(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】加熱炉
(51)【国際特許分類】
F27D 7/04 20060101AFI20241210BHJP
F27B 9/30 20060101ALI20241210BHJP
F27D 7/02 20060101ALI20241210BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20241210BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
F27D7/04
F27B9/30
F27D7/02 A
F27D7/06 C
F27D19/00 A
(21)【出願番号】P 2022007622
(22)【出願日】2022-01-21
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130638
【氏名又は名称】野末 貴弘
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西澤 均
(72)【発明者】
【氏名】秋本 茂
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐里
(72)【発明者】
【氏名】雷 健太
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-354041(JP,A)
【文献】特開2019-152407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 7/04
F27B 9/30
F27D 7/02
F27D 7/06
F27D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物の熱処理を行うための熱処理空間を有し、前記熱処理空間内に配置された加熱部を備える本体部と、
熱処理を行うために必要なガスを前記本体部の前記熱処理空間に供給するガス供給部と、
前記本体部に接続されたガスラインを有し、前記熱処理空間から前記ガスラインへのガスの吸引と、前記ガスラインに吸引されたガスの前記熱処理空間への噴出とを繰り返し行う吸引噴出部と、
前記ガスラインの内部に配置され、熱交換可能な蓄熱体と、
を備え、
前記ガスラインを介したガスの吸引および噴出時に、前記ガスラインから前記熱処理空間へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルと、前記熱処理空間から前記ガスラインへ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積が0以下となるように、前記ガスラインが配置され
、
前記ガスラインには、一端に位置する第1の吸引噴出口から前記本体部の外側に向かって延伸する第1の延伸部と、他端に位置する第2の吸引噴出口から前記本体部の外側に向かって延伸する第2の延伸部とが含まれており、
前記吸引噴出部は、前記第1の延伸部に配置された第1のファンと、前記第2の延伸部に配置された第2のファンとを備え、
前記ガスラインに配置され、前記熱処理空間から吸引されて前記蓄熱体を通過したガスを冷却するための冷却器をさらに備え、
前記蓄熱体には、前記第1の延伸部に配置された第1の蓄熱体と、前記第2の延伸部に配置された第2の蓄熱体とが含まれ、
前記冷却器には、前記第1の蓄熱体と前記第1のファンとの間に配置された第1の冷却器と、前記第2の蓄熱体と前記第2のファンとの間に配置された第2の冷却器とが含まれることを特徴とする加熱炉。
【請求項2】
前記蓄熱体は、前記ガスラインの内部のうち、前記本体部の内部に位置する部分に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の加熱炉。
【請求項3】
前記蓄熱体は、前記ガスラインの内部のうち、前記本体部を貫通している領域に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の加熱炉。
【請求項4】
前記蓄熱体の一部は、前記本体部の前記熱処理空間内に露出していることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の加熱炉。
【請求項5】
前記被処理物が前記熱処理空間内に載置される載置面に対して、前記被処理物が載置される側に延びる単位法線ベクトルと、前記ガスラインから前記熱処理空間へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積が負となるように、前記ガスラインが配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の加熱炉。
【請求項6】
前記ガスラインを延伸方向と直交する面で切断したときの断面積のうち、前記熱処理空間側における先端の断面積は、前記蓄熱体が配置されている領域の平均断面積より小さいことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の加熱炉。
【請求項7】
前記吸引噴出部は、前記第1の延伸部に配置され、前記第1のファンの駆動によるガスの流れとは逆向きにガスを流すための第3のファンと、前記第2の延伸部に配置され、前記第2のファンの駆動によるガスの流れとは逆向きにガスを流すための第4のファンとをさらに備えることを特徴とする請求項
1に記載の加熱炉。
【請求項8】
前記第1のファンおよび前記第3のファンは、一方のファンの駆動によるガスが他方のファンに向かうように配置されており、
前記第2のファンおよび前記第4のファンは、一方のファンの駆動によるガスが他方のファンに向かうように配置されていることを特徴とする請求項
7に記載の加熱炉。
【請求項9】
前記冷却器は、ガスが流れるガス流路と、冷媒が流れる冷媒流路とが交互に積層された熱交換器であることを特徴とする請求項
1に記載の加熱炉。
【請求項10】
前記第1の冷却器および前記第2の冷却器は、前記ガスラインの前記第1の延伸部および前記第2の延伸部のうち、ガスの吸引流路となる延伸部に配置されている冷却器の冷却機能はオン、ガスの噴出流路となる延伸部に配置されている冷却器の冷却機能はオフとなるように構成されていることを特徴とする請求項
1または
9に記載の加熱炉。
【請求項11】
前記ガスラインには、水平方向に延伸する部分と、鉛直方向に延伸する部分が含まれており、
前記蓄熱体は、前記ガスラインのうち、前記水平方向に延伸する部分に配置されており、前記冷却器は、前記鉛直方向に延伸する部分に配置されていることを特徴とする請求項
1、9および10のいずれか一項に記載の加熱炉。
【請求項12】
前記ガスラインの内部のうち、前記冷却器の鉛直下方に配置され、水を気化するための気化器をさらに備えることを特徴とする請求項
11に記載の加熱炉。
【請求項13】
前記吸引噴出部は、複数設けられていることを特徴とする請求項1~
12のいずれか一項に記載の加熱炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉に関する。
【背景技術】
【0002】
炉内にガスを供給し、被処理物の熱処理を行う加熱炉が知られている。
【0003】
そのような加熱炉の一つとして、特許文献1には、炉内のガスを循環ファンによって炉外循環経路に導入するとともに、炉外循環経路に導入したガスを再び炉内に戻す加熱炉が開示されている。この加熱炉では、炉外循環経路のうち、炉の外の位置に蓄熱体が設けられている。炉内から炉外循環経路に導入されたガスは、蓄熱体で熱交換が行われて低温とされ、炉内に戻されるガスは蓄熱体で熱交換が行われて高温とされてから炉内へと噴出される。そのような構成により、特許文献1に記載の加熱炉では、高温で強い循環流を炉内に供給することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の加熱炉では、対向する一対の側壁のうち、一方の側壁に炉外循環経路の一端が接続され、他方の側壁に炉外循環経路の他端が接続されている。このため、炉外循環経路の経路長が長くなり、加熱炉の全体のサイズが大きくなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、加熱炉の本体部に接続されるガスラインの経路長を短くして、全体のサイズを小さくすることができる加熱炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の加熱炉は、
被処理物の熱処理を行うための熱処理空間を有し、前記熱処理空間内に配置された加熱部を備える本体部と、
熱処理を行うために必要なガスを前記本体部の前記熱処理空間に供給するガス供給部と、
前記本体部に接続されたガスラインを有し、前記熱処理空間から前記ガスラインへのガスの吸引と、前記ガスラインに吸引されたガスの前記熱処理空間への噴出とを繰り返し行う吸引噴出部と、
前記ガスラインの内部に配置され、熱交換可能な蓄熱体と、
を備え、
