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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】固体電池および固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20241210BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 50/474 20210101ALI20241210BHJP
   H01M 50/48 20210101ALI20241210BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20241210BHJP
   H01M 50/531 20210101ALI20241210BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0525
H01M10/0562
H01M50/474
H01M50/48
H01M50/489
H01M50/531
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022565472
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2021043497
(87)【国際公開番号】W WO2022114155
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2020197322
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】早川 雄大
(72)【発明者】
【氏名】清水 圭輔
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/164006(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/054544(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/054549(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/090736(WO,A1)
【文献】特開2015-220099(JP,A)
【文献】特開2006-261008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0525
H01M 10/0562
H01M 50/474
H01M 50/48
H01M 50/489
H01M 50/531
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層、負極層、および該正極層と該負極層との間に介在する固体電解質層を備えた電池要素と、
前記電池要素の端面と対向するように設けられた端面電極と、
前記端面電極付の前記電池要素を覆うように設けられた被覆層と、
前記被覆層と前記電池要素との間に位置しかつ該電池要素を取り囲むように設けられた絶縁緩衝層と
を備え、
前記電池要素の前記端面の端面電極対向領域側において、前記絶縁緩衝層は該電池要素と該端面電極とに挟みこまれかつ断続して設けられている、固体電池。
【請求項2】
前記絶縁緩衝層は少なくとも前記電池要素と接するように設けられている、請求項1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記電池要素と前記端面電極との間において、該電池要素と前記絶縁緩衝層とが直接対向する対向領域と該電池要素と該絶縁緩衝層とが対向しない非対向領域とが形成されている、請求項1又は2に記載の固体電池。
【請求項4】
前記電池要素と前記端面電極との間において、前記対向領域と前記非対向領域とが交互に形成されている、請求項3に記載の固体電池。
【請求項5】
前記絶縁緩衝層の断続形成により、前記正極層および前記負極層の少なくとも一方の電極層と前記端面電極とが直接対向可能な部分が形成される、請求項1~4のいずれかに記載の固体電池。
【請求項6】
前記電極層と前記端面電極のみが直接対向している、請求項5に記載の固体電池。
【請求項7】
前記電池要素が略直方体形状を有し、
前記絶縁緩衝層が、前記略直方体形状の前記電池要素の前記端面を構成する上面、下面、および側面と直接対向するように構成されている、請求項1~6のいずれかに記載の固体電池。
【請求項8】
前記電池要素と前記端面電極との間において、前記電池要素の前記端面に位置する前記電極層の総面積に対する前記絶縁緩衝層の形成面積の比率が0.1%よりも大きく95%未満である、請求項1~7のいずれかに記載の固体電池。
【請求項9】
前記比率が0.5%以上75%以下である、請求項8に記載の固体電池。
【請求項10】
前記絶縁緩衝層が、窒化ホウ素、硫化モリブデン、および硫化タングステンから成る群から選択される少なくとも1種の材料から構成される、請求項1~のいずれかに記載の固体電池。
【請求項11】
前記絶縁緩衝層が応力緩和層である、請求項1~1のいずれかに記載の固体電池。
【請求項12】
前記被覆層は水蒸気透過防止可能なバリア層を備える、請求項1~1のいずれかに記載の固体電池。
【請求項13】
前記バリア層は1.0×10-2g/(m2・Day)以下の水蒸気透過率を有する、請求項1に記載の固体電池。
【請求項14】
前記正極層および前記負極層がリチウムイオンを吸蔵放出可能な層となっている、請求項1~1のいずれかに記載の固体電池。
【請求項15】
(i)積層方向に沿って、正極層用シート、固体電解質層用シート、および負極層用シートを積層して未焼成積層体を形成する工程と、
(ii)前記未焼成積層体の表面に絶縁材を供する工程と、
(iii)前記絶縁材付前記未焼成積層体を焼成して焼成積層体を形成する工程と、
(iv)前記焼成積層体の表面に端面電極を設ける工程と、
(v)前記端面電極付前記焼成積層体を覆うように被膜層を形成する工程と
を含み、
前記(ii)の工程にて、前記端面電極と対向することとなる前記未焼成積層体の前記表面に前記絶縁材を断続的に供する、固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池および固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より充放電が繰り返し可能な二次電池が様々な用途に用いられている。例えば、二次電池は、スマートフォン、ノートパソコン等の電子機器の電源として用いられている。
【0003】
当該二次電池においてはイオンを移動させるための媒体として有機溶媒等の液体の電解質(電解液)が従来より使用されている。しかしながら、電解液を用いた二次電池においては、電解液の漏液等の問題がある。そのため、液体の電解質に代えて固体電解質を有して成る固体電池の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-49839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体電池として、相互に対向する正極層、負極層、および正極層と負極層との間に介在する固体電解質層を備えた電池要素と、当該電池要素の表面を囲い込む外装と、電池要素と外装との間に潤滑剤を有して成るものが存在する(特許文献1参照)。かかる潤滑剤は、電池要素の周面全体とこの周面全体に対向する外装の内側面の間に設けられる場合がある。
【0006】
ここで、本願発明者らは、上記の固体電池において更に改善すべき事項があることに気付いた。具体的には、電池要素の端面側に端面電極が設けられる場合、潤滑剤が電池要素の周面全体に存在すると、電池要素と端面電極との間にも潤滑剤が設けられることとなる。そのため、潤滑剤の存在により、電池要素の電極層と端面電極とが接触しにくくなる虞がある。又、固体電池は充放電時に電極層(正極層/負極層)が膨張収縮し得るため、かかる膨張収縮により端面電極付きの電池要素から外装が剥離して電池要素の端面が損傷する虞もある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、電極層と端面電極との接触確保と電池要素の端面の損傷発生の抑止との両立を可能とする固体電池およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
