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特許7601001ポリエステル樹脂、水分散体及びこれを用いた接着剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂、水分散体及びこれを用いた接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/40 20060101AFI20241210BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B32B27/36
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021560046
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021013043
(87)【国際公開番号】W WO2021205916
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2020068162
(32)【優先日】2020-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】坂本 康博
(72)【発明者】
【氏名】三上 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡島 裕樹
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-507875(JP,A)
【文献】特開平01-284548(JP,A)
【文献】特開昭53-007797(JP,A)
【文献】特開2011-079922(JP,A)
【文献】特開2007-001292(JP,A)
【文献】特開2006-257147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/668
C08L 67/00
C09J 167/00
C09J 7/35
B32B 27/36
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤層と、熱可塑性樹脂フィルムまたはアルミ箔とを積層してなる積層体を構成要素として有する包装材であって、
接着剤層が、ポリエステル樹脂を含有するポリエステル樹脂水分散体を含有する接着剤組成物からなり、
ポリエステル樹脂が、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分を構造単位として有し、多価アルコール成分を100モル%としたときにジエチレングリコール成分が60モル%以上であり、
多価カルボン酸成分の合計量を100モル%とした場合、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分の含有量が0.1モル%以下であり、
ポリエステル樹脂の酸価が150~500eq/tであり、
ポリエステル樹脂のガラス転移温度が-5℃以上20℃以下であり、但し、ガラス転移温度は、示差走査熱量分析計を用いて、アルミニウム押え蓋型容器にポリエステル樹脂5mgを密封し、-100℃から250℃まで、20℃/分の昇温速度で測定し、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの間での最大傾斜を示す接線との交点の温度として求められる、包装材。
【請求項2】
接着剤層の厚みが1~10μmの範囲である請求項に記載の包装材
【請求項3】
請求項1または2に記載の包装材を構成要素として有するブリスターパック。
【請求項4】
請求項1または2に記載の包装材を構成要素として有する食品包装容器用の蓋材。
【請求項5】
請求項に記載の蓋材と、ポリエステル系樹脂またはアルミ箔との積層体である食品包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂およびポリエステル樹脂水分散体に関する。また、これを用いた接着剤組成物、積層体および包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は塗料、コーティング剤および接着剤等に用いられる樹脂組成物の原料として広く使用されている。ポリエステル樹脂は一般に多価カルボン酸と多価アルコールから構成される。多価カルボン酸と多価アルコールの選択と組合せ、分子量の高低は自由にコントロールでき、得られるポリエステル樹脂は塗料用途や接着剤用途をはじめ、様々な用途で使用されている。
【0003】
ポリエステル樹脂の分子設計においては、共重合成分の選択が重要である。多価カルボン酸成分や多価アルコール成分は大別すると芳香族、脂肪族、脂環族などがある。これらの成分の選択により、ポリエステル樹脂の柔軟性を示すガラス転移温度を決めることができる。使用形態としては、有機溶剤溶解品、水性分散品として、基材に塗布して使用されることが一般的であるが、特に近年は環境問題により水性分散体が求められるようになっている。
【0004】
近年、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、A-PET(非晶性ポリエチレンテレフタレート)、ポリプロピレンなどの各種包装容器の蓋材として、ポリエステル系フィルムやアルミ箔といった基材にヒートシール可能な接着剤組成物を塗布して貼り合わせた構成のものが使用されている。食品用途に使用でき、かつ、これらすべての包装容器と優れた接着性を有するヒートシール用水性接着剤組成物が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1では、イタコン酸共重合ポリエステルとその配合物が提案されている。また、特許文献2ではガラス転移温度が50℃以上のポリエステル樹脂(A)、ガラス転移温度が30℃以下のポリエステル樹脂(B)を配合する水分散体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5455377号公報
