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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】質量分析装置および質量分析方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/42 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
H01J49/42 150
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023550864
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2021035981
(87)【国際公開番号】W WO2023053296
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】磯 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】松本 壮平
(72)【発明者】
【氏名】土岡 伸嘉
(72)【発明者】
【氏名】畑 翔太
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-285246(JP,A)
【文献】特開平05-217548(JP,A)
【文献】特開平10-112282(JP,A)
【文献】特開2010-092630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1、第2、第3および第4のロッド電極を含む四重極マスフィルタと、
前記第1および第2のロッド電極に第1の高周波交流電圧を印加するとともに、前記第3および第4のロッド電極に前記第1の高周波交流電圧と逆の位相を有する第2の高周波交流電圧を印加する第1の電圧印加部と、
分析動作時に、前記第1の電圧印加部により前記第1および第2のロッド電極に印加される前記第1の高周波交流電圧を制御するとともに前記第1の電圧印加部により前記第3および第4のロッド電極に印加される前記第2の高周波交流電圧を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記分析動作前に、暖機動作として前記第1の電圧印加部により分析対象の質量に相当する前記第1の高周波交流電圧が前記第1および第2のロッド電極に印加されかつ前記第1の電圧印加部により前記分析対象の質量に相当する前記第2の高周波交流電圧が前記第3および第4のロッド電極に印加されるように前記第1の電圧印加部を制御し、前記暖機動作に続けて前記分析動作が実行されるように前記第1の電圧印加部を制御する、質量分析装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記分析対象が異なる複数の質量を有する複数の物質を含む場合に、前記分析動作前に、前記複数の物質の質量のうち最も高い質量に相当する前記第1の高周波交流電圧が前記第1および第2のロッド電極に印加されかつ前記複数の物質の質量のうち最も高い質量に相当する前記第2の高周波交流電圧が前記第3および第4のロッド電極に印加されるように前記第1の電圧印加部を制御する、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記第1および第2のロッド電極に第1の直流電圧を印加するとともに、前記第3および第4のロッド電極に前記第1の直流電圧と逆の極性を有する第2の直流電圧を印加する第2の電圧印加部をさらに備え、
前記制御部は、前記分析動作時に、前記第2の電圧印加部により前記第1および第2のロッド電極に印加される前記第1の直流電圧および前記前記第3および第4のロッド電極に印加される前記第2の直流電圧を制御し、前記分析動作前に、前記第1、第2、第3および第4のロッド電極で囲まれる空間内をイオンが通過しない値を有する前記第1の直流電圧が前記第1および第2のロッド電極に印加されかつ前記空間内をイオンが通過しない値を有する前記第2の直流電圧が第3および第4のロッド電極に印加されるように前記第2の電圧印加部を制御する、請求項1または2記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1の直流電圧の値と前記第1の高周波交流電圧の振幅との比率および前記第2の直流電圧の値と前記第2の高周波交流電圧の振幅との比率が前記第1、第2、第3および第4のロッド電極で囲まれる前記空間内をイオンが通過しない値になるように前記第2の電圧印加部を制御する、請求項3に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記第1の電圧印加部に電力を供給する電源回路をさらに備え、