正極層、負極層、および該正極層と該負極層との間に介在する固体電解質層を備えた電池要素と、
前記電池要素の端面と対向するように設けられた端面電極と、
前記端面電極付の前記電池要素を覆うように設けられた被覆層と、
前記被覆層と前記電池要素との間に位置しかつ該電池要素を取り囲むように設けられた絶縁緩衝層と
を備え、
前記電池要素の前記端面の端面電極対向領域側において、前記絶縁緩衝層は該電池要素と該端面電極とに挟みこまれかつ断続して設けられている、固体電池が供される。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
(i)積層方向に沿って、正極層用シート、固体電解質層用シート、および負極層用シートを積層して未焼成積層体を形成する工程と、
(ii)前記未焼成積層体の表面に絶縁材を供する工程と、
(iii)前記絶縁材付前記未焼成積層体を焼成して焼成積層体を形成する工程と、
(iv)前記焼成積層体の表面に端面電極を設ける工程と、
(v)前記端面電極付前記焼成積層体を覆うように被膜層を形成する工程と
を含み、
前記(ii)の工程にて、前記端面電極と対向することとなる前記未焼成積層体の前記表面に前記絶縁材を断続的に供する、固体電池の製造方法が供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、電極層と端面電極との接触確保と電池要素の端面の損傷発生の抑止との両立が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、図2の断面X-X’の方向からみた場合における本発明の一実施形態に係る固体電池を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る固体電池を模式的に示す一部斜視図である。
図3図3は、図4の断面Y-Y’ の方向からみた場合における本発明の一実施形態に係る固体電池を模式的に示す断面図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る固体電池を模式的に示す一部斜視図である。
図5図5は、実験例3における電圧-容量曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る固体電池について説明する前に、固体電池の基本的構成について説明しておく。本明細書でいう「固体電池」とは、広義にはその構成要素が固体から構成されている電池を指し、狭義にはその構成要素(特に全ての構成要素)が固体から構成されている全固体電池を指す。ある好適な態様では、本発明の固体電池は、電池構成単位を成す各層が互いに積層するように構成された積層型固体電池であり、好ましくはそのような各層が焼結体から成っている。本明細書でいう「固体電池」は、充電および放電の繰り返しが可能な二次電池のみならず、放電のみが可能な一次電池をも包含し得る。本発明のある好適な態様では、固体電池は二次電池である。「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものではなく、例えば、蓄電デバイスなども包含し得る。
【0013】
本明細書でいう「断面視」とは、固体電池を構成する材層の積層方向に基づく厚み方向に対して略垂直な方向から固体電池をみたときの状態のことである。本明細書で直接的または間接的に用いる“上下方向”および“左右方向”は、それぞれ図中における上下方向および左右方向に相当する。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材・部位または同じ意味内容を示すものとする。ある好適な態様では、鉛直方向下向き(すなわち、重力が働く方向)が「下方向」に相当し、その逆向きが「上方向」に相当すると捉えることができる。
【0014】
本明細書で言及する各種の数値範囲は、特段の説明が付されない限り、下限および上限の数値そのものを含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、特段の説明の付記がない限り、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈され得る。
【0015】
[固体電池の構成]
固体電池は、正極・負極の電極層と固体電解質とを少なくとも有して成る。具体的には固体電池は、電池要素と、端面電極と、被覆層とを有して成る。電池要素は、正極層、負極層、およびそれらの間に介在する固体電解質から成る電池構成単位を含んだものである。端面電極は、電池要素の端面と対向するように設けられた電極である。被覆層は、端面電極付の電池要素を覆うように設けられたものである。
【0016】
固体電池は、それを構成する各層が焼成によって形成されるところ、正極層、負極層および固体電解質などが焼結層を成している。好ましくは、正極層、負極層および固体電解質は、それぞれが互いに一体焼成されており、それゆえ電池要素が一体焼結体を成している。
【0017】
正極層は、少なくとも正極活物質を含んで成る電極層である。正極層は、更に固体電解質を含んで成っていてよい。例えば、正極層は、正極活物質粒子と固体電解質粒子とを少なくとも含む焼結体から構成されている。好ましい1つの態様では、正極層が、正極活物質粒子および固体電解質粒子のみを実質的に含む焼結体から構成されている。一方、負極層は、少なくとも負極活物質を含んで成る電極層である。負極層は、更に固体電解質を含んで成っていてよい。例えば、負極層は、負極活物質粒子と固体電解質粒子とを少なくとも含む焼結体から構成されている。好ましい1つの態様では、負極層が、負極活物質粒子および固体電解質粒子のみを実質的に含む焼結体から構成されている。
【0018】
正極活物質および負極活物質は、固体電池において電子の受け渡しに関与する物質である。固体電解質を介してイオンは正極層と負極層との間で移動(伝導)して電子の受け渡しが行われることで充放電がなされる。正極層および負極層は特にリチウムイオンまたはナトリウムイオンを吸蔵放出可能な層であることが好ましい。つまり、固体電池は、固体電解質を介してリチウムイオンが正極層と負極層との間で移動して電池の充放電が行われる全固体型二次電池であることが好ましい。
【0019】
(正極活物質)
正極層に含まれる正極活物質としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、および、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li32(PO43等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、LiFePO4、LiMnPO4等が挙げられる。リチウム含有層状酸化物の一例としては、LiCoO2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/32等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、LiMn24、LiNi0.5Mn1.54等が挙げられる。リチウム化合物の種類は、特に限定されないが、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物およびリチウム遷移金属リン酸化合物としてよい。リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムと1種類または2種類以上の遷移金属元素とを構成元素として含む酸化物の総称であると共に、リチウム遷移金属リン酸化合物は、リチウムと1種類または2種類以上の遷移金属元素とを構成元素として含むリン酸化合物の総称である。遷移金属元素の種類は、特に限定されないが、例えば、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)および鉄(Fe)などである。
【0020】
また、ナトリウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質としては、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、ナトリウム含有層状酸化物およびスピネル型構造を有するナトリウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。例えば、ナトリウム含有リン酸化合物の場合、Na32(PO43、NaCoFe2(PO43、Na2Ni2Fe(PO43、Na3Fe2(PO43、Na2FeP27、Na4Fe3(PO42(P27)、およびナトリウム含有層状酸化物としてNaFeO2から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0021】
