(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】デジタルキーシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/76 20060101AFI20241210BHJP
G01S 11/06 20060101ALI20241210BHJP
E05B 49/00 20060101ALI20241210BHJP
B60R 25/24 20130101ALI20241210BHJP
【FI】
G01S13/76
G01S11/06
E05B49/00 K
B60R25/24
(21)【出願番号】P 2023127629
(22)【出願日】2023-08-04
(62)【分割の表示】P 2019213599の分割
【原出願日】2019-11-26
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】関谷 洋平
(72)【発明者】
【氏名】三治 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】篠田 卓士
(72)【発明者】
【氏名】中島 和洋
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 慶
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065610(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0273088(US,A1)
【文献】特開2019-100797(JP,A)
【文献】特開2017-085454(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0086252(KR,A)
【文献】特開2019-121949(JP,A)
【文献】特開2010-165067(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0357846(US,A1)
【文献】特表2019-508912(JP,A)
【文献】特開2019-015643(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0234978(US,A1)
【文献】国際公開第2014/119142(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 11/00-11/16,
G01S 13/00-13/95,
B60R 25/24,
E05B 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(Hv)に対するデジタルキーとして使用可能な携帯端末(2)と、
前記車両に搭載され、前記携帯端末と通信する車載システム(1、101)とを備え、
前記車載システムは、前記携帯端末が送信する電波に基づいて前記車両に対する前記携帯端末の距離を推定し、推定した距離に基づいて前記携帯端末による前記車両に搭載された車載装置の操作を許可するか否かを決定するデジタルキーシステムであって、
前記車載システムは、前記車両に搭載された車載通信機(12、13、19)を用いた無線通信により、前記車両の外部から前記携帯端末の距離に影響する前記携帯端末に固有の端末固有情報を取得する端末固有情報取得部(F4)と、
前記端末固有情報取得部が取得した前記端末固有情報と、前記携帯端末が送信する電波をもとに決定される距離情報とに基づいて、前記携帯端末の距離を推定する距離推定部(F5)とを備え、
前記端末固有情報は、前記携帯端末が、前記車載システムが送信する電波を受信してから、受信した電波に応答する応答電波を送信するまでの内部処理時間
を含み、
前記距離推定部は、前記車載システムが前記携帯端末に電波を送信してから前記車載システムが前記応答電波を受信するまでの経過時間(Tp)を距離情報とし、前記経過時間と前記内部処理時間とに基づいて前記携帯端末の距離を推定し、
前記携帯端末は、前記端末固有情報を記憶しており、
前記端末固有情報取得部は、前記端末固有情報
としての前記内部処理時間を前記携帯端末から無線通信により取得
し、
また、前記端末固有情報は、前記携帯端末が送信する電波の送信電力を含み、
前記距離推定部は、前記携帯端末が送信する電波を前記車載システムが備える受信機が受信したときの受信電力を前記距離情報とし、前記送信電力に対する前記受信電力の電力減衰率に基づいて前記携帯端末の距離を推定し、
前記端末固有情報取得部は、前記端末固有情報としての前記送信電力を、前記送信電力を記憶しているサーバ(3)から取得し、
前記サーバは、前記携帯端末が前記デジタルキーであることを前記車載システムが認証するための認証情報を前記車載システムに送信し、
前記サーバは、前記認証情報を送信するときに、前記端末固有情報としての前記送信電力も前記車載システムに送信する、デジタルキーシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のデジタルキーシステムであって、
前記内部処理時間は、前記携帯端末により計測される、デジタルキーシステム。
【請求項3】
車両(Hv)に対するデジタルキーとして使用可能な携帯端末(2)と、
前記車両に搭載され、前記携帯端末と通信する車載システム(1、101)とを備え、
前記車載システムは、前記携帯端末が送信する電波に基づいて前記車両に対する前記携帯端末の距離を推定し、推定した距離に基づいて前記携帯端末による前記車両に搭載された車載装置の操作を許可するか否かを決定するデジタルキーシステムであって、
前記車載システムは、前記車両に搭載された車載通信機(12、13、19)を用いた無線通信により、前記車両の外部から前記携帯端末の距離に影響する前記携帯端末に固有の端末固有情報を取得する端末固有情報取得部(F4)と、
前記端末固有情報取得部が取得した前記端末固有情報と、前記携帯端末が送信する電波をもとに決定される距離情報とに基づいて、前記携帯端末の距離を推定する距離推定部(F5)とを備え、
前記端末固有情報は、前記携帯端末が送信する電波の送信電力であり、
前記距離推定部は、前記携帯端末が送信する電波を前記車載システムが備える受信機が受信したときの受信電力を前記距離情報とし、前記送信電力に対する前記受信電力の電力減衰率に基づいて前記携帯端末の距離を推定
し、
前記端末固有情報取得部は、前記端末固有情報を、前記端末固有情報を記憶しているサーバ(3)から取得し、
前記サーバは、前記携帯端末が前記デジタルキーであることを前記車載システムが認証するための認証情報を前記車載システムに送信し、
前記サーバは、前記認証情報を送信するときに、前記端末固有情報も前記車載システムに送信する、デジタルキーシステム。
【請求項4】
請求項
3に記載のデジタルキーシステムであって、
前記携帯端末は、前記サーバと通信する広域通信部(23)を備え、前記広域通信部から前記端末固有情報を前記サーバへ送信し、
前記サーバは、前記携帯端末から送信された前記端末固有情報を記憶するサーバ記憶部(32)を備える、デジタルキーシステム。
【請求項5】
請求項
3に記載のデジタルキーシステムであって、
前記サーバは、前記携帯端末の型式別に前記端末固有情報を記憶するサーバ記憶部(32)を備える、デジタルキーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
デジタルキーシステムおよびデジタルキーシステムが備える車載システムに関し、特に、車両用であって、携帯端末までの距離を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線機が送信する電波を利用して、無線機までの距離を測定する技術が知られている。特許文献1には、送信元の無線機と送信先の無線機との間の距離を、パケットの往復時間をもとに測定する技術が開示されている。特許文献1に開示されている技術は、送信先の無線機すなわちパケットを返信する無線機は、パケットを受信してから返信パケットを送信するまでの時間を、単位時間の整数倍にしている。これにより、送信先の無線機における処理時間の影響を除去している。
【0003】
また、1台の車を複数人が共有するシェアカーなどに利用するために、デジタルキーシステムが検討されている。デジタルキーシステムは、無線機を備えた携帯端末に、その携帯端末をデジタルキーとして利用することができる情報(以下、デジタルキー情報)を記憶させる。携帯端末は、典型的にはスマートフォンであり、スマートフォンは、サーバからデジタルキー情報を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
デジタルキーシステムでは、スマートフォンによる車両の操作を許可するかどうかを、車両に対するスマートフォンまでの距離、あるいは、複数の基準点からの距離をもとに決定する位置により決定する。したがって、車両に対するスマートフォンまでの距離は精度よく決定できることが望まれる。
【0006】
車両に対するスマートフォンまでの距離を決定する際に、スマートフォンが送信する電波を利用することが考えられる。特許文献1に開示された技術も、無線機が送信する電波を利用している。しかし、特許文献1に開示された技術は、各無線機が単位時間の整数倍を計測する必要があるので、各無線機は共通のカウンタを持つ必要がある。したがって、多くのスマートフォンがデジタルキーとなる可能性があるデジタルキーシステムに適用することは困難である。
