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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】回転電機及び回転電機のコイル固定方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
H02K3/34 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023534551
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(86)【国際出願番号】 JP2021026659
(87)【国際公開番号】W WO2023286250
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高塚 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】柳井 崇
(72)【発明者】
【氏名】堀 晃久
(72)【発明者】
【氏名】田丸 明夫
(72)【発明者】
【氏名】保科 秋男
(72)【発明者】
【氏名】相原 秀逸
(72)【発明者】
【氏名】西澤 俊和
(72)【発明者】
【氏名】永田 収
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-150611(JP,A)
【文献】特開2006-351409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心に設けたスロットに絶縁シートに包まれたコイルが固定されている回転電機において、
前記絶縁シートは多孔質構造を有し、
前記コイルと前記絶縁シート、及び前記絶縁シートと前記鉄心は、それぞれ絶縁ワニスにより固定されており、
前記絶縁ワニスは、少なくとも一種類のフィラーを含有し、前記フィラーを含有した状態で、超音波を照射する超音波処理が施されており、
前記絶縁シートの少なくとも表層から内部にかけての所定範囲に、前記超音波処理によって分散状態となった前記絶縁ワニスが浸透することによって前記絶縁ワニスと前記絶縁シートとが混在する混在層が形成されている、回転電機。
【請求項2】
鉄心に設けたスロットに、多孔質構造を有する絶縁シートに包まれたコイルを固定する回転電機のコイル固定方法において、
少なくとも一種類のフィラーを含有する絶縁ワニスに、超音波を照射する超音波処理を施し、
その後、前記超音波処理によって分散状態となった前記絶縁ワニスを、前記スロットに挿入された前記絶縁シート及び前記コイルに含浸させ、
前記絶縁シート及び前記コイルに含浸した前記絶縁ワニスを硬化させることによって、前記絶縁シートの少なくとも表層から内部にかけての所定範囲に前記絶縁ワニスと前記絶縁シートとが混在する混在層を形成する、回転電機のコイル固定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機のコイル固定方法において、
前記絶縁シート及び前記コイルに含浸させる前に前記絶縁ワニスを冷却する、回転電機のコイル固定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の回転電機において、
前記絶縁シートは、メッシュ径が分散状態における前記絶縁ワニスの粒径よりも大きいメッシュ状のシートである、回転電機。
【請求項5】
請求項1に記載の回転電機において、
前記所定範囲は、前記超音波処理と、前記超音波処理するときの前記絶縁ワニスの温度とによって定まる前記絶縁ワニス内の粒子の分散状態に応じて定まる、回転電機。
【請求項6】
請求項2に記載の回転電機のコイル固定方法において、
前記絶縁シートは、メッシュ径が分散状態における前記絶縁ワニスの粒径よりも大きいメッシュ状のシートである、回転電機のコイル固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機及び回転電機のコイル固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄心と、鉄心に設けたスロットに挿入されたコイルと、鉄心とコイルとの間に介在する絶縁シートと、を有する回転電機において、絶縁性能の向上及びコイルの変形や移動の抑制のためにワニスによりコイルを固めることが知られている。JP2020-150611Aには、コイルの巻線の隙間からスロットの内部へワニスを含浸させることで、紙類または布類で形成された絶縁シートにもワニスが浸透し、さらには絶縁シートとステータとの間にワニスが充填される旨の記載がある。
