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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/06 20060101AFI20241210BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20241210BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241210BHJP
   B60K 6/24 20071001ALI20241210BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20241210BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20241210BHJP
   B60W 20/19 20160101ALI20241210BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20241210BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20241210BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60W10/02 900
B60W10/08 900
B60K6/24 ZHV
B60K6/48
B60K6/547
B60W20/19
F02P5/15 E
B60L50/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022041614
(22)【出願日】2022-03-16
(65)【公開番号】P2023136147
(43)【公開日】2023-09-29
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓弘
(72)【発明者】
【氏名】加地 雅広
(72)【発明者】
【氏名】枡田 哲
【審査官】熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-155605(JP,A)
【文献】特開2014-058259(JP,A)
【文献】特開2015-164831(JP,A)
【文献】特開2010-242563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/06
B60W 10/02
B60W 10/08
B60K 6/24
B60K 6/48
B60K 6/547
B60W 20/19
F02P 5/15
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンから駆動輪までの動力伝達経路上に設けられたモータと、
前記エンジンと前記モータとの間の前記動力伝達経路上に設けられたクラッチと、
アクセル開度を検出するアクセル開度検出部と、
前記クラッチが解放状態で前記エンジンの始動要求がある場合に、前記クラッチを介して前記モータにより前記エンジンをクランキングしつつ前記エンジンの燃焼を開始して前記クラッチを係合する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記エンジンの始動要求がある場合において前記アクセル開度が閾値以上であるか否かを判定する判定部と、
前記判定部により肯定判定がなされた場合に、前記判定部により否定判定がなされた場合よりも、前記エンジンの点火時期を進角させる点火時期制御部と
前記クラッチの係合時での前記モータの回転数を予測する予測部と、を含み、
前記点火時期制御部は、予測された前記モータの回転数が高いほど前記点火時期を進角させる、ハイブリッド車両。
【請求項2】
前記エンジンの温度を検出する温度検出部を備え、
前記点火時期制御部は、前記エンジンの温度が低いほど前記点火時期を進角させる、請求項1のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出部を備え、
