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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/054 20100101AFI20241210BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241210BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20241210BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20241210BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20241210BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20241210BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20241210BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20241210BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20241210BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20241210BHJP
【FI】
H01M10/054
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M50/46
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/451
H01G11/62
H01G11/36
H01G11/52
H01G11/60
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022547611
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2021032921
(87)【国際公開番号】W WO2022054813
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020153157
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆平
(72)【発明者】
【氏名】中山 有理
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110783551(CN,A)
【文献】国際公開第2020/090946(WO,A1)
【文献】VESSALLY, E. et al.,A DFT study on nanocones, nanotubes (4,0), nanosheets and fullerene C60 as anodes in Mg-ion batterie,RSC Advances,2019年01月08日,Vol.9,pp.853-862
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
H01M 50/40-50/497
H01G 11/62
H01G 11/36
H01G 11/52
H01G 11/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極、正極、前記負極と前記正極との間に配置されたセパレータ、ならびに前記負極、前記正極および前記セパレータ間を満たす電解液を備えた電気化学デバイスであって、
前記負極がマグネシウムを含む電極であり、
前記電解液が、溶媒と、前記溶媒に含まれるマグネシウム塩とを含んで成り、
前記負極は、フラーレン類を含むフラーレン類含有層と接触しており、
前記フラーレン類含有層は、前記セパレータ表面または前記負極表面を、連続的にまたは部分的に被覆している、電気化学デバイス。
【請求項2】
前記フラーレン類含有層は固体である、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
前記フラーレン類含有層が前記セパレータ表面を被覆している、請求項1または2に記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
前記フラーレン類含有層が前記負極を被覆する被覆層である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
前記フラーレン類含有層は、前記フラーレン類を含む粒子を含み、
前記フラーレン類を含む粒子の少なくとも一部は、前記負極の表面上に積層されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項6】
前記フラーレン類がC60、C70、C84、C90およびC96から成る群より選択される少なくとも1種のフラーレンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項7】
前記マグネシウム塩が、ハロゲン化マグネシウム、マグネシウムパーフルオロアルキルスルホニルイミド、およびマグネシウムビスヘキサアルキルジシラジドから成る群より選択される少なくとも1種のマグネシウム塩である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項8】
前記溶媒は、直鎖エーテル、環状エーテルおよびジアルキルスルホンから成る群より選択される少なくとも1種の溶媒である、請求項1~7のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項9】
前記直鎖エーテルが、一般式:
【化1】
[前記一般式中、R’およびR’’は、各々独立に炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なってもよく、nは1以上10以下の整数である]
で表されるエチレンオキシ構造単位を有するエーテルである、請求項8に記載の電気化学デバイス。
【請求項10】
前記正極が、硫黄を含んで成る硫黄電極である、請求項1~9のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学デバイスとしては、キャパシタ、空気電池、燃料電池および二次電池などがあり、種々の用途に用いられている。電気化学デバイスは、正極および負極を備え、かかる正極と負極との間のイオン輸送を担う電解液を有している。
【0003】
例えばマグネシウム電池に代表される電気化学デバイスの電極としては、マグネシウムから成る電極あるいはマグネシウムを少なくとも含んだ電極が設けられている(以下では、そのような電極を「マグネシウムを含む電極」または単に「マグネシウム電極」とも称し、マグネシウムを含む電極が用いられている電気化学デバイスを「マグネシウム電極系の電気化学デバイス」とも称する)。マグネシウムは、リチウムに比べて資源的に豊富で遙かに安価である。また、マグネシウムは、酸化還元反応によって取り出すことができる単位体積当たりの電気量が一般に大きく、電気化学デバイスに用いた場合の安全性も高い。それゆえ、マグネシウム電池は、リチウムイオン電池に代わる次世代の二次電池として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許公開公報US2013/252112A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、マグネシウム電池では克服すべき課題が依然あることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者は見出した。
【0006】
負極にマグネシウムが用いられたマグネシウム電池においてサイクル特性の向上は重要な課題の1つである。この点、Mg電解液や正極材料などの種類によって対応することが考えられるものの、サイクル特性向上のための改善は依然望まれる現状がある。
【0007】
二次電池として広く用いられているリチウムイオン電池は、そのサイクル特性を電解液の添加剤によって向上させることができるものの、マグネシウム電池はその延長線で同様の添加剤で対応することが難しい。なぜなら、マグネシウム電池の電解液においてMg配位構造が非常に脆弱であり、リチウムイオン電池用の添加剤ではMg析出溶解の活性が損なわれる傾向があるからである。つまり、マグネシウム電池の電解液は、サイクル特性の向上を通常図り難い。
【0008】
さらにマグネシウム電池においてエネルギー密度の向上も重要な課題の1つとなっている。特に、初回放電時の放電電圧が負極過電圧によって低下することがあり、このような電圧降下を十分に抑制することができない。
【0009】
本発明はかかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、マグネシウムを含む電極を備えた電気化学デバイスであって、サイクル特性により優れ、より高いエネルギー密度を有する電気化学デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された電解液の発明に至った。
【0011】
本発明では、
負極、正極、および前記負極と前記正極との間に配置されたセパレータを備えた電気化学デバイスであって、
前記負極がマグネシウムを含む電極であり、
前記電気化学デバイスの電解液が、溶媒と、前記溶媒に含まれるマグネシウム塩とを含んで成り、
前記負極は、フラーレン類を含むフラーレン類含有層と接触している、電気化学デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気化学デバイスでは、サイクル特性およびエネルギー密度が向上した電気化学デバイスがもたらされる。つまり、本発明の電気化学デバイスは、いわゆる“マグネシウム電極系”でありながらも、サイクル特性およびエネルギー密度がより向上したものとなる。その向上したサイクル特性およびエネルギー密度というものは、マグネシウム電極系の電気化学デバイスをより実環境の使用に適したものにする。
【0013】
尚、本明細書で説明される効果はあくまで例示の位置付けであり限定されるもので無く、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施態様のマグネシウム電極系の電気化学デバイス(特に電池)の概念図である。
図2図2は、本発明の一実施態様として供されるマグネシウム二次電池(円筒型のマグネシウム二次電池)の模式的な断面図である。
図3図3は、本発明の一実施態様として供されるマグネシウム二次電池(平板型のラミネートフィルム型マグネシウム二次電池)の模式的な斜視図である。
図4図4は、本発明の一実施態様においてキャパシタとして供される電気化学デバイスの模式的な断面図である。
図5図5は、本発明の一実施態様において空気電池として供される電気化学デバイスの模式的な断面図である。
図6図6は、本発明の一実施態様において燃料電池として供される電気化学デバイスの模式的な断面図である。
図7図7は、本発明の一実施態様として供されるマグネシウム二次電池を電池パックに適用した場合の回路構成例を示すブロック図である。
図8図8A図8Bおよび図8Cは、本発明の一実施態様としてマグネシウム二次電池が適用された電動車両、電力貯蔵システムおよび電動工具の構成をそれぞれ表したブロック図である。
図9図9は、本明細書の[実施例]で作製した電池を模式的に表した展開図である。
図10図10は、本明細書の[実施例]で得られた充放電曲線の結果を示す(実施例1)。
図11図11は、本明細書の[実施例]で得られた充放電曲線の結果を示す(実施例2)。
図12図12は、本明細書の[実施例]で得られた充放電曲線の結果を示す(比較例1)。
図13図13は、本明細書の[実施例]で得られた比容量と放電電圧との関係を示す(実施例3および比較例2)。
図14図14は、フラーレン類含有層が負極を部分的に被覆する態様を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る「電気化学デバイス」を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
【0016】
本明細書で言及する各種の数値範囲は、「未満」、「より大きい」および「より小さい」のような特段の用語が付されない限り、下限および上限の数値(すなわち、上限値および下限値)そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、数値範囲1~10は、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈される。
【0017】
本発明において「電気化学デバイス」とは、広義には、電気化学的な反応を利用してエネルギーを取り出すことができるデバイスを意味している。狭義には、本発明における「電気化学デバイス」は、一対の電極および電解質を備え、特にはイオンの移動に伴って充電および放電が為されるデバイスを意味している。あくまでも例示にすぎないが、電気化学デバイスとしては、二次電池の他、キャパシタ、空気電池および燃料電池などを挙げることができる。
【0018】
[電気化学デバイス]
本発明の実施形態(以下、「本実施形態」とも称する)に係る電気化学デバイスは、電気化学的な反応を利用してエネルギーを取り出すことができるデバイスである。
【0019】
本実施形態に係る電気化学デバイスは、負極、正極、および負極と正極との間に配置されたセパレータを備えた電気化学デバイスである。後述でも詳述するが、本実施形態に係る電気化学デバイスでは、その負極がマグネシウムを含む電極である一方、正極は硫黄を含む電極、すなわち硫黄電極であることが好ましい。つまり、ある好適な一態様では、本実施形態に係る電気化学デバイスは、マグネシウム(Mg)-硫黄(S)電極の電気化学デバイスとなっている。
