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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】車両制御方法及び車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20241210BHJP
   G01P 3/56 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B60W30/02 300
G01P3/56 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021192956
(22)【出願日】2021-11-29
(65)【公開番号】P2023079469
(43)【公開日】2023-06-08
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩間 正道
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-218921(JP,A)
【文献】特開平04-293651(JP,A)
【文献】特開平01-101260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/02
G01P 3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4輪駆動型の車両の加速度センサからの加速度の情報と、前記車両の車輪速センサからの駆動輪の回転速度の情報と、前記駆動輪に対応する駆動力の情報と、を取得し
記回転速度から算出される車体速度を示す算出速度が前記加速度から推定される前後方向の車体速度を示す推定速度を下回る落ち込み状態から落ち込みでない状態に切り替わり、かつ、前記落ち込みでない状態が保たれる保持期間を経過した後に、前記推定速度をリセットする条件が満たされるか否かを判定し、
前記リセット条件が満たされる場合、前記駆動力が閾値未満か否かを判定し、
前記駆動力が前記閾値未満の場合、前記推定速度をリセットして前記推定速度の推定に用いる車体初速度に前記算出速度の現在値を設定する
車両制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御方法であって、
前記車体初速度に前記算出速度の現在値が設定された前記推定速度には、さらに、ゲインが乗算される
車両制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両制御方法であって、
前記リセット条件は、
前記推定速度が前記落ち込みでない状態であること、かつ、前記駆動輪が制動状態でないことを含む
車両制御方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両制御方法であって、
前記リセット条件が満たされると判定された場合、前記保持期間に続く期間であって、前記車体初速度の設定を実行する期間を示す実行期間を設定する処理を含む
車両制御方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車両制御方法であって、
前記落ち込み状態を判定する処理において、
前記駆動輪が制動状態であり、かつ、前記算出速度が前記推定速度を下回る状態が所定期間以上継続しているか否かを判定し、
前記駆動輪が制動状態であり、かつ、前記算出速度が前記推定速度を下回る状態が前記所定期間以上継続していると判定された場合、前記推定速度が前記落ち込み状態と判定される
車両制御方法。
【請求項6】
4輪駆動型の車両の加速度センサからの加速度の情報と、前記車両の車輪速センサからの駆動輪の回転速度の情報と、前記駆動輪に対応する駆動力の情報と、を格納した記憶装置と、前記車両の加速スリップを抑制する処理を行うプロセッサと、を備え、
前記加速スリップを抑制する処理が
記回転速度から算出される車体速度を示す算出速度が前記加速度から推定される前後方向の車体速度を示す推定速度を下回る落ち込み状態から落ち込みでない状態に切り替わり、かつ、前記落ち込みでない状態が保たれる保持期間を経過した後に、前記推定速度をリセットする条件が満たされるか否かを判定する処理と、
前記リセット条件が満たされると判定された場合、前記駆動力が閾値未満か否かを判定する処理と、
前記駆動力が前記閾値未満と判定された場合、前記推定速度をリセットして前記推定速度の推定に用いる車体初速度に前記算出速度の現在値を設定する処理と、
を含む車両制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両制御装置であって、
前記車体初速度に前記算出速度の現在値が設定された前記推定速度には、さらに、ゲインが乗算される
車両制御装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の車両制御装置であって、
前記リセット条件は、
前記推定速度が前記落ち込みでない状態であること、かつ、前記駆動輪が制動状態でないことを含む
