(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20241210BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20241210BHJP
C08G 18/44 20060101ALI20241210BHJP
C09D 11/10 20140101ALI20241210BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241210BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/29
C08G18/44
C09D11/10
C08J5/18 CEZ
B32B27/36 102
(21)【出願番号】P 2021544026
(86)(22)【出願日】2020-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2020033434
(87)【国際公開番号】W WO2021045154
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019163141
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【氏名又は名称】潮 太朗
(72)【発明者】
【氏名】吉谷 耕平
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-341574(JP,A)
【文献】特開2008-101191(JP,A)
【文献】特開2018-051959(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126432(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08G
C09D
C08J
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位と下記一般式(2)で表される末端構造とを含むポリカーボネート樹脂(A)と
ポリイソシアネート化合物(B)とを含有
するポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂(A)と前記ポリイソシアネート化合物(B)との合計質量を基準として前記ポリイソシアネート化合物(B)を
6.5質量%以上
かつ50質量%以下の量で含有
し、
前記ポリカーボネート樹脂組成物が、混合物としてのポリカーボネート樹脂(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを含み、架橋構造を形成できる、ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
【化2】
(式(1)中、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基であり、
nは、それぞれ独立して、0~4の整数であり、但し、nがいずれも0であることはなく、
Xは、-O-、-S-、-SO-、-SO
2-、-CO-、又は下記一般式(3)~(8)のいずれかで表される二価の基である。)
(式(2)中、
R
3は、それぞれ独立して、水酸基によって置換されていても良い炭素数1~8のアルキル基であり、
mは、0~5の整数である。)
【化3】
(一般式(3)中、R
8~R
17は、それぞれ独立に、水素、又は炭素数1~3のアルキル基を表し、R
8~R
17のうち少なくとも一つが炭素数1~3のアルキル基を表し;
一般式(4)~(8)中、R
18及びR
19は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~17のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~15のアルケニル基を表すか、または、
R
18及びR
19は互いに結合して、炭素数3~20の炭素環又は炭素数1~20の複素環を形成し;
R
20は置換基を有しても良い1~9のアルキレン基であり、
cは0~20の整数を表し、
dは1~500の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)中のR
1及びR
2が、メチル基であり、
nが、いずれも1である、
請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(4)中のR
18及びR
19がメチル基であり、cが1である、請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂(A)において、前記一般式(1)で表される構成単位が、全構成単位のモル数を基準として40モル%以上含まれる、請求項1~3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリカーボネート樹脂(A)の末端基である一般式(2)のR
3が、1つの水酸基によって置換されていても良い炭素数1~4のアルキル基である、請求項1~4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記一般式(2)で表される末端構造が、p-tert-ブチルフェノール(PTBP)、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(PHEP)又はp-ヒドロキシベンジルアルコールにより誘導されたものである、請求項1~5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記一般式(2)で表される末端構造が、前記ポリカーボネート樹脂(A)の全ての構成単位のモル数に含まれる割合が、0.1モル%以上かつ12モル%以下である、請求項1~6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)が、10,000~60,000である、請求項1~
7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリカーボネート樹脂(A)と前記ポリイソシアネート化合物(B)との混合物である、請求項1~
8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリイソシアネート化合物(B)が、少なくとも、ヘキサメチレンジイソシアネートとキシリレンジイソシアネートとのいずれかを含む、請求項1~
9のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、及び有機溶媒を含む、樹脂溶液。
【請求項12】
前記有機溶媒が、非ハロゲン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、炭酸エステル系溶媒、及び、ケトン系溶媒の少なくともいずれかを含む、請求項
11に記載の樹脂溶液。
【請求項13】
請求項
11または
12に記載の樹脂溶液をバインダー樹脂溶液として用いた、印刷インキ。
【請求項14】
請求項
13に記載の印刷インキを塗工した基材フィルム。
【請求項15】
請求項1~
10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を含む、フィルムまたは被膜。
【請求項16】
前記フィルムがフィルム積層体を含む、請求項
15に記載のフィルムまたは被膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物等に関し、より詳細には、基材との密着性に優れるポリカーボネートコーティング樹脂溶液等に用いることができるポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は透明性や成形性に優れ、また耐衝撃性等の優れた機械特性により、電気製品や自動車等機械製品に利用されている。その中で、機能性を有する薄膜を得るためや物品のコーティングを行うため、ポリカーボネート樹脂溶液が知られている(特許文献1)。
【0003】
ポリカーボネート樹脂溶液から得られた被膜は、耐衝撃性等の耐久性には優れるが、密着性に劣り、むしろその性質を利用した易剥離性のマニキュアへの応用が知られている(特許文献2)。故に、これらのコーティング被膜と基材との密着性には改善の余地があった。
【0004】
ポリカーボネート樹脂と他の樹脂とをブレンドした樹脂組成物としては、例えば、ポリカーボネート樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂とのブレンド樹脂組成物が知られているが、このブレンド樹脂組成物は、密着性を改善するものではない(特許文献3)。よって、依然として、コーティング被膜と基材との密着性を改善することができる、ポリカーボネート樹脂組成物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-268365号公報