【0020】
本明細書で用いる「硫黄電極」とは、広義には、活性成分(すなわち、活物質)として硫黄(S)を有する電極のことを指している。狭義には「硫黄電極」は、硫黄を少なくとも含んで成る電極のことを指しており、例えば、Sおよび/またはポリマー状の硫黄などの硫黄(S)を含んで成る電極、特にはそのような正極を指している。
【0021】
硫黄電極は、硫黄以外の成分を含んでいてもよく、例えば導電助剤および/または結着剤などを含んでいてもよい。あくまでも例示にすぎないが、硫黄電極における硫黄の含有量は電極全体基準で5質量%以上95質量%以下、例えば70質量%以上90質量%以下程度が好ましい。
【0022】
導電助剤としては、例えば、黒鉛、炭素繊維、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素材料を挙げることができ、これらの1種類又は2種類以上を混合して用いることができる。炭素繊維としては、例えば、気相成長炭素繊維(Vapor Growth Carbon Fiber:VGCF(登録商標))等を用いることができる。カーボンブラックとして、例えば、アセチレンブラックおよび/またはケッチェンブラック等を用いることができる。カーボンナノチューブとして、例えば、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)および/またはダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)等のマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)等を用いることができる。導電性が良好な材料であれば、炭素材料以外の材料を用いることもでき、例えば、Ni粉末のような金属材料、および/または導電性高分子材料等を用いることもできる。
【0023】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)および/またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、ならびに/またはスチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)系樹脂等の高分子樹脂を挙げることができる。また、結着剤としては導電性高分子を用いてもよい。導電性高分子として、例えば、置換又は無置換のポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、及び、これらから選ばれた1種類又は2種類から成る(共)重合体等を用いることができる。
【0024】
また、本明細書で用いる「マグネシウムを含む電極」とは、広義には、活性成分(すなわち、活物質)としてマグネシウム(Mg)を有する電極のことを指している。狭義には「マグネシウムを含む電極」は、マグネシウムから成る電極のことを指しており、例えば、マグネシウム金属あるいはマグネシウム合金を含んで成る電極、特にはそのような負極を指している。なお、このようなマグネシウムを含む電極は、マグネシウム金属またはマグネシウム合金以外の成分を含んでいてもよいものの、ある好適な一態様ではマグネシウムの金属体から成る電極(例えば、純度90%以上、好ましくは純度95%以上、更に好ましくは純度98%以上のマグネシウム金属の単体物から成る電極)となっている。
【0025】
負極を構成する材料(具体的には、負極活物質)は、“マグネシウムを含む電極”ゆえ、好ましくはマグネシウム金属単体、マグネシウム合金又はマグネシウム化合物から成っている。負極がマグネシウムの金属単体物(例えばマグネシウム板など)から成る場合、その金属単体物のMg純度は例えば90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上となっている。負極は、例えば、板状材料あるいは箔状材料から作製することができるが、これに限定するものではなく、粉末を用いて形成(賦形)することも可能である。
【0026】
負極は、その表面近傍に負極活物質層が形成された構造とすることもできる。例えば、負極活物質層として、マグネシウム(Mg)を含み、更に、炭素(C)、酸素(O)、硫黄(S)及びハロゲンのいずれかを少なくとも含む、マグネシウムイオン伝導性を有する層を有するような負極であってもよい。このような負極活物質層は、あくまでも例示の範疇にすぎないが、40eV以上60eV以下の範囲にマグネシウム由来の単一のピークを有するものであってよい。ハロゲンとして、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)及びヨウ素(I)から成る群より選ばれた少なくとも1種類を挙げることができる。かかる場合、負極活物質層の表面からその表面の垂直な方向に(深さ方向に)2×10-7mまでの深さに亙り、40eV以上60eV以下の範囲にマグネシウム由来の単一のピークを有していてよい。負極活物質層が、その表面から内部に亙り、良好な電気化学的活性を示すからである。また、同様の理由から、マグネシウムの酸化状態が、負極活物質層の表面から深さ方向に2×10-7mに亙りほぼ一定であってもよい。ここで、負極活物質層の表面とは、本明細書において負極活物質層の両面の内、電極の表面を構成する側の面を意味し、裏面とは、この表面とは反対側の面、即ち、集電体と負極活物質層の界面を構成する側の面を意味する。負極活物質層が上記の元素を含んでいるか否かはXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)法に基づき確認することができる。また、負極活物質層が上記ピークを有すること、及び、マグネシウムの酸化状態を有することも、XPS法に基づき、同様に確認することができる。
【0027】
本実施形態に係る電気化学デバイスにおいて、正極と負極とは、両極の接触による短絡を防止しつつ、マグネシウムイオンを通過させるセパレータによって分離されている。このようなセパレータは、無機セパレータおよび/または有機セパレータであってもよい。無機セパレータとしては、例えば、ガラスフィルター、およびグラスファイバーを挙げることができる。有機セパレータとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンおよび/またはポリエチレン等から成る合成樹脂製の多孔質膜を挙げることができ、これらの2種類以上の多孔質膜を積層した構造とすることもできる。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は短絡防止効果に優れ、且つ、シャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。
【0028】
本実施形態に係る電気化学デバイスでは、負極はフラーレン類含有層と接触している。本実施形態では、電気化学デバイスの負極がフラーレン類と接触していることに起因して、サイクル特性およびエネルギー密度が向上し得る。
【0029】
フラーレン類含有層における層は、被覆対象を連続的に覆う層であってもよいし、被覆対象を部分的に覆う層であってもよい。フラーレン類含有層が負極と接触する態様は、例えば、フラーレン類含有層が負極を被覆する被覆層である態様(第1態様)、およびフラーレン類含有層がセパレータである態様(第2態様)である。なお、第1態様と第2態様とを組み合わせてもよい。フラーレン類含有層がセパレータであり、及び/又は負極を被覆する被覆層である場合、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電気化学デバイスがより高いサイクル特性およびエネルギー密度を更に呈し易くなる。
【0030】
第1態様では、フラーレン類含有層は負極を被覆する被覆層である。フラーレン類含有層は、フラーレン類を含み、フラーレン類から成ってもよい。フラーレン類含有層は、例えば、負極表面を連続的に被覆してもよいし、または負極表面を部分的に被覆し負極表面の一部を露出させてもよい。負極表面を連続的または部分的に被覆した態様は、例えば、電子顕微鏡により確認することができる。尚、「フラーレン類」は、可視・紫外線吸収スペクトル法(UV)、赤外線吸収スペクトル法(IR)、核磁気共鳴スペクトル法(NMR)ならびに/または質量分析法(MS(GC-MSおよび/もしくはLS-MS等も含む))などによって同定することができる。
【0031】
フラーレン類含有層がフラーレン類を含む場合、フラーレン類は、フラーレン類含有層の総質量のうち、例えば、90重量%以上、95重量%以上、97重量%以上、98重量%以上、99重量%以上、99.5重量%以上、99.9重量%以上、または99.95重量%以上で含まれてもよい。
【0032】
図14を参照して、後者の態様(すなわち、第1態様のうち、フーレン類含有層が負極を部分的に被覆する被覆層である態様)の一例を説明する。図14は、フラーレン類含有層が負極を部分的に被覆する態様を示す模式断面図である。フラーレン類含有層2が、複数のフラーレン類を含む粒子(以下、「フラーレン類粒子」とも称する)2aから成る場合、複数のフラーレン類粒子2aが負極1の表面上を2次元的に連なっている。隣り合うフラーレン類粒子2aは互いに接触している。複数のフラーレン類粒子2aの一部は互いに離間しており、離間している箇所において、負極1の表面の一部が露出している。また、フラーレン類含有層2は、フラーレン類粒子2aが負極表面に対して垂直な方向に積み重なって構成されてもよい。このようなフラーレン類含有層2は、例えば、負極1表面上にフラーレン類粒子2aの分散液を滴下して塗布膜を形成し、塗布膜を乾燥させることで形成することができる。フラーレン類粒子2aは分散液中で一次粒子の状態で分散してもよく、一次粒子が凝集して凝集体を形成した2次粒子の状態で分散していてもよい。
【0033】
第2態様では、フラーレン類含有層は、セパレータである。本実施形態に係る電気化学デバイスにおいて、少なくとも一部の表面がフラーレン類によって覆われているセパレータと負極とが接触する構造を有することで、負極はフラーレン類と接触する。例えば、セパレータが複数の細孔を有し、フラーレン類含有層が複数のフラーレン類粒子からなる場合、第1態様と同様にセパレータの表面を連続的にまたは部分的に被覆されることに加え、フラーレン類粒子が細孔に入り込んだり、はまり込んだりすることがある。
【0034】
本実施形態において「サイクル特性およびエネルギー密度が向上する」とは、“フラーレン類含有層と接触している負極”を備え、かつ“マグネシウム塩”を含む電解液が仕込まれたマグネシウム電極系の電気化学デバイスにて、そのサイクル特性が当該「フラーレン類含有層と接触している負極」を備えないこと以外は同一のマグネシウム電極系の電気化学デバイスのサイクル特性およびエネルギー密度よりも向上することを意味している。サイクル特性では、特に、充放電サイクルが繰り返し行われた場合の放電容量維持率が、相対的に高くなることを意味している(図13参照)。エネルギー密度では、特に、放電電圧が相対的に高くなることを意味している(図10~11参照)。
【0035】
ここで、本明細書における「サイクル特性」とは、広義には、充放電の繰り返しによっても、放電容量の低下がより十分に抑えられている特性のことを意味している。狭義には、「サイクル特性」は、以下のサイクル試験によって得られる放電容量維持率に基づく特性のことを指しており、“サイクル特性が向上している”とは、その放電容量維持率が相対的に高いことを意味している。
・サイクル試験
サイクル試験は25℃の恒温槽中にて行われる。放電は0.7Vの放電終止電圧まで0.1mAの電流値で定電流放電を行う。放電後1時間休止してから、充電を開始する。充電は2.2Vの充電終止電圧まで0.1mAの電流値で定電流放電を行い、充電後1時間の休止を取る。この充放電サイクルを20サイクル繰り返す。かかる場合において、初期放電容量に対するサイクル後のセル放電容量の割合をサイクル後の容量維持率とする。
【0036】
ここで、本明細書における「エネルギー密度」とは、広義には、負極過電圧による放電電圧の低下(電圧降下)がより十分に抑えられている特性のことを意味している。狭義には、「エネルギー密度」は、上記サイクル試験によって得られる放電電圧(特に、1サイクル目の放電電圧)に基づく特性のことを指しており、“エネルギー密度が向上している”とは、その放電電圧が相対的に高いことを意味している。
【0037】
フラーレン類含有層と接触している負極を備え、かつ“マグネシウム塩”を含む電解液が仕込まれたマグネシウム電極系の電気化学デバイスは、そのサイクル特性およびエネルギー密度が向上し得る。これは、電気化学デバイスが硫黄電極を正極として備える場合に特にいえる。つまり、本実施形態に係る電気化学デバイスの正極が、硫黄電極となっているものが好ましい。このようなマグネシウム電極-硫黄電極の対を備える電気化学デバイス(以下では「マグネシウム-硫黄電極系の電気化学デバイス」または「Mg-S電池」などとも称する)の場合、本実施形態に係る電気化学デバイスのサイクル特性およびエネルギー密度がより向上する効果を奏し得る。このようにサイクル特性およびエネルギー密度がより高くなると、マグネシウム-硫黄電極系の電気化学デバイスの実環境下での使用適合性が高くなり、デバイスがより所望に実現され易くなる。マグネシウム-硫黄電極系の電気化学デバイスが二次電池である場合を想定すると、本実施形態によって実使用により適したMg-S電池の可能性が見出されたことになる。
【0038】