【文献】特許第5241232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、ヒートシール可能な接着剤組成物を塗布したアルミ箔とポリスチレンやポリプロピレンにおいて良好な接着性を示しているが、樹脂の作製にはポリマーを更に変性する工程が必要であり、また接着剤には多量の有機溶剤が必要とされるなど、製造面、環境面での課題がある。また、特許文献2では、ポリエステル樹脂の水分散体ではあるが、一般的にポリエステル樹脂が接着しやすいPETフィルム同士のヒートシール性しか評価されておらず、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、A-PET、ポリプロピレンなどの各種基材との接着性に懸念がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、食品および医薬品用途で使用でき、かつ、異なる特性のポリスチレン、ポリ塩化ビニル、A-PETなどの各種容器と優れた接着性を有するヒートシール可能なポリエステル樹脂を見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明の目的は、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、A-PETなどの各基材に対し接着性の優れたポリエステル樹脂およびその水分散体、ならびにこれらを用いた接着剤組成物、積層体および包装材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
【0011】
多価カルボン酸成分と多価アルコール成分を構造単位として有し、多価アルコール成分を100モル%としたときにジエチレングリコール成分が60モル%以上であり、ガラス転移温度が20℃以下であるポリエステル樹脂。
【0012】
前記のポリエステル樹脂を含有するポリエステル樹脂水分散体。
【0013】
前記のポリエステル樹脂水分散体を含有する接着剤組成物。
【0014】
前記の接着剤組成物からなる接着剤層と、熱可塑性樹脂フィルムまたはアルミ箔とを積層してなる積層体。
【0015】
前記の接着剤層の厚みは、1~10μmの範囲であることが好ましい。
【0016】
前記の積層体は、包装材として好ましく使用できる。
【0017】
前記の包装材は、ブリスターパック、蓋材および食品包装容器として好ましく使用できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリエステル樹脂および水分散体は、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、A-PETなどの各基材への接着性に優れている。このため、ヒートシール可能な接着剤組成物を容易に形成することができ、食品包装用などの包装材料に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
<ポリエステル樹脂>
本発明のポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分との重縮合物によって得ることのできる化学構造からなり、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とはそれぞれ1種または2種以上の選択された成分からなるものである。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸および/または脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0022】
多価カルボン酸成分の合計量を100モル%とした場合、芳香族ジカルボン酸の共重合量は55%以上であることが好ましい。より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは65モル%以上である。芳香族ジカルボン酸の共重合量が55モル%未満では、耐水性が低下する場合がある。
【0023】
多価カルボン酸成分の合計量を100モル%とした場合、脂環族ジカルボン酸および/または脂肪族ジカルボン酸の共重合量は、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましい。50モル%以下とすることで、ポリエステル樹脂の耐加水分解性が向上し、耐水性が良好となる。脂環族および/または脂肪族ジカルボン酸を共重合する場合は、5モル%以上であることが好ましく、より好ましくは10モル%以上である。5モル%以上とすることで接着性が向上する。
【0024】
多価カルボン酸成分の好適な具体例として、テレフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、トリメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸またはダイマー酸を用いることが好ましく、これらを単独で使用しても良いし、または2種以上を併用しても良い。これらの化合物は、FDA(Food and Drug Administration)規格175.300(b)(3)(vii)(2019年4月1日改訂版)に記載、認可された原料であり、食品包装用材料へ好適に使用できる。これらの中では、基材への接着性や耐水性、価格などの点からテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、またはセバシン酸を組み合わせるのが好ましい。
【0025】
多価アルコール成分の合計量を100モル%とした場合、ジエチレングリコールの共重合量は60モル%以上であることが必要であり、65モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、100モル%であっても差し支えない。60モル%以上とすることで、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、A-PETなどの各種容器との接着性が向上する。なお、ジエチレングリコールはFDA規格175.300(b)(3)(vii)(2019年4月1日改訂版)に記載された化合物である。
