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特許7601263樹脂組成物、積層シート、プリプレグ、硬化物、硬化物付基板および電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物、積層シート、プリプレグ、硬化物、硬化物付基板および電子機器
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20241210BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20241210BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20241210BHJP
   C08F 283/04 20060101ALI20241210BHJP
   C08G 18/64 20060101ALI20241210BHJP
   C08G 65/38 20060101ALI20241210BHJP
   C08G 73/00 20060101ALI20241210BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20241210BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20241210BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241210BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20241210BHJP
   C08K 5/04 20060101ALI20241210BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALI20241210BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20241210BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20241210BHJP
   C08K 5/3417 20060101ALI20241210BHJP
   C08G 59/62 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
C08L79/08
B32B27/20 Z
B32B27/34
C08F283/04
C08G18/64 038
C08G65/38
C08G73/00
C08G73/10
C08J5/24 CFG
C08K3/013
C08K5/00
C08K5/04
C08K5/1515
C08K5/29
C08K5/3415
C08K5/3417
C08G59/62
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023570838
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2022046199
(87)【国際公開番号】W WO2023127523
(87)【国際公開日】2023-07-06
【審査請求日】2024-04-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100124936
【弁理士】
【氏名又は名称】秦 恵子
(72)【発明者】
【氏名】阪口 豪
(72)【発明者】
【氏名】曽根田 裕士
(72)【発明者】
【氏名】宇佐 勇貴
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/188436(WO,A1)
【文献】特許第6391851(JP,B1)
【文献】特開2015-117278(JP,A)
【文献】特開2022-54337(JP,A)
【文献】特許第6981522(JP,B1)
【文献】特開2021-70824(JP,A)
【文献】特開2019-119755(JP,A)
【文献】特開2020-132881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
B32B 27/20
B32B 27/34
C08F 283/04
C08G 18/64
C08G 65/38
C08G 73/00
C08G 73/10
C08J 5/24
C08K 3/013
C08K 5/00
C08K 5/04
C08K 5/1515
C08K 5/29
C08K 5/3415
C08K 5/3417
C08G 59/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂(A)、硬化性化合物(B)および熱伝導性フィラー(C)を含む樹脂組成物であって、
ポリイミド樹脂(A)は、ダイマージアミンおよび/又はダイマージイソシアネートに由来する残基Xdを有し、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基から選択される官能基の合計の平均官能基数が0を含む1以下であり、
ポリイミド樹脂(A)の貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度が、-30℃以上、30未満のいずれかにあり、ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量が10,000~100,000であり、
硬化性化合物(B)は、エポキシ化合物(b1)、シアネートエステル化合物(b2)、マレイミド化合物(b3)、ポリフェニレンエーテル化合物(b4)およびナジイミド化合物(b5)からなる群から選択される一種又は二種以上であり、
硬化処理により得られた硬化物のガラス転移温度が140~400℃となる樹脂組成物。
【請求項2】
ポリイミド樹脂(A)は、一般式(1):
【化1】
(Xは繰り返し単位毎にそれぞれ独立に4価のテトラカルボン酸残基であり、Xは繰り返し単位毎にそれぞれ独立に2価の有機基であり、前記Xとイミド結合が互いに結合して2つのイミド環を形成する。)
で表される構造の繰り返し単位を有し、
ポリイミド樹脂(A)を構成する前記X全体を100モル%としたときに、前記ダイマージアミンおよび/又はダイマージイソシアネートに由来する残基Xdを60~100モル%有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
更に、熱安定剤(D)を含むことを特徴とする請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂組成物の不揮発成分100質量%中に、ポリイミド樹脂(A)が1~40質量%配合されていることを特徴とする請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
硬化性化合物(B)としてエポキシ化合物(b1)を含有し、更に、活性エステル系化合物を含むことを特徴とする請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
基材と、前記基材上に設けられた、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物で形成された樹脂組成物層とを含む、積層シート。
【請求項7】
基材に請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物を含浸させたプリプレグ。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物から得られる硬化物。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物を硬化して形成される硬化物を含む、硬化物付基板。
【請求項10】
請求項9に記載の硬化物付基板を搭載した電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、積層シートおよびプリプレグに関する。更に、前記樹脂組成物から得られる硬化物、前記樹脂組成物を硬化して形成される硬化物を含む硬化物付基板、前記硬化物付基板を搭載した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品には、樹脂組成物を硬化させて得られた部材が様々な部位に用いられている。例えば、多層プリント配線板には、複数の導体層間に層間絶縁層が形成されている。また、樹脂組成物をガラスクロス等に含浸させたプリプレグが、プリント配線板の導体層を覆う絶縁層として用いられている。また、半導体パッケージに絶縁性の封止樹脂が用いられている。
【0003】
このような樹脂組成物として、樹脂成分、硬化成分、無機フィラー成分を含む組成物が開示されている。例えば、特許文献1には、エポキシ化合物、硬化剤、シリカおよびダイマー構造を有するポリイミドを含有する組成物が、特許文献2には、ダイマージアミンに由来する骨格を有する、特定量のN-アルキルビスマレイミド化合物等と、エポキシ化合物と、無機充填剤と、特定の硬化剤とを含む組成物が開示されている。また、特許文献3には、熱硬化性樹脂、無機充填剤、特定量の有機充填剤および粘着性柔軟化剤を含む樹脂組成物が開示されている。更に、特許文献4には、特定量のエポキシ樹脂、特定の構造を有する特定量のマレイミド化合物、特定量の活性エステル系化合物および無機充填剤を含む絶縁層形成用樹脂組成物が開示されている。
【0004】
特許文献5には、芳香族テトラカルボン酸類およびダイマージアミンを特定量含むジアミン類を反応させてなるポリイミド樹脂、熱硬化性樹脂、難燃剤、並びに有機溶剤を含むポリイミド系接着剤組成物が開示されている。また、特許文献6には、シクロヘキサン環、ダイマー構造を有するマレイミド化合物、ダイマー構造を有するポリイミド樹脂、エポキシ化合物、活性エステル系化合物および無機充填剤を含む樹脂材料が開示されている。更に、特許文献7には、熱硬化性樹脂、無機充填材、特定量の有機充填材および粘着性柔軟化剤を含む樹脂組成物が開示されている。また、特許文献8には、Bステージにおける損失弾性率が低く、耐熱接着性および低誘電特性が良好な接着層を与えるポリイミド系接着剤を提供することを課題として、末端変性ポリイミドと架橋剤と有機溶剤を含むポリイミド系接着剤が開示されている。また、特許文献8には、Bステージにおける損失弾性率が低く、耐熱接着性および低誘電特性が良好な接着層を与えるポリイミド系接着剤を提供することを課題として、末端変性ポリイミドと架橋剤と有機溶剤を含むポリイミド系接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/062404号
【文献】国際公開第2019/189466号
【文献】特開2020-158704号公報
【文献】特開2020-186392号公報
【文献】特開2013-199645号公報
【文献】特開2021-25052号公報
【文献】特開2020-158704号公報
【文献】特開2016-191049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子機器の高機能化がすすみ、機器に内蔵される電子部品の高い信頼性が益々求められている。樹脂組成物においては、プリント配線板等の製造時に基板加工適性に優れる材料が求められている。具体的には、配線などの凹凸パターンが形成された基板上に樹脂組成物からなる絶縁層を形成する際に、凹凸形状に対する埋め込み性に優れる材料が求められている。また、樹脂組成物を硬化した硬化物において、優れためっき耐性(アルカリ耐性、酸耐性)が求められている。更に、はんだリフロー工程など高温プロセスに耐え得るヒートサイクル耐性のある材料が求められている。また、長期耐熱性ならびに曲げ強度を兼ね備える材料が市場で求められている。
【0007】
本開示は上記背景に鑑みてなされたものであり、基板凹凸への埋め込み性、めっき液耐性およびヒートサイクル耐性を兼ね備える基板加工適性を有し、その硬化物が長期耐熱性に優れると共に曲げ強度にも優れる樹脂組成物、並びに前記樹脂組成物を用いて形成される積層シート、プリプレグ、硬化物、硬化物付基板および電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本開示の課題を解決し得ることを見出し、本開示を完成するに至った。
[1]: ポリイミド樹脂(A)、硬化性化合物(B)および熱伝導性フィラー(C)を含む樹脂組成物であって、
ポリイミド樹脂(A)は、ダイマージアミンおよび/又はダイマージイソシアネートに由来する残基Xdを有し、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基から選択される官能基の合計の平均官能基数が0を含む1以下であり、
ポリイミド樹脂(A)の貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度が、-30~90℃のいずれかにあり、ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量が10,000~100,000であり、
硬化性化合物(B)は、エポキシ化合物(b1)、シアネートエステル化合物(b2)、マレイミド化合物(b3)、ポリフェニレンエーテル化合物(b4)およびナジイミド化合物(b5)からなる群から選択される一種又は二種以上であり、
硬化処理により得られた硬化物のガラス転移温度が140~400℃となる樹脂組成物。
[2]: ポリイミド樹脂(A)は、一般式(1):
【化1】
(Xは繰り返し単位毎にそれぞれ独立に4価のテトラカルボン酸残基であり、Xは繰り返し単位毎にそれぞれ独立に2価の有機基であり、前記Xとイミド結合が互いに結合して2つのイミド環を形成する。)
で表される構造の繰り返し単位を有し、
ポリイミド樹脂(A)を構成する前記X全体を100モル%としたときに、前記ダイマージアミンおよび/又はダイマージイソシアネートに由来する残基Xdを60~100モル%有することを特徴とする[1]に記載の樹脂組成物。
[3]: 更に、熱安定剤(D)を含むことを特徴とする[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]: 樹脂組成物の不揮発成分100質量%中に、ポリイミド樹脂(A)が1~40質量%配合されていることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]: 硬化性化合物(B)としてエポキシ化合物(b1)を含有し、更に、活性エステル系化合物を含むことを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]: 基材と、前記基材上に設けられた、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物で形成された樹脂組成物層とを含む、積層シート。
[7]: 基材に[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物を含浸させたプリプレグ。
[8]: [1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物から得られる硬化物。
[9]: [1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物を硬化して形成される硬化物を含む、硬化物付基板。
[10]: [9]に記載の硬化物付基板を搭載した電子機器。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、基板加工適正(基板凹凸への埋め込み性、ヒートサイクル耐性、めっき液耐性)に優れ、その硬化物が長期耐熱性に優れると共に曲げ強度にも優れる樹脂組成物、並びに前記樹脂組成物を用いて形成される積層シート、プリプレグ、硬化物、硬化物付基板および電子機器を提供できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示について詳細に説明する。なお、本開示の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本開示の範疇に含まれることは言うまでもない。また、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値の範囲として含むものとする。また、本明細書において「フィルム」や「シート」は同義であり、厚みによって区別されないものとする。また、本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。本明細書に記載する数値は、後述する[実施例]に記載の方法にて得られる値をいう。
【0011】
1.樹脂組成物
本実施形態に係る樹脂組成物(以下、本組成物ともいう)は、ポリイミド樹脂(A)、硬化性化合物(B)および熱伝導性フィラー(C)を含む。ポリイミド樹脂(A)は、ダイマージアミンおよび/又はダイマージイソシアネートに由来する残基Xd(以下、ダイマー構造ともいう)を有する。また、ポリイミド樹脂(A)は、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基から選択される官能基の合計の平均官能基数を、0を含む1以下とする。そして、ポリイミド樹脂(A)の貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度が、-30~90℃のいずれかにあり、且つ重量平均分子量(以下、Mwともいう)を10,000~100,000とする。ポリイミド樹脂(A)は一種単独又は二種以上を併用できる。
【0012】
硬化性化合物(B)は、エポキシ化合物(b1)、シアネートエステル化合物(b2)、マレイミド化合物(b3)、ポリフェニレンエーテル化合物(b4)およびナジイミド化合物(b5)(以下、(b1)~(b5)ともいう)からなる群から選択される一種又は二種以上である。本組成物は、硬化処理により得た硬化物のガラス転移温度(以下、Tgともいう)を140~400℃とする。
【0013】
平均官能基数は、ポリイミド樹脂(A)の1分子あたりのアミノ基、酸無水物基およびマレイミド基から選択される官能基の合計の平均官能基数であり、ポリイミド樹脂(A)の合成に用いる原料成分の仕込み比率から求めることができる。合計の平均官能基数が0とは、ポリイミド樹脂(A)にアミノ基、酸無水物基およびマレイミド基のいずれの基も有しないことを意味する。合計の平均官能基数が1以下とは、ポリイミド樹脂(A)1分子中に、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基の合計官能基が平均で1以下であることを意味する。
【0014】
