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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】化粧シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 33/00 20060101AFI20241210BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241210BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B32B33/00
B32B27/00 E
B32B27/16 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024543397
(86)(22)【出願日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2024002179
【審査請求日】2024-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2023009518
(32)【優先日】2023-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】長島 麻美
(72)【発明者】
【氏名】西川 洋平
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 絵理佳
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/239270(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/145137(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0061292(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0059905(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0031282(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0025050(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0024439(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原反層と、前記原反層の一方の表面に設けられた表面保護層とを備え、
前記表面保護層の表面に、各々が畝状に突出した複数の畝状部を含んだ凹凸構造が設け
られており、
前記表面保護層の前記凹凸構造は、突出山部高さRpkが3.5μm以上であり、
前記表面保護層のフーリエ型赤外分光測定において得られる吸光スペクトルは、1085乃至1105cm-1の波数範囲における最大値I1095と、1715乃至1735cm-1の波数範囲における最大値I1725との比I1095/I1725が0.65以上である化粧シート。
【請求項2】
前記比I1095/I1725は3.5以下である請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記突出山部高さRpkは25μm以下である請求項1に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記表面保護層の前記凹凸構造は、粗さ曲線要素の平均長さRSmが150μm以上である請求項1に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記平均長さRSmは600μm以下である請求項4に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記表面保護層の厚さは8μm以上である請求項1に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記表面保護層の光沢度は10.0未満である請求項1に記載の化粧シート。
【請求項8】
前記複数の畝状部の少なくとも一部は幅方向へ隣り合い、前記複数の畝状部の前記少なくとも一部が前記幅方向へ隣り合った位置で、前記幅方向及び前記表面保護層の厚さ方向に平行な断面は、前記凹凸構造が設けられた部分が正弦波形状を有している請求項1に記載の化粧シート。
【請求項9】
前記表面保護層は、電離放射線硬化性樹脂の硬化物を含んだ請求項1に記載の化粧シート。
【請求項10】