前記点火時期制御部は、前記エンジンの回転数が高いほど前記点火時期を進角させる、請求項1又は2のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記点火時期制御部は、前記アクセル開度が大きいほど前記点火時期を進角させる、請求項1乃至の何れかのハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、エンジンから駆動輪までの動力伝達経路上に設けられたモータと、エンジンとモータとの間の動力伝達経路上に設けられたクラッチとを備えたハイブリッド車両がある。このようなハイブリッド車両においてクラッチが解放状態でエンジンの始動要求がある場合には、クラッチを介してモータによりエンジンをクランキングしつつエンジンの燃焼が開始してクラッチが係合する。このようにしてエンジンが始動する(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-054165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジン始動時に運転者により操作されるアクセル開度が大きい場合、即ち、運転者による加速要求の度合いが大きい場合に、エンジントルクの増大速度が遅いと、運転者の要求に対して加速応答性が低下するおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、エンジン始動時での加速応答性が向上したハイブリッド車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、エンジンと、前記エンジンから駆動輪までの動力伝達経路上に設けられたモータと、前記エンジンと前記モータとの間の前記動力伝達経路上に設けられたクラッチと、アクセル開度を検出するアクセル開度検出部と、前記クラッチが解放状態で前記エンジンの始動要求がある場合に、前記クラッチを介して前記モータにより前記エンジンをクランキングしつつ前記エンジンの燃焼を開始して前記クラッチを係合する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記エンジンの始動要求がある場合において前記アクセル開度が閾値以上であるか否かを判定する判定部と、前記判定部により肯定判定がなされた場合に、前記判定部により否定判定がなされた場合よりも、前記エンジンの点火時期を進角させる点火時期制御部と、前記クラッチの係合時での前記モータの回転数を予測する予測部と、を含み、前記点火時期制御部は、予測された前記モータの回転数が高いほど前記点火時期を進角させる、ハイブリッド車両によって達成できる。
【0009】
前記エンジンの温度を検出する温度検出部を備え、前記点火時期制御部は、前記エンジンの温度が低いほど前記点火時期を進角させてもよい。
【0010】
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出部を備え、前記点火時期制御部は、前記エンジンの回転数が高いほど前記点火時期を進角させてもよい。
【0011】
前記点火時期制御部は、前記アクセル開度が大きいほど前記点火時期を進角させてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エンジン始動時での加速応答性が向上したハイブリッド車両を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、ハイブリッド車両の概略構成図である。
図2図2は、エンジンの概略構成図である。
図3図3は、ECUが実行するエンジン始動制御の一例を示したフローチャートである。
図4図4A図4Cは、点火時期を規定したマップの一例である。
図5図5は、モータ回転数予測制御の一例を示したフローチャートである。
図6図6Aは、アクセル開度毎のペラ軸トルクとペラ軸回転数との関係を規定したマップであり、図6Bは、車両要求トルクとモータの回転数との関係を規定したマップである。
図7図7は、点火時期とモータ回転数との関係を規定したマップである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ハイブリッド車両の概略構成]
図1は、ハイブリッド車両1の概略構成図である。ハイブリッド車両1には、エンジン10から駆動輪13までの動力伝達経路に、K0クラッチ14、モータ15、トルクコンバータ18、及び変速機19が順に設けられている。エンジン10及びモータ15は、ハイブリッド車両1の走行用駆動源として搭載されている。エンジン10は、例えばV型6気筒ガソリンエンジンであるが気筒数はこれに限定されず、直列型のガソリンエンジンであってもよいし、ディーゼルエンジンであってもよい。K0クラッチ14、モータ15、トルクコンバータ18、及び変速機19は、変速ユニット11内に設けられている。変速ユニット11と左右の駆動輪13とは、プロペラシャフト12a及びディファレンシャル12を介して駆動連結されている。
