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特許7600984ポリエステルエラストマー樹脂及びブロー成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ポリエステルエラストマー樹脂及びブロー成形品
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/668 20060101AFI20241210BHJP
   B29C 49/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C08G63/668
B29C49/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021517734
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2020034267
(87)【国際公開番号】W WO2021049565
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2019166221
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】玉城 勇気
(72)【発明者】
【氏名】前田 祐欣
(72)【発明者】
【氏名】原田 伸治
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-176318(JP,A)
【文献】特開昭63-178132(JP,A)
【文献】特開2001-226472(JP,A)
【文献】特表2007-523236(JP,A)
【文献】特許第5066822(JP,B2)
【文献】特許第5786256(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸を含む酸成分、脂肪族及び/又は脂環族ジオール、ポリアルキレングリコールを含むアルコール成分を構成成分とするポリエステルエラストマー樹脂であり、
全酸成分を100モル%、全アルコール成分を100モル%とした時、共重合成分として、1種類以上の三官能以上の成分を0.05~1.0モル%含み、
前記ポリアルキレングリコールがブロック共重合体であり、その数平均分子量が1000~4000であり、
前記ポリアルキレングリコールが、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールであり、
ポリエステルエラストマー樹脂に含有されるプロピレングリコール成分が、ポリエステルエラストマー樹脂中で18~35質量%であり、
キャピラリーレオメータで測定した溶融粘度特性として、ポリエステルエラストマー樹脂の融点よりも20℃以上高く、かつせん断速度6080sec-1の溶融粘度が120Pa・sとなる温度において測定した、せん断速度6.08sec-1の溶融粘度が6000Pa・s以上であることを特徴とするブロー成形用ポリエステルエラストマー樹脂。
【請求項2】
前記ポリアルキレングリコールが、ポリエチレングリコール(PEG)-ポリプロピレングリコール(PPG)-ポリエチレングリコール(PEG)の構造を有するブロック共重合体である、請求項1に記載のブロー成形用ポリエステルエラストマー樹脂。
【請求項3】
三官能以上の成分が酸成分である請求項1または2のいずれかに記載のブロー成形用ポリエステルエラストマー樹脂。
【請求項4】
三官能以上の成分がトリメリット酸である請求項1~のいずれかに記載のブロー成形用ポリエステルエラストマー樹脂。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂を含むブロー成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロー成形に適したポリエステルエラストマー樹脂に関する。さらに詳しくは、良好な溶融粘度特性のせん断速度依存性を有し、ブロー成形品の内面平滑性と良好な成形性を両立させることのできるポリエステルエラストマー樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルエラストマーのブロー成形品は、自動車のエアダクト製品として、金属ダクトからの軽量化目的で広く製品化されてきた。昨今では、エアダクト製品の形状に対する要求は、エンジンルーム内の省スペース化の流れの中でますます高くなっており、エアダクト製品の複雑形状化や薄肉化、長尺化が盛んに進められている。
【0003】
一方、部品点数の低減、工数の低減から、エアダクト製品と周辺部品との接続部分にカシメ構造のクイックコネクタなどが利用されるようになってきており、接続部の密封性の観点から、成形品内面の平滑性はきわめて重要な要求項目となる。
【0004】
先述のエアダクト製品の形状変化に伴い、成形品内面平滑性の確保が難しくなってきている。3D形状を作製するための3Dブロー成形や、ブロー成形前のパリソンを強制的な吸引により形状を追随させるサクションブロー成形などの特殊なブロー成形方法を使用する場合がある。
【0005】
良好な内面平滑性が得られない原因として、ブロー成形機のダイ通過時における高過ぎる溶融粘度特性のために発生するメルトフラクチャ現象があげられる。メルトフラクチャ現象は、溶融樹脂にかかる高いせん断応力による樹脂流動の乱れに起因する。そのためメルトフラクチャ現象を抑制するためには、高いせん断応力がかかる際の溶融粘度を低下させる必要がある。内面平滑性の確保のために、成形温度の上昇や、粘度の低い材料を用いることが有効であるが、一方で、パリソンのドローダウン、ブロー時の形状不安定、破れなどの成形不良が発生する。
