(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/015 20060101AFI20241210BHJP
B60R 21/205 20110101ALI20241210BHJP
B60R 21/2338 20110101ALI20241210BHJP
【FI】
B60R21/015 312
B60R21/205
B60R21/2338
(21)【出願番号】P 2021177574
(22)【出願日】2021-10-29
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】大野 理絵
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 利仁
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-198929(JP,A)
【文献】特開2019-179290(JP,A)
【文献】特表2006-520887(JP,A)
【文献】特開2020-152206(JP,A)
【文献】特開2007-055294(JP,A)
【文献】特開2012-127811(JP,A)
【文献】特開2021-017166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/015
B60R 21/205
B60R 21/2338
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席に着座している乗員を保護可能なエアバッグを、乗員の着座姿勢に応じて、膨張させる構成の乗員保護装置であって、
前記乗員の着座姿勢を検出可能な姿勢検出装置と、
膨張完了時に前記乗員の拘束中心を受止可能な乗員受止部を備える前記エアバッグと、前記エアバッグに膨張用ガスを供給可能なガス供給部材と、前記乗員受止部を前記乗員の着座姿勢に応じて配置させるように前記エアバッグの膨張形態を調整可能な調整機構と、を備えるエアバッグ装置と、
前記姿勢検出装置から検出される前記乗員の着座姿勢に応じて、前記エアバッグ装置における前記調整機構を制御するとともに、前記ガス供給部材を作動させて前記エアバッグを膨張させる制御装置と、
を備える構成とされて、
前記姿勢検出装置が、前記拘束中心を構成することとなる前記乗員の上半身における重心を検出可能な重心検出手段と、前記エアバッグ装置から前記拘束中心までの離隔距離を検出可能な距離検出手段と、を、備え、
前記重心検出手段が、カメラによって撮像された前記乗員の画像セグメンテーションによるものであ
り、
前記調整機構が、前記拘束中心の位置と、前記拘束中心の前記エアバッグ装置からの離隔距離と、に応じて、前記エアバッグの膨張形態を調整するような構成とされていることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
車両の座席に着座している乗員を保護可能なエアバッグを、乗員の着座姿勢に応じて、膨張させる構成の乗員保護装置であって、
前記乗員の着座姿勢を検出可能な姿勢検出装置と、
前記乗員の前方となる位置に搭載されて、膨張完了時に前記乗員の拘束中心を受止可能な乗員受止部を備える前記エアバッグと、前記エアバッグに膨張用ガスを供給可能なガス供給部材と、前記乗員受止部を前記乗員の着座姿勢に応じて配置させるように前記エアバッグの膨張形態を調整可能な調整機構と、を備えるエアバッグ装置と、
前記姿勢検出装置から検出される前記乗員の着座姿勢に応じて、前記エアバッグ装置における前記調整機構を制御するとともに、前記ガス供給部材を作動させて前記エアバッグを膨張させる制御装置と、
を備える構成とされて、
前記姿勢検出装置が、前記拘束中心を構成することとなる前記乗員の上半身における重心を検出可能な重心検出手段と、前記エアバッグ装置から前記拘束中心までの離隔距離を検出可能な距離検出手段と、を、備え、
前記重心検出手段が、カメラによって撮像された前記乗員の画像セグメンテーションによるものであ
り、
前記エアバッグが、前記乗員受止部として、膨張完了時に前記乗員側に配置される乗員側壁部を、備える構成とされ、
前記調整機構が、膨張完了時の前記エアバッグにおける前記乗員側壁部の配置位置や配置形状を、前記乗員の着座位置に応じて変更可能とするテザー機構から、構成されていることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項3】
前記重心検出手段が、前記拘束中心として、前記乗員における頭部重心と、前記乗員の左右の肩の肩重心を結んだ線の中心と、を検出可能に構成されていることを特徴とする
