(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用集電体、鉛蓄電池用正極板、および鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/73 20060101AFI20241210BHJP
H01M 4/14 20060101ALI20241210BHJP
H01M 10/06 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H01M4/73 A
H01M4/14 Q
H01M10/06 Z
(21)【出願番号】P 2022515212
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2021003250
(87)【国際公開番号】W WO2021210244
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2020072059
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】藤田 晃平
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-139215(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056417(WO,A1)
【文献】特開平6-267544(JP,A)
【文献】特開2012-174561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池用集電体であって、
枠骨と、前記枠骨の内側の内骨と、を有し、
前記枠骨は、耳と、前記耳と連続する上部要素と、前記上部要素と対向する下部要素と、前記上部要素と前記下部要素とを連結する一対の側部要素と、を具備し、
前記内骨は、前記上部要素から前記下部要素に向かう第1方向に延びる縦骨と、一方の前記側部要素から他方の前記側部要素に向かう第2方向に延びる横骨と、を具備し、
前記縦骨の前記第1方向に垂直な断面において、金属の繊維状組織の縞模様が見られ、
前記断面の外周領域は、前記繊維状組織が前記断面の輪郭に沿って延びる第1部分と、前記第1部分以外の第2部分と、で構成され、
前記断面の輪郭の全長に占める前記第1部分に対応する輪郭の長さの割合:R1は、50%以上であり、
前記枠骨の質量W1の前記内骨の質量W2に対する比:W1/W2は、0.2≦W1/W2≦0.42を充足する、鉛蓄電池用集電体。
【請求項2】
前記割合R1は、60%以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池用電体。
【請求項3】
前記割合R1は、100%未満である、請求項1または2に記載の鉛蓄電池用集電体。
【請求項4】
前記断面が、八角形である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用集電体。
【請求項5】
前記集電体が、鉛または鉛合金の延伸シートの打ち抜き集電体であり、
前記縦骨の内法の合計長さWLHと、前記横骨の内法の合計長さWLWとが、WLH/WLW≧0.8を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用集電体。
【請求項6】
前記縦骨の内法の合計長さWLHと、前記横骨の内法の合計長さWLWとが、WLH/WLW≦1.96を満たす、請求項5に記載の鉛蓄電池用集電体。
【請求項7】
鉛蓄電池用正極板であって、請求項1~6のいずれか1項に記載の集電体と、前記集電体に保持された正極電極材料とを備える、鉛蓄電池用正極板。
【請求項8】
鉛蓄電池であって、請求項7に記載の正極板と、負極板と、電解液と、を備える、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用集電体、鉛蓄電池用正極板、および鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、正極板と負極板とが交互にセパレータを介して積層された極板群を具備する。電極板は、集電体と、集電体に保持された電極材料とで構成されている。
【0003】
特許文献1は、鉛合金の圧延板をプレス打ち抜きしてなる鉛格子板において、内部の縦および横の桟の厚さを外枠の厚さよりも薄くし、かつ外枠の厚さが0.8~1.5mm、内部の桟の厚さが0.6~0.8mmの範囲にあることを特徴とする鉛蓄電池用鉛格子板を提案している。また、引用文献1は、厚さ1.2~1.5mmの鉛合金の圧延板をプレス打ち抜きして得られる鉛格子板の内部枠に対して厚さ方向に変形を加えて内部の縦及び横の桟の厚さを0.6~0.8mmの範囲に設定したことを特徴とする鉛蓄電池用鉛格子板を提案している。
【0004】
特許文献2は、枠骨と、この枠骨の外側に配置される耳と、前記枠骨の内側に配置され、格子を形成する内骨とを備え、前記枠骨と耳との加算質量(枠骨+耳)が、内骨の質量よりも軽い正極格子基板を提案している。
【0005】
特許文献3は、枠骨と、複数の横桟と複数の縦桟とからなる内骨とを有する鉛蓄電池用格子体において、前記複数の縦桟の上端部は、それぞれ前記枠骨の上部横骨に連結され且つ前記複数の縦桟は相互の交差しないようにして前記枠骨の下部横骨側に向かって延びており、前記枠骨の上部横骨の質量を格子体全体の質量の11%以上14%以下とし、前記上部横骨の質量と前記複数の縦桟の質量とを合わせた質量が格子体全体の質量の60%以上70%以下となるように質量を配分したことを特徴とする鉛蓄電池用格子体を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭51-60936号公報
【文献】特開2012-174561号公報
【文献】特開平5-54893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2では、格子状集電体の厚みまたは質量のバランスを調節することで、電極材料の保持力がある程度向上すると考えられる。特許文献3では、格子状集電体の電圧特性を制御することで、集電性の低下または電極材料の劣化をある程度抑制できると考えられる。しかし、高温過充電試験を行うと、格子状集電体の伸びまたは湾曲が顕著になり、電極材料が脱落して寿命性能が低下する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、鉛蓄電池用集電体であって、
枠骨と、前記枠骨の内側の内骨と、を有し、
前記枠骨は、耳と、前記耳と連続する上部要素と、前記上部要素と対向する下部要素と、前記上部要素と前記下部要素とを連結する一対の側部要素と、を具備し、
前記内骨は、前記上部要素から前記下部要素に向かう第1方向に延びる縦骨と、一方の前記側部要素から他方の前記側部要素に向かう第2方向に延びる横骨と、を具備し、
前記縦骨の前記第1方向に垂直な断面において、金属の繊維状組織の縞模様が見られ、
前記断面の外周領域は、前記繊維状組織が前記断面の輪郭に沿って延びる第1部分と、前記第1部分以外の第2部分と、で構成され、
前記断面の輪郭の全長に占める前記第1部分に対応する輪郭の長さの割合:R1は、50%以上であり、
前記枠骨の質量W1の前記内骨の質量W2に対する比:W1/W2は、
0.2≦W1/W2≦0.42
を充足する、鉛蓄電池用集電体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池用集電体の外観を示す平面図である。
【
図1B】本発明の別の実施形態に係る鉛蓄電池用集電体の外観を示す平面図である。