【0007】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、精度よく携帯端末の距離を推定することができるデジタルキーシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、開示した技術的範囲を限定するものではない。
【0009】
上記目的を達成するためのデジタルキーシステムに係る1つの開示は、
車両(Hv)に対するデジタルキーとして使用可能な携帯端末(2)と、
車両に搭載され、携帯端末と通信する車載システム(1、101)とを備え、
車載システムは、携帯端末が送信する電波に基づいて車両に対する携帯端末の距離を推定し、推定した距離に基づいて携帯端末による車両に搭載された車載装置の操作を許可するか否かを決定するデジタルキーシステムであって、
車載システムは、車両に搭載された車載通信機(12、13、19)を用いた無線通信により、車両の外部から携帯端末の距離に影響する携帯端末に固有の端末固有情報を取得する端末固有情報取得部(F4)と、
端末固有情報取得部が取得した端末固有情報と、携帯端末が送信する電波をもとに決定される距離情報とに基づいて、携帯端末の距離を推定する距離推定部(F5)とを備え、
端末固有情報は、携帯端末が、車載システムが送信する電波を受信してから、受信した電波に応答する応答電波を送信するまでの内部処理時間を含み、
距離推定部は、車載システムが携帯端末に電波を送信してから車載システムが応答電波を受信するまでの経過時間(Tp)を距離情報とし、経過時間と内部処理時間とに基づいて携帯端末の距離を推定し、
携帯端末は、端末固有情報を記憶しており、
端末固有情報取得部は、端末固有情報としての内部処理時間を携帯端末から無線通信により取得し、
また、端末固有情報は、携帯端末が送信する電波の送信電力を含み、
距離推定部は、携帯端末が送信する電波を車載システムが備える受信機が受信したときの受信電力を距離情報とし、送信電力に対する受信電力の電力減衰率に基づいて携帯端末の距離を推定し、
端末固有情報取得部は、端末固有情報としての送信電力を、送信電力を記憶しているサーバ(3)から取得し、
サーバは、携帯端末がデジタルキーであることを車載システムが認証するための認証情報を車載システムに送信し、
サーバは、認証情報を送信するときに、端末固有情報としての送信電力も車載システムに送信する。
また、上記目的を達成するためのデジタルキーシステムに係る1つの開示は、車両(Hv)に対するデジタルキーとして使用可能な携帯端末(2)と、
車両に搭載され、携帯端末と通信する車載システム(1、101)とを備え、
車載システムは、携帯端末が送信する電波に基づいて車両に対する携帯端末の距離を推定し、推定した距離に基づいて携帯端末による車両に搭載された車載装置の操作を許可するか否かを決定するデジタルキーシステムであって、
車載システムは、車両に搭載された車載通信機(12、13、19)を用いた無線通信により、車両の外部から携帯端末の距離に影響する携帯端末に固有の端末固有情報を取得する端末固有情報取得部(F4)と、
端末固有情報取得部が取得した端末固有情報と、携帯端末が送信する電波をもとに決定される距離情報とに基づいて、携帯端末の距離を推定する距離推定部(F5)とを備え、
端末固有情報は、携帯端末が送信する電波の送信電力であり、
距離推定部は、携帯端末が送信する電波を車載システムが備える受信機が受信したときの受信電力を距離情報とし、送信電力に対する受信電力の電力減衰率に基づいて携帯端末の距離を推定し、
端末固有情報取得部は、端末固有情報を、端末固有情報を記憶しているサーバ(3)から取得し、
サーバは、携帯端末がデジタルキーであることを車載システムが認証するための認証情報を車載システムに送信し、
サーバは、認証情報を送信するときに、端末固有情報も車載システムに送信する。
【0010】
車載システムは、端末固有情報を取得しており、携帯端末までの距離を推定するために、携帯端末が送信する電波をもとに決定される距離情報に加えて端末固有情報を用いる。よって、端末固有情報を考慮しない場合に比較して携帯端末の距離を精度よく推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】デジタルキーシステムの全体構成を示す図である。
【
図3】スマートフォン2の内部構成の一部を示すブロック図である。
【
図4】UWB通信部21の構成を示すブロック図である。
【
図5】車載システム1の構成を説明するブロック図である。
【
図6】UWB通信機12の取り付け位置の一例を説明する図である。
【
図7】スマートECU11およびUWB通信機12の構成を示すブロック図である。
【
図8】ラウンドトリップ時間Tpを説明する図である。
【
図9】位置推定処理においてスマートECU11が実行する処理を示すフローチャートである。
【
図10】位置推定処理においてスマートフォン2の端末側制御部25が実行する処理を示すフローチャートである。
【
図11】第4実施形態のデジタルキーシステムにおけるスマートフォン102の構成を示す図である。
【
図12】第4実施形態のデジタルキーシステムにおける車載システム101の構成を示す図である。
【
図13】第4実施形態において端末固有情報取得部F4が実行する処理を示す図である。
【
図14】第8実施形態において端末固有情報取得部F4が実行する処理を示す図である。
【
図15】車両電波、反射電波、応答電波を送受信する時刻の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、本開示のデジタルキーシステムの実施形態を、図を用いて説明する。
図1に示すように本開示に係るデジタルキーシステムは、車両Hvに搭載された車載システム1と、当該車両Hvのユーザによって携帯される携帯端末であるスマートフォン2と、車両Hvの外部に設置されているサーバ3とを備えている。
【0014】
〔全体の概要〕
スマートフォン2は車載システム1に対するデジタルキーとして機能する。スマートフォン2がデジタルキーとして機能するためには、車載システム1によって認証されるデジタルキー情報を、車載システム1に送信する必要がある。デジタルキー情報はサーバ3が管理している。
【0015】
サーバ3に対して所定の処置を行うことにより、スマートフォン2は、デジタルキー情報を、サーバ3から取得することができる。サーバ3は、スマートフォン2と通信する機能を備えることに加えて、車両Hvとも通信する。サーバ3は、デジタルキー情報を認証するための認証情報を車載システム1に送信し、車載システム1はその認証情報を記憶する。
【0016】
デジタルキー情報は有効期限があり、有効期限内であれば車載システム1は、スマートフォン2による車載装置の操作を許可する。ただし、車載システム1がスマートフォン2による車載装置の操作を許可する条件は、デジタルキー情報が認証できることのみではない。車両Hvに対するスマートフォン2の位置あるいは距離も条件とする。したがって、車載システム1はスマートフォン2の距離あるいは位置を決定する。車載システム1がスマートフォン2の距離あるいは位置を決定するために、車載システム1とスマートフォン2との間の電波を利用する。
【0017】
位置を決定するための電波の利用方法として、電波の伝播時間を利用する方法、電波強度を利用する方法などが知られている。第1実施形態では、伝播時間を利用する。
【0018】
伝播時間を精度よく測定するために、車載システム1とスマートフォン2は、UWB-IR(Ultra Wide Band - Impulse Radio)方式の無線通信(以降、UWB通信)を実施可能に構成されている。すなわち、車載システム1とスマートフォン2はUWB通信で使用されるインパルス状の電波(以降、インパルス信号)を送受信可能に構成されている。UWB通信で用いられるインパルス信号とは、パルス幅が極短時間(たとえば2ナノ秒)であって、かつ、500MHz以上の帯域幅(つまり超広帯域幅)を有する信号である。
【0019】
なお、UWB通信に利用できる周波数帯(以降、UWB帯)としては、3.2GHz~10.6GHzや、3.4GHz~4.8GHz、7.25GHz~10.6GHz、22GHz~29GHz等がある。これら種々の周波数帯のうち、本実施形態におけるインパルス信号は3.2GHz~10.6GHz帯の電波を用いて実現される。インパルス信号に使用される周波数帯は、当該車両Hvが使用される国に応じて適宜選定されればよい。なお、インパルス信号の帯域幅は、500MHz以上であればよく、1.5GHz以上の帯域幅を備えていても良い。
【0020】
UWB-IR通信の変調方式としては、パルスの発生位置で変調を行うPPM(pulse position modulation)方式など、多様なものを採用可能である。具体的には、オンオフ変調(OOK:On Off Keying)方式や、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)、パルス振幅変調(PAM:Pulse-Amplitude Modulation)方式、パルス符号変調(PCM:Pulse-Code Modulation)などを採用可能である。なお、オンオフ変調方式はインパルス信号の存在/欠如によって情報(たとえば0と1)を表現する方式であり、パルス幅変調方式はパルス幅によって情報を表現する方式である。パルス振幅変調方式は、インパルス信号の振幅によって情報を表現する方式である。パルス符号変調方式はパルスの組み合わせによって情報を表現する方式である。
【0021】
