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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】発進制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/00 20060101AFI20241210BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
F02D29/00 G
F02D41/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023193680
(22)【出願日】2023-11-14
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 一輝
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-073842(JP,A)
【文献】特開2019-065758(JP,A)
【文献】特開2021-050681(JP,A)
【文献】特開2005-280558(JP,A)
【文献】特開2004-263647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00
F02D 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の速度と、前記車両の運転者の要求トルクと、変速機のギヤ段と、エンジンからの動力を遮断する断状態と前記動力を伝達する締結状態とを切り替え可能なクラッチ装置の締結率を取得する取得部と、
前記クラッチ装置が前記断状態から前記締結状態に切り替えられる前記車両の発進時に、前記エンジンの出力トルクにアシストトルクを付加するアシスト制御を行う制御部と、を有し、
前記制御部は、前記エンジンの出力トルクをフィードバック制御して前記アシスト制御を行う第1モードと、前記第1モードよりも小さいゲインで前記エンジンの出力トルクをフィードバック制御して前記アシスト制御を行う第2モードが設定され、
前記車両の速度と、前記変速機のギヤ段と、の少なくとも一方に基づいて前記車両が停車中と判定し、前記停車中の間に前記クラッチ装置が前記断状態に切り替えられると、前記車両が発進したと判定して前記第1モードの前記アシスト制御を開始し、
前記クラッチ装置が前記断状態から前記締結状態へ移行することに伴って上昇する前記締結率に応じて、前記エンジンの回転数を上昇させるように前記アシストトルクを付加する前記第1モードの前記アシスト制御を行い、
前記クラッチ装置が前記締結状態となると前記第1モードの前記アシストを終了し、
前記エンジンの出力トルクと前記要求トルクとの差が閾値より大きいと前記第2モードの前記アシスト制御を開始し、
前記エンジンの出力トルクと前記要求トルクとの差が前記閾値以下になると前記第2モードの前記アシスト制御終了する、
発進制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記クラッチ装置の前記締結率が前記断状態から前記締結状態へ移行するのに応じて前記エンジンの回転数を上昇させ、かつ、前記要求トルクが上昇しても、前記エンジンの回転数が所定範囲に維持されるように前記第1モードの前記アシスト制御を行う、
請求項1に記載の発進制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記クラッチ装置の前記締結率が完全な前記締結状態となり、かつ、前記エンジンの出力トルクと前記要求トルクとがゼロとなった場合に、前記第2モードの前記アシスト制御を終了する、
請求項1に記載の発進制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発進制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の発進時に、エンジンストールを抑制するために、エンジントルクをアシストする発進制御装置が開示されている。ここで、発進制御装置は、エンジン制御の応答性を向上することが求められる。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、発進アシスト制御の応答性を効果的に向上することにより、車両の発進性を向上させる車両の発進制御装置が開示されている。この発進制御装置では、アクセル開度とクラッチ締結率に応じてエンジン回転数を目標回転数に上昇させる発進アシスト制御を実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-014833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発進制御装置は、アシスト制御を停止する際に、エンジントルクと運転者の要求トルクとの差に応じて、運転者が車両の加速に違和感を覚えるおそれがある。
