(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】過渡電圧吸収素子及び過渡電圧吸収回路
(51)【国際特許分類】
H01L 21/822 20060101AFI20241210BHJP
H01L 27/04 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H01L27/04 H
H01L27/04 C
(21)【出願番号】P 2023514593
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022016131
(87)【国際公開番号】W WO2022220130
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2021067574
(32)【優先日】2021-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大原 達也
【審査官】市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-103125(JP,A)
【文献】特開2005-217043(JP,A)
【文献】国際公開第2019/031036(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/025695(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/152255(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/021411(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/202774(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159282(WO,A1)
【文献】特開2010-278243(JP,A)
【文献】特開2010-251669(JP,A)
【文献】特開2007-103059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/822
H01L 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリーズにインダクタが接続された信号ラインと基準電位との間にシャントに接続される過渡電圧吸収素子であり、
前記信号ラインと前記基準電位との間に形成される経路の容量性には周波数依存性があり、前記経路の容量性は、前記信号ラインを伝搬する信号の周波数帯において前記信号の周波数帯以外の周波数帯に比べて小さい、
過渡電圧吸収素子。
【請求項2】
シリーズにインダクタが接続された信号ラインと基準電位との間にシャントに接続される過渡電圧吸収素子であり、
前記信号ラインと前記基準電位との間にシャントに接続される第1経路に、直列接続された、第1浮遊容量、第1寄生インダクタ及び第1寄生抵抗を備え、
前記信号ラインと前記基準電位との間にシャントに接続される第2経路に、直列接続された、第2浮遊容量、第2寄生インダクタ及び第2寄生抵抗を備え、
前記信号ラインを伝搬する信号の周波数帯での、前記第1寄生インダクタ及び前記第1寄生抵抗による第1寄生インピーダンスと、前記第2寄生インダクタ及び前記第2寄生抵抗による第2寄生インピーダンスとは異なり、
前記第1寄生インピーダンスと前記第2寄生インピーダンスとのうち、前記信号の周波数帯での寄生インピーダンスの高い側の前記第1経路に挿入された前記第1浮遊容量、または前記第2経路に挿入された前記第2浮遊容量の影響が抑制された、
過渡電圧吸収素子。
【請求項3】
前記第1浮遊容量又は前記第2浮遊容量は半導体基板部に形成されたダイオードに起因する浮遊容量を含む、
請求項2に記載の過渡電圧吸収素子。
【請求項4】
前記第1浮遊容量又は前記第2浮遊容量のうち、前記ダイオードに起因する浮遊容量以外の浮遊容量は、前記第1浮遊容量は配線層の配線と半導体基板部との間に生じる浮遊容量を含む、
請求項3に記載の過渡電圧吸収素子。
【請求項5】
シリーズにインダクタが接続された信号ラインと基準電位との間にシャントに接続される過渡電圧吸収素子であり、
前記信号ラインと前記基準電位との間にシャントに接続される第1経路に、直列接続された、第1浮遊容量、第1寄生インダクタ及び第1寄生抵抗を備え、
前記信号ラインと前記基準電位との間にシャントに接続される第2経路に、直列接続された、第2浮遊容量、第2寄生インダクタ及び第2寄生抵抗を備え、
前記信号ラインと前記基準電位との間にシャントに接続される第3経路に、直列接続された、第3浮遊容量、第3寄生インダクタ及び第3寄生抵抗を備え、
前記第1浮遊容量は配線層の配線間に生じる浮遊容量を含み、
前記第2浮遊容量は、ダイオードの空乏層に生じる浮遊容量を含み、
前記第3浮遊容量は前記配線層の配線と半導体基板部との間に生じる浮遊容量を含む、
過渡電圧吸収素子。
【請求項6】
信号ラインと基準電位との間にシャントに接続される過渡電圧吸収素子と、前記信号ラインにシリーズに接続されたインダクタと、で構成され、
前記信号ラインと前記基準電位との間に形成される経路の容量性には周波数依存性があり、前記経路の容量性は、前記信号ラインを伝搬する信号の周波数帯において前記信号の周波数帯以外の周波数帯に比べて小さい、
過渡電圧吸収回路。
【請求項7】
信号ラインと基準電位との間にシャントに接続される過渡電圧吸収素子と、前記信号ラインにシリーズに接続されたインダクタと、で構成され、
前記信号ラインと前記基準電位との間にシャントに接続される第1経路に、直列接続された、第1浮遊容量、第1寄生インダクタ及び第1寄生抵抗を備え、
