(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子、及び蓄電装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20241210BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20241210BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20241210BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241210BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20241210BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20241210BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20241210BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M4/38 Z
H01G11/06
H01G11/60
H01G11/64
(21)【出願番号】P 2021545149
(86)(22)【出願日】2020-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2020028257
(87)【国際公開番号】W WO2021049178
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019165770
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】村松 弘将
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-016424(JP,A)
【文献】国際公開第2019/078159(WO,A1)
【文献】特開2006-318888(JP,A)
【文献】特開2008-147119(JP,A)
【文献】特開2018-181772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-0587
H01M 4/13-62
H01G 11/00-86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、正極と、非水電解質とを備え、
上記負極がリチウム金属を含む負極活物質層を有し、
上記非水電解質がフッ素化環状カーボネート、鎖状カーボネート及び硫黄系環状化合物を含有し、
上記非水電解質の全溶媒における上記フッ素化環状カーボネートの含有量が20体積%を超え
、
上記硫黄系環状化合物がスルトン構造を有する化合物及び下記式(1)で表される環状サルフェート構造を有する化合物を含む非水電解質蓄電素子。
(但し、上記非水電解質が環状のイミド塩と、ハロゲン原子を有する環状の炭酸エステル誘導体とを含むものを除く。)
【化1】
(上記式(1)中、R
1
及びR
2
は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1から3の炭化水素基である。)
【請求項2】
上記フッ素化環状カーボネートがフルオロエチレンカーボネートである請求項1に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子を複数個備えた蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子、及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
近年、非水電解質二次電池の高容量化に向けて、負極の高容量化が求められている。リチウム金属は、現在リチウムイオン二次電池の負極活物質として広く用いられている黒鉛と比較すると活物質質量あたりの放電容量が著しく大きい。このため、負極活物質として金属リチウムを用いた非水電解質二次電池が提案されている(特開2011-124154号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、負極にリチウム金属を用いた非水電解質二次電池は、体積増加が生じやすいという不都合を有する。これは、充放電中のリチウム金属負極の溶解析出に伴って、継続して生じる活性なリチウム金属上で非水電解質が継続的に還元分解され、分解生成物であるガスが蓄積されることに起因すると推測される。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、体積増加を抑制できる非水電解質蓄電素子、及び蓄電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一側面は、負極と、正極と、非水電解質とを備え、上記負極がリチウム金属を含む負極活物質層を有し、上記非水電解質がフッ素化環状カーボネート、鎖状カーボネート及び硫黄系環状化合物を含有し、上記非水電解質の全溶媒における上記フッ素化環状カーボネートの含有量が20体積%を超える非水電解質蓄電素子である。
【0008】
本発明の他の一側面は、前記非水電解質蓄電素子を複数個備えた蓄電装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、体積増加を抑制できる非水電解質蓄電素子、及び蓄電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、負極と、正極と、非水電解質とを備え、上記負極がリチウム金属を含む負極活物質層を有し、上記非水電解質がフッ素化環状カーボネート、鎖状カーボネート及び硫黄系環状化合物を含有し、上記非水電解質の全溶媒における上記フッ素化環状カーボネートの含有量が20体積%を超える非水電解質蓄電素子である。
