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特許7601124揮発性有機化合物管理装置、揮発性有機化合物管理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】揮発性有機化合物管理装置、揮発性有機化合物管理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/08 20120101AFI20241210BHJP
【FI】
G06Q50/08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023008917
(22)【出願日】2023-01-24
(65)【公開番号】P2024104605
(43)【公開日】2024-08-05
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩山 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 眞二
(72)【発明者】
【氏名】喜多 裕美
(72)【発明者】
【氏名】中原 みまえ
【審査官】田中 寛人
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-030567(JP,A)
【文献】特開2019-178977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材が施工される建築現場における揮発性有機化合物の空間濃度を管理する揮発性有機化合物管理装置であって、
前記各部材について、所定の換気回数で行われる、当該部材に対する揮発性有機化合物の放散速度の試験における換気期間の関数として、当該部材からの前記揮発性有機化合物の放散速度を記憶する放散速度記憶手段と、
前記各部材について、その施工日を取得する施工日取得手段と、
前記各部材について、その施工面積を取得する施工面積取得手段と、
前記各部材について、その施工日から所与の日付までの間に前記建築現場において所定の換気が実施される延べ期間を示す換気情報を取得する換気情報取得手段と、
前記所定の換気が前記試験における所定値の換気回数の換気に相当する場合において、前記各部材について、前記換気情報が示す前記延べ期間と、前記所定の換気回数と、前記所定値と、に基づいて、その施工日から前記所与の日付までの期間に相当する、前記試験における換気期間を取得する換気期間取得手段と、
前記放散速度記憶手段を参照して、前記各部材について、前記換気期間取得手段により取得される前記換気期間に応じた前記放散速度を取得する放散速度取得手段と、
前記各部材に係る前記放散速度と、前記各部材に係る前記施工面積と、前記所与の日付における前記建築現場の換気量と、に基づいて、前記所与の日付の前記建築現場における前記揮発性有機化合物の空間濃度を算出する空間濃度算出手段と、
を含む揮発性有機化合物管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の揮発性有機化合物管理装置において、
前記各部材の前記施工日は、施工計画データから取得される予定日である、揮発性有機化合物管理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の揮発性有機化合物管理装置において、
前記各部材の前記換気情報は、前記施工計画データから取得される、揮発性有機化合物管理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の揮発性有機化合物管理装置において、
前記各部材の前記施工日は、作業報告データから取得される現実の施工日である、揮発性有機化合物管理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の揮発性有機化合物管理装置において、
前記各部材の前記換気情報は、前記作業報告データから取得される、揮発性有機化合物管理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の揮発性有機化合物管理装置において、
前記各部材に係る前記換気情報は、当該部材の養生期間の情報を含む、揮発性有機化合物管理装置。
【請求項7】
請求項1に記載の揮発性有機化合物管理装置において、
前記各部材に係る前記換気情報は、当該部材の施工日から前記所与の日付までの間に換気設備により換気される日数及び換気量の情報を含む、揮発性有機化合物管理装置。
【請求項8】
請求項1に記載の揮発性有機化合物管理装置において、
前記換気期間取得手段は、前記各部材について、当該部材の施工日から前記所与の日付までの間の前記建築現場の温度又は湿度の少なくとも一方にさらに基づいて、前記換気期間を取得する、揮発性有機化合物管理装置。