前記信号ラインと前記基準電位との間にシャントに接続される第2経路に、直列接続された、第2浮遊容量、第2寄生インダクタ及び第2寄生抵抗を備え、
前記信号ラインを伝搬する信号の周波数帯での、前記第1寄生インダクタ及び前記第1寄生抵抗による第1寄生インピーダンスと、前記第2寄生インダクタ及び前記第2寄生抵抗による第2寄生インピーダンスとは異なり、
前記第1寄生インピーダンスと前記第2寄生インピーダンスとのうち、前記信号の周波数帯での寄生インピーダンスの高い側の前記第1経路に挿入された前記第1浮遊容量、または前記第2経路に挿入された前記第2浮遊容量の影響が抑制された、
過渡電圧吸収回路。
【請求項8】
前記第1浮遊容量又は前記第2浮遊容量は半導体基板部に形成されたダイオードに起因する浮遊容量を含み、
前記第1浮遊容量又は前記第2浮遊容量のうち、前記ダイオードに起因する浮遊容量以外の浮遊容量は配線層の配線と半導体基板部との間に生じる浮遊容量を含む、
請求項7に記載の過渡電圧吸収回路。
【請求項9】
前記インダクタに対して並列に接続されたキャパシタを備える、
請求項6から8のいずれかに記載の過渡電圧吸収回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ESD(静電気放電)等による過渡的な異常電圧や、雷サージ、開閉サージ等のサージを吸収する過渡電圧吸収素子、及びそれを備えて、電子機器を保護する過渡電圧吸収回路に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、伝送線路とグランドとの間に過渡電圧吸収素子を挿入すると、過渡電圧吸収素子の浮遊容量によって高周波信号がグランドへ漏れ、伝送線路の伝送特性が悪化する。
【0003】
特許文献1には、相互誘導素子等を利用して、過渡電圧吸収素子の浮遊容量成分の影響を抑制するようにした過渡電圧吸収回路が示されている。
【0004】
特許文献2には、ダイオードの浮遊容量で直列LCフィルタを構成し、入力信号の周波数帯域がフィルタの通過帯域に含まれるようにし、サージの主周波数がフィルタの減衰帯域に含まれるようにした過渡電圧吸収回路が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-156846号公報
【文献】特開2010-57332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図20は従来の過渡電圧吸収回路の回路図である。この過渡電圧吸収回路は、第1端子T1、第2端子T2、第3端子T3、及び第1端子T1と第2端子T2との間に存在する信号ラインSLを備える。第3端子T3はグランド等の基準電位に接続される。また、信号ラインSLにはインダクタLa,Lbがシリーズに接続されていて、信号ラインSLと第3端子T3(基準電位)との間に過渡電圧吸収素子としてのダイオードBDがシャントに接続されている。過渡電圧吸収素子としてのダイオードBDには浮遊容量が存在する。
【0007】
図21は、
図20に示した過渡電圧吸収回路の透過係数S21の周波数特性を示す図である。
図21において、特性曲線Aは上記浮遊容量が0.1pF、特性曲線Bは上記浮遊容量が0.3pF、特性曲線Cは上記浮遊容量が0.5pF、であるときの過渡電圧吸収回路の周波数依存性を示す。ここで20GHz帯は、通過させたい周波数の周波数帯である。勿論、ここで「20GHz」というのは一例に過ぎない。
【0008】
このように、伝送線路の高周波数帯における伝送特性の劣化を抑制するためには、過渡電圧吸収素子の浮遊容量を下げることが重要である。しかし、過渡電圧吸収素子の印加電圧に対する過渡電圧吸収素子の耐量と、過渡電圧吸収素子の浮遊容量とは、トレードオフの関係にある。例えばダイオードを過渡電圧吸収素子として用いる場合に、ダイオードを形成するPN接合部のドープ量を調整することによって、耐量を落とさずに浮遊容量を下げることは可能であるが、製品仕様から決まるブレークダウン電圧やダイナミック抵抗などによってドープ量が或る値に固定された場合、ダイオードの空乏層からなる上記浮遊容量の容量値を下げるには、PN接合部の面積を小さくする必要があり、それによって過渡電圧吸収素子自体の耐量が低下する、という問題が生じる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、伝送線路の高周波通過特性を低下させることなく、過渡電圧吸収素子の過渡電圧吸収機能を高めた過渡電圧吸収回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(A)本開示の一例としての過渡電圧吸収素子は、シリーズにインダクタが接続された信号ラインと基準電位との間にシャントに接続される過渡電圧吸収素子であり、前記信号ラインと前記基準電位との間に形成される経路の容量性には周波数依存性があり、前記経路の容量性は、前記信号ラインを伝搬する信号の周波数帯において前記信号の周波数帯以外の周波数帯に比べて小さい、ことを特徴とする。
【0011】
(B)本開示の一例としての過渡電圧吸収素子は、シリーズにインダクタが接続された信号ラインと基準電位との間にシャントに接続される過渡電圧吸収素子であり、前記信号ラインと前記基準電位との間にシャントに接続される第1経路に、直列接続された、第1浮遊容量、第1寄生インダクタ及び第1寄生抵抗を備え、前記信号ラインと前記基準電位との間にシャントに接続される第2経路に、直列接続された、第2浮遊容量、第2寄生インダクタ及び第2寄生抵抗を備え、前記信号ラインを伝搬する信号の周波数帯での、前記第1寄生インダクタ及び前記第1寄生抵抗による第1寄生インピーダンスと、前記第2寄生インダクタ及び前記第2寄生抵抗による第2寄生インピーダンスとは異なり、前記第1寄生インピーダンスと前記第2寄生インピーダンスとのうち、前記信号の周波数帯での寄生インピーダンスの高い側の前記第1経路に挿入された前記第1浮遊容量、または前記第2経路に挿入された前記第2浮遊容量の影響が抑制された、ことを特徴とする。