【0006】
本開示は、車両の発進時における運転者の加速フィーリングを向上させる発進制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る発進制御装置は、車両の速度と、前記車両の運転者の要求トルクと、変速機のギヤ段と、エンジンからの動力を遮断する断状態と前記動力を伝達する締結状態とを切り替え可能なクラッチ装置の締結率を取得する取得部と、前記クラッチ装置が前記断状態から前記締結状態に切り替えられる前記車両の発進時に、前記エンジンの出力トルクにアシストトルクを付加するアシスト制御を行う制御部と、を有し、前記制御部は、前記エンジンの出力トルクをフィードバック制御して前記アシスト制御を行う第1モードと、前記第1モードよりも小さいゲインで前記エンジンの出力トルクをフィードバック制御して前記アシスト制御を行う第2モードが設定され、前記車両の速度と、前記変速機のギヤ段と、の少なくとも一方に基づいて前記車両が停車中と判定し、前記停車中の間に前記クラッチ装置が前記断状態に切り替えられると、前記車両が発進したと判定して前記第1モードの前記アシスト制御を開始し、前記クラッチ装置が前記断状態から前記締結状態へ移行することに伴って上昇する前記締結率に応じて、前記エンジンの回転数を上昇させるように前記アシストトルクを付加する前記第1モードの前記アシスト制御を行い、前記クラッチ装置が前記締結状態となると前記第1モードの前記アシストを終了し、前記エンジンの出力トルクと前記要求トルクとの差が閾値より大きいと前記第2モードの前記アシスト制御を開始し、前記エンジンの出力トルクと前記要求トルクとの差が前記閾値以下になると前記第2モードの前記アシスト制御終了するものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、車両の発進時における運転者の加速フィーリングを向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る発進制御装置を備えた車両の構成を示す図である。
図2図2は、発進制御装置の構成を示す図である。
図3図3は、一実施形態の動作を示すフローチャートである。
図4図4は、発進制御装置によるエンジンの出力トルクのアシストを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1に、本開示の一実施形態に係る発進制御装置を備えた車両の構成を示す。この車両は、エンジン1を有し、エンジン1のクランクシャフトと変速機3のインプットシャフトがクラッチ装置2により断切可能に接続されている。また、変速機3のアウトプットシャフトには、デファレンシャルギヤを介して左右の駆動輪がそれぞれ接続されている。また、車両は、アクセルペダル4と、クラッチペダル5と、変速操作装置6と、要求トルクセンサ7aと、クラッチストロークセンサ7bと、シフトポジションセンサ7cと、エンジン回転数センサ7dと、車速センサ7eと、発進制御装置8とを有する。
【0012】
エンジン1は、燃料を燃焼して車両を走行するための駆動力を発生させるもので、例えば、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程の4つの行程を繰り返す、いわゆる4ストローク機関から構成される。エンジン1としては、例えば、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなどが挙げられる。また、エンジン1は、直噴式エンジンに限定されず、予混合式エンジンであってもよい。また、エンジン1は、単気筒又は複数気筒の何れであってもよい。
【0013】
クラッチ装置2は、エンジン1と変速機3との間に配置されて、エンジン1から変速機3への動力の伝達を遮断する「断状態」と、エンジン1から変速機3に動力を伝達する「締結状態」とを切り替え可能に構成されている。具体的には、クラッチ装置2は、運転者がクラッチペダル5を踏み込むと、マスターシリンダからレリーズシリンダに供給される作動油圧によりピストンがプッシュロッドと一体にストローク移動し、レリーズフォークが回動してレリーズベアリングを押圧することにより、「締結状態」から「断状態」に切り替えられる。また、クラッチ装置2は、運転者がクラッチペダル5を開放すると、ダイヤフラムスプリングの弾性力によりクラッチディスクのクラッチフェーシングがフライホイールに押し付けられることで、「断状態」から「締結状態」に切り替えられる。