車両制御装置。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか一項に記載の車両制御装置であって、
前記リセット条件が満たされると判定された場合、前記保持期間に続く期間であって、前記車体速度の設定を実行する期間を示す実行期間を設定する処理を含む
車両制御装置。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか一項に記載の車両制御装置であって、
前記落ち込み状態を判定する処理において、
前記駆動輪が制動状態であり、かつ、前記算出速度が前記推定速度を下回る状態が所定期間以上継続しているか否かを判定し、
前記駆動輪が制動状態であり、かつ、前記算出速度が前記推定速度を下回る状態が前記所定期間以上継続していると判定された場合、前記推定速度が前記落ち込み状態と判定される
車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、4輪駆動型の車両の加速スリップの抑制を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車輪スリップ防止制御装置において、加速度センサから取得した加速度にセンサ誤差分として一定量オフセットし、加速度の積分による車体速度を推定する技術が開示されている。この技術では、非制動時において、加速度を積分して推定される推定速度が、駆動輪の回転速度から算出される算出速度を下回る加速スリップ状態にあるとき、算出速度にリセットされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平01-101260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加速スリップ状態において、推定速度が、算出速度にリセットされることで、推定速度と算出速度の差を示す加速スリップ量は小さくなる。これにより、加速スリップ状態における加速スリップ量が所定の閾値以上で作動するTRC(Traction Control System)の介入を抑制することができ、駆動力に対する過度な抑制を防ぐことができる。2輪駆動型の車両においては、TRCの介入が抑制されても、推定速度が従動輪の実車体速度に推移するため、車両の走行安全性を確保することができる。
【0005】
しかしながら、4輪駆動型の車両においては、全ての車輪に駆動力が発生するので、推定速度が実車体速度に推移しているか否かを把握することができない。このため、TRCの介入が抑制されてしまうと、推定速度が実車体速度を上回る実際のスリップ状態が発生する可能性があり、車両の走行安全性が確保できないおそれがある。この場合、推定速度を算出速度にリセットさせない方が望ましいが、加速スリップ状態においては、4輪ともに加速スリップする状態となるため、TRCを介入する制御量が過多となり加速不良となってしまう。従って、4輪駆動型の車両では、加速スリップ状態において、加速スリップ量の制御を行う適切なタイミングで、推定速度を適切に制御するための改良が望まれる。
【0006】
本開示の1つの目的は、4輪駆動型の車両が加速スリップ状態にあることが判明した場合において、加速スリップ量を適切に制御することのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の観点は、車両制御方法に関連する。
車両制御方法は、4輪駆動型の車両の加速度センサからの加速度の情報と、車両の車輪速センサからの駆動輪の回転速度の情報と、駆動輪に対応する駆動力の情報と、を取得する。
車両制御方法は、回転速度から算出される車体速度を示す算出速度が加速度から推定される前後方向の車体速度を示す推定速度を下回る落ち込み状態から落ち込みでない状態に切り替わり、かつ、落ち込みでない状態が保たれる保持期間を経過した後に、推定速度をリセットする条件が満たされるか否かを判定する。
車両制御方法は、リセット条件が満たされる場合、駆動力が閾値未満か否かを判定する。
車両制御方法は、駆動力が閾値未満の場合、推定速度をリセットして推定速度の推定に用いる車体初速度に算出速度の現在値を設定する。
【0008】
第2の観点は、第1の観点に加えて、次の特徴を更に有する。
車両制御方法は、車体初速度に算出速度の現在値が設定された推定速度には、さらに、ゲインが乗算される。
【0009】
第3の観点は、第1又は第2の観点に加えて、次の特徴を更に有する。
リセット条件は、推定速度が落ち込みでない状態であること、かつ、駆動輪が制動状態でないことを含む。
【0010】
第4の観点は、第1の観点乃至第3の観点のいずれか一つの観点に加えて、次の特徴を更に有する。
車両制御方法は、リセット条件が満たされると判定された場合、保持期間に続く期間であって、車体初速度の設定を実行する期間を示す実行期間を設定する処理を含む。
【0011】
第5の観点は、第1の観点乃至第4の観点のいずれか一つの観点に加えて、次の特徴を更に有する。
車両制御方法は、落ち込み状態を判定する処理において、駆動輪が制動状態であり、かつ、算出速度推定速度を下回る状態が所定期間以上継続しているか否かを判定する。
