(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】フィルタ装置、アンテナ装置、およびアンテナモジュール
(51)【国際特許分類】
H03H 7/09 20060101AFI20241210BHJP
H01Q 5/40 20150101ALI20241210BHJP
H03H 7/01 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H03H7/09 Z
H01Q5/40
H03H7/01 A
(21)【出願番号】P 2023557959
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2022039627
(87)【国際公開番号】W WO2023080009
(87)【国際公開日】2023-05-11
【審査請求日】2024-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2021179521
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立花 真也
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-287310(JP,A)
【文献】国際公開第2016/125515(WO,A1)
【文献】特開2014-233074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 7/09
H01Q 5/40
H03H 7/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数帯の通過帯域と、前記第1周波数帯よりも低い第2周波数帯の減衰帯域とを有するフィルタ装置であって、
第1端子と、
第2端子と、
前記第1端子と接続される第1インダクタと、
前記第1インダクタと前記第2端子との間に並列に設けられる第1経路および第2経路のうち、前記第1経路に配置される第1キャパシタおよび第2インダクタを含む直列共振器とを備え、
前記第1インダクタと前記第2インダクタとは、互いに磁気結合する、フィルタ装置。
【請求項2】
前記第2経路のインダクタンスは、前記第1インダクタと前記第2インダクタとの相互インダクタンスより小さい、請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記第1インダクタのインダクタンスは、前記第2インダクタのインダクタンスより小さい、請求項1または請求項2に記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記第1端子および前記第2端子は、筐体に設けた第1外部電極および第2外部電極にそれぞれ電気的に接続され、
前記第1インダクタおよび前記直列共振器は、前記筐体内に設けられている、請求項1
または請求項2に記載のフィルタ装置。
【請求項5】
前記筐体は、絶縁体であり、
前記絶縁体内において複数の導体パターンにより前記第1インダクタおよび前記直列共振器が構成され、
前記第1インダクタは、
前記第1外部電極に電気的に接続され、1層以上の第1導体パターンを含み、
前記第2インダクタは、
前記第2外部電極に電気的に接続され、1層以上の第2導体パターンを含み、
前記第1キャパシタは、前記第1導体パターンまたは前記第2導体パターンから引き出された配線と電気的に接続される、請求項4に記載のフィルタ装置。
【請求項6】
前記絶縁体内において、前記第1導体パターンを形成した基板に対して前記第2導体パターンを形成した基板を積層して、前記第1インダクタと前記第2インダクタとが互いに対向するように配置され、
前記絶縁体の積層方向から視て、前記第1インダクタの開口が前記第2インダクタの開口と少なくとも一部が重なる、請求項5に記載のフィルタ装置。
【請求項7】
前記第1キャパシタは、前記第1インダクタおよび前記第2インダクタが配置された層と異なる層に配置される、請求項6に記載のフィルタ装置。
【請求項8】
前記第1キャパシタは、前記絶縁体の積層方向から視て、前記第1インダクタの側に配置される、請求項7に記載のフィルタ装置。
【請求項9】
前記第2経路に対して並列に接続した第3経路をさらに備える、請求項1
または請求項2に記載のフィルタ装置。
【請求項10】
前記第3経路は前記第1インダクタおよび前記第2インダクタとは磁界結合しない、請求項9に記載のフィルタ装置。
【請求項11】
前記第3経路は前記第1インダクタおよび前記第2インダクタの開口方向から見て前記第1インダクタと前記第2インダクタと重ならない、請求項10に記載のフィルタ装置。
【請求項12】
前記第1インダクタおよび前記第2インダクタに対して並列に接続した第3インダクタをさらに備える、請求項1
または請求項2に記載のフィルタ装置。
【請求項13】
前記第1インダクタおよび前記第2インダクタに対して並列に接続した第3インダクタをさらに備え、
前記第3インダクタの一端は前記第1外部電極に接続され、前記第3インダクタの他端は前記第2外部電極に接続され、
前記第3インダクタは、前記筐体外に別の素子として設けられている、請求項4に記載のフィルタ装置。
【請求項14】
前記第1インダクタおよび前記第2インダクタに対して並列に接続した第2キャパシタをさらに備える、請求項1
または請求項2に記載のフィルタ装置。
【請求項15】
前記第1インダクタおよび前記第2インダクタに対して並列に接続した第2キャパシタをさらに備え、
前記第2キャパシタの一端は前記第1外部電極に接続され、前記第2キャパシタの他端は前記第2外部電極に接続され、
前記第2キャパシタは、前記筐体外に別の素子として設けられている、請求項4に記載のフィルタ装置。
【請求項16】
前記第1周波数帯の電波を放射可能であるアンテナ装置であって、
アンテナと、
前記アンテナに高周波信号を供給する給電回路と、
前記アンテナと前記給電回路との間に設けられる請求項1
または請求項2に記載のフィルタ装置と、を備えるアンテナ装置。
【請求項17】
アンテナモジュールであって、
前記第1周波数帯の電波を放射可能である第1アンテナ装置と、
前記第2周波数帯の電波を放射可能である第2アンテナ装置と、を備え、
前記第1アンテナ装置は、請求項16に記載のアンテナ装置である、アンテナモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フィルタ装置、アンテナ装置、およびアンテナモジュールに関し、より特定的には、減衰特性および通過特性を改善するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波回路には、帯域阻止フィルタや帯域通過フィルタなどのフィルタ装置が設けられる。高周波回路に設けられるフィルタ装置の一例として、特許第6531824号公報(特許文献1)にフィルタ装置の開示がある。当該フィルタ装置は、第1直列回路を構成する第1インダクタおよび第1キャパシタと、第1直列回路に並列接続される第2インダクタとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許第6531824号公報(特許文献1)に開示のフィルタ装置では、並列共振による減衰帯域と直列共振による通過帯域とを近接させた場合、減衰特性と通過特性とを共に高い特性に維持することが困難であった。
