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特許7601251加工食品における動物脂様風味の付与方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】加工食品における動物脂様風味の付与方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20241210BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20241210BHJP
   A23D 7/005 20060101ALI20241210BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20241210BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23D7/00 510
A23D7/005
A23L5/00 L
A23L5/00 N
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023559002
(86)(22)【出願日】2023-05-09
(86)【国際出願番号】 JP2023017424
(87)【国際公開番号】W WO2023219080
(87)【国際公開日】2023-11-16
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2022077181
(32)【優先日】2022-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 由里菜
(72)【発明者】
【氏名】尾森 仁美
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150558(WO,A1)
【文献】特開2017-225381(JP,A)
【文献】特開2021-180649(JP,A)
【文献】国際公開第2022/075252(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23D 7/00
A23D 7/005
A23L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘味料が溶解した水相を、植物油脂を含む油相中に粒子径50~2000nmで分散することを特徴とする、加工食品における、動物脂様風味の付与方法。
【請求項2】
該水相における甘味料の濃度が固形分換算で15~75質量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該甘味料が、麦芽糖、羅漢果抽出物、グルコース、或いはショ糖からなる群より選ばれる1以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該甘味料が麦芽糖である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該加工食品における、該水相により持ち込まれる甘味料が固形分換算で4~1000ppmである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
該加工食品における、該水相により持ち込まれる甘味料が固形分換算で4~1000ppmである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
該加工食品における、該水相により持ち込まれる甘味料が固形分換算で4~1000ppmである、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物油脂を含む加工食品における動物脂様風味の付与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の環境問題等への配慮から、Plant based foods(PBF)に代表される、動物脂或いは動物性素材を使用しない加工食品の開発が進んでいる。動物脂或いは動物性素材にはうま味やコク、濃厚感など、豊かな風味を加工食品にもたらす。動物性素材を使用しない、或いは使用量が少ない加工食品では、主に植物性蛋白質素材を使用されることが多い。しかし、このような植物性蛋白質素材を配合した加工食品は、動物性素材由来の風味は少なくなる場合があり、喫食時の風味に関する満足感は低くなる場合がある。このような状況に対し改善の要望があり、様々な技術が開発されている。
【0003】
