(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】車両用空調システム
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20241210BHJP
B60H 1/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B60H1/22 611D
B60H1/22 671
B60H1/00 101U
(21)【出願番号】P 2022154320
(22)【出願日】2022-09-28
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 優
【審査官】塩田 匠
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-131530(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0031196(US,A1)
【文献】特開2006-151098(JP,A)
【文献】特開2016-22778(JP,A)
【文献】特開平11-222022(JP,A)
【文献】国際公開第2017/077811(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00-3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方に設けられ駆動源が設置された機関室の前面に設けられ、当該機関室内に導入する外気量を調整可能なグリルシャッタと、
前記機関室に設置された熱源と、
冷媒液が流れる配管であって、前記熱源を経由する昇温区間を備えるとともに、前記昇温区間から車室前方区間と車室後方区間とに分岐したのちに合流して前記昇温区間に戻る循環配管と、
前記車室前方区間を流れる冷媒液と熱交換して車室前方に温風を送るフロントブロアと、
前記車室後方区間を流れる冷媒液と熱交換して車室後方に温風を送るリアブロアと、
デフロスタ機能のオン・オフを含めた前記車室前方への風量操作が可能なフロント空調操作部と、
前記車室後方への風量操作が可能なリア空調操作部と、
を備え、
前記グリルシャッタが開放状態で固着し、かつ、前記デフロスタ機能がオン状態である第一条件の成立時に、前記リア空調操作部は前記車室後方への風量制限を実行可能である、
車両用空調システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用空調システムであって、
前記第一条件成立時かつ車外気温が閾値温度以下となる第二条件の成立時に、前記リア空調操作部は前記車室後方への風量制限を実行可能である、
車両用空調システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用空調システムであって、
前記第一条件及び前記第二条件の成立時であって、車速が閾値速度以上となる第三条件の成立時に、前記リア空調操作部は前記車室後方への風量制限を実行する、
車両用空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、車両用空調システムが開示される。
【背景技術】
【0002】
車両には空調(空気調和)システムが搭載される。例えば駆動源として内燃機関の代わりに回転電機が搭載された電気自動車(BEV)では、内燃機関から生じる熱が得られないことから、暖房機器として、PTC(正温度係数、Positive Temperature Coefficient)ヒータ等の電気ヒータが搭載される。
【0003】
例えば電気ヒータは、電力供給により発熱する熱源(例えばPTC素子)を備える。この電気ヒータに冷媒液を流すことで冷媒液が昇温される。昇温後の冷媒液は配管を通ってフロント側ブロアやリア側ブロアの前を流れる。ブロアから送られた風が配管を通過する際に冷媒液と熱交換することで温風となる。この温風が車室フロント側空間やリア側空間に供給される。
【0004】
また、従来から車両に搭載されている熱交換型の空調システムは、熱交換器を備える。この熱交換器はエンジンコンパートメントに搭載される。エンジンコンパートメントの前面、つまり車両前面にはフロントグリルが設けられる。フロントグリルからエンジンコンパートメント内に導入された外気が熱交換器と熱交換される。
【0005】
ここで、熱交換型の空調システムのレイアウトが電気ヒータシステムに応用されると、例えば熱交換器に代わって電気ヒータが電気自動車のモーターコンパートメントに搭載される。なお、エンジンコンパートメント及びモーターコンパートメントの両者とも、駆動源が設置された部屋であることから、これらのコンパートメントは纏めて以下では機関室と記載される。