前記ガスラインを介したガスの吸引および噴出時に、前記ガスラインから前記熱処理空間へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルと、前記熱処理空間から前記ガスラインへ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積が0以下となるように、前記ガスラインが配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の加熱炉は、ガスラインから熱処理空間へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルと、熱処理空間からガスラインへ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積が0以下となるようにガスラインが配置されている。そのような配置とすることにより、ガスラインの経路長を短くすることができ、加熱炉全体のサイズを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態における加熱炉の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示す加熱炉をII-II線に沿って切断したときの構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】コンパクト熱交換器を用いた冷却器の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図4】(a)は、第1の実施形態における加熱炉において、ガスラインの第1の吸引噴出口からガスを吸引し、第2の吸引噴出口からガスを噴出するときの動作を説明するための図であり、(b)は、ガスラインの第2の吸引噴出口からガスを吸引し、第1の吸引噴出口からガスを噴出するときの動作を説明するための図である。
【
図5】第2の実施形態における加熱炉の構成を模式的に示す断面図である。
【
図6】(a)は、第2の実施形態における加熱炉において、ガスラインの第1の吸引噴出口からガスを吸引し、第2の吸引噴出口からガスを噴出するときの動作を説明するための図であり、(b)は、ガスラインの第2の吸引噴出口からガスを吸引し、第1の吸引噴出口からガスを噴出するときの動作を説明するための図である。
【
図7】第3の実施形態における加熱炉の構成を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図7に示す加熱炉を矢印Y1の方向から見たときの構成を模式的に示す図である。
【
図9】第4の実施形態における加熱炉の構成を模式的に示す断面図である。
【
図10】第5の実施形態における加熱炉の構成を模式的に示す断面図である。
【
図11】第5の実施形態における加熱炉において、ガスラインの第1の延伸部から第1の吸引噴出口を介して熱処理空間へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルと、被処理物が載置されるプレートの載置面に対して、被処理物が載置される側に延びる単位法線ベクトルとの関係を示す図である。
【
図12】第6の実施形態における加熱炉の構成を模式的に示す断面図である。
【
図13】第6の実施形態における加熱炉において、ガスラインのうち、第1の吸引噴出口付近の部位を拡大した断面図である。
【
図14】第7の実施形態における加熱炉の構成を模式的に示す断面図である。
【
図15】第8の実施形態における加熱炉の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴を具体的に説明する。
【0011】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態における加熱炉100の構成を模式的に示す断面図である。
図2は、
図1に示す加熱炉100をII-II線に沿って切断したときの構成を模式的に示す断面図である。ただし、
図2では、後述する駆動用ローラ13を省略している。
【0012】
ここでは、加熱炉100がローラーハース炉であるものとして説明する。ローラーハース炉は、炉内の進行方向に沿って一定間隔で複数の駆動用ローラ13が配置され、被処理物1を駆動用ローラ13上で搬送する連続式の加熱炉である。
図1は、被処理物1の搬送方向と直交する面で加熱炉100を切断したときの断面を示している。ただし、加熱炉100がローラーハース炉に限定されることはなく、バッチ式の加熱炉など、他の種類の加熱炉であってもよい。
【0013】
加熱炉100は、本体部10と、ガス供給部20と、吸引噴出部30と、蓄熱体40とを備える。
【0014】
本体部10は、被処理物1の熱処理を行うための熱処理空間11を有し、熱処理空間11内に配置された加熱部12を備える。本体部10の形状や大きさに特に制約はない。加熱部12は、例えば、1300℃程度まで加熱可能なヒーターである。本実施形態では、熱処理空間11に駆動用ローラ13が配置されており、駆動用ローラ13と加熱部12との間に被処理物1が位置するように、被処理物1に対して駆動用ローラ13とは反対側、すなわち、被処理物1の上方に加熱部12が配置されている。ただし、加熱部12の配置場所が被処理物1に対して駆動用ローラ13とは反対側の位置に限定されることはない。
【0015】
本実施形態において、本体部10は、
図1に示すように、第1の側壁10a、第2の側壁10b、炉床壁10cおよび天井壁10dの4つの炉壁を備えている。第1の側壁10aと第2の側壁10b、および、炉床壁10cと天井壁10dはそれぞれ、被処理物1の搬送方向と直交する方向において対向する。また、
図2に示すように、被処理物1の搬送方向の両端は開口されており、被処理物1が出入りする搬出入口につながっている。第1の側壁10a、第2の側壁10b、炉床壁10cおよび天井壁10dを含む本体部10の炉壁は、例えば、断熱材からなる。
【0016】
熱処理対象である被処理物1の種類に制約はなく、例えば、積層セラミックコンデンサ等のチップ状のセラミック電子部品を作製するための未焼成のセラミック素体である。本実施形態では、複数の被処理物1が載せられたプレート2が駆動用ローラ13上を搬送されるように構成されている。プレート2は、例えば、セラミックからなる。
【0017】
ガス供給部20は、熱処理を行うために必要なガスを本体部10の熱処理空間11に供給する。本体部10には、ガス供給口14が設けられており、ガス供給部20により、ガス供給口14を介して熱処理に必要なガスが熱処理空間11に供給される。
【0018】
なお、本体部10には、熱処理空間11の圧力が一定に保たれるように、不要なガスを排出するためのガス排出口15が設けられている。
【0019】
吸引噴出部30は、本体部10に接続されたガスライン31を有し、熱処理空間11からガスライン31へのガスの吸引と、ガスライン31に吸引されたガスの熱処理空間11への噴出とを繰り返し行う。本実施形態において、吸引噴出部30によってガスライン31に吸引されて熱処理空間11へと噴出されるガスは、熱処理空間11内のガスと同じ組成を有するガスである。
【0020】
ガスライン31は、ガスの吸引および噴出時に、ガスライン31から熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルと、熱処理空間11からガスライン31へ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積が0以下となるように配置されている。そのような構成を実現するため、本実施形態における加熱炉100では、
図2に示すように、ガスライン31の一端および他端はともに、本体部10の同一の側壁、より詳しくは第1の側壁10aに接続されている。
【0021】
ただし、ガスライン31の一端および他端はともに、第2の側壁10bに接続されていてもよいし、炉床壁10cまたは天井壁10dに接続されていてもよい。また、ガスライン31の一端が本体部10の2つの側壁10a,10bのうちの1つに接続されており、他端が本体部10の炉床壁10cまたは天井壁10dに接続されていてもよい。
【0022】
ガスライン31の一端は、熱処理空間11に面しており、第1の吸引噴出口16を構成する。ガスライン31の他端は、熱処理空間11に面しており、第2の吸引噴出口17を構成する。
【0023】
本実施形態におけるガスライン31は、
図2に示すように、U字状の形状を有する。すなわち、ガスライン31には、一端に位置する第1の吸引噴出口16から本体部10の外側に向かって延伸する第1の延伸部31aと、他端に位置する第2の吸引噴出口17から本体部10の外側に向かって延伸する第2の延伸部31bと、第1の延伸部31aと第2の延伸部31bとの間を接続する第3の延伸部31cとが含まれる。第1の延伸部31a、第2の延伸部31b、および、第3の延伸部31cはそれぞれ、直線状の形状を有する。第1の延伸部31aと第2の延伸部31bは、第1の側壁10aと直交する方向に、互いに平行に延伸しており、第3の延伸部31cは、第1の側壁10aと平行な方向に延伸している。ただし、ガスライン31の形状がU字状の形状に限定されることはない。
【0024】
第1の延伸部31a、第2の延伸部31b、および、第3の延伸部31cは、いずれも同じ高さに位置する。すなわち、ガスライン31は、ガスが水平方向に流れるように、本体部10に取り付けられている。
【0025】
