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  • 特許-タイヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20241210BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20241210BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20241210BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20241210BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B60C11/00 B
B60C11/00 F
B60C1/00 A
C08L21/00
C08K5/548
C08K3/36
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022532385
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2021017909
(87)【国際公開番号】W WO2021256124
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2020103284
(32)【優先日】2020-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國澤 鉄也
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-188040(JP,A)
【文献】特開平6-008708(JP,A)
【文献】特開平4-218405(JP,A)
【文献】特開平10-044714(JP,A)
【文献】特開平11-278015(JP,A)
【文献】特開平7-242103(JP,A)
【文献】特開2013-184330(JP,A)
【文献】特開2013-234252(JP,A)
【文献】特開2011-140612(JP,A)
【文献】国際公開第2011/087004(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/064939(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
B60C 1/00
C08L 21/00
C08K 5/548
C08K 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドを有するタイヤであって、
前記トレッドは、トレッド面を構成する第一層と、前記第一層の半径方向内側に隣接する第二層と、前記第二層の半径方向内側に存在する第三層とを少なくとも備え、
前記第一層、前記第二層および前記第三層がゴム成分を含有するゴム組成物により構成され、
前記第一層および前記第二層を構成するゴム組成物は、シリカおよびメルカプト系シランカップリング剤を含有し、かつゴム成分100質量部に対するシリカの含有量がカーボンブラックの含有量よりも多く、
前記トレッドが、複数の周方向溝によって仕切られた陸部を有し、
前記周方向溝の溝底の最深部が、前記第二層の外面よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成され、
前記陸部の延長線と前記周方向溝の溝底の最深部の延長線との距離をH1、前記第二層の外面の延長線と前記周方向溝の溝底の最深部の延長線との距離をH2としたとき、H2/H1が0.20以上である、タイヤ。
【請求項2】
前記第一層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する軟化剤の含有量と、前記第二層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する軟化剤の含有量との差が50質量部以下である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記第一層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量と、前記第二層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄との含有量の差が1.0質量部以下である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記第一層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する加硫促進剤の含有量と、前記第二層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する加硫促進剤との含有量の差が3.5質量部以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記H2/H1が0.30以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記第一層および前記第二層を構成するゴム組成物のうち少なくとも一方が、ゴム成分100質量部に対しシリカを100質量部以上含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第一層および前記第二層を構成するゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対し、シリカを50~130質量部含有し、かつシリカとカーボンブラックの合計含有量に対するシリカの割合が60質量%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記第一層および前記第二層を構成するゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対し、軟化剤を10質量部以上含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記第一層および前記第二層を構成するゴム成分が、スチレンブタジエンゴムを40質量%以上含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記第一層および前記第二層を構成するゴム成分100質量%中のシリカと親和性を有する官能基により変性されたジエン系ゴムの含有量が40質量%以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記第一層を構成するゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して水酸化アルミニウムを1.0質量部以上含有する、請求項1~10のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記第一層、前記第二層、および前記第三層の厚みがいずれも1.0mm以上である、請求項1~11のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記第一層の厚みt1に対する前記第二層の厚みt2の比(t2/t1)が0.4~5.0である、請求項1~12のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項14】
前記第二層の厚みt2に対する前記第三層の厚みt3の比(t3/t2)が0.2~3.0である、請求項1~13のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項15】
タイヤ内腔に、シーラント、制音体、およびタイヤモニタリング用の電子部品からなる群より選ばれる少なくとも1つを備える、請求項1~14のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項16】
前記タイヤが乗用車用タイヤである、請求項1~15のいずれか一項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤに求められる重要な性能として、ウェットグリップ性能や耐摩耗性能がある。また近年、省資源の観点から、タイヤの転がり抵抗改善による低燃費性能の向上が求められている。低燃費性能向上にはヒステリシスロスが小さいこと、ウェットグリップ性能向上にはウェットスキッド抵抗性が高いことが要求される。しかしながら、低ヒステリシスロスと高いウェットスキッド抵抗性とは相反するものであり、低燃費性能およびウェットグリップ性能をバランス良く改善することは困難である。シリカやカーボンブラック等のフィラーを減量すると転がり抵抗は低減するが、補強性、耐摩耗性、ウェットグリップ性能は低下する傾向がある。
【0003】
特許文献1には、特定の液状樹脂およびシリカを配合することで、低燃費性能、ウェットグリップ性能、および耐摩耗性能を改善したタイヤ用ゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-53296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