【0006】
上記の内容から、さまざまなブロー成形に対応可能な成形材料としては、低せん断速度領域の溶融粘度が高く耐ドローダウン性能やブロー時の形状安定性に優れ、かつ高せん断速度領域の溶融粘度が低い材料、つまり溶融粘度についてせん断速度依存性が高い材料が適しており、好ましいと考えられる。
【0007】
これまでも、ポリエステルエラストマーについては、溶融粘度特性を改良するために、様々な試みがなされているが、溶融粘度のせん断速度依存性について、有効に検討された例は少ない。
例えば、特許文献1では、複雑な形状のブロー成形における成形安定性について検討されているが、溶融粘度特性についてまでは深く検討されていない。
また特許文献2では、ブロー成形だけではなくインジェクションブロー成形、押出成形、射出成形の成形性にも優れた樹脂について検討しているが、溶融粘度のせん断速度依存性の検討はできておらず、高いせん断速度がかかる状況での外観不良(メルトフラクチャ現象)が発生すると考える。
さらに特許文献3では、グリシジル基変性のオレフィン樹脂組成物を用いて溶融粘度特性を改良しているが、ポリエステルエラストマー樹脂組成物との反応により鎖延長しており、溶融粘度のせん断速度依存性は小さいと考える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5066822号公報
【文献】特開2017-043687号公報
【文献】特許第5786256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、成形技術の必要なブロー成形において、メルトフラクチャ現象によるブロー成形品の内面荒れを抑制でき、かつパリソンおよび成形品の形状安定化、偏肉低減などの良好な成形性を両立させることのできるポリエステルエラストマー樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、三官能以上の成分、数平均分子量が1000~4000のブロック共重合体を適宜組み合わせることで、溶融粘度を効果的に増加させ、多種のブロー成形に対応できるせん断速度依存性を発現する優れた溶融粘度特性を見出し、本発明に到達したのである。
即ち本発明は、以下の通りである。
[1] 芳香族ジカルボン酸を含む酸成分、脂肪族及び/又は脂環族ジオール、及びポリアルキレングリコールを含むアルコール成分を構成成分とするポリエステルエラストマー樹脂であり、全酸成分を100モル%、全アルコール成分を100モル%とした時、共重合成分として、1種類以上の三官能以上の成分を0~1.0モル%含み、前記ポリアルキレングリコールがブロック共重合体であり、その数平均分子量が1000~4000であり、
キャピラリーレオメータで測定した溶融粘度特性として、ポリエステルエラストマー樹脂の融点よりも20℃以上高く、かつせん断速度6080sec-1の溶融粘度が120Pa・sとなる温度において測定した、せん断速度6.08sec-1の溶融粘度が6000Pa・s以上であることを特徴とするポリエステルエラストマー樹脂。
[2] 前記ポリアルキレングリコールが、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールである[1]に記載のポリエステルエラストマー樹脂。
[3] 前記ポリアルキレングリコールが、ポリエチレングリコール(PEG)-ポリプロピレングリコール(PPG)-ポリエチレングリコール(PEG)の構造を有するブロック共重合体である、[1]に記載のポリエステルエラストマー樹脂。
[4] ポリエステルエラストマー樹脂に含有されるプロピレングリコール成分が、ポリエステルエラストマー樹脂中で18質量%以上である、[2]または[3]に記載のポリエステルエラストマー樹脂。
[5] 三官能以上の成分が酸成分である[1]~[4]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂。
[6] 三官能以上の成分がトリメリット酸である[1]~[5]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂を含むブロー成形品。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂は、芳香族ジカルボン酸を含む酸成分、脂肪族及び/又は脂環族ジオール、及びポリアルキレングリコールを含むアルコール成分を構成成分とするポリエステルエラストマー樹脂であり、全酸成分を100モル%、全アルコール成分を100モル%とした時、共重合成分として、1種類以上の三官能以上の成分を0~1.0モル%含む樹脂である。本発明のポリエステルエラストマー樹脂は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、ポリアルキレングリコールを構成成分とするソフトセグメントが結合したブロック共重合体である。