【0005】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は並列共振による減衰帯域と直列共振による通過帯域とを近接させた場合であっても良好な特性が得られるフィルタ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従うフィルタ装置は、第1周波数帯の通過帯域と、第1周波数帯よりも低い第2周波数帯の減衰帯域とを有するフィルタ装置である。フィルタ装置は、第1端子と、第2端子と、第1端子と接続される第1インダクタと、第1インダクタと第2端子との間に並列に設けられる第1経路および第2経路のうち、第1経路に配置される第1キャパシタおよび第2インダクタを含む直列共振器とを備える。第1インダクタと第2インダクタとは、互いに磁気結合する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によるフィルタ装置においては、第1インダクタと第2端子との間に並列に設けられる第1経路および第2経路のうち、第1経路に直列共振器が配置され、第1インダクタと第2インダクタとが、互いに磁気結合するように構成される。このような構成とすることによって、本開示によるフィルタ装置は、並列共振による減衰帯域と直列共振による通過帯域とを近接させた場合であっても高い減衰特性および通過特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1におけるフィルタ装置の回路図である。
【
図2】実施の形態1におけるアンテナ装置の構成を示す図である。
【
図3】実施の形態1におけるフィルタ装置のリアクタンス特性について説明する図である。
【
図4】実施の形態1におけるフィルタ装置の等価回路図である。
【
図5】実施の形態1におけるフィルタ装置の挿入損失の一例を示す図である。
【
図6】実施の形態1におけるフィルタ装置のリアクタンス特性の一例を示す図である。
【
図7】実施の形態1におけるフィルタ装置において結合係数を変更させた場合のリアクタンス特性の一例を示す図である。
【
図8】実施の形態1におけるフィルタ装置の斜視図である。
【
図9】実施の形態1におけるフィルタ装置の構成を示す分解平面図である。
【
図10】実施の形態1におけるフィルタ装置においてインダクタL1の巻き方向とインダクタL2の巻き方向とが逆の構成を示す分解平面図である。
【
図11】実施の形態2におけるアンテナモジュールの構成を示す図である。
【
図12】実施の形態2におけるアンテナ装置間のアイソレーション特性を示す図である。
【
図13】実施の形態2における各々のアンテナ装置の放射効率を示す図である。
【
図14】実施の形態2におけるアンテナモジュールの外観図である。
【
図15】実施の形態3におけるフィルタ装置の回路図である。
【
図16】実施の形態3におけるフィルタ装置の概略図である。
【
図17】実施の形態3におけるフィルタ装置の挿入損失およびリアクタンス特性の一例を示す図である。
【
図18】実施の形態4におけるフィルタ装置の回路図である。
【
図19】実施の形態4におけるフィルタ装置の概略図である。
【
図20】実施の形態5におけるフィルタ装置の回路図である。
【
図21】実施の形態5におけるフィルタ装置の挿入損失の一例を示す図である。
【
図22】実施の形態5におけるフィルタ装置のリアクタンス特性の一例を示す図である。
【
図23】実施の形態6におけるフィルタ装置の回路図である。
【
図24】実施の形態6におけるフィルタ装置の挿入損失の一例を示す図である。
【
図25】実施の形態6におけるフィルタ装置のリアクタンス特性の一例を示す図である。
【
図26】変形例におけるフィルタ装置の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0010】
[実施の形態1]
<フィルタ装置およびアンテナ装置の基本構成>
図1は、実施の形態1におけるフィルタ装置100の回路図である。
図2は、実施の形態1におけるアンテナ装置150の構成を示す図である。フィルタ装置100は、アンテナ装置150に用いて、特定の周波数帯の高周波信号の通過を妨げ、減衰させるトラップフィルタである。フィルタ装置100は、バンドエリミネートフィルタとも称される。
【0011】
アンテナ装置150は、給電回路RF1と、フィルタ装置100と、アンテナ155とを含む。アンテナ装置150は、たとえば、携帯電話、スマートフォンあるいはタブレットなどの携帯端末や、通信機能を備えたパーソナルコンピュータなどの通信装置に搭載される。
【0012】
給電回路RF1は、f1帯の周波数帯域の高周波信号をアンテナ155に供給する。アンテナ155は、たとえば、モノポールアンテナで、給電回路RF1から供給されたf1帯の高周波信号を電波として空気中に放射可能である。f1帯の周波数帯域は、たとえば、n41(2.5-2.7GHz)である。
【0013】
アンテナ装置150を、Wi-Fi(登録商標)の2.4GHz帯(2.4-2.5GHz)であるアンテナの近くで使用する場合、フィルタ装置100が有用である。フィルタ装置100は、2.4GHz帯(f2帯)の周波数帯域の高周波信号を減衰させ、f1帯の周波数帯域の高周波信号を通過させるように構成されている。
図3は、実施の形態1におけるフィルタ装置100のリアクタンス特性について説明する図である。フィルタ装置100は、
図3のように、並列共振による減衰帯域がf2帯の周波数帯域で、直列共振による通過帯域がf1帯の周波数帯域である。
【0014】
f1帯とf2帯とは、
図3で示すように、近接する周波数帯域である。周波数帯域が近接するか否かは、たとえば、帯域幅とその帯域幅に対する中心周波数を用いて定めることができる。たとえば、f1帯の周波数端とf2帯の周波数端との帯域幅とその帯域幅に対する中心周波数の比が所定の範囲内にある場合、f1帯とf2帯とが近接していると判断する。なお、その他の手法によって、周波数帯域が近接しているか否かを定めてもよい。
【0015】
図2に示すフィルタ装置100は、端子P1および端子P2を有している。端子P1は、フィルタ装置100を給電回路RF1側の伝送線路と接続するための端子である。端子P2は、フィルタ装置100をアンテナ155側の伝送線路と接続するための端子である。
【0016】
給電回路RF1がフィルタ装置100を介して高周波信号をアンテナ155に供給する場合、端子P1は入力端子となり、端子P2は出力端子となる。アンテナ155が受信した高周波信号がフィルタ装置100を介して給電回路RF1側の回路に伝達される場合、端子P1は出力端子となり、端子P2は入力端子となる。
【0017】
フィルタ装置100は、
図1に示すようにインダクタL1、インダクタL2、キャパシタC1を含む。インダクタL1と端子P2との間には、第1経路TL1と第2経路TL2とが設けてある。第1経路TL1には、インダクタL2とキャパシタC1とが直列接続されるLC直列共振器RSが設けてある。第2経路TL2は、ショート経路である。
【0018】
インダクタL1とインダクタL2とは、互いに磁気結合をしている。これにより、インダクタL1とインダクタL2との間に、相互インダクタンスMが発生する。発生した相互インダクタンスMにより、第1経路TL1と第2経路TL2とに各々インダクタンスが生じ並列共振器を構成することになる。
図4は、実施の形態1におけるフィルタ装置100の等価回路図である。
【0019】
図4(a)に示す回路図では、インダクタL1およびインダクタL2を構成する各々のコイルの巻き方向が同じである場合のフィルタ装置100の回路が図示してある。
図4(b)に示す等価回路図では、
図4(a)に示すフィルタ装置100の回路の等価回路を示しており、第1経路TL1に相互インダクタンス+M、第2経路TL2に相互インダクタンス-Mをそれぞれ示している。
【0020】
ここで、LC直列共振器RSの直列共振周波数は、f0=1/(2π(L2×C1)1/2)と表される。LC直列共振器RSは、この直列共振周波数f0において、インダクタL2とキャパシタC1との合成リアクタンスXが0(ゼロ)となる(X=0)。そのため、LC直列共振器RSの合成リアクタンスXが0(ゼロ)となる直列共振周波数f0において、フィルタ装置100は、相互インダクタンス-M,+Mによる並列共振器として機能することになる。この並列共振器の共振周波数がLC直列共振器RSの直列共振周波数f0と一致し、フィルタ装置100の減衰帯域(f2帯)の並列共振周波数となっている。
【0021】