【0012】
当該非水電解質蓄電素子によれば、上記非水電解質がフッ素化環状カーボネート、鎖状カーボネート及び硫黄系環状化合物を含有し、上記非水電解質の全溶媒における上記フッ素化環状カーボネートの含有量が20体積%を超えることで、当該非水電解質蓄電素子の体積増加を抑制できる。この理由は定かでは無いが、以下のように推測される。上述したように、負極にリチウム金属を用いた非水電解質二次電池の体積増加は、充放電中のリチウム金属を含む負極の溶解析出に伴って、継続して生じる活性なリチウム金属上で上記非水電解質が継続的に還元分解され、分解生成物であるガスが蓄積されることに起因すると推測される。すなわち、リチウム金属を用いた非水電解質二次電池においては、非水電解質とリチウム金属が接触すると、非水電解質が還元分解して、リチウム金属の表面に被膜が生成することによって、リチウム金属上で非水電解質がさらに連続的に還元分解されることが抑制される。しかしながら、充放電中にリチウム金属を含む負極が溶解析出すると、そのたびに被膜が生成されていない活性なリチウム金属が継続して生成する。従って、黒鉛等の炭素材料を負極活物質とする負極の場合とは異なり、負極にリチウム金属を用いた非水電解質二次電池の場合は、上記リチウム金属上で上記非水電解質が還元分解される反応は継続的に起こり、分解生成物であるガスの発生も連続的なものである。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、上記非水電解質に含有される上記フッ素化環状カーボネートの含有量が、全溶媒に対して20体積%を超えることで、リチウム金属上に還元分解されにくい被膜が速やかに生成し、リチウム金属上で非水電解質が連続的に還元分解されることが抑制され、分解生成物であるガスの発生量が低減される。さらに、添加剤として含有される硫黄系環状化合物により、リチウム金属上において適切な電位で上記硫黄系環状化合物の分解反応が生じるので、リチウム金属上にさらに還元分解されにくい被膜が速やかに生成し、上記ガスの発生が抑制される。従って、上記フッ素化環状カーボネートと硫黄系環状化合物とを組合せることにより、当該非水電解質蓄電素子の体積増加を抑制することができると考えられる。
【0014】
また、上記フッ素化環状カーボネートの含有量が、全溶媒に対して20体積%を超えることにより、充放電の繰り返しに伴ってリチウム金属上に堆積する充放電反応に関与しない不活性なリチウムデンドライトの量が効果的に低減されることで、リチウム金属を含む負極が不活性となることが抑制される。従って、当該非水電解質蓄電素子の体積増加に対する抑制効果に加えて充放電サイクルにともなう放電容量維持率も高めることができる。
【0015】
上記フッ素化環状カーボネートがフルオロエチレンカーボネートであることが好ましい。上記フルオロエチレンカーボネートは耐酸化性が高く、非水電解質蓄電素子の充放電時に生じうる副反応(非水溶媒等の酸化分解等)を抑制すること等ができる。また、フルオロエチレンカーボネートは比較的貴な電位で還元分解することで、リチウム金属上に速やかに安定な被膜を生成することから、リチウム金属上での継続的な非水電解質の還元分解を抑制することができる。従って、上記フッ素化環状カーボネートがフルオロエチレンカーボネートであることで、非水電解質蓄電素子の体積増加に対する抑制効果をより高めることができる。
【0016】
上記非水電解質は、上記硫黄系環状化合物がスルトン構造又は環状サルフェート構造を有する化合物であることが好ましい。上記硫黄系環状化合物が上記構造を有することにより、フルオロエチレンカーボネートなどのフッ素化環状カーボネートの分解する電位より貴な電位で上記硫黄系環状化合物の分解反応が生じ、この反応で生じる分解物によってリチウム金属表面へより安定な被膜が形成される。従って、上記硫黄系環状化合物がスルトン構造又は環状サルフェート構造を有する化合物であることで、非水電解質蓄電素子の体積増加に対する抑制効果をより高めることができる。
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子について詳説する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0018】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、負極と、正極と、非水電解質とを備える。以下、非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に非水電解質が充填される。上記非水電解質二次電池においては、非水電解質として、上述の非水電解質が用いられている。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、非水電解質二次電池のケースとして通常用いられる公知の金属ケース、樹脂ケース等を用いることができる。
【0019】
[負極]
負極は、負極基材と、上記負極基材の少なくとも一方の面に直接又は間接に積層される負極活物質層とを備える。負極は、負極基材と負極活物質層との間に配される中間層を備えていてもよい。
【0020】
(負極基材)
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H0505(1975)に準拠して測定される体積抵抗率が1×107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が1×107Ω・cm超であることを意味する。
【0021】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、非水電解質二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。「基材の平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいう。