このように、ガスの吸引および噴出時に、ガスライン31から熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルと、熱処理空間11からガスライン31へ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積が0以下となるように、ガスライン31が配置されていることにより、ガスライン31の経路長を短くすることができ、加熱炉100の構成をコンパクトにすることができる。ガスライン31の経路長が短くなることにより、ガスライン31の設置場所の自由度が向上するとともに、ガスライン31の設置が容易となる。また、ガスライン31の経路長が短くなることにより、ガスがガスライン31を流れるときの流路外への放熱を抑制することができ、熱効率を向上させることができる。
【0026】
なお、特許文献1に記載の加熱炉のように、本体部の対向する一対の側壁の一方にガスラインの一端が接続され、他方にガスラインの他端が接続された構成では、ガスラインから熱処理空間へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルと、熱処理空間からガスラインへ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積は正となる。
【0027】
本実施形態における吸引噴出部30は、ガスライン31の第1の延伸部31aに配置された第1のファン32aと、ガスライン31の第2の延伸部31bに配置された第2のファン32bとを備えている。第1のファン32aおよび第2のファン32bはそれぞれ、送風可能なものであれば、どのような構造のものでもよい。以下の説明では、第1のファン32aと第2のファン32bを総称して、ファン32と呼ぶことがある。
【0028】
第1のファン32aは、駆動時に、ガスがガスライン31の第1の延伸部31aから第3の延伸部31cへと流れるように配置されている。すなわち、第1のファン32aを駆動させると、第1の吸引噴出口16を介して、熱処理空間11からガスライン31の第1の延伸部31aへとガスが吸引される。このとき、第2のファン32bは、非駆動状態とする。熱処理空間11からガスライン31の第1の延伸部31aに吸引されたガスは、第3の延伸部31cおよび第2の延伸部31bを通過して、第2の吸引噴出口17から熱処理空間11へと噴出される。
【0029】
第2のファン32bは、駆動時に、ガスがガスライン31の第2の延伸部31bから第3の延伸部31cへと流れるように配置されている。すなわち、第2のファン32bを駆動させると、第2の吸引噴出口17を介して、熱処理空間11からガスライン31の第2の延伸部31bへとガスが吸引される。このとき、第1のファン32aは、非駆動状態とする。熱処理空間11からガスライン31の第2の延伸部31bに吸引されたガスは、第3の延伸部31cおよび第1の延伸部31aを通過して、第1の吸引噴出口16から熱処理空間11へと噴出される。
【0030】
なお、第1のファン32aを、その駆動時に、ガスがガスライン31の第1の延伸部31aから熱処理空間11へと流れるように配置し、第2のファン32bを、その駆動時に、ガスがガスライン31の第2の延伸部31bから熱処理空間11へと流れるように配置してもよい。その場合、第1のファン32aを駆動させると、第2の吸引噴出口17を介して、熱処理空間11からガスライン31の第2の延伸部31bへとガスが吸引され、第1の吸引噴出口16から熱処理空間11へとガスが噴出される。また、第2のファン32bを駆動させると、第1の吸引噴出口16を介して、熱処理空間11からガスライン31の第1の延伸部31aへとガスが吸引され、第2の吸引噴出口17から熱処理空間11へとガスが噴出される。
【0031】
上述したように、吸引噴出部30によって本体部10の熱処理空間11へと噴出されるガスは、熱処理空間11から吸引したガスであり、熱処理空間11内のガスと同じ組成を有する。すなわち、熱処理空間11から第1の吸引噴出口16を介してガスライン31へと吸引されたガスは、他のガスや空気等が混入されることなく、そのまま第2の吸引噴出口17を介して熱処理空間11へと噴出される。同様に、熱処理空間11から第2の吸引噴出口17を介してガスライン31へと吸引されたガスは、他のガスや空気等が混入されることなく、そのまま第1の吸引噴出口16を介して熱処理空間11へと噴出される。ここでは、熱処理空間11から吸引され、他のガスや空気等が混入されていないガスを、熱処理空間11内のガスと同じ組成を有するガスと定義する。
【0032】
本実施形態における加熱炉100は、ガスライン31に配置され、熱処理空間11から吸引されて後述する蓄熱体40を通過したガスを冷却するための冷却器33を備える。冷却器33には、ガスライン31の第1の延伸部31aに配置された第1の冷却器33aと、ガスライン31の第2の延伸部31bに配置された第2の冷却器33bとが含まれる。第1の冷却器33aは、後述する第1の蓄熱体40aと第1のファン32aとの間に配置されている。第2の冷却器33bは、後述する第2の蓄熱体40bと第2のファン32bとの間に配置されている。
【0033】
第1の冷却器33aは、熱処理空間11からガスライン31の第1の延伸部31aへと吸引され、後述する第1の蓄熱体40aを通過したガスを冷却する。一例として、第1の吸引噴出口16を介して熱処理空間11からガスライン31の第1の延伸部31aへと吸引されたガスは、第1の蓄熱体40aによって100℃程度まで冷却される。第1の蓄熱体40aによって冷却されたガスは、さらに第1の冷却器33aによって、50℃以下に冷却される。これにより、第1のファン32aに高温のガスが流入して熱的ダメージを受けることを抑制することができる。
【0034】
第2の冷却器33bは、熱処理空間11からガスライン31の第2の延伸部31bへと吸引されて、後述する第2の蓄熱体40bを通過したガスを冷却する。一例として、第2の吸引噴出口17を介して熱処理空間11からガスライン31の第2の延伸部31bへと吸引されたガスは、第2の蓄熱体40bによって100℃程度まで冷却される。第2の蓄熱体40bによって冷却されたガスは、さらに第2の冷却器33bによって、50℃以下に冷却される。これにより、第2のファン32bに高温のガスが流入して熱的ダメージを受けることを抑制することができる。
【0035】
また、第1の冷却器33aおよび第2の冷却器33bが設けられていることにより、第1の蓄熱体40aおよび第2の蓄熱体40bの温度分布を平衡状態に維持することができる。すなわち、第1の冷却器33aおよび第2の冷却器33bが設けられていない場合、熱処理空間11からガスライン31へのガスの吸引、および、ガスライン31から熱処理空間11へのガスの噴出を繰り返す過程で、第1の蓄熱体40aおよび第2の蓄熱体40bの温度が上昇する。その場合、第1の蓄熱体40aによって冷却されたガス、および、第2の蓄熱体40bによって冷却されたガスの温度が100℃を大きく上回る可能性がある。
【0036】
しかしながら、本実施形態における加熱炉100では、第1の冷却器33aおよび第2の冷却器33bが設けられているので、第1の蓄熱体40aおよび第2の蓄熱体40bの温度分布の上昇を抑制し、第1の蓄熱体40aを通過したガス、および、第2の蓄熱体40bを通過したガスの温度が100℃を大きく超えることを抑制することができる。
【0037】
後述するように、第1の冷却器33aおよび第2の冷却器33bは、ガスライン31の第1の延伸部31aおよび第2の延伸部31bのうち、ガスの吸引流路となる延伸部に配置されている冷却器の冷却機能はオン、ガスの噴出流路となる延伸部に配置されている冷却器の冷却機能はオフとなるように構成されている。
【0038】
第1の冷却器33aおよび第2の冷却器33bとして、例えば、公知の熱交換器を用いることが可能である。
図3は、熱交換器の1つであるコンパクト熱交換器を用いた冷却器33(第1の冷却器33a,第2の冷却器33b)の構成を模式的に示す斜視図である。
図3に示すように、冷却器33は、高温のガスが流れるガス流路L1と、冷媒が流れる冷媒流路L2とが交互に積層された構造を有する。ガス流路L1と冷媒流路L2は、互いに直交する向きとなるように構成されている。ガス流路L1および冷媒流路L2には、複数のフィンが設けられており、ガス流路L1を流れるガスと、冷媒流路L2を流れる冷媒との間で熱交換が行われる。
【0039】
なお、
図3では、ガス流路L1と冷媒流路L2がそれぞれ2層設けられた構成を示しているが、ガス流路L1および冷媒流路L2の積層数が2に限定されることはない。
【0040】
冷却器33として、ガスが流れるガス流路L1と、冷媒が流れる冷媒流路L2とが交互に積層された熱交換器を用いることにより、必要なガスの冷却を小さいサイズの冷却器で実現することができ、加熱炉100の構成をコンパクトにすることができる。
【0041】
第1の冷却器33aの冷却機能について説明する。冷媒流路L2には、ガス流路L1を流れるガスを冷却するための冷媒が流れる。冷媒は、例えば、冷風である。例えば、冷媒流路L2の上流側に冷却ファンを設けて、冷媒流路L2に冷風を流す。ガス流路L1には、第1の蓄熱体40aを通過したガスが流れる。
【0042】
一例として、第1の蓄熱体40aを通過した100℃程度のガスが30L/minの風量で第1の冷却器33aのガス流路L1に流入するものとする。第1の冷却器33aの冷媒流路L2に、冷媒として、30~120L/minの風量の冷風を流すと、ガス流路L1を流れるガスは50℃程度まで冷却される。第2の冷却器33bについても同様である。
【0043】