前記電離放射線硬化性樹脂は、主成分が繰り返し構造を含むアクリレートであり、前記繰り返し構造は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、及びε-カプロラクトンの何れかであり、前記繰り返し構造の繰り返し回数は3以上である請求項9に記載の化粧シート。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の化粧シートと、前記化粧シートが貼り付けられた基材とを備えた化粧材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
化粧シートは、例えば、建具、家具、造作材、及び床材等の内外装材へ意匠性や耐久性を付与する目的で、それらの表面化粧に使用される。化粧シートは、一般に、木材、木質ボード、金属板、不燃ボード、紙質基板、及び樹脂基板等の基板の表面に接着剤などを介して貼り付けてなる化粧板として広く用いられている。
【0003】
意匠性は、例えば、木目や石目といった柄を、各種印刷方法を用いて形成することによって付与する。化粧シートには、柄がない無地が好まれることもある。柄の有無や柄の種類の選択は、用途や嗜好に応じて様々である。
【0004】
化粧シートの意匠性には、表面の光沢感も重要である。化粧シートとしては、用途や嗜好に応じて、鏡面のような高光沢なものから、映り込みが全くない低光沢なものまで、様々なものが選ばれる。
【0005】
また、前述の通り、意匠性の付与と並んで重要な化粧シートの機能として、耐久性の付与が挙げられる。耐久性とは、耐傷性や耐汚染性、更にそれらが長期間継続して担保されるかを総合的に評価したものである。化粧シートが使用される環境や状況により、要求は異なってくるが、常に高い性能を有する化粧シートが求められている。
【0006】
耐久性の付与には、化粧シートの最表面に表面保護層を形成するのが一般的である。また、前述の光沢感を調整するため、特に低光沢を達成するためには、表面保護層中に艶調整剤(艶消し添加剤)を添加することが一般的である。
【0007】
更に、化粧シートは、化粧板などの化粧材を形成するために切削や曲げといった加工が施されるのが一般的なため、これらに耐え得る加工性を有することが好ましい。
【0008】
このように、意匠性(低光沢)、耐傷性、耐汚染性が考慮された化粧シートとして、例えば、特許文献1に記載の化粧シートがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】日本国特開2019-119138号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明は、低光沢であり、ざらざらした触感を与える化粧シートを提供することを目的とする。
【0011】
本発明の一側面によると、原反層と、上記原反層の一方の表面に設けられた表面保護層とを備え、上記表面保護層の表面に、各々が畝状に突出した複数の畝状部を含んだ凹凸構造が設けられており、上記表面保護層の上記凹凸構造は、突出山部高さRpkが3.5μm以上であり、上記表面保護層のフーリエ型赤外分光測定において得られる吸光スペクトルは、1085乃至1105cm-1の波数範囲における最大値I1095と、1715乃至1735cm-1の波数範囲における最大値I1725との比I1095/I1725が0.65以上である化粧シートが提供される。
【0012】
本発明の他の側面によると、上記比I1095/I1725は3.5以下である上記側面に係る化粧シートが提供される。
【0013】
本発明の更に他の側面によると、上記突出山部高さRpkは25μm以下である上記側面の何れかに係る化粧シートが提供される。
【0014】
本発明の更に他の側面によると、上記表面保護層の上記凹凸構造は、粗さ曲線要素の平均長さRSmが150μm以上である上記側面の何れかに係る化粧シートが提供される。
【0015】
本発明の更に他の側面によると、上記平均長さRSmは600μm以下である上記側面に係る化粧シートが提供される。
【0016】
本発明の更に他の側面によると、上記表面保護層の厚さは8μm以上である上記側面の何れかに係る化粧シートが提供される。
【0017】
本発明の更に他の側面によると、上記表面保護層の光沢度は10.0未満である上記側面の何れかに係る化粧シートが提供される。
【0018】
本発明の更に他の側面によると、上記複数の畝状部の少なくとも一部は幅方向へ隣り合い、上記複数の畝状部の上記少なくとも一部が上記幅方向へ隣り合った位置で、上記幅方向及び上記表面保護層の厚さ方向に平行な断面は、上記凹凸構造が設けられた部分が正弦波形状を有している上記側面の何れかに係る化粧シートが提供される。
【0019】