【0006】
機関室内の機器の速やかな昇温(暖機)を図るために、例えば特許文献1では、フロントグリルの後方にグリルシャッタが設けられる。グリルシャッタの開度調整により、フロントグリルから機関室に導入される車外気量が調整可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、グリルシャッタのフィンが開固着する場合がある。開固着とは、開放状態のフィンが閉指令を受けても閉じられずに開放状態のまま固着する状態を指す。例えば開状態で隣り合うフィンの間に雪塊等の異物が挟まったり、フィンを回動させるアクチュエータの不具合等により、フィンの開固着が生じ得る。
【0009】
フィンの開固着により、機関室内に外気が入り込む。これにより、電気ヒータ内の熱源が温度を奪われ、昇温機能が抑制されるおそれがある。特にウインドシールドガラスの防曇機能であるデフロスタ機能が実行されるときには、電気ヒータにより冷媒液が十分に昇温される必要がある。
【0010】
そこで本明細書では、空調システムの熱源が機関室に搭載されている場合に、グリルシャッタのフィンの開固着時に、デフロスタによる防曇を確実に行うことの可能な、車両用空調システムが開示される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書で開示される車両用空調システムは、グリルシャッタ、熱源、循環配管、フロントブロア、リアブロア、フロント空調操作部、及びリア空調操作部を備える。グリルシャッタは、車両前方に設けられ駆動源が設置された機関室の前面に設けられ、当該機関室内に導入する外気量を調整可能となっている。熱源は機関室に設置される。循環配管は、冷媒液が流れる配管であって、熱源を経由する昇温区間を備える。さらに循環配管は、昇温区間から車室前方区間と車室後方区間とに分岐したのちに合流して昇温区間に戻る。フロントブロアは、車室前方区間を流れる冷媒液と熱交換して車室前方に温風を送る。リアブロアは、車室後方区間を流れる冷媒液と熱交換して車室後方に温風を送る。フロント空調操作部は、デフロスタ機能のオン・オフを含めた車室前方への風量操作が可能となっている。リア空調操作部は、車室後方への風量操作が可能となっている。さらに、グリルシャッタが開放状態で固着し、かつ、デフロスタ機能がオン状態である第一条件の成立時に、リア空調操作部は車室後方への風量制限を実行可能となっている。
【0012】
上記構成によれば、グリルシャッタが開固着したときに、車室後方への温風量が制限されることで、冷媒液の熱交換(すなわち温度低下)が抑制される。その結果、十分に昇温された温風がデフロスタ向けに利用可能となる。
【0013】
また上記構成において、第一条件成立時かつ車外気温が閾値温度以下となる第二条件の成立時に、リア空調操作部は車室後方への風量制限を実行可能であってよい。
【0014】
上記構成によれば、車外気温が閾値温度を超過する場合には、車室後方への風量制限が回避可能となり、後部座席の快適性低下を抑制可能となる。
【0015】
また上記構成において、第一条件及び第二条件の成立時であって、車速が閾値速度以上となる第三条件の成立時に、リア空調操作部は車室後方への風量制限を実行してもよい。
【0016】
上記構成によれば、車速が閾値速度未満である場合には、車室後方への風量制限が回避可能となり、後部座席の快適性低下を抑制可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本明細書に係る車両用空調システムによれば、空調システムの熱源が機関室に搭載されている場合に、グリルシャッタのフィンの開固着時に、デフロスタによる防曇を確実に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】空調システムの特に循環配管について説明する図である。
【
図5】本実施形態に係る車両用空調システムの全体構成を例示する図である。
【
図6】空調ECUのハードウェア構成を例示する図である。
【
図7】車外気温の閾値温度To_thの設定について説明する図である。
【
図8】車速の閾値速度V_thの設定について説明する図である。
【
図9】本実施形態に係る車両用空調システムにより実行される、リア風量制限判定フローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、実施形態に係る、車両用空調システムが図面を用いて説明される。以下で説明する形状、材料、個数、及び数値は、説明のための例示であって、車両用空調システムの仕様に応じて適宜変更することができる。また以下ではすべての図面において同等の要素には同一の符号が付される。
【0020】
また
図1-
