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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】アクリルエマルジョン
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/10 20060101AFI20241210BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20241210BHJP
   C08J 3/16 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C08F220/10
C08L33/04
C08J3/16 CEY
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021551262
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2020036687
(87)【国際公開番号】W WO2021065823
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2019180087
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】三木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】北川 紀樹
(72)【発明者】
【氏名】内藤 雅嗣
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/143101(WO,A1)
【文献】特開平04-120167(JP,A)
【文献】特開2004-346235(JP,A)
【文献】特開2016-186081(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181897(WO,A1)
【文献】特開2006-233145(JP,A)
【文献】特開2001-031938(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107778403(CN,A)
【文献】特開2010-097830(JP,A)
【文献】特開2010-098186(JP,A)
【文献】特開2010-171212(JP,A)
【文献】特開2011-076917(JP,A)
【文献】特開2011-204704(JP,A)
【文献】特開2009-126872(JP,A)
【文献】特開平11-080485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08L
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルゴムを製造するためのアクリルエマルジョンであって、
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位と架橋基を有する不飽和単量体由来の構成単位を含有し、動的光散乱法で測定された体積基準の粒度分布において、累積50%に相当する平均粒子径(D50)が150nm~300nmのアクリル系微粒子であるアクリル系ポリマーを含有し、
前記架橋基は、ハロゲン基、エポキシ基、及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1種である、アクリルエマルジョン。
【請求項2】
請求項1に記載のアクリルエマルジョンを凝固剤により凝固して凝固スラリーを得る工程と、
前記凝固スラリーを乾燥させることによりアクリルゴムを得る工程と、
を備える、アクリルゴムの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のアクリルゴムに架橋剤を配合する工程をさらに含む、アクリルゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のアクリルゴム組成物を架橋する工程をさらに含む、アクリルゴム架橋物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルゴムを製造するためのアクリルエマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アクリルゴムは、アクリル酸エステルを主原料とする重合体であり、耐久性に関する諸物性に優れた材料として知られ、エンジンガスケット、オイルホース、エアホース、Oリングなどの工業用ゴム材料や自動車用ゴム材料として広汎に用いられている。
【0003】
アクリルゴムは、単量体を乳化重合することにより乳化重合液を得る工程、乳化重合液に凝固剤により凝固させる工程、凝固させ得られる凝固スラリーを乾燥させる工程を経ることにより得られる。
【0004】
アクリルゴムの製造方法においては、各工程の製造条件が検討されている(特許文献1参照)。しかし、アクリルゴムを製造するための単量体を乳化重合することにより得られる乳化重合液(アクリルエマルジョン)に関してはあまり検討がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2018/147142
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、凝固性(塩析性)に優れ、安定性に優れたエマルジョンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題に関して種々検討を行った結果、アクリルゴムの製造における、単量体を乳化重合する工程において、平均粒子径が150nm~300nmであるアクリル系ポリマーを含有するアクリルエマルジョンとすることにより、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0008】
本発明の態様は次のとおりである。
項1 (メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位と架橋基を有する不飽和単量体由来の構成単位を含有し、平均粒子径が150nm~300nmであるアクリル系ポリマーを含有するアクリルエマルジョン。
項2 項1記載のアクリルエマルジョンを用いて作製されるアクリルゴム。
項3 項2記載のアクリルゴムと架橋剤を含有するアクリルゴム含有組成物。
項4 項3記載のアクリルゴム含有組成物を用いて作製されるアクリルゴム架橋物。