本発明の更に他の側面によると、上記表面保護層は、電離放射線硬化性樹脂の硬化物を含んだ上記側面の何れかに係る化粧シートが提供される。
【0020】
本発明の更に他の側面によると、上記電離放射線硬化性樹脂は、主成分が繰り返し構造を含むアクリレートであり、上記繰り返し構造は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、及びε-カプロラクトンの何れかであり、上記繰り返し構造の繰り返し回数は3以上である上記側面に係る化粧シートが提供される。
【0021】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係る化粧シートと、上記化粧シートが貼り付けられた基材とを備えた化粧材が提供される。
【0022】
本発明によれば、低光沢であり、ざらざらした触感を与える化粧シートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る化粧シートを含んだ化粧材の断面図である。
図2図2は、図1の化粧シートが含んでいる表面保護層の断面図である。
図3図3は、本発明の一例に係る化粧シートが含んでいる表面保護層の顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。以下に記載する事項は、単独で又は複数を組み合わせて、上記側面の各々に組み入れることができる。
【0025】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の構成部材の材質、形状、及び構造等によって限定されるものではない。本発明の技術的思想には、請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0026】
なお、同様又は類似した機能を有する要素については、以下で参照する図面において同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面は模式的なものであり、或る方向の寸法と別の方向の寸法との関係、及び、或る部材の寸法と他の部材の寸法との関係等は、現実のものとは異なり得る。
【0027】
<1>化粧材及び化粧シート
図1は、本発明の一実施形態に係る化粧シートを含んだ化粧材の断面図である。図2は、図1の化粧シートが含んでいる表面保護層の断面図である。図3は、本発明の一例に係る化粧シートが含んでいる表面保護層の顕微鏡写真である。
【0028】
なお、図2に示す断面は、表面保護層の厚さ方向に沿った断面である。また、図3の顕微鏡写真は、レーザ顕微鏡(オリンパス社製 OLS-4000)により得た平面写真である。
【0029】
図1に示す化粧材11は、基材Bと、これに貼り付けられた化粧シート1とを含んでいる。ここでは、化粧材11は、化粧板である。化粧板は、平板であってもよく、曲げられているか又は折られていてもよい。化粧材11は、板以外の形状を有していてもよい。
【0030】
基材Bは、ここでは、板材である。板材は、例えば、木質ボード、無機質ボード、金属板、又は、複数の材料からなる複合板である。基材Bは、板以外の形状を有していてもよい。
【0031】
化粧シート1は、原反層2と、絵柄層3と、透明樹脂層4と、表面保護層5と、接着層7と、プライマ層6と、隠蔽層8とを含んでいる。絵柄層3、接着層7、透明樹脂層4、及び表面保護層5は、原反層2の基材Bと向き合った面とは反対側の面に、原反層2側からこの順に設けられている。隠蔽層8及びプライマ層6は、原反層2の基材Bと向き合った面に、原反層2側からこの順に設けられている。絵柄層3、透明樹脂層4、プライマ層6、接着層7、及び隠蔽層8の1以上は省略してもよい。以下に、化粧シート1が含んでいる要素について、順次説明する。
【0032】
<1.1>原反層
原反層2又はその材料としては、例えば、紙、合成樹脂、合成樹脂の発泡体、ゴム、不織布、合成紙、金属箔等から任意に選定したものが使用可能である。紙としては、薄葉紙、チタン紙、樹脂含浸紙等が例示できる。合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、アクリル等が例示できる。ゴムとしては、エチレン-プロピレン共重合ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合ゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合ゴム、ポリウレタン等が例示できる。不織布としては、有機系や無機系の不織布が使用できる。金属箔の金属としては、アルミニウム、鉄、金、銀等が例示できる。
【0033】
原反層2の層厚は、印刷作業性やコストなどを考慮すれば、20μm以上250μm以下の範囲内が好ましい。
【0034】