なお、第1の冷却器33aおよび第2の冷却器33bは、ガスを冷却できるものであればよく、ガスが流れるガス流路L1と、冷媒が流れる冷媒流路L2とが交互に積層された構造の熱交換器に限定されることはない。また、蓄熱体40によってガスが十分に冷却されるのであれば、冷却器33は省略することが可能である。
【0044】
蓄熱体40は、蓄熱および放熱を繰り返し行うことができる熱交換可能な構造を有しており、ガスライン31の内部に配置されている。本実施形態では、蓄熱体40は、ガスライン31の内部のうち、本体部10の内部に位置する部分、具体的には、本体部10を貫通している領域に設けられている。本実施形態において、蓄熱体40には、ガスライン31の第1の延伸部31aに配置された第1の蓄熱体40aと、第2の延伸部31bに配置された第2の蓄熱体40bとが含まれる。第1の蓄熱体40aおよび第2の蓄熱体40bは、ガスライン31の内部のうち、本体部10の外側の領域まで突出していてもよいが、本体部10の熱処理空間11内には突出していない。
【0045】
なお、
図1および
図2において、蓄熱体40は、ガスライン31の内部のうち、本体部10を貫通している領域の全てに設けられているが、一部にだけ設けられていてもよい。また、蓄熱体40は、ガスライン31の内部のうち、本体部10の外側に設けられていてもよい。
【0046】
蓄熱体40は、熱交換可能な構造を有していればよく、例えば、セラミックで成形されたハニカム形状のセル孔を複数有する筒体や、セラミックからなる複数の球を内部に収容した筒体等である。なお、ハニカム形状のセルは、一般的には、六角形のセルであるが、四角形や三角形等、六角形以外の形状のセルであってもよい。また、蓄熱体40は、セラミック以外の材料から構成されていてもよい。
【0047】
ここで、ガスライン31を介したガスの吸引および噴出動作について説明する。
図4(a)に示すように、第1のファン32aを駆動し、第2のファン32bを非駆動状態とすると、本体部10の熱処理空間11内のガスが第1の吸引噴出口16からガスライン31の第1の延伸部31aへと吸引される。熱処理空間11内のガスの温度は、例えば、約1200℃であるものとする。
【0048】
このとき、ガスの吸引流路となる第1の延伸部31aに配置されている第1の冷却器33aの冷却機能はオンとし、ガスの噴出流路となる第2の延伸部31bに配置されている第2の冷却器33bの冷却機能はオフとする。第1の吸引噴出口16を介して熱処理空間11から吸引されたガスは、ガスライン31の第1の延伸部31aに配置されている第1の蓄熱体40aを通過するが、このとき熱交換が行われて、100℃前後まで温度が低下する。これにより、第1の蓄熱体40aは蓄熱されて高温状態となる。
【0049】
第1の蓄熱体40aを通過したガスは、第1の冷却器33aのガス流路L1を通過することにより、50℃以下の温度まで冷却される。第1の冷却器33aを通過したガスは、ガスライン31の第3の延伸部31cを通って、第2の延伸部31bに流入し、第2の蓄熱体40bへと導入される。このとき、第2の冷却器33bの冷却機能はオフとなっているので、第2の蓄熱体40bに導入されるガスが必要以上に冷却されることを抑制することができる。
【0050】
第2の蓄熱体40bは、前回の熱交換によって蓄熱されて高温状態となっているため、ガスが第2の蓄熱体40bを通過することにより、熱交換によって、熱処理空間11内の温度に近い1150℃程度の温度まで加熱される。第2の蓄熱体40bを通過したガスは、第2の吸引噴出口17から熱処理空間11へと噴出されて、プレート2上の複数の被処理物1の表面に達する。
【0051】
図4(a)では、第1の吸引噴出口16を介して熱処理空間11からガスライン31へとガスが吸引され、第2の吸引噴出口17を介して熱処理空間11へとガスが噴出されるときのガスの流れの向きを矢印で示している。
図4(a)に示すように、熱処理空間11から第1の吸引噴出口16を介してガスライン31に吸引されるガスの流れる向きと、ガスライン31から第2の吸引噴出口17を介して熱処理空間11へと噴出されるガスの流れる向きとは、互いに逆である。したがって、ガスライン31を介したガスの吸引および噴出時に、ガスライン31から熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルと、熱処理空間11からガスライン31へ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積は負となる。
【0052】
なお、ガスライン31からは、第2の吸引噴出口17に向かってガスライン31が延伸する方向に沿ってガスが噴出されるので、
図4(a)に示す例において、ガスライン31から熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとは、ガスライン31の第2の延伸部31bが第2の吸引噴出口17に向かって延伸する方向に沿った単位ベクトルを意味する。また、ガスライン31に吸引されたガスは、ガスライン31が延伸する方向に沿って流れるので、
図4(a)に示す例において、熱処理空間11からガスライン31へ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとは、ガスライン31の第1の延伸部31aが第1の吸引噴出口16から延伸する方向に沿った単位ベクトルを意味する。
【0053】
続いて、
図4(b)に示すように、第2のファン32bを駆動し、第1のファン32aを非駆動状態とすると、本体部10の熱処理空間11内のガスが第2の吸引噴出口17からガスライン31の第2の延伸部31bへと吸引される。このとき、ガスの吸引流路となる第2の延伸部31bに配置されている第2の冷却器33bの冷却機能はオンとし、ガスの噴出流路となる第1の延伸部31aに配置されている第1の冷却器33aの冷却機能はオフとする。熱処理空間11から吸引されたガスは、ガスライン31の第2の延伸部31bに配置されている第2の蓄熱体40bを通過するが、このとき熱交換が行われて、100℃前後まで温度が低下する。これにより、第2の蓄熱体40bは蓄熱されて高温状態となる。
【0054】
第2の蓄熱体40bを通過したガスは、第2の冷却器33bのガス流路L1を通過することにより、50℃以下の温度まで冷却される。第2の冷却器33bを通過したガスは、ガスライン31の第3の延伸部31cを通って、第1の延伸部31aに流入し、第1の蓄熱体40aへと導入される。このとき、第1の冷却器33aの冷却機能はオフとなっているので、第1の蓄熱体40aに導入されるガスが必要以上に冷却されることを抑制することができる。
【0055】
第1の蓄熱体40aは、前回の熱交換によって蓄熱されて高温状態となっているため、ガスが第1の蓄熱体40aを通過することにより、熱交換によって、熱処理空間11内の温度に近い1150℃程度の温度まで加熱される。第1の蓄熱体40aを通過したガスは、第1の吸引噴出口16から熱処理空間11へと噴出されて、プレート2上の複数の被処理物1の表面に達する。
【0056】
図4(b)では、第2の吸引噴出口17を介して熱処理空間11からガスライン31へとガスが吸引され、第1の吸引噴出口16を介して熱処理空間11へとガスが噴出されるときのガスの流れの向きを矢印で示している。
図4(b)に示すように、熱処理空間11から第2の吸引噴出口17を介してガスライン31に吸引されるガスの流れる向きと、ガスライン31から第1の吸引噴出口16を介して熱処理空間11へと噴出されるガスの流れる向きとは、互いに逆である。したがって、ガスライン31を介したガスの吸引および噴出時に、ガスライン31から熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルと、熱処理空間11からガスライン31へ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積は負となる。
【0057】
なお、ガスライン31からは、第1の吸引噴出口16に向かってガスライン31が延伸する方向に沿ってガスが噴出されるので、
図4(b)に示す例において、ガスライン31から熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとは、ガスライン31の第1の延伸部31aが第1の吸引噴出口16に向かって延伸する方向に沿った単位ベクトルを意味する。また、ガスライン31に吸引されたガスは、ガスライン31が延伸する方向に沿って流れるので、
図4(b)に示す例において、熱処理空間11からガスライン31へ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとは、ガスライン31の第2の延伸部31bが第2の吸引噴出口17から延伸する方向に沿った単位ベクトルを意味する。
【0058】
ここでは、上述した第1のファン32aの駆動によるガスの吸引および噴出、および、第2のファン32bの駆動によるガスの吸引および噴出の動作をそれぞれ「1サイクル」と定義する。
【0059】
上述したサイクル、すなわち、第1のファン32aの駆動と第2のファン32bの駆動とを一定時間ごとに繰り返し行うことにより、第1の吸引噴出口16および第2の吸引噴出口17のうちの一方から熱処理空間11内のガスを吸引し、他方から熱処理空間11へとガスを噴出する動作を繰り返し行うことができる。このように、本実施形態における加熱炉100では、第1のファン32aおよび第2のファン32bの駆動および非駆動を切り替えることによって、第1の吸引噴出口16と第2の吸引噴出口17を介したガスの吸引および噴出を切り替えるので、バルブを用いることなく、ガスの吸引および噴出を切り替えることができる。これにより、加熱炉100の構成をコンパクトにすることができ、コストを低減することができる。