【0015】
K0クラッチ14は、同動力伝達経路上のエンジン10とモータ15との間に設けられている。K0クラッチ14は、解放状態から油圧の供給を受けて係合状態となって、エンジン10とモータ15との動力伝達を接続する。K0クラッチ14は、油圧供給の停止に応じて解放状態となって、エンジン10とモータ15との動力伝達を遮断する。係合状態とは、K0クラッチ14の両係合要素が連結しエンジン10とモータ15が同じ回転数となっている状態である。解放状態とは、K0クラッチ14の両係合要素が離れた状態である。
【0016】
モータ15は、インバータ17を介してバッテリ16に接続されている。モータ15は、バッテリ16からの給電に応じて車両の駆動力を発生するモータとして機能し、更にエンジン10や駆動輪13からの動力伝達に応じてバッテリ16に充電する電力を発電する発電機としても機能する。モータ15とバッテリ16との間で授受される電力は、インバータ17により調整されている。
【0017】
インバータ17は、後述するECU100によって制御され、バッテリ16からの直流電圧を交流電圧に変換し、またはモータ15からの交流電圧を直流電圧に変換する。モータ15がトルクを出力する力行運転の場合、インバータ17はバッテリ16の直流電圧を交流電圧に変換してモータ15に供給される電力を調整する。モータ15が発電する回生運転の場合、インバータ17はモータ15からの交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ16に供給される電力を調整する。
【0018】
トルクコンバータ18は、トルク増幅機能を有した流体継ぎ手である。変速機19は、ギア段の切替えにより変速比を多段階に切替える有段式の自動変速機であるが、これに限定されず無段式の自動変速機であってもよい。変速機19は、動力伝達経路上のモータ15と駆動輪13の間に設けられている。トルクコンバータ18を介して、モータ15と変速機19とが連結されている。トルクコンバータ18には、油圧の供給を受けて係合状態となってモータ15と変速機19とを直結するロックアップクラッチ20が設けられている。
【0019】
変速ユニット11には、更にオイルポンプ21と油圧制御機構22とが設けられている。オイルポンプ21で発生した油圧は、油圧制御機構22を介して、K0クラッチ14、トルクコンバータ18、変速機19、及びロックアップクラッチ20にそれぞれ供給されている。油圧制御機構22には、K0クラッチ14、トルクコンバータ18、変速機19、及びロックアップクラッチ20のそれぞれの油圧回路と、それらの作動油圧を制御するための各種の油圧制御弁と、が設けられている。尚、トルクコンバータ18の代わりに湿式クラッチが設けられていてもよい。
【0020】
ハイブリッド車両1には、同車両の制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)100が設けられている。ECU100は、車両の走行制御に係る各種演算処理を行う演算処理回路と、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリと、を備える電子制御ユニットである。ECU100は、ハイブリッド車両の制御装置の一例であり、詳しくは後述する判定部、点火時期制御部、及び予測部を機能的に実現する。
【0021】
ECU100は、エンジン10及びモータ15の駆動を制御する。具体的にはECU100は、エンジン10のスロットル開度、点火時期、燃料噴射量を制御することにより、エンジン10の回転数やトルクを制御する。ECU100は、インバータ17を制御してモータ15とバッテリ16との間での電力の授受量を調整することで、モータ15の回転数やトルクを制御する。またECU100は、油圧制御機構22の制御を通じて、K0クラッチ14やロックアップクラッチ20、変速機19の駆動制御を行う。
【0022】