【請求項9】
請求項1に記載の揮発性有機化合物管理装置において、
前記空間濃度算出手段は、前記各部材が前記建築現場に露呈しているか否かに基づいて、前記揮発性有機化合物の空間濃度を算出する、揮発性有機化合物管理装置。
【請求項10】
複数の部材が施工される建築現場における揮発性有機化合物の空間濃度を管理する揮発性有機化合物管理方法であって、
揮発性有機化合物管理装置の施工日取得手段が、前記各部材について、その施工日を取得する施工日取得ステップと、
前記揮発性有機化合物管理装置の施工面積取得手段が、前記各部材について、その施工面積を取得する施工面積取得ステップと、
前記揮発性有機化合物管理装置の換気情報取得手段が、前記各部材について、その施工日から所与の日付までの間に前記建築現場において所定の換気が実施される延べ期間を示す換気情報を取得する換気情報取得ステップと、
前記揮発性有機化合物管理装置の換気期間取得手段が、前記各部材について、所定の換気回数で行われる、当該部材に対する揮発性有機化合物の放散速度の試験において、前記所定の換気が所定値の換気回数の換気に相当する場合において、前記各部材について、前記換気情報が示す前記延べ期間と、前記所定の換気回数と、前記所定値と、に基づいて、その施工日から前記所与の日付までの期間に相当する、前記試験における換気期間を取得する換気期間取得ステップと、
前記揮発性有機化合物管理装置の放散速度取得手段が、前記各部材について、当該部材に対する前記試験における換気期間の関数として、当該部材からの前記揮発性有機化合物の放散速度を記憶する放散速度記憶手段を参照して、前記各部材について、前記換気期間取得手段により取得される前記換気期間に応じた前記放散速度を取得する放散速度取得ステップと、
前記揮発性有機化合物管理装置の空間濃度算出手段が、前記各部材に係る前記放散速度と、前記各部材に係る前記施工面積と、前記所与の日付における前記建築現場の換気量と、に基づいて、前記所与の日付の前記建築現場における前記揮発性有機化合物の空間濃度を算出する空間濃度算出ステップと、
を含む揮発性有機化合物管理方法。
【請求項11】
複数の部材が施工される建築現場における揮発性有機化合物の空間濃度を管理する揮発性有機化合物管理装置としてコンピュータを機能させるプログラムであって、
前記各部材について、所定の換気回数で行われる、当該部材に対する揮発性有機化合物の放散速度の試験における換気期間の関数として、当該部材からの前記揮発性有機化合物の放散速度を記憶する放散速度記憶手段、
前記各部材について、その施工日を取得する施工日取得手段、
前記各部材について、その施工面積を取得する施工面積取得手段、
前記各部材について、その施工日から所与の日付までの間に前記建築現場において所定の換気が実施される延べ期間を示す換気情報を取得する換気情報取得手段、
前記所定の換気が前記試験において所定値の換気回数の換気に相当する場合において、前記各部材について、前記換気情報が示す前記延べ期間と、前記所定の換気回数と、前記所定値と、に基づいて、その施工日から前記所与の日付までの期間に相当する、前記試験における換気期間を取得する換気期間取得手段、
前記放散速度記憶手段を参照して、前記各部材について、前記換気期間取得手段により取得される前記換気期間に応じた前記放散速度を取得する放散速度取得手段、及び
前記各部材に係る前記放散速度と、前記各部材に係る前記施工面積と、前記所与の日付における前記建築現場の換気量と、に基づいて、前記所与の日付の前記建築現場における前記揮発性有機化合物の空間濃度を算出する空間濃度算出手段
として前記コンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は揮発性有機化合物管理装置、揮発性有機化合物管理方法及びプログラムに関し、特に、建築現場における揮発性有機化合物の空間濃度の計算に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建築現場においては、建材や造作から生じる揮発性有機化合物の空間濃度を低減させる必要がある。空間濃度を管理すべき揮発性有機化合物としては、ホルムアルデヒドやTVOC(Total Volatile Organic Compounds:総揮発性有機化合物)が挙げられ、一般的には建物完成後にTVOC濃度の実測が行われ、目標値未満であることの確認が行われている。
【0003】
しかし、建物完成後にTVOC濃度が高いことが判明した場合、手直しや換気等の為に建物引渡しが遅れてしまう可能性がある。このため、建築中にTVOC濃度を随時把握できるようにすることが望ましいが、建築途中のTVOC濃度の実測は、所要時間や測定精度の面で現実的ではない。
【0004】