<1.2>プライマ層
原反層2の材料としてオレフィン系の樹脂を用いる場合には、原反層2の表面が不活性な状態であることが多い。従って、この場合、原反層2と基材Bとの間に、プライマ層6を設けることが好ましい。原反層2がオレフィン系材料からなる場合、プライマ層6を省略するとともに、原反層2と基材Bとの接着性を向上させるために、原反層2に対して、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、電子線処理、紫外線処理、重クロム酸処理等の表面改質処理を施してもよい。
【0035】
プライマ層6の材料としては、例えば、絵柄層3について後述する材料を用いることができる。プライマ層6は、化粧シート1の裏面に施されることから、化粧シート1がウエブ状に巻取りされることを考慮すると、ブロッキングを避けて且つ接着剤との密着力を高めるために、プライマ層6に無機充填剤を添加してもよい。無機充填剤としては、シリカ、アルミナ、マグネシア、酸化チタン、硫酸バリウム等が例示できる。
【0036】
<1.3>隠蔽層
基材Bに対する隠蔽性を化粧シート1に付与するには、例えば、原反層2として着色シートを用いるか、又は、不透明な隠蔽層8を設ける。隠蔽層8は、例えば、絵柄層3について後述するものと同じ材料から構成することができる。但し、隠蔽層8は、隠蔽性を目的としているので、顔料としては、例えば、不透明な顔料、酸化チタン、酸化鉄等を使用することが好ましい。また、隠蔽性を高めるために、隠蔽層8の材料には、例えば、金、銀、銅、アルミニウム等の金属を添加することも可能である。一般的には、フレーク状のアルミニウム片を添加させることが多い。
【0037】
<1.4>絵柄層
絵柄層3は、原反層2に対して、インキを用いて絵柄を印刷してなる層である。インキのバインダとしては、例えば、硝化綿、セルロース、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル類、又は、それらの変性物を、単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。バインダは、水性、溶剤系、エマルジョンタイプの何れでもよく、1液タイプでも硬化剤を使用した2液タイプでもよい。絵柄層3は、硬化性のインキで形成した層を、紫外線や電子線等の照射により硬化させる方法により形成してもよい。中でも最も一般的な方法は、ウレタン系のインキを用いるもので、イソシアネートによって硬化させる方法である。絵柄層3を形成するために使用するインキは、バインダ以外には、例えば、通常のインキに含まれている顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、各種添加剤などを更に含むことができる。汎用性の高い顔料としては、例えば、縮合アゾ、不溶性アゾ、キナクリドン、イソインドリン、アンスラキノン、イミダゾロン、コバルト、フタロシアニン、カーボン、酸化チタン、酸化鉄、雲母等のパール顔料等が挙げられる。
【0038】
また、インキの塗布とは別に、各種金属の蒸着やスパッタリングで、絵柄層3に意匠を施すことも可能である。特に、上記インキには、光安定剤が添加されていることが好ましい。これにより、インキの光劣化から生じる化粧シート1自体の劣化を抑制し、化粧シート1の寿命を長くすることができる。
【0039】
<1.5>接着層
接着層7は、感熱接着層、アンカーコート層、ドライラミ接着剤層とも呼ばれる層である。
【0040】
接着層7の樹脂材料は特に限定されるものではないが、例えば、アクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、エポキシ系などの樹脂材料から適宜選択して用いることができる。また、接着層7の樹脂材料として、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系接着剤も用いることができる。塗工方法は、接着剤の粘度などに応じて適宜選択することができる。一般的には、グラビアコートが用いられ、絵柄層3の上面に対してグラビアコートによって接着層7を形成した後、透明樹脂層4がラミネートされる。なお、接着層7は、透明樹脂層4と絵柄層3との間で十分な接着強度が得られる場合には、省略することができる。
【0041】
<1.6>透明樹脂層