図4では、各構成の位置や方向を表すために、FR軸、RW軸、及びUP軸からなる直交座標系が用いられる。FR軸は車両前方を正方向とする車両前後方向軸である。RW軸は車両右側を正方向とする車幅方向軸である。UP軸は上方を正方向とする車両上下方向軸である。
【0021】
<全体構成>
図5には、本実施形態に係る車両用空調システムの全体像が例示される。すなわちこの空調システムは、温風を供給する機構として、電気ヒータ30、循環配管40、フロントブロア80A及びリアブロア80Bを備える。また空調システムは、温風の風量や吐出先をコントロールする機構として、フロント空調操作パネル50、リア空調操作パネル60、フロント操作制御部70、リア操作制御部71、及び空調ECU100を備える。さらに空調システムは、電気ヒータ30が設置される機関室12(
図1参照)に取り込まれる車外気の流量(以下適宜、車外気量と記載される)を調整する機構として、グリルシャッタアッパ20A及びグリルシャッタロア20Bを備える。
【0022】
フロント空調操作パネル50のデフロスタボタン58A(
図3参照)がオン操作されると、空調ECU100はグリルシャッタアッパ20A及びグリルシャッタロア20Bの少なくとも一方が開固着しているか否かを判定する。
【0023】
そして、デフロスタ機能がオン状態であり、かつ、グリルシャッタアッパ20A及びグリルシャッタロア20Bの少なくとも一方が開固着している場合(第一条件成立時)、リア操作制御部71は車室後方への風量制限を実行可能となっている。
【0024】
<機関室>
図1には、車両10の機関室12に設置された機器が例示される。車両10は、例えば回転電機110を駆動源とする電気自動車(BEV)である。この回転電機110が設置される部屋として、車両10は機関室12を備える。機関室12はモーターコンパートメントとも呼ばれる。また機関室12は車両10の前方に設けられる。例えば
図2を参照して機関室12は車室16よりも前方に設けられる。
【0025】
図1を参照して、機関室12の前面にはフロントグリルが設けられる。上述のように、機関室12は車両10の前方に設けられることから、その機関室12の前面に設けられるフロントグリルは、車両10の前面に配置される。
【0026】
例えば
図1の例では、フロントグリルが上下段に分かれる。すなわち機関室12の前面には、上段グリルであるフロントグリルアッパ14Aと、下段グリルであるフロントグリルロア14Bが設けられる。フロントグリルアッパ14A及びフロントグリルロア14Bは、車両前面において車幅方向に延設される。
【0027】
フロントグリルアッパ14A及びフロントグリルロア14Bの後方に、ラジエータアッパ15A及びラジエータロア15Bが設けられる。ラジエータアッパ15A及びラジエータロア15Bは、車両10の電気機器を冷却するために機関室12に設けられる。例えば回転電機110を冷却する冷媒がラジエータアッパ15Aに流れ込み、車外気と熱交換される。またインバータ、DC/DCコンバータ等のいわゆる強電系電子機器を冷却する冷媒がラジエータロア15Bに流れ込み、車外気と熱交換される。
【0028】
機関室12の前面において、フロントグリルアッパ14A及びフロントグリルロア14Bと、ラジエータアッパ15A及びラジエータロア15Bとの間には、グリルシャッタアッパ20A及びグリルシャッタロア20Bが設けられる。グリルシャッタアッパ20A及びグリルシャッタロア20Bは、コントローラ22A,22B、アクチュエータ24A,24B、及びフィン25A,25Bを備える。
【0029】
フィン25A,25Bは、例えばフロントグリルアッパ14A及びフロントグリルロア14Bのグリル開口の全幅(RW方向全長)に亘って延設される。コントローラ22A,22Bは空調ECU100(
図5参照)より駆動指令を受けてアクチュエータ24A,24Bを駆動させる。例えば駆動指令は開指令及び閉指令を含む。コントローラ22A,22Bの駆動制御に基づいて、アクチュエータ24A,24Bはフィン25A,25Bを開閉させる。フィン25A,25Bの開閉に応じて、機関室12内に導入される車外気量が調整可能となる。
【0030】
<空調システム>
図1、
図2を参照して、車両10は車室16用の空調システム(空気調和システム)を備える。この空調システムの暖房機能として、車両10には、電気ヒータ30、循環配管40、ポンプ41、フロントブロア80A、及びリアブロア80Bが設けられる。なお図示を簡略化するために、
図2ではダクトやダクト内ドア等の導風手段について、図示が省略される。
【0031】
電気ヒータ30は、熱源であるPTC素子32A-32Dを備える。PTC素子32A-32Dは電力供給により発熱する発熱体であって、その抵抗値は温度によって可変であることが知られている。
