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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】加工用原紙、紙器用シートおよび紙器
(51)【国際特許分類】
   D21H 27/00 20060101AFI20241210BHJP
   D21H 21/18 20060101ALI20241210BHJP
   D21H 11/00 20060101ALI20241210BHJP
   B65D 5/40 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
D21H27/00 E
D21H21/18
D21H11/00
B65D5/40
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021567592
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048352
(87)【国際公開番号】W WO2021132429
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2019234140
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019234141
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】槌本 真和
(72)【発明者】
【氏名】石川 友美子
(72)【発明者】
【氏名】平野 大信
【審査官】塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-147588(JP,A)
【文献】特開2000-264316(JP,A)
【文献】特開2012-158854(JP,A)
【文献】特開2019-127670(JP,A)
【文献】特開2012-219381(JP,A)
【文献】特開2019-183372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00- 1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00- 9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00- 7/00
B65D 5/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースパルプを主成分とし、少なくとも一方向における折り曲げ角度0~90度の範囲の最大の曲げ応力が215N/m以下であり、
MD方向の引張強度が35kN/m以下であり、CD方向の引張強度が22kN/m以下であり、かつ、MD方向とCD方向の引張強度の平均値が28kN/m以下である加工用原紙。
【請求項2】
セルロースパルプを主成分とし、少なくとも一方向における折り曲げ角度0~90度の範囲の最大の曲げ応力が215N/m以下であり、
MD方向の引張強度をT1とし、CD方向の引張強度をT2とした場合、T1/T2の値が1.1以上3.0未満である加工用原紙。
【請求項3】
セルロースパルプを主成分とし、少なくとも一方向における折り曲げ角度0~90度の範囲の最大の曲げ応力が215N/m以下であり、
坪量が200~400g/mであり、密度が0.80~1.00g/cmである加工用原紙。
【請求項4】
セルロースパルプを主成分とし、少なくとも一方向における折り曲げ角度0~90度の範囲の最大の曲げ応力が215N/m以下であり、
下記(1)~(3)のうち少なくとも2つを満たす加工用原紙;
(1)MD方向の引張強度が35kN/m以下であり、CD方向の引張強度が22kN/m以下であり、かつ、MD方向とCD方向の引張強度の平均値が28kN/m以下である;
(2)MD方向の引張強度をT1とし、CD方向の引張強度をT2とした場合、T1/T2の値が1.1以上3.0未満である;
(3)坪量が200~400g/mであり、密度が0.80~1.00g/cmである。
【請求項5】
曲げ応力曲線の変曲点が、折り曲げ角度0~40度の範囲に存在する請求項1~4のいずれか1項に記載の加工用原紙。
【請求項6】
JIS P 8251:2003に規定される灰分試験方法で測定された灰分の含有量が0.5~40.0質量%である請求項1~5のいずれか1項に記載の加工用原紙。
【請求項7】
2以上の紙層から構成され、JAPAN TAPPI 18-2に規定されるインターナルボンドテスター法で測定された層間強度が100J/m以上である請求項1~6のいずれか1項に記載の加工用原紙。
【請求項8】
JAPAN TAPPI 18-2に規定されるインターナルボンドテスター法で測定された層間強度が1000J/m以下である請求項7に記載の加工用原紙。
【請求項9】
3以上の紙層から構成される請求項1~8のいずれか1項に記載の加工用原紙。
【請求項10】
最外の紙層の坪量の平均値をW1とし、前記最外の紙層のすぐ内側に位置する第1内層の坪量の平均値をW2とした場合、W1/W2の値が1.05~2.10である請求項9に記載の加工用原紙。
【請求項11】
JIS P 8251:2003に規定される灰分試験方法で測定された最外の紙層の含有する灰分の含有量が、内側の紙層が含有する灰分の含有量よりも1.0質量%以上少ない請求項9又は10に記載の加工用原紙。
【請求項12】
JIS P 8251:2003に規定される灰分試験方法で測定された最外の紙層の灰分の含有量が0.5質量%未満である請求項9~11のいずれか1項に記載の加工用原紙。
【請求項13】
前記紙層の間に接着層をさらに有し、前記接着層は澱粉又はポリアクリルアミドを含む請求項7~12のいずれか1項に記載の加工用原紙。
【請求項14】
前記加工用原紙はポリアクリルアミド系紙力増強剤を含み、
前記セルロースパルプ100質量部に対する前記ポリアクリルアミド系紙力増強剤の含有量は、0.02質量部以上1質量部未満である、請求項1~13のいずれか1項に記載の加工用原紙。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の加工用原紙の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を有する紙器用シート。
【請求項16】
少なくとも一方向における折り曲げ角度0~90度の範囲の最大の曲げ応力が230N/m以下である請求項15に記載の紙器用シート。
【請求項17】
前記加工用原紙の両面に前記熱可塑性樹脂層を有し、
一方の熱可塑性樹脂層の融点が、他方の熱可塑性樹脂層の融点よりも3℃以上低い請求項15又は16に記載の紙器用シート。
【請求項18】
請求項1~14のいずれか1項に記載の加工用原紙もしくは請求項15~17のいずれか1項に記載の紙器用シートから構成される紙器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工用原紙、紙器用シートおよび紙器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原紙や、原紙上にラミネート加工を施したシートに曲げ加工等を施すことにより、筒、器、容器に被せる蓋、その他様々な紙製品が製造されている。このような曲げ加工が原紙やシートに誘起する応力は、当該原紙やシートに割れ等を発生させることがある。そのため、このような応力による割れ等を抑制するための種々の技術が開発されている。
【0003】
例えば、原紙の折り割れによる当該原紙上のラミネート層の破壊を抑制するための技術として、特許文献1の発明が挙げられる。特許文献1には、外層:内層:外層の重量比が1:2:1~1:3:1であり、外層の内部結合強さは0.20~0.36N・mであり、内層の内部結合強さは0.05~0.28N・mである液体容器用原紙が開示されている。
【0004】
また、曲げ加工の際の引張力による割れを抑制可能な紙力を原紙に与える技術として、例えば特許文献2に記載の発明が挙げられる。特許文献2には、パルプを主成分とする基紙の少なくとも片面に、顔料とバインダーとを含有する顔料塗工層を設けた加工用原紙が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-242999号公報
【文献】特開2007-100222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、カール加工においては、原紙やシートを所定の角度まで曲げる必要があるが、折り加工と同等の強い座屈を紙層に生じさせれば、当該座屈は製品欠陥となる恐れがある。このような問題は、特に紙カップ等の口元に施されるカール加工(トップカール加工)において顕著である。トップカール加工は、原紙等の端を直径2~3mm程度の小さな径になるように外側に向かって固く巻き込むカール加工である。よって、トップカール加工は、高い曲率の加工の誘起した大きな応力によって生じる紙層の座屈を適切な範囲に調整し、さらに、調整された座屈を連続的に生じさせる必要がある。トップカール加工に代表されるような、製品欠陥を生じ易い曲げ加工を、一定の品質を保って大量に行うためには、加工用原紙が優れた曲げ加工適性を有する必要があるが、従来技術における加工用原紙においては、曲げ加工適性に改善の余地があった。
【0007】
本発明の課題は、曲げ加工適性に優れた加工用原紙および紙器用シートであって、製品欠陥の発生を抑制し得る加工用原紙および紙器用シートを提供することである。また、本発明の課題は、当該加工用原紙を用いた紙器および当該紙器用シートを用いた紙器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1] セルロースパルプを主成分とし、少なくとも一方向における折り曲げ角度0~90度の範囲の最大の曲げ応力が215N/m以下である加工用原紙。
[2] 曲げ応力曲線の変曲点が、折り曲げ角度0~40度の範囲に存在する[1]に記載の加工用原紙。
[3] MD方向の引張強度が35kN/m以下であり、CD方向の引張強度が22kN/m以下であり、かつ、MD方向とCD方向の引張強度の平均値が28kN/m以下である[1]又は[2]に記載の加工用原紙。
[4] MD方向の引張強度をT1とし、CD方向の引張強度をT2とした場合、T1/T2の値が1.1以上3.0未満である[1]~[3]のいずれかに記載の加工用原紙。
[5] JIS P 8251:2003に規定される灰分試験方法で測定された灰分の含有量が0.5~40.0質量%である[1]~[4]のいずれかに記載の加工用原紙。
[6] 2以上の紙層から構成され、JAPAN TAPPI 18-2に規定されるインターナルボンドテスター法で測定された層間強度が100J/m以上である[1]~[5]のいずれかに記載の加工用原紙。
[7] JAPAN TAPPI 18-2に規定されるインターナルボンドテスター法で測定された層間強度が1000J/m以下である[6]に記載の加工用原紙。