【0012】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂において、芳香族ジカルボン酸は、特に限定されないが、主たる芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸が挙げられ、その他の芳香族ジカルボン酸としてはイソフタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸などが挙げられる。これらの酸成分が二種類以上共重合されていてもよい。
ポリエステルエラストマー樹脂を構成する全酸成分を100モル%とした時、芳香族ジカルボン酸は70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。
【0013】
また、ポリエステルエラストマー樹脂を構成する全酸成分を100モル%とした時、テレフタル酸は70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、85モル%以上であることがさらに好ましい。この時、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸、特に溶融粘度特性の観点から、イソフタル酸を2~15モル%含むことも好ましい態様である。
ポリエステルエラストマー樹脂を構成する酸成分として、脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂環族ジカルボン酸も30モル%以下であれば使用しても良い。
【0014】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂において、脂肪族及び/又は脂環族ジオールは、特に限定されないが、主として炭素数2~8のアルキレングリコール類であることが望ましい。具体的にはエチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性を付与する上でエチレングリコール、1,4-ブタンジオールのいずれかであることが好ましく、1,4-ブタンジオールであることがより好ましい。
【0015】
ポリエステルエラストマー樹脂を構成する全アルコール成分を100モル%とした時、脂肪族及び/又は脂環族ジオールは、合計で70モル%以上、98モル%以下であることが好ましく、80モル%以上、97モル%以下であることがより好ましく、85モル%以上、97モル%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂において、ポリアルキレングリコールは、数平均分子量が1000~4000の間である。数平均分子量が1000未満であると、ポリエステルエラストマー樹脂のブロック性が低くなり、ダクト製品として必要な低温特性を満たさなくなる。一方、4000をこえる場合、ハードセグメントとソフトセグメントの相溶性が低下し物性が低下する。より好ましい数平均分子量の範囲としては1000~3600であり、さらに好ましくは1000~3500である。
【0017】
さらに、本発明においてポリアルキレングリコールは、ブロック共重合体である。一般的なポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PEG)、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレンオキシドグリコール、ポリネオペンチルグリコールなどが挙げられる。一方、ブロック共重合体としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体)、ポリネオペンチルグリコールとポリエチレングリコールの共重合体、ポリプロピレングリコール末端へのエチレンオキシド付加重合体が一般的に挙げられる。これらの共重合体は、構成する各ポリアルキレングリコールの特徴を有しており、各グリコールの欠点を補填した複合的な効果を得ることができる。
【0018】
例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの中でも、プルロニック(登録商標)型と呼ばれるものが一般的であり、ポリエチレングリコール(PEG)-ポリプロピレングリコール(PPG)-ポリエチレングリコール(PEG)の構造をとっているもの(前記のポリプロピレングリコール末端へのエチレンオキシド付加重合体もこれに含まれる)が好ましく用いられる。メチル基を側鎖に有し樹脂骨格が剛直化した特徴を持つPPGの両末端にPEGが存在する構造をとることで、PPGの特徴である剛直化による溶融粘度のせん断速度依存効果に加えて、PPGの欠点である第二級ヒドロキシル基末端の反応性の低さを補って、反応効率を高めることができる。
ブロック共重合体として好ましくは、入手のしやすさから、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールである。より好ましくは、ポリエチレングリコール(PEG)-ポリプロピレングリコール(PPG)-ポリエチレングリコール(PEG)の構造を有するブロック共重合体である。
【0019】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂に含有される(共重合される)プロピレングリコール成分(オキシプロピレン単位)は、ポリエステルエラストマー樹脂中で18質量%以上の含有率が好ましく、より好ましくは20質量%以上である。プロピレングリコールのメチル基起因の樹脂骨格の剛直化により溶融粘度のせん断速度依存性が発現すると考えられるため、プロプレングリコールの含有率が高いほど、溶融粘度のせん断速度依存性は向上する。18質量%未満の含有率では溶融粘度への寄与が小さく、良好な成形性を満たさない場合がある。ポリエステルエラストマー樹脂に含有されるプロピレングリコール成分は、ポリエステルエラストマー樹脂中で質量40%未満が好ましく、35質量%以下がより好ましい。
