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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20241210BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241210BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241210BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/48
H01M4/36 E
H01M4/587
H01M10/058
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021537004
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2020028499
(87)【国際公開番号】W WO2021020290
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019142449
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】近藤 史也
(72)【発明者】
【氏名】金子 喬
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-165006(JP,A)
【文献】特開2006-294469(JP,A)
【文献】特開2013-089452(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111644(WO,A1)
【文献】特開2013-242997(JP,A)
【文献】特開2017-054660(JP,A)
【文献】特開2015-046221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-0587
H01M 4/13-62
H01G 11/00-86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、酸化ケイ素を含む負極活物質を有する負極とを備え、
上記正極が、α-NaFeO 型結晶構造又はスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
上記負極活物質に占める上記酸化ケイ素の含有量が4質量%以上であり、
上記負極の初回不可逆容量に対する上記正極の初回不可逆容量の比が1.15以上1.55以下である非水電解質蓄電素子。
【請求項2】
放電深度100%の状態における上記負極の開回路電位が0.485V vs.Li/Li以上である請求項1に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
上記負極が黒鉛をさらに含む請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項4】
α-NaFeO 型結晶構造又はスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極を作製すること、
酸化ケイ素の含有量が4質量%以上である負極活物質を有する負極を作製すること、及び
初期充放電すること
を備え、
上記負極の初回不可逆容量に対する上記正極の初回不可逆容量の比が1.15以上1.55以下である非水電解質蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子、その製造方法、及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極を有する電極体、及び電極間に介在する非水電解質を備え、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
このような非水電解質蓄電素子の一つとして、負極の活物質に酸化ケイ素が用いられた蓄電素子が開発されている(特許文献1から5参照)。酸化ケイ素は、負極活物質として広く用いられている炭素材料と比べて容量が大きいという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-113863号公報
【文献】特開2015-053152号公報
【文献】特開2014-120459号公報
【文献】特開2015-088462号公報
【文献】国際公開第2012/169282号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、酸化ケイ素は、充放電に伴う膨張収縮の繰り返しにより、粒子の割れや孤立化が生じやすい。そのため、酸化ケイ素を用いた非水電解質蓄電素子は、充放電サイクルにおける容量維持率が低いことが知られている。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、酸化ケイ素を負極に用いた非水電解質蓄電素子であって、充放電サイクルにおける容量維持率が向上した非水電解質蓄電素子、このような非水電解質蓄電素子の製造方法、及びこのような非水電解質蓄電素子を備える蓄電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、正極と、酸化ケイ素を含む負極とを備え、上記負極の初回不可逆容量に対する上記正極の初回不可逆容量の比が1.15以上である非水電解質蓄電素子である。
【0008】
本発明の他の一態様は、正極を作製すること、酸化ケイ素を含む負極を作製すること、及び初期充放電することを備え、上記負極の初回不可逆容量に対する上記正極の初回不可逆容量の比が1.15以上である非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【0009】
本発明の他の一態様は、複数の非水電解質蓄電素子を集合して構成され、上記複数の非水電解質蓄電素子のうちの少なくとも一つが本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子である、蓄電装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、酸化ケイ素を負極に用いた非水電解質蓄電素子であって、充放電サイクルにおける容量維持率が向上した非水電解質蓄電素子、このような非水電解質蓄電素子の製造方法、及びこのような非水電解質蓄電素子を備える蓄電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子及び従来の非水電解質蓄電素子の正極及び負極それぞれの初回の充放電曲線を模式的に示す図である。
図2図2は、図1の本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子の初回の充放電曲線において、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)をより大きくした場合の負極の初回の放電曲線を追加して模式的に示す図である。
図3図3は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
図4図4は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成された蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
図5図5は、実施例1、2及び比較例1、2の各非水電解質蓄電素子の初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)と充放電サイクルにおける容量維持率との関係を示すグラフである。
図6図6は、実施例3から6の各非水電解質蓄電素子の初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)と充放電サイクルにおける放電深度(DOD)50%から100%の範囲における平均放電電圧維持率との関係を示すグラフである。
図7図7は、実施例3から6の各非水電解質蓄電素子の初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)と充放電サイクルにおける放電深度(DOD)50%から100%の範囲におけるエネルギー維持率との関係を示すグラフである。
図8図8は、後述する高結晶相の蓄積の抑制の有無による負極の放電曲線の差異を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様は、正極と、酸化ケイ素を含む負極とを備え、上記負極の初回不可逆容量に対する上記正極の初回不可逆容量の比が1.15以上である非水電解質蓄電素子(α)である。
【0013】