[8] 3以上の紙層から構成される[1]~[7]のいずれかに記載の加工用原紙。
[9] 最外の紙層の坪量の平均値をW1とし、前記最外の紙層のすぐ内側に位置する第1内層の坪量の平均値をW2とした場合、W1/W2の値が1.05~2.10である[8]に記載の加工用原紙。
[10] JIS P 8251:2003に規定される灰分試験方法で測定された最外の紙層の含有する灰分の含有量が、内側の紙層が含有する灰分の含有量よりも1.0質量%以上少ない[8]又は[9]に記載の加工用原紙。
[11] JIS P 8251:2003に規定される灰分試験方法で測定された最外の紙層の灰分の含有量が0.5質量%未満である[8]~[10]のいずれかに記載の加工用原紙。
[12] 前記紙層の間に接着層をさらに有し、前記接着層は澱粉又はポリアクリルアミドを含む[6]~[11]のいずれかに記載の加工用原紙。
[13] 前記紙層はポリアクリルアミド系紙力増強剤を含み、
前記セルロースパルプ100質量部に対する前記ポリアクリルアミド系紙力増強剤の含有量は、0.02質量部以上1質量部未満である、[1]~[12]のいずれかに記載の加工用原紙。
[14] 坪量が200~400g/mであり、密度が0.80~1.00g/cmである[1]~[13]のいずれかに記載の加工用原紙。
[15] [1]~[14]のいずれかに記載の加工用原紙の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を有する紙器用シート。
[16] 少なくとも一方向における折り曲げ角度0~90度の範囲の最大の曲げ応力が230N/m以下である[15]に記載の紙器用シート。
[17] 前記加工用原紙の両面に前記熱可塑性樹脂層を有し、
一方の熱可塑性樹脂層の融点が、他方の熱可塑性樹脂層の融点よりも3℃以上低い[15]又は[16]に記載の紙器用シート。
[18] [1]~[14]のいずれかに記載の加工用原紙もしくは[15]~[17]のいずれかに記載の紙器用シートから構成される紙器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、曲げ加工適性に優れ、かつ製品欠陥の発生を抑制し得る加工用原紙および紙器用シートを提供することができる。また、当該加工用原紙を用いて製品欠陥の少ない紙器および当該紙器用シートを用いて製品欠陥の少ない紙器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】曲げ応力曲線のグラフが変曲点を有する例である。
図2】曲げ応力曲線のグラフが変曲点を有さない例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。本明細書中、「X~Y」で表される数値範囲は、X以上Y以下を意味する。
【0013】
[加工用原紙]
本実施形態の加工用原紙は、セルロースパルプを主成分とする原紙であり、少なくとも一方向における折り曲げ角度0~90度の範囲の最大の曲げ応力が215N/m以下である。本実施形態の加工用原紙は上記構成を有するため、曲げ加工適性に優れており、かつ加工の際には、製品欠陥の発生を抑制することができる。例えば、本実施形態の加工用原紙にトップカール加工(曲げ加工)を施した場合、トップカール部にシワや割れ、剥離等が生じることが抑制される。さらに、このような効果はトップカール加工のみならず、角型加工といった折り加工を施した際にも発揮される。このように、本実施形態の加工用原紙は、曲げ加工適性に優れているため、本実施形態の加工用原紙を用いて紙器(容器)等を成形した場合には、外観に優れた紙器(容器)を得ることができる。
【0014】
本実施形態において、加工用原紙は単層材であってもよいが、3以上の紙層を抄き合わせて構成された多層材であることが好ましい。加工用原紙が多層材である場合、加工用原紙を構成する紙層は、3層以上であることが好ましく、4層以上であることがより好ましく、5層以上であることがさらに好ましい。
【0015】
(パルプ)
加工用原紙は、セルロースパルプ(以降、単にパルプとも称する)を主成分とする。ここで、主成分とは、加工用原紙を構成する成分のうち50質量%以上を占める成分をいう。セルロースパルプの種類には特に制限はないが、強度の観点から化学パルプを含有することが好ましい。化学パルプとしては特に限定されないが、広葉樹クラフトパルプ(LKP)または針葉樹クラフトパルプ(NKP)を含有することが好ましい。パルプは晒パルプでもよく、未晒パルプでもよい。以下、特に断りのない限り、LKPとNKPにはそれぞれ晒パルプまたは未晒パルプを含むが、広葉樹晒クラフトパルプをLBKP、針葉樹晒クラフトパルプをNBKPということがある。LKPとしては、アカシア材やユーカリ材等を、NKPとしてはラジアータパイン材等を使用することができる。
【0016】
LKPはNKPと比較して繊維が短く強度に劣るが、抄紙された紙の地合いや平滑性に優れる。良好な印刷適性を得るためには、加工用原紙の良好な地合いや平滑性が必要であるため、加工用原紙におけるLKPの含有量は、加工用原紙のパルプ成分の合計質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、NKPの含有量は、パルプ成分の合計質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。加工用原紙が多層材である場合、外層(表層および裏層)におけるLKPの含有量は、外層のパルプ成分の合計質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、外層におけるNKPの含有量は、外層のパルプ成分の合計質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。加工用原紙が多層材である場合、中層におけるLKPの含有量は、中層のパルプ成分の合計質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、中層のNKPの含有量は、外層のパルプ成分の合計質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0017】
加工用原紙には、上記NKPおよびLKP以外のパルプ(以下、他のパルプと称す)が含まれていてもよい。他のパルプとしては、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ(DIP)、あるいはケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等が挙げられる。他のパルプの含有量は、パルプ成分の合計質量に対して、3質量%未満であることが好ましく、2質量%未満であることがより好ましく、1質量%未満であることがさらに好ましい。
【0018】
一般に、パルプの濾水度を小さくすれば、抄紙された製品の引張強度を大きくすることができる。なお、濾水度はフリーネスとも呼称される。以降、本明細書におけるフリーネスとはカナディアンスタンダードフリーネス(csf)を指すものとする。
【0019】
フリーネスを小さくすれば引張強度は大きくなるが、同時に、紙が硬くなって成形加工性が低下する傾向にある。引張強度がある程度大きく、かつ、成形加工性にも優れた加工用原紙を実現するためには、パルプの離解フリーネス(csf)が410~600mlであることが好ましい。離解フリーネス(csf)は420~590mlであることがより好ましく、430~580mlであることがさらに好ましい。
【0020】
なお、離解フリーネス(csf)とは、加工用原紙を離解して得られたパルプスラリーを用いて測定したフリーネスの値を指す。離解フリーネス(csf)は、抄紙される前のセルロースパルプのフリーネスを増減することで調整することができる。抄紙される前のセルロースパルプのフリーネス(csf)は360~550mlであることが好ましく、370~540mlであることがより好ましく、380~530mlであることがさらに好ましい。
【0021】
(填料)
加工用原紙を抄紙する際に配合する填料としては、製紙分野で一般に使用されている無機填料や有機填料が使用可能である。無機填料の例としては、クレー、焼成カオリン、デラミネートカオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等が挙げられる。有機填料の例としては、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等が挙げられる。これらの填料は目的に応じて適宜使用することができるが、引張強度を適度に落とし折り曲げ強度を適度に低下させる目的としては、使用が容易であることなどから、軽質炭酸カルシウムの使用が好ましい。
【0022】
上記の填料は、加工用原紙の用途に応じて、単独または2種類以上を適宜組み合わせて使用することができるが、製品欠陥を生じ易い曲げ加工を行った場合も製品欠陥の発生を抑制できる加工用原紙を実現するためには、少なくとも1種の無機填料を含有することが好ましい。無機填料は、加工用原紙の灰分が、0.5質量%未満となるように添加されてもよいが、0.5質量%以上となるように添加されてもよい。無機填料は、加工用原紙の灰分が40.0質量%以下となるように添加されてもよく、30.0質量%以下となるように添加されてもよく、さらに好ましくは25.0質量%以下となるように添加されてもよく、20.0質量%以下となるように添加されてもよく、15.0質量%以下となるように添加されてもよい。なお、上記の灰分の含有量は、加工用原紙の全質量に占める灰分の割合である。より具体的には、灰分は以下の式で算出される値である。
灰分(質量%)=(加工用原紙中に含まれる灰の質量)/(加工用原紙の絶乾質量)
加工用原紙の灰の質量は、JIS P 8251:2003に規定された灰分試験方法(525℃燃焼法)で測定する。加工用原紙の灰分を上記範囲内とすることにより、加工用原紙の層間強度を維持しつつ、引張強度を低下させることが容易となる。なお、層間強度、引張強度については後述する。
【0023】
本実施形態の加工用原紙が3以上の紙層を抄き合わせて構成された多層材である場合、紙層毎に填料の配合量を増減させてもよい。例えば、加工用原紙の表面、換言すれば最外の紙層の表面には、抄紙後に、ラミネート加工等の表面加工が施される場合がある。填料はこれら表面加工に悪影響を及ぼす場合があるため、最外の紙層においては、填料の配合量を減少させるか、または、填料を配合しないことが好ましい。具体的には、3以上の紙層を備えた加工用原紙において、表面および裏面の最外の紙層の含有する灰分は、内側の紙層の含有する灰分量よりも、1.0質量%以上少なくなることが好ましい。また、最外の紙層の含有する灰分は0.5質量%未満であることが好ましい。なお、上記の灰分の含有量は、最外の紙層の全質量に占める灰分の割合である。このように、表面加工を施す最外の紙層に配合する填料を減らし、内層に最外の紙層より多くの填料を配合することにより、表面加工に悪影響を及ぼすことなく曲げ加工適性を向上させることが容易となる。