項5 項1に記載のアクリルエマルジョンを凝固剤により凝固して凝固スラリーを得る工程と、
前記凝固スラリーを乾燥させることによりアクリルゴムを得る工程と、
を備える、アクリルゴムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エマルジョンにおけるアクリル系ポリマーの平均粒子径を150nm~300nmに収めることにより、アクリルゴムの製造における凝固性に優れ、エマルジョンの安定性に優れるため、製造工程における送液時の安定性に優れたエマルジョンとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
アクリルエマルジョン
本発明のアクリルエマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位と架橋基を有する不飽和単量体由来の構成単位を含有するアクリル系ポリマーであって、平均粒子径が150nm~300nmであるアクリル系ポリマー(アクリル系微粒子)を水に分散させたものである。「平均粒子径」とは、光散乱法で測定された体積基準の粒度分布において、累積50%に相当する粒子径(D50粒径)をいう。平均粒子径の測定は動的光散乱法により測定することができ、動的光散乱装置(「ゼータサイザ-ナノS」等)を例示することができる。
【0011】
本発明のアクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位と架橋基を有する不飽和単量体由来の構成単位を含有する。
【0012】
前記(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構成単位を例示することができ、炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位、炭素数2~8のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸アルコキシエステルに由来する構成単位であることが好ましく、炭素数2~6のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位及び/又は炭素数2~6のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構成単位を有することがより好ましく、炭素数2~4のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位及び/又は炭素数2~4のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構成単位を有することが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位は、単独または2種以上の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位であってよい。
【0013】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステルを例示することができ、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチルであることが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸4-エトキシブチル等の(メタ)アクリル酸エステルを例示することができ、(メタ)アクリル酸メトキシエチルであることが好ましい。
【0014】
本発明のアクリルゴムにおける、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の含有量は、アクリルゴムの全構成単位において、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましく、上限は99.5質量%以下であることが好ましく、99質量%以下であることがより好ましく、98.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0015】
本発明のアクリル系ポリマーにおいては、架橋基を有する不飽和単量体由来の構成単位を含有する。架橋基を有する不飽和単量体由来の構成単位としては、ハロゲン基(例えば、塩素基など)を有する不飽和単量体由来の構成単位、カルボキシ基を有する不飽和単量体由来の構成単位、エポキシ基を有する不飽和単量体由来の構成単位を例示することができ、ハロゲン基(特に塩素基)、カルボキシル基を有する不飽和単量体を有する不飽和単量体由来の構成単位が特に好ましい。
【0016】
ハロゲン基を有する不飽和単量体としては、例えば、2-クロロエチルビニルエーテル、2-クロロエチルアクリレート、ビニルベンジルクロライド、モノクロロ酢酸ビニル、アリルクロロアセテートなどが挙げられる。
【0017】
カルボキシ基を有する不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、2-ペンテン酸、桂皮酸などの不飽和モノカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などの無水カルボン酸、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノn-ブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノ2-エチルヘキシル、マレイン酸モノn-ブチルなどのブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシルなどのブテンジオン酸モノ環状アルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノn-ブチル、イタコン酸モノシクロヘキシルなどのイタコン酸モノエステル;などが挙げられる。この中でも、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノブチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノブチルなどの不飽和ジカルボン酸モノエステルなどが挙げられる。
【0018】
エポキシ基を有する不飽和単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0019】