前記制御部は、前記電源回路の起動から前記分析動作の開始前において、前記分析対象の質量に相当する前記第1の高周波交流電圧が前記第1および第2のロッド電極に印加されかつ前記分析対象の質量に相当する前記第2の高周波交流電圧が前記第3および第4のロッド電極に印加されるように前記第1の電圧印加部を制御する、請求項1または2記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記制御部は、一の分析動作と次の分析動作との間において、前記分析対象の質量に相当する前記第1の高周波交流電圧が前記第1および第2のロッド電極に印加されかつ前記分析対象の質量に相当する前記第2の高周波交流電圧が前記第3および第4のロッド電極に印加されるように前記第1の電圧印加部を制御する、請求項1または2記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記分析対象の質量に相当する前記第1の高周波交流電圧が前記第1および第2のロッド電極に印加されかつ前記分析対象の質量に相当する前記第2の高周波交流電圧が前記第3および第4のロッド電極に印加された状態で予め定められた暖機時間が経過したか否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記暖機時間が経過したことを通知する通知部とをさらに備える、請求項1または2記載の質量分析装置。
【請求項8】
第1、第2、第3および第4のロッド電極を含む四重極マスフィルタを有する質量分析装置を用いた質量分析方法であって、
分析動作時に、前記第1および第2のロッド電極に印加される第1の高周波交流電圧を制御するとともに第3および第4のロッド電極に印加される第2の高周波交流電圧を制御するステップと、
前記分析動作前に、暖機動作として分析対象の質量に相当する前記第1の高周波交流電圧を前記第1および第2のロッド電極に印加しかつ前記分析対象の質量に相当する前記第2の高周波交流電圧を前記第3および第4のロッド電極に印加するステップと
前記暖機動作に続けて前記分析動作を実行するステップとを含む、質量分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置および質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極質量分析装置は、4本のロッド電極で形成される四重極フィルタを含む(例えば、特許文献1参照)。4本のロッド電極のうち一対のロッド電極には、直流電圧+Uおよび高周波電圧+V・cosωtの重畳電圧が印加され、他の一対のロッド電極には、直流電圧-Uおよび高周波電圧-V・cosωtの重畳電圧が印加される。四重極フィルタに導入されたイオンのうち、電圧UおよびVにより定まる特定質量のイオンのみが安定的に振動して四重極フィルタを通過する。四重極フィルタを通過したイオンは、検出器に導かれる。その後、検出器により検出されたイオンの質量電荷比(m/z)に基づいて、マススペクトルが生成される。
【文献】特開2002-033075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電極ロッドに電圧が印加されると、発熱による電極ロッドの変形が生じる。それにより、印加電圧の大きさにより4本のロッド電極により形成される空間の寸法が変化する。また、電圧発生回路の構成部品の温度特性により出力電圧が変化する。それにより、四重極マスフィルタを通過するイオンの質量電荷比と印加電圧との関係が変化する。その結果、分析結果の精度が低下する可能性がある。
【0004】
本発明の目的は、分析結果の精度を向上させることが可能な質量分析装置および質量分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様に係る質量分析装置は、第1、第2、第3および第4のロッド電極を含む四重極マスフィルタと、第1および第2のロッド電極に第1の高周波交流電圧を印加するとともに、第3および第4のロッド電極に第1の高周波交流電圧と逆の位相を有する第2の高周波交流電圧を印加する第1の電圧印加部と、分析動作時に、第1の電圧印加部により第1および第2のロッド電極に印加される第1の高周波交流電圧を制御するとともに第1の電圧印加部により第3および第4のロッド電極に印加される第2の高周波交流電圧を制御する制御部とを備え、制御部は、分析動作前に、分析対象の質量に相当する第1の高周波交流電圧が第1および第2のロッド電極に印加されかつ分析対象の質量に相当する第2の高周波交流電圧が第3および第4のロッド電極に印加されるように第1の電圧印加部を制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、質量分析装置および質量分析方法において、分析結果の精度を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施の形態に係る質量分析装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、四重極マスフィルタのイオンの安定領域図である。
図3図3は、主制御装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態に係る質量分析装置について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0009】
(1)質量分析装置の構成
図1は、一実施の形態に係る質量分析装置の構成を示す模式図である。質量分析装置100は、質量分析部10、真空ポンプ20、交流電圧発生回路30、直流電圧発生回路40、電源回路50、電源スイッチ60、表示部70、操作部80および主制御装置90を備える。
【0010】