【0024】
(紙力増強剤)
加工用原紙を抄紙する際に、紙力増強剤を配合してもよい。紙力増強剤は、加工用原紙の紙力を適切に増大させられるものであれば特に限定されない。例えば、乾燥紙力増強剤としては、ポリアクリルアミド系紙力増強剤(PAM系紙力増強剤)、デンプン等が挙げられる。湿潤紙力増強剤としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミド-ポリアミン-エピクロルヒドリン樹脂(ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂)等が挙げられる。中でも、紙力増強剤としてポリアクリルアミド系紙力増強剤(PAM系紙力増強剤)を用いることが好ましい。
【0025】
加工用原紙が例えば、ポリアクリルアミド系紙力増強剤(PAM系紙力増強剤)を含有する場合、ポリアクリルアミド系紙力増強剤(PAM系紙力増強剤)の含有量は、パルプ100質量部に対して0.02質量部以上1.2質量部未満であることが好ましく、0.02質量部以上1質量部未満であることがより好ましい。ポリアクリルアミド系紙力増強剤の含有量を上記範囲内とすることによって過度に紙を硬くさせすぎず、より曲げ加工に適した加工用原紙に制御することができる。
【0026】
(その他の内添助剤)
加工用原紙を抄紙する際に、その他の各種内添助剤を必要に応じて適宜選択して使用してもよい。その他の内添助剤の例としては、サイズ剤、歩留まり向上剤、ろ水度向上剤、嵩高向上剤、増粘剤、硫酸バンド、多価金属化合物、シリカゾル、消泡剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、pH調整剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が挙げられる。
【0027】
加工用原紙を酸性度の高い内容物を入れる用途の紙器に用いる場合、加工用原紙は酸性度の高い内容物によっても劣化しないことが好ましい。一般に紙器に入れられる酸性度の高い内容物とは、例えばヨーグルト等の食品、酸味飲料等である。酸性度の高い内容物によっても劣化しない加工用原紙を実現するためには、サイズ剤としてアルキルケテンダイマーを用いることが好ましい。アルキルケテンダイマーは、酸性の高い食品や飲料と接触してもサイズ性を低下させない。アルキルケテンダイマーの含有量は、パルプ100質量部に対して、0.08~0.4質量部が好ましく、0.1~0.3質量部がより好ましい。
【0028】
(抄紙)
加工用原紙は、3以上の紙層を抄紙機のワイヤー上で抄き合わせて構成された多層材であることが好ましく、5以上の紙層を抄き合わせて構成された多層材であることがより好ましい。紙層の数を増やすことにより、各紙層の坪量を小さくできるため、地合が取りやすくなり、表面性が向上し、印刷性が良好な加工用原紙とすることができる。また、紙層の数が多い方が、罫線を入れる加工を施した際に罫線が入りやすく、罫線部で折り曲げることが容易な加工用原紙とすることができる。複数の紙層から構成される加工用原紙は、一般に、複数のインレットから抄き合わされる多層抄き合わせによって製造される。
【0029】
複数の紙層を抄き合わせて多層材を構成する際には、紙層と紙層の間を澱粉やポリアクリルアミドのような層間接着剤で接着してもよい。すなわち、加工用原紙は、紙層の間に接着層をさらに有していてもよく、この場合、接着層は澱粉又はポリアクリルアミドを含むものであってもよい。これにより、層間強度をより高めることもできる。層間接着剤は、必要な層間強度に応じた任意の量を使用できるが、例えば澱粉を用いる場合は0.1~3.0g/m程度、ポリアクリルアミドを用いる場合は0.01~0.3g/m程度使用することができる。
【0030】
ここで、加工用原紙を構成する各紙層を特定するため、各紙層に名称を付ける。以降、加工用原紙の表と裏の最外に位置する紙層をそれぞれ最外の紙層と称する。両最外の紙層のすぐ内側の紙層を第1内層と称する。第1内層のすぐ内側の紙層を第2内層と称する。以降、紙層の数が増加した場合も、同様の命名規則により、紙層に名称を付けるものとする。
【0031】
加工用原紙は、表裏の最外の紙層の坪量の平均値をW1とし、第1内層の坪量の平均値をW2としたとき、W1/W2=1.05~2.10となるように抄紙されることが好ましく、W1/W2=1.20~2.00となるように抄紙されることがより好ましく、W1/W2=1.50~1.80となるように抄紙されることがさらに好ましい。また、表裏の最外の紙層の坪量の平均値W1は、好ましくは30~200g/m、より好ましくは50~100g/m、さらに好ましくは60~100g/mとなるように抄紙されることが好ましく、第1内層の坪量の平均値W2は、好ましくは10~150g/m、より好ましくは20~100g/m、さらに好ましくは30~60g/mとなるように抄紙されることが好ましい。
【0032】
加工用原紙の抄紙方法および抄紙機の型式は、特に限定されるものではなく、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、ギャップフォーマー、ハイブリッドフォーマー、オントップフォーマー、サクセスフォーマー等の公知の抄紙方法および抄紙機が選択可能である。紙層の積層工程は、少なくとも1枚のワイヤーで脱水された湿紙を、当該ワイヤーとは別の積層用のワイヤーあるいはフェルトの平面上に移行させ、当該積層用のワイヤーあるいはフェルトの平面上で紙層を1層ずつ順番に抄き合わせていく工程であることが好ましい。
【0033】
加工用原紙には、抄紙後に、必要に応じて平滑化処理が行われる。平滑化処理は、通常のスーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトカレンダー等の平滑化処理装置を用いて、オンマシンまたはオフマシンで行われる。
【0034】
インレットからの原料吐出速度とワイヤーの速度との比率はジェットワイヤー比と呼ばれ、この値を制御することにより、繊維配向を制御することができ、結果として引張強度や折り曲げ強度の縦横比を調節することができる。ジェットワイヤー比は、各種強度の縦と横とのバランスを見ながら、例えば0.80~1.20の間で適宜調節することができる。
【0035】
(最大曲げ応力)
最大曲げ応力とは、サンプル紙片を0~90度まで2秒間かけて折り曲げながら、折り曲げ角度毎に測定した応力の最大値を指す。折り曲げ角度と当該折り曲げ角度に対する曲げ応力との相関を示す曲げ応力曲線のグラフの例を、図1,2に示す。図1,2の横軸は折り曲げ角度を示し、縦軸は曲げ応力を示している。すなわち、図1の加工用原紙の最大曲げ応力は、折り曲げ角度81度に対する応力107.14N/mである。図2の加工用原紙の最大曲げ応力は、折り曲げ角度64度に対する応力138.11N/mである。
【0036】
最大曲げ応力の測定には曲げ剛さ測定機(片山抜型製作所製 BST-150M)を使用する。測定するサンプル紙片の幅は38mm、サンプル紙片を固定した位置(クランプ部)から折り曲げ位置(応力測定位置)までの距離は13mmとする。
【0037】
以降では、曲げ加工と最大曲げ応力との関係について、トップカール加工を例に説明する。なお、ここでは、曲げ加工の中でも特に製品に欠陥が生じ易い、曲率の大きなカール加工の例としてトップカール加工を挙げるが、本実施形態の加工用原紙は、絞り加工、折り曲げ加工等の様々な曲げ加工に好適である。
【0038】
トップカール加工は、原紙や原紙を用いたシートの端を直径2~3mm程度の小さな径になるように外側に向かって固く巻き込むカール加工である。トップカール加工の方法はいくつがあるが、ここでは、カーブ形状を施された2つの金型を用いる例について説明する。まず、紙器の上端開口部側から上側成形用の金型をあて、紙器の上端開口部周縁を紙器の外側にカールさせ、トップカール部の上側を成形する。このときにカールさせられた部位を、以降、トップカール形成部位とも称する。次に、下側成形用の金型の曲面に沿って上端開口部周縁をカールの内側に巻き込みながら、上側成形用の金型と下側成形用の金型とでトップカール形成部位をサンドすることにより、トップカール部を成形する。
【0039】
紙器の軸方向における加工用原紙の最大曲げ応力が高すぎる場合、つまり曲げづらくカールさせづらい加工用原紙である場合、トップカールの上側の成形時に成形されるカールの曲率が低くなり、カールが大きくなる。よって、紙器の軸方向における加工用原紙の最大曲げ応力が高すぎると、トップカール形成部位が大きくなる傾向にある。トップカール形成部位が大き過ぎた場合、上側成形用の金型と下側成形用の金型とでトップカール形成部位をサンドしたときに、トップカールの形状は一定であるから、所定の形状にトップカールを納める場合にトップカール形成部位の余剰部分を潰してしまう恐れがある。
【0040】
トップカール形成部位の潰された余剰部分は、トップカール部において、紙器の周方向に伸びるシワ(以降、横シワとも称する)となり、紙器の外観、機能等を損ねる恐れがある。最大曲げ応力が高すぎて曲げづらい加工用原紙は、ここで例に挙げたトップカール加工に限らず、曲げ加工の際に製品に欠陥を生じさせ易い傾向にある。このような欠陥は、加工用原紙を用いて成形した製品の美観を損ねたり、製品の歩留まりを悪化させたりする恐れがある。
【0041】
本実施形態においては、少なくとも一方向における最大曲げ応力が215N/m以下であり、155N/m以下であることが好ましく、135N/m以下であることがより好ましく、130N/m以下であることがさらに好ましく、125N/m以下であることがさらにより好ましい。少なくとも一方向における最大曲げ応力の下限は、特に限定されないが、好ましくは50N/m以上、より好ましくは80N/m以上である。なお、本実施形態においては、MD方向(抄紙機械の長さ方向)の最大曲げ応力が上記範囲内であることが好ましい。曲げ応力は、紙力増強剤の量の調節やパルプの叩解を調節することによって、所望の範囲内に調節することができる。
【0042】
加工用原紙の一方向における最大曲げ応力が215N/m以下であれば、当該一方向に対して行う曲げ加工を容易にすることができる。折り加工はもちろん、トップカール加工のような製品欠陥を生じ易い曲げ加工を行った場合であっても、シワ等の欠陥が生じづらくなり、加工用原紙を用いた製品の歩留まりが向上する。また、曲げ加工が容易になることで加工用原紙を用いた製品の美観も向上する。
【0043】
加工用原紙を用いて成形される紙器、紙筒等にトップカール加工を施す場合は、最大曲げ応力が215N/m以下になる一方向に加工用原紙を巻き込んでトップカール部を作るようにすることが好ましい。すなわち、当該方向を紙器、紙筒等の軸方向とするように紙器、紙筒等を成形することが好ましい。
【0044】
