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特許7601247容器用樹脂被覆金属板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】容器用樹脂被覆金属板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/09 20060101AFI20241210BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241210BHJP
   B65D 8/00 20060101ALI20241210BHJP
   B65D 65/42 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B32B15/09 A
B32B27/36
B65D8/00 A
B65D65/42 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023556718
(86)(22)【出願日】2023-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2023022725
(87)【国際公開番号】W WO2024053203
(87)【国際公開日】2024-03-14
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2022143518
(32)【優先日】2022-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】河合 佑哉
(72)【発明者】
【氏名】北川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】大島 安秀
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/182256(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/116707(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/116706(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/221385(WO,A1)
【文献】特開2004-345232(JP,A)
【文献】特開2001-021496(JP,A)
【文献】特開2013-006412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 1/00-90/66
C23C 26/00-28/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の少なくとも片面にポリエステル樹脂被覆層を備える容器用樹脂被覆金属板であって、
前記ポリエステル樹脂被覆層は、
当該ポリエステル樹脂被覆層の表面に、波長532nmの直線偏光レーザー光の偏光面を前記金属板の圧延方向に平行に入射して測定したレーザーラマン分光分析法によって求められる1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅が25cm-1以上28cm-1以下であり、
0.010質量%以上1.0質量%以下の有機滑剤を含有し、かつ、
2分間で室温から240℃となる熱処理を施した後の当該ポリエステル樹脂被覆層の表面におけるジヨードメタンの接触角が27°以上29°以下であり、
前記有機滑剤が、酸価10mgKOH/g以上60mgKOH/g以下の酸変性ポリオレフィン又は酸化ポリオレフィンを含み、
前記ポリエステル樹脂被覆層が、エチレンテレフタレート単位が90mol%以上の樹脂材料からなる、容器用樹脂被覆金属板。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂被覆層が、30質量%以下の酸化チタンを含有する、請求項1に記載の容器用樹脂被覆金属板。
【請求項3】
金属板の少なくとも片面にポリエステル樹脂被覆層を備える容器用樹脂被覆金属板であって、
前記ポリエステル樹脂被覆層は、
最表面層、中間層、及び最下層の少なくとも3層からなる構造を有し、
当該最表面層の表面に、波長532nmの直線偏光レーザー光の偏光面を前記金属板の圧延方向に平行に入射して測定したレーザーラマン分光分析法によって求められる1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅が25cm-1以上28cm-1以下であり、
2分間で室温から240℃となる熱処理を施した後の当該最表面層の表面におけるジヨードメタンの接触角が27°以上29°以下であり、
前記最表面層は0.010質量%以上1.0質量%以下の有機滑剤を含有し、
前記有機滑剤が、酸価10mgKOH/g以上60mgKOH/g以下の酸変性ポリオレフィン又は酸化ポリオレフィンを含み、
前記ポリエステル樹脂被覆層が、エチレンテレフタレート単位が90mol%以上の樹脂材料からなり、
前記最表面層及び最下層はそれぞれ0質量%以上2.0質量%以下の酸化チタンを含有し、前記中間層は10質量%以上30質量%以下の酸化チタンを含有し、
前記最表面層及び最下層の膜厚はそれぞれ1.0μm以上5.0μm以下であり、前記中間層の膜厚は6.0μm以上30μm以下である、容器用樹脂被覆金属板。
【請求項4】
請求項1または2に記載の容器用樹脂被覆金属板の製造方法であって、
金属板に、0.010質量%以上1.0質量%以下の酸価10mgKOH/g以上60mgKOH/g以下の酸変性ポリオレフィン又は酸化ポリオレフィンを含む有機滑剤を含有する、エチレンテレフタレート単位が90mol%以上の樹脂材料からなるポリエステル樹脂被覆層を圧着し、その後、
前記ポリエステル樹脂被覆層の表面を、当該ポリエステル樹脂被覆層の溶融開始温度以上の温度で0.50秒以上保持した後、150℃/秒以上の冷却速度で冷却する、容器用樹脂被覆金属板の製造方法。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂被覆層が、30質量%以下の酸化チタンを含有する、請求項に記載の容器用樹脂被覆金属板の製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載の容器用樹脂被覆金属板の製造方法であって、
