(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】インクジェットヘッドの駆動制御方法及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20241210BHJP
B41J 2/015 20060101ALI20241210BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20241210BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B41J2/165
B41J2/015
B41J2/045
B41J2/01 403
(21)【出願番号】P 2022531244
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2020024306
(87)【国際公開番号】W WO2021260751
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末冨 靖彦
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-194750(JP,A)
【文献】特開平09-052360(JP,A)
【文献】特開2012-232575(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0224967(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルと、当該ノズルへインクを供給する供給流路と、前記供給流路のインクが排出される排出流路と、印加される駆動信号に応じて前記供給流路内のインクに圧力変動を生じさせる動作を行う駆動素子と、を備えるインクジェットヘッドの駆動制御方法であって、
前記ノズルからインクを吐出させない前記駆動信号を前記駆動素子に印加する非吐出駆動を行う非吐出駆動ステップを含み、
前記非吐出駆動に係る前記駆動信号の信号波
形は、
電圧の立ち上がりの部分と、前記立ち上がり後の電圧で維持される部分と、前記立ち上がり後の電圧から最初の電圧に戻る立ち下がりの部分と、が一つながりで含
まれ、
前記電圧の立ち上がりにより前記インクの圧力を低下させ、
前記立ち下がりの時間は、前記立ち上がりの時間よりも長く、
前
記信号波形では、
前記駆動信号が印加される前の前記ノズルにおけるインクの平均液面位置よりも前記駆動信号が印加された後の前記ノズルにおけるインクの平均液面位置の方が前記ノズルの開口面から遠い、
インクジェットヘッドの駆動制御方法。
【請求項2】
前記立ち下がりの時間は、前記立ち上がりの時間よりも前記ノズル内のインクの圧力振動に係る共振周期の0.3倍以上長い、請求項
1記載のインクジェットヘッドの駆動制御方法。
【請求項3】
前記立ち下がりの時間は、前記立ち上がりの時間よりも前記共振周期の0.35倍以上長く、かつ前記立ち上がりの時間は、前記共振周期の0.2倍以下である、請求項
2記載のインクジェットヘッドの駆動制御方法。
【請求項4】
前記インクジェットヘッドは、セラミックインク又は白色インクを吐出する、請求項1~
3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの駆動制御方法。
【請求項5】
前記非吐出駆動ステップは、画像の記録時にインクを吐出させない各画素の記録周期で各々行われる、請求項1~
4のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの駆動制御方法。
【請求項6】
インクを吐出するノズルと、当該ノズルへインクを供給する供給流路と、前記供給流路のインクが排出される排出流路と、印加される駆動信号に応じて前記供給流路内のインクに圧力変動を生じさせる動作を行う駆動素子と、を備えるインクジェットヘッドと、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ノズルからインクを吐出させない前記駆動信号を前記駆動素子に印加する非吐出駆動を行わせ、
前記非吐出駆動に係る前記駆動信号の信号波
形は、
電圧の立ち上がりの部分と、前記立ち上がり後の電圧で維持される部分と、前記立ち上がり後の電圧から最初の電圧に戻る立ち下がりの部分と、が一つながりで含