当該非水電解質蓄電素子(α)は、酸化ケイ素を負極に用いた非水電解質蓄電素子であって、充放電サイクルにおける容量維持率が向上している。このような効果が生じる理由は定かでは無いが、以下のことが推測される。図1は、酸化ケイ素を負極に用いた従来の非水電解質蓄電素子における初回の充放電曲線と、本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子(α)における初回の充放電曲線とを模式的に示した図である。図1においては、正極の充放電曲線及び負極の充電曲線は、従来の非水電解質蓄電素子と、本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子(α)とで同一としている。図1において、曲線Aは正極の初回充電曲線、曲線Bは正極の初回放電曲線、曲線Cは負極の初回充電曲線、曲線(破線)dは従来の非水電解質蓄電素子の負極の初回放電曲線、曲線Dは本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子(α)の負極の初回放電曲線を表している。また、Qcは正極の初回可逆容量、Q’cは正極の初回不可逆容量、Qaは本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子(α)の負極の初回可逆容量、Q’aは本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子(α)の負極の初回不可逆容量、qaは従来の非水電解質蓄電素子の負極の初回可逆容量、q’aは従来の非水電解質蓄電素子の負極の初回不可逆容量を表している。酸化ケイ素を負極に用いた従来の非水電解質蓄電素子においては、負極の初回放電曲線dで表されるように、放電深度(DOD)100%の状態における負極電位(V)が高くなることが、充放電サイクルにおける容量維持率を低下させる原因となると考えられる。すなわち、負極において充放電に伴うリチウムイオン等の挿入脱離量が多く、負極の膨張収縮の変化が大きいことが粒子の割れや孤立化を生じやすくし、非水電解質蓄電素子の充放電サイクルにおける容量維持率を低下させることとなる。これに対し、本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子(α)においては、負極の初回不可逆容量(Q’a)に対する正極の初回不可逆容量(Q’c)、すなわち初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.15以上に大きくしている。このようにすることで、DOD100%の状態における負極電位(V)が低くなる。この結果、当該非水電解質蓄電素子(α)においては、酸化ケイ素粒子の膨張収縮の変化が小さくなることにより、酸化ケイ素粒子の割れや孤立化が抑制され、充放電サイクルにおける容量維持率が向上しているものと推測される。
【0014】
なお、非水電解質蓄電素子の正極の初回不可逆容量(単位面積あたりの初回不可逆容量)とは、負極と対向して充放電に寄与する部分が、当該非水電解質蓄電素子の正極のものと同一処方で作製されている充放電前の正極Xを作用極とし、金属Liを対極として用いた単極電池を充放電するときの、正極Xの単位面積当たりの充電容量と放電容量との差(充電容量-放電容量)である。同様に、非水電解質蓄電素子の負極の初回不可逆容量(単位面積あたりの初回不可逆容量)とは、正極と対向して充放電に寄与する部分が、当該非水電解質蓄電素子の負極のものと同一処方で作製されている充放電前の負極Xを作用極とし、金属Liを対極として用いた単極電池を充放電するときの、負極Xの単位面積当たりの充電容量と放電容量との差(充電容量-放電容量)である。
【0015】
具体的な正極Xの充電容量及び放電容量の測定方法は、以下の通りである。上記正極Xを作用極とし、金属Liを対極として単極電池を組み立て、次のようにして1サイクルの充放電を行う。正極活物質の質量あたりの理論放電容量(mAh/g)に基づいて計算した上記正極Xの放電容量(mAh)に対して0.1Cに相当する電流を充電電流とし、上記作用極の電位が、実際に適用される非水電解質蓄電素子がSOC100%の状態において到達することを設計者が予定した正極電位(V vs.Li/Li)の値に達した時点まで定電流で充電を行なった後、さらにその電位においてトータル充電時間を30時間とした定電位充電を行い、充電容量を求める。10分間の休止時間を設けた後、上記充電電流と同じ電流値を放電電流として定電流放電を行い、上記作用極の電位の値が、実際に適用される非水電解質蓄電素子がDOD100%の状態において到達することを設計者が予定した正極電位(V vs.Li/Li)の値に達した時点で放電を終了し、放電容量を求める。
【0016】
具体的な負極Xの充電容量及び放電容量の測定方法は、以下の通りである。上記負極Xを作用極とし、金属Liを対極として単極電池を組み立て、1サイクルの充放電を行う。ここでは、負極Xが電気化学的に還元される方向に通電する操作を充電といい、負極Xが電気化学的に酸化される方向に通電する操作を放電という。まず、負極活物質の質量あたりの理論放電容量(mAh/g)に基づいて計算した上記負極Xの放電容量(mAh)に対して、0.1Cに相当する電流を充電電流とし、上記作用極の電位が、0.02V vs.Li/Liに達した時点まで定電流で充電を行なった後、さらにその電位においてトータル充電時間を30時間とした定電位充電を行い、充電容量を求める。10分間の休止時間を設けた後、上記充電電流と同じ電流値を放電電流として定電流放電を行い、上記作用極の電位が2.0V vs.Li/Liに達した時点で放電を終了し、放電容量を求める。
【0017】
当該非水電解質蓄電素子(α)のDOD100%の状態における負極の開回路電位が0.53V vs.Li/Li以下であることが好ましい。このようにDOD100%の状態における負極の開回路電位が0.53V vs.Li/Li以下であることにより、酸化ケイ素粒子の膨張収縮の変化が十分に小さくなることなどにより、非水電解質蓄電素子(α)の充放電サイクルにおける容量維持率をより高めることができる。
【0018】
なお、非水電解質蓄電素子をDOD100%の状態に調整する手順は次の通りとする。
まず、当該非水電解質蓄電素子をSOC100%の状態とする。SOC100%の状態とする方法としては、当該非水電解質蓄電素子に対して指定された充電方法を採用する。当該非水電解質蓄電素子専用の充電器がある場合はそれを用いて完全充電する。当該非水電解質蓄電素子に対して指定された充電方法が明らかでない場合は、まず当該非水電解質蓄電素子の定格容量(mAh)に対して、0.2Cの放電電流を採用し、2.0Vを終止電圧とする定電流放電を行った後、10分間放置し、次に0.02Cの充電電流を採用し、充電時間50時間の定電流充電を行い、完全充電とする。充電終了後、10分間放置する。
次に、0.2Cに相当する電流を放電電流として定電流放電を行う。放電時間は5時間とする。上記手順により、当該非水電解質蓄電素子の定格容量に相当する電気量が放電される結果、当該非水電解質蓄電素子がDOD100%の状態に調整される。当該非水電解質蓄電素子に参照極が設けられていない場合は、当該非水電解質蓄電素子がDOD100%に調整された状態で露点-30℃以下の雰囲気で封口を開放し、参照極を用いて負極電位を測定することができる。
【0019】
上記負極の初回不可逆容量に対する上記正極の初回不可逆容量の比が1.55以下であることが好ましい。このように初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.55以下とすることで、充放電サイクルにおける酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率が向上する。このような効果が生じる理由は定かではないが、以下のことが推測される。図2は、図1の初回の充放電曲線A、B、C及びDにおいて、負極の初回の放電曲線として、初回可逆容量Qaを大きく且つ初回不可逆容量Q’aを小さくした曲線(破線)D’を追加して示した図である。図2で表されるように、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)をより大きくすると、DOD100%の状態における負極電位(V )がより低くなる。この場合、DOD100%の状態となっても、酸化ケイ素に吸蔵されたリチウムが放出され切れず、非晶質な合金相(a-LiSi)が残存することとなる。a-LiSiは、酸化ケイ素中の他の相(a-Si)よりも電子伝導性が高いため、a-LiSiが残存した状態で充電すると、a-LiSiとリチウムとの反応が進み、c-Li15Siの形成に由来すると推察される高結晶相が生成されやすくなる。そして充放電の繰り返しにより、上記高結晶相が蓄積され、放電電圧が徐々に低下する。このように、DOD100%の状態における負極電位が低すぎる場合は、充放電の繰り返しに伴う上記高結晶相の蓄積により、酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率が低下することとなる。これに対して、DOD100%の状態における負極電位がある程度高い場合は、仮に上記高結晶相が形成されても、放電時にa-Siにまで戻るため、上記高結晶相の蓄積は生じにくい。このように、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.55以下とすることで、DOD100%の状態におけるa-LiSiの残存量を減らし、上記高結晶相の蓄積が抑えられる結果、酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率が向上すると推測される。また、このように初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.55以下として上記高結晶相の蓄積が進行することを抑えることで、充放電の繰り返しに伴う放電曲線の形状の変化及び放電されるエネルギーの低下を抑制することができる。さらに、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.55以下とすることで充放電サイクルにおける容量維持率がより高まる傾向にある。