金属板に、最表面層、中間層、及び最下層の少なくとも3層からなる構造を有し、前記最表面層は0.010質量%以上1.0質量%以下の酸価10mgKOH/g以上60mgKOH/g以下の酸変性ポリオレフィン又は酸化ポリオレフィンを含む有機滑剤を含有し、前記最表面層及び最下層はそれぞれ0質量%以上2.0質量%以下の酸化チタンを含有し、前記中間層は10質量%以上30質量%以下の酸化チタンを含有する、エチレンテレフタレート単位が90mol%以上の樹脂材料からなるポリエステル樹脂被覆層を圧着し、その後、
前記最表面層の表面を、当該最表面層の溶融開始温度以上の温度で0.50秒以上保持した後、150℃/秒以上の冷却速度で冷却する、容器用樹脂被覆金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の少なくとも一方の面にポリエステル樹脂被覆層を有する容器用樹脂被覆金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属容器は2ピース缶と3ピース缶とに大別される。2ピース缶とは、缶底と一体になった缶体と蓋体との2つの部分によって構成される金属容器である。一方、3ピース缶とは、缶胴、上蓋、及び底蓋の3つの部分によって構成される金属容器である。2ピース缶は缶体に溶接部を有さないために外観が美麗である反面、一般に高い加工度が要求される。
【0003】
従来、金属容器の素材として用いられるティンフリースチール(TFS)及びアルミニウム等の金属板には、耐食性の向上を目的とした塗装が施されてきた。しかし、この塗装を施す技術は、複雑な塗装及び焼き付けの工程で多大な処理時間を要する上に、多量の溶剤や二酸化炭素を排出するため、環境への負荷が大きいという課題がある。これらの問題を解決する手段として、金属表面に熱可塑性フィルムを有する容器用樹脂被覆金属板が開発され、現在、飲料缶用素材を中心として工業的に広く用いられている。
【0004】
特許文献1~3には、金属板の両面に樹脂被覆層を備える樹脂被覆金属板を素材として、絞り加工法やDI(Draw&Ironing)加工法により2ピース缶を製造する技術が開示されている。また、特許文献4、5には、印刷処理等の缶体の意匠性を高める処理を可能とするために、製缶加工後に金属容器の外面側に位置する樹脂被覆層に白色顔料を添加する技術が開示されている。
【0005】
近年、缶体形状の多様化に伴い、缶体の高加工度化のニーズが高まっている。缶径を小さく、缶高さを高くすることで、単位面積当たりに保管可能な缶体の数を増やすことができる。一方で、高加工度化に伴い、容器用樹脂被覆金属板の缶体外面側に位置する樹脂被覆層に破断又は削れが発生し、加工が不可能になる可能性がある。特許文献6には、高加工度の2ピース缶を製造する際の樹脂被覆層の削れを抑制する技術として、樹脂被覆層中に滑剤成分を添加する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2-303634号公報
【文献】特開平4-91825号公報
【文献】特開2004-148324号公報
【文献】特開平8-169098号公報
【文献】特開2004-130536号公報
【文献】特開2017-30210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、高加工度の2ピース缶を製造する際の樹脂被覆層の削れを抑制するためには、樹脂被覆層に滑剤成分を添加する等の方法により、樹脂被覆層表面の摺動性を高める必要がある。
【0008】
一方で、滑剤成分は印刷処理に用いる印刷塗料との密着を阻害し、印刷塗料の密着不良を引き起こす可能性もある。そのため、滑剤成分の樹脂被覆層表面への過度なブリードアウト(高分子中の添加剤が表面に浮き出てくる現象)を抑制する必要がある。ブリードアウトにより樹脂被覆層の表面に滑剤成分が過度に浮き出てきた場合、樹脂被覆層の表面に存在する滑剤成分が印刷塗料をはじき、印刷塗料の密着性を低下させる。
【0009】
さらに、高加工度の製缶加工に追従することが出来、その結果、樹脂被覆層の破断を抑制できるような、樹脂被覆層の柔軟性も併せて求められる。
【0010】
このような特性を鑑みた場合、従来技術では、高加工度の製缶加工における樹脂被覆層の破断および削れの抑制、ならびに塗料密着性の向上といった、全てを達成する容器用樹脂被覆金属板を得ることができていなかった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、製缶加工に伴う樹脂被覆層の破断と削れを抑制でき、製缶加工後の印刷塗料の密着性に優れる容器用樹脂被覆金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、以下の知見を得た。
【0013】
高加工度の製缶加工に伴う樹脂被覆層の破断を抑制するために、樹脂被覆層表面の柔軟性を確保する必要がある。この樹脂被覆層表面の柔軟性の確保には、樹脂被覆層表面の結晶化度を低減することが必要であることを見出した。樹脂被覆層表面の結晶化度の指標として、レーザーラマン分光分析法から求められる1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅に着目した。これを特定の範囲の値とすることで、製缶加工に伴う樹脂被覆層の破断を抑制することが可能である。
【0014】
また、製缶加工時の樹脂被覆層の削れを抑制するために、摺動性を向上させる必要がある。この摺動性向上のためには、有機滑剤を添加する必要がある。一方で、上述の通り、滑剤成分は印刷塗料との密着を阻害し、印刷塗料の密着不良を引き起こす可能性もある。そのため、滑剤成分の樹脂被覆層表面への過度なブリードアウトを抑制する必要がある。本発明者らは、有機滑剤の樹脂被覆層表面へのブリードアウトは、樹脂被覆層表面の結晶化度が高いと、より促進されることを見出した。すなわち、本発明においては、樹脂被覆層表面の結晶化度を低減することで、樹脂被覆層の柔軟性の確保と、有機滑剤の樹脂被覆層表面への過度なブリードアウトの抑制とを両立可能であることを見出した。
【0015】
