(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】熱拡散デバイス
(51)【国際特許分類】
F28D 15/04 20060101AFI20241210BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
F28D15/04 J
F28D15/02 101H
F28D15/02 102A
(21)【出願番号】P 2023559887
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(86)【国際出願番号】 JP2022041867
(87)【国際公開番号】W WO2023085350
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2021185679
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】沼本 竜宏
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0159806(US,A1)
【文献】特開2018-204841(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0098303(US,A1)
【文献】特開平10-038484(JP,A)
【文献】特開平03-247994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/00-15/06
H01L 23/34-23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に対向する第1内壁面および第2内壁面を有する筐体と、
前記筐体の内部空間に封入される作動媒体と、
前記筐体の前記内部空間に配置されるシート状のウィックと、
前記筐体の前記内部空間に配置され、前記第2内壁面に接する支柱と、を備え、
前記ウィックは、前記第1内壁面から前記第2内壁面に向かって突出することにより設けられた曲部を有し、
前記ウィックの前記曲部と前記第1内壁面とによって囲まれた空間には、前記作動媒体の液体流路が形成され、
前記ウィックの前記曲部は、前記支柱と前記第1内壁面とに挟まれない領域に配置されて
おり、
前記ウィックは、前記支柱と前記第1内壁面とに挟まれる領域を有する、熱拡散デバイス。
【請求項2】
前記ウィックの前記曲部は、前記筐体の長手方向に延伸している、請求項1に記載の熱拡散デバイス。
【請求項3】
前記ウィックの前記曲部は、一方向のみに延伸している、請求項2に記載の熱拡散デバイス。
【請求項4】
前記ウィックの前記曲部は、互いに並列するように2列以上配置されている、請求項2または3に記載の熱拡散デバイス。
【請求項5】
前記ウィックの前記曲部は、前記筐体の前記内部空間の外周部に沿って配置されている、請求項2または3に記載の熱拡散デバイス。
【請求項6】
前記ウィックは、前記第2内壁面に接しないように設けられている、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱拡散デバイス。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱拡散デバイスを備える、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱拡散デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、素子の高集積化および高性能化による発熱量が増加している。また、製品の小型化が進むことで、発熱密度が増加するため、放熱対策が重要となっている。この状況はスマートフォンおよびタブレットなどのモバイル端末の分野において特に顕著である。熱対策部材としては、グラファイトシートなどが用いられることが多いが、その熱輸送量は充分ではないため、様々な熱対策部材の使用が検討されている。中でも、非常に効果的に熱を拡散させることが可能である熱拡散デバイスとして、面状のヒートパイプであるベーパーチャンバーの使用の検討が進んでいる。
【0003】
ベーパーチャンバーは、筐体の内部に、作動媒体(作動流体ともいう)と、毛細管力によって作動媒体を輸送するウィックとが封入された構造を有する。上記作動媒体は、電子部品などの発熱素子からの熱を吸収する蒸発部において発熱素子からの熱を吸収してベーパーチャンバー内で蒸発した後、ベーパーチャンバー内を移動し、冷却されて液相に戻る。液相に戻った作動媒体は、ウィックの毛細管力によって再び発熱素子側の蒸発部に移動し、発熱素子を冷却する。これを繰り返すことにより、ベーパーチャンバーは外部動力を有することなく自立的に作動し、作動媒体の蒸発潜熱および凝縮潜熱を利用して、二次元的に高速で熱を拡散することができる。
【0004】
スマートフォンおよびタブレットなどのモバイル端末の薄型化に対応するため、ベーパーチャンバーにも薄型化が求められている。このような薄型のベーパーチャンバーでは、機械的強度および熱輸送効率の確保が難しくなる。