【0020】
当該非水電解質蓄電素子(α)のDOD100%の状態における負極の開回路電位が0.485V vs.Li/Li以上であることが好ましい。このようにDOD100%の状態における負極の開回路電位が0.485V vs.Li/Li以上であることにより、上記高結晶相の蓄積がより抑えられることなどにより、充放電サイクルにおける酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率がより向上する。
【0021】
本発明の他の一態様は、正極と、酸化ケイ素を含む負極とを備え、上記負極の初回不可逆容量に対する上記正極の初回不可逆容量の比が1.55以下である非水電解質蓄電素子(β)である。
【0022】
酸化ケイ素を負極に用いた従来の非水電解質蓄電素子は、充放電サイクルにおいて上記高結晶相の蓄積による放電電圧の低下等が生じる場合がある。上記本発明の他の一態様は、このような事情に基づいてなされたものであり、酸化ケイ素を負極に用いた非水電解質蓄電素子であって、充放電サイクルにおける酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率が向上した非水電解質蓄電素子を提供することを目的とするものである。すなわち、当該非水電解質蓄電素子(β)は、酸化ケイ素を負極に用いた非水電解質蓄電素子であって、充放電サイクルにおける酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率が向上している。このような効果が生じる理由は定かではないが、上述したように、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.55以下とすることで、上記高結晶相の蓄積が抑えられる結果、酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率が向上すると推測される。
【0023】
当該非水電解質蓄電素子(β)のDOD100%の状態における負極の開回路電位が0.485V vs.Li/Li以上であることが好ましい。このような場合、充放電サイクルにおける酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率がより向上する。
【0024】
当該非水電解質蓄電素子(α)及び当該非水電解質蓄電素子(β)において、上記負極が黒鉛をさらに含んでもよい。なお、黒鉛の作動電位領域は酸化ケイ素の作動電位領域より低いため、黒鉛と酸化ケイ素の放電反応は、実質的に競争反応とはならない。そのため、酸化ケイ素のみを負極に含む場合と、酸化ケイ素と黒鉛とを負極に含む場合とのいずれにおいても、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.15以上とすることにより非水電解質蓄電素子の充放電サイクルにおける容量維持率が高まるという効果、及び初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.55以下とすることにより非水電解質蓄電素子の充放電サイクルにおける酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率が高まるという効果が生じる。
【0025】
なお、「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛の「放電状態」とは、負極活物質として黒鉛を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態をいう。開回路状態での金属Li対極の電位は、Liの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記単極電池における開回路電圧は、Liの酸化還元電位に対する黒鉛を含む負極の電位とほぼ同等である。つまり、上記単極電池における開回路電圧が0.7V以上であることは、負極活物質である黒鉛から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
【0026】
当該非水電解質蓄電素子(α)及び当該非水電解質蓄電素子(β)において、上記正極が、α-NaFeO型結晶構造又はスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含むことが好ましい。正極にこのような正極活物質が含まれている場合、当該非水電解質蓄電素子(α)及び当該非水電解質蓄電素子(β)の放電容量を大きくすることなどができる。
【0027】
本発明の他の一態様は、正極を作製すること、酸化ケイ素を含む負極を作製すること、及び初期充放電することを備え、上記負極の初回不可逆容量に対する上記正極の初回不可逆容量の比が1.15以上である非水電解質蓄電素子の製造方法(α)である。
【0028】
当該製造方法(α)によれば、酸化ケイ素を負極に用いた非水電解質蓄電素子であって、充放電サイクルにおける容量維持率が向上した非水電解質蓄電素子を製造することができる。
【0029】
本発明の他の一態様は、正極を作製すること、酸化ケイ素を含む負極を作製すること、及び初期充放電することを備え、上記負極の初回不可逆容量に対する上記正極の初回不可逆容量の比が1.55以下である非水電解質蓄電素子の製造方法(β)である。
【0030】
当該製造方法(β)によれば、酸化ケイ素を負極に用いた非水電解質蓄電素子であって、充放電サイクルにおける酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率が向上した非水電解質蓄電素子を製造することができる。
【0031】
本発明の他の一態様は、複数の非水電解質蓄電素子を集合して構成され、上記複数の非水電解質蓄電素子のうちの少なくとも一つが当該非水電解質蓄電素子(α)又は当該非水電解質蓄電素子(β)である、蓄電装置である。当該蓄電装置は、充放電サイクルにおける容量維持率又は酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率が高い。
【0032】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子、その製造方法、及び蓄電装置について詳説する。
【0033】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。以下、非水電解質蓄電素子の一例として、二次電池について説明する。正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体は容器に収納され、この容器内に非水電解質が充填される。非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、容器としては、二次電池の容器として通常用いられる公知の金属容器、樹脂容器等を用いることができる。
【0034】
(正極)
正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。
【0035】
正極基材は、導電性を有する。「導電性を有する」とは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10Ω・cm超であることを意味する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0036】
正極基材の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。正極基材の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。正極基材の平均厚さを上記下限以上とすることで、正極基材の強度を高めることができる。正極基材の平均厚さを上記上限以下とすることで、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。また、これらの理由から、正極基材の平均厚さは上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下とすることが好ましい。「平均厚さ」とは、任意の十点において測定した厚さの平均値をいう。他の部材等に対して「平均厚さ」を用いる場合にも同様に定義される。