この点、実測によらずに揮発性有機化合物の空間濃度を得る方法として、建材からの揮発性有機化合物の放散速度をチャンバー試験により事前測定しておき、その値を用いてTVOC濃度の推定値又は予測値を計算により得る方法が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
住宅等の建築現場には、床材や天井材などの建材、或いは家具や建具などの造作といった複数の部材が施工されるが、それら部材の施工日は異なることが多い。そして、それぞれの部材から生じるTVOCは、施工日からの経過日数に従って、また施工後の換気状況に従って、徐々に少なくなる。しかしながら従来技術では、各部材について施工日や換気状況を考慮しておらず、TVOC濃度の推定値又は予測値を精度よく計算することができなかった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、複数の部材が施工される建築現場における、ホルムアルデヒドやTVOC等の揮発性有機化合物の空間濃度を精度よく計算することができる揮発性有機化合物管理装置、揮発性有機化合物管理方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る揮発性有機化合物管理装置は、複数の部材が施工される建築現場における揮発性有機化合物の空間濃度を管理する揮発性有機化合物管理装置であって、前記各部材について、当該部材に対する換気期間の関数として、当該部材からの前記揮発性有機化合物の放散速度を記憶する放散速度記憶手段と、前記各部材について、その施工日を取得する施工日取得手段と、前記各部材について、その施工面積を取得する施工面積取得手段と、前記各部材について、その施工日から所与の日付までの間に実施される換気に関する換気情報を取得する換気情報取得手段と、前記各部材について、前記換気情報に基づいて前記換気期間を取得する換気期間取得手段と、前記拡散速度記憶手段を参照して、前記各部材について、前記換気期間取得手段により取得される前記換気期間に応じた前記放散速度を取得する放散速度取得手段と、前記各部材に係る前記放散速度と、前記各部材に係る前記施工面積と、前記所与の日付における前記建築現場の換気量と、に基づいて、前記所与の日付の前記建築現場における前記揮発性有機化合物の空間濃度を算出する空間濃度算出手段と、を含む。
【0008】
(2)(1)に記載の揮発性有機化合物管理装置において、前記各部材の前記施工日は、施工計画データから取得される予定日であってよい。
【0009】
(3)(1)又は(2)に記載の揮発性有機化合物管理装置において、前記各部材の前記換気情報は、前記施工計画データから取得されてよい。
【0010】
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の揮発性有機化合物管理装置において、前記各部材の前記施工日は、作業報告データから取得される現実の施工日であってよい。
【0011】
(5)(4)に記載の揮発性有機化合物管理装置において、前記各部材の前記換気情報は、前記作業報告データから取得されてよい。
【0012】
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の揮発性有機化合物管理装置において、前記各部材に係る前記換気情報は、当該部材の養生期間の情報を含んでよい。
【0013】
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の揮発性有機化合物管理装置において、前記各部材に係る前記換気情報は、当該部材の施工日から前記所与の日付までの間に換気設備により換気される日数及び換気量の情報を含んでよい。
【0014】
(8)(1)~(7)のいずれかに記載の揮発性有機化合物管理装置において、前記換気期間取得手段は、前記各部材について、当該部材の施工日から前記所与の日付までの間の前記建築現場の温度又は湿度の少なくとも一方にさらに基づいて、前記換気期間を取得してよい。
【0015】
(9)(1)~(8)のいずれかに記載の揮発性有機化合物管理装置において、前記空間濃度算出手段は、前記各部材が前記建築現場に露呈しているか否かに基づいて、前記揮発性有機化合物の空間濃度を算出してよい。
【0016】
(10)本発明に係る揮発性有機化合物管理方法は、複数の部材が施工される建築現場における揮発性有機化合物の空間濃度を管理する揮発性有機化合物管理方法であって、前記各部材について、その施工日を取得する施工日取得ステップと、前記各部材について、その施工面積を取得する施工面積取得ステップと、前記各部材について、その施工日から所与の日付までの間に実施される換気に関する換気情報を取得する換気情報取得ステップと、前記各部材について、前記換気情報に基づいて換気期間を取得する換気期間取得ステップと、前記各部材について、当該部材に対する換気期間の関数として、当該部材からの前記揮発性有機化合物の放散速度を記憶する放散速度記憶手段を参照して、前記各部材について、前記換気期間取得手段により取得される前記換気期間に応じた前記放散速度を取得する放散速度取得ステップと、前記各部材に係る前記放散速度と、前記各部材に係る前記施工面積と、前記所与の日付における前記建築現場の換気量と、に基づいて、前記所与の日付の前記建築現場における前記揮発性有機化合物の空間濃度を算出する空間濃度算出ステップと、を含む。