動物脂の旨味や濃厚感の付与に、次のような技術の開示がある。特許文献1として、蛋白質及び/又はオクテニルコハク酸澱粉ナトリウムと油脂とを含んだ油脂組成物、特許文献2ではアルギン酸プロピレングリコールエステルと、アルギン酸及び/又はその塩、多価金属塩、ゲル化反応遅延剤、油脂及び水を含有する固形油脂様組成物、特許文献3には、アドバンテームを食肉に含有することを特徴とする食肉又は食肉加工品が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-069332号公報
【文献】特開2015-216917号公報
【文献】国際公開2016/009686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は追試の結果、脂身様のコクは感じられず、改良の余地が残る。特許文献2ではコク味の有無は記載されているものの、畜肉を配合した検討例しかなく、植物性蛋白質素材を配合した食品において同様のコク味付与効果が得られるか不明である。特許文献3においては、食肉或いは食肉加工品に対してはアドバンテームを所定量配合することで、脂身様の甘みが付与されることは示されている。しかし、植物性蛋白質素材を配合するような場合において、脂身様の甘みが付与されるかは検討の必要がある。また、グラニュー糖等の糖や甘味料を直接食肉加工品に添加しても、必要以上の甘みが感じられ、加工食品の全体の風味のバランスが崩れてしまうこと、特殊な甘味料の添加しか脂身様の甘みを付与しつつ全体の風味のバランスが良い食肉加工食品が得られないことが示されており、糖や甘味料の直接添加による動物脂様の風味の付与は現実的ではない。このように、植物性蛋白質素材を配合する加工食品において、動物脂様の風味を付与する技術は確立されておらず、改良が求められている。
【0006】
よって、本発明の目的は、植物油脂を含む加工食品において、動物脂様の風味の付与方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが検討を行ったところ、甘味料が溶解した水相が、植物油脂を含む油相中に粒子径50~2000nmで分散することで、動物脂様の風味を付与することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)甘味料が溶解した水相を、植物油脂を含む油相中に粒子径50~2000nmで分散することを特徴とする、加工食品における、動物脂様風味の付与方法、
(2)該水相における甘味料の濃度が固形分換算で15~75質量%である、(1)に記載の方法、
(3)該甘味料が、麦芽糖、羅漢果抽出物、グルコース、或いはショ糖からなる群より選ばれる1以上である、(1)又は(2)に記載の方法、
(4)該甘味料が麦芽糖である、(3)に記載の方法、
(5)該加工食品における、該水相により持ち込まれる甘味料が固形分換算で4~1000ppmである、(1)又は(2)に記載の方法、
(6)該加工食品における、該水相により持ち込まれる甘味料が固形分換算で4~1000ppmである、(3)に記載の方法、
(7)該加工食品における、該水相により持ち込まれる甘味料が固形分換算で4~1000ppmである、(4)に記載の方法、
(8)甘味料が溶解した水相が、油相中に粒子径50~2000nmで分散した、植物油脂を含む油相を含有する加工食品、
(9)該甘味料が、麦芽糖、羅漢果抽出物、グルコース、或いはショ糖からなる群より選ばれる1以上である、(8)に記載の加工食品、
(10)該甘味料が麦芽糖である、(9)に記載の加工食品、
(11)以下の工程を含む、植物油脂を含む油相を含有する加工食品の製造方法、
(A)甘味料が溶解した水相を、油相中に粒子径50~2000nmとなるように分散させる工程
(B)(A)の工程で得られた油中水型乳化組成物を配合し、加工食品を調製する工程
(12)該甘味料が、麦芽糖、羅漢果抽出物、グルコース、或いはショ糖からなる群より選ばれる1以上である、(11)に記載の加工食品の製造方法、
(13)該甘味料が麦芽糖である、(12)に記載の加工食品の製造方法、
に関するものである。
【0009】
また換言すれば、本発明は、
(21)糖が溶解した水相を、植物油脂を含む油相中に粒子径50~2000nmで分散することを特徴とする、加工食品における、動物脂様風味の付与方法、
(22)該水相における糖の濃度が固形分換算で30~75質量%である、(21)に記載の方法、
(23)該加工食品における、該水相により持ち込まれる糖が固形分換算で5~1000ppmである、(21)又は(22)に記載の方法、
(24)糖が溶解した水相が、油相中に粒子径50~2000nmで分散した、植物油脂を含む油相を含有する加工食品、
(25)以下の工程を含む、植物油脂を含む油相を含有する加工食品の製造方法、