質量分析部10は、イオン化室10aおよび分析室10bを含む。分析室10bは、イオンレンズ2、四重極マスフィルタ3およびイオン検出部4を含む。イオン化室10aには、例えば図示しない液体クロマトグラフが接続される。イオン化室10aには、液体クロマトグラフから測定対象の液体試料が供給される。イオン化室10aにおいては、例えば図示しないESIプローブ(エレクトロスプレイイオン化用プローブ)により、液体試料に電荷が付与されつつ液体試料が噴霧される。それにより、液体試料中の成分がイオン化室10a内でイオン化する。通常は、各成分の1価のイオンが生成される。イオン化室10a内のイオンは、分析室10bのイオンレンズ2に導かれる。
【0011】
分析室10bは、真空ポンプ20により例えば真空度(10-2~10-3Pa)の真空状態に維持される。イオンレンズ2に導かれたイオンは、軸AXに平行に飛行するように収束されるとともにイオンレンズ2を通過する。
【0012】
四重極マスフィルタ3は、第1~第4のロッド電極3a~3dを含む。第1のロッド電極3aと第3のロッド電極3bとが軸AXに関して対称に配置され、第3のロッド電極3cと第4のロッド電極3dとが軸AXに関して対称に配置される。第1~第4のロッド電極3a~3dは、軸AXから距離r離れた位置に等角度間隔で設けられる。それにより、第1~第4のロッド電極3a~3dで囲まれる円筒状の空間SPが形成される。空間SPは、軸AXの方向に延びる。
【0013】
第1~第4のロッド電極3a~3dには、交流電圧発生回路30および直流電圧発生回路40が接続される。交流電圧発生回路30および直流電圧発生回路40は、電源回路50に接続される。電源回路50は、外部電源に接続され、交流電圧発生回路30および直流電圧発生回路40に電力を供給する。本実施の形態において、電源回路50は、質量分析装置100の種々の構成要素にも対して電力を供給する。
【0014】
交流電圧発生回路30は、電源回路50から供給される電力に基づいて、高周波交流電圧+V・cosωt(以下、第1の高周波交流電圧と呼ぶ。)および高周波交流電圧-V・cosωt(以下、第2の高周波交流電圧と呼ぶ。)を発生する。ここで、Vは第1および第2の高周波交流電圧の振幅(最大値)であり、ωは角周波数(各振動数)であり、tは時間である。第1の高周波交流電圧と第2の高周波交流電圧とは、互いに180°ずれた位相(逆の位相)を有する。第1および第2の高周波交流電圧の実効値は、V/√2で表される。
【0015】
直流電圧発生回路40は、直流電圧+U(以下、第1の直流電圧と呼ぶ。)および直流電圧-U(以下、第2の直流電圧と呼ぶ。)を発生する。ここで、Uは、第1および第2の直流電圧の値である。
【0016】
第1および第2のロッド電極3a,3bには、交流電圧発生回路30により発生された第1の高周波交流電圧が印加されるとともに、直流電圧発生回路40により発生された第1の直流電圧が印加される。一方、第3および第4のロッド電極3c,3dには、交流電圧発生回路30により発生された第2の高周波交流電圧が印加されるとともに、直流電圧発生回路40により発生された第2の直流電圧が印加される。それにより、第1および第2のロッド電極3a,3bには、第1の高周波交流電圧と第1の直流電圧とが重畳された電圧+(U+V・cosωt)が印加される。また、第3および第4のロッド電極3c,3dには、第2の高周波交流電圧と第2の直流電圧とが重畳された電圧-(U+V・cosωt)が印加される。それにより、空間SP内には電場が形成される。
【0017】
電源スイッチ60は、電源回路50をオン状態およびオフ状態に切り替えるためのスイッチである。本実施の形態において、電源スイッチ60は、使用者により切り替えられる。
【0018】
イオンレンズ2を通過したイオンは、空間SPに導かれる。空間SP内に導かれたイオンは、空間SP内の電場により空間SP内で振動する。空間SP内のイオンが不安定に振動する場合、空間SP内のイオンは四重極マスフィルタ3の空間SPを通過することができない。ここで、空間SP内のイオンは、以下のMathieuの方程式(1)に従って振動する。
【0019】
【数1】
Kは、定数である。第1および第2の高周波交流電圧の角周波数ωおよび距離rは、一定である。この場合、Mathieuの方程式によれば、第1および第2の高周波交流電圧の振幅Vを特定の値に設定することにより、特定の質量電荷比m/zを有するイオンを安定して振動させることができる。四重極マスフィルタにおいて、安定して振動するイオンが空間SPを通過することができる。四重極マスフィルタにおいて、不安定に振動するイオンは空間SPを通過することができない。
【0020】
図2は、四重極マスフィルタのイオンの安定領域図である。図2の縦軸は第1よび第2直流電圧の値Uであり、横軸は第1および第2の高周波交流電圧±(U+V・cosωt)の振幅Vの値である。図2においては、質量m1,m2,m3を有するイオンの安定領域の例がそれぞれ図示される。本例では、m1<m2<m3である。なお、イオンの安定領域は、Mathieuの方程式の解により示される。図2には、四重極マスフィルタ3において、質量m1,m2,m3を有するイオンの安定領域R1,R2,R3がそれぞれ示される。
【0021】
例えば、第1および第2の高周波交流電圧の振幅Vの値および第1および第2の直流電圧の値Uで定まる点が安定領域R1内にある場合、質量m1のイオンが安定的に四重極マスフィルタ3の空間SPを通過することができる。図2の例では、3つの質量の例が示されるが、他の任意の質量のイオンについても、第1および第2の高周波交流電圧の振幅Vの値および第1および第2の直流電圧の値Uにより安定領域が定まる。それにより、イオンの安定領域図によれば、上記の式(1)で決定された高周波交流電圧の振幅Vに基づいて直流電圧Uの値を決定することにより四重極マスフィルタ3の空間SPにおいて特定の質量電荷比を有するイオンを通過させることができる。