【発明の概要】
【0003】
ところで、ワニスには絶縁性能や接着性能を高めるためのフィラーが含有されており、これらのフィラーは凝集し易い特性を有する。そして、凝集することでワニスの見かけ上の粒子径は大きくなる。このため、上記文献のようにワニスをコイルの巻線の隙間から含浸させても、ワニスは絶縁シートの内部には浸透せず、十分な接着力が得られないおそれがある。そして、振動したり外力が入力されたりすることによってワニスと絶縁シートとの界面で剥離が生じて、コイルが移動してしまうおそれがある。
【0004】
そこで本発明は、上記問題に鑑み、コイルの変形や移動を抑制し得る構成の回転電機及びコイルの固定方法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明のある態様によれば、鉄心に設けたスロットに絶縁シートに包まれたコイルが固定されている回転電機が提供される。この回転電機においては、絶縁シートは多孔質構造を有し、コイルと絶縁シート、及び絶縁シートと鉄心は、それぞれ超音波照射により分散状態となった絶縁ワニスにより固定されており、絶縁シートの少なくとも表層から内部にかけての所定範囲に、絶縁ワニスが浸透することによって絶縁ワニスと絶縁シートとが混在する混在層が形成されている。
【0006】
本発明の別のある態様によれば、鉄心に設けたスロットに絶縁シートに包まれたコイルを固定する回転電機のコイル固定方法が提供される。この方法においては、超音波を照射することで絶縁ワニスを分散状態にし、その後、分散状態となった絶縁ワニスを、スロットに挿入された絶縁シート及びコイルに含浸させ、絶縁シート及びコイルに含浸した絶縁ワニスを硬化させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、回転電機のロータの概略構成図である。
図2図2は、ロータの一部の拡大断面図である。
図3図3は、コイルに絶縁ワニスを含浸させる装置の構成図である。
図4図4は、絶縁ワニスが含浸した状態のロータの拡大断面図である。
図5図5は、比較用のロータの拡大断面図である。
図6図6は、ねじれ強度の評価方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
図1は、本実施形態に係る回転電機のロータ1の概略構成図である。本実施形態では、車両の駆動源として用いる回転電機を想定しているが、これに限られるわけではない。
【0010】
ロータ1は、回転軸としてのロータシャフト2と、ロータシャフト2に固定支持される鉄心3と、鉄心3に固定支持されるコイル4とを備える。なお、コイル4を包む絶縁シート5(図2を参照のこと)は図1では省略している。
【0011】
鉄心3は、円盤状の鋼板の積層体であり、回転軸に対して放射状に延びる複数のティース3Aを備える。隣り合うティース3Aに挟まれた空間をスロット3Bと称する。
【0012】
コイル4はティース3Aにエナメル等で被覆された巻き線を巻き回すことで形成されている。図1では1つのコイル4しか示されていないが、全てのティース3Aに同様にコイル4が形成される。換言すると、各スロット3Bにコイル4が配置される。
【0013】
なお、各コイル4はスリップリングを介して外部と電気的に接続される。
【0014】
図2は、鉄心3及びコイル4の、ロータシャフト2に直交する平面に沿う断面の一部を拡大した拡大断面図である。図示する通り、鉄心3とコイル4との間には絶縁シート5が配置されている。また、コイル4の外周も絶縁シート5に覆われている。つまり、コイル4のスロット3B内にある部分は絶縁シート5に包まれた状態となっている。これにより、鉄心3とコイル4の間、及び隣り合うコイル4の間が絶縁状態となる。なお、コイル4の鉄心3から回転軸方向に突出した部分については、鉄心3とコイル4との間にのみ絶縁シート5が介在している。
【0015】
本実施形態で用いる絶縁シート5は多孔質構造を有する。例えば、繊維質の部材を絡み合わせることで形成される、不織布類、紙類またはフェルト類のシートや、繊維質の部材を編むことで形成される編み物類等のシートといった、いわゆるメッシュ状のシートである。そして、本実施形態で用いる絶縁シート5は、メッシュ径が後述する分散状態における絶縁ワニス30の粒径よりも大きい。
【0016】