(A)糖が溶解した水相を、油相中に粒子径50~2000nmとなるように分散させる工程、
(B)(A)の工程で得られた油中水型乳化組成物を配合し、加工食品を調製する工程、
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、植物油脂を含む加工食品に、動物脂様の風味を簡便に付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0012】
本発明に係る動物脂の風味とは、畜肉や動物脂を含む食品を喫食した際に感じられる、動物脂の旨味のことである。動物脂の旨味は、動物脂に由来する独特の美味しさ、コク、濃厚感を表現する言葉である。時には「umami」とも表現されるものでもある。よって、「動物脂の風味」とは、加工食品中に甘味料を含むことで感じられる甘さはと異なるものである。
そして、植物性油脂で動物脂と同様の旨味やコク、濃厚感が付与された場合に、本発明及び特許請求の範囲において「動物脂様の風味」と表現する。本発明は、加工食品中に植物性蛋白質素材を配合することが好ましいが、このような加工食品は動物脂特有の旨味が不足する場合がある。本発明は、甘味料が溶解した水相を、油相中に粒子径50~2000nmで分散することを特徴とする、植物油脂を含む加工食品において、動物脂様の風味を付与することができる。
なお、本願の基礎出願である特願2022-077181においては、油脂における動物脂様の風味を「甘み」と表現する箇所があるが、日本語独特の表現であり、誤解を招く恐れがあるため、本願では「動物脂様の風味」との表現に統一した。しかし、発明としては同じものであり、特願2022-077181に対する優先権は有効なものである。
【0013】
本発明において、甘味料が溶解した水相が油相中に分散している必要がある。ここでいう甘味料とは、単糖類であるグルコース、果糖、二糖類である麦芽糖、ショ糖を始めとする糖、マルチトール等の糖アルコール、スクラロース、羅漢果抽出物、ステビア等を始めとする高甘味度甘味料を挙げることができ、これらを含む糖蜜や果糖ブドウ糖液糖も使用することができる。該甘味料は天然物より抽出したもの、人工に合成したもの、何れも含む。より好ましくは麦芽糖、羅漢果抽出物、グルコース、ショ糖、さらに好ましくは麦芽糖、羅漢果抽出物、さらにより好ましくは麦芽糖である。適当な甘味料を使用することで、該加工食品での動物脂様の風味を付与することができる。
なお、甘味料としてはアドバンテームは使用しないことが望ましい。アドバンテームは高甘味度甘味料の1種であるが、甘味の強度が強いことが知られている。本発明に係る方法でアドバンテームを油相中に分散させても、甘味の強度が強いために該加工食品に甘みが強く感じられ、該加工食品全体の風味が損なわれる場合がある。
【0014】
本発明でいう油相は、原材料において、油脂及び油脂に溶解する成分から構成されるものである。具体的には、本発明の加工食品中の、油脂原料の一部ないし全部から構成されるものである。
【0015】
そして、本発明に係る方法では、加工食品の油相中に植物油脂を含むことが必要である。本発明に使用できる植物油脂は特に限定されず、通常の食用の植物油脂を使用することができる。また、該油相は該植物油脂に加え、豚脂、牛脂、魚油等の動物脂を使用することもできる。但し、本発明の趣旨から、動物脂を使用しない態様が望ましい。これら油脂の他、油脂に溶解する成分を混合したものも油相と称することもできる。例えば、該加工食品がハンバーグの場合、植物油脂の他に、畜肉より抽出された動物脂、動物由来であって油脂に溶解する成分を油相として使用することができる。また、ミートレスと言われる、畜肉を含まない加工食品、或いは動物性原料を使用しない加工食品(以下、動物性原料不使用の加工食品と記載)の場合、油相は植物油脂、植物由来であって油脂に溶解する成分を使用することができる。油相中に含む植物油脂の割合は、原材料において使用する油脂のうち、1~100質量%が好ましい。より好ましくは70~100質量%、80~100質量%、90~100質量%、又は95~100質量%である。例えば、該加工食品がミートレスハンバーグ或いは動物性原料不使用のミートレスハンバーグの場合、動物性素材不使用であることから、油相に含まれる植物油脂は100質量%である。適当な量の植物油脂を含むことで、該加工食品での動物脂様の風味を付与することができる。
【0016】