【0060】
なお、第1のファン32aおよび第2のファン32bは、例えば、PWM制御によって、任意の出力に制御することが可能である。したがって、例えば、1サイクルの間に、風量の増加および減少を繰り返すように、第1のファン32aおよび第2のファン32bをそれぞれ制御することも可能である。風量の増加および減少を繰り返すことにより、瞬間的に大きなガスの噴出速度を得ることができるので、熱処理空間11内において、噴出流に巻き込まれる高温のガスが増加するエントレインメント現象が生じる。これにより、熱処理空間11へと噴出され、被処理物1の近傍を流れるガスの温度が熱処理空間11内のガスの温度により近くなるので、被処理物1毎の熱処理反応をより均一化させることができる。
【0061】
ここで、ファン32の風量を変更したときの各所におけるガスの温度を調べた。ここでは、蓄熱体40として、セル密度400CPSIであるハニカム形状のセル孔を複数有し、直径30mm、長さ200mmの筒体を用いた。また、炉内温度は800℃、ガスの吸引および噴出をそれぞれ10秒/サイクルで繰り返し、蓄熱体40を通過して熱処理空間11へと噴出されるガスの温度、熱処理空間11から吸引されて蓄熱体40を通過したガスの温度、蓄熱体40を通過してファン32に流入するときのガスの温度をそれぞれ調べた。調べた結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
表1に示すように、ファン32の風量を、14.4L/min、18.0L/min、24.0L/min、30.0L/min、37.2L/min、44.4L/minと変更した。なお、ここでは、第1の冷却器33aおよび第2の冷却器33bに代えて簡易的な冷却器を用い、ともに冷却機能をオンの状態で動作させたときのガスの温度を測定した。
【0064】
ファン32の風量を14.4L/min~44.4L/minの範囲で変更したが、ガスライン31から熱処理空間11へと噴出されるガスの温度は、770℃以上772℃以下となった。熱処理空間11に面した第1の吸引噴出口16および第2の吸引噴出口17近傍の本体部10の内壁の温度を測定したところ、783℃であったので、ガスライン31から熱処理空間11へと噴出されるガスの温度は、炉内温度に近い温度となった。
【0065】
また、熱処理空間11から吸引されて蓄熱体40を通過したガスの温度、および、ファン32に流入するときのガスの温度は、ファン32の風量が大きいほど高くなった。なお、ファン32の風量によって異なるが、蓄熱体40を通過したガスは、ファン32に流入するまでの間に温度が8℃~16℃程度低下している。この実験例では、ファン32の風量を44.4L/minとしたときに、ファン32に流入するときのガスの温度が最も高い59℃となったが、この温度は、ファン32の耐熱温度以下である。
【0066】
なお、炉内温度を800℃より高い温度に設定した場合でも、本実施形態における加熱炉100のように熱交換性の高い冷却器33を設けることによって、ファン32に流入するガスの温度を60℃以下に低下させることができる。
【0067】
ここで、被処理物1が積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品を作製するための未焼成のセラミック素体である場合、熱処理によって、バインダー除去や種々の反応が行われる。バインダーは、例えばカーボンである。例えば、セラミック素体内のバインダーは、150℃付近の温度で熱分解が生じ、最終的には1000℃を超える温度になるまでの間にほぼ完全に除去されるが、600℃を超えるくらいの温度でも、内部に残留する成分を速やかに除去することが望まれる。例えば、バインダーの除去が不完全な状態で炉内の温度が最高温度に到達すると、製造されるセラミック電子部品の構造欠陥や品質低下が生じることが分かっている。したがって、速やかにバインダーを除去することは重要である。
【0068】
一般的に、バインダーの除去には、ガスの流れが有効に作用するため、必要十分な流速のガスを被処理物1の近傍に与えることが望ましい。被処理物1の近傍に必要十分な流速のガスを供給することにより、被処理物1の近傍において、被処理物1の内部からの飛散物を含む飛散ガスの濃度が低下し、被処理物1の内部からの飛散物の除去が促進される。逆に、ガスの流速が低い場合、被処理物1の内部からの飛散物の除去が進みにくくなる。
【0069】
本実施形態における加熱炉100では、吸引噴出部30によって、熱処理空間11からガスライン31へのガスの吸引と、ガスライン31に吸引したガスの熱処理空間11への噴出とを繰り返し行うことにより、炉外から新たにガスを導入する必要なく、必要十分な流速のガスを被処理物1の近傍に供給することができる。ガスライン31から熱処理空間11へと噴出されるガスは、熱処理空間11内のガスと同じ組成を有するガスであるため、ガスライン31から噴出されたガスが当たる位置の被処理物1と、ガスライン31から噴出されたガスが当たらない位置の被処理物1との間での反応バラツキの発生を抑制することができる。
【0070】
また、本実施形態における加熱炉100では、ガスライン31の内部のうち、本体部10の内部に位置する部分に蓄熱体40が配置されているので、本体部10の外に蓄熱体40が配置されている構成と比べて、ガスライン31から熱処理空間11へと噴出されるガスの温度を、熱処理空間11内のガスの温度に近づけることができる。
【0071】
上述したバインダーの除去について、より具体的な例を挙げて説明する。ここでは、被処理物1内にバインダーであるカーボンが存在し、カーボンを燃焼させることによって除去する例について説明する。カーボンの除去は、次式(1)の反応式により行うことが可能である。
C+2H2O → CO2+2H2 (1)
【0072】
式(1)による反応は、水性ガス反応と呼ばれる反応であり、約600℃以上の高温状態でカーボンの除去を行うために、一般的に行われている。この反応では、式(1)に示すように、カーボンの燃焼により生じたCO2とは別に、H2ガスも発生する。質量作用の法則から、被処理物1内または被処理物1の近傍におけるCO2濃度またはH2濃度が高くなると、式(1)で示す反応を抑制する方向に作用する。
【0073】
したがって、カーボンを燃焼させる処理中は、被処理物1内または被処理物1の近傍におけるCO2濃度とH2濃度を低く維持する必要がある。そのためには、常にフレッシュなガス、すなわち、式(1)による生成ガスであるCO2ガスとH2ガスの濃度が低いガスを被処理物1に向けて供給し続ける必要がある。しかしながら、ガスの流量が少なく、被処理物1の周辺におけるガス流速が低い条件では、生成したガスが被処理物1内または被処理物1の近傍に滞留し、式(1)で示す反応は進み難くなる。
【0074】
これに対して、本実施形態における加熱炉100を用いた場合、吸引噴出部30によって本体部10の熱処理空間11からガスライン31へとガスを吸引し、熱処理空間11内のガスと同じ組成で、かつ、熱処理空間11内のガスの温度に近い温度のガスを被処理物1に向けて噴出する動作を繰り返し行うので、吸引噴出部30を設けない構成と比べて、実質数十倍のガスの流れを被処理物1の近傍に形成することができる。したがって、被処理物1の近傍を流れるガスの流量が多くなり、かつ、被処理物1の近傍におけるガスの流速が速くなるため、式(1)の反応により生成されたCO2ガスとH2ガスが被処理物1内または被処理物1の近傍に滞留することを抑制して、被処理物1内または被処理物1の近傍におけるCO2ガスとH2ガスの濃度を低くすることができる。このため、式(1)に示す反応が進みやすくなるので、被処理物1内のカーボンの除去が速やかに進行し、被処理物1毎の残留カーボン量のバラツキを抑制することができる。これにより、残留カーボンの少ない高品質の製品を得ることが可能となる。
【0075】
<第2の実施形態>
図5は、第2の実施形態における加熱炉100Aの構成を模式的に示す断面図である。第2の実施形態における加熱炉100Aが第1の実施形態における加熱炉100と異なるのは、吸引噴出部30の構成である。
【0076】
本実施形態における加熱炉100Aにおいて、吸引噴出部30は、第1の実施形態における吸引噴出部30の構成に対してさらに、第3のファン32cと第4のファン32dとを備える。第3のファン32cおよび第4のファン32dは、第1のファン32aおよび第2のファン32bと同様に、送風可能なものであれば、どのような構造のものでもよい。
【0077】
第3のファン32cは、ガスライン31の第1の延伸部31aに配置され、第1のファン32aの駆動によるガスの流れとは逆向きにガスを流すためのファンである。上述したように、第1のファン32aは、駆動時に、ガスが第1の延伸部31aから第3の延伸部31cへと流れるように配置されているので、第3のファン32cは、駆動時に、ガスが第3の延伸部31cから第1の延伸部31aへと流れるように配置されている。
【0078】