この他、正極活物質は、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物または導電性高分子等でもよい。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムまたは二酸化マンガン等でもよい。二硫化物は、例えば、二硫化チタンまたは硫化モリブデン等である。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブ等でもよい。導電性高分子は、例えば、ジスルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラスチレン、ポリアセチレンまたはポリアセン等でもよい。
【0022】
(負極活物質)
負極層に含まれる負極活物質としては、例えば、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、NbおよびMoから成る群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む酸化物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ならびに、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。リチウム合金の一例としては、Li-Al等が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li32(PO43、LiTi2(PO43等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、LiCuPO4等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、Li4Ti512等が挙げられる。
【0023】
また、ナトリウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質としては、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、およびスピネル型構造を有するナトリウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0024】
なお、ある好適な態様の本発明の固体電池では、正極層と負極層とが同一材料から成っている。
【0025】
正極層および/または負極層は、導電助剤を含んでいてもよい。正極層および負極層に含まれる導電助剤として、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅およびニッケル等の金属材料、ならびに炭素などから成る少なくとも1種を挙げることができる。特に限定されるわけではないが、炭素は、正極活物質、負極活物質および固体電解質材などと反応し難く、固体電池の内部抵抗の低減に効果を奏するのでその点で好ましい。
【0026】
さらに、正極層および/または負極層は、焼結助剤を含んでいてもよい。焼結助剤としては、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化ビスマスおよび酸化リンから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0027】
(固体電解質)
固体電解質は、リチウムイオンが伝導可能な材質である。特に固体電池で電池構成単位を成す固体電解質は、正極層と負極層との間においてリチウムイオンまたはナトリウムイオンが伝導可能な層を成している。なお、固体電解質は、正極層と負極層との間に少なくとも設けられていればよい。つまり、固体電解質は、正極層と負極層との間からはみ出すように当該正極層および/または負極層の周囲において存在していてもよい。具体的な固体電解質としては、例えば、ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物、酸化物ガラスセラミックス系リチウムイオン伝導体等が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物としては、Lixy(PO43(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrから成る群より選ばれる少なくとも一種)が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、例えば、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO43等が挙げられる。ペロブスカイト構造を有する酸化物の一例としては、La0.55Li0.35TiO3等が挙げられる。ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物の一例としては、Li7La3Zr212等が挙げられる。酸化物ガラスセラミックス系リチウムイオン伝導体としては、例えば、リチウム、アルミニウムおよびチタンを構成元素に含むリン酸化合物(LATP)、リチウム、アルミニウムおよびゲルマニウムを構成元素に含むリン酸化合物(LAGP)を用いることができる。
【0028】
なお、ナトリウムイオンが伝導可能な固体電解質としては、例えば、ナシコン構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物等が挙げられる。ナシコン構造を有するナトリウム含有リン酸化合物としては、Naxy(PO43(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrから成る群より選ばれた少なくとも一種)が挙げられる。
【0029】
固体電解質は、焼結助剤を含んでいてもよい。固体電解質に含まれる焼結助剤は、例えば、正極層・負極層に含まれ得る焼結助剤と同様の材料から選択されてよい。
【0030】
(端面電極)
固体電池には、一般に端面電極が設けられている。具体的には、電池要素の端面と対向するように端面電極が設けられている。具体的には、正極層と接続された正極側の端面電極と、負極層と接続された負極側の端面電極とが、相互に対向する電池要素の端面領域にそれぞれ設けられている。より具体的には、正極層側の端面電極は、正極層の端部、具体的には正極層端部に形成された引出し部と接合可能に構成されている。又、負極層側の端面電極は、負極層の端部、具体的には負極層端部に形成された引出し部と接合可能に構成されている。
【0031】
好ましい1つの態様では、端面電極は、電極層の引出し部と接合させる観点から、ガラスまたはガラスセラミックスを含んでなることが好ましい。又、端面電極は、導電率が大きい材料を含んで成ることが好ましい。端面電極の具体的な材質としては、特に制限されるわけではないが、銀、金、プラチナ、アルミニウム、銅、スズおよびニッケルから成る群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。端面電極材に金属材を用いることで、端面電極からの水分の進入を抑制することができる。端面電極の厚みは、特に限定されず、例えば0.01μm以上1mm以下、特に1μm以上100μm以下であってよい。
【0032】
(下面電極)
固体電池は、電池要素の下面側に上記端面電極と接続された下面電極を更に備えることができる。下面電極は、一方が端面電極と接続され他方が固体電池の表面から外部に表出するように構成され得る。この場合、下面電極を介して固体電池を電子基材に実装することができる。下面電極は、導電率が大きい材料を含んで成ることが好ましい。下面電極の具体的な材質としては、特に限定されるわけではないが、導電性の観点から、端面電極の具体的材質として例示した導電性金属と同様の材料を挙げることができる。下面電極材に金属材料を用いることで、下面電極からの水分の進入を抑制することができる。
【0033】
(被覆層)