請求項1または2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記姿勢検出装置が、前記乗員を拘束するシートベルトに設置されて前記乗員の上半身の傾きを検出可能な傾き検出手段を、備える構成とされていることを特徴とする
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記カメラとして、前記車両に搭載されるドライブレコーダーの車内撮影用カメラが使用されていることを特徴とする
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の座席に着座している乗員を保護可能なエアバッグを、乗員の着座姿勢に応じて、膨張させる構成の乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗員保護装置としては、座席に着座している乗員の重心位置を検知可能な構成とすることにより、乗員の着座姿勢に応じて、エアバッグを膨張させる構成のものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この従来の乗員保護装置では、カメラや荷重センサ等を用いて、座席に着座している乗員の重心位置(具体的には、着座している座席のアームレストに腕を乗せているか否か)を検知し、その乗員の重心位置に応じて、エアバッグの展開を制御する構成とされていた。しかしながら、この従来の乗員保護装置では、乗員の重心位置のみを検出した状態で、エアバッグの膨張の制御を行う構成であることから、例えば、自動運転時等において、乗員の姿勢の自由度がさらに増大する場合(乗員の重心位置の前後・上下移動等)には、対応し難かった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、着座位置や着座姿勢が異なっていても、座席に着座している乗員を、膨張したエアバッグにより好適に保護することが可能な乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る乗員保護装置は、車両の座席に着座している乗員を保護可能なエアバッグを、乗員の着座姿勢に応じて、膨張させる構成の乗員保護装置であって、
乗員の着座姿勢を検出可能な姿勢検出装置と、
膨張完了時に乗員の拘束中心を受止可能な乗員受止部を備えるエアバッグと、エアバッグに膨張用ガスを供給可能なガス供給部材と、乗員受止部を乗員の着座姿勢に応じて配置させるようにエアバッグの膨張形態を調整可能な調整機構と、を備えるエアバッグ装置と、
姿勢検出装置から検出される乗員の着座姿勢に応じて、エアバッグ装置における調整機構を制御するとともに、ガス供給部材を作動させてエアバッグを膨張させる制御装置と、
を備える構成とされて、
姿勢検出装置が、拘束中心を構成することとなる乗員の上半身における重心を検出可能な重心検出手段と、エアバッグ装置から拘束中心までの離隔距離を検出可能な距離検出手段と、を、備え、
重心検出手段が、カメラによって撮像された乗員の画像セグメンテーションによるものであることを特徴とする。
【0007】
本発明の乗員保護装置では、乗員の着座姿勢を検出可能な姿勢検出装置が、乗員の拘束中心を構成することとなる上半身の重心を検知可能な重心検出手段と、エアバッグ装置から拘束中心までの離隔距離を検出可能な距離検出手段と、を備えていることから、エアバッグを、拘束中心の位置とエアバッグ装置からの離隔距離とに応じて、膨張形態を適宜調整するように、膨張制御することができる。また、本発明の乗員保護装置では、重心検出手段が、乗員の画像セグメンテーションによるものであることから、乗員の上半身の重心位置を精度よく検出することができて、乗員の着座姿勢を、精度よく検出することができる。そのため、膨張を完了させたエアバッグの乗員受止部により、乗員の拘束中心を好適に受け止めることが可能となり、例えば、通常状態での座席に着座している乗員も、自動運転時等においてリクライニングさせた状態の座席に着座している安楽姿勢状態の乗員も、膨張を完了させたエアバッグによって、好適に保護することができる。
【0008】
したがって、本発明の乗員保護装置では、着座位置や着座姿勢が異なっていても、座席に着座している乗員を、膨張したエアバッグにより好適に保護することができる。
【0009】
また、本発明の乗員保護装置において、重心検出手段を、拘束中心として、乗員における頭部重心と、乗員の左右の肩の肩重心を結んだ線の中心と、を検出可能な構成とすれば、どちらか一方だけを検出させる構成とする場合と比較して、乗員において、膨張を完了させたエアバッグによる保護を要求される拘束中心の位置を、精度よく検出することが可能となって、好ましい。