車両制御方法は、落ち込み状態を判定する処理において、駆動輪が制動状態であり、かつ、算出速度推定速度を下回る状態が所定期間以上継続していると判定された場合、推定速度が落ち込み状態と判定される。
【0012】
第6の観点は、車両制御装置に関する。
車両制御装置は、4輪駆動型の車両の加速度センサからの加速度の情報と、車両の車輪速センサからの駆動輪の回転速度の情報と、駆動輪に対応する駆動力の情報と、を格納した記憶装置と、車両の加速スリップを抑制する処理を行うプロセッサと、を備える。
加速スリップを抑制する処理が
転速度から算出される車体速度を示す算出速度が加速度から推定される前後方向の車体速度を示す推定速度を下回る落ち込み状態から落ち込みでない状態に切り替わり、かつ、落ち込みでない状態が保たれる保持期間を経過した後に、推定速度をリセットする条件が満たされるか否かを判定する処理と、
リセット条件が満たされると判定された場合、駆動力が閾値未満か否かを判定する処理と、
駆動力が閾値未満と判定された場合、推定速度をリセットして推定速度の推定に用いる車体初速度に算出速度の現在値を設定する処理と、
を含む。
【0013】
第7の観点は、第6の観点に加えて、次の特徴を更に有する。
車体初速度に算出速度の現在値が設定された推定速度には、さらに、ゲインが乗算される。
【0014】
第8の観点は、第6又は第7の観点に加えて、次の特徴を更に有する。
リセット条件は、推定速度が落ち込みでない状態であること、かつ、駆動輪が制動状態でないことを含む。
【0015】
第9の観点は、第6の観点乃至第8の観点のいずれか一つの観点に加えて、次の特徴を更に有する。
車両制御装置は、リセット条件が満たされると判定された場合、保持期間に続く期間であって、車体初速度の設定を実行する期間を示す実行期間を設定する処理を含む。
【0016】
第10の観点は、第6の観点乃至第9の観点のいずれか一つの観点に加えて、次の特徴を更に有する。
車両制御装置は、落ち込み状態を判定する処理において、駆動輪が制動状態であり、かつ、算出速度推定速度を下回る状態が所定期間以上継続しているか否かを判定する。
車両制御装置は、落ち込み状態を判定する処理において、駆動輪が制動状態であり、かつ、算出速度推定速度を下回る状態が所定期間以上継続していると判定された場合、推定速度が落ち込み状態と判定される。
【発明の効果】
【0017】
第1の観点によれば、車両の前後方向における加速度から推定される推定速度が落ち込み状態から落ち込みでない状態に切り替わり、かつ、この落ち込み状態でない状態が保持される期間を経過した後に、リセット条件が満たされるか否かが判定される。リセット条件が満たされると判定された場合には、駆動輪の駆動力が閾値未満か否かが判定される。そして、駆動力が閾値未満と判定された場合には、推定速度の現在値がリセットされる。また、推定速度の推定に用いる車体初速度に、駆動輪の回転速度から算出される算出速度の現在値が設定される。一連の処理によれば、4輪駆動型の車両が加速スリップ状態にあるときに、加速スリップ量の制御を開始するタイミングにおける推定速度を適切な値に設定できるので、加速スリップ量を適切に制御することが可能となる。
【0018】
第2の観点によれば、ゲインが乗算された推定速度によって加速スリップ量を適切に制御することが可能となる。
【0019】
第3の観点によれば、加速スリップ量の制御を開始するタイミングを適切に判断することが可能となる。
【0020】
第4の観点によれば、実行期間において、推定速度の現在値をリセットして推定速度の推定に用いる車体初速度を設定することが可能となる。
【0021】
第5の観点によれば、4輪駆動型の車両が加速スリップ状態にあることを適切に判定することが可能となる。
【0022】
第6の観点によれば、第1の観点と同じ効果が得られる。
【0023】
第7の観点によれば、第2の観点と同じ効果が得られる。
【0024】
第8の観点によれば、第3の観点と同じ効果が得られる。
【0025】
第9の観点によれば、第4の観点と同じ効果が得られる。
【0026】
第10の観点によれば、第5の観点と同じ効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の形態に係る車両制御装置の構成例を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る車両制御装置の機能例を示すブロック図である。
図3】本発明の実施の形態に係る車両制御装置の加速スリップ抑制処理部における推定速度落ち込み判定部の処理例を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施の形態に係る車両制御装置の加速スリップ抑制処理部における速度制御期間設定処理部の処理例を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施の形態に係る車両制御装置の加速スリップ抑制処理部における推定速度制御処理部の処理例を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施の形態に係る車両制御装置の加速スリップ抑制処理部における処理例を示す図である。