【0037】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層の構成は特に限定されず、例えば、樹脂バインダ及び導電性を有する粒子を含む。中間層は、例えば、炭素粒子等の導電性を有する粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。
【0038】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、通常、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成される層である。正極活物質層を形成する正極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含んでいてよい。
【0039】
正極活物質としては、リチウムイオン二次電池等に通常用いられる公知の正極活物質の中から適宜選択できる。上記正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi1-x]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiMn,LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO,LiMnPO,LiNiPO,LiCoPO,Li(PO,LiMnSiO,LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質層においては、これら正極活物質の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
正極活物質としては、α-NaFeO型結晶構造又はスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物がより好ましく、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)がさらに好ましい。上記式中、xの下限は0が好ましいことがあり、0を超えることが好ましいこともあり、0.1がさらに好ましいことがある。xの上限は0.4が好ましいことがあり、0.3がより好ましいことがある。また、γの値の下限は0.3が好ましいことがあり、0.5がより好ましいことがある。γの値の上限は0.9が好ましいことがあり、0.8がより好ましいことがある。βの値の下限は0.1が好ましいことがあり、0.3がより好ましいことがあり、0.4がさらに好ましいことがあり、0.5がさらにより好ましいことがある。1-x-γ-βの値の上限は1.0が好ましいことがあり、0.4がより好ましいことがあり、0.1がさらに好ましいことがある。1-x-γ-β=0でもよい。
【0041】
正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。ここで、「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0042】
正極活物質等の粒子を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0043】
正極活物質層における正極活物質の含有量の下限としては、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。正極活物質の含有量の上限としては、98質量%が好ましく、96質量%がより好ましい。正極活物質の含有量を上記範囲とすることで、二次電池の電気容量をより大きくすることができる。正極活物質層における正極活物質の含有量は、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下とすることができる。
【0044】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、黒鉛;ファーネスブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック;金属;導電性セラミックス等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが好ましい。
【0045】
正極活物質層における導電剤の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。導電剤の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。導電剤の含有量を上記範囲とすることで、二次電池の電気容量を高めることができる。また、これらの理由から、導電剤の含有量は上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下とすることが好ましい。
【0046】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0047】
正極活物質層におけるバインダの含有量の下限としては、0.5質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。バインダの含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。バインダの含有量を上記範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。また、これらの理由から、バインダの含有量は上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下とすることが好ましい。
【0048】
増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0049】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、アルミナシリケイト等が挙げられる。
【0050】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤及びフィラー以外の成分として含有してもよい。
【0051】
(負極)
負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。負極の中間層の構成は特に限定されず、正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0052】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0053】
負極基材の平均厚さの下限としては、3μmが好ましく、5μmがより好ましい。負極基材の平均厚さの上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましい。負極基材の平均厚さを上記下限以上とすることで、負極基材の強度を高めることができる。負極基材の平均厚さを上記上限以下とすることで、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。また、これらの理由から、負極基材の平均厚さは、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下とすることが好ましい。
【0054】
負極活物質層は、負極活物質である酸化ケイ素を含む。負極活物質層は、通常、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成される層である。負極活物質層を形成する負極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含んでいてよい。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。負極活物質層におけるこれらの各任意成分の含有量は、正極活物質等におけるこれらの含有量として記載した範囲とすることができる。
【0055】
酸化ケイ素は、通常、粒子として存在する。酸化ケイ素は、通常、SiO(0<x<2)で表される化合物である。上記xの下限は、0.8が好ましい。また、上記xの上限は、1.2が好ましい。酸化ケイ素の粒子は、ケイ素(Si)と二酸化ケイ素(SiO)とが共存するものであってよい。酸化ケイ素の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。酸化ケイ素の平均粒径を上記下限以上とすることで、酸化ケイ素の単位質量あたりの初回不可逆容量(μAh/g)が小さくなる傾向があるため、上記負極の初回不可逆容量に対する上記正極の不可逆容量が大きな値となるように設計することが容易になる。酸化ケイ素の平均粒径を上記上限以下とすることで、負極活物質層の電子伝導性が向上する。酸化ケイ素は、電子伝導性を付与する目的で粒子表面にCVD法等により適宜カーボンコートしてこれを負極活物質として用いることが好ましい。
【0056】