被覆層は少なくとも1つのバリア層を含む。被覆層は、好ましくは緩衝層および耐衝撃層からなる群から選択される1つ以上の層をさらに含む。被覆層は、上述のように端面電極付の電池要素を覆うように設けられる。具体的には、被覆層は、下面電極との接続部分を除く端面電極付の電池要素を覆うように設けられる。又、被覆層は、電極層の引出し部と端面電極とが接合可能に端面電極付の電池要素の表面を覆うように設けられる。即ち、被覆層は、端面電極の設置箇所においては、電池要素と対向する端面電極の内側面ではなく端面電極の外側面に設けられる。かかる構成において、被覆層に含まれるバリア層は後述するように水蒸気等のガス透過防止機能を有するため、その結果として水蒸気等のガスの浸入を防止することができる。
【0034】
被覆層が耐衝撃層を含む場合、耐衝撃層が最外層に配置されることが外部からの耐衝撃性およびデバイスとしての歪み低減の観点から好ましい。又、緩衝層とバリア層を交互に設けられていると、更なる柔軟性が得られる効果およびピンホールを防ぐ効果もあり、水蒸気透過防止性を向上させることが可能である。換言すると、緩衝層をバリア層に隣接して配置させることにより、更なる柔軟性が得られる効果やピンホールを防ぐ効果が発揮され得る。
【0035】
バリア層は水蒸気等のガスの透過を防止するための層である。バリア層の厚みは例えば10nm以上100μm以下、好ましくは100nm以上10μm以下であることができる。バリア層は、1.0×10-2g/(m2・Day)以下、好ましくは1×10-4g/(m2・Day)以上、8×10-3g/(m2・Day)以下、より好ましくは1×10-4g/(m2・Day)以上、8×10-4g/(m2・Day)以下の水蒸気透過率を有する。バリア層の水蒸気透過率は、一例を挙げると、4×10-4g/(m2・Day)である。
【0036】
被覆層が2つ以上のバリア層を含む場合、2つ以上のバリア層の水蒸気透過率はそれぞれ独立して上記範囲内であってもよい。本明細書において「水蒸気透過率」とは、アドバンス理工(株)社製、型式GTms-1のガス透過率測定装置を用いて、測定条件は40℃ 90%RH 差圧1atmによって得られた透過率を示す。
【0037】
バリア層は非導電性を有し得る。具体的には、バリア層は、1.0×106Ω/sq.以上、好ましくは1.0×108Ω/sq.以上の表面抵抗率を有する。被覆層が2つ以上のバリア層を含む場合、2つ以上のバリア層の表面抵抗率はそれぞれ独立して上記範囲内であってもよい。本明細書において「表面抵抗率」とは、厚み0.1mmの試料を、三菱ケミカルアナリティック社製 MCP-HT450によって25℃で測定された値を示す。
【0038】
バリア層は、外部の半導体部品への影響を考慮して、Liイオン等のアルカリ金属イオンの透過を防ぐ層であることが望ましい。そのようなバリア層を構成する材料として、例えば、窒化膜または酸窒化膜が挙げられる。窒化膜および酸窒化膜はケイ素またはアルミニウムによるものが好ましく、窒化膜および酸窒化膜はそれぞれ、窒化ケイ素(SiNt)および酸窒化ケイ素(SiNtu)がより好ましい(t、uは0より大きい数値)。外力による変形に基づく剥離およびクラックの防止の観点から、酸窒化ケイ素膜が好ましい。
【0039】
バリア層としては、酸素の比率を低く抑え(uの値を低く設定し)て、光の屈折率が1.7以上(特に1.7以上2.0以下)となるような酸窒化ケイ素膜であることがより好ましい。バリア層を構成するその他の材料としては、低融点ガラス等のセラミックス材料、粘度材料であるクレーストで被覆し得る。低融点ガラスはビスマス、鉛、ホウ素、バナジウム系のガラスであり、ガラス転移点が500℃以下の材料を示す。クレーストは粘土状層状化合物で、それぞれ1.0×10-2g/(m2・Day)以下、好ましくは1×10-4g/(m2・Day)以上、8×10-3g/(m2・Day)以下、より好ましくは1×10-4g/(m2・Day)以上、8×10-4g/(m2・Day)以下の水蒸気透過率を有する。
【0040】
緩衝層は、固体電池の充電・放電時の膨張収縮に被覆層を追随させるための層であって、バリア層の破壊を防止するための層である。緩衝層をバリア層と直接的に接触して配置することにより、バリア層の破壊を防止しつつ、充電・放電時の膨張収縮に被覆層を追随させることができ、結果としてより十分に長期にわたってガスバリア性を得ることができる。
【0041】
緩衝層は非導電性を有し得る。具体的には、緩衝層はバリア層と同様の範囲内の表面抵抗率を有し得る。被覆層が2つ以上の緩衝層を含む場合、2つ以上の緩衝層の表面抵抗率はそれぞれ独立して上記範囲内であってもよい。
【0042】
緩衝層の構成材料としては、緩衝層自体が固体電池の充電・放電時の膨張収縮に追随可能な材料であれば特に限定されない。緩衝層の構成材料として、例えば、ポリイミド樹脂、ポリイミドシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ゴム等が挙げられる。緩衝層の厚みは通常、例えば1μm以上1mm以下、特に10μm以上500μm以下であり得る。
【0043】
耐衝撃層は、固体電池のリフローによる実装時における熱的衝撃および固体電池の取り扱い時の物理的衝撃による破損を防止するための層である。耐衝撃層を最外層として配置することにより、バリア層の破壊を防止しつつ、充電・放電時の膨張収縮に被覆層を追随させることができ、結果としてより十分に長期にわたってガスバリア性を得ることができる。
【0044】
耐衝撃層は非導電性を有し得る。具体的には、耐衝撃層はバリア層と同様の範囲内の表面抵抗率を有し得る。耐衝撃層の構成材料としては、特に限定されず、例えば樹脂とフィラーからなるモールド樹脂が挙げられる。樹脂としては、例えば、緩衝層の構成材料として例示した同様の樹脂が挙げられる。フィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、SiC(シリコンカーバイト)、BN(ボロンナイトライド)等が挙げられる。好ましい耐衝撃層の構成材料は、エポキシ樹脂にシリカを混在させたものである。耐衝撃層の厚みは、固体電池の充電における膨張変位に対して10%以下の膨らみに抑え得るような厚さとする。耐衝撃層の厚みは例えば1μm以上1mm以下、特に10μm以上500μm以下であり得る。
【0045】
[本発明の固体電池の特徴部分]
固体電池の基本的構成を考慮した上で、以下、本発明の一実施形態に係る固体電池の特徴部分について説明する。
【0046】
本願発明者らは、電極層と端面電極との接触確保と電池要素の端面の損傷発生の抑止との両立を可能とするための解決策について鋭意検討した。かかる検討の結果、本願発明者らは、上記被覆層(端面電極付の電池要素を覆うように構成された層)と電池要素との間に絶縁緩衝層を更に設け、かつ当該絶縁緩衝層の配置態様に特徴をもたせることを新たに案出するに至った。
【0047】
具体的には、本願発明者らは、「電池要素と端面電極との間に位置づける絶縁緩衝層については、電池要素と端面電極とが相互に対向する領域の全体にわたり敢えて形成しない」という技術的思想に基づき本発明を新たに案出するに至った。
【0048】
本明細書でいう「電池要素の端面と対向するように設けられた端面電極」とは、介在部材(絶縁緩衝層に相当)を挟んで電池要素の端面と離隔対向する端面電極を指す。本明細書でいう「端面電極付の電池要素を覆うように設けられた被覆層」とは、(1)電池要素上に配置された端面電極の表面と(2)端面電極が配置されていない電池要素の表面とを共に覆うように構成された被覆層を指す。
【0049】
本明細書でいう「絶縁緩衝層」とは、絶縁性を有しかつ緩衝機能も有する層を指す。本明細書でいう「被覆層と電池要素との間に位置しかつ電池要素を取り囲むように設けられた絶縁緩衝層」とは、広義には、被覆層と電池要素との間に挟まれ、かつ電池要素と接するように電池要素を取り囲む絶縁緩衝層を指し、狭義には、被覆層と電池要素との間に挟まれ、一方の主面は電池要素に常時接する一方、他方の主面は被覆層に接する場合と被覆層に接しない場合がある絶縁緩衝層を指す。
【0050】
本明細書でいう「電池要素の端面の端面電極対向領域」とは、電池要素の端面のうち、端面電極が対向するように設置された領域を指す。本明細書でいう「絶縁緩衝層は電池要素と端面電極とに挟み込まれかつ断続して設けられている」とは、広義には絶縁緩衝層が電池要素と端面電極との間にて非連続的に設けられていることを指し、狭義には電池要素と端面電極との間にて絶縁緩衝層が設けられる部分と絶縁緩衝層が設けられない部分があることを指す。
【0051】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る固体電池の特徴部分について具体的に説明する。図1は、図2の断面X-X’ の方向からみた場合における本発明の一実施形態に係る固体電池を模式的に示す断面図である。図2は、本発明の一実施形態に係る固体電池を模式的に示す斜視図である。