【0022】
(負極活物質層)
上記負極活物質層は、負極活物質としてリチウム金属を含む。負極活物質がリチウム金属を含むことで活物質質量あたりの放電容量を向上できる。上記リチウム金属には、リチウム単体の他、リチウム合金が含まれる。リチウム合金としては、例えば、リチウムアルミニウム合金等が挙げられる。リチウム金属を含む負極は、リチウム金属を所定の形状に切断するか、所定の形状に成形することにより製造できる。
【0023】
さらに、負極活物質層は、Na、K、Ca、Fe、Mg、Si、N等の元素を含有してもよい。
【0024】
上記負極活物質に占めるリチウム金属の含有量の下限としては、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限は、100質量%であってよい。
【0025】
[正極]
正極は、正極基材と、正極活物質層とを有する。上記正極活物質層は、正極活物質を含有する。上記正極活物質層は、上記正極基材の少なくとも一方の面に沿って直接又は中間層を介して積層される。
【0026】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H4000(2014)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0027】
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0028】
上記正極活物質としては、例えば、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β≦1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。ただし、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いる場合、他の正極活物質と比べて体積増加に対する抑制効果が低くなることがある。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。正極活物質層中の正極活物質の含有量は特に限定されないが、その下限としては、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量%がより好ましい。
【0029】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛化炭素、非黒鉛化炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛化炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0030】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0031】
上記バインダーとしては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。正極活物質層におけるバインダーの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。
【0032】
上記増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0033】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0034】
上記中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。負極と同様、中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0035】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒、並びにこの非水溶媒に溶解している硫黄系環状化合物及び電解質塩を含有する。上記非水溶媒は、フッ素化環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含む。なお、上記非水電解質は、液体に限定されるものではない。すなわち、上記非水電解質は、液体状のものだけに限定されず、固体状やゲル状のもの等も含まれる。
【0036】
(非水溶媒)
上記非水溶媒は、フッ素化環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含む。
【0037】
上記非水溶媒は、鎖状カーボネートを用いることで、非水電解質の粘度を低く抑えることができる。上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC)、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等を挙げることができる。
【0038】
上記非水溶媒に占める上記鎖状カーボネートの含有量の下限としては、30体積%が好ましく、40体積%がより好ましく、50体積%がさらに好ましい。一方、この上限としては、80体積%が好ましく、70体積%がより好ましい。鎖状カーボネートの含有量を上記範囲とすることにより、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル性能をより改善することなどができる。
【0039】
上記非水電解質の全溶媒における上記フッ素化環状カーボネートの含有量は、20体積%を超える。一方、上記フッ素化環状カーボネートの含有量の上限としては、70体積%が好ましく、50体積%がより好ましい。上記非水電解質に含有される上記フッ素化環状カーボネートの含有量が、上記範囲であることで、リチウム金属上で非水電解質が連続的に還元分解されることが抑制され、分解生成物であるガスの発生量が低減される。また、リチウム金属上に堆積する充放電反応に関与しない不活性なリチウムデンドライトの量が効果的に低減されることで、充放電サイクルにともなう放電容量維持率も高めることができる。