油相には、本発明の効果を妨げない範囲で、油溶性成分を溶解することができるが、具体的には油溶性乳化剤や色素、香料などを挙げることができる。特に、本発明においては水相が油相中に微分散した、いわゆる油中水型の乳化構造をとっていることから、該乳化構造を安定させる働きのある油溶性乳化剤を使用することが好ましい。ここでいう油溶性乳化剤とは、HLBが7以下の、油脂に溶解する乳化剤であり、具体的にはポリグリセリンエステル、シュガーエステル、ソルビタンエステル、モノグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1以上が好ましい。より好ましくはポリグリセリンエステル、シュガーエステル、蒸留モノグリセリドが好ましく、さらに好ましくはポリグリセリンエステルが好ましい。そのうち、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが最も好ましい。なお、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルはPGPRと略されることがある。
【0017】
本発明において、甘味料が溶解した水相における甘味料の濃度は固形分換算で15~75質量%であることが好ましい。より好ましくは20~70質量%、30~70質量%、35~65質量%、40~65質量%である。水相における甘味料の濃度が適当であると、該加工食品での動物脂様の風味を付与することができる。
【0018】
本発明において、甘味料が溶解した水相は油相中に分散している必要があるが、この時の水相の粒子径は50~2000nmである必要がある。この値は、より好ましくは55~1200nm、60~800nm、60~700nm、65~650nm、65~600nmである。油相中の水相の粒子径が適当であると、該加工食品での動物脂様の風味を付与することができる。なお、水相の粒子径の測定方法は次の通りである。油中水型乳化組成物10μLをヘキサン2mLに希釈し、ゼータサイザーナノS(マルバーン社製)で測定して得られる(温度20℃、平衡時間240秒、ガラスセル使用)。
【0019】
本発明において、該水相により該加工食品に持ち込まれる甘味料の量は4~1000ppmが好ましい。より好ましくは4.5~900ppm、5~900ppm、10~800ppm、20~600ppm、30~500ppm、50~400ppm、50~350ppmである。該水相により持ち込まれる甘味料の量が適当であると、該加工食品での動物脂様の風味を付与することができる。
【0020】
本発明に係る加工食品は、植物性蛋白質素材を含むことが好ましい。本発明に係る加工食品は、該加工食品中に植物性蛋白質素材を好ましくは乾燥重量で1質量%以上配合されれば、本発明の効果をより好ましく得ることができる。より好ましくは3質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上で、本発明の効果を最大限に発揮することができる。
【0021】
本発明に係る加工食品の具体例として、ハンバーグ、パティ、ミートボール、ナゲット、つくね、ハム、サラミ、ソーゼージ、餃子、焼売、肉まん、小籠包、メンチカツ、コロッケ、フランクフルト、アメリカンドック、ミートパイ、ラビオリ、ラザニア、ミートローフ、ロールキャベツ、ピーマンやレンコンなどの肉詰め等の練り製品が挙げられる。また、牛丼、すき焼き、かつとじ、親子丼のつゆに代表される調味液、ラーメン、スープなどの出汁等も挙げられる。さらに、カレー、キーマカレー、ミートソース等の加工食品も挙げられる。ジャーキーやPBF向け焼き肉用スライス肉様等の加工食品も本発明に含む。これら加工食品は、冷凍品、冷蔵品、乾燥品、レトルト品の形態も含む。
【0022】
本発明で用いる植物性蛋白質素材として、組織状植物性蛋白質素材、粉末状植物性蛋白質素材、エマルションカード等、加工食品の製品形態に適した素材を適宜使用することができる。
【0023】
本発明で用いる植物性蛋白質素材として使用できる組織状植物性蛋白質素材とは、植物由来の蛋白質素材を配合し、エクストルーダー等の組織化装置を用いて高温高圧下に組織化して得られるもので、粒状や繊維状、フレーク状、スライス肉状、膜状などの形状がある。植物由来の蛋白質素材には、大豆、エンドウ、緑豆、ヒヨコ豆、菜種、綿実、落花生、ゴマ、サフラワー、ヒマワリ、コーン、紅花等の油糧種子由来の蛋白質素材、或いは米、大麦、小麦等の穀物種子由来の蛋白質素材等が挙げられる。また、蛋白質素材とは、上記植物の粉砕物、抽出蛋白、濃縮蛋白、分離蛋白等である。例えば、米グルテリン、大麦プロラミン、小麦プロラミン、小麦グルテン、全脂大豆粉、脱脂大豆粉、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白、分離エンドウ蛋白、分離緑豆蛋白等が挙げられる。なお、水戻し済みで流通する製品も存在するが、本発明には乾燥品(水分10質量%以下)を用いることが好ましい。また、豆腐を圧搾することで組織化した大豆素材も、本発明に好適である。本発明には大豆を主原料とする組織状大豆蛋白が好適である。組織状植物性蛋白質素材は、所望の商品形態に応じ、任意の形状や大きさの製品を適宜選択し使用することができる。大豆ミート、大豆パフと言われる商品形態も使用することができる。