【0017】
(11)本発明に係るプログラムは、複数の部材が施工される建築現場における揮発性有機化合物の空間濃度を管理する揮発性有機化合物管理装置としてコンピュータを機能させるプログラムであって、前記各部材について、当該部材に対する換気期間の関数として、当該部材からの前記揮発性有機化合物の放散速度を記憶する放散速度記憶手段、前記各部材について、その施工日を取得する施工日取得手段、前記各部材について、その施工面積を取得する施工面積取得手段、前記各部材について、その施工日から所与の日付までの間に実施される換気に関する換気情報を取得する換気情報取得手段、前記各部材について、前記換気情報に基づいて前記換気期間を取得する換気期間取得手段、前記拡散速度記憶手段を参照して、前記各部材について、前記換気期間取得手段により取得される前記換気期間に応じた前記放散速度を取得する放散速度取得手段、及び前記各部材に係る前記放散速度と、前記各部材に係る前記施工面積と、前記所与の日付における前記建築現場の換気量と、に基づいて、前記所与の日付の前記建築現場における前記揮発性有機化合物の空間濃度を算出する空間濃度算出手段として前記コンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数の部材が施工される建築現場における揮発性有機化合物の空間濃度を精度よく計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るTVOC管理システムの全体構成図である。
図2】TVOC表示画面の一例を示す図である。
図3】作業指示の一例を示す図である。
図4】作業報告の一例を示す図である。
図5】TVOC管理装置の機能ブロック図である。
図6】建築データベースの記憶内容を示す図である。
図7】試験データの一例を示す図である。
図8】放散速度関数の一例を示す図である。
図9】建築スケジュールデータの一例を示す図である。
図10】換気期間の計算例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係るTVOC管理システムの全体構成図である。同図に示すように、TVOC管理システム10は、インターネットなどの通信ネットワーク12に接続された現場職人用デバイス14、管理者用デバイス16及びTVOC管理装置100を含んでいる。TVOC管理システム10は、床材や壁材といった建材、或いはドアや棚などの造作といった、複数部材が施工される住宅等の建築現場におけるTVOCの空間濃度を管理するものである。以下では、TVOCの空間濃度を管理する建築現場として一般住宅の一室を一例として取り上げる。
【0022】
現場職人用デバイス14は、CPU、記憶装置、通信デバイス及びディスプレイ等を含むコンピュータであり、建築現場において作業する職人により使用される。現場職人用デバイス14は、日々作業報告を作成してそれをTVOC管理装置100にアップロードしたり、管理者用デバイス16によりTVOC管理装置100にアップロードされた作業指示をダウンロードし、それを画面に表示したりする。
【0023】
管理者用デバイス16も、CPU、記憶装置、通信デバイス及びディスプレイ等を含むコンピュータであり、建築現場での職人の作業を管理する管理者により使用される。管理者用デバイス16は、TVOC管理装置100により生成されるTVOC表示画面を表示させたり、管理者が職人に対する作業指示を作成したり、作成された作業指示をTVOC管理装置100にアップロードしたりする。
【0024】
TVOC管理装置100も、CPU、記憶装置、通信デバイス及びディスプレイ等を含むコンピュータである。TVOC管理装置100は、建築現場のTVOC濃度の推定値や予測値を算出し、それをTVOC表示画面として生成する。生成されるTVOC表示画面は、主に管理者用デバイス16に提供される。管理者は、管理者用デバイス16で表示されるTVOC表示画面を見て、TVOCに配慮した作業項目を含む、作業指示を作成し、それをTVOC管理装置100に送信する。この作業指示をTVOC管理装置100は現場職人用デバイス14に転送する。また、TVOC管理装置100は、現場職人用デバイス14から日々の作業報告を受信する。
【0025】