【文献】特開2014-024789号公報
【文献】特許第6340811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コーティング被膜と基材との密着性を改善することができる、ポリカーボネート樹脂と他の樹脂とのブレンド樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定のポリカーボネート樹脂とポリイソシアネート化合物とのブレンド樹脂組成物が、基材に対する高い密着性を有する強固なコーティング被膜を形成する溶液に用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記の態様を含む。
【0009】
<1>下記一般式(1)で表される構成単位と下記一般式(2)で表される末端構造とを含むポリカーボネート樹脂(A)と
ポリイソシアネート化合物(B)とを含有し、
前記ポリカーボネート樹脂(A)と前記ポリイソシアネート化合物(B)との合計質量を基準として前記ポリイソシアネート化合物(B)を0.1質量%以上含有する、ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
【化2】
(式(1)中、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基であり、 nは、それぞれ独立して、0~4の整数であり、但し、nがいずれも0であることはなく、
Xは、-O-、-S-、-SO-、-SO
2-、-CO-、又は下記一般式(3)~(8)のいずれかで表される二価の基である。)
(式(2)中、
R
3は、それぞれ独立して、水酸基によって置換されていても良い炭素数1~8のアルキル基であり、
mは、0~5の整数である。)
【化3】
(一般式(3)中、R
8~R
17は、それぞれ独立に、水素、又は炭素数1~3のアルキル基を表し、R
8~R
17のうち少なくとも一つが炭素数1~3のアルキル基を表し;
一般式(4)~(8)中、R
18及びR
19は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~17のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~15のアルケニル基を表すか、または、
R
18及びR
19は互いに結合して、炭素数3~20の炭素環又は炭素数1~20の複素環を形成し;
R
20は置換基を有しても良い1~9のアルキレン基であり、
cは0~20の整数を表し、
dは1~500の整数を表す。)
【0010】
<2>前記一般式(1)中のR1及びR2が、メチル基であり、
nが、いずれも1である、
上記<1>に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0011】
<3>前記一般式(4)中のR18及びR19がメチル基であり、cが1である、上記<2>に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0012】
<4>前記ポリカーボネート樹脂(A)において、前記一般式(1)で表される構成単位が、全構成単位のモル数を基準として40モル%以上含まれる、上記<1>~<3>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0013】
<5>前記ポリカーボネート樹脂(A)の末端基である一般式(2)のR3が、1つの水酸基によって置換されていても良い炭素数1~4のアルキル基である、上記<1>~<4>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0014】
<6>前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)が、10,000~60,000である、上記<1>~<5>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0015】
<7>前記ポリカーボネート樹脂(A)と前記ポリイソシアネート化合物(B)との混合物である、上記<1>~<6>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0016】
<8>前記ポリイソシアネート化合物(B)が、少なくとも、ヘキサメチレンジイソシアネートとキシリレンジイソシアネートとのいずれかを含む、上記<1>~<7>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0017】
<9>上記<1>~<8>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、及び有機溶媒を含む、樹脂溶液。
【0018】
<10>前記有機溶媒が、非ハロゲン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、炭酸エステル系溶媒、及び、ケトン系溶媒の少なくともいずれかを含む、上記<9>に記載の樹脂溶液。
【0019】
<11>上記<9>または<10>に記載の樹脂溶液をバインダー樹脂溶液として用いた、印刷インキ。
【0020】
<12>上記<11>に記載の印刷インキを塗工した基材フィルム。
【0021】
<13>上記<1>~<8>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を含む、フィルムまたは被膜。
【0022】
<14>前記フィルムがフィルム積層体を含む、上記<13>に記載のフィルムまたは被膜。
【発明の効果】
【0023】
本発明の樹脂組成物を含む樹脂溶液から得られる樹脂被膜は、従来のポリカーボネート樹脂被膜に比して、基材との密着性が強く、剥離しにくい利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、特定のポリカーボネート樹脂とポリイソシアネート化合物とを含むポリカーボネート樹脂組成物、ポリカーボネート樹脂組成物等を含む樹脂溶液、樹脂溶液を含む印刷インキ、印刷インキを塗工した基材フィルム、及び、ポリカーボネート樹脂組成物を含むフィルムまたは被膜に関する。以下、これらの本発明の対象物をそれぞれ説明する。
【0025】
1.ポリカーボネート樹脂組成物
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上述のように、ポリカーボネート樹脂(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを含む。ポリカーボネート樹脂組成物においては、ポリカーボネート樹脂(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを混合物として含むことが好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上述のように、ポリカーボネート樹脂(A)とポリイソシアネート化合物(B)との合計質量を基準として、ポリイソシアネート化合物(B)を0.1質量%以上含有する。本発明の一実施形態において、上記合計質量におけるポリイソシアネート化合物(B)の量は、1.0質量%以上、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上、更により好ましくは6.5質量%以上、特に好ましくは8.0質量%以上、例えば、10質量%超であってよい。
本発明の一実施形態において、ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれるポリイソシアネート化合物(B)の量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.1質量部以上、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは3.0質量部以上、更により好ましくは5.0質量部以上、特に好ましくは8.0質量部以上、例えば、10質量部超であってよい。
ポリイソシアネート化合物(B)をポリカーボネート樹脂(A)に対して過剰に用いても、密着性の効果は得られるため、樹脂組成物におけるポリイソシアネート化合物(B)の含有量の上限値はさほど重要ではないものの、本発明の一実施形態において、上記合計質量におけるポリイソシアネート化合物(B)の量は、例えば、50質量%以下であり、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更により好ましくは35質量%以下、特に好ましくは30質量%以下、であってよい。