組織状植物性蛋白質素材中の蛋白質含量は、該素材の乾燥重量中、少なくとも30質量%以上であることが好ましい。より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%である。
【0024】
本発明で用いる植物性蛋白質素材として使用できる粉末状植物性蛋白質素材とは、大豆、小麦、エンドウ、ヒヨコ豆、緑豆、米、大麦等に例示される植物性の原材料を粉末化したもので、蛋白質を脱脂後の固形分あたり50質量%以上含むものである。本発明には大豆が好適である。市販の粉末状植物性蛋白質素材を適宜選択して使用することができる。また、粉末状植物性蛋白質素材は、生地中での分散性を高めるために、あらかじめ油脂を添加して粉末化したものも使用することができる。また、エマルションカード等、生地同士のつなぎの機能を付与した水中油型乳化物も使用することができる。この場合も、大豆を主原料とする粉末状大豆蛋白質素材が好適である。なお、ここでいうエマルションカードとは、粉末状植物性蛋白質素材、水、油脂を含有し、均質化した乳化物をさす。
【0025】
本発明に係る加工食品は、畜肉または動物脂を含んでも良い。ここでいう畜肉とは、牛、豚、鶏、馬、羊、鹿、猪、七面鳥、鴨、駝鳥、鯨などの鳥獣肉を指し、これらを単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。ここでは鳥獣は陸上動物でも水生動物でも良いが、陸上動物が好ましい。また、使用する肉の部位は特に限定されない。ミンチ状に加工した畜肉も使用することができる。畜肉を該加工食品に使用する場合、その使用量は該加工食品中30質量%以下が好ましい。より好ましくは20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、又は0質量%である。畜肉の使用量は、製品に求められる品質やコンセプトに応じて適宜決定すれば良い。本発明の趣旨から、畜肉は使用しない態様が望ましい。
また、ここでいう動物脂とは上記の鳥獣肉から単離或いは抽出された油脂を指す。動物脂を該加工食品に使用する場合、その使用量は該加工食品中30質量%以下が好ましい。より好ましくは20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、又は0質量%である。動物脂の使用量は製品に求める品質やコンセプトに応じて適宜決定すれば良い。例えば、ミートレス加工食品或いは動物性原料不使用のミートレス加工食品とするならば、該畜肉及び該動物脂は全く使用しない。なお、本発明の趣旨から、動物脂は使用しない態様が望ましい。
【0026】
(その他原料)
本発明に係る加工食品は、公知の材料や食品添加物を利用することができる。例えば、野菜、澱粉、調味料(塩、胡椒、砂糖、醤油など)、加工澱粉、食物繊維、卵黄、卵白、乳化剤、香辛料、香料、その他の公知の添加物などを、本発明の効果を妨げない範囲で、適宜使用することができる。ミートレス加工食品或いは動物性原料不使用の加工食品とするならば、植物性の原料を使用する。
【0027】
また、本発明は動物脂様の風味が付与された植物油脂を含む加工食品としてとらえることもできる。具体的には、甘味料が溶解した水相が、油相中に粒子径50~2000nmで分散することが特徴である。
【0028】
さらには、本発明は動物脂様の風味が付与された植物油脂を含む加工食品の製造方法ととらえることもできる。具体的には、甘味料が溶解した水相を、油相中に粒子径50~2000nmで分散することが特徴である。
【0029】
本発明の具体的な方法を説明する。
本発明において、甘味料を水に溶解し、水相を調製する。ここで使用する甘味料の種類や、水相における糖の濃度は、これまで述べた通りである。また油相を調製するが、油相は本発明に係る加工食品において、原材料である油脂の全部または一部を用いる。必要に応じ、油相に油溶性乳化剤等を溶解する。
次に、得られた水相を、油相に分散し、油中水型乳化組成物を調製する。分散には、各種の方法を使用することができる。具体的には、高圧ホモゲナイザーや超音波乳化機、湿式ジェットミルとも言われる2液衝突型の乳化装置を用いることができる。適当な乳化装置を使用することで、所定の油中水型乳化組成物を得ることができる。なお、高圧ホモゲナイザーを使用する場合の一般的な乳化条件は、30~40MPaで10~30パスの処理である。これにより、油相における水相の粒子径を50~2000nmにすることができる。