アクリル系ポリマー中の架橋基を有する不飽和単量体由来の構成単位の含有割合は、アクリル系ポリマーの全構成単位において、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましく、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。架橋基を有する不飽和単量体由来の構成単位が上記の範囲であることにより、製造されるアクリルゴムの強度や圧縮永久歪性等の物性、及び加工性の点で好ましい。
【0020】
さらに本発明のアクリル系ポリマーは、上記の構成単位以外に、これらと共重合可能なその他の単量体に由来する構成単位を含有してもよい。その他の構成単位としては、エチレン性不飽和ニトリルに由来する構成単位、(メタ)アクリルアミド系モノマーに由来する構成単位、芳香族ビニル系モノマーに由来する構成単位、共役ジエン系モノマーに由来する構成単位、非共役ジエン類に由来する構成単位、その他のオレフィンに由来する構成単位等が挙げられる。
【0021】
エチレン性不飽和ニトリルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-メトキシアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等の化合物が挙げられる。
【0022】
(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、N-ブトキシメチルメタクリルアミド、N-ブトキシエチルアクリルアミド、N-ブトキシエチルメタクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-プロピオキシメチルアクリルアミド、N-プロピオキシメチルメタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、エタクリルアミド、クロトンアミド、ケイ皮酸アミド、マレインジアミド、イタコンジアミド、メチルマレインアミド、メチルイタコンアミド、マレインイミド、イタコンイミド等の化合物が挙げられる。
【0023】
芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、p-エチルスチレン、α-フルオロスチレン、p-トリフルオロメチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-アミノスチレン、p-ジメチルアミノスチレン、p-アセトキシスチレン、スチレンスルホン酸あるいはその塩、α-ビニルナフタレン、1-ビニルナフタレン-4-スルホン酸あるいはその塩、2-ビニルフルオレン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ビニルベンジルクロライド等の化合物が挙げられる。
【0024】
共役ジエン系モノマーとしては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,2-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-ネオペンチル-1,3-ブタジエン、2-ブロモ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、クロロプレン、ピぺリレン等の化合物が挙げられる。
【0025】
また、非共役ジエン類に由来する構成単位としては、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン等の非共役ジエン類の化合物に由来する構成単位が挙げられる。
【0026】
その他のオレフィン系モノマーとしては、アクリル酸ジシクロペンタジエニル、メタクリル酸ジシクロペンタジエニルメタクリレート、アクリル酸ジシクロペンタジエニルエチル、メタクリル酸ジシクロペンタジエニルエチル等のエステル類、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、1,2-ジクロロエチレン、酢酸ビニル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、1,2-ジフルオロエチレン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、1,2-ジブロモエチレン、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等の化合物が挙げられる。
【0027】
本発明のアクリル系ポリマーにおいて、これらの共重合可能なその他の単量体に由来する構成単位を含有させる場合には、全構成単位における含有量は通常0~45質量%であり、0~20質量%であることが好ましい。
【0028】
本発明のアクリルエマルジョンにおける、アクリル系ポリマーを分散させる水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。その具体例としては水道水、純水、蒸留水、イオン交換水、及び超純水などが挙げられる。
【0029】
本発明のアクリルエマルジョンにおけるアクリル系ポリマーの含有量は水以外の固形分(以下、単に「固形分」ということがある。)において、固形分濃度が5~80質量%となるように含有することが好ましく、10~70質量%となるように含有することがより好ましく、15~60質量%となるように含有することが特に好ましい。
【0030】
本発明のアクリルエマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステル(モノマー)と架橋基を有する不飽和単量体を乳化重合する際に得られる乳化重合液を用いることができる。
【0031】
本発明のアクリルエマルジョンを乳化重合液として得る場合には、単量体を乳化重合すること(乳化重合工程とも記載する)により得ることができ、乳化重合に用いられる乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤、重合停止剤等は一般的に使用される従来公知のものが使用できる。
【0032】
乳化剤は特に限定されず、乳化重合法において一般的に用いられるノニオン性乳化剤およびアニオン性乳化剤等を使用することができる。ノニオン乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等があげられ、アニオン性乳化剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルまたはその塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステルまたはその塩、脂肪酸塩等があげられ、塩としては、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属、アンモニア、アミン類などが挙げられる。これらを1種または2種以上用いてもよい。