また、ポリイソシアネート化合物(B)の量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、例えば、50質量部以下であり、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更により好ましくは35質量部以下、特に好ましくは30質量部以下、であってよい。
【0026】
2.ポリカーボネート樹脂(A)
ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれるポリカーボネート樹脂(A)は、上述のように、式(1)で表される構成単位(以下、構成単位(1)ともいう)と式(2)で表される末端構造(以下、末端構造(2)ともいう)とを有する。
なお、末端構造(2)の酸素原子は、式(1)で表される構成単位のうちポリマー鎖の末端にある構成単位のカルボニル炭素(C=Oのカルボニル基の炭素)に結合される。
【化4】
【化5】
(式(1)中、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基であり、
nは、それぞれ独立して、0~4の整数であり、但し、nがいずれも0であることはなく、 Xは、-O-、-S-、-SO-、-SO
2-、-CO-、又は下記一般式(3)~(8)のいずれかで表される二価の基である。)
(式(2)中、
R
3は、それぞれ独立して、水酸基によって置換されていても良い炭素数1~8のアルキル基であり、
mは、0~5の整数である。)
【化6】
(一般式(3)中、R
8~R
17は、それぞれ独立に、水素、又は炭素数1~3のアルキル基を表し、R
8~R
17のうち少なくとも一つが炭素数1~3のアルキル基を表し;
一般式(4)~(8)中、R
18及びR
19は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~17のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~15のアルケニル基を表すか、または、
R
18及びR
19は互いに結合して、炭素数3~20の炭素環又は炭素数1~20の複素環を形成し;
R
20は置換基を有しても良い1~9のアルキレン基であり、
cは0~20の整数を表し、
dは1~500の整数を表す。)
【0027】
本発明の一実施形態において、末端構造(2)は、構成単位(1)と末端構造(2)の全モル数を基準として、0.5mol%以上12mol%以下、好ましくは1.0mol%以上10mol%以下、より好ましくは1.5mol%以上8mol%以下で含まれてよい。
【0028】
(i)構成単位(1)
本発明の一実施形態において、構成単位(1)中、R1、及び、R2は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基であり、好ましくは、炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1又は2のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
また、構成単位(1)中、R1とR2の数を示すnの値は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、但し、nがいずれも0であることはない。nの値は、好ましくは、それぞれ独立して1~4の整数であり、好ましくは、それぞれ独立して1~3の整数であり、より好ましくは、それぞれ独立して1または2の整数であり、さらに好ましくは、いずれも1である。
【0029】
本発明の一実施形態において、構成単位(1)中、Xは、-O-、-S-、-SO-、-SO
2-、-CO-、又は下記一般式(3)~(8)のいずれかで表される二価の基である。
【化7】
(一般式(3)中、
R
8~R
17はそれぞれ独立に、水素、又は炭素数1~3のアルキル基を表し、
R
8~R
17のうち少なくとも一つが炭素数1~3のアルキル基を表し;
一般式(4)~(8)中、
R
18及びR
19はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~17のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~15のアルケニル基を表すか、又は、
R
18及びR
19は互いに結合して、炭素数3~20の炭素環又は炭素数1~20の複素環を形成し;
R
20は置換基を有してもよい1~9のアルキレン基であり、
cは0~20の整数を表し、
dは1~500の整数を表す。)
【0030】
本発明の一実施形態において、構成単位(1)中、Xが上記一般式(3)で表される二価の基である場合、R8~R17はそれぞれ独立に、水素又は炭素数1~3のアルキル基を表し、好ましくは、水素又はメチル基を表し、かつ、R8~R17のうち少なくとも一つが炭素数1~3のアルキル基を表す。
本発明の一実施形態において、R8~R17はそれぞれ独立に、水素、メチル、エチル、n-プロピル、又はイソプロピルであってよく、かつ、R8~R17のうち少なくとも一つがメチル、エチル、n-プロピル、又はイソプロピルである。
【0031】
本発明の一実施形態において、構成単位(1)中、Xが上記一般式(4)~(8)で表される二価の基である場合、R18及びR19はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~17のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~15のアルケニル基を表し、好ましくは、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~3のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~8のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~12のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~5のアルケニル基を表してよい。
本発明の別の実施形態において、R18及びR19は互いに結合して、炭素数3~20の炭素環又は炭素数1~20の複素環を形成してよく、好ましくは、炭素数3~12の炭素環又は炭素数1~12の複素環を形成してよい。
本発明の好ましい実施形態において、R18及びR19は互いに結合して、炭素数3~12の炭素環を形成してよい。
本発明の一実施形態において、構成単位(1)中、Xが上記一般式(8)で表される二価の基である場合、R20は置換基を有してもよい1~9のアルキレン基であり、好ましくは、置換基を有してもよい1~5のアルキレン基であってよい。
本発明の一実施形態において、構成単位(1)中、Xが上記一般式(4)~(8)で表される二価の基である場合、cは0~20の整数を表し、dは1~500の整数を表してよく、好ましくは、cは0~12の整数を表し、dは1~300の整数を表してよく、より好ましくは、cは1~6の整数を表し、特に好ましくは、cは1である。また、dは1~100の整数を表してよい。
【0032】
本発明の一実施形態において、構成単位(1)中、Xは、-O-、-S-、又は上記一般式(3)~(4)のいずれかで表される二価の基であってよく、好ましくは、上記一般式(4)で表される二価の基である。
また、構成単位(1)に含まれる上述の置換基として、ハロゲン、シアノ基、炭素数が例えば5以下である、アルケニル基等が挙げられる。また、上述の炭素数は置換基の炭素の数を含む合計の炭素数である。
【0033】
本発明の一実施形態において、構成単位(1)は、ビスフェノール化合物から誘導されるものであってよい。構成単位(1)を形成するビスフェノール化合物として、ビスフェノールC(2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン;BPC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-1-フェニルエタン)、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)エタン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メタン等が挙げられる。これらのビスフェノール化合物の具体例のうち、ビスフェノールC(2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン)が好ましい。
すなわち、構成単位(1)は、ビスフェノールC(BPC)のみ、あるいはBPCを主成分とするビスフェノール化合物から誘導されることが好ましい。
【0034】