【0030】
該油中水型乳化組成物は、該加工食品における他の原材料と混合し、該加工食品を所定の方法にて調製する。以下、実施例により、より詳細に発明の実施態様を説明する。
なお、該油中水型乳化組成物が常温で固形であって、練り製品に使用する際は、練り製品を調製する直前にロボクープ、チョッパー、サイレントカッター等の細断機で小片化して配合することもできる。小片状の形状は最長辺が15mm以下であれば特に制限はない。具体的には、円柱状、立方体状、円状、半円状、多角錐、多角柱等の多面体、スライス状等が挙げられる。
【実施例
【0031】
以降に本発明をより詳細に説明する。なお、文中「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準を意味する。
【0032】
<検討1>油中水型乳化組成物の調製
表1-1、1-2に記載の配合に従い、油中水型乳化組成物を調製した。調製方法は次の方法とした。水相及び油相に分類される原材料をそれぞれ混合し、水相及び油相を調製した。油相を撹拌し、そこへ水相を徐々に添加し、略乳化物を調製した。高圧ホモゲナイザー(30~40MPa×10~30パス)に略乳化物を供し、油中水型乳化組成物を得た。各油中水型乳化組成物は一晩冷凍庫(4℃で12時間)に保管した。なお、水相の粒子径の測定は以下の方法に従って測定した。
【0033】
(水相の粒子径の測定方法)
油中水型乳化組成物10μLをヘキサン2mLに希釈し、ゼータサイザーナノS(マルバーン株式会社製)で測定した。測定条件は、温度20.0℃、平衡時間240秒、ガラスセル使用、測定角度173°、ポジショニング法:最適ポジション選択、自動減衰の選択あり、とした。油中水型乳化組成物1~8の水相の粒子径は400~660nmであった(表1-1、1-2)。
【0034】
(表1-1)
【0035】
(表1-2)
・植物油脂は「ユニショートMJ」(不二製油株式会社製、パーム由来、融点26℃)を使用した。
・乳化剤は「ポエムPR-100」(理研ビタミン株式会社製、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、HLB:1)を使用した。
・グルコースは和光純薬株式会社製を使用した。
・麦芽糖は「マルスターMS720N」(三和澱粉工業株式会社製、麦芽糖水あめ)を使用した。
・ショ糖は「グラニュー糖」(和田製糖株式会社製)を使用した。
・スクラロースは「スクラロース」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を使用した。
・マルチトースは「レシス」(三菱商事ライフサイエンス株式会社製)を使用した。
・羅漢果抽出物は「サンナチュレM50」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を使用した。
・ステビア/羅漢果混合抽出物は「サンナチュレMSR」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を使用した。
【0036】
<検討2>ミートレスハンバーグの検討
表2-1、2-2の配合に従い、ミートレスハンバーグを調製した。すなわち、エマルションカードAを先に調製し、そこに5倍加水した組織状大豆蛋白質素材A(「アペックス650」、不二製油株式会社製)及び3倍加水した組織状大豆蛋白質素材B(「アペックス350」、不二製油株式会社製)を添加して、ケンミックス(アイコープレミア KMM770(愛工舎製作所社製))にて1分間混合し(ダイアル:MIN)、そこに調味料・香辛料を加えて1分間混合し、野菜類を加えて30秒間混合し、そこにパン粉、澱粉、牛脂或いは各油中水型乳化組成物、麦芽糖添加植物油脂、植物油脂と麦芽糖を加えて30秒間混合した。混合した生地を1個50gに成型し、300℃で4.5分間焼成した(芯温80℃、スチームコンベクションオーブン(株式会社ラショナル・ジャパン社製))。焼成したミートレスハンバーグを一晩冷蔵保管した後、冷凍庫に保管した。
なお、エマルションカードAの調製方法は、水4.5部と組織状大豆蛋白質素材1部(「フジプロFR」、不二製油株式会社製)を1500rpmで1.5分間撹拌し(ロボクープ(株式会社エフ・エム・アイ社製))、そこに菜種油1部を加えて4分間撹拌し、さらに乾燥卵白1部を加えて1分間撹拌したものを使用した。
また、牛脂、植物油脂、麦芽糖添加植物油脂、各油中水型乳化組成物は使用するまで冷凍庫に保管し、ミートレスハンバーグに配合する前に、ロボクープにて8mm角に粉砕してから使用した。