また、本実施形態の車載システム1とスマートフォン2は、第2の通信方式として、Bluetooth Low Energy(Bluetoothは登録商標)規格に準拠した無線通信(以降、BLE通信)も実施可能に構成されている。なお、第1の通信方式とは前述のUWB通信を指す。第2の通信方式としては、Bluetooth Low Energy以外にも、たとえばWi-Fi(登録商標)、ZigBee(登録商標)等、通信距離を10メートル程度に設定可能な多様な近距離無線通信方式を採用可能である。第2の通信方式は、たとえば、数メートル~数10メートル程度の通信距離を提供可能なものであればよい。以降では、UWB通信の信号とBLE通信の信号とを区別するために、BLE規格に準拠した無線信号のことをBLE信号とも記載する。以下、車載システム1、スマートフォン2およびサーバ3の具体的な構成について順に説明する。
【0022】
〔サーバ3の構成について〕
最初にサーバ3の構成を説明する。サーバ3は、
図2に示すように、広域通信部31と、サーバ記憶部32と、サーバ制御部33とを備えた構成である。広域通信部31は、公衆通信回線網を利用した広域通信が可能な通信部である。
【0023】
サーバ記憶部32は、書き込み可能な不揮発性のメモリであって、スマートフォン2の内部処理時間Tbを記憶している。内部処理時間Tbは、スマートフォン2が、応答要求信号をベースバンド信号とする電波(以下、応答要求電波)を受信してから、応答要求信号に応答する応答信号をベースバンド信号とする電波(以下、応答電波)を送信するまでの処理に要する時間である。
【0024】
内部処理時間Tbは、型式依存性および個体依存性がある端末固有情報である。サーバ記憶部32には、少なくとも型式別に内部処理時間Tbが記憶されている。さらに、一部の個体については、個体別に内部処理時間Tbが記憶されていてもよい。
【0025】
また、サーバ記憶部32は、デジタルキー情報と認証情報を記憶している。デジタルキー情報は、車両Hvに対するデジタルキーとして利用するスマートフォン2に提供する情報である。認証情報は、デジタルキー情報を認証するために車両Hvに提供する情報である。
【0026】
サーバ制御部33は、広域通信部31を制御する。広域通信部31を制御して、デジタルキー情報をスマートフォン2に送信し、また、認証情報を車載システム1に送信する。サーバ制御部33は、たとえば、スマートフォン2を介して、ユーザから車両Hvの使用の申し込みがあり、その申し込みを受付けたときに、デジタルキー情報および認証情報を送信する。デジタルキー情報および認証情報は、サーバ記憶部32に予め記憶されていてもよいが、サーバ制御部33が、逐次作成して、サーバ記憶部32に記憶してもよい。
【0027】
〔スマートフォン2の構成〕
次に、スマートフォン2の構成および作動について説明する。スマートフォン2は、
図3に示すように、UWB通信部21、BLE通信部22、広域通信部23、端末記憶部24、端末側制御部25および通知部26を備える。端末側制御部25は、UWB通信部21、BLE通信部22、広域通信部23、端末記憶部24、通知部26のそれぞれと相互通信可能に接続されている。
【0028】
UWB通信部21は、UWBのインパルス信号を送受信するための通信モジュールであり、UWB通信機12と通信する端末通信部である。UWB通信部21は、端末側制御部25から入力されたベースバンド信号を変調する等、電気的に処理しつつ変調信号を生成し、この変調信号をUWB通信により送信する。変調信号は、送信データを所定の変調方式(たとえばPCM変調方式)で変調した信号である。変調信号は、複数のインパルス信号を送信データに対応する時間間隔で配置した信号系列(以降、パルス系列信号)である。また、UWB通信部21は、車載システム1から送信された複数のインパルス信号からなる一連の変調信号(つまりパルス系列信号)を受信すると、当該受信信号を復調し、変調前のデータを復元する。そして、受信データを端末側制御部25に出力する。
【0029】
BLE通信部22は、BLE通信を実施するための通信モジュールである。BLE通信部22は、車両Hvから送信されたBLE信号を受信して端末側制御部25に提供するとともに、端末側制御部25から入力されたデータを変調して車両Hvに送信する。
【0030】
広域通信部23は、公衆通信回線網を利用した広域通信が可能な通信部である。広域通信部23は、広域通信部31と通信することができる。端末記憶部24は書き込み可能な不揮発性のメモリである。端末記憶部24には、サーバ3から送信されたデジタルキー情報が記憶される。
【0031】
端末側制御部25は、たとえばCPU、RAM、およびROM等を備えた、コンピュータを用いて実現されている。UWB通信部21から応答要求信号を示す受信データが入力されると、応答要求信号に応答する応答信号に相当するベースバンド信号を生成し、このベースバンド信号をUWB通信部21に出力する。端末側制御部25がUWB通信部21に出力したベースバンド信号は、UWB通信部21にて変調され、応答電波として送信される。
【0032】
通知部26は、表示部およびスピーカの一方または両方である。通知部26からは、種々の通知が出力される。
【0033】
図4に、UWB通信部21のハードウェア構成を示している。UWB通信部21のハードウェア構成は一般的な通信装置のハードウェア構成をしている。UWB通信部21はアンテナ211を備えており、このアンテナ211により、前述した応答要求電波を受信する。アンテナ211により受信された応答要求電波は、RF部212にて増幅やフィルタリングされた後、RFスイッチ213を通り、アナログ受信部214に入力される。RFスイッチ213は、アンテナ211からの信号はアナログ受信部214に入力し、アナログ送信部219からの信号はRF部212に入力するスイッチである。
【0034】
アナログ受信部214では、入力されたアナログ信号を復調する。復調されたアナログ信号は、AD変換回路215でデジタル信号に変換された後、デジタル受信部216に入力される。デジタル受信部216では、入力されたデジタル信号がデジタル復調される。復調されたデジタル信号は、端末側制御部25に入力される。
【0035】
端末側制御部25は応答信号を生成する。この応答信号は、デジタル送信部217に入力される。デジタル送信部217は、入力された応答信号をデジタル変調する。デジタル送信部217でデジタル変調された信号は、DA変換回路218に入力されてアナログ信号とされる。このアナログ信号は、アナログ送信部219でアナログ変調される。アナログ変調された信号は、RFスイッチ213を通り、RF部212に入力され、212にて、増幅された後、アンテナ211から応答電波として送信される。
【0036】
このような構成において、UWB通信部21の内部を信号が伝達する時間、および、端末側制御部25が信号を処理する時間が内部処理時間Tbである。内部処理時間Tbは、デジタル受信部216、デジタル送信部217のクロック精度などの影響のため、個体によるばらつきと型式によるばらつきがある。
【0037】
〔車載システム1〕
車載システム1は、スマートフォン2と所定の周波数帯の電波を用いた無線通信を実施することで、スマートフォン2の位置に応じた所定の車両制御を実施するパッシブ・エントリ・パッシブ・スタートシステム(以降、PEPSシステム)を実現する。
【0038】
たとえば車載システム1は、スマートフォン2が車両Hvに対して予め設定されている作動エリア内に存在することを確認できている場合には、後述するドアボタン14に対するユーザ操作に基づいて、ドアの施錠や開錠といった制御を実行する。また、車載システム1は、スマートフォン2との無線通信によってスマートフォン2が車室内に存在することを確認できている場合には、後述するスタートボタン15に対するユーザ操作に基づいて、エンジンの始動制御を実行する。
【0039】
作動エリアとは、当該エリア内にスマートフォン2が存在することに基づいて、車載システム1がドアの施錠や開錠といった所定の車両制御を実行するためのエリアである。たとえば、運転席用のドア付近や、助手席用のドア付近、トランクドア付近が作動エリアに設定されている。ドア付近とは、外側ドアハンドルから、所定の作動距離以内となる範囲を指す。外側ドアハンドルとは、ドアの外側面に設けられた、ドアを開閉するための把持部材を指す。作動エリアの大きさを規定する作動距離は、たとえば0.7mである。もちろん、作動距離は1mであってもよいし、1.5mであってもよい。作動距離は、防犯性の観点から2mよりも小さく設定されていることが多い。
【0040】
当該車載システム1は、
図5に示すように、スマートECU11、複数のUWB通信機12、BLE通信機13、ドアボタン14、スタートボタン15、エンジンECU16、ボディECU17、および広域通信機19を備える。また、車載システム1は、車載アクチュエータ171、車載センサ172なども備える。なお、部材名称中のECUは、Electronic Control Unitの略であり、電子制御装置を意味する。
【0041】
スマートECU11は、スマートフォン2とUWB通信を実施することでドアの施開錠やエンジンの始動等の車両制御を実行するECUである。スマートECU11は、車両内に構築されている通信ネットワークを介してエンジンECU16およびボディECU17と相互通信可能に接続されている。また、スマートECU11は、UWB通信機12やBLE通信機13、ドアボタン14、スタートボタン15とも電気的に接続されている。当該スマートECU11は、たとえばコンピュータを用いて実現されている。すなわち、スマートECU11は、CPU111、フラッシュメモリ112、RAM113、I/O114、およびこれらの構成を接続するバスラインなどを備えている。