ところで、回転電機の動作中には、遠心力等の外力がコイル4に作用する。そして、この外力が作用してもコイル4の変形や鉄心3に対するコイル4の位置ずれが生じないことが望ましい。また、回転電機の動作中に生じる振動によって巻き線同士が擦れると、エナメル等の被覆が破損するおそれがある。
【0017】
そこで本実施形態では、上記のコイル4の変形及び位置ずれの防止、並びに絶縁性の向上のために、巻き線間の隙間及びコイル4と鉄心3との隙間を絶縁ワニス30によって埋め(図4を参照のこと)、これらを機械的に固着させる。なお、本実施形態で用いる絶縁ワニス30は、一般的に回転電機のコイルの絶縁に使用されるものであればよく、溶剤タイプ、非溶剤タイプ、水溶性タイプのいずれかは問わない。以下に、絶縁ワニスを用いて固着させる方法を説明する。
【0018】
本実施形態では、スロット3Bにコイル4及び絶縁シート5を配置した状態のロータ1を、液状の絶縁ワニス30に浸漬させることにより、上記の各隙間に絶縁ワニス30を含浸させる。これにより、コイル4及び絶縁シート5は絶縁ワニス30を用いて鉄心3に固定される。なお、以下の説明においては、上記の各隙間に絶縁ワニス30を含浸させることを、「コイル4に絶縁ワニス30を含浸させる」ということもある。
【0019】
図3は、コイル4に絶縁ワニス30を含浸させるための装置の構成図である。
【0020】
絶縁ワニス30は、自動または手動によって供給タンク11に投入される。供給タンク11内の絶縁ワニス30は、そこからメインポンプ16によって超音波処理機12に送られ、超音波処理後にメインタンク13に供給される。超音波処理については後述する。
【0021】
メインタンク13内の絶縁ワニス30は、循環ポンプ17によって浸漬槽15に供給され、浸漬槽15からリバースタンク14へ供給され、リバースポンプ18によってリバースタンク14内からメインタンク13へ戻され、以下、これを繰り返す。なお、図3では4個の浸漬槽15が示されているが、浸漬槽15の個数はこれに限られない。
【0022】
また、メインタンク13には、絶縁ワニス30を供給タンク11に戻す配管21が設けられており、配管21に介装したバルブ28を開けば、メインタンク13内の絶縁ワニス30を供給タンク11へ戻すことができる。
【0023】
浸漬槽15では、いわゆる浸漬法によってコイル4に絶縁ワニス30を含浸させる含浸工程が行われる。具体的には、ロータ1のロータシャフト2が浸漬槽15内の絶縁ワニス30の液面より高い位置に回転自在に支持され、そのロータシャフト2を回転させることによって、各コイル4が順次、液状の絶縁ワニス30に浸漬させられる。この回転を所定時間行うことで、コイル4に絶縁ワニス30を含浸させることができる。ここでいう「所定時間」は、コイル4の形状、巻き線の巻き数及び密度、使用する絶縁ワニス30の成分等に応じて適宜設定するものである。含浸工程が終了したら、ロータ1を本装置から取り外し、液状の絶縁ワニス30を硬化させる。
【0024】
また、本装置は、絶縁ワニス30の温度上昇を抑制する冷却システムを備える。冷却システムは、冷却液タンク23と、冷却液を循環させる冷却用ポンプ25と、超音波処理機12との熱交換を行う熱交換部27と、熱交換によって温度上昇した冷却液を冷却するラジエータ24と、冷却水温を検出する冷却水温センサ26と、を備える。なお、本実施形態では、超音波処理機12を囲むように熱交換部27を配置し、超音波処理中に冷却を行う構成を採用するが、これに限られるわけではない。例えば、超音波処理が終わってから含浸工程が始まるまでの間に冷却を行う構成であってもよい。
【0025】
メインポンプ16、循環ポンプ17、リバースポンプ18及び超音波処理機12は、流量計19等の検出値に基づいてコントローラ22により制御される。また、コントローラ22は、温度センサ20及び冷却水温センサ26の検出値に基づいて冷却用ポンプ25の制御も行う。
【0026】
ここで、絶縁ワニス30に超音波処理を施す理由及びその効果について説明する。
【0027】
絶縁ワニス30には、絶縁性を向上させるためのフィラーや、接着性を向上させるためのフィラー等が添加されており、所望の性能を発揮するためにはこれらのフィラーが十分に分散している状態(これを「分散状態」ともいう)であることが必要となる。しかし、フィラーは粒径が小さいほどフィラー同士が凝集し易い特性があるため、分散状態にはなり難い。
【0028】
フィラー同士が凝集すると絶縁ワニス30の見かけ上の粒子径が大きくなるので、巻き線間の隙間及び絶縁シート5に浸透し難くなる。