まれ、
前記電圧の立ち上がりにより前記インクの圧力を低下させ、
前記立ち下がりの時間は、前記立ち上がりの時間よりも長く、
前
記信号波形では、
前記駆動信号が印加される前の前記ノズルにおけるインクの平均液面位置よりも前記駆動信号が印加された後の前記ノズルにおけるインクの平均液面位置の方が前記ノズルの開口面から遠い、
インクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクジェットヘッドの駆動制御方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルからインクを吐出させて画像などの記録動作を行うインクジェット記録装置において、吐出されないインクがノズル付近で滞留すると、成分の分離やノズル開口からの水分の蒸発などにより、適切なインク吐出条件から乖離し、所望の画質が得られなくなったり、インク吐出に不良が生じたりするという問題がある。
【0003】
これに対し、インクジェットヘッドに供給したインクを回収する回収流路を備え、適宜な流速でインクを循環させて長期間滞留させない技術がある。特許文献1では、インクの循環流路から外れるノズル開口付近のインクについてもより回収、循環しやすくなるように、インク吐出動作を行わない待機時には、ノズル内のインクに負圧をかけて、インクの液面位置(メニスカス)を循環流路近くまで引き込んで維持する技術について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、メニスカスを循環流路に近づけると、インクの流れに影響されてメニスカスが乱れやすくなり、次の吐出時に正常にインクが吐出されなくなる場合があるという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、より安定してインクを吐出させることのできるインクジェットヘッドの駆動制御方法及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
インクを吐出するノズルと、当該ノズルへインクを供給する供給流路と、前記供給流路のインクが排出される排出流路と、印加される駆動信号に応じて前記供給流路内のインクに圧力変動を生じさせる動作を行う駆動素子と、を備えるインクジェットヘッドの駆動制御方法であって、
前記ノズルからインクを吐出させない前記駆動信号を前記駆動素子に印加する非吐出駆動を行う非吐出駆動ステップを含み、
前記非吐出駆動に係る前記駆動信号の信号波形は、
電圧の立ち上がりの部分と、前記立ち上がり後の電圧で維持される部分と、前記立ち上がり後の電圧から最初の電圧に戻る立ち下がりの部分と、が一つながりで含まれ、
前記電圧の立ち上がりにより前記インクの圧力を低下させ、
前記立ち下がりの時間は、前記立ち上がりの時間よりも長く、
前記信号波形では、前記駆動信号が印加される前の前記ノズルにおけるインクの平均液面位置よりも前記駆動信号が印加された後の前記ノズルにおけるインクの平均液面位置の方が前記ノズルの開口面から遠い。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のインクジェットヘッドの駆動制御方法において、
前記立ち下がりの時間は、前記立ち上がりの時間よりも前記ノズル内のインクの圧力振動に係る共振周期の0.3倍以上長い。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、請求項2記載のインクジェットヘッドの駆動制御方法において、
前記立ち下がりの時間は、前記立ち上がりの時間よりも前記共振周期の0.35倍以上長く、かつ前記立ち上がりの時間は、前記共振周期の0.2倍以下である。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの駆動制御方法において、
前記インクジェットヘッドは、セラミックインク又は白色インクを吐出する。
【0012】
また、請求項5記載の発明は、請求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの駆動制御方法において、
前記非吐出駆動ステップは、画像の記録時にインクを吐出させない各画素の記録周期で各々行われる。