【0012】
(C)本開示の一例としての過渡電圧吸収回路は、信号ラインと基準電位との間にシャントに接続される過渡電圧吸収素子と、前記信号ラインにシリーズに接続されたインダクタと、で構成され、前記信号ラインと前記基準電位との間に形成される経路の容量性には周波数依存性があり、前記経路の容量性は、前記信号ラインを伝搬する信号の周波数帯において前記信号の周波数帯以外の周波数帯に比べて小さい、ことを特徴とする。
【0013】
(D)本開示の一例としての過渡電圧吸収回路は、信号ラインと基準電位との間にシャントに接続される過渡電圧吸収素子と、前記信号ラインにシリーズに接続されたインダクタと、で構成され、前記信号ラインと前記基準電位との間にシャントに接続される第1経路には、直列接続された、第1浮遊容量、第1寄生インダクタ及び第1寄生抵抗を備え、
前記信号ラインと前記基準電位との間にシャントに接続される第2経路には、直列接続された、第2浮遊容量、第2寄生インダクタ及び第2寄生抵抗を備え、前記信号ラインを伝搬する信号の周波数帯での、前記第1寄生インダクタ及び前記第1寄生抵抗による第1寄生インピーダンスと、前記第2寄生インダクタ及び前記第2寄生抵抗による第2寄生インピーダンスとは異なり、前記第1寄生インピーダンスと前記第2寄生インピーダンスとのうち、前記信号の周波数帯での寄生インピーダンスの高い側の前記第1経路に挿入された前記第1浮遊容量、または前記第2経路に挿入された前記第2浮遊容量の影響が抑制された、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、伝送線路の高周波通過特性を低下させることなく、過渡電圧吸収素子のサージ吸収機能を高めた過渡電圧吸収回路が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は第1の実施形態に係る過渡電圧吸収回路101の回路図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した過渡電圧吸収回路101の具体的な構成例の回路図である。
【
図3】
図3(A)は過渡電圧吸収素子11の(過渡電圧吸収回路101の信号ラインSLと第3端子T3(基準電位)との間に生じる)浮遊容量のキャパシタンスの周波数依存性を示す図である。
図3(B)は過渡電圧吸収素子11のインピーダンスの周波数依存性を示す図である。
【
図4】
図4は過渡電圧吸収素子11の平面図である。
【
図6】
図6は
図4に示した過渡電圧吸収素子11の回路図である。
【
図7】
図7は
図4に示した例とは異なる過渡電圧吸収素子11の平面図である。
【
図8】
図8は過渡電圧吸収素子11の浮遊容量によるインピーダンスの周波数依存性を示す図である。
【
図9】
図9は過渡電圧吸収回路101の透過係数S21の周波数特性を示す図である。
【
図10】
図10は第2の実施形態に係る過渡電圧吸収素子12の斜視図である。
【
図11】
図11は、過渡電圧吸収素子12の、ダイオードに導通する導電体のパターンの平面図である。
【
図12】
図12は導電体を裏面から見た各部の電界の強度を濃淡で示す図である。
【
図13】
図13は第3の実施形態に係る過渡電圧吸収素子13の断面図である。
【
図14】
図14は過渡電圧吸収素子13を備える過渡電圧吸収回路103の回路図である。
【
図15】
図15(A)、
図15(B)は、第4の実施形態に係る過渡電圧吸収素子14の断面図である。
【
図16】
図16は第5の実施形態に係る過渡電圧吸収回路105の回路図である。
【
図17】
図17は第6の実施形態に係る過渡電圧吸収素子16の断面図である。
【
図18】
図18(A)は過渡電圧吸収素子16を備える過渡電圧吸収回路106の回路図である。
図18(B)は
図5に示した過渡電圧吸収素子11を備える過渡電圧吸収回路の回路図である。
【
図19】
図19は第7の実施形態に係る過渡電圧吸収回路107の回路図である。
【
図21】
図21は
図20に示した過渡電圧吸収回路の透過係数S21の周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明又は理解の容易性を考慮して、実施形態を説明の便宜上、複数の実施形態に分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせは可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0017】
《第1の実施形態》
図1は第1の実施形態に係る過渡電圧吸収回路101の回路図である。この過渡電圧吸収回路101は、第1端子T1、第2端子T2、第3端子T3、及び第1端子T1と第2端子T2との間に存在する信号ラインSLを備える。第3端子T3はグランド等の基準電位に接続される。また、信号ラインSLにはインダクタLa,Lbがシリーズに接続されていて、信号ラインSLと第3端子T3(基準電位)との間に過渡電圧吸収素子11がシャントに接続されている。
【0018】
過渡電圧吸収素子11は2端子素子であり、その端子間に、主要部としてのダイオードを備える。また、この過渡電圧吸収素子11は、寄生成分としての第1浮遊容量C1、第1寄生インダクタL1、第1寄生抵抗R1、第2浮遊容量C2、第2寄生インダクタL2及び第2寄生抵抗R2を備える。
【0019】