ECU100には、イグニッションスイッチ71、クランク角センサ72、モータ回転数センサ73、アクセル開度センサ74、エアフローメータ75、及び水温センサ76からの信号が入力される。クランク角センサ72は、エンジン10のクランクシャフトの回転数を検出する。クランク角センサ72は、エンジン回転数検出部の一例である。モータ回転数センサ73は、モータ15の出力軸の回転速度を検出する。モータ回転数センサ73は、モータ回転数検出部の一例である。アクセル開度センサ74は、運転者のアクセルペダルの踏込量であるアクセルペダル開度を検出する。アクセル開度センサ74は、アクセル開度検出部の一例である。エアフローメータ75は、エンジン10の吸入空気量を検出する。水温センサ76は、エンジン10を冷却する冷却水の温度を検出する。冷却水の温度はエンジン10の温度と相関し、水温センサ76はエンジン温度検出部の一例である。尚、エンジン温度検出部は、例えばエンジン10の温度と相関するエンジン10を潤滑する潤滑油の温度を検出する油温センサであってもよい。
【0023】
ECU100は、モータモード及びハイブリッドモードの何れかの走行モードでハイブリッド車両を走行させる。モータモードでは、ECU100はK0クラッチ14を解放し、モータ15の動力により走行する。ハイブリッドモードでは、ECU100はK0クラッチ14を係合状態に切り替えて少なくともエンジン10の動力により走行する。尚、ハイブリッドモードには、エンジン10のみの動力で走行するモード、モータ15を力行運転させてエンジン10及びモータ15の双方を動力源として走行するモードを含む。
【0024】
走行モードの切り替えは、車速やアクセル開度から求められた車両の要求駆動力と、バッテリ16の充電状態などに基づいて行われる。例えば、要求駆動力が比較的小さくバッテリ16の蓄電量を示すSOC(State Of Charge)が比較的高い場合には、燃費を向上させるためにエンジン10を停止したモータモードが選択される。要求駆動力が比較的大きい場合やバッテリ16のSOCが比較的低い場合には、エンジン10が駆動したハイブリッドモードが選択される。
【0025】
ECU100は、ハイブリッドモードにおいて、所定の停止条件が成立した場合にエンジン10を自動停止させ、所定の始動条件が成立した場合に自動停止したエンジン10を始動させる間欠運転制御を実行する。例えばECU100は、ハイブリッドモードにおいてアクセル開度がゼロになった場合に、自動停止条件が成立したものとしてエンジン10を自動停止させる。また、ECU100は、アクセル開度がゼロよりも大きくなった場合に、始動条件が成立したものとしてエンジン10を自動で始動させる。尚、エンジン10を自動停止させる際には、ECU100はK0クラッチ14を解放して燃料噴射を停止する。エンジン10を自動で始動させる際には、ECU100はK0クラッチ14を介してモータ15によりエンジン10をクランキングして燃料噴射及び点火を開始し、その後にK0クラッチ14を係合させる。
【0026】
[エンジンの概略構成]
図2は、エンジン10の概略構成図である。エンジン10は、気筒30、ピストン31、コネクティングロッド32、クランク軸33、吸気通路35、吸気弁36、排気通路37、及び排気弁38を有している。図2には、エンジン10が有する複数の気筒30のうちの一つのみが表示されている。気筒30では混合気の燃焼が行われる。ピストン31は、各気筒30に往復動可能に収容され、エンジン10の出力軸であるクランク軸33にコネクティングロッド32を介して連結されている。コネクティングロッド32は、ピストン31の往復運動をクランク軸33の回転運動に変換する。
【0027】
吸気通路35は、各気筒30の吸気ポートに吸気弁36を介して接続されている。排気通路37は、各気筒30の排気ポートに排気弁38を介して接続されている。吸気通路35には、エアフローメータ75、及び吸入空気量を調整するスロットル弁40が設けられている。排気通路37には排気浄化用の触媒43が設けられている。
【0028】
気筒30には筒内噴射弁41が設けられている。筒内噴射弁41は気筒30内に直接燃料を噴射する。尚、筒内噴射弁41の代わりに、又は筒内噴射弁41に加えて、吸気ポートに向けて燃料を噴射するポート噴射弁が設けられていてもよい。各気筒30には、吸気通路35を通じて導入された吸気と筒内噴射弁41が噴射した燃料との混合気を火花放電により点火する点火装置42が設けられている。
【0029】