本実施形態において、第1のファン32aおよび第3のファン32cは、一方のファンの駆動によるガスが他方のファンに向かうように配置されている。上述したように、第1のファン32aは、駆動時に、ガスが第1の延伸部31aから第3の延伸部31cへと流れるように配置されているので、第3のファン32cは、ガスライン31の第1の延伸部31aのうち、第1のファン32aに対して第1の冷却器33aとは反対側の位置に設けられている。そのような配置により、第1のファン32aの駆動によるガスは、第3のファン32cに向かって流れ、第3のファン32cの駆動によるガスは、第1のファン32aに向かって流れる。
【0079】
第4のファン32dは、ガスライン31の第2の延伸部31bに配置され、第2のファン32bの駆動によるガスの流れとは逆向きにガスを流すためのファンである。上述したように、第2のファン32bは、駆動時に、ガスが第2の延伸部31bから第3の延伸部31cへと流れるように配置されているので、第3のファン32cは、駆動時に、ガスが第3の延伸部31cから第2の延伸部31bへと流れるように配置されている。
【0080】
本実施形態において、第2のファン32bおよび第4のファン32dは、一方のファンの駆動によるガスが他方のファンに向かうように配置されている。上述したように、第2のファン32bは、駆動時に、ガスが第2の延伸部31bから第3の延伸部31cへと流れるように配置されているので、第4のファン32dは、ガスライン31の第2の延伸部31bのうち、第2のファン32bに対して第2の冷却器33bとは反対側の位置に設けられている。そのような配置により、第2のファン32bの駆動によるガスは、第4のファン32dに向かって流れ、第4のファン32dの駆動によるガスは、第2のファン32bに向かって流れる。
【0081】
このように、ガスライン31の第1の延伸部31aおよび第2の延伸部31bのそれぞれに、ガスの流れが逆向きとなる2つのファンを設けることにより、ファンの駆動によって生じる圧力損失の負荷を2つのファンに分散することが可能となる。これにより、ガスライン31に設けるファン32を小型化することが可能となる。
【0082】
ここで、第2の実施形態における加熱炉100Aのガスライン31を介したガスの吸引および噴出動作について説明する。本体部10の熱処理空間11内のガスを、第1の吸引噴出口16からガスライン31へと吸引する場合、
図6(a)に示すように、第1のファン32aと第4のファン32dを駆動し、第2のファン32bと第3のファン32cを非駆動状態にする。このとき、第1の冷却器33aの冷却機能はオンとし、第2の冷却器33bの冷却機能はオフとする。
【0083】
逆に、本体部10の熱処理空間11内のガスを、第2の吸引噴出口17からガスライン31へと吸引する場合には、
図6(b)に示すように、第2のファン32bと第3のファン32cを駆動し、第1のファン32aと第4のファン32dを非駆動状態にする。このとき、第1の冷却器33aの冷却機能はオフとし、第2の冷却器33bの冷却機能はオンとする。
【0084】
ここで、第1のファン32aと第3のファン32cの配置を逆にすることも可能である。ただし、そのような配置とした場合、非駆動状態のファン32で生じる圧力損失が大きくなることが発明者の実験により分かった。したがって、本実施形態のように、第1のファン32aおよび第3のファン32cのうちの一方のファンの駆動によるガスが他方のファンに向かうように配置されていることが好ましい。
【0085】
同様に、第2のファン32bと第4のファン32dの配置を逆にすることも可能であるが、圧力損失を低減するため、本実施形態のように、第2のファン32bおよび第4のファン32dのうちの一方のファンの駆動によるガスが他方のファンに向かうように配置されていることが好ましい。
【0086】
本実施形態における加熱炉100Aも、第1の実施形態における加熱炉100と同様、ガスライン31の経路長を短くすることができ、加熱炉100Aの全体の構成をコンパクトにすることができる。なお、後述する全ての実施形態における加熱炉についても同様である。
【0087】
<第3の実施形態>
第1の実施形態における加熱炉100および第2の実施形態における加熱炉100Aにおいて、ガスライン31は、水平方向に延伸する部分である第1の延伸部31a、第2の延伸部31b、および、第3の延伸部31cにより構成されている。
【0088】
これに対して、第3の実施形態における加熱炉100Bでは、ガスライン31に、水平方向に延伸する部分と、鉛直方向に延伸する部分が含まれている。
【0089】
なお、本実施形態における加熱炉100Bでは、第2の実施形態における加熱炉100Aと同様に、吸引噴出部30は、第1のファン32aおよび第2のファン32bだけでなく、第3のファン32cおよび第4のファン32dを備えている。ただし、第3のファン32cおよび第4のファン32dを省略した構成としてもよい。
【0090】
図7は、第3の実施形態における加熱炉100Bの構成を模式的に示す断面図である。
図1と同様、
図7は、被処理物1の搬送方向と直交する面で加熱炉100Bを切断したときの断面を示している。
図8は、
図7に示す加熱炉100Bを矢印Y1の方向から見たときの構成を模式的に示す図である。
【0091】
本実施形態におけるガスライン31は、
図5に示すガスライン31を、第1の延伸部31aおよび第3の延伸部31cの途中の位置で上方に折り曲げたような形状を有する。すなわち、本実施形態におけるガスライン31にも、第1の延伸部31a、第2の延伸部31b、および、第3の延伸部31cが含まれるが、第1の延伸部31aおよび第2の延伸部31bの形状が
図5に示すガスライン31とは異なる。
【0092】
本実施形態における第1の延伸部31aは、第1の吸引噴出口16から本体部10の外側に向かって水平方向に延伸する部分である第1の水平部31a1と、第1の水平部31a1と接続され、鉛直方向に延伸する部分である第1の鉛直部31a2とを有する。
【0093】
本実施形態における第2の延伸部31bは、第2の吸引噴出口17から本体部10の外側に向かって水平方向に延伸する部分である第2の水平部31b1と、第2の水平部31b1と接続され、鉛直方向に延伸する部分である第2の鉛直部31b2とを有する。
【0094】
第3の延伸部31cは、水平方向に延伸しており、第1の延伸部31aの第1の鉛直部31a2と、第2の延伸部31bの第2の鉛直部31b2とを接続している。
【0095】
第1の蓄熱体40aは、ガスライン31の第1の延伸部31aのうち、水平方向に延伸する部分である第1の水平部31a1に配置されている。第2の蓄熱体40bは、ガスライン31の第2の延伸部31bのうち、水平方向に延伸する部分である第2の水平部31b1に配置されている。本実施形態でも、第1の蓄熱体40aおよび第2の蓄熱体40bは、ガスライン31の内部のうち、本体部10を貫通している領域に設けられている。
【0096】
図8に示すように、第1の冷却器33a、第1のファン32aおよび第3のファン32cは、ガスライン31の第1の延伸部31aのうち、鉛直方向に延伸する部分である第1の鉛直部31a2に配置されている。第1の冷却器33a、第1のファン32aおよび第3のファン32cの相対的な配置関係は、第2の実施形態における加熱炉100Aと同じである。
【0097】
ガスライン31を流れるガスは、冷却機能がオンとなっている第1の冷却器33aで冷却される。冷却後のガスの温度が露点を下回る場合、ガスに含まれる水蒸気は結露し、表面に付着する。本実施形態における加熱炉100Bでは、第1の冷却器33aがガスライン31の第1の鉛直部31a2に配置されているので、第1の冷却器33aの表面に付着した結露水を落下させることができる。これにより、結露水が第1の冷却器33aの表面に付着したままとなることを抑制することができる。
【0098】
図8に示すように、第2の冷却器33b、第2のファン32bおよび第4のファン32dは、ガスライン31の第2の延伸部31bのうち、鉛直方向に延伸する部分である第2の鉛直部31b2に配置されている。第2の冷却器33b、第2のファン32bおよび第4のファン32dの相対的な配置関係は、第2の実施形態における加熱炉100Aと同じである。
【0099】
ガスライン31を流れるガスは、冷却機能がオンとなっている第2の冷却器33bで冷却される。冷却後のガスの温度が露点を下回る場合、ガスに含まれる水蒸気は結露し、表面に付着する。本実施形態における加熱炉100Bでは、第2の冷却器33bがガスライン31の第2の鉛直部31b2に配置されているので、第2の冷却器33bの表面に付着した結露水を落下させることができる。これにより、結露水が第2の冷却器33bの表面に付着したままとなることを抑制することができる。
【0100】
本実施形態における加熱炉100Bは、ガスライン31の内部のうち、冷却器33の鉛直下方に配置され、水を気化するための気化器34をさらに備える。気化器34は、例えば、アルミニウム、鉄、銅などの金属や、セラミックからなり、フィンを有するヒートシンクである。ヒートシンクの表面は、ポーラス状であってもよい。ただし、気化器34は、水を気化させることができるものであればよく、ヒートシンクに限定されることはない。本実施形態において、気化器34には、第1の気化器34aと第2の気化器34bとが含まれる。
【0101】
第1の気化器34aは、ガスライン31の内部のうち、第1の冷却器33aの鉛直下方であって、第1の水平部31a1と第1の鉛直部31a2とが接続される部分に配置されている。第1の気化器34aは、第1の冷却器33aの表面に発生し、その後落下した結露水を気化させるために配置されている。