フラーレン類は、例えば、無置換のフラーレンまたはフラーレン誘導体である。無置換のフラーレンとしては、例えば、C60(化1)、C70、C84、C90およびC96から成る群より選択される少なくとも1種のフラーレンである。フラーレン類がC60、C70、C84、C90およびC96から成る群より選択される少なくとも1種のフラーレンである場合、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電気化学デバイスがより高いサイクル特性およびエネルギー密度を更に呈し易くなる。フラーレン誘導体は、無置換のフラーレンに官能基が付加または置換したフラーレンである。付加または置換する官能基の数は、例えば、1~10の整数である。このような官能基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、水酸基、ニトロ基、アシル基、およびハロゲン基から成る群より選択される少なくとも1種の官能基である。フラーレン類は、これらの中でも無置換のフラーレンが好ましく、C60がより好ましい。
【化1】
【0039】
フラーレン類は、上記無置換のフラーレンおよびフラーレン誘導体からなる群より選択される1種単独であってもよく、2種以上を組み合わせたものであってもよい。フラーレン類が2種以上を組み合わせたものである場合、2種以上のフラーレン類のうち1種は、主成分としてフラーレン類に含まれてもよい。ここで、主成分とは、本明細書において、フラーレン類総含有量のうち90重量%以上、95重量%以上、97重量%以上、98重量%以上、99重量%以上、99.5重量%以上、99.9重量%以上、または99.95重量%以上含まれるものをいう。例えば、フラーレン類がC60と、C60以外の無置換のフラーレンとからなる場合に、フラーレン類がC60をフラーレン類含有量のうち99.5重量%以上含んでいてもよい。
【0040】
本実施形態に係る電気化学デバイスでは、電解液は、少なくとも溶媒と、溶媒に含まれるマグネシウム塩とを含んで成る。
【0041】
溶媒は、例えば、直鎖エーテル、環状エーテルおよびジアルキルスルホンから成る群より選択される少なくとも1種の溶媒である。溶媒が、直鎖エーテル、環状エーテルおよびジアルキルスルホンから成る群より選択される少なくとも1種の溶媒である場合、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電気化学デバイスがより高いサイクル特性およびエネルギー密度を更に呈し易くなる。
【0042】
直鎖エーテルは、例えば、一般式:
【化2】
[一般式中、R’およびR’’は、各々独立に炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは1以上10以下の整数である]
で表されるエチレンオキシ構造単位を有するエーテルである。直鎖エーテルが上記一般式で表されるエチレンオキシ構造単位を有するエーテルである場合、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電気化学デバイスがより高いサイクル特性およびエネルギー密度を更に呈し易くなる。
【0043】
本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液に用いられる直鎖エーテル溶媒は、エチレンオキシ構造単位が1以上となっている。ここでいう「エチレンオキシ構造単位」とは、本明細書においてエチレン基と酸素原子とが結合した分子構造単位(-O-C-)のことを指しており、そのような分子構造単位が直鎖エーテルに1つ以上含まれている。例えば、エチレンオキシ構造単位が1つ含まれている場合を例にとると、ジメトキシエタン/DME(エチレングリコールジメチルエーテル)および/またはジエトキシエタン/DEE(エチレングリコールジエチルエーテル)などの直鎖エーテルであってよい。
【0044】
ある好適な1つの態様では、エチレンオキシ構造が1つであり、つまり直鎖エーテルがジメトキシエタンである。また、ある好適な1つの態様では、分子構造単位(-O-C-)が直鎖エーテルに2つ以上含まれている。別の切り口で捉えれば、マグネシウム電極系の電解液における直鎖エーテルは、好ましくは2分子以上グリコールが脱水縮合した構造を有しているともいえる。
【0045】
直鎖エーテルの上記一般式におけるR’およびR’’は、各々独立して炭化水素基を表している。よって、R’およびR’’は、各々独立に脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基および/または芳香脂肪族炭化水素基となっていてよい。ここで、本明細書における「直鎖エーテル」とは、少なくともエチレンオキシ構造単位の部位が分岐していないこと(すなわち、枝別れ構造を有していないこと)を意味している。これは、直鎖エーテルの上記一般式におけるR’およびR’’については、必ずしも直鎖構造である必要はなく、枝別れ構造を有するものであってもよいことを意味している。ある1つの好適な態様でいえば、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液に用いられる直鎖エーテルは、エチレンオキシ構造単位の部位が枝別れ構造を有していないだけでなく、R’およびR’’もまた枝別れ構造を有していないグリコール系エーテルである。
【0046】
好ましくは本実施形態ではこのように直鎖エーテルが“エチレンオキシ構造単位”を有する場合、「フラーレン類含有層と接触している負極」と相俟って、マグネシウム電極系の電気化学デバイスにおけるサイクル特性およびエネルギー密度が向上し易くなる。つまり、電解液では少なくとも“エチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテルの溶媒と「フラーレン類含有層と接触している負極」とが共存することに起因して、サイクル特性およびエネルギー密度に少なからず好ましい効果がもたらされ得る。
【0047】
そして、直鎖エーテルが“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”を有すると、「フラーレン類含有層と接触している負極」の存在とも相俟って、マグネシウム電極系の電気化学デバイスにおけるサイクル特性およびエネルギー密度がより向上し易いものとなる。つまり、電解液では少なくとも“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテルの溶媒と「フラーレン類含有層と接触している負極」とが共存することによって、サイクル特性およびエネルギー密度により有意な効果がもたらされ得る。これは、「フラーレン類含有層と接触している負極」が、マグネシウム塩を含有する“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテル溶媒と相俟って、マグネシウム電極系の電気化学デバイスのサイクル特性およびエネルギー密度に効果的に作用するからであると考えられる。
【0048】
エチレンオキシ構造単位を2又はそれよりも多く有する直鎖エーテルとしては、特に限定するわけではないが、例えば、ジエチレングリコール系エーテル、トリエチレングリコール系エーテル、テトラエチレングリコール系エーテル、およびペンタエチレングリコール系エーテル、ヘキサエチレングリコール系エーテルなどを挙げることができる。同様にして、エチレンオキシ構造単位を2又はそれよりも多く有する直鎖エーテルは、ヘプタエチレングリコール系エーテル、オクタエチレングリコール系エーテル、ノナエチレングリコール系エーテル、デカエチレングリコール系エーテルなどであってもよく、さらにいえば、それよりも多いエチレンオキシ構造単位を有するポリエチレングリコール系エーテルであってもよい。
【0049】
本実施形態における直鎖エーテルのある好適な1つの態様では、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基が脂肪族炭化水素基となっている。つまり、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電解液に含まれる直鎖エーテルにつき、上記一般式中のR’およびR’’は、各々独立して炭素原子数1以上10以下の脂肪族炭化水素基となっていてよい。前記好適な態様における前記直鎖エーテルは、特に限定するわけではないが、例えば以下で挙げるような、エチレングリコール系エーテル、ジエチレングリコール系エーテル、トリエチレングリコール系エーテル、テトラエチレングリコール系エーテル、ペンタエチレングリコール系エーテル、およびヘキサエチレングリコール系エーテルを挙げることができる。同様にして、前記好適な態様における前記直鎖エーテルは、ヘプタエチレングリコール系エーテル、オクタエチレングリコール系エーテル、ノナエチレングリコール系エーテル、およびデカエチレングリコール系エーテルであってよい。これらの中でも、上記一般式中のR’およびR’’は、各々独立して炭素原子数1以上4以下の脂肪族炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基およびn-ブチル基のような炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基)が好ましい。
【0050】
(エチレングリコール系エーテル)
エチレングリコール系エーテルとしては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールメチルプロピルエーテル、エチレングリコールブチルメチルエーテル、エチレングリコールメチルペンチルエーテル、エチレングリコールメチルヘキシルエーテル、エチレングリコールメチルヘプチルエーテル、およびエチレングリコールメチルオクチルエーテル;
エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールエチルプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエチルエーテル、エチレングリコールエチルペンチルエーテル、エチレングリコールエチルヘキシルエーテル、エチレングリコールエチルヘプチルエーテル、およびエチレングリコールエチルオクチルエーテル;
エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールブチルプロピルエーテル、エチレングリコールプロピルペンチルエーテル、エチレングリコールプロピルヘキシルエーテル、エチレングリコールプロピルヘプチルエーテル、およびエチレングリコールプロピルオクチルエーテル;
エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールブチルペンチルエーテル、エチレングリコールブチルヘキシルエーテル、エチレングリコールブチルヘプチルエーテル、およびエチレングリコールブチルオクチルエーテル;
エチレングリコールジペンチルエーテル、エチレングリコールヘキシルペンチルエーテル、エチレングリコールヘプチルペンチルエーテル、およびエチレングリコールオクチルペンチルエーテル;
エチレングリコールジヘキシルエーテル、エチレングリコールヘプチルヘキシルエーテル、およびエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル;
エチレングリコールジヘプチルエーテル、およびエチレングリコールヘプチルオクチルエーテル;ならびに
エチレングリコールジオクチルエーテルを挙げることができる。
【0051】
(ジエチレングリコール系エーテル)
ジエチレングリコール系エーテルとしては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールメチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールメチルヘプチルエーテル、ジエチレングリコールメチルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールエチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールエチルヘプチルエーテル、およびジエチレングリコールエチルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールプロピルペンチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールプロピルヘプチルエーテル、およびジエチレングリコールプロピルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールブチルヘプチルエーテル、ジエチレングリコールブチルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジペンチルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルペンチルエーテル、ジエチレングリコールヘプチルペンチルエーテル、およびジエチレングリコールオクチルペンチルエーテル;
ジエチレングリコールジヘキシルエーテル、ジエチレングリコールヘプチルヘキシルエーテル、およびジエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジヘプチルエーテル、ジエチレングリコールヘプチルオクチルエーテル;ならびに
ジエチレングリコールジオクチルエーテルを挙げることができる。
【0052】
(トリエチレングリコール系エーテル)
トリエチレングリコール系エーテルとしては、例えば、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルペンチルエーテル、トリエチレングリコールメチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルヘプチルエーテル、およびトリエチレングリコールメチルオクチルエーテル;
トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルペンチルエーテル、トリエチレングリコールエチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールエチルヘプチルエーテル、トリエチレングリコールエチルオクチルエーテル;
トリエチレングリコールジプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルプロピルエーテル、トリエチレングリコールプロピルペンチルエーテル、トリエチレングリコールプロピルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールプロピルヘプチルエーテル、およびトリエチレングリコールプロピルオクチルエーテル;
トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルペンチルエーテル、トリエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールブチルヘプチルエーテル、トリエチレングリコールブチルオクチルエーテル;
トリエチレングリコールジペンチルエーテル、トリエチレングリコールヘキシルペンチルエーテル、トリエチレングリコールヘプチルペンチルエーテル、およびトリエチレングリコールオクチルペンチルエーテル;
トリエチレングリコールジヘキシルエーテル、トリエチレングリコールヘプチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル;
トリエチレングリコールジヘプチルエーテル、およびトリエチレングリコールヘプチルオクチルエーテル;ならびに
トリエチレングリコールジオクチルエーテルを挙げることができる。
【0053】
(テトラエチレングリコール系エーテル)
テトラエチレングリコール系エーテルとしては、例えば、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルプロピルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルペンチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールメチルヘプチルエーテル、およびテトラエチレングリコールメチルオクチルエーテル;
テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルプロピルエーテル、テトラエチレングリコールブチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルペンチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールエチルヘプチルエーテル、およびテトラエチレングリコールエチルオクチルエーテル;
テトラエチレングリコールジプロピルエーテル、テトラエチレングリコールブチルプロピルエーテル、テトラエチレングリコールプロピルペンチルエーテル、テトラエチレングリコールプロピルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールプロピルヘプチルエーテル、およびテトラエチレングリコールプロピルオクチルエーテル;
テトラエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルペンチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールブチルヘプチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルオクチルエーテル;
テトラエチレングリコールジペンチルエーテル、テトラエチレングリコールヘキシルペンチルエーテル、テトラエチレングリコールヘプチルペンチルエーテル、およびテトラエチレングリコールオクチルペンチルエーテル;
テトラエチレングリコールジヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールヘプチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル;
テトラエチレングリコールジヘプチルエーテル、およびテトラエチレングリコールヘプチルオクチルエーテル;ならびに
テトラエチレングリコールジオクチルエーテルを挙げることができる。
【0054】
(ペンタエチレングリコール系エーテル)
ペンタエチレングリコール系エーテルとしては、例えば、ペンタエチレングリコールジメチルエーテル、ペンタエチレングリコールエチルメチルエーテル、ペンタエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルメチルエーテル、ペンタエチレングリコールメチルペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールメチルヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールメチルヘプチルエーテル、およびペンタエチレングリコールメチルオクチルエーテル;
ペンタエチレングリコールジエチルエーテル、ペンタエチレングリコールエチルプロピルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルエチルエーテル、ペンタエチレングリコールエチルペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールエチルヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールエチルヘプチルエーテル、およびペンタエチレングリコールエチルオクチルエーテル;
ペンタエチレングリコールジプロピルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルプロピルエーテル、ペンタエチレングリコールプロピルペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールプロピルヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールプロピルヘプチルエーテル、およびペンタエチレングリコールプロピルオクチルエーテル;
ペンタエチレングリコールジブチルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルヘプチルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルオクチルエーテル;
ペンタエチレングリコールジペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールヘキシルペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールヘプチルペンチルエーテル、およびペンタエチレングリコールオクチルペンチルエーテル;
ペンタエチレングリコールジヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールヘプチルヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル;
ペンタエチレングリコールジヘプチルエーテル、およびペンタエチレングリコールヘプチルオクチルエーテル;ならびに
ペンタエチレングリコールジオクチルエーテルを挙げることができる。
【0055】
(ヘキサエチレングリコール系エーテル)
ヘキサエチレングリコール系エーテルとしては、例えば、ヘキサエチレングリコールジメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールエチルメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールメチルペンチルエーテル、ヘキサエチレングリコールメチルヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールメチルヘプチルエーテル、およびヘキサエチレングリコールメチルオクチルエーテル;
ヘキサエチレングリコールジエチルエーテル、ヘキサエチレングリコールエチルプロピルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルエチルエーテル、ヘキサエチレングリコールエチルペンチルエーテル、ヘキサエチレングリコールエチルヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールエチルヘプチルエーテル、およびヘキサエチレングリコールエチルオクチルエーテル;
ヘキサエチレングリコールジプロピルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルプロピルエーテル、ヘキサエチレングリコールプロピルペンチルエーテル、ヘキサエチレングリコールプロピルヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールプロピルヘプチルエーテル、およびヘキサエチレングリコールプロピルオクチルエーテル;
ヘキサエチレングリコールジブチルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルペンチルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルヘプチルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルオクチルエーテル;
ヘキサエチレングリコールジペンチルエーテル、ヘキサエチレングリコールヘキシルペンチルエーテル、ヘキサエチレングリコールヘプチルペンチルエーテル、およびヘキサエチレングリコールオクチルペンチルエーテル;
ヘキサエチレングリコールジヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールヘプチルヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル;
ヘキサエチレングリコールジヘプチルエーテル、およびヘキサエチレングリコールヘプチルオクチルエーテル;ならびに
ヘキサエチレングリコールジオクチルエーテルを挙げることができる。
【0056】
なお、前記好適な態様における前記直鎖エーテルは、同様にして、ヘプタエチレングリコール系エーテル、オクタエチレングリコール系エーテル、ノナエチレングリコール系エーテル、およびデカエチレングリコール系エーテルなどであってもよく、さらにいえばポリエチレングリコール系エーテルであってもよい。
【0057】
また、環状エーテルは、例えば、テトラヒドロフランである。ジアルキルスルホンは、例えば、一般式:
R’-SO-R”
[一般式中、R’およびR”は、各々独立に炭素原子数1以上4以下の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい]で表される。
【0058】
本実施形態におけるジアルキルスルホンのある好適な1つの態様では、炭素原子数1以上4以下の炭化水素基が脂肪族炭化水素基となっている。つまり、本実施形態に係る電気化学デバイスの電解液に含まれるジアルキルスルホンにつき、ジアルキルスルホンにつき上記一般式中のR’およびR”は、各々独立に炭素原子数1以上4以下の脂肪族炭化水素基(炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基)となっていてよい。ジアルキルスルホンとしては、特に限定するわけではないが、例えば、ジメチルスルホン、メチルエチルスルホン、メチル-n-プロピルスルホン、メチル-i-プロピルスルホン、メチル-n-ブチルスルホン、メチル-i-ブチルスルホン、メチル-s-ブチルスルホン、メチル-t-ブチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、エチル-n-プロピルスルホン、エチル-i-プロピルスルホン、エチル-n-ブチルスルホン、エチル-i-ブチルスルホン、エチル-s-ブチルスルホン、エチル-t-ブチルスルホン、ジ-n-プロピルスルホン、ジ-i-プロピルスルホン、n-プロピル-n-ブチルスルホン、n-ブチルエチルスルホン、i-ブチルエチルスルホン、s-ブチルエチルスルホンおよびジ-n-ブチルスルホンであってよい。
【0059】
本実施形態におけるマグネシウム電極系の電解液は、マグネシウム塩を含んで成る。マグネシウム塩は、1種であってよく、あるいはそれよりも多い種類から成るマグネシウム塩となっていてもよい。マグネシウム塩は、好ましくはハロゲン化マグネシウム、マグネシウムパーフルオロアルキルスルホニルイミド、およびマグネシウムビスヘキサアルキルジシラジドから成る群より選択される少なくとも1種のマグネシウム塩である。このようなマグネシウム塩が用いられることによって、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電気化学デバイスがより高いサイクル特性およびエネルギー密度を更に呈し易くなる。
【0060】
そのようなマグネシウム塩は、一般式MgX(但し、nは1又は2であり、Xは、1価又は2価のアニオンである)で表すことができる。Xがハロゲン(より具体的には、F、Cl、Br、およびI)である場合、マグネシウム塩は、ハロゲン金属塩(ハロゲン化マグネシウム)を成す。ハロゲン金属塩としては、フッ化マグネシウム(MgF)、塩化マグネシウム(MgCl)、臭化マグネシウム(MgBr)およびヨウ化マグネシウム(MgI)から成る群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。その中でも、塩化マグネシウムがハロゲン金属塩として用いられることが好ましい。塩化マグネシウム(MgCl)は、「フラーレン類含有層と接触している負極」と相俟って、電気化学デバイスの高いサイクル特性およびエネルギー密度を促進し得る。
【0061】