このように構成されたエンジン10に対してK0クラッチ14が解放状態で始動要求があると、ECU100は以下のようにエンジン10やK0クラッチ14、モータ15を制御する。ECU100は、K0クラッチ14をスリップさせてモータ15のトルクを増大させることにより、K0クラッチ14を介してモータ15によりエンジン10をクランキングさせる。エンジン回転数が所定値以上になると、ECU100はエンジン10での燃焼を開始し、エンジン回転数とモータ回転数とを同期させてK0クラッチ14を係合する。このようにしてエンジン10の始動が完了する。ここで、エンジン10の始動時に運転者によって操作されるアクセル開度が大きい場合、即ち、運転者による加速要求の度合いが大きい場合に、エンジントルクの増大速度が遅いと、運転者の要求に対して加速応答性が低下するおそれがある。そこでECU100は、エンジン10の始動要求がありアクセル開度が大きい場合に、エンジン10の点火時期を進角させてエンジントルクを早期に増大させる。詳しくは以下に説明する。
【0030】
[エンジン始動制御]
図3は、ECU100が実行するエンジン始動制御の一例を示したフローチャートである。本制御では、イグニッションがオンの状態で所定の周期ごとに繰り返し実行される。ECU100は、エンジン10の始動要求があるか否かを判定する(ステップS1)。ステップS1でNoの場合には、本制御は終了する。ステップS1でYesの場合にECU100は、アクセル開度が閾値α以上であるか否かを判定する(ステップS2)。閾値αは、運転者による加速要求の度合いが大きく点火時期の進角が必要となる最小値に設定されている。ステップS2は、判定部が実行する処理の一例である。
【0031】
ステップS2でNoの場合には、運転者による加速要求の度合いは小さいものとみなして、ECU100は通常点火始動制御を実行する(ステップS3)。通常点火始動制御では、詳しくは後述するが冷却水の温度、エンジン回転数、及び予測モータ回転数に基づいて点火時期が制御されてエンジン10を始動する。
【0032】
ステップS2でYesの場合には、運転者による加速要求の度合いは大きいものとみなして、ECU100は進角点火始動制御を実行する(ステップS4)。進角点火始動制御では、通常点火始動制御よりも点火時期が進角側に設定してエンジン10を始動する。進角点火始動制御についても通常点火始動制御と同様に、冷却水の温度、エンジン回転数、及び予測モータ回転数に基づいて点火時期が制御される。ステップS4は、点火時期制御部が実行する処理の一例である。
【0033】
通常点火始動制御及び進角点火始動制御では、ECU100は図4A図4Cのマップを参照して点火時期を制御する。図4A図4Cは、点火時期を規定したマップの一例である。図4A図4Cには、通常点火始動制御が実行されるアクセル開度が閾値α未満の場合での点火時期と、進角点火始動制御が実行されるアクセル開度が閾値α以上の場合での点火時期とを示している。
【0034】
図4Aは、点火時期と冷却水の温度との関係を規定したマップの一例である。縦軸は点火時期[deg]を示し、横軸は冷却水の温度[℃]を示す。図4Aに示すようにアクセル開度が閾値α未満及び閾値α以上の何れの場合も、水温センサ76により検出された冷却水の温度が低いほど、点火時期は進角側となるように規定されている。冷却水の温度が低いほどエンジントルクが低下しやすく、このエンジントルクの低下分を補うように点火時期を進角させることが好ましいからである。また、アクセル開度が閾値α以上の場合には、アクセル開度α未満の場合よりも、点火時期は進角側となるように規定されている。アクセル開度が閾値α以上の場合には、運転者による加速要求の度合いが大きく、エンジントルクを早期に増大させることが加速応答性の観点から好ましいからである。
【0035】
図4Aのマップでは、冷却水の温度の低下に対する点火時期の進角量の増大率に関して、アクセル開度が閾値α以上の場合の方が閾値α未満の場合よりも大きく規定されている。冷却水温度の低下量が同じ場合であっても、アクセル開度が大きい場合の方が小さい場合よりも、エンジントルクの低下への影響が大きいからである。
【0036】
図4Bは、点火時期とエンジン回転数との関係を規定したマップの一例である。縦軸は点火時期[deg]を示し、横軸はエンジン回転数[rpm]を示す。図4Bに示すようにアクセル開度が閾値α未満及び閾値α以上の何れの場合も、クランク角センサ72により検出されたエンジン回転数が高いほど、点火時期は進角側となるように規定されている。エンジン回転数が高い場合に点火時期を進角させることにより、燃焼速度を速めることができ、筒内圧力が最大となるタイミングをトルク効率の高い最適なタイミングに対応させることができるからである。また、図4Bでもアクセル開度が閾値α以上の場合には、アクセル開度α未満の場合よりも、点火時期は進角側となるように規定されている。この場合もエンジントルクを早期に増大させることが加速応答性の観点から好ましいからである。