図7】本発明の実施の形態に係る車両制御装置の加速スリップ抑制処理部における処理結果の例を示す図である。
図8】本発明の実施の形態に係る車両制御装置の加速スリップ抑制処理部における処理結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
添付図面を参照して、本開示の実施の形態に係る車両制御方法及び車両制御装置ついて説明する。なお、実施形態に係る車両制御方法は、実施形態に係る車両制御装置のコンピュータ処理により実現される。
【0029】
1.実施の形態
1-1.構成例
本実施の形態に係る車両制御装置10は、4輪駆動型の車両(以下単に「車両」とも称す。)の加速スリップを抑制するため、加速スリップ状態の所定期間において、車両の駆動輪に対する駆動力の状態を判定し、その判定結果に基づいて推定速度を制御するための装置である。本実施の形態に係る車両制御装置は、車両に搭載される。図1は、本実施の形態に係る車両制御装置10の構成例を示すブロック図である。
【0030】
車両制御装置10は、各種情報処理を行う。車両制御装置10は、1又は複数のプロセッサ100(以下、単にプロセッサ100と呼ぶ)と、1又は複数の記憶装置110(以下、単に記憶装置110)と、を含んでいる。プロセッサ100は、各種処理を実行する。例えば、プロセッサ100は、CPU、等が挙げられる。記憶装置110は、加速度の情報120のデータ、駆動輪の回転速度の情報130のデータ、及び駆動力の情報140のデータを格納する。記憶装置110としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD、SSD、等が例示される。プロセッサ100がコンピュータプログラムである車両制御プログラムを実行することによって、車両制御装置10の機能が実現される。車両制御プログラムは、記憶装置110に格納される。車両制御プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。車両制御プログラムは、ネットワーク経由で提供されてもよい。
【0031】
加速度の情報120には、車両に搭載された加速度センサから取得した車両の前後方向の加速度の情報が含まれる。駆動輪の回転速度の情報130には、車両の全ての駆動輪に搭載された車輪速センサから取得したこれらの駆動輪の各回転速度の情報が含まれる。駆動力の情報140には、車両に搭載された駆動装置から取得した全ての駆動輪に対する駆動力の情報が含まれる。
【0032】
1-2.情報処理の詳細
車両制御装置10は、加速度の情報120及び駆動輪の回転速度の情報130に基づいて、車体速度の状態を推定する。その後、推定された推定速度の状態に応じて、推定速度を制御することが可能な所定期間を設定する。さらに、駆動力の情報140に基づいて、所定期間における駆動力の状態を判定し、その判定結果に基づいて、推定速度を適切な速度に設定する制御を行い、加速スリップを抑制する加速スリップ抑制処理を実行する。本実施の形態に係る情報処理は、以下に説明されるような特徴的な処理を含む。
【0033】
図2は、本実施の形態に係る情報処理に関連する機能例を示すブロック図である。車両制御装置10は、機能ブロックとして、情報入力部200、加速スリップ抑制処理部300及び処理結果出力部400を備えている。これらの機能ブロックは、プロセッサ100が車両制御プログラムを実行することによって実現される。
【0034】
情報入力部200は、記憶装置110に記録されている加速度の情報120、駆動輪の回転速度の情報130、及び駆動力の情報140を入力する処理を行う。その後、入力された加速度の情報120、駆動輪の回転速度の情報130、及び駆動力の情報140を加速スリップ抑制処理部300に対して出力を行う。
【0035】
加速スリップ抑制処理部300は、さらに、車体速度算出部310、推定速度落ち込み判定部320、速度制御期間設定処理部330、推定速度制御処理部340、及び制御量生成処理部350を備えている。加速スリップ抑制処理部300は、入力された加速度の情報120、駆動輪の回転速度の情報130、及び駆動力の情報140に基づいて、加速スリップが発生する兆候にあるか否かを判定する。加速スリップが発生する兆候にあると判定された場合、推定速度を制御することが可能な所定期間を設定し、所定期間における駆動力の状態を判定する。判定結果に応じて、推定速度を加速スリップ抑制可能な速度に制御を行う。車体速度算出部310、推定速度落ち込み判定部320、速度制御期間設定処理部330、推定速度制御処理部340、及び制御量生成処理部350の各処理の詳細を後述する。
【0036】
車体速度算出部310は、入力された加速度の情報120を積分した積分値を車体速度に加算することで推定される車体速度を示す推定速度を算出する。また、入力された駆動輪の回転速度の情報130に基づいて、車体速度を示す算出速度を算出する。
【0037】
推定速度落ち込み判定部320は、車体速度算出部310で算出された推定速度と、算出速度とに基づいて、推定速度が「落ち込み状態」である否かを判定する。推定速度が「落ち込み状態」であると判定された場合、加速スリップが発生する兆候にあると判定される。推定速度落ち込み判定部320の処理については詳細を後述する。