さらに、樹脂被覆層表面の印刷塗料の密着性は、非極性液体との親和性を制御することが重要であることを見出した。樹脂被覆層と印刷塗料とは、van der Waals力により密着しており、樹脂被覆層の持つ表面張力のvan der Waals力成分を大きくすることで、印刷塗料との密着力を高めることが出来る。表面張力のvan der Waals力成分は、非極性液体との接触角で評価することができ、表面張力のvan der Waals力成分が大きいほど、非極性液体の接触角が小さくなる。本発明者らは、2分間で室温から240℃となる熱処理を施した後の樹脂被覆層におけるジヨードメタンの接触角を特定の値に制御することで、印刷塗料との密着性に優れる容器用樹脂被覆金属板を得ることが可能であることを見出した。
【0016】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
[1]金属板の少なくとも片面にポリエステル樹脂被覆層を備える容器用樹脂被覆金属板であって、
前記ポリエステル樹脂被覆層は、
当該ポリエステル樹脂被覆層の表面に、波長532nmの直線偏光レーザー光の偏光面を前記金属板の圧延方向に平行に入射して測定したレーザーラマン分光分析法によって求められる1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅が24cm-1以上28cm-1以下であり、
0.010質量%以上1.0質量%以下の有機滑剤を含有し、かつ、
2分間で室温から240℃となる熱処理を施した後の当該ポリエステル樹脂被覆層の表面におけるジヨードメタンの接触角が23°以上40°以下である、容器用樹脂被覆金属板。
[2]前記ポリエステル樹脂被覆層が、30質量%以下の酸化チタンを含有する、[1]に記載の容器用樹脂被覆金属板。
[3]金属板の少なくとも片面にポリエステル樹脂被覆層を備える容器用樹脂被覆金属板であって、
前記ポリエステル樹脂被覆層は、
最表面層、中間層、及び最下層の少なくとも3層からなる構造を有し、
当該最表面層の表面に、波長532nmの直線偏光レーザー光の偏光面を前記金属板の圧延方向に平行に入射して測定したレーザーラマン分光分析法によって求められる1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅が24cm-1以上28cm-1以下であり、
2分間で室温から240℃となる熱処理を施した後の当該最表面層の表面におけるジヨードメタンの接触角が23°以上40°以下であり、
前記最表面層は0.010質量%以上1.0質量%以下の有機滑剤を含有し、
前記最表面層及び最下層はそれぞれ0質量%以上2.0質量%以下の酸化チタンを含有し、前記中間層は10質量%以上30質量%以下の酸化チタンを含有し、
前記最表面層及び最下層の膜厚はそれぞれ1.0μm以上5.0μm以下であり、前記中間層の膜厚は6.0μm以上30μm以下である、容器用樹脂被覆金属板。
[4]前記ポリエステル樹脂被覆層が、エチレンテレフタレート単位が90mol%以上の樹脂材料からなる、[1]~[3]のいずれかに記載の容器用樹脂被覆金属板。
[5]前記有機滑剤が、酸価1.0mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の酸変性ポリオレフィン又は酸化ポリオレフィンを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の容器用樹脂被覆金属板。
[6]前記[1]または[2]に記載の容器用樹脂被覆金属板の製造方法であって、
金属板に、0.010質量%以上1.0質量%以下の有機滑剤を含有するポリエステル樹脂被覆層を圧着し、その後、
前記ポリエステル樹脂被覆層の表面を、当該ポリエステル樹脂被覆層の溶融開始温度以上の温度で0.50秒以上保持した後、150℃/秒以上の冷却速度で冷却する、容器用樹脂被覆金属板の製造方法。
[7]前記ポリエステル樹脂被覆層が、30質量%以下の酸化チタンを含有する、[6]に記載の容器用樹脂被覆金属板の製造方法。
[8]前記[3]に記載の容器用樹脂被覆金属板の製造方法であって、
金属板に、最表面層、中間層、及び最下層の少なくとも3層からなる構造を有し、前記最表面層は0.010質量%以上1.0質量%以下の有機滑剤を含有し、前記最表面層及び最下層はそれぞれ0質量%以上2.0質量%以下の酸化チタンを含有し、前記中間層は10質量%以上30質量%以下の酸化チタンを含有するポリエステル樹脂被覆層を圧着し、その後、
前記最表面層の表面を、当該最表面層の溶融開始温度以上の温度で0.50秒以上保持した後、150℃/秒以上の冷却速度で冷却する、容器用樹脂被覆金属板の製造方法。
[9]前記ポリエステル樹脂被覆層が、エチレンテレフタレート単位が90mol%以上の樹脂材料からなる、[6]~[8]のいずれかに記載の容器用樹脂被覆金属板の製造方法。
[10]前記有機滑剤が、酸価1.0mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の酸変性ポリオレフィン又は酸化ポリオレフィンを含む、[6]~[9]のいずれかに記載の容器用樹脂被覆金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製缶加工に伴う樹脂被覆層の破断と削れを抑制でき、製缶加工後の印刷塗料の密着性に優れる容器用樹脂被覆金属板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態である容器用樹脂被覆金属板の構成を示す断面図である。
図2図2は、本発明の別の実施形態である容器用樹脂被覆金属板の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態である容器用樹脂被覆金属板について説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態である容器用樹脂被覆金属板の構成を示す断面図である。図1に示すように、本発明の一実施形態である容器用樹脂被覆金属板1は、金属板2と、金属板2の表面側に形成されたポリエステル樹脂被覆層3(以下、単に樹脂被覆層3と称することもある。)と、金属板2の裏面側に形成された樹脂被覆層4とを備えている。樹脂被覆層3及び4は、それぞれ、製缶加工後に金属容器の外面側及び内面側となる。
【0021】