【
図3】繊維状組織の断面が見られる内骨の断面写真である。
【
図4】内骨の腐食の進行状態を示す断面概念図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の外観を示す斜視図である。
【
図6】集電体の比W1/W2と高温過充電後の繰り返し5hR充放電試験後の初期容量比との関係を示すグラフである。
【
図7】集電体の割合R1と腐食率および変形量(幅伸びおよび高さ伸び)との関係を示すグラフである。
【
図8】集電体の割合R1と繰り返し5hR充放電試験後の初期容量比との関係を示すグラフである。
【
図9】集電体のWLH/WLWと幅伸びとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池用集電体は、枠骨と、枠骨の内側の内骨と、を有する。枠骨は、耳と、耳と連続する上部要素と、上部要素と対向する下部要素と、上部要素と下部要素とを連結する一対の側部要素と、を具備する。内骨は、上部要素から下部要素に向かう第1方向に延びる縦骨と、一方の側部要素から他方の側部要素に向かう第2方向に延びる横骨と、を具備する。縦骨の第1方向に垂直な断面においては、金属の繊維状組織の縞模様が見られる。断面の外周領域は、繊維状組織が前記断面の輪郭に沿って延びる第1部分と、第1部分以外の第2部分と、で構成される。断面の輪郭の全長に占める第1部分に対応する輪郭の長さの割合:R1は、50%以上である。枠骨の質量W1の内骨の質量W2に対する比:W1/W2は、0.2≦W1/W2≦0.42を充足する。
【0011】
なお、集電体は、格子体とも称する。ただし、集電体もしくは格子体の骨格は、格子状もしくは網目状に限定されるものではない。
【0012】
枠骨(より具体的には、枠骨の耳部を除く部分)は、通常、概ね四角形であり、矩形であってもよい。四角形は、上部要素と一対の側部要素とがそれぞれ成す角度、および下部要素と一対の側部要素とがそれぞれ成す角度(合計4つの角度)のうち、少なくとも1つが90℃ではない四角形(例えば台形)であってもよい。四角形の四隅のうち、少なくとも1つは、面取りされていてもよい。面取りは、C面取りでもR面取りでもよい。通常は、隅部を丸めるR面取りが好ましい。
【0013】
枠骨が矩形の場合、第1方向は、側部要素に平行な方向であり、第2方向は、上部要素および下部要素に平行な方向である。枠体が矩形以外の四角形であり、液式の鉛蓄電池の場合、通常の鉛蓄電池の使用状態において、第1方向は、鉛直方向に対応し、第2方向は、水平方向に対応する。枠骨が矩形以外の四角形であり、制御弁式の鉛蓄電池の場合、通常の鉛蓄電池の使用状態において、第1方向は、鉛直方向(または水平方向)に対応し、第2方向は、水平方向(または鉛直方向)に対応する。
【0014】
縦骨は、側部要素と平行に延びていてもよく、側部要素に対して斜め方向に延びていてもよい。また、縦骨は、直線状でもよく、曲線状でもよく、多少の折れ曲がりを有してもよい。すなわち、縦骨は、第1方向に向かうベクトルが第2方向に向かうベクトルよりも大きくなるように延びていればよい。
【0015】
横骨は、上部要素または下部要素と平行に延びていてもよく、上部要素または下部要素に対して斜め方向に延びていてもよい。また、横骨は、直線状でもよく、曲線状でもよく、多少の折れ曲がりを有してもよい。すなわち、横骨は、第2方向に向かうベクトルが第1方向に向かうベクトルよりも大きくなるように延びていればよい。
【0016】
縦骨の第1方向に垂直な断面、すなわち、上部要素に平行かつ厚さ方向に平行な断面(以下、断面Cとも称する。)には、金属の繊維状組織の縞模様が見られる。断面Cの外周領域は、繊維状組織(縞の方向)が断面Cの輪郭に沿って延びる第1部分と、第1部分以外の第2部分とで構成されている。断面Cの輪郭とは、縦骨の外表面に対応する線を意味する。断面Cの外周領域とは、断面Cの輪郭に沿う周縁領域であり、断面Cにおいて、外表面に対応する線から少なくとも55μm以上の深さを有し、好ましくは100μm以上の深さを有する周縁領域である。断面Cにおける第2部分では、縞模様が観測されなくてもよく、外周領域の深さ方向に延びる縞模様が観測されてもよい。
【0017】
本発明の上記側面に係る鉛蓄電池では、割合R1を50%以上とするとともに、比W1/W2を0.2以上0.42以下の範囲に制御する。これにより、高温過充電後の優れた寿命性能を確保することができる。このような効果が得られる理由について、以下に、より具体的に説明する。なお、割合R1が50%以上であるとは、割合R2は50%以下であることを意味する。
【0018】
このように、割合R1または割合R2が制御される場合、断面Cの外周領域の外表面に、繊維状組織の繊維長に垂直な断面が露出しにくくなる。繊維状組織の繊維長に垂直な断面は、多くの粒界を有する。第1部分と第2部分とでは、腐食の進行形態が異なる。
【0019】
一般に、集電体の腐食は、外表面に露出する繊維状組織の繊維長に垂直な断面において優先的に進行する。外周領域の第1部分の外表面においては、繊維状の金属組織が内骨の面方向に延びている。すなわち、結晶粒界は、内骨の深さ方向よりも、内骨の面方向に長く延びている。このため、外周領域の第1部分に形成される腐食層は、内骨の面方向に沿って形成され、内骨の内部の深い位置まで形成されにくい。外周領域の第1部分の外表面に沿って形成された腐食層は、集電体(内骨)との接合強度が低い。よって、集電体(外周領域の第1部分の外表面)と腐食層との界面でガスが発生すると、腐食層が集電体から比較的容易に剥離する。このように、第1部分では、腐食層の剥離に伴う応力が集電体に加わりにくいため、集電体の伸びおよび変形が小さくなる。
【0020】
一方、外周領域の第2部分の外表面では、繊維状の金属組織が内骨の深さ方向に延びている。すなわち、結晶粒界は、内骨の面方向よりも、内骨の深さ方向に長く延びている。そのため、第2部分では、縦骨の腐食は、深くまで楔状に進行しやすく、深い腐食による集電体の伸びは大きくなる傾向がある。よって、外周領域の第2部分の外表面に沿って形成された腐食層は、集電体(内骨)との接合強度が高い。第2部分では、集電体と腐食層との界面にガスが発生したとしても、腐食層が集電体から剥離しにくい。そのため、ガス発生に伴う応力が内骨に加わり、集電体の伸びまたは変形が起こり易い。特に、高温(例えば、60℃以上の温度)での過充電試験を行うと、集電体の腐食がより進行し易くなることに加えて、ガス発生が顕著になるため、第2部分が腐食層から受ける応力の影響が顕在化し易い。よって、腐食量が同じであっても、割合R1が大きいほど集電体の伸びおよび変形が抑制され、電極材料の脱落が抑制される。
【0021】
集電体の横骨の第2方向に垂直な断面、すなわち側部要素に平行かつ厚さ方向に平行な断面(以下、断面Gとも称する。)には、金属の繊維状組織の縞模様がほとんど見られず、一般的には繊維状組織の繊維長に垂直な断面が見られる。断面Gの外周領域は、通常、ほぼ全周が断面Cにおける第2部分に相当する。つまり断面Gの外周領域はほぼ全周が第2方向に延びる繊維状組織で構成されている。よって、断面Gの外周領域では、腐食量が同じでも集電体の伸びまたは変形は抑制される。
【0022】