【0102】
第2の気化器34bは、ガスライン31の内部のうち、第2の冷却器33bの鉛直下方であって、第2の水平部31b1と第2の鉛直部31b2とが接続される部分に配置されている。第2の気化器34bは、第2の冷却器33bの表面に発生し、その後落下した結露水を気化させるために配置されている。
【0103】
一例として、30L/minで熱処理空間11からガスライン31へと吸引されたガスの露点が60℃の場合、冷却器33で50℃まで冷却された場合の結露の量は、2.3ccmに相当する。1サイクル10秒でガスの吸引および噴出を切り替える場合、1サイクルあたり約0.4ccの結露が発生して、冷却器33の表面に付着する。
【0104】
ファン32の制御によって、所定時間毎にガスの吸引および噴出を切り替えると、切り替わったガスの流れに乗って、結露水は、冷却器33内のより高温側へ移動するか、または、下方に落下する。下方に落下した結露水は、気化器34と接触して気化し、水蒸気として再び本体部10の熱処理空間11へ流入する。
【0105】
このように、第3の実施形態における加熱炉100Bによれば、ガスライン31には、水平方向に延伸する部分と、鉛直方向に延伸する部分が含まれており、冷却器33は、鉛直方向に延伸する部分に配置されているので、冷却器33の表面に発生する結露水を落下させることができる。これにより、結露水が冷却器33の表面に付着したままとなることを抑制することができる。
【0106】
また、第3の実施形態における加熱炉100Bは、ガスライン31の内部のうち、冷却器33の鉛直下方に配置され、水を気化するための気化器34を備えるので、冷却器33の表面から落下した結露水を速やかに気化させることができる。これにより、結露水をガスライン31の内部に滞留させることなく、速やかに熱処理空間11内に還流させることができるので、熱処理空間11からガスライン31へと吸引したガスと同じ成分のガスをガスライン31から熱処理空間11へと噴出することができる。
【0107】
なお、冷却器33の表面に発生して落下した結露水がガスライン31の内部で気化するのであれば、気化器34は省略することが可能である。
【0108】
<第4の実施形態>
図9は、第4の実施形態における加熱炉100Cの構成を模式的に示す断面図である。
図9に示す断面図の切断位置は、
図2に示す断面図の切断位置と同じである。なお、本実施形態における加熱炉100Cでは、第2の実施形態における加熱炉100Aと同様に、吸引噴出部30は、第1のファン32aおよび第2のファン32bだけでなく、第3のファン32cおよび第4のファン32dを備える。ただし、第3のファン32cおよび第4のファン32dを省略した構成としてもよい。
【0109】
第4の実施形態における加熱炉100Cが第2の実施形態における加熱炉100Aと異なるのは、蓄熱体40である。すなわち、第4の実施形態における蓄熱体40は、その一部が本体部10の熱処理空間11内に露出している。第2の実施形態における加熱炉100Aと同様、蓄熱体40には、第1の蓄熱体40aと第2の蓄熱体40bが含まれており、第1の蓄熱体40aおよび第2の蓄熱体40bの一部がそれぞれ、熱処理空間11内に露出している。
【0110】
蓄熱体40のうち、本体部10の熱処理空間11内に突出して露出している長さは、適宜設定すればよい。一例として、蓄熱体40の長さが221mmの場合に、熱処理空間11内に露出している部分の長さは、20mmである。
【0111】
第1の蓄熱体40aの一部が熱処理空間11内に露出していることにより、第1の蓄熱体40aのうち、熱処理空間11内に露出している部分は、露出していない部分と比べて高温となっている。したがって、第1の蓄熱体40aを通過して熱処理空間11へと噴出されるガスは、第1の蓄熱体40aとの熱交換によって、より高温の状態で噴出される。同様に、第2の蓄熱体40bの一部が熱処理空間11内に露出していることにより、第2の蓄熱体40bを通過して熱処理空間11へと噴出されるガスは、第2の蓄熱体40bとの熱交換によって、より高温の状態で噴出される。これにより、熱処理空間11へと噴出されるガスの温度を、熱処理空間11内のガスの温度にさらに近づけることができ、被処理物1とガスとの反応バラツキをさらに抑制することができる。
【0112】
<第5の実施形態>
第1の実施形態における加熱炉100では、ガスライン31の第1の吸引噴出口16および第2の吸引噴出口17からは、水平方向にガスが噴出される。このため、プレート2上の複数の被処理物1に向けてガスが噴出されるように、第1の吸引噴出口16および第2の吸引噴出口17は、プレート2が載置される駆動用ローラ13に対してできるだけ近い高さの位置に設けられることが好ましい。
【0113】
しかしながら、
図1では省略しているが、ガスライン31が接続されている本体部10の第1の側壁10aには、駆動用ローラ13を駆動するためのモータなどの駆動部が設けられている。このため、第1の吸引噴出口16および第2の吸引噴出口17を、駆動用ローラ13に対してできるだけ近い高さの位置に配置すると、駆動用ローラ13の駆動部とガスライン31とが干渉する可能性があり、設計に工夫を要する。
【0114】
このため、第5の実施形態における加熱炉100Dでは、第1の吸引噴出口16および第2の吸引噴出口17は、駆動用ローラ13の駆動部から離れた位置に設けられている。
【0115】
図10は、第5の実施形態における加熱炉100Dの構成を模式的に示す断面図である。
図1と同様、
図10は、被処理物1の搬送方向と直交する面で加熱炉100Dを切断したときの断面を示している。
【0116】
第1の実施形態における加熱炉100と比べて、本実施形態における第1の吸引噴出口16は、駆動用ローラ13に対してより高い位置、すなわち、駆動用ローラ13の搬送面と直交する高さ方向において、駆動用ローラ13から遠ざかった位置に設けられている。図は省略するが、第2の吸引噴出口17についても同様である。そのような配置により、駆動用ローラ13の駆動部とガスライン31とが干渉することを抑制することができる。
【0117】
図10に示すように、本実施形態における加熱炉100Dでも、第4の実施形態における加熱炉100Cと同様に、第1の蓄熱体40aの一部は、熱処理空間11内に露出している。同様に、第2の蓄熱体40bの一部は、熱処理空間11内に露出している。ただし、第1の蓄熱体40aおよび第2の蓄熱体40bの一部が熱処理空間11内に露出していない構成としてもよい。
【0118】
本実施形態では、被処理物1が熱処理空間11内に載置される載置面に対して、被処理物1が載置される側に延びる単位法線ベクトルと、ガスライン31から熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積が負となるように、ガスライン31が配置されている。このことについて、
図11を用いて説明する。
【0119】
なお、ガスライン31からは、先端に向かってガスライン31が延伸する方向に沿ってガスが噴出されるので、ガスライン31から熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとは、先端に向かってガスライン31が延伸する方向に沿った単位ベクトルを意味する。
【0120】
図11は、ガスライン31の第1の延伸部31aから第1の吸引噴出口16を介して熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルvと、被処理物1が載置されるプレート2の載置面2aに対して、被処理物1が載置される側に延びる単位法線ベクトルnとの関係を示す図である。単位ベクトルvと単位法線ベクトルnとの内積(v・n)は負である。すなわち、ガスライン31から第1の吸引噴出口16を介して斜め下方に向かってガスが噴出されるように、ガスライン31の第1の延伸部31aの向きが調整されている。
【0121】
図は省略するが、ガスライン31の第2の延伸部31bから第2の吸引噴出口17を介して熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルvと、被処理物1が載置されるプレート2の載置面2aに対して、被処理物1が載置される側に延びる単位法線ベクトルnとの内積(v・n)も負である。すなわち、ガスライン31から第2の吸引噴出口17を介して斜め下方に向かってガスが噴出されるように、ガスライン31の第2の延伸部31bの向きが調整されている。
【0122】
第5の実施形態における加熱炉100Dによれば、駆動用ローラ13の駆動部とガスライン31との干渉を抑制することができる。また、熱処理空間11内におけるプレート2上の複数の被処理物1には、斜め上方からガスが吹き付けられるため、より多くの被処理物1に対してガスを吹き付けることが可能となる。これにより、より多くの被処理物1に対する反応を促進させることができ、被処理物1毎の反応のバラツキをさらに抑制することができる。
【0123】
<第6の実施形態>
図12は、第6の実施形態における加熱炉100Eの構成を模式的に示す断面図である。また、
図13は、ガスライン31のうち、第1の吸引噴出口16付近の部位を拡大した断面図である。
【0124】
図13に示すように、ガスライン31の第1の延伸部31aの断面積は、第1の吸引噴出口16に向かって小さくなっている。より詳しくは、ガスライン31の第1の延伸部31aを延伸方向と直交する面で切断したときの断面積のうち、熱処理空間11側における先端の断面積Siは、第1の蓄熱体40aが配置されている領域の平均断面積Smより小さい。