【0022】
質量分析装置100の質量分析動作の分析動作時において、主制御装置90は、第1および第2の高周波交流電圧の振幅Vおよび第1および第2の直流電圧の値Uは、領域R1,R2,R3のうち互いに重ならない部分を通る走査直線SLに従って変化させる。この場合、走査直線SLにおける第1および第2の高周波交流電圧の振幅Vと第1および第2の直流電圧の値Uとの比率は一定に保たれる。それにより、高周波交流電圧の振幅Vおよび直流電圧Uの変化に対応して、質量m1,m2,m3のイオンが四重極マスフィルタを通過する。
【0023】
図1において、四重極マスフィルタ3の空間SPを通過したイオンは、イオン検出部4により検出される。イオン検出部4は、例えば二次電子増倍管である。イオン検出部4の出力信号に基づいてマススペクトルが作成される。表示部70は、質量分析装置100に関する各種情報を表示する。操作部80は、質量分析装置100の種々の操作のために用いられる。
【0024】
ここで、第1~第4のロッド電極3a~3dの温度が低い状態において、第1~第4のロッド電極3a~3dに電圧が印加された場合、第1~第4のロッド電極3a~3dが発熱することにより、第1~第4のロッド電極3a~3dが熱膨張することがある。この場合、第1~第4のロッド電極3a~3dに変形が生じることにより、四重極マスフィルタ3の空間SPの距離rの値が変化する。そのため、上記の式(1)において、質量電荷比(m/z)の値と第1および第2の高周波交流電圧の振幅Vとの関係が変化する。この場合、イオン検出部4の出力信号に基づいて生成されるマススペクトルの質量電荷比(m/z)にずれが生じる。
【0025】
また、交流電圧発生回路30の温度が低い状態において、交流電圧発生回路30が第1および第2の高周波交流電圧を出力する場合、交流電圧発生回路30および直流電圧発生回路40を構成するIC(集積回路)等の構成部品の温度特性により、第1および第2の高周波交流電圧の振幅Vならびに第1および第2の直流電圧の値Uが変動することがある。この場合、印加電圧のずれによるマススペクトルの質量電荷比(m/z)にずれが生じる。
【0026】
そこで、質量分析装置100においては、分析動作が開始される前に、交流電圧発生回路30および直流電圧発生回路40により、第1および第2のロッド電極3a,3bに第1の高周波交流電圧および第1の直流電圧が印加されかつ第3および第4のロッド電極3c,3dに第2の高周波交流電圧および第2の直流電圧が印加される。それにより、第1~第4のロッド電極3a~3d、交流電圧発生回路30および直流電圧発生回路40が予め暖められる。以下、分析動作前に第1~第4のロッド電極3a~3dに電圧を印加する動作を暖機動作と呼ぶ。
【0027】
一方、上記の式(1)においては、イオンの質量電荷比(m/z)および高周波交流電圧の振幅Vは、比例関係にある。したがって、比較的大きな質量を有するイオンを四重極マスフィルタ3の空間SPを通過させるためには、高周波交流電圧の振幅Vを大きくする必要がある。その場合、分析動作時の第1~第4のロッド電極3a~3dの温度が暖機動作による第1~第4のロッド電極3a~3dの温度よりも高くなる。それにより、マススペクトルの質量電荷比(m/z)にずれが生じる可能性がある。
【0028】
そこで、本発明者は、マススペクトルの質量電荷比のずれを抑制するために、暖機動作において第1~第4のロッド電極3a~3dに印加されるべき適切な電圧値について検討した。発明者の検討の結果、暖機動作において、分析対象の質量に相当する第1の高周波交流電圧が第1および第2のロッド電極3a,3bに印加されかつ分析対象の質量に相当する第2の高周波交流電圧が第3および第4のロッド電極3c,3dに印加されることにより、分析動作時におけるマススペクトルの質量電荷比のずれの発生が抑制されることがわかった。
【0029】
ここで、分析対象の質量に相当する第1の高周波交流電圧とは、分析動作時に、分析対象のイオンが四重極マスフィルタ3の空間SPを通過する場合に第1および第2のロッド電極3a,3bに印加される高周波交流電圧+(U+V・cosωt)の実効値である。また、分析対象の質量に相当する第2の高周波交流電圧とは、分析動作時に、分析対象のイオンが四重極マスフィルタ3の空間SPを通過する場合に第3および第4のロッド電極3a,3bに印加される高周波交流電圧-(U+V・cosωt)の実効値である。
【0030】
この場合、分析動作時に分析対象のイオンが四重極マスフィルタ3の空間SPを通過してマススペクトルにおいて分析対象に対応するピークが現れるように、第1および第2のロッド電極3a,3bに印加される高周波交流電圧の実効値は変化される。分析対象の質量に相当する第1および第2の高周波交流電圧は、分析対象のイオンが四重極マスフィルタ3の空間SPを通過する際に変化される高周波交流電圧の実効値の範囲内の任意の値であってもよい。
【0031】
したがって、本実施の形態に係る質量分析装置100においては、暖機動作において、分析対象の質量に相当する第1の高周波交流電圧が第1および第2のロッド電極3a,3bに印加されかつ分析対象の質量に相当する第2の高周波交流電圧が第3および第4のロッド電極3c,3dに印加される。