比W1/W2を制御することで、電極材料の結着力を確保し易くなるとともに、内骨の変形をある程度抑制できる。しかし、上記のような第1部分と第2部分とにおける腐食の進行の違いにより、腐食量が同じであっても、集電体の変形の程度に大きな差が生じる。これにより、集電体が一方向に伸びたり、集電体に加わる応力がばらつくことで歪みが生じ、湾曲したりすることがある。特に高温過充電試験では、集電体の変形(伸び、湾曲など)が顕著になる。本発明の上記側面によれば、比W1/W2を0.2以上0.42以下の範囲に制御するとともに、割合R1を50%以上とする。そのため、高温過充電を行っても、腐食層の応力による変形自体が低減される。また、腐食の進行の程度を、内骨の全体で、より均一化することができ、腐食層の偏在が抑制され、集電体の伸びまたは変形が抑制される。さらに、初期から放電反応をより均一進行させることができるため、充放電を繰り返しても、集電体と電極材料との密着性の低下が抑制される。これらにより、電極材料の脱落が抑制されるため、高温過充電後の優れた寿命性能を確保することができる。
【0023】
第1部分の割合R1は、50%以上であればよい。割合R1が50%以上であることで、集電体の高さ伸びを抑制する効果が高まる。集電体の幅伸びを抑制する効果が高まる観点からは、割合R1は、60%以上または70%以上が好ましく、75%以上または80%以上であってもよい。また、割合R1は、100%未満が好ましく、95%以下または90%以下が更に好ましい。割合R1が100%になると、腐食の進行の程度は内骨の全周で均一となるが、割合R1が95%を超えると、例えば、5時間率電流による容量の充放電後の初期容量比の低下が大きくなる傾向がある。例えば、5サイクル前後の放電で得られる容量の初期容量比が70%未満に低下することがある。一方、割合R1が95%以下の場合、5サイクル前後の容量の初期容量比を75%以上または80%以上とすることができる。
【0024】
5時間率電流による充放電を繰り返すと、電極材料の膨張と収縮とが繰り返され、集電体と電極材料との界面が物理的に剥離しやすくなる。これが初期容量比の低下の原因と考えられる。第1部分は、層状の浅い腐食層を形成しやすく、第2部分は、くさび状の深い腐食層を生成するものと考えられる。そのため、集電体と電極材料との結着力は、第1部分よりも第2部分が高くなる。集電体と電極材料との結着力を向上させる観点からは、第2部分の割合R2を5%以上とすることが好ましく、10%以上とすることがより好ましい。
【0025】
割合R1および割合R2は、意図的に制御可能である。縦骨において、元々、割合R2が大きい場合であっても、第2部分をつぶすように縦骨を変形させることも可能である。例えば、プレス加工で縦骨を変形させる場合、プレスのスピード、プレス圧力、金型形状などにより、割合R1を任意に制御可能である。すなわち、プレス加工で縦骨を変形させることが、割合R1を大きくするための十分条件ではなく、プレス加工の条件を適宜制御することが必要である。
【0026】
縦骨の断面Cの形状は、特に限定されないが、八角形であることが好ましい。断面Cが八角形であると、頂点の内角が小さくなり過ぎず、頂点付近の腐食を抑制する効果を高めやすい。断面Cが八角形の縦骨を形成するには、例えば、断面Cが矩形である縦骨を変形させればよい。縦骨を変形させる方法は、特に限定されないが、例えば、集電体の内骨をプレス加工すればよい。その際、第1部分の割合R1が所定の範囲となるように内骨のプレス条件を適宜選択すればよい。なお、断面Cの形状を八角形とすることで、割合R1を50%以上に制御しやすくなる。八角形は、数学的な意味における厳密な八角形でなくてもよく、頂点が多少丸みを帯びていたり、各辺が多少屈曲していたりしてもよい。
【0027】
本発明の上記態様は、集電体として打ち抜き集電体を用いる場合に有用である。打ち抜き集電体としては、鉛または鉛合金の延伸シートの打ち抜き集電体が好ましい。延伸シートは、金属の繊維状組織の縞模様を生成し易いため、第2部分の割合を調節し易くなる。
【0028】
第1部分において、繊維状組織(縞の方向)が断面Cの外周領域の輪郭に沿って延びているとは、以下の状態を言うものとする。まず、集電体の枠骨の内側を、枠骨の上部要素側の上部領域と、枠骨の下部要素側の下部領域と、上部領域と下部領域との間の中部領域とに三等分されるように切断する。その際、複数の縦骨において、第1方向に垂直(上部要素に平行かつ厚さ方向に平行)な断面Cの列が4つ形成される。すなわち、上部領域および下部領域にそれぞれ1つの断面Cの列が形成され、中部領域には2つの断面Cの列が形成される。三等分の分割ラインが縦骨と横骨との交差部(ノード)に該当する場合には、できるだけ交差部間の縦骨部分に断面Cが形成されるように、分割ラインを全体的に、または部分的に少し移動させて集電体を三分割してもよい。なお、集電体の枠骨の内側を三分割する際、耳もしくは足の寸法は考慮しない。
【0029】
次に、4つの列のうち、任意の2つの列から観察対象の断面Cを複数(2つの列に含まれる断面Cの6割以上)選択する。選択された断面Cの外周領域のうち、側部要素から第1方向の水平面を基準として繊維状組織の縞が断面Cの輪郭と45°未満の角度を有する部分は第1部分である。第1部分以外は第2部分である。具体的には、各断面Cの輪郭上の任意の点Pにおいて、点Pの接線S1を描き、更に接線S1の垂線Lを、点Pを通るように描く。次に、垂線L上の点Pから55μmの深さに存在し、かつ垂線Lと交差する縞の接線S2を当該交差点で描く。接線S2と接線S1との角度θが45°未満である場合、点Pは、第1部分に対応する輪郭を構成している。角度θが45°以上である場合、点Pは第2部分に対応する輪郭を構成する。繊維状組織が観測できないなどの理由で、点Pが第1部分に対応する輪郭を構成するか否かを判別できないときも当該点Pは第2部分の輪郭を構成する。全ての選択された断面Cにおいて、断面Cの輪郭の全長に対する第1部分に対応する輪郭の長さの割合を求め、平均化することにより、割合R1を計算する。第2部分の割合R2(%)は、第1部分の割合R1(%)の平均値を100から減じた値となる。切断された箇所が縦骨と横骨との交差部(ノード)である場合には、当該断面を除いて平均を出せばよく、縦骨の切断位置をノードが外れるようにずらしてもよい。
【0030】
断面Cを形成する際には、準備した集電体の全体が覆われるように熱硬化性樹脂に埋め込んで樹脂を硬化させた後、硬化した樹脂とともに集電体を切断する。断面Cの金属組織の状態は、集電体の断面をエッチング処理してからマイクロスコープで撮影および観察する。集電体としては、満充電状態の鉛蓄電池を解体して取り出した集電体が用いられる。
【0031】
集電体は、次のような手順で電池から取り出すことができる。まず、満充電状態の鉛蓄電池を解体して取り出した電極板(正極板など)を水洗することにより硫酸を含む電解液を除去し、乾燥させる。その後、電極板から電極材料の大部分を削り取る。集電体表面に付着している残りの正極電極材料を、マンニットを含む水溶液を用いて除去する。電極材料が除去された集電体を水洗および乾燥することにより測定用の集電体が準備される。
【0032】
本明細書中、液式鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2006の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流(A)が定格容量(Ah)として記載の数値の0.005倍になった時点で充電を終了した状態である。なお、定格容量として記載の数値は、単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。
【0033】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0034】
枠骨の質量W1および内骨の質量W2は、それぞれ、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した集電体について測定される。W1およびW2の測定に先立って、測定用に準備された集電体は、枠骨と内骨との境界部分を切断することにより枠骨と内骨とに分離される。