後に示すとおり、ダイオードは順方向を互いに逆向きに直列接続した2つのダイオードで構成されている。
【0020】
インダクタLa,Lbは、信号ラインSLに含まれるインダクタンス成分であり、
図1においてはインダクタLa,Lbを回路素子として図示している。
【0021】
過渡電圧吸収回路101は、インダクタLa,Lbと過渡電圧吸収素子11の浮遊容量成分とで、ローパスフィルタを構成している。
【0022】
過渡電圧吸収素子11は、信号ラインSLと第3端子T3との間にシャントに接続される第1経路1と、信号ラインSLと第3端子T3との間にシャントに接続される第2経路2とを備える。第1経路1には、直列接続された、第1浮遊容量C1、第1寄生インダクタL1及び第1寄生抵抗R1を備える。また、第2経路2には、直列接続された、第2浮遊容量C2、第2寄生インダクタL2及び第2寄生抵抗R2を備える。
【0023】
図1においては、第1寄生インダクタL1及び第1寄生抵抗R1による寄生インピーダンスを第1寄生インピーダンスZ1Pで表し、第2寄生インダクタL2及び第2寄生抵抗R2による寄生インピーダンスを第2寄生インピーダンスZ2Pで表している。通信信号の周波数帯において、第1寄生インピーダンスZ1Pの値をZ1P、第2寄生インピーダンスZ2Pの値をZ2P、で表すと、Z1P>Z2P又はZ1P<Z2Pの関係にある。このことによって、第1経路1と第2経路2の共振周波数は異なる。
【0024】
図2は、
図1に示した過渡電圧吸収回路101の具体的な構成例の回路図である。過渡電圧吸収回路101は順方向を互いに逆向きに直列接続したダイオードBDを備える。ダイオードBDは、その空乏層容量やBDダイオードに導通する配線間に生じる浮遊容量など、ダイオードに起因する浮遊容量を有する。
図1に示した過渡電圧吸収回路101の第1浮遊容量C1は上記ダイオードBDに起因する浮遊容量を構成している。
図1に示した過渡電圧吸収回路101の第2浮遊容量C2はダイオードの空乏層容量以外の浮遊容量である。
【0025】
図3(A)は過渡電圧吸収素子11の(過渡電圧吸収回路101の信号ラインSLと第3端子T3(基準電位)との間に生じる)浮遊容量のキャパシタンスの周波数依存性を示す図である。
図3(B)は過渡電圧吸収素子11のインピーダンスの周波数依存性を示す図である。
図3(A)、
図3(B)中の特性曲線Aは本実施形態に係る過渡電圧吸収素子11の特性を示し、
図3(A)、
図3(B)中の特性曲線Bは浮遊容量に周波数依存性を有しない過渡電圧吸収素子の特性を示す。本実施形態に係る過渡電圧吸収素子11の浮遊容量は、1GHzにおいて0.38pFであり、40GHzにおいて0.15pFである。
【0026】
図3(A)の縦軸のキャパシタンスの値は、過渡電圧吸収素子11のSパラメータの虚部から変換した値である。信号ラインSLを伝搬する通信信号の周波数帯より低い周波数帯では、過渡電圧吸収素子11は容量性であるので、上記Sパラメータの虚部から変換した値はキャパシタンス値であるが、過渡電圧吸収素子11の共振周波数より高い周波数域では、過渡電圧吸収素子11は誘導性である。
図3(A)において、上記共振周波数帯は10GHzから20GHzであり、この周波数帯で、Sパラメータの虚部から変換したキャパシタンスは最低となる。通信信号の周波数帯は10GHzから20GHzである。
図3(A)では、通信信号の周波数帯より高い周波数帯ではキャパシタンス値が再び高まっているかのように見えるが、これは、このような通信信号の周波数帯より高い領域では寄生インダクタL1,L2のインダクタンス成分によって、上記Sパラメータの虚部が再び増大するからである。
【0027】
図4は過渡電圧吸収素子11の平面図である。
図5は
図4におけるX-X部分の断面図である。過渡電圧吸収素子11は半導体基板部を備える。半導体基板部は、半導体基板Sub、エピタキシャル層Epi、トレンチTR、絶縁体Ins1及び導電体Cond11,Cond12,Cond13を備える。トレンチTRはエピタキシャル層Epiから半導体基板Subにかけて形成されている。
【0028】
半導体基板Subの材質としては、例えばSiまたはGaAsなどを用いることができる。エピタキシャル層Epiは、半導体基板Subに形成した例えばN型エピタキシャル層であり、絶縁体Ins1の材質としては、例えばSiO2 、SiN等を用いることができる。導電体Cond11,Cond12,Cond13の材質としては、例えばAlまたはCuを用いることができる。
【0029】
p+領域とn+領域との間(ダイオードの空乏層)にはダイオードの浮遊容量Cpがそれぞれ生じる。ダイオードに導通する導電体Cond11と導電体Cond12との間及び導電体Cond13と導電体Cond12との間には浮遊容量Cgがそれぞれ形成されている。また、配線層の導電体Cond11,Cond12,Cond13と半導体基板部との間には浮遊容量Csが形成されている。
【0030】
例えば、
図1に表した第1浮遊容量C1は、
図2に示したダイオードBDの空乏層の浮遊容量Cpと上記導電体間の浮遊容量Cgとの合成容量に相当する。また、例えば第2浮遊容量C2は導電体Cond11,Cond12,Cond13と半導体基板Subとの間に形成されている浮遊容量Csに相当する。
【0031】
図6は
図4に示した過渡電圧吸収素子11の回路図である。
図4中の破線の矢印は過渡電圧吸収素子11に流れる電流の経路及び方向を示している。つまり、
図4中の左端の導電体Cond11に正電位が印加され、且つ各ダイオードに対してその順方向電圧を超える電圧が印加されたとき、[Cond11]→[p+]→[n+]→[Cond12]→[p+]→[n+]→[Cond13]の経路で電流が流れる。また、