【0040】
上記フッ素化環状カーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート等のフッ素化エチレンカーボネート、フッ素化プロピレンカーボネート、フッ素化ブチレンカーボネート等を挙げることができる。これらの中でも、フッ素化エチレンカーボネートが好ましく、フルオロエチレンカーボネートがより好ましい。上記フルオロエチレンカーボネートは耐酸化性が高く、非水電解質蓄電素子の充放電時に生じうる副反応(非水溶媒等の酸化分解等)の抑制効果が高い。また、フルオロエチレンカーボネートは比較的貴な電位で還元分解することで、リチウム金属上に速やかに安定な被膜を生成することから、リチウム金属上での継続的な非水電解質の還元分解を抑制することができる。従って、フッ素化環状カーボネートがフルオロエチレンカーボネートであることで、非水電解質蓄電素子の体積増加に対する抑制効果をより高めることができる。上記フッ素化環状カーボネートは、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
上記非水溶媒は、フッ素化環状カーボネート及び鎖状カーボネート以外の有機溶媒を含有してもよい。他の有機溶媒としては、フッ素化環状カーボネート以外の環状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。また、添加剤として含有する硫黄系環状化合物以外に、非水溶媒としてスルホン、サルファイト等の硫黄を含む有機溶媒を含有してもよい。
【0042】
上記フッ素化環状カーボネート以外の環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができる。また、上記エステルとしては、例えば3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル(FMP)等を挙げることができる。上記スルホンとしては、スルホラン(SL)、エチルイソプロピルスルホン(EiPSO2)、エチルメチルスルホン(EMSO2)等を挙げることができる。上記サルファイトとしては、例えばジエチルサルファイト(DES)、ジメチルサルファイト(DMS)等を挙げることができる。
【0043】
(硫黄系環状化合物)
当該非水電解質蓄電素子の非水電解質は、添加剤として硫黄系環状化合物を含有する。上記非水電解質が添加剤として硫黄系環状化合物を含有することで、リチウム金属上において適切な電位で上記硫黄系環状化合物の分解反応が生じる。従って、上記非水電解質の分解生成物であるガスの発生量が低減され、当該非水電解質蓄電素子の体積増加を抑制できる。
【0044】
上記硫黄系環状化合物としては、例えばスルトン構造を有する化合物、環状サルフェート構造を有する化合物、スルホン、サルファイト等が挙げられる。これらの中でもスルトン構造又は環状サルフェート構造を有する化合物であることが好ましい。上記硫黄系環状化合物が上記構造を有することにより、適切な電位で分解反応が生じ、この反応で生じる分解物によってリチウム金属表面へ効果的に被膜が形成される。従って、非水電解質蓄電素子の体積増加に対する抑制効果をより高めることができる。上記硫黄系環状化合物は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
上記スルトン構造を有する化合物としては、例えば1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン等が挙げられる。
【0046】
上記環状サルフェート構造を有する化合物としては、例えばエチレンサルフェート、1,3-プロピレンサルフェート、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、下記式(1)で表される硫酸エステル化合物等が挙げられる。
【0047】
【0048】
式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1から3の炭化水素基である。
【0049】
上記炭素数1から3の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はi-プロピル基であるアルキル基や、ビニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。
【0050】
上記R1としては、水素原子が好ましい。
【0051】
上記R2としては、炭素数1から3の炭化水素基が好ましく、炭素数1から3のアルキル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0052】
上記非水電解質における上記硫黄系環状化合物の含有量の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.3質量%がより好ましく、0.5質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。上記硫黄系環状化合物の含有量を上記下限以上及び上記上限以下とすることで、当該非水電解質蓄電素子の体積増加に対する抑制効果をより高めることができる。なお、上記硫黄系環状化合物の含有量が10質量%未満である場合、上記硫黄系環状化合物は上記非水電解質に上記添加剤として含有されるものとし、10質量%以上である場合、上記硫黄系環状化合物は上記非水電解質に上記非水溶媒として含有されるものとする。
【0053】
(電解質塩)
上記電解質塩としては、一般的な非水電解質蓄電素子の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0054】