本明細書において、硬化物とは、硬化処理により三次元架橋構造を形成して硬化することをいい、更に硬化処理しても実質的に硬化反応が進行しない程度に硬化された状態をいう。硬化処理により、硬化性化合物(B)同士が架橋する態様、硬化性化合物(B)とポリイミド樹脂(A)とが架橋する態様、および硬化性化合物(B)と他の成分とが架橋する態様、並びにこれらを任意に組み合わせた態様が挙げられる。硬化処理としては、熱硬化処理、光硬化処理が例示できる。熱反応性基を用いる場合には加熱処理を、光反応性基を用いる場合には光照射処理を通常行う。組成物により硬化条件は変わるが、熱反応性基を用いる場合には、例えば、180℃で60min程度処理することにより硬化物を得ることができる。同様に、光反応性基を用いる場合には、例えば、活性光線(例えば365nm)を架橋反応が充分に進行する光量で照射することにより硬化物を得ることができる。なお、本組成物をシート等の所望の形状に成形する際に、その一部が硬化反応し得るが、更に硬化処理すれば硬化し得る状態は、ここでいう硬化物には含まない。樹脂組成物の段階で、成分の一部が半硬化したBステージの状態であってもよい。
【0015】
本組成物は上記構成を有しているので、基板加工プロセスにおいて、基板凹凸への埋め込み性に優れ、ヒートサイクル耐性およびめっき液耐性に優れる、基板加工適性の高い樹脂組成物を提供できる。その主たる理由は、硬化物としたときに比較的高いガラス転移温度となる樹脂組成物の配合成分に、柔軟性が高く且つ特定範囲のMwを有するポリイミド樹脂(A)を配合すると共に、ポリイミド樹脂(A)のアミノ基、酸無水物基およびマレイミド基の合計の平均官能基数が0を含む1以下とすることにより、硬化前の流動性を高めると共に、硬化後の応力緩和効果を引き出すことができたことによると考えられる。
【0016】
また、本組成物は上記構成を有しているので、その硬化物の長期耐熱性が優れる。その主たる理由は、硬化物としたときに比較的高いガラス転移温度となる樹脂組成物の配合成分として熱伝導性フィラー(C)を添加し、更に、ダイマー構造を有し、且つ平面性の高いイミド基を有する、耐熱性に優れた上記構成のポリイミド樹脂(A)を組合せたことによると考えられる。
【0017】
更に、本組成物は上記構成を有しているので、その硬化物の曲げ強度が優れる。その主たる理由は、硬化物としたときに比較的高いガラス転移温度となる樹脂組成物に、炭化水素鎖や環構造を有している、分子鎖間の相互作用が少ないダイマー構造と、適度な柔軟性を有し(上記特定範囲の貯蔵弾性率を有し)、更に、Mwを上記特定範囲とするポリイミド樹脂(A)を配合したことによると考えられる。硬化により剛直となる硬化性化合物(B)に、このようなポリイミド樹脂(A)を配合することにより硬化物に応力緩和性を付与し、硬化性化合物(B)および熱伝導性フィラー(C)を配合している組成物においても破壊靭性を付与できたものと考えられる。以下、本組成物の各成分および製造方法について詳細に説明する。
【0018】
1-1.ポリイミド樹脂(A)
ポリイミド樹脂(A)は、ダイマージアミンおよび/又はダイマージイソシアネートに由来する残基Xdを有する。また、ポリイミド樹脂(A)は、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基から選択される官能基の合計の平均官能基数が0を含む1以下とする。更に、ポリイミド樹脂(A)は、貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度が-30~90℃のいずれかにあり、Mwが10,000~100,000の範囲にある。
【0019】
ダイマージアミンは、例えば、ダイマー酸のカルボキシ基をアミノ基に転化することにより得られる。ダイマージイソシアネートは、例えば、ダイマー酸のカルボキシ基をイソシアネート基に転化することにより得られる。ここでダイマー酸とは、不飽和脂肪族カルボン酸の二量体又はその水添物をいう。例えば、大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、菜種油脂肪酸等の天然の脂肪酸、或いはリノレン酸、リノール酸、オレイン酸、エルカ酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、エライジン酸、ステアロール酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、ブラシジン酸、ネルボン酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ミード酸、ジホモ-γ-リノレン酸、エイコサトリエン酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、セトレイン酸、アドレン酸、ボセオペンタエン酸、オズボンド酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸およびニシン酸等の不飽和脂肪酸を二量化してダイマー酸を得ることができる。不飽和結合を必要に応じて水添し、不飽和度を低下させてもよい。不飽和度を下げたダイマージアミンおよびダイマージイソシアネートは、耐酸化性(特に高温域における着色)や合成時のゲル化抑制の点で好適である。
【0020】
ダイマー酸は、炭素数20~60の化合物が好ましく、炭素数24~56の化合物がより好ましく、炭素数28~48の化合物が更に好ましく、炭素数36~44の化合物が更に好ましい。脂肪酸をディールス-アルダー反応させた分岐構造を有するジカルボン酸化合物が好ましい。前記分岐構造は、脂肪鎖および環構造が好ましく、環構造がより好ましい。前記環構造は、1又は2以上の芳香環や脂環構造が好ましく、脂環構造がより好ましい。環構造が2つの場合、2つの環が独立していても、連続していてもよい。ダイマージアミンおよびダイマージイソシアネートは一種又は複数種の化合物を用いることができる。脂環構造は、環内に二重結合を1つ又は複数有する場合、二重結合を有さない場合などがある。ダイマー酸のカルボキシ基をアミノ基に転化する方法は、例えば、カルボン酸をアミド化させ、ホフマン転位によりアミン化させ、更に蒸留・精製を行う方法が挙げられる。また、ダイマー酸のカルボキシ基をジイソシアネート基に転化する方法は、例えば、カルボン酸からクルチウス転位によりイソシアネート化させる方法が挙げられる。
【0021】
ダイマージアミン中のアミノ基、或いはダイマージイソシアネート中のイソシアネート基は、環構造に直接結合していてもよいが、溶解性向上、柔軟性向上の観点から、当該アミノ基は脂肪族鎖を介して環構造と結合していることが好ましい。アミノ基又はイソシアネート基と環構造との間の炭素数は2~25であることが好ましい。脂肪族鎖の好適例として、アルキレン基等の鎖状炭化水素基が例示できる。好適な例として、当該2つのアミノ基又はイソシアネート基が、それぞれアルキレン基を介して環構造と結合している化合物が例示できる。
【0022】
なお、ダイマージアミン或いはダイマージイソシアネートを得るためのダイマー酸(多塩基酸)の具体例として、下記化学式(d1)~(d4)が挙げられる。これらは一例であり、ダイマー酸は下記構造に限定されない。
【0023】
【化2】
【0024】
ダイマージアミンおよびダイマージイソシアネートは、炭素数20~60の化合物が好ましく、炭素数24~56の化合物がより好ましく、炭素数28~48の化合物が更に好ましく、炭素数36~44の化合物が更に好ましい。かかる炭素数は、入手し易さの観点で好ましい。
【0025】
ダイマージアミンの市販品は、例えば、クローダジャパン社製の「プリアミン1071」、「プリアミン1073」、「プリアミン1074」、「プリアミン1075」や、BASFジャパン社製の「バーサミン551」等が挙げられる。
【0026】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、ポリイミド樹脂(A)1分子中に、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基の合計官能基数を平均で1以下とすることにより、基板加工適性を良好にできることがわかった。ポリイミド樹脂(A)においてアミノ基、酸無水物基およびマレイミド基の合計の平均官能基数が1以下(0を含む)であることにより、これらの基を介してポリイミド樹脂(A)が架橋構造の内部に取り込まれる構造を抑制できる。換言すると、これらの基を介したポリイミド樹脂(A)の硬化性化合物(B)との結合を平均一箇所以下とすることができる。その結果、硬化処理前の段階で流動性を高め、基板に形成された配線等の回路基板などの凹凸への埋め込み性を優れたものとしつつ、硬化処理後のポリイミド樹脂(A)の応力緩和性・分散性を向上させ、硬化物のめっき液耐性ならびに長期耐熱性を効果的に高めることができる。基板加工適性をより向上させる観点からは、ポリイミド樹脂(A)1分子中の合計の平均官能基数を1以下(0を含む)とする基として、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基に加えてカルボキシ基を含めることがより好ましい。即ち、アミノ基、酸無水物基、カルボキシ基およびマレイミド基から選択される官能基の合計の平均官能基数が0を含む1以下とすることがより好ましい。この場合の平均官能基数は、ポリイミド樹脂(A)の1分子あたりのアミノ基、酸無水物基、カルボキシ基およびマレイミド基から選択される官能基の合計の平均官能基数とする。
【0027】
硬化性化合物(B)としてエポキシ化合物(b1)を用いると、エポキシ基の反応性の高さにより硬化処理を行う前の段階で架橋形成がすすみやすくなる。本組成物によれば、ポリイミド樹脂(A)1分子中に、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基(以下、アミノ基等ともいう)の合計官能基を平均で1以下とすることにより、硬化処理前の段階における架橋反応を抑制し、基板に形成された配線等の回路基板などの凹凸への埋め込み性不良を効果的に改善できる。一方、硬化性化合物(B)としてエポキシ化合物(b1)に比べて反応性が低いシアネートエステル化合物(b2)、マレイミド化合物(b3)、ポリフェニレンエーテル化合物(b4)および/又はナジイミド化合物(b5)を用いる場合には、硬化処理後の硬化物にポリイミド樹脂(A)の酸無水物基やアミノ等が残存しやすい。本組成物によれば、ポリイミド樹脂(A)1分子中に、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基の合計官能基を平均で1以下とすることにより、硬化後に残存するアミノ基等の数を低減でき、酸耐性などのめっき液耐性が優れたものとなる。更に、本組成物によれば、マレイミド基の官能基数を前記範囲とすることにより、ポリイミド樹脂(A)の架橋部位周辺の架橋密度が高くなることを抑制し、ポリイミド樹脂(A)の応力緩和性を適切に維持し、硬化物のヒートサイクル耐性を良好に保つことができる。
【0028】
ポリイミド樹脂(A)は、貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度が-30~90℃のいずれかにある。この範囲とすることにより、柔軟性の高いポリイミド樹脂(A)を得ることができる。曲げ強度と長期耐熱性の観点からは、30~80℃のいずれかに貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度があることがより好ましく、30~70℃のいずれかに貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度があることが更に好ましい。
【0029】
熱伝導性フィラー(C)を含有することにより、放熱性に優れた成形物が得られる。その一方で、塗膜形成時には空隙の発生はそれほど問題にならないが、プリプレグを作製する場合には、熱伝導性フィラー(C)を含有させることにより空隙が生じやすくなる。この問題は、温度が低くなるにつれて、また、熱伝導性フィラー(C)の含有量が多くなるにつれて生じやすくなる。本発明者ら検討を重ねた結果、貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度が-30℃以上、30℃未満であるポリイミド樹脂(A)を含有させることにより、熱伝導性フィラー(C)を含む樹脂組成物を用いてプリプレグを形成する場合であっても空隙の発生をより効果的に抑制できることがわかった。換言すると、低温領域で低弾性のポリイミド樹脂(A)を用いることで、比較的低温の乾燥温度においてもプリプレグ作製時に空隙を効果的に埋めることができたと考えられる。プリプレグの乾燥温度を低下させる観点からは、貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度が-15℃以上、27℃未満のポリイミド樹脂(A)が好ましく、-5℃以上、27℃未満であることが更に好ましい。乾燥温度を低減させることにより環境負荷低減を図ることができる。なお、ここでいう乾燥温度とは、硬化物にするための温度ではなく、樹脂組成物の揮発成分を除去するための温度をいい、樹脂組成物の一部が硬化しているBステージを含み得る。ここで「乾燥温度」は揮発成分の沸点より高温以上であって、且つ空隙が生じない温度をいう。
【0030】
貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度が-30~90℃のいずれかにあるポリイミド樹脂(A)は、繰り返し構造単位となる単量体の種類、およびMwにより調整できる。具体的には、単量体としてダイマー構造などの柔軟性を有する単量体と、脂肪族(脂環式骨格含む)を有する構造を組み合わせることにより貯蔵弾性率G’が低下する傾向にあり、逆に平面性の高い芳香族骨格にイミド構造が直接結合した構造を組み合わせると貯蔵弾性率G’が大きくなる傾向にある。また、Mwを低下させることにより、貯蔵弾性率G’が低下する傾向にある。剛直なポリイミド樹脂、例えば、ピロメリット酸無水物とジアミノビフェニルよりなるポリイミド樹脂の90℃の貯蔵弾性率G’は凡そ1.0×10であり、柔軟なポリイミド樹脂、例えば、ダイマージアミンと1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物よりなるポリイミド樹脂の90℃の貯蔵弾性率G’は凡そ1.0×10である。
【0031】
ポリイミド樹脂(A)のMwは10,000~100,000とする。10,000以上であることで、硬化物中の熱伝導性フィラー(C)の含有量を多くしても他の部材との接着性を良好に保ち、高品質な硬化物を提供できる。また、100,000以下とすることで長期耐熱性を高めることができる。より好ましい範囲は15,000~80,000であり、更に好ましい範囲は20,000~75,000である。
【0032】
ポリイミド樹脂(A)の配合量は任意であるが、硬化物の曲げ強度を高め、また、基板加工適性(特にヒートサイクル耐性)をより優れたものとするために、本組成物の不揮発成分(固形分)100質量%に対し1~40質量%含まれていることが好ましい。前記範囲は、7~27質量%がより好ましく、9~19質量%が更に好ましい。
【0033】
ポリイミド樹脂(A)として、一般式(1):
【化3】
(Xは繰り返し単位毎にそれぞれ独立に4価の有機基であり、Xは繰り返し単位毎にそれぞれ独立に2価の有機基であり、前記Xとイミド結合が互いに結合して2つのイミド環を形成する。)で表される構造の繰り返し単位を有するものが好適である。Xの具体例としてテトラカルボン酸残基、Xの具体例としてジアミン残基、ジイソシアネート残基が挙げられる。
【0034】
本明細書において「テトラカルボン酸残基」とは、テトラカルボン酸、並びにテトラカルボン酸二無水物およびテトラカルボン酸ジエステル等のテトラカルボン酸誘導体(以下、これらを「テトラカルボン酸類」という)に由来する基をいう。また、「ジアミン残基」は、ジアミン(ジアミン化合物)に由来する基であり、「ジイソシアネート残基」とはジイソシアネート(ジイソシアネート化合物)に由来する残基をいう。
【0035】
「イミド結合」とは、1つの窒素原子と2つのカルボニル結合(C=O)からなるものとし、イミド結合と式(1)中のXの一部が互いに結合してイミド環を形成する。「イミド環」は、イミド結合を有する環であり、1つの環を形成する元素数が4以上、7以下である。好適には5又は6である。イミド環は他の環と縮合していてもよい。また、「酸無水物基」とは、-C(=O)-O-C(=O)-で表される基を意味し、「酸無水物環」は、酸無水物基と炭素元素が結合して形成された環をいう。
【0036】
ポリイミド樹脂(A)は、硬化性化合物(B)に対する反応性官能基を有していても有していなくてもよい。反応性官能基として、前述したアミノ基、酸無水物基、カルボキシ基、マレイミド基の他、フェノール性水酸基が挙げられる。反応性官能基を有しないポリイミド樹脂(A)を用いた場合、硬化性化合物(B)との架橋構造は形成されないが、硬化物としたときに比較的高いガラス転移温度となる樹脂組成物の配合成分に、柔軟性が高く且つ特定範囲のMwを有するポリイミド樹脂(A)を配合することにより、硬化前の流動性を高めると共に、硬化後の応力緩和効果を引き出すことができると考えられる。また、フェノール性水酸基を有するポリイミド樹脂(A)は、フェノール性水酸基を有する芳香環とイミド環との相互作用を高めつつ、ダイマー由来の柔軟構造を組み合わせることにより、硬化前の流動性を高めると共に、硬化後の応力緩和効果を引き出すことができると考えられる。
【0037】
フェノール性水酸基とは、芳香環に直接結合している水酸基をいう。芳香環の好適例として、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環が例示できる。フェノール性水酸基は、分子鎖末端、側基、側鎖のいずれかに導入する他、これらを任意に組み合わせることができる。なお、分子鎖末端とは、ポリイミド樹脂(A)の分子鎖を構成する繰り返し構造単位のうち末端にあるもの、或いはその末端に連結された非繰り返し構造をいう。
【0038】
ポリイミド樹脂(A)のフェノール性水酸基価は、1~50mgKOH/gが好適である。この範囲とすることにより、架橋密度を適切なものとし、基板加工適性、特にめっき液耐性(耐アルカリ性および耐酸性)をより効果的に高めることができる。また、前記フェノール性水酸基価とすることにより、架橋密度を適切にして応力緩和効果を引き出すことができる。フェノール性水酸基価は3~40mgKOH/gであることがより好ましく、10~30mgKOH/gであることが更に好ましい。フェノール性水酸基価は、フェノール性水酸基を有するモノマーの仕込み量、分子鎖末端へのフェノール性水酸基の導入率、および/又は側鎖へのフェノール性水酸基の導入率により調整できる。
【0039】