【0052】
図1および図2に示すように、本発明の一実施形態に係る固体電池1000は、電池要素100と、端面電極300と、被覆層400と、下面電極500とを備える。上述のように、電池要素100は、正極層10A、負極層10B、および正極層10Aと負極層10Bとの間に介在する固体電解質層20を備える。端面電極300は、電池要素100の端面101と対向するように設けられている。被覆層400は、端面電極300付の電池要素100を覆うように設けられている。下面電極500は、電池要素100の下面側にて端面電極300と接続されている。下面電極500は、一方が端面電極300と接続され他方が固体電池1000の表面から外部に表出するように構成されている。
【0053】
更に、本発明の一実施形態に係る固体電池1000は絶縁緩衝層200を更に有して成る。当該絶縁緩衝層200は、被覆層400と電池要素100との間に位置しかつ電池要素100を取り囲むように設けられた層である。
【0054】
一例として、図1および図2に示すように、電池要素100は略直方体形状を有することができる。この場合、「電池要素100を取り囲む絶縁緩衝層200」とは、略直方体形状の電池要素100の端面101を構成する上面、下面、および側面と直接対向するように構成されたものに相当する。
【0055】
上記のとおり絶縁緩衝層200は絶縁性を有しかつ緩衝機能も有する層であるため、下記にて具体的に述べるが、絶縁緩衝層200により電池要素100の膨張収縮に起因する応力を緩和しつつ膨張収縮する電池要素100を全体として受容可能となっている。
これにより、膨張収縮する電池要素100と、被覆層400および端面電極300の各々と、の直接の接触が回避される。その結果、電池要素の端面の損傷が回避可能となる。その結果、全体として、電池要素100の上面、下面および側面から構成される電池要素100の端面101の損傷発生を抑止することができる。
【0056】
かかる構成下で、本発明の一実施形態では、上記技術的思想をふまえ、電池要素100の端面電極対向領域102側に位置づける絶縁緩衝層200を、電池要素100と端面電極300との間に挟みこみかつ断続して設ける。この点が本発明の技術的特徴部分である。
【0057】
かかる技術的特徴によれば、電池要素100の端面101の電極対向領域102側において、絶縁緩衝層200は電池要素100と端面電極300とに挟み込まれかつ断続して設けられる。そのため、図1に示すように、当該端面電極対向領域102側にて、(1)電池要素100と端面電極300との間に絶縁緩衝層200が位置づけられている領域と(2)電池要素100と端面電極300との間に絶縁緩衝層200が位置づけられていない領域とが形成されることとなる。
【0058】
即ち、上記(1)の場合、絶縁緩衝層200が位置づけられていることで、電池要素100と端面電極300との間にて電池要素100と絶縁緩衝層200とが直接対向する対向領域Aが形成され得る。
【0059】
一方、上記(2)の場合、絶縁緩衝層200が位置づけられていないことで、電池要素100と端面電極300との間にて電池要素100と絶縁緩衝層200とが対向しない非対向領域Bが形成され得る。
【0060】
ここで、電池の充放電時には電極層10(正極層10A/負極層10B)が膨張収縮し、これに伴い電極層10を内部に有する電池要素100も膨張収縮し得る。かかる膨張収縮に起因する応力により端面電極300付きの電池要素100から被覆層400が剥離し、電池要素100の端面が損傷する可能性があり得る。電池要素の表面領域のうち、特に電池要素100の端面電極対向領域102に着目した場合、電池要素100の膨張収縮に起因する応力により電池要素100から端面電極300が剥離する可能性がある。
【0061】
この点につき、上記領域Aでは、電池要素100と端面電極300との間にて電池要素100と絶縁緩衝層200とが直接対向している。この事は、電池要素100と端面電極300とが直接対向していないことを意味する。これにより、領域Aにて膨張収縮する電池要素100と端面電極300との直接の接触が回避される。又、絶縁緩衝層200は、その緩衝の性質により充放電時の電池要素100の膨張収縮に起因する応力を緩和しつつ当該膨張収縮する電池要素100を受容可能となっている。即ち、絶縁緩衝層200は、充放電時の電池要素100の膨張収縮に起因する応力を緩和するための「応力緩和層」として機能することができる。
【0062】
以上の事から、端面電極対向領域102からの端面電極300の剥離を好適に回避できる。その結果、電池要素100の端面のうち端面電極対向領域102の損傷を好適に回避可能となる。
【0063】
上記領域Bでは、電池要素100と端面電極300との間にて電池要素100と絶縁緩衝層200とが対向していない。この事は、電池要素100と端面電極300とが直接対向していることを意味する。領域Bでは、電池要素100の端面と端面電極300とが直接対向することから、この直接対向箇所に電極層10を位置づけるように構成することで、電極層10と端面電極300とが直接対向可能となる。
【0064】
これにより、電極層10と、具体的には電極層10の引出し端部と、端面電極300とが接触可能となる。その結果、電極層10の引出し端部と端面電極300との接触不良が回避され、それにより固体電池1000の充放電を好適に実施するための電気的な接続ラインが確保され得る。
【0065】
一方、電池要素100の端面のうち、端面電極対向領域102以外の領域、即ち電池要素100の端面電極が対向していない領域103では、端面電極300が存在しないため、この領域103は絶縁緩衝層200を介して被覆層400と対向可能となっている。換言すれば、絶縁緩衝層200は端面電極が対向していない領域103と被覆層400とにより挟み込まれる。
【0066】
かかる絶縁緩衝層200の存在により、端面電極が対向していない領域103に位置する膨張収縮する電池要素100と被覆層400との直接の接触が回避される。更に、絶縁緩衝層200は、その緩衝の性質により領域103に位置する電池要素100の膨張収縮に起因する応力を緩和しつつ膨張収縮する電池要素100を受容可能となっている。これにより、端面電極が対向していない領域103からの被覆層400の剥離を好適に回避できる。その結果、電池要素100の端面のうち端面電極が対向していない領域103の損傷も好適に回避可能となる。
【0067】
以上の事から、本発明の一実施形態によれば、全体として電池要素100の端面101の損傷発生を抑止しつつ、電極層10と端面電極300との接触も好適に確保することができる。
【0068】
なお、本発明は下記態様を採ることが好ましい。
【0069】
まず、一態様では、絶縁緩衝層200としては、窒化ホウ素、硫化モリブデン、および硫化タングステンから成る群から選択される少なくとも1種の材料(固体潤滑剤に相当)から構成されることが好ましい。
【0070】
かかる材料は、絶縁性を有し、耐熱温度が300度以上900度以下であり、かつこの高温条件下でも酸化することなく0.2以下の低い大気中の摩擦係数(μ)を維持可能な材料である。そのため、下記のとおり高温条件下(200度)での焼結工程を経て固体電池1000が製造されるとしても、(1)電池要素100の膨張収縮に起因する応力緩和と(2)電池要素100と被覆層400間の絶縁確保を好適に確保することが可能となる。
【0071】
一態様では、絶縁緩衝層200は少なくとも電池要素100と接するように設けられていることが好ましい(図1参照)。
【0072】
上述のように、絶縁緩衝層200は、被覆層400と電池要素100との間に位置しかつ電池要素100を取り囲むように設けられた層である。この点につき、絶縁緩衝層200が撓みつつ膨張収縮する電池要素100を好適に直接受容する観点から、電池要素1200の端面101と、即ち端面101を形作る輪郭領域と絶縁緩衝層200とは互いに直接接していることが好ましい。
【0073】
より具体的には、上述のように電池要素100の端面101は、端面電極対向領域102と端面電極が対向していない領域103とから構成される。これら領域102および領域103のいずれの領域も絶縁緩衝層200と互いに直接接していることが好ましい。これにより、全体として、絶縁緩衝層200により膨張収縮する電池要素100の端面101が好適に直接受容され得る。
【0074】