【0032】
分析対象が異なる複数の物質(成分)を有する複数の物質を含む場合には、暖機動作において、交流電圧発生回路30により複数の物質の質量のうち最も高い質量に相当する第1の高周波交流電圧が第1および第2のロッド電極3a,3bに印加されかつ複数の物質の質量のうち最も高い質量に相当する第2の高周波交流電圧が第3および第4のロッド電極に印加される。
【0033】
本実施の形態では、暖機動作時に第1および第2のロッド電極3a,3bに印加される第1の高周波交流電圧と第3および第4のロッド電極3c,3dに印加される第2の高周波交流電圧とは等しい。以下、暖機動作時に第1~第4のロッド電極3a~3dに印加される第1および第2の高周波交流電圧の実効値を(暖機用実効値Vw)と呼ぶ。
【0034】
本実施の形態に係る質量分析装置100においては、暖機用実効値Vwは、分析対象に含まれる一または複数の物質の質量のうち最も高い質量により異なる。なお、暖機用実効値Vwは、ある値に限定されるものではなく、分析対象の質量に相当する第1の高周波交流電圧の実効値を含む一定の範囲内の値であってもよい。
【0035】
ここで、第1および第2のロッド電極3a,3bに交流電圧発生回路30により印加可能な第1および第2の高周波交流電圧の最大の実効値を最大実効値Vemaxと呼ぶ。分析対象が比較的高い質量を有する物質を含む場合には、暖機用実効値Vwは、例えば、交流電圧発生回路30により最大実効値Vemaxの50%以上の実効値に設定される。分析対象が比較的低い質量を有する物質を含む場合には、暖機用実効値Vwは、例えば、交流電圧発生回路30により最大実効値Vemaxの50%よりも低い実効値に設定される。
【0036】
(2)主制御装置90の構成および動作
主制御装置90は、動作指令部91、交流電圧決定部92、直流電圧決定部93および電圧制御部94を機能的な構成要素として含む。本実施の形態では、構成要素(91~94)は、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)および記憶装置等のハードウェアおよびプログラム等のソフトウェアにより実現される。この場合、ROMまたは記憶装置には、暖機動作制御プログラムが記憶される。CPUがROMに記憶された暖機動作制御プログラムをRAM上で実行することにより構成要素(91~94)の機能が実現される。
【0037】
図3は、主制御装置90の動作を示すフローチャートである。まず、動作指令部91は、電源スイッチ60がオンされたか否かを判定する(ステップS1)。電源スイッチ60がオンされた場合、動作指令部91は、真空ポンプ20をオンにする(ステップS2)。それにより、イオン化室10aおよび分析室10bが真空状態に保たれる。また、動作指令部91は、電源回路50をオンにする。
【0038】
交流電圧決定部92は、暖機動作において交流電圧発生回路30が発生すべき第1および第2の高周波交流電圧の暖機用実効値Vwを決定する(ステップS3)。本実施の形態において、交流電圧決定部92は、分析対象が予め決定されている場合、暖機用実効値Vwを予め定められた値に決定してもよく、または操作部80を用いて使用者により入力された分析対象に含まれる複数の物質の質量のうちの最大の質量(質量電荷比)に基づいて決定してもよい。なお、暖機用実効値Vwが予め定められている場合(すなわち、分析対象が予め定められておりかつ分析対象に含まれる一または複数の物質の質量のうち最も高い質量が既知の場合)、交流電圧決定部92は設けられなくてもよい。この場合、暖機動作制御プログラムに暖機用実効値Vwが記述されている。図2において、暖機用実効値Vwを得るための振幅Vが暖機用振幅VW(=√2・Vw)として示される。
【0039】
ここで、イオン化室10aまたは分析室10b内に僅かにイオンが残留していることがある。この場合、残留するイオンが空間SPを通過してイオン検出部4に入射すると、暖機動作時に、イオン検出部4の劣化が進む場合がある。そこで、本実施の形態では、暖機動作時に残留するイオンが空間SPを通過しないように、第1~第4のロッド電極3a~3dに直流電圧が印加される。以下、空間SPをイオンが通過することを阻止するための第1および第2の直流電圧の値を阻止電圧値Upと呼ぶ。
【0040】
直流電圧決定部93は、暖機動作において、直流電圧発生回路40が発生すべき第1および第2の直流電圧の阻止電圧値Upを決定する(ステップS4)。本実施の形態において、直流電圧決定部93は、ステップS3において決定された第1および第2の高周波交流電圧の暖機用実効値Vwに対応する暖機用振幅VWと第1および第2の直流電圧の値との比率が四重極マスフィルタ3の空間SP内をイオンが通過しない値になるように、第1および第2の直流電圧の阻止電圧値Upを決定する。具体的には、図2において、直流電圧決定部93は、第1および第2の高周波交流電圧の暖機用実効値Vwに対応する振幅VWと第1および第2の直流電圧の値Uとで定まる点がいずれの安定領域にも存在しないように、第1および第2の直流電圧の阻止電圧値Upを決定する。以下、暖機用実効値Vwを有する第1および第2の高周波交流電圧および阻止電圧値Upを有する第1および第2の直流電圧を暖機電圧と呼ぶ。
【0041】
電圧制御部94は、交流電圧発生回路30および直流電圧発生回路40に暖機電圧の印加を指令する(ステップS5)。それにより、交流電圧決定部92により決定された暖機用実効値Vwを有する第1の高周波交流電圧が交流電圧発生回路30により第1および第2のロッド電極3a,3bに印加されかつ交流電圧決定部92により決定された暖機用実効値Vwを有する第2の高周波交流電圧が第3および第4のロッド電極3c,3dに印加される。