【0038】
速度制御期間設定処理部330は、推定速度落ち込み判定部320において、推定速度が「落ち込み状態」であると判定された場合、その後、推定速度が「落ち込み状態」から「落ち込みでない状態」に切り替わり、「落ち込みでない状態」が保持する期間を示す保持期間を経過した後に、リセット条件が満たされるか否かを判定する。リセット条件が満たされると判定された場合、推定速度を制御することが可能な実行期間を設定する。
【0039】
リセット条件とは、推定速度が「落ち込み状態」から「落ち込みでない状態」に切り替わってから、「落ち込みでない状態」が保持期間継続した後に、推定速度が「落ち込みでない状態」であること、かつ、駆動輪が制動状態でないことを含む条件のことである。速度制御期間設定処理部330の処理については詳細を後述する。
【0040】
推定速度制御処理部340は、速度制御期間設定処理部330で設定された実行期間において、駆動力の状態に基づいて、推定速度の現在値をリセットして、推定速度の推定に用いる車体初速度に算出速度の現在値を設定する制御を行う。推定速度制御処理部340の処理については詳細を後述する。
【0041】
制御量生成処理部350は、推定速度制御処理部340で生成された推定速度に基づいて、駆動力を制御するための制御量を生成する。
【0042】
処理結果出力部400は、加速スリップ抑制処理部300で生成された制御量を駆動装置に対して出力する処理を行う。
【0043】
図3は、推定速度落ち込み判定部320の処理例を示すフローチャートである。
【0044】
ステップS100において、推定速度落ち込み判定部320は、駆動輪が制動状態であるか否かを判定する。
【0045】
駆動輪が制動状態であると判定された場合(ステップS100;Yes)、処理はステップS110に進む。それ以外の場合(ステップS100;No)、処理はステップS130に進む。
【0046】
ステップS110において、推定速度落ち込み判定部320は、算出速度が推定速度未満となる状態が所定時間以上続くか否かを判定する。
【0047】
算出速度が推定速度未満となる状態が所定時間以上続くと判定された場合(ステップS110;Yes)、処理はステップS120に進む。それ以外の場合(ステップS110;No)、処理はステップS130に進む。
【0048】
ステップS120において、推定速度落ち込み判定部320は、推定速度が「落ち込み状態」であると判定する。
【0049】
ステップS130において、推定速度落ち込み判定部320は、推定速度が「落ち込みでない状態」であると判定する。
【0050】
ステップS140において、推定速度落ち込み判定部320は、判定した結果を出力する。
【0051】
図4は、速度制御期間設定処理部330の処理例を示すフローチャートである。
【0052】
ステップS200において、速度制御期間設定処理部330は、推定速度落ち込み判定部320で判定された推定速度が「落ち込み状態」から「落ち込みでない状態」に切り替わるタイミングがあるか否かを判定する。
【0053】
推定速度が「落ち込み状態」から「落ち込みでない状態」に切り替わるタイミングがあると判定された場合(ステップS200;Yes)、処理はステップS210に進む。それ以外の場合(ステップS200;No)、処理はステップS240に進む。
【0054】
ステップS210において、速度制御期間設定処理部330は、推定速度が「落ち込みでない状態」に切り替わった後に、「落ち込みでない状態」が保持期間継続するか否かを判定する。
【0055】
推定速度の「落ち込みでない状態」が保持期間継続すると判定された場合(ステップS210;Yes)、処理はステップS220に進む。それ以外の場合(ステップS210;No)、処理はステップS240に進む。
【0056】
ステップS220において、速度制御期間設定処理部330は、駆動輪が制動状態でないか否かを判定する。
【0057】
駆動輪が制動状態でないと判定された場合(ステップS220;Yes)、処理はステップS230に進む。それ以外の場合(ステップS220;No)、処理はステップS240に進む。
【0058】
ステップS230において、速度制御期間設定処理部330は、保持期間に続く期間として、推定速度の制御を実行する期間を示す実行期間を設定する。
【0059】
ステップS240において、速度制御期間設定処理部330は、推定速度の制御は実行しないものとする設定を行う。
【0060】
ステップS250において、速度制御期間設定処理部330は、設定した結果を出力する。
【0061】
図5は、推定速度制御処理部340の処理例を示すフローチャートである。
【0062】
ステップS300において、推定速度制御処理部340は、速度制御期間設定処理部330で設定された推定速度を制御することが可能な実行期間において、駆動力が閾値未満か否かを判定する。
【0063】
駆動力が閾値未満と判定された場合(ステップS300;Yes)、処理はステップS310に進む。それ以外の場合(ステップS300;No)、処理はステップS320に進む。
【0064】