透明樹脂層4の樹脂材料としては、オレフィン系樹脂が好適に用いられる。オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテンなどの他に、αオレフィン(例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセンなど)を単独重合させたもの又はそれらの二種類以上を共重合させたものや、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-エチルメタクリレート共重合体、エチレン-ブチルメタクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体などのように、エチレン又はαオレフィンとそれ以外のモノマーとを共重合させたものが挙げられる。
【0042】
また、化粧シート1の表面強度の向上を図るために、透明樹脂層4の樹脂として、高結晶性のポリプロピレンを用いることが好ましい。なお、透明樹脂層4には、必要に応じて、例えば、熱安定剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、着色剤、光散乱剤、及び艶調整剤等の各種添加剤を添加することもできる。熱安定剤としては、フェノール系、硫黄系、リン系、ヒドラジン系等を、光安定剤としては、ヒンダードアミン系等を、それぞれ任意の組合せで添加するのが一般的である。
【0043】
<1.7>表面保護層
表面保護層5は、コア部5Aと、各々がコア部5Aの一方の面から畝状に突出した複数の畝状部5Bとを含んでいる。これら畝状部5Bは、凹凸構造を形成している。
【0044】
ここで、本実施形態に係る化粧シート1において、「畝状」とは、平面視で線状である凸形状をいう。畝状部5Bは、平面視での形状が、曲線状であっても直線状であってもよいが、化粧シート1の耐指紋性の観点から曲線状であることが好ましい。畝状部5Bの各々は、平面視で分岐していてもよく、分岐していなくてもよい。また、本開示において、畝状部5Bは、例えば、表面保護層5の表面に設けられた凹凸形状の最も低い部分から先端までの部分であり、コア部5Aは表面保護層5のうち畝状部5Bを除いた部分をいうものとする。
【0045】
畝状部5Bは、例えば、図3に示すように、各々が湾曲しており、少なくとも一部は幅方向へ隣り合っている。畝状部5Bの少なくとも一部が幅方向へ隣り合った位置で、この幅方向及び表面保護層5の厚さ方向に平行な表面保護層5の断面は、図2に示すように、凹凸構造が設けられた部分が正弦波形状などの波形状を有している。
【0046】
表面保護層5の凹凸構造は、突出山部高さRpkが3.5μm以上である。ここで、「突出山部高さRpk」は、JIS B0671-2:2002に規定された表面性状パラメータである。この突出山部高さRpkは、4.5μm以上であることがより好ましく、7.0μm以上であることが更に好ましい。この突出山部高さRpkを小さくした化粧シートは、ユーザが表面保護層の表面上で肌を滑らせたときに、例えば、表面保護層の表面上で指を滑らせたときに、ユーザへざらざらした触感を与えない。
【0047】
この突出山部高さRpkは、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることが更に好ましい。この突出山部高さRpkが大きな化粧シートは、高い再現性で製造することが難しい。
【0048】
表面保護層5の凹凸構造は、粗さ曲線要素の平均長さRSmが150μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましく、250μm以上であることが更に好ましい。ここで、「粗さ曲線要素の平均長さRSm」は、JIS B0601:2013に規定された表面性状パラメータである。ユーザが表面保護層の表面上で肌を滑らせたときに、例えば、表面保護層の表面上で指を滑らせたときに、ユーザへざらざらした触感を与えるうえでは、粗さ曲線要素の平均長さRSmは、上記の範囲内にあることが好ましい。
【0049】
この平均長さRSmは、600μm以下であることが好ましく、550μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることが更に好ましい。この平均長さRSmを大きくすると、ユーザが表面保護層の表面上で指を滑らせたときに、畝状部5Bの存在を知覚する頻度が少なくなる可能性がある。
【0050】
表面保護層5のフーリエ型赤外分光測定において得られる吸光スペクトルは、1085乃至1105cm-1の波数範囲における最大値I1095と、1715乃至1735cm-1の波数範囲における最大値I1725との比I1095/I1725が0.65以上である。好ましい表面保護層5は、比I1095/I1725が0.85以上である。低光沢の表面保護層5は、比I1095/I1725が上記範囲内にある。
【0051】
比I1095/I1725は、3.5以下であることが好ましく、2.7以下であることがより好ましい。比I1095/I1725が大きい表面保護層5は、耐傷性が低い傾向にある。
【0052】
ここで、上記のフーリエ型赤外分光測定について説明する。