【0042】
フラッシュメモリ112には、コンピュータをスマートECU11として機能させるためのプログラム(以降、位置推定プログラム)等が格納されている。なお、上述の位置推定プログラムは、非遷移的実体的記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に格納されていればよい。CPU111が位置推定プログラムを実行することは、位置推定プログラムに対応する方法が実行されることに相当する。スマートECU11の詳細については別途後述する。
【0043】
UWB通信機12は、スマートフォン2とUWB通信を実施するための通信モジュールである。UWB通信機12はスマートフォン2の位置を推定するために備えられている車載通信機である。各UWB通信機12は専用の通信線または車両内ネットワークを介してスマートECU11と相互通信可能に接続されている。各UWB通信機12の動作はスマートECU11によって制御される。各UWB通信機12には、固有の通信機番号が設定されている。通信機番号は、スマートフォン2にとっての端末IDに相当する情報である。通信機番号は、複数のUWB通信機12を識別するための情報として機能する。複数のUWB通信機12の取り付け位置や電気的構成については別途後述する。
【0044】
BLE通信機13は、BLE通信を実施するための通信モジュールである。BLE通信機13はスマートECU11と相互通信可能に接続されている。BLE通信機13は、スマートフォン2から送信されたBLE信号を受信してスマートECU11に提供する。また、BLE通信機13は、スマートECU11から入力されたデータを変調してスマートフォン2に無線送信する。BLE通信機13は車両Hvの任意の位置に取り付けられている。たとえばBLE通信機13は、インストゥルメントパネルや、フロントガラスの上端部、Bピラー、ロッカー部等に取り付けられている。BLE通信機13は1つであってもよいし、複数あってもよい。
【0045】
ドアボタン14は、ユーザが車両Hvのドアを開錠および施錠するためのボタンである。ドアボタン14は、たとえば車両Hvの各ドアハンドルに設けられている。ドアボタン14は、ユーザによって押下されると、その旨を示す電気信号を、スマートECU11に出力する。ドアボタン14は、スマートECU11がユーザの開錠指示および施錠指示を受け付けるための構成に相当する。なお、ユーザの開錠指示および施錠指示の少なくとも何れか一方を受け付けるための構成としては、タッチセンサを採用することもできる。タッチセンサは、ユーザがそのドアハンドルを触れていることを検出する装置である。
【0046】
スタートボタン15は、ユーザが車両Hvの駆動源(たとえばエンジン)を始動させるためのプッシュスイッチである。スタートボタン15は、ユーザによってプッシュ操作がされると、その旨を示す電気信号をスマートECU11に出力する。なお、ここでは一例として車両Hvは、エンジンを動力源として備える車両とするがこれに限らない。車両Hvは、電気自動車やハイブリッド車であってもよい。車両Hvがモータを駆動源として備える車両である場合には、スタートボタン15は駆動用のモータを始動させるためのスイッチである。
【0047】
エンジンECU16は、車両Hvに搭載されたエンジンの動作を制御するECUである。たとえばエンジンECU16は、スマートECU11からエンジンの始動を指示する始動指示信号を取得すると、エンジンを始動させる。
【0048】
ボディECU17は、スマートECU11からの要求に基づいて車載アクチュエータ171を制御するECUである。ボディECU17は、種々の車載アクチュエータ171や、種々の車載センサ172と通信可能に接続されている。ここでの車載アクチュエータ171とは、たとえば、各ドアのロック機構を構成するドアロックモータや、座席位置を調整するためのシートアクチュエータなどである。また、ここでの車載センサ172とは、ドア毎に配置されているカーテシスイッチなどである。カーテシスイッチは、ドアの開閉を検出するセンサである。ボディECU17は、たとえばスマートECU11からの要求に基づいて、車両Hvの各ドアに設けられたドアロックモータに所定の制御信号を出力することで各ドアを施錠したり開錠したりする。
【0049】
〔各UWB通信機12の取り付け位置および電気的構成について〕
本実施形態の車載システム1は、UWB通信機12として
図6に示すように、右前通信機12A、左前通信機12B、右後通信機12C、および左後通信機12Dを備える。右前通信機12Aは、たとえば車両右側のAピラーの上側領域に配置されている。Aピラーは車両Hvにおいて前から1番目のピラーである。Aピラーはフロントピラーとも称される。ピラーの上側領域とは、ピラーの上半分となる領域を指す。ピラーの上側領域には、ピラーの上端部も含まれる。左前通信機12Bは、たとえば車両左側のAピラーの上側領域に配置されている。右後通信機12Cは車両右側のCピラーの上側領域に配置されている。左後通信機12Dは車両左側のCピラーの上側領域に配置されている。Cピラーは前から3番目のピラーである。Cピラーはリアピラーとも称される。
【0050】
本実施形態のように電波の伝搬時間を用いて距離の測定を行う構成においては、各UWB通信機12は、車室内と車室外の両方に対して見通しが良い位置に配置されていることが好ましい。車室内と車室外の両方に対して見通しの良い場所とは、たとえば、室内天井、および各種ピラーである。つまり、上述したように各種UWB通信機12の配置態様は、各UWB通信機12を車室内および車室外を見通しやすい位置に配置した態様の一例に相当する。
【0051】
車両Hvにおける各UWB通信機12の設置位置は、車両の任意の点を基準点(換言すれば原点)とする3次元直交座標系の点として表現されていればよい。ここでは一例として、前輪車軸の中心を原点とし、互いに直交するX、Y、Z軸を備える3次元座標系(以降、車両3次元座標系)上の点として表されている。車両3次元座標系を形成するX軸は車幅方向に平行であって、車両右側を正方向とする軸である。Y軸は車両前後方向に平行であって、車両前方を正方向とする軸である。Z軸は、車両高さ方向に平行であって、車両上方を正方向とする軸である。3次元座標系の中心は、たとえば後輪車軸の中心など、適宜変更可能である。もちろん、他の態様として各UWB通信機12の搭載位置は極座標で表されていてもよい。各UWB通信機12の設置位置を示す通信機位置データは、フラッシュメモリ112に格納されている。各UWB通信機12の設置位置は通信機番号と対応付けられて保存されていればよい。
【0052】
複数のUWB通信機12のそれぞれは、
図7に示すように、送信部310、受信部320、及びラウンドトリップ時間計測部330を備える。送信部310は、スマートECU11から入力されたベースバンド信号を変調する等、電気的に処理しつつインパルス信号を生成し、このインパルス信号を電波として放射する構成である。送信部310はたとえば、変調回路311、及び送信アンテナ312を用いて実現されている。
【0053】
ラウンドトリップ時間計測部330は、送信部310がインパルス信号を送信してから、受信部320がインパルス信号を受信するまでの経過時間(以降、ラウンドトリップ時間Tp)を計測するタイマである。送信部310がインパルス信号を送信したタイミングは送信通知信号の入力によって特定される。また、受信部320がインパルス信号を受信したタイミングは受信通知信号の入力によって特定される。すなわち、ラウンドトリップ時間計測部330は、変調回路311が送信通知信号を出力してから、復調回路322が受信通知信号を出力するまでの時間を計測する。
図8に示すように、ラウンドトリップ時間Tpは、往復分の伝播時間Taに、スマートフォン2での内部処理時間Tbを加えた時間に相当する。
【0054】
ラウンドトリップ時間計測部330は、図示しないクロック発振器から入力されるクロック信号を計数することによって、送信部310がインパルス信号を送信してからの経過時間を測定する。ラウンドトリップ時間計測部330によるカウントは、受信通知信号が入力された場合や、所定の上限値まで達した場合に停止され、そのカウント値をスマートECU11に出力する。つまり、スマートECU11にラウンドトリップ時間Tpを報告する。なお、スマートECU11へのラウンドトリップ時間Tpの報告が完了するとラウンドトリップ時間計測部330のカウント値は0に戻る(つまりリセットされる)。
【0055】
ラウンドトリップ時間計測部330は、ラウンドトリップ時間Tpの計測が完了すると、当該ラウンドトリップ時間TpをスマートECU11に提供する。ラウンドトリップ時間計測部330はたとえばICを用いて実現されている。なお、ここではUWB通信機12は、送信用のアンテナ(つまり送信アンテナ312)と、受信用のアンテナ(つまり受信アンテナ321)とが別々に設けられている態様を示しているが、これに限らない。UWB通信機12は方向性結合器を用いて送信と受信とで1つのアンテナ素子を共用するように構成されていても良い。また、変調回路311や復調回路322はラウンドトリップ時間計測部330としての機能を提供するICに内蔵されていても良い。つまり、UWB通信機12は、1つのアンテナと、種々の回路機能を有する1つの専用ICとを用いて実現されていても良い。
【0056】
〔スマートECU11の機能について〕
スマートECU11は、上述した位置推定プログラムを実行することで、
図7に示す種々の機能ブロックに対応する機能を提供する。すなわち、スマートECU11は機能ブロックとして、車両情報取得部F1、通信処理部F2、認証処理部F3、端末固有情報取得部F4、距離推定部F5、位置推定部F6、車両制御部F7を備えている。