曲げ応力曲線の傾きは、ある折り曲げ角度を境になだらかになる傾向にある。この理由は以下のように考えられる。折り曲げ加工は、折り曲げの外側には引張力を働かせ、折り曲げの内側には圧縮力を働かせる。折り曲げ角度が浅いうちは、前記圧縮力によって加工用原紙の紙層が弾性変形する。折り曲げを続け、折り曲げ角度がある角度を超えると、大きくなった前記圧縮力が加工用原紙の紙層の一部を塑性変形(座屈)させることにより、当該角度以降の折り曲げに要する力が小さくなり、曲げ応力曲線の傾きがなだらかになる。このように材料が塑性変形を開始する点を、一般には当該材料の降伏点と称する。
【0045】
降伏点を境に曲げ応力曲線の傾きが負の値に転じる加工用原紙は、降伏点以降も最大曲げ応力が上昇を続ける加工用原紙よりも、圧縮力によって座屈が強く生じていると考えられる。この座屈は、曲げ加工において重要である。折り曲げの内側の紙層に座屈が生じることにより、曲げ加工を小さな力で行うことが可能になり、紙層の過剰な座屈、折り曲げ部の周辺の傷み等に起因する製品の欠陥を抑制できるからである。よって、以降、降伏点を境に曲げ応力曲線の傾きが負の値に転じる場合、当該降伏点を特に変曲点と呼称し、当該変曲点を曲げ加工適性の指標とする。ここでは、ある点から折り曲げ角度が1度増加するまでの範囲において、曲げ応力曲線の接線の傾きの値が0未満となっている点を変曲点と定義する。
【0046】
例えば、図1の曲げ応力曲線においては、折り曲げ角度33度から曲げ応力曲線の傾きが下降している。つまり、図1においては、折り曲げ角度33度の点が変曲点である。一方、図2の曲げ応力曲線においては、傾きがゆるやかになる降伏点は折り曲げ角度20~30度の間に存在するものの、当該降伏点においては接線の傾きが負の値に転じていない。図2の曲げ応力曲線において、接線の傾きが負の値に転じるのは折り曲げ角度64度である。よって、図2においては、折り曲げ角度64度の点が変曲点である。
【0047】
浅い折り曲げ角度に変曲点を有する加工用原紙は、曲げ加工の対象の部位の曲げの内側に連続的に座屈を生じさせる必要のあるカール加工に有益であり、特に曲率の高いカール加工であるトップカール加工においてはより有益である。
【0048】
以上のことから、曲げ応力曲線は、折り曲げ角度0度以上40度未満の範囲に変曲点を有することが好ましい。折り曲げ角度0度以上度40度未満の範囲に変曲点が存在する加工用原紙は、浅い折り曲げ角度でも曲げ加工の対象の部位の内側に座屈を生じさせることができるため、小さな力で曲げ加工が可能である。小さな力で曲げ加工を行うことができれば、加工用原紙に過剰な応力を誘起しないため、加工用原紙を用いた製品の欠陥を抑制して当該製品の歩留まりを向上できる。また、加工用原紙を用いた製品の美観を向上させることもできる。
【0049】
(層間強度)
層間強度とは、紙層同士を引き剥がす方向に働く力に対する強度のことである。加工用原紙を2層以上の多層抄きで構成する場合、紙層間の層間強度は95J/m以上であることが好ましく、100J/m以上であることがより好ましく、250J/m以上であることがさらに好ましい。また、紙層間の層間強度は1000J/m以下であることが好ましく、700J/m以下であることがより好ましく、620J/m以下であることがさらに好ましい。なお、上記の層間強度は、加工用原紙の縦方向の層間強度と横方向の層間強度の相乗平均値である。層間強度はJAPAN TAPPI 18-2に規定されるインターナルボンドテスター法で測定する。層間強度は、紙力増強剤の調節や叩解の調節、層間接着剤の量の調節することによって、所望の範囲内に調節することができる。
【0050】
加工用原紙の層間強度が100J/m以上であれば、紙層間の結合を強固にし、紙層間の剥離を抑制することができる。一方、層間強度が1000J/m以下であれば、曲げ加工の対象の部位における曲げの内側となる紙層を、外側となる紙層に追随するように座屈変形させることにより、紙層間の剥離の抑制や曲げ加工時の曲げ応力の低下に寄与することができる。
【0051】
(引張強度)
引張強度とは、引張力に対する破断強度のことであり、原紙の固さの指標でもある。一般に引張強度は、抄紙機械の長さ方向(MD方向)において大きく、MD方向に直行する方向(CD方向)において小さくなる。このような一枚の加工用原紙における引張強度の差異は、抄紙の際にパルプ繊維が抄紙機械の長さ方向に配向する傾向にあるために生じる。カール加工を要する紙製品は、加工用原紙の曲げづらさが原因で製品欠陥を生じる傾向にあるが、特に加工用原紙の固さが製品欠陥の原因となり易い紙製品として、例えば、口元にトップカール加工を施した紙カップが挙げられる。
【0052】
軸方向の引張力が大きく、軸方向にカールさせづらい加工用原紙である場合、トップカールの上側の成形時に成形されるカールの曲率が小さくなり、カールが大きくなる。よって、紙器の軸方向における加工用原紙の引張強度が大きすぎると、トップカール形成部位が大きくなる傾向にある。トップカール形成部位が大き過ぎた場合、上側成形用の金型と下側成形用の金型とでトップカール形成部位をサンドしたときに、トップカール形成部位の金型に収まらない余剰部分を潰してしまう恐れがある。
【0053】
トップカール形成部位の潰された余剰部分は、トップカール部において、紙器の周方向に伸びるシワ(以降、横シワとも称する)となり、紙器の外観、機能等を損ねる恐れがある。以上のことから、紙器に加工される加工用原紙には、トップカール加工においてカールされる方向、すなわち当該紙器の軸方向の曲げ易さが求められる。
【0054】
また、紙カップ等の紙器の側面は、対向する両端を接合することによって筒状に形成されるため、周方向に向かって強い弾性回復力(引張力)を受ける。この引張力は、接着層剥がれの原因となる。特にトップカール部においては、曲率の大きいトップカール加工によって紙層が剥がれやすくなっているため、ここに周方向の弾性回復力が加わることによって、より接着層剥がれが発生しやすくなってしまう。よって、紙器に加工される加工用原紙には、当該紙器の周方向の曲げ易さが求められる。
【0055】
このように、紙カップ等の紙器のトップカール部においては、美観に優れたトップカール部を形成するために紙器の軸方向の曲げやすさが要求されると同時に、紙器の周方向に働く弾性回復力による接着層剥がれを抑制するために紙器の周方向の曲げやすさが要求される。
【0056】
本実施形態においては、加工用原紙のMD方向だけでなくCD方向の引張強度についても規定し、さらに、CD方向とMD方向の引張強度の平均値についても規定することによって、複数方向に曲げ加工を施す紙製品に適した加工用原紙が得られることが見出された。例えば、加工用原紙のMD方向の引張強度を35kN/m以下、CD方向の引張強度を22kN/m以下として、かつ、MD方向とCD方向の引張強度の平均値を28kN/m以下とすることにより、原紙のどの方向においてもより曲げ易い加工用原紙が得られやすくなる。より好ましくは、加工用原紙のMD方向の引張強度を35kN/m以下、CD方向の引張強度を22kN/m以下として、かつ、MD方向とCD方向の引張強度の平均値を26kN/m以下とする。MD方向の引張強度は、好ましくは33kN/m以下であり、また、好ましくは15kN/m以上、より好ましくは20kN/m以上、さらに好ましくは25kN/m以上である。CD方向の引張強度は、好ましくは20kN/m以下であり、また、好ましくは10kN/m以上、より好ましくは13kN/m以上、さらに好ましくは15kN/m以上である。MD方向とCD方向の引張強度の平均値は、好ましくは25kN/m以下であり、また、好ましくは15kN/m以上、より好ましくは18kN/m以上、さらに好ましくは21kN/m以上である。さらに、加工用原紙のMD方向の引張強度を20~30kN/m、CD方向の引張強度を10~20kN/m、MD方向とCD方向の引張強度の平均値を15~24kN/mとすることも好ましい。加工用原紙のMD方向とCD方向の引張強度を上記範囲内とすることにより、曲げ加工時の曲げ応力の過大な上昇を抑制することもできる。なお、引張強度は、JIS P 8113:2006に規定された方法に準拠して、JIS P 8111:1998に規定された調湿環境下にて調湿後の加工用原紙について測定した値である。測定機としては、横型引張試験機(L&W社製 CODE SE-064)を用いることができる。引張強度は、紙力増強剤の量の調節やパルプの叩解を調節する、填料の添加量を調節することによって、所望の範囲内に調節することができる。
【0057】
また、加工用原紙のMD方向の引張強度をT1、CD方向の引張強度をT2としたとき、T1/T2の値は、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.1以上、さらにより好ましくは1.3以上、さらに一層好ましくは1.4以上である。また、T1/T2の値は、好ましくは3.5未満、より好ましくは3.0未満、さらに好ましくは2.5未満、さらにより好ましくは2.0未満である。T1/T2の値をこのような範囲とすることにより、CD方向とMD方向双方における引張り力に対する強さのバランスのよい加工用原紙を得ることができる。T1/T2の値は、ジェットワイヤー比の調整による繊維配向比の調整等によって調整することができる。
【0058】
(坪量)
加工用原紙の合計坪量は、200~550g/mであることが好ましく、200~400g/mであることがより好ましい。加工用原紙の合計坪量が上記下限値以上であると、製品に加工するために十分な強度が得られる。一方、加工用原紙の合計坪量が上記上限値以下であると、曲げ加工時に過大な応力が生じにくく、加工適性に優れる。また、加工用原紙の合計坪量が上記上限値以下であると、加工用原紙の折り曲げ時に、曲げの内側の紙層の一部のみ座屈させることが容易となる。
【0059】
加工用原紙において、表裏の最外の紙層の坪量の平均値をW1とし、第1内層の坪量の平均値をW2としたとき、W1/W2=1.05~2.10であることが好ましく、W1/W2=1.20~2.00であることがより好ましい。また、表裏の最外の紙層の坪量の平均値W1は、好ましくは30~200g/m、より好ましくは50~100g/m、さらに好ましくは60~100g/mであり、第1内層の坪量の平均値W2は、好ましくは10~150g/m、より好ましくは20~100g/m、さらに好ましくは30~60g/mである。最外の紙層の坪量を大きくすることにより、最外層の保持水分を増加させ、最外層と第一内層間との抄き合せの際にこれら紙層の間に水素結合をより多く形成することが可能となり、層間強度を向上させる効果が得られる。その結果、最外の紙層と第1内層との剥離を抑制することができる。また、最外の紙層の坪量を大きくすることにより、最外の紙層の強度を大きくし、最外の紙層と第1内層との剥離を抑制することもできる。さらに、最外の紙層の坪量を大きくすることで、加工用原紙の対向する辺同士を接着層で接着して紙筒や紙器を成形する場合において、紙層が接着層に取られて加工用原紙から剥離する現象(接着層剥離)を抑制することができる。
【0060】
(密度)