ポリイミド樹脂(A)の分子鎖末端にフェノール性水酸基を導入するには、酸無水物末端ポリイミド樹脂を合成した後、一般式(3)で表されるフェノール性水酸基を有するアミン化合物を更に反応させる方法が例示できる。酸無水物末端ポリイミド樹脂をカルボン酸末端ポリイミド樹脂に代えて、同様の方法によりフェノール性水酸基を導入してもよい。
【化4】
一般式(3)中のArは、置換基を有していてもよい芳香族基である。置換基としては、炭素数1~10のアルキル基、フルオロアルキル基およびハロゲン原子が例示できる。後述する一般式(4)、(5)のArおよび置換基についても同様である。
【0040】
また、アミノ基末端ポリイミド樹脂を合成した後、一般式(4)で表されるフェノール性水酸基を有する酸無水物化合物、又は一般式(5)で表されるフェノール性水酸基を有するカルボン酸化合物を更に反応させ、末端にフェノール性水酸基を導入する方法が例示できる。
【0041】
【化5】
【化6】
【0042】
一般式(3)の具体例として、3-アミノフェノール、4-アミノフェノール、4-アミノ-o-クレゾール、5-アミノ-o-クレゾール、4-アミノ-2,3-キシレノール、4-アミノ-2,5-キシレノール、4-アミノ-2,6-キシレノール、4-アミノ-1-ナフトール、5-アミノ-2-ナフトール、6-アミノ-1-ナフトール、4-アミノ-2,6-ジフェニルフェノールが例示できる。一般式(4)の具体例として、3-ヒドロキシフタル酸無水物、4-ヒドロキシフタル酸無水物等が挙げられる。また、一般式(5)の具体例として、サリチル酸、オキシ安息香酸が例示できる。一般式(3)~(4)では水酸基が1つの例を挙げたが、Arに水酸基が2つ以上結合している化合物を用いてもよい。
【0043】
硬化物の基板加工適性、特にヒートサイクル耐性を効果的に向上させる観点からは、以下の(i)および(ii)の少なくとも一方を満たすフェノール性水酸基を有するポリイミド樹脂(A)が好適である。
(i)分子鎖末端にフェノール性水酸基を有し、当該フェノール性水酸基を有する芳香環のメタ位又はオルト位に、モノアミン由来のイミド環を形成する窒素原子が結合する。
(ii)分子鎖末端にフェノール性水酸基を有し、当該フェノール性水酸基を有する芳香環に直結する脂肪族基を有し、当該脂肪族基に、モノアミン由来のイミド環を形成する窒素原子が結合する。
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、分子鎖末端のフェノール性水酸基の周辺構造は、架橋点周辺の構造となるため、応力緩和への影響が大きいことがわかった。水酸基とアミノ基の位置がオルト位又はメタ位にある(i)の構造を有することにより、イミド環と別のイミド環との相互作用が低減されて、応力緩和性が向上すると考えられる。また、アミノ基が、芳香環に直結せずに脂肪族基を介して結合する(ii)の構造を有することにより、イミド環と別のイミド環との相互作用が低減されて、応力緩和性が向上すると考えられる。
【0044】
上記(i)および(ii)を満たす分子鎖末端を得るために、酸無水物基末端ポリイミド樹脂又はカルボキシ基末端ポリイミド樹脂の末端封止に用いるフェノール性水酸基を有するモノアミン化合物として、以下の化合物が例示できる。即ち、m-アミノフェノール、o-アミノフェノール、2-アミノ-5-エチルフェノール、2-(1-アミノエチル)フェノール、3-(2-アミノエチル)フェノール、4-(2-アミノエチル)フェノール、2-(2-アミノエチル)フェノール、2-(2-アミノメチル)フェノール、3-(2-アミノメチル)フェノール、2-(2-アミノメチル)フェノール、3-(2-アミノメチル)フェノール、4-(2-アミノプロピル)フェノール等が例示できる。
【0045】
ポリイミド樹脂(A)の分子鎖末端の官能基を実質的に全てフェノール性水酸基とすることができる。また、フェノール性水酸基末端の他、官能基を有しない分子鎖末端を含んでいてもよい。また、フェノール性水酸基末端の他、他の官能基(酸無水物基等)を有する分子鎖末端を有していてもよい。
【0046】
官能基を有しない分子鎖末端とフェノール性水酸基末端を有するポリイミド樹脂(A)は、例えば、酸無水物末端ポリイミドに対し、一般式(3)のアミン化合物と、末端封鎖用のモノアミン化合物を特定比率で混合して、末端封止反応を行うことにより得られる。また、アミン末端ポリイミドに対し、一般式(4)および/又は(5)の化合物と、末端封鎖用の酸無水物化合物および/又はカルボン酸化合物を特定比率で混合して末端封止反応を行うことにより得てもよい。これらの方法によれば、ポリイミド樹脂(A)の分子鎖末端のフェノール性水酸基の量を容易に調整することができる。
【0047】
末端封鎖用のモノアミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミンおよびジブチルアミン等の脂肪族アミン;シクロヘキシルアミンおよびジシクロヘキシルアミン等の脂環族アミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミンおよびナフチルアミン等の芳香族アミン、並びにこれらの任意の混合物が例示できる。
【0048】
末端封鎖用の酸無水物としては、無水フタル酸、2,2’-ビフェニルジカルボン酸無水物、1,2-ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、1.8-ナフタレンジカルボン酸無水物、1,2-アントラセンジカルボン酸無水物、2,3-アントラセンジカルボン酸無水物、L9-アントラセンジカルボン酸無水物等が挙げられる。フェノール性水酸基を有しないカルボン酸としては、上記フェノール性水酸基を有するカルボン酸からフェノール性水酸基を除いた構造を有するカルボン酸が挙げられる。
【0049】
フェノール性水酸基末端と他の官能基末端を有するポリイミド樹脂(A)は、例えば、酸無水物末端ポリイミドに対し、一般式(3)のアミン化合物と、他の官能基を有するモノアミン化合物を特定比率で混合して、末端封止反応を行うことにより得られる。アミン末端ポリイミドにおいても同様に、一般式(4)および/又は(5)の化合物と、他の官能基を有する酸無水物化合物および/又はカルボン酸化合物を特定比率で混合して末端封止反応を行うことにより得られる。この方法によれば、ポリイミド樹脂(A)の分子鎖末端のフェノール性水酸基および他の官能基の量を調整することができる。他の官能基は特に限定されない。例えば、ニトロ基、シアノ基が例示できる。
【0050】
他の官能基が酸無水物基の場合には、酸無水物末端ポリイミドを合成後、末端の一部にフェノール性水酸基を有するアミン化合物を反応させ、酸無水物末端の一部をフェノール性水酸基に変換してもよい。同様に、他の官能基がアミノ基の場合には、アミノ基末端ポリイミドを合成後、末端の一部にフェノール性水酸基を有する酸無水物基を一つ有する化合物を反応させる方法により合成してもよい。
【0051】
上記においては、ポリイミド樹脂を合成し、次いで分子鎖末端とする化合物を反応させる例を挙げたが、ポリイミド樹脂を合成する単量体と共に分子鎖末端に導入する化合物を混合し、重合することによりポリイミド樹脂(A)を合成してもよい。この方法によれば合成工程の簡略化を図ることができる。
【0052】
めっき液耐性(耐アルカリ、耐酸性)をより優れたものとする観点から、全官能基価(合計)に対するフェノール性水酸基価の割合は、50~100%が好ましく、70~100%であることがより好ましい。ポリイミド樹脂(A)にフェノール性水酸基を導入することにより、フェノール性水酸基を有する芳香環とイミド環との相互作用を高めつつ、ダイマー由来の柔軟構造を有するポリイミド樹脂(A)の内部応力緩和をより効果的に発揮できる。フェノール性水酸基を含まない場合は、めっき液耐性(耐アルカリ、耐酸性)をより優れたものとする観点から、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基の合計の平均官能基の量が少ないことが望ましく、カルボキシ基、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基の合計の平均官能基の量が少ないことがより望ましい。具体的には、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基の合計の平均官能基の量が0を含む0.5以下であることが好ましく、0を含む0.3以下であることがより好ましい。また、カルボキシ基を含むポリイミド樹脂(A)の場合には、カルボキシ基、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基の合計の平均官能基の量が0を含む0.5以下であることがより好ましく、0を含む0.3以下であることが更に好ましい。
【0053】
ポリイミド樹脂(A)の側鎖および/又は側基にフェノール性水酸基を導入するには、フェノール性水酸基を有するジアミン、ジイソシアネートなどの有機化合物および/又はフェノール性水酸基を有するテトラカルボン酸類を用いる方法が好適である。また、ポリイミド樹脂を合成後、フェノール性水酸基を有する化合物を側鎖に導入してもよい。
【0054】
フェノール性水酸基を有するジアミンの好適例として、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシ)ビフェニル、2,2’-ジトリフルオロメチル-5,5’-ジヒドロキシル-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-5,5’-ジヒドロキシベンジジンなどの芳香族ジアミンが挙げられる。また、これらの化合物の任意の位置に置換基が導入されていてもよい。
【0055】
また、下記一般式(6)で示すジアミンを用いてもよい。
【化7】
【0056】
式中Rは、直接結合、又は炭素、水素、酸素、窒素、硫黄、又はハロゲンを含む基を示す。前記基は、例えば、炭素数1~30の2価の炭化水素基又はハロゲン原子によって水素の一部若しくは全部が置換されている炭素数1~30の2価の炭化水素基、-(C=O)-、―SO-、-O-、-S-、―NH-(C=O)-、―(C=O)-O-、下記一般式(7)で表される基および下記一般式(8)で示す基が挙げられる。式中、rおよびsはそれぞれ独立に1~20の整数を示し、Rは水素原子又はメチル基を示す。
【0057】
【化8】
【0058】
【化9】
【0059】
一般式(6)で示すジアミンは、例えば2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、9,9-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジヒドロキシビスフェニル等が挙げられる。
【0060】
フェノール性水酸基を有するテトラカルボン酸類の好適例として、後述する芳香族系のテトラカルボン酸類の芳香族基の置換基に水酸基を有する化合物が例示できる。
【0061】
これらの中でも、めっき液耐性をより効果的に向上させる観点からは、以下の(iii)および(iv)の少なくともいずれかを満たすフェノール性水酸基を含むジアミンが好適である。
(iii)一般式(1)中のXの一部が、フェノール性水酸基を含むジアミン残基Xfであり、当該フェノール性水酸基を有する芳香環に、前記イミド環を形成するジアミン由来の窒素原子が結合する。
(iv)一般式(1)中のXの一部が、フェノール性水酸基を有するジアミン残基Xfであり、当該フェノール性水酸基を有する芳香環に直結する脂肪族基を有し、当該脂肪族基に、前記イミド環を形成するジアミン由来の窒素原子が結合する。
上記(iii)又は(iv)の少なくとも一方を満たすフェノール性水酸基を有することにより、本組成物の硬化物のめっき液耐性をより効果的に高めることができる。硬化性化合物(B)との架橋点をポリイミド樹脂(A)の側基とすることにより、効果的に架橋構造を形成できる。
【0062】
上記(iii)又は(iv)を満たすジアミンの好適例として以下の一般式(9)、(10)が挙げられる。式(9)においてnは1~10の整数である。
【化10】
【0063】
【化11】
【0064】
一般式(1)中のXは、前述したように、繰り返し単位毎にそれぞれ独立の構造を有していてよい4価のテトラカルボン酸残基である。Xを得るための重合に用いるテトラカルボン酸類は特に限定されない。テトラカルボン酸類として、芳香族基を含む芳香族テトラカルボン酸類、脂肪族基を含む脂肪族テトラカルボン酸類、および芳香族基と脂肪族基を含むテトラカルボン酸類が好適に用いられる。なお、脂肪族基とは、炭化水素基であって、鎖状、分岐鎖状、環状(脂環式構造)又はこれらの組み合わせをいう。脂肪族基は不飽和結合を含んでいてもよい。また、脂肪族基は、窒素、酸素、硫黄、セレン、フッ素、塩素、臭素などのヘテロ原子を含んでいてもよい。テトラカルボン酸類は単独で用いても二種以上を併用してもよい。また、上記単量体の例は、適宜、置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等が例示できる。
【0065】
芳香族テトラカルボン酸類としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、以下の一般式(11)で表されるジフタル酸に無水物が例示できる。
【化12】
式中のXは、2価の置換基を有していてもよい有機基(例えば炭素数1~10の炭化水素基)、-O-、-CO-、-SO-、-S-、-SO-、-CONH-、-COO-、又は-OCO-、-C(CF-、-COO-Z-OCO-、-O-Ph-C(CH-Ph-O-等の連結基を示す。前記Zは例えば-C-、-(CH-、-CH-CH(-O-C(=O)-CH)-CH-が例示できる。これらは、置換基を含んでいてもよい。前記置換基としては、アルキル基、ハロゲン、カルボニル基等が例示できる。後述するテトラカルボン酸においても同様である。具体例としては、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、2,2-ビス〔4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートが例示できる。
【0066】
ポリイミド樹脂(A)の一般式(1)中のXの構造は限定されないが、貯蔵弾性率を調整しつつ、ダイマー構造と相乗的に応力緩和効果を引き出して、基板加工適性をより優れたものとする、具体的には、曲げ強度やヒートサイクル耐性をより向上させる観点から、脂肪族基を有するXaを含むことが好ましい。Xaは、脂肪族基を有していればよく、芳香族基が含まれていてもよい。
【0067】
脂肪族基を有するテトラカルボン酸類としては、芳香族基を含んでいてもよい、鎖状炭化水素構造および/又は脂環式炭化水素構造がある。「鎖状炭化水素構造」は、不飽和結合を有していてもよい、直鎖状炭化水素構造および/又は分岐状炭化水素構造である。また、「脂環式炭化水素構造」は、不飽和結合を有していてもよい、脂環式炭化水素であり、単環であっても多環であってもよい。これらは、置換基を含んでいてもよい。
【0068】
脂肪族基を有するテトラカルボン酸類の具体例として、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5-ペンタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-ヘキサンテトラカルボン酸、1,2,5,6-ヘキサンテトラカルボン酸等の鎖状炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物が例示できる。
また、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、1-カルボキシメチル-2,3,5-シクロペンタントリカルボン酸、3-カルボキシメチル-1,2,4-シクロペンタントリカルボン酸、rel-ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカ-9-エン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、5-カルボキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,6-トリカルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ-7-エン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,7-テトラカルボン酸、7,8-ジフェニルビシクロ[2.2.2]オクタ-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、4,8-ジフェニル-1,5-ジアザビシクロオクタン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、9-オキサトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、9,14-ジオキソペンタシクロ[8.2.11,11.14,7.02,10.03,8]テトラデカン-5,6,12,13-テトラカルボン酸等のシクロ、ビシクロ、トリシクロテトラカルボン酸;2,8-ジオキサスピロ[4.5]デカン-1,3,7,9-テロトン等のスピロ環含有テトラカルボン酸;5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物等の脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物が例示できる。
【0069】
脂肪族基を有するXaのうちでも、応力緩和をより効果的に発揮させる観点からは、以下の(I)および(II)の少なくとも一方を満たす構造Sを有することが好ましい。
(I)前記イミド環を構成する前記X中の炭素の少なくとも一つが、他方の前記イミド環を構成する前記X中の炭素の少なくとも一つと互いに直結する。
(II)2つの前記イミド環それぞれを構成する、前記X中の炭素の少なくとも一つが、それぞれ独立に、脂肪族構造と直結する構造を有する、および構成元素の一つとなる脂肪族構造を含む、のいずれかを満たす。
上記(I)を満たす具体例として、化学式(I-a)~(I-d)が例示できる。なお、化学式(I-b)~(I-d)は上記(II)を満たす化合物でもある。式中の*は、イミド基との結合部位を示す。
【化13】
【0070】
上記(II)を満たす具体例として、化学式(II-a)~(II-v)が例示できる。
【0071】
【化14】
【0072】
イミド環を形成するX中の炭素が、脂肪族構造である鎖状炭化水素構造に直結する構造Sを有するXaの例として、化学式(II-a)、(II-v)で表される化合物が例示できる。イミド環を形成するX中の炭素が、構成元素の一つとなる脂肪族構造のうちの脂環式炭化水素構造を含む構造Sを有するXaの例として、化学式(II-b)で表される化合物が例示できる。また、一方のイミド環を形成するXの炭素が、脂肪族構造のうちの脂環式炭化水素構造に直結し、他方のイミド環を形成するX中の炭素が、構成元素の一つとなる脂肪族構造のうちの脂環式炭化水素構造を含む構造Sを有するXaの例として、化学式(II-c)が例示できる。なお、2つのイミド環がそれぞれ独立に、上記(I)および(II)の少なくともいずれかを満たしていればよく、化学式(II-d)に示すように芳香環が含まれていてもよい。