低燃費性能、ウェットグリップ性能、および耐摩耗性能のバランスを向上させるために、トレッドゴムにおいて表層、中間層、ベース層の3層を設け、かつ中間層の外面より深い位置まで周方向溝を形成するタイヤが提案されている。しかしながら、このようなタイヤは、表層と中間層が異種のゴム層で構成されていることから、歪が界面付近に集中して界面の接着性が低下する傾向がある。加えて、周方向溝の深さに対する中間層における溝深さが所定の割合より増加すると、耐久性が相乗的に低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、低燃費性能、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能、および耐久性能の総合性能が改善されたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、トレッド部に3層以上の所定のゴム層を設け、該ゴム層を特定の配合とし、かつ周方向溝の深さに対する中間層における溝深さを所定の割合とすることにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
〔1〕トレッドを有するタイヤであって、前記トレッドは、トレッド面を構成する第一層と、前記第一層の半径方向内側に隣接する第二層と、前記第二層の半径方向内側に存在する第三層とを少なくとも備え、前記第一層、前記第二層および前記第三層がゴム成分を含有するゴム組成物により構成され、前記第一層および前記第二層を構成するゴム組成物は、シリカおよびメルカプト系シランカップリング剤を含有し、かつゴム成分100質量部に対するシリカの含有量がカーボンブラックの含有量よりも多く、前記トレッドが、複数の周方向溝によって仕切られた陸部を有し、前記周方向溝の溝底の最深部が、前記第二層の外面よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成され、前記陸部の延長線と前記周方向溝の溝底の最深部の延長線との距離をH1、前記第二層の外面の延長線と前記周方向溝の溝底の最深部の延長線との距離をH2としたとき、H2/H1が0.20以上である、タイヤ、
〔2〕前記第一層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する軟化剤の含有量と、前記第二層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する軟化剤の含有量との差が50質量部以下である、上記〔1〕記載のタイヤ、
〔3〕前記第一層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量と、前記第二層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄との含有量の差が1.0質量部以下である、上記〔1〕または〔2〕記載のタイヤ、
〔4〕前記第一層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する加硫促進剤の含有量と、前記第二層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する加硫促進剤との含有量の差が3.5質量部以下である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔5〕前記H2/H1が0.30以上である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔6〕前記第一層および前記第二層を構成するゴム組成物のうち少なくとも一方が、ゴム成分100質量部に対しシリカを100質量部以上含有する、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔7〕前記第一層および前記第二層を構成するゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対し、シリカを50~130質量部含有し、かつシリカとカーボンブラックの合計含有量に対するシリカの割合が60質量%以上である、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔8〕前記第一層および前記第二層を構成するゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対し、軟化剤を10質量部以上含有する、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔9〕前記第一層および前記第二層を構成するゴム成分が、スチレンブタジエンゴムを40質量%以上含有する、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔10〕前記第一層および前記第二層を構成するゴム成分100質量%中のシリカと親和性を有する官能基により変性されたジエン系ゴムの含有量が40質量%以上である、上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔11〕前記第一層を構成するゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して水酸化アルミニウムを1.0質量部以上含有する、上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔12〕前記第一層、前記第二層、および前記第三層の厚みがいずれも1.0mm以上である、上記〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔13〕前記第一層の厚みt1に対する前記第二層の厚みt2の比(t2/t1)が0.4~5.0である、上記〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔14〕前記第二層の厚みt2に対する前記第三層の厚みt3の比(t3/t2)が0.2~3.0である、上記〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔15〕タイヤ内腔に、シーラント、制音体、およびタイヤモニタリング用の電子部品からなる群より選ばれる少なくとも1つを備える、上記〔1〕~〔14〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔16〕前記タイヤが乗用車用タイヤである、上記〔1〕~〔15〕のいずれかに記載のタイヤ、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トレッド部に3層以上の所定のゴム層を設け、該ゴム層を特定の配合とし、かつ周方向溝の深さに対する中間層における溝深さを所定の割合とすることにより、低燃費性能、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能、および耐久性能の総合性能が改善されたタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態に係るタイヤのトレッドの一部が示された拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一実施形態であるタイヤは、トレッドを有するタイヤであって、前記トレッドは、トレッド面を構成する第一層と、前記第一層の半径方向内側に隣接する第二層と、前記第二層の半径方向内側に存在する第三層とを少なくとも備え、前記第一層、前記第二層および前記第三層がゴム成分を含有するゴム組成物により構成され、前記第一層および前記第二層を構成するゴム組成物は、シリカおよびメルカプト系シランカップリング剤を含有し、かつゴム成分100質量部に対するシリカの含有量がカーボンブラックの含有量よりも多く、前記トレッドが、複数の周方向溝によって仕切られた陸部を有し、前記周方向溝の溝底の最深部が、前記第二層の外面よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成され、前記陸部の延長線と前記周方向溝の溝底の最深部の延長線との距離をH1、前記第二層の外面の延長線と前記周方向溝の溝底の最深部の延長線との距離をH2としたとき、H2/H1が0.20以上(好ましくは0.30以上)である。
【0012】
理論に拘束されることは意図しないが、本開示において、タイヤの耐久性能が向上するメカニズムは、以下のように考えらえる。すなわち、メルカプト系シランカップリング剤のような高活性のカップリング剤を配合することで、第一層中のポリマーと第二層中のシリカ、または第一層中のシリカと第二層中のポリマーとをより強固に繋ぐことができるため、ゴム層の界面における接着性を強化することができる。これにより、周方向溝の深さに対する第二層における溝深さの割合が増加した場合であっても、耐久性能を高めることができると考えられる。
【0013】