【0035】
断面Cにおいて、第1部分の厚み(換言すれば、繊維状組織の厚み)は、55μm以上であればよい。また、一見すると第1部分に見える外周領域であっても、繊維状組織の縞模様が観測される領域の厚みが55μm未満の場合には、第1部分ではなく、第2部分とみなす。厚さ55μm以上の第1部分は、腐食の内骨内部への入り込みを抑制する十分な作用を有する。この場合、腐食の内側への入り込みが内骨の全体で高度に均一化されやすい。よって、集電体の伸びや歪みが顕著に抑制され、電極材料の脱落も顕著に抑制される。縦骨の腐食の内側への入り込みを更に抑制する観点から、第1部分の厚みは、100μm以上が好ましい。
【0036】
断面Cにおける第1部分の厚みは、以下のように測定すればよい。まず、第1部分の輪郭上の任意の点P1において接線S1を描き、接線S1の垂線Lを、点P1を通るように描く。次に、垂線L上を点P1からXμmの深さまで移動する点Pxにおいて、垂線Lと交差する縞の接線S2を連続的に描く。このとき、接線S1と接線S2との角度が連続的に45°以下である場合には、点P1の直下の第1部分の厚みは、Xμm以上であるといえる。
【0037】
内骨の厚みは、例えば0.7mm~3mmであればよい。内骨の骨幅は、例えば0.7mm~3mmであればよい。
【0038】
集電体が、鉛または鉛合金の延伸シートの打ち抜き集電体である場合、横骨の内法の合計長さWLWと、縦骨の内法の合計長さWLHとは、WLH/WLW≧0.8を満たしてもよく、WLH/WLW≧1.3を満たしてもよい。この場合、集電体の腐食の内側への入り込みが進行しやすい傾向があるため、割合R2を50%未満に制御することによる、集電体の伸びや歪みの抑制がより顕著になる。ここで、各内骨の内法長さとは、格子の升目の内法における長さ、すなわち、升目を画定する矩形の空間の辺の長さ(桟長)を意味する。なお、通常、長さWLWの方向(横骨の伸びる方向)は、延伸シートの延伸方向(MD方向)に相当する。
【0039】
集電体が、鉛または鉛合金の延伸シートの打ち抜き集電体である場合、横骨の内法の合計長さWLWと、縦骨の内法の合計長さWLHとは、WLH/WLW≦1.96を満たしてもよい。
【0040】
上記の集電体は、正極板に適用することで上述の効果が顕著に発揮されるが、この場合に限らず負極板に適用してもよい。集電体の腐食による伸びの抑制の観点から、上記集電体を、少なくとも正極板に用いることが好ましい。なお、鉛蓄電池が、複数の正極板を備える場合には、一部の正極板に上記の集電体を用いてもよく、全ての正極板に上記の集電体を用いてもよい。同様に、鉛蓄電池が、複数の負極板を備える場合には、少なくとも一部の負極板に上記の集電体を用いてもよく、全ての負極板に上記の集電体を用いてもよい。
【0041】
上記の集電体は、内骨の前駆体である中間骨をプレス加工することを含む製造方法により製造することができる。そのような製造方法は、例えば、(i)圧延板を準備する工程と、(ii)圧延板に対して打ち抜き加工を行うことにより、格子状に形成された複数の中間骨を有する中間格子体を形成する工程と、(iii)中間格子体に対して中間格子体の厚さ方向からプレス加工を行って内骨の少なくとも一部を形成する工程と、(iv)集電体におけるW1/W2が0.2≦W1/W2≦0.42となるように質量の分布状態を調節する工程と、を含む。ここで、プレス加工は、複数の中間骨の少なくとも一部において、中間骨の延びる方向と交差する(例えば延伸方向と直交する)骨幅方向における中央部よりも骨幅方向における少なくとも一方の端部が薄くなり、かつ割合R1が上記の範囲となるように変形させることを含む。
【0042】
工程(iv)では、例えば、圧延板および中間格子体の少なくとも一方において、集電体におけるW1/W2が上記の範囲となるように、質量の分布状態が調節される。圧延板では、例えば、内骨に相当する部分と枠骨に相当する部分とで厚みを調節することにより質量の分布状態を調節できる。中間格子体では、例えば、圧延板が抜き打ち加工により除去される部分と残る部分との割合を調節することにより質量の分布状態を調節できる。必要に応じて、これらの双方を組み合わせてもよい。
【0043】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0044】
図1Aおよび
図1Bは、それぞれ本発明の一実施形態および別の実施形態に係る集電体100Aおよび100Bの外観を示す平面図である。集電体100Aおよび100Bは、いずれも枠骨110と、枠骨110の内側の網目状の内骨120とを有する。枠骨110は、耳130と、耳130と連続する上部要素111と、上部要素111と対向する下部要素112と、上部要素111と下部要素112とを連結する一対の側部要素113、114とを具備する。破線は、内骨を、上部領域、中部領域、下部領域に三等分する境界を示している。
図1Aの集電体100Aは、下部要素112と連続する下部突起(足部とも称する。)132を有する。
図1Bの集電体100Bでは、横骨が上部要素または下部要素に対して斜め方向に延びている。LHは縦骨の格子当たりの内法長さを示し、LWは横骨の格子当たりの内法長さを示す。
【0045】
集電体100Aおよび100Bは、例えば、鉛または鉛合金の延伸シートの打ち抜き格子体であり、延伸方向は、
図1中の矢印MDで示される方向である。縦骨120Aの断面Cは、
図1中のIIa-IIa線における断面であり、横骨120Bの断面Gは、IIb-IIb線における断面である。延伸シートの金属組織は、延伸方向に延びた層状もしくは繊維状の組織を形成しやすい。よって、断面Cには縞模様が生じる。一方、断面Gには、層状もしくは繊維状の組織の裁断による模様が生じ得る。
【0046】
図2Aは、縦骨120Aの断面Cの写真の一例であり、当該断面は八角形の形状を有し、かつ金属の繊維状組織の縞模様が見られる。
図2Bは、
図2Aを模した八角形の断面Cの一例の概念図である。一方、
図3は、横骨120Bの断面Gの写真の一例であり、当該断面には金属の繊維状組織の繊維長に垂直な断面による模様が見られる。
図2Bにおいて、八角形の断面Cの左右両側の大部分が、第2部分220であり、それ以外の外周領域は第1部分210である。第1部分210では、繊維状組織の縞(接線S2)が断面Cの輪郭(線S1)と45°未満の角度θ1を有する。一方、第2部分220では、繊維状組織の縞が確認できないか、もしくは縞(接線S2)が断面Cの輪郭(線S1)と45°を超える角度θ2を有する。なお、
図2Aには、第2部分220の最表層には厚み約55μm未満の繊維状組織の縞模様が観測される領域が存在するが、このような薄い部分は、第1部分210を構成しない。
【0047】
図4は、内骨の腐食の進行状態を示す断面Cの概念図である。浅い腐食層が形成されている部分は、繊維状組織が断面Cの輪郭に沿って延びる第1部分であり、腐食が進行しても腐食層が深くまで形成されにくい。そのため、集電体と電極材料との界面付近で剥離が生じやすくなる傾向がある。よって、集電体が変形しようとする応力が緩和されやすいと考えられる。一方、くさび状の深い腐食層が形成されている部分は第2部分である。深い腐食層が形成されると、集電体の不均一な変形が生じやすく、集電体が伸び、電極材料の脱落が生じやすくなる。
【0048】
(正極板)