Xが一般式(RSi)Nで表されるジシラジド構造(一般式中、Rは、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基である)を有する場合、一般式MgX(但し、nは1又は2であり、Xは、1価又は2価のアニオンである)で表わされるマグネシウム塩は、ジシラジド構造を有するマグネシウム塩を成す。一般式中、Rは、好ましくは炭素原子数1以上10以下の脂肪族炭化水素基、より好ましくは炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基である。このようなマグネシウム塩は、好ましくはヘキサアルキルジシラジドのマグネシウム塩(マグネシウムビスヘキサアルキルジシラジド(Mg(HRDS))、但し、Rはアルキル基)である。このようなジシラジド構造を有する“マグネシウム塩”は、「フラーレン類含有層と接触している負極」と相俟って、マグネシウム電極系の電気化学デバイスの高いサイクル特性およびエネルギー密度を促進し得る。
【0062】
Xが分子構造としてイミド(好ましくはスルホニルイミド)を有する場合、一般式MgX(但し、nは1又は2であり、Xは、1価又は2価のアニオンである)で表わされるマグネシウム塩は、イミド金属塩を成す。イミド金属塩は、好ましくはパーフルオロアルキルスルホニルイミドのマグネシウム塩(マグネシウムパーフルオロアルキルスルホニルイミド:Mg((Rf1SON))である。一般式中、Rf1は、炭素原子数1以上10以下のパーフルオロアルキル基、炭素原子数1以上8以下のパーフルオロアルキル基、炭素原子数1以上6以下のパーフルオロアルキル基、炭素原子数1以上4以下のパーフルオロアルキル基、炭素原子数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、あるいは炭素数1以上2以下のパーフルオロアルキル基であってよい。このようなイミド金属塩は、「フラーレン類含有層と接触している負極」と相俟って、電気化学デバイスの高いサイクル特性およびエネルギー密度を促進し得る。1つの例示であるが、イミド金属塩が、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、すなわち、Mg(TFSI)となっていてよい。かかるMg(TFSI)は、本実施形態に係る電気化学デバイスにて高いサイクル特性およびエネルギー密度を達成し易い。ある好適な態様では、Mg(TFSI)は、上記ハロゲン金属塩(特に塩化マグネシウム(MgCl))および「フラーレン類含有層と接触している負極」と相俟って、マグネシウム電極系の電気化学デバイスの高いサイクル特性およびエネルギー密度を促進し得る。
【0063】
また、Xがその他のアニオンとなる場合であってもよく、例えば過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO)、硝酸マグネシム(Mg(NO)、硫酸マグネシム(MgSO)、酢酸マグネシウム(Mg(CHCOO))、トリフルオロ酢酸マグネシウム(Mg(CFCOO))、テトラフルオロホウ酸マグネシウム(Mg(BF)、テトラフェニルホウ酸マグネシウム(Mg(B(C)、ヘキサフルオロリン酸マグネシウム(Mg(PF)、ヘキサフルオロヒ酸マグネシウム(Mg(AsF)およびパーフルオロアルキルスルホン酸のマグネシウム塩((Mg(Rf2SO)、但し、Rf2はパーフルオロアルキル基である)から成る群より選択された少なくとも1種類のマグネシウム塩であってもよい。
【0064】
別のある好適な態様では、マグネシウム塩が2種の塩となっており、ハロゲン金属塩とイミド金属塩との組合せとなっている。ハロゲン金属塩は、例えば塩化マグネシウム(MgCl)であり、イミド塩は、パーフルオロアルキルスルホニルイミドのマグネシウム塩、例えばMg(TFSI)であってもよい。MgClおよびMg(TFSI)は、比較的安定性の高いMg塩である。よって、直鎖エーテル溶媒中でMgClおよびMg(TFSI)を高い濃度で含ませたとしても、高い安全性を得ることができる。これは、従来のAlClおよびグリニヤールを用いた電解液とは異なる利点となり得る。しかも、MgClおよびMg(TFSI)は反応性が低いため、硫黄との電気化学反応以外の副反応が生ぜず、より高容量化が期待され得る。更には、マグネシウムの析出溶解の過電圧が低いため、充放電のヒステリシスが従来の報告例よりも狭くなり得、その点でもデバイスの高エネルギー密度化が望める。さらには、Mg塩総濃度を非常に高くすることできるところ、イオン伝導度が高く、高いレート特性が期待できるとともに、凝固点がより低く、沸点がより高くなるので温度域の広い電気化学デバイスがもたらされ得る。
【0065】
マグネシウム塩として、ハロゲン金属塩とイミド金属塩との組合せなどの2種の塩が用いられる場合、それらの物質量は、同程度であってよい(ある1つの具体例でいえば、それらは互いに当モル量であってよい)。特に限定されるわけではないが、MgClおよびMg(TFSI)との組合せを例に挙げていうと、MgCl:Mg(TFSI)のモル比は、1:0.3~1.7程度、例えば1:0.4~1.6または1:0.5~1.5程度であってよく、あるいは、直鎖エーテルの種類によっては1:0.7~1.3程度、例えば1:0.85~1.25程度であってもよい。
【0066】
本実施形態に係る電気化学デバイスでは、電解液はフラーレン類を添加剤としてさらに含んでもよい。かかる場合、溶媒と、溶媒に含まれるマグネシウム塩とを含んで成る電解液に対してフラーレン類を加える量は少量であることが好ましい。この点、電解液におけるフラーレン類の含有量(電解液の全体基準)は、電解液におけるマグネシウム塩の含有量(電解液の全体基準)よりも少なくてよい。ある好適な態様では、電解液におけるフラーレン類の含有量(電解液の全体量に対するフラーレン類の量)は、電解液におけるマグネシウム塩の含有量(電解液の全体量に対するマグネシウム塩の量)の1/2以下、1/5以下または1/10以下などである。
【0067】
換言すれば、電解液基準でフラーレン類のモル濃度は、電解液基準のマグネシウム塩の含有量よりも少なくてよい。あくまでも例示であるが、電解液におけるフラーレン類の含有量は、例えば0.5M以下(電解液の全体基準)、0.1M以下(電解液の全体基準)、0.05M以下(電解液の全体基準)または0.01M以下(電解液の全体基準)など極少量の添加量に相当するものであってよい。このような少ない含有量であっても、本実施形態ではマグネシウム電極系の電気化学デバイスのサイクル特性およびエネルギー密度がさらに向上するといった効果が奏され得る。
【0068】
本実施形態に係る電解液は、いわゆる“マグネシウム電極系”の電解液である。そのようなマグネシウム電極系の電解液でありながらも、「フラーレン類」の添加により特にサイクル特性がさらに向上することは、極めて有用な効果といえる。Mg配位構造が非常に脆弱であるとの想定があったところ、添加剤によるサイクル特性向上は一般に難しいと考えられていたからである。つまり、本実施形態では“マグネシウム電極系”の電気化学デバイスでありながらも、サイクル特性およびエネルギー密度の向上によって、実環境での使用により適した電池利用の途がもたらされ得る。
【0069】
本実施形態に係る電気化学デバイスでは、上述の電解液、及び電解液を保持する保持体から成る高分子化合物から構成する電解質層を備えることができる。
高分子化合物は、電解液によって膨潤されるものであってもよい。この場合、電解液により膨潤された高分子化合物はゲル状であってもよい。かかる高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、ポリスチレンおよび/またはポリカーボネートを挙げることができる。特に、電気化学的な安定性の観点をより重視するならば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドであってよい。電解質層は固体電解質層としてもよい。
【0070】
本実施形態に係るマグネシウム電極系の電気化学デバイスは、二次電池として構成することができ、その場合の概念図を図1に示す。図示するように、充電時、マグネシウムイオン(Mg2+)が正極10から電解質層12を通って負極11に移動することにより電気エネルギーを化学エネルギーに変換して蓄電する。放電時には、負極11から電解質層12を通って正極10にマグネシウムイオンが戻ることにより電気エネルギーを発生させる。
【0071】
電気化学デバイスを、上述の電解液から構成された電池(一次電池あるいは二次電池)とするとき、かかる電池は、例えば、ノート型パーソナルコンピュータ、PDA(携帯情報端末)、携帯電話、スマートフォン、コードレス電話の親機や子機、ビデオムービー、デジタルスチルカメラ、電子書籍、電子辞書、携帯音楽プレーヤー、ラジオ、ヘッドホン、ゲーム機、ナビゲーションシステム、メモリーカード、心臓ペースメーカー、補聴器、電動工具、電気シェーバ、冷蔵庫、エアコンディショナー、テレビジョン受像機、ステレオ、温水器、電子レンジ、食器洗浄器、洗濯機、乾燥機、照明機器、玩具、医療機器、ロボット、ロードコンディショナー、信号機、鉄道車両、ゴルフカート、電動カート、および/または電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)等の駆動用電源又は補助用電源として使用することができる。また、住宅をはじめとする建築物又は発電設備用の電力貯蔵用電源等として搭載し、あるいは、これらに電力を供給するために使用することができる。電気自動車において、電力を供給することにより電力を駆動力に変換する変換装置は、一般的にはモータである。車両制御に関する情報処理を行う制御装置(制御部)としては、電池の残量に関する情報に基づき、電池残量表示を行う制御装置等が含まれる。また、電池を、所謂スマートグリッドにおける蓄電装置において用いることもできる。このような蓄電装置は、電力を供給するだけでなく、他の電力源から電力の供給を受けることにより蓄電することができる。この他の電力源としては、例えば、火力発電、原子力発電、水力発電、太陽電池、風力発電、地熱発電、および/または燃料電池(バイオ燃料電池を含む)等を用いることができる。
【0072】
二次電池、二次電池に関する制御を行う制御手段(または制御部)、及び、二次電池を内包する外装を有する電池パックにおいて本実施形態に係る電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することができる。かかる電池パックにおいて、制御手段は、例えば、二次電池に関する充放電、過放電又は過充電の制御を行う。
【0073】
二次電池から電力の供給を受ける電子機器に本実施形態に係る電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することもできる。
【0074】
二次電池から電力の供給を受けて車両の駆動力に変換する変換装置、及び、二次電池に関する情報に基づいて車両制御に関する情報処理を行う制御装置(または制御部)を有する電動車両における二次電池に本実施形態に係る電気化学デバイスを適用することもできる。かかる電動車両において、変換装置は、典型的には、二次電池から電力の供給を受けてモータを駆動させ、駆動力を発生させる。モータの駆動には、回生エネルギーを利用することもできる。また、制御装置(または制御部)は、例えば、二次電池の電池残量に基づいて車両制御に関する情報処理を行う。このような電動車両には、例えば、電気自動車、電動バイク、電動自転車、および鉄道車両等の他、所謂ハイブリッド車が含まれる。
【0075】
二次電池から電力の供給を受け、および/または、電力源から二次電池に電力を供給するように構成された電力システムに本実施形態に係る電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することができる。このような電力システムは、およそ電力を使用するものである限り、どのような電力システムであってもよく、単なる電力装置も含む。かかる電力システムは、例えば、スマートグリッド、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)、および/または車両等を含み、蓄電も可能である。
【0076】
二次電池を有し、電力が供給される電子機器が接続されるように構成された電力貯蔵用電源において本実施形態に係る電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することができる。かかる電力貯蔵用電源の用途は問わず、基本的にはどのような電力システム又は電力装置にも用いることができるが、例えば、スマートグリッドに用いることができる。
【0077】
本実施形態に係る電気化学デバイスのより詳細な事項、更なる具体的な態様などその他の事項は、上述の[本実施形態に係る電気化学デバイスのための電解液]で説明しているので、重複を避けるために説明を省略する。
【0078】
ここで、本実施形態に係るマグネシウム電極系の電気化学デバイスが、二次電池として供される場合について更に詳述しておく。以下では、かかる二次電池を「マグネシウム二次電池」とも称する。
【0079】
本実施形態に係る電気化学デバイスとしてのマグネシウム二次電池は、それを駆動用・作動用の電源又は電力蓄積用の電力貯蔵源として利用可能な機械、機器、器具、装置、システム(複数の機器等の集合体)に対して、特に限定されることなく、適用することができる。電源として使用されるマグネシウム二次電池(例えば、マグネシウム-硫黄二次電池)は、主電源(優先的に使用される電源)であってもよいし、補助電源(主電源に代えて、又は、主電源から切り換えて使用される電源)であってもよい。マグネシウム二次電池を補助電源として使用する場合、主電源はマグネシウム二次電池に限られない。
【0080】