加工用原紙の密度は、0.80~1.00g/cmであることが好ましい。加工用原紙の密度が0.80g/cm以上であると、製品に加工するために十分な強度が得られる。一方、加工用原紙の密度が1.00g/cm以下であると、加工用原紙の折り曲げ時に、過大な応力が生じにくく、加工適性に優れる。また、加工用原紙の密度が1.00g/cm以下であると、加工用原紙の折り曲げ時に、内側の一部のみ座屈させることが容易となる。
【0061】
本実施形態の加工用原紙は、曲げ加工の適性が高いため、絞り加工、折り曲げ加工、カール加工等の様々な曲げ加工によって、または、これら曲げ加工を組み合わせて製造される紙器、紙蓋、紙筒、紙装飾、その他様々な紙製品に好適である。紙器とは例えば紙皿、紙椀、紙箱、紙パック、紙カップ、紙コップ、その他様々な器状の紙製品のことである。
【0062】
本実施形態の加工用原紙は、複数の方向に十分曲げやすく、例えばトップカール部を備える紙カップのような、複数方向の曲げ加工によって形成される紙器に特に好適である。具体的には、トップカール加工に代表されるような製品欠陥を生じ易い加工を行った場合も製品欠陥を抑制できる。そのため本実施形態の加工用原紙は、紙製品の中でもトップカール部を備えるもの、例えば紙カップ、紙コップ等の紙器に特に好適である。
【0063】
[加工用原紙を用いた紙器]
上記の加工用原紙で成形した紙器について説明する。加工用原紙を用いて紙器を成形する方法は特に限定されず、当該紙器は公知の方法によって製造することができる。前述の加工用原紙の最大曲げ応力の説明中に記載したように、紙器がトップカール部を備える場合等は、加工用原紙の最大曲げ応力が215N/m以下になる方向を当該紙器の軸方向とするように成形されることが好ましい。軸方向における最大曲げ応力は、155N/m以下であることがより好ましく、135N/m以下であることがさらに好ましい。一般的には、紙器全体の圧縮強度を向上する観点から、加工用原紙のMD方向が当該紙器の軸方向となるように、加工用原紙を加工する。
【0064】
[紙器用シート]
紙器用シートは、前述の加工用原紙の少なくとも一方の面上に熱可塑性樹脂層を積層することによって形成される。紙器用シートには、熱可塑性樹脂層により、防水性、断熱性等の様々な機能が付与される。
【0065】
(最大曲げ応力)
紙器用シートは、熱可塑性樹脂層を備えるため、加工用原紙よりも高い最大曲げ応力を有する。このため、紙器用シートの少なくとも一方向における折り曲げ角度0~90度の範囲の最大の曲げ応力は215N/m以下であることが好ましい。少なくとも一方向における折り曲げ角度0~90度の範囲の最大曲げ応力が230N/m以下である紙器用シートにおいては、曲げ加工によって容易に紙器が成形される。紙器用シートの一方向における最大曲げ応力が230N/m以下であれば、加工用原紙の最大曲げ応力の記載と同様の理由により、当該一方向に対して行う曲げ加工による紙器用シートを構成する原紙のシワ、当該シワに伴う熱可塑性樹脂層の割れ等を抑制することができる。原紙のシワや熱可塑性樹脂の割れを抑制することにより、紙器用シートを用いた紙器の歩留まりや美観を向上させることができる。例えばトップカール加工の施される紙器を成形する場合は、加工用原紙の最大曲げ応力の記載と同様の理由により、最大曲げ応力が230N/m以下になる一方向に紙器用シートを巻き込んでトップカール部を作るようにすることが好ましい。すなわち、当該方向を紙器の軸方向とするように成形することが好ましい。
【0066】
(熱可塑性樹脂層)
紙器用シートにおける熱可塑性樹脂層の役割をいくつか例示する。例えば、原紙の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を積層して、紙器用シートに防水性を付与することにより、ゾル、ゲル、液体等を入れて使用する用途の紙器を成形できる紙器用シートとしてもよい。原紙の少なくとも片面に、加熱によって発泡するように熱可塑性樹脂層を積層することにより、断熱性紙器用途の紙器用シートとしてもよい。断熱性紙器用途の紙器用シートで成形された紙器を加熱すると、加熱により軟化した熱可塑性樹脂層が紙層等から蒸発した水蒸気を含んで発泡し、発泡層となる。このように、断熱性紙器用途の紙器用シートで成形された紙器を加熱することにより、発泡層による断熱効果が得られ、断熱性紙器が得られる。
【0067】
熱可塑性樹脂としては、結晶性樹脂と非結晶性樹脂のいずれもが使用できる。具体的には、ポリエチレン(LDPE、MDPE、HDPE、LLDPE等)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、PET、PBT等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸、PHB、PBS、PBAT、PCL、PHBH等の生分解性樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)等が挙げられる。熱可塑性樹脂層は、単一の樹脂から構成された単層で形成してもよいし、複数の樹脂から構成された単層で形成してもよいし、同種や異種の樹脂からなる複数の層として形成してもよい。上記の熱可塑性樹脂の中では、押し出しラミネート性が優れることからポリエチレンが好ましい。また、ポリエチレンは発泡性にも優れているため、断熱性紙器の用途の紙器用シートに適している。
【0068】
紙器用シートにおいては、加工用原紙の両面に熱可塑性樹脂層が配されていてもよい。この場合、両面の熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は同種のものであってもよいが、異種のものであることが好ましい。例えば、一方の熱可塑性樹脂層の融点が、他方の熱可塑性樹脂層の融点よりも3℃以上低いものであることが好ましい。
【0069】
また、紙器用シートが熱可塑性樹脂層を原紙の両面に備える場合に、熱可塑性樹脂層の片方を断熱層(発泡させる層)として、もう片方を防水等の用途の層(発泡させない層)とするときは、断熱層の熱可塑性樹脂の融点を、防水等の用途の層の熱可塑性樹脂の融点よりも3℃以上低くすることが好ましい。
【0070】
熱可塑性樹脂層にこのような融点の差を設けることにより、紙器用シートを加熱したときに、断熱層が軟化し発泡を始める温度に達しても、防水等の用途の層は軟化せずに水蒸気の蒸散を抑制する。水蒸気の蒸散が抑制されることにより、断熱層の発泡性が向上し、断熱性の高い紙器とすることができる。なお、防水等の用途の層として、熱可塑性樹脂層の代わりに金属箔を積層した場合も、熱可塑性樹脂層と同様の効果を得ることができる。その他、紙器用シートの層構成としては、以下のように紙器の用途にあわせた様々な選択が可能である。
【0071】
例えば、断熱性紙器用途の紙器用シートの原紙と熱可塑性樹脂層(断熱層)との間に水溶性高分子層(PVA層)を設ければ、熱可塑性樹脂層を均一に発泡させることができる。熱可塑性樹脂層(断熱層)の上に水溶性樹脂層や金属箔を設ければ、紙層等由来の水蒸気が熱可塑性樹脂層を突き抜けてしまうことを抑制し、水蒸気を熱可塑性樹脂層の中に留め、熱可塑性樹脂層の発泡性を向上させることができる。また、水蒸気バリア性や酸素バリア性を備えた、ガスバリアフィルムやアルミニウム箔、アルミニウム蒸着樹脂層などを使用することで、内容物の長寿命化を図ることも可能である。その他、紙器用シートには、顔料及び接着剤を主成分とする塗工層を設けてもよいし、印刷層等を積層してもよい。
【0072】
[紙器用シートを用いた紙器]
紙器用シートで成形された紙器について説明する。紙器は、上述した加工用原紙もしくは上述した紙器用シートから構成される。紙器用シートを用いて紙器を成形する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いて製造することができる。前述の紙器用シートの最大曲げ応力の説明中に記載したように、トップカール部を備える紙器は、紙器用シートの最大曲げ応力が215N/m以下になる方向を当該紙器の軸方向とするように成形されることが好ましい。
【実施例
【0073】
以下、実施例により本発明の効果を詳細に説明する。なお、実施例および比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り、それぞれ「質量部」および「質量%」を示す。また、特にことわりが無い限り、実施例および比較例の操作は、温度20~25℃、相対湿度40~50%の条件で行った。なお、以下の実施例の記載において「最外の紙層」は、表中における第1層及び第5層にそれぞれ対応しており、「第1内層」は、表中における第2層及び第4層にそれぞれ対応しており、「第2内層」は、表中における第3層に対応している。
【0074】
[材料]
実施例および比較例で用いた材料は以下のとおりである。
(1)パルプ:LBKP:アカシア材、ユーカリ材
NBKP:ダグラスファー、ラジアータパイン、スギ
(2)紙力増強剤:ポリアクリルアミド系紙力増強剤(PAM)
(3)湿潤紙力増強剤:ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン系(PAE系)樹脂
(4)カチオン化澱粉
(5)硫酸バンド
(6)サイズ剤:アルキルケテンダイマー系サイズ剤(AKD)
(7)内添填料:炭酸カルシウム
(8)水溶性樹脂:中間けん化型ポリビニルアルコール(PVA)、けん化度96.5モル%
(9)熱可塑性樹脂:低密度ポリエチレン(LDPE)、密度918kg/m、融点103℃
(10)高融点熱可塑性樹脂:中密度ポリエチレン(MDPE)、密度940kg/m、融点133℃
【0075】
[測定方法]
加工用原紙および紙器用シートの紙質の測定方法は以下である。
(1)最大曲げ応力:JIS P 8111:1998に規定された調湿環境下にて調湿後の加工用原紙について、曲げ剛さ測定機(片山抜型製作所製 BST-150M)を使用して測定した。測定サンプルの幅を38mm、クランプ部から折り曲げ位置の距離を13mmとして、0~90度までを2秒間かけて折り曲げながら、測定された荷重の最大値をN/mの単位にして曲げ応力を測定した。
(2)層間強度:JAPAN TAPPI 18-2に準拠して、加工用原紙の縦方向と横方向について測定し、その相乗平均値を求めた。なお、両面テープは3M社製400を使用した。
(3)引張強度:JIS P 8113:2006に規定された方法に準拠して、JIS P 8111:1998に規定された調湿環境下にて調湿後の加工用原紙について測定した。測定機として、横型引張試験機(L&W社製、CODE SE-064)を用いた。
(4)坪量:JIS P 8124:2011に準じて、加工用原紙の坪量を測定した。
(5)密度:JIS P 8118:2014に準じて、加工用原紙の坪量を測定した。
(6)灰分:JIS P 8251:2003規定された灰分試験方法(525℃燃焼法)に準じて、加工用原紙の灰分を測定した。
【0076】
[加工用原紙]