前記第一層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する軟化剤の含有量と、前記第二層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する軟化剤の含有量との差は、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましく、20質量部以下が特に好ましい。第一層と第二層との軟化剤の含有量の差を前記の範囲とすることで、第一層と第二層との硬度の差が大きくなり界面付近に歪が集中することによる耐久性能低下を抑制することができる。なお、差が前記の範囲であれば、第一層の軟化剤の含有量は第二層の軟化剤の含有量より多くてもよく、少なくてもよいが、第一層が摩耗した後の、ウェットグリップ性能の低下を抑制する観点から、第一層の軟化剤の含有量は第二層の軟化剤の含有量より多いことが好ましい。
【0014】
前記第一層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量と、前記第二層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄との含有量の差は、1.0質量部以下が好ましく、0.8質量部以下がより好ましく、0.6質量部以下がさらに好ましく、0.4質量部以下がさらに好ましく、0.3質量部以下が特に好ましい。第一層と第二層との硫黄の含有量の差を前記の範囲とすることで、加硫時に硫黄が多いゴム層から少ないゴム層に移行し、界面付近の強度が弱くなることによる耐久性能低下を抑制することができる。なお、差が前記の範囲であれば、第一層の硫黄の含有量は第二層の硫黄の含有量より多くてもよく、少なくてもよいが、低燃費性能の観点から、第一層の硫黄の含有量は第二層の硫黄の含有量より少ないことが好ましい。
【0015】
前記第一層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する加硫促進剤の含有量と、前記第二層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する加硫促進剤との含有量の差は3.5質量部以下が好ましく、3.0質量部以下がより好ましく、2.5質量部以下がさらに好ましく、2.0質量部以下が特に好ましい。第一層と第二層との加硫促進剤の含有量の差を前記の範囲とすることで、加硫時に加硫促進剤が多いゴム層から少ないゴム層に移行し、界面付近の強度が弱くなることによる耐久性能低下を抑制することができる。なお、差が前記の範囲であれば、第一層の加硫促進剤の含有量は第二層の加硫促進剤の含有量より多くてもよく、少なくてもよいが、第一層の加硫促進剤の含有量は第二層の加硫促進剤の含有量より多いことが好ましい。上記のように、第一層の軟化剤の含有量が第二層の軟化剤の含有量より多い場合、第一層を構成するゴム組成物の加硫速度が遅くなる傾向がある。また、ウェットグリップ性能向上のため、第一層を構成するゴム組成物のシリカの含有量を多くした場合も、第一層を構成するゴム組成物の加硫速度が遅くなる傾向がある。これらの理由により、第一層の加硫促進剤の含有量を第二層の加硫促進剤の含有量より多くして、第一層を構成するゴム組成物の加硫速度を担保することが好ましい。
【0016】
前記第一層および前記第二層を構成するゴム組成物のうち少なくとも一方は、ゴム成分100質量部に対しシリカを100質量部以上含有することが好ましい。
【0017】
前記第一層および前記第二層を構成するゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、シリカを50~130質量部含有し、かつシリカとカーボンブラックの合計含有量に対するシリカの割合が60質量%以上であることが好ましい。
【0018】
前記第一層および前記第二層を構成するゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、軟化剤を10質量部以上含有することが好ましい。
【0019】
前記第一層および前記第二層を構成するゴム成分は、スチレンブタジエンゴムを40質量%以上含有することが好ましい。
【0020】
前記第一層および前記第二層を構成するゴム組成物は、ゴム成分としてシリカと親和性を有する官能基により変性されたジエン系ゴムを含有することが好ましい。その含有量は、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。
【0021】
前記第一層を構成するゴム組成物は、水酸化アルミニウムを含有することが好ましい。その含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。
【0022】
前記第一層、前記第二層、および前記第三層の厚みは、いずれも1.0mm以上であることが好ましい。
【0023】
前記第一層の厚みt1に対する前記第二層の厚みt2の比(t2/t1)は、0.4~5.0であることが好ましい。
【0024】
前記第二層の厚みt2に対する前記第三層の厚みt3の比(t3/t2)は、0.2~3.0であることが好ましい。
【0025】
本開示のタイヤは、タイヤ内腔に、シーラント、制音体、およびタイヤモニタリング用の電子部品からなる群より選ばれる少なくとも1つを備えることが好ましい。
【0026】
本開示のタイヤは、乗用車用タイヤとして好適に使用される。
【0027】
本開示の一実施形態であるタイヤの作製手順について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本発明を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0028】
図1は、本開示に係るタイヤのトレッドの一部が示された拡大断面図である。図1において、上下方向がタイヤの半径方向であり、左右方向がタイヤの軸方向であり、紙面に垂直な方向がタイヤの周方向である。
【0029】
図示される通り、本開示のタイヤのトレッド部は、第一層6、第二層7および第三層8を備え、第一層6の外面がトレッド面3を構成し、第二層7が第一層6の半径方向内側に隣接し、第三層8が第二層7の半径方向内側に存在している。第三層8は第二層7の半径方向内側に隣接していることが好ましい。また、本発明の目的が達成される限り、第二層7と第三層8との間に、および/または第三層8とベルト層との間に、さらに1または2以上のゴム層を有していてもよい。
【0030】
図1において、両矢印t1は第一層6の厚み、両矢印t2は第二層7の厚み、両矢印t3は第三層8の厚みである。図1には、溝が形成されていないトレッド面上の任意の点が、記号Pとして示されている。記号Nで示される直線は、点Pを通り、この点Pにおける接平面に垂直な直線(法線)である。本明細書では、厚みt1、t2およびt3は、図1の断面において、溝が存在しない位置におけるトレッド面上の点Pから引いた法線Nに沿って測定される。
【0031】
本開示において、第一層6の厚みt1は特に限定されないが、ウェットグリップ性能の観点から、1.0mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましく、2.0mm以上がさらに好ましい。一方、発熱性の観点からは、第一層6の厚みt1は、10.0mm以下が好ましく、9.0mm以下がより好ましく、8.0mm以下がさらに好ましい。
【0032】
本開示において、第二層7の厚みt2は特に限定されないが、1.5mm以上が好ましく、2.0mm以上がより好ましく、2.5mm以上がさらに好ましい。また、第二層7の厚みt2は、10.0mm以下が好ましく、9.0mm以下がより好ましく、8.0mm以下がさらに好ましい。
【0033】
本開示において、第三層8の厚みt3は特に限定されないが、1.0mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましい。また、第三層8の厚みt3は、10.0mm以下が好ましく、9.0mm以下がより好ましく、8.0mm以下がさらに好ましい。
【0034】
第一層6の厚みt1に対する第二層7の厚みt2の比(t2/t1)は、低燃費性能の観点から、0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.7以上がさらに好ましく、0.9以上が特に好ましい。一方、ウェットグリップ性能の観点からは、5.0以下が好ましく、4.5以下がより好ましく、4.0以下がさらに好ましく、3.5以下が特に好ましい。
【0035】
第二層7の厚みt2に対する第三層8の厚みt3の比(t3/t2)は、本開示の効果をより良好に発揮する観点から、0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.4以上がさらに好ましい。一方、第二層7の厚みt2に対する第三層8の厚みt3の比(t3/t2)は、本開示の効果をより良好に発揮する観点から、3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましく、0.9以下が特に好ましい。
【0036】