【0125】
図は省略するが、ガスライン31の第2の吸引噴出口17側も同じである。すなわち、ガスライン31の第2の延伸部31bの断面積は、熱処理空間11側の先端に向かって小さくなっている。より詳しくは、ガスライン31の第2の延伸部31bを延伸方向と直交する面で切断したときの断面積のうち、熱処理空間11側における先端の断面積Siは、第2の蓄熱体40bが配置されている領域の平均断面積Smより小さい。
【0126】
このように、ガスライン31の断面積は、熱処理空間11側の先端に向かって小さくなっているので、ガスライン31から熱処理空間11へとガスが噴出される際、流速が速くなる。これにより、被処理物1の近傍に、より流速の速いガスの流れを形成することができるので、熱処理反応をさらに促進させることができ、被処理物1毎の反応バラツキをさらに抑制することができる。したがって、被処理物1の熱処理によって得られる製品の品質バラツキをさらに抑制することができる。
【0127】
また、熱処理空間11内に噴出されるガスの流速が速くなることにより、熱処理空間11内において、噴出流に巻き込まれる高温のガスが増加するエントレインメント現象が生じる。これにより、熱処理空間11内へと噴出され、被処理物1の近傍を流れるガスの温度が熱処理空間11内のガスの温度により近くなるので、被処理物1毎の反応バラツキをさらに抑制することができる。
【0128】
<第7の実施形態>
第1の実施形態における加熱炉100~第6の実施形態における加熱炉100Eでは、本体部10が略直方体で、被処理物1の搬送方向の両端が開口した形状を有している。これに対して、第7の実施形態における加熱炉100Fでは、本体部10が略球状の形状を有する。
【0129】
なお、本実施形態における加熱炉100Fでも、第2の実施形態における加熱炉100Aと同様に、吸引噴出部30は、第1のファン32aおよび第2のファン32bだけでなく、第3のファン32cおよび第4のファン32dを備えている。ただし、第3のファン32cおよび第4のファン32dを省略した構成としてもよい。
【0130】
図14は、第7の実施形態における加熱炉100Fの構成を模式的に示す断面図である。
図14に示す断面図の切断位置は、
図2に示す断面図の切断位置と同じである。
【0131】
本実施形態における加熱炉100Fでも、ガスの吸引および噴出時に、ガスライン31から熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルと、熱処理空間11からガスライン31へ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積が0以下となるように、ガスライン31が配置されている。ガスライン31の経路長を短くするためには、第1の吸引噴出口16と第2の吸引噴出口17の位置が近くなるようにガスライン31を配置することが好ましい。なお、
図14では、熱処理空間11から第1の吸引噴出口16を介してガスライン31にガスが吸引され、第2の吸引噴出口17を介して熱処理空間11へとガスが噴出されるときのガスの流れを矢印で示している。
【0132】
第7の実施形態における加熱炉100Fでも、ガスの吸引および噴出時に、ガスライン31から熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルと、熱処理空間11からガスライン31へ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積が0以下となるように、ガスライン31が配置されているので、ガスライン31の経路長を短くすることができ、加熱炉100Fの構成をコンパクトにすることができる。また、ガスライン31の経路長を短くすることにより、ガスがガスライン31を流れるときに流路外への放熱を抑制することができ、熱効率を向上させることができる。
【0133】
<第8の実施形態>
第1の実施形態における加熱炉100~第7の実施形態における加熱炉100Fはそれぞれ、1つの吸引噴出部30を備えている。これに対して、第8の実施形態における加熱炉100Gでは、複数の吸引噴出部30が設けられている。
【0134】
図15は、第8の実施形態における加熱炉100Gの構成を模式的に示す断面図である。
図15に示す断面図の切断位置は、
図2に示す断面図の切断位置と同じである。
【0135】
図15に示す例では、4つの吸引噴出部30が設けられている。具体的には、本体部10の第1の側壁10aに2つの吸引噴出部30が設けられ、第1の側壁10aと対向する第2の側壁10bに2つの吸引噴出部30が設けられている。ただし、吸引噴出部30の数が4つに限定されることはないし、1つの側壁に全ての吸引噴出部30が設けられていてもよい。
【0136】
本発明のように、ガスライン31から熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルと、熱処理空間11からガスライン31へ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積が0以下となるようにガスライン31が配置されることにより、ガスライン31の経路長を短くすることができるので、複数の吸引噴出部30を設けることが可能となる。これにより、被処理物1の反応バラツキをより抑制することができる。
【0137】
本体部10の第1の側壁10aに設けられている吸引噴出部30と、第2の側壁10bに設けられている吸引噴出部30は、互いに対向する位置に設けられていることが好ましい。より詳細には、本体部10の第1の側壁10aに接続されているガスライン31の第1の吸引噴出口16と対向する位置に、第2の側壁10bに接続されているガスライン31の第1の吸引噴出口16が位置し、第1の側壁10aに接続されているガスライン31の第2の吸引噴出口17と対向する位置に、第2の側壁10bに接続されているガスライン31の第2の吸引噴出口17が位置することが好ましい。
【0138】
さらに、第1の側壁10aと第2の側壁10bとが対向する方向において、
図15に示すように、ガスの流れが同じ向きになるように、吸引噴出部30を制御することが好ましい。
図15に示す例では、第1の側壁10aに接続されているガスライン31の第1の吸引噴出口16からガスを吸引し、第2の吸引噴出口17からガスを噴出するときのガスの流れを矢印で示している。また、第2の側壁10bに接続されているガスライン31の第1の吸引噴出口16からガスを噴出し、第2の吸引噴出口17からガスを吸引するときのガスの流れを矢印で示している。このように、ガスの吸引および噴出を制御することにより、熱処理空間11へと噴出されるガスの直進方向の位置において、同時にガスの吸引を行うことができるので、ガスライン31から熱処理空間11へと噴出されるガスのうち、より多くのガスの直進性を保つことができる。これにより、より多くの被処理物1の表面および近傍にガスを流すことができ、被処理物1毎の熱処理の反応バラツキをより抑制することが可能となる。
【0139】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。例えば、各実施形態における加熱炉の特徴的な構成は、適宜組み合わせることができる。
【0140】
本体部10の形状が上述した実施形態で説明した形状に限定されることはない。本体部10の形状が上述した略直方体の形状や略球状の形状以外の形状である場合でも、ガスライン31を介したガスの吸引および噴出時に、ガスライン31から熱処理空間11へ噴出されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルと、熱処理空間11からガスライン31へ吸引されるガスの進行方向に沿った単位ベクトルとの内積が0以下となるように、ガスライン31を配置すればよい。
【0141】
上述した各実施形態では、吸引噴出部30がファン32を備え、ファン32の駆動により、熱処理空間11からガスライン31へのガスの吸引と、ガスライン31から熱処理空間11へのガスの噴出とを行うものとして説明した。しかしながら、ガスの吸引および噴出を行うための動力源がファン32に限定されることはない。例えば、ガスライン31にピストンを配置し、ピストンの筒の内部を可動部が往復運動することによってガスの吸引と噴出とを行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0142】
1 被処理物
10 本体部
11 熱処理空間
12 加熱部
13 駆動用ローラ
14 ガス供給口
15 ガス排出口
16 第1の吸引噴出口
17 第2の吸引噴出口
20 ガス供給部
30 吸引噴出部
31 ガスライン
31a 第1の延伸部
31a1 第1の水平部
31a2 第1の鉛直部
31b 第2の延伸部
31b1 第2の水平部
31b2 第2の鉛直部
31c 第3の延伸部
32a 第1のファン
32b 第2のファン
32c 第3のファン
32d 第4のファン
33a 第1の冷却器
33b 第2の冷却器
34a 第1の気化器
34b 第2の気化器
40a 第1の蓄熱体
40b 第2の蓄熱体
100,100A,100B,100C,100D,100E,100F,100G 加熱炉
L1 ガス流路
L2 冷媒流路