鉛蓄電池用正極板は、上述の集電体と、集電体(正極集電体)に保持された正極電極材料と、を備える。正極板には、ペースト式正極板と呼ばれるものが使用される。なお、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。なお、正極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれるものとする。また、正極板がこのような部材を含む場合には、正極電極材料は、正極集電体および貼付部材を除いたものである。ただし、セパレータにマットなどの貼付部材が貼り付けられている場合には、貼付部材の厚みは、セパレータの厚みに含まれる。
【0049】
正極集電体は、上述のように、好ましくは打ち抜き集電体である。集電体は、上述のように、枠骨と、枠骨の内側の内骨と、を有する。集電体としては、格子状の集電体(正極格子)が好ましい。正極格子では、内骨の部分が格子状(網目状なども含む)になっている。正極格子を用いることで、正極電極材料を担持させ易くなる。枠骨は、矩形であることが好ましい。なお、矩形は、厳密な矩形でなくてもよく、頂点が多少丸みを帯びていたり、各辺が多少屈曲したりしていてもよい。
【0050】
正極集電体は、鉛または鉛合金のシートのプレス打ち抜き加工により形成することができる。シートは、延伸加工が施された延伸シート(または圧延板とも称する。)であることが好ましい。延伸シートは、一軸延伸シートでも二軸延伸シートでもよい。
【0051】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金、またはPb-Sn系合金が好ましい。また、正極集電体には、スリーナイン以上の純度(純度が99.9質量%以上)の鉛を用いてもよい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。組成の異なる鉛合金層(表面層)を有してもよく、合金層は複数でもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみ、または枠骨部分のみ(耳部分のみ、耳以外の枠骨部分のみなど)に形成されていてもよい。
【0052】
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、添加剤を含んでもよい。
【0053】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0054】
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、集電体と、負極電極材料とで構成されている。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は負極板と一体として使用されるため、負極板に含まれるものとする。また、負極板がこのような部材を含む場合には、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いたものである。
【0055】
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金のシートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き加工が挙げられる。負極集電体として、格子状の集電体(負極格子)を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。負極集電体として、正極集電体について記載したような集電体を用いてもよい。
【0056】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳に形成されていてもよい。耳の表面層は、SnまたはSn合金を含有するものであってもよい。
【0057】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を必須成分として含み、添加剤(有機防縮剤、炭素質材料、硫酸バリウムなど)を含み得る。充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0058】
有機防縮剤には、リグニン類および合成有機防縮剤の少なくとも一方を用いてもよい。リグニン類としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0059】
有機防縮剤の具体例としては、硫黄含有基を有するとともに芳香環を有する化合物のアルデヒド化合物(アルデヒドまたはその縮合物、例えば、ホルムアルデヒドなど)による縮合物が好ましい。芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香環を有する化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合や連結基(例えば、アルキレン基、スルホン基など)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなどが挙げられる。芳香環を有する化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基および/またはアミノ基とを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基やアミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、ヒドロキシ基やアミノ基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。芳香環を有する化合物としては、ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物などが好ましい。芳香環を有する化合物は、さらに置換基を有していてもよい。有機防縮剤は、これらの化合物の残基を一種含んでもよく、複数種含んでもよい。ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。
【0060】
硫黄含有基は、化合物に含まれる芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。
【0061】
また、例えば、上記の芳香環を有する化合物と、単環式の芳香族化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸またはその置換体など)との、アルデヒド化合物による縮合物を、有機防縮剤として用いてもよい。
【0062】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば0.01質量%以上であり、0.02質量%以上または0.05質量%以上であってもよい。一方、有機防縮剤の含有量は、例えば、1.0質量%以下であり、0.8質量%以下または0.5質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。ここで、負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量とは、既化成の満充電状態の鉛蓄電池から、後述の方法で採取した負極電極材料における含有量である。
【0063】
負極電極材料中に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0064】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.2質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば、4.0質量%以下であり、3質量%以下または2質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0065】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、0.5質量%以上であり、1質量%以上または1.3質量%以上であってもよい。硫酸バリウムの含有量は、例えば、3.0質量%以下であり、2.5質量%以下または2質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0066】