上記リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0055】
上記非水電解質における上記電解質塩の含有量の下限としては、0.1mol dm-3が好ましく、0.3mol dm-3がより好ましく、0.5mol dm-3がさらに好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、3mol dm-3が好ましく、2mol dm-3がより好ましい。
【0056】
(その他の添加剤等)
上記非水電解質は、本発明の効果を阻害しない限り、上記硫黄系環状化合物と上記電解質塩とを除くその他の添加剤を含有していてもよい。上記その他の添加剤としては、一般的な非水電解質蓄電素子に含有される各種添加剤を挙げることができる。上記非水電解質におけるその他の添加剤の合計含有量としては、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましいこともある。
【0057】
上記非水電解質は、通常、上記非水溶媒に、上記硫黄系環状化合物、電解質塩等の各成分を添加し、溶解させることにより得ることができる。
【0058】
[セパレータ]
上記セパレータとしては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0059】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が配設されていてもよい。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダーとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。
【0060】
[蓄電素子の具体的構成]
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1(非水電解質二次電池)の概略図を示す。なお、同図は、ケース3の内部を透視した図としている。
図1に示す非水電解質蓄電素子1は、電極体2がケース3に収納されている。電極体2は、正極活物質層を備える正極と、負極活物質層を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極集電体4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極集電体5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、ケース3には、非水電解質が注入されている。
【0061】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。
【0062】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本実施に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば電極体を準備する工程と、非水電解質を準備する工程と、電極体及び非水電解質をケースに収容する工程と、を備える。電極体を準備する工程は、正極及び負極を準備する工程と、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより電極体を形成する工程を備える。
【0063】
上記非水電解質をケースに収容する工程では、公知の方法から適宜選択できる。例えば、液状の非水電解質(「電解液」ともいう)を用いる場合、ケースに形成された注入口から電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。当該製造方法によって得られる蓄電素子を構成するその他の各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0064】
[その他の実施形態]
なお、本発明に係る非水電解質蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0065】
上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の蓄電素子であってもよい。その他の蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。非水電解質二次電池としては、リチウムイオン非水電解質二次電池が挙げられる。
【0066】
本発明の一実施形態に係る蓄電装置は、上記実施の形態に係る非水電解質蓄電素子を複数備える(以下、「第二の実施形態」という。)。また、上記実施の形態に係る非水電解質蓄電素子(セル)を単数又は複数個用いることにより組電池を構成することができ、さらにこの組電池を用いて第二の実施形態に係る蓄電装置を構成することができる。第二の実施形態に係る蓄電装置は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として用いることができる。さらに、上記蓄電装置は、エンジン始動用電源装置、補機用電源装置、無停電電源装置(UPS)等の種々の電源装置に用いることができる。
【0067】
図2に、電気的に接続された二以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した第二の実施形態に係る蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の非水電解質蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0068】
(非水電解質蓄電素子の体積測定)
本願明細書において、非水電解質蓄電素子の体積測定は次の方法にて行う。25℃にて、イオン交換水500mlを入れたビーカーの質量W1を記録する。次に、測定対象の非水電解質蓄電素子を吊るした状態で上記イオン交換水中に浸漬させる。このとき、上記非水電解質蓄電素子全体が浸漬し、且つ、上記非水電解質蓄電素子が上記ビーカーの底面や側面に接触しないように位置を調整する。このときの質量W2を記録する。上記質量の差分(W2-W1)を25℃の水の密度で除することによって非水電解質蓄電素子の体積を求める。