(実施例1)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、硫酸バンド0.5部、カチオン化澱粉0.4部、紙力増強剤(PAM系紙力増強剤)0.45部、アルキルケテンダイマー系サイズ剤0.23部、PAE系湿潤紙力増強剤0.07部添加し、さらに、灰分が全固形分質量に対して7.2質量%となるように、填料として炭酸カルシウムを添加してパルプスラリーを作製した。前記パルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が85g/m、第1内層の坪量が50g/m、第2内層の坪量が50g/mになるように5層をツインワイヤー式抄紙機で抄紙した。抄紙の際には、加工用原紙の引張強度のMD/CD比が1.65になるように各フォーマーのジェットワイヤー比を調節した。以上のようにして、実施例1の加工用原紙を得た。
【0077】
(実施例2)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、硫酸バンド0.5部、カチオン化澱粉0.55部、PAM系紙力増強剤0.50部、アルキルケテンダイマー系サイズ剤0.23部、PAE系湿潤紙力増強剤0.07部、さらに灰分が全固形分質量に対して8.0質量%となるように、填料として炭酸カルシウムを添加したパルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.56になるように抄紙したこと以外は実施例1と同様にして実施例2の加工用原紙を得た。
【0078】
(実施例3)
実施例2と同様のLBKPならびに薬品を添加し、さらに灰分が全固形分質量に対して16.0質量%となるように、填料として炭酸カルシウムを添加したパルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が106g/m、第1内層の坪量が63g/m、第2内層の坪量が62g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.77になるように抄紙したこと以外は実施例1と同様にして実施例3の加工用原紙を得た。
【0079】
(実施例4)
実施例2と同様のLBKPならびに薬品を添加し、さらに灰分が全固形分質量に対して25.0質量%となるように、填料として炭酸カルシウムを添加したパルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が120g/m、第1内層の坪量が90g/m、第2内層の坪量が90g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.87になるように抄紙したこと以外は実施例1と同様にして実施例4の加工用原紙を得た。
【0080】
(実施例5)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、硫酸バンド0.5部、カチオン化澱粉0.4部、紙力増強剤(PAM系紙力増強剤)0.75部、アルキルケテンダイマー系サイズ剤0.30部、PAE系湿潤紙力増強剤0.07部を添加したパルプスラリーを用いて、引張強度のMD/CD比が1.35になるように抄紙したこと以外は実施例1と同様にして実施例5の加工用原紙を得た。
【0081】
(実施例6)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、硫酸バンド0.5部、カチオン化澱粉0.4部、紙力増強剤(PAM系紙力増強剤)1.10部、アルキルケテンダイマー系サイズ剤0.23部、PAE系湿潤紙力増強剤0.14部を添加したパルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.47になるように抄紙したこと以外は実施例1と同様にして実施例6の加工用原紙を得た。
【0082】
(実施例7)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、硫酸バンド0.5部、カチオン化澱粉0.20部、紙力増強剤(PAM系紙力増強剤)0.25部、アルキルケテンダイマー系サイズ剤0.30部、PAE系湿潤紙力増強剤0.07質部を添加したパルプスラリーを用いて、坪量が320g/mとなり、引張強度のMD/CD比が1.66になるように長網式抄紙機で単層に抄紙したこと以外は実施例1と同様にして、実施例7の単層の加工用原紙を得た。
【0083】
(実施例8)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、硫酸バンド0.5部、カチオン化澱粉0.40部、紙力増強剤(PAM系紙力増強剤)0.70部、アルキルケテンダイマー系サイズ剤0.23部、PAE系湿潤紙力増強剤0.14部を添加したパルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.37になるように抄紙したこと以外は実施例1と同様にして実施例8の加工用原紙を得た。
【0084】
(実施例9)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、硫酸バンド0.5部、カチオン化澱粉0.40部、紙力増強剤(PAM系紙力増強剤)0.90部、アルキルケテンダイマー系サイズ剤0.23部、PAE系湿潤紙力増強剤0.14部を添加したパルプスラリーを用いて、引張強度のMD/CD比が1.78になるように抄紙したこと以外は実施例1と同様にして実施例9の加工用原紙を得た。
【0085】
(実施例10)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、硫酸バンド0.5部、カチオン化澱粉0.40部、紙力増強剤(PAM系紙力増強剤)0.75部、アルキルケテンダイマー系サイズ剤0.23部、PAE系湿潤紙力増強剤0.14部を添加したパルプスラリーを用いて、引張強度のMD/CD比が1.76になるように抄紙したこと以外は実施例1と同様にして実施例10の加工用原紙を得た。
【0086】
(実施例11)
実施例3と同様にして調整したパルプスラリーを使用し、最外の紙層の坪量が133g/m、第1内層の坪量が134g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.77になるように3層を抄紙したこと以外は実施例1と同様にして実施例11の加工用原紙を得た。
【0087】
(実施例12)
実施例1と同様にして調整したパルプスラリーを使用し、全ての紙層の坪量が64g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.64になるようにツインワイヤー式抄紙機で抄紙したこと以外は実施例1と同様にして実施例12の加工用原紙を得た。
【0088】
(実施例13)
実施例1と同様にして調整したパルプスラリーを使用し、最外の紙層の坪量が70g/m、第1内層の坪量が60g/m、第2内層の坪量が60g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.64になるように抄紙したこと以外は実施例1と同様にして実施例13の加工用原紙を得た。
【0089】
(実施例14)
パルプをLBKP70%とNBKP30%を混合したものに変更し、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.94になるように抄紙したこと以外は実施例2と同様にして実施例14の加工用原紙を得た。
【0090】
(実施例15)
最外の紙層用のパルプとしてはLBKP70%とNBKP30%を混合したものを用いた。第1内層と第2内層用のパルプとしてはLBKP100%を用いた。最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.80になるように抄紙したこと以外は実施例2と同様にして実施例15の加工用原紙を得た。
【0091】
(実施例16)
最外の紙層用のパルプとしてはLBKP100%を用いた。第1内層と第2内層用のパルプとしてはLBKP70%とNBKP30%を混合したものを用いた。最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.80になるように抄紙したこと以外は実施例2と同様にして実施例16の加工用原紙を得た。
【0092】
(実施例17)
パルプをLBKP50%とNBKP50%を混合したものに変更し、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.75になるように抄紙したこと以外は実施例2と同様にして実施例17の加工用原紙を得た。
【0093】
(実施例18)
第1内層および第2内層には実施例2と同様に調整されたパルプスラリーを使用し、最外の紙層には填料の添加量を半分にした以外は実施例2と同様のパルプスラリーを使用し、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.50になるように抄紙したこと以外は実施例2と同様にして、実施例18の加工用原紙を得た。
【0094】
(実施例19)
第1内層および第2内層には、灰分が全固形分質量に対して12.8質量%となるように、填料として炭酸カルシウムを添加した以外は実施例2と同様のパルプスラリーを使用し、最外の紙層には填料を無添加とした以外は実施例2と同様のパルプスラリーを使用し、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.51になるように抄紙したこと以外は実施例2と同様にして、実施例19の加工用原紙を得た。
【0095】
(比較例1)
実施例9と同様にして調整したパルプスラリーを使用し、最外の紙層の坪量が106g/m、第1内層の坪量が63g/m、第2内層の坪量が62g/mになり、引張強度のMD/CD比が1.68になるように抄紙したこと以外は実施例1と同様にして比較例1の加工用原紙を得た。
【0096】
[紙器用シート]
(実施例20)
実施例1の加工用原紙の一方の面に、厚さ40μmとなるように高融点の熱可塑性樹脂(中密度ポリエチレン、密度940kg/m、融点133℃)を溶融温度360℃、積層速度50m/分で押出した。その後、クーリングロールとニップロール(JIS-A硬度:70)を用いて、線圧2kgf/cmで押圧・圧着し、高融点熱可塑性樹脂層を形成した。
【0097】
次いで、実施例1の加工用原紙の他方の面に、厚さ50μmとなるように低融点の熱可塑性樹脂(低密度ポリエチレン、密度918kg/m、融点103℃)を溶融温度360℃、積層速度50m/分で押出した。その後、クーリングロールとニップロール(JIS-A硬度:70)を用いて、線圧2kgf/cmで押圧・圧着し、熱可塑性樹脂層を形成して、実施例20の紙器用シートを得た。
【0098】
(実施例21)
実施例2の加工用原紙の両面に実施例20と同様に熱可塑性樹脂層を積層することにより、実施例21の紙器用シートを得た。
【0099】
(実施例22)
実施例6の加工用原紙の両面に実施例20と同様に熱可塑性樹脂層を積層することにより、実施例22の紙器用シートを得た。
【0100】
(実施例23)
実施例7の加工用原紙の両面に実施例20と同様に熱可塑性樹脂層を積層することにより、実施例23の紙器用シートを得た。
【0101】
(実施例24)