以下、負極電極材料に含まれる有機防縮剤、炭素質材料および硫酸バリウムの定量方法について記載する。定量分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に、負極板に貼付部材が含まれる場合には、剥離により負極板から貼付部材が除去される。次に、負極板から負極電極材料を分離してすることにより試料(以下、試料Aと称する)を得る。試料Aは、必要に応じて粉砕される。
【0067】
《有機防縮剤の定量》
粉砕された試料Aを1mol/LのNaOH水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。抽出された有機防縮剤を含むNaOH水溶液から不溶成分を濾過で除く。得られた濾液(以下、濾液Bとも称する。)を脱塩した後、濃縮し、乾燥すれば、有機防縮剤の粉末(以下、試料Cとも称する。)が得られる。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、濾液Bをイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、濾液Bを透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行われる。
【0068】
試料Cの赤外分光スペクトル、試料Cを蒸留水等に溶解して得られる溶液の紫外可視吸収スペクトル、試料Cを重水等の溶媒に溶解して得られる溶液のNMRスペクトル、または物質を構成している個々の化合物の情報を得ることができる熱分解GC-MSなどから得た情報を組み合わせて、有機防縮剤を特定する。
【0069】
上記濾液Bの紫外可視吸収スペクトルを測定する。スペクトル強度と予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量を定量する。分析対象の有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができず、同一の有機防縮剤の検量線を使用できない場合は、分析対象の有機防縮剤と類似の紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、NMRスペクトルなどを示す、入手可能な有機防縮剤を使用して検量線を作成する。
【0070】
《炭素質材料と硫酸バリウムの定量》
粉砕された試料A10gに対し、20質量%濃度の硝酸を50mL加え、約20分加熱し、鉛成分を硝酸鉛として溶解させる。次に、硝酸鉛を含む溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0071】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルターを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。得られる試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料(以下、試料Dとも称する)である。乾燥後の試料Dとメンブレンフィルターとの合計質量からメンブレンフィルターの質量を差し引いて、試料Dの質量(Mm)を測定する。その後、乾燥後の試料Dをメンブレンフィルターとともに坩堝に入れ、700℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(MB)を求める。質量Mmから質量MBを差し引いて炭素質材料の質量を算出する。
【0072】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成工程では、室温、もしくはより高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0073】
化成は、鉛蓄電池のセル内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0074】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、通常、セパレータが配置される。セパレータには、不織布、微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さは、極間距離に応じて選択すればよい。セパレータの枚数は、極間数に応じて選択すればよい。
【0075】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば、耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーを含んでもよい。
【0076】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末およびオイルの少なくとも一方など)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)が好ましい。
【0077】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0078】
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータを用いる場合、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が水平方向と平行になるように)セパレータを配置してもよく、鉛直方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が鉛直方向と平行になるように)セパレータを配置してもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータでは、セパレータの両方の主面側に交互に凹部が形成されることになる。正極板および負極板のそれぞれの上部には耳が形成されているため、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うようにセパレータを配置する場合、セパレータの一方の主面側の凹部のみに正極板および負極板が配置される(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、二重のセパレータが介在した状態となる)。折り曲げ部が鉛蓄電池の鉛直方向に沿うようにセパレータを配置する場合、一方の主面側の凹部に正極板を収容し、他方の主面側の凹部に負極板を収容することができる(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、セパレータが一重に介在した状態とすることができる。)。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
【0079】
なお、本明細書中、極板においては、耳が設けられている側を上側、耳とは反対側を下側として上下方向を定める。極板の上下方向は、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向と同じであってもよく、異なっていてもよい。つまり、鉛蓄電池は、縦置きおよび横置きのいずれであってもよい。