本発明の一実施形態において、ポリカーボネート樹脂(A)は、構成単位(1)以外の構成単位を含んでいても良い。構成単位(1)以外の構成単位も、ビスフェノール化合物から誘導され得る。
構成単位(1)以外の構成単位を形成するビスフェノール化合物として、以下のものが挙げられる。例えば、4,4‘-ビフェニルジオール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF;BPF)、ビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(2-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルファイド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE;BPE)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP;BPAP)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(ビスフェノールBP;BPBP)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA;BPA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)エタン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB;BPB)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ;BPZ)、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロウンデカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン(ビスフェノールCD)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-アリルフェニル)プロパン、3,3,5-トリメチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、α,ω-ビス[3-(o-ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルジフェニルランダム共重合シロキサン、α,ω-ビス[3-(o-ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスフェノール、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスフェノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン(ビスフェノールG)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン(ビスフェノールIOTD)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン(ビスフェノールIBTD)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルペンタン(ビスフェノールMIBK)、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン(ビスフェノールPH)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタンなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上併用することも可能である。
また、これらの中でも特に、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA;BPA)、ビスフェノールAP、ビスフェノールZ、ビスフェノールCD、ビスフェノールTMC、ビスフェノールIOTD、ビスフェノールIBTD、およびビスフェノールMIBKが好ましく、ビスフェノールAがより好ましい。
【0035】
すなわち、本発明の一実施形態において、構成単位(1)は、下記式(9)で表されるBPC由来の構成単位であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂(A)においては、構成単位(1)以外にも、下記式(10)で表されるBPA由来の構成単位、および、式(11)~(21)で表される構成単位の群より選ばれるいずれか1種以上を併用してもよい。
【化8】
【化9】
【化10】
【0036】
本発明の一実施形態において、構成単位(1)は、ポリカーボネート樹脂(A)に含まれる全ての構成単位のモル数を基準として、40モル%以上、含まれることが好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A)において、構成単位(1)は、全構成単位を基準として、50モル%以上、含まれることがより好ましく、さらに好ましくは55モル%以上、特に好ましくは60モル%以上、含まれる。
また、ポリカーボネート樹脂(A)は構成単位(1)のみで構成されても良い。よってポリカーボネート樹脂(A)における構成単位(1)の割合について上限値は特に重要でないものの、例えば、ポリカーボネート樹脂(A)における構成単位(1)の割合は、全構成単位を基準として、98モル%以下、97モル%以下、あるいは、95モル%以下である。
【0037】
(ii)末端構造(2)
本発明の一実施形態において、ポリカーボネート樹脂(A)の末端構造を表す式(2)中、R
3は、炭素数1~8のアルキル基であり、R
3のアルキル基は、水酸基等の置換基を有してもよいが、置換基を有していないことが好ましい。
【化11】
本発明の一実施形態において、構造式(2)中、R
3は、好ましくは、炭素数1~6のアルキル基であり、より好ましくは、水酸基によって置換されていてもよい、炭素数1~4のアルキル基である。
【0038】
本発明の一実施形態において、構造式(2)中、置換基R3の数を示すmの値は、0~5の整数であり、mの値は、好ましくは、0~4の整数であり、より好ましくは、1~3の整数であり、さらに好ましくは、1または2であり、特に好ましくは1である。
なお、同一のポリカーボネート分子においては、式(2)で表される複数の末端構造が含まれるが、R3、および、mは、各末端につきそれぞれ独立して定められる。
【0039】
本発明の一実施形態において、分子末端に構造(2)を誘導する1価フェノールとしては、例えば、フェノール、p-tert-ブチルフェノール(PTBP)、p-クミルフェノール、オクチルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(=チロソール)、m-ヒドロキシフェネチルアルコール、o-ヒドロキシフェネチルアルコール、o-ヒドロキシベンジルアルコール(=サリチルアルコール)、p-ヒドロキシベンジルアルコール、m-ヒドロキシベンジルアルコール、バニリルアルコール、ホモバニリルアルコール、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)―1―プロパノール、シナピルアルコール、コニフェリルアルコール、p-クマリルアルコール等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、反応性の観点からp-tert-ブチルフェノール(PTBP)、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(PHEP)、p-ヒドロキシベンジルアルコールが好ましく、さらにはp-tert-ブチルフェノール(PTBP)、p-ヒドロキシフェネチルアルコールが好ましい。
【0040】
本発明の一実施形態において、構造式(2)で表される末端構造は、p-tert-ブチルフェノール(PTBP)および、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(PHEP)のいずれかから誘導され得る。
【0041】
本発明の一実施形態において、末端構造(2)が、ポリカーボネート樹脂(A)に含まれる全ての構成単位のモル数に含まれる割合は、12モル%以下であることが好ましく、さらに好ましくは10モル%以下、特に好ましくは8.0モル%以下である。また、ポリカーボネート樹脂(A)に含まれる全ての構成単位のモル数に含まれる末端構造(2)のモル数の割合は、例えば、0.1モル%以上であり、好ましくは0.3モル%以上であり、より好ましくは0.5モル%以上である。
【0042】
(iii)ポリカーボネート樹脂(A)の製造