実施例8の加工用原紙の両面に実施例20と同様に熱可塑性樹脂層を積層することにより、実施例24の紙器用シートを得た。
【0102】
(実施例25)
実施例4の加工用原紙の両面に実施例20と同様に熱可塑性樹脂層を積層することにより、実施例25の紙器用シートを得た。
【0103】
[紙器(丸型容器)の作製]
以上のようにして得られた加工用原紙および紙器用シートをそれぞれ用いて、紙器の一態様である紙カップを以下のように製造した。まず、紙カップの胴部となるブランクの印刷および打ち抜きを行い、打ち抜いたブランクを加工用原紙のMD方向が軸方向になるように丸めて端部同士をヒートシールすることで、上端開口部の直径が90mm、下端開口部の直径が65mmとなるような円錐台状の筒を作製した。当該筒の下部に底紙をヒートシールにより取り付け、頂部に直径3mmのトップカール部を形成することで、高さ110mmの紙カップを得た。
【0104】
[評価方法]
以上のようにして得られた紙カップについて以下の評価を行った。
【0105】
(トップカール部のシワ)
製罐した紙カップのトップカール部を目視で観察して、横シワの有無を下記の基準で評価を行った。
◎:横シワが全く見られない
○:薄く短い横シワが僅かに見られる
△:薄い横シワが見られる
×:深いはっきりとした横シワが生じている
【0106】
(シーム部の層間剥離)
製罐した紙カップのトップカール部におけるシーム部の紙の断面を目視で観察して、下記基準で評価を行った。
◎:端部における層内剥離が全く見られない
○:層内剥離が若干見られる
△:層内剥離が多く目立つ
×:層内剥離が見られ、紙層が分離している
【0107】
(トップカール部のラミネート間剥離)
製罐した紙カップのトップカール部におけるシーム部のラミネート(ヒートシール)による接着を目視で観察して、下記基準で評価を行った。
◎:シーム部において、ヒートシールによる接着面にめくれ上がりが見られない
○:シーム部において、ヒートシールによる接着面同士に若干の隙間が見られるが、接着がなされている
△:シーム部において、ヒートシールによる接着面から若干のめくれ上がりが見られる
×:シーム部において、ヒートシールによる接着面からシートが剥離し、めくれ上がりが非常に多く目立つ
【0108】
(容器全体の外観)
製罐した紙カップ胴面の印刷状態を比較し、優劣について目視評価を行った。
○:ムラや白抜けが見られない
△:若干のムラや白抜けが見られる
×:ムラや白抜けが非常に多く目立つ
【0109】
(持ちやすさ)
製罐した紙カップを手で持ち上げ、軽く握った時の感触について下記の基準で官能評価を行った。
○:適度な反発性があり、変形しにくく安心感がある
△:握った際に若干のたわみを感じる
×:握った際にたわみや変形が生じ、弱い感じを受ける
【0110】
[紙器(角型容器)の作製]
以上のようにして得られた加工用原紙および紙器用シートをそれぞれ用いて、紙カップの胴部および底部となるブランクの印刷および打ち抜きを行った。打ち抜いた胴部用のブランクを加工用原紙のMD方向が軸方向となるように型に押し付けて端部をヒートシールすることで、四つ角が弧状であり、断面が矩形状である筒を成形した。当該筒の下部に、底紙をヒートシールによって取り付け、断面が矩形状の角型容器を得た。カップの高さは115mm、カップ内径の長辺は100mm、短辺は75mmとし、角のR部は25mmであり、トップ部に加工されたトップカールの直径は4mmとなるように加工した。
【0111】
[評価方法]
以上のようにして得られた紙器(角型容器)について以下の評価を行った。
【0112】
(角部分の割れ)
製罐した角型容器を目視で観察して、角部分の割れを下記の基準で評価した。
○:いずれの角にも割れが生じない
△:いずれかの角に、薄い裂け目のような線が見られる
×:いずれかの角に割れが発生する
【0113】
(カール部の層間剥離)
製罐した角型容器のトップカール部分を目視で観察して、シーム部分における紙の断面について下記の基準で評価を行なった。
○:断面に層内剥離が見られない
△:断面に層内剥離が多く目立つ
×:層内剥離がみられ、紙層が分離している
【0114】
(容器全体の外観)
製罐した角型容器の形状について目視で観察し、下記の基準で評価を行なった。
○:カップを上から見たときに、形状にゆがみが見られない
△:カップを上から見たときに、若干のゆがみが見られる
×:カップにゆがみが見られ、断面が平行四辺形状になっている
【0115】
表1及び2に実施例1~19および比較例1の加工用原紙を用いた紙器についての評価結果を示す。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
表1及び2から明らかなように実施例1~14の紙カップは、曲率の大きなカール加工であるトップカール加工を施した場合にもトップカール部のシワや紙層間の剥離が起こらず、また容器全体の外観にも優れ、持ちやすいものであった。また、実施例5に用いた加工用原紙と実施例8に用いた加工用原紙の坪量、引張強度等は略同一の関係にあるが、実施例8のトップカール部には横シワが全く見られず、実施例5よりさらに美観に優れた紙カップとなっていた。これは、実施例8に用いた加工用原紙の最大曲げ応力が135N/m以下であり、実施例5に用いた加工用原紙よりも加工適性がより高かったためだと考えられる。さらに、実施例8に用いた加工用原紙の変曲点の折り曲げ角度が40度以下であることも、実施例8における横シワの抑制に資していると考えられる。一方、比較例1の加工用原紙を用いて製造された紙カップは、どちらも最大曲げ応力が高すぎるため、特にトップカール部のシワの目立つものであった。
【0119】
表3に実施例20~25の紙器用シートを用いた紙カップについての評価結果を示す。
【0120】
【表3】
【0121】
表2から明らかなように実施例20~25の紙カップは、曲率の大きなカール加工であるトップカール加工を施した場合にもトップカール部のシワや紙層間の剥離、ラミネートと原紙の間の剥離が起こらず、また容器全体の外観にも優れ、持ちやすいものであった。
【0122】
[加工用原紙]
(実施例101)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、乾燥紙力増強剤として澱粉0.5部、ポリアクリルアミド0.5部を添加し、さらに灰分が全固形分質量に対して7.2質量%となるように、填料として炭酸カルシウムを添加して、パルプスラリーを作製した。前記パルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が85g/m、第1内層の坪量が50g/m、第2内層の坪量が50g/mになるように、ツインワイヤー式抄紙機で抄紙した。この際、澱粉を層間接着剤として抄紙した。このようにして実施例101の5層抄きの加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、加工用原紙の引張強度のMD/CD比を1.65に調整した。
【0123】
(実施例102)
灰分が全固形分質量に対して8.0質量%となるように、填料として炭酸カルシウムを添加して、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになるように抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例102の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.56に調整した。
【0124】
(実施例103)
灰分が全固形分質量に対して16.0質量%となるように、填料として炭酸カルシウムを添加して、最外の紙層の坪量が106g/m、第1内層の坪量が63g/m、第2内層の坪量が62g/mになるように抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例103の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.77に調整した。
【0125】
(実施例104)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、乾燥紙力増強剤として澱粉0.5部、ポリアクリルアミド0.9部を添加したパルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになるように抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例104の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.45に調整した。
【0126】
(実施例105)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、乾燥紙力増強剤として澱粉0.5部、ポリアクリルアミド0.1部を添加したパルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになるように抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例105の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.42に調整した。
【0127】
(実施例106)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、乾燥紙力増強剤として澱粉0.2部、ポリアクリルアミド0.1部を添加したパルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになるように抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例106の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.45に調整した。
【0128】
(実施例107)
パルプとしてLBKPを使用し、乾燥紙力剤も填料も無配合のパルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになるように抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例107の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.52に調整した。
【0129】