トレッド部全体の厚さに対する第二層7の厚みt2は20~90%が好ましく、25~80%がより好ましく、30~75%がさらに好ましい。なお、本開示におけるトレッド部全体の厚さとは、トレッド部を構成するゴム層の合計厚さを意味し、トレッド面3からベルト層までの最短距離により求められる。
【0037】
本開示のトレッドは、タイヤ周方向に連続して延びる複数の周方向溝1を有している。周方向溝1は、周方向に沿って直線状に延びていてもよく、周方向に沿ってジグザグ状に延びていてもよい。
【0038】
本開示のトレッドは、タイヤ幅方向で、周方向溝1によって仕切られた陸部2を有している。
【0039】
周方向溝1の溝深さH1は、陸部2の延長線4と周方向溝1の溝底の最深部の延長線5との距離によって求められる。なお、溝深さH1は、例えば、周方向溝1が複数ある場合、陸部2の延長線4と、複数の周方向溝1のうち最も深い溝深さを有する周方向溝1(図1においては左側の周方向溝1)の溝底の最深部の延長線5との距離とすることができる。
【0040】
本開示のタイヤは、周方向溝1の溝底の最深部が、第二層7の外面よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成されている。陸部2の延長線4と周方向溝1の溝底の最深部の延長線5との距離をH1、第二層7の外面の延長線9と周方向溝1の溝底の最深部の延長線5との距離をH2としたとき、H2/H1は0.20以上であり、0.25以上が好ましく、0.30以上がより好ましく、0.35以上がさらに好ましく、0.40以上が特に好ましい。H2/H1を前記の範囲とすることで、低燃費性能とウェットグリップ性能をバランスよく改善することができる。また、溝底の最深部と第二層7の外面とが離れることにより、溝底の耐久性を確保することができる。
【0041】
本開示のタイヤは、タイヤ内腔に、シーラント、制音体、タイヤモニタリングのための電子部品等を設けてもよい。
【0042】
シーラントとしては、一般にパンク防止用として、トレッド部のタイヤ内周面に用いられるものを好適に使用することができる。そのようなシーラント層の具体例としては、例えば、特開2020-23152号公報に記載のものが挙げられる。シーラントの厚さは、通常、1~10mmであることが好ましい。シーラントの幅は、通常、ベルト層の最大幅の85~115%であることが好ましく、95~105%であることが好ましい。
【0043】
制音体としては、タイヤ内腔で制音効果を発揮できるものであればいずれも好適に用いることができる。そのような制音体の具体例としては、例えば、特開2019-142503号公報に記載のものが挙げられる。制音体は、例えば、多孔質状のスポンジ材により構成される。スポンジ材は、海綿状の多孔構造体であり、例えばゴムや合成樹脂を発泡させた連続気泡を有するいわゆるスポンジそのものの他、動物繊維、植物繊維または合成繊維等を絡み合わせて一体に連結したウエブ状のものを含む。また「多孔構造体」には、連続気泡のみならず独立気泡を有するものを含む。制音体としては、ポリウレタンからなる連続気泡のスポンジ材が挙げられる。スポンジ材としては、例えば、エーテル系ポリウレタンスポンジ、エステル系ポリウレタンスポンジ、ポリエチレンスポンジなどの合成樹脂スポンジ、クロロプレンゴムスポンジ(CRスポンジ)、エチレンプロピレンゴムスポンジ(EDPMスポンジ)、ニトリルゴムスポンジ(NBRスポンジ)などのゴムスポンジを好適に用いることができ、とりわけエーテル系ポリウレタンスポンジを含むポリウレタン系またはポリエチレン系等のスポンジが、制音性、軽量性、発泡の調節可能性、耐久性などの観点から好ましい。
【0044】
制音体は、トレッド部の内腔面に固着される底面を有する長尺帯状をなし、タイヤ周方向にのびる。このとき周方向の外端部を互いに突き合わせて略円環状に形成し得る他、外端部間を周方向に離間させてもよい。
【0045】
本開示では、特に言及された場合を除き、タイヤの各部材の寸法および角度は、タイヤが正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤに空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤには荷重がかけられない。なお、本明細書において「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、ETRTOであれば“Measuring Rim”とする。本明細書において「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”とする。
【0046】
[トレッド用ゴム組成物]
上述のように、トレッドの各ゴム層を構成するゴム組成物(トレッド用ゴム組成物)は、ゴム成分および可塑剤を含有する。
【0047】
<ゴム成分>
本開示に係るトレッドの各ゴム層を構成するゴム組成物(トレッド用ゴム組成物)は、ゴム成分としてイソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。第一層6および第二層7を構成するゴム成分は、SBRを含むことが好ましく、SBRおよびBRを含むことがより好ましく、SBRおよびBRのみからなるゴム成分としてもよい。第三層8を構成するゴム成分は、イソプレン系ゴムを含むことが好ましく、イソプレン系ゴムおよびBRを含むことがより好ましく、イソプレン系ゴムおよびBRのみからなるゴム成分としてもよい。
【0048】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0050】
第一層6および第二層7を構成するゴム組成物がイソプレン系ゴム(好ましくは天然ゴム、より好ましくは、非改質天然ゴム(NR))を含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。また、イソプレン系ゴムを含有する場合の含有量の下限値は特に制限されないが、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上とすることができる。第三層8を構成するゴム組成物がイソプレン系ゴムを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、特に制限されないが、例えば、10質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上とすることができる。
【0051】
(SBR)
SBRとしては特に限定はなく、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。なかでもS-SBRおよび変性SBRが好ましい。さらに、これらSBRの水素添加物(水素添加SBR)等も使用することができる。これらのSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
SBRとしては油展SBRを用いることもできるし、非油展SBRを用いることもできる。油展SBRを用いる場合、SBRの油展量、すなわち、SBRに含まれる油展オイルの含有量は、SBRのゴム固形分100質量部に対して、10~50質量部であることが好ましい。
【0053】
本開示で使用できるS-SBRとしては、JSR(株)、住友化学(株)、宇部興産(株)、旭化成(株)、ZSエラストマー(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0054】
SBRのスチレン含量は、ウェットグリップ性能および耐摩耗性能の観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、グリップ性能の温度依存性および耐ブロー性能の観点からは、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのスチレン含有量は、1H-NMR測定により算出される。
【0055】
SBRのビニル含量は、シリカとの反応性の担保、ウェットグリップ性能、ゴム強度、および耐摩耗性能の観点から、10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましい。また、SBRのビニル含量は、温度依存性の増大防止、破断伸び、および耐摩耗性能の観点から、70モル%以下が好ましく、65モル%以下がより好ましく、60モル%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される。
【0056】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、ウェットグリップ性能の観点から、20万以上が好ましく、25万以上がより好ましく、30万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性の観点から、重量平均分子量は200万以下が好ましく、180万以下がより好ましく、150万以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(例えば、東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTIPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0057】