【0033】
乳化剤の使用量は乳化重合法において一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みの単量体量に対して、0.01~10質量%の範囲であり、好ましくは0.03~7質量%、更に好ましくは0.05~5質量%である。単量体成分として、反応性界面活性剤を用いる場合は、乳化剤の添加は必ずしも必要でない。
【0034】
重合開始剤は特に限定されず、乳化重合法において一般的に用いられる重合開始剤を使用することができる。その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩に代表される無機系重合開始剤、2,2-ジ(4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、1-ジ-(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ-(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)吉草酸n-ブチル、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジコハク酸パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ベンゾイル(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカネート、t-ヘキシルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサネート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン等の有機過酸化物系の重合開始剤、ハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、4-4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2-2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン、2-2’-アゾビス(プロパン-2-カルボアミジン)2-2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロパンアミド、2-2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}、2-2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)および2-2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド}などのアゾ系開始剤等が挙げられる。これら重合開始剤は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0035】
重合開始剤の使用量は乳化重合法において一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みの単量体量に対して、0.01~5質量%の範囲であり、好ましくは0.01~4質量%、更に好ましくは0.02~3質量%である。
【0036】
また、重合開始剤としての有機過酸化物および無機過酸化物は、還元剤と組み合わせることにより、レドックス系重合開始剤として使用することができる。組み合わせて用いる還元剤としては、特に限定されないが、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物、メタンスルホン酸ナトリウム等のメタン化合物、ジメチルアニリン等のアミン化合物、アスコルビン酸およびその塩、亜硫酸およびチオ硫酸のアルカリ金属塩などの還元性を有する無機塩などが挙げられる。これらの還元剤は単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。還元剤の使用量は、仕込みモノマー100質量部に対して好ましくは0.0001~10.0質量部である。
【0037】
分子量調整剤は、必要に応じて用いることができる。分子量調整剤の具体例としては、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-メチル-2-ペンテン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、ターピノレン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α-ベンジルオキシスチレン、α-ベンジルオキシアクリロニトリル、α-ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-エチルヘキシルチオグリコレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いてもよい。これらの分子量調整剤の量は特に限定されないが、通常、仕込みモノマー量100質量部に対して0~5質量部にて使用される。
【0038】
重合停止剤としては、例えば、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン硫酸塩、ジエチルヒドロキシアミン、ヒドロキシアミンスルホン酸およびそのアルカリ金属塩、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウムおよびヒドロキノンなどのキノン化合物などが挙げられる。重合停止剤の使用量は、特に限定されないが、通常、全単量体100質量部に対して、0~2質量部である。
【0039】
これ以外にも必要に応じて、粒径調整剤、キレート化剤、酸素捕捉剤等の重合副資材を使用することができる。
【0040】
乳化重合は、回分式、半回分式、連続式のいずれでもよい。重合時間および重合温度は特に限定されない。使用する重合開始剤の種類等から適宜選択できるが、一般的に、重合温度は10~100℃であり、重合時間は0.5~100時間である。
【0041】
アクリル系ポリマーの粒子径の調整方法は特に限定されないが、乳化剤の種類・量、水とモノマーの割合、重合時の撹拌条件等により調整することができる。
【0042】