【0073】
脂肪族基を有するXaの割合は、ポリイミド樹脂(A)を構成するX100モル%に対して、60~100モル%が好適であり、より好ましい範囲は75~100モル%、更に好ましい範囲は85~100モル%である。脂肪族基を有するXaを60~100モル%用いることにより、ヒートサイクル耐性(基板加工適正)がより優れたものとなる。脂肪族基を有するXaの割合は、ポリイミド樹脂(A)を合成する際に使用する原料モノマーのうち、X残基となる全単量体100モル%中に対する、脂肪族基を有するXaが残基となる単量体の含有率(モル%)より求めることができる。通常、ポリイミド樹脂(A)の重合に用いるテトラカルボン酸類である単量体100モル%中、脂肪族基を有するXaを含む単量体の仕込み率を60~100モル%とすることにより、ポリイミド樹脂(A)の単量体に由来する構成成分の割合とすることができる。
【0074】
一般式(1)中のXは、前述したように、繰り返し単位毎にそれぞれ独立の構造を有していてもよい2価の有機基である。Xを得るための重合に用いる有機化合物の好適例として、前述したようにジアミン、ジイソシアネートが例示できる。Xの少なくとも一部は、ダイマージアミンおよび/又はダイマージイソシアネートに由来する残基Xdである。
【0075】
ダイマー構造を有するXdの割合は、ポリイミド樹脂(A)を構成するX全体を100モル%としたときに60~100モル%が好ましい。この範囲とすることにより、ポリイミド樹脂(A)のパッキングを適度に阻害し、硬化性化合物(B)および熱伝導性フィラー(C)との分散性を効果的に高め、基板加工適性および曲げ強度の両者をバランスよく兼ね備えることができる。より好ましい範囲は75~100モル%であり、更に好ましい範囲は85~100モル%である。ダイマー構造を有するXdの割合は、ポリイミド樹脂(A)を合成する際に使用する原料モノマーのうち、X残基となる全単量体100モル%中に対する、ダイマー構造を有するXdが残基となる単量体の含有率(モル%)より求めることができる。
【0076】
ポリイミド樹脂(A)の一般式(1)中のXにおいて、上述したダイマー構造を有する残基Xdを形成する単量体以外のXの単量体となるその他のジアミンは、特に限定されない。具体的には、置換基を有していてもよい、脂肪族基(不飽和結合が含まれていてもよい、鎖状炭化水素構造および/又は脂環式炭化水素構造)、芳香環およびこれらを任意に組み合わせたジアミン化合物がある。
【0077】
ダイマー構造以外のジアミンの具体例として、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、2,3-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノトルエン、3,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノ-1,2-ジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミン等の脂肪族ジアミン;イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’―ジアミノジシクロヘキシルメタン、ピペラジン等の脂環族ジアミンが挙げられる。
【0078】
また、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシ)ビフェニル、2,2’-ジトリフルオロメチル-5,5’-ジヒドロキシル-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-5,5’-ジヒドロキシベンジジンなどのフェノール性水酸基を有するジアミンが挙げられる。上記ジアミンの任意の位置に、任意の置換基が導入されていてもよい。
【0079】
ポリイミド樹脂(A)には、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、X残基、X残基以外の単量体に由来する残基が含まれていてもよい。例えば、アミノ基を3以上有するポリアミン化合物を用いてもよい。アミノ基を3つ以上有するポリアミン化合物としては、例えば、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,4,4’-トリアミノジフェニルエーテルが挙げられる。
【0080】
ポリイミド樹脂(A)は、各種公知の方法により製造できる。具体例として、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸樹脂、又はポリアミド酸エステル樹脂を加熱により環化してイミド基に変換する方法が挙げられる。ポリアミド酸樹脂の合成法は、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを反応させる方法がある。より具体的には、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを含む単量体を溶媒に溶解させて例えば60~120℃の温度で0.1~2時間撹拌して、重合させることでポリイミド前駆体であるポリアミド酸樹脂を製造できる。
【0081】
ポリイミド樹脂(A)において、アミノ基、酸無水物基およびマレイミド基から選択される官能基の合計の平均官能基数が0を含む1以下とする方法は、単官能化合物の反応により末端官能基数を調整する方法が好適である。アミノ基、酸無水物基は単量体由来で導入することができる。マレイミド基は、マレイミド基含有化合物を分子鎖末端や側鎖に導入する方法や、末端アミン化合物に無水マレイン酸を反応させる方法がある。マレイミド基やフェノール性水酸基を導入する場合、ポリアミド酸樹脂を合成する段階で導入しても、ポリイミド樹脂を得てから導入してもよい。後述するポリアミド酸エステル樹脂を経由する場合も同様である。側鎖又は側基にアミノ基、酸無水物基およびマレイミド基を導入してもよい。フェノール性水酸基においても同様に側鎖又は側基に導入してもよい。側鎖・側基にこれらの官能基を導入する場合、ポリイミド樹脂(A)を重合するための単量体にこれらの官能基を有する化合物を用いる方法、ポリイミド樹脂前駆体又はポリイミド樹脂を合成した後に、側鎖又は側基にフェノール性水酸基を導入する方法がある。
【0082】
ポリアミド酸エステル樹脂の合成法は、テトラカルボン酸二無水物とアルコールとによりジエステルを得、次いで縮合剤の存在下でジアミンと反応させる方法や、テトラカルボン酸二無水物とアルコールとによりジエステルを得、次いで、残りのジカルボン酸を酸クロリド化し、ジアミンと反応させる方法が例示できる。また、テトラカルボン酸二無水物とジイソシアネートを反応させてポリイミド前駆体を得、続いてポリイミド樹脂を得る方法も好適である。
【0083】
重合に用いる有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾールが例示できる。溶媒は単独若しくは二種以上を併用して用いられる。キシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。
【0084】
ポリイミド前駆体をイミド化させてポリイミド樹脂を得る方法は、特に制限されないが、溶媒中で、例えば、80~400℃の温度で0.5~50時間加熱する方法が例示できる。このとき、必要に応じて触媒および/又は脱水剤を用いてもよい。
【0085】
反応触媒として、トリエチルアミン等の脂肪族第3級アミン類、ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン類、ピリジン、ピコリン、イソキノリン等の複素環式第3級アミン類等が例示できる。また、脱水剤としては、例えば無水酢酸等の脂肪族酸無水物や無水安息香酸等の芳香族酸無水物が例示できる。
【0086】
イミド化率(イミド環の形成率)は限定されないが、耐アルカリ性および耐酸性(めっき液耐性)の効果を効果的に発揮させる観点からは80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95~100%であることが更に好ましい。NMRやIR分析等によりイミド化率を決定できる。
【0087】
1-2.硬化性化合物(B)
硬化性化合物(B)は、エポキシ化合物(b1)、シアネートエステル化合物(b2)、マレイミド化合物(b3)、ポリフェニレンエーテル化合物(b4)およびナジイミド化合物(b5)からなる群から選択される一種以上である。エポキシ化合物(b1)は、活性エステル系化合物と併用して用いてもよい。硬化性化合物(B)は、一種単独で用いる他、同種樹脂および異種樹脂を問わず、二種以上を組み合わせることができる。また、前記以外の硬化剤、および硬化促進剤を併用してもよい。
【0088】
本組成物中の熱伝導性フィラー(C)および溶剤を除く成分100質量%中、硬化性化合物(B)を10~98質量%用いることが好ましく、-30~90質量%用いることがより好ましく、45~85質量%用いることが更に好ましい。硬化性化合物(B)の平均官能基数は、同一骨格の硬化性化合物(B)毎に平均官能基数を算出するものとする。
【0089】
長期耐熱性をより効果的に向上させる観点からは、(b1)~(b5)のうちシアネートエステル化合物(b2)とマレイミド化合物(b3)の併用系、マレイミド化合物(b3)とポリフェニレンエーテル化合物(b4)の併用系が好適である。また、曲げ強度をより効果的に向上させる観点からは、マレイミド化合物(b3)とナジイミド化合物(b5)の併用系が好適である
【0090】
エポキシ化合物(b1)とは、エポキシ基を有する硬化性樹脂をいう。エポキシ化合物(b1)は、活性エステル系化合物を併用して用いることが好ましい。活性エステル系化合物とは、エポキシ基と反応するエステル基を1分子中に1個以上有し、エポキシ樹脂を硬化せしめる化合物をいう。活性エステル系化合物の市販品として、DIC社製「HPC-8000-65T」、「EXB9416-70BK」および「EXB8100-65T」等が例示できる。
【0091】
活性エステル系化合物を用いることにより、エポキシ化合物(b1)と活性エステル系化合物との反応によりエステル基が生じる。このため、フェノール系硬化剤を用いる場合に比べて極性を低くできる。その結果、ポリイミド樹脂(A)のダイマー構造とエポキシ化合物(b1)の相溶性を効果的に高めることができる。
【0092】
エポキシ化合物(b1)の具体例としては、グリジシルエーテル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、トリグリシジルメタアミノフェノール、又はテトラグリシジルメタキシリレンジアミン、ソルビトールポリグリシジルエーテル等のグリジシルアミン型エポキシ樹脂;ジグリシジルフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、又はジグリシジルテトラヒドロフタレート等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂、;エポキシシクロヘキシルメチル-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、又はビス(エポキシシクロヘキシル)アジペートなどの環状脂肪族(脂環型)エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂が例示できる。また、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、α-ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、テトラブロムビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂が例示できる。
【0093】
シアネートエステル化合物(b2)とは、シアネート基を有する硬化性樹脂をいう。シアネートエステル化合物(b2)としては、ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールF型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールE型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールS型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールスルフィド型シアネートエステル樹脂、フェニレンエーテル型シアネートエステル樹脂、ナフチレンエーテル型シアネートエステル樹脂、ビフェニル型シアネートエステル樹脂、テトラメチルビフェニル型シアネートエステル樹脂、ポリヒドロキシナフタレン型シアネートエステル樹脂、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂、クレゾールノボラック型シアネートエステル樹脂、トリフェニルメタン型シアネートエステル樹脂、テトラフェニルエタン型シアネートエステル樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型シアネートエステル樹脂、フェノールアラルキル型シアネートエステル樹脂、ナフトールノボラック型シアネートエステル樹脂、ナフトールアラルキル型シアネートエステル樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック型シアネートエステル樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック型シアネートエステル樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型シアネートエステル樹脂、ビフェニル変性ノボラック型シアネートエステル樹脂、アントラセン型シアネートエステル樹脂等が挙げられる。
【0094】
シアネートエステル化合物(b2)の市販品、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン社製「PT-30」および「PT-60」)、ビスフェノール型シアネートエステル樹脂が三量化されたプレポリマー(ロンザジャパン社製「BA-230S」、「BA-3000S」、「BTP-1000S」および「BTP-6020S」)等を用いてもよい。
【0095】
マレイミド化合物(b3)とは、マレイミド基を有する硬化性樹脂をいう。マレイミド化合物(b3)の種類は特に限定されない。長期耐熱性の観点から平均マレイミド基数が1.5~4であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。
【0096】
マレイミド化合物(b3)のMwは特に限定されないが、乾燥時の揮発抑制の観点から100以上であることが好ましく、150以上であることがより好ましい。Mwの上限値は特に限定されないが、入手容易性等を考慮すると8000以下、より好ましくは5000以下である。
【0097】
マレイミド化合物(b3)は、多官能アミンと無水マレイン酸を反応させて得られる多官能マレイミドを挙げることができる。多官能アミンとしては、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4′-ジアミン、ハンツマン・コーポレーション社製の、末端アミノ化ポリプロピレングリコール骨格を有するジェファーミンD-230、HK-511、D-400、XTJ-582、D-2000、XTJ-578、XTJ-509、XTJ-510、T-403、T-5000、末端アミノ化エチレングリコール骨格を有するXTJ-500、XTJ-501、XTJ-502、XTJ-504、XTJ-511、XTJ-512、XTJ-590末端アミノ化ポリテトラメチレングリコール骨格を有するXTJ-542、XTJ-533、XTJ-536、XTJ-548、XTJ-559などが挙げられる。
【0098】