【0014】
変速機3は、運転室内に設けられた変速操作装置6の操作に応じて変速作動する手動変速機であって複数の変速ギヤ列を有する。具体的には、複数の変速ギヤ列は、変速操作装置6の操作に応じて、アウトプットシャフト又はカウンタシャフトと一体回転可能に結合(ギヤイン)される。複数の変速ギヤ列には、例えば、前進発進用の低速段ギヤ列(例えば、1速、2速)または後進用のリバースギヤ列などの発進用ギヤ列(発進用ギヤ段)を含む。
【0015】
アクセルペダル4は、運転者により操作可能に配置され、運転者の踏み込み量に応じてエンジン1における燃料の噴射量または噴射タイミングなどが制御される。
【0016】
クラッチペダル5は、運転者により操作可能に配置され、運転者の踏み込みに応じてクラッチ装置2の「断状態」と「締結状態」を切り替えるようにクラッチ装置2に接続されている。
【0017】
変速操作装置6は、運転者により操作可能に配置され、運転者の操作に応じて変速機3を変速作動するように変速機3が制御される。
【0018】
要求トルクセンサ7aは、アクセルペダル4の踏込み量を検出する。クラッチストロークセンサ7bは、クラッチペダル5の踏込み量に応じたクラッチストローク量を検出する。例えば、クラッチストロークセンサ7bは、クラッチペダル5に接続されたマスターシリンダのロッドの移動量からクラッチストローク量を検出する。シフトポジションセンサ7cは、変速操作装置6の操作位置を検出する。エンジン回転数センサ7dは、例えばエンジン1に接続されたクランクシャフトの回転数を検出する。車速センサ7eは、例えばプロペラシャフトの回転数を検出する。要求トルクセンサ7a、クラッチストロークセンサ7b、シフトポジションセンサ7c、エンジン回転数センサ7d、および車速センサ7eは、それぞれ、電気的に接続された発進制御装置8に検出値を出力する。
【0019】
図2に、発進制御装置8の構成を示す。発進制御装置8は、取得部9と、制御部10と、記憶部11とを有する。
【0020】
取得部9は、要求トルクセンサ7aで検出されるアクセルペダル4の踏込み量に基づいて運転者の要求トルク(アクセル開度)を取得する。また、取得部9は、クラッチストロークセンサ7bで検出されるクラッチストローク量に基づいてクラッチ装置2のクラッチ締結率(締結度合い)を取得する。また、取得部9は、シフトポジションセンサ7cで検出される変速操作装置6の操作位置に基づいて変速機3の現在のギヤ段を取得する。また、取得部9は、エンジン回転数センサ7dで検出されるクランクシャフトの回転数に基づいてエンジン1の回転数を取得する。また、取得部9は、車速センサ7eで検出されるプロペラシャフトの回転数に基づいて車両の速度を取得する。
【0021】
制御部10は、クラッチ装置2が「断状態」から「締結状態」に切り替えられる車両の発進時に、取得部9により取得される運転者の要求トルクとクラッチ装置2の締結度合いとに基づいて、エンジン1の出力トルクをアシストするようにエンジン1における燃料の噴射量または噴射タイミングなどを制御する。具体的には、記憶部11には、運転者の要求トルク及びクラッチ装置2の締結度合いに応じて変化するエンジン1の目標回転数を規定した目標回転数マップが格納されている。例えば、エンジン1の目標回転数は、目標回転数マップにおいて、運転者の要求トルクが大きくなるほど上昇し、且つ、クラッチ装置2の締結度合いが増加するほど上昇するように設定されている。
【0022】
制御部10は、車両の発進時に、運転者の要求トルク及びクラッチ装置2の締結度合いに基づいて記憶部11に記憶された目標回転数マップを参照することにより、エンジン1の目標回転数を算出する。そして、制御部10は、エンジン1が目標回転数で回転するようにエンジン1における燃料の噴射量などを制御する。例えば、制御部10は、エンジン1の目標回転数と実回転数との偏差に基づいて、エンジン1における燃料の噴射量をフィードバック制御してもよい。これにより、制御部10は、エンジン1の目標回転数に対して運転者の要求トルクが足りない場合、その不足する回転数を補う(回転数が増加する)ようにエンジン1の出力トルクをアシストすることになる。
【0023】
そして、制御部10は、エンジン1のアシストを終了する所定の条件が満たされた場合、エンジン1の出力トルクと運転者の要求トルクとの差に基づいて、エンジン1の出力トルクのアシストを延長するか否かを判定する。制御部10は、例えば、エンジン1の出力トルクと運転者の要求トルクとの差が所定値以下を示すまでエンジン1のアシストを延長してもよい。なお、所定の条件は、例えば、クラッチ装置2が「締結状態」になる、または、車速が所定の閾値を超えることなどを含んでもよい。