【0013】
また、請求項6記載の発明は、
インクを吐出するノズルと、当該ノズルへインクを供給する供給流路と、前記供給流路のインクが排出される排出流路と、印加される駆動信号に応じて前記供給流路内のインクに圧力変動を生じさせる動作を行う駆動素子と、を備えるインクジェットヘッドと、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ノズルからインクを吐出させない前記駆動信号を前記駆動素子に印加する非吐出駆動を行わせ、
前記非吐出駆動に係る前記駆動信号の信号波形は、
電圧の立ち上がりの部分と、前記立ち上がり後の電圧で維持される部分と、前記立ち上がり後の電圧から最初の電圧に戻る立ち下がりの部分と、が一つながりで含まれ、
前記電圧の立ち上がりにより前記インクの圧力を低下させ、
前記立ち下がりの時間は、前記立ち上がりの時間よりも長く、
前記信号波形では、前記駆動信号が印加される前の前記ノズルにおけるインクの平均液面位置よりも前記駆動信号が印加された後の前記ノズルにおけるインクの平均液面位置の方が前記ノズルの開口面から遠い
インクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に従うと、インクジェットヘッドにおいて、より安定してインクを吐出させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態のインクジェット記録装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】ノズル付近におけるインクの流路構造について説明する断面図である。
【
図4A】インク液面の状態を模式的に説明する図である。
【
図4B】インク液面の状態を模式的に説明する図である。
【
図5】立ち上がり時間と立ち下がり時間の関係に応じたインク液面位置の後退状況の例を示す図表である。
【
図6】インクの循環流速に対するノズル内のインクの入れ替わりに係る効果の度合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置1の機能構成を示すブロック図である。
【0017】
インクジェット記録装置1は、制御部40と、搬送駆動部41と、記録動作部42と、記憶部44と、通信部51と、表示部52と、操作受付部53と、送液ポンプ54などが、バス49に接続されて互いに信号を送受信可能に構成されている。
【0018】
制御部40は、CPU401(Central Processing Unit)と、ROM402(Read Only Memory)と、RAM403(Random Access Memory)などを備える。CPU401は、各種演算処理を行う。CPU401は、各部から計測信号や状態信号を受け取って、各部に適切な動作を行わせる制御信号を送信する。ROM402は、設定データやプログラムなどを格納する。RAM403は、CPU401に作業用のメモリー空間を提供し一時データを記憶する。一時データには、記録対象の画像データ並びにその設定データ及び処理データが含まれていてよい。
【0019】
搬送駆動部41は、制御部40からの制御信号に基づいて記録対象の画像が記録される記録媒体を搬送移動させる搬送部を動作させる。搬送部は、例えば、記録媒体が載置される無端状ベルトや回転ドラムなどを有し、搬送駆動部41は、所定の速さで無端状ベルトを周回移動させたり回転ドラムを回転させたりする。搬送駆動部41は、例えば、回転モーターなどを有する。
【0020】
記録動作部42は、記録媒体に対してインクを吐出して画像を記録させる動作を行う。記録動作部42は、インクジェットヘッド420を有する。インクジェットヘッド420は、ノズルNと、圧電素子421(駆動素子)と、ヘッド駆動部422などをそれぞれ複数備える。ノズルNは、インクを吐出する。圧電素子421は、ノズルNに連通するインク供給路に沿って位置し、駆動電圧が印加されることで変形動作する。圧電素子421は、駆動電圧の変化パターンを示す駆動信号に応じた変形動作により、インク供給路内のインクに当該駆動信号に応じた圧力変動を生じさせる。ヘッド駆動部422は、選択された圧電素子421に駆動信号を出力する。記録動作部42は、複数のインクジェットヘッド420を有していてもよい。吐出されるインクの種別は、特には限られないが、例えば、セラミックインクである。また、インクには、白色インクが含まれていてもよい。これらのインクは、他のインクと比較して成分の分離が進みやすいものが多い。