従来のフィルタ装置では、インダクタ、キャパシタなどのすべての構成が減衰帯域の並列共振周波数に影響を与えていた。そのため、従来のフィルタ装置では、減衰帯域の並列共振周波数を設計するには、すべての構成を考慮する必要があった。しかし、フィルタ装置100では、LC直列共振器RSを構成するインダクタL2とキャパシタC1とを考慮するだけで減衰帯域(f2帯)の並列共振周波数を設計することが可能となる。よって、フィルタ装置100は、構造設計において非常に優位な構成である。
【0022】
具体的に、フィルタ装置100は、インダクタL1を1.0nH、インダクタL2を2.0nH、キャパシタC1を2.2pF、結合係数Kを0.5としてシミュレーションを行った。なお、インダクタL2を2.0nH、キャパシタC1を2.2pFとしてLC直列共振器RSの直列共振周波数f0を計算すると2.4GHzとなり、フィルタ装置100の減衰帯域(f2帯)の並列共振周波数(中心周波数)の2.4GHzと一致している。フィルタ装置100の通過帯域(f1帯)の直列共振周波数(中心周波数)は、2.77GHzである。フィルタ装置100では、インダクタL1のインダクタンスが、インダクタL2のインダクタンスより小さくすることが好ましい。これにより、フィルタ装置100全体のロスを低減することができる。
【0023】
図5は、実施の形態1におけるフィルタ装置100の挿入損失の一例を示す図である。
図5において、横軸は周波数、縦軸は挿入損失である。
図6は、実施の形態1におけるフィルタ装置100のリアクタンス特性の一例を示す図である。
図6において、横軸は周波数、縦軸はリアクタンスである。ここで、挿入損失とはフィルタ装置100に入力される電力に対し、出力される電力の比である。
【0024】
図5では、フィルタ装置100の挿入損失を示す線Ln1以外に、比較対象のフィルタ装置の挿入損失を示す線Ln2が示されている。なお、比較対象のフィルタ装置は、図示していないが、インダクタLaとキャパシタCaとで構成されるLC直列共振器に対してインダクタLbが並列接続された構成である。比較対象のフィルタ装置は、インダクタLbを0.069nH、インダクタLaを42.19nH、キャパシタCaを0.1pF、インダクタLbとインダクタLaとの結合係数K2を0.5としてシミュレーションを行った。比較対象のフィルタ装置においても、減衰帯域(f2帯)の並列共振周波数(中心周波数)は2.4GHz、通過帯域(f1帯)の直列共振周波数(中心周波数)は、2.77GHzとなる。
【0025】
図5に示すマークm1は、2.4GHzの並列共振周波数(中心周波数)の位置を示しており、当該マークm1での線Ln1の挿入損失が16.6dBであるのに対して線Ln2の挿入損失が2.75dBとなっている。そのため、フィルタ装置100は、減衰帯域(f2帯)において十分な減衰特性を得られているが、比較対象のフィルタ装置では十分な減衰特性が得られていない。
【0026】
また、
図5に示すマークm2は、2.77GHzの直列共振周波数(中心周波数)の位置を示しており、当該マークm2での線Ln1の挿入損失が0.068dBであるのに対して線Ln2の挿入損失が0.404dBである。そのため、フィルタ装置100は、通過帯域(f1帯)において、比較対象のフィルタ装置に比べて高い通過特性が得られている。
【0027】
図6では、フィルタ装置100のリアクタンス特性を示す線Ln3以外に、比較対象のフィルタ装置のリアクタンス特性を示す線Ln4が示されている。
図6に示すマークm3は、2.4GHzの並列共振周波数(中心周波数)の位置を示しており、当該マークm3での線Ln3のリアクタンスが線Ln4のリアクタンスに比べて大きく変化している。そのため、フィルタ装置100は、減衰帯域(f2帯)において十分な減衰特性を得られているが、比較対象のフィルタ装置では十分な減衰特性が得られていない。
【0028】
また、
図6に示すマークm4は、2.77GHzの直列共振周波数(中心周波数)の位置を示しており、当該マークm4での線Ln3のリアクタンスが略0(ゼロ)である。そのため、フィルタ装置100は、通過帯域(f1帯)において十分な通過特性を得られている。
【0029】
フィルタ装置100は、並列共振による減衰帯域(f2帯)と直列共振による通過帯域(f1帯)とを近接させた場合、
図5および
図6に示すように十分な減衰特性および通過特性が得られている。一方、比較対象のフィルタ装置は、並列共振による減衰帯域(f2帯)と直列共振による通過帯域(f1帯)とを近接させた場合、
図5および
図6に示すように十分な減衰特性および通過特性が得られていない。さらに、比較対象のフィルタ装置では、インダクタLaが42.19nHと大きいのに対して、インダクタLbが0.069nHと極端に小さくしなければ、並列共振による減衰帯域(f2帯)と直列共振による通過帯域(f1帯)とを近接さることができない。そのため、インダクタLbとインダクタLaとの結合係数K2を0.5とするような構成を現実に実現することは困難である。
【0030】
前述したように、フィルタ装置100では、LC直列共振器RSを構成するインダクタL2とキャパシタC1とで減衰帯域(f2帯)の並列共振周波数が決まる。そのため、フィルタ装置100は、インダクタL1とインダクタL2との結合係数を変更することで、通過帯域(f1帯)の直列共振周波数を変更することができ、並列共振による減衰帯域(f2帯)に対して直列共振による通過帯域(f1帯)より近接させることができる。つまり、フィルタ装置100は、減衰帯域(f2帯)の並列共振周波数の近傍において減衰特性が急峻に変化する狭帯域なフィルタ装置を実現することができる。
【0031】
図7は、実施の形態1におけるフィルタ装置100において結合係数Kを変更させた場合のリアクタンス特性の一例を示す図である。
図7において、横軸は周波数、縦軸はリアクタンスである。
【0032】
図7では、結合係数Kを0.5とするフィルタ装置100のリアクタンス特性を示す線Ln3以外に、結合係数Kを0.3とするフィルタ装置100のリアクタンス特性を示す線Ln5が示されている。なお、フィルタ装置100は、結合係数K以外は、共にインダクタL1を1.0nH、インダクタL2を2.0nH、キャパシタC1を2.2pFとしてシミュレーションを行った。
【0033】
図7に示すマークm3では、線Ln3のリアクタンスより線Ln5のリアクタンスが急峻に変化している。結合係数K=0.5の場合、線Ln3のリアクタンスがマークm4で略0(ゼロ)Ωとなり通過帯域(f1帯)の直列共振周波数が2.77GHzとなっている。一方、結合係数K=0.3の場合、線Ln4のリアクタンスがマークm5で略0(ゼロ)Ωとなり通過帯域(f1帯)の直列共振周波数が2.51GHzとなっており、より2.4GHzの並列共振周波数(中心周波数)に近づいている。つまり、フィルタ装置100は、結合係数Kを小さくすることで、直列共振周波数(中心周波数)をより並列共振周波数(中心周波数)に近づけることができる。なお、結合係数Kが小さくなると相互インダクタンスM自体も小さくなるので、フィルタ装置100において結合係数Kは0.1以上が好ましい。
【0034】
<フィルタ装置を一体化した素子の一例>
続いて、実施の形態1におけるフィルタ装置100を一体化した素子として形成する例について、図を用いて説明する。
図8は、実施の形態1におけるフィルタ装置の斜視図である。
図9は、実施の形態1におけるフィルタ装置100の構成を示す分解平面図である。
【0035】
フィルタ装置100は、例えばチップ部品として一体に形成され、誘電体層が積層された絶縁体1(筐体)内に
図1に示したインダクタL1およびLC直列共振器RSを設けてあり、絶縁体1の外側に外部電極2a~2dが形成している。端子P1は外部電極2a(第1外部電極)に、端子P2は外部電極2b(第2外部電極)にそれぞれ接続する。なお、フィルタ装置100は、短辺方向をX方向、長辺方向をY方向、高さ方向をZ方向とし、誘電体層の積層方向がZ方向である。また、外部電極2c,2dは、内部回路に接続のないGND電極である。さらに、