図4中の右端の導電体Cond13に正電位が印加され、且つ各ダイオードに対してその順方向電圧を超える電圧が印加されたとき、[Cond13]→[p+]→[n+]→[Cond12]→[p+]→[n+]→[Cond11]の経路で電流が流れる。
【0032】
図7は
図4に示した例とは異なる過渡電圧吸収素子11の平面図である。
図4に示した例とは、n+領域とp+領域との位置関係が異なる。この例でも、
図7中の左端の導電体Cond11に正電位が印加され、且つ各ダイオードに対してその順方向電圧を超える電圧が印加されたとき、[Cond11]→[p+]→[n+]→[Cond12]→[p+]→[n+]→[Cond13]の経路で電流が流れる。また、
図7中の右端の導電体Cond13に正電位が印加され、且つ各ダイオードに対してその順方向電圧を超える電圧が印加されたとき、[Cond13]→[p+]→[n+]→[Cond12]→[p+]→[n+]→[Cond11]の経路で電流が流れる。
【0033】
図8は過渡電圧吸収素子11の浮遊容量によるインピーダンスの周波数依存性を示す図である。
図8において、横軸は周波数、縦軸はインピーダンスである。
図8中の特性曲線Z1は
図1における第1経路1のインピーダンスの周波数依存性を示し、特性曲線Z2は
図1における第2経路2のインピーダンスの周波数依存性を示す。特性曲線Z1//Z2は過渡電圧吸収素子11のインピーダンスの周波数依存性を示す。
【0034】
図8の例では、範囲Aは1GHzから5.4GHzの周波数領域を示し、範囲Bは5.4GHzから18GHzの周波数領域を示し、範囲Cは18GHzから50GHzの周波数領域を示す。
【0035】
図8において、範囲A(低域)では、過渡電圧吸収素子11の第1経路1の第1浮遊容量C1と、第2経路2の第2浮遊容量C2との合成容量が見える(表れる)。範囲B(中域)では、第1経路1が共振することにより(共振周波数に近づくことにより)第1寄生抵抗R1の特性が支配的となる。範囲C(高域)では、第2浮遊容量C2のインピーダンスが第1浮遊容量C1のインピーダンスを下回り、第2浮遊容量C2の特性が支配的となる。つまり、過渡電圧吸収素子11の浮遊容量は範囲A及び範囲Bに比べて高域の範囲Cにおいて小さいので、ローパスフィルタの共振点は従来構成の過渡電圧吸収回路に比べて高域にシフトする。
【0036】
第1寄生インダクタL1及び第1寄生抵抗R1による第1寄生インピーダンスZ1PのインピーダンスをZ1P、第2寄生インダクタL2及び第2寄生抵抗R2による第2寄生インピーダンスZ2PのインピーダンスをZ2Pで表したとき、Z1P > Z2Pであるとき、範囲Bでは、
図1中の第1浮遊容量C1の影響が抑制される。
図2に示す例では、ダイオードBDの空乏層の浮遊容量Cpと、ダイオードに導通する導電体間の浮遊容量Cgとの合成容量が実質的に見えなくなる。また、Z1P < Z2Pであるとき、範囲Bでは、
図1中の第2浮遊容量C2の影響が抑制される。つまり、
図2に示す例では、ダイオードに導通する導電体と半導体基板Subとの間には浮遊容量Csが実質的に見えなくなる。
【0037】
図9は過渡電圧吸収回路101の透過係数S21の周波数特性を示す図である。
図9において、特性曲線Aは本実施形態に係る過渡電圧吸収回路101の特性を示す。特性曲線Bは比較例であり、
図1に示した第1寄生インピーダンスZ1P及び第2寄生インピーダンスZ2Pが0の状態、または、第1寄生インピーダンスZ1Pと第2寄生インピーダンスZ2Pのインピーダンスが等しいときの特性であり、容量性としては、
図3(A)、
図3(B)内の特性Bに相当する。
【0038】
図9に示す例では、信号ラインSLを伝搬する20GHz付近で通信信号は第3端T3子(基準電位)にシャントされてしまう。この例では20GHzにおいて約-5dBまで低下する。これに対して、本実施形態に係る過渡電圧吸収回路101では、
図3(A)、
図3(B)に示した特性Aのように20GHz付近において低容量となる。このため、
図9に表れているように、ローパスフィルタの共振点は従来構成の過渡電圧吸収回路に比べて高域にシフトする。その結果、信号ラインSLを伝送する信号電力は20GHzにおいて約-0.5dBまで低下するにとどまる。
【0039】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、過渡電圧吸収素子の全体の構造及びその過渡電圧吸収素子の周波数に対する電界強度を例示する。
【0040】
図10は第2の実施形態に係る過渡電圧吸収素子12の斜視図である。ただし、ダイオードに導通する導電体のパターンより上部については図示していない。
図10に示す過渡電圧吸収素子12に、半導体基板Sub、N型エピタキシャル層Epi、絶縁体Ins1及び導電体Cond11,Cond12,Cond13を備える。これらの基本的な構成は
図5に示したものと同じである。
【0041】
図11は、過渡電圧吸収素子12の、ダイオードに導通する導電体のパターンの平面図である。複数のp+領域はn+領域にそれぞれ囲まれている。
図11における左側の複数のp+領域は導電体Cond11に導通していて、左側の複数のn+領域は導電体Cond12に導通している。また、
図11における右側のn+領域は導電体Cond12に導通していて、右側のp+領域は導電体Cond13に導通している。
【0042】
第2の実施形態では、
図2に示した第1寄生インピーダンスZ1PのインピーダンスをZ1P、第2寄生インダクタL2及び第2寄生抵抗R2による第2寄生インピーダンスZ2PのインピーダンスをZ2Pで表したとき、Z1P < Z2Pである。そして、第2浮遊容量C2は、主に
図5に示したダイオードに導通する導電体と半導体基板部との間に生じる浮遊容量Csである。また、
図2に示したダイオードBDの浮遊容量は、主に