【0042】
また、直流電圧決定部93により決定された阻止電圧値Upを有する第1の直流電圧が第1および第2のロッド電極3a,3bに印加されかつ阻止電圧値Upを有する第2の直流電圧が第3および第4のロッド電極3c,3dに印加される。第1~第4のロッド電極3a~3dへの暖機用実効値Vwおよび阻止電圧値Upの印加が暖機動作である。
【0043】
電圧制御部94は、暖機動作が開始されてから予め定められた時間(以下、暖機時間と呼ぶ。)が経過したか否かを判定する(ステップS6)。暖機時間が経過していない場合、暖機動作が継続して行われる。暖機時間が経過した場合、電圧制御部94は、暖機時間が経過したことにより、質量分析装置100が分析動作を実行可能であることを表示部70に表示させる(ステップS7)。
【0044】
動作指令部91は、使用者により操作部80を用いて分析動作の開始が指令されたか否かを判定する(ステップS8)。分析動作の開始が指令されていない場合、ステップS7の処理を継続する。このとき、暖機動作も継続される。
【0045】
使用者により操作部80を用いて分析動作の開始が指令された場合、電圧制御部94は、暖機動作を終了させる(ステップS9)。この状態で、質量分析装置100の分析動作が開始される(ステップS10)。なお、質量分析装置100の分析動作時においては、電圧制御部94は、図2の走査直線SLに基づいて第1および第2の高周波交流電圧の振幅Vならびに第1および第2の直流電圧の値Uをそれぞれ制御する。電圧制御部94は、分析動作が終了したか否かを判定する(ステップS11)。分析動作が終了していない場合、分析動作が継続される。分析動作が終了した場合、動作指令部91は、電源スイッチ60がオフされたか否かを判定する(ステップS12)。電源スイッチ60がオフされていない場合、動作指令部91は、ステップS5に戻る。それにより、暖機動作が開始される。この場合、一の分析動作と次の分析動作との間に暖機動作が行われる。ステップS12において電源スイッチ60がオフされた場合、暖機動作が終了する。
【0046】
(3)実施の形態の効果
本実施の形態において、暖機動作時に、暖機用実効値Vwを有する第1および第2の高周波交流電圧の印加により第1~第4のロッド電極3a~3dの温度が予め上昇している。それにより、第1~第4のロッド電極3a~3dの寸法または形状が第1~第4のロッド電極3a~3dへ電圧が印加されていない状態の寸法または形状から変化している。この場合、暖機用実効値Vwが交流電圧発生回路30により分析対象に含まれる一または複数の物質の質量のうち最も高い質量に相当するように設定される。それにより、第1~第4のロッド電極3a~3dの温度が分析動作時の温度とほぼ等しいかまたは近い温度に上昇される。したがって、分析動作時に、第1~第4のロッド電極3a~3dの寸法または形状の変化が小さく、四重極マスフィルタ3の軸AXから第1~第4のロッド電極3a~3dまでの距離rの変化が小さい。それにより、第1~第4のロッド電極3a~3dへの印加電圧と四重極マスフィルタ3を通過するイオンの質量電荷比との関係の変化が抑制される。
【0047】
これに対して、暖機動作時に、第1~第4のロッド電極3a~3dに印加される第1および第2の高周波交流電圧の実効値が分析動作時に印加される実効値に比べて低い値(例えば、分析対象に含まれる一または複数の物質の質量のうち最も低い質量に相当する値に比べて低い値)に設定された場合、分析動作時に、第1~第4のロッド電極3a~3dへの印加電圧が上昇したときに、第1~第4のロッド電極3a~3dの寸法および形状が大きく変化する。それにより、四重極マスフィルタ3の空間SP軸AXから第1~第4のロッド電極3a~3dまでの距離rの変化が大きい。
【0048】
また、本実施の形態では、暖機動作時に、交流電圧発生回路30が分析対象に含まれる一または複数の物質の質量のうち最も高い質量に相当する暖機用実効値Vwを有する第1および第2の高周波交流電圧を出力するので、交流電圧発生回路30の構成部品の温度が予め上昇している。この場合、構成部品の温度特性による出力電圧の変化のずれは、温度が高いほど大きい。本実施の形態では、構成部品の温度が予め上昇しているので、温度の変化による第1および第2の高周波交流電圧の変化が抑制される。
【0049】
これらの結果、分析動作時に、四重極マスフィルタ3を通過するイオンの質量電荷比のずれが抑制される。その結果、分析結果の精度が向上する。
【0050】
また、本実施の形態では、分析動作前に、暖機用実効値Vwの第1の高周波交流電圧が第1および第2のロッド電極に印加されかつ暖機用実効値Vwの第2の高周波交流電圧が第3および第4のロッド電極に印加されているときに、阻止電圧値Upを有する第1の直流電圧が第1,第2のロッド電極3a,3bに印加されかつ阻止電圧値Upを有する第2の直流電圧が第3,第4のロッド電極3c,3dに印加される。それにより、イオン化室10aまたは分析室10bに残留するイオンがその空間SPを通過することが防止される。その結果、四重極マスフィルタ3の後段に設けられるイオン検出部4の劣化を抑制することが可能になる。また、阻止電圧値Upを有する第1および第2の直流電圧の出力により直流電圧発生回路40の構成部品の温度が予め上昇しているので、構成部品の温度特性による直流電圧発生回路40の出力電圧の変化が小さい。したがって、分析動作時に、より正確に阻止電圧値Upを出力することが可能になる。