本発明のアクリルエマルジョンの粘度(25℃環境)は、凝固性(塩析性)及び安定性に優れることから、好ましくは7.0~20.0mPa・s、より好ましくは7.5~15.0mPa・sである。アクリルエマルジョンの粘度は、JIS K7117-1に従い、23℃環境において、市販の回転粘度計(例えば、英弘精機株式会社製、Brookfield)にて、LV-1スピンドルを用いて、回転数30rpmで測定される値である。
【0043】
本発明のアクリルエマルジョンを凝固剤により凝固して凝固スラリーとし、凝固スラリーを乾燥させることにより、アクリルゴムを得ることができる。
【0044】
本発明のアクリルエマルジョン(乳化重合工程で得られた乳化重合液)を凝固剤により凝固させる工程について説明する。以下、凝固工程と記載することもできる。
【0045】
凝固工程で用いられる凝固剤としては、特に制限はなく、無機金属塩であることが好ましく、その具体例としては硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0046】
凝固剤により凝固させる方法については、特に制限はなく、一般に行われている方法を採用することができる。その方法の一例として、アクリルエマルジョン(乳化重合液)を、凝固剤を含む水溶液に連続的または回分的に供給する方法が挙げられ、この操作によって凝固スラリーが得られる。その際、凝固剤を含む水溶液の温度は、単量体の種類や使用量、撹拌等によるせん断力などの影響を受けるため、これを一律に規定することはできないが、一般的には50℃以上、好ましくは60℃~100℃の範囲である。
【0047】
上記の方法で得られた凝固スラリーは、凝固剤を除去するために水洗洗浄を行なうことが好ましい。以下、水洗工程と記載することもできる。水洗を全く行わない、あるいは水洗が不十分である場合、凝固剤に由来するイオン残留物が成形工程で析出されてしまう恐れがある。
【0048】
凝固させ得られる凝固スラリーを乾燥させる工程について説明する。以下、乾燥工程と記載することもできる。
【0049】
凝固スラリーから水分を除去し乾燥することでアクリルゴムを得ることができる。乾燥の方法としては特に限定されないが一般的にはフラッシュドライヤーや流動乾燥機などを用いて乾燥される。
【0050】
乾燥温度としては、特に限定されないが、50~200℃であることが好ましく、80~200℃であることがより好ましい。乾燥時間は乾燥温度により異なる。
【0051】
乾燥工程の前に遠心分離機等による脱水工程を経ても良い。
【0052】
本発明で用いるアクリルゴムの分子量範囲は、加工性の観点から、JIS K 6300に定めるムーニースコーチ試験での100℃におけるムーニー粘度(ML1+4)表示で、10~100であることが好ましく、15~90であることがより好ましく、20~80であることが更に好ましい。
【0053】
本発明のアクリルエマルジョンを用いたアクリルゴムの製造方法としては、
単量体を乳化重合することにより乳化重合液(アクリルエマルジョン)を得る乳化重合工程、凝固剤により乳化重合液を凝固させ、凝固スラリーを得る凝固工程、含水クラムを乾燥させる乾燥工程を含み、
乳化重合液(アクリルエマルジョン)が(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位と架橋基を有する不飽和単量体由来の構成単位を含有し、平均粒子径が150nm~300nmであるアクリル系ポリマーを含有することを特徴とするアクリルゴムの製造方法としても記載することができる。
【0054】
<アクリルゴム含有組成物>
本発明のアクリルゴム含有組成物は、上記のアクリルゴム及び架橋剤を少なくとも含有する。
【0055】
架橋剤としては、多価アミン化合物、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、アジリジン化合物、硫黄化合物、チオール化合物、高級脂肪酸金属塩(脂肪酸金属石鹸)などのゴムの架橋に通常用いられる従来公知の架橋剤を用いることができる。これらのなかでも、多価アミン化合物が好ましく用いられる。
【0056】
多価アミン化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメイト、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン等の脂肪族多価アミン化合物や、4,4’-メチレンジアニリン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2’-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,3,5-ベンゼントリアミン、1,3,5-ベンゼントリアミノメチル、イソフタル酸ジヒドラジド等の芳香族多価アミン化合物が挙げられる。
【0057】
多価エポキシ化合物としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、クレゾール型エポキシ化合物、ビスフェノールA 型エポキシ化合物、ビスフェノールF 型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA 型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールF 型エポキシ化合物、水素添加ビスフェノールA型エポキシ化合物などのグリシジルエーテル型エポキシ化合物; 脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、イソシアヌレート型エポキシ化合物などのその他の多価エポキシ化合物が挙げられる。
【0058】
多価イソシアナート化合物としては、2,4-トリレンジイソシアナート、2,6-トリレンジイソシアナート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、p-フェニレンジイソシアナート、m-フェニレンジイソシアナート、1,5-ナフチレンジイソシアナート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアナート、1,6,11- ウンデカントリイソシアナート、ビシクロヘプタントリイソシアナート等が挙げられる。
【0059】
アジリジン化合物としては、トリス- 2,4,6-(1-アジリジニル)-1,3,5-トリアジン、トリス〔1-(2-メチル)アジリジニル〕ホスフィノキシド、ヘキサ〔1-(2-メチル) アジリジニル〕トリホスファトリアジン等が挙げられる。
【0060】
硫黄化合物としては、硫黄、4,4’-ジチオモルホリンやテトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。
【0061】