比較例1及び比較例2の加工食品中に含まれる麦芽糖は、実施例2の水相より持ち込まれた麦芽糖含量と同量配合した。比較例1は生地に直接植物油脂と麦芽糖を添加し、比較例2は融解した植物油脂に直接麦芽糖を添加し、混合して冷やし固めたものを使用した。また、油相中の植物油脂含量は、参考例1では48.2質量%、実施例1~7及び比較例1~4では100.0質量%であった。
【0037】
(表2-1)
(表2-2)
【0038】
(風味の評価方法)
冷凍したハンバーグを電子レンジ(500ワット、2分間)で温めて、解凍及び加熱し、喫食して、以下の基準により評価した。官能評価は熟練したパネラー6名にて行い、合議により評価が2点(平均点)を越えるものを、牛脂様の風味を有すると判断した。評価結果を表2-1、2-2に示した。
【0039】
(評価基準)
牛脂を配合した参考例1のハンバーグで感じられる牛脂の風味(旨味、コク、濃厚感等)を5点とした。
0点:参考例1と比較して、全く牛脂様の風味が感じられなかった。
1点:参考例1で感じられる牛脂の風味と同様の風味が感じられ、その強度が参考例の3割の力価であった。
2点:参考例1で感じられる牛脂の風味と同様の風味が感じられ、その強度が参考例の6割の力価であった。
3点:参考例1で感じられる牛脂の風味と同様の風味が感じられ、その強度が参考例の8割の力価であった。
4点:参考例1で感じられる牛脂の風味と同様の風味が感じられ、その強度が参考例の9割の力価であった。
5点:参考例1で感じられる牛脂の風味と同様の風味が感じられ、その強度が参考例と同等の力価であった。
【0040】
油中水型乳化組成物1~3、5~8を配合した実施例1~実施例7において、参考例1で感じられる牛脂の風味と同様の風味が感じられ、その強度が参考例の8割~9割であった。甘味料の種類については、各糖と羅漢果抽出物で効果が強い傾向が認められた。糖の種類については、麦芽糖が最も効果が認められた。一方で、実施例2のハンバーグに含まれる含量と同量の麦芽糖を直接生地に配合した場合(比較例1)、及び麦芽糖を直接植物油脂に配合した場合(比較例2)、何れも参考例1で感じられる牛脂の風味と比較して、その強度は参考例1の3割しかなかった。また、糖を一切配合しない場合(比較例3)、参考例1で感じられる牛脂の風味と比較して、全く牛脂様の風味が感じられなかった。
【0041】
<検討3>油中水型乳化組成物の調製
表3に記載の配合に従い、油中水型乳化組成物を調製した。調製方法は検討1を踏襲した。油中水型乳化組成物に使用した原材料も検討1と同様とした。油中水型乳化組成物9~15の水相の粒子径は84~770nm以下であった(表3)。
【0042】
(表3)
【0043】
<検討4>ミートレスハンバーグの検討
表4の配合に従い、検討2の調製方法と同じ方法でミートレスハンバーグを調製した。風味の評価方法は検討2と同様の方法で実施し、参考例2と比較して風味評価を行った(パネラー7名)。結果を表4に示した。なお、油相中の植物油脂の含量は、参考例2では48.2質量%、実施例8~実施例13、比較例4では100.0質量%であった。
【0044】
(表4)
【0045】
参考例2に対して、ハンバーグ中に油中水型乳化組成物から持ち込まれた麦芽糖が3.6ppmである比較例4では、牛脂様の風味は感じられたが、その強度は参考例2の3割しかなかった。ハンバーグ中に油中水型乳化組成物から持ち込まれた麦芽糖が7.3~682.5ppmである実施例8~実施例13において、牛脂様の風味が感じられ、その強度は参考例の7割~9割の力価であった。特に、実施例10において、牛脂様の風味が強く感じられた。油中水型乳化組成物の粒子径が異なっても、牛脂様の風味が十分感じられた(実施例13)。
【0046】
<検討5>動物性原料不使用のハンバーグの検討
表5の配合に従い、完全に動物性原料を含まない動物性原料不使用のハンバーグを調製した。すなわち、エマルションカードBを先に調製し、そこに5倍加水した組織状大豆蛋白質素材Aおよび3倍加水した組織状大豆蛋白質素材Bを添加して、ケンミックスにて150rpmで1分間混合し、そこに調味料・香辛料、竹繊維(「BAF90」レッテンマイヤー社製)、シトラスファイバー(「ヘルバセルAQプラスCF―D」DSP五協フード&ケミカル株式会社製)を加えて1分間混合し、野菜類を加えて30秒間混合し、そこにパン粉、澱粉、牛脂或いは油中水型乳化組成物12を加えて1分間混合した。混合した生地を1個70gに成型し、300℃で6分間焼成した(芯温80℃、コンベクションオーブン(株式会社ラショナル・ジャパン製))。焼成したハンバーグを一晩冷蔵保管した後、冷凍庫に保管した。なお、エマルションカードBの調製方法は、菜種油3.2部とメチルセルロース(「MCE―100TS」、信越化学工業社製)1部をロボクープにて100rpmで1.5分間撹拌し、そこへ氷水13部を加えて1000rpmで5分間混合撹拌したものを使用した。なお、牛脂、油中水型乳化組成物12は使用するまで冷凍庫に保管し、ハンバーグに配合する前に、ロボクープにて8mm角に粉砕してから使用した。なお、油相中の植物油脂の含量は、参考例3では66.0質量%、実施例14では100.0質量%であった。