【0005】
そこで、特許文献1に記載されているように、ベーパーチャンバーを構成する筐体の内部空間を維持するために、筐体の内部に支持部を設けることが提案されている。
【0006】
特許文献1には、発熱体が熱的に接続される一方の板状体と、該一方の板状体と対向する他方の板状体と、により空洞部が形成されたコンテナと、上記空洞部に封入された作動流体と、上記空洞部に収容された、上記コンテナとは別体であるウィック構造体と、を備え、上記コンテナは、上記他方の板状体の外面に凹部を設けることで、該他方の板状体の内面から上記一方の板状体方向へ突出している支持部を有し、上記支持部の上記他方の板状体の内面からの立ち上がり基部における該支持部と上記他方の板状体の内面とのなす角度が、鈍角であるベーパーチャンバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のベーパーチャンバーでは、支持部の高さとウィック構造体の厚さとの合計が内部空間の厚さに相当するため、支持部の高さとウィック構造体の厚さとを調整することによってベーパーチャンバーの薄型化が可能となる。しかしながら、ベーパーチャンバーの放熱効率を高める観点からは、改善の余地がある。
【0009】
なお、上記の問題は、ベーパーチャンバーに限らず、ベーパーチャンバーと同様の構成によって熱を拡散させることが可能な熱拡散デバイスに共通する問題である。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、放熱効率の高い熱拡散デバイスを提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記熱拡散デバイスを備える電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の熱拡散デバイスは、厚さ方向に対向する第1内壁面および第2内壁面を有する筐体と、上記筐体の内部空間に封入される作動媒体と、上記筐体の上記内部空間に配置されるシート状のウィックと、を備える。上記ウィックは、上記第1内壁面から上記第2内壁面に向かって突出することにより設けられた曲部を有する。上記ウィックの上記曲部と上記第1内壁面とによって囲まれた空間には、上記作動媒体の液体流路が形成されている。
【0012】
本発明の電子機器は、本発明の熱拡散デバイスを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、放熱効率の高い熱拡散デバイスを提供することができる。さらに、本発明によれば、上記熱拡散デバイスを備える電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る熱拡散デバイスの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係る熱拡散デバイスの内部構造の一例を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す熱拡散デバイスのA-A線に沿った断面図の一例である。
【
図4】
図4は、
図2に示す熱拡散デバイスのA-A線に沿った断面図の別の一例である。
【
図5】
図5は、本発明の第2実施形態に係る熱拡散デバイスの内部構造の一例を模式的に示す平面図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す熱拡散デバイスのA-A線に沿った断面図の一例である。
【
図7】
図7は、本発明の第3実施形態に係る熱拡散デバイスの内部構造の一例を模式的に示す平面図である。
【
図8】
図8は、
図7に示す熱拡散デバイスのA-A線に沿った断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の熱拡散デバイスについて説明する。
しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0016】
本発明の熱拡散デバイスでは、筐体の内部空間にシート状のウィックが配置されている。そのため、線状に延びるウィックが配置されている場合と比べて、気液交換面の大きさが制限されることがない。
【0017】
シート状のウィックは、筐体の第1内壁面から第2内壁面に向かって突出することにより設けられた曲部を有しており、ウィックの曲部と第1内壁面とによって囲まれた空間に作動媒体の液体流路が形成されている。そのため、液体流路の周囲に位置するウィックによって毛細管力を発現させることができるだけでなく、液体流路を通過する液体抵抗が小さくなることで作動媒体が液体流路をスムーズに移動することができる。その結果、ウィック単体よりも透過率を高くすることができる。
【0018】
以上より、本発明の熱拡散デバイスでは、最大熱輸送量が大きくなるため、放熱効率を高めることができる。
【0019】
以下に示す各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。第2実施形態以降では、第1実施形態と共通の事項についての記述は省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態毎には逐次言及しない。