負極活物質に占める酸化ケイ素の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましく、4質量%がさらに好ましい場合もある。酸化ケイ素の含有量を上記下限以上とすることで、二次電池の放電容量を大きくすることなどができる。一方、この含有量の上限としては、例えば100質量%であってもよいが、30質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、8質量%がさらに好ましい場合もある。酸化ケイ素の含有量を上記上限以下とすることで、二次電池の充放電サイクルにおける容量維持率をより高めることなどができる。負極活物質に占める酸化ケイ素の含有量は、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下とすることができる。
【0057】
負極活物質層は、負極活物質として黒鉛をさらに含むことが好ましい。負極活物質として黒鉛が含まれていることで、二次電池の充放電サイクルにおける容量維持率がより高まる。黒鉛としては、天然黒鉛及び人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点では、人造黒鉛が好ましい。黒鉛の平均粒径は、例えば、1μm以上100μm以下とすることができる。
【0058】
負極活物質に占める黒鉛の含有量の下限としては、例えば1質量%であってもよいが、70質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、92質量%がさらに好ましい場合もある。黒鉛の含有量を上記下限以上とすることで、二次電池の充放電サイクルにおける容量維持率をより高めることなどができる。一方、この含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量%がより好ましく、96質量%がさらに好ましい場合もある。黒鉛の含有量を上記上限以下とすることで、二次電池の放電容量を大きくすることなどができる。負極活物質に占める黒鉛の含有量は、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下とすることができる。
【0059】
負極活物質が酸化ケイ素と黒鉛とを含む場合、酸化ケイ素と黒鉛との合計含有量に占める酸化ケイ素の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましく、4質量%がさらに好ましい場合もある。酸化ケイ素の含有量を上記下限以上とすることで、二次電池の放電容量を大きくすることなどができる。一方、この含有量の上限としては、例えば99質量%であってもよいが、30質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、8質量%がさらに好ましい場合もある。酸化ケイ素の含有量を上記上限以下とすることで、二次電池の充放電サイクルにおける容量維持率をより高めることなどができる。酸化ケイ素と黒鉛との合計含有量に占める酸化ケイ素の含有量は、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下とすることができる。
【0060】
負極活物質としては、酸化ケイ素及び黒鉛以外の、リチウムイオン二次電池等に通常用いられる公知の負極活物質がさらに含まれていてもよい。但し、負極活物質に占める酸化ケイ素及び黒鉛の合計含有量の下限としては、90質量が好ましく、99質量%がより好ましい。一方、この合計含有量の上限は100質量%であってよい。このように、負極活物質として、酸化ケイ素のみ、又は酸化ケイ素と黒鉛のみ用いることで、本発明の効果がより十分に奏される。
【0061】
負極活物質層における負極活物質の合計の含有量の下限としては、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。負極活物質の合計の含有量の上限としては、98質量%が好ましく、97質量%がより好ましい。負極活物質の合計の含有量を上記範囲とすることで、二次電池の電気容量をより大きくすることなどができる。
【0062】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤及びフィラー以外の成分として含有してもよい。
【0063】
(セパレータ)
セパレータとしては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0064】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が配設されていても良い。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方又は両方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。無機粒子としては、Al、SiO、アルミノシリケート等が好ましい。
【0065】
(非水電解質)
上記非水電解質としては、一般的な非水電解質二次電池(非水電解質蓄電素子)に通常用いられる公知の非水電解質が使用できる。上記非水電解質は、例えば、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩を含む。
【0066】
上記非水溶媒としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、特に限定されないが、例えば5:95以上50:50以下とすることが好ましい。
【0067】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0068】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMCが好ましい。
【0069】
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0070】
上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0071】
上記非水電解質における上記電解質塩の含有量の下限としては、0.1mol/dmが好ましく、0.3mol/dmがより好ましく、0.5mol/dmがさらに好ましく、0.7mol/dmが特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5mol/dmが好ましく、2mol/dmがより好ましく、1.5mol/dmがさらに好ましい。また、上記電解質塩の含有量は、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下とすることが好ましい。
【0072】
上記非水電解質には、その他の添加剤が添加されていてもよい。また、上記非水電解質として、常温溶融塩、イオン液体、ポリマー固体電解質などを用いることもできる。
【0073】
(初回不可逆容量比(Q’c/Q’a))
本発明の第一の実施形態において、二次電池(非水電解質蓄電素子)の初回不可逆容量比(Q’c/Q’a:負極の単位面積あたりの初回不可逆容量(Q’a)に対する正極の単位面積あたりの初回不可逆容量(Q’c))の下限は、1.15であり、1.20が好ましいこともある。このように負極の初回不可逆容量を相対的に小さくすることで、上述のようにDOD100%又はそれに近づいた状態における負極電位の上昇を抑え、非水電解質蓄電素子の充放電サイクルにおける容量維持率を高めることができる。初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)の上限としては、例えば2.5であり、2.0であってもよく、1.6であってもよく、1.55が好ましく、1.50がより好ましく、1.45がさらに好ましく、1.40がよりさらに好ましい。初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を上記上限以下とすることで、上述のように充放電サイクルにおける酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率を向上させることなどができる。また、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)は、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下とすることができる。
【0074】
初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.15以上とする方法としては、(1)単位面積当たりの負極活物質の質量(すなわち、負極の容量)を正極活物質の質量(すなわち、正極の容量)に対して相対的に減らすこと、(2)負極活物質に予めリチウム等をドープすることなどが挙げられる。
【0075】
上記(1)の具体的方法としては、負極活物質を含む負極合剤の単位面積当たりの塗布量を比較的少なくすること、負極合剤中の負極活物質の割合を減らすこと、負極活物質として酸化ケイ素と黒鉛とを併用している場合、酸化ケイ素の比率を減らすことなどが挙げられる。また、正極活物質の質量(正極の容量)との相対的な関係であるので、正極活物質の種類や単位面積当たりの質量を調整してもよい。
【0076】