風味の評価方法は検討2と同様の方法とし、参考例3との比較で評価した(パネラー7名)。結果を表5に示した。
【0047】
(表5)
【0048】
動物性素材を含まないハンバーグに牛脂を配合した参考例3において、牛脂の風味が感じられた。これに対し、油中水型乳化組成物12を配合したハンバーグにおいて、牛脂様の風味が感じられ、その強度は参考例3の9割の力価であった。
【0049】
<検討6>鶏団子の検討
表6の配合に従い、大豆蛋白質素材を配合した鶏団子を調製した。すなわち、エマルションカードAを先に調製し、そこにミンチ状の鶏むね肉(φ4mm)を添加して、ケンミックスにて1分間混合した(ダイアル:MIN)。そこに3倍加水した組織状大豆蛋白質素材C(「ニューフジニック52S」不二製油株式会社製)、調味料・香辛料、食塩を加えて1分間混合し、みじん切りした玉ねぎを加えて30秒間混合し、そこにパン粉、澱粉、牛脂或いは油中水型乳化組成物12を加えて1分間混合した。混合した生地を1個15gに成型し、90℃で12分間蒸煮した(スチームコンベクションオーブン(株式会社ラショナル・ジャパン社製))。蒸煮した鶏団子は放冷した後に冷凍庫に保管した。
なお、エマルションカードAの調製方法は、検討2と同様とした。また、牛脂、油中水型乳化組成物12は使用するまで冷凍庫に保管し、鶏団子に配合する前に、ロボクープにて8mm角に粉砕してから使用した。なお、油相に含まれる植物油脂の含量は、参考例4では45.8質量%、実施例15では100.0質量%であった。
風味の評価方法は検討2と同様の方法とし、参考例4との比較で評価した(パネラー5名)。結果を表6に示した。
【0050】
(表6)
【0051】
組織状大豆蛋白質素材を配合した鶏団子において、牛脂を配合した参考例4では牛脂の風味が感じられた。これに対し、油中水型乳化組成物12を配合した実施例15では牛脂様の風味が感じられ、その強度は参考例4の9割であった。
【0052】
<検討7>牛丼風の検討
表7の配合に従い、牛丼風を調製した。調味料類、スライスした玉ねぎ、2倍加水した組織状大豆蛋白質素材D(「ベジプラス2900」不二製油株式会社製)を鍋に添加し、歩留まりが90%になるまでコンロ加熱した。これに、牛脂或いは油中水型乳化組成物12を添加し、オーブンにて融解させ(90℃×30分間)、その後一晩冷蔵保存した。冷蔵保存した牛丼風をレトルトパックに50g入れて、121℃で30分レトルト殺菌した。なお、油相中の植物油脂含量は、参考例5では0質量%、実施例16では100.0質量%であった。
風味の評価方法は検討2と同様の方法とし、参考例5との比較で評価した(パネラー5名)。結果を表7に示した。
【0053】
(表7)
【0054】
組織状大豆蛋白質素材を配合した牛丼風において、牛脂を配合した参考例5では牛脂の風味が感じられた。これに対し、油中水型乳化組成物2を配合した実施例16では牛脂様の風味が感じられ、その強度は参考例5の9割であった。
【0055】
<検討8>キーマカレーの検討
表8の配合に従い、大豆蛋白質素材を配合したキーマカレーを調製した。すなわち、フライパンで刻んだにんにくを炒め、さらに野菜類、1.5倍加水した組織状大豆蛋白質素材E(「ベジテックスRET」不二製油株式会社製)、香辛料、カレー粉、調味料類を順に添加し、中火で8分間炒めた。水を添加し、歩留り70%になるまで加熱した。これに牛脂或いは油中水型乳化組成物16を添加し、均一になるように攪拌混合し、その後一晩冷蔵保存した。冷蔵保存したキーマカレーをレトルトパックに30g入れて、121℃で30分レトルト殺菌した。なお、油中水型乳化組成物16は検討1と同様の方法で調製し、油中水型乳化組成物8と同配合とし、植物油脂のみ「パーキッドP」(不二製油株式会社製、パーム由来、融点39℃)に変更して調製した。なお、油相中の植物油脂の含量は、参考例6では0質量%、実施例17では100.0質量%であった。
風味の評価方法は検討2と同様の方法とし、参考例6との比較で評価した(パネラー5名)。結果を表8に示した。
【0056】
(表8)
【0057】
組織状大豆蛋白質素材を配合したキーマカレーにおいて、牛脂を配合した参考例6では牛脂の風味が感じられた。これに対し、油中水型乳化組成物16を配合した実施例17では牛脂様の風味が感じられ、その強度は参考例6の9割であった。