ステップS310において、推定速度制御処理部340は、推定速度の現在値をリセットして推定速度の推定に用いる車体初速度に算出速度の現在値を設定する。
【0065】
ステップS320において、推定速度制御処理部340は、推定速度の現在値をリセットしないものとする設定を行う。
【0066】
ステップS330において、推定速度制御処理部340は、設定した結果を出力する。
【0067】
図6は、加速スリップ抑制処理部300の処理例を示す図である。ここでは、推定速度落ち込み判定部320において、推定速度を「落ち込み状態」と判定する処理例と、速度制御期間設定処理部330において、推定速度を制御することが可能な実行期間を設定する処理例についての内容を説明する。まず初めに、推定速度落ち込み判定部320において、推定速度を「落ち込み状態」と判定する処理例について説明する。具体的には、駆動輪が制動状態であり、かつ、算出速度が推定速度未満である状態が所定期間以上継続する条件を満たす場合、推定速度は「落ち込み状態」と判定される。当該条件を満たさない場合、推定速度は「落ち込みでない状態」と判定される。
【0068】
続いて、速度制御期間設定処理部330において、推定速度を制御することが可能な実行期間を設定する処理例について説明する。具体的には、推定速度が「落ち込み状態」から「落ち込みでない状態」に切り替わってから、「落ち込みでない状態」が保持期間継続した後に、推定速度が「落ち込みでない状態」であること、かつ、駆動輪が制動状態でないことを含むリセット条件が満たされる場合、推定速度を制御することが可能な実行期間を設定する。当該実行期間において、駆動力の状態に基づいて、推定速度の現在値をリセットして推定速度の推定に用いる車体初速度に算出速度の現在値を設定する制御を行う。
【0069】
図7は、加速スリップ抑制処理部300における処理結果の例を示す図である。まず初めに、推定速度の状態と加速スリップの関係について説明を行う。その後、推定速度を制御しない場合と、推定速度を制御した場合とにおいて、加速スリップ量が変化する態様について説明する。具体的には、駆動輪が制動状態から非制動状態に切り替わった後に、推定速度が算出速度を下回る場合、見かけ上スリップしている状態であることを示す加速スリップ状態が発生する。この状態において、算出速度と推定速度の差が小さければ、加速スリップ量も小さくなる。一方で、算出速度と推定速度の差が大きい場合、加速スリップ量も大きくなる。つまり、算出速度と推定速度の差は、加速スリップ量と比例関係にあることが言える。よって、推定速度を制御しない制御前の状態では、推定速度の車体初速度に算出速度が設定されないため、算出速度と推定速度の差は大きくなり、結果的に加速スリップ量も大きくなる。一方で、推定速度を制御した制御後の状態では、推定速度の車体初速度に算出速度が設定されるため、算出速度と推定速度の差は小さくなり、結果的に加速スリップ量も小さくなる。
【0070】
図8は、加速スリップ抑制処理部300における処理結果の例を示す図である。図7において、推定速度を制御することにより、加速スリップ量を小さくすることが可能な旨を述べた。ここでは、推定速度を制御した制御後の状態において、さらに、加速スリップ量を小さくする抑制方法についての例を挙げる。具体的には、推定速度制御処理部340の結果に基づいて推定された推定速度に対してゲインを乗算する。これにより、ゲインを掛ける前の推定速度の状態と比べると、算出速度と推定速度の差は更に小さくなり、結果的に加速スリップ量も更に小さくなる。ゲインとしては、所定の値、加速度に一定量を加算した値、等が例示される。
【0071】
1-3.効果
推定速度が「落ち込み状態」又は「落ち込みでない状態」であるかを判定することで、駆動輪が制動状態から非制動状態に移行した際に発生する加速スリップを事前に察知することできる。また、加速スリップ状態において、推定速度を制御することが可能な実行期間を設定し、当該実行期間において、駆動輪に対応する駆動力の状態を監視することで、加速スリップ量を抑制する適切なタイミングであるか否かを判定することができる。さらに、駆動力の状態に基づいて、推定速度の現在値をリセットして推定速度の推定に用いる車体初速度に算出速度の現在値を設定することで、推定速度を適切な速度に設定することができる。これにより、TRCの介入に伴う加速不良を抑制することができるとともに、推定速度が実車体速度を上回る実際のスリップ状態の抑制も可能となる。このように、本開示によれば、4輪駆動型車両が加速スリップ状態にあることが判明した場合において、加速スリップ量を適切に制御することが可能となる。
【符号の説明】
【0072】
10 車両制御装置
100 プロセッサ
110 記憶装置
120 加速度の情報
130 駆動輪の回転速度の情報
140 駆動力の情報
200 情報入力部
300 加速スリップ抑制処理部
310 車体速度算出部
320 推定速度落ち込み判定部
330 速度制御期間設定処理部
340 推定速度制御処理部
350 制御量生成処理部
400 処理結果出力部
図1
図2
図3
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図6
図7
図8