【0020】
以下の説明において、各実施形態を特に区別しない場合、単に「本発明の熱拡散デバイス」という。
【0021】
以下では、本発明の熱拡散デバイスの一実施形態として、ベーパーチャンバーを例にとって説明する。本発明の熱拡散デバイスは、ヒートパイプ等の熱拡散デバイスにも適用可能である。
【0022】
以下に示す図面は模式的なものであり、その寸法や縦横比の縮尺などは実際の製品とは異なる場合がある。
【0023】
本明細書において、要素間の関係性を示す用語(例えば「垂直」、「平行」、「直交」など)および要素の形状を示す用語は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0024】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る熱拡散デバイスでは、ウィックの曲部が、互いに並列するように2列以上配置されている。これらの曲部は、蒸発部に集約するように配置されている。
【0025】
図1は、本発明の第1実施形態に係る熱拡散デバイスの一例を模式的に示す斜視図である。
図2は、本発明の第1実施形態に係る熱拡散デバイスの内部構造の一例を模式的に示す平面図である。
図3は、
図2に示す熱拡散デバイスのA-A線に沿った断面図の一例である。
【0026】
図1に示すベーパーチャンバー(熱拡散デバイス)1は、気密状態に密閉された中空の筐体10を備える。筐体10は、
図3に示すように、厚さ方向Zに対向する第1内壁面11aおよび第2内壁面12aを有する。ベーパーチャンバー1は、さらに、筐体10の内部空間に封入される作動媒体20と、筐体10の内部空間に配置されるウィック30と、を備える。
【0027】
筐体10には、
図2に示すように、封入した作動媒体20(
図3参照)を蒸発させる蒸発部(evaporation portion)EPが設定されている。
図1に示すように、筐体10の外壁面には、発熱素子である熱源(heat source)HSが配置される。熱源HSとしては、電子機器の電子部品、例えば中央処理装置(CPU)等が挙げられる。筐体10の内部空間のうち、熱源HSの近傍であって熱源HSによって加熱される部分が、蒸発部EPに相当する。
【0028】
ベーパーチャンバー1は、全体として面状であることが好ましい。すなわち、筐体10は、全体として面状であることが好ましい。ここで、「面状」とは、板状およびシート状を包含し、幅方向Xの寸法(以下、幅という)および長さ方向Yの寸法(以下、長さという)が厚さ方向Zの寸法(以下、厚さまたは高さという)に対して相当に大きい形状、例えば幅および長さが、厚さの10倍以上、好ましくは100倍以上である形状を意味する。
【0029】
ベーパーチャンバー1の大きさ、すなわち、筐体10の大きさは、特に限定されない。ベーパーチャンバー1の幅および長さは、用途に応じて適宜設定することができる。ベーパーチャンバー1の幅および長さは、各々、例えば、5mm以上500mm以下、20mm以上300mm以下または50mm以上200mm以下である。ベーパーチャンバー1の幅および長さは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0030】
筐体10は、外縁部が接合された対向する第1シート11および第2シート12から構成されることが好ましい。
【0031】
筐体10が第1シート11および第2シート12から構成される場合、第1シート11および第2シート12を構成する材料は、ベーパーチャンバーとして用いるのに適した特性、例えば熱伝導性、強度、柔軟性、可撓性等を有するものであれば、特に限定されない。第1シート11および第2シート12を構成する材料は、好ましくは金属であり、例えば銅、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、チタン、鉄、またはそれらを主成分とする合金等であり、特に好ましくは銅である。第1シート11および第2シート12を構成する材料は、同じであってもよく、異なっていてもよいが、好ましくは同じである。
【0032】
筐体10が第1シート11および第2シート12から構成される場合、第1シート11および第2シート12は、これらの外縁部において互いに接合される。かかる接合の方法は、特に限定されないが、例えば、レーザー溶接、抵抗溶接、拡散接合、ロウ接、TIG溶接(タングステン-不活性ガス溶接)、超音波接合または樹脂封止を用いることができ、好ましくはレーザー溶接、抵抗溶接またはロウ接を用いることができる。
【0033】
第1シート11および第2シート12の厚さは、特に限定されないが、各々、好ましくは10μm以上200μm以下、より好ましくは30μm以上100μm以下、さらに好ましくは40μm以上60μm以下である。第1シート11および第2シート12の厚さは、同じであってもよく、異なっていてもよい。また、第1シート11および第2シート12の各シートの厚さは、全体にわたって同じであってもよく、一部が薄くてもよい。