マレイミド化合物(b3)として、4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、p-フェニレンビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、N,N'-エチレンジマレイミド、N,N'-ヘキサメチレンジマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)エーテル、ビス(4-マレイミドフェニル)スルホン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド等の分子内に2つのマレイミド基を有する樹脂、ビフェニルアラルキル型マレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド(CASNO:67784-74-1、ホルムアルデヒドとアニリンからなるポリマーと無水マレイン酸の反応物)、N,N’-(トルエン-2,6-ジイル)ビスマレイミド、4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、N,N’-エチレンビスマレイミド、N,N’-トリメチレンビスマレイミド、N,N’-プロピレンビスマレイミド、N,N’-テトラメチレンビスマレイミド、N,N’-ペンタメチレンビスマレイミド、N,N’-(1,3-ペンタンジイル)ビス(マレインイミド)、N,N’-ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’-(1,7-ヘプタンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,8-オクタンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,9-ノタンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,10-デカンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,11-ウンデカンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,12-ドデカンジイル)ビスマレイミド、N,N’-[(1,4-フェニレン)ビスメチレン]ビスマレイミド、N,N’-[(1,2-フェニレン)ビスメチレン]ビスマレイミド、N,N’-[(1,3-フェニレン)ビスメチレン]ビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、N,N′‐[(メチルイミノ)ビス(4,1‐フェニレン)]ビスマレイミド、N,N′‐(2‐ヒドロキシプロパン‐1,3‐ジイルビスイミノビスカルボニルビスエチレン)ビスマレイミド、N,N′‐(ジチオビスエチレン)ビスマレイミド、N,N′‐[ヘキサメチレンビス(イミノカルボニルメチレン)]ビスマレイミド、N,N′‐カルボニルビス(1,4‐フェニレン)ビスマレイミド、N,N′,N′′‐[ニトリロトリス(エチレン)]トリスマレイミド、N,N’,N’’-[ニトリロトリス(4,1-フェニレン)]トリスマレイミド、N,N′‐[p‐フェニレンビス(オキシ-p-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N′‐[メチレンビス(オキシ)ビス(2-メチル-1,4-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(オキシ-p-フェニレン)]ビス(マレインイミド)N,N′‐[ジメチルシリレンビス[(4,1-フェニレン)(1,3,4,-オキサジアゾール-5,2-ジイル)(4,1-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[(1,3-フェニレン)ビスオキシビス(3,1-フェニレン)]ビスマレイミド、1,1’-[3’-オキソスピロ[9H-キサンテン-9,1’(3’H)-イソベンゾフラン]-3,6-ジイル]ビス(1H-ピロール-2,5-ジオン)、N,N’-(3,3’-ジクロロビフェニル-4,4’-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-(3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-(3,3’-ジメトキシビフェニル-4,4’-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(2-エチル-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(2,6-ジエチル-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(2-ブロモ-6-エチル-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(2-メチル-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[エチレンビス(オキシエチレン)]ビスマレイミド、N,N’-[スルホニルビス(4,1-フェニレン)ビス(オキシ)ビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[ナフタレン-2,7-ジイルビス(オキシ)ビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[p-フェニレンビス(オキシ-p-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[(1,3-フェニレン)ビスオキシビス(3,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-(3,6,9-トリオキサウンデカン-1,11-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-[イソプロピリデンビス[p-フェニレンオキシカルボニル(m-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[イソプロピリデンビス[p-フェニレンオキシカルボニル(p-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[イソプロピリデンビス[(2,6-ジクロロベンゼン-4,1-ジイル)オキシカルボニル(p-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[(フェニルイミノ)ビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[アゾビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[1,3,4-オキサジアゾール-2,5-ジイルビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、2,6-ビス[4-(マレインイミド-N-イル)フェノキシ]ベンゾニトリル、N,N’-[1,3,4-オキサジアゾール-2,5-ジイルビス(3,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[ビス[9-オキソ-9H-9-ホスファ(V)-10-オキサフェナントレン-9-イル]メチレンビス(p-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[ヘキサフルオロイソプロピリデンビス[p-フェニレンオキシカルボニル(m-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[カルボニルビス[(4,1-フェニレン)チオ(4,1-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-カルボニルビス(p-フェニレンオキシp-フェニレン)ビスマレイミド、N,N’-[5-tert-ブチル-1,3-フェニレンビス[(1,3,4-オキサジアゾール-5,2-ジイル)(4,1-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[シクロヘキシリデンビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(オキシ)ビス(2-メチル-1,4-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[5-[2-[5-(ジメチルアミノ)-1-ナフチルスルホニルアミノ]エチルカルバモイル]-1,3-フェニレン]ビスマレイミド、N,N’-(オキシビスエチレン)ビスマレイミド、N,N’-[ジチオビス(m-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-(3,6,9-トリオキサウンデカン-1,11-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-(エチレンビス-p-フェニレン)ビスマレイミド、DesignerMolecules社製のBMI-689、BMI-1500、BMI-1700、BMI-3000、BMI-5000、BMI-9000、JFEケミカル社製のODA-BMI、BAFBMIなどの多官能マレイミドを挙げることができる。
【0099】
マレイミド化合物(b3)をラジカルにより架橋させる場合には、ラジカル重合開始剤を添加することができる。具体的にはアゾ系化合物、有機過酸化物が例示できる。重合開始剤は一種もしくは二種以上を組み合わせて用いられる。
アゾ系化合物としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2’-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]が例示できる。
有機過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシドが例示できる。
【0100】
ポリフェニレンエーテル化合物(b4)は、下記一般式(14)で表される構造の繰り返し単位を有し、硬化性官能基を含有するものである。
【化15】
11、R12、R13およびR14は、繰り返し単位毎にそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、置換基を有していてもよいアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘプチル基等の炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の化合物、シクロヘキシル基等の脂環式化合物)、置換基を有していてもよいアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基)、置換基を有していてもよいアリール基(フェニル基、ナフチル基等)、置換基を有していてもよいアミノ基、カルボキシ基、ニトロ基、シアノ基などが例示できる。
【0101】
長期耐熱性の観点からポリフェニレンエーテル化合物(b4)の平均硬化性官能基数は1~10であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。
【0102】
ポリフェニレンエーテル化合物(b4)のMwは特に限定されないが、曲げ強度の観点から200以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましい。Mwの上限値は特に限定されないが、入手容易性等を考慮すると1万以下である。
【0103】
ポリフェニレンエーテル化合物(b4)の具体例としては、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)、2,6-ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6-トリメチルフェノール、2-メチル-6-ブチルフェノール等)との共重合体が挙げられる。また、2,6-ジメチルフェノールとビフェノール類又はビスフェノール類とをカップリングさせて得られるポリフェニレンエーテル共重合体およびポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)等をビスフェノール類やトリスフェノール類のようなフェノール化合物と有機過酸化物の存在下でトルエン等の溶媒中で加熱し、再分配反応させて得られる、直鎖構造もしくは分岐構造を有するポリフェニレンエーテルが挙げられる。
【0104】
ナジイミド化合物(b5)は、分子内にナジイミド基を2個以上有するものであれば、特に限定されない。ナジイミド化合物(b5)の好適例として、下記一般式(15)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【化16】
21は、炭素数1~20の置換基を有していてもよいアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へプチレン基等のアルキレン基)、シクロヘキシレン基等の脂環式基、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基およびこれらの任意の組合せからなる基である。R22およびR23は、アリル基又は(メタ)アクリレート基等の硬化性官能基である。
【0105】
市販品としては、丸善石油化学社製品の「BANI-M」、および「BANI-X」が挙げられる。
【0106】
1-3.熱伝導性フィラー(C)
熱伝導性フィラー(C)は、本組成物の硬化物に熱伝導性を付与する化合物である。熱伝導性フィラーは、熱伝導性の観点から、熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であることが好ましく、1.0W/(m・K)以上であることがより好ましく、1.5W/(m・K)以上であることが更に好ましい。熱伝導性フィラー(C)としては、熱伝導性無機系フィラー、熱伝導性有機無機ハイブリッド系フィラーを用いることができる。熱伝導性フィラー(C)の含有量は用途に応じて適宜調整すればよく、通常は、本組成物の不揮発成分100質量%に対して5~95質量%である。熱伝導性フィラー(C)形状は特に限定されない。例えば、球状、粉状、繊維状、針状、鱗片状等が挙げられる。粒子サイズや形状が異なる複数種の熱伝導性フィラーを用いることにより、熱伝導性フィラー(C)を高充填できる場合がある。熱伝導性フィラー(C)は一種単独又は二種以上を併用して用いられる。
【0107】
熱伝導性無機系フィラーの具体例としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化ジルコニウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化アンチモン、酸化ニッケル、ケイ酸カルシウム、ベリリア、チタン酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、チタンホワイト、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウムなどの金属化合物;タルク;クレー;マイカ;ガラス繊維、カオリン、ハイドロタルサイト、ウォラストナイト、ゾノトライト、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、ガラスフレーク、水和ガラス、セピオライトなどの金属酸化物や金属窒化物;水和金属化合物;溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶性シリカ、非結晶性シリカ、2次凝集シリカ、微粉シリカ、中空シリカ、多孔質シリカなどのシリカ系;炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化チタン、ダイヤモンドなどの窒化系や炭素系フィラーが例示できる。
これらの中でもアルミナ、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素がより好ましく、アルミナ、窒化ホウ素が長期耐熱性を効果的に高める観点から特に好ましい。
【0108】
熱伝導性有機無機ハイブリッド系フィラーの具体例としては、上記に挙げた無機系フィラーの表面を樹脂や分散剤でコーティングしたフィラーが例示できる。熱伝導性無機系フィラーの表面を樹脂や分散剤でコーティングする方法としては、公知の方法を適用できる。この場合、熱伝導性無機フィラーの熱伝導特性を効果的に引き出すために、無機系フィラーが露出していることが好ましい。熱伝導性無機系フィラーの表面は、例えば、シラン系、チタネート系およびアルミネート系カップリング剤などで表面処理を行うことができる。表面処理により、バインダー成分に帯する熱伝導性フィラーの分散性を高めることができる。また、バインダー成分と熱伝導性フィラーとの界面接着強度を高めることもできる。
【0109】
シランカップリング剤としては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン;p-スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン等が例示できる。
【0110】
チタネートカップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、ジイソプロピルビス(ジオクチルホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート等が例示できる。
【0111】
また、熱伝導性無機系フィラーの表面にフッ素系樹脂を被覆する態様も好適である。熱伝導性を良好に保つ観点から、熱伝導性無機フィラー同士が接触する部分は熱伝導性無機フィラーが露出していることが好ましい。
【0112】
熱伝導性フィラー(C)の添加方法は特に制限されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。好適例として、ポリイミド樹脂(A)の重合前又は途中に重合反応液に添加する方法、3本ロールなどを用いてポリイミド樹脂(A)にフィラーを混錬する方法、フィラーを含む分散液を用意しこれをポリイミド樹脂(A)に混合する方法などが挙げられる。また、フィラーを良好に分散させ、また分散状態を安定化させるために分散剤、増粘剤等を樹脂組成物の物性に影響を及ぼさない範囲で用いることもできる。
【0113】
1-4.熱安定剤(D)
本組成物は、任意成分として熱安定剤(D)を添加することができる。熱安定剤(D)は、紫外線吸収機能、ラジカル補足機能、過酸化物分解機能、又は難燃機能を有する化合物であればよく、具体的には、ヒンダードフェノール系、セミヒンダードフェノール系、レスヒンダードフェノール系などのフェノール系化合物;ヒンダードアミン系、リン系、イオウ系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒドロキシルアミン系、サルチル酸エステル系、およびトリアジン系の化合物が挙げられる。また、金属水和物、ハロゲン系化合物が例示できる。公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤を使用できる。熱安定剤(D)は一種又は二種以上を混合して用いることができる。熱安定剤(D)を含むことで、長期耐熱性に加え、基板加工適性を向上させることができる。熱安定剤(D)を用いる場合の含有量は、本組成物の熱伝導性フィラー(C)および溶剤を除く組成物100質量%中、例えば0.1~5質量%である。
【0114】
ヒンダードフェノール系化合物は、例えば、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,1,3-トリス-(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)-ブタン、4,4’-ブチリデン-ビス-(2-t-ブチル-5-メチルフェノール)、3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9-ビス[2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5 -メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリス(3-ヒドロキシ-4-t-ブチル-2,6-ジメチルベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,2’-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、2,2’チオジエチルビス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、N,N-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナムアミド)、i-オクチル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,6-ビス(ドデシルチオメチル)-o-クレゾール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸モノエチルエステルのカルシウム塩、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、ビス[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロピオン酸]エチレンビスオキシビスエチレン、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、2,2’-チオ-ビス-(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、2,5-ジ-t-アミル-ヒドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-4-ノニルフェノール、2,2’-イソブチリデン-ビス-(4,6-ジメチル-フェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(6-(1-メチル-シクロヘキシル)-p-クレゾール)、2,4-ジメチル-6-(1-メチル-シクロヘキシル)-フェノール等が挙げられる。