【0032】
例えばPTC素子32A-32Dに電力を供給すると温度が上がり、その温度が所定の閾値温度を超過すると急激に電気抵抗値が増加する。その結果、同一電圧下においてPTC素子32A-32Dに供給される電流が絞られ、昇温が抑制される。閾値温度を目標温度とするPTC素子32A-32Dを用いることで、目標温度到達後に電流が絞られ目標温度以上の昇温が抑制される。
【0033】
例えば電気ヒータ30は熱源として複数のPTC素子32A-32Dを備える。さらに電気ヒータ30には、電流の供給/遮断を切り替えるスイッチパネル35(
図5参照)が設けられる。後述されるように、冷媒液に対する昇温要求に応じて、空調ECU100は、電流供給対象のPTC素子32A-32Dを選択する。
【0034】
電気ヒータ30は、PTC素子32A-32Dを収容するケーシング31を備える。ケーシング31は例えばアルミ等の金属材料から構成される。ケーシング31内には、循環配管40の一部として、熱源を経由する昇温区間42が設けられる。例えば熱源であるPTC素子32A-32Dと接する配管がケーシング31内に設けられる。この配管の延伸区間が昇温区間42となる。
【0035】
また電気ヒータ30は機関室12に設置される。したがってフロントグリルアッパ14A及びフロントグリルロア14Bから導入される車外気によって電気ヒータ30及び熱源であるPTC素子32A-32Dから熱が奪われ、その結果、冷媒液の昇温ペースが鈍化するおそれがある。特に、グリルシャッタアッパ20A及びグリルシャッタロア20Bの少なくとも一方が開固着したときには、車外気量の調整が困難となり、その分電気ヒータ30は多量の車外気に晒されるおそれがある。
【0036】
そこで後述されるように、グリルシャッタアッパ20A及びグリルシャッタロア20Bの少なくとも一方が開固着し、さらに、空調システムに対してデフロスタ機能がオン状態である場合には、車室16後方への風量制限が実行可能となっている。このような風量制限により、冷媒液の熱交換(すなわち温度低下)が抑制される。その結果、十分に昇温された温風がデフロスタに利用可能となる。
【0037】
冷媒液の流路となる循環配管40は、昇温区間42、車室前方区間44、及び車室後方区間46を備える。昇温区間42は上述の通り電気ヒータ30内に設けられる。昇温区間42を通過し昇温された冷媒液は車室前方区間44及び車室後方区間46に分岐される。車室前方区間44はフロントブロア80Aの送風口手前を横切り、車室後方区間46はリアブロア80Bの送風口手前を横切る。その後車室前方区間44及び車室後方区間46は下流で合流して昇温区間42に戻る。
【0038】
循環配管40を流れる冷媒液の流量はポンプ41により制御される。
図5を参照して、ポンプ41はポンプモータ43に接続される。ポンプモータ43は、ポンプインバータ45によって回転制御される。
【0039】
例えば、空調ECU100の機器制御部106からPWM信号が出力される。このPWM信号に応じてポンプインバータ45のスイッチング素子が駆動する。そしてPWM信号のデューティ比に応じた電圧がポンプモータ43に印加され、この印加電圧に応じた駆動力がポンプ41に入力される。
【0040】
図2を参照して、フロントブロア80Aは例えば車室16前方のインストルメントパネル115(
図3参照)に収容される。さらに循環配管40の車室前方区間44もインストルメントパネル115に収容される。
【0041】
フロントブロア80Aから送出された空気は車室前方区間44を通過する際に冷媒液と熱交換して温風となる。この温風が、インストルメントパネル115に設けられたレジスタ(図示せず)等の吐出口から車室前方に送風される。
【0042】
また、インストルメントパネル115の前端部分には、ウインドシールドガラス11(
図3参照)に向けてフロントブロア80Aからの風を送り出す吹出口13が設けられる。例えばフロント空調操作パネル50のデフロスタボタン58Aがオン操作されると、インストルメントパネル115内のダクトドア(図示せず)が開閉され、吹出口13から温風が吹き出される。
【0043】
リアブロア80Bは例えば循環配管40の車室後方区間46とともに、フロントコンソールボックス117(
図3参照)の下部に設けられる。リアブロア80Bから送出された空気は車室後方区間46を通過する際に冷媒液と熱交換して温風となる。この温風が、フロントコンソールボックス117の背面に設けられた吹出口(図示せず)から車室後方に送風される。
【0044】
図5に例示されるように、フロントブロア80Aは、フロントモータ82Aに接続される。フロントモータ82Aは、フロントインバータ84Aによって回転制御される。同様にして、リアブロア80Bは、リアモータ82Bに接続される。リアモータ82Bは、リアインバータ84Bによって回転制御される。