図5に示したダイオードの空乏層の浮遊容量Cpと、ダイオードに導通する導電体間の浮遊容量Cgとの合成容量である。
【0043】
図12は導電体を裏面から見た各部の電界の強度を濃淡で示す図である。
図12の上部は1MHzにおける電界強度であり、
図12の下部は10GHzにおける電界強度である。1MHzにおいて、導電体Cond11の中央部の電界強度は3.1e6 V/mであり、10GHzにおいて、導電体Cond11の中央部の電界強度は4.5e5 V/mである。つまり、1MHzに比べて10GHzでの電界強度は約85%も減少している。換言すると、
図5に示した導電体Cond11,Cond13と半導体基板部との間に生じる浮遊容量Csが大きくても、Z1P < Z2Pの関係であるので、通信信号の周波数帯では浮遊容量Cs(
図2に示した第2浮遊容量C2)が見えなくなり(その影響が抑制され)、通信信号の信号強度の低下が抑制される。
【0044】
なお、導電体Cond12に生じる浮遊容量Csは、直列接続された2つのダイオードで形成される空乏層の浮遊容量Cp-Cpの直列容量と、導電体Cond11と導電体Cond13で形成される浮遊容量Cs-Csの直列容量との、それぞれの中点同士に生じる浮遊容量であるので、この中点同士に生じる浮遊容量Csへ印加される電位差は無い。よって、
図12に表れているように、導電体Cond12に実質的に電界が発生しない。ただし、上部に形成されるCu配線等による寄生容量などの別経路の存在により、多少の電界が発生する。しかしながら、そのような電界が発生する場合でも、そのような電界も経路に生じる寄生インピーダンス次第で減衰させることができる。
【0045】
ここで、吸収すべき低周波数帯と、伝搬すべき通信信号の高周波数帯とで、過渡電圧吸収素子の容量成分の意図的な差について次のとおり考察する。
【0046】
「低周波数帯」とは、TVSデータシートの測定周波数であり、周波数は1MHzであり、JISC5101-12019 4.7項で規定されている。高周波数帯は通信信号の周波数帯であり、例えば10GHzである。
図12に示した例のように、ダイオードに導通する導電体の電界強度が50%以下であれば上記意図的な差があるものと見なせる。
【0047】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では過渡電圧吸収素子の全体の構造を例示する。
図13は第3の実施形態に係る過渡電圧吸収素子13の断面図である。
図14は過渡電圧吸収素子13を備える過渡電圧吸収回路103の回路図である。
【0048】
過渡電圧吸収素子13は、半導体基板部と再配線部とで構成されている。半導体基板部は、半導体基板Sub、エピタキシャル層Epi、トレンチTR、絶縁体Ins1及び導電体Cond11,Cond12,Cond13を備える。再配線部は、絶縁体Ins2,Ins3,Ins4,Ins5、導電体Cond2、パッドPadを備える。
【0049】
エピタキシャル層Epiは半導体基板Subの表面に形成されている。エピタキシャル層Epiの表層にはp+領域及びn+領域が形成されている。エピタキシャル層Epiの表面には絶縁体Ins1が形成されている。エピタキシャル層Epiの表面からp+領域及びn+領域にかけて導電体Cond11,Cond12,Cond13が形成されている。また、絶縁体Ins1から半導体基板SubにかけてトレンチTRが形成されている。
【0050】
再配線部には導電体Cond11,Cond13に導通する導電体Cond2が形成されている。最上層の導電体Cond2にはパッドPadが形成されている。
【0051】
半導体基板Subの材質としては、例えばSiまたはGaAsなどを用いることができる。エピタキシャル層Epiは、半導体基板Subに形成した例えばN型エピタキシャル層であり、絶縁体Ins1,Ins2,Ins3,Ins4,Ins5の材質としては、例えばSiO2 、SiN、またはソルダーレジストなどを、それらの形成箇所に応じて用いることができる。導電体Cond11,Cond12,Cond13の材質としては、例えばAlまたはCuを用いることができる。
【0052】
パッドPadは、複数層の電極形成用導電体で構成されていてもよい。すなわち、パッドPadは、例えば下地層および表面層を含むようにしてもよく、下地層と表面層との間に密着層をさらに含むようにしてもよい。例えば下地層の材質にNi、Crまたはそれらの合金を、密着層の材質にTiまたはWを、表面層の材質にAuまたはその他の貴金属を用いることができる。
【0053】
図13に図示しているように、N型のエピタキシャル層Epiとp+領域との界面に形成される空乏層に浮遊容量Cp1,Cp2が形成される。また、導電体Cond11と導電体Cond12との間に浮遊容量Cg1が形成されていて、導電体Cond12と導電体Cond13との間に浮遊容量Cg2が形成されている。また、導電体Cond11,Cond12,Cond13とエピタキシャル層Epiとの間に浮遊容量Cs1,Cs2,Cs3、導電体Cond2とエピタキシャル層Epiとの間に浮遊容量Cs4がそれぞれ形成されている。さらに、導電体Cond2と導電体Cond2との間に浮遊容量Cg3が形成されている。
【0054】
図14に示す過渡電圧吸収回路103は、第1端子T1、第2端子T2、第3端子T3、及び第1端子T1と第2端子T2との間に存在する信号ラインSLを備える。第3端子T3はグランド等の基準電位に接続される。また、信号ラインSLにはインダクタLa,Lbがシリーズに接続されていて、信号ラインSLと第3端子T3(基準電位)との間に過渡電圧吸収素子12がシャントに接続されている。また、この例では、インダクタLa,Lbに対して並列に接続されたキャパシタCcを備える。このように、第1端子T1と第2端子T2との間にキャパシタCcを備えることにより、このキャパシタCcによってハイパスフィルタを構成している。なお、