【0051】
また、電源回路50がオン状態になってから分析動作の開始前までの期間において、第1~第4のロッド電極3a~3dが比較的高い温度に保たれる。それにより、電源回路50が起動後の最初の分析動作時に、第1~第4のロッド電極3a~3dの温度が予め上昇しているので、第1~第4のロッド電極3a~3dの寸法または形状の変化が抑制される。
【0052】
さらに、一の分析動作の終了から第2の分析動作の開始までの期間に第1~第4のロッド電極3a~3dが比較的高い温度に保たれる。それにより、次の分析動作時において、第1~第4のロッド電極3a~3dの温度が予め上昇しているので、第1~第4のロッド電極3a~3dの寸法または形状の変化が抑制される。したがって、複数回の分析動作においても、分析結果の精度が向上する。
【0053】
(4)他の実施の形態
上記実施の形態において、暖機時間が経過したときに質量分析装置100が分析動作を実行可能であることが表示部70に表示されるが、分析動作を実行可能であることがランプ等の点灯によりユーザに通知されてもよく、または分析動作を実行可能であることが音声によりユーザに通知されてもよい。
【0054】
(5)請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応関係
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明する。上記実施の形態では、交流電圧発生回路30が第1の電圧印加部の例であり、直流電圧発生回路40が第2の電圧印加部の例であり、主制御装置90が制御部の例であり、電圧制御部94が判定部の例であり、表示部70が通知部の例である。
【0055】
(6)態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0056】
(第1項)一態様に係る質量分析装置は、第1、第2、第3および第4のロッド電極を含む四重極マスフィルタと、第1および第2のロッド電極に第1の高周波交流電圧を印加するとともに、第3および第4のロッド電極に第1の高周波交流電圧と逆の位相を有する第2の高周波交流電圧を印加する第1の電圧印加部と、分析動作時に、第1の電圧印加部により第1および第2のロッド電極に印加される第1の高周波交流電圧を制御するとともに第1の電圧印加部により第3および第4のロッド電極に印加される第2の高周波交流電圧を制御する制御部とを備え、制御部は、分析動作前に、第1の電圧印加部により分析対象の質量に相当する第1の高周波交流電圧が第1および第2のロッド電極に印加されかつ第1の電圧印加部により分析対象の質量に相当する第2の高周波交流電圧が第3および第4のロッド電極に印加されるように第1の電圧印加部を制御する。
【0057】
一態様に係る質量分析装置によれば、分析動作前に、分析対象の質量に相当する第1の高周波交流電圧が第1および第2のロッド電極に印加される。また、分析対象の質量に相当する第2の高周波交流電圧が第3および第4のロッド電極に印加される。それにより、分析動作前に、第1~第4のロッド電極が発熱する。また、第1の電圧印加部の構成部品の温度が上昇する。
【0058】
分析動作時には、第1の高周波交流電圧が制御されるとともに第2の高周波交流電圧が制御される。それにより、第1および第2の高周波交流電圧に応じた質量電荷比を有するイオンが四重極マスフィルタを通過する。
【0059】
このとき、第1~第4のロッド電極の温度の変化により第1~第4のロッド電極の寸法または形状が変化すると、四重極マスフィルタを通過するイオンの質量電荷比と第1および第2の高周波交流電圧との関係にずれが生じる。また、第1の電圧印加部の構成部品の温度が変化すると、構成部品の温度特性により第1および第2の高周波交流電圧が変化する。
【0060】
上記の構成によれば、分析対象の質量に相当する第1および第2の高周波交流電圧の印加により第1~第4のロッド電極の温度が予め上昇しているので、第1~第4のロッド電極の寸法または形状の変化が小さい。また、分析対象の質量に相当する第1および第2の高周波交流電圧の出力により第1の電圧印加部の構成部品の温度が予め上昇しているので、構成部品の温度特性による第1の電圧印加部の出力電圧の変化が小さい。したがって、分析動作時に、四重極マスフィルタを通過するイオンの質量電荷比(m/z)のずれが抑制される。その結果、分析結果の精度が向上する。
【0061】
(第2項)第1項に記載の質量分析装置において、制御部は、分析対象が異なる複数の質量を有する複数の物質を含む場合に、分析動作前に、複数の物質の質量のうち最も高い質量に相当する第1の高周波交流電圧が第1および第2のロッド電極に印加されかつ複数の物質の質量のうち最も高い質量に相当する第2の高周波交流電圧が第3および第4のロッド電極に印加されるように第1の電圧印加部を制御してもよい。
【0062】
第2項に記載の質量分析装置によれば、分析対象が異なる複数の質量を有する複数の物質を含む場合でも、分析動作時に、第1~第4のロッド電極の寸法または形状の変化が小さく、かつ構成部品の温度特性による第1の電圧印加部の出力電圧の変化が小さい。したがって、分析動作時に、四重極マスフィルタを通過するイオンの質量電荷比(m/z)のずれが抑制される。その結果、分析結果の精度が向上する。