【0037】
図4Bのマップでは、エンジン回転数が所定値未満では、点火時期はアクセル開度に関わらずに一定である。エンジン回転数が低い場合には、点火時期を進角させても燃焼速度が速くなりにくくエンジントルクが増大しにくいからである。また、エンジン回転数がこの所定値以上では、エンジン回転数の増大に対する点火時期の進角量の増大率は、アクセル開度が閾値α以上の場合の方が閾値α未満の場合よりも大きく規定されている。また、エンジン回転数が更に高い所定値以上となると、点火時期は一定に制限される。点火時期を進角側に制御しすぎるとノッキングが発生するおそれがあるからである。
【0038】
図4Cは、点火時期と予測モータ回転数との関係を規定したマップの一例である。縦軸は点火時期[deg]を示し、横軸は予測モータ回転数[rpm]を示す。予測モータ回転数は、詳しくは後述するがアクセル開度に基づいて予測される、エンジン始動制御でのK0クラッチ14の係合時でのモータ回転数である。図4Cに示すようにアクセル開度が閾値α未満及び閾値α以上の何れの場合も、予測モータ回転数が所定値以上で高いほど、点火時期は進角側となるように規定されている。予測モータ回転数が高いほど、K0クラッチ14の係合前でのエンジン回転数との差分が大きいことを示し、エンジン10の始動時でのエンジントルクを確保することが好ましいからである。図4Cでもアクセル開度が閾値α以上の場合には、アクセル開度α未満の場合よりも、点火時期は進角側となるように規定されている。この場合もエンジントルクを早期に増大させることが加速応答性の観点から好ましいからである。
【0039】
図4Cのマップでは、予測モータ回転数の増大に対する点火時期の進角量の増大率に関して、アクセル開度が閾値α以上の場合の方が、アクセル開度が閾値α未満の場合よりも大きく規定されている。予測モータ回転数の増大量が同じ場合であっても、アクセル開度が大きい場合の方が小さい場合よりも、エンジントルクの増大率を大きく確保する必要があるからである。
【0040】
以上のように、ECU100は進角点火始動制御では通常点火始動制御よりも点火時期を進角側に制御する。これにより、運転者の加速要求に対応してエンジン始動時のエンジントルクを早期に増大させることができ、加速応答性が向上している。
【0041】
尚、図4A図4Cのマップでは点火時期は直線状に変化するが、これに限定されず、曲線状又は階段状に変化してもよい。また、上記のようなマップに限定されず、アクセル開度、冷却水温度、エンジン回転数、及び予測モータ回転数を引数とする演算式により点火時期を算出してもよい。また、上述したマップでは、アクセル開度が閾値α以上の場合にはそのアクセル開度によらずに点火時期が規定されているが、これに限定されない。アクセル開度が閾値α以上の場合にアクセル開度が大きいほど、点火時期は進角側となるように規定してもよい。
【0042】
[モータ回転数予測制御]
次に、上述した予測モータ回転数を算出するためのモータ回転数予測制御について説明する。モータ回転数予測制御は、予測部が実行する処理の一例である。図5は、モータ回転数予測制御の一例を示したフローチャートである。モータ回転数予測制御は、エンジン10の始動要求があってアクセル開度が閾値α以上の場合に実行される。
【0043】
最初にECU100は、アクセル開度センサ74に基づいて、エンジン10の始動要求時のアクセル開度と、単位時間当たりのアクセル開度変化率を算出する(ステップS11)。次に、ECU100は、K0クラッチ14の係合時でのアクセル開度を予測する(ステップS12)。具体的には、エンジン10の始動要求があってからK0クラッチ14が係合するまでに要する時間に、アクセル開度変化率を乗算して、この乗算して得られた値に現時点でのアクセル開度を加算することにより、K0クラッチ14の係合時でのアクセル開度を予測する。
【0044】
次にECU100は、予測されたアクセル開度に基づいて、K0クラッチ14の係合時でのエンジン10への要求トルクを予測する(ステップS13)。具体的には以下のようにしてK0クラッチ14の係合時でのエンジン10への要求トルクを予測する。
【0045】
ECU100は、予測されたアクセル開度から、図6Aのマップを参照してハイブリッド車両1への要求トルク(以下、車両要求トルクと称する)を算出する。図6Aは、アクセル開度毎のペラ軸トルクとペラ軸回転数との関係を規定したマップである。縦軸はペラ軸トルク[N・m]を示し、横軸はペラ軸回転数[rpm]を示している。ペラ軸トルク及びペラ軸回転数は、プロペラシャフト12aのトルク及び回転数である。ペラ軸トルクが車両要求トルクに相当する。図6Aには、アクセル開度が0%、50%、及び100%の場合を一例として示している。ECU100のメモリには、このような変速段毎のマップが記憶されている。