図8に示すフィルタ装置100では、絶縁体1の外側に外部電極2a~2dを形成した4端子の構成を示したが、絶縁体1の外側に外部電極2a,2bのみを形成した2端子の構成でもよい。
【0036】
フィルタ装置100は、積層プロセスで形成され、
図9に示す複数の誘電体層Ly1~Ly9の基板(以下、単に誘電体層Ly1~Ly9ともいう)を重ねることで形成される。各誘電体層Ly1~Ly9は、セラミックグリーンシートであり、導電性ペースト(例えば、Niペースト)をスクリーン印刷法により印刷して配線パターンが形成してある。
【0037】
誘電体層Ly1には、インダクタL1の一部を構成する配線パターンr1が形成され、配線パターンr1の一端が端子P1に、他端がビア導体h1aにそれぞれ接続されている。
【0038】
誘電体層Ly2には、インダクタL1の一部を構成する配線パターンr2aが形成され、配線パターンr2aの一端がビア導体h1aに、他端が配線パターンr2bおよび第2経路TL2の配線パターンr2cにそれぞれ接続されている。配線パターンr2bは、インダクタL2の一部を構成し、配線パターンr2aと接続する反対側の端にビア導体h2aが接続されている。第2経路TL2の配線パターンr2cは、配線パターンr2aと接続する反対側の端にビア導体h2bが接続されている。
【0039】
誘電体層Ly3には、インダクタL2の一部を構成する配線パターンr3が形成され、配線パターンr3の一端がビア導体h2aに、他端がビア導体h3aにそれぞれ接続されている。誘電体層Ly3には、ビア導体h2bと接続するビア導体h3bが設けられている。
【0040】
誘電体層Ly4には、インダクタL2の一部を構成する配線パターンr4が形成され、配線パターンr4の一端がビア導体h3aに、他端がビア導体h4aにそれぞれ接続されている。誘電体層Ly4には、ビア導体h3bと接続するビア導体h4bが設けられている。
【0041】
誘電体層Ly5には、インダクタL2の一部を構成する配線パターンr5が形成され、配線パターンr5の一端がビア導体h4aに、他端がビア導体h5aにそれぞれ接続されている。誘電体層Ly5には、ビア導体h4bと接続するビア導体h5bが設けられている。
【0042】
誘電体層Ly6には、積層方向から視てインダクタL1,L2と重ならない位置に、キャパシタC1の一部を構成する電極パターンp1が形成されている。電極パターンp1は、端子P2に接続されるとともに、ビア導体h6bと接続されている。ビア導体h6bは、ビア導体h5bと接続され、電極パターンp1と第2経路TL2の配線パターンr2cとを電気的に接続している。誘電体層Ly6には、ビア導体h5aと接続するビア導体h6aが設けられている。
【0043】
誘電体層Ly7には、積層方向から視てインダクタL1,L2と重ならない位置に、キャパシタC1の一部を構成する電極パターンp2が形成されている。電極パターンp2は、ビア導体h7aと接続されインダクタL2と電気的に接続されているが、電極パターンp1とは電気的に直接接続されていない。誘電体層Ly7には、ビア導体h6bと接続するビア導体h7bが設けられている。
【0044】
誘電体層Ly8には、積層方向から視てインダクタL1,L2と重ならない位置に、キャパシタC1の一部を構成する電極パターンp3が形成されている。電極パターンp3は、端子P2に接続されるとともに、ビア導体h7bと接続されている。ビア導体h7bを介して電極パターンp1と電極パターンp3とが電気的に接続している。誘電体層Ly8には、ビア導体h7aと接続するビア導体h8が設けられている。
【0045】
誘電体層Ly9には、積層方向から視てインダクタL1,L2と重ならない位置に、キャパシタC1の一部を構成する電極パターンp4が形成されている。電極パターンp4は、ビア導体h8と接続され電極パターンp2と電気的に接続されているが、電極パターンp1,p3とは電気的に直接接続されていない。
【0046】
誘電体層Ly1に形成した配線パターンr1と誘電体層Ly2に形成した配線パターンr2aとが、積層方向から視て巻線形状となりインダクタL1を構成している。誘電体層Ly2に形成した配線パターンr2bと誘電体層Ly3~Ly5に形成した配線パターンr3~r5とが、積層方向から視て巻線形状となりインダクタL2を構成している。インダクタL1とインダクタL2とは、互いに対向するように配置され、積層方向から視てインダクタL1の開口がインダクタL2の開口と少なくとも一部が重なっている。そのため、積層方向から視てインダクタL1の開口とインダクタL2の開口とが重なる部分を大きくすれば、インダクタL1とインダクタL2との結合係数が大きくなり、磁気結合による相互インダクタンスMが増大する。
【0047】
フィルタ装置100は、
図9に示すように積層方向から視てインダクタL1、インダクタL2、キャパシタC1の順で積層されているが、インダクタL2、インダクタL1、キャパシタC1の順など他の順で積層されてもよい。なお、
図9において、インダクタL1とインダクタL2との積層順を入れ替えてキャパシタC1をインダクタL1の側に配置することで、第2経路TL2の一部を構成するビア導体h2b~ビア導体h5bの数を減らすことができ、第2経路TL2の長さを短くできる。
【0048】
図1に示すショート経路である第2経路TL2は、インダクタL1とインダクタL2との間からキャパシタC1につなぐ経路で、この経路に発生する寄生インダクタンスである等価直列インダクタンスESL(Equivalent Series Inductance)は、相互インダクタンスMより小さくすることが好ましい。つまり、第2経路TL2のインダクタンスを、インダクタL1とインダクタL2との相互インダクタンスMより小さくすることで、第2経路TL2をショート経路とみなすことができる。
【0049】
図9に示す積層構造では、第2経路TL2が、積層間をつなぐビア導体h2b~h5bと配線パターンr2cとで構成されている。ショート経路である第2経路TL2は、多少の抵抗成分(R成分)を含んでもよいが、抵抗成分(R成分)をより小さくすることで、フィルタ装置100のQ値を改善できる。
【0050】
フィルタ装置100を積層プロセスで形成するならば、インダクタL1,L2とキャパシタC1とで誘電体材料を変えることができ、そのためには、
図9で示したようにインダクタL1,L2を形成する層(誘電体層Ly1~Ly5)とキャパシタC1を形成する層(誘電体層Ly6~Ly9)とを分ける必要がある。一方、フィルタ装置100をフォトリソグラフィで形成するのであれば、インダクタL1,L2を形成する層とキャパシタC1を形成する層とを分けずに、インダクタL1またはインダクタL2に対してキャパシタC1を横並びで形成することができる。
【0051】
図9に示すフィルタ装置100では、インダクタL1の巻き方向とインダクタL2の巻き方向とが同じとなるように配線パターンr1,r2a,r2b,r3~r5を形成した。そのため、フィルタ装置100は、インダクタL1とインダクタL2との結合係数を大きくすることが容易な構造となっている。
【0052】
しかし、フィルタ装置100は、インダクタL1の巻き方向とインダクタL2の巻き方向とが同じ場合に限定されず、インダクタL1の巻き方向とインダクタL2の巻き方向とが逆でもよい。
図10は、実施の形態1におけるフィルタ装置100においてインダクタL1の巻き方向とインダクタL2の巻き方向とが逆の構成を示す分解平面図である。なお、
図10に示すフィルタ装置100は、積層方向から視てインダクタL2、インダクタL1、キャパシタC1の順で積層されている。
【0053】
誘電体層Ly1には、インダクタL2の一部を構成する配線パターンr1が形成され、配線パターンr1の一端がビア導体h1に、他端が誘電体層Ly2のビア導体h2aにそれぞれ接続されている。
【0054】
誘電体層Ly2には、インダクタL2の一部を構成する配線パターンr2が形成され、配線パターンr2の一端がビア導体h2aに、他端が誘電体層Ly3のビア導体h3aにそれぞれ接続されている。誘電体層Ly2には、ビア導体h1と接続するビア導体h2bが設けられている。