本発明にて用いられるポリカーボネート樹脂(A)は、常法により製造することができる。例えば、以下の通りである。
【0043】
本発明のコーティング樹脂溶液に用いられるポリカーボネート樹脂は、末端構造(2)を誘導する1価フェノールと、構成単位(1)を誘導するビスフェノール類と炭酸エステル形成化合物とを反応させることによって、製造することができるものであり、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートを製造する際に用いられている既知の方法、例えばビスフェノール類とホスゲンとの直接反応(ホスゲン法)、あるいはビスフェノール類とビスアリールカーボネートとのエステル交換反応(エステル交換法)などの方法を採用することができる。
【0044】
ホスゲン法においては、通常酸結合剤および溶媒の存在下において、ビスフェノールと、末端構造式(2)を誘導する1価フェノールとホスゲンとを反応させる。酸結合剤としては、例えばピリジンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などが用いられ、また溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルムなどが用いられる。さらに、縮重合反応を促進するために、トリエチルアミンのような第三級アミン又はベンジルトリエチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩などの触媒を用いることが好ましい。
末端構造式(2)を誘導する1価フェノールは重合度調節剤として機能するが、他にフェノール、p-t-ブチルフェノール、p-クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール等1価フェノールを、末端構造(2)を誘導する1価フェノールに対して50質量%未満併用することも可能である。また、所望に応じ亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイトなどの酸化防止剤や、フロログルシン、イサチンビスフェノールなど分岐化剤を小量添加してもよい。反応は通常0~150℃、好ましくは5~40℃の範囲とするのが適当である。反応時間は反応温度によって左右されるが、通常0.5分~10時間、好ましくは1分~2時間である。また、反応中は、反応系のpHを10以上に保持することが望ましい。
【0045】
一方、エステル交換法においては、ビスフェノールと、末端構造(2)を誘導する1価フェノールとビスアリールカーボネートとを混合し、減圧下で高温において反応させる。
ビスアリールカーボネートの例としては、ジフェニルカーボネート、ジ-p-トリルカーボネート、フェニル-p-トリルカーボネート、ジ-p-クロロフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネートなどのビスアリルカーボネートが挙げられる。これらの化合物は2種類以上併用して使用することも可能である。反応は通常150~350℃、好ましくは200~300℃の範囲の温度において行われ、また減圧度は最終で好ましくは1mmHg以下にして、エステル交換反応により生成した該ビスアリールカーボネートから由来するフェノール類を系外へ留去させる。反応時間は反応温度や減圧度などによって左右されるが、通常1~24時間程度である。反応は窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく。また、所望に応じ、末端構造(2)を誘導する1価フェノール以外の分子量調節剤の少量併用や、酸化防止剤や分岐化剤を添加して反応を行ってもよい。
【0046】
本発明にて用いられるポリカーボネート樹脂は、コーティング樹脂溶液用被膜形成樹脂としての必要な溶媒溶解性、コーティング性、密着性、耐傷性、耐衝撃性等をバランス良く保持することが好ましい。樹脂の極限粘度が低すぎると耐傷性や耐衝撃性強度が不足し、極限粘度が高すぎると溶媒溶解性の低下と溶液粘度上昇がありコーティング性が低下する。望ましい極限粘度範囲として極限粘度が0.3~2.0dl/gの範囲であることが好ましく、さらには0.35~1.5dl/gの範囲であることが好ましい。
【0047】
3.ポリイソシアネート化合物(B)
本発明において、ポリカーボネート樹脂組成物は、上述のように、ポリイソシアネート化合物(B)を含む。
ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれるポリイソシアネート化合物としては、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物が好ましい。分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をポリイソシアネート化合物として用いることにより、ポリカーボネート樹脂組成物中で部分的に架橋構造を形成して、ポリカーボネート樹脂組成物をその少なくとも一部が架橋されている架橋体組成物とすることもできる。
【0048】
本発明において用いることができるポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,3-トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9-ノナメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2’-ジエチルエーテルジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられ、なかでもヘキサメチレンジイソシアネートが好ましいが、これらに限定されない。
【0050】
脂環族ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、3-イソシアネートメチル-3,3,5ートリメチルシクロヘキサン(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、ビス-(4-イソシアネートシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、水素化(1,3-又は1,4-)キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
芳香族ポリイソシアネートとしては、たとえば、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアネートビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアネートジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、テトラクロロフェニレンジイソシアネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、(α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等のキシリレンジイソシアネート、3,3’-メチレンジトリレン-4,4’-ジイソシアネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
これらのポリイソシアネート化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
本発明の一実施形態において、ポリイソシアネート化合物は、例えば、1分子中にイソシアネート基を2個有するジイソシアネート化合物であってよく、ジイソシアネートとジオール、ジアミン等を反応させ、プレポリマー化したジイソシアネートであってもよい。また、ジイソシアネート化合物の一部を3官能以上のイソシアネート化合物にオリゴマー化したものも使用できる。ジイソシアネート化合物のオリゴマー化には既知の方法を用いることができ、ジイソシアネート化合物のオリゴマー化としては、例えば、イソシアヌレート化、アロファネート化、ビウレット化、多官能アルコール又は多官能アミンによるウレタン化又はウレア化が挙げられる。本発明の一実施形態において、ポリイソシアネート化合物は、トリフェニルメタントリイソシアネートのような、イソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネートであってよい。
【0055】
本発明の一実施形態において、ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1分子中にイソシアネート基を2個有するジイソシアネート化合物であってよい。本発明において用いることができるジイソシアネート化合物としては、例えば、
トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、フェニレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート(NDI)等の芳香族ジイソシアネート化合物;
1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、テトラメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;
2,4-ジイソシアネート-1-メチルシクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、核水添されたXDI(H6-XDI)、核水添されたMDI(H12-MDI)等の脂環式ジイソシアネート化合物;
キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物;
等が挙げられる。本発明の好ましい実施形態において、ポリイソシアネート化合物は、市場流通性や価格の面から、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)であってよい。
【0056】
4.ポリカーボネート樹脂組成物におけるその他の成分
ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)とポリイソシアネート化合物(B)以外の成分を含んでいても良い。例えば、ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂、酸化防止剤や紫外線吸収剤などの添加剤、無機フィラー、導電性フィラー等である。
構成成分の簡素化の観点から、ポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物の全重量を基準として20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、更により好ましくは8質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。また、好ましくは、ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を含まない。
【0057】
5.ポリカーボネート樹脂組成物を含む樹脂溶液
本発明のコーティング樹脂溶液は、上記のポリカーボネート樹脂組成物を、有機溶媒、例えば、非ハロゲン系溶媒を含む溶媒に溶解した溶液であり、その状態では一般にクリアー色とよばれる被膜となる。さらに所望の染・顔料を溶解、又は分散させて着色した被膜とすることができる。
【0058】
本発明のコーティング樹脂溶液の溶媒としては、前述した通り、有機溶媒であり、有機溶媒は非ハロゲン系溶媒を含む溶媒であることが好ましく、より好ましくは、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒として含む溶媒である。
本発明のコーティング樹脂溶液の溶媒として用いることができる非ハロゲン系有機溶媒としては、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、炭酸エステル系溶媒、及びケトン系溶媒からなる群より選択される1種以上の溶媒を含んでよい。
本発明のコーティング樹脂溶液の溶媒は、即ち、一般に塗料等に用いられる溶媒を主成分とし、具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸2-エトキシエチル、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルなどの炭酸エステル系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、ジメトキシメタン、エチルセルソルブ、アニソール等のエーテル系溶媒、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、プソイドキュメン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。さらに、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系貧溶媒やn-ヘプタン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット等の炭化水素系貧溶媒を少量併用してもよい。
中でも、安価で作業性も良く、比較的安全性が高い酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジメトキシメタン等のエーテル系溶媒に溶解することが好ましく、特に、メチルエチルケトン、酢酸プロピルが好ましい。
【0059】
また、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒はコーティング作業環境への影響が大きいため、本発明のコーティング樹脂溶液の主溶媒としては使用しないことが好ましい。
【0060】
本発明の一実施形態において、樹脂溶液は、上記のポリカーボネート樹脂組成物及び非ハロゲン系有機溶媒を含む。本発明の一実施形態において、上記のポリカーボネート樹脂組成物は、その少なくとも一部が架橋されてなる架橋体組成物であってもよい。
【0061】
本発明のコーティング樹脂溶液の粘度は、所望のコーティング方法により任意に設定可能であるが、10~20000mPa/sの範囲が好ましい。エアレススプレー、はけ塗り、ローラー塗りの場合400~20000mPa/s、エアースプレーの場合100~6000mPa・s、浸漬塗布、缶スプレーの場合10~500mPa・sが好ましい。
【0062】
本発明のコーティング樹脂溶液に、色彩効果を高めるために、顔料や染料、着色粒子、光干渉性を有する粒子を添加することができる。顔料や染料としては、有機顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料等が挙げられ、具体的には、例えば、赤色104号、赤色106号、赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色215号、赤色220号、橙色203号、橙色204号、青色1号、青色404号、黄色205号、黄色401号、黄色405号等が挙げられる。また、白色、パール色、メタリック色、ラメ感を出すため、雲母チタン、酸化チタン、酸化鉄、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化クロム、オキシ塩化ビスマス、シリカ、クロム、窒化チタン、チタン、フッ化マグネシウム、金、銀、ニッケル等を使用することも可能である。光干渉性を有する粒子とは、光の反射や散乱によって色彩効果を高める粒子であり、例としてガラスビーズや微小な貝殻、雲母などが挙げられる。これらは、所望に応じコーティング中0.0001~10.0質量%の範囲で添加されることが好ましく、より好ましくは、0.01~5.0質量%の範囲で添加され、さらに好ましくは、0.1~3.0質量%の範囲で添加される。
【0063】
さらに必要に応じて、防錆剤、酸化防止剤、分散剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング剤等を添加しても良い。
【0064】
本発明のコーティング樹脂溶液中のポリカーボネート樹脂の配合量は、極限粘度や溶媒溶解性に左右されるが、1~50質量%が好ましく、4~30質量%がより好ましい。濃度がかかる範囲内であると、溶媒溶解性とコーティング性がバランスよく、作業性と外観が向上する。
【0065】
本発明のコーティング樹脂溶液をコーティングした後の被膜は、従来のポリカーボネートコーティング樹脂溶液の被膜に比べ、輸送や使用時の擦れ、衝撃等で傷や剥離が生じにくい。
【0066】
本発明のコーティング樹脂溶液をコーティングした後の被膜厚さは、5~200μm厚の範囲であることが好ましく、特に、10~120μm厚、さらには15~60μm厚の範囲が好ましい。5μm未満の薄い被膜では強度が足らず基材まで傷が到達しやすく、200μmを超え厚すぎると被膜の収縮による剥離が生じやすく、最終的に剥離・廃棄する被膜の用途を考慮すると経済的にも不利となる。
【0067】
6.樹脂溶液を含む印刷インキ
上記の樹脂溶液は、バインダー樹脂溶液として用いて印刷インキとすることができる。このような本発明の印刷インキは、例えば加飾印刷に用いることができる。一般に、加飾印刷用の印刷インキは、溶剤と染・顔料とバインダー樹脂を主成分に構成される。上記の印刷インキにおいて使用される染料・顔料としては、例えば、アントラキノン系、ナフトキノン系等の染料、酸化チタン、カーポンプラック、炭酸カルシウム、金属粒子等の無機顔料、アゾ顔料、フタロシアニン顔料等の有機顔料等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの染料・顔料はインキ中に溶解あるいは分散した状態でバインダー樹脂と共に存在する。本発明の樹脂溶液をバインダー樹脂溶液として用いた印刷インキは、密着性に優れるものである。