第一層6および第二層7を構成するゴム組成物がSBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。また、SBRのゴム成分中の含有量の上限値は特に制限されず、100質量%としてもよい。なお、第三層8を構成するゴム組成物がSBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、特に制限されない。
【0058】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス含量が50%未満のBR(ローシスBR)、シス含量が90%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。変性BRとしては、上記SBRで説明したのと同様の官能基等で変性されたBRが挙げられる。これらのBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)、宇部興産(株)、JSR(株)等より市販されているものを使用することができる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。シス含量は、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上である。なお、本明細書において、シス含量(シス-1,4-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。
【0060】
希土類系BRとしては、希土類元素系触媒を用いて合成され、ビニル含量が、好ましくは1.8モル%以下、より好ましくは1.0モル%以下、さらに好ましくは0.8%モル以下であり、シス含量が、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上である。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0061】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0062】
変性BRとしては、末端および/または主鎖がケイ素、窒素および酸素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含む官能基によって変性された変性ブタジエンゴム(変性BR)が好適に用いられる。
【0063】
その他の変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)等が挙げられる。また、変性BRは、水素添加されていないもの、水素添加されているもののいずれであってもよい。
【0064】
前記で列挙されたBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性の観点からは、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、BRの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(例えば、東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTIPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0066】
第一層6、第二層7および第三層8を構成するゴム組成物がBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。また、BRを含有する場合の含有量の下限値は特に制限されないが、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上とすることができる。
【0067】
本開示に係るゴム成分としては、シリカと親和性を有する官能基により変性されたジエン系ゴムが好適に用いられる。具体的には、末端および/または主鎖がシリカと親和性を有する官能基により変性されたジエン系ゴムが挙げられる。かかる変性ジエン系ゴムを配合した場合、ポリマーとシリカとの相互作用が高まり、補強性が向上することで耐摩耗性が向上する。また、シリカとの相互作用によってシリカとポリマーが動きにくくなり内部摩擦が減少することで、低燃費性能が向上する。特に、末端にシリカと親和性を有する官能基を有する場合、内部摩擦を起こしやすい末端の動きが規制されるので、より効果的にポリマー同士の内部摩擦が低減される。
【0068】
シリカと親和性を有する官能基としては、エポキシ基、シリル基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、アミド基、メルカプト基等が挙げられるが、これらに限定されない。シリル基の具体例としては、例えば、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル、トリイソプロポキシシリル、ジメトキシメチルシリル、ジエトキシメチルシリル、ジメチルメトキシシリル、ジメチルエトキシシリル等のアルコキシシリル基;トリアセトキシシリル、ジアセトキシメチルシリル、アセトキシジメチルシリル等のアセトキシシリル基;クロロジメチルシリル、ジクロロメチルシリル、トリクロロシリル等のクロロシリル基等が挙げられる。
【0069】
シリカと親和性を有する官能基により変性されたジエン系ゴムの具体例としては、アルコキシシリル基で変性されたSBRもしくはBR等が挙げられ、アルコキシシリル基で変性されたSBRが好ましい。
【0070】
シリカと親和性を有する官能基により変性されたジエン系ゴムを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。また、該ジエン系ゴムのゴム成分中の含有量の上限値は特に制限されず、100質量%としてもよい。
【0071】
(その他のゴム成分)
本開示に係るゴム成分として、前記のイソプレン系ゴム、SBR、およびBR以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、タイヤ工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。これらその他のゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
<フィラー>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物は、カーボンブラックおよび/またはシリカを含むフィラーが好適に使用される。第一層6および第二層7を構成するゴム組成物は、フィラーとしてシリカを含み、カーボンブラックおよびシリカを含むことがより好ましい。第三層8を構成するゴム組成物は、フィラーとしてカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0073】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、タイヤ工業において一般的なものを適宜利用することができる、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等が挙げられる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性の観点から、10m2/g以上が好ましく、20m2/g以上がより好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、200m2/g以下が好ましく、150m2/g以下がより好ましく、100m2/g以下がさらに好ましく、80m2/g以下がさらに好ましく、50m2/g以下が特に好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定された値である。
【0075】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐摩耗性能およびウェットグリップ性能の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能の観点からは、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、8質量部以下が特に好ましい。
【0076】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、低燃費性能および耐摩耗性能の観点から、140m2/g以上が好ましく、170m2/g以上がより好ましく、200m2/g以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0078】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、50質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましく、80質量部以上がさらに好ましく、90質量部以上がさらに好ましく、100質量部以上が特に好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、140質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましく、120質量部以下がさらに好ましく、110質量部以下が特に好ましい。