図2は、管理者用デバイス16で表示されるTVOC表示画面の一例を示す図である。同図に示すように、TVOC表示画面には、建築現場(住宅の一室)におけるTVOC濃度の推移を示すグラフが主に表されている。グラフの横軸は内装工事開始日からの経過日数を示しており、縦軸はTVOC濃度を示している。同図には、工事開始日から引渡日までの日々のTVOC濃度を示す濃度バーD1~D11,DFが示されている。ここで濃度バーDnは工事開始からn日目のTVOC濃度を示している(n=1~11)。また、濃度バーDFは引渡日のTVOC濃度を示している。各濃度バーの下側には、その日の工事を担う職人の情報が表示されている。
【0026】
縦軸の略中央には水平区分線L1が描かれており、この水平区分線L1より上に室内のTVOC濃度の情報が表されており、水平区分線L1より下に壁体内部のTVOC濃度の情報が現れている。建築現場におけるTVOCの空間濃度は、濃度バーDn,DFの水平区分線L1より上の部分の高さにより表される。
【0027】
例えば、工事開始から1日目は構造躯体と床下地材の施工が行われており、それらから放散されるTVOC濃度が濃度バーD1として表されている。構造躯体と床下地材は室内空間に露呈して施工されており、それぞれからTVOCが放散される。このため、濃度バーD1は構造躯体からの寄与部分と床下地材からの寄与部分とを含んでおり、それらはいずれも水平区分線L1の上側に配置されている。
【0028】
水平区分線L1の上方には目標TVOC濃度を示す基準線L3が表されている。濃度バーDnの頂点が基準線L3より上に位置する場合には、建築現場の窓を開放した場合の室内のTVOC濃度を示す補助濃度バーDAnが濃度バーDnの横に表されている(n=1,2,9,10,11)。例えば、工事開始から1日目の濃度バーD1の頂点は基準線L3より上に位置しているが、その横に補助濃度バーDA1が表されており、補助濃度バーDA1の頂点は基準線L3より下に位置している。これにより、窓を開放することによりTVOC濃度を基準以下に抑えることができることが分かる。
【0029】
また、工事開始から3日目のTVOC濃度は濃度バーD3に示されているが、この日は石膏ボードの施工が行われている。石膏ボード自体はTVOCを放散しないが、石膏ボードは、既に施工されている断熱材及び構造躯体を覆うことから、それらは室内空間に直接露呈しなくなる。この場合、室内空間に露呈してTVOCを放散しているのは床下地材のみとなる。
【0030】
本実施形態では、石膏ボードにより覆われた構造躯体及び断熱材の寄与は、濃度バーD3における水平区分線L1より下側の部分により表される。構造躯体及び断熱材のそれぞれの寄与部分の高さは、それらが室内空間に直接露呈している場合に想定される高さ(濃度寄与)と同じとしている。そして、断熱材及び構造躯体は石膏ボードにより覆われ、室内空間に直接露呈しないものの、部分的に室内空間に漏れ出ると考えられ、濃度バーD3の水平区分線L1より上側の部分に壁体内部寄与分Wを含めるようにしている。壁体内部寄与分Wの高さは、水平区分線L1の下側の部分の高さに補正率(10~80%)を乗じたものとなっている。これにより、水平区分線L1の上側には床下地材の寄与部分及び壁体内部寄与分Wが配置される。
【0031】
横軸には現時点を示す垂直区分線L2が表されており、垂直区分線L2より左側には過去のTVOC濃度の推定値の推移が、右側には将来のTVOC濃度の予測値の推移が、それぞれ表されている。
【0032】
工事開始から11日目に竣工が予定されているが、その日は換気無しでは目標TVOC濃度を下回らない。そこで本実施形態では、室内のTVOC濃度が目標TVOC濃度を下回る日までの日数を計算し、それをTVOC表示画面に表示するようにしている(符号X)。従って、竣工日から符号Xに示される日数を加算した日が引渡日となる。
【0033】
管理者は管理者用デバイス16に表示されたTVOC表示画面を見ながら担当職人に対する作業指示を作成し、TVOC管理装置100にアップロードする。この作業指示は現場職人用デバイス14によりダウンロードされ、該現場職人用デバイス14において表示される。図3は、現場職人用デバイス14において表示される作業指示の一例を示す図である。同図に示すように、作業指示は建築中の現場の建築図面20を含み、該建築図面20には指定された日における施工項目を示す施工指示アイコン21が表示されるとともに、TVOCの濃度低減の為に担当職人がその日にすべき作業(配慮作業)を示す配慮指示アイコン22が表示されている。施工指示アイコン21は施工場所に配置され、配慮指示アイコン22は配慮作業をなすべき場所(同図に例では窓の側)に配置される。アイコン22が示す具体的な作業内容は、図面の下に配置された指示文23でも表示される。担当職人は、作業指示を現場職人用デバイス14により表示させ、それにより日々の施工項目、及びTVOCの濃度低減の為の配慮作業を把握することができる。
【0034】