【0045】
例えば、空調ECU100の機器制御部106からPWM信号が出力される。このPWM信号に応じてフロントインバータ84A及びリアインバータ84Bのスイッチング素子が駆動する。そしてPWM信号のデューティ比に応じた電圧がフロントモータ82A及びリアモータ82Bに印加され、この印加電圧に応じた駆動力がフロントブロア80A及びリアブロア80Bに入力される。
【0046】
<空調操作部>
図3には、本実施形態に係る車両用空調システムの一部である、フロント空調操作パネル50が例示される。例えばフロント空調操作パネル50は、インストルメントパネル115に設けられる。このフロント空調操作パネル50とフロント操作制御部70(
図5参照)とによって、フロント空調操作部120が構成される。
【0047】
フロント空調操作パネル50は、例えば入力部と表示部が重複するタッチパネルであってよい。フロント空調操作パネル50は、デフロスタ機能のオン・オフを含めた車室前方への風量操作が可能となっている。
【0048】
例えばフロント空調操作パネル50には風量設定ボタン51A,51B、温度設定ボタン52A,52B、オートボタン53、及びブロアボタン54が設けられる。さらにフロント空調操作パネル50には、エアコンボタン55、内外気切替ボタン56、ディスプレイ57、デフロスタボタン58A、リアデフォッガーボタン58B、及び吹出口選択スイッチ59が設けられる。これらのボタンやスイッチの機能については既知であるためここでは説明が適宜省略される。
【0049】
フロント空調操作パネル50の各種ボタンへの操作信号は、フロント操作制御部70(
図5参照)が受信する。フロント操作制御部70は、例えばフロント空調操作パネル50に実装されたコンピュータであってよい。例えばフロント操作制御部70は、フロント空調操作パネル50の各種ボタンから入力された操作信号を記憶するとともに、操作信号を空調ECU100に送信する。
【0050】
図4には、本実施形態に係る車両用空調システムの一部である、リア空調操作パネル60が例示される。例えばリア空調操作パネル60は、リアコンソール65に設けられる。例えばリアコンソール65は一対の後部座席19,19の間に設けられる。このリア空調操作パネル60とリア操作制御部71(
図5参照)とによって、リア空調操作部121が構成される。
【0051】
リア空調操作パネル60は、例えば入力部と表示部が重複するタッチパネルであってよい。リア空調操作パネル60は、車室後方への風量操作が可能となっている。例えばリア空調操作パネル60には風量設定ボタン61A,61B、温度設定ボタン62A,62B、オートボタン63、及び吹出口選択スイッチ69が設けられる。これらのボタンやスイッチの機能については既知であるためここでは説明が適宜省略される。
【0052】
リア空調操作パネル60の各種ボタンへの操作信号は、リア操作制御部71(
図5参照)が受信する。リア操作制御部71は、例えばリア空調操作パネル60に実装されたコンピュータであってよい。このコンピュータは例えば
図6に例示されるようなハードウェア構成を備える。
【0053】
例えばリア操作制御部71は、リア空調操作パネル60の各種ボタンから入力された操作信号を記憶するとともに、操作信号を空調ECU100に送信する。
【0054】
また後述されるように、リア操作制御部71は、リア空調、すなわち車室後方への温風量を制限する、風量制限を実行可能となっている。例えば
図4を参照して、風量制限が掛かっていない場合に、風量設定ボタン61A,61Bにより、風量は0~5まで設定可能であるところ、風量制限実行時には、上限風量が3に制限される。言い換えると、仮に乗員が風量設定ボタン61Aにより風量を3から増加させようとしても、リア操作制御部71はそのような操作を無効とする。この風量制限の詳細は後述される。
【0055】
<空調ECU>
空調ECU100は、車両用空調システムを制御する電子コントロールユニットである。例えば空調ECU100はコンピュータから構成され、
図6に例示されるようなハードウェア構成を備える。すなわち空調ECU100は、入出力コントローラ100C、CPU100D、RAM100E、ROM100F、及びストレージデバイス100Gを備える。これらの電子素子は内部バス100Hにより接続される。
【0056】
図5を参照して、空調ECU100は、電気ヒータ30を制御するために、スイッチパネル35、ポンプインバータ45、及び冷媒温度センサ92に接続される。また空調ECU100は、フロントブロア80A及びリアブロア80Bを制御するために、フロント室温センサ90A、リア室温センサ90B、フロントインバータ84A、及びリアインバータ84Bに接続される。