【0034】
第1シート11および第2シート12の形状は、特に限定されない。例えば、第1シート11および第2シート12は、各々、外縁部が外縁部以外の部分よりも厚い形状であってもよい。
【0035】
ベーパーチャンバー1全体の厚さは、特に限定されないが、好ましくは50μm以上500μm以下である。
【0036】
厚さ方向Zから見た筐体10の平面形状は特に限定されず、例えば、三角形または矩形などの多角形、円形、楕円形、これらを組み合わせた形状などが挙げられる。また、筐体10の平面形状は、L字型、C字型(コの字型)、階段型などであってもよい。また、筐体10は貫通口を有してもよい。筐体10の平面形状は、ベーパーチャンバーの用途、ベーパーチャンバーの組み入れ箇所の形状、近傍に存在する他の部品に応じた形状であってもよい。
【0037】
作動媒体20は、筐体10内の環境下において気-液の相変化を生じ得るものであれば特に限定されず、例えば、水、アルコール類、代替フロンなどを用いることができる。例えば、作動媒体20は水性化合物であり、好ましくは水である。
【0038】
図2および
図3に示すように、ウィック30は、全体としてシート状である。ここで、「シート状」とは、幅および長さが厚さに対して相当に大きい形状、例えば幅および長さが、厚さの10倍以上、好ましくは100倍以上である形状を意味する。
【0039】
ウィック30は、毛細管力により作動媒体20を移動させることができる毛細管構造を有する。ウィック30の毛細管構造は、従来のベーパーチャンバーにおいて用いられている公知の構造であってもよい。毛細管構造としては、細孔、溝、突起などの凹凸を有する微細構造、例えば、多孔構造、繊維構造、溝構造、網目構造などが挙げられる。
【0040】
ウィック30の材料は特に限定されず、例えば、エッチング加工または金属加工により形成される金属多孔膜、メッシュ、不織布、焼結体、多孔体などが用いられる。ウィック30の材料となるメッシュは、例えば、金属メッシュ、樹脂メッシュ、もしくは表面コートしたそれらのメッシュから構成されるものであってよく、好ましくは銅メッシュ、ステンレス(SUS)メッシュまたはポリエステルメッシュから構成される。ウィック30の材料となる焼結体は、例えば、金属多孔質焼結体、セラミックス多孔質焼結体などから構成されてもよく、好ましくは銅またはニッケルの多孔質焼結体から構成される。ウィック30の材料となる多孔体は、例えば、金属多孔体、セラミックス多孔体、樹脂多孔体などから構成されてもよい。
【0041】
ウィック30の厚さは、特に限定されないが、例えば2μm以上200μm以下であり、好ましくは5μm以上100μm以下、より好ましくは10μm以上40μm以下である。ウィック30の厚さは、部分的に異なっていてもよいが、一定であることが好ましい。
【0042】
ウィック30の大きさおよび形状は、特に限定されないが、例えば、筐体10の内部空間において連続してウィック30が配置されていることが好ましい。
図2および
図3に示す例では、筐体10の内部空間の全体にウィック30が配置されているが、筐体10の内部空間の一部にウィック30が配置されていなくてもよい。例えば、
図2および
図3では、筐体10の内部空間の外周部にウィック30が接しているが、筐体10の内部空間の外周部にウィック30が接していなくてもよい。
【0043】
図3に示すように、ウィック30は、筐体10の第1内壁面11aに沿って配置されている。ウィック30は、第1内壁面11aから第2内壁面12aに向かって突出することにより設けられた曲部35を有する。ウィック30の曲部35と第1内壁面11aとによって囲まれた空間には、作動媒体20の液体流路40が形成されている。一方、筐体10内の液体流路40以外の隙間には、作動媒体20の蒸気流路50が形成されている。
【0044】
ウィック30の曲部35は、
図2および
図3に示すように、厚さ方向Zからの平面視で、筐体10の長手方向(
図2および
図3では長さ方向Y)に延伸している。
【0045】
図2および
図3に示す例では、互いに並列するように2列以上の曲部35が配置されているが、1列の曲部35が配置されていてもよい。
【0046】
2列以上の曲部35が配置されている場合、これらの曲部35は、
図2に示すように、蒸発部EPに集約するように配置されていてもよい。すなわち、蒸発部EPに集約するように、厚さ方向Zからの平面視で少なくとも1列の曲部35が少なくとも1つの屈曲部を有してもよい。曲部35を蒸発部EPに集約させることで、短い距離で作動媒体20を循環させることができる。
【0047】
曲部35の延伸方向に垂直な断面視において、曲部35の幅は特に限定されないが、例えば、10μm以上1000μm以下である。曲部35の幅が液体流路40の幅に相当する。曲部35の幅は、厚さ方向Zで一定でもよく、一定でなくてもよい。なお、厚さ方向Zで曲部35の幅が異なる場合には、最も広い部分の幅を曲部35の幅と定義する。
【0048】