【0068】
前記印刷インキにはバインダー樹脂、及び、染料・顔料の他に必要に応じて、有機微粒子及び無機微粒子、離型剤、酸化防止剤、可塑剤、分散剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング剤等を添加してもよい。
【0069】
また、インキ中のバインダー樹脂の配合量は、極限粘度や溶剤溶解性に左右されるが、1~70質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましい。バインダー樹脂の濃度がかかる範囲内であると、溶剤溶解性とインキ塗布性がバランスよく、作業性が向上する。
【0070】
7.基材フィルム
本発明の基材フィルムは、上記の印刷インキを塗工したものである。印刷インキの塗工前の基材フィルムに加飾印刷した後、乾燥させることにより溶剤を除去し、染料・顔料をバインダー樹脂に固定させると同時にフィルムとバインダー樹脂が密着され、加飾印刷されたフィルム、すなわち、上記印刷インキを塗工した基材フィルムを得ることができる。印刷インキを基材に塗工する方法としては、常法を用いることができ、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
8.フィルムまたは被覆(コーティング)
本発明のフィルム、または、被覆は、上述のポリカーボネート樹脂組成物を含む。一実施形態において、上記のポリカーボネート樹脂組成物、又は、上記ポリカーボネート樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されてなる架橋体組成物を含む、フィルム又は被膜が提供される。
【0072】
本発明の一実施形態において、上記のフィルム又は被膜は、本発明のコーティング樹脂溶液又は印刷インキを基材に塗布した後、加熱あるいは乾燥して得ることができる。本発明の一実施形態において、上記のフィルム又は被膜は、単層であってもよく、多層の積層体であってもよい。
【0073】
9.ポリカーボネート樹脂組成物及びコーティング樹脂溶液の物性
(i)粘度平均分子量(Mv)
本発明の一実施形態において、ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は、10,000~60,000であってよい。本発明において、ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは14,000~55,000であり、より好ましくは16,000~50,000であり、更により好ましくは18,000~45,000であってよい。本発明の好ましい実施形態において、ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は、20,000~40,000であってよい。
【0074】
<粘度平均分子量(Mv)測定方法>
本発明において、粘度平均分子量は下記の通り測定した。
測定機器:ウベローデ毛管粘度計
溶媒:ジクロロメタン
樹脂溶液濃度:0.5グラム/デシリットル
測定温度:25℃
上記条件で測定し、ハギンズ定数0.45で極限粘度[η]デシリットル/グラムを求め、次式により算出した。
η=1.23×10-4×Mv0.83
【0075】
(ii)質量平均分子量(Mw)
本発明者らは、ポリカーボネート樹脂組成物を含むコーティング樹脂溶液を作製し、塗工して風乾した後、加熱乾燥処理を施すと、質量平均分子量(Mw)が上昇していることを見出した。すなわち、上記のような処理を施すことにより、ポリカーボネート樹脂組成物の少なくとも一部が架橋された架橋体組成物が形成されていると思われる。上述のように、本発明においては、ポリイソシアネート化合物として、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物を用いており、このことが、架橋体組成物の形成に寄与していると思われる。
例えば、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物を用いて、当該化合物を用いない場合に比べて100~10,000程度、あるいは500~5,000程度、大きい質量平均分子量(Mw)の値(ポリカーボネート(PC)換算の質量平均分子量)を有する、部分的な架橋構造を含むポリカーボネート樹脂組成物としてもよい。
【0076】
<ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)分析測定条件>
本発明のポリカーボネート樹脂および硬化後のポリカーボネート樹脂組成物の質量平均分子量(Mw)は、以下に示す条件にて行うゲル浸透クロマトグラフ分析にて測定した。
使用機器:Waters社製アライアンスHPLCシステム
カラム:昭和電工株式会社製Shodex805Lカラム2本
溶離液:クロロホルム
流速:1.0ml/min
サンプル:0.25w/v%クロロホルム溶液サンプル
検出:254nmのUV検出
ポリスチレン(PS)換算の質量平均分子量(Mw)およびポリカーボネート(PC)換算の質量平均分子量(Mw)をそれぞれ求めた。すなわち、上述のGPC分析によって得られたPS換算のMw値から、換算式として以下の式を用いて、PC換算のMw値を算出した。
Mw(PC換算)=0.4782×Mw(PS換算)1.014706
【0077】
(iii)剥離耐久性(密着性)
本発明のコーティング樹脂溶液を塗布し、風乾後、加熱乾燥処理を施した後、下記のクロスカット法により、剥離耐久性(密着性)を試験した。
【0078】
<クロスカット法>
JIS K5600-5-6準拠付着性クロスカット法(1mm間隔)で、ニチバン株式会社製クロスカット試験準拠 24mm幅粘着テープ(粘着力4.01N/10mm)を使用して付着性テストを行い、JIS分類指標に基づき、0(剥がれ無し)~5(ほぼ全面剥がれ)の数値で分類し、剥離耐久性の指標とした。
【実施例】
【0079】
<実施例1>
9w/w%の水酸化ナトリウム水溶液600ml、純水200mlに、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル-)プロパン(以下「BPC」と略称:本州化学工業株式会社製)100.6g(0.39mol)とPTBP(p-tert-ブチルフェノール)1.39g(0.009mol、末端構造含有量2.4mol%)およびハイドロサルファイト0.3gを溶解した。
これにメチレンクロライド200mlを加えて撹拌しつつ、0.08gのベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(以下「TEBAC」と略称)を加え、さらに15~20℃に保ちながら、ついでホスゲン55.1gを約30分かけて吹き込んだ。
ホスゲン吹き込み終了後、9w/w%の水酸化ナトリウム水溶液100mlを追加し、激しく撹拌して反応液を乳化させた後、重合触媒として0.5mlのトリエチルアミンを加え、20~30℃にて約40分間撹拌し重合させた。
重合終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液(水相)の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返した。得られた重合体溶液を、60℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、105℃、24時間乾燥して重合体粉末を得た。
得られたポリカーボネート樹脂(以下「PC-1」と略称)のMvは32,400であった。
PC-1(10質量部)とヘキサメチレンジイソシアネート(以下「HDI」と略称)1質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し10質量部)との樹脂組成物を、トルエン55質量部に溶解し、塗工溶液(樹脂溶液)を作製した。ステンレス鋼板上に前記塗工溶液を塗布(塗工)し、風乾後、110℃、5時間乾燥して試験片を得た。なお、乾燥させた工程により、樹脂組成物中に一部、不純物として含まれる化合物の水酸基等と、HDIのイソシアネート基との反応により、架橋体も生じていると考えられる。
JIS K5600-5-6に準拠し、試験片にクロスカット法を行ったところ判定は1であった。
【0080】
<実施例2>
HDIの代わりにキシリレンジイソシアネート(以下「XDI」と略称)を用いて塗工溶液を作製した以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0081】
<実施例3>