【0115】
市販品は、ADEKA社製アデカスタブAO-20、AO-30、AO-40,AO-50、AO-60、AO-80、AO-330、ケミプロ社製KEMINOX101、179、76、9425、BASF社製IRGANOX1010、1035、1076、1098、1135、1330、1726、1425WL、1520L、245、259、3114、5057、565、サンケミカル社製サイアノックスCY-1790、CY-2777等が挙げられる。
【0116】
ヒンダードアミン系化合物は、例えば、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-ウンデカノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カルボネート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート、コハク酸ジメチルと1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンとの重縮合物、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-s-トリアジン-2,4-ジイル]-[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]-ヘキサメチレン-[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]]、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールと3,5,5-トリメチルヘキサン酸のエステル、N,N’-4,7-テトラキス〔4,6-ビス{N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ}-1,3,5-トリアジン-2-イル〕-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル,1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピリペリジル)[[3,5-ビス(1,1ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネートメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピリペリジルセバケート、ポリ[[6-モルホリノ-s-トリアジン-2,4-ジイル]-[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]-ヘキサメチレン-[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]]、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-C12-21およびC18不飽和脂肪酸エステル、N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,6-ヘキサメチレンジアミン、2-メチル-2-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)プロピオンアミド等が挙げられる。
【0117】
市販品は、ADEKA社製アデカスタブLA-52、LA-57、LA-63P、LA-68、LA-72、LA-77Y、LA-77G、LA-81、LA-82、LA-87、LA-402F、LA-502XP、ケミプロ化成社製KAMISTAB29、62、77、94、BASF製Tinuvin249、TINUVIN111FDL、123、144、292、5100、サンケミカル社製サイアソーブUV-3346、UV-3529、UV-3853等が挙げられる。
【0118】
リン系化合物は、リン原子を含有するものであれば特に制限はなく、無機系の化合物でも有機系の化合物でもよい。無機系のリン系化合物としては、例えば、赤リン;リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム;リン酸アミド等の無機系含窒素リン化合物;リン酸;ホスフィンオキシドなどが挙げられる。有機系のリン系化合物としては、例えば、ジ(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルフォスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、テトラ(C12~C15アルキル)-4,4’-イソプロピリデンジフェニルジフォスファイト、ジフェニルモノ(2-エチルヘキシル)フォスファイト、ジフェニルイソデシルフォスファイト、トリス(イソデシル)フォスファイト、トリフェニルフォスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4-ビフェニルジフォスホニト、トリス(トリデシル)フォスファイト、フェニルイソオクチルフォスファイト、フェニルイソデシルフォスファイト、フェニルジ(トリデシル)フォスファイト、ジフェニルイソオクチルフォスファイト、ジフェニルトリデシルフォスファイト、4,4’イソプロピリデンジフェノールアルキルフォスファイト、トリスノニルフェニルフォスファイト、トリスジノニルフェニルフォスファイト、トリス(ビフェニル)フォスファイト、ジ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト、テトラトリデシル4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)ジフォスファイト、ヘキサトリデシル1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタントリフォスファイト、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルフォスファイトジエチルエステル、ソジウムビス(4-t-ブチルフェニル)フォスファイト、ソジウム-2,2-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)-フォスファイト、1,3-ビス(ジフェノキシフォスフォニロキシ)-ベンゼン、亜リン酸エチルビス(2,4-ジtert-ブチル-6-メチルフェニル)等が挙げられる。
【0119】
市販品は、ADEKA社製アデカスタブPEP-36、PEP-8、HP-10、2112、1178、1500、C、135A、3010、TPP、BASF社製IRGAFOS168、クラリアントケミカルズ社製HostanoxP-EPQ、三光社製HCA等が挙げられる。
【0120】
イオウ系化合物は、例えば、2,2-ビス{〔3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロポキシ〕メチル}プロパン-1,3-ジイルビス〔3-(ドデシルチオ)プロピオネート〕、3,3’-チオビスプロピオン酸ジトリデシル、2,2-チオ-ジエチレンビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4-ビス〔(オクチルチオ)メチル〕-o-クレゾール、2,4-ビス〔(ラウリルチオ)メチル〕-o-クレゾール等が挙げられる。
【0121】
市販品は、ADEKA社製アデカスタブAO-412S、AO-503、ケミプロ化成社製KEMINOXPLS等が挙げられる。
【0122】
1-5.その他の任意成分
本組成物は、無溶剤であっても溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、N,N-ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、N-メチル-ピロリドン、アセトン、メタノール、エタノール、ブタノール、2-プロパノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-メトキシ-2- プロパノール、2-アセトキシ-1-メトキシプロパン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノンおよびこれらの混合物が例示できる。
【0123】
低誘電率化をより効果的に発揮させる観点から、フッ素系フィラーを用いてもよい。フッ素系フィラーとしては、PTFE、PVDF(CF2とCH2が交互に結合した直鎖状構造を持つフッ化ビニリデン重合体)、ネオフロンFEP(テトラフルオロエチレン~ヘキサフルオロプロピレン共重合体:四フッ化エチレン~六フッ化プロピレン共重合樹脂)、PFA(テトラフルオロエチレン~パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体:パーフルオロアルコキシ樹脂)、ネオフロンETFE(テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体)、ECTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン:三フッ化塩化エチレン樹脂)等が例示できる。
【0124】
更に本開示の趣旨を逸脱しない範囲で添加剤を含むことができる。例えば、ポリイミド樹脂(A)に該当しないポリイミド樹脂、および/又は硬化性化合物(B)に該当しない硬化性化合物を用いてもよい。また、任意の熱可塑性樹脂を用いることができる。また、硬化処理を促進するために、任意成分として触媒を含有することができる。触媒の好適例として、イミダゾール系、アミン系、リン系が例示できる。更に、染料、顔料(例えば、カーボンブラック)、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、イオン捕集剤、保湿剤、粘度調整剤、防腐剤、抗菌剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、電磁波シールド剤等が挙げられる。
【0125】
1-6.樹脂組成物および硬化物の特性
本組成物を硬化処理して得られた硬化物のガラス転移温度を140~400℃の範囲とする。より好ましくは200~300℃である。前記ガラス転移温度が140℃以上であることで、長期耐熱性を高めることができる。一方、前記ガラス転移温度が400℃以下であることで、一定の柔軟性を付与することができ、ポリイミド樹脂(A)の応力緩和効果を引き出すことができる。
【0126】
2.樹脂組成物の製造方法
本組成物は、各配合成分を配合することにより得られる。ポリイミド前駆体ではなく、イミド化したポリイミド樹脂(A)を配合成分として用いる。配合に際して、適宜、溶媒を用いることができる。固形分濃度は、例えば20~60質量%とすることができる。ポリイミド樹脂(A)はダイマー構造を有しているので、各種有機溶剤に容易に溶解させることができる。
【0127】
本組成物は、例えば粉末状、フィルム状、シート状、板状、ペレット状、ペースト状または液状とすることができる。液状またはペースト状の樹脂組成物は、溶剤を用いて粘度を調整することにより容易に得ることができる。また、フィルム状、シート状、板状の樹脂組成物は、例えば、液状またはペースト状の樹脂組成物を塗工して乾燥することにより形成できる。また、粉末状、ペレット状の樹脂組成物は、例えば、前記フィルム状等の樹脂組成物を所望のサイズに粉砕または分断することにより得られる。
【0128】
3.樹脂組成物層、積層シートおよびプリプレグ
本組成物は、樹脂組成物層として好適に用いることができる。また、本組成物は、基材と、この基材上に設けられた本組成物で形成された樹脂組成物層とを含む、積層シート用途に好適に用いることができる。樹脂組成物層は、硬化処理後に優れた接着性を示すので、各種材料(樹脂層、金属層、ITO等の無機層、複合層など)との接合用途として好適である。例えば、銅張積層板(CCL:Copper Clad Laminate)の接着シート、電子回路基板と電子部品等との部品同士の接合材料に好適である。
【0129】
例えば、溶剤を含む本組成物の塗布液(ワニス)を、剥離フィルムの片面に塗布し、有機溶剤等の液状媒体を例えば40~150℃で除去・乾燥することにより、樹脂組成物層(接着シート)を有する積層シートが得られる。得られた接着シートの表面に別の剥離フィルムを積層することにより、両面剥離フィルム付き接着シートである積層シートが得られる。両面を剥離フィルムで積層することにより、接着シートの表面汚染を予防することができる。剥離フィルムを剥がすことによって、接着シートを単離することができる。2つの剥離フィルムは、同種または異種のいずれも用いることができる。剥離性の異なる剥離フィルムを用いることによって、剥離力に強弱をつけることができるので順番に剥がしやすくなる。また、剥離性基材以外の基材に塗布液を塗工して接着シート(樹脂組成物層)を有する積層シートを得てもよい。
【0130】
基材は、ポリイミドフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネート、ポリエチレン、液晶ポリマー、フェノール樹脂、アラミド樹脂などの樹脂材料;銅、アルミニウム、ステンレス等の金属材料;ITO、ガラス、シリコン、シリコンカーバイト等の無機材料およびこれらを任意に組み合わせた複合材料が例示できる。本組成物によれば、貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度が-30~90℃のいずれかにある軟らかいポリイミド樹脂(A)により各種基材への密着性に優れるのみならず、成形加工性に優れる。
【0131】
塗布方法としては、例えば、コンマコート、ナイフコート、ダイコート、リップコート、ロールコート、カーテンコート、バーコート、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、ディップコート、スプレーコート、スピンコート等、公知の方法を選択することができる。接着シートの乾燥後の厚みは十分な接着性を発揮させるため、また、取り扱い易さの点から、5~500μmであることが好ましく、10~100μmであることが更に好ましい。
【0132】
本組成物は、基材に本組成物を含浸させることにより得たプリプレグ形成用として好適に用いることができる。プリプレグは、例えば、繊維基材に本組成物を含浸させ、続いて、樹脂組成物を加熱乾燥せしめて半硬化(Bステージ化)することにより製造できる。樹脂組成物の繊維基材に対する固形分付着量は、プリプレグに対する乾燥後の樹脂組成物の含有率において20~90質量%とすることが好ましい。より好ましくは、30~80質量%であり、さらに好ましくは40~70質量%である。例えば、プリプレグ中の樹脂組成物の固形分付着量が20~90質量%となるように、本組成物を繊維基材に含浸または塗工した後、例えば40~250℃の温度で1~30分加熱乾燥し、半硬化(Bステージ化)させることにより製造することができる。
【0133】
繊維基材としては、公知の材料を制限なく利用できるが、有機繊維、無機繊維およびガラス繊維が例示できる。有機繊維としては、ポリイミド、ポリエステル、テトラフルオロエチレン、全芳香族ポリアミドなどが例示できる。無機繊維としては、炭素繊維が例示できる。ガラス繊維としては、Eガラスクロス、Dガラスクロス、Sガラスクロス、Qガラスクロス、NEガラスクロス、Lガラスクロス、Tガラスクロス、球状ガラスクロス、低誘電ガラスクロスなどが例示できる。これらのなかでも低熱膨張率の観点からは、Eガラスクロス、Tガラスクロス、Sガラスクロス、Qガラスクロスおよび有機繊維が好適である。繊維基材は一種単独でも二種以上を併用してもよい。
【0134】
繊維基材の形状は、目的とする用途および性能に応じて適宜選択できる。具体例としては、織布、不織布、ロービンク、チョップドストランドマットおよびサーフェシングマットが例示できる。織布の織り方としては、平織り、ななこ織り、綾織りが例示できる。所望の特性に応じて、任意に選択・設計することができる。繊維基材の厚さは、例えば、約0.01~1.0mmの範囲とすることができる。薄膜化の観点からは500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましい。
【0135】
繊維基材は、必要に応じて、所望の特性を引き出すためにシランカップリング剤などで表面処理を施したり、機械的に開繊処理を施すことができる。その他、コロナ処理やプラズマ処理を行ってもよい。シランカップリング剤の表面処理は、アミノシランカップリング処理、ビニルシランカップリング処理、カチオニックシランカップリング処理、エポキシシランカップリング処理等がある。
【0136】
繊維基材に樹脂組成物を含浸させる方法は特に限定されないが、例えば、アルコール類、エーテル類、アセタール類、ケトン類、エステル類、アルコールエステル類、ケトンアルコール類、エーテルアルコール類、ケトンエーテル類、ケトンエステル類やエステルエーテル類などの有機溶媒を用いて樹脂組成物のワニスを調製し、ワニス中に繊維基材を浸漬する方法、繊維基材にワニスを塗布またはスプレー等により散布する方法、繊維基材の両面を樹脂組成物からなる膜でラミネートする方法等が挙げられる。
【0137】
更に、本組成物より形成されてなる樹脂組成物層等は、半導体チップパッケージの絶縁層、アンダーフィル材、接着材等に好適である。また、銅張積層板用の組成物、配線板形成用ボンディングシート、フレキシブル基板のカバーコートにも好適である。
【0138】
4.硬化物の製造方法
本組成物を硬化処理することにより硬化物が得られる。熱硬化性化合物を含む場合には熱硬化処理を、光硬化性化合物を含む場合には光照射処理により通常硬化する。例えば、樹脂組成物をシート等の所望の形状に成形し、硬化処理する方法が例示できる。溶剤を含む樹脂組成物を塗布、乾燥することにより簡便に樹脂組成物のシートなどの成形体を得ることができる。そして、成形体を硬化することにより硬化物を形成する。成形体と硬化のタイミングは同時であってもよい。なお、硬化物のうちシート状のものを硬化層ともいう。