曲部35の延伸方向に垂直な断面視において、曲部35の高さは特に限定されないが、例えば、10μm以上100μm以下である。曲部35の高さが液体流路40の高さに相当する。曲部35の高さは、幅方向Xおよび長さ方向Yで一定でもよく、一定でなくてもよい。なお、幅方向Xおよび長さ方向Yで曲部35の高さが異なる場合には、最も高い部分の高さを曲部35の高さと定義する。
【0049】
図2および
図3に示すように、筐体10の内部空間には、第2内壁面12aに接する支柱60が配置されていることが好ましい。支柱60は、蒸気流路50内に配置される。支柱60間では、蒸気流路50が分断される。筐体10の内部空間に支柱60を配置することによって、筐体10を支持することが可能である。また、支柱60によってウィック30を押さえ付けることによって、ウィック30を支持することも可能である。
【0050】
筐体10の内部空間に支柱60が配置される場合、ウィック30の曲部35は、
図2および
図3に示すように、支柱60と第1内壁面11aとに挟まれない領域に配置されていることが好ましい。言い換えると、厚さ方向Zにおいて、支柱60と第1内壁面11aとの間には、ウィック30の曲部35が配置されていないことが好ましい。液体流路40を形成する曲部35を支柱60間に配置することにより、ベーパーチャンバー1全体の厚さを大きくすることなく、最大熱輸送量を大きくすることができる。
【0051】
支柱60と第1内壁面11aとに挟まれない領域に2列以上の曲部35が配置される場合、支柱60間に配置される曲部35の数は、それぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0052】
支柱60は、ウィック30に接していてもよく、ウィック30に固定されていてもよい。支柱60がウィック30に固定されている場合、ベーパーチャンバー1の組み立てが容易になる。例えば、ウィック30および支柱60が金属から構成される場合、ウィック30が支柱60に接合されていてもよい。接合の方法は特に限定されないが、例えば、拡散接合などを用いることができる。また、シリカ膜などを介してウィック30が支柱60に接着されていてもよい。
【0053】
支柱60は、蒸気流路50内の全体に配置されていてもよく、蒸気流路50内の一部に支柱60が配置されていなくてもよい。
【0054】
支柱60を形成する材料は、特に限定されないが、例えば、樹脂、金属、セラミックス、またはそれらの混合物、積層物などが挙げられる。また、支柱60は、筐体10と一体であってもよく、例えば、筐体10の内壁面をエッチング加工すること等により形成されていてもよい。
【0055】
支柱60の形状は、筐体10およびウィック30を支持できる形状であれば特に限定されないが、支柱60の高さ方向に垂直な断面の形状としては、例えば、矩形などの多角形、円形、楕円形などが挙げられる。
【0056】
支柱60の高さは、一のベーパーチャンバーにおいて、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0057】
図3に示す断面において、支柱60の幅は、筐体10の変形を抑制できる強度を与えるものであれば特に限定されないが、支柱60の端部の高さ方向に垂直な断面の円相当径は、例えば100μm以上2000μm以下であり、好ましくは300μm以上1000μm以下である。支柱60の円相当径を大きくすることにより、筐体10の変形をより抑制することができる。一方、支柱60の円相当径を小さくすることにより、作動媒体20の蒸気が移動するための空間をより広く確保することができる。
【0058】
支柱60の配置は、特に限定されないが、好ましくは所定の領域において均等に、より好ましくは全体にわたって均等に、例えば支柱60間の距離が一定となるように配置される。支柱60を均等に配置することにより、ベーパーチャンバー1の全体にわたって均一な強度を確保することができる。
【0059】
液体流路40を形成するウィック30の曲部35は、ウィック30を曲げた形状を有している。ウィック30の曲部35は、例えば、ウィック30に型付け加工を行うことにより形成することができる。延伸方向に垂直な曲部35の断面形状は特に限定されず、例えば、
図3に示すベーパーチャンバー1では、延伸方向に垂直な曲部35の断面形状が矩形などの四角形である。2列以上の曲部35が配置されている場合、曲部35の断面形状は、それぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0060】
図4は、
図2に示す熱拡散デバイスのA-A線に沿った断面図の別の一例である。
【0061】
図4に示すベーパーチャンバー(熱拡散デバイス)1Aでは、延伸方向に垂直な曲部35の断面形状が半円形である。
【0062】
図4に示すように、延伸方向に垂直な曲部35の断面形状は、半円形または半楕円形でもよく、三角形などの多角形でもよい。また、多角形の角部に丸みが付けられていてもよい。曲部35の断面形状が丸みを有していると、液体流路40を通過する液体抵抗を小さくすることができる。
【0063】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る熱拡散デバイスでは、ウィックの曲部が、一方向のみに延伸している。
【0064】