【0024】
なお、発進制御装置8は、1以上のプロセッサで構成されていてもよく、制御装置の機能は、コンピュータプログラムを1以上のプロセッサが実行することにより実現させることもできる。例えば、コンピュータの読取装置が、発進制御装置8の機能を実現するためのプログラムを記録した記録媒体からそのプログラムを読み取り、記憶装置に記憶させる。そして、CPU(Central Processing Unit)が、記憶装置に記憶されたプログラムをRAM(Random Access Memory)にコピーし、そのプログラムに含まれる命令をRAMから順次読み出して実行することにより、発進制御装置8の機能を実現することができる。
【0025】
次に、本実施形態の動作について、図3のフローチャートを参照して説明する。
【0026】
まず、図1に示すように、運転者がアクセルペダル4を操作すると、要求トルクセンサ7aが、アクセルペダル4の踏込み量を検出する。また、運転者がクラッチペダル5を操作すると、クラッチストロークセンサ7bが、クラッチペダル5の踏込み量に応じたクラッチストローク量を検出する。そして、要求トルクセンサ7aおよびクラッチストロークセンサ7bは、検出したアクセルペダル4の踏込み量とクラッチストローク量を発進制御装置8に出力する。
【0027】
また、シフトポジションセンサ7cが、検出した変速操作装置6の操作位置を発進制御装置8に出力する。また、エンジン回転数センサ7dが、検出したクランクシャフトの回転数を発進制御装置8に出力する。また、車速センサ7eが、検出したプロペラシャフトの回転数を発進制御装置8に出力する。
【0028】
図2に示すように、要求トルクセンサ7a、クラッチストロークセンサ7b、シフトポジションセンサ7c、エンジン回転数センサ7d、および車速センサ7eから出力された検出データは、発進制御装置8の取得部9に入力される。これにより、取得部9は、ステップS1で、要求トルクセンサ7aで検出されたアクセルペダル4の踏込み量に基づいて車両の運転者の要求トルクを取得すると共に、クラッチストロークセンサ7bで検出されたクラッチストローク量に基づいてクラッチ装置2の締結度合いを取得する。
【0029】
また、取得部9は、シフトポジションセンサ7cで検出された変速操作装置6の操作位置に基づいて変速機3の現在のギヤ段を取得する。また、取得部9は、エンジン回転数センサ7dで検出されたクランクシャフトの回転数に基づいてエンジン1の回転数を取得すると共に、車速センサ7eで検出されたプロペラシャフトの回転数に基づいて車両の速度を取得する。取得部9は、取得した運転者の要求トルク、クラッチ装置2の締結度合い、変速機3のギヤ段、エンジン1の回転数、および車両の速度などの取得データを制御部10に出力する。
【0030】
制御部10は、取得部9で取得された取得データを入力すると、ステップS2で、クラッチ装置2が「断状態」から「締結状態」に切り替えられる車両の発進時か否かを判定する。
【0031】
具体的には、制御部10は、取得部9で取得された車両の速度または変速機3のギヤ段に基づいて、車両が停車中か否かを判定してもよい。例えば、制御部10は、図4に示すように、時刻t0において、変速機3のギヤ段がニュートラルの場合、車両が停車していると判定することができる。
【0032】
ここで、制御部10は、エンジン1の駆動時を通して共通の設定(通常制御とアシスト制御で共通の設定)でエンジン1の出力トルクをフィードバック制御する第1モードと、車両の発進時専用の設定(アシスト制御に専用の設定)でエンジン1の出力トルクをフィードバック制御する第2モードとが予め設定されてもよい。そして、制御部10は、車両が停車中と判定すると、第1モードに基づいて、所定のアイドリング回転数を維持するようにエンジン1を通常制御する。
【0033】
また、制御部10は、車両が停車中と判定すると、取得部9で取得されたクラッチ装置2の締結度合いに基づいて、クラッチ装置2が「断状態」に切り替えられたか否かを判定すると共に、取得部9で取得された変速機3のギヤ段に基づいて、変速機3の発進用ギヤ段にギヤインされたか否かを判定する。ここで、制御部10は、時刻t1において、クラッチ装置2が「断状態」に切り替えられ(クラッチペダルが踏み込まれた)、且つ、発進用ギヤ段にギヤインされた場合に、車両が発進したと判定することができる。このとき、制御部10は、車両が発進したと判定するまで、ステップS2の判定を繰り返す。
【0034】