【0026】
ジエチレングリコール以外の多価アルコール成分としては、FDA規格175.300(b)(3)(vii)(2019年4月1日改訂版)に記載された化合物を用いることが好ましい。これらは、具体的には、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、グリセロール、マンニトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンが挙げられる。これらの多価アルコール成分の共重合量は、多価アルコール成分の合計量を100モル%とした場合、40モル%以下であることが必要であり、35モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、0モル%であっても差し支えない。これらの多価アルコールは、単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂において3官能以上の多価カルボン酸成分や多価アルコール成分を少量共重合させて分岐構造を導入することも好ましい。これによってより強靱な接着剤組成物の層(以下、接着剤層ともいう。)を形成することができ、耐水性や接着性の向上効果が発揮され得る。具体的には無水トリメリット酸、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。これら3官能以上の多価カルボン酸成分や多価アルコール成分の共重合量は、全多価カルボン酸成分と全多価アルコール成分の合計量を200モル%とした場合、0.5モル%以上であることが好ましく、より好ましくは1モル%以上である。また、5モル%以下であることが好ましく、より好ましくは4モル%以下であり、さらに好ましくは3モル%以下である。
【0028】
多価カルボン酸成分の合計量を100モル%とした場合、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分の含有量が1モル%未満であることが好ましい。より好ましくは0.5モル%以下であり、さらに好ましくは0.1モル%以下であり、特に好ましくは0モル%である。スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分は、FDA認可外の酸成分であるため、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分量を少なくすることで本発明のポリエステル樹脂を食品接触用途に使用することができる。スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、5-スルホイソフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5〔4-スルホフェノキシ〕イソフタル酸およびこれらのアルカリ金属塩が挙げられる。アルカリ金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。具体例としては、5-スルホナトイソフタル酸ナトリウム、5-スルホナトイソフタル酸カリウム、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸ナトリウム、5〔4-スルホフェノキシ〕イソフタル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0029】
多価アルコール成分の合計量を100モル%とした場合、スルホン酸塩基を有する多価アルコール成分の含有量が1モル%未満であることが好ましい。より好ましくは0.5モル%以下であり、さらに好ましくは0.1モル%以下であり、特に好ましくは0モル%である。スルホン酸塩基を有する多価アルコール成分は、FDA認可外のアルコール成分であるため、スルホン酸塩基を有する多価アルコール成分量を少なくすることで本発明のポリエステル樹脂を食品接触用途に使用することができる。スルホン酸塩基を有する多価アルコール成分としては、例えば、2-スルホ-1,4-ブタンジオールのナトリウム塩、2,5-ジメチル-3-スルホ-2,5-ヘキサンジオールのナトリウム塩等が挙げられる。
【0030】
また、酸価付与のため、ポリエステル樹脂重合後に無水トリメリット酸や無水ピロメリット酸等の酸無水物等を後添加(後付加)しても良い。酸価付与のための酸無水物としては、具体的には無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートなどが挙げられ、これらの中から1種または2種以上を使用できる。後添加(後付加)した場合、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分の合計量が200モル%を超えることがある。この場合は、酸無水物等を後添加(後付加)した成分を除いた組成の合計量を200モル%として計算するものとする。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂を製造する際には、重合触媒として、例えば、テトラ-n-ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンオキシアセチルセトネートなどのチタン化合物、三酸化アンチモン、トリブトキシアンチモンなどのアンチモン化合物、酸化ゲルマニウム、テトラ-n-ブトキシゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物、その他、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、コバルト、アルミニウムなどの酢酸塩などを使用することが出来る。これらの触媒は1種、または2種以上を併用することができる。