【0055】
誘電体層Ly3には、インダクタL2の一部を構成する配線パターンr3が形成され、配線パターンr3の一端がビア導体h3aに、他端が誘電体層Ly4のビア導体h4aにそれぞれ接続されている。誘電体層Ly3には、ビア導体h2bと接続するビア導体h3bが設けられている。
【0056】
誘電体層Ly4には、インダクタL1の一部を構成する配線パターンr4aが形成され、配線パターンr4aの一端が誘電体層Ly4のビア導体h5aに、他端がビア導体h4aおよび第2経路TL2の配線パターンr4bにそれぞれ接続されている。第2経路TL2の配線パターンr4bは、配線パターンr4aと接続する反対側の端にビア導体h4cが接続されている。誘電体層Ly4には、ビア導体h3bと接続するビア導体h4bが設けられている。
【0057】
誘電体層Ly5には、インダクタL1の一部を構成する配線パターンr5が形成され、配線パターンr5の一端がビア導体h5aに、他端が端子P1にそれぞれ接続されている。誘電体層Ly5には、ビア導体h4bと接続するビア導体h5bが設けられている。
【0058】
誘電体層Ly6には、積層方向から視てインダクタL1,L2と重ならない位置に、キャパシタC1の一部を構成する電極パターンp1が形成されている。電極パターンp1は、端子P2に接続されるとともに、ビア導体h6aと接続されている。ビア導体h6aは、ビア導体h4cと接続され、電極パターンp1と第2経路TL2の配線パターンr4bとを電気的に接続している。誘電体層Ly6には、ビア導体h5bと接続するビア導体h6bが設けられている。
【0059】
誘電体層Ly7には、積層方向から視てインダクタL1,L2と重ならない位置に、キャパシタC1の一部を構成する電極パターンp2が形成されている。電極パターンp2は、ビア導体h7bと接続されインダクタL2と電気的に接続されているが、電極パターンp1とは電気的に直接接続されていない。誘電体層Ly7には、ビア導体h6aと接続するビア導体h7aが設けられている。
【0060】
誘電体層Ly8には、積層方向から視てインダクタL1,L2と重ならない位置に、キャパシタC1の一部を構成する電極パターンp3が形成されている。電極パターンp3は、端子P2に接続されるとともに、ビア導体h7aと接続されている。ビア導体h7aを介して電極パターンp1と電極パターンp3とが電気的に接続している。誘電体層Ly8には、ビア導体h7bと接続するビア導体h8が設けられている。
【0061】
誘電体層Ly9には、積層方向から視てインダクタL1,L2と重ならない位置に、キャパシタC1の一部を構成する電極パターンp4が形成されている。電極パターンp4は、ビア導体h8と接続され電極パターンp2とが電気的に接続しているが、電極パターンp1,p3とは電気的に接続されていない。
【0062】
誘電体層Ly5に形成した配線パターンr5と誘電体層Ly4に形成した配線パターンr4aとが、積層方向から視て巻線形状となりインダクタL1を構成している。誘電体層Ly1~Ly3に形成した配線パターンr1~r3が、積層方向から視て巻線形状となりインダクタL2を構成している。インダクタL1とインダクタL2とは、互いに対向するように配置され、積層方向から視てインダクタL1の開口がインダクタL2の開口と少なくとも一部が重なっている。
【0063】
図10に示すインダクタL1は、配線パターンr5と配線パターンr4aとが誘電体層Ly5から誘電体層Ly1に向けて反時計回りの巻き方向であるのに対して、インダクタL2は、配線パターンr1~r3が時計回りの巻き方向で逆である。そのため、
図4(b)に示す等価回路図とは異なり、第1経路TL1に相互インダクタンス-M、第2経路TL2に相互インダクタンス+Mがそれぞれ生じる。
【0064】
また、インダクタL1の巻き方向とインダクタL2の巻き方向とが逆の場合、
図9の誘電体層Ly2のようにインダクタL1の一部を構成する配線パターンr2aとインダクタL2の一部を構成する配線パターンr2aと同じ層に形成されることがない。そのため、インダクタL1およびインダクタL2の自由度が比較的高く、それぞれのインダクタンスを調整しやすくなる。
【0065】
以上のように、実施の形態1に係るフィルタ装置100は、f1帯(第1周波数帯)の通過帯域と、f1帯よりも低いf2帯(第2周波数帯)の減衰帯域とを有するフィルタ装置である。フィルタ装置100は、端子P1(第1端子)と、端子P2(第2端子)と、端子P1と接続されるインダクタL1(第1インダクタ)と、インダクタL1と端子P2との間に並列に設けられる第1経路TL1および第2経路TL2のうち、第1経路TL1に配置されるキャパシタC1(第1キャパシタ)およびインダクタL2(第2インダクタ)を含むLC直列共振器RSとを備える。インダクタL1とインダクタL2とは、互いに磁気結合する。
【0066】
これにより、実施の形態1に係るフィルタ装置100は、並列共振による減衰帯域と直列共振による通過帯域とを近接させた場合であっても高い減衰特性および通過特性を共に得ることができる。
【0067】
第2経路TL2のインダクタンスは、インダクタL1とインダクタL2との相互インダクタンスMより小さいことが好ましい。これにより、第2経路TL2をショート経路と見なすことができ、並列共振周波数の設計が容易になる。
【0068】
インダクタL1のインダクタンスは、インダクタL2のインダクタンスより小さいことが好ましい。これにより、フィルタ装置100全体のロスを低減することができる。
【0069】
端子P1および端子P2は、筐体に設けた第1外部電極および第2外部電極にそれぞれ電気的に接続され、インダクタL1およびLC直列共振器RSは、筐体内に設けられていることが好ましい。これにより、フィルタ装置100を、例えばチップ部品として一体に形成できる。また、フィルタ装置100を小型化することで、フィルタ装置100を組み込んだアンテナ装置の部品点数を減すことができ、半田の使用量も減らせる。
【0070】
筐体は、絶縁体であり、絶縁体内において複数の導体パターンによりインダクタL1およびLC直列共振器RSが構成される。インダクタL1は、端子P1に電気的に接続され、1層以上の配線パターンr1,r2a(第1導体パターン)を含む。インダクタL2は、端子P2に電気的に接続され、1層以上の配線パターンr2b,r3~r5(第2導体パターン)を含む。キャパシタC1は、配線パターンr2a,r2bから引き出された配線パターンr2cと電気的に接続されることが好ましい。これにより、フィルタ装置100を、積層構造体のチップ部品として一体に形成できる。また、配線パターンr2cをインダクタL1,L2の配線パターンの途中から引き出すことで第2経路TL2を形成する層を減らすことができるので、フィルタ装置100を、低背、低コスト(かつ環境に配慮した)部品として形成することができる。
【0071】
絶縁体内において、配線パターンr1,r2a(第1導体パターン)を形成した基板に対して配線パターンr2b,r3~r5(第2導体パターン)を形成した基板を積層して、インダクタL1とインダクタL2とが互いに対向するように配置され、絶縁体の積層方向から視て、インダクタL1の開口がインダクタL2の開口と少なくとも一部が重なることが好ましい。これにより、インダクタL1とインダクタL2との結合係数が大きくなり、磁気結合による相互インダクタンスMを増大させることができる。
【0072】
キャパシタC1は、インダクタL1およびインダクタL2が配置された層と異なる層に配置されることが好ましい。これにより、キャパシタC1と、インダクタL1およびインダクタL2とで誘電体材料を異ならせることができる。
【0073】
キャパシタC1は、絶縁体の積層方向から視て、インダクタL1の側に配置されることが好ましい。これにより、キャパシタC1とインダクタL1とを接続する第2経路TL2の長さを短くできる。
【0074】