マグネシウム二次電池(特に、マグネシウム-硫黄二次電池)の用途として、具体的には、ビデオカメラやカムコーダ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、パーソナルコンピュータ、テレビジョン受像機、各種表示装置、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、音楽プレーヤー、携帯用ラジオ、電子ブック、および/または電子新聞等の電子ペーパー、PDAを含む携帯情報端末といった各種電子機器、電気機器(携帯用電子機器を含む);玩具;電気シェーバ等の携帯用生活器具;室内灯等の照明器具;ペースメーカーおよび/または補聴器等の医療用電子機器;メモリーカード等の記憶用装置;着脱可能な電源としてパーソナルコンピュータ等に用いられる電池パック;電動ドリルおよび/または電動鋸等の電動工具;非常時等に備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステム等の電力貯蔵システムおよび/またはホームエネルギーサーバー(家庭用蓄電装置)、電力供給システム;蓄電ユニットおよび/またはバックアップ電源;電動自動車、電動バイク、電動自転車、および/またはセグウェイ(登録商標)等の電動車両;航空機および/または船舶の電力駆動力変換装置(具体的には、例えば、動力用モータ)の駆動を例示することができるが、これらの用途に限定するものではない。
【0081】
そのなかでも、マグネシウム二次電池(特に、マグネシウム-硫黄二次電池)は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電力供給システム、電動工具、電子機器、および/または電気機器等に適用されることが有効である。電池パックは、マグネシウム二次電池を用いた電源であり、所謂組電池等である。電動車両は、マグネシウム二次電池を駆動用電源として作動(例えば走行)する車両であり、二次電池以外の駆動源を併せて備えた自動車(例えばハイブリッド自動車等)であってもよい。電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)は、マグネシウム二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システム(電力供給システム)では、電力貯蔵源であるマグネシウム二次電池に電力が蓄積されているため、電力を利用して家庭用の電気製品等が使用可能となる。電動工具は、マグネシウム二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリル等)が可動する工具である。電子機器や電気機器は、マグネシウム二次電池を作動用の電源(すなわち、電力供給源)として各種機能を発揮する機器である。
【0082】
以下、円筒型のマグネシウム二次電池及び平板型のラミネートフィルム型のマグネシウム二次電池について説明する。
【0083】
円筒型のマグネシウム二次電池100の模式的な断面図を図2に示す。マグネシウム二次電池100にあっては、ほぼ中空円柱状の電極構造体収納部材111の内部に、電極構造体121及び一対の絶縁板112,113が収納されている。電極構造体121は、例えば、セパレータ126を介して正極122と負極124とを積層して電極構造体を得た後、電極構造体を捲回することで作製することができる。電極構造体収納部材(例えば電池缶)111は、一端部が閉鎖され、他端部が開放された中空構造を有しており、鉄(Fe)および/またはアルミニウム(Al)等から作製されている。一対の絶縁板112,113は、電極構造体121を挟むと共に、電極構造体121の捲回周面に対して垂直に延在するように配置されている。電極構造体収納部材111の開放端部には、電池蓋114、安全弁機構115及び熱感抵抗素子(例えばPTC素子、Positive Temperature Coefficient 素子)116がガスケット117を介してかしめられており、これによって、電極構造体収納部材111は密閉されている。電池蓋114は、例えば、電極構造体収納部材111と同様の材料から作製されている。安全弁機構115及び熱感抵抗素子116は、電池蓋114の内側に設けられており、安全弁機構115は、熱感抵抗素子116を介して電池蓋114と電気的に接続されている。安全弁機構115にあっては、内部短絡および/または外部からの加熱等に起因して内圧が一定以上になると、ディスク板115Aが反転する。これによって、電池蓋114と電極構造体121との電気的接続が切断される。大電流に起因する異常発熱を防止するために、熱感抵抗素子116の抵抗は温度の上昇に応じて増加する。ガスケット117は、例えば、絶縁性材料から作製されている。ガスケット117の表面にはアスファルト等が塗布されていてもよい。
【0084】
電極構造体121の捲回中心には、センターピン118が挿入されている。但し、センターピン118は、捲回中心に挿入されていなくてもよい。正極122には、アルミニウム等の導電性材料から作製された正極リード部123が接続されている。具体的には、正極リード部123は正極集電体に取り付けられている。負極124には、銅等の導電性材料から作製された負極リード部125が接続されている。具体的には、負極リード部125は負極集電体に取り付けられている。負極リード部125は、電極構造体収納部材111に溶接されており、電極構造体収納部材111と電気的に接続されている。正極リード部123は、安全弁機構115に溶接されていると共に、電池蓋114と電気的に接続されている。尚、図2に示した例では、負極リード部125は1箇所(捲回された電極構造体の最外周部)であるが、2箇所(捲回された電極構造体の最外周部及び最内周部)に設けられている場合もある。
【0085】
電極構造体121は、正極集電体上に(より具体的には、正極集電体の両面に)正極活物質層が形成された正極122と、負極集電体上に(より具体的には、負極集電体の両面に)負極活物質層が形成された負極124とが、セパレータ126を介して積層されて成る。正極リード部123を取り付ける正極集電体の領域には、正極活物質層は形成されていないし、負極リード部125を取り付ける負極集電体の領域には、負極活物質層は形成されていない。
【0086】
マグネシウム二次電池100は、例えば、以下の手順に基づき製造することができる。
【0087】
まず、正極集電体の両面に正極活物質層を形成し、負極集電体の両面に負極活物質層を形成する。
【0088】
次いで、溶接法等を用いて、正極集電体に正極リード部123を取り付ける。また、溶接法等を用いて、負極集電体に負極リード部125を取り付ける。次に、微多孔性ポリエチレンフィルムから成るセパレータ126を介して正極122と負極124とを積層し、捲回して、(より具体的には、正極122/セパレータ126/負極124/セパレータ126の電極構造体(すなわち、積層構造体)を捲回して)、電極構造体121を作製した後、最外周部に保護テープ(図示せず)を貼り付ける。その後、電極構造体121の中心にセンターピン118を挿入する。次いで、一対の絶縁板112,113で電極構造体121を挟みながら、電極構造体121を電極構造体収納部材111の内部に収納する。この場合、溶接法等を用いて、正極リード部123の先端部を安全弁機構115に取り付けると共に、負極リード部125の先端部を電極構造体収納部材111に取り付ける。その後、減圧方式に基づき電解液を注入して、電解液をセパレータ126に含浸させる。次いで、ガスケット117を介して電極構造体収納部材111の開口端部に電池蓋114、安全弁機構115及び熱感抵抗素子116をかしめる。
【0089】
次に、平板型のラミネートフィルム型の二次電池について説明する。かかる二次電池の模式的な分解斜視図を図3に示す。この二次電池にあっては、ラミネートフィルムから成る外装部材200の内部に、基本的に前述したと同様の電極構造体221が収納されている。電極構造体221は、セパレータ及び電解質層を介して正極と負極とを積層した後、この積層構造体を捲回することで作製することができる。正極には正極リード部223が取り付けられており、負極には負極リード部225が取り付けられている。電極構造体221の最外周部は、保護テープによって保護されている。正極リード部223及び負極リード部225は、外装部材200の内部から外部に向かって同一方向に突出している。正極リード部223は、アルミニウム等の導電性材料から形成されている。負極リード部225は、銅、ニッケル、および/またはステンレス鋼等の導電性材料から形成されている。
【0090】
外装部材200は、図3に示す矢印Rの方向に折り畳み可能な1枚のフィルムであり、外装部材200の一部には、電極構造体221を収納するための窪み(例えばエンボス)が設けられている。外装部材200は、例えば、融着層と、金属層と、表面保護層とがこの順に積層されたラミネートフィルムである。二次電池の製造工程では、融着層同士が電極構造体221を介して対向するように外装部材200を折り畳んだ後、融着層の外周縁部同士を融着する。但し、外装部材200は、2枚の別個のラミネートフィルムが接着剤等を介して貼り合わされたものでもよい。融着層は、例えば、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレン等のフィルムから成る。金属層は、例えば、アルミニウム箔等から成る。表面保護層は、例えば、ナイロンおよび/またはポリエチレンテレフタレート等から成る。中でも、外装部材200は、ポリエチレンフィルムと、アルミニウム箔と、ナイロンフィルムとがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムであることが好ましい。但し、外装部材200は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレン等の高分子フィルムでもよいし、金属フィルムでもよい。具体的には、ナイロンフィルムと、アルミニウム箔と、無延伸ポリプロピレンフィルムとが外側からこの順に積層された耐湿性のアルミラミネートフィルムから成っていてよい。
【0091】
外気の侵入を防止するために、外装部材200と正極リード部223との間、及び、外装部材200と負極リード部225との間には、密着フィルム201が挿入されている。密着フィルム201は、正極リード部223及び負極リード部225に対して密着性を有する材料、例えば、ポリオレフィン樹脂等から成っていてよく、より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂から成っていてよい。
【0092】
上述では、二次電池を主に念頭にした説明であったが、本開示事項は他の電気化学デバイス、例えば、キャパシタ、空気電池および燃料電池などについても同様に当てはまる。以下それについて説明する。
【0093】
本実施形態に係る電気化学デバイスは、模式的な断面図を図4に示すように、キャパシタとして供すことができる。キャパシタでは、電解液が含浸されたセパレータ33を介して、正極31及び負極32が対向して配置されている。尚、セパレータ33、正極31及び負極32の少なくとも1つの表面に、本実施形態に係る電解液が含浸されたゲル電解質膜が配置されてもよい。参照番号35,36は集電体を示し、参照番号37はガスケットを示す。
【0094】
あるいは、本実施形態に係る電気化学デバイスは、図5の概念図に示すように、空気電池として供すこともできる。かかる空気電池は、例えば、水蒸気を透過し難く酸素を選択的に透過させる酸素選択性透過膜47、導電性の多孔質材料から成る空気極側集電体44、この空気極側集電体44と多孔質正極41の間に配置され導電性材料から成る多孔質の拡散層46、導電性材料と触媒材料を含む多孔質正極41、水蒸気を通過し難いセパレータ及び電解液(又は、電解液を含む固体電解質)43、マグネシウムイオンを放出する負極42、負極側集電体45、及び、これらの各層が収納される外装体48から構成されている。
【0095】
酸素選択性透過膜47によって空気(例えば大気)51中の酸素52が選択的に透過され、多孔質材料から成る空気極側集電体44を通過し、拡散層46によって拡散され、多孔質正極41に供給される。酸素選択性透過膜47を透過した酸素の進行は空気極側集電体44によって部分的に遮蔽されるが、空気極側集電体44を通過した酸素は拡散層46によって拡散され、広がるので、多孔質正極41全体に効率的に行き渡るようになり、多孔質正極41の面全体への酸素の供給が空気極側集電体44によって阻害されることがない。また、酸素選択性透過膜47によって水蒸気の透過が抑制されるので、空気中の水分の影響による劣化が少なく、酸素が多孔質正極41全体に効率的に供給されるので、電池出力を高くすることが可能となり、安定して長期間使用可能となる。
【0096】
あるいは、本実施形態に係る電気化学デバイスは、図6の概念図に示すように、燃料電池として供すこともできる。燃料電池は、例えば、正極61、正極用電解液62、正極用電解液輸送ポンプ63、燃料流路64、正極用電解液貯蔵容器65、負極71、負極用電解液72、負極用電解液輸送ポンプ73、燃料流路74、負極用電解液貯蔵容器75、およびイオン交換膜66から構成されている。燃料流路64には、正極用電解液貯蔵容器65および正極用電解液輸送ポンプ63を介して、正極用電解液62が連続的又は断続的に流れており(循環しており)、燃料流路74には、負極用電解液貯蔵容器75および負極用電解液輸送ポンプ73を介して、負極用電解液72が連続的又は断続的に流れたり又は循環しており、正極61と負極71との間で発電が行われる。正極用電解液62として、本実施形態に係る電解液に正極活物質を添加したものを用いることができ、負極用電解液72として、本実施形態に係る電解液に負極活物質を添加したものを用いることができる。
【0097】
なお、電気化学デバイスにおける負極についていえば、Mg金属板を用いることができるほか、以下の手法で製造することもできる。例えば、MgClとEnPS(エチル-n-プロピルスルホン)とを含むMg電解液(Mg-EnPS)を準備し、このMg電解液を用いて、電解メッキ法に基づきCu箔上にMg金属を析出させて、負極活物質層としてMgメッキ層をCu箔上に形成してよい。ちなみに、かかる手法で得られたMgメッキ層の表面をXPS法に基づき分析した結果、Mgメッキ層の表面にMg、C、O、S及びClが存在することが明らかになり、また、表面分析で観察されたMg由来のピークは分裂しておらず、40eV以上60eV以下の範囲にMg由来の単一のピークが観察された。更には、Arスパッタ法に基づき、Mgメッキ層の表面を深さ方向に約200nm掘り進め、その表面をXPS法に基づき分析した結果、Arスパッタ後におけるMg由来のピークの位置及び形状は、Arスパッタ前におけるピークの位置及び形状と比べて変化がないことが分かった。