波長が2.5乃至25μmの範囲内にある赤外光は、分子における振動や回転の状態を変化させ得る。そして、この振動や回転の状態を変化させるのに必要なエネルギーは、分子の構造に応じて異なる。赤外分光測定は、これを利用して、物質の化学構造や状態に関する情報を得る測定方法である。
【0053】
フーリエ型赤外分光測定では、例えば、以下のようにして測定を行う。先ず、光源からの光を半透鏡へ斜めに入射させて、透過光と反射光との2つの光束へと分割する。半透鏡を透過した光束は、固定鏡によって反射させて、半透鏡へ斜めに再入射させる。半透鏡によって反射された光束は、移動鏡によって反射させて、半透鏡へ斜めに再入射させる。固定鏡からの反射光のうち半透鏡によって反射された光束と、移動鏡からの反射光のうち半透鏡を透過した光束とは合成されて、干渉波を生じる。半透鏡から移動鏡までの距離を変化させながら、この干渉波を試料へ照射するとともに、試料を透過した光の強度を測定する。このようにして取得した強度データを、計算によって波数成分毎の強度へ分離して(フーリエ変換して)、透過率スペクトルを得る。
【0054】
ここで利用するフーリエ型赤外分光測定では、上記のフーリエ型赤外分光測定において、透過光強度の測定を行う代わりに、以下の全反射測定法(ATR法)による反射光強度の測定を行う。
【0055】
ATR法を利用したフーリエ変換型赤外分光測定では、干渉波を試料へ直接入射させる代わりに、試料の表面に接触させた測定用プリズムへ干渉波を入射させる。干渉波は、プリズムと試料との界面で全反射されるように測定用プリズムへ入射させる。こうすると、試料のうち上記界面近傍の領域にエバネッセント波が染み出し、特定の波数成分の光はこの領域内の分子によって吸収される。そして、ATR法を利用したフーリエ変換型赤外分光測定では、透過光の強度を測定する代わりに、反射光の強度を測定する。その後、このようにして取得した強度データを、計算によって波数成分毎の強度へ分離して(フーリエ変換して)、ATRスペクトルを得る。
【0056】
エバネッセント波の染み出し深さ(もぐり込み深さ)は、波長が長くなるほど大きくなる。それ故、横軸を波長とし、縦軸を反射光強度(又は反射率)としたATRスペクトルのベースラインは、右下がりになる。また、エバネッセント波の染み出し深さには、上記界面への干渉波の入射角やプリズム及び試料の屈折率も影響を及ぼす。従って、ATRスペクトルは、波長の逆数等で補正する。このような補正をすることにより、上記の透過率スペクトルと同様のピーク強度比を有するスペクトルが得られる。そして、このスペクトルを変換することにより、横軸を波数とし、縦軸を吸光度とした吸光スペクトルを得る。
【0057】
エバネッセント波の染み出し深さは小さく、また、干渉波の入射角やプリズムの屈折率で調節可能である。従って、ATR法を利用したフーリエ変換型赤外分光測定によると、測定すべき対象が薄い層である場合であっても、その下地がノイズになるのを防ぐことができる。また、ATR法を利用したフーリエ変換型赤外分光測定によると、測定対象が試料の表面に露出していれば、非破壊での測定が可能である。
【0058】
上記の通り、表面保護層5のフーリエ型赤外分光測定において得られる吸光スペクトルは、比I1095/I1725が所定の範囲内にある。1085乃至1105cm-1の波数範囲における最大値I1095は、表面保護層5が含むエーテル結合の数に関連した値である。また、1715乃至1735cm-1の波数範囲における最大値I1725は、エステル結合の数に関連した値である。従って、比I1095/I1725は、後述する表面保護層用塗液の電離放射性樹脂が含んでいるアクリレートのエーテル結合数と官能基数との比に相当するものである。
【0059】
表面保護層5の厚さは、8μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることが更に好ましい。表面保護層5の厚さを小さくすると、突出山部高さRpkや平均長さRSmを大きくすることが難しくなる。表面保護層5の厚さを大きくすると、突出山部高さRpkや平均長さRSmが大きくなり易い。表面保護層5の厚さに上限はないが、コスト等の観点から、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましい。
【0060】
ここで、表面保護層5の厚さは、表面保護層5と見かけ上の面積及び体積が等しく且つ表面が平坦な層の厚さである。表面保護層5の厚さは、例えば、以下の方法により求める。先ず、表面保護層5の厚さ方向に平行であり且つ畝状部5Bの長さ方向に垂直な断面を撮像する。次に、この断面画像から、畝状部5Bの幅方向における表面保護層5の寸法と、表面保護層5の断面の面積とを求める。表面保護層5の厚さは、この面積を上記の寸法で割ることにより得られる値である。なお、後述する表面保護層用塗液が溶媒を含んでいない場合、表面保護層用塗液からなる塗膜の厚さは、表面保護層5の厚さと等しい。