【0032】
本発明のポリエステル樹脂を製造する重合縮合反応の方法としては、特に限定されないが、例えば、1)多価カルボン酸と多価アルコールを任意の触媒存在下で加熱し、脱水エステル化工程を経て、脱多価アルコール・重縮合反応を行う方法、2)多価カルボン酸のアルコールエステル体と多価アルコールを任意の触媒存在下で加熱、エステル交換反応を経て、脱多価アルコール・重縮合反応を行う方法、などがある。前記1)2)の方法において、酸成分の一部またはすべてを酸無水物に置換しても良い。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は20℃以下である。好ましくは-5~20℃であり、より好ましくは0~20℃であり、さらに好ましくは5~15℃である。前記下限値以上とすることで、積層フィルムをロール状に巻き取った際に、ブロッキングの発生を抑えることができる。前記上限値以下とすることで、室温での剥離時にも樹脂の柔軟性があり、接着性が良好となる。
【0034】
本発明のポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/c)は、0.2~0.9dl/gであることが好ましい。より好ましくは0.3~0.8dl/gであり、さらに好ましくは0.4~0.7dl/gである。前記下限値以上とすることで樹脂凝集力が良好となり、優れた接着性を発現することができる。また、前記上限値以下とすることで水分散体を作製することができる。還元粘度は該ポリエステル樹脂の重合時間、温度、重合時の減圧の程度(減圧重合の場合)を変化させることで任意に調整することができる。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂の酸価は、50~600eq/tであることが好ましい。より好ましくは100~550eq/tであり、さらに好ましくは150~500eq/tである。前記上限値以下とすることで低分子量とならないため樹脂凝集力が良好となり、優れた接着性を発現することができる。また、前記下限値以上とすることで水分散体を容易に作製することができる。
【0036】
本発明のポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、4000~40000であることが好ましい。より好ましくは6000~35000であり、さらに好ましくは8000~30000である。前記下限値以上とすることで樹脂凝集力が良好となり、優れた接着性を発現することができる。また、前記上限値以下とすることで水分散体を作製することができる。数平均分子量は該ポリエステル樹脂の重合時間、温度、重合時の減圧の程度(減圧重合の場合)を変化させることで任意に調整することができる。尚、数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂、移動相:テトラヒドロフランもしくはクロロホルム)によって測定した値である。
【0037】
<ポリエステル樹脂水分散体>
本発明のポリエステル樹脂水分散体は、前記ポリエステル樹脂および水を含有し、必要に応じて有機溶媒を含有する水分散体である。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂水分散体に用いる有機溶媒の沸点は60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。沸点が60℃以上であることで、溶媒の揮発性の観点から、コーティング時の取り扱いがしやすくなる。また、180℃以下であることが好ましく、175℃以下であることがより好ましく、170℃以下であることがさらに好ましく、165℃以下であることが特に好ましく、160℃以下であることが最も好ましい。沸点が180℃以下であることで乾燥時の残留溶媒がほとんどなく、巻き取り時のブロッキングが発生する等の問題が生じなくなる。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂水分散体に用いる有機溶媒は、特に限定されないが、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、イソアミノアルコール等のアルコールや、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(以下、「n-ブチルセロソルブ」または「n-BuCS」ともいう。)、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル(以下、「t-ブチルセロソルブ」または「t-BuCS」ともいう。)、プロピレングリコールモノブチルエーテル、メチルエチルケトン等が挙げられる。これらの有機溶媒を単独でまたは2種以上を併用して使用することができる。中でもイソプロピルアルコール、n-ブチルセロソルブ、t-ブチルセロソルブが特に好ましい。
【0040】
前記ポリエステル樹脂100質量部に対して、有機溶媒は200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることで乾燥時の残留溶媒を少なくし、巻き取り時のブロッキングが発生する等の問題が生じなくなる。また、保存安定性も良好となる。下限は特に限定されず、樹脂を分散後に減圧濃縮等により溶剤を完全に除去してもよいが、工業的には1質量部以上含まれていても問題なく、10質量部以上であっても差し支えない。
【0041】
本発明のポリエステル樹脂水分散体に含まれるポリエステル樹脂相の粒子径は30nm以上であることが好ましく、40nm以上がより好ましく、50nm以上がさらに好ましく、60nm以上が特に好ましい。前記下限値以上とすることで造膜性が向上し、分散粒子間での融合や凝集を抑え、増粘や分散不良が生じることがなくなる。また、500nm以下が好ましく、450nm以下がより好ましく、400nm以下がさらに好ましい。前記上限値以下とすることで優れた分散安定性や造膜性を維持することができ、得られる皮膜の外観と性能が良好となる。ここで粒子径とは、前記ポリエステル樹脂の粒子径を指し、さらに他のポリエステル樹脂を含有するなど、2種類以上のポリエステル樹脂を含有している場合は、2種類以上のポリエステル樹脂の平均粒子径を指す。