【0021】
駆動波形信号生成部43は、ヘッド駆動部422が出力する駆動信号に含まれる駆動波形信号を生成する。駆動波形信号は、特には限られないが、複数種類の駆動波形をそれぞれ示すデジタル信号データを各々アナログ変換し、電圧及び電流を増幅した駆動波形信号をヘッド駆動部422に出力する。ヘッド駆動部422は、複数の駆動波形信号のいずれかを選択し、また、必要や駆動方法に応じて複数を組み合わせて適宜なタイミングで各圧電素子421へ出力する。
【0022】
制御部40は、搬送駆動部41及びヘッド駆動部422に制御信号を出力してそれぞれ適宜なタイミングで動作させて、記録媒体を適切な条件でインクジェットヘッド420の複数のノズルNの開口と対向させ、また、記録媒体上の適切な位置に、吐出されたインクを着弾させる。なお、具体的な吐出タイミングは、図示略の発振回路などから入力されるクロック信号に同期されてよい。駆動制御信号は、各インク吐出周期での各ノズルNからのインク吐出有無や必要に応じて吐出量を指定する。インク吐出周期は、各画素へのインク着弾周期(記録周期)と同期していてもよいし、記録周期内に複数のインク吐出周期が設定されてもよい。例えば、各画素の記録周期に少なくとも1回、当該画素へのインク吐出有無に応じて吐出信号又は非吐出信号が出力され、また、吐出量が多い場合には、吐出信号が2回以上出力されてもよい。
【0023】
記憶部44は、各種データを記憶する。各種データには、印刷ジョブとして外部から取得された画像データやその処理データ、画像記録動作に係る各種設定データなどが含まれる。各種設定データには、ROM402に記憶される初期設定データやプログラムなどの更新データが含まれていてもよい。
【0024】
通信部51は、インクジェット記録装置1と外部機器との間の通信を制御する。外部機器から送信される印刷ジョブや各種制御信号は、通信部51を介して受信されて制御部40に送られる。制御部40は、取得された印刷ジョブに応じて画像記録動作のための各種処理を行う。なお、画像データの解析やラスター化などの処理は、制御部40とは別個に画像処理用のCPUやメモリーを設けてこれらにより処理を行われることとしてもよい。
【0025】
表示部52は、制御部40から入力された制御信号に基づいて表示画面に各種表示を行う。表示部52は、例えば、液晶表示画面を有し、メニューやステータスなどの文字や画像の表示が可能であってよい。また、表示部52は、その他LEDランプなどを有していてもよい。
【0026】
操作受付部53は、例えば、表示部52の液晶画面に重なって位置するタッチパネルを有し、ユーザーなどの外部からの入力操作を受け付けて入力信号として制御部40へ出力する。制御部40は、表示制御信号を出力して液晶画面にステータスやメニューなどを表示させる。操作受付部53は、その他、テンキー、押しボタンスイッチ及び/又はロッカースイッチなどを有していてもよい。
【0027】
送液ポンプ54は、図示略のインクタンクからインクジェットヘッド420へインクを送りこむ送液動作を行う。この送液ポンプ54の動作によりノズルNからのインク吐出量以上のインクが供給され、吐出されないインクがインクジェットヘッド420からインクタンクへ戻される。
【0028】
図2は、インクジェットヘッド420のノズルN付近におけるインクの流路構造について説明する断面図である。この断面図には、一つのノズルNを含んでいる。インクジェットヘッド420のノズルNは、少なくともこの断面に垂直な方向に複数個が並んでいる。
【0029】
インクジェットヘッド420では、ノズル基板110と、流路基板120と、圧力室基板130などが積層されている。ノズル基板110には、ノズルNが設けられている。
【0030】
流路基板120は、ノズルNに連通するインク流路121と、個別回収流路122、123(排出流路)とを有する。個別回収流路122、123は、それぞれ流路基板120の底部でインク流路121から互いに反対向きに分岐している。
【0031】
圧力室基板130は、インク供給路131と、共通回収流路132、133と、空気室134などを有する。インク供給路131は、インク流路121に連通しており、当該インク流路121とともに、各ノズルNへのインクの個別供給流路(供給流路)を構成している。
