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特許7601146制御装置、制御システム、方法、プログラム、および車両
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  • 特許-制御装置、制御システム、方法、プログラム、および車両 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】制御装置、制御システム、方法、プログラム、および車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/00 20060101AFI20241210BHJP
   B60W 30/045 20120101ALI20241210BHJP
   B60W 40/072 20120101ALI20241210BHJP
   B60W 40/114 20120101ALI20241210BHJP
   B60W 50/06 20060101ALI20241210BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20241210BHJP
【FI】
B60W50/00
B60W30/045
B60W40/072
B60W40/114
B60W50/06
B60W60/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023111942
(22)【出願日】2023-07-07
(62)【分割の表示】P 2018161525の分割
【原出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2023121864
(43)【公開日】2023-08-31
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 陽次
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第7243757(JP,B2)
【文献】特許第7314485(JP,B2)
【文献】特開2011-162004(JP,A)
【文献】特開2017-030472(JP,A)
【文献】特開2005-186762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 50/00
B60W 30/045
B60W 40/072
B60W 40/114
B60W 50/06
B60W 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、前記車両の運動に関わる複数のアクチュエータシステムを制御する制御装置であって、
前記車両に搭載される複数の運転支援システムから複数の目標回転半径を受け付け、前記複数の目標回転半径を調停する調停部と、
前記調停部による調停結果及び前記複数のアクチュエータシステムからフィードバックされる情報に基づいて操舵角を算出する算出部と、
前記操舵角を前記複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する分配部と、を備え
前記複数のアクチュエータシステムからそれぞれフィードバックされる情報は、各前記アクチュエータシステムによる制御実現結果及び各前記アクチュエータシステムのアベイラビリティのうち少なくとも1つである、制御装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記調停部による調停結果及び前記複数のアクチュエータシステムからフィードバックされる情報に加えて、さらに前記車両に備えられたセンサーから入力する前記車両の運動に関する情報に基づいて前記操舵角を算出する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記車両に搭載され、前記車両の運動に関わる複数のアクチュエータシステムと、前記複数のアクチュエータシステムを制御する制御装置とを含む制御システムであって、
前記制御装置は、
前記車両に搭載される複数の運転支援システムから複数の目標回転半径を受け付け、前記複数の目標回転半径を調停する調停部と、
前記調停部による調停結果及び前記複数のアクチュエータシステムからフィードバックされるアベイラビリティ情報に基づいて操舵角を算出する算出部と、
前記操舵角を前記複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する分配部と、を備え、
前記複数のアクチュエータシステムからそれぞれフィードバックされる情報は、各前記アクチュエータシステムによる制御実現結果及び各前記アクチュエータシステムのアベイラビリティのうち少なくとも1つであり、
前記複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つは、ステアリングシステムであり、
前記ステアリングシステムは、前記操舵角とドライバーのステアリング操作に応じた指令値とに基づいて、所定のステアリングドライバーモデルに従ったステアリングの制御を行う、制御システム。
【請求項4】
車両に搭載され、前記車両の運動に関わる複数のアクチュエータシステムを制御する制御装置のコンピューターが実行する方法であって、
前記車両に搭載される複数の運転支援システムから複数の目標回転半径を受け付け、前記複数の目標回転半径を調停するステップと、
前記調停するステップにおける調停結果及び前記複数のアクチュエータシステムからフィードバックされる情報に基づいて操舵角を算出するステップと、
前記操舵角を前記複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配するステップと、を含み、
前記複数のアクチュエータシステムからそれぞれフィードバックされる情報は、各前記アクチュエータシステムによる制御実現結果及び各前記アクチュエータシステムのアベイラビリティのうち少なくとも1つである、方法。
【請求項5】
車両に搭載され、前記車両の運動に関わる複数のアクチュエータシステムを制御する制御装置のコンピューターに実行させるプログラムであって、
前記車両に搭載される複数の運転支援システムから複数の目標回転半径を受け付け、前記複数の目標回転半径を調停するステップと、