(実施例109)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、乾燥紙力増強剤として澱粉0.5部、ポリアクリルアミド0.5部添加し、さらに灰分が全固形分質量に対して4.0質量%となるように、填料として炭酸カルシウムを添加したパルプスラリーを最外の紙層用として作製した。次に、パルプとしてLBKPを使用し、乾燥紙力増強剤として澱粉0.5部、ポリアクリルアミド0.5部を添加し、さらに灰分が全固形分質量に対して8.0質量%となるように、填料として炭酸カルシウムを添加したパルプスラリーを第1、第2内層用のパルプスラリーとして作製した。これらのパルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになるように抄紙したこと以外は実施例101と同様にして、実施例109の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.50に調整した。
【0130】
(実施例110)
パルプとしてLBKPを使用し、固形分換算でパルプ原料100部に対し、乾燥紙力増強剤として澱粉0.5部、ポリアクリルアミド0.5部添加したパルプスラリーを最外の紙層用として作製した。次に、パルプとしてLBKPを使用し、乾燥紙力増強剤として澱粉0.5部、ポリアクリルアミド0.5部を添加し、さらに灰分が全固形分質量に対して12.8質量%となるように、填料として炭酸カルシウムを添加したパルプスラリーを第1、第2内層用のパルプスラリーとして作製した。これらのパルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになるように抄紙したこと以外は実施例101と同様にして、実施例110の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.51に調整した。
【0131】
(実施例111)
パルプとしてLBKPを使用し、乾燥紙力剤も填料も無配合のパルプスラリーを用いて、最外の紙層の坪量が54.5g/m、第1内層の坪量が32g/m、第2内層の坪量が32g/mになるように抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例111の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.49に調整した。
【0132】
(実施例112)
抄紙の際に、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.09に調整したこと以外は実施例102と同様にして実施例112の加工用原紙を得た。
【0133】
(実施例113)
パルプスラリーを作製する際に全固形分質量に対する灰分の含有量を8.0質量%となるように炭酸カルシウムの添加量を変更し、さらに、最外の紙層の坪量が120g/m、第1内層の坪量が80g/mになるように3層に抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例113の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.58に調整した。
【0134】
(実施例114)
パルプスラリーを作製する際に全固形分質量に対する灰分の含有量を8.0質量%となるように炭酸カルシウムの添加量を変更し、さらに、最外の紙層の坪量が64.5g/m、第1内層の坪量が57g/m、第2内層の坪量が57g/mになるように抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例114の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.56に調整した。
【0135】
(実施例115)
パルプスラリーを作製する際に全固形分質量に対する灰分の含有量を8.0質量%となるように炭酸カルシウムの添加量を変更し、さらに、すべての紙層の坪量が60g/mになるように抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例115の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.58に調整した。
【0136】
(実施例116)
パルプスラリーを作製する際に全固形分質量に対する灰分の含有量を8.0質量%となるように炭酸カルシウムの添加量を変更し、さらに、層間接着剤として澱粉およびポリアクリルアミドを用い、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになるように抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例116の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.60に調整した。
【0137】
(実施例117)
パルプスラリーを作製する際に全固形分質量に対する灰分の含有量を8.0質量%となるように炭酸カルシウムの添加量を変更し、さらに、層間接着剤を用いず、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになるように抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例117の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.56に調整した。
【0138】
(実施例118)
パルプとしてLBKPを用い、固形分換算でパルプ原料100部に対し、乾燥紙力増強剤として澱粉0.5部、ポリアクリルアミド0.2部を添加したパルプスラリーを用い、最外の紙層の坪量が80g/m、第1内層の坪量が47g/m、第2内層の坪量が46g/mになるように、円網抄紙機で抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例118の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.30に調整した。
【0139】
(実施例119)
パルプとしてLBKPを用い、固形分換算でパルプ原料100部に対し、乾燥紙力増強剤として澱粉0.2部、ポリアクリルアミド0.2部を添加したパルプスラリーを用い、坪量320g/mの単層になるように、長網抄紙機で抄紙したこと以外は実施例101と同様にして実施例119の加工用原紙を得た。なお、抄紙の際には、ジェットとワイヤーの速度差(ジェットワイヤー比)で繊維配向を調節することによって、引張強度のMD/CD比を1.66に調整した。
【0140】
[紙器用シート]
(実施例120)
実施例104の加工用原紙の一方の面に、厚さ40μmとなるように高融点の熱可塑性樹脂(中密度ポリエチレン、密度940kg/m、融点133℃)を溶融温度360℃、積層速度50m/分で押出した。その後、クーリングロールとニップロール(JIS-A硬度:70)を用いて、線圧2kgf/cmで押圧・圧着し、高融点熱可塑性樹脂層を形成した。
【0141】
次いで、実施例104の加工用原紙の他方の面に、厚さ50μmとなるように低融点の熱可塑性樹脂(低密度ポリエチレン、密度918kg/m、融点103℃)を溶融温度360℃、積層速度50m/分で押出した。その後、クーリングロールとニップロール(JIS-A硬度:70)を用いて、線圧2kgf/cmで押圧・圧着し、熱可塑性樹脂層を形成して、実施例120の紙器用シートを得た。
【0142】
(実施例121)
実施例101の加工用原紙の両面に実施例120と同様に熱可塑性樹脂層を積層することにより、実施例121の紙器用シートを得た。
【0143】
[紙器]
以上のようにして得られた実施例の加工用原紙および実施例の紙器用シートをそれぞれ用いて、紙器の一態様である紙カップを以下のように製造した。なお、実施例101~119の加工用原紙については、まず紙容器用シートに加工してから紙カップへの加工を行った。実施例101~119の加工用原紙を紙器用シートに加工した方法は、実施例120と同様である。まず、紙カップの胴部となるブランクの印刷および打ち抜きを行い、打ち抜いたブランクを加工用原紙のMD方向が軸方向になるように丸めて端部同士をヒートシールすることで、上端開口部の直径が90mm、下端開口部の直径が65mmとなるような円錐台状の筒を作製した。当該筒の下部に底紙をヒートシールにより取り付け、頂部に直径3mmのトップカール部を形成することで、高さ110mmの紙カップを得た。
【0144】
[評価方法]
以上のようにして得られた紙カップについて以下の評価を行った。
【0145】
(トップカール部の割れ)
製罐した紙カップのトップカール部を目視で観察して、トップカール部周上に割れの有無を下記の基準で評価を行った。
○:割れが全く見られない
△:薄いひび割れが極少量見られる
×:深いひび割れが見られる
【0146】
(トップカール部の剥離)
製罐した紙カップのトップカール部におけるシーム部における紙の断面を目視で観察して、下記基準で評価を行った。
○:層内剥離が見られない
△:薄い層内剥離が見られる
×:層内剥離が見られ、紙層が分離している
【0147】
(ラミネート間の剥離)
製罐した紙カップのシーム部分を目視で観察して、下記基準で評価を行った。
○: シーム部分のめくれ上がりが見られない
△: シーム部分に若干の隙間が見られるが、接着がなされている
×: 接着面で剥離し、シーム部分のめくれ上がりが目立つ
【0148】
(トップカール部のシワ)
製罐した紙カップのトップカール部を目視で観察して、横シワの有無を下記の基準で評価を行った。
○:横シワが全く見られない
△:薄い横シワが見られる
×:深いはっきりとした横シワが生じている
【0149】
(容器全体の外観)
製罐した紙カップ胴面の印刷状態を比較し、優劣について目視評価を行った。
○:ムラや白抜けが見られない
△:若干のムラや白抜けが見られる
×:ムラや白抜けが非常に多く目立つ
【0150】
(持ちやすさ)
製罐した紙カップを手で持ち上げ、軽く握った時の感触について下記の基準で官能評価を行った。
○:適度な反発性があり、変形しにくく安心感がある
△:握った際に若干のたわみを感じる
×:握った際にたわみや変形が生じ、弱い感じを受ける
【0151】
[評価方法]
表4及び5に実施例の加工用原紙を用いた紙カップについての評価結果を示す。
【0152】
【表4】
【0153】
【表5】
【0154】
表4及び5から明らかなように、実施例101~119の加工用原紙を用いて製造された紙カップは、側壁の形成およびトップカール部の形成のために、MD方向とCD方向の両方に曲げ加工が施されても、接合部やトップカール部の割れ、剥離、シワ等が発生せず、また容器全体の外観にも優れ、持ちやすいものであった。
【0155】
表6に実施例120、121の紙器用シートを用いた紙カップについての評価結果を示す。
【0156】
【表6】
【0157】
表6から明らかなように、実施例104の加工用原紙を用いて製造された実施例120の紙器用シート、および、実施例101の加工用原紙を用いて製造された実施例121の紙器用シートの引張強度は、ラミネート加工を行ってもほぼ変化しなかった。実施例120、121の紙器用シートを用いて製造された紙器は、接合部の接着層剥離やトップカール部の割れ、剥離、シワ等が発生せず、ラミネートされた熱可塑性樹脂も剥がれづらいまた容器全体の外観にも優れ、持ちやすいものであった。
図1
図2