【0057】
車両情報取得部F1は、車両Hvに搭載されたセンサやECU(たとえばボディECU17)、スイッチなどから、車両Hvの状態を示す種々の情報(以降、車両情報)を取得する。車両情報としては、たとえば、ドアの開閉状態や、各ドアの施錠/開錠状態、ドアボタン14の押下の有無、スタートボタン15の押下の有無等が該当する。また、車両情報取得部F1は、上述した種々の情報に基づいて、車両Hvの現在の状態を特定する。たとえば車両情報取得部F1は、エンジンがオフであり、全てのドアが施錠されている場合に、車両Hvは駐車されていると判定する。もちろん、車両Hvが駐車されていると判定する条件は適宜設計されればよく、多様な判定条件を適用することができる。
【0058】
なお、各ドアの施錠/開錠状態を示す情報を取得することは、各ドアの施錠/開錠状態を判定すること、および、ユーザによるドアの施錠操作/開錠操作を検出することに相当する。また、ドアボタン14やスタートボタン15からの電気信号を取得することは、これらのボタンに対するユーザ操作を検出することに相当する。つまり、車両情報取得部F1はドアの開閉や、ドアボタン14の押下、スタートボタン15の押下などといった、車両Hvに対するユーザの操作を検出する構成に相当する。以降における車両情報には、車両Hvに対するユーザ操作も含まれる。加えて、車両情報に含まれる情報の種類は、上述したものに限らない。図示しないシフトポジションセンサが検出するシフトポジションや、ブレーキペダルが踏み込まれているか否かを検出するブレーキセンサの検出結果なども車両情報に含まれる。パーキングブレーキの作動状態もまた車両情報に含めることができる。
【0059】
通信処理部F2は、UWB通信機12やBLE通信機13と協働してスマートフォン2とのデータの送受信を実施する構成である。たとえば通信処理部F2は、スマートフォン2宛のデータを生成し、BLE通信機13に出力する。これにより、所望のデータに対応する信号を電波として送信させる。また、通信処理部F2は、BLE通信機13が受信したスマートフォン2からのデータを受信する。本実施形態ではより好ましい態様としてスマートECU11とスマートフォン2との無線通信は、暗号化して実施されるように構成されている。暗号化の方式としては、Bluetoothで規定されている方式など、多様な方式を援用することができる。
【0060】
なお、本実施形態ではセキュリティ向上のためにスマートECU11及びスマートフォン2は、認証等のためのデータ通信を暗号化して実施するように構成されているものとするが、これに限らない。他の態様として、スマートECU11及びスマートフォン2は、暗号化せずにデータ通信を実施するように構成されていても良い。
【0061】
通信処理部F2は、スマートフォン2とのBLE通信が確立していることに基づいて、ユーザが車両Hv周辺に存在することを認識する。また、通信処理部F2は、BLE通信機13から、当該BLE通信機13が通信接続しているスマートフォン2の端末IDを取得する。このような構成によれば、車両Hvが複数のユーザによって共有される車両であっても、スマートECU11は、BLE通信機13が通信接続しているスマートフォン2の端末IDに基づいて車両Hv周辺に存在するユーザを特定することができる。
【0062】
また、通信処理部F2は、UWB通信機12が受信したスマートフォン2からのデータを取得する。加えて、通信処理部F2は、スマートフォン2宛のデータを生成し、UWB通信機12に出力する。これにより、所望のデータに対応するパルス系列信号を無線送信させる。さらに通信処理部F2は、位置推定部F6からの指示に基づいて、任意のUWB通信機12からインパルス信号を送信させる。
【0063】
認証処理部F3は、BLE通信機13と連携して、通信相手がユーザのスマートフォン2であることを確認(換言すれば認証)する処理を実施する。認証のための通信は、BLE通信機13を介して暗号化されて実施される。つまり、認証処理は暗号通信によって実施される。認証処理自体は、チャレンジ-レスポンス方式など多様な方式を用いて実施されればよい。ここではその詳細な説明は省略する。認証処理部F3が認証処理を実施するタイミングは、たとえばBLE通信機13とスマートフォン2との通信接続が確立したタイミングとすればよい。認証処理部F3は、BLE通信機13とスマートフォン2とが通信接続している間、所定の周期で認証処理を実施するように構成されていても良い。また、ユーザによってスタートボタン15が押下された場合など、車両Hvに対する所定のユーザ操作をトリガとして認証処理のための暗号通信を実施するように構成されていても良い。
【0064】
ところで、Bluetooth規格においてBLE通信機13とスマートフォン2との通信接続が確立したということは、BLE通信機13の通信相手が予め登録されているスマートフォン2であることを意味する。故に、スマートECU11は、BLE通信機13とスマートフォン2との通信接続が確立したことに基づいて、スマートフォン2の認証が成功したと判定するように構成されていても良い。
【0065】
端末固有情報取得部F4は、車両Hvの外部から送信され、通信処理部F2に入力された内部処理時間Tbを取得する。本実施形態では、後述するように、内部処理時間Tbは、スマートフォン2からUWB通信により送信される。端末固有情報取得部F4は、取得した内部処理時間Tbを、所定の記憶部に記憶する。この記憶部は、ここではフラッシュメモリ112とする。
【0066】
距離推定部F5は、各UWB通信機12に所定の順にスマートフォン2とインパルス信号を送受信させ、通信処理部F2を介して、各UWB通信機12からラウンドトリップ時間Tpを取得する。また、フラッシュメモリ112から内部処理時間Tbを取得する。なお、ラウンドトリップ時間Tpは、スマートフォン2が送信する応答電波の伝播時間を含む時間であり、UWB通信機12とスマートフォン2との間の距離を決定するための距離情報である。距離推定部F5は、これらラウンドトリップ時間Tpおよび内部処理時間Tbから、UWB通信機12とスマートフォン2との間の距離を推定する。
【0067】
位置推定部F6は、距離推定部F5が推定した各UWB通信機12からスマートフォン2までの距離に基づいて、スマートフォン2の位置を推定する。当該位置推定部F6が実行する処理を含む、スマートフォン2の位置を推定する位置推定処理については別途後述する。
【0068】
車両制御部F7は、認証処理部F3によるスマートフォン2の認証が成功している場合に、スマートフォン2(換言すればユーザ)の位置および車両Hvの状態に応じた車両制御を、ボディECU17等と協働して実行する構成である。車両Hvの状態は車両情報取得部F1によって判定される。スマートフォン2の位置は位置推定部F6によって判定される。
【0069】
たとえば車両制御部F7は、車両Hvが駐車されている状況下で、スマートフォン2が車室外に存在し、ユーザによってドアボタン14が押下された場合には、ボディECU17と連携してドアのロック機構を開錠する。また、たとえば位置推定部F6によってスマートフォン2は車室内に存在すると判定されており、かつ、スタートボタン15がユーザによって押下されたことを検出した場合には、エンジンECU16と連携してエンジンを始動させる。このように車両制御部F7は、基本的には車両Hvへのユーザ操作をトリガとしてユーザの位置および車両Hvの状態に応じた車両制御を実行するように構成されている。ただし、車両制御部F7が実施可能な車両制御の中には、車両Hvへのユーザ操作を必要とせずに、ユーザの位置に応じて自動的に実行するものがあってもよい。
【0070】
〔位置推定処理〕
次に、
図9、
図10に示すフローチャートを用いて、スマートECU11とスマートフォン2の端末側制御部25が実行する位置推定処理について説明する。位置推定処理は、スマートフォン2の位置を推定する処理である。位置推定処理は、BLE通信機13とスマートフォン2のBLE通信部22との接続が確立されている状態において所定の位置推定周期で実施される。位置推定周期は、たとえば200ミリ秒である。もちろん、位置推定周期は100ミリ秒や300ミリ秒であってもよい。
【0071】
図9は位置推定処理のうちスマートECU11が実行する処理を示している。
図9に示す各ステップのうち、ステップ(以下、ステップは省略する)S11、S12は通信処理部F2が実行し、S13~S16は端末固有情報取得部F4が実行し、S17~S21は距離推定部F5が実行し、S22は位置推定部F6が実行する。
図9に示す処理は、UWB通信機12ごとに実行する。
図10は位置推定処理のうちスマートフォン2の端末側制御部25が実行する処理を示している。
【0072】
まずS11では、UWB通信機12がスマートフォン2との間で接続確立中であるか否かを判断する。S11の判断結果がYESであれば直接、S17に進み、判断結果がNOであればS12に進む。
【0073】
S12では、UWB通信機12から接続確立用信号を車両Hvの周囲に送信する。S13では、接続確立用信号に応答してスマートフォン2のUWB通信部21が送信する応答電波を一定期間内に受信したか否かを判断する。S13の判断結果がNOであれば
図9に示す処理を終了する。
【0074】