【0032】
共通回収流路132、133は、
図2の断面に垂直な方向に延在しており、複数のノズルNに係る個別回収流路122、123から流出したインクが合流して流れ、インクジェットヘッド420の外部へ送出される。すなわち、このインクジェットヘッド420では、インクは、個別供給流路をノズルNの直上まで流れ、一部がノズルNから吐出され、残りが個別供給流路から個別回収流路122、123を経て共通回収流路132、133へ排出される。排出されたインクは、インクタンクに戻されて、再びインクジェットヘッド420に送られてよい。個別供給路及び個別回収流路122、123は、インクの循環流路の一部をなす。
【0033】
圧力室基板130は、主に圧電部材からなる。また、この圧電部材のインク供給路131に沿った壁面には、図示略の電極膜が設けられており、電極膜につながっている配線を介して所定の駆動電圧が印加されることで壁面が変形する。この変形に応じてインク供給路131の内部のインクに圧力変動(振動)が生じる。
【0034】
空気室134は、圧電部材の変形を許容するためのスペースであり、断面に沿った方向に並ぶ他のノズルNに係るインク供給路131との間で互いに変形の影響が出ないようにするための空間ともなっている。
【0035】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置1における駆動動作について説明する。
図3A及び
図3Bは、本実施形態のインクジェット記録装置1で出力される駆動信号の例を示す図である。
【0036】
インクジェット記録装置1では、複数の駆動信号として、それぞれ、駆動電圧が立ち上がり、維持された後に元の電圧に戻る(立ち下がる)台形波(台形状の電圧変化形状)の電圧信号が出力される。複数の駆動信号には、少なくともインクを吐出させるための圧力振動(変動)を当該インクに生じさせる吐出信号と、インクを吐出させずにノズルNの内部で液面の位置を変化させる(非吐出駆動を行う)非吐出信号とが含まれる。吐出信号は、
図3Aに示すように基準電圧Vsから変化した第1駆動電圧Va1の維持期間Ta1と、当該維持期間Ta1に比較して短く、かつ互いに同じ長さの電圧の立ち上がり期間Tu1及び立ち下がり期間Td1とを含む台形波形状を有する。維持期間Ta1は、個別供給流路内のインクの振動に係る共振周期の半分である音響的共振長(AL;Acoustic Length)程度であるが、厳密に1ALである場合に限られず、適宜調整されてよい。ここでは、電圧の立ち上がりに伴って個別供給流路が拡張するように圧電部材が変形してインクの圧力を低下させ、電圧の立ち下がりに伴って個別供給流路の拡張が解消されて(収縮して)、インクの圧力を上昇させる(引き打ち動作)。すなわち、吐出信号において、印加電圧の立ち上がり及び立ち下がりによる急激な個別供給流路の変形に伴い、静的な圧力変化に伴うノズルN内のインク液面(メニスカス)の移動だけではなく、インクに振動のエネルギー(運動エネルギー)が生じる。印加電圧の立ち上がりにより生じた振動が外向き(膨張)となる位相に合わせて印加電圧が立ち下がることで、インクは更にノズルNの外向きの運動量を得て、インクの液面は、立ち上がり前の元の位置に戻るだけではなく、ノズル開口から突出し、一部がノズルN内のインクから分離して射出される。
【0037】
なお、ここでは第1駆動電圧Va1が基準電圧Vsより大きい場合を示しているが、第1駆動電圧Va1と圧電素子421の形状変化の向きとに応じて、第1駆動電圧Va1が基準電圧Vsよりも小さくても(負の電圧の場合を含む)よい。いずれの場合でも、印加電圧が基準電圧Vsから外れる変化を立ち上がりとし、印加電圧が基準電圧Vsへ戻る変化を立ち下がりとする。
【0038】
非吐出信号は、
図3Bに示すように、基準電圧Vsと第2駆動電圧Va2との間の電圧差、すなわち電圧振幅が、吐出信号における基準電圧Vsと第1駆動電圧Va1との電圧差(電圧振幅)よりも小さい。また、立ち上がり時間Tu2に比較して、立ち下がり時間Td2の方が長い。ここでは、維持時間Ta2は、維持時間Ta1と同一の1ALとしている。また、立ち上がり時間Tu2は、例えば、吐出信号の立ち上がり時間Tu1と同様に1/4AL程度であり、立ち下がり時間Td2は、維持時間Ta2と同じ1AL程度である。