担当職人が一日の作業を終えると、現場職人用デバイス14により作業報告を作成する。図4は、作業報告の一例を示す図である。作業報告は現場職人用デバイス14からTVOC管理装置100にアップロードされる。管理者用デバイス16は適宜タイミングにて作業報告をダウンロードして表示させることができる。また、TVOC管理装置100は、作業報告を解析し、その内容をデータベースに登録する。
【0035】
図5は、TVOC管理装置100の機能ブロック図である。同図に示すように、TVOC管理装置100は、機能的には施工日取得部101、換気情報取得部102、換気期間取得部103、放散速度取得部104、施工面積取得部105、空間濃度算出部106、換気量取得部108、建築データベース109、作業報告受付部110、工程変更部111、作業指示部112及び空間濃度通知部113を含む。これらの機能は、本発明の実施形態に係るTVOC管理プログラムをコンピュータであるTVOC管理装置100が実行することにより実現される。TVOC管理プログラムは、半導体メモリなどの各種のコンピュータ可読情報記憶媒体に格納されてよく、該媒体からTVOC管理装置100にインストールされてよい。あるいは、通信ネットワーク12を介して他のコンピュータからダウンロードされてもよい。
【0036】
建築データベース109は、建築工事に関する各種データを記憶するデータベースである。図6は、建築データベース109の記憶内容を示す図である。同図に示すように、建築データベース109には、仕様書データ109Sと、図面データ109Dと、施工計画データ109Pと、作業報告データ109Rと、が含まれる。
【0037】
仕様書データ109Sは、部材データ109aと、換気設備データ109bと、試験データ109cと、を含む。部材データ109aは、現場の各空間(部屋)で使用する建材や造作などの部材の種類のデータである。換気設備データ109bは、各空間に備えられた換気設備の換気量のデータである。
【0038】
試験データ109cは、各部材についてTVOCの放散速度の試験結果のデータである。特に、試験データ109cは、各部材について、当該部材に対する換気期間の関数として、当該部材からのTVOCの放散速度を記憶する。図7は、ある部材の試験データの一例を示す図である。本実施形態では、TVOCを放散するすべての部材について、小型チャンバー試験を実施しており、同図に示すように、部材ごとにn日後の放散速度を試験結果として取得している。ここでnは換気期間であり、同図ではn=1,3,7としたが、14±1日後の放散速度、さらに28±2日後の放散速度を計測してもよい。換気回数を0.5±0.005回/時間とし、温度を28±1.0℃とし、相対湿度を50±5%として、小型チャンバー試験を実施してよい。なお、小型チャンバー試験に代えて、大型チャンバー試験を実施してもよい。
【0039】
本実施形態では、この試験結果のデータを用いて放散速度関数を求めており、各部材について、この放散速度関数の情報を試験データ109cとして記憶している。図8は、放散速度関数の一例を示す図である。放散速度関数は、放散速度を換気期間の関数として表したものである。例えばY=αXを近似曲線として(Yは拡散速度であり、Xは換気期間である。)、試験結果のデータに基づいてフィッティングパラメータであるα及びβを調整することで、近似曲線を試験結果のデータにフィッティングさせる。これにより放散速度関数を得ることができる。各部材について得られるパラメータα及びβを、放散速度関数を特定する情報として建築データベース109に格納してよい。
【0040】
図面データ109Bは、建築設計図面のデータを含み、特に各空間の各部材の施工面積(床面積、造作の表面積など)のデータを含む。施工計画データ109Pは、着工から引渡までの建築スケジュールのデータである。図9は、施工計画データ109Pの一例を示す図であり、図2に示すTVOC表示画面に対応している。図9に示すように、施工計画データ109Pは、どの部材をどの日に施工するか、どの部材をいつ養生するか、いつから換気設備を稼働させるかのデータを含んでいる。
【0041】
作業報告データ109Rは、現場の職人から日々送られてくる作業報告のデータを含む。作業報告は、各空間において施工した部材、施工済みの部材を養生したかどうか、養生を除去したかどうか、換気設備を稼働させた時間、窓開け換気をした時間、収納扉を開放した時間、を含む。
【0042】
施工日取得部101は、建材や建具などの部材のそれぞれについて、その施工日を建築データベース109から取得する。各部材の施工日は、当該部材がまだ施工されていない場合には、施工計画データ109Pから取得される予定日である。あるいは、既に施工されている場合には、作業報告データ109Rから取得される現実の施工日である。
【0043】