【0063】
(第3項)第1項または第2項に記載の質量分析装置は、第1および第2のロッド電極に第1の直流電圧を印加するとともに、第3および第4のロッド電極に第1の直流電圧と逆の極性を有する第2の直流電圧を印加する第2の電圧印加部をさらに備え、制御部は、分析動作時に、第2の電圧印加部により第1および第2のロッド電極に印加される第1の直流電圧および第3および第4のロッド電極に印加される第2の直流電圧を制御し、分析動作前に、第1、第2、第3および第4のロッド電極で囲まれる空間内をイオンが通過しない値を有する第1の直流電圧が第1および第2のロッド電極に印加されかつ空間内をイオンが通過しない値を有する第2の直流電圧が第3および第4のロッド電極に印加されるように第2の電圧印加部を制御してもよい。
【0064】
第3項に記載の質量分析装置によれば、分析動作前に、分析対象の質量に相当する第1の高周波交流電圧が第1および第2のロッド電極に印加され、かつ分析対象の質量に相当する第2の高周波交流電圧が第3および第4のロッド電極に印加されているときに、第1~第4のロッド電極により囲まれた空間内に残留するイオンがその空間を通過することが防止される。その結果、四重極フィルタの後段に設けられる検出器の劣化を抑制することが可能になる。
【0065】
また、第1および第2の直流電圧の出力により第2の電圧印加部の構成部品の温度が予め上昇しているので、構成部品の温度特性による第2の電圧印加部の出力電圧の変化が小さい。その結果、分析動作時においてより精度よくイオンを通過させることが可能になる。
【0066】
(第4項)第3項に記載の質量分析装置において、制御部は、第1の直流電圧の値と第1の高周波交流電圧の振幅との比率および第2の直流電圧の値と第2の高周波交流電圧の振幅との比率が第1、第2、第3および第4のロッド電極で囲まれる空間内をイオンが通過しない値になるように第2の電圧印加部を制御してもよい。
【0067】
第4項に記載の質量分析装置によれば、電源回路の起動から分析動作の開始前までの期間において、第1~第4のロッド電極が比較的高い温度に保たれる。それにより、電源回路が起動後の最初の分析動作時に、第1~第4のロッド電極の温度が予め上昇しているので、第1~第4のロッド電極の寸法または形状の変化が小さくなる。
【0068】
(第5項)第1項~第4項のいずれか一項に記載の質量分析装置は、第1の電圧印加部に電力を供給する電源回路をさらに備え、制御部は、電源回路の起動から分析動作の開始前において、分析対象の質量に相当する第1の高周波交流電圧が第1および第2のロッド電極に印加されかつ分析対象の質量に相当する第2の高周波交流電圧が第3および第4のロッド電極に印加されるように第1の電圧印加部を制御してもよい。
【0069】
第5項に記載の質量分析装置によれば、一の分析動作の終了から第2の分析動作の開始までの期間に第1~第4のロッド電極が比較的高い温度に保たれる。それにより、次の分析動作時において、第1~第4のロッド電極の温度が予め上昇しているので、第1~第4のロッド電極の寸法または形状の変化が小さくなる。したがって、複数回の分析動作においても、分析結果の精度が向上する。
【0070】
(第6項)第1項~第5項のいずれか一項に記載の質量分析装置において、第1項制御部は、一の分析動作と次の分析動作との間において、分析対象の質量に相当する第1の高周波交流電圧が第1および第2のロッド電極に印加されかつ分析対象の質量に相当する第2の高周波交流電圧が第3および第4のロッド電極に印加されるように第1の電圧印加部を制御してもよい。
【0071】
第6項に記載の質量分析装置によれば、容易な制御により四重極マスフィルタを通過するイオンの質量電荷比のずれを抑制するととともに、検出器の劣化を抑制することが可能となる。
【0072】
(第7項)第1項~第6項のいずれか一項に記載の質量分析装置は、分析対象の質量に相当する第1の高周波交流電圧が第1および第2のロッド電極に印加されかつ分析対象の質量に相当する第2の高周波交流電圧が第3および第4のロッド電極に印加された状態で予め定められた暖機時間が経過したか否かを判定する判定部と、判定部により暖機時間が経過したことを通知する通知部とをさらに備えてもよい。
【0073】
第7項に記載の質量分析装置によれば、使用者は、高い精度で分析結果を得ることを可能にする暖機動作が完了しているか否かを容易に知ることができる。
【0074】
(第8項)他の態様に係る質量分析方法は、第1、第2、第3および第4のロッド電極を含む四重極マスフィルタを有する質量分析装置を用いた質量分析方法であって、分析動作時に、第1および第2のロッド電極に印加される第1の高周波交流電圧を制御するとともに第3および第4のロッド電極に印加される第2の高周波交流電圧を制御するステップと、分析動作前に、分析対象の質量に相当する第1の高周波交流電圧を第1および第2のロッド電極に印加しかつ分析対象の質量に相当する第2の高周波交流電圧を第3および第4のロッド電極に印加するステップとを含む。
【0075】
他の態様に係る質量分析方法によれば、分析対象の質量に相当する第1および第2の高周波交流電圧の印加により第1~第4のロッド電極の温度が予め上昇しているので、第1~第4のロッド電極の寸法または形状の変化が小さい。したがって、分析動作時に、四重極マスフィルタを通過するイオンの質量電荷比(m/z)のずれが抑制される。その結果、分析結果の精度が向上する。
図1
図2
図3