【0046】
図6Aに示すように、アクセル開度が増大するほどペラ軸トルク、即ち車両要求トルクが増大する。ECU100は、予測されたアクセル開度と現時点での変速段に基づいて、車両要求トルクを算出する。次に、車両要求トルクに現時点でのモータ回転数を乗算して、ハイブリッド車両1への要求出力(以下、車両要求出力と称する)を算出する。
【0047】
次に、車両要求出力にバッテリ16の充放電要求に基づく出力(以下、充放電要求出力と称する)を加算することにより、エンジン10への要求出力(以下、エンジン要求出力と称する)を算出する。充放電要求出力は、バッテリ16への充電要求がある場合には正の値として算出され、バッテリ16への放電要求がある場合には負の値として算出され、バッテリ16への充放電要求がない場合には0として算出される。次に、エンジン要求出力を現時点でのエンジン回転数で除算することにより、エンジン10への要求トルク(以下、エンジン要求トルクと称する)を算出する。
【0048】
次にECU100は、このようにして算出されたエンジン要求トルクに基づいて、予測モータ回転数を算出する(ステップS14)。具体的には、ECU100は図6Bのマップを参照して、エンジン要求トルクからK0クラッチ14の係合時のモータ回転数を予測する。図6Bは、車両要求トルクとモータ回転数との関係を規定したマップである。縦軸は車両要求トルク[N・m]を示し、横軸はモータ回転数[rpm]を示す。
【0049】
図6Bには等出力線を点線で示し、変速段に応じた回転数とトルクとの関係を細線で示し、実際のハイブリッド車両1の動作線を太線で示している。例えば、現在のハイブリッド車両1の運転状態が動作点P1を示し変速段が3速である場合であってエンジン要求トルクT2の場合、K0クラッチ14の係合時での予測される変速段は4段であり予測モータ回転数は回転数R2である。このようにアクセル開度に基づいてK0クラッチ14の係合時でのモータ回転数を予測することができる。
【0050】
以上のようにして算出された予測モータ回転数に基づいて点火時期が進角されるため、予測モータ回転数に対応させてエンジントルクを早期に増大させることができ、加速応答性が向上している。
【0051】
次に、変形例について説明する。上記実施例では、予測モータ回転数に応じて点火時期の進角量を算出した。これに対して変形例では、ECU100は、エンジン10の始動要求がある場合にモータ回転数センサ73により検出されたモータ回転数に応じて点火時期の進角量を算出する。具体的には、ECU100は図7のマップを参照して、点火時期の進角量を算出する。図7は、点火時期とモータ回転数との関係を規定したマップである。縦軸は点火時期[deg]を示し、横軸はモータ回転数[rpm]を示す。図7は、図4Cに対応している。この場合も図4Cのマップと同様にアクセル開度が閾値α未満及び閾値α以上の何れの場合も、モータ回転数が高いほど点火時期は進角側となるように規定されている。本変形例では、上述した実施例とは異なりモータ回転数を予測する必要はないため、ECU100の処理負担が低減されている。
【0052】
上記実施例では、単一のECU100によりハイブリッド車両を制御する場合を例示したが、これに限定されない。例えばエンジン10を制御するエンジンECU、モータ15を制御するモータECU、K0クラッチ14を制御するクラッチECU、これらのECUを統合制御するハイブリッドECU等の複数のECUによって、上述した制御を実行してもよい。例えば上述したステップS1及びS2をハイブリッドECUが実行して、ステップS3及びS4についてはエンジンECUが実行してもよい。
【0053】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 エンジン
14 K0クラッチ
15 モータ
72 クランク角センサ(エンジン回転数検出部)
73 モータ回転数センサ(モータ回転数検出部)
74 アクセル開度センサ(アクセル開度検出部)
76 水温センサ(エンジン温度検出部)
100 ECU(判定部、点火時期制御部、予測部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7