前記調停するステップにおける調停結果及び前記複数のアクチュエータシステムからフィードバックされる情報に基づいて操舵角を算出するステップと、
前記操舵角を前記複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配するステップと、を含み、
前記複数のアクチュエータシステムからそれぞれフィードバックされる情報は、各前記アクチュエータシステムによる制御実現結果及び各前記アクチュエータシステムのアベイラビリティのうち少なくとも1つである、プログラム。
【請求項6】
複数の運転支援システムと、
車両の運動に関わる複数のアクチュエータシステムと、
求項1に記載の制御装置と、を搭載した、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運動を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両で発生する車両の運動に関する複数の要求を調整して、調整結果に応じてアクチュエーターの動作を管理することができる車両が知られている。例えば、特許文献1には、アクチュエーターのアベイラビリティに応じて複数の要求を調整して、車両の運動を最適に制御する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-096619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された制御装置では、車両の横方向運動を制御するアクチュエーター指令値を、ヨーレートの要求値に基づいて算出している。このため、自動駐車時などの極低速で走行している状態ではステアリングの操舵角が大きくてもヨーレートの要求値が小さくなるため、要求値をアクチュエーター指令値に適切に変換することができない。すなわち、ヨーレートを用いた横方向運動の制御では、車両の走行状態によってはアクチュエーター指令値を精度よく算出することができない場合がある。
【0005】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、車両の走行状態に拘わらず車両の横方向運動に関するアクチュエーター指令値を精度よく算出できる車両運動制御装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、車両に搭載され、車両の運動を制御する制御装置であって、複数の運転支援システムから複数の目標横方向加速度を受け付け、複数の目標横方向加速度を調停する調停部と、調停部による調停結果およびアクチュエータシステムからフィードバックされる情報に基づいて操舵角を算出する算出部と、操舵角を複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する分配部と、を備える、制御装置である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の車両運動制御装置によれば、車両の走行状態に拘わらず、車両の横方向運動に関するアクチュエーター指令値(要求)を精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る車両運動制御装置の機能ブロックを示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
[概要]
本発明に係る車両運動制御装置は、各システムから車両の横方向運動に関する要求を横方向加速度と曲率で受け付ける。これにより、回転方向を運動学的単位である曲率で処理できるので、車両の走行状態に拘わらず車両の横方向運動に関するアクチュエーター指令値を精度よく算出できる。
【0010】
[構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る車両運動制御装置20とその周辺の構成の機能ブロック図である。図1に例示した車両運動制御装置20は、要求受付部21と、フィードバック制御部22と、変換送信部23と、を備えている。
【0011】
車両運動制御装置20は、運転支援ECU10からの要求及びセンサー部50から取得される情報に基づいて、車両の「走る」「曲がる」「止まる」といった車両の運動に関する制御内容を決定する。そして、車両運動制御装置20は、決定した制御内容に基づいて、自らが管理しているステアリング制御ECU31、ブレーキ制御ECU32、及びパワートレイン制御ECU33などに対して必要な指令を行い、ステアリング41、ブレーキ42、及びパワートレイン(又はインホイールモータ)43などの車両の運動に関わるアクチュエーターを適切に制御する。
【0012】
運転支援ECU10は、ドライバーの運転をサポートするために各種の制御を行うユニットであり、一例として自動運転システム11、自動駐車システム12、及び予防安全システム13などを含む。これらのシステムは、各システムで制御目標となる車両の動きを少なくとも、縦方向(車両前後方向)及び横方向(車両幅方向)の移動については運動力学的単位である縦方向加速度Ax及び横方向加速度Ayによって、回転方向の移動については運動学的単位である曲率Rによって、車両運動制御装置20に要求するように構成される。なお、曲率Rの代わりに、回転半径r(=1/R)を用いてもよい。
【0013】
センサー部50は、車両の運動に関する情報を取得する各種のセンサーであり、一例として車速を測定できる車輪速センサーや、ヨーレートや縦横方向の加速度を測定できるシャシーセンサーなどを含む。
【0014】
要求受付部21は、運転支援ECU10から1つ又は複数の要求を受け付けて、この受け付けた要求を調停又は選択して最適な1つの縦方向加速度Ax、横方向加速度Ay、曲率Rによる要求(Ax、Ay、R)を出力する。要求受付部21は、横方向運動の制御に関しては、横方向加速度Ay及び曲率Rの少なくとも1つを含む要求を受け付ければよい。
【0015】
フィードバック制御部22は、要求受付部21が出力する最適な1つの要求(Ax、Ay、R)と、ステアリング制御ECU31、ブレーキ制御ECU32、及びパワートレイン制御ECU33などからフィードバックされるアクチュエーター情報(制御実現結果、アベイラビリティなど)と、センサー部50から入力する車両の運動に関する情報とに基づいて、フィードバック結果などを加味した縦方向加速度Ax、横方向加速度Ay、曲率Rを演算する。例えば、横方向加速度Ayは、車両に設置された横Gセンサーからフィードバックされる測定値に基づいて演算することができる。曲率Rは、横Gセンサーと車輪速センサーとからフィードバックされる測定値によって推定される曲率に基づいて演算することができる。