S13の判断結果がYESであれば、受信した応答電波をもとに接続を確立し、その後、S14に進む。S14では、応答電波を受信してから一定時間内に、内部処理時間Tbを示す信号を受信できたか否かを判断する。S14の判断結果がYESであればS15に進む。S15では、内部処理時間Tbをフラッシュメモリ112などの所定の記憶部に記憶する。S14の判断結果がNOであればS16に進む。S16では、S19における計算に必要な内部処理時間Tbとして、上記記憶部に、すでにスマートフォン2の内部処理時間Tbが記憶されていればそれを用いることに決定する。他のUWB通信機12と通信により、スマートフォン2から内部処理時間Tbが送信され、かつ、記憶されていることもあるからである。上記記憶部に、内部処理時間Tbが記憶されていなければ、S19における計算に必要な内部処理時間Tbとして、初期値を用いることに決定する。
【0075】
S17では、応答要求電波をUWB通信機12から送信させる。S18では、応答要求電波に応答してスマートフォン2から送信される応答電波を受信する。S19では、ラウンドトリップ時間Tpを取得する。具体的には、ラウンドトリップ時間計測部330が応答要求電波の送信時刻と応答電波の受信時刻からラウンドトリップ時間Tpを計測している。このラウンドトリップ時間Tpをラウンドトリップ時間計測部330から取得する。
【0076】
S20では、S19で取得したラウンドトリップ時間Tpから、S15で記憶あるいはS16で決定した内部処理時間Tbを減算し、さらに、減算した値を2で割って、UWB通信機12からスマートフォン2までの伝播時間Taを算出する。なお、ラウンドトリップ時間計測部330は、インパルス信号を送信してから所定の応答待機時間が経過してもインパルス信号である応答電波を受信しなかった場合には、伝播時間Taが不明であることを示す値をスマートECU11に提供すればよい。応答待機時間はたとえば33ナノ秒など、ユーザが車両Hvから十分(たとえば10m以上)離れている状態を想定した値に設定されていればよい。
【0077】
S21では、S20で算出した伝播時間Taに光速を乗じて、UWB通信機12からスマートフォン2までの距離を算出する。
【0078】
S22は、3つ以上のUWB通信機12について距離を算出している場合に実行する。S22では、各UWB通信機12の設置位置と各UWB通信機12からスマートフォン2までの距離に基づいてスマートフォン2の位置を推定する。
【0079】
各UWB通信機12の設置位置は、フラッシュメモリ112に格納されている通信機位置データを使用すれば良い。各UWB通信機12の設置位置と各UWB通信機12からスマートフォン2までの距離に基づく位置の推定は、三角測量の原理を用いて実施することができる。各UWB通信機12の設置位置およびスマートフォン2までの距離を用いた位置推定法としては、最小二乗法や、Newton-Raphson法、最小二乗平均推定法(MMSE:Minimum Mean Square Estimate)など、多様なアルゴリズムを採用することができる。
【0080】
以上によって推定されたスマートフォン2の位置(以降、端末位置)は、車両制御部F7等によって参照される。たとえば、端末位置が作動エリアや車室内に該当するか否かを判定する。端末位置が作動エリア内に該当する場合には、車両制御部F7は当該判定結果に基づいてドアの開錠や施錠を実行する。また、端末位置が車室内に該当する場合には車両制御部F7は、当該判定結果に基づいて走行駆動源を始動させる。
【0081】
次に、
図10を説明する。
図10に示す処理も、BLE通信の接続が確立されている状態で
図9と同じ位置推定周期で実行される。また、
図10に示す処理も、UWB通信機12別に実行する。スマートフォン2は、車載システム1が備えるUWB通信機12の数を、BLE通信により取得することができる。
【0082】
S31では、UWB通信機12との接続が確立中であるか否かを判断する。S31の判断結果がYESであればS38へ進む。S31の判断結果がNOであればS32へ進む。S32では、接続確立用信号を受信したか否かを判断する。S32の判断結果がNOであれば一旦、
図10に示す処理を終了する。S32の判断結果がYESであればS33に進む。
【0083】
S33では、車載システム1に対して、内部処理時間Tbの送信実績があるか否かを判断する。S33の判断結果がNOであればS34に進む。S34では、応答電波を送信する。続くS35では、内部処理時間Tbを決定し、決定した内部処理時間Tbをフラッシュメモリ112に記憶する。なお、すでにフラッシュメモリ112に内部処理時間Tbが記憶されていれば、S35の処理を省略することができる。すでにフラッシュメモリ112に内部処理時間Tbが記憶されている場合としては、出荷時に、内部処理時間Tbが測定されてフラッシュメモリ112に記憶されている場合がある。また、他の車両Hvが備える車載システム1に提供するために、すでに内部処理時間Tbを決定済みである場合もある。
【0084】
内部処理時間Tbは、接続確立用信号を受信してから、応答電波を送信するまでの時間である。S36では、S35で決定した内部処理時間Tbを示す信号をUWB通信機12に送信する。この信号がUWB通信機12に受信されることで、S14の判断結果がYESになる。なお、内部処理時間Tbを車載システム1に送信できればよいので、内部処理時間Tbを示す信号の送受信を、BLE通信により行ってもよい。
【0085】
S33の判断結果がYESであればS37に進む。S37の処理はS34と同じであり、応答電波を送信する。S38では、S17が実行されることにより車載システム1から送信される応答要求電波を受信したか否かを判断する。S38の判断結果がNOであれば、再度、S38を実行する。S38の判断結果がYESになればS39に進む。S39では、応答電波を送信する。ここで送信した応答電波はS18にて受信される。
【0086】
〔第1実施形態のまとめ〕
ラウンドトリップ時間Tpをもとに、スマートフォン2までの距離を推定する場合、スマートフォン2の内部処理時間Tbの誤差が距離の誤差に大きく影響する。しかも、内部処理時間Tbには、型式依存性および個体依存性がある。しかし、第1実施形態では、スマートフォン2が内部処理時間Tbを計測しており(S35)、計測した内部処理時間Tbを車載システム1に送信している(S36)。車載システム1では、その内部処理時間Tbを受信してフラッシュメモリ112に記憶している(S15)。
【0087】
そして、伝播時間Taを算出する際には、フラッシュメモリ112に記憶した内部処理時間Tbを用いる。よって、精度よく伝播時間Taを算出することができる。その結果、精度よく距離を推定でき、その精度のよい距離に基づいて、精度よくスマートフォン2の位置を推定することができる。
【0088】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態を説明する。この第2実施形態以下の説明において、それまでに使用した符号と同一番号の符号を有する要素は、特に言及する場合を除き、それ以前の実施形態における同一符号の要素と同一である。また、構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分については先に説明した実施形態を適用できる。
【0089】
第2実施形態は第1実施形態の変形例である。第1実施形態では、スマートフォン2が計測した内部処理時間Tbを、スマートフォン2から車載システム1に送信していた。しかし、スマートフォン2は、内部処理時間Tbを、車載システム1に送信するとともに、広域通信部23からサーバ3にも送信してもよい。このようにすれば、サーバ記憶部32には、スマートフォン2別の内部処理時間Tbが蓄積されていくことになる。
【0090】
そして、端末固有情報取得部F4は、接続確立したスマートフォン2の内部処理時間Tbをサーバ3から取得するようにしてもよい。
【0091】
さらに、端末固有情報取得部F4は、以下のようにして、接続確立する前に内部処理時間Tbをサーバ3から取得することもできる。前述したように、サーバ3は、スマートフォン2に提供したデジタルキー情報を認証するための認証情報を車載システム1に送信している。この認証情報を送信するときに、同時に、スマートフォン2の内部処理時間Tbも送信すればよい。
【0092】
<第3実施形態>
また、内部処理時間Tbとして型式依存性に着目する場合、内部処理時間Tbを個別にスマートフォン2から取得する必要はない。したがって、複数の型式のスマートフォン2について、型式別の内部処理時間Tbが、スマートフォン2のメーカの管理サイトなどから一括して取得されてサーバ記憶部32に記憶されていてもよい。車載システム1は、スマートフォン2との通信により、そのスマートフォン2の型式を取得し、サーバ3から、接続確立中のスマートフォン2の内部処理時間Tbを取得する。
【0093】
<第4実施形態>
第1実施形態では、内部処理時間Tbをスマートフォン2が測定する例を説明した。この第4実施形態では、スマートフォン2が既知位置にあることを検出した状態で、車載システム1が内部処理時間Tbを推定する。
【0094】
図11に、第4実施形態のデジタルキーシステムにおけるスマートフォン102の構成を示す。スマートフォン102は、NFC通信部124を備えている点がこれまでの実施形態のスマートフォン2と相違する。
図12に、第4実施形態のデジタルキーシステムにおける車載システム101の構成を示す。車載システム101は、NFC通信部115を備えている点でこれまでの実施形態の車載システム1と相違する。
【0095】