実施の形態1に係るアンテナ装置150は、f1帯の電波を放射可能である。アンテナ装置150は、アンテナ155と、アンテナ155に高周波信号を供給する給電回路RF1と、アンテナ155と給電回路RF1との間に設けられ前述のフィルタ装置100と、を備える。
【0075】
これにより、実施の形態1に係るアンテナ装置150は、f1帯とf2帯とを近接させた場合であってもf1帯通過させ、f2帯の電波を減衰させることができる。
【0076】
[実施の形態2]
実施の形態1では、アンテナ155を有するアンテナ装置150について説明した。実施の形態2においては、実施の形態1におけるアンテナ装置150に加えて、アンテナ装置160を備えるアンテナモジュール200について説明する。なお、実施の形態2のアンテナモジュール200において、実施の形態1のアンテナ装置150と重複する構成については、説明を繰り返さない。
【0077】
<アンテナモジュールの基本構成>
図11は、実施の形態2におけるアンテナモジュール200の構成を示す図である。アンテナモジュール200は、アンテナ装置150およびアンテナ装置160を含む。アンテナ装置160は、給電回路RF2とアンテナ165とを含む。アンテナモジュール200は、たとえば、携帯電話、スマートフォンあるいはタブレットなどの携帯端末や、通信機能を備えたパーソナルコンピュータなどの通信装置に搭載される。
【0078】
給電回路RF1は、f1帯の周波数帯域の高周波信号をアンテナ155に供給する。アンテナ155は、給電回路RF1から供給されたf1帯の高周波信号を電波として空気中に放射可能である。f1帯の周波数帯域は、たとえば、n41(2.5-2.7GHz)である。
【0079】
実施の形態2におけるフィルタ装置100は、f2帯の周波数帯域の高周波信号を減衰させるように構成されている。f2帯の周波数帯域は、たとえば、Wi-Fi(登録商標)の2.4GHz帯(2.4-2.5GHz)などの帯域である。
【0080】
実施の形態2におけるフィルタ装置100において、f1帯が通過帯域であってf2帯が減衰帯域である。f1帯の周波数帯域は、f2帯の周波数帯域よりも低い。
【0081】
給電回路RF2は、f2帯の周波数帯域の高周波信号をアンテナ165に供給する。アンテナ165は、給電回路RF2から供給されたf2帯の高周波信号を電波として、空気中に放射可能である。
【0082】
アンテナ装置150において、同一のアンテナモジュール200内に設けられているアンテナ装置160から放射されるf2帯の高周波信号は、ノイズとなり得る。そのため、フィルタ装置100は、アンテナ装置150においてノイズとなり得るf2帯の高周波信号を、並列共振による挿入損失を増大させることで取り除くために設けられている。
【0083】
アンテナ155およびアンテナ165は、同一の基板170に搭載されている。なお、
図11では、アンテナ155およびアンテナ165は、同一の基板170に設けられているが、同一のアンテナモジュール200内に設けられれば、異なる基板に設けられてもよい。また、実施の形態2において、給電回路RF1は、f1帯の高周波信号のみを供給する場合に限られず、他の帯域の高周波信号を供給してもよい。
【0084】
図12は、実施の形態2におけるアンテナ装置150,160間のアイソレーション特性を示す図である。
図12において、横軸は周波数を示し、縦軸はアイソレーションである。
【0085】
線Ln6は、実施の形態2におけるアンテナモジュール200のアンテナ装置150とアンテナ装置160との間のアイソレーションを示す。線Ln7は、比較例としてフィルタ装置100を設けていないアンテナ装置150とアンテナ装置160との間のアイソレーションを示す。すなわち、アンテナ装置160の給電回路RF2から入力された電力に対する、アンテナを介してアンテナ装置150の給電回路RF1が受信した電力の比がアイソレーションである。
【0086】
図12に示されているように、f2帯の2.4GHzの周波数において、アンテナモジュール200のアイソレーション(Ln6)は、比較例のアンテナモジュールのアイソレーション(Ln7)よりも10dB以上改善している。すなわち、実施の形態2では、フィルタ装置100がf2帯の周波数を減衰させることによって、アンテナ装置150とアンテナ装置160との間のアイソレーションが向上している。
【0087】
図13は、実施の形態2における各々のアンテナ装置150,160の放射効率を示す図である。
図13において、横軸は周波数を示し、縦軸は放射効率である。線Ln8は、実施の形態2におけるアンテナモジュール200のアンテナ装置150の放射効率を示す。線Ln9は、実施の形態2におけるアンテナモジュール200のアンテナ装置160の放射効率を示す。線Ln8aは、比較例としてフィルタ装置100を設けていないアンテナ装置150の放射効率を示す。線Ln9aは、比較例としてアンテナ装置150にフィルタ装置100を設けていない場合のアンテナ装置160の放射効率を示す。ここで、放射効率とは、給電回路から供給される電力に対し、アンテナから放射される電力の比を意味する。すなわち、
図13ではグラフ上部ほど、同じ供給電力に対し、アンテナから放射される電力が大きくなる。
【0088】
図13に示されているように、f2帯の2.4GHzの周波数において、アンテナモジュール200のアンテナ装置160の放射効率(Ln9)は、比較例のアンテナ装置160の放射効率(Ln9a)に比べて約6dB改善している。すなわち、実施の形態2にでは、アンテナ装置150においてフィルタ装置100が備えられることにより、アンテナ装置160の放射効率が向上している。
【0089】
<アンテナの構造例>
図14は、実施の形態2におけるアンテナモジュール200の外観図である。アンテナモジュール200は、
図14に示すようにアンテナ装置150と、アンテナ装置160とを備える。アンテナ装置150は、モノポールアンテナであるアンテナ155と、フィルタ装置100と、給電回路RF1とを含む。アンテナ装置160は、モノポールアンテナであるアンテナ165と、給電回路RF2とを含む。アンテナ155,165は、モノポールアンテナに限定されず、逆F型アンテナ、ループアンテナ、アレイアンテナなどであってもよい。アンテナ155はフィルタ装置100を介して給電回路RF1と接続する。アンテナ165は給電回路RF2と接続する。
【0090】
以上のように、実施の形態2に係るアンテナモジュール200は、f1帯およびf2帯の電波を放射可能である。アンテナモジュール200は、f1帯の電波を放射可能であるアンテナ装置150と、f2帯の電波を放射可能であるアンテナ装置160と、を備える。アンテナ装置150は、実施の形態1に係るアンテナ装置である。
【0091】
これにより、実施の形態2に係るアンテナモジュール200は、アンテナ装置150とアンテナ装置160とのアイソレーションを改善し、アンテナ装置150におけるf1帯の電波の放射特性を向上させるとともに、アンテナ装置160におけるf2帯の電波の放射特性を向上させることができる。
【0092】
[実施の形態3]
実施の形態1では、
図1に示すように、インダクタL1と端子P2との間に、LC直列共振器RSが設けてある第1経路TL1と、ショート経路の第2経路TL2とを有するフィルタ装置100について説明した。実施の形態3においては、実施の形態1におけるフィルタ装置100のショート経路に対して並列にインダクタを設けたフィルタ装置について説明する。なお、実施の形態3のフィルタ装置において、実施の形態1のフィルタ装置100と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を繰り返さない。また、実施の形態1のアンテナ装置150、実施の形態2のアンテナモジュール200において、フィルタ装置100の代わりに実施の形態3のフィルタ装置を用いてもよい。
【0093】
図15は、実施の形態3におけるフィルタ装置100Aの回路図である。フィルタ装置100Aは、