本発明の第2実施形態では、本発明の第1実施形態に比べてウィックの曲部を形成するための治具および工程が簡略になる。そのため、熱拡散デバイスの収率を高くすることができる。
【0065】
図5は、本発明の第2実施形態に係る熱拡散デバイスの内部構造の一例を模式的に示す平面図である。
図6は、
図5に示す熱拡散デバイスのA-A線に沿った断面図の一例である。
【0066】
図5および
図6に示すベーパーチャンバー(熱拡散デバイス)2では、ウィック30の曲部35は、蒸発部EPに集約するように配置されておらず、一方向のみに延伸している。したがって、厚さ方向Zからの平面視で曲部35が屈曲部を有していない。具体的には、曲部35は、厚さ方向Zからの平面視で、筐体10の長手方向(
図5および
図6では長さ方向Y)のみに延伸している。
【0067】
図5および
図6に示す例では、互いに並列するように2列以上の曲部35が配置されているが、1列の曲部35が配置されていてもよい。
【0068】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係る熱拡散デバイスでは、ウィックの曲部が、筐体の内部空間の外周部に沿って配置されている。
【0069】
本発明の第3実施形態では、ウィックの曲部が筐体の内部空間の全体にわたって配置されない。そのため、蒸気流路が広く確保される。したがって、筐体の内部空間の中央部における熱伝導に優れるため、均熱性能が向上する。
【0070】
図7は、本発明の第3実施形態に係る熱拡散デバイスの内部構造の一例を模式的に示す平面図である。
図8は、
図7に示す熱拡散デバイスのA-A線に沿った断面図の一例である。
【0071】
図7および
図8に示すベーパーチャンバー(熱拡散デバイス)3では、ウィック30の曲部35は、筐体10の内部空間の外周部に沿って配置されている。
図7および
図8に示す例では、2列以上の曲部35は、筐体10の内部空間の中央部に配置されておらず、筐体10の内部空間の外周部に沿ってまとまって配置されている。
【0072】
図7および
図8に示す例では、互いに並列するように2列以上の曲部35が配置されているが、1列の曲部35が配置されていてもよい。いずれの場合であっても、曲部35は、筐体10の内部空間の中央部には配置されず、筐体10の内部空間の外周部のみに配置される。
【0073】
[その他の実施形態]
本発明の熱拡散デバイスは、上記実施形態に限定されるものではなく、熱拡散デバイスの構成、製造条件等に関し、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【0074】
本発明の熱拡散デバイスにおいて、筐体は、1個の蒸発部を有してもよく、複数の蒸発部を有してもよい。すなわち、筐体の外壁面には、1個の熱源が配置されてもよく、複数の熱源が配置されてもよい。蒸発部および熱源の数は特に限定されない。
【0075】
本発明の熱拡散デバイスにおいて、筐体が第1シートおよび第2シートから構成される場合、第1シートと第2シートとは、端部が一致するように重なっていてもよいし、端部がずれて重なっていてもよい。
【0076】
本発明の熱拡散デバイスにおいて、筐体が第1シートおよび第2シートから構成される場合、第1シートを構成する材料と、第2シートを構成する材料とは異なっていてもよい。例えば、強度の高い材料を第1シートに用いることにより、筐体にかかる応力を分散させることができる。また、両者の材料を異なるものとすることにより、一方のシートで一の機能を得、他方のシートで他の機能を得ることができる。上記の機能としては、特に限定されないが、例えば、熱伝導機能、電磁波シールド機能等が挙げられる。
【0077】
本発明の熱拡散デバイスは、放熱を目的として電子機器に搭載され得る。したがって、本発明の熱拡散デバイスを備える電子機器も本発明の1つである。本発明の電子機器としては、例えばスマートフォン、タブレット端末、ノートパソコン、ゲーム機器、ウェアラブルデバイス等が挙げられる。本発明の熱拡散デバイスは上記のとおり、外部動力を必要とせず自立的に作動し、作動媒体の蒸発潜熱および凝縮潜熱を利用して、二次元的に高速で熱を拡散することができる。そのため、本発明の熱拡散デバイスを備える電子機器により、電子機器内部の限られたスペースにおいて、放熱を効果的に実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の熱拡散デバイスは、携帯情報端末等の分野において、広範な用途に使用できる。例えば、CPU等の熱源の温度を下げ、電子機器の使用時間を延ばすために使用することができ、スマートフォン、タブレット端末、ノートパソコン等に使用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1、1A、2、3 ベーパーチャンバー(熱拡散デバイス)
10 筐体
11 第1シート
11a 第1内壁面
12 第2シート
12a 第2内壁面
20 作動媒体
30 ウィック
35 曲部
40 液体流路
50 蒸気流路
60 支柱
EP 蒸発部
HS 熱源
X 幅方向
Y 長さ方向
Z 厚さ方向