【0020】
ポリエステルエラストマー樹脂を構成する全アルコール成分を100モル%とした時、ポリアルキレングリコールは、2モル%以上、30モル%以下であることが好ましく、3モル%以上、20モル%以下であることがより好ましく、3モル%以上、15モル%以下であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂は、共重合成分として、1種類以上の三官能以上の成分を含むことが好ましい態様である。三官能以上の成分をポリエステルエラストマー樹脂中に共重合させることにより、ポリエステルエラストマー樹脂骨格中に分岐を導入し、溶融粘度のせん断速度依存性を向上させることができるが、三官能以上の成分は特に限定されない。成分としては、酸成分、アルコール成分のいずれでもよく、二種類以上の成分が共重合されていてもよい。
【0022】
三官能以上の酸成分の例としては、1,1,2,2-エタンテトラカルボン酸、クエン酸、3-ヒドロキシグルタル酸およびジヒドロキシグルタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
【0023】
三官能以上のアルコール成分の例としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1,4-ブタンジオールなどのトリオール類、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのテトラオール類、ジペンタエリスリトール、ポリグリセリンなどに加えて、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパンテトラヒドロフラン付加物、トリメチロールプロパンカプロラクトン付加物、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物、ペンタエリスリトールテトラヒドロフラン付加物、ペンタエリスリトールカプロラクトン付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物、ジペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物、ジペンタエリスリトールテトラヒドロフラン付加物、ジペンタエリスリトールカプロラクトン付加物、などが挙げられる。
【0024】
三官能以上のアルコール成分としては、ポリアルキレングリコール類であっても良い。例えば、末端にグリセリンなどの三官能以上のポリオールが付加されたポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。付加成分とポリエーテル成分の組み合わせは、特に限定されない。
【0025】
三官能以上の成分として、好ましくは酸成分であり、三官能以上の酸成分では、ハードセグメントおよびソフトセグメント両方に有効に分岐を導入できる。さらに、三官能の酸性分がより好ましく、トリメリット酸が特に好ましい。官能基数が多いとポリエステルエラストマーの重合時の連続生産安定性が低下するため三官能の酸成分がより好ましく、その中でも特に骨格として耐熱性の高い芳香環を有し、安価であるトリメリット酸が特に好ましい。ポリエステルエラストマー樹脂を重合する際の原料としては、無水トリメリット酸やトリメリット酸のメチルエステル体なども使用可能である。
【0026】
三官能以上の成分の配合(共重合)量としては、ポリエステルエラストマー樹脂の構成成分である全酸成分を100モル%、全アルコール成分を100モル%とした時、0~1.0モル%であるが、より好ましくは0~0.7モル%である。共重合量が1.0モル%を超えると、バッチ重合においてはゲル化が発生して機台清掃が必要となり、重合時の収率および連続生産性が低下する。三官能以上の成分の共重合量は、PPG含有量が大きいPEG-PPG-PEGのような、溶融粘度改良に有効なポリアルキレングリコールを適宜選択することで、0モル%であっても良い。本発明の効果をより発揮するためには、三官能以上の成分を共重合することが好ましく、その場合、0.05~0.7モル%であることが好ましく、0.1~0.5モル%であることがより好ましい。
【0027】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂の硬度は、ショアD硬度にて40以上60以下が好ましく、より好ましくは46以上55以下である。硬度40未満では、低硬度すぎて繰り返し加圧時に破れが発生する恐れがあり、硬度60をこえると高硬度すぎて製品の伸度が低下し、繰り返し加圧時に割れが発生する恐れがある。
【0028】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂は、溶融粘度において、高いせん断速度依存性を有する。
