
<弾性体38>
そして、中央部45の外縁をなす段差部47と周囲部46の内縁46Bとが重なる部分において、中央部45と周囲部46とが、弾性体48を介して接合されている。弾性体48は、弾性を有する合成樹脂材料(例えばウレタン)によって形成されている。これにより本実施形態では、弾性体48の形成材料の弾性率が、ガス拡散層25,26の形成材料の弾性率よりも小さくなっている。弾性体48は、断面矩形状で、中央部45の周囲全周にわたって延びる四角環状をなしている。本実施形態では、接着剤からなる接着層49(
図7)を介して、弾性体48における上記中央部45の段差部47側の面が同段差部47に接着されるとともに、同弾性体48における上記周囲部46の内縁46B側の面が同内縁46Bに接着されている。
【0040】
<作用効果>
本実施形態の作用効果について説明する。
(1)セパレータ30,40は、金属材料によって構成される中央部35,45と合成樹脂材料によって構成される周囲部36,46とを有する。中央部35,45の外縁を構成する段差部37,47と周囲部36,46の内縁36B,46Bとは、厚さ方向Zにおいて重なる構造をなすとともに、弾性体38,48を介して接合されている。
【0041】
本実施形態では、セパレータ30,40の中央部35,45の熱膨張量と周囲部36,46の熱膨張量とが異なる。そのためセパレータ30,40の温度が変化した場合には、上記熱膨張量の違いに起因して、中央部35,45の段差部37,47と周囲部36,46の内縁36B,46Bとを前記厚さ方向Zと交差する方向(詳しくは、面方向)にずらす力が作用するようになる。
【0042】
本実施形態のセパレータ30,40では、中央部35,45の外縁をなす段差部37,47と周囲部36,46の内縁36B,46Bとが弾性体38,48を介して接合されている。そのため
図8に示すように、弾性体38が弾性変形することで、中央部35の段差部37と周囲部36の内縁36Bとの面方向における相対移動が許容されるようになる。同様に、弾性体48(
図7参照)が弾性変形することで、中央部45の段差部47と周囲部46の内縁46Bとの面方向における相対移動が許容されるようになる。これにより、セパレータ30,40の中央部35,45や周囲部36,46に熱応力が生じることを抑えることができ、中央部35,45や周囲部36,46の熱変形を抑えることができる。したがって、セパレータ30,40の性能(耐久性能など)の向上を図ることができ、ひいては燃料電池10の発電性能の向上を図ることができる。
【0043】
(2)弾性体38,48は、接着剤によって中央部35,45の段差部37,47および周囲部36,46の内縁36B,46Bに接着されている。これにより、適度の弾性を有する弾性体38,48を、適当な接着剤を利用して中央部35,45の段差部37,47と周囲部36,46の内縁36B,46Bとの間に取り付けることができる。
【0044】
(3)一対の周囲部36,46の間にはシート状の枠部材27が挟持されている。一対の中央部35,45の間にはMEGA20が挟持されている。弾性体38,48の形成材料の弾性率はガス拡散層25,26の形成材料の弾性率よりも小さくなっている。
【0045】
燃料電池10の一部を構成するガス拡散層25,26は、その構造上、他の構成部材と比較して寸法のばらつきが大きくなり易い。このことから燃料電池10では、一対のセパレータ30,40の間隔、詳しくはガス拡散層25,26を挟み込む部分である中央部35,45の間隔にばらつきが生じ易いと云える。そのため、セパレータ30,40を組み付ける際には、上記中央部35の間隔のばらつきに起因して、中央部35と周囲部36との厚さ方向Zにおける相対位置にばらつきが生じるおそれがある。
【0046】
図9に示すように、本実施形態の燃料電池10では、中央部35,45の段差部37,47と周囲部36,46の内縁36B,46Bとの間に弾性体38,48が設けられている。そのため、中央部35,45と周囲部36,46との厚さ方向Z(
図9の上下方向)における相対位置のばらつきによるずれ分が、弾性体38,48の厚さ方向Zにおける弾性変形を通じて許容されるようになる。しかも、弾性体38,48としてガス拡散層25,26よりも弾性率の小さいものが用いられるため、セパレータ30,40を組み付ける際には、ガス拡散層25,26の変形を抑えながら弾性体38,48を弾性変形させることができる。
【0047】
本実施形態のセパレータ30,40は、中央部35,45と周囲部36,46とが異材料によって構成されている。本実施形態によれば、そうしたセパレータ30,40の組み付け作業を、中央部35,45によって挟持されるガス拡散層25,26の寸法ばらつきに応じたかたちで、同ガス拡散層25,26の形状変化を抑えつつ好適に行うことができる。
【0048】
<変形例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0049】
・セパレータ30,40において弾性体38,48が設けられる部分の構造、具体的には中央部35,45の外縁の構造や周囲部36,46の内縁36Bの構造は、任意に変更可能である。例えば、周囲部36,46の内縁に段差部を形成するようにしてもよい。この段差部としては、周囲部36,46の内縁端側の部分が外縁側の部分よりも前記MEGA20から離間した位置になる段差形状を採用したり、同内縁端側の部分が外縁側の部分よりもMEGA20に近い位置になる段差形状を採用したりすることができる。その他、中央部35の外縁に段差部37を形成せず、同外縁を平らに形成することなども可能である。
【0050】
・ガス拡散層25,26を、炭素繊維と炭素繊維を結合するバインダーとによって多孔質シート状に形成された基材層と、合成樹脂材料および導電性材料を主成分とする多孔体薄膜(いわゆるマイクロポーラス層)とが積層された構造にしてもよい。
【0051】
・上記実施形態では、弾性体38,48を接着剤からなる接着層39,49によって中央部35,45の段差部37,47と周囲部36,46の内縁36B,46Bとに接着するようにした。これに代えて、硬化後において適度の弾性を有する接着剤を利用するとともに、この接着剤からなる接着層のみを介して、中央部35,45の段差部37,47と周囲部36,46の内縁36B,46Bとを接着するようにしてもよい。なお、この構成では、接着層が弾性体に相当する。
【0052】
・上記実施形態にかかる燃料電池用セパレータを、第1セパレータ30および第2セパレータ40の一方のみに適用するようにしてもよい。
・上記実施形態にかかる燃料電池用セパレータは、中央部と周囲部とが異材料によって構成される燃料電池用セパレータであれば、適用することができる。そうしたセパレータとしては、例えば中央部が炭素系材料(炭素、または炭素に合成樹脂材料を混ぜたもの)によって形成されるとともに、周囲部が合成樹脂材料によって形成されたものを挙げることができる。
【符号の説明】
【0053】
10…燃料電池
20…膜電極ガス拡散層接合体(MEGA)
21…膜電極接合体
25…ガス拡散層
26…ガス拡散層
27…枠部材
30…第1セパレータ
35,45…中央部
36,46…周囲部
36B,46B…内縁
37,47…段差部
38,48…弾性体
39,49…接着層
40…第2セパレータ