【0010】
さらに、上記構成の乗員保護装置において、姿勢検出装置を、乗員を拘束するシートベルトに設置されて乗員の上半身の傾きを検出可能な傾き検出手段を備える構成とすれば、画像セグメンテーションに加えて傾き検出手段を併用することにより、乗員の上半身の姿勢を、一層精度よく検出することが可能となって、好ましい。
【0011】
さらにまた、上記構成の乗員保護装置において、カメラとして、車両に搭載されるドライブレコーダーの車内撮影用カメラを使用する構成とすれば、ドライブレコーダーの車内撮影用カメラを共用できて、別途乗員撮像用のカメラを設置しなくともよく、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態である乗員保護装置を示す概略側面図である。
【
図2】実施形態の乗員保護装置において、エアバッグ装置を示す部分拡大縦断面図である。
【
図3】
図2のエアバッグ装置におけるケースの左右方向に沿った概略横断面図である。
【
図4】
図2のエアバッグ装置で使用されるエアバッグを単体で膨張させた状態の前方から見た概略斜視図である。
【
図5】
図4のエアバッグを後方から見た概略斜視図である。
【
図7】助手席に着座した乗員にシートベルトを装着させた状態を示す概略正面図である。
【
図8】カメラによって撮像された乗員の画像によって拘束中心を検出した状態を示す概略図である。
【
図9】実施形態の乗員保護装置を示す概略ブロック図である。
【
図10】実施形態の乗員保護装置において、通常着座乗員の着座を検知した状態でエアバッグを膨張完了させた状態の概略側面図である。
【
図11】実施形態の乗員保護装置において、通常着座乗員の着座を検知した状態でエアバッグを膨張完了させた状態の概略平面図である。
【
図12】実施形態の乗員保護装置において、安楽姿勢乗員の着座を検知した状態でエアバッグを膨張完了させた状態の概略側面図である。
【
図13】実施形態の乗員保護装置において、右側移動乗員の着座を検知した状態でエアバッグを膨張完了させた状態の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態では、乗員保護装置Sとして、車両Vにおける助手席(座席)PSに着座した乗員MP(助手席搭乗者)を保護するためのものを、例に採り、説明をする。
【0014】
乗員保護装置Sは、
図1,7に示すように、助手席PSに着座した乗員MPを保護可能なエアバッグ40を備える助手席用のエアバッグ装置30と、助手席PSに着座した乗員MPの着座姿勢を検出可能な姿勢検出装置15と、制御装置65と、を備える構成とされている。また、乗員MPの着座する助手席PSには、実施形態の場合、三点拘束式のシートベルト3が、搭載されている。また、車両Vには、加速度センサ等から構成されて車両Vの衝突を検知可能な衝突検知センサ60と、ミリ波レーダ等から構成されて車両Vの衝突を予測可能な衝突予測センサ61と、が、制御装置65と電気的に接続されて、搭載されている。
【0015】
シートベルト3は、
図1,7に示すように、助手席PSに着座した乗員MPを拘束するためのベルト本体4と、ベルト本体4に取り付けられるタングプレート5と、タングプレート5を連結させるためのバックル6と、車体1側(実施形態の場合、車両Vのセンターピラー1aの領域)に設けられてベルト本体4を巻取可能なリトラクタ7と、を備える構成とされている。ベルト本体4は、リトラクタ7の巻取軸に一端を係止され、センターピラー1aから突出されつつ、他端側を、助手席PSにおける座部の後端左方に配置される図示しないアンカ部材に、係止されている。バックル6は、
図5に示すように、助手席PSにおける座部の後端右方に、配置されている。そして、ベルト本体4は、乗員着座時においてタングプレート5をバックル6に連結させた状態で(乗員装着時に)、上下方向に対して傾斜して配置されるショルダーベルト4aと、ショルダーベルト4aから連なって左右方向に略沿うように配置されるラップベルト4bと、を備えている(
図7参照)。
【0016】
姿勢検出装置15は、実施形態の場合、助手席(座席)PSに着座した乗員MPにおける拘束中心MC(上半身MUの重心)を検出可能な重心検出手段17と、エアバッグ装置30から乗員MPの拘束中心MCまでの離隔距離を検出可能な距離検出手段19と、乗員MPを拘束するシートベルト3に設置されて乗員MPの上半身MUの傾きを検出可能な傾き検出手段24と、を備える構成とされている。
【0017】