【0057】
さらに空調ECU100は、空調操作系の接続先として、フロント操作制御部70を介してフロント空調操作パネル50に接続される。また空調ECU100は、リア操作制御部71を介してリア空調操作パネル60に接続される。
【0058】
また空調ECU100は、機関室12に導入される車外気量を制御するために、グリルシャッタアッパ20A及びグリルシャッタロア20Bのコントローラ22A,22Bと接続される。加えて空調ECU100は、フィン25A,25Bの回動可否を判定するセンサである、回転数センサ26A,26Bと接続される。
【0059】
回転数センサ26A,26Bは例えばホール素子を備える。そして回転数センサ26A,26Bは、アクチュエータ24A,24Bの回転子に設けられた磁石(図示せず)との相対距離に応じてパルス信号を出力する。
【0060】
また空調ECU100は、後述されるリア空調風量制限の可否判定に参照される値(車速及び車外気温)を取得するために、車速センサ96及び車外気温センサ94に接続される。
【0061】
空調ECU100のROM100F(
図6参照)またはストレージデバイス100Gに記憶された制御プログラムをCPU100Dが実行することで、空調ECU100には
図5で例示された機能ブロックが構築される。またこれらの機能ブロックは、DVD等の、非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された制御プログラムをCPU100Dが読み取って実行することでも構築され得る。
【0062】
空調ECU100は、シャッタ判定部101、車外気温判定部102、車速判定部103、前回値記憶部104、空調制御判定部105、及び機器制御部106を備える。これらの機能ブロックによって、以下に説明されるリア空調風量制限判定フローが実行される
【0063】
<リア空調風量制限判定フロー>
図9には、本実施形態に係る車両用空調システムによる、リア空調風量制限判定フローが例示される。このフローでは、グリルシャッタの開固着時において、デフロスタ用の温風の昇温が困難と予想される場合に、リア空調、つまり車室後方への風量制限が実行される。なおこのフローは、末尾の「Return」に示されるように、繰り返し実行される。
【0064】
図5、
図9を参照して、シャッタ判定部101は、グリルシャッタアッパ20Aが開固着したか否かを判定する(S10)。例えばシャッタ判定部101は、回転数センサ26Aから取得したフィン25Aの動作履歴から、フィン25Aが開放状態であるか否かを判定する。
【0065】
さらにシャッタ判定部101は、フィン25Aが開放状態であるときに、コントローラ22Aに対して確認運転用の駆動指令(閉指令)を送信する。駆動指令を受けたコントローラ22Aがアクチュエータ24Aを駆動させて、フィン25Aを閉止状態に回動させる。
【0066】
フィン25Aの回動有無は回転数センサ26Aにより検出される。シャッタ判定部101は、コントローラ22Aに対して駆動信号を送信した時点から所定時間以内に回転数センサ26Aからパルス信号が出力されない場合に、グリルシャッタアッパ20Aが開固着状態にあると判定する。
【0067】
グリルシャッタアッパ20Aが開固着していないと判定されると、次にシャッタ判定部101はグリルシャッタロア20Bが開固着したか否かを判定する(S12)。この開固着判定では、上述のグリルシャッタアッパ20Aに対する開固着判定と同内容の処理が実行される。
【0068】
グリルシャッタアッパ20Aまたはグリルシャッタロア20Bが開固着していると判定されると、空調制御判定部105は、フロント操作制御部70に記憶された操作信号の履歴から、デフロスタ機能がオン状態であるか否かを判定する(S14)。例えば空調制御判定部105は、デフロスタボタン58A(
図3参照)がオン状態に維持されているか否かを、フロント操作制御部70の操作履歴から確認する。
【0069】
グリルシャッタアッパ20Aまたはグリルシャッタロア20Bが開固着(開放状態で固着)し、かつ、デフロスタ機能がオン状態である条件を第一条件とする。この第一条件の成立時に、リア操作制御部71は車室後方への風量制限を実行可能となる。
【0070】
図9のフローチャートでは、第一条件に加えて車外気温に関する第二条件(S16)と、車速に関する第三条件(S18)の判定ステップが設けられる。車外気温判定部102は、車外気温センサ94から取得した車外気温Toが、所定の閾値温度To_th以下であるか否かを判定する(S16)。
【0071】
ここで、閾値温度To_thは、いわゆるヒステリシスを考慮して設定されてよい。