【実施例】
【0069】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
実施例及び比較例で用いた各添加剤を以下に示す。
(1)1,3-プロペンスルトン
(2)4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)
(3)下記式(A)で表される硫酸エステル化合物(A)
【0071】
【0072】
(4)リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiDFOB)
(5)ビニレンカーボネート
(6)リチウムジフルオロホスフェート(LiDFP)
【0073】
[実施例1]
(非水電解質の調製)
フルオロエチレンカーボネート(FEC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)がFEC:EMC=30:70の体積比で混合された混合溶媒にLiPF6を1mol dm-3の濃度で溶解させた溶液を作製した。さらに1,3-プロペンスルトンを上記溶液に対して2質量%添加し、非水電解質とした。
【0074】
(正極の作製)
正極活物質として、α―NaFeO2型結晶構造を有し、Li1+αMe1-αO2(Meは遷移金属)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いた。ここで、LiとMeのモル比Li/Meは1.33であり、Meは、Ni及びMnからなり、Ni:Mn=1:2のモル比で含んでいる。
【0075】
N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とし、上記正極活物質、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)を94:4.5:1.5の質量比率で含有する正極ペーストを作製した。正極基材である厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に、上記正極ペーストを塗布し、乾燥し、プレス後、切断し、幅30mm、長さ40mmの矩形状に正極活物質層が配置された正極を作製した。正極活物質層の厚さは約100μmであり、正極合剤が単位面積あたり14mg/cm2含まれる。上記正極は、120℃で14時間以上減圧乾燥して用いた。
【0076】
(負極の作製)
幅30mm、長さ42mm、厚さ600μmのリチウム金属板を負極板とした。上記リチウム金属板は、金属樹脂複合フィルムを介して1.4MPaの圧力でプレスされ、金属光沢を有していた。また、上記リチウム金属板には、長さ5mmの端部のみにステンレス鋼製の負極基材を接続した。
【0077】
(非水電解質蓄電素子の作製)
ポリアクリレートで表面改質した厚さ27μmのポリプロピレン製微孔膜をセパレータとして用いた。上記セパレータを4枚重ね合わせ、一辺を残して周囲を融着することで、3箇所の袋部を備えた袋状セパレータを作製した。上記袋状セパレータの中央の袋部に、上記負極を挿入し、その両側の袋部に、2枚の上記正極をそれぞれ正極活物質層が配置された面が負極と対向するように挿入した。このようにして、正負極の対向面を2面備えた積層型電極群を作製した。
【0078】
ケースである金属樹脂複合フィルムに、あらかじめ上記正極及び負極にそれぞれ接続したリード端子の開放端部が外部露出するように、上記電極群を収納し、注液孔となる部分を除いて封止し、上記非水電解質を注液後、注液孔を気密封止した。このようにして、非水電解質蓄電素子を作製した。
ここで、負極の単位面積あたりの容量は、対向する正極の単位面積あたりの容量の約15倍である。
【0079】
[実施例2から実施例9及び比較例1から比較例8]
用いた溶媒及び添加剤の種類及び量を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2から実施例9及び比較例1から比較例8の非水電解質蓄電素子を得た。なお、以下、表中「-」は、相当する添加剤を用いていないことを示す。
【0080】
[参考例1から参考例3]
負極活物質として、黒鉛を用いた。質量比で、黒鉛:スチレンブタジエンゴム:カルボキシメチルセルロース=96.7:2.1:1.2の割合(固形分換算)で含み、水を分散媒とする負極ペーストを作製した。この負極ペーストを、負極合剤が単位面積あたり10mg/cm2含まれるように、負極基材としての帯状の銅箔集電体の両面に塗布し、乾燥した。これをローラープレス機により加圧して負極活物質層を成型した後、80℃で14時間減圧乾燥して、負極中の水分を除去した。このようにして得た負極を用い、用いた溶媒及び添加剤の種類及び量を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、参考例1から参考例3の非水電解質蓄電素子を得た。
得られた各非水電解質蓄電素子について、上記の方法を用いて、初回充放電前の体積を測定した。
【0081】
(初回充放電)
得られた各非水電解質蓄電素子について、以下の条件にて初回充放電を行った。25℃で4.60Vまで充電電流0.1Cで定電流充電したのちに、4.60Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。充電後に10分間の休止を設けた後に、25℃で2.00Vまで放電電流0.1Cで定電流放電した。
【0082】
(初期容量確認試験)
初回充放電後、以下の条件にて初期容量確認試験を行った。25℃で4.60Vまで充電電流0.1Cで定電流充電したのちに、4.60Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。充電後に10分間の休止を設けたのちに、25℃で2.00Vまで放電電流1.0Cで定電流放電した。この試験で得られた放電容量を「初期放電容量」とした。