重心検出手段17は、膨張を完了させたエアバッグ40によって拘束される乗員MPの拘束中心MCを検出させるためのもので、詳細には、このような拘束中心MCを構成することとなる乗員MPの上半身MUにおける重心を検出させるためのものである。具体的には、実施形態では、重心検出手段17は、カメラ12によって撮像された乗員MPの画像セグメンテーションによるものであり、実施形態の場合、乗員MPの拘束中心MCとして、乗員MPにおける頭部重心HGと、乗員MPの左右の肩MSの肩重心SGL,SGRを結んだ線の中心(以下、肩間中心とする)SCと、を検出可能に構成されている。重心検出手段17は、具体的には、
図8に示すように、カメラ12により撮像された乗員MPの画像PHを画像解析することにより、乗員MPの頭部MHの頭部重心HGを検出(算出)可能とされるとともに、乗員MPの左右の肩MSの肩重心SGL,SGRを検出し、この肩重心SGL,SGRを結んだ線の中心(肩間中心)SCを、割り出して、算出可能とされている。カメラ12としては、車両Vに搭載されているドライブレコーダーの車内撮影用カメラが、使用されている。カメラ12(ドライブレコーダーの車内撮影用カメラ)は、
図1に示すように、助手席PSの前上方のオーバーヘッドコンソール(具体的には、インストルメントパネル10(インパネ)の上方において図示を省略しているオーバーヘッドコンソールに設けられた照明)の部位に、搭載されている。このカメラ12は、エンジン駆動時の乗員MPの状態を常時撮像するように設定されており、重心検出手段17は、エンジン駆動時の乗員MPの拘束中心MC(頭部重心HG及び肩間中心SC)を常時検出するように設定されている。
【0018】
距離検出手段19は、
図1,7に示すように、インパネ10側に設けられるミリ波レーダ20と、乗員MPの装着するシートベルト3側に設けられる被検知体21と、を備える構成とされている。ミリ波レーダ20は、実施形態の場合、
図1に示すように、助手席PSの前方となるインパネ10の前上側であって、カメラ12と略同一となる位置(具体的には、エアバッグ装置30の略直上となる位置)に、配設されている。シートベルト3側に設けられる被検知体21は、ミリ波レーダ20から照射されるミリ波を透過不能(反射可能)な電磁波遮断材(薄肉の金属板等)から形成されるもので、実施形態の場合、シートベルト3におけるショルダーベルト4aにおいて、装着時に肩MS近傍(詳細には、肩間中心SC付近)に配置される領域と、バックル6付近となる位置と、の2箇所に、配設されている(
図1,7参照)。この距離検出手段19においても、ミリ波レーダ20は、エンジン駆動時には常時作動しており、距離検出手段19は、ミリ波レーダ20と被検知体21との離隔距離(すなわち、助手席PS前方のエアバッグ装置30と、乗員MPの拘束中心MCと、の離隔距離)を常時検出するように設定されている。
【0019】
乗員MPの上半身MUの傾きを検出可能な傾き検出手段24は、
図1,7に示すように、乗員MPの装着するシートベルト3におけるショルダーベルト4aに、設置されている。具体的には、傾き検出手段24は、ショルダーベルト4aにおいて、装着時に乗員MPの肩部MS付近(実施形態の場合、上述した被検知体21近傍の領域であって、肩間中心SC付近)に配置されている。実施形態の場合、傾き検出手段24としては、ジャイロセンサが使用されている。傾き検出手段24としては、ジャイロセンサに限らず、加速度センサや地磁気センサも使用することができる。この傾き検出手段24も、乗員MPがシートベルト3を装着した状態でのエンジン駆動時に、乗員MPの上半身MUの傾きを常時検出するように、設定されている。
【0020】
エアバッグ装置30は、助手席PSに着座した乗員MPの前方となるインパネ10の部位に搭載されるもので、
図2に示すように、エアバッグ40と、エアバッグ40に膨張用ガスを供給するガス供給部材としてのインフレーター33と、折り畳まれたエアバッグ40とインフレーター33とを収納させる収納部位としてのケース37と、折り畳まれたエアバッグ40を覆うエアバッグカバー31と、エアバッグ40の膨張形態を調整可能な調整機構としてのテザー機構50と、を備えている。実施形態の場合、エアバッグ装置30は、インパネ10の後上端側の内部に配置されるミッドマウントタイプとされている(
図1参照)。
【0021】
エアバッグカバー31は、実施形態の場合、合成樹脂製のインパネ10と一体的に形成されて、エアバッグ40の展開膨張時に、前後二枚の扉部31a,31bを、エアバッグ40に押されて開くように、構成されている。また、エアバッグカバー31における扉部31a,31bの周囲には、ケース37の周壁部37cに連結される連結壁部31cが、形成されている。