【0139】
熱硬化処理する場合の温度は、硬化性化合物(B)の種類に応じて適宜選定すればよい。例えば、150~300℃の温度で、30~180分加熱処理する方法が例示できる。光硬化処理する場合、活性光線を硬化が行われる強度で照射すればよい。硬化時に、必要に応じて圧をかけて熱圧着(例えば、5MPa)することができる。硬化処理により、本組成物に架橋構造が形成され、3次元架橋した硬化物が得られる。
【0140】
5.硬化物および硬化物付基板
本組成物から得られる硬化物は、長期耐熱性に優れると共に曲げ強度に優れ、製造工程中の基板加工適性にも優れるので、金属張積層板、プリント配線板をはじめとする各種部品の硬化物、或いはこの硬化物を含む硬化物付基板として好適である。
金属張積層板は、例えば、本組成物を用いて絶縁層を形成し、絶縁層と金属層を積層するプロセス等を経て得られる。この絶縁層には、本組成物から形成された接着シート、プリプレグを好適に用いることができる。例えば、金属層と本組成物を用いて形成したプリプレグを積層した後、加熱圧着により硬化処理工程を行うことにより、金属張積層板が得られる。加熱圧着工程は、公知の方法を利用できる。例えば、120~250℃の温度で0.5~10MPaの圧力で、0.5~5時間熱プレスすることにより行われる。
【0141】
金属張積層板の積層構成としては、金属層/硬化層の2層の積層体、金属層/硬化層/金属層の複層からなる積層体、或いは金属層/硬化層/金属層/硬化層/金属層等の交互に積層された多層構造を有する金属張積層板が例示できる。また、本組成物より形成した硬化層以外の絶縁層が積層体に含まれていてもよい。また、硬化層の厚みを調整するためにプリプレグ等を複数枚重ねて硬化させてもよい。また、金属層以外の導電層が積層されていてもよい。
【0142】
例えば、金属層/硬化層/金属層の層構成を有する金属張積層板は、硬化層の両主面上に形成された金属層に回路パターンを形成することにより、回路パターン層を有する回路基板を得ることができる。硬化層には、レーザー等によりスルーホールやビアを形成してもよい。コア基板にビルドアッププロセスによって、絶縁硬化層を重ね合わせて、ビアを形成し、多層化してもよい。回路基板は、例えば、サブトラクティブ法により金属張積層板の金属層を所望の回路パターンに形成する方法や、アディティブ法により絶縁層の片面または両面に所望の回路パターンを形成することにより得ることができる。
【0143】
金属層としては銅箔などが用いられる。銅張積層板では、銅箔面に電解銅めっきを行い、レジスト層を除去した後にアルカリ性等のめっき液でエッチングする工程がある。本組成物は、めっき液耐性等の基板加工適性に優れるので銅張積層板用途に好適である。更に、本硬化物は硬化物の曲げ強度および長期耐熱性に優れるので、本組成物を硬化して形成される硬化物を含む硬化物付基板は様々な環境下で幅広い用途に利用できる。
【0144】
プリント配線板は、例えば、銅張積層板における銅箔をエッチング等によって加工し、信号回路等を形成して得た基板とカバーフィルムとを接着シートを介して貼り合わせ、硬化処理工程等を経て製造できる。また、例えば、絶縁性のフレキシブルフィルム上に導体パターンを形成し、その上に本接着シートを介して保護膜を形成し、熱圧着する工程等を経てフレキシブルプリント配線板を製造できる。前記フレキシブルフィルムとしては、ポリエステル、ポリイミド、液晶ポリマー、PTFEフィルムが例示できる。導体パターンは、プリント技術により形成する方法、スパッタリングやめっきによる方法が例示できる。
【0145】
プリント配線板の片面または両面に形成された本組成物の硬化層に対し、ドリル加工やレーザー加工などにより開口部を設け、導電剤を充填してビアを形成してもよい。また、本組成物の硬化層上に回路層を形成することもできる。本組成物の硬化物はめっき耐性に優れるので多層プリント配線板の製造に好適である。本組成物を用いて形成されたプリント配線板は、優れた加工適性を有し、長期耐熱性および曲げ強度に優れるので、スマートフォンやタブレット端末等の各種電子機器に好適である。
【0146】
本組成物のポリイミド樹脂(A)は電気絶縁性に優れるので、硬化性化合物(B)や熱伝導性フィラー(C)に絶縁性材料を用いることで絶縁性に優れた硬化物を提供できる。例えば、回路基板上の絶縁層形成材料(プリント配線板のカバーレイ層、ビルトアップ基板等の層間絶縁層、ボンディングシート等を含む)等として好適に用いられる。また、熱伝導性フィラー(C)などのフィラーにおいて導電性材料を用いることにより、電子部品の導電性部材に利用することも可能である。電子部品は、例えば、パワー半導体装置、LED、インバーター装置等のパワーモジュールが例示できる。
【0147】
更に、本組成物の硬化物は熱伝導性フィラー(C)を配合しているので、放熱性が求められる用途全般に適用できる。例えば、樹脂組成物の成形性を利用して、所望の形状の放熱部品として好適に利用できる。特に、軽薄短小化のために、ファンやヒートシンクを設置できない電子機器(スマートフォン、ダブレット端末等)、電池用外装材の放熱性接着材や放熱性シートとして有用である。また、本組成物の硬化物は、発熱体とヒートシンクとの接着層、或いはヒートスプレッダーとして好適である。また、基板上に搭載された一種または複数の電子部品を被覆する放熱層として適用できる。
【実施例
【0148】
以下、本開示を実施例によりさらに具体的に説明する。本開示は以下の実施例に限定されない。特に断りのない限り、「%」および「部」は質量基準とする。
【0149】
(i)重量平均分子量(Mw)の測定
Mwの測定は、昭和電工社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)「GPC-101」を用いた。溶媒はTHF(テトラヒドロフラン)とし、カラムとして「KF-805L」(昭和電工社製:GPCカラム:8mmID×300mmサイズ)を直列に2本接続したものを用いた。試料濃度1質量%、流量1.0mL/min、圧力3.8MPa、カラム温度40℃の条件で行い、Mwの決定はポリスチレン換算で行った。データ解析はメーカー内蔵ソフトを使用して検量線、分子量およびピーク面積を算出し、保持時間17.9~30.0分の範囲を分析対象としてMwを求めた。
【0150】
(ii)酸価の測定
酸価はJIS K0070に準じて測定した。具体的には、共栓三角フラスコ中に試料(ポリイミド樹脂(A))約1gを精密に量り採り、シクロヘキサノン溶媒100mLを加えて溶解する。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定し、指示薬が淡紅色を30秒間保持した時を終点とした。酸価は次式により求めた。
酸価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
ただし、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(mL)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0151】
(iii)フェノール性水酸基価の測定
フェノール性水酸基価は、JIS K0070に準じて測定した。フェノール性水酸基価は、ポリイミド樹脂(A)1g中に含まれるフェノール性水酸基をアセチル化させたときに、フェノール性水酸基と結合した酢酸を中和するために必要な水酸化カリウムの量(mg)で表したものである。ポリイミド樹脂(A)のフェノール性水酸基価を算出する場合には、下記式に示す通り、酸価を考慮して計算した。具体的には、共栓三角フラスコ中に試料(ポリイミド樹脂(A))約1gを精密に量り採り、シクロヘキサノン溶媒100mLを加えて溶解する。更にアセチル化剤(無水酢酸25gをピリジンで溶解し、容量100mLとした溶液)を正確に5mL加え、約1時間攪拌した。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間持続する。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.5Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定する。フェノール性水酸基価は次式により求めた。
フェノール性水酸基価(mgKOH/g)=[{(b-a)×F×28.05}/S]+D
但し、
S:試料の採取量(g)
a:0.5Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(mL)
b:空実験の0.5Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(mL)
F:0.5Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
D:酸価(mgKOH/g)
なお、bの値は、アセチル化剤(無水酢酸25gをピリジンで溶解し、容量100mLとした溶液)5mLを0.5Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定することで求められる。
【0152】
(iv)酸無水物基価の測定
共栓三角フラスコ中に試料(ポリイミド樹脂(A))約1gを精密に量り採り、1,4-ジオキサン溶媒100mLを加えて溶解した。試料中の酸無水物基の量よりも多いオクチルアミン、1,4-ジオキサン、水の混合溶液(混合比(質量)は1.49/800/80)を10mL加えて15分攪拌し、酸無水物基と反応させた。その後、過剰のオクチルアミンを0.02M過塩素酸、1,4-ジオキサンの混合溶液で滴定した。また、試料を加えていない、オクチルアミン、1,4-ジオキサン、水の混合溶液(混合比(質量)は1.49/800/80)10mLもブランクとして測定を実施した。酸無水物基価は次式により求めた(単位:mgKOH/g)
酸無水物基価(mgKOH/g)=0.02×(B-A)×F×56.11/S
B:ブランクの滴定量(mL)
A:試料の滴定量(mL)
S:試料の採取量(g)
F:0.02mol/L過塩素酸の力価
【0153】
(v)アミン価の測定
共栓三角フラスコ中に試料(ポリイミド樹脂(A))約1gを精密に量り採り、シクロヘキサノン溶媒100mLを加えて溶解する。これに、別途0.20gのMethyl Orangeを蒸溜水50mLに溶解した液と、0.28gのXylene Cyanol FFをメタノール50mLに溶解した液とを混合して調製した指示薬を2、3滴加え、30秒間保持する。その後、溶液が青灰色を呈するまで0.1Nアルコール性塩酸溶液で滴定する。アミン価は次式により求めた。
アミン価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
但し、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性塩酸溶液の消費量(mL)
F:0.1Nアルコール性塩酸溶液の力価
【0154】
(vi)貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度の測定
各合成例に係るポリイミド樹脂(A)を不揮発成分35%になるようにシクロヘキサノンに溶解させた塗工液を、耐熱性の離形フィルム上に10milのギャップを持ったドクターブレードを用いて塗工し、130℃で10min乾燥させることにより、厚さ25μmの樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを重剥離フィルムから剥離し、樹脂シートの貯蔵弾性率およびTgを動的粘弾性測定装置「DVA200」(アイティー計測制御社製)により測定した。
貯蔵弾性率は、樹脂シートを0℃まで冷却後、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温させ、振動周波数10Hz、つかみ間長:10mmで粘弾性を測定し、貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度を確認した。
昇温速度:10℃/min
測定周波数:10Hz
つかみ間長:10mm
幅:5mm
【0155】
<ポリイミド樹脂の合成>
[合成例1]
オイルバスを備えた撹拌棒付き1Lセパラブルフラスコに、窒素ガスを導入しながら、シクロヘキサノン200gを加え、ジアミンとしてダイマージアミン(PRIAMINE1075)149.4g、モノアミン化合物として、m-アミノフェノール4.7gを撹拌しながら加え、続いてテトラカルボン酸類として1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物67.3gを加えて室温で30分撹拌した。これを100℃に昇温し、3時間撹拌した後、オイルバスを外して室温に戻し、ワニス状のポリイミド前駆体を得た。その後、ディーンスタークトラップを用いて留出する水を系外に除去しながら、170℃で10時間加熱を行い、イミド化してポリイミド樹脂P1を得た。
【0156】
[合成例2~32、比較合成例1~8]
表1~4に記載の単量体および配合量に変更した以外は、合成例1と同様の方法によりポリイミド樹脂P2~P32,N1~N8を得た。
表1~4の略称を以下に示す。
DM1:1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物
DM2:1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物
DM3:4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物
DM4:4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物
DM5:5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物
DM6:X-22-168B(信越化学社製、シロキサン型テトラカルボン酸二無水物、分子量2960)
MM1:無水マレイン酸
MM2:無水フタル酸
DA1:プリアミン1075(ダイマージアミン、クローダジャパン社製)
DA2:4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(2-アミノフェノール)
DA3:1,12-ドデカンジアミン
DA4:KF-8010(信越化学社製、シロキサンジアミン、分子量850)
DA5:D-2000(HUNTSMAN社製、ポリプロピレングリコール型ポリエーテルジアミン、分子量2000)
MA1:m-アミノフェノール
MA2:o-アミノフェノール
MA3:p-アミノフェノール
MA4:4-ヒドロキシフェネチルアミン(チラミン)
MA5:1ーアミノデカン
【0157】
表1~4に、配合量(質量部)、得られたポリイミド樹脂のフェノール性水酸基(PhOH)価、酸無水物基価、アミン価、マレイミド価、全官能基価を示す。また、X残基100モル%に対するXa残基のモル%、X残基100モル%に対するXd残基のモル%を示す。また、ポリイミド樹脂(A)のMw、貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度、ポリイミド樹脂(A)中のアミノ基、酸無水物基およびマレイミド基から選択される官能基の合計の平均官能基数を示す。なお、マレイミド価の値は、ポリイミド樹脂(A)の合成に用いる仕込み量から算出した。また、本実施例において全官能基価は、フェノール性水酸基価+酸無水物基価+アミン基価+マレイミド価の合計の官能基価である。カルボキシ基を含む場合には、前記式にカルボキシ価を加えればよい。
【0158】
【表1】
【0159】
【表2】
【0160】
【表3】
【0161】
【表4】
【0162】
[実施例1]
<<樹脂組成物(ワニス)の調製>>
固形分換算で合成例1のポリイミド樹脂(P1)を100部、硬化性化合物(B)として、(B)-1と(B)-2をそれぞれ80部ずつ、熱伝導性フィラー(C)-1を260部、容器に仕込み、不揮発成分濃度が50%になるように混合溶剤(トルエン:MEK=9:1(質量比))を加え、ディスパーで10分攪拌して実施例1に係るワニスを得た。
【0163】
<<プリプレグの製造1>>
次に、得られたワニスをガラスクロス(日東紡績社製の♯2116タイプ、WEA116E、Eガラス)に、質量比がガラスクロス:不揮発成分の樹脂組成物=2:3になるように含浸させた後、140℃で約5分間加熱乾燥することにより実施例1に係るプリプレグ1を得た。
【0164】
<<プリプレグの製造2>>
加熱乾燥温度と時間を120℃×5分間に変更した以外は、プリプレグの製造1と同様の方法で、実施例1に係るプリプレグ2を得た。
【0165】
<銅張積層板の製造>
得られたプリプレグ1と、厚み35μmの銅箔とをそれぞれ3層ずつ積層させ、250℃、3.0MPa、120分の条件で加熱プレスし、最後に両側の最外層に厚み35μmの銅箔を配置することで実施例1に係る銅張積層板を得た。そして、後述する評価を行った。結果を表5に示す。
【0166】
[実施例2~55、比較例1~15]
表5~9に記載の配合成分および配合量に変更する以外は実施例1と同様の方法により、実施例2~48,50~53、比較例1~15に係るワニスを調製し、プリプレグ1,プリプレグ2を得た。また、実施例49,54,55に関しては、プリプレグ1の代わりに、後述する<<接着シートの製造>>で得られた樹脂組成物層である接着シートを用いて、同様の方法で銅張積層板を得た。各評価結果を表4~9に示す。
【0167】
<<接着シート等の製造>>
実施例49,54,55のワニスを、それぞれドクターブレードを使用して乾燥後の厚さが50μmとなるように、厚さ50μmの重剥離フィルム(重離型剤がコーティングされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)上に均一塗工して100℃で2分乾燥させた。その後、室温まで冷却し、片面剥離フィルム付き接着シートを得た。次いで、得られた片面剥離フィルム付き接着シートの接着シート面を厚さ50μmの軽剥離フィルム(軽離型剤がコーティングされたPETフィルム)に重ね合わせ、重剥離フィルム/接着シート/軽剥離フィルムからなる両面剥離フィルム付きの積層シートを得た。得られた接着シートと、厚み35μmの銅箔とをそれぞれ3層ずつ積層させ、250℃、3.0MPa、120分の条件で加熱プレスし、最後に両側の最外層に厚み35μmの銅箔を配置することで銅張積層板を得た。
【0168】
実施例および比較例で使用した材料を下記に示す。
(硬化性化合物(B))
(B)-1:エポキシ化合物(b1)、XD-1000(日本化薬社製、ジシクロペンタジエン型エポキシ、多官能、官能基当量252g/eq.)