上記(1)に関し、正極の単位面積当たりの初回充電容量(P)に対する負極の単位面積当たりの初回充電容量(N)の比(N/P)の上限としては、1.20が好ましく、1.15がより好ましい。初回充電容量比(N/P)を上記上限以下とし、かつ好ましくは所定の正極活物質及び負極活物質を組み合わせて用いることなどで、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.15以上に容易に調整することができる。なお、この初回充電容量比(N/P)の下限としては、例えば0.7であってもよいが、1.00が好ましく、1.05がより好ましい。また、上記初回充電容量比(N/P)は、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下とすることができる。
【0077】
上記(2)の具体的方法としては、還元剤等を用いた化学的手法や、電気化学的手法が挙げられる。化学的手法に用いられる還元剤としては、金属リチウムの他、プロピルリチウム、ブチルリチウム等のアルキルリチウムなどを挙げることができる。電気化学的手法としては、酸化ケイ素を含む電極を作製し、リチウムを対極として、酸化ケイ素を含む電極に対して充電方向に電流を流すことで、任意の量のリチウムがドープされた酸化ケイ素を得ることができる。このようにリチウムがドープされた酸化ケイ素を含む電極を取り出し、正極と組み合わせることで、二次電池とすることができる。
【0078】
なお、逆に初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を小さくしたい場合には、例えば、上記(1)における単位面積当たりの負極活物質の質量を正極活物質の質量に対して相対的に増やし、また、上記(2)における負極活物質へのリチウム等のドープ量を減らせばよい。
【0079】
本発明の第二の実施形態において、二次電池(非水電解質蓄電素子)の初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)の上限は、1.55であり、1.50が好ましく、1.45がより好ましく、1.40がさらに好ましい。初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.55以下とすることで、上述のように上記高結晶相の蓄積が抑えられ、充放電サイクルにおける酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率を向上させることができる。また、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.55以下とすることで、充放電の繰り返しに伴う放電曲線形状の変化及び放電されるエネルギーの低下が抑制され、容量維持率も高まる傾向にある。第二の実施形態に係る二次電池における初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)の下限は特に限定されないが、上記第一の実施形態として記載した下限以上であることが好ましい。
【0080】
(DOD100%の状態における負極電位)
当該二次電池(非水電解質蓄電素子)のDOD100%の状態における負極電位の上限としては、例えば0.58V vs.Li/Liであってよいが、0.53V vs.Li/Liが好ましく、0.51V vs.Li/Liがより好ましいこともあり、0.50V vs.Li/Liがさらに好ましいこともある。このようにDOD100%の状態における負極電位を上記上限以下とすることで、非水電解質蓄電素子の充放電サイクルにおける容量維持率をより高めることができる。一方、この負極電位の下限としては、例えば0.3V vs.Li/Liが好ましく、0.4V vs.Li/Liがより好ましく、0.45V vs.Li/Liがさらに好ましく、0.485V vs.Li/Liがよりさらに好ましいこともある。DOD100%の状態における負極電位を上記下限以上とすることで、充放電サイクルにおける酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率を向上させることなどができ、また、二次電池の容量を大きくすることなどができる。また、DOD100%の状態における負極電位は、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下とすることができる。
【0081】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が一例として挙げられる。
【0082】
図3に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1(非水電解質二次電池)の概略を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図3に示す非水電解質蓄電素子1は、電極体2が容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0083】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本発明の第一の実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、正極を作製すること、酸化ケイ素を含む負極を作製すること、及び初期充放電することを備え、上記負極の初回不可逆容量に対する上記正極の初回不可逆容量の比が1.15以上である方法により製造することができる。
【0084】
正極及び負極の初回不可逆容量比(Q’c/Q’a:負極の初回不可逆容量(Q’a)に対する正極の初回不可逆容量(Q’c))を1.15以上とする方法は、上述したとおりである。初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)の具体的な設計手順としては、例えば以下の手順が挙げられる。(1)正極活物質の種類や組成などにより、SOC100%の状態における正極の電位及びDOD100%の状態における正極の電位を設定する。(2)用いる正極活物質の単位質量当たりの初回可逆容量(mAh/g)及び初回不可逆容量(mAh/g)を既知とした上で、負極との関係で初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)が設計どおりとなるように、実際に非水電解質蓄電素子に用いる正極が備える正極活物質層の、電極密度、空隙率、厚さ等の処方を設計し、正極を作製する。確認のため、作製された正極を用いて、上記(1)で設定した正極の電位を充電上限電位及び放電終止電位とし、上述した充電容量及び放電容量の測定方法に沿って、充電容量及び放電容量を測定する。測定された充電容量と放電容量との差から、正極の単位面積当たりの初回不可逆容量が求められる。(3)同様に、用いる負極活物質の単位質量当たりの初回可逆容量(mAh/g)及び初回不可逆容量(mAh/g)を既知とした上で、正極との関係で初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)が設計どおりとなるように、実際に非水電解質蓄電素子に用いる負極が備える負極活物質層の、電極密度、空隙率、厚さ等の処方を設計し、負極を作製する。確認のため、作製された負極を用いて、充電下限電位を0.02V(vs.Li/Li)、放電終止電位を2.0V(vs.Li/Li)とし、上述した充電容量及び放電容量の測定方法に沿って、充電容量及び放電容量を測定する。測定された充電容量と放電容量との差から、負極の単位面積当たりの初回不可逆容量が求められる。(4)求められた正極の単位面積当たりの初回不可逆容量と、負極の単位面積当たりの初回不可逆容量とに基づき、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)が設計通りである非水電解質蓄電素子を作製できることを確認する。
【0085】
当該非水電解質蓄電素子の正極及び負極は、負極の初回不可逆容量に対する正極の初回不可逆容量の比を1.15以上とすること以外は、従来公知の方法により製造することができる。正極の作製は、例えば正極基材に直接又は中間層を介して、正極合剤ペーストを塗布し、乾燥させることにより行うことができる。上記正極合剤ペーストには、正極活物質等、正極活物質層(正極合剤)を構成する各成分、及び分散媒が含まれる。同様に、負極の作製は、例えば負極基材に直接又は中間層を介して、負極合剤ペーストを塗布し、乾燥させることにより行うことができる。上記負極合剤ペーストには、酸化ケイ素を含む負極活物質等、負極活物質層(負極合剤)を構成する各成分、及び分散媒が含まれる。
【0086】
当該製造方法は、正極と負極とを製作した後の工程として、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成すること、正極及び負極(電極体)を容器に収容すること、並びに非水電解質を注入口から容器に注入すること、及び注入口を封止することを備えていてよい。このようにして初期充放電前の非水電解質蓄電素子を組み立てた後、初期充放電を行うことができる。初期充放電を経ることで、例えば図1におけるDOD100%の状態における負極電位がVである非水電解質蓄電素子が得られる。なお、「初期充放電」とは、組み立て後の一度も充放電を行っていない非水電解質蓄電素子(未充放電非水電解質蓄電素子)に対して、初めて行う充放電をいう。初期充放電における充放電のサイクル数は1回又は2回であってもよく、3回以上であってもよい。