【0098】
本実施形態に係る電気化学デバイスは、図1図3を参照して説明したようにマグネシウム二次電池として特に用いることができるが、かかるマグネシウム二次電池の幾つかの適用例についてより具体的に説明しておく。尚、以下で説明する各適用例の構成は、あくまで一例であり、構成は適宜変更可能である。
【0099】
マグネシウム二次電池は電池パックの形態で用いることができる。かかる電池パックは、マグネシウム二次電池を用いた簡易型の電池パック(所謂ソフトパック)であり、例えば、スマートフォンに代表される電子機器等に搭載される。それに代えて又はそれに加えて、2並列3直列となるように接続された6つのマグネシウム二次電池から構成された組電池を備えていてよい。尚、マグネシウム二次電池の接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。
【0100】
本実施形態に係るマグネシウム二次電池を電池パックに適用した場合の回路構成例を表すブロック図を図7に示す。電池パックは、セル(例えば組電池)1001、外装部材、スイッチ部1021、電流検出抵抗器1014、温度検出素子1016及び制御部1010を備えている。スイッチ部1021は、充電制御スイッチ1022及び放電制御スイッチ1024を備えている。また、電池パックは、正極端子1031および負極端子1032を備えており、充電時には正極端子1031および負極端子1032は、それぞれ、充電器の正極端子および負極端子に接続され、充電が行われる。また、電子機器使用時には、正極端子1031および負極端子1032は、それぞれ、電子機器の正極端子および負極端子に接続され、放電が行われる。
【0101】
セル1001は、複数の本開示におけるマグネシウム二次電池1002が直列および/または並列に接続されることで、構成される。尚、図7では、6つのマグネシウム二次電池1002が、2並列3直列(2P3S)に接続された場合を示しているが、その他、p並列q直列(但し、p,qは整数)のように、どのような接続方法であってもよい。
【0102】
スイッチ部1021は、充電制御スイッチ1022およびダイオード1023、並びに、放電制御スイッチ1024及びダイオード1025を備えており、制御部1010によって制御される。ダイオード1023は、正極端子1031からセル1001の方向に流れる充電電流に対して逆方向、負極端子1032からセル1001の方向に流れる放電電流に対して順方向の極性を有する。ダイオード1025は、充電電流に対して順方向、放電電流に対して逆方向の極性を有する。尚、例ではプラス(+)側にスイッチ部を設けているが、マイナス(-)側に設けてもよい。充電制御スイッチ1022は、電池電圧が過充電検出電圧となった場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に充電電流が流れないように制御部1010によって制御される。充電制御スイッチ1022が閉状態となった後には、ダイオード1023を介することによって放電のみが可能となる。また、充電時に大電流が流れた場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に流れる充電電流を遮断するように、制御部1010によって制御される。放電制御スイッチ1024は、電池電圧が過放電検出電圧となった場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に放電電流が流れないように制御部1010によって制御される。放電制御スイッチ1024が閉状態となった後には、ダイオード1025を介することによって充電のみが可能となる。また、放電時に大電流が流れた場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に流れる放電電流を遮断するように、制御部1010によって制御される。
【0103】
温度検出素子1016は例えばサーミスタから成り、セル1001の近傍に設けられ、温度測定部1015は、温度検出素子1016を用いてセル1001の温度を測定し、測定結果を制御部1010に送出する。電圧測定部1012は、セル1001の電圧、およびセル1001を構成する各マグネシウム二次電池1002の電圧を測定し、測定結果をA/D変換して、制御部1010に送出する。電流測定部1013は、電流検出抵抗器1014を用いて電流を測定し、測定結果を制御部1010に送出する。
【0104】
スイッチ制御部1020は、電圧測定部1012および電流測定部1013から送られてきた電圧及び電流を基に、スイッチ部1021の充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を制御する。スイッチ制御部1020は、マグネシウム二次電池1002のいずれかの電圧が過充電検出電圧若しくは過放電検出電圧以下になったとき、および/または、大電流が急激に流れたときに、スイッチ部1021に制御信号を送ることにより、過充電および過放電、過電流充放電を防止する。充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024は、例えばMOSFET等の半導体スイッチから構成することができる。この場合、MOSFETの寄生ダイオードによってダイオード1023,1025が構成される。MOSFETとして、pチャネル型FETを用いる場合、スイッチ制御部1020は、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024のそれぞれのゲート部に、制御信号DOおよび制御信号COを供給する。充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024は、ソース電位より所定値以上低いゲート電位によって導通する。即ち、通常の充電および放電動作では、制御信号COおよび制御信号DOをローレベルとし、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を導通状態とする。そして、例えば過充電若しくは過放電の際には、制御信号COおよび制御信号DOをハイレベルとし、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を閉状態とする。
【0105】
メモリ1011は、例えば、不揮発性メモリであるEPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)等から成る。メモリ1011には、制御部1010で演算された数値および/または製造工程の段階で測定された各マグネシウム二次電池1002の初期状態におけるマグネシウム二次電池の内部抵抗値等が予め記憶されており、また、適宜、書き換えが可能である。また、マグネシウム二次電池1002の満充電容量を記憶させておくことで、メモリ1011が制御部1010と共に例えば残容量を算出することができる。
【0106】
温度測定部1015では、温度検出素子1016を用いて温度を測定し、異常発熱時に充放電制御を行い、また、残容量の算出における補正を行う。
【0107】
次に、マグネシウム二次電池の電動車両への適用について説明する。電動車両の一例であるハイブリッド自動車といった電動車両の構成を表すブロック図を図8Aに示す。電動車両は、例えば、金属製の筐体2000の内部に、制御部2001、各種センサ2002、電源2003、エンジン2010、発電機2011、インバータ2012,2013、駆動用のモータ2014、差動装置2015、トランスミッション2016およびクラッチ2017を備えている。その他、電動車両は、例えば、差動装置2015および/またはトランスミッション2016に接続された前輪駆動軸2021、前輪2022、後輪駆動軸2023、および後輪2024を備えている。
【0108】
電動車両は、例えば、エンジン2010又はモータ2014のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン2010は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジン等である。エンジン2010を動力源とする場合、エンジン2010の駆動力(例えば回転力)は、例えば、駆動部である差動装置2015、トランスミッション2016及びクラッチ2017を介して前輪2022又は後輪2024に伝達される。エンジン2010の回転力は発電機2011にも伝達され、回転力を利用して発電機2011が交流電力を発生させ、交流電力はインバータ2013を介して直流電力に変換され、電源2003に蓄積される。一方、変換部であるモータ2014を動力源とする場合、電源2003から供給された電力(例えば直流電力)がインバータ2012を介して交流電力に変換され、交流電力を利用してモータ2014を駆動する。モータ2014によって電力から変換された駆動力(例えば回転力)は、例えば、駆動部である差動装置2015、トランスミッション2016及びクラッチ2017を介して前輪2022又は後輪2024に伝達される。
【0109】
制動機構(図示せず)を介して電動車両が減速すると、減速時の抵抗力がモータ2014に回転力として伝達され、その回転力を利用してモータ2014が交流電力を発生させるようにしてもよい。交流電力はインバータ2012を介して直流電力に変換され、直流回生電力は電源2003に蓄積される。
【0110】
制御部2001は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源2003は、本発明に従った1又は2以上のマグネシウム二次電池(図示せず)を備えることができる。電源2003は、外部電源と接続され、外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積する構成とすることもできる。各種センサ2002は、例えば、エンジン2010の回転数を制御すると共に、スロットルバルブ(図示せず)の開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。各種センサ2002は、例えば、速度センサ、加速度センサ、および/またはエンジン回転数センサ等を備えている。
【0111】
尚、電動車両がハイブリッド自動車である場合について説明したが、電動車両は、エンジン2010を用いずに電源2003及びモータ2014だけを用いて作動する車両(例えば電気自動車)でもよい。
【0112】
次に、マグネシウム二次電池の電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)への適用について説明する。電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)の構成を表すブロック図を図8Bに示す。電力貯蔵システムは、例えば、一般住宅及び商業用ビル等の家屋3000の内部に、制御部3001、電源3002、スマートメータ3003、及び、パワーハブ3004を備えている。
【0113】
電源3002は、例えば、家屋3000の内部に設置された電気機器(例えば電子機器)3010に接続されていると共に、家屋3000の外部に停車している電動車両3011に接続可能である。また、電源3002は、例えば、家屋3000に設置された自家発電機3021にパワーハブ3004を介して接続されていると共に、スマートメータ3003及びパワーハブ3004を介して外部の集中型電力系統3022に接続可能である。電気機器(例えば電子機器)3010は、例えば、1又は2以上の家電製品を含んでいる。家電製品として、例えば、冷蔵庫、エアコンディショナー、テレビジョン受像機、および/または給湯器等を挙げることができる。自家発電機3021は、例えば、太陽光発電機および/または風力発電機等から構成されている。電動車両3011として、例えば、電動自動車、ハイブリッド自動車、電動オートバイ、電動自転車、および/またはセグウェイ(登録商標)等を挙げることができる。集中型電力系統3022として、商用電源、発電装置、送電網、および/またはスマートグリッド(例えば次世代送電網)を挙げることができるし、また、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所、および/または風力発電所等を挙げることもできるし、集中型電力系統3022に備えられた発電装置として、種々の太陽電池、燃料電池、風力発電装置、マイクロ水力発電装置、および/または地熱発電装置等を例示することができるが、これらに限定するものではない。
【0114】
制御部3001は、電力貯蔵システム全体の動作(電源3002の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源3002は、本発明にしたがった1又は2以上のマグネシウム二次電池(図示せず)を備えることができる。スマートメータ3003は、例えば、電力需要側の家屋3000に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信可能である。そして、スマートメータ3003は、例えば、外部と通信しながら、家屋3000における需要・供給のバランスを制御することで、効率的で安定したエネルギー供給が可能となる。
【0115】
かかる電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統3022からスマートメータ3003およびパワーハブ3004を介して電源3002に電力が蓄積されると共に、独立電源である自家発電機3021からパワーハブ3004を介して電源3002に電力が蓄積される。電源3002に蓄積された電力は、制御部3001の指示に応じて電気機器(例えば電子機器)3010及び電動車両3011に供給されるため、電気機器(例えば電子機器)3010の作動が可能になると共に、電動車両3011が充電可能になる。即ち、電力貯蔵システムは、電源3002を用いて、家屋3000内における電力の蓄積及び供給を可能にするシステムである。