【0022】
ガス供給部材としてのインフレーター33は、複数のガス吐出口33bを有した略円柱状の本体部33aと、インフレーター33をケース37に取り付けるためのフランジ部33cと、を備えている。
【0023】
ケース37は、後端側に長方形状の開口を有した板金製の略直方体形状に形成され、
図1,2に示すように、インフレーター33を前方から挿入させて取り付ける略四角形状の底壁部37aと、底壁部37aの外周縁から上方に延びてエアバッグカバー31の連結壁部31cを係止する略四角筒状の周壁部37cと、を備えている。実施形態の場合、ケース37の底壁部37aは、上下方向に略沿うように配置されるもので、中央側にインフレーター33を挿入させるための挿通孔(図符号省略)を有し、この挿通孔の上下左右の4箇所に、テザー機構50における後述する4つのテザー本体51U,51D,51L,51Rをそれぞれ挿通させるための略スリット状の貫通孔37bを、配設させている(
図3参照)。ケース37の底壁部37aにおける前面側において、貫通孔37bの周縁には、テザー機構50における後述する繰出装置52U,52D,52L,52Rが、それぞれ、配設されている(
図2,3参照)。また、エアバッグ40とインフレーター33とは、エアバッグ40の内部に配置させたリテーナ34の各ボルト34aを取付手段として、エアバッグ40における後述する流入用開口42の周縁、ケース37の底壁部37a、及び、インフレーター33のフランジ部33cを、貫通させて、ナット35止めすることにより、ケース37の底壁部37aに連結される構成である。なお、ケース37は、図示しないブラケットを利用して、車両Vのボディ側に連結されている。
【0024】
エアバッグ40は、可撓性を有したシート体(実施形態の場合、ポリアミド糸やポリエステル糸等からなる可撓性を有した織布)から形成されて、インフレーター33から吐出される膨張用ガスを内部に流入させて膨張可能な袋状とされている。エアバッグ40は、膨張完了時に乗員MP側に配置される乗員側壁部46と、乗員側壁部46の周縁から前方に延びるとともに前端側にかけて収束される先細り形状の周壁部41と、を備える構成として、単体で膨張させた状態の外形形状を、略四角錐形状とされている(
図4~6参照)。周壁部41の前端41a側には、内部に膨張用ガスを流入可能に略円形に開口して、周縁をケース37の底壁部37aに取り付けられる流入用開口42が、形成されている。流入用開口42の周縁には、リテーナ34のボルト34aを挿通させて、流入用開口42の周縁をケース37の底壁部37aに取り付けるための複数(実施形態の場合、4個)の取付孔43が、形成されている。また、流入用開口42の周縁における上下左右の4箇所には、テザー機構50の4本のテザー本体51U,51D,51L,51Rを挿通可能なスリット状の挿通孔44が、それぞれ、形成されている。
【0025】
実施形態のエアバッグ40では、乗員側壁部46が、膨張完了時に乗員MPの拘束中心MCを受け止め可能な乗員受止部を、構成している。そして、実施形態では、エアバッグ40は、調整機構としてのテザー機構50を作動させない状態での膨張完了形状を、乗員側壁部46を上下左右に略沿わせて配置させるように、構成されている(
図6参照)。実施形態の乗員保護装置Sでは、通常状態で配置される助手席PSに、拘束中心MCを助手席PSの左右の中心と略一致させるようにして着座している乗員MP(通常着座乗員MP0)を保護する場合に、テザー機構50を非作動の状態(テザー本体51U,51D,51L,51Rの長さ寸法を初期長さ寸法とした状態)で、エアバッグ40を膨張させる構成であり、エアバッグ40は、テザー機構50を非作動の状態での膨張完了形状を、乗員側壁部46を、通常着座乗員MP0における上半身MUに略沿わせて、上半身MUの前側に近接して位置させるように、構成されている(
図10,11参照)。また、エアバッグ40は、テザー機構50を非作動の状態での膨張完了状態において、乗員側壁部46の上下方向側の幅寸法及び左右方向側の幅寸法を、乗員側壁部46(乗員受止部)によって通常着座乗員MP0における拘束中心MCを安定して受止可能な寸法(上半身MUを上下左右に広く覆い可能な寸法)に、設定されている(
図7の二点鎖線参照)。
【0026】
調整機構としてのテザー機構50は、乗員受止部としての乗員側壁部46を、エアバッグ40の膨張完了時に、乗員MPの着座姿勢に応じて配置位置や配置形状を変更することにより、エアバッグ40の膨張形態を調整可能とされるもので、実施形態の場合、