更に、端面電極が対向していない領域103では、絶縁緩衝層200は電池要素100と接するのみでなく被覆層400とも接するように構成されていることがより好ましい。具体的には、絶縁緩衝層200の一方の主面と電池要素100の端面電極が対向していない領域103とが互いに直接接していることに加えて、絶縁緩衝層200の他方の主面と被覆層400とが互いに直接接していることがより好ましい。
【0075】
かかる構成を採ることで、絶縁緩衝層200により、膨張収縮する電池要素100が直接受容されるのみでなく、被覆層400も直接受容され得る。その結果、電極層10の膨張収縮に起因した端面電極が対向していない領域103からの被覆層400の剥離のみならず、外部からの押圧力、衝撃力等が被覆層400に伝わりこれに伴い電池要素100へと伝わることを好適に回避できる。
【0076】
一態様では、電池要素100と端面電極300との間において、電池要素100と絶縁緩衝層200とが直接対向する対向領域Aと、電池要素100と絶縁緩衝層200とが対向しない非対向領域Bとが交互に形成されていることが好ましい(図1参照)。
【0077】
上述のように、対向領域Aの存在により、端面電極対向領域102からの端面電極300の剥離が好適に回避され得る。対向領域Bの存在により、電池要素100の端面電極対向領域102と端面電極300とが接触可能となる。
【0078】
ここで、電池要素100の端面101の構成要素である端面電極対向領域102に着目した場合、電池要素100と絶縁緩衝層200とが直接対向する対向領域Aが所定領域に偏在していると、その所定領域では端面電極300の剥離は回避される一方で、電池要素100と端面電極300との十分な接触が確保されにくくなる。
【0079】
一方、電池要素100の端面電極対向領域102に着目した場合、電池要素100と絶縁緩衝層200とが対向しない非対向領域Bが所定領域に偏在化していると、その所定領域では電池要素100と端面電極300との接触は好適に確保される一方で、端面電極300の剥離は回避されにくくなる。
【0080】
以上の点をふまえ、上記のとおり対向領域Aと非対向領域Bとが交互に形成されることが好ましい。これにより、端面電極対向領域102に着目した場合、「端面電極300の剥離防止がなされ易い領域」が所定箇所偏在化し、「電池要素100と端面電極300との接触確保がなされ易い領域」が所定箇所以外のその他の箇所に偏在化することを好適に回避可能となる。これにより、「端面電極300の剥離防止」と「電池要素100と端面電極300との接触確保」のバランスのとれた両立が可能となる。
【0081】
一態様では、上記の領域B(電池要素100αと端面電極300αとの間における電池要素100αと絶縁緩衝層200αとが対向しない非対向領域)おいて、電極層10αと端面電極300αのみが直接対向していることが好ましい(図3および図4参照)。
【0082】
図3は、図4の断面Y-Y’ の方向からみた場合における本発明の一実施形態に係る固体電池を模式的に示す断面図である。図4は、本発明の一実施形態に係る固体電池を模式的に示す一部斜視図である。上述のように、対向領域Aの存在により、端面電極対向領域102αからの端面電極300αの剥離が好適に回避され得る。対向領域Bの存在により、電池要素100αの端面電極対向領域102αと端面電極300αとが接触可能となる。
【0083】
ここで、領域B内において、電極層10αと端面電極300αとが対向するのみならず固体電解質層20αと端面電極300αとが対向する場合、固体電解質層20αと端面電極300αとの対向部分は、固体電池1000αの充放電を実施するための電気的な接続ラインとして実質的に寄与しない部分となり得る。そこで、領域Bにおいて、電極層10αと端面電極300αのみを直接対向させる形態を採るならば、当該寄与しない部分を実質的に無くして領域Bを必要最小限の範囲とすることができる。そのため、固体電池1000αの充放電を実施するための電気的な接続ラインをより効率的に形成することができる。
【0084】
更に、この場合、電池要素100αの端面電極対向領域102α側にて、領域Bを必要最小限の範囲とすることができるので、領域A(電池要素100αと端面電極300αとの間における電池要素100αと絶縁緩衝層200αとが直接対向する対向領域)の範囲を相対的により大きくとることができる。その結果、「端面電極300αの剥離防止」できる範囲をより大きくとれるので、端面電極対向領域102αにおける電池要素100の端面101αの損傷防止可能な範囲がより大きくなり得る。
【0085】
[本発明の固体電池の製造方法]
以下、本発明の一実施形態に係る固体電池の製造方法について説明する。
【0086】
本発明の一実施形態に係る固体電池は、主としてグリーンシートを用いるグリーンシート法を用いて製造することができる。一態様では、グリーンシート法により所定の積層体を形成した上で、最終的に本発明の一実施形態に係る固体電池を製造することができる。なお、以下では、当該態様を前提として説明するが、これに限定されることなく、スクリーン印刷法、またはそれらの複合法等により所定の積層体を形成してもよい。
【0087】
(未焼成積層体の形成工程)
まず、各基材(例えばPETフィルム)上に固体電解質層用ペースト、正極材層用ペースト、正極集電体層用ペースト、負極材層用ペースト、負極集電体層用ペースト、絶縁部用ペースト、および保護層用ペーストを塗工する。
【0088】
各ペーストは、正極活物質、負極活物質、導電性材料、固体電解質材料、絶縁性物質、および焼結助剤から成る群から適宜選択される各層の所定の構成材料と、有機材料を溶剤に溶解した有機ビヒクルとを湿式混合することによって作製することができる。正極材層用ペーストは、例えば、正極活物質、導電材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含む。負極材層用ペーストは、例えば、負極活物質、導電材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含む。正極集電体層用ペースト/負極集電体層用ペーストとしては、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、およびニッケルから成る群から少なくとも一種選択されてよい。固体電解質層用ペーストは、例えば、固体電解質材料、焼結助剤、有機材料および溶剤を含む。保護層用ペーストは、例えば、絶縁性物質材料、有機材料および溶剤を含む。絶縁部用ペーストは、例えば絶縁性物質材料、有機材料および溶剤を含む。
【0089】
湿式混合ではメディアを用いることができ、具体的には、ボールミル法またはビスコミル法等を用いることができる。一方、メディアを用いない湿式混合方法を用いてもよく、サンドミル法、高圧ホモジナイザー法またはニーダー分散法等を用いることができる。
【0090】
所定の固体電解質材料と焼結助剤と、有機材料を溶剤に溶解した有機ビヒクルとを湿式混合することによって、所定の固体電解質層用ペーストを作製することができる。なお、既述のとおり、固体電解質材としては、例えば、ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物等が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物としては、Lixy(PO43(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも一種)が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、例えば、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO43等が挙げられる。ペロブスカイト構造を有する酸化物の一例としては、La0.55Li0.35TiO3等が挙げられる。ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物の一例としては、Li7La3Zr212等が挙げられる。
【0091】
正極材層用ペーストに含まれる正極活物質材としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、およびスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から少なくとも一種を選択する。
【0092】
絶縁部用ペーストに含まれる絶縁性物質材料としては、例えば、ガラス材、セラミック材等から構成され得る。保護層用ペーストに含まれる絶縁性物質材料としては、例えば、ガラス材、セラミックス材、熱硬化性樹脂材、光硬化性樹脂材等から成る群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0093】