【0116】
電源3002に蓄積された電力は、任意に利用可能である。そのため、例えば、電気料金が安価な深夜に集中型電力系統3022から電源3002に電力を蓄積しておき、電源3002に蓄積しておいた電力を電気料金が高い日中に用いることができる。
【0117】
以上に説明した電力貯蔵システムは、1戸(例えば1世帯)毎に設置されていてもよいし、複数戸(例えば複数世帯)毎に設置されていてもよい。
【0118】
次に、マグネシウム二次電池の電動工具への適用について説明する。電動工具の構成を表すブロック図を図8Cに示す。電動工具は、例えば、電動ドリルであり、プラスチック材料等から作製された工具本体4000の内部に、制御部4001及び電源4002を備えている。工具本体4000には、例えば、可動部であるドリル部4003が回動可能に取り付けられている。制御部4001は、電動工具全体の動作(電源4002の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源4002は、本発明に従った1又は2以上のマグネシウム二次電池(図示せず)を備えることができる。制御部4001は、動作スイッチ(図示せず)の操作に応じて、電源4002からドリル部4003に電力を供給する。
【0119】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。例えば、本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更が可能であり、各実施形態で説明した特徴を組み合わせてもよい。
【0120】
例えば、上述した電解液の組成、製造に用いた原材料、製造方法、製造条件、電解液の特性、電気化学デバイスや電池の構成または構造は例示であり、これらに限定するものではなく、また、適宜、変更することができる。本実施形態に係る電解液を有機ポリマー(例えば、ポリエチレンオキシドやポリアクリロニトリルおよび/またはポリフッ化ビニリデン(PVdF))と混合してゲル電解質として使用することもできる。
【0121】
本明細書に記載された効果はあくまで例示であって、これらの効果に必ずしも限定されるものではなく、また、付加的な効果があってもよい。
【0122】
本実施形態に係る電気化学デバイスでは、電解液が溶媒と、溶媒に含まれるマグネシウム塩とを含んで成るが、当該電解液の調製時、保存時および/または使用時において不可避的にまたは偶発的に混入し得る成分(例えば、微量または極微量の成分など、当業者にとって微量、微微量と認識され得る成分)の存在は許容され得る。
【実施例
【0123】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0124】
本発明の効果を確認すべく以下の実証試験を行った。具体的には、マグネシウムを含む電極がフラーレン類含有層と接触することが、電気化学デバイスのエネルギー密度およびサイクル特性の向上に寄与するか否かにつき実証試験を行った。
【0125】
[エネルギー密度]
(実施例1)
電気化学デバイスとして以下の仕様を有するマグネシウム-硫黄二次電池を作製した。
(マグネシウム-硫黄二次電池の仕様)
●負極:マグネシウムを含む電極(φ15mmおよび厚み200μmのMg板(純度99.9%、リカザイ株式会社製のマグネシウム板)、Mg板はフラーレンにより被覆されている)
●正極:硫黄電極(和光純薬工業株式会社製の品番197-17892のS硫黄を10質量%含有した電極、導電助剤としてライオン株式会社製ケッチェンブラック(KB)、品番ECP600JDを65質量%含有、結着剤として旭硝子株式会社製ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、品番CD-1Eを25重量%含有、集電体としてニッケル(φ15mm)を含有)
●セパレータ:グラスファイバー(Advantec製グラスファイバー、品番GC50)
●電解液
・マグネシウム塩:ハロゲン金属塩(MgCl(無水物):シグマアルドリッチ製、品番449172、0.8M)、および、イミド金属塩(Mg(TFSI):富山薬品工業株式会社製、品番MGTFSI、0.8M)
・直鎖エーテル溶媒:ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジメトキシエタン)(超脱水品)、(富山薬品工業製、品番G2)
・「フラーレン類」:C60フラーレン 0.01M(シグマアルドリッチ製、品番379646)
●二次電池形態:コイン電池CR2016タイプ
【0126】
図9に作製した電池を模式的な展開図で示す。正極23は、硫黄(S)10質量%、導電助剤としてケッチェンブラック60質量%、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)30質量%を瑪瑙製の乳鉢を用いて混合した。そして、アセトンで馴染ませながらローラーコンパクターを用いて10回程度圧延成型した。その後、70℃の真空乾燥で12時間乾燥した。こうして、正極23を得ることができた。集電体にニッケルメッシュを用い正極に取り付けて用いた。
【0127】
フラーレンをトルエンに分散させフラーレン懸濁液を調製した。フラーレン懸濁液をMg板上に滴下し塗布膜を形成した。塗布膜を乾燥させることによりMg板上にフラーレン類含有層を形成した。これによりフラーレン類含有層により被覆された負極を作製した。光学顕微鏡でMg板の表面を観察したところ、Mg板の表面は、フラーレン類含有層により不連続に被覆されていることが確認された。
【0128】
コイン電池缶21にガスケット22を載せ、硫黄から成る正極23、グラスファイバー製のセパレータ24、直径15mm、厚さ200μmのMg板から成る負極25、厚さ0.5mmのステンレス鋼板から成るスペーサ26、コイン電池蓋27の順に積層した後、コイン電池缶21をかしめて封止した。スペーサ26はコイン電池蓋27に予めスポット溶接しておいた。電解液は、コイン電池20のセパレータ24に含ませる形態で用いた。
【0129】
作製した電池を充放電に付した。充放電条件は、以下の通りである。
(充放電条件)
放電条件:CC放電0.1mA/0.7Vカットオフ
充電条件:CC充電0.1mA/2.2Vカットオフ
温度:25℃
【0130】
(実施例2)
上記実施例1にて「フラーレン類含有層で被覆されたMg板」の代わりにMg板(フラーレン含有層で被覆されていないMg板)を用い、「セパレータ」の代わりに「フラーレンを含むセパレータ」を用いた以外は、実施例1と同様にマグネシウム-硫黄二次電池を作製し、実施例1と同様の充放電に付した。
なお、フラーレンを含むセパレータは、実施例1で調製したフラーレン懸濁液をセパレータ(平面状のセパレータの一方の面)上に滴下し乾燥することにより作製された。作製したセパレータを光学顕微鏡で観察したところ、セパレータの表面はフラーレン含有層により不連続に被覆されていることが確認された。コイン電池の作製において、フラーレン類含有層が形成された面が負極に接触するようにセパレータを負極上に積層した。
【0131】
(比較例1)
上記実施例1にて「フラーレン類含有層で被覆されたMg板」の代わりにMg板(フラーレン含有層で被覆されていないMg板)を用い、硫黄電極(フラーレン類含有層で被覆されていない硫黄電極)に代わりにフラーレン類含有層で被覆された硫黄電極を用いた以外は、実施例1と同様にマグネシウム-硫黄二次電池を作製し、実施例1と同様の充放電に付した
【0132】
(結果)
結果を図10~12に示す。図10図12は、それぞれ実施例1、実施例2および比較例1における充放電曲線を示す。充放電曲線に付された数字は、サイクル数を示す。実施例1~2の初回(1サイクル)の放電曲線は、比較例1の放電曲線に比べ大きいことが分かった。すなわち、実施例1~2の放電電圧が比較例1の放電電圧に比べ高いことが分かった。
【0133】
上記結果から、フラーレン類含有層がセパレータである場合、およびフラーレン類含有層が負極を被覆する被覆層である場合のように、負極がフラーレン類含有層と接触していることによって、マグネシウム-硫黄二次電池(電気化学デバイス)の初回放電時の負極過電圧による電圧降下が抑制され、エネルギー密度が向上することが明らかとなった。これにより、高エネルギー密度を有する電気化学デバイスに資する。
【0134】
[サイクル特性]
(実施例3)
実施例1で得られた充放電曲線から比容量とサイクル数との関係(図13の実線で表される減衰曲線)を得た。
【0135】
(比較例2)
上記実施例3にて「フラーレン類含有層で被覆されたMg板」の代わりにMg板(フラーレン含有層で被覆されていないMg板)を用いた以外は、実施例3と同様にマグネシウム-硫黄二次電池を作製し、実施例3と同様の充放電に付した。得られた充放電曲線から、比容量とサイクル数との関係(図13の破線で表される減衰曲線)を得た。
なお、実施例1と同様にフラーレン懸濁液を調製した。フラーレン懸濁液を硫黄電極上に滴下し塗布膜を形成した。塗布膜を乾燥させることにより硫黄電極(正極)上にフラーレン類含有層を形成した。これによりフラーレン類含有層により被覆された正極を作製した。光学顕微鏡で硫黄電極の表面を観察したところ、硫黄電極の表面は、フラーレン類含有層により不連続に被覆されていることが確認された。
【0136】
(結果)
結果を図13に示す。図13における実線および破線で示される減衰曲線は、それぞれ実施例3および比較例2における減衰曲線を示す。実施例3の減衰曲線は、比較例2の減衰曲線に比べサイクル数の増加に伴って緩やかに減衰していることが分かった。初回(1サイクル)放電時の比容量に対する10サイクル放電時の比容量の比(放電容量維持率)は、実施例3は65%であり、比較例2は50%であった。実施例3の放電容量維持率は、比較例2の放電容量維持率に対して15%増加していることが分かった。
【0137】
上記結果から、フラーレン類含有層がセパレータである場合、およびフラーレン類含有層が負極を被覆する被覆層である場合のように、負極がフラーレン類含有層と接触していることによって、マグネシウム-硫黄二次電池(電気化学デバイス)のサイクル経過による放電容量の低下が抑制され、サイクル特性が向上することが明らかである。これにより、電気化学デバイスの長寿命化に資する。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の電気化学デバイスは、電気化学的な反応を利用してエネルギーを取り出す様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の電気化学デバイスは、二次電池はもちろんのこと、それに限らず、キャパシタ、空気電池および燃料電池などの種々の電気化学デバイスとして用いられる。
【符号の説明】
【0139】
1・・・負極、2・・・フラーレン類含有層、2a・・・フラーレン類粒子、10・・・正極、11・・・負極、12・・・電解質層、20・・・コイン電池、21・・・コイン電池缶、22・・・ガスケット、23・・・正極、24・・・セパレータ、25・・・負極、26・・・スペーサ、27・・・コイン電池蓋、31・・・正極、32・・・負極、33・・・セパレータ、35,36・・・集電体、37・・・ガスケット、41・・・多孔質正極、42・・・負極、43・・・セパレータ及び電解液、44・・・空気極側集電体、45・・・負極側集電体、46・・・拡散層、47・・・酸素選択性透過膜、48・・・外装体、51・・・空気(大気)、52・・・酸素、61・・・正極、62・・・正極用電解液、63・・・正極用電解液輸送ポンプ、64・・・燃料流路、65・・・正極用電解液貯蔵容器、71・・・負極、72・・・負極用電解液、73・・・負極用電解液輸送ポンプ、74・・・燃料流路、75・・・負極用電解液貯蔵容器、66・・・イオン交換膜、100・・・マグネシウム二次電池、111・・・電極構造体収納部材(電池缶)、112,113・・・絶縁板、114・・・電池蓋、115・・・安全弁機構、115A・・・ディスク板、116・・・熱感抵抗素子(PTC素子)、117・・・ガスケット、118・・・センターピン、121・・・電極構造体、122・・・正極、123・・・正極リード部、124・・・負極、125・・・負極リード部、126・・・セパレータ、200・・・外装部材、201・・・密着フィルム、221・・・電極構造体、223・・・正極リード部、225・・・負極リード部、1001・・・セル(組電池)、1002・・・マグネシウム二次電池、1010・・・制御部、1011・・・メモリ、1012・・・電圧測定部、1013・・・電流測定部、1014・・・電流検出抵抗器、1015・・・温度測定部、1016・・・温度検出素子、1020・・・スイッチ制御部、1021・・・スイッチ部、1022・・・充電制御スイッチ、1024・・・放電制御スイッチ、1023,1025・・・ダイオード、1031・・・正極端子、1032・・・負極端子、CO,DO・・・制御信号、2000・・・筐体、2001・・・制御部、2002・・・各種センサ、2003・・・電源、2010・・・エンジン、2011・・・発電機、2012,2013・・・インバータ、2014・・・駆動用のモータ、2015・・・差動装置、2016・・・トランスミッション、2017・・・クラッチ、2021・・・前輪駆動軸、2022・・・前輪、2023・・・後輪駆動軸、2024・・・後輪、3000・・・家屋、3001・・・制御部、3002・・・電源、3003・・・スマートメータ、3004・・・パワーハブ、3010・・・電気機器(電子機器)、3011・・・電動車両、3021・・・自家発電機、3022・・・集中型電力系統、4000・・・工具本体、4001・・・制御部、4002・・・電源、4003・・・ドリル部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14