チオール化合物としては、例えば1,3,5-トリアジンジチオールあるいはその誘導体、1,3,5-トリアジントリチオールなどを挙げることができる。
【0062】
高級脂肪酸金属塩の具体例としては酢酸、プロピオン酸、カプロン酸、ラウリル酸、ステアリン酸等の炭素数8~18の脂肪酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩が挙げられる。
【0063】
これらの架橋剤は単独で用いてもよいし、2種類以上の組み合わせで用いてもよい。架橋剤の量は、アクリルゴム100質量部に対してそれぞれ0.05~20質量部、好ましくは0.1~10質量部である。
【0064】
また、本発明のアクリルゴム含有組成物は、当該技術分野で通常使用される他の添加剤、例えば滑剤、老化防止剤、光安定化剤、充填剤、補強剤、可塑剤、加工助剤、顔料、着色剤、架橋促進剤、架橋助剤、架橋遅延剤、帯電防止剤、発泡剤等を任意に配合できる。
【0065】
老化防止剤としては、例えばアミン類、フォスフェート類、キノリン類、クレゾール類、フェノール類、ジチオカルバメート金属塩等があげられ、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体等のアミン類が好ましい。
【0066】
架橋促進剤としては、グアニジン化合物、アミン化合物、チオウレア化合物、チアゾール化合物、スルフェンアミド化合物、チウラム化合物、四級アンモニウム塩等が挙げられ、グアニジン化合物、アミン化合物が好ましい。
【0067】
更に、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当該技術分野で通常行われているゴム、樹脂等とのブレンドを行うことも可能である。本発明に用いられるゴムを例示すれば、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-イソプレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エピクロルヒドリンゴム等が挙げられ、また樹脂を例示すれば、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂、PS(ポリスチレン)樹脂、PUR(ポリウレタン)樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)樹脂、EVA(エチレン/酢酸ビニル)樹脂、AS(スチレン/アクリロニトリル)樹脂、PE(ポリエチレン)樹脂等が挙げられる。
【0068】
上記ゴム、樹脂の合計配合量は、本発明のアクリルゴム100質量部に対して、50質量部以下、好ましくは10質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。
【0069】
本発明のアクリルゴム含有組成物の製造方法は、前期のアクリルゴムの製造方法により得られるアクリルゴムに架橋剤を配合する工程を含む。
【0070】
本発明のアクリルゴム含有組成物の配合方法としては、従来ポリマー加工の分野において利用されている任意の手段、例えばオープンロール、バンバリーミキサー、各種ニーダー類等を利用することができる。
【0071】
その配合手順としては、ポリマー加工の分野において行われている通常の手順で行うことができる。例えば、最初にポリマーのみを混練りし、次いで架橋剤、架橋促進剤以外の配合剤を投入したA練りコンパウンドを作製し、その後、架橋剤、架橋促進剤を投入するB練りを行う手順で行うことができる。
【0072】
アクリルゴム架橋物はアクリルゴム含有組成物を架橋することによって得られ、アクリルゴム架橋物の製造方法としては、前記のアクリルゴム含有組成物の製造方法により得られるアクリルゴム含有組成物を架橋する工程を含む。
【0073】
本発明の組成物は、通常100~250℃に加熱することで架橋物とすることができる。架橋時間は温度によって異なるが、0.5~300分の間で行われるのが普通である。架橋成型は架橋と成型を一体的に行う場合や、先に成型したアクリルゴム含有組成物に改めて加熱することで架橋物とする場合のほか、先に加熱して架橋物を成型のために加工を施す場合のいずれでもよい。架橋成型の具体的な方法としては、金型による圧縮成型、射出成型、スチーム缶、エアーバス、赤外線、あるいはマイクロウェーブによる加熱等任意の方法を用いることができる。
【0074】
そのため、本発明の架橋物は、上記特性を活かして、O-リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、メカニカルシール、ウェルヘッドシール、電気・電子機器用シール、空気圧機器用シール、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケットとして好適に用いられる。
【0075】
また、本発明における架橋物は、ゴム材料として用いることができ、自動車用途に用いられる押し出し成型製品および型架橋製品として、燃料ホース、フィラーネックホース、ベントホース、ベーパーホース、オイルホース等の燃料タンクまわりの燃料油系ホース、ターボエアーホース、エミッションコントロールホース等のエアー系ホース、ラジエーターホース、ヒーターホース、ブレーキホース、エアコンホース等の各種ホース類に好適に使用させる。
【0076】
本発明を実施例、比較例により具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
実施例、比較例では、アクリルエマルジョンの重合転化率、平均粒子径を評価した。
【0078】
[実施例1]
(アクリルエマルジョンAの製造)
温度計、攪拌装置、窒素導入管及び減圧装置を備えた重合反応器に、水60質量部、乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルナトリウム塩0.6質量部とポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル0.16質量部、モノマーとしてアクリル酸エチル19.1質量部、アクリル酸n-ブチル19.1質量部及びフマル酸モノブチル0.8質量部を仕込み、減圧による脱気および窒素置換を繰り返して酸素を十分除去した後、亜硫酸水素ナトリウム0.054質量部、硫酸第一鉄0.0001質量部および過硫酸アンモニウム0.03質量部を加えて常圧、常温下で乳化重合反応を開始させ、重合転化率が95%に達するまで反応を継続しアクリルエマルジョンA(固形分40%)を得た。
【0079】
[実施例2]
(アクリルゴムエマルジョンBの製造)