本実施形態において、金属板2は、ぶりきやティンフリースチール等の鋼板により形成されている。ぶりきとしては、めっき量が0.5g/m以上15g/m以下のものを用いることが望ましい。ティンフリースチールは、付着量が50mg/m以上200g/m以下の金属クロム層と、金属クロム換算の付着量が3mg/m以上30g/m以下のクロム酸化物層とを表面に有することが望ましい。鋼板の種類は、目的の形状に成形できるものであれば特に問わないが、以下に示す成分や製法のものが望ましい。
【0022】
(1)C(カーボン)量が0.003質量%超0.10質量%以下程度の範囲内にある低炭素鋼を用い、連続焼鈍で再結晶焼鈍したもの。
(2)C量が0.003質量%超0.10質量%以下程度の範囲内にある低炭素鋼を用い、連続焼鈍で再結晶焼鈍及び過時効処理したもの。
(3)C量が0.003質量%超0.10質量%以下程度の範囲内にある低炭素鋼を用い、箱焼鈍で再結晶焼鈍したもの。
(4)C量が0.003質量%超0.10質量%以下程度の範囲内にある低炭素鋼を用い、連続焼鈍又は箱焼鈍で再結晶焼鈍した後に、二次冷間圧延(DR(Double Reduced)圧延)したもの。
(5)C量が概ね0.003質量%以下程度の極低炭素鋼に、Nb、Ti等の、固溶したCを固定する元素を添加したIF(Interstitial Free)鋼を用い、連続焼鈍で再結晶焼鈍したもの。
【0023】
鋼板の機械特性は、目的の形状に成形できるものであれば特に限定されるものではない。加工性を損なわず、且つ、十分な缶体強度を保つために、降伏点(YP)が220MPa以上580MPa以下のものを用いることが望ましい。また、塑性異方性の指標であるランクフォード値(r値)については、0.8以上であるものが望ましい。さらに、r値の面内異方性Δrについては、その絶対値が0.7以下であるものが望ましい。
【0024】
上記の特性を達成するための鋼の成分は特に限定されるものではないが、例えばSi、Mn、P、S、Al、N等の成分を含有すればよい。Si含有量は0.001質量%以上0.1質量%以下、Mn含有量は0.01質量%以上0.6質量%以下、P含有量は0.002質量%以上0.05質量%以下、S含有量は0.002質量%以上0.05質量%以下、Al含有量は0.005質量%以上0.100質量%以下、N含有量は0.0005質量%以上0.020質量%以下であることが好ましい。残部は、Fe及び不可避的不純物とすることができる。また、Ti、Nb、B、Cu、Ni、Cr、Mo、V等の他の成分を含有しても良いが、耐食性等を確保する観点から、これらの成分の含有量は総量で0.02質量%以下とすることが望ましい。
【0025】
本発明において、少なくとも片面のポリエステル樹脂被覆層3(成形加工によって容器の外面側となる樹脂被覆層)の表面は、波長532nmの直線偏光レーザー光の偏光面を金属板(鋼板)の圧延方向に平行に入射して測定したレーザーラマン分光分析法によって求められる1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅が、24cm-1以上28cm-1以下である。
【0026】
レーザーラマン分光分析法によって求められるラマンシフトが1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に基づくピークの半値幅は、ポリエステル樹脂の密度と相関することが知られている(J.Polymer Science 10.317.1972.)。また、樹脂の密度と体積分率結晶化度の間には、相関があることが知られている(高分子の固体構造II(共立出版、1984))。したがって、1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に基づくピークの半値幅を測定することにより、ポリエステルの密度を介して、ポリエステルの結晶化度を求めることが可能である。したがって、本発明においてはレーザーラマン分光分析法によって求められた1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に基づくピークの半値幅を樹脂被覆層表面の結晶化度の指標として使用する。
【0027】
1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅(以下、単に、ピークの半値幅ともいう)が、24cm-1以上28cm-1以下である場合、樹脂被覆層3の表面の結晶化度は低い状態であり、柔軟性の高い樹脂被覆層が得られる。なお、ピークの半値幅が24cm-1未満では、有機滑剤のブリードアウトが抑制できず、印刷塗料の密着性に劣る。特に、ピークの半値幅が22cm-1未満の場合、樹脂被覆層3表面の柔軟性が劣ることで、製缶加工の際の変形に樹脂被覆層3が追従することが出来ず、樹脂被覆層3の破断が生じる。
【0028】
また、樹脂被覆層3の表面の結晶化度が低いことは、有機滑剤の樹脂被覆層3表面への過度なブリードアウトを抑制する観点から、非常に重要である。樹脂被覆層3の結晶化度が高くなると、樹脂被覆層3中に存在する有機滑剤のブリードアウトが促進され、後述するジヨードメタンの接触角を本発明で規定する範囲に制御できず、印刷塗料の密着性を低下させる。そのため、印刷塗料の密着性の観点から、ラマンシフトが1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅は、24cm-1以上28cm-1以下である必要がある。前記ピークの半値幅は、より好ましくは、25cm-1以上28cm-1以下である。ここで、結晶が残っていない場合の1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅が28cm-1であるため、本発明における半値幅の上限は28cm-1とする。なお、前記ピークの半値幅は、詳細には、実施例に記載の方法により測定できる。
【0029】
容器用樹脂被覆金属板1は、樹脂被覆層3、4の融点以上に加熱された金属板2の表裏面に、それぞれ、樹脂被覆層3、4をラミネートロールで圧着し、その後冷却することで作製される。樹脂被覆層3の表面の結晶化度は、圧着後の樹脂被覆層3の表面温度、及び圧着後の樹脂被覆層3の表面温度が樹脂被覆層3の溶融開始温度以上で保持される時間、を変化させることで調整可能である。
【0030】