換気情報取得部102は、各部材について、その施工日から所与の濃度計算日までの間に実施される換気に関する換気情報を取得する。濃度計算日は、TVOC濃度の推定値又は予測値を算出しようとする日付である。TVOC表示画面を生成する場合、換気情報取得部102は、引渡日以前の各日付を濃度計算日として換気情報を取得してよい。換気情報は、各部材について養生をする予定の日数又はしていた日数、換気設備を稼働させる予定の日数又はしていた日数、換気設備による換気量、窓開け換気をする予定の日数又はしていた日数、施工済みの収納扉を開放する予定の日数又はしていた日数を含む。なお、養生は、養生の対象となった部材に関する換気情報であり、収納扉の開放日数は、当該収納扉に関する換気情報である。一方、換気設備の稼働日数並びに換気量、及び窓開け換気の日数は、すべての部材に関する換気情報である。各部材の換気情報は、過去の日付についてであれば、作業報告データ109Rから取得することができる。また、現在以降の日付についてであれば、施工計画データ109Pから取得することができる。換気設備の換気量は、換気設備データ109bから取得することができる。
【0044】
換気期間取得部103は、各部材について、各部材に関する施工日及び換気情報に基づいて換気期間を計算により取得する。ここで取得される換気期間は、小型チャンバー試験で各部材を何日間にわたって換気したことに相当する換気が行われたかを示す。
【0045】
図10は、ある部材に関する換気期間の計算例を示す図である。同図には、ある建材を施工してから濃度計算日まで30日あり、うち15日(15時間に相当する延べ時間)は窓開け換気を行い、うち10日(10日に相当する延べ時間)は換気設備を稼働させた例が示されている。窓開け換気を行った15日のうち7日(7日に相当する延べ時間)は該当建材について養生を行っており、換気設備を稼働させていた10日のうち5日(5日に相当する延べ時間)は該当建材について養生を行っていたものとする。漏気は0.1回/時間の換気に相当するものとする。この値は住宅の気密性に応じて適宜変更してよい。また窓開け換気は1.0回/時間の換気に相当するものとする。この値は、室内空間の体積及び窓開け換気による流入風量に基づいて計算することができる。換気設備の稼働は0.6回/時間の換気に相当するものとする。この値も、室内空間の体積及び換気設備による流入風量に基づいて計算することができる。小型チャンバー試験では、上述のように0.5回/時間の換気が行われたものとする。
【0046】
以上の条件によれば、窓開け換気により(15-7)×(1.0/0.5)=16日の換気が行われたことになる。また換気設備の稼働により(10-5)×(0.6/0.5)=6日の換気が行われたことになる。また漏気により30×(0.1/0.5)=6日の換気が行われたことになる。以上により合計の換気期間は28日間となる。
【0047】
なお、以上の説明では、漏気については養生の影響がないものとしたが、養生の期間を除いて漏気があるものとして、(30-7-5)×(0.1/0.5)=3.6日の換気が行われたことにしてもよい。この場合、合計の換気期間は25.6日間となる。
【0048】
換気期間取得部103は、各部材について、当該部材の施工日から濃度計算日までの間の現場の温度又は湿度の少なくとも一方にさらに基づいて、換気期間を計算してもよい。すなわち小型チャンバー試験は、温度が28±1.0℃、相対湿度が50±5%の条件で行われていることから、現場の温度が28℃より高い場合には換気期間が短くなるように、現場の相対湿度が50%より高い場合には換気期間が長くなるように補正係数を決定し、該補正係数を用いて換気期間を補正してもよい。ここで、補正係数はBerge式又は井上式を用いて計算してよい。一例として、井上式を次式により示す。
【0049】
【数1】
【0050】
ここで^はべき乗を示す。C0は小型チャンバー試験で測定される空間濃度であり、Cは現場で測定される空間濃度である。T0は小型チャンバー試験の条件である温度(28℃)であり、Tは現場の温度である。H0は小型チャンバー試験の条件である相対湿度(50%)であり、Hは現場の相対湿度である。例えば、建築現場の平均温度が24℃であり平均湿度が40%であれば、C0の値は1.4となり、現場の温度及び湿度により補正した換気期間は20日(=28日÷1.4)となる。
【0051】
放散速度取得部104は、建築データベース109の試験データ109cを参照して、各部材について、換気期間取得部103により取得される換気期間に応じた放散速度を取得する。すなわち、図8に示すような放散速度関数の情報が試験データ109cとして建築データベース109にあらかじめ記憶されているので、放散取得部104は、換気期間取得部103により取得される換気期間を代入することにより、対応する放散速度を算出する。
【0052】
施工面積取得部105は、各部材について、建築データベース109の図面データ109Dを参照して、その施工面積を取得する。