制御部10は、車両が発進したと判定すると、ステップS3に進んで、第1モードのアシスト制御を開始する。例えば、制御部10は、エンジン1の目標回転数と実回転数との偏差に基づいて、エンジン1における燃料の噴射量をフィードバック制御することができる。具体的には、制御部10は、運転者の要求トルク(アクセル開度)とクラッチ装置2の締結度合いとに基づいて、記憶部11に記憶された目標回転数マップを参照することにより、エンジン1の目標回転数R1を算出する。そして、制御部10は、エンジン1の目標回転数R1と実回転数R2との差に対応するアシストトルクT2を付加するようにエンジン1の出力トルクT1をアシスト制御する。
【0035】
このとき、エンジン1の目標回転数R1は、クラッチ装置2の締結度合いの上昇(「断状態」から「締結状態」への移行)に応じて、エンジン1の実回転数R2がアイドリング回転数から上昇するように算出される。このため、制御部10は、運転者の要求トルクが生じていない(アクセルペダル4が踏み込まれていない)時刻t2より前において、クラッチ装置2の締結度合いの上昇に応じてエンジン1の実回転数R2が上昇するようにアシストトルクT2を生じさせることになる。これにより、制御部10は、目標回転数R1に従ってエンジン1の実回転数R2を上昇させることができる。また、制御部10は、クラッチ装置2が完全に締結するより前に、エンジン1の実回転数R2を所定値以上に上昇させることができ、エンジンストールを抑制することができる。
【0036】
制御部10は、時刻t2において、エンジン1の実回転数R2を所定値以上に上昇させると、エンジン1の目標回転数R1と実回転数R2との偏差に基づいて、実回転数R2を所定値に維持するようにエンジン1の出力トルクT1を制御する。このため、制御部10は、運転者の要求トルクT3が入力されると、その要求トルクT3の上昇に応じてアシストトルクT2が減少するようにエンジン1の出力トルクT1を制御することになる。
【0037】
続いて、制御部10は、ステップS4で、エンジン1のアシストを終了する所定の条件が満たされたか否かを判定する。例えば、制御部10は、クラッチ装置2が完全な「締結状態」となる、または、車速が所定の閾値を超えた場合に、所定の条件が満たされたと判定してもよい。制御部10は、所定の条件が満たされるまでステップS4の判定を繰り返す。ここで、制御部10は、時刻t3において、エンジン1のアシストを終了する所定の条件が満たされたと判定したものとする。
【0038】
このように、エンジン1のアシストを終了する所定の条件が満たされた場合でも、エンジン1の出力トルクT1と運転者の要求トルクT3との間に所定値を超える大きな差Dが生じるおそれがある。このような場合に、エンジン1のアシストを終了すると、運転者が、出力トルクT1と要求トルクT3との差Dに応じて車両の加速に違和感を覚えるおそれがある。例えば、運転者は、車両の加速に対してフラット感、鈍さ、応答遅れ、落ち込みなどを感じるおそれがある。
【0039】
そこで、制御部10は、エンジン1の出力トルクT1のアシストを終了する所定の条件が満たされた場合、ステップS5に進んで、エンジン1の出力トルクT1と運転者の要求トルクT3との差Dに基づいて、エンジン1の出力トルクT1のアシストを延長するか否かを判定する。例えば、制御部10は、エンジン1の出力トルクT1と運転者の要求トルクT3との差Dが所定値以下か否かに基づいて、エンジン1の出力トルクT1のアシストを延長するか否かを判定してもよい。なお、所定値は、例えば、搭乗者の加速フィーリングの評価に基づいて設定することができる。
【0040】
制御部10は、エンジン1の出力トルクT1のアシストを延長しないと判定(差Dが所定値以下と判定)した場合、ステップS7に進んで、エンジン1の出力トルクT1のアシストを終了する。そして、制御部10は、運転者の要求トルクT3に基づいて、エンジン1の出力トルクT1を制御する。
【0041】
一方、制御部10は、エンジン1の出力トルクT1のアシストを延長すると判定(差Dが所定値を超えていると判定)した場合、エンジン1の出力トルクT1のアシストを延長する。すなわち、制御部10は、エンジン1の目標回転数R1と実回転数R2との偏差に対応するアシストトルクT2を付加するようにエンジン1の出力トルクT1をアシスト制御する。これにより、発進制御装置8は、出力トルクT1の減少感を抑制し、車両の発進時における運転者の加速フィーリングを向上させることができる。
【0042】