【0087】
本発明の第二の実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、正極を作製すること、酸化ケイ素を含む負極を作製すること、及び初期充放電することを備え、上記負極の初回不可逆容量に対する上記正極の初回不可逆容量の比が1.55以下である方法により製造することができる。当該製造方法の具体的及び好適な形態は、正極及び負極の初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.55以下とし且つこの下限が限定されないこと以外は、上述した第一の実施形態に係る非水電解質蓄電素子を製造する方法と同様である。正極及び負極の初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)を1.55以下の所定とするための具体的な設計手順も、上記した設計手順と同様である。
【0088】
<蓄電装置>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子1を集合して構成された蓄電装置として搭載することができる。この場合、蓄電装置に含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0089】
図4に、電気的に接続された二以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。すなわち、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を有する。各蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子1を有する。蓄電装置30は、二以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の非水電解質蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0090】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記正極又は負極において、中間層を設けなくてもよい。また、当該非水電解質蓄電素子の正極及び負極は、明確な層構造を有していなくてもよい。例えば上記正極は、メッシュ状の正極基材に正極活物質が担持された構造などであってもよい。
【0091】
また、上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【実施例
【0092】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
[実施例1]
(正極活物質の単位質量当たりの不可逆容量の測定)
正極活物質として、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物であるLiNi1/2Mn3/10Co1/5を用意した。この正極活物質は、充電上限電位を4.33V vs.Li/Li、放電終止電位を2.85V vs.Li/Liとした場合、初回充電容量は191.0mAh/g、初回放電容量は166.9mAh/g、初回不可逆容量は24.1mAh/gであることがわかっている。
【0094】
(負極活物質の単位質量当たりの不可逆容量の測定)
負極活物質として、酸化ケイ素(SiO)と黒鉛(Gr)との混合物を用意した。酸化ケイ素と黒鉛との合計量に対する酸化ケイ素の含有量は2.5質量%とした。この負極活物質は、充電下限電位を0.02V vs.Li/Li、放電終止電位を2.0V vs.Li/Liとした場合、初回充電容量は410.0mAh/g、初回放電容量は374.3mAh/g、初回不可逆容量は35.7mAh/gであることがわかっている。
【0095】
(正極及び負極の作製)
質量比で、正極活物質:アセチレンブラック(AB):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)=93:3.5:3.5の割合(固形物換算)で含み、N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤ペーストを作製した。この正極合剤ペーストを正極基材としての帯状のアルミニウム箔に塗布し、乾燥させてNMPを除去した。1cmあたりの正極合剤ペーストの塗布量は、固形分換算で19.1mg/cmとした。これをローラープレス機により加圧して正極活物質層を成型した後、減圧乾燥して正極を得た。得られた正極における1cmあたりの初回充電容量(P)は3392.7μAh/cm、1cm当たりの初回不可逆容量(Q’c)は428.1μAh/cmとなった。
【0096】
質量比で、負極活物質(SiO+Gr):スチレンブタジエンゴム(SBR):カルボキシメチルセルロース(CMC)=97:2:1の割合(固形分換算)で含み、水を分散媒とする負極合剤ペーストを作製した。この負極合剤ペーストを負極基材としての帯状の銅箔集電体の両面に塗布し、乾燥させて水を除去した。1cmあたりの負極合剤ペーストの塗布量は、固形分換算で9.8mg/cmとした。これをローラープレス機により加圧して負極活物質層を成型した後、減圧乾燥して負極を得た。得られた負極における1cmあたりの初回充電容量(N)は3897.5μAh/cm、1cm当たりの初回不可逆容量(Q’a)は339.4μAh/cmとなった。
【0097】
このようにして得られた負極の初回不可逆容量に対する正極の初回不可逆容量の比(Q’c/Q’a)は、1.26となった。また、正極1cm当たりの初回充電容量(P)に対する負極1cm当たりの初回充電容量(N)の比(N/P)は、1.15となった。
【0098】
(非水電解質の調製)
ECとEMCとDMCとを体積比30:35:35で混合してなる非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.0mol/dmの含有量となるように混合した非水電解質を調製した。
【0099】
(非水電解質蓄電素子の作製)
セパレータとして、片面に無機層が形成されたポリオレフィン製微多孔膜を用意した。このセパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層することにより電極体を作製した。この電極体を金属樹脂複合フィルム製の容器に収納し、内部に上記非水電解質を注入した後、熱溶着により封口した。
【0100】
(初期充放電)
得られた充放電前の非水電解質蓄電素子に対して、25℃において以下の要領にて3サイクルの初期充放電を行った。1サイクル目は、充電電流0.2C、充電終止電圧4.25V、トータル充電時間7時間で定電流定電圧充電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流0.2C、放電終止電圧2.75Vで定電流放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。2サイクル目及び3サイクル目は、充電電流1C、充電終止電圧4.25V、トータル充電時間3時間で定電流定電圧充電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流1C、放電終止電圧2.75Vで定電流放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。以上の操作により、初期充放電を行った。これにより、実施例1の非水電解質蓄電素子を得た。
【0101】
さらに、放電電流0.2C、放電終止電圧2.75Vで定電流放電を行い、10分間以上開回路状態とし、負極電位を測定した。得られた、初期充放電後のDOD100%の状態における負極電位は、0.48V vs.Li/Liであった。
【0102】
[実施例2、比較例1、2]
負極活物質である酸化ケイ素と黒鉛との合計量に対する酸化ケイ素の含有量、及び負極合剤の塗布質量を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2及び比較例1、2の各非水電解質蓄電素子を得た。得られた各非水電解質蓄電素子における正極及び負極の1cm当たりの初回充電容量(P、N)及び初回不可逆容量(Q’c、Q’a)、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)、初回充電容量比(N/P)、初期充放電後のDOD100%の状態における負極電位等を表1に示す。
【0103】
[評価](充放電サイクルにおける容量維持率)