BPCの使用量を65.3g(0.26mol)、PTBPの使用量を2.01g(0.013mol、末端構造含有量として3.0mol%)に変更し、同時に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下「BPA」と略称:三菱ケミカル株式会社製)43.5g(0.19mol)を用いた以外は、実施例1と同様に重合を行い、ポリカーボネート樹脂(Mv26,000、以下「PC-2」と略称)を得た。
PC-2(10質量部)とHDI1質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し10質量部)とを、トルエン55質量部に溶解して塗工溶液を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0082】
<実施例4>
HDIの代わりにトリレンジイソシアネート(以下「TDI」と略称)を用いて塗工溶液を作製した以外は、実施例3と同様に評価を行った。
【0083】
<実施例5>
PTBPの使用量を0.86g(0.006mol、末端構造含有量として1.3mol%)に変更した以外は、実施例3と同様に重合を行い、ポリカーボネート樹脂(Mv51,400、以下「PC-3」と略称)を得た。
PC-3(10質量部)とHDI1質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し10質量部)とを、トルエン55質量部に溶解して塗工溶液を作製し、実施例3と同様に評価を行った。
【0084】
<実施例6>
HDIを3質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し30質量部)に変更した以外は、実施例1と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。
【0085】
<実施例7>
9w/w%の水酸化ナトリウム水溶液600ml、純水200mlに、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル-)プロパン(以下「BPC」と略称:本州化学工業株式会社製)65.3g(0.26mol)と2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下「BPA」と略称:三菱ケミカル株式会社製)43.5g(0.19mol)とPHEP(p-ヒドロキシフェネチルアルコール)3.06g(0.022mol、末端構造含有量5.0mol%)とハイドロサルファイト0.3gを溶解した。
【0086】
これにメチレンクロライド200mlを加えて撹拌しつつ、0.08gのベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(以下「TEBAC」と略称)を加え、さらに15~20℃に保ちながら、ついでホスゲン46.9gを約30分かけて吹き込んだ。
【0087】
ホスゲン吹き込み終了後、9w/w%の水酸化ナトリウム水溶液100ml追加し、激しく撹拌して、反応液を乳化させ、乳化後、0.5mlのトリエチルアミンを加え、20~30℃にて約1時間撹拌し、重合させた。
【0088】
重合終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液(水相)の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返した。得られた重合体溶液を、60℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。
【0089】
得られた沈殿物を濾過し、105℃、24時間乾燥して、重合体粉末を得た。
【0090】
得られたポリカーボネート樹脂(以下「PC-4」と略称)のMvは25,500、Mwは57,000(PS換算)、32,000(PC換算)であった。PC-4(10質量部)とHDI 1質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し10質量部)をトルエン55質量部に溶解して塗工溶液を作製し、実施例1と同様に評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは65,700(PS換算)、37,000(PC換算)であった。なお、乾燥させた工程により、樹脂組成物中のPHEP由来の末端水酸基と、HDI のイソシアネート基との反応によって架橋体が生じた。
【0091】
<実施例8>
PC-4(10質量部)とHDI0.01質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し0.1質量部)をトルエン55質量部に溶解して塗工溶液を作製し、実施例1と同様に評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは58,400(PS換算)、32,800(PC換算)であった。
【0092】
<実施例9>
HDIの使用量を0.8質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し8質量部)に変更した以外は実施例3と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。
【0093】
<比較例1>
HDIを用いずに塗工溶液を作製した以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0094】
<比較例2>
HDIを用いずに塗工溶液を作製した以外は、実施例3と同様に評価を行った。
【0095】
<比較例3>
BPCの代わりに1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(以下「BPAP」と略称:本州化学工業株式会社製)100.3g(0.35mol)を用い、PTBPの使用量を2.01g(0.013mol、末端構造含有量として3.9mol%)に変更した以外は、実施例1と同様に重合を行い、ポリカーボネート樹脂(Mv20,000、以下「PC-5」と略称)を得た。PC-5(10質量部)とHDI1質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し10質量部)とを、トルエン55質量部に溶解して塗工溶液を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0096】
<比較例4>
HDIの使用量を3質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し30質量部)に変更した以外は、比較例3と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。
【0097】
<比較例5>
BPCの代わりに1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以下「BPZ」と略称:本州化学工業株式会社製)100.5g(0.38mol)を用い、PTBPの使用量を1.13g(0.008mol、末端構造含有量として2.0mol%)に変更した以外は、実施例1と同様に重合を行い、ポリカーボネート樹脂(Mv32,500、以下「PC-6」と略称)を得た。PC-2の代わりにPC-6を用いた以外は、実施例4と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。
【0098】
<比較例6>
BPCの代わりに2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン(以下「MIBK」と略称:本州化学工業株式会社製)90.3g(0.33mol)を用い、PTBPの使用量を0.63g(0.004mol、末端構造含有量として1.3mol%)に変更した以外は、実施例1と同様に重合を行いポリカーボネート樹脂(Mv50,000、以下「PC-7」と略称)を得た。PC-1の代わりにPC-7を用いた以外は実施例1と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。
【0099】
下記表に、上記実施例及び比較例の塗工溶液の組成と、測定した剥離耐久性の結果を示す。
【0100】
【0101】
上記の通り、本発明の樹脂組成物は、コーティング被膜と基材との密着性を改善することができ、ポリカーボネート樹脂と他の樹脂とのブレンド樹脂組成物として有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の樹脂組成物は、物品を保護するコーティング樹脂溶液として用いることができる。特に、ICカードやセキュリティーカードのような日常生活における耐久性が求められる分野のコーティングに好適である。