NFC通信部124、115は相互にNFC(Near Field Communication)通信をすることができる。NFC通信は、近接場通信と呼ぶこともできる。NFC通信部124、115は近接場通信部の一例である。NFC通信は、通信距離が最大で10cm程度である。ただし、ユーザは、通常、NFC通信を行う際に、スマートフォン102を通信相手の通信機の表面に接触させることが多い。したがって、実際の通信時の通信距離は、10cmよりも短く、かつ、ほぼ一定である。
【0096】
したがって、NFC通信部115とNFC通信部124が通信するときの伝播時間Taは、通信を行わなくても、計算により求めることができる。フラッシュメモリ112には、この伝播時間Taが記憶されている。
【0097】
NFC通信部115は種々の位置に設置できる。ここでは、複数のNFC通信部115を備え、そのうちの1つはドアハンドル内に収容されているとする。スマートフォン102が備えるNFC通信部124は、ドアハンドル内に収容されたNFC通信部115にデジタルキー情報を送信する。このときに、認証処理部F3は認証処理を実行する。
【0098】
また、NFC通信部115の1つは、車室内のスタートボタン15内に収容することもできる。車載システム101は、スマートフォン102がドアボタンにかざされてNFC通信によるデジタルキー情報の認証が成立したときに、スタートボタン15が押されたときと同様の作動を開始することができる。
【0099】
図13に、第4実施形態において端末固有情報取得部F4が実行する処理を示す。
図13に示す処理は、たとえば、位置推定処理と同程度の実行周期で周期的に実行される。
【0100】
S41では、NFC通信が成立したか否かを判断する。S41の判断結果がNOであれば
図13に示す処理を終了する。S41の判断結果がYESであればS42に進む。S42に進む場合、スマートフォン102の位置は、NFC通信部115に接している既知位置であると推定できる。UWB通信機12の取り付け位置も既知であるため、スマートフォン102が既知位置にある場合、スマートフォン102とUWB通信機12との距離も既知である。
【0101】
S42では、スマートフォン102の内部処理時間Tbがフラッシュメモリ112に記憶されていないか否かを判断する。S42の判断結果がNOすなわちスマートフォン102の内部処理時間Tbがフラッシュメモリ112に記憶されている場合も、
図13に示す処理を終了する。
【0102】
S42の判断結果がYESすなわちスマートフォン102の内部処理時間Tbがフラッシュメモリ112に記憶されていない場合にはS43に進む。S43では、事前に設定されている1つのUWB通信機12から測位用信号をベースバンド信号とする応答要求電波を送信させる。S44では、その測位用信号に応答してスマートフォン102から送信される測位用信号をベースバンド信号とする応答電波を受信する。S45では、この測位用信号の送信と受信により、ラウンドトリップ時間計測部330が計測したラウンドトリップ時間Tpを取得する。
【0103】
S46では、S45で取得したラウンドトリップ時間Tpと、NFC通信部115に対応付けて記憶されているフラッシュメモリ112に記憶されている伝播時間Taから、Tp-2Taを計算し、内部処理時間Tbを算出する。S47では、S46で算出した内部処理時間Tbをフラッシュメモリ112に記憶する。
【0104】
第4実施形態では、このようにして内部処理時間Tbをフラッシュメモリ112に記憶する。よって、位置推定処理において、スマートECU11は、
図9に示す処理のS11からS16を省略し、S17以下を実行する。そのとき、S20では、フラッシュメモリ112に内部処理時間Tbが記憶されていれば、その内部処理時間Tbを用いて伝播時間Taを算出する。内部処理時間Tbが記憶されていなければ、初期値を用いて伝播時間Taを算出する。
【0105】
スマートECU11がこのような処理を実行するので、スマートフォン102の端末側制御部25は、接続確立中は、
図10に示す処理において、S38およびS39のみを実行する。
【0106】
〔第4実施形態のまとめ〕
この第4実施形態では、NFC通信が成立していることで、スマートフォン102の位置が既知位置にあると判断することができる。そして、スマートフォン102が既知位置にある状態で、UWB通信機12が応答要求電波を送信してから、スマートフォン102が送信した応答電波をUWB通信機12が受信するまでのラウンドトリップ時間Tpを取得する(S45)。このラウンドトリップ時間Tpと事前に決定してある伝播時間Taから、内部処理時間Tbを算出し、記憶することができる(S45、S46)。このようにして、スマートフォン102別の内部処理時間Tbを記憶することにより、その後は、位置推定処理により、スマートフォン102が既知位置にないときのスマートフォン102の位置を精度よく推定することができる。
【0107】
<第5実施形態>
第5実施形態は第4実施形態の変形例である。第4実施形態では、車載システム101がNFC通信部115を備えており、NFC通信が成立していることにより、スマートフォン102が既知位置にあると判断していた。
【0108】
しかし、車載カメラを備え、車載カメラを画像解析することで、スマートフォン102の位置を決定してもよい。このようにすれば、既知位置とする箇所に通信部を設置する必要がないので、NFC通信部115を設置する場合に比較して、既知位置の制約が少ない。
【0109】
既知位置としては、第4実施形態と同じ位置の他、たとえば、車外においてBピラーに接触させる位置、ステアリングホイールの中心などとすることもできる。既知位置は、UWB通信機12との間の電波の見通しがよい位置が好ましい。
【0110】
また、既知位置にスマートフォン102を位置させることを、スマートフォン102を通じて、スマートフォン102の所有者に指示することもできる。指示は、音声、画像、または音声と画像により行うことができる。特に、種々の位置を既知位置とする場合に有効である。また、既知位置がNFC通信部124に接している位置のみであっても、この指示を行なってもよい。
【0111】
そして、指示の後、スマートフォン102が既知位置にないと判断した場合に、スマートフォン102既知位置にないことを、BLE通信機13あるいはUWB通信機12を通じてスマートフォン102に通知する。スマートフォン102は、既知位置にないことが通知された場合、そのことを、通知部26から出力する。
【0112】
なお、スマートフォン102を既知位置に位置させる指示をするか否かによらず、スマートフォン102が既知位置にあるかどうかの判断結果を、スマートフォン102に通知してもよい。
【0113】
<第6実施形態>
第6実施形態も第4実施形態の変形例である。NFC通信部115と同様にスマートフォン102が接触するものとして、スマートフォン102をワイヤレス充電するワイヤレス充電装置がある。ワイヤレス充電装置に置かれているスマートフォン102は既知位置にあると言える。したがって、既知位置をワイヤレス充電装置に置かれている位置とすることができる。
【0114】
この場合、ワイヤレス充電装置が充電中であることにより、スマートフォン102が既知位置にあると判断することができる。なお、ワイヤレス充電装置は、たとえば、給電効率から充電中であることを判断できる。
【0115】
<第7実施形態>
これまでの実施形態では、伝播時間TaをもとにUWB通信機12からスマートフォン2までの距離を推定していた。しかし、スマートフォン2が送信した電波を車載システム1が受信したときの受信電力により、スマートフォン2と車載システム1が備える受信機との間の距離を推定することもできる。
【0116】
受信電力をもとに精度よく距離を推定する場合、スマートフォン2が送信する電波の送信電力を精度よく決定する必要がある。そこで、これまでの実施形態で説明した内部処理時間Tbに代えて、端末固有情報取得部F4は、端末固有情報として、スマートフォン2のUWB通信部21が応答電波を送信する際の送信電力を取得する。
【0117】
距離推定部F5は、この送信電力に対して、UWB通信機12が受信した受信電力の電力減衰率を算出する。送信電力と受信電力のうち受信電力が距離に応じて変化するので、受信電力が距離情報である。電力減衰率は距離に比例することから、電力減衰率から距離を推定する。距離を推定した後は、第1実施形態と同様にしてスマートフォン2の位置を推定することができる。
【0118】
なお、電力減衰率に基づいてスマートフォン2の位置を推定する場合においても、第2実施形態で説明した変形例が適用できる。つまり、送信電力はサーバ3に記憶されていてもよい。また、端末固有情報取得部F4は、接続確立したスマートフォン2の送信電力をサーバ3から取得するようにしてもよい。車載システム1は、その送信電力を、認証情報を取得するときに、同時に取得してもよい。また、第3~第6実施形態で説明した変形例も、電力減衰率に基づいてスマートフォン2の位置を推定する場合に適用できる。
【0119】
<第8実施形態>
第8実施形態では、スマートフォン2、102のいずれも使用可能である。また、車載システム1、101のいずれも使用可能である。以下では、スマートフォン2、車載システム1として説明する。
【0120】
第8実施形態でも、第4実施形態と同様、スマートECU11が、スマートフォン2の内部処理時間Tbを推定する。第4実施形態では、スマートフォン102が既知位置にある必要があった。これに対して、第8実施形態では、スマートフォン2は既知位置にある必要はない。
【0121】
まず、第8実施形態の概要を説明する。第8実施形態では、スマートフォン2が電波を反射する特性を有することを利用する。スマートフォン2の筐体が金属であれば、筐体が電波を反射する。筐体が金属でない場合であっても、スマートフォン2の内部には金属がある。したがって、スマートフォン2は電波を反射する。第8実施形態では、車載システム1が反射電波を受信する時刻と、応答電波を受信する時刻との時刻差を算出する。