【0080】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。
電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、金属カチオン(ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、およびアルミニウムイオンから選択される少なくとも一種など)、およびアニオン(例えば、硫酸アニオン以外のアニオン(リン酸イオンなど))を含んでいてもよい。
【0081】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば1.20以上であり、1.25以上であってもよい。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.35以下であり、1.32以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0082】
上記の集電体を含む正極板を備える鉛蓄電池は、例えば、上記の集電体を準備する工程と、集電体と正極電極材料とを含む正極板を得る工程と、を備える製造方法により製造できる。集電体を準備する工程において、集電体は、上述の集電体の製造方法により準備される。より具体的には、集電体は、例えば、上述の(i)~(iv)の工程を含む製造方法により準備される。正極板を得る工程において、正極板は、正極板の項目で説明した手順で作製できる。
【0083】
さらに、鉛蓄電池は、上記で得られた正極板、負極板および電解液を電槽に収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の組み立て工程において、セパレータは、通常、正極板と負極板との間に介在するように配置される。鉛蓄電池の組み立て工程は、正極板、負極板、および電解液を電槽に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および負極板の少なくとも一方を化成する工程を含んでもよい。負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、電槽に収容される前に準備される。
【0084】
図5に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0085】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0086】
正極棚部5は、各正極板3の上部に設けられた耳同士をキャストオンストラップ方式またはバーニング方式で溶接することにより形成される。負極棚部6も、正極棚部5の場合に準じて各負極板2の上部に設けられた耳同士を溶接することにより形成される。
【0087】
なお、鉛蓄電池の蓋15は、一重構造(単蓋)であるが、図示例の場合に限らない。蓋15は、例えば、中蓋と外蓋(または上蓋)とを備える二重構造を有するものであってもよい。二重構造を有する蓋は、中蓋と外蓋との間に、中蓋に設けられた還流口から電解液を電池内(中蓋の内側)に戻すための還流構造を備えるものであってもよい。
【0088】
図5には、液式電池(ベント型電池)の例を示したが、鉛蓄電池は、制御弁式電池(VRLA型)でもよい。液式電池では、制御弁式電池に比べて、正極電極材料の軟化脱落抑制効果が顕著になり易いため、本発明の上記態様は、特に液式電池に適している。
【0089】
次に、鉛蓄電池の性能評価について説明する。
[試験電池の評価]
(A)第1単板過充電試験
所定の試験電池を用い、75℃±2℃の水槽内で定電流1.7A(電流密度:0.0054A/cm2)による過充電試験を5日間行い、その後、2日間休止させる操作(1週間)を3週間繰り返す。電流密度を算出する際の見かけの集電体面積は、正極集電体の枠骨の外法の高さと幅との積の2倍とする。
【0090】
3週間の過充電試験後、満充電状態の試験電池から取り出した正極集電体について、下記の(a)または(b)の評価が行われる。このとき、評価に用いる正極集電体は、断面Cを形成する際の集電体の場合に準じて、試験電池から取り出され、水洗、乾燥させ、電極材料を除去することにより準備される。
【0091】
(a)腐食率
正極集電体について、以下の式により腐食率を求める。
腐食率(%)={(過充電試験前の正極集電体の質量-過充電試験後にマンニット処理により腐食層を除去した正極集電体の質量)÷(過充電試験前の正極集電体の質量)}×100
【0092】
(b)正極集電体の幅伸びおよび高さ伸び
正極集電体の枠骨の第1方向(高さ方向)および第2方向(幅方向)へ最も膨らんでいる部分の寸法をそれぞれ測定し、初期寸法と比較して幅伸び量と高さ伸び量を求める。
【0093】
(B)第2単板過充電試験
所定の試験電池を用い、75℃±2℃の水槽内で定電流(5時間率定格容量に記載の数値(Ah)をセル当たりの正極板の枚数で除した値の0.2倍の電流(A))による過充電試験を5日間行い、その後、2日間休止させる操作(1週間)を4週間繰り返す。例えば、正極板6枚と負極板7枚とで構成された5時間率定格容量30Ah、12Vの電池の場合、単板セル(正極板1枚、負極板2枚)の定格容量は、30÷6=5Ahと計算され、第2単板過充電試験における電流値は、5×0.2=1Aとなる。
【0094】
4週間の過充電試験後、満充電状態の試験電池から取り出した正極集電体について、枠骨の第2方向(幅方向)へ最も膨らんでいる部分の寸法を測定し、初期寸法と比較して幅伸び量を求める。このとき、評価に用いる正極集電体は、断面Cを形成する際の集電体の場合に準じて、試験電池から取り出され、水洗、乾燥させ、電極材料を除去することにより準備される。
【0095】
(C)繰り返し5hR充放電試験
所定の試験電池を用い、25℃±2℃の水槽内で、以下の要領で実施する。定電流(5時間率定格容量に記載の数値(Ah)の0.2倍の電流(A))で1.75V/セルまで放電し、その後、定電流(5時間率定格容量に記載の数値(Ah)の0.2倍の電流(A))で放電量の135%まで充電する。同様のサイクルを5回繰り返し、初期容量(5hR放電容量)を100%としたときの5サイクル目の5hR放電容量の割合(初期容量比)(%)を求める。
【0096】
(D)過充電後(高温過充電後)の繰り返し5hR充放電試験
(a)第3単板過充電試験
所定の試験電池を用い、第2単板過充電試験と同様の過充電試験を5日間行い、その後、2日間休止させる操作(1週間)を2週間繰り返す。
【0097】
(b)繰り返し5hR充放電試験
第3単板過充電試験の後の試験電池を用いて、上記(C)と同様に繰り返し5hR充放電試験を行い、初期容量(5hR放電容量)を100%としたときの5サイクル目の5hR放電容量の割合(初期容量比)(%)を求める。
【0098】
以下、本発明の実施形態について実施例および比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
《鉛蓄電池A11~A13、B11~B13、およびB21~B26》
(1)鉛蓄電池の作製
(a)集電体の作製
Pb-Ca-Sn系合金の圧延シートを打ち抜き、内骨にプレス加工を施して、表1に示す集電体a11~a13、b11~b13、およびb21~b26をそれぞれ得る。このとき、プレスのスピードおよびプレス圧力を調節することにより、割合R1を調節する。比W1/W2は、圧延シートを打ち抜く際の、打ち抜きにより除去される部分と残る部分との割合を調節することにより調節する。なお、集電体a12について、内骨の厚みは0.95mmであり、枠骨の幅は1.0mmであり、WLH/WLWは1.37である。集電体a11およびa13のWLH/WLWは、いずれも1.3以上である。