図15に示すようにインダクタL1、インダクタL2、インダクタL3、キャパシタC1を含む。インダクタL1と端子P2との間には、第1経路TL1と第2経路TL2とが設けてある。第1経路TL1には、インダクタL2とキャパシタC1とが直列接続されるLC直列共振器RSが設けてある。第2経路TL2は、ショート経路である。さらに、ショート経路である第2経路TL2に対して並列にインダクタL3が設けてある。
【0094】
インダクタL1とインダクタL2とは、互いに磁気結合をしているが、インダクタL3は、インダクタL1およびインダクタL2と磁気結合していない。
図16は、実施の形態3におけるフィルタ装置100Aの概略図である。フィルタ装置100Aは、例えば
図16に示すようにチップ部品として一体に形成され、誘電体層が積層された絶縁体1(筐体)内に
図15に示したインダクタL1、インダクタL2、インダクタL3、キャパシタC1を含む。絶縁体1の外側に外部電極2a,2bが形成してあり、端子P1は外部電極2a(第1外部電極)に、端子P2は外部電極2b(第2外部電極)にそれぞれ接続する。
【0095】
また、
図16に示すように、インダクタL1とインダクタL2との接続部分から外部電極2bに至る配線がショート経路である第2経路TL2に対応し、第2経路TL2に対して平行に設けた配線が持つ2nH程度の寄生インダクタンスがインダクタL3に対応する。すなわち、インダクタL3は、インダクタL1やインダクタL2とコイル開口方向からみて重ならない位置に存在する。外部電極2aは、フィルタ装置100Aを実装するための回路基板のランド電極20aと電気的に接続され、外部電極2bは、フィルタ装置100Aを実装するための回路基板のランド電極20bと電気的に接続されている。
【0096】
図17は、実施の形態3におけるフィルタ装置100Aの挿入損失およびリアクタンス特性の一例を示す図である。フィルタ装置100Aの各定数は、L1=2.0nH、L2=2.0nH、C1=2.2pF、k=0.6、L3=2nHであり、
図17において実線で挿入損失およびリアクタンス特性を図示している。また、比較例として
図1のフィルタ装置100の各定数が、L1=2.0nH、L2=2.0nH、C1=2.2pF、k=0.6であり、
図17において破線で挿入損失およびリアクタンス特性を図示している。
図17(a)は、実施の形態3におけるフィルタ装置100Aの挿入損失の一例を示す図である。
図17(a)において、横軸は周波数、縦軸は挿入損失である。
図17(b)は、実施の形態3におけるフィルタ装置100Aのリアクタンス特性の一例を示す図である。
図17(b)において、横軸は周波数、縦軸はリアクタンスである。
【0097】
図17(a)および
図17(b)に示すように、フィルタ装置100Aの共振周波数は、約2.4GHzであり、実施の形態1のフィルタ装置100と同じ共振周波数を有している。つまり、フィルタ装置100Aのように、ショート経路である第2経路TL2に対して並列にインダクタL3(2nH程度の寄生インダクタンスを持つ第3経路)を設けても挿入損失およびリアクタンス特性に変化がないことが分かる。一方、フィルタ装置100Aは、インダクタL3を設けることで、ESLを低減することが可能となる。このように、寄生インダクタンスを問わず追加で経路を形成することが可能であり、ESLの低減が可能となる。
【0098】
[実施の形態4]
実施の形態1では、
図1に示すように、インダクタL1と端子P2との間に、LC直列共振器RSが設けてある第1経路TL1と、ショート経路の第2経路TL2とを有するフィルタ装置100について説明した。実施の形態4においては、実施の形態1におけるフィルタ装置100のショート経路に対して並列にキャパシタを設けたフィルタ装置について説明する。なお、実施の形態4のフィルタ装置において、実施の形態1のフィルタ装置100と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を繰り返さない。また、実施の形態1のアンテナ装置150、実施の形態2のアンテナモジュール200において、フィルタ装置100の代わりに実施の形態4のフィルタ装置を用いてもよい。
【0099】
図18は、実施の形態4におけるフィルタ装置100Bの回路図である。フィルタ装置100Bは、
図18に示すようにインダクタL1、インダクタL2、キャパシタC1、キャパシタC3を含む。インダクタL1と端子P2との間には、第1経路TL1と第2経路TL2とが設けてある。第1経路TL1には、インダクタL2とキャパシタC1とが直列接続されるLC直列共振器RSが設けてある。第2経路TL2は、ショート経路である。さらに、ショート経路である第2経路TL2に対して並列にキャパシタC3が設けてある。
【0100】
インダクタL1とインダクタL2とは、互いに磁気結合をしている。
図19は、実施の形態4におけるフィルタ装置100Bの概略図である。フィルタ装置100Bは、例えば
図19に示すようにチップ部品として一体に形成され、誘電体層が積層された絶縁体1(筐体)内に
図18に示したインダクタL1、インダクタL2、キャパシタC1、キャパシタC3を含む。絶縁体1の外側に外部電極2a,2bが形成してあり、端子P1は外部電極2a(第1外部電極)に、端子P2は外部電極2b(第2外部電極)にそれぞれ接続する。
【0101】
また、
図19に示すように、インダクタL1とインダクタL2との接続部分から外部電極2bに至る配線がショート経路である第2経路TL2に対応し、第2経路TL2と外部電極2bとの間で形成される寄生容量がキャパシタC3に対応する。外部電極2aは、フィルタ装置100Bを実装するための回路基板のランド電極20aと電気的に接続され、外部電極2bは、フィルタ装置100Bを実装するための回路基板のランド電極20bと電気的に接続されている。
【0102】
フィルタ装置100Bの共振周波数は、L1、L2、C1、kの値が同じであれば、C3によらず、
図17(a)および
図17(b)に示したフィルタ装置100Aと同じ約2.4GHzであり、実施の形態1のフィルタ装置100と同じ共振周波数を有している。またリアクタンス特性もフィルタ装置100と同じ特性である。つまり、フィルタ装置100Bのように、ショート経路である第2経路TL2に対して並列にキャパシタC3(寄生容量)を設けても挿入損失およびリアクタンス特性に変化がないことが分かる。すなわち、通常であれば
図16のようにできるだけ外部電極と離した位置にインダクタを配置するが、寄生容量であるC3によって特性変動しないことから、
図19のように外部に近い位置にインダクタを配置することも可能となる。
【0103】
[実施の形態5]
実施の形態3では、
図15に示すように、ショート経路である第2経路TL2に対して並列にインダクタL3を設けたフィルタ装置100Aについて説明した。実施の形態5においては、実施の形態3におけるフィルタ装置100Aのようにショート経路に対してインダクタを並列させるのではなく、経路全体にインダクタを並列させたフィルタ装置について説明する。なお、実施の形態5のフィルタ装置において、実施の形態1のフィルタ装置100と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を繰り返さない。また、実施の形態1のアンテナ装置150、実施の形態2のアンテナモジュール200において、フィルタ装置100の代わりに実施の形態5のフィルタ装置を用いてもよい。
【0104】
図20は、実施の形態5におけるフィルタ装置100Cの回路図である。フィルタ装置100Cは、
図20に示すようにインダクタL1、インダクタL2、インダクタL3(第3インダクタ)、キャパシタC1を含む。インダクタL1と端子P2との間には、第1経路TL1と第2経路TL2とが設けてある。第1経路TL1には、インダクタL2とキャパシタC1とが直列接続されるLC直列共振器RSが設けてある。第2経路TL2は、ショート経路である。さらに、端子P1と端子P2との経路全体に対して並列にインダクタL3が設けてある。つまり、インダクタL3は、インダクタL1およびインダクタL2に対して並列に接続してある。なお、インダクタL1とインダクタL2とは、互いに磁気結合をしているが、インダクタL3は、インダクタL1およびインダクタL2と磁気結合していない。