【0079】
第一層6および第二層7を構成するゴム組成物のうち少なくとも一方は、ゴム成分100質量部に対しシリカを70質量部以上含有することが好ましく、80質量部以上含有することがより好ましく、90質量部以上含有することがさらに好ましく、100質量部以上含有することが特に好ましい。
【0080】
シリカとカーボンブラックのゴム成分100質量部に対する合計含有量は、耐摩耗性能の観点から、40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、60質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および破断時伸びの観点からは、160質量部以下が好ましく、140質量部以下がより好ましく、120質量部以下がさらに好ましい。
【0081】
第一層6および第二層7を構成するゴム組成物は、低燃費性能、ウェットグリップ性能、および耐摩耗性能のバランスの観点から、ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量がカーボンブラックの含有量よりも多いことが好ましい。第一層6および第二層7におけるシリカとカーボンブラックの合計含有量に対するシリカの割合は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。なお、第三層8におけるシリカとカーボンブラックの含有割合は特に制限されないが、シリカとカーボンブラックの合計含有量に対するカーボンブラックの割合を、例えば、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、100質量%とすることができる。
【0082】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。第一層6および第二層7を構成するゴム組成物は、シランカップリング剤としてメルカプト系シランカップリング剤を含み、他のシランカップリング剤を併用してもよい。メルカプト系シランカップリング剤を配合することにより、シリカとポリマーの反応性をより向上させることができる。
【0083】
メルカプト系シランカップリング剤は、下記式(1)で表される化合物、および/または下記式(2)で表される結合単位Aと下記式(3)で表される結合単位Bとを含む化合物であることが好ましい。
【化1】
(式中、R101、R102、およびR103は、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル、炭素数1~12のアルコキシ、または-O-(R111-O)z-R112(z個のR111は、それぞれ独立して、炭素数1~30の2価の炭化水素基を表し;R112は、炭素数1~30のアルキル、炭素数2~30のアルケニル、炭素数6~30のアリール、または炭素数7~30のアラルキルを表し;zは、1~30の整数を表す。)で表される基を表し;R104は、炭素数1~6のアルキレンを表す。)
【化2】
【化3】
(式中、xは0以上の整数を表し;yは1以上の整数を表し;R201は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシルもしくはカルボキシルで置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル、炭素数2~30のアルケニル、または炭素数2~30のアルキニルを表し;R202は、炭素数1~30のアルキレン、炭素数2~30のアルケニレン、または炭素数2~30のアルキニレンを表し;ここにおいて、R201とR202とで環構造を形成してもよい。)
【0084】
式(1)で表される化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシランや、下記式(4)で表される化合物(エボニックデグサ社製のSi363)等が挙げられ、下記式(4)で表される化合物を好適に使用することができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【化4】
【0085】
式(2)で示される結合単位Aと式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物としては、例えば、モメンティブ社等より製造販売されているものが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
メルカプト系シランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.5質量部以上がさらに好ましい。また、コストおよび加工性の観点からは、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0087】
メルカプト系シランカップリング剤の他に、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を併用することもでき、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系シランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系シランカップリング剤等が挙げられる。なかでも、スルフィド系シランカップリング剤が好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
シランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量(複数のシランカップリング剤を併用する場合は全ての合計量)は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部以上が好ましく、2.0質量部以上がより好ましく、2.5質量部以上がさらに好ましい。また、コストおよび加工性の観点からは、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0089】
フィラーとしては、カーボンブラック、シリカ以外に、さらにその他のフィラーを用いてもよい。そのようなフィラーとしては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、タルク、クレー等この分野で一般的に使用されるフィラーをいずれも用いることができる。なかでも、耐摩耗性能、耐久性、ウェットグリップ性能および低燃費性能に優れるという理由から、水酸化アルミニウムが好適に使用される。これらその他のフィラーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
水酸化アルミニウムの窒素吸着比表面積(N2SA)は、ウェットグリップ性能の観点から、5m2/g以上が好ましく、10m2/g以上がより好ましい。また、水酸化アルミニウムの分散性、再凝集防止、耐摩耗性能の観点からは、50m2/g以下が好ましく、40m2/g以下がより好ましく、30m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書における水酸化アルミニウムのBET比表面積は、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0091】
水酸化アルミニウムの平均粒子径(D50)は、水酸化アルミニウムの分散性、再凝集防止、耐摩耗性能の観点から、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、3.0μm以下が好ましく、2.0μmがより好ましい。なお、本明細書における平均粒子径(D50)とは、粒子径分布測定装置により求めた粒子径分布曲線の積算質量値50%の粒子径である。
【0092】
水酸化アルミニウムを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、水酸化アルミニウムの含有量は、耐摩耗性能の観点から、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0093】
<軟化剤>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物は、軟化剤を含有することが好ましい。軟化剤としては、例えば、樹脂成分、オイル、液状ゴム、エステル系可塑剤等が挙げられる。
【0094】
樹脂成分としては、特に限定されないが、タイヤ工業で慣用される石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0095】