【0083】
また、参考例1から参考例3の負極活物質として黒鉛を用いた負極については、25℃で4.50Vまで充電電流0.1Cで定電流充電したのちに、4.50Vで定電圧充電した以外は上記と同様に初回充放電及び初期容量確認試験を行った。
【0084】
(充放電サイクル試験)
次いで、以下の充放電サイクル試験を行った。25℃において、充電電流0.33C、充電終止電圧4.60Vとして定電流定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流0.33C、放電終止電圧2.00Vとして定電流放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。この充放電を50サイクル実施した。
【0085】
また、参考例1から参考例3の負極活物質として黒鉛を用いた非水電解質蓄電素子については、上記初期容量確認試験および充放電サイクル試験の充電終止電圧は、4.50Vである。
【0086】
その後、初期容量確認試験と同様の方法にて、充放電サイクル試験後の放電容量確認試験を行った。この試験で得られた放電容量を充放電サイクル後の放電容量とした。初期放電容量に対する充放電サイクル試験後の放電容量の百分率を「50サイクル後容量維持率」とした。また、放電を終了した状態にある上記容量確認試験後の各非水電解質蓄電素子について、上記の方法を用いて、体積を測定し、初回充放電前の体積との差を算出し、体積増加量とした。
初期放電容量、50サイクル後放電容量維持率、及び体積増加量を表1に示す。
【0087】
【0088】
上記表1に示されるように、上記非水電解質の全溶媒における上記フッ素化環状カーボネートの含有量が20体積%を超え、且つ、硫黄系環状化合物を添加剤として含有する非水電解質を用いた実施例1から実施例9に係る非水電解質蓄電素子は、体積増加に対する抑制効果が高いことが確認された。
【0089】
これに対し、上記フッ素化環状カーボネートの含有量が20体積%以下であるか、又は、硫黄系環状化合物を含有しない非水電解質を用いた比較例1から比較例8に係る非水電解質蓄電素子は、体積増加に対する抑制効果が劣っていた。このことから、非水電解質の全溶媒における上記フッ素化環状カーボネートの含有量が20体積%を超えること、及び、硫黄系環状化合物を添加剤として含有すること、の両方を組み合わせることによって、初めて、リチウム金属を含む負極活物質層を有する負極を備えた非水電解質蓄電素子の充放電サイクルにおける体積増加に対する抑制効果が向上することがわかる。
【0090】
次に、50サイクル後放電容量維持率について、実施例1と、比較例1、比較例2、比較例5、及び比較例6とを対比すると、非水電解質の全溶媒における上記フッ素化環状カーボネートの含有量が20体積%を超えることにより、50サイクル後放電容量維持率が向上することがわかる。
【0091】
一方、負極活物質として黒鉛を用いた参考例1から参考例3においては、参考例2と参考例3を比べてわかるように、非水電解質の全溶媒における上記フッ素化環状カーボネートの含有量が20体積%を超えることと、硫黄系環状化合物を添加剤として含有することとを組み合わせることによる体積増加に対する抑制効果が小さかった。
【0092】
さらに、上記非水電解質の全溶媒における上記フッ素化環状カーボネートの含有量が20体積%を超え、且つ、硫黄系環状化合物を添加剤として含有する非水電解質を用いた参考例3及び実施例1と、卑な電位で分解されやすいことが知られているビニレンカーボネート及びLiDFPを添加剤として用いた参考例1及び比較例4とを対比すると、負極活物質としてリチウム金属を用いた比較例4は、実施例1と比較して体積増加に対する抑制効果が得られなかったのに対し、負極活物質として黒鉛を用いた参考例1は、参考例3と比較して体積増加に対して高い抑制効果が得られた。このことから、負極活物質として黒鉛を含む負極活物質層を有する負極を備える非水電解質蓄電素子と、リチウム金属を含む負極活物質層を有する負極を備える非水電解質蓄電素子とでは、充放電サイクルにおける体積増加の抑制効果の作用機構が大きく異なることが示唆される。これは、負極活物質として黒鉛を含む負極活物質層を有する負極を備える非水電解質蓄電素子においては、初回充電時に黒鉛上に形成されたビニレンカーボネートやLiDFP由来の被膜が充放電サイクルにおいても継続的に安定に存在し、非水電解質の電気化学的な還元分解による連続的なガスの発生を抑制するため、非水電解質蓄電素子の体積増加を抑制することができるのに対し、負極活物質としてリチウム金属を含む負極活物質層を有する負極を備える非水電解質蓄電素子においては、充放電サイクルにおいて生成する活性なリチウム金属上でのビニレンカーボネートやLiDFP由来の被膜の形成が遅いため、リチウム金属上での非水電解質の還元分解による連続的なガスの発生が起こり、これが体積増加の主な原因であることと関連していると考えられる。
【0093】
以上の結果、当該非水電解質蓄電素子は、リチウム金属を含む負極活物質層を有する負極を備える非水電解質蓄電素子の充放電サイクルにおける体積増加に対する抑制効果に優れること、また、この効果は、負極活物質としてリチウム金属を含有する負極に対して選択的に効果を奏する特有の作用機構に基づくものであることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される非水電解質蓄電素子及び蓄電装置に適用できる。
【符号の説明】
【0095】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 ケース
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置