【0053】
換気量取得部108は、建築データベース109の換気設備データ19bを参照して、建築現場の濃度計算日における換気量を取得する。
【0054】
空間濃度算出部106は、各部材の放散速度と、各部材の施工面積と、濃度計算日における建築現場の換気量と、に基づいて、現場におけるTVOC濃度を計算する。ここで、各部材の放散速度は放散速度取得部104から入力される。各部材の施工面積は施工面積取得部105から入力される。建築現場の換気量は換気量取得部108から入力される。これら入力される情報を次式に代入することにより、空間濃度算出部106は濃度計算日における現場のTVOC濃度Cを取得する。
【0055】
【数2】
【0056】
ここでYは各部材の放散速度である。Sは各部材の施工面積である。Σはすべての部材についての和である。またQは建築現場の換気量である。
【0057】
なお、上述のように、建築現場において、建築空間に露呈している部材と、壁体内部にある部材と、がある場合には、それぞれ分けてTVOC濃度を計算する。そして、壁体内部の部材に対応するTVOC濃度に補正率(10~80%)を乗算することにより、壁体内部の部材に由来する寄与部分Wを計算する。この寄与部分Wを、建築空間に露呈している部材に対応するTVOC濃度に加算することにより、現場の最終的なTVOC濃度を算出する。なお、上記補正率は、現場の換気状況に基づいて決定されてよい。例えば、第3種換気の場合や局所換気の場合には、負圧の影響により、大きな補正係数(例えば80%)としてよい。また第1種換気の場合や窓開け換気の場合には、逆に小さな補正係数(例えば10%)としてよい。また換気していない場合には、その間の補正係数(例えば30%)としてよい。
【0058】
空間濃度通知部113は、空間濃度算出部106により算出されるTVOC濃度を管理者用デバイス端末16に送信する。この時、空間濃度算出部106により算出されるTVOC濃度に基づいて、図2に示すTVOC表示画面を生成し、それを管理者用デバイス16に送信してよい。
【0059】
作業報告受付部110は、現場職人用デバイス14から作業報告を受信し、その内容を作業報告データ109Rとして登録する。作業指示部112は、管理者用デバイス16から作業指示を受信し、それを現場職人用デバイス14に送信する。管理者用デバイス16において作業指示を作成させるため、作業指示部112は、建築データベース109に格納された施工計画データ109Dの一部又は全部を適宜管理者用デバイスに送信してよい。
【0060】
工程変更部111は、管理者用デバイス16からの指示に従って、施工計画データ109Dを変更する。上述のように、管理者用デバイス16には建築現場のTVOC濃度が通知されるようになっているので、管理者はその情報を見て、建築施工計画を変更すべきと考える場合がある。このような場合、工程変更部111は管理者用デバイス16からの変更要求を受け付け、それに従って、TVOC濃度が目標TVOC濃度未満となるよう、施工計画データ109Dを変更する。
【0061】
以上説明したTVOC管理システム10によれば、多数の部材が施工される建築現場におけるTVOCの空間濃度を、各部材の施工日やその後の換気状況を踏まえて、精度よく計算することができる。これにより、管理者や担当職人に注意を促したり、施工計画の改善や配慮作業の実施に役立てたりすることができる。
【0062】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更実施が可能である。例えば、本発明はTVOCだけでなく、単体の揮発性有機化合物、例えばホルムアルデヒドの空間濃度の計算にも適用することができる。
【0063】
また、建築現場に施工される部材のみならず、家具などの建築現場に搬入及び設置される部材についても、上記と同様にしてそのTVOC濃度を計算することができる。
【0064】
さらに、以上の説明では各部材の施工日を起算日として換気期間を計算したが、各部材の製造日を起算日として換気期間を計算してもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 TVOC管理システム、12 通信ネットワーク、14 現場職人用デバイス、16 管理者用デバイス、20 建築図面、21 施工指示アイコン、22 配慮指示アイコン、23 指示文、100 TVOC管理装置、101 施工日取得部、102 換気情報取得部、103 換気期間取得部、104 放散速度取得部、105 施工面積取得部、106 空間濃度算出部、108 換気量取得部、109 建築データベース、110 作業報告受付部、111 工程変更部、112 作業指示部、113 空間濃度通知部。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10