樹脂被覆層3の表面の結晶化度を本発明で規定する範囲に制御するために、樹脂被覆層3を金属板2に圧着した後、樹脂被覆層3の表面が、樹脂被覆層3の溶融開始温度以上の温度で0.50秒以上保持された後に急冷される必要がある。樹脂被覆層3を金属板2に圧着した後、樹脂被覆層3の表面が樹脂被覆層3の溶融開始温度以上の温度で保持される時間が0.50秒未満では、樹脂被覆層3の表面の融解が不十分であり、本発明の規定する表面の結晶化度が得られない。一方、樹脂被覆層3を金属板2に圧着した後、樹脂被覆層3の表面が樹脂被覆層3の溶融開始温度以上の温度で保持される時間が3.0秒超えとする場合、製造ラインが長くなることで生産性が著しく低下する。そのため、樹脂被覆層3を金属板2に圧着した後、樹脂被覆層3の表面が樹脂被覆層3の溶融開始温度以上の温度で保持される時間は3.0秒以下が好ましい。
【0031】
なお、急冷とは、樹脂被覆層3の表面を、樹脂被覆層3の溶融開始温度から120℃まで、150℃/秒以上の冷却速度で冷却することを意味する。好ましくは、冷却速度は200℃/秒以上である。樹脂被覆層3の表面を、樹脂被覆層3の溶融開始温度以上の温度で保持した後、自然放冷等により溶融開始温度未満とすると、樹脂被覆層3表面の結晶化が進行し、本発明の結晶化度を得ることが出来ない。
【0032】
さらに、樹脂被覆層3を金属板2に圧着した後、急冷されるまでの間、樹脂被覆層3はロール等に接触しないようにする必要がある。樹脂被覆層3の溶融開始温度未満のロール等に接触した場合、樹脂被覆層3の表面が冷却されて樹脂被覆層3の溶融開始温度未満に低下し、樹脂被覆層3の表面の結晶化度を本発明で規定する範囲に制御することが出来ない。また、樹脂被覆層3の融点以上のロール等に接触した場合、ロールへの溶着が生じる。そのため、樹脂被覆層3を金属板2に圧着した後、急冷されるまでの間、樹脂被覆層3はロール等に接触しないようにする。
【0033】
金属板2に圧着した後の樹脂被覆層3の表面の温度を高くするには、圧着前の金属板2の加熱温度を高くする、圧着時のラミネートロールの圧力を小さくする、圧着時のラミネートロールの温度を高くする、といった方法がある。本発明の目的とする結晶化度とするためには、金属板2の加熱温度は、樹脂被覆層3の融点より20℃から50℃程度高くすることが好ましい。また、圧着時のロールの押し付け圧を低下させることで、圧着時のロールによる冷却効果を小さくし、圧着後の樹脂被覆層3の表面温度を高く保つことが可能である。また、ラミネートロールの温度が高いほど、圧着時のロールによる冷却効果を小さくし、圧着後の樹脂被覆層3の表面温度を高く保つことができる。しかし、ラミネートロールの温度が樹脂被覆層3のガラス転移点+60℃よりも高い温度となると、樹脂被覆層3の軟化に伴いラミネートロールの粗さが転写され、外観欠陥が生じる。そのため、ラミネートロールの温度は樹脂被覆層3のガラス転移点+60℃以下とする必要がある。
【0034】
製缶加工時の摺動性を高めるため、樹脂被覆層3は、0.010質量%以上1.0質量%以下の範囲の有機滑剤を含有する。有機滑剤の含有量が0.010質量%未満である場合、製缶加工時に十分な摺動性が確保できず、樹脂被覆層3の削れが発生する。また、有機滑剤の含有量が1.0質量%を超える場合には、樹脂被覆層3内の有機滑剤が占める割合が大きくなることで樹脂被覆層3の脆化が生じ、製缶加工時に削れが発生する。有機滑剤の含有量は、好ましくは0.020質量%以上である。また、有機滑剤の含有量は、好ましくは、0.90質量%以下であり、さらに好ましくは0.80質量%以下である。
【0035】
樹脂被覆層3が含有する有機滑剤は、酸価1.0mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の酸変性ポリオレフィン、又は酸価1.0mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の酸化ポリオレフィンを含むことが望ましい。有機滑剤の酸価を制御することで、有機滑剤の樹脂被覆層3表面へのブリードアウト挙動を調整することが出来る。有機滑剤の酸価が低いほど、熱処理時に樹脂被覆層3表面へブリードアウトし易く、有機滑剤の酸価が高いほど、熱処理時に樹脂被覆層3表面へブリードアウトし難くなる。樹脂被覆層3が含有する有機滑剤の酸価が1.0mgKOH/g以上であれば、熱処理に伴う樹脂被覆層3の表面への過剰なブリードアウトをより効果的に抑えることができる。また、樹脂被覆層3が含有する有機滑剤の酸価が100mgKOH/g以下であれば、樹脂被覆層3の表面へのより適切な量のブリードアウトが得られ、製缶加工時の削れがより効果的に抑えられる。有機滑剤の酸価は、より好ましくは2.0mgKOH/g以上であり、さらに好ましくは10mgKOH/g以上である。また、有機滑剤の酸価は、より好ましくは80mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは60mgKOH/g以下である。なお、有機滑剤の酸価は、JIS K5902に従って測定できる。
【0036】
また、有機滑剤の融点は、80℃以上230℃以下であることが望ましい。有機滑剤の融点が80℃以上であれば、有機滑剤の樹脂被覆層3の表面へのブリードアウトをより効果的に抑えることができる。一方、有機滑剤の融点が230℃以下であれば、加工時に、より良好な摺動性を得ることができる。有機滑剤の融点は、より好ましくは90℃以上であり、さらに好ましくは100℃以上である。また、有機滑剤の融点は、より好ましくは200℃以下であり、さらに好ましくは180℃以下である。
【0037】