【0100】
(b)正極板の作製
鉛粉を含む正極ペーストを調製し、各集電体に正極ペーストを充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を作製する。正極電極材料の化成後の密度は3.6g/cm3となるように調整する。
【0101】
(c)負極板の作製
鉛粉、水、希硫酸、硫酸バリウム、カーボンブラックおよび有機防縮剤を混合して、負極ペーストを調製する。正極板に用いたものと同じ集電体に負極ペーストを充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。
【0102】
(d)試験電池Xの作製
正極集電体と正極電極材料とを含む未化成の正極板を用いて鉛蓄電池(試験電池X:定格電圧2V、定格5時間率容量6Ah)を組み立てる。試験電池Xは、未化成の正極板1枚とこれを挟持する未化成の負極板2枚で構成し、電解液中で化成を施す。負極板は袋状セパレータに収容する。電解液には硫酸水溶液を用いる。化成後、満充電状態の試験電池において、電解液の20℃における比重を1.28に調整する。
【0103】
(2)評価
試験電池Xを用いて、既述の手順で高温過充電後の繰り返し5hR充放電試験を行う。
結果を表1および
図6に示す。
【0104】
【0105】
表1および
図6に示されるように、比W1/W2を0.2以上0.42以下の範囲とすることで、W1/W2がこの範囲外である場合に比べて、高温過充電後にも高い5hR放電容量が得られる傾向がある。しかし、第1部分の割合R1が50%未満の場合には、比W1/W2を0.2以上0.42以下に制御しても、高温過充電後の5hR放電容量は最大でも60%程度と低い。それに対し、比W1/W2が0.2以上0.42以下である場合に、割合R1を50%以上とすると、高温過充電後に、80%以上の高い5hR放電容量を確保することができる。これは、比W1/W2を0.2以上0.42以下の範囲に制御しながら、割合R1を50%以上とすることで、腐食層の応力による変形自体が低減されるとともに、腐食層の偏在が抑制され、電極材料の脱落が抑制されたことによるものと考えられる。
【0106】
《鉛蓄電池A31~A33およびB31》
(1)鉛蓄電池の作製
表2に示す集電体a31~a33およびb31を作製する。割合R1および比W1/W2の調節は、鉛蓄電池A11の場合と同様に行う。得られる集電体を、正極電極材料を担持せずに用いて鉛蓄電池(試験電池Y)を組み立てる。電解液には、20℃における比重が1.28の硫酸水溶液を用いる。これら以外は、鉛蓄電池A11の場合と同様に、試験電池Yを組み立てる。試験電池Yは、正極集電体1枚とこれを挟持する既化成の負極板2枚と電解液とで構成する。負極板は袋状セパレータに収容する。
【0107】
(2)評価
試験電池Yを用いて、既述の手順で、第1単板過充電試験を行う。結果を表2および
図7に示す。
図7は、集電体a31~a33およびb31に関し、割合R1と腐食率と変形量(集電体の幅伸び、高さ伸び)との関係を示す。なお、a31~a33のW1/W2は、0.2~0.42の範囲内である。
【0108】
試験電池Yを用いて、既述の手順で、第1単板過充電試験を行う。結果を表2および
図7に示す。
図7は、集電体a31~a33およびb31に関し、割合R1と腐食率と変形量(集電体の幅伸び、高さ伸び)との関係を示す。
【表2】
【0109】
表2および
図7に示されるように、腐食率がそれほど変化しないにもかかわらず、割合R1が50%以上では、高さ伸びが抑制され、割合R1が60%以上では、高さ伸びおよび幅伸びともに大きく抑制される。幅伸びの抑制効果がさらに高まる観点から、割合R1を75%以上または80%以上としてもよい。
【0110】
《鉛蓄電池A41~A47》
(1)鉛蓄電池の作製
表3に示す集電体a41~a47を作製する。割合R1および比W1/W2の調節は、鉛蓄電池A11の場合と同様に行う。得られる集電体を、正極集電体および負極集電体として用いて、鉛蓄電池A11の場合と同様に未化成の正極板および負極板を作製する。得られる未化成の正極板および負極板を用いて、鉛蓄電池(試験電池Z)を組み立てる。未化成の負極板を袋状セパレータに収容し、未化成の負極板8枚と未化成の正極板8枚とで極板群を形成する。極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液とともに収容し、電槽内で化成を施し、試験電池Z(12V、定格5時間率容量48Ah)を作製する。電解液には硫酸水溶液を用いる。化成後、満充電状態の試験電池において、電解液の20℃における比重を1.28に調整する。
【0111】
(2)評価
試験電池Zを用いて、既述の手順で、繰り返し5hR充放電試験を行う。結果を表3および
図8に示す。
図8は、集電体a41~a47を用いた場合の割合R1と5hR放電容量(初期比)(%)との関係を示す。なお、a41~a47のW1/W2は、いずれも0.3程度である。
【0112】
【0113】
表3および
図8に示されるように、割合R1が50%以上の場合には比較的高い5hR放電容量が得られる。割合R1が95%を超えると、5hR放電容量が減少する傾向がみられる。よって、より高い5hR放電容量を確保し易い観点からは、割合R1を95%以下に制御することが好ましいことが理解できる。
【0114】
《鉛蓄電池A51~A54およびB51~B54》
(1)鉛蓄電池の作製
表4に示す集電体a51~a54およびb51~b54を作製する。割合R1および比W1/W2の調節は、鉛蓄電池A11の場合と同様に行う。比WLH/WLWの調節は、プレスのスピードおよびプレス圧力を調節することにより行う。得られる集電体を、正極集電体および負極集電体として用いて、鉛蓄電池A11の場合と同様に鉛蓄電池A51~A54およびB51~B54(試験電池X)を作製する。
【0115】
(2)評価
試験電池Xを用いて、既述の手順で、第2単板過充電試験を行う。結果を表4および
図9に示す。
図9は、集電体a51~a54およびb51~b54を用いた場合のWLH/WLWと幅伸びとの関係を示す。なお、a51~a54のW1/W2は、0.2~0.42の範囲内である。
【0116】
【0117】
表4および
図9に示されるように、割合R1が60%の場合には、幅伸びが抑制されること、および、その場合に、WLH/WLWが大きくなるほど(特に0.8以上のときに)幅伸びを抑制する効果が大きくなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明に係る鉛蓄電池用集電体は、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能である。集電体を含む電極板を備える鉛蓄電池は、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源、産業用蓄電装置(電動車両(フォークリフトなど)など)の電源として好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示であり、これらの用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0119】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓
100A,100B:集電体
110:枠骨
111:上部要素
112:下部要素
113,114:側部要素
120:内骨
120A、B1:縦骨
120B:横骨
130:耳
132:下部突起(足部)
210:縦骨の第1部分
220:縦骨の第2部分