本発明者らは、鋭意検討する中で、次の点を見出した。メルトフラクチャ現象の発生なく、良好なブロー成形品内面の平滑性を得られるのは、キャピラリーレオメータで測定したせん断速度6080sec-1の溶融粘度(a)が120Pa・s以下の場合においてであった。したがって、せん断速度依存性が良好であるといえるのは、せん断速度6080sec-1の溶融粘度(a)が120Pa・sとなる測定温度における、せん断速度6.08sec-1の溶融粘度(b)の値が大きい場合である。一般的に、(b)が6000Pa・s以上であった場合、成形時にドローダウンが発生せず、連続的に成形可能な良好な成形性を示す。(b)は大きいほど成形性は向上し、より好ましくは(b)が8000Pa・s以上であり、さらに好ましくは9000Pa・s以上の場合である。(b)の上限は特に限定されないが、好ましくは16000Pa・s以下である。
また、溶融粘度はキャピラリーレオメータで測定するが、実際のブロー成形では成形機への負荷を考慮し、樹脂の融点よりも20℃以上高い温度にて行うため、測定温度は実成形と同様に融点よりも20℃以上高い温度にて行う。
【0029】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂は、一般的なポリエステルエラストマーの製造方法で重合することができ、重合時の触媒など、特に限定せず、一般的なものが使用可能である。
【0030】
ポリエステルエラストマー樹脂の還元粘度は、特に指定はないが、せん断速度6.08sec-1での溶融粘度(b)が6000Pa・s以上に達するために、2.0dl/g以上が好ましく、より好ましくは2.2dl/g以上である。また、還元粘度が3.0dl/gをこえると、せん断速度6080sec-1の溶融粘度(a)を120Pa・sとするための測定温度が270℃をこえ、ポリエステルエラストマー樹脂の成形温度として、樹脂の分解挙動の寄与が大きくなるため、還元粘度は2.2dl/gから3.0dl/gが好ましい。
【0031】
また、ポリエステルエラストマー樹脂の還元粘度を増加(増粘)させるための手法は特に限定されない。溶融重縮合、固相重合、またポリエステルエラストマーの末端基と増粘剤の反応を利用した、例えば、酸末端基とグリシジル系増粘剤の反応による混練押出による方法も適用可能である。
【0032】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂は、後記する各種添加剤を配合して、樹脂組成物としても使用可能である。
本発明のポリエステルエラストマー樹脂には、芳香族アミン系、ヒンダードフェノール系、リン系、硫黄系などの汎用の酸化防止剤を配合することが好ましい。酸化防止剤は重合の段階で配合されてもよいし、ポリエステルエラストマー樹脂が得られた後に混練押出によって配合されてもよい。
【0033】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂には、その他各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、本発明以外の樹脂、無機フィラー、安定剤、及び老化防止剤を本発明の特徴を損なわない範囲で添加することができる。
【0034】
また、その他の添加剤として、離型剤、着色顔料、無機、有機系の充填剤、カップリング剤、タック性向上剤、クエンチャー、金属不活性化剤等の安定剤、難燃剤等を添加することもできる。
【実施例
【0035】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。尚、実施例に記載された各測定値は、次の方法によって測定したものである。
【0036】
溶融粘度:
キャピラリーレオメータ(東洋精機社製F-1)を用いて、せん断速度を0.5mm/分(6.08sec-1)から500mm/分(6080sec-1)まで変化させた場合の溶融粘度の測定を行った。測定温度は、ポリエステルエラストマー樹脂の融点より20℃以上高い温度で、かつ6080sec-1のせん断速度における溶融粘度が120Pa・sとなる温度とした。(せん断速度6080sec-1の溶融粘度:溶融粘度(a)、せん断速度6.08sec-1の溶融粘度:溶融粘度(b))
なお、ノズル形状:キャピラリー直径:1.0mm、キャピラリー長さ:10mmとした。
【0037】
ブロー成形性の評価:
ダイレクトブロー成型機(単軸押出し機:L/D=25、フルフライトスクリュー、スクリュー径65mm)のシリンダー温度を溶融粘度の測定温度に設定し、ダイレクトブロー成型ボトルを製造した。シリンダー先端には、パリソン形成用ダイリップを取り付け、金型内でブローエアーを封入し、ボトルを成形した。このときのパリソン保持状態にて評価した。
◎:ドローダウンが見られず、形状を保持している。
○:ドローダウンが小さく、形状を保持している。
△:ドローダウンが大きく、形状は崩れ気味だがブロー成形は可能である。
×:ドローダウンが非常に大きく、形状が崩れてしまいブロー成形が不可能である。
【0038】
融点:
JIS K7121に記載の試験法に準拠し、デュポン社製、V4.0B2000型示差走査熱量測定器を用いて、アルゴン雰囲気中で、試料質量:10mg、昇温開始温度:30℃、昇温速度:20℃/分で測定して得られる吸熱ピーク温度を融点とした。
【0039】
表面硬度:
ASTM D2240に記載の試験法(ショアD)に準拠し、23℃環境下において表面硬度の測定を行った。シリンダー温度を樹脂の融点+20℃、金型温度を50℃にて作製した射出成形品(幅100mm、長さ100mm、厚み2.0mm)を3枚重ねて、針先を落下させた際のショアDの瞬間値を読み取り、表面硬度を測定した。
【0040】
還元粘度:
充分乾燥したポリエステルエラストマー樹脂0.02gをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒10mlに溶解し、ウベローゼ粘度計にて30℃で測定した。