図7には2種類の閾値温度To_th1,To_th2が示される。車外気温判定部102は、前回値記憶部104を参照して、前回フロー実行時の車外気温Toが閾値温度To_th2を超過したか否かを判定する。前回の車外気温Toが閾値温度To_th2を超過した場合、今回の閾値温度として閾値温度To_th1がステップS16にて設定される。前回の車外気温Toが閾値温度To_th2以下である場合、今回の閾値温度として閾値温度To_th2がステップS16にて設定される。
【0072】
ステップS16にて、車外気温Toが閾値温度To_th(To_th1またはTo_th2)を超過する場合、つまり車外気が程々に暖かい場合、リア風量制限の実行が見送られる。
【0073】
車外気温Toが閾値温度To_th以下である条件を第二条件とすると、第一条件(グリルシャッタ開固着&デフロスタON)成立時かつ第二条件成立時に、リア操作制御部71は車室後方への風量制限を実行可能となる。なお
図9のフローチャートでは、第一、第二条件に加えて車速に関する第三条件(S18)の判定ステップが設けられる。
【0074】
車速判定部103は、車速センサ96から取得した車速Vが、所定の閾値速度V_th以上であるか否かを判定する(S18)。ここで、ステップS16と同様にして、閾値速度V_thは、ヒステリシスを考慮して設定されてよい。
図8には2種類の閾値速度V_th1,V_th2が示される。車速判定部103は、前回値記憶部104を参照して、前回フロー実行時の車速Vが閾値速度V_th2以上であるか否かを判定する。前回の車速Vが閾値速度V_th2以上である場合、今回の閾値速度として閾値速度V_th1がステップS18にて設定される。前回の車速Vが閾値速度V_th2未満である場合、今回の閾値速度として閾値速度V_th2がステップS18にて設定される。
【0075】
ステップS18にて、車速Vが閾値速度V_th(V_th1またはV_th2)未満である場合、リア風量制限の実行が見送られる。車速Vが閾値速度V_th以上である条件を第三条件とすると、第一条件(グリルシャッタ開固着&デフロスタON)及び第二条件(車外気温To≦To_th)の成立時かつ第三条件成立時に、リア操作制御部71は車室後方への風量制限を実行する。
【0076】
例えば
図4を参照して、風量制限実行時には、リア操作制御部71は上限風量を3に制限する。仮に乗員が風量設定ボタン61Aにより風量を3から増加させようとしても、リア操作制御部71はそのような操作を無効とする(3に維持する)。そして、リア操作制御部71はこのときの操作信号を空調ECU100には送信しない。加えてリア操作制御部71は、風量制限下における風量上限が3である旨のメッセージを、ディスプレイ67(
図4参照)に表示させる。
【0077】
なお
図9のフローチャートでは、第一条件(グリルシャッタ開固着&デフロスタON)、第二条件(車外気温To≦To_th)、及び第三条件(車速V≧V_th)のいずれもが成立したときに、車室後方への風量制限が実行される。しかしながら、本実施形態に係る車両空調システムは、この実施形態には限定されない。
【0078】
例えば第一条件が成立したことをもって、リア操作制御部71は風量制限を実行してもよい。また第一条件及び第二条件が成立したことをもって、リア操作制御部71は風量制限を実行してもよい。いずれの場合においても、本実施形態に係る車両用空調システムでは、電気ヒータ30の昇温機能を確保する観点から各種条件の成立可否が判定される。
【0079】
ここで、仮に冷媒温度センサ92(
図5参照)から冷媒温度を取得して、閾値温度との比較から風量制限の可否を判定するようなフローを設ける場合、一旦冷媒温度が下がってから十分な温度まで回復するまでに時間が掛かり、その間の防曇機能が低下するおそれがある。
【0080】
これに対して
図9のフローチャートでは、冷媒温度を用いたステップを設けずに、電気ヒータ30の昇温を抑制する要素に絞って風量制限の可否判定が行われる。このような判定により、電気ヒータ30による冷媒液の昇温を常時確実に行うことが出来る。
【符号の説明】
【0081】
10 車両、11 ウインドシールドガラス、12 機関室、16 車室、20A グリルシャッタアッパ、20B グリルシャッタロア、30 電気ヒータ、32A-32D PTC素子(熱源)、40 循環配管、42 昇温区間、44 車室前方区間、45 ポンプインバータ、46 車室後方区間、50 フロント空調操作パネル、58A デフロスタボタン、60 リア空調操作パネル、61A,61B 風量設定ボタン、70 フロント操作制御部、70 リア操作制御部、100 空調ECU、101 シャッタ判定部、102 車外気温判定部、103 車速判定部、104 前回値記憶部、105 空調制御判定部、106 機器制御部、120 フロント空調操作部、121 リア空調操作部。