【0122】
図14は、第8実施形態において端末固有情報取得部F4が実行する処理を示している。
図14に示す処理は、BLE通信またはUWB通信により接続確立中であって、スマートフォン2の内部処理時間Tbをフラッシュメモリ112に記憶していない場合に、周期的に実行する。BLE通信またはUWB通信により接続確立中であれば、スマートフォン2は、車両周辺あるいは車両内にあることになる。車両周辺は、車両外であって、BLE通信またはUWB通信の通信範囲内を意味する。
【0123】
S51ではスマートフォン2は車両周辺にあるか否かを判断する。換言すれば、スマートフォン2が車両Hvの中にないかどうかを判断する。ここでのスマートフォン2の位置は、精度が要求されるものではない。したがって、このS51の判断に用いるスマートフォン2の位置は、次のようにして推定することができる。たとえば、内部処理時間Tbを初期値として、電波の送受信により算出できる伝播時間をもとに距離を3つ算出し、その3つの距離から位置を推定することができる。また、カメラを備え、そのカメラが撮影した画像を解析することで、スマートフォン2の位置を推定してもよい。
【0124】
S51の判断結果がNOであれば
図14に示す処理を終了する。一方、S51の判断結果がYESであればS52に進む。つまり、スマートフォン2が、車両内ではなく車両周辺にあると判断した場合に、S52以下に進む。スマートフォン2が車両内にある場合にはS52以下を実行しない理由は、車両内には種々の電波反射部物ある可能性があり、反射電波が、スマートフォン2により反射されて生じたかどうかを判断するのが困難だからである。
【0125】
S52では、いずれか1つのUWB通信機12から所定の電波(以下、車両電波)を送信する。前述したように、スマートフォン2は電波を反射する。S53では、車両電波が反射されて生じた反射電波を受信したか否かを判断する。車両電波は、種々の金属等の電波反射物により反射される。また、車両Hvの周辺には種々の電波反射物が存在する可能性がある。したがって、反射電波は、車両電波がスマートフォン2で反射されて生じた反射電波であるかどうかは分からない。
【0126】
しかし、S53は、最初に反射電波を受信した場合にYESと判断する。スマートフォン2は車両周辺にあるはずであり、車両Hvの周辺が開けていれば、最初に受信する反射電波はスマートフォン2により反射されて生じたものであると考えることができるからである。なお、受信した電波が応答電波ではなく反射電波であることは、電波を復調および復号してベースバンド信号を取り出せば判断できる。S54では、反射電波を受信した受信時刻(以下、反射電波受信時刻)を決定する。反射電波受信時刻は反射電波情報の一例である。
【0127】
S55では、応答電波を受信したか否かを判断する。受信した電波が応答電波であるかどうかは、受信した電波を復調および復号してベースバンド信号を取り出せば判断できる。S55の判断結果がNOであればS55を繰り返し実行する。なお、S55および前述のS53ともに、タイムアウト時間が設定されており、タイムアウト時間になると、
図14に示す処理を終了する。S55の判断結果がYESになればS56に進む。S56では応答電波を受信した受信時刻(以下、応答電波受信時刻)を決定する。応答電波受信時刻は応答電波情報の一例である。
【0128】
S57では、反射電波がスマートフォン2からの反射電波であったかどうかを判断する。この判断は、反射電波受信時刻と応答電波受信時刻を比較して行う。反射電波受信時刻が受信電波受信時刻と同じまたはそれより後である場合、その反射電波はスマートフォン2からの反射電波ではないとする。また、反射電波受信時刻が受信電波受信時刻よりも前であっても、反射電波受信時刻と応答電波受信時刻との差が、想定できる内部処理時間Tbよりも大きい場合にも、スマートフォン2からの反射電波ではないとする。反射電波がスマートフォン2からではないと判断した場合、すなわち、S57の判断結果がNOであれば、
図14に示す処理を終了する。
【0129】
S57の判断結果がYESであればS58に進む。S58では、S54で決定した反射電波受信時刻とS56で決定した応答電波受信時刻との受信時刻差を算出する。
図15には、車両電波、反射電波、応答電波を送受信する時刻の関係を示している。
図15に示すように、応答電波受信時刻である時刻t5と反射電波受信時刻である時刻t4の差は、内部処理時間Tbに相当する。そこで、S59では、受信時刻差を内部処理時間Tbとしてフラッシュメモリ112に記憶する。
【0130】
このようにして内部処理時間Tbを記憶した後は、位置推定処理において、スマートECU11は、
図9に示す処理のS11からS16を省略し、S17以下を実行する。そのとき、S20では、フラッシュメモリ112に内部処理時間Tbが記憶されていれば、その内部処理時間Tbを用いて伝播時間Taを算出する。内部処理時間Tbが記憶されていなければ、初期値を用いて伝播時間Taを算出する。スマートフォン2の端末側制御部25は、接続確立中は、
図10に示す処理において、S38およびS39のみを実行する。
【0131】
〔第8実施形態のまとめ〕
この第8実施形態では、反射電波受信時刻と、応答電波受信時刻との時刻差を、スマートフォン2の内部処理時間Tbとする。したがって、スマートフォン2が既知位置になくても、内部処理時間Tbを算出することができる。
【0132】
また、第8実施形態では、スマートフォン2が車両周辺に位置していると判断している場合に、反射電波受信時刻と応答電波受信時刻を決定する。したがって、スマートフォン2により反射されたものではない反射電波の反射電波受信時刻を決定してしまうことを抑制できる。
【0133】
<第9実施形態>
第9実施形態は第8実施形態の変形例である。第8実施形態では、伝播時間TaをもとにUWB通信機12からスマートフォン2までの距離を推定していた。これに対して第9実施形態では、スマートフォン2が送信した電波を車載システム1が受信したときの受信電力により、スマートフォン2と車載システム1が備える受信機との間の距離を推定する。
【0134】
第9実施形態では、端末固有情報取得部F4は、反射電波情報として反射電波の受信電力を決定する。そして、送信電波である車両電波の送信電力と反射電波の受信電力とから、UWB通信機12とスマートフォン2との間の距離を推定する。なお、車両電波の送信電力は、測定するなどにより予め取得されているとする。
【0135】
反射電波の受信電力は、UWB通信機12とスマートフォン2との間の往復距離が長いほど小さくなる。電波の電力は距離の3乗で減衰することが知られているので、車両電波の送信電力と反射電波の受信電力が分かれば、UWB通信機12とスマートフォン2との間の往復距離、さらには、UWB通信機12とスマートフォン2との間の距離を推定できる。
【0136】
さらに、端末固有情報取得部F4は、スマートフォン2が送信する応答電波をUWB通信機12が受信したときの受信電力を取得する。応答電波の受信電力に、UWB通信機12とスマートフォン2との間の距離から定まる係数を乗じると、スマートフォン2が送信する応答電波の送信電力を推定することができる。端末固有情報取得部F4は、この応答電波の送信電力を端末固有情報として取得する。
【0137】
距離推定部F5は、端末固有情報取得部F4が取得した送信電力に対する、位置推定処理においてUWB通信機12が受信した受信電力の電力減衰率を算出する。受信電力は距離情報である。電力減衰率から距離を推定する。
【0138】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。たとえば下記の種々の変形例は、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。
<変形例1>
実施形態では、携帯端末としてスマートフォン2、102を例示した。しかし、携帯端末としては、タブレット端末、ウェアラブル端末など、スマートフォン2、102以外のものを用いることもできる。
【0139】
<変形例2>
実施形態の車載システム1、101は、UWB通信機12を4つ備えていた。しかし、UWB通信機12の数は3以上であればよい。
【0140】
<変形例3>
実施形態では、UWB通信機12からスマートフォン2、102までの距離を3つ以上推定した後、その距離に基づいてスマートフォン2、102の位置を推定していた。しかし、位置までは推定せず、スマートフォン2、102の距離により、車載装置の操作を居するか否かを決定してもよい。
【符号の説明】
【0141】
1:車載システム 2:スマートフォン(携帯端末) 3:サーバ 11:スマートECU 12:UWB通信機 13:BLE通信機 14:ドアボタン 15:スタートボタン 16:エンジンECU 17:ボディECU 19:広域通信機 21:UWB通信部 22:BLE通信部 23:広域通信部 24:端末記憶部 25:端末側制御部 26:通知部 31:広域通信部 32:サーバ記憶部 33:サーバ制御部 101:車載システム 102:スマートフォン 111:CPU 112:フラッシュメモリ 113:RAM 114:I/O 115:NFC通信部 124:NFC通信部 330:ラウンドトリップ時間計測部 F1:車両情報取得部 F2:通信処理部 F3:認証処理部 F4:端末固有情報取得部 F5:距離推定部 F6:位置推定部 F7:車両制御部 Hv:車両 Ta:伝播時間 Tb:内部処理時間 Tp:ラウンドトリップ時間