【0042】
本発明のポリエステル樹脂水分散体は、接着剤の他、コーティング剤やヒートシール剤の原料として好適に使用することができ、特に接着剤用途に好適である。
【0043】
<接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は、前記ポリエステル樹脂水分散体を必須成分として含有する組成物である。
【0044】
本発明の接着剤組成物は、本発明の性能を損なわない範囲で他ポリエステル樹脂やその水性分散体、各種の添加剤を配合して使用することができる。添加剤としては、特に限定されないが、アンチブロッキング剤等を使用することが好ましい。
【0045】
アンチブロッキング剤としては無機粒子、有機粒子、またはワックス類などが挙げられ、接着性、耐ブロッキング性を落とさない程度で含有することができる。これらアンチブロッキング剤は単独で、または2種以上を併用することができる。アンチブロッキング剤を含有する場合は、前記ポリエステル樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.2質量部以上である。前記下限値以上含有することで耐ブロッキング性の効果を発現することができる。また、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは15質量部以下である。前記上限値以下とすることで接着性を維持することができる。
【0046】
無機粒子としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ジルコニウム、モリブデン、珪素、アンチモン、またはチタン等の金属の酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、または珪酸塩などを含有する無機粒子が挙げられる。これらの無機粒子の中でも、シリカゲル粒子が特に好ましい。粒子の形状は粉末状、粒状、顆粒状、平板状、針状など、どのような形でも良く限定されない。
【0047】
有機粒子としては例えば、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、シリコン樹脂、メタクリレート樹脂、もしくはアクリレート樹脂などのポリマー粒子、またはセルロースパウダー、ニトロセルロースパウダー、木粉、古紙粉、籾殻粉、でんぷんなどが挙げられる。ポリマー粒子は乳化重合、懸濁重合、分散重合、ソープフリー重合、マイクロサスペンジョン重合などの重合法により得ることができる。前記、有機粒子は本発明の効果を損なわない範囲で使用できる。粒子の形状は粉末状、粒状、顆粒状、平板状、針状など、どのような形でも良く限定されない。
【0048】
ワックス類の具体例としては流動パラフィン、天然パラフィン、マイクロワックス、合成パラフィン、ポリエチレンワックスなどの炭化水素系ワックス類、ステアリン酸などの脂肪酸系ワックス類、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド、オレイン酸アミド、エシル酸アミドなどの脂肪酸系アミドワックス、脂肪酸の低級アルコールエステル、脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステルなどのエステル系ワックス、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどのアルコール系ワックス、オレフィン系ワックス、カスターワックス、カルナバワックスなどの天然物ワックス、炭素数12~30の脂肪酸から誘導される金属石けん類などが挙げられる。前記、ワックス類は本発明の効果を損なわない範囲で使用できる。
【0049】
<積層体>
本発明の積層体は、基材となるフィルムや金属箔の少なくとも片面に、本発明の接着剤組成物からなる接着剤層を積層したフィルムや金属箔である。積層体は基材となるフィルムや金属箔に接着剤組成物を塗布した後、乾燥処理を行うことにより得られるものである。
【0050】
基材となるフィルムとしては、本発明の接着剤組成物から接着剤層を形成できるものであれば特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂フィルムまたは金属被覆された熱可塑性フィルムが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリプロピレン系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルム、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム、ポリ塩化ビニリデン系樹脂フィルムが挙げられる。なかでも食品包装容器の蓋材として好適であることから、ポリエステル系樹脂フィルムがより好ましい。また、金属被覆されたフィルムとしては、アルミ蒸着フィルムやアルミナおよび/またはケイ素などの無機フィラー蒸着フィルムなどが挙げられる。
【0051】
基材となる金属箔としては、本発明の接着剤組成物から接着剤層を形成できるものであれば特に限定されるものではないが、食品包装容器の蓋材や医薬品のブリスターパックなどに好適であることからアルミ箔が好ましい。
【0052】
本発明の積層体は接着性に優れるため、包装材や医薬品などのブリスターパックの構成成分として好適である。なかでも生鮮食料品やヨーグルトなどの加工品等の食品包装容器の蓋材として好適である。食品包装容器の蓋材として用いる場合、積層体の接着剤層面と食品包装容器とをヒートシールすることで内容物を密封することができる。食品包装容器としては、特に限定されないが、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