【0039】
このように、非吐出信号の信号波形では、ALに比して短い立ち上がり時間Tu2により、個別供給流路内のインクは減圧されてノズルN内のインクの液面(メニスカス)がノズル開口面から内側(奥側)へ引き込まれるとともに、急激な減圧に伴って振動のエネルギーを得る。一方、立ち上がり時間Tu2よりも顕著に長い立ち下がり時間Td2をかけて印加電圧を基準電圧Vsに戻すと、インクの圧力は上昇するが、壁面からの押圧により得られる振動のエネルギーは小さい。この場合、メニスカスは、印加電圧の立ち下がりの終了と同時に印加電圧の立ち上がり前の位置(元位置;ここでは、例えば、インクの吐出周期の開始から立ち上がり開始までの平均液面位置)までは戻らない。メニスカスの位置(ここでは、立ち下がり終了から所定時間の平均液面位置)は、当該元位置よりも奥(ノズル開口面から遠い位置)となる。この状態は、最終的な平衡状態ではなく、その後、狭いノズルN内での毛細管現象などによりゆっくりメニスカスが元位置へ移動していく。この移動は、立ち上がり時間Tu2に応じて生じるインクの振動の周期(個別供給流路の形状などによって定まるAL/2程度の振動成分)に比して十分に緩やかである。
【0040】
その結果、非吐出信号の印加直後(駆動信号の立ち下がり終了後)は、ノズルN内のインクの多くが当該ノズルNからインク流路121内に戻っており、個別回収流路122、123への流れに乗って回収される。その後、ノズルN内のメニスカスが徐々にインク流路121から遠ざかって戻っていくので、当該メニスカスは、循環するインクの流れ付近に長い時間とどまらない。したがって、この流れの影響でメニスカスが乱れ、破壊される可能性が低減される。
【0041】
図4A及び
図4Bは、
図2に示した断面と同一の断面図である。
図4Aに示すように、基準電圧Vsが印加されている状態では、メニスカスMの位置は、ノズルNの開口側に寄って位置している。このため、ノズルN内のインクは、矢印で示したインクの循環流路から外れており、吐出されない状態が続く間滞留することになる。
【0042】
図4Bに示すように、第2駆動電圧Va2が印加されると、インク供給路131の拡張変形によりメニスカスMがノズルNの開口から奥に引き込まれる。このとき、ノズルNのインクの大部分は、インク流路121内に引き戻されている。この状況では、メニスカスMがインクの循環流に非常に近く、小さな流れの乱れなどによっても容易にメニスカスMが乱れ、破壊されやすい。ノズルN内のインクを入れ替えるには、メニスカスMが元位置に戻り、個別供給流路内のインクが再びノズルN内に進入する際に、ノズルN内にもともとあったインクが戻りさえしなければよいので、
図4Bに示す状況は、ノズルN内から引き戻されたインクが個別供給流路から個別回収流路122、123へのインクの流れに乗ってノズルNの入口から個別回収流路122、123の側へ必要最低限移動する時間だけ継続していればよい。
【0043】
このように、適切な非吐出信号により、当該非吐出信号が印加された直後のメニスカス位置を適切に制御することが可能になる。このようなメニスカス位置が得られる条件は、上記のように、立ち上がり時間Tu2、維持時間Ta2及び立ち下がり時間Td2の大きさ及びそれらの関係性に応じて定まる。ここでは、維持時間Ta2を1ALに固定した場合について説明する。なお、実際に必要な引き込み長は、ノズルNの長さなどにもよるので、引き込み長に応じた電圧振幅などは、適宜調整されてよい。
【0044】
図5は、立ち上がり時間Tu2と立ち下がり時間Td2の関係に応じたインク液面位置の後退状況の例を示す図表である。
【0045】