図2~6に示すように、4つのテザー本体51U,51D,51L,51Rと、ケース37側に配置されて各テザー本体51U,51D,51L,51Rを繰り出し可能に構成される4つの繰出装置52U,52D,52L,52Rと、を備えている。
【0027】
4つのテザー本体51U,51D,51L,51Rは、可撓性を有した帯状体から構成されるもので、それぞれ、繰出装置52U,52D,52L,52Rから繰り出し可能とされて、端部51a側を、それぞれ、乗員側壁部46における上側領域46a,下側領域46b,左側領域46c,右側領域46dに連結されている。各テザー本体51U,51D,51L,51Rは、繰出装置52U,52D,52L,52Rの非作動の状態での長さ寸法(初期長さ寸法)を、膨張完了時の乗員側壁部46の乗員MP側への過度の突出を抑制しつつ、上述したごとく、通常状態で配置される助手席PSに着座している通常着座乗員MP0の上半身MUの前側に近接して上半身MUに略沿わせるように配置可能な寸法に、設定されている。
【0028】
各テザー本体51U,51D,51L,51Rをそれぞれ繰り出し可能な繰出装置52U,52D,52L,52Rは、ケース37の底壁部37aの前面側において、インフレーター33の周囲(インフレーター33の上下左右となる位置)に、配置されている(
図2,3参照)。各繰出装置52U,52D,52L,52Rは、詳細な図示は省略するが、テザー本体51U,51D,51L,51Rの端部51b側を巻取可能な巻取ローラと、巻取ローラを回転駆動させてテザー本体を繰り出しあるいは巻き取り可能とされる駆動機構と、巻取ローラの回転駆動を停止させる停止機構と、を有する構成とされている。この各繰出装置52U,52D,52L,52Rは、姿勢検出装置15により常時検出される乗員MPの着座姿勢と位置とに応じて、常時、テザー本体51U,51D,51L,51Rを繰り出しあるいは巻き取って、テザー本体51U,51D,51L,51Rの長さを調整し、衝突予測センサ61による車両Vの衝突予測時に、停止機構により巻取ローラの回転を停止させて、テザー本体51U,51D,51L,51Rの長さを決定するように、構成されている。
【0029】
制御装置65は、乗員MPの着座姿勢に応じて、エアバッグ装置30に設けられる調整機構としてのテザー機構50を制御するとともに、ガス供給部材としてのインフレーター33を作動させてエアバッグ40を膨張させるもので、上述したごとく、衝突検知センサ60、衝突予測センサ61、姿勢検出装置15を構成している重心検出手段17,距離検出手段19,傾き検出手段24、調整機構としてのテザー機構50の各繰出装置52U,52D,52L,52R、及び、インフレーター33と、電気的に接続されている。また、制御装置65は、
図9に示すように、姿勢判定部66と、衝突予測取得部67と、衝突検知取得部68と、を、備えている。そして、制御装置65は、上述したごとく、姿勢検出装置15により、常時、乗員MPの着座姿勢と位置とを検出しており、常時、テザー機構50の各繰出装置52U,52D,52L,52Rの作動を制御している。そして、衝突予測センサ61による車両Vの衝突を予測した際に、テザー機構50の各繰出装置52U,52D,52L,52Rの作動を停止して、テザー本体51U,51D,51L,51Rの長さを決定し、衝突検知センサ60による車両Vの衝突を検知した際に、インフレーター33を作動させて、エアバッグ40を、乗員MPの着座姿勢に応じた膨張形態で、膨張させることとなる。
【0030】
実施形態の乗員保護装置Sでは、乗員MPの着座姿勢を検出可能な姿勢検出装置15が、乗員MPの拘束中心MCを構成することとなる上半身MUの重心を検知可能な重心検出手段17と、エアバッグ装置30から拘束中心MCまでの離隔距離を検出可能な距離検出手段19と、を備えていることから、エアバッグ40を、拘束中心MCの位置とエアバッグ装置30からの離隔距離とに応じて、膨張形態を適宜調整するように、膨張制御することができる。また、実施形態の乗員保護装置Sでは、重心検出手段17が、乗員MPの画像セグメンテーションによるものであることから、乗員MPの上半身MUの重心位置を精度よく検出することができて、乗員MPの着座姿勢を、精度よく検出することができる。そのため、膨張を完了させたエアバッグ40の乗員受止部(乗員側壁部46)により、乗員MPの拘束中心MCを好適に受け止めることが可能となり、例えば、通常着座状態での座席に着座している乗員も、自動運転時等においてリクライニングさせた状態の座席に着座している安楽姿勢状態の乗員も、膨張を完了させたエアバッグ40によって、好適に保護することができる。
【0031】