得られた実施例1、2及び比較例1、2の各非水電解質蓄電素子について、以下の要領で充放電サイクル試験を行った。45℃の恒温槽内において充電電流1.0C、充電終止電圧4.25V、トータル充電時間3時間で定電流定電圧充電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流1.0C、放電終止電圧2.75Vで定電流放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。この充放電を50サイクル実施した。この充放電サイクル試験における1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の比を充放電サイクルにおける容量維持率として求めた。得られた実施例1、2及び比較例1、2の各非水電解質蓄電素子の充放電サイクルにおける容量維持率を表1及び図5に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
図5に示されるように、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)における1.13と1.15の間が臨界点となっており、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)が1.15以上となると、充放電サイクルにおける容量維持率が顕著に向上することがわかる。
【0106】
なお、上記特許文献1には、酸化ケイ素を負極に用いた非水電解質二次電池において、(1)所定の組成のLi含有遷移金属酸化物を含有する正極と、SiO及び黒鉛を含有する負極とを使用することで、正極の初回充放電効率を負極の初回充放電効率よりも低く調整すること、(2)このように正極及び負極の初回充放電効率を調整することで、2.5Vまで放電した際の負極の電位が、Li基準で1.0V以下と低くなること、及び(3)このように負極の電位をLi基準で1.0V以下とすることで、良好な充放電サイクル特性が確保できるようになることが記載されている(特許文献1[0014])。しかしながら、上記比較例1、2における正極の初回充放電効率(初回放電容量/初回充電容量)は約0.87(≒166.9/191.0)であるのに対し、負極の初回充放電効率は約0.90(≒401.7/448.0)であり、正極の初回充放電効率の方が低い。また、上記比較例1、2はいずれもDOD100%の状態における負極電位が1.0V vs.Li/Liよりも低い。すなわち、上記比較例1、2は、上記特許文献1の発明でありながら、充放電サイクルにおける容量維持率は十分であるものとはいえない。すなわち、特許文献1の発明のように、正極及び負極の初回の充放電効率の大小関係のみに着目しても充放電サイクルにおける容量維持率の改善には限度があるといえる。これに対し、正極及び負極の不可逆容量の絶対量の比に着目し、その比を所定値(1.15)以上とすることで顕著に充放電サイクルにおける容量維持率が改善できることがわかる。
【0107】
[実施例3]
(正極活物質の単位質量当たりの不可逆容量の測定)
正極活物質として、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物であるLiNi0.8Mn0.1Co0.1を用意した。この正極活物質は、充電上限電位を4.33V vs.Li/Li、放電終止電位を2.85V vs.Li/Liとした場合、初回充電容量は230.7mAh/g、初回放電容量は199.2mAh/g、初回不可逆容量は31.5mAh/gであることがわかっている。
【0108】
(負極活物質の単位質量当たりの不可逆容量の測定)
負極活物質として、酸化ケイ素(SiO)と黒鉛(Gr)との混合物を用意した。酸化ケイ素と黒鉛との質量比は10:90とした。この負極活物質は、充電下限電位を0.02V vs.Li/Li、放電終止電位を2.0V vs.Li/Liとした場合、初回充電容量は476.7mAh/g、初回放電容量は435.9mAh/g、初回不可逆容量は40.8mAh/gであることがわかっている。
【0109】
(正極及び負極の作製)
質量比で、正極活物質:アセチレンブラック(AB):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)=93:3.5:3.5の割合(固形物換算)で含み、N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤ペーストを作製した。この正極合剤ペーストを正極基材としての帯状のアルミニウム箔に塗布し、乾燥させてNMPを除去した。1cmあたりの正極合剤ペーストの塗布量は、固形分換算で1.655mg/cmとした。これをローラープレス機により加圧して正極活物質層を成型した後、減圧乾燥して正極を得た。得られた正極における1cmあたりの初回充電容量(P)は355.0μAh/cm、1cm当たりの初回不可逆容量(Q’c)は48.5μAh/cmとなった。
【0110】
質量比で、負極活物質(SiO+Gr):スチレンブタジエンゴム(SBR):カルボキシメチルセルロース(CMC)=97:2:1の割合(固形分換算)で含み、水を分散媒とする負極合剤ペーストを作製した。この負極合剤ペーストを負極基材としての帯状の銅箔集電体の両面に塗布し、乾燥させて水を除去した。1cmあたりの負極合剤ペーストの塗布量は、固形分換算で0.90mg/cmとした。これをローラープレス機により加圧して負極活物質層を成型した後、減圧乾燥して負極を得た。得られた負極における1cmあたりの初回充電容量(N)は416.4μAh/cm、1cm当たりの初回不可逆容量(Q’a)は35.6μAh/cmとなった。
【0111】
このようにして得られた負極の初回不可逆容量に対する正極の初回不可逆容量の比(Q’c/Q’a)は、1.36となった。また、正極1cm当たりの初回充電容量(P)に対する負極1cm当たりの初回充電容量(N)の比(N/P)は、1.17となった。
【0112】
実施例1と同様に非水電解質を調製し、上記正極及び負極を用いたこと以外は実施例1と同様に作製及び初期充放電を行い、実施例3の非水電解質蓄電素子を得た。
【0113】
さらに、放電電流0.2C、放電終止電圧2.75Vで定電流放電を行い、10分間以上開回路状態とし、負極電位を測定した。得られた、初期充放電後のDOD100%の状態における負極電位は、0.524V vs.Li/Liであった。
【0114】
[実施例4から6]
正極合剤の塗布質量及び負極合剤の塗布質量を表2に示す通りとしたこと以外は実施例3と同様にして、実施例4から6の各非水電解質蓄電素子を得た。得られた各非水電解質蓄電素子における正極及び負極の1cm当たりの初回充電容量(P、N)及び初回不可逆容量(Q’c、Q’a)、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)、初回充電容量比(N/P)、初期充放電後のDOD100%の状態における負極電位等を表2に示す。
【0115】
[評価](充放電サイクルにおける酸化ケイ素の利用領域での放電電圧維持率及びエネルギー維持率)
得られた実施例3から6の各非水電解質蓄電素子について、以下の要領で充放電サイクル試験を行った。25℃の恒温槽内において充電電流1.0C、充電終止電圧4.25V、トータル充電時間3時間で定電流定電圧充電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流1.0C、放電終止電圧2.75Vで定電流放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。この充放電を50サイクル実施した。
実施例3から6の各非水電解質蓄電素子の負極において、DOD50%から100%の範囲を酸化ケイ素が主に利用される領域とした。上記充放電サイクル試験における1サイクル目のDOD50%から100%の範囲における平均放電電圧に対する50サイクル目の上記範囲における平均放電電圧の比を平均放電電圧維持率として求めた。また、この充放電サイクル試験における1サイクル目のDOD50%から100%の範囲において放電されるエネルギーに対する50サイクル目の上記範囲において放電されるエネルギーの比をエネルギー維持率として求めた。得られた実施例3から6の各非水電解質蓄電素子の充放電サイクルにおける平均放電電圧維持率及びエネルギー維持率を表2及び図6、7に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
表2及び図6、7に示されるように、初回不可逆容量比(Q’c/Q’a)が1.55以下になると、充放電サイクルにおける酸化ケイ素の利用領域(実施例3から6の各非水電解質蓄電素子におけるDOD50%から100%の範囲)での放電電圧維持率及びエネルギー維持率が顕著に向上することがわかる。
【0118】
なお、図8に酸化ケイ素を含む負極を備える非水電解質蓄電素子における、上記高結晶相の蓄積が生じている負極の放電曲線、及び上記高結晶相の蓄積が抑制されている負極の放電曲線の一例を示す。上記高結晶相の蓄積が生じている場合、DOD60%から100%の範囲において負極の放電電位が高くなることから、当該負極を備える非水電解質蓄電素子の平均放電電圧が低下することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される非水電解質蓄電素子等に適用できる。
【符号の説明】
【0120】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8