【実施例
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。実施例中および比較例中に単に部とあるのは質量部を示す。
【0054】
(物性評価方法)
【0055】
ポリエステル樹脂の組成の測定
400MHzのH-核磁気共鳴スペクトル装置(H-NMR)を用い、ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分、多価アルコール成分のモル比定量を行った。溶媒には重クロロホルムを使用した。
【0056】
ガラス転移温度(Tg)
セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計(DSC)DSC-220を用いて、アルミニウム押え蓋型容器にサンプル(ヒートシール用ポリエステル樹脂)5mgを密封し、-100℃から250℃まで、20℃/分の昇温速度で測定し、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの間での最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
【0057】
還元粘度(単位:dl/g)の測定
ポリエステル樹脂のサンプル濃度0.1g/25ml、測定溶剤フェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)、測定温度30℃でウベローデ粘度管を用いて測定した
【0058】
酸価の測定
ポリエステル樹脂の試料0.2gを40mlのクロロホルムに溶解し、0.01Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、ポリエステル樹脂10gあたりの当量(eq/t)を求めた。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。
【0059】
保存安定性
ポリエステル樹脂水分散体を25℃下6か月保管(静置)し、外観、形状(粘度)変化を確認した。
<評価基準>
○:外観、形状(粘度)変化なし。
△:白濁したが形状(粘度)は変化なし。
×:粘度上昇が生じた、分離した、または分散不良が生じた。
【0060】
評価用積層フィルムおよび積層アルミ箔の作製
実施例、比較例で得られた接着剤組成物を厚さ約20μmのアルミ箔に、乾燥後の厚みが4~5μmとなるように塗布した。次いで150℃で30秒乾燥し、評価用積層アルミ箔を得た。
【0061】
剥離強度(接着性)
評価用積層アルミ箔の接着剤層面を、厚さ約850μmのA-PETシートおよびポリスチレンシート、ポリ塩化ビニルシートそれぞれの基材に対し、温度200℃、圧力4.5kgf/cmで、1秒間ヒートシールした。その後、15mm幅の試験片を切り取り、25℃において、引張速度100mm/minで180°剥離試験を行い、剥離強度を測定した。
<評価基準>
◎:すべての基材に対し、1000gf/15mm以上
○:すべての基材に対し、800gf/15mm以上
×:800gf/15mmに達しない基材あり
【0062】
ポリエステル樹脂(A-1)の合成
撹拌機、温度計、加熱ヒーター、冷却装置、溜出用冷却器を装備した反応缶内に、イソフタル酸534質量部、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸141質量部、無水トリメリット酸12質量部、ジエチレングリコール652質量部およびテトラブチルチタネート0.5質量部を仕込み、220℃まで昇温しつつ4時間かけてエステル化反応を行った。エステル化反応終了後、系内を250℃まで昇温しながら60分かけて10torrまで減圧し、さらに1torr以下の真空下まで減圧して250℃で所定粘度まで重縮合反応を行った。その後、系内に窒素を流し、220℃まで冷却し、無水トリメリット酸24質量部添加し、30分間反応した。反応終了後、ポリエステル樹脂を取り出し、冷却することによりポリエステル樹脂(A-1)を得た。樹脂組成および物性の測定結果を表1に示す。
【0063】
ポリエステル樹脂(A-2)~(A-12)の合成
ポリエステル樹脂(A-1)の合成例と同様に、原料の種類と配合比率を変更して、ポリエステル樹脂(A-2)~(A-12)を合成した。樹脂組成および物性の測定結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例1
ポリエステル樹脂水分散体(B)の製造例
ポリエステル樹脂水分散体(B-1)の製造
ポリエステル樹脂(A-1)を以下の手順に従い、水分散化した。攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した反応容器にポリエステル樹脂(A-1)990部、イソプロパノール578部、水1733部、28%アンモニア水18部を仕込み、75℃にて4時間撹拌を行った。室温まで冷却後、反応容器より取り出すことでポリエステル樹脂水分散体(B-1)を得た。各種特性評価をおこなった結果を表2に示す。
【0066】
実施例2~8、比較例1~4
実施例1の製造例と同様に、ポリエステル樹脂の種類を変更して、ポリエステル樹脂水分散体(B-2)~(B-12)を得た。各種特性評価をおこなった結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2から明らかなように、実施例1~8では、3種類の基材に対し、良好な接着性であることが分かる。一方、比較例1~3では、ジエチレングリコール量が少ないため、接着性が低い基材がある。また比較例4では、ジエチレングリコール量が多いにもかかわらず、Tgが高いため、接着性が低い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明にかかるポリエステル樹脂を含有する接着剤組成物及びこれを用いた積層体は、包装容器の蓋材としてヒートシールした際に、さまざまな種類の基材との接着性に優れる。