仕込む乳化剤を、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルナトリウム塩0.4質量部とポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル0.1質量部に変更した以外は、アクリルエマルジョンAの製造と同様に行い、アクリルエマルジョンB(固形分40%)を得た。アクリルエマルジョンBの粘度は13.0mPa・sであった。
【0080】
[実施例3]
(アクリルゴムエマルジョンCの製造)
仕込む乳化剤を、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルナトリウム塩0.2質量部とポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル0.05質量部に変更した以外は、アクリルエマルジョンBの製造と同様に行い、アクリルエマルジョンC(固形分40%)を得た。アクリルエマルジョンCの粘度は8.0mPa・sであった。
【0081】
[実施例4]
(アクリルゴムエマルジョンDの製造)
仕込むモノマーをアクリル酸エチル19.1質量部、アクリル酸n-ブチル19.1質量部、モノクロロ酢酸ビニル0.8質量部、乳化剤をポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルナトリウム塩0.4質量部とポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル0.05質量部、重合副資材をナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.02質量部に変更した以外は、アクリルエマルジョンCの製造と同様に行い、アクリルエマルジョンD(固形分40%)を得た。
【0082】
[実施例5]
(アクリルゴムエマルジョンEの製造)
仕込むモノマーをアクリル酸エチル14.6質量部、アクリル酸ブチル7.3質量部、アクリル酸メトキシエチル7.3質量部及びモノクロロ酢酸ビニル0.8質量部、乳化剤を、ラウリル硫酸ナトリウム0.13質量部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.16質量部に変更した以外は、アクリルエマルジョンDの製造と同様に行い、アクリルエマルジョンE(固形分30%)を得た。
【0083】
[比較例1]
(アクリルゴムエマルジョンFの製造)
仕込む水を70質量部、モノマーをアクリル酸エチル14.7質量部、アクリル酸n-ブチル14.7質量部及びフマル酸モノブチル0.6質量部、乳化剤をラウリル硫酸ナトリウム0.16質量部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.4質量部、重合副資材を亜硫酸水素ナトリウム0.015質量部に変更した以外は、アクリルエマルジョンEの製造と同様に行い、アクリルエマルジョンF(固形分30%)を得た。アクリルエマルジョンFの粘度は5.0mPa・sであった。
【0084】
[比較例2]
(アクリルゴムエマルジョンGの製造)
仕込む乳化剤を、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルナトリウム塩0.2質量部とポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル0.023質量部に変更した以外は、アクリルエマルジョンEの製造と同様に行い、アクリルエマルジョンG(固形分40%)を得た。アクリルエマルジョンGの粘度は6.0mPa・sであった。
【0085】
(アクリルエマルジョンにおけるアクリル系ポリマーの平均粒子径測定法)
粒子径測定機(Marvern社製、ゼータサイザーナノS)を用いて、アクリルエマルジョンをイオン交換水にて40倍希釈し、動的光散乱法により測定を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(アクリルエマルジョンの粘度測定法)
JIS K7117-1に従い、23℃環境において、回転粘度計(英弘精機株式会社製、Brookfield)にて、LV-1スピンドルを用いて、回転数30rpmでアクリルエマルジョンの粘度測定を行った。
【0087】
(アクリルエマルジョンの安定性について)
アクリルエマルジョンの安定性については、以下基準により評価した。結果は表1に示す。
○:重合終了後のアクリルエマルジョンを2時間静置したのち、80メッシュ金網でろ過した際の凝集物がアクリルエマルジョン全体に対して1質量%未満である。
×:重合終了後のアクリルエマルジョンを2時間静置したのち、80メッシュ金網でろ過した際の凝集物がアクリルエマルジョン全体に対して1質量%以上である。
【0088】
(アクリルエマルジョンの凝固性について)
アクリルエマルジョンの凝固性については、以下基準により評価した。結果は表1に示す。
○:水100質量部に硫酸ナトリウム6部を加え、85℃まで加温し、アクリルエマルジョン100部を滴下し凝固させた後のポリマーの収率が95質量%以上である。(アクリルエマルジョンを110℃で乾燥したのちの残渣分として得られるポリマー分を100質量%とする。)
×:水100質量部に硫酸ナトリウム6部を加え、85℃まで加温し、アクリルエマルジョン100部を滴下し凝固させた後のポリマーの収率が95質量%未満である。(アクリルエマルジョンを110℃で乾燥したのちの残渣分として得られるポリマー分を100質量%とする。)
【0089】
【表1】
【0090】
表1より本発明の製造方法で得られる実施例のアクリルエマルジョンは、凝固性に優れ、エマルジョンの安定性に優れる。一方、比較例1のアクリルエマルジョンは実施例と比較して、エマルジョンの安定性は同等であるものの、凝固性が劣っていた。比較例2においても、実施例と比較して、凝固性は同等であるものの、エマルジョンの安定性が劣っていた。結果、実施例のアクリルエマルジョンは比較例のアクリルエマルジョンと比較して、凝固性に優れるとともに、エマルジョンの安定性に優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のアクリルエマルジョンはアクリルゴムの製造における凝固性に優れ、エマルジョンの安定性に優れるため、製造工程における送液時の安定性に優れたエマルジョンであるため、有用である。本発明のアクリルエマルジョンを用いて製造されるアクリルゴムは、優れた耐熱性、耐候性、耐オゾン性、耐磨耗性を活かしたゴム製品の材料として幅広く用いることが可能である。特に、本発明のアクリルゴムを用いて作製された架橋物は、燃料系ホースやエアー系ホース、チューブ材料などの自動車用途として極めて有効である。