この結果から、立ち下がり時間Td2が短く、特に、0.5AL以下の場合には、非吐出信号の印加後における液面(メニスカス)の後退は生じない(×)。すなわち、立ち下がり時にインクに振動エネルギーが与えられて、立ち下がり後の個別供給流路のサイズに応じたメニスカスの平衡位置である元の位置よりノズル開口から遠い位置に、当該メニスカスが維持されない。また、立ち下がり時間Td2が0.7AL以上であっても、立ち上がり時間Tu2が長くなると、やはりメニスカスの後退が生じにくくなる。立ち上がり時間Tu2が0.5AL以上では、後退は生じるものの、立ち下がり時間Td2との関係でメニスカスの後退がノズルNとインク流路121との境界直近まで十分に下がり切らない。すなわち、立ち上がり時間Tu2が立ち下がり時間Td2に比してある程度以上長くなると、インクの圧力減少に係る振動エネルギーが十分に得られないので、非吐出信号の印加後にインクをノズルNの奥へ引き込む力が十分に残らないことになる。ここでは、少なくとも立ち下がり時間Td2が立ち上がり時間Tu2よりも0.6AL(共振周期の0.3倍)以上長くなることで、メニスカスの引き込みが可能になっている(△)。また、立ち上がり時間Tu2が0.4AL以下(共振周期の0.2倍以下)かつ立ち下がり時間Tdが1.1AL以上(すなわち、立ち上がり時間Tu2よりも0.7AL(共振周期の0.35倍)以上長い)では、メニスカスの後退により、ノズルN内のインクが十分に効果的に流出して循環される(○)。
【0046】
図6は、インクの循環流速に対するノズルN内のインクによる正常なインク吐出動作の維持に係る効果の度合を示すグラフである。ここでのインク流速は、インク流路121内のノズルN上方におけるインク非吐出時の下向き(ノズルN方向)の流れの速度である。
【0047】
ノズルN内のインクが適切に入れ替わらないまま滞留すると、インクの成分分離や水分の蒸発による粘度上昇などによりインクの吐出に不良が生じる。不良としては、主にインクの吐出速度や吐出量の変化(低下)が挙げられ、また、吐出方向に異常が生じる場合もある。インク流速がゼロの場合に比して、インク流速がある程度以上あれば、上記の吐出不良の抑制効果が生じ、この効果の度合(吐出不良の進行)は、下限値(ここでは、3mm/sec程度)以上の流速であれば、概ね循環速度によらずに十分な効果が得られることが示されている。
【0048】
以上のように、本実施形態のインクジェットヘッド420の駆動方法は、インクを吐出するノズルNと、当該ノズルNへインクを供給する個別供給流路であるインク流路121及びインク供給路131と、個別供給流路のインクが排出される個別回収流路122、123と、印加される駆動信号に応じて個別供給流路内のインクに圧力変動を生じさせる変形動作を行う圧電素子421と、を備えるインクジェットヘッド420の駆動制御方法である。この駆動制御方法は、ノズルNからインクを吐出させない駆動信号を圧電素子421に印加する非吐出駆動を駆動部のヘッド駆動部422により行わせる非吐出駆動ステップを含む。非吐出駆動に係る駆動信号の信号波形では、各記録周期内で、当該駆動信号が印加される前のノズルNにおけるインクの平均液面位置よりも駆動信号が印加された後のノズルNにおけるインクの平均液面位置の方が前記ノズルの開口面から遠い。
すなわち、単純にメニスカスを振動させるだけではなく、終了時にメニスカスを一時的に後退させる波形の駆動信号を出力することで、一時的な後退の間にノズルNから流出したインクを回収、循環させることができるとともに、この状態を長く続けずに自然に戻すので、複雑な制御を必要とせずに容易にメニスカスが乱れたり破壊されたりする可能性を低減させることができる。
【0049】
また、非吐出駆動に係る駆動信号の信号波形は、電圧の立ち上がりの部分と、立ち上がり後の電圧で維持される部分と、立ち上がり後の電圧から最初の電圧に戻る立ち下がりの部分と、を含み、電圧の立ち上がりによりインクの圧力を低下させ、立ち下がりの時間は、前記立ち上がりの時間よりも長い。これにより、メニスカスの引き込みに比して、メニスカスを元の位置に戻す運動エネルギーをインクに供給するのを低減させるので、ノズルN付近のインクの回収、入替に効果的な駆動波形を得ることができる。
【0050】
また、立ち下がりの時間Td2は、立ち上がりの時間Tu2よりもノズルN内のインクの圧力振動に係る共振周期(2×AL)の0.3倍以上長い。上述のように立ち下がりの時間Td2を立ち上がりの時間Tu2よりも適切に長くすることで、インクのメニスカスが元の位置に戻るための運動エネルギーの供給を適切に低減可能となり、適切にインクの流れ近くまでメニスカスを後退させることができる。
【0051】
また、立ち下がりの時間Td2は、立ち上がりの時間Tu2よりもALの0.7倍以上長く、かつ立ち上がりの時間Tu2は、ALの0.4倍以下である。適切な範囲で立ちあがり時間Tu2を短くし、立ち下がり時間Td2をこれよりも長くすることで、より適切なメニスカスの後退位置を一時的に得ることができる。