(B)-2:シアネートエステル化合物(b2)、BAD(三菱ガス化学社製、ビスフェノールA型シアン酸エステル、2官能、官能基当量139g/eq)
(B)-3:マレイミド化合物(b3)、BMI‐3000(大和化成工業社製、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、2官能、官能基当量285.3g/eq.)
(B)-4:ポリフェニレンエーテル化合物(b4)、Noryl(登録商標)SA9000(SABIC社製、メタクリレート基含有ポリフェニレンエーテル、2官能、官能基当量:850g/eq.)
(B)-5:ナジイミド化合物(b5)、BANI-M(丸善石油化学社製、ビスアリルナジイミド、2官能)
(B)-6:活性エステル系化合物、HPC-8000-65T(SABIC社製,活性エステル系化合物)
(B)-7:フェノール樹脂、H-4(明和化成社製)
(B)-8:ドデカン二酸ジヒドラジド
(熱伝導性フィラー(C))
(C)-1:AO-509(アドマテックス社製、アルミナ)
(C)-2:SP-2(デンカ社製、窒化ホウ素)
(C)-3:SC2050-MB(アドマテックス社製、シリカ)
(C)-4:FZO-50(石原産業社製、酸化亜鉛)
(熱安定剤(D))
(D)-1:2ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製「IRGANOX1010」)
(D)-2:TT-LX(1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール)
(D)-3:ビス(2-アリルフェノキシ)ホスファゼン
【0169】
(vii)樹脂組成物の硬化物のTgの測定
耐熱性の離形フィルム上に10milのギャップを持ったドクターブレードを用いて、各例に係るワニスを塗工し、130℃で10min乾燥させることにより、厚さ25μmの樹脂組成物層を得た。得られた樹脂組成物層を重剥離フィルムから剥離し、250℃で60分加熱処理を行い、硬化層を得た。得られた硬化層に対し、(vi)と同様の動的粘弾性測定装置を用い、昇温速度、測定周波数、つかみ間長、幅を同一の条件として、-50~400℃の温度範囲で損失正接(tanδ)の測定をおこない、上記と同様の方法によりTgを測定した。
【0170】
α.曲げ強度
得られた銅張積層板を、幅40mm、長さ25mmに切り出し、切り出した銅張積層板の両面の最外層の銅箔を取り除き、これを試験片とした。水平面と平行な面上に、金属製であり、先端に丸みを有する2つの支持部材を試験片の長さよりも短い間隔(23.7mm)に配置した。2つの支持部材の間隔の中心に、試験片の長さ方向の中心が重なるように、支持部材上に試験片を配置した。続いて、試験片の中心の上方から、金属製であり、先端に丸みを有する加圧具を、試験片の中央部に押し当てて試験片に力を加えた。試験片に力を加える速度は、1.0mm/分とした。試験片に力を加え続けて、試験片が折れたときに終了とした。支持部材間距離(支点間の距離)、試験片の幅、試験片の厚み、および試験片が折れたときに加えていた力に基づいて、1.6mm厚換算での曲げ強度を算出した。
A:400N/mm以上。
B:300N/mm以上、400N/mm未満。
C:200N/mm以上、300N/mm未満。
D:150N/mm以上、200N/mm未満。
E:100N/mm以上、150N/mm未満。
F:100N/mm未満。実用外。
【0171】
β.基板加工適性
評価用プリント配線板を下記の方法に従って作製し、埋め込み性、ヒートサイクル耐性、めっき液耐性の一連の試験を実施した。その後、評価用プリント配線板を切断し、露出した断面を光学顕微鏡により100倍の倍率で観察した。
【0172】
<評価用プリント配線板の作製(銅回路への埋め込み性試験)>
L/S=25μm/25μmであり、銅の厚みがそれぞれ25μmと50μmである2種類の回路パターンが形成されたガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板を内層回路基板として用意した。その両面に、実施例および比較例(以下、各例という)に係るプリプレグを250℃、3.0MPa、120分の条件で加熱プレスし、続いて両側の最外層に銅箔を配置することで評価用プリント配線板を得た。実施例49,54,55においては、それぞれ得られた接着シートを用いて、同様の方法で評価用プリント配線板を得た。
【0173】
<ヒートサイクル試験>
上記評価用プリント配線板を冷熱衝撃装置(「TSE‐11‐A」、エスペック社製)に投入し、高温さらし:125℃、15分、低温さらし:-50℃、15分の曝露条件にて交互曝露を所定回数実施した。
【0174】
<めっき液耐性試験>
上記のヒートサイクル試験が終わった評価用プリント配線板に対して、下記の酸性めっき試験を実施した後、純水で評価用プリント配線板を洗浄し、乾燥させた。その後、同サンプルを用いて下記のアルカリ性めっき試験を実施した。
[I.酸性めっき試験]
前記両面剥離フィルム付き接着シートを65mm×65mmの大きさにカットし、軽剥離フィルムを剥離した。そして、剥離により露出した接着シート面を、新日鉄住金化学社製の2層のCCL[エスパネックスMC18-25-00FRM]銅面と合わせて90℃でラミネートし、続いて180℃、2.0MPaの条件で60分圧着処理を行った。最後に重剥離フィルムを剥離し、評価用試験片を作製した。この試験片に対して、上記両面剥離フィルム付き接着シートから軽剥離フィルムを剥がし、露出した接着シート面に対し、下記h~nの手順および条件に従って無電解ニッケル処理を行った。
h.酸性脱脂工程:40℃のICPクリーンS-135K(奥野製薬工業社製)に4分間浸漬。
i.ソフトエッチング工程:30℃の過硫酸ナトリウムに1分間浸漬。
j.デスマット工程:25℃の硫酸に1分間浸漬。
k.プリディップ工程:25℃の塩酸に30秒間浸漬。
l.活性化工程:30℃のICPアクセラ(奥野製薬工業社製)に1分間浸漬。
m.ポストディップ工程:25℃の硫酸に1分間浸漬。
n.無電解ニッケルめっき工程:85℃のIPニコロンFPF(奥野製薬工業社製)に20分間浸漬。
[II.アルカリ性めっき試験]
酸めっき試験と同様の方法にて、評価用試験片を作製し、この試験片に対して、下記s~wの手順および条件に従って、無電解ニッケル処理を行った。
s.アルカリ性脱脂工程:50℃のアルカリ性脱脂剤(奥野製薬工業社製エースクリーンA-220(商標名)50g/L水溶液)に5分間浸漬。
t.エッチング処理工程:無水クロム酸400g/Lおよび98%硫酸400g/Lを含む水溶液中に67℃で10分間浸漬。
u.活性化工程:98%硫酸を20mL/L含有する水溶液中に25℃で2分間浸漬。
v.触媒活性付与:25℃の触媒活性化液(奥野製薬工業社製、TSPアクチベーターコンク(商標名)10mL/Lを含有する水溶液)に2分間浸漬。
w.無電解ニッケルめっき工程:アンモニアアルカリタイプの自己触媒型無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業社製、化学ニッケルA(商標名)160mL/L、化学ニッケルB(商標名)160mL/Lを含有するpH9の水溶液)中に40℃で5分間浸漬。
【0175】
上記一連の試験を行ったサンプルについて、以下の基準で評価した。なお、外観不良とは、基板表面からの剥がれ、空隙などの発生をいう。
A:50μm厚の銅回路への埋め込み試験、5000回のヒートサイクル試験、めっき液耐性試験を終えた後のいずれも外観不良なし。
B:上記Aには該当しないが、50μm厚の銅回路への埋め込み試験、1000回のヒートサイクル試験、めっき液耐性試験を終えた後のいずれも外観不良なし。
C:上記A,Bには該当しないが、50μm厚の銅回路への埋め込み試験、200回のヒートサイクル試験、めっき液耐性試験を終えた後のいずれも外観不良なし。
D:上記A~Cには該当しないが、25μm厚の銅回路への埋め込み試験、200回のヒートサイクル試験、めっき液耐性試験を終えた後のいずれも外観不良なし。
E:上記A~Dには該当しないが、25μm厚の銅回路への埋め込み試験、50回のヒートサイクル試験、めっき液耐性試験を終えた後のいずれも外観不良なし。
F:上記A~Eのいずれにも該当しない。実用外。
【0176】
γ.長期耐熱性
各例で作製したプリプレグ又は接着シートを、幅40mm、長さ25mmに切り出し、切り出したサンプルを、250℃、3.0MPa、120分の条件で加熱プレスして硬化物を得、初期Tgを測定した。続いて、この硬化物を熱風オーブン中にて、空気雰囲気下、250℃で1000時間保管し、保管後のTgを測定した。保管前のTgに対する保管後のTgの減少幅から長期耐熱性を評価した。
A:減少幅5%未満。
B:減少幅5%以上、8%未満。
C:減少幅8%以上、10%未満。
D:減少幅10%以上、15%未満。
E:減少幅15%以上、20%未満。
F:減少幅20%以上。実用外。
【0177】
δ.プリプレグ1,2の作製性
各例のプリプレグ1,2を切断し、露出した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により5000倍の倍率で観察した。なお、空隙とは、0.1μm以上のサイズの罅をいうものとする。
A:120℃で約5分間乾燥した際にも、140℃で約5分間乾燥した際にも空隙は見られなかった。
B:120℃で約5分間乾燥した際には空隙が見られたものの、140℃で約5分間乾燥した際には、空隙が見られなかった。
【0178】
【表5】
【0179】
【表6】
【0180】
【表7】
【0181】
【表8】
【0182】
【表9】
【0183】
1分子あたりのアミノ基、酸無水物基およびマレイミド基の合計の平均官能基数が1を超えるポリイミド樹脂を配合した樹脂組成物は、比較例1~3に示すように基板加工適性に劣っていた。また、貯蔵弾性率G’が1.0×10Paとなる温度が90℃を超えるポリイミド樹脂を用いた樹脂組成物は、比較例4、5に示すように曲げ強度に劣っていた。また、Mwが10,000未満のポリイミド樹脂を用いた樹脂組成物は、比較例6に示すように基板加工適性に劣っていた。更に、Mwが10万を超えるポリイミド樹脂を用いた樹脂組成物は、比較例7に示すように長期耐熱性に劣っていた。一方、本開示に係る実施例1~55は、基板凹凸への埋め込み性、ヒートサイクル耐性およびめっき液耐性を兼ね備える基板加工適性を有し、その硬化物が長期耐熱性に優れると共に曲げ強度にも優れることが確認できた。
【0184】
この出願は、2021年12月27日に出願された日本出願特願2021-213179を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。