ペーストに含まれる有機材料は特に限定されないが、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂およびポリビニルアルコール樹脂などから成る群から選択される少なくとも1種の高分子材料を用いることができる。溶剤は上記有機材料を溶解可能な限り特に限定されず、例えば、トルエンおよび/またはエタノールなどを用いることができる。
【0094】
負極材層用ペーストに含まれる負極活物質材としては、例えば、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、Nb、および、Moからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む酸化物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、およびスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から少なくとも一種から選択する。
【0095】
焼結助剤としては、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、酸化ホウ素、および酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種であり得る。
【0096】
塗工したペーストを、30~50℃に加熱したホットプレート上で乾燥させることで、基材(例えばPETフィルム)上に所定厚みを有する固体電解質層シート、正極材層を含む正極層シート、負極材層を含む負極層シート、および保護層シートをそれぞれ形成する。
【0097】
次に、各シートを基材から剥離する。剥離後、積層方向に沿って電池構成単位の各構成要素のシートを順に積層する。
【0098】
当該積層の段階において、電極シートの側部領域にスクリーン印刷により固体電解質部シート又は絶縁部シートを設ける。具体的には、電極シートの側部のうち後刻に端面電極が接続される部分を除く端面電極非接続部分を取り囲むように固体電解質部シート又は絶縁部シートを設ける。
【0099】
次いで、所定圧力(例えば約50~約100MPa)による熱圧着と、これに続く所定圧力(例えば約150~約300MPa)での等方圧プレスを実施することが好ましい。以上により、所定の未焼成積層体を形成することができる。
【0100】
(絶縁材の塗布工程)
所定の未焼成積層体の形成後、この未焼成積層体の表面に絶縁材を供する。具体的には、後刻に設置する端面電極と対向しない未焼成積層体の表面には絶縁材を連続して塗布する。一方、後刻に設置する端面電極と対向することとなる未焼成積層体の表面には絶縁材を断続的に供する。
【0101】
未焼成積層体の表面に供する絶縁材としては、絶縁性を有し、耐熱温度が300度以上900度以下であり、かつこの高温条件下でも酸化することなく0.2以下の低い大気中の摩擦係数(μ)を維持可能な材料であることが好ましい。かかる理由から、未焼成積層体の表面に供する絶縁材としては、窒化ホウ素、硫化モリブデン、および硫化タングステンから成る群から選択される少なくとも1種の材料であることが好ましい。断続的に絶縁材を供する方法としては、スプレー塗布、間欠塗工等が挙げられる。以上により、端面電極と対向することとなる表面に絶縁材が断続的に塗布された絶縁材付き未焼成積層体を得る。
【0102】
(焼成工程)
次に、上記絶縁材付き未焼成積層体を焼成に付す。当該焼成は、加熱した金型を用いて絶縁材付き未焼成積層体を加圧することで実施する。加圧に用いる金型としては、例えば100度以上250度以下、例えば200度で加熱した金型を用いる。以上により、焼成積層体を得ることができる。必要に応じて焼成積層体の個片化工程を更に付してもよい。
【0103】
(端面電極形成工程)
次に、焼成積層体の表面に絶縁材が断続的に供された部分と直接対向するように端面電極を形成する。即ち、絶縁材が断続的に供された部分上に位置するように端面電極を形成する。特に限定されるものではないが、端面電極としては、銀、金、プラチナ、アルミニウム、銅、スズ、およびニッケルから選択される少なくとも一種から構成されることが好ましい。
【0104】
正極側の端面電極については、焼成積層体における正極層露出側面に対して、物理的気相成長法(PVD)、化学的気相成長法(CVD)等の乾式めっき法により形成できる。物理的気相成長法(PVD)として、例えば、真空蒸着法、スパッタ法(特に、イオンビームスパッタ法)等が挙げられる。化学的気相成長法(CVD)として、例えば、熱CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。同様にして、負極側の端面電極については、焼成積層体における負極層露出側面に対して前記した乾式めっき法により形成できる。
【0105】
これに限定されることなく、端面電極については、焼成積層体における電極層露出側面に対して導電性ペーストを塗布して焼結することを通じて形成できる。なお、正極側および負極側の端面電極については、上記積層体の焼成後のみならず、焼成前、焼成と同時に行うこともできる。又、端面電極については通常上記の方法においてマスクを用いて形成することができる。例えば、イオンビームスパッタ装置を用いて、マスクに隠れている部分以外に端面電極を形成することができる。
【0106】
(下面電極の形成工程)
端面電極の形成後に続き、下面電極の形成を行う。具体的には、正極側の下面電極については、正極側の端面電極と電気的に接続されるように、例えば上記乾式めっき法により形成できる。同様に、負極側の下面電極については、負極側の端面電極と電気的に接続されるように、例えば上記乾式めっき法により形成できる。
【0107】
これに限定されることなく、正極側の下面電極については、導電性ペーストを塗布して焼結することを通じて形成できる。同様にして、負極側の下面電極については、導電性ペーストを塗布して焼結することを通じて形成できる。下面電極は上記の方法においてマスクを用いて形成することができる。例えば、イオンビームスパッタ装置を用いて、マスクに隠れている部分以外に下面電極を形成することができる。
【0108】
(被覆層の形成工程)
下面電極形成後に、端面電極焼成積層体を覆うように被膜層を形成する。被覆層の形成については、下面電極の形成後に限定されるものではなく、下面電極の形成前であることもできる。かかる被覆層は複数の層から構成され得るものである。被覆層を形成することで、パッケージ化された固体電池を得ることができる。「パッケージ化」とは、広義には、外部環境から保護する工程を意味し、狭義には、外部環境の水蒸気が固体電池の内部へと進入しないように、被覆層を形成する行為を意味する。
【0109】
各層の形成方法は特に限定されるものではないが、界面層は、例えば、界面層用塗液を塗布し、乾燥することにより形成できる。バリア層は、例えばバリア層用塗液を塗布し、乾燥することにより形成できるし、または上記の乾式めっき法によっても形成できる。緩衝層は、例えば緩衝層用塗液を塗布し、乾燥することにより形成できる。耐衝撃層は、例えば耐衝撃層用塗液を塗布し、乾燥することにより形成できる。上記塗液の塗布態様は種々の方法により実施することができる。例えば、浸漬塗布法、刷毛塗布法、ブレード塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ビード塗布法、エアーナイフ塗布法、カーテン塗布法等が挙げられる。
【0110】
以上により、本発明の一実施形態に係る固体電池を得ることができる(図1および図2参照)。上記の本発明の固体電池の特徴部分の欄で述べているように、得られた固体電池1000は絶縁緩衝層200を有して成る。当該絶縁緩衝層200は、被覆層400と電池要素100との間に位置しかつ電池要素100の端面を取り囲むように設けられている。かかる構成下で、得られた固体電池1000では、特に、電池要素100の端面電極対向領域102側に位置づける絶縁緩衝層200が電池要素100と端面電極300との間に挟みこまれかつ断続して設けられている。
【0111】
かかる絶縁緩衝層200の断続配置により、端面電極対向領域102側にて、(1)電池要素100と端面電極300との間に絶縁緩衝層200が位置づけられている領域と(2)電池要素100と端面電極300との間に絶縁緩衝層200が位置づけられていない領域とが形成されることとなる。