このとき、制御部10は、第1モードから第2モードに切り換えて、第2モードによりエンジン1をアシスト制御することができる。ここで、第2モードのアシストトルクT2aは、運転者の要求トルクT3の上昇に応じて、第1モードのアシストトルクT2より緩やかに減少するように設定されている。例えば、第2モードにおけるフィードバック制御のゲインを第1モードより小さくすることで、第2モードのアシストトルクT2aを緩やかに減少させることができる。これにより、制御部10は、第1モードから第2モードに切り換えた際に、エンジン1の出力トルクに段差が生じることを抑制し、エンジン1の出力トルクをスムーズに繋げることができる。このため、発進制御装置8は、車両の発進時における運転者の加速フィーリングを確実に向上させることができる。
【0043】
また、第1モードと第2モードを別々に設けることにより、エンジン1の駆動時を通して共通の設定(通常制御とアシスト制御で共通の設定)でフィードバック制御する第1モードに対して、車両の発進時専用の設定(アシスト制御に専用の設定)でフィードバック制御する第2モードを容易に設定することができる。
【0044】
続いて、制御部10は、ステップS6において、エンジン1の出力トルクT1aと運転者の要求トルクT3との差Dが所定値以下を示すか否かを判定する。制御部10は、エンジン1の出力トルクT1aと運転者の要求トルクT3との差Dが所定値以下を示すまで、ステップS6の判定を繰り返す。これにより、発進制御装置8は、エンジン1の出力トルクに段差が生じることを抑制し、車両の発進時における運転者の加速フィーリングを確実に向上させることができる。
【0045】
なお、所定値は、ステップS5の判定時と同じ値に設定されてもよい。また、所定値は、エンジン1の出力トルクT1aと運転者の要求トルクT3とが一致するゼロに設定されてもよい。
【0046】
制御部10は、時刻t4において、エンジン1の出力トルクT1aと運転者の要求トルクT3との差Dが所定値以下を示すと判定すると、ステップS7に進んで、エンジン1の出力トルクT1のアシストを終了する。これにより、制御部10は、運転者の要求トルクT3に基づいて、エンジン1の出力トルクT1を制御する。このとき、制御部10は、第2モードから第1モードに切り換えてもよい。
【0047】
本実施形態によれば、取得部9が、車両の運転者の要求トルクT3とクラッチ装置2の締結度合いとを取得する。また、制御部10が、クラッチ装置2が断状態から締結状態に切り替えられる車両の発進時に、取得部9により取得される要求トルクT3とクラッチ装置2の締結度合いとに基づいて、エンジン1の出力トルクT1をアシストするようにエンジン1を制御する。そして、制御部10は、アシストを終了する所定の条件が満たされた場合、エンジン1の出力トルクT1と要求トルクT3との差に基づいて、アシストを延長するか否かを判定する。このため、発進制御装置8は、車両の発進時における運転者の加速フィーリングを向上させることができる。
【0048】
なお、上記の実施形態では、変速操作装置6は、手動変速機から構成されたが、自動変速機から構成されてもよい。
【0049】
その他、上記の実施形態は、何れも本発明の実施をするにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。例えば、上記の実施形態で説明した各部の形状や個数などについての開示はあくまで例示であり、適宜変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示に係る発進制御装置は、エンジンの出力トルクをアシストする装置に利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 エンジン
2 クラッチ装置
3 変速機
4 アクセルペダル
5 クラッチペダル
6 変速操作装置
7a 要求トルクセンサ
7b クラッチストロークセンサ
7c シフトポジションセンサ
7d エンジン回転数センサ
7e 車速センサ
8 発進制御装置
9 取得部
10 制御部
11 記憶部
D 差
R1 目標回転数
R2 実回転数
t0~t4 時刻
T1,T1a 出力トルク
T2,T2a アシストトルク
T3 要求トルク
【要約】
【課題】車両の発進時における運転者の加速フィーリングを向上させる発進制御装置を提供する。
【解決手段】発進制御装置は、車両の運転者の要求トルクとクラッチ装置の締結度合いとを取得する取得部と、クラッチ装置が断状態から締結状態に切り替えられる前記車両の発進時に、前記取得部により取得される前記要求トルクと前記締結度合いとに基づいて、エンジンの出力トルクをアシストするように前記エンジンを制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記アシストを終了する所定の条件が満たされた場合、前記エンジンの出力トルクと前記要求トルクとの差に基づいて、前記アシストを延長するか否かを判定する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4