図14においては、
図1に示した寄生インダクタL1,L2、寄生抵抗R1,R2の図示は省略している。
【0055】
図14において、第1浮遊容量C1は
図13に示した浮遊容量Cp1,Cp2,Cg1,Cg2,Cg3等によるキャパシタである。また、第2浮遊容量C2は
図13に示した浮遊容量Cs1,Cs2,Cs3,Cs4等によるキャパシタである。
【0056】
本実施形態で示したように、信号ラインSLと第3端子T3(基準電位)との間に形成される浮遊容量は再配線部に形成してもよい。
【0057】
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、過渡電圧吸収素子の浮遊容量を低減させるための誘導素子を備える過渡電圧吸収素子について例示する。
【0058】
図15(A)、
図15(B)は、第4の実施形態に係る過渡電圧吸収素子14の断面図である。
図15(A)、
図15(B)に示す過渡電圧吸収素子14は、半導体基板の表面に形成されている再配線層に、通信周波数帯において第1経路の容量性を低減させるための誘導性素子Lcを備える。
【0059】
図15(A)、
図15(B)に示す何れの例でも、再配線層に形成されているCu配線によって誘導性素子Lcが形成されている。また、このCu配線と半導体基板との間に浮遊容量Csが形成されている。誘導性素子Lcは、ダイオードの浮遊容量とT型のローパスフィルタを形成しているので、誘導性素子のインダクタンスを変更することで、フィルタの共振周波数を変えることができる。
【0060】
図15(B)に示した例では、誘導性素子Lcと半導体基板との間に生じる浮遊容量が大きいが、
図15(A)に示した例では、誘導性素子Lcを構成するCu配線がビア導体であって、半導体基板との間に生じる浮遊容量Csは相対的に小さくできる。また、この実施形態では、誘導性素子Lcを増減させても、浮遊容量Csは変わらない、という効果がある。逆に言えば、浮遊容量Csを変えずに、左右の誘導性素子Lcのバランスを変えられる。例えば、左右の誘導性素子Lcに含まれるESR(等価直列抵抗成分)に応じて左右の誘導性素子Lcのインダクタンスを変えた方がよい。
【0061】
《第5の実施形態》
第5の実施形態では、信号ラインにインダクタンス又はインダクタンス成分以外の素子を有する過渡電圧吸収回路105の構成について例示する。
【0062】
図16は第5の実施形態に係る過渡電圧吸収回路105の回路図である。この過渡電圧吸収回路105は、第1端子T1、第2端子T2、第3端子T3、及び第1端子T1と第2端子T2との間に存在する信号ラインSLを備える。第3端子T3はグランド等の基準電位に接続される。また、信号ラインSLにはインダクタLa,Lbがシリーズに接続されていて、信号ラインSLと第3端子T3(基準電位)との間に過渡電圧吸収素子15がシャントに接続されている。信号ラインSLには抵抗又は抵抗成分Rbが構成されている。また、この例では、インダクタLa,Lbに対して並列に接続されたキャパシタCcを備える。なお、
図16においては、
図1に示した寄生インダクタL1,L2、寄生抵抗R1,R2の図示は省略している。
【0063】
本実施形態に係る過渡電圧吸収回路105は
図14に示した過渡電圧吸収回路103に比べて抵抗又は抵抗成分Rbが構成されている点で異なる。本実施形態の過渡電圧吸収回路105では、信号ラインSLと第3端子T3(基準電位)との間において、過渡電圧吸収素子15の接続点を跨いで、片側に抵抗成分Rbが設けられている。このような回路構成の場合、信号ラインSLにシリーズに接続されているインダクタLa,Lbのインダクタンスを変える。逆に言えば、インダクタLa,Lbのインダクタンスが異なる場合に、それに応じて、抵抗成分Rbの値を定めてもよい。
【0064】
《第6の実施形態》
第6の実施形態では、過渡電圧吸収素子の、トレンチによる浮遊容量の発生箇所について例示する。
【0065】
図17は第6の実施形態に係る過渡電圧吸収素子16の断面図である。
図18(A)は過渡電圧吸収素子16を備える過渡電圧吸収回路106の回路図である。
図18(B)は
図5に示した過渡電圧吸収素子11を備える過渡電圧吸収回路の回路図である。
【0066】
図17に示す例では、過渡電圧吸収素子16は、半導体基板Sub、N型のエピタキシャル層Epi及び絶縁体Ins1を備える。エピタキシャル層Epiは半導体基板Subの表面に形成されている。エピタキシャル層Epiの表層にはp+領域及びn+領域が形成されている。エピタキシャル層Epiの表面には絶縁体Ins1が形成されている。絶縁体Ins1の表面からp+領域及びn+領域にかけて導電体Cond11,Cond12,Cond13が形成されている。また、絶縁体Ins1から半導体基板SubにかけてトレンチTRが形成されている。
【0067】
図18(A)において、キャパシタC1a,C1bは、トレンチが二重であることによって生じる浮遊容量を、直列接続された2つのキャパシタで表している。
図18(B)において、第1浮遊容量C1はトレンチが一重であることによって生じる浮遊容量を1つのキャパシタで表している。このように、
図5に示した例と比べて、
図18(A)に示す過渡電圧吸収素子15では、各ダイオードのエピタキシャル層Epiが2重のトレンチで隔離されているので、トレンチによる浮遊容量が低減できる。
【0068】
《第7の実施形態》
第7の実施形態では、信号ラインと基準電位との間に3つの経路を備える回路で表すことのできる過渡電圧吸収素子について例示する。
【0069】