【0112】
(1)の絶縁緩衝層200が位置づけられている領域では、絶縁緩衝層200の緩衝の性質により電池要素100の膨張収縮に起因する応力を緩和しつつ膨張収縮する電池要素100を受容可能となっている。その結果、端面電極300の剥離が好適に回避され、それによって電池要素100の端面のうち端面電極対向領域102の損傷を好適に回避可能となる。一方、(2)の絶縁緩衝層200が位置づけられていない領域では、電池要素100と端面電極300とが直接対向可能となっている。その結果、電極層10と端面電極300との接触が好適に確保可能となり、固体電池1000の充放電を好適に実施するための電気的な接続ラインが確保され得る。
【0113】
更に、電池要素100の端面101の構成要素である端面電極対向領域102以外の端面電極が対向していない領域103では、同領域103と被覆層400との間に絶縁緩衝層200が位置づけられている。絶縁緩衝層200が応力緩和層として機能することで電池の充放電時における端面電極が対向していない領域103からの被覆層400の剥離が回避可能となっている。
【0114】
以上の事からも、得られた固体電池1000では、全体として電池要素100の端面101の損傷発生を抑止しつつ、電極層10と端面電極300との接触も好適に確保することができる。
【実施例
【0115】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0116】
[比較例]
(絶縁緩衝層無し)
固体電池として、電池要素と、絶縁緩衝層(即ち、絶縁部材)を設けることなく電池要素の端面に直接接するように設けられた端面電極と、端面電極付の電池要素を覆うように設けられた被覆層とを有するものを製造した。製造後、当該固体電池を充放電し、その後に固体電池を研磨して電池要素と被覆層との状態を確認した。具体的には、電池要素から被覆層が剥離しているか否かを確認した。その結果、電池要素の端面からの被覆層の剥離が見受けられた。
【0117】
[実施例]
実施例(絶縁緩衝層有り)
固体電池として、電池要素と、電池要素の端面と対向するように設けられた端面電極と、端面電極付の電池要素を覆うように設けられた被覆層と、当該被覆層と電池要素との間に位置しかつ電池要素を取り囲むように設けられた絶縁緩衝層とを有するものを製造した。特に、本実施例では、この絶縁緩衝層につき、電池要素の端面の端面電極対向領域側にて、電池要素と端面電極とに挟みこまれかつ断続して設けられるように配置した。製造後、当該固体電池を充放電し、その後に固体電池を研磨して電池要素と被覆層との状態を確認した。具体的には、電池要素から被覆層が剥離しているか否かを確認した。
【0118】
その結果、電池要素の端面からの被覆層の剥離が抑制されていることが分かった。これにより、絶縁緩衝層の断続配置による電極層と端面電極との接触確保に加え、電池要素の端面の損傷発生を抑止できることが分かった。即ち、電極層と端面電極との接触確保と電池要素の端面の損傷発生の抑止との両立が可能であることが分かった。
【0119】
実験例1
具体的には、電池要素と端面電極との間の絶縁材につき、電池要素の端面(端面電極対向領域に相当)に位置する電極層の総面積に対する絶縁材の形成面積の比率([%])が0.2%(0.1%よりも大きい)であるものを準備した。その結果、電池要素の端面、具体的には電池要素の端面電極対向領域からの被覆層の剥離が抑制されていることが分かった。
【0120】
実験例2
電池要素と端面電極との間の絶縁材につき、電池要素の端面(端面電極対向領域に相当)に位置する電極層の総面積に対する絶縁材の形成面積の比率([%])が90%(95%未満)であるものを準備した。その結果、電池要素の端面、具体的には電池要素の端面電極対向領域からの被覆層の剥離が抑制されていることが分かった。
【0121】
実験例3
電池要素と端面電極との間の絶縁材につき、電池要素の端面(端面電極対向領域に相当)に位置する電極層の総面積に対する絶縁材の形成面積の比率([%])が0.5%であるものを準備した。その結果、絶縁材の形成面積の比率([%])が0.5%である場合、電池要素の端面、具体的には電池要素の端面電極対向領域からの被覆層の剥離が見受けられなかった。更に、電池要素の端面、具体的には電池要素の端面電極対向領域と端面電極との間の好適な接触により、図5に示すように電池充放電後の電圧-容量曲線が安定となることが分かった。
【0122】
実験例4
電池要素と端面電極との間の絶縁材につき、電池要素の端面(端面電極対向領域に相当)に位置する電極層の総面積に対する絶縁材の形成面積の比率([%])が50%であるものを準備した。その結果、絶縁材の形成面積の比率([%])が50%である場合、電池要素の端面、具体的には電池要素の端面電極対向領域からの被覆層の剥離も見受けられなかった。更に、電池要素の端面、具体的には電池要素の端面電極対向領域と端面電極との間の好適な接触により、図5に示すものと同様に電池充放電後の電圧-容量曲線が安定となることが分かった。
【0123】
実験例5
電池要素と端面電極との間の絶縁材につき、電池要素の端面(端面電極対向領域に相当)に位置する電極層の総面積に対する絶縁材の形成面積の比率([%])が75%であるものを準備した。その結果、絶縁材の形成面積の比率([%])が0.5%である場合、電池要素の端面、具体的には電池要素の端面電極対向領域からの被覆層の剥離も見受けられなかった。更に、電池要素の端面、具体的には電池要素の端面電極対向領域と端面電極との間の好適な接触により、図5に示すものと同様に電池充放電後の電圧-容量曲線が安定となることが分かった。
【0124】
以上の事からも、電池要素と端面電極との間の絶縁材につき、端面電極対向領域に位置する電極層の総面積に対する絶縁材の形成面積の比率が0.1%よりも大きく95%未満、具体的には0.2%以上90%以下であれば、「端面電極の剥離防止」と「電池要素と端面電極との接触確保」の両立が可能となることが分かった。更に、絶縁材の形成面積の比率が好ましくは0.5%以上75%以下であれば、「端面電極の剥離防止」と「電池要素と端面電極との接触確保」の両立に加えて、電池充放電後の電圧-容量曲線もより安定することが分かった。
【0125】
なお、本実施例において、絶縁材として窒化ホウ素に代えて硫化モリブデン又は硫化タングステンを用いることもできると分かった。これら材料は、絶縁性を有し、耐熱温度が300度以上900度以下であり、かつこの高温条件下でも酸化することなく0.2以下の低い大気中の摩擦係数(μ)を維持可能な材料であるためである。
【0126】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の一実施形態に係る固体電池は、蓄電が想定される様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の一実施形態に係る固体電池は、モバイル機器などが使用される電気・情報・通信分野(例えば、携帯電話、スマートフォン、スマートウォッチ、ノートパソコンおよびデジタルカメラ、活動量計、アームコンピューター、電子ペーパーなどのモバイル機器分野)、家庭・小型産業用途(例えば、電動工具、ゴルフカート、家庭用・介護用・産業用ロボットの分野)、大型産業用途(例えば、フォークリフト、エレベーター、湾港クレーンの分野)、交通システム分野(例えば、ハイブリッド車、電気自動車、バス、電車、電動アシスト自転車、電動二輪車などの分野)、電力系統用途(例えば、各種発電、ロードコンディショナー、スマートグリッド、一般家庭設置型蓄電システムなどの分野)、医療用途(イヤホン補聴器などの医療用機器分野)、医薬用途(服用管理システムなどの分野)、ならびに、IoT分野、宇宙・深海用途(例えば、宇宙探査機、潜水調査船などの分野)などに利用することができる。
【符号の説明】
【0128】
10、10α 電極層
10A、10Aα 正極層
10B、10Bα 負極層
20、20α 固体電解質層
100、100α 電池要素
101、101α 電池要素の端面
102、102α 電池要素の端面の電極対向領域
103、103α 電池要素の端面の電極が対向していない領域
200、200α 絶縁緩衝層
300、300α 端面電極
400、400α 被覆層
500、500α 下面電極
1000、1000α 固体電池
A 電池要素と端面電極との間における電池要素と絶縁緩衝層とが直接対向する対向領域
B 電池要素と端面電極との間における電池要素と絶縁緩衝層とが対向しない非対向領域
図1
図2
図3
図4
図5