本明細書において「C5系石油樹脂」とは、C5留分を重合することにより得られる樹脂をいう。C5留分としては、例えば、シクロペンタジエン、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等の炭素数4~5個相当の石油留分が挙げられる。C5系石油樹脂しては、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)が好適に用いられる。
【0096】
本明細書において「芳香族系石油樹脂」とは、C9留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C9留分としては、例えば、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデン、メチルインデン等の炭素数8~10個相当の石油留分が挙げられる。芳香族系石油樹脂の具体例としては、例えば、
クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、および芳香族ビニル系樹脂が好適に用いられる。芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、発熱性に優れているという理由から、α-メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体またはα-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。芳香族ビニル系樹脂としては、例えば、クレイトン社、イーストマンケミカル社等より市販されているものを使用することができる。
【0097】
本明細書において「C5C9系石油樹脂」とは、前記C5留分と前記C9留分を共重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5留分およびC9留分としては、前記の石油留分が挙げられる。C5C9系石油樹脂としては、例えば、東ソー(株)、LUHUA社等より市販されているものを使用することができる。
【0098】
テルペン系樹脂としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種からなるポリテルペン樹脂;前記テルペン化合物と芳香族化合物とを原料とする芳香族変性テルペン樹脂;テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂;並びにこれらのテルペン系樹脂に水素添加処理を行ったもの(水素添加されたテルペン系樹脂)が挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂の原料となる芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン等が挙げられる。テルペンフェノール樹脂の原料となるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノール等が挙げられる。
【0099】
ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化等で変性したロジン変性樹脂等が挙げられる。
【0100】
フェノール系樹脂としては、特に限定されないが、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0101】
樹脂成分の軟化点は、ウェットグリップ性能の観点から、60℃以上が好ましく、65℃以上がより好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーとの分散性向上という観点からは、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度として定義され得る。
【0102】
樹脂成分を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、発熱性抑制の観点からは、60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましく、30質量部以下が特に好ましい。
【0103】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、動物油脂等が挙げられる。前記プロセスオイルとしてはパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルを使用することもできる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、軽度抽出溶媒和物(MES)、処理留出物芳香族系抽出物(TDAE)、重ナフテン系オイル等が挙げられる。
【0104】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、120質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、90質量部以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0105】
液状ゴムは、常温(25℃)で液体状態のポリマーであれば特に限定されないが、例えば、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)、液状イソプレンゴム(液状IR)、液状スチレンイソプレンゴム(液状SIR)、液状ファルネセンゴム等が挙げられる。これらの液状ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0106】
液状ゴムを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、5質量部以上が特に好ましい。また、液状ゴムの含有量は、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0107】
エステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジブチル(DBA)、アジピン酸ジイソブチル(DIBA)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、アゼライン酸ジ2-エチルヘキシル(DOZ)、セバシン酸ジブチル(DBS)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジブチル(DBP)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリオクチル(TOP)、リン酸トリエチル(TEP)、リン酸トリメチル(TMP)、チミジントリリン酸(TTP)、リン酸トリクレシル(TCP)、リン酸トリキシレニル(TXP)等が挙げられる。これらのエステル系可塑剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0108】
軟化剤のゴム成分100質量部に対する含有量(複数の軟化剤を併用する場合は全ての合計量)は、ウェットグリップ性能の観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。また、加工性の観点からは、120質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、90質量部以下がさらに好ましく、80質量部以下が特に好ましい。
【0109】
<その他の配合剤>
本開示に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、ワックス、加工助剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0110】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0111】
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等が挙げられる。これらの加工助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加工助剤としては、例えば、Schill+Seilacher社、パフォーマンスアディティブス社等より市販されているものを使用することができる。
【0112】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性および破壊強度の観点からは、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。
【0113】