【0029】
巻き線間の隙間に絶縁ワニス30が浸透しなければ、絶縁ワニス30が硬化した後、当該隙間は空隙となる。そして、空隙が多いほど絶縁ワニス30が硬化した後のコイル4の強度は低い。つまり、分散状態にない絶縁ワニス30を用いると、外力が掛かった際のコイル4の変形を抑制する効果が得られないおそれがある。
【0030】
また絶縁ワニス30が絶縁シート5に浸透していないと、浸透しているものと比べてコイル4、絶縁シート5及び鉄心3の接着強度が低くなる(これについては後述する)。つまり、分散状態にない絶縁ワニス30を用いると、外力が掛かった際のコイル4の位置ずれを抑制する効果が得られないおそれがある。
【0031】
そこで本実施形態では、絶縁ワニス30を分散状態にするために、超音波を照射する超音波処理を絶縁ワニス30に施す。分散状態にすることだけを考えると、上述した含浸工程において浸漬槽15内の絶縁ワニス30に超音波処理を施してもよい。しかし、この場合には、コイル4を構成する巻き線が超音波の照射によって振動し、巻き線同士が擦れ合うことで絶縁被膜が劣化してしまう。これに対し本実施形態では、コイル4に含浸させる前に超音波処理を施すので、巻き線の絶縁被膜の劣化を抑制できる。
【0032】
また、超音波が照射されると、絶縁ワニス30内の粒子が振動するため絶縁ワニス30の温度が上昇する。温度上昇は絶縁ワニス30の劣化の促進につながるので、本実施形態では上述した冷却システムにより絶縁ワニス30の温度上昇を抑制する。ただし、絶縁ワニス30の温度が適正範囲よりも低いと、コイル4への含浸が不十分になる。そこで、コントローラ22は温度センサ20により絶縁ワニス30の温度を検出し、検出結果に応じて冷却用ポンプ25を制御する。上記の適正範囲は使用する絶縁ワニス30の種類、成分等により定まるものである。
【0033】
次に、超音波処理を施した絶縁ワニス30を含浸させる効果について説明する。図4は超音波処理を施した絶縁ワニス30をコイル4に含浸させたロータ1の一部の拡大断面図である。ここでいう一部とは、図2の領域Aである。図5は比較例であり、超音波処理を施していない絶縁ワニス30を含浸させたロータ1の一部の拡大断面図である。
【0034】
図4に示す通り、超音波処理を施した絶縁ワニス30は、コイル4の巻き線間の隙間及びコイル4と鉄心3との隙間に浸透している。また、絶縁シート5の表層から内部にかけての所定範囲には、浸透した絶縁ワニス30と絶縁シート5とが混在する混在層MLが形成されている。これらは、超音波処理によって絶縁ワニス30が分散状態となったことによる。ここでいう「所定範囲」は、超音波処理と、超音波処理するときの絶縁ワニス30の温度とによって定まる絶縁ワニス30内の粒子の分散状態に応じて定まる。すなわち、粒子がより分散した状態になるほど、絶縁ワニス30は絶縁シート5に浸透し易くなるので、「所定範囲」は大きくなる。
【0035】
これに対し、超音波処理を施していない絶縁ワニス30を含浸させた場合には、図5に示す通り、コイル4の巻き線間の隙間には空隙Vが散在している。また、絶縁シート5に絶縁ワニス30は浸透しておらず、混在層は形成されていない。これは、絶縁ワニス30が分散状態になっておらず、巻き線間の隙間や絶縁シート5に浸透できないからである。
【0036】
上記の通り、超音波処理を施した場合と施さない場合では、巻き線間の空隙の数および混在層の有無という構造上の相違点が生じる。以下に、これらの構造上の相違点に起因する特性上の相違点について説明する。
【0037】
[接着強度について]
まず、特性上の相違点の評価方法について説明する。
【0038】
超音波処理を施した絶縁ワニス30をコイル4に含浸させたロータ1からコイル4を切り出し、これをサンプル1とした。切り出したのは、スロット3B内でティース3Aに沿っている部分である。超音波処理を施していない絶縁ワニス30をコイル4に含浸させたロータ1からも同様にコイル4を切り出し、これを比較サンプルとした。
【0039】
そして、サンプル1と比較サンプルの、絶縁シート5と対向していた面(比較面ともいう)の状態を比較した。サンプル1、比較サンプルはともに、ロータ1から切り出す作業の過程において絶縁シート5が引き剥がされている。
【0040】
次に、評価結果について説明する。サンプル1の比較面には、絶縁シート5の一部が確認された。このことから、サンプル1では、絶縁シート5を引き剥がす際に、絶縁シート5が破壊されたことがわかる。
【0041】