したがって、実施形態の乗員保護装置Sでは、着座位置や着座姿勢が異なっていても、座席(助手席PS)に着座している乗員MPを、膨張したエアバッグ40により好適に保護することができる。
【0032】
また、実施形態の乗員保護装置Sでは、重心検出手段17は、拘束中心MCとして、乗員MPにおける頭部重心HGと、乗員MPの左右の肩MSの肩重心SGL,SGRを結んだ線の中心(肩間中心SC)と、を検出可能な構成とされている。そのため、どちらか一方だけを検出させる構成とする場合と比較して、乗員MPにおいて、膨張を完了させたエアバッグによる保護を要求される拘束中心MCの位置を、精度よく検出することができる。なお、実施形態では、画像セグメンテーションにより、頭部重心HGと肩重心SGL,SGRのみを検出可能な構成としているが、一層精度を向上させるために、頭部重心と肩重心とに加えて、腰部(左右の大腿骨転子部)の重心や左右の肘の重心等を検出する構成としてもよい。
【0033】
さらに、実施形態の乗員保護装置Sでは、姿勢検出装置15が、乗員MPを拘束するシートベルト3に設置されて乗員MPの上半身MUの傾きを検出可能な傾き検出手段24を備える構成とされている。そのため、画像セグメンテーションに加えて傾き検出手段24を併用することにより、乗員MPの上半身MUの姿勢を、一層精度よく検出することができる。なお、このような点を考慮しなければ、傾き検出手段を配設させない構成としてもよい。
【0034】
さらにまた、実施形態の乗員保護装置Sでは、カメラ12として、車両Vに搭載されるドライブレコーダーの車内撮影用カメラを使用する構成であることから、ドライブレコーダーの車内撮影用カメラを共用できて、別途乗員撮像用のカメラを設置しなくともよい。勿論、このような点を考慮しなければ、ドライブレコーダーの車内撮影用カメラと別に、別途乗員撮影用のカメラを設置してもよい。
【0035】
以下、実施形態の乗員保護装置Sによる乗員MPの保護について、詳細に説明する。なお、実施形態では、便宜上、助手席PS自体の前後への移動はないものとして、説明する。また、以下で説明する乗員MPの保護は、全て、車両Vの前方からの衝突時(前面衝突時)の場合である。
【0036】
通常状態で配置される(背もたれ部をリクライニングさせていない状態の)助手席PSに、拘束中心MCを助手席PSの左右の中心と略一致させるようにして着座している乗員MP(通常着座乗員MP0)を検知している場合には、エアバッグ40は、テザー機構50を非作動の状態(テザー本体51U,51D,51L,51Rの長さ寸法を初期長さ寸法とした状態)で、膨張することとなる。そして、エアバッグ40が、
図10,11に示すように、乗員側壁部46(乗員受止部)を、通常着座乗員MP0の上半身MUに略沿わせつつ(上下方向及び左右方向に略沿わせつつ)、上半身MUの前側に近接して配置させるように膨張を完了させることとなり、乗員側壁部46(乗員受止部)によって、通常着座乗員MP0の頭部MHを含めた上半身MUを、的確に受け止めることができる。
【0037】
また、例えば、背もたれ部をリクライニングさせた状態の助手席PSに、拘束中心MCを助手席PSの左右の中心と略一致させるようにして着座している乗員MP(安楽姿勢乗員MP1)を検知している場合には、上側に配置されるテザー本体51Uを所定長さ分繰り出し、左側と右側とに配置されるテザー本体51L,51Rを、上側のテザー本体51Uよりも繰出量を小さくして所定量繰り出すように、テザー機構50を作動させた状態(すなわち、繰出装置52Dのみ非作動(テザー本体51Dのみ初期長さ寸法)の状態)で、エアバッグ40を膨張させることとなる。この膨張形態では、エアバッグ40は、
図12に示すように、左右方向側から見た状態で、乗員側壁部46(乗員受止部)を、下側領域46bに対して上側領域46aを後方に位置させて、上下方向に対して大きく傾斜させて配置させるように、膨張を完了させることとなる。すなわち、エアバッグ40は、乗員側壁部46(乗員受止部)を、安楽姿勢乗員MP1の上半身MUに略沿わせるようにして、膨張を完了させることとなり、乗員側壁部46(乗員受止部)によって、安楽姿勢乗員MP1の頭部MHを含めた上半身MUを、的確に受け止めることができる。
【0038】
さらに、例えば、図示しないアームレストにもたれかかるようにして、拘束中心MCをエアバッグ装置30(助手席PS)に対して左方あるいは右方にずらすようにして通常状態で配置される助手席PSに着座している乗員MPを検知している場合(