本発明において、樹脂被覆層3は、2分間で室温(常温)から240℃となる熱処理を施した後の樹脂被覆層3の表面におけるジヨードメタンの接触角が23°以上40°以下である。ここで、2分間で室温から240℃となる熱処理とは、熱処理開始(室温)から2分間で容器用樹脂被覆金属板1の温度が240℃となる(240℃に達する)熱処理を意味する。なお、室温は、特に限定されないが、一例として20℃±15℃である。この熱処理は、製缶ラインで缶体を製造する際に、樹脂被覆層と金属板との密着を高める目的で加工後に実施される熱処理を模擬したものである。ジヨードメタンの接触角は、樹脂被覆層3の表面張力のvan der Waals力成分と相関しており、ジヨードメタンの接触角が大きいほど樹脂被覆層3の表面張力のvan der Waals力成分は小さい。そのため、ジヨードメタンの接触角が40°を超える場合、印刷塗料との間のvan der Waals力による接着力が小さくなり、印刷塗料の剥がれが生じる。また、ジヨードメタンの接触角が23°よりも小さい場合、樹脂被覆層3の表面に有機滑剤がほとんど存在しておらず、製缶加工時の削れを抑制することが出来ない。そのため、上記熱処理を施した後の樹脂被覆層3表面におけるジヨードメタンの接触角は23°以上40°以下である必要がある。前記接触角は、好ましくは25°以上であり、より好ましくは27°以上である。また、前記接触角は、好ましくは38°以下であり、より好ましくは36°以下であり、さらに好ましくは29°以下である。なお、ジヨードメタンの接触角は、詳細には、実施例に記載の方法により測定できる。なお、本発明において、ピークの半値幅(結晶化度)と有機滑剤含有量を制御することにより、上記所望のジヨードメタンの接触角とすることができる。樹脂被覆層3が有機滑剤を含有していない場合は、結晶化度を制御しても、樹脂被覆層3表面に有機滑剤が存在しないため、樹脂被覆層3表面におけるジヨードメタンの接触角が小さくなり、樹脂被覆層3の削れが発生してしまう。
【0038】
樹脂被覆層3は、エチレンテレフタレート単位が90mol%以上の樹脂材料から形成されていることが望ましい。具体的には、樹脂被覆層3は、カルボン酸成分としてテレフタル酸、グリコール成分としてエチレングリコールよりなるポリエチレンテレフタレートを構成するエチレンテレフタレート単位が90mol%以上のポリエステルとすることが望ましい。樹脂被覆層3は、より好ましくは、エチレンテレフタレート単位が92mol%以上の樹脂材料から形成されている。さらに好ましくは、エチレンテレフタレート単位が92mol%以上97mol%以下の樹脂材料から形成されている。エチレンテレフタレート単位が90mol%以上であれば、連続製缶加工時に発生する熱に対し、より高熱まで耐えることができる。
【0039】
ポリエステル樹脂の原料には、種々のジカルボン酸成分やグリコール成分を使用してもよい。また、耐熱性や加工性を損なわない範囲内で、複数のジカルボン酸成分、グリコール成分を共重合させてもよい。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、p-オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸等を例示できる。グリコール成分としては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族グリコール、ジエチレングリコール等を例示できる。
【0040】
樹脂被覆層3を形成する樹脂材料は、その製法によって限定されることはない。例えば、テレフタル酸、エチレングリコール、および共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合させて共重合ポリエステルとする方法を利用して、樹脂材料を形成することができる。あるいは、ジメチルテレフタレート、エチレングリコール、および共重合成分をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法を利用して、樹脂材料を形成することもできる。また、ポリエステルの製造においては、必要に応じて蛍光増白材、酸化防止剤、熱安定化材、紫外線吸収剤、帯電防止材等の添加剤を添加しても良い。
【0041】
樹脂被覆層3は、印刷後の意匠性を高めるために白色であることを求められる場合がある。この場合、任意成分として、樹脂被覆層3に30質量%以下の酸化チタンを含有しても良い。酸化チタンの含有量は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは12質量%以上である。また、酸化チタンの含有量は、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。酸化チタン含有量が10質量%以上であれば、より優れた加工後の白色度が得られる。また、酸化チタン含有量が30質量%以下であると、加工度の高い成形時でも、金属板2と樹脂被覆層3とのより良い密着性や、樹脂被覆層3のより良い加工性が得られる。
【0042】
樹脂被覆層3に添加する酸化チタンは、特に限定はされないが、ルチル型酸化チタンの純度が90%以上のものであれば、樹脂材料との混合時における分散性により優れるため好ましい。
【0043】
なお、樹脂被覆層4(成形加工によって容器の内面側となる樹脂被覆層)を形成する樹脂材料としては、上述の樹脂被覆層3を形成する樹脂材料と同様の樹脂材料が挙げられる。特に、カルボン酸成分としてテレフタル酸、グリコール成分としてエチレングリコールよりなるポリエチレンテレフタレートを構成するエチレンテレフタレート単位が90mol%以上のポリエステルが好ましい。なお、樹脂被覆層4は、樹脂被覆層3と同じ構成を有していてもよいし、異なっていてもよい。
【0044】
本実施形態の容器用樹脂被覆金属板の好適な製造方法の一例としては、金属板に、ポリエステル樹脂被覆層(ポリエステル樹脂被覆層を形成する樹脂材料)を圧着し、その後、前記ポリエステル樹脂被覆層の表面を、当該ポリエステル樹脂被覆層の溶融開始温度以上の温度で0.50秒以上保持した後、150℃/秒以上の冷却速度で冷却する製造方法が挙げられる。前記ポリエステル樹脂被覆層は、0.010質量%以上1.0質量%以下の有機滑剤を含有する。また、前記ポリエステル樹脂被覆層は、エチレンテレフタレート単位が90mol%以上の樹脂材料からなることが好ましい。前記有機滑剤は、酸価1.0mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の酸変性ポリオレフィン又は酸化ポリオレフィンを含むことが好ましい。
【0045】
次に、本発明の別の実施形態にかかる容器用樹脂被覆金属板について説明する。本実施形態の容器用樹脂被覆金属板は、金属板の少なくとも片面にポリエステル樹脂被覆層を備え、前記ポリエステル樹脂被覆層が、最表面層、中間層、及び最下層の少なくとも3層を有する。
【0046】