これに対し、比較サンプルの比較面には、絶縁シート5は確認されなかった。このことから、比較サンプルでは、絶縁シート5に絶縁ワニス30が浸透しておらず、絶縁シート5を引き剥がす際に絶縁ワニス30と絶縁シートとの界面が破壊されたことがわかる。
【0042】
接着剤による接合面についての一般的な評価では、外力が加わった際に被着体が破壊される接合面の方が、被着体と接着剤との界面が破壊される接合面よりも接着強度が高いとされる。このことから、サンプル1の方が比較サンプルよりも絶縁シート5との接着強度が高かったといえる。また、絶縁ワニス30と絶縁シート5が強固に接着されているということは、コイル4と絶縁シート5が強固に接着されているということでもある。そして、絶縁シート5と鉄心3との接着についても同様に強固であると推察される。
【0043】
以上のことから、超音波処理を施した絶縁ワニス30を使用することで、超音波処理を施していない絶縁ワニス30を使用する場合に比べて、鉄心3、コイル4及び絶縁シート5が強固に接着され、外力が加わった際のコイル4の鉄心3に対する位置ずれが抑制されることがわかる。
【0044】
[ねじれ強度について]
図6は、ねじれ強度の評価方法を示した図である。評価用サンプルとして上述したサンプル1と比較サンプルを用いる。評価用サンプルの両端をそれぞれ固定チャック31、回転チャック32に把持させ、回転チャック32を回転させて評価用サンプルを捩じる。そして、所定角度ねじるのに要する力を測定し、これをねじれ強度の評価指標とする。
【0045】
より正確な評価のために、サンプル1及び比較サンプルをそれぞれ複数個用意し、すべてのサンプルについて上記の評価を行った。
【0046】
評価結果は、サンプル1が比較サンプルに比べて2-2.5倍のねじれ強度を有するというものであった。超音波処理によって分散状態になった絶縁ワニス30に比べると、分散状態でない絶縁ワニス30は巻き線間の隙間に浸透し難い。このため、サンプル1に比べて比較サンプルは巻き線間の隙間に空隙が多い。この空隙の数の差が上記のねじれ強度の差となって表れたものと推察される。
【0047】
ねじれ強度が高いほど、外力が加わった際の変形量が小さくなる。したがって、サンプル1は比較サンプルに比べてコイル4の変形を抑制することができる。
【0048】
なお、本実施形態ではロータ1の鉄心3とコイル4と絶縁シート5について説明したが、本願発明はステータのステータコア(鉄心)とステータコイルと絶縁シートとについても同様に適用可能である。
【0049】
以上の通り、本実施形態では、鉄心3に設けたスロット3Bに絶縁シート5に包まれたコイル4が固定されている回転電機が提供される。絶縁シート5は多孔質構造を有し、コイル4と絶縁シート5、及び絶縁シート5と鉄心3は、それぞれ超音波照射により分散状態となった絶縁ワニス30により固定されており、絶縁シート5の少なくとも表層から内部にかけての所定範囲に、絶縁ワニス30が浸透することによって絶縁ワニス30と絶縁シート5とが混在する混在層MLが形成されている。分散状態となった絶縁ワニスはコイル4の巻き線間の隙間に浸透し易い。また、混在層MLが形成されているということは、絶縁ワニス30による接着強度が高いことを意味する。したがって、本実施形態によれば外力が加わった際のコイル4の変形及び位置ずれを抑制できる。
【0050】
本実施形態では、鉄心3に設けたスロット3Bに絶縁シート5に包まれたコイル4を固定する回転電機のコイル固定方法が提供される。このコイル固定方法では、超音波を照射することで絶縁ワニスを分散状態にし、その後、分散状態となった絶縁ワニス30を、スロット3Bに挿入された絶縁シート5及びコイル4に含浸させ、絶縁シート5及びコイル4に含浸した絶縁ワニス30を硬化させる。絶縁ワニス30をコイル4等に含浸させる工程で同時に超音波処理を施すと、コイル4を構成する巻き線の被覆が超音波照射による振動によって擦れ合い、破損するおそれがある。これに対し、本実施形態では含浸させる前に超音波処理を施すので、巻き線の被覆の破損を抑制できる。
【0051】
本実施形態では、絶縁シート5及びコイル4に含浸させる前に絶縁ワニス30を冷却する。超音波を照射することで絶縁ワニス30の温度は上昇するが、温度上昇は絶縁ワニス30の劣化の促進につながる。その点、本実施形態では温度上昇を抑制できるので、絶縁ワニス30の劣化を抑制できる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6