図13では、拘束中心MCを右方にずらすように着座している右側移動乗員MP2を例示)には、拘束中心MCの移動側となる右側に配置されるテザー本体51Rを所定長さ分繰り出し、上側と下側とに配置されるテザー本体51U,51Dを、右側のテザー本体51Rよりも繰出量を小さくして所定量繰り出すように、テザー機構50を作動させた状態(すなわち、繰出装置52Lのみ非作動(テザー本体51Dのみ初期長さ寸法)の状態)で、エアバッグ40を膨張させることとなる。この膨張形態では、エアバッグ40は、
図13に示すように、上下方向側から見た状態で、乗員側壁部46(乗員受止部)を、左側領域46cに対して右側領域46dを後方(乗員側)に位置させて、左右方向に対して大きく傾斜させて配置させるように膨張を完了させることとなる。すなわち、エアバッグ40が、乗員側壁部46(乗員受止部)において、右側移動乗員MP2の上半身MU側となる右側を、上半身MUの前側に近接させるようにして膨張を完了させることから、前方移動する右側移動乗員MP2の上半身MUを、乗員側壁部46(乗員受止部)の右側領域46dによって、迅速に受け止めることができて、右側移動乗員MP2の頭部MHを含めた上半身MUを、的確に受け止めることが可能となる。
【0039】
その結果、実施形態の乗員保護装置Sでは、乗員MPの着座姿勢が異なっていても、乗員MPの着座姿勢に応じて、エアバッグ40の膨張形態を調整することができ、様々な着座姿勢で着座している乗員MP(MP0,MP1,MP2)を、エアバッグ40によって、好適に保護することができる。
【0040】
なお、実施形態では、乗員MPの着座姿勢に応じてエアバッグ40の膨張形態を調整する構成であるが、例えば、別途センサを配置させることにより乗員MPの体格や骨密度等を検出可能な構成として、乗員MPの着座姿勢に加えて、体格や骨密度等に応じて、エアバッグ40の膨張形態を調整するように構成してもよい。また、実施形態では、エアバッグ40の膨張形態を調整可能な調整機構として、エアバッグ40における乗員側壁部46(乗員受止部)の形状(具体的には、膨張完了時の乗員側壁部46の位置と傾斜)を変更可能なテザー機構50が、使用されているが、エアバッグの膨張形態を調整可能な調整機構は、テザー機構に限定されるものではない。例えば、エアバッグ装置自体(ケース)を、インパネ(車体側)に対して移動可能(具体的には、上下方向側への回転移動や、左右方向側へのスライド移動)とする駆動機構を設け、この駆動機構を調整機構として、エアバッグの展開の方向等を調整する構成としてもよい。さらには、エアバッグに開口面積を変更可能として膨張用ガスの排気量を変更可能なベントホールを設ける等、エアバッグの膨張完了時の内圧を調整する内圧調整機構を、調整機構として用い、エアバッグの膨張完了時の内圧を適宜変更可能な構成としてもよい。また、エアバッグに膨張用ガスを供給するガス供給部材として、複数のインフレーターを配置させ、インフレーターの作動タイミングを異ならせることにより、エアバッグの膨張形態を異ならせる構成としてもよい。さらにまた、エアバッグとして、容積の比較的小さなものを複数個配設させ、それぞれ、適宜膨張させる構成や、エアバッグの内部を複数の領域に区画させて、各領域を適宜膨張させるような構成として、エアバッグの膨張形態を異ならせる構成としてもよい。勿論、これらの機構を複数並設させて、調整機構とする構成としてもよい。
【0041】
なお、実施形態では、便宜上、助手席PSを前後移動させない状態で、車両V前面衝突の場合に限定して、説明しているが、本発明の乗員保護装置を作動可能な状態は、実施形態に限定されるものではない。例えば、助手席を車両に対して前後移動させている場合の助手席に着座している乗員の姿勢を検出し、前面衝突だけではなく、車両の斜め衝突時やオフセット衝突時等にも、乗員を的確に保護可能に、エアバッグの膨張形態を調整する構成とすることもできる。
【0042】
また、実施形態では、助手席PSに着座した乗員MPを保護する乗員保護装置Sを例に採り説明しているが、本発明は勿論助手席用に限定されるものではなく、運転席に着座している運転者、あるいは後部座席に着座した乗員の保護用に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
3…シートベルト、7…リトラクタ、7a…ジャイロセンサ、12…カメラ、15…姿勢検出装置、17…重心検出手段、19…距離検出手段、24…傾き検出手段、30…エアバッグ装置、33…インフレーター(ガス供給部材)、40…エアバッグ、46…乗員側壁部(乗員受止部)、50…テザー機構(調整機構)、65…制御装置、MP(MP0,MP1,MP2)…乗員、MC…拘束中心、MH…頭部、HG…頭部重心、MS…肩、SGL,SGR…肩重心、PS…助手席(座席)、V…車両、S…乗員保護装置。