【0105】
図21は、実施の形態5におけるフィルタ装置100Cの挿入損失の一例を示す図である。
図21において、横軸は周波数、縦軸は挿入損失である。なお、
図21(a)に示すグラフは、実施の形態1におけるフィルタ装置100の挿入損失の一例で、フィルタ装置100の各定数は、L1=2nH、L2=2nH、C1=2.2pF、k=0.6である。
図21(b)に示すグラフは、実施の形態5におけるフィルタ装置100Cの挿入損失の一例で、
図21(a)の各定数に加え、L3=2.5nHである。
図22は、実施の形態5におけるフィルタ装置100Cのリアクタンス特性の一例を示す図である。
図22において、横軸は周波数、縦軸はリアクタンスである。なお、
図22(a)に示すグラフは、実施の形態1におけるフィルタ装置100のリアクタンス特性の一例で、
図22(b)に示すグラフは、実施の形態5におけるフィルタ装置100Cのリアクタンス特性の一例である。
【0106】
図21および
図22に示すように、フィルタ装置100の共振周波数は、約2.4GHz(マークm6)であるが、フィルタ装置100Cの共振周波数は、約2.7GHz(マークm7)と約0.3GHz高周波側にシフトしている。つまり、フィルタ装置100Cのように、経路全体に対してインダクタL3を並列接続することで、共振周波数を調整することができる。フィルタ装置100Cは一体化されたチップでもよいし、フィルタ装置100に別のインダクタ素子を加えることで回路基板も含めた構造としてもよい。フィルタ装置100に別のインダクタ素子を追加することで、共振周波数を任意に調整することが可能となる。
【0107】
[実施の形態6]
実施の形態4では、
図18に示すように、ショート経路である第2経路TL2に対して並列にキャパシタC3を設けたフィルタ装置100Bについて説明した。実施の形態6においては、実施の形態4におけるフィルタ装置100Bのようにショート経路に対してキャパシタC3を並列させるのではなく、経路全体にキャパシタを並列させたフィルタ装置について説明する。なお、実施の形態6のフィルタ装置において、実施の形態1のフィルタ装置100と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を繰り返さない。また、実施の形態1のアンテナ装置150、実施の形態2のアンテナモジュール200において、フィルタ装置100の代わりに実施の形態6のフィルタ装置を用いてもよい。
【0108】
図23は、実施の形態6におけるフィルタ装置100Dの回路図である。フィルタ装置100Dは、
図23に示すようにインダクタL1、インダクタL2、キャパシタC1、キャパシタC3(第2キャパシタ)を含む。インダクタL1と端子P2との間には、第1経路TL1と第2経路TL2とが設けてある。第1経路TL1には、インダクタL2とキャパシタC1とが直列接続されるLC直列共振器RSが設けてある。第2経路TL2は、ショート経路である。さらに、端子P1と端子P2との経路全体に対して並列にキャパシタC3が設けてある。つまり、キャパシタC3は、インダクタL1およびインダクタL2に対して並列に接続してある。
【0109】
さらに、フィルタ装置100Dには、実施の形態3,4で説明したショート経路である第2経路TL2に対して並列にインダクタL4、キャパシタC5を設けてある。実施の形態3,4で説明したように、フィルタ装置100Dは、インダクタL4、キャパシタC5を設けても挿入損失およびリアクタンス特性に変化がない。なお、フィルタ装置100Dは、インダクタL4、キャパシタC5のうち、いずれか一方を設ける構成でもよい。また、実施の形態5のフィルタ装置100Cにおいても同様に、実施の形態3,4で説明したショート経路である第2経路TL2に対して並列にインダクタL4、キャパシタC5を設けてもよい。
【0110】
図24は、実施の形態6におけるフィルタ装置100Dの挿入損失の一例を示す図である。
図24において、横軸は周波数、縦軸は挿入損失である。なお、
図24(a)に示すグラフは、実施の形態1におけるフィルタ装置100の挿入損失の一例で各定数はL1=2.0nH、L2=2.0nH、C1=2.2pF、k=0.6である。
図24(b)に示すグラフは、実施の形態6におけるフィルタ装置100Dの挿入損失の一例で、上記定数に加え、C3=4pF、C5=2pF、L4=2nHである。
図25は、実施の形態6におけるフィルタ装置100Dのリアクタンス特性の一例を示す図である。
図25において、横軸は周波数、縦軸はリアクタンスである。なお、
図25(a)に示すグラフは、実施の形態1におけるフィルタ装置100のリアクタンス特性の一例で、
図25(b)に示すグラフは、実施の形態6におけるフィルタ装置100Dのリアクタンス特性の一例である。
【0111】
図24および
図25に示すように、フィルタ装置100は、約2.4GHz(マークm6)に共振周波数を1つ有しているが、フィルタ装置100Dは、約2.2GHz(マークm8)と約4.9GHz(マークm9)とに共振周波数を2つ有している。つまり、フィルタ装置100Dのように、経路全体に対してキャパシタC3を並列接続することで、
図25に示すL性領域において減衰域を追加することができる。なお、フィルタ装置100Dは、キャパシタC3を設けることで共振周波数が低周波側へシフトするため、実施の形態5で説明したように経路全体にフィルタ装置100に別のキャパシタ素子を追加することで、共振周波数を任意に調整できる。
【0112】
[変形例]
実施の形態1に係るフィルタ装置100では、
図1に示すように端子P1と端子P2との間にインダクタL1、インダクタL2、キャパシタC1が順に設けられる構成を説明した。しかし、フィルタ装置100は、インダクタL2とキャパシタC1との順を入れ替えてもよく、またインダクタL1側を端子P2に接続してもよい。なお、フィルタ装置100は、インダクタL1を端子P2側(アンテナ155側)に接続するか、インダクタL1を端子P1側(給電回路RF1側)に接続するかを、アンテナインピーダンスにより決定できる。
【0113】
図26は、変形例におけるフィルタ装置100aの回路図である。フィルタ装置100aは、
図26に示すように端子P1と端子P2との間にインダクタL2、キャパシタC1、インダクタL1が順に設けられる構成である。
【0114】
フィルタ装置100aは、端子P1とインダクタL1との間には、第1経路TL1と第2経路TL2とが設けてある。第1経路TL1には、インダクタL2とキャパシタC1との順で直列接続されるLC直列共振器RSが設けてある。第2経路TL2は、ショート経路である。インダクタL1とインダクタL2とは、互いに磁気結合をしている。フィルタ装置100aは、インダクタL2の順を入れ替えたことによりショート経路である第2経路TL2に生じる寄生容量および寄生インダクタンスの影響を除けば、フィルタ装置100と同様の効果を得ることができる。
【0115】
フィルタ装置100,100aは、インダクタL1、インダクタL2、キャパシタC1のみを考慮して設計されるものとして説明したが、実際のフィルタ装置では、浮遊容量、寄生インダクタンスなどを加味して設計する必要がある。
【0116】
フィルタ装置100,100aは、アンテナ155、給電回路RF1などとインピーダンスを整合させるための整合回路、高周波信号の位相を切り換える移相器などの他の構成を含んでもよい。
【0117】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0118】
1 絶縁体、2a~2d 外部電極、100,100a フィルタ装置、150,160 アンテナ装置、155,165 アンテナ、170 基板、200 アンテナモジュール、C1 キャパシタ、ESL 等価直列インダクタンス、K,K2 結合係数、L1,L2 インダクタ、P1,P2 端子、RF1,RF2 給電回路、TL1 第1経路、TL2 第2経路。