図2は、本実施形態の一例である容器用樹脂被覆金属板10の構成を示す断面図である。なお、本実施形態において、上述の容器用樹脂被覆金属板1に対応する構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0047】
図2に示す容器用樹脂被覆金属板10は、金属板2の表面側に形成されるポリエステル樹脂被覆層30(以下、単に、樹脂被覆層30と称することもある。)が、複数のポリエステル樹脂被覆層(最表面層30a、中間層30b、最下層30c)から構成される点で、上述の容器用樹脂被覆金属板1と異なる。
【0048】
容器用樹脂被覆金属板10において、金属板2、樹脂被覆層4の構成は、上述の容器用樹脂被覆金属板1の金属板2、樹脂被覆層4の構成とそれぞれ同様である。
【0049】
容器用樹脂被覆金属板10における、少なくとも片面の樹脂被覆層30(成形加工によって容器の外面側となる樹脂被覆層)は、その表面(すなわち最表面層30aの表面)に、波長532nmの直線偏光レーザー光の偏光面を金属板の圧延方向に平行に入射して測定したレーザーラマン分光分析法によって求められる1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅が、上述の容器用樹脂被覆金属板1の樹脂被覆層3のものと同様である。すなわち、前記ピーク半値幅は、24cm-1以上28cm-1以下である。
【0050】
また、樹脂被覆層30は、2分間で室温(常温)から240℃となる熱処理を施した後の樹脂被覆層30の表面(すなわち最表面層30aの表面)におけるジヨードメタンの接触角が、上述の容器用樹脂被覆金属板1の樹脂被覆層3のものと同様である。すなわち、前記接触角は、23°以上40°以下である。
【0051】
最表面層30aは、上述の樹脂被覆層3と同様の構成を有する。すなわち、最表面層30aは、樹脂被覆層3と同様の樹脂材料からなり、0.010質量%以上1.0質量%以下の有機滑剤を含む。
【0052】
また、中間層30b、最下層30cを形成する樹脂材料としては、上述の樹脂被覆層3を形成する樹脂材料と同様の樹脂材料が挙げられる。
【0053】
容器用樹脂被覆金属板10において、最表面層30a及び最下層30cの膜厚はそれぞれ、1.0μm以上5.0μm以下が好ましい。最表面層30a及び最下層30cの膜厚はそれぞれ、1.5μm以上がより好ましく、2.0μm以上がさらに好ましい。また、最表面層30a及び最下層30cの膜厚はそれぞれ、4.0μm以下がより好ましく、3.0μm以下がさらに好ましい。中間層30bの膜厚は、6.0μm以上30μm以下が好ましい。中間層30bの膜厚は、8.0μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、中間層30bの膜厚は、25μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。樹脂被覆層30に酸化チタンを添加する場合、最表面層30aの脆化抑制の観点から、最表面層30aの含有する酸化チタンの量は、最表面層30aに対して0質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。また、最下層30cと金属板2との間の密着性低下抑制の観点から、最下層30cの含有する酸化チタンの量は、最下層30cに対して0質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。また、加工後の白色度確保の観点から、中間層30bの含有する酸化チタンの量は、中間層30bに対して10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0054】
なお、容器用樹脂被覆金属板10は、容器用樹脂被覆金属板1と同様に作製できる。すなわち、予め、公知の手段により、最表面層30a、中間層30b、最下層30cからなる樹脂被覆層30を形成する。例えば、同種もしくは複数の異なるポリエステル樹脂を、複数の押出機(一軸又は二軸押出機)内で溶融させた後、Tダイから溶融状態の樹脂膜(30a~c)を共押出して3層に積層させる。その後、冷却ロールで固化させ、巻き取った未延伸フィルム、冷却固化させた膜を延伸したフィルム(縦一軸延伸フィルム、横一軸延伸フィルム、逐次二軸延伸フィルム、同時二軸延伸フィルム等)のいずれも樹脂層として使用できる。これを樹脂被覆層30、4の融点以上に加熱された金属板2の表裏面に、それぞれ、樹脂被覆層30、4をラミネートロールで圧着し、その後冷却することで作製すればよい。この際、樹脂被覆層30の表面(すなわち最表面層30aの表面)の結晶化度は、上述の容器用樹脂被覆金属板1と同様にして調整可能である。
【0055】
本実施形態の容器用樹脂被覆金属板の好適な製造方法の一例としては、金属板に、最表面層、中間層、及び最下層の少なくとも3層からなる構造を有するポリエステル樹脂被覆層(ポリエステル樹脂被覆層を形成する樹脂層)を圧着し、その後、前記最表面層の表面を、当該最表面層の溶融開始温度以上の温度で0.50秒以上保持した後、150℃/秒以上の冷却速度で冷却する製造方法が挙げられる。前記最表面層は0.010質量%以上1.0質量%以下の有機滑剤を含有する。また、前記最表面層及び最下層はそれぞれ0質量%以上2.0質量%以下の酸化チタンを含有し、前記中間層は10質量%以上30質量%以下の酸化チタンを含有することが好ましい。前記ポリエステル樹脂被覆層は、エチレンテレフタレート単位が90mol%以上の樹脂材料からなることが好ましい。前記有機滑剤は、酸価1.0mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の酸変性ポリオレフィン又は酸化ポリオレフィンを含むことが好ましい。
【0056】
本実施形態の容器用樹脂被覆金属板においても、上述の容器用樹脂被覆金属板1と同様の効果が得られる。
【実施例
【0057】