図19は第7の実施形態に係る過渡電圧吸収回路107の回路図である。この過渡電圧吸収回路107は、第1端子T1、第2端子T2、第3端子T3、及び第1端子T1と第2端子T2との間に存在する信号ラインSLを備える。第3端子T3はグランド等の基準電位に接続される。また、信号ラインSLにはインダクタLa,Lbがシリーズに接続されていて、信号ラインSLと第3端子T3(基準電位)との間に過渡電圧吸収素子17がシャントに接続されている。
【0070】
過渡電圧吸収素子17は2端子素子であり、その端子間に、主要部としてのダイオードを備える。過渡電圧吸収素子17は、信号ラインSLと第3端子T3との間にシャントに接続される第1経路1と、信号ラインSLと第3端子T3との間にシャントに接続される第2経路2と、信号ラインSLと第3端子T3との間にシャントに接続される第3経路3とを備える。第1経路1には、直列接続された、第1浮遊容量C1、第1寄生インダクタL1及び第1寄生抵抗R1を備える。第2経路2には、直列接続された、第2浮遊容量C2、第2寄生インダクタL2及び第2寄生抵抗R2を備える。また、第3経路3には、直列接続された、第3浮遊容量C3、第3寄生インダクタL3及び第3寄生抵抗R3を備える。第1寄生インダクタL1及び第1寄生抵抗R1による寄生インピーダンスを第1寄生インピーダンスZ1Pで表し、第2寄生インダクタL2及び第2寄生抵抗R2による寄生インピーダンスを第2寄生インピーダンスZ2Pで表し、第3寄生インダクタL3及び第3寄生抵抗R3による寄生インピーダンスを第3寄生インピーダンスZ3Pで表している。
【0071】
過渡電圧吸収素子17の基本的な構造は
図5や
図13に示したとおりであるが、第7の実施形態は、これらを3つの経路を備える等価回路で表したものということができる。
【0072】
ダイオードは順方向を互いに逆向きに直列接続した2つのダイオードで構成されている。例えば第2浮遊容量C2は主にダイオードの浮遊容量Cpである。例えば第1浮遊容量C1は主にダイオードに導通する導電体Cond11と導電体Cond12との間及び導電体Cond13と導電体Cond12との間に生じる浮遊容量Cgである。例えば第3浮遊容量C3は主に配線層の導電体Cond11,Cond12,Cond13と半導体基板Subとの間に生じる浮遊容量Csである。
【0073】
第1寄生インダクタL1、第1寄生抵抗R1は上記浮遊容量Cgを流れる電流経路に生じる寄生インダクタおよび寄生抵抗である。第2寄生インダクタL2、第2寄生抵抗R2は上記ダイオードを流れる電流経路に生じる寄生インダクタおよび寄生抵抗である。また、第3寄生インダクタL3、第3寄生抵抗R3は上記浮遊容量Csを流れる電流経路に生じる寄生インダクタおよび寄生抵抗である。
【0074】
図1に示した例では、導電体Cond11と導電体Cond12との間及び導電体Cond13と導電体Cond12との間に生じる浮遊容量Cgとダイオードの浮遊容量Cpとの合成容量を第1浮遊容量C1で表したので、信号ラインSLと第3端子T3との間に2つの経路を備える回路で表すことができたが、導電体Cond11と導電体Cond12との間及び導電体Cond13と導電体Cond12との間に生じる浮遊容量Cgをダイオードの空乏層で形成される浮遊容量とは分離して回路を表する場合は、過渡電圧吸収素子17を、
図19に示したように信号ラインSLと第3端子T3との間に3つの経路を備える回路で表すことができる。
【0075】
信号ラインSLを伝搬する信号やノイズの周波数に応じて、第1寄生インピーダンスZ1P、第2寄生インピーダンスZ2P、第3寄生インピーダンスZ3Pのインピーダンスは異なる。したがって、過渡吸収素子17の第1寄生インピーダンスZ1Pの大小関係に起因して、大きな寄生インピーダンスが繋がる浮遊容量から徐々に見えなくなる。例えば、通信信号に周波数帯においてZ3P > Z1P、Z3P > Z2P の関係であれば、その周波数帯で第3浮遊容量の影響を最も効果的に抑制できる。また、例えば所定周波数帯で、Z3P > Z2P > Z1P の関係であれば、その周波数帯で第3浮遊容量C3の影響を最も効果的に抑制でき、次に第2浮遊容量C2の影響を効果的に抑制できる。
【0076】
なお、
図19に示した例では3つの経路1,2,3を有する回路を示したが、表すことのできる経路の数は3つまでとは限らない。
【0077】
最後に、本発明は上述した各実施形態に限られるものではない。当業者によって適宜変形及び変更が可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変形及び変更が含まれる。
【符号の説明】
【0078】
BD…ダイオード
C1…第1浮遊容量
C11,C12…浮遊容量
C1a,C1b…キャパシタ
Cond11,Cond12,Cond13…導電体
C2…第2浮遊容量
C21,C22,C23,C24,C25…浮遊容量
C3…第3浮遊容量
Cc…キャパシタ
Cp,Cp1,Cp2…浮遊容量
Cg,Cg1,Cg2,Cg3…浮遊容量
Cs,Cs1,Cs2,Cs3,Cs4…浮遊容量
L1…第1寄生インダクタ
L2…第2寄生インダクタ
L3…第3寄生インダクタ
La,Lb…インダクタ
Lc…誘導性素子
Epi…N型エピタキシャル層
Ins1,Ins2,Ins3,Ins4,Ins5…絶縁体
R1…第1寄生抵抗
R2…第2寄生抵抗
R3…第3寄生抵抗
Rb…抵抗成分
Sub…半導体基板
SL…信号ライン
SR1,SR2,SRT…ソルダーレジスト膜
T1…第1端子
T2…第2端子
T3…第3端子
TR…トレンチ
Z1P…第1寄生インピーダンス
Z2P…第2寄生インピーダンス
1…第1経路
2…第2経路
3…第3経路
11~17…過渡電圧吸収素子
101,102,103,104,105,106,107…過渡電圧吸収回路