【0016】
変換送信部23は、フィードバック制御部22で演算された要求(Ax、Ay、R)を、ステアリング41、ブレーキ42、及びパワートレイン43などの車両の運動に関わる1つ以上のアクチュエーターに配分する指令値として、各アクチュエーターの動作特性に応じた操作量(制動力Fx、操舵角δなど)の単位に変換する。そして、変換送信部23は、変換した指令値を該当するアクチュエーターを動作させる各制御ECUにそれぞれ送信する。
【0017】
ステアリング制御ECU31は、変換送信部23から受信する指令値とドライバーのステアリング操作に応じた指令値とに基づいて、所定のステアリングドライバーモデルに従ったステアリング41の制御を実施する。ブレーキ制御ECU32は、変換送信部23から受信する指令値とドライバーのブレーキ操作に応じた指令値とに基づいて、所定のブレーキドライバーモデルに従ったブレーキ42の制御を実施する。パワートレイン制御ECU33は、変換送信部23から受信する指令値とドライバーのアクセル操作に応じた指令値とに基づいて、所定のアクセルドライバーモデルに従ったパワートレイン43の制御を実施する。
【0018】
本実施形態に係る車両運動制御装置20は、例えばこのブレーキ制御ECU32内に構成することができる。また、運転支援ECU10に含まれる各システムや、車両運動制御装置20が管理する各制御ECU及び各アクチュエーターは、図示したものに限られるものではない。なお、各ECUは、CANなどの車内ネットワークを介して相互に通信可能に接続されている。
【0019】
[実施例]
以下、車両の横方向の運動制御を例に挙げて、運転支援ECU10の各システムからどのような要求が車両運動制御装置20へ出力されるのか、また車両運動制御装置20によってどのように各アクチュエーターを制御して要求が実現されるかを、具体的に幾つか説明する。
【0020】
<要求例1>
予防安全システム13は、レーンキープ制御機能によって、直線の道路を走行車線のセンターを維持して走行させるために車両を加速度Yで横方向へ移動させたい場合には、横方向加速度Ay=Yかつ曲率R=0(又は曲率の要求なし)を、車両運動制御装置20に要求する。
【0021】
<要求例2>
予防安全システム13は、レーンキープ制御機能によって、曲率Xでカーブしている道路を走行車線のセンターを維持して走行させるために車両を加速度Yで横方向へ移動させたい場合には、横方向加速度Ay=Yかつ曲率R=Xを、車両運動制御装置20に要求する。
【0022】
<要求例3>
自動駐車システム12は、自動駐車制御機能によって、極低速で曲率Xの軌道により車両を移動させたい場合には、横方向加速度Ay=0(又は横方向加速度の要求なし)かつ曲率R=Xを、車両運動制御装置20に要求する。
【0023】
<実現例1>
運転支援ECU10からの運動要求をステアリング41の操舵だけで実現させる場合、車両運動制御装置20は、横方向加速度Ayとセンサー部50から取得した現在の車速Vxとに基づいて、要求された横方向加速度Ayに応じた曲率Ry(=Ay/Vx)を計算する。そして、車両運動制御装置20は、算出した曲率Ryと要求された曲率Rとに基づいて曲率R(=R+Ry)を算出し、算出した曲率Rからステアリング41の操舵角δを演算する。
【0024】
<実現例2>
運転支援ECU10からの運動要求を、4輪操舵機能(4WS)を有するステアリング41の操舵で実現させる場合、車両運動制御装置20は、上述した実現例1の手法によってステアリング41の操舵角δを演算する。ただし、運転支援ECU10からの運動要求が横方向加速度Ayだけで曲率Rがない場合には、車両運動制御装置20は、車両の前輪と後輪とを同位相の操舵制御とした上で、要求された横方向加速度Ayを操舵角速度に変換する。これにより、横方向加速度Ayをステアリング41の操舵で実現できる。
【0025】
<実現例3>
インホイールモータ43を搭載した車両において、インホイールモータ43の左右トルク差制御で生じるモーメントは、曲率Rを制御するフィードバック微分項にあたる。このため、運転支援ECU10からの運動要求をインホイールモータ43の駆動で実現させる場合、車両運動制御装置20は、インホイールモータ43を微分項分の実現手段として分離して要求する(dR=dVx/dω)。
【0026】
[作用・効果]
以上のように、本発明の一実施形態に係る車両運動制御装置20によれば、運転支援ECU10からの車両の運動に関する要求のうち、回転方向を運動学的単位である曲率Rで受け付けて処理することができる。これにより、例えば極低速走行においてステアリング41を大きく操舵しても横方向運動に関する要求値が小さくならないため、要求値をアクチュエーター指令値に適切に変換することが可能となる。従って、ヨーレートを用いた横方向運動の制御と比べて、車両の走行状態に拘わらず車両の横方向運動に関するアクチュエーター指令値を精度よく算出することができる。
【0027】
また、本実施形態に係る車両運動制御装置20は、要求元であるシステムの機能に拘わらず同じ単位で横方向運動の要求を扱うことができるので、フィードバック制御部22を1つにまとめることができ、また変換送信部23も1つにまとめることができる。また、曲率Rは、運動力学的単位への変換も可能であるため、所定の制御(例えば安定化制御)と横方向運動制御との協調が必要な場合にも対応することができる。
【0028】
なお、本発明は、車両運動制御装置として捉えるだけでなく、車両運動制御装置のコンピューターが実行する方法、プログラム、あるいは、車両運動制御装置を搭載した車両として捉えることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、車両の運動を制御するシステムに有用である。
【符号の説明】
【0030】
10 運転支援ECU
11 自動運転システム
12 自動駐車システム
13 予防安全システム
20 車両運動制御装置
21 要求受付部
22 フィードバック制御部
23 変換送信部
31 ステアリング制御ECU
32 ブレーキ制御ECU
33 パワートレイン制御ECU
41 ステアリング
42 ブレーキ
43 パワートレイン(インホイールモータ)
50 センサー部
図1