【0052】
また、インクジェットヘッド420は、セラミックインク又は白色インクを吐出する。これらのインクは成分の分離がしやすく、吐出異常が生じやすいので、上記のように、メニスカスを破壊せずにノズルN内のインクを容易かつ適切に循環可能とすることで、より安定して正常な吐出を継続させることができる。
【0053】
また、非吐出駆動ステップは、画像の記録時にインクを吐出させない各画素の記録周期で各々行われる。すなわち、インクが吐出されない間は継続的に上記のノズルN内のインクが入れ替えられ、また、メニスカスの破壊が十分に低減されているので、通常の記録動作中であっても、吐出頻度の低いノズルNなどのインクを適切な状態に保ち、必要なタイミングで即座に通常のインク吐出を行わせることができる。
【0054】
また、本実施形態のインクジェット記録装置1は、インクを吐出するノズルNと、当該ノズルNへインクを供給する供給流路としてのインク流路121及びインク供給路131と、個別供給流路のインクが排出される個別回収流路122、123と、印加される駆動信号に応じて個別供給流路内のインクに圧力変動を生じさせる変形動作を行う圧電素子421と、を備えるインクジェットヘッド420と、制御部40(CPU401)と、を備える。
制御部40(CPU401)は、ノズルNからインクを吐出させない駆動信号を圧電素子421に印加する非吐出駆動をヘッド駆動部422により行わせ、非吐出駆動に係る駆動信号の信号波形では、各インク吐出周期において駆動信号が印加される前のノズルNにおけるインクの平均液面位置よりも駆動信号が印加された後のインクの平均液面位置の方がノズルNの開口面から遠い。
このような非吐出駆動により、単純にメニスカスを振動させるだけではなく、終了時にメニスカスを一時的に後退させる波形の駆動信号を出力させて、ノズルNからインクを循環流路に戻すことができる。ノズルNから流出したインクは、インクの循環流により排出、回収、循環させるので、代わりにノズルN内に流入するインクにより、当該ノズルN内のインクを適切な状態に維持しておくことができる。一方で、このようなメニスカスが後退した状態を長く続けずに自然に戻すので、複雑な制御を必要とせずに容易にメニスカスが乱れたり破壊されたりする可能性を低減させることができる。
【0055】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、各画素の記録周期で全て上記非吐出駆動を行わせることとして説明したが、必ずしも全てのインク非吐出の記録周期で上記のようにメニスカスを後退させなくてもよい。所定の頻度又は周期でのみメニスカスを後退させてもよい。
【0056】
また、上記実施の形態では、セラミックインクや白色インクを例に挙げて説明したが、これらに限られない。その他の種類のインクであっても同様にノズルN内のインクを循環させてよい。
【0057】
また、上記実施形態では、駆動波形が台形波形であるものとして説明しているが、これに近い台形状の波形であれば、厳密にはこれに限られない。例えば、駆動波形の立ち上がり/立ち下がりが完全な直線である必要はなく、多少曲線状の変化を伴っていてもよいし、途中で多少傾きが変化していてもよい。また、メニスカスの振動の安定化などに係る台形状の波形に比して小さい周知の波形が付加されていてもよい。
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【産業上の利用可能性】
【0058】
この発明は、インクジェットヘッドの駆動制御方法及びインクジェット記録装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 インクジェット記録装置
40 制御部
401 CPU
402 ROM
403 RAM
41 搬送駆動部
42 記録動作部
420 インクジェットヘッド
421 圧電素子
422 ヘッド駆動部
43 駆動波形信号生成部
44 記憶部
49 バス
51 通信部
52 表示部
53 操作受付部
54 送液ポンプ
110 ノズル基板
120 流路基板
121 インク流路
122、123 個別回収流路
130 圧力室基板
131 インク供給路
132、133 共通回収流路
134 空気室
M メニスカス
N ノズル