【0041】
樹脂相溶性:
樹脂の製造後、ハードセグメントとソフトセグメントの相溶性を樹脂溶融時の外観の目視評価により評価した。
○:溶融樹脂が透明であり、相溶性は十分である。
△:溶融樹脂が半透明(若干の白濁)の状態であり、相溶性は低い。
×:溶融樹脂が白濁しており、相溶性はきわめて低い。
【0042】
引張伸度:
シリンダー温度を樹脂の融点+20℃、金型温度を50℃にて作製した射出成形品(幅100mm、長さ100mm、厚み2.0mm)の樹脂の流動方向に対し、直角方向にJIS3号ダンベル形状に打ち抜き試験片を作製した。その後、JIS K6251:2010に準じ引張伸度(切断時伸び)を測定した。
【0043】
ポリエステルエラストマー樹脂の製造方法例
実施例1:「特開平9-59491号公報」に記載の方法に準じて、テレフタル酸/トリメリット酸//1,4-ブタンジオール/PPG-PEG#3000が、99.9/0.1//96/4(モル%)のポリエステルエラストマー樹脂を製造した。その後、固相重合を実施し、還元粘度を上昇させた。このポリエステルエラストマー樹脂の融点は218℃、還元粘度は2.4dl/gであった。
【0044】
同様の方法で、実施例2~7(実施例6は参考例である)、比較例1~6のポリエステルエラストマー樹脂を製造した。使用した原料、組成、並びに評価結果を表1に示す。使用した各ポリアルキレングリコールは、下記の通りである。
PPG-PEG#2900:PEG-PPG-PEGブロック共重合体(数平均分子量2900、PG/EG=60/40(質量%)、三洋化成工業製ニューポールPE-64)
PPG-PEG#1100:PEG-PPG-PEGブロック共重合体(数平均分子量1100、PG/EG=90/10(質量%)、ADEKA製アデカプルロニックL-31)
PPG-PEG#4200:PEG-PPG-PEGブロック共重合体(数平均分子量4200、PG/EG=50/50(質量%)、日油製ポロキサマー185)
PEG#1000:ポリエチレングリコール(数平均分子量1000、日油製)
PPG#3000:ポリプロピレングリコール(数平均分子量3000、三洋化成工業製サンニックスPP-3000)
PTMG#1000:ポリテトラメチレングリコール(数平均分子量1000、三菱化学製)
PTMG#3000:ポリテトラメチレングリコール(数平均分子量3000、三菱化学
製)
【0045】
各ポリアルキレングリコールの数平均分子量は以下のように測定した。ポリアルキレングリコール16mgを秤量し、クロロホルム8mlに溶解させたのち、0.2μmのメンブランフィルターでろ過して得られた試料溶液のゲル浸透クロマトグラフィーを実施した。
分子量は標準ポリスチレン換算で算出した。
装置はTOSOH製HLC-8320GPCを用い、溶媒をクロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール=98/2(体積比)の混合溶媒とし、流速0.6ml/分、濃度0.2%、注入量20ml、温度40℃の条件で測定した。
【0046】
実施例1~7は、溶融粘度(a)が120Pa・sとなる測定温度において、(b)が8000Pa・s以上となる例である。実施例1~3から、三官能以上の成分を増加すると溶融粘度(b)が増加し、成形性を向上させることができることを示す。実施例4~5から、異なる酸成分を共重合させた場合においても、十分な溶融粘度特性を達成できることが示される。また、実施例6から、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール中のプロピレングリコール含有量が多く、三官能以上の成分がなくとも良好な成形性に十分な溶融粘度特性を得ることができる。
【0047】
比較例1~6にて、ブロー成形性および製品特性として十分な特性を満たさない例を示す。
比較例1は、溶融粘度が低くドローダウンが発生し成形性に劣る。
比較例2は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの数平均分子量が大きく、樹脂相溶性に劣る。低相溶性に起因する見かけの溶融粘度の上昇は見られるが、十分な伸度特性を満たさない。
比較例3は、ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールであり、ポリプロピレングリコールとのブロック共重合体でなく、溶融粘度が低く成形性に劣り、かつ結晶性が高く、十分な伸度特性を満たさない。
比較例4は、ポリアルキレングリコールがポリプロピレングリコールであり、末端二級ヒドロキシル基の存在から、重合度、還元粘度が上がりにくく、十分な溶融粘度特性を示さず、伸度特性も不十分である。
比較例5は、ポリアルキレングリコールがポリテトラメチレングリコールであり、ポリプロピレングリコールなどとのブロック共重合体ではなく、十分な溶融粘度特性を満たさない。
比較例6は、ポリアルキレングリコールがポリテトラメチレングリコールであり、かつ数平均分子量が大きいため樹脂相溶性が低く、成形性に劣るうえ、十分な引張伸度特性を満たさない。
【0048】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明におけるポリエステルエラストマー樹脂は、今後、自動車の軽量化に影響されるブロー成形品の長尺化、複雑化に対応できる、幅広い、多くのブロー成形手法に適用可能な樹脂であり、産業界への寄与はきわめて大きい。