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0114】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0115】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0116】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0117】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0118】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0119】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0120】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系、およびチアゾール系加硫促進剤からなる群から選ばれる1以上の加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤を併用することがより好ましい。
【0121】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)が好ましい。
【0122】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)が好ましい。
【0123】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0124】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0125】
本開示に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0126】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。
【0127】
混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0128】
[タイヤ]
本開示に係るタイヤは、第一層6、第二層7、および第三層8を含むトレッドを備えるものであり、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤを問わない。また、空気入りタイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、高性能タイヤ等が挙げられ、特に乗用車用タイヤとして好適に使用される。なお、本明細書における高性能タイヤとは、グリップ性能に特に優れたタイヤであり、競技車両に使用する競技用タイヤをも含む概念である。
【0129】
第一層6、第二層7、および第三層8を含むトレッドを備えたタイヤは、前記のゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機で第一層6、第二層7、および第三層8の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。
【実施例
【0130】
本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示は、実施例のみに限定されるものではない。
【0131】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
SBR:後述の製造例1で製造した変性溶液重合SBR(スチレン含量:30質量%、ビニル含量:52モル%、Mw:25万、非油展品)
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(ビニル含量:1.5モル%、シス含量:97%、Mw:44万)
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のダイアブラックN220(N2SA:115m2/g)
シリカ:エボニックデグサ社製のULTRASIL(登録商標)9100GR(N2SA:230m2/g、平均一次粒子径:15nm)
水酸化アルミニウム:ナバルテック社製のアピラール120E(平均粒子径:0.9μm、N2SA:11m2/g)
シランカップリング剤1:モメンティブ社製のNXT-Z45(メルカプト系シランカップリング剤)
シランカップリング剤2:エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル:JXTGエネルギー(株)製のプロセスオイルX-140
樹脂成分:クレイトン社製のSYLVARES SA85(α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、軟化点:85℃)
液状ゴム:クレイバレー社製のRicon100(液状SBR)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
老化防止剤2:大内新興化学工業(株)製のノクラック224(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄(5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:住友化学(株)製のソクシノールD-G(N,N’-ジフェニルグアニジン)
【0132】
製造例1:SBR1の合成
窒素置換されたオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、スチレン、および1,3-ブタジエンを仕込んだ。反応器の内容物の温度を20℃に調整した後、n-ブチルリチウムを添加して重合を開始した。断熱条件で重合し、最高温度は85℃に達した。重合転化率が99%に達した時点で1,3-ブタジエンを追加し、更に5分重合させた後、N,N-ビス(トリメチルシリル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランを変性剤として加えて反応を行った。重合反応終了後、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥し、SBR1を得た。
【0133】
(実施例および比較例)
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得た。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を用いて、トレッドの第一層、第二層および第三層の形状に合わせて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、150℃で30分加硫して表2に記載の各試験用タイヤ(サイズ:205/55R15、リム:15×6.0J、内圧:230kPa)を得た。
【0134】
<低燃費性能>
転がり抵抗試験機を用い、各試験用タイヤを、リム15×6JJ、内圧230kPa、荷重3.43kN、速度80km/hで走行させたときの転がり抵抗を測定した。比較例8の試験用タイヤの転がり抵抗を100とし、下記計算式により指数表示した。数値が大きいほど低燃費性能が良好であることを示す。
(低燃費性能指数)=(比較例8のタイヤの転がり抵抗)/(各試験用タイヤの転がり抵抗)×100
【0135】
<ウェットグリップ性能>
各試験用タイヤを車輌(国産FF2000cc)の全輪に装着し、湿潤アスファルト路面において、速度100km/hでブレーキをかけた地点からの制動距離を測定した。比較例8の試験用タイヤの制動距離を100とし、下記計算式により、ウェットグリップ性能を指数表示した。数値が大きいほどウェットグリップ性能が良好であることを示す。
(ウェットグリップ性能指数)=(比較例8のタイヤの制動距離)/(各試験用タイヤの制動距離)×100
【0136】
<耐摩耗性能>
各試験用タイヤを車輌(国産FF2000cc)の全輪に装着して走行させ、50000km走行後のパターン溝深さの変化を測定した。変化量の逆数の値について、比較例8を100として指数表示した。数値が大きいほど耐摩耗性能が良好であることを示す。
【0137】
<耐久性能>
試験用タイヤを車輌(国産FF2000cc)の全輪に装着してテストコースを実車走行し、限界グリップにて蛇行運転をした際のトレッド第一層と第二層の界面付近での亀裂発生の有無を調査した。耐久性能指数は、下記計算式により求めた。数値が大きいほど耐久性能が良好であることを示す。
(耐久性能指数)=(比較例8のタイヤの亀裂発生数)-(各試験用タイヤの亀裂発生数)+100
【0138】
低燃費性能、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能、および耐久性能の総合性能(低燃費性能指数、ウェットグリップ性能指数、耐摩耗性能指数、および耐久性能指数の総和)は、400超を性能目標値とする。
【0139】
【表1】
【0140】
【表2】
【0141】
表1および表2の結果より、トレッド部に3層以上の所定のゴム層を設け、該ゴム層を特定の配合とし、かつ周方向溝の深さに対する第二層における溝深さを所定の割合とした本開示のタイヤは、低燃費性能、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能、および耐久性能の総合性能が改善されていることがわかる。
【符号の説明】
【0142】
1・・・周方向溝
2・・・陸部
3・・・トレッド面
4・・・陸部の延長線
5・・・周方向溝の溝底の最深部の延長線
6・・・第一層
7・・・第二層
8・・・第三層
9・・・第二層の外面の延長線
図1