金属板として厚さ0.22mmのTFS(Tin Free Steel、金属Cr層:120mg/m、Cr酸化物層:金属Cr換算で10mg/m、調質度:T3CA)を用い、フィルムラミネート法(フィルム熱融着法)で表1~4に示す樹脂被覆層を形成した。実施例1~24、比較例1、6、9については、以下の方法により金属板の両面に樹脂被覆層を被覆した容器用樹脂被覆金属板を製造した。金属板を樹脂被覆層の融点より20~40℃高い温度に加熱し、ラミネートロールを用いて二軸延伸法で作製したフィルム状の樹脂被覆層を金属板に熱圧着した。その後、製缶加工後に容器外面側に位置する樹脂被覆層(複層のものは最表面層)の表面を樹脂被覆層(複層のものは最表面層)の溶融開始温度以上の温度で0.50~3.0秒保持し、次いで急冷(水冷)を行った。また比較例2~5、7、8については、以下の方法により金属板の両面に樹脂被覆層を被覆した容器用樹脂被覆金属板を製造した。フィルムの熱圧着後に、製缶加工後に容器外面側に位置する樹脂被覆層(複層のものは最表面層)の表面を樹脂被覆層(複層のものは最表面層)の溶融開始温度以上の温度で保持する時間を0.50秒未満とし、次いで急冷(水冷)を行った。
【0058】
得られた容器用樹脂被覆金属板について、以下に示す方法で、レーザーラマン分光分析法によって求められる1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅、及びジヨードメタンの接触角を測定した。
【0059】
<レーザーラマン分光分析法によって求められる1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅>
容器用樹脂被覆金属板の製缶加工後に容器外面側となる樹脂被覆層の表面を測定対象とし、直線偏光レーザー光を用いたレーザーラマン分光分析法によって測定を行った。レーザー光の偏光方向を金属板(鋼板)の圧延方向に対して平行にして測定を行った。半値幅測定の対象としたピークは、ラマンシフトが1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因したピークである。測定には、レーザーラマン分光分析装置(ナノフォトン株式会社製RAMAN force)を用いた。入射光には波長532nmのレーザーを用い、測定条件はレーザー強度6.0mW、スリット幅50μm、回折格子600gr/mm、積算回数1回とした。5μmピッチで10点×10点の計100点測定し、その平均スペクトルより1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅を求めた。1730cm-1近傍のC=O伸縮振動に起因するピークの半値幅算出時のカーブフィットには、疑似フォークト関数を用いた。
【0060】
<ジヨードメタンの接触角>
容器用樹脂被覆金属板を2分間で室温から240℃となるように熱風乾燥炉にて熱処理を行い、室温まで冷却した。その後、製缶加工後に容器外面側となる樹脂被覆層の表面について、ジヨードメタンの接触角を測定した。協和界面科学株式会社製CA-DT型の接触角計を用い、20℃の環境下で、2μLのジヨードメタンの液滴を樹脂被覆層表面に着滴させ、着滴から1秒後の静的接触角をθ/2法で算出した。
【0061】
また、得られた容器用樹脂被覆金属板について、以下に示す方法で、加工性(耐破断性)、耐削れ性、及び印刷塗料密着性を評価した。
【0062】
(1)加工性
容器用樹脂被覆金属板にパラフィンワックスを塗布した後、直径180mmの円板を打抜いた。この円板にカッピングプレス機での絞り成形、次いで2段の再絞り成形および1段のしごき成形による加工を施し、内径52mm、缶高さ163mmの缶を成形した。成形後の缶について、缶外面側の樹脂被覆層表面を目視で観察し、以下の基準に従い加工性を評価した。下記評価で「○」を、製缶加工に伴う樹脂被覆層の破断を抑制できると判断し合格とした。
評価「○」:樹脂被覆層の破断が観察されない。実用上の問題なし。
評価「×」:樹脂被覆層の破断が観察される、又は、破胴が発生。実用上の問題あり。
【0063】
(2)耐削れ性
容器用樹脂被覆金属板にパラフィンワックスを塗布した後、直径180mmの円板を打抜いた。この円板にカッピングプレス機での絞り成形、次いで2段の再絞り成形および1段のしごき成形による加工を施し、内径52mm、缶高さ163mmの缶を成形した。成形後の缶に対して、2分間で室温から240℃になるように加熱した後に、冷風にて強制冷却した。冷却後の缶について、缶外面側の樹脂被覆層表面を目視で観察し、以下の基準に従い耐削れ性を評価した。下記評価で「◎」および「○」を、製缶加工時の樹脂被覆層の削れを抑制できると判断し合格とした。
評価「◎」:削れが観察されない。
評価「○」:缶フランジ部から5mm以内の高さに削れが発生。実用上の問題なし。
評価「△」:缶フランジ部から5mmを超えて20mm以内の高さに削れが発生。実用上の問題あり。
評価「×」:缶フランジ部から20mmを超えた高さに達する削れ、または破胴が発生。実用上の問題あり。
評価「-」:製缶時点で樹脂被覆層の破断、又は、破胴が発生し、耐削れ性の評価不能。実用上の問題あり。
【0064】
(3)印刷塗料密着性
容器用樹脂被覆金属板に、熱風乾燥炉を用いて2分間で室温から240℃となるように熱処理を行い、室温まで冷却した。その後、各サンプルの容器外面側の樹脂被覆層にポリエステル系の印刷塗料を印刷し、熱風乾燥炉を用いて90秒間で185℃となるように熱処理を行い、室温まで冷却した。得られたサンプルの印刷塗料が印刷された面を、引っかき式塗膜硬度計を用いて、500gの荷重下、10mm/min.の速度で印刷端部より走査し、印刷塗料の剥れが発生しない最大の鉛筆硬度を測定した。この鉛筆硬度により、以下の基準に従って印刷塗料密着性を評価した。下記評価で「◎」および「○」を、製缶加工後の印刷塗料の密着性に優れると判断し合格とした。
評価「◎」:鉛筆硬度3H以上。
評価「○」:鉛筆硬度2H。実用上の問題なし。
評価「△」:鉛筆硬度H。実用上の問題あり。
評価「×」:鉛筆硬度がF以下。実用上の問題あり。
【0065】
表5に、それぞれの評価結果を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
表5に示す通り、各実施例では、加工性(耐破断性)、耐削れ性、印刷塗料密着性が全て良好であった。また、製缶加工に伴う樹脂被覆層の破断と樹脂被覆層の削れを抑制でき、製缶加工後の印刷塗料の密着性に優れる容器用樹脂被覆金属板が得られた。これに対し、各比較例では加工性、耐削れ性、印刷塗料密着性のうちいずれかの評価結果が不十分であった。
【符号の説明】
【0072】
1、10 容器用樹脂被覆金属板
2 金属板
3、30 (ポリエステル)樹脂被覆層
4 樹脂被覆層
30a 最表面層
30b 中間層
30c 最下層

図1
図2