【0061】
表面保護層5の光沢度は、10.0未満であることが好ましく、8.0以下であることがより好ましい。ここで、「光沢度」は、JIS Z8741:1997に準拠した光沢度計を用いて入射角60度で測定した場合の測定値である。
【0062】
<2>化粧シートの製造方法
化粧シート1は、例えば、以下の方法により製造する。ここでは、簡略化のため、絵柄層3、透明樹脂層4、プライマ層6、接着層7、及び隠蔽層8に関する説明は省略する。
【0063】
先ず、原反層2の一方の面に、表面保護層用塗液からなる塗膜を形成する。この塗膜は、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷法や、ロールコート法、ナイフコート法、マイクログラビアコート法、ダイコート法等の各種コーティング法によって形成することができる。
【0064】
表面保護層用塗液は、電離放射線硬化性樹脂を含んでいる。ここで、「電離放射線」は、電子線などの荷電粒子線である。電離放射線硬化性樹脂は、電離放射線の照射によって硬化する。また、電離放射線硬化性樹脂は、紫外線照射によっても硬化し得る。ここで使用する電離放射線硬化性樹脂は、波長が200nm以下の光を照射することによって硬化する一方で、この光に対する吸収係数が大きい。
【0065】
表面保護層用塗液において、その固形分全量を100質量部とした場合、電離放射線硬化性樹脂の量は、60質量部以上であることが好ましく、70質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることが更に好ましい。電離放射線硬化性樹脂としては、各種モノマーや市販されているオリゴマーなど、公知のものを用いることができ、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アミド系樹脂、エポキシ系樹脂を使用できる。電離放射線硬化性樹脂は、水系樹脂又は非水系(有機溶剤系)樹脂の何れであってもよい。
【0066】
電離放射線硬化性樹脂の主成分は、アクリレートであることが好ましい。ここで、電離放射線硬化性樹脂の主成分とは、電離放射線硬化性樹脂が含む全固形分を100質量部とした場合に、60質量部以上であることを意味する。電離放射線硬化性樹脂は、アクリレートを70質量部以上の量で含んでいることが好ましく、80質量部以上の量で含んでいることがより好ましい。
【0067】
アクリレートは、2官能以上のアクリレートであることが好ましく、3官能以上のアクリレートであることがより好ましい。耐傷性に優れた表面保護層5を得るうえでは、アクリレートは3官能以上であることが好ましい。アクリレートの官能基数に上限はないが、一例によれば6官能以下である。
【0068】
アクリレートは、繰り返し構造を含んでいることが好ましい。この繰り返し構造は、例えば、エチレンオキサイド(EO)構造、プロピレンオキサイド(PO)構造、及びε-カプロラクトン(CL)構造の何れかである。繰り返し構造は、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドであることが好ましい。繰り返し構造を含んだ3官能以上のアクリレートにおいて、上記の繰り返し構造は、開環した状態でアクリロイル基とメチロール基との間に介在し得る。
【0069】
繰り返し構造の繰り返し回数は3以上であることが好ましい。この繰り返し回数が多いアクリレートを使用すると、後述する第2照射工程において、硬化膜の面内方向への膨張が生じ易くなり、それ故、畝状部5Bに対応した皺が塗膜表面に生じ易くなる。但し、この繰り返し回数を多くすると、架橋密度が低下し、表面保護層の耐傷性が低下する。
【0070】
繰り返し構造を含んだ3官能のアクリレートは、例えば、EO変性、PO変性又はCL変性させた、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、イソシアヌレートトリアクリレート、又はペンタエリスリトールトリアクリレートである。繰り返し構造を含んだ3官能のアクリレートでは、繰り返し構造の繰り返し回数は、3以上30以下であることが好ましく、3以上20以下であることがより好ましい。
【0071】
繰り返し構造を含んだ4官能のアクリレートは、例えば、EO変性、PO変性又はCL変性させたペンタエリスリトールテトラアクリレートである。繰り返し構造を含んだ4官能のアクリレートでは、繰り返し構造の繰り返し回数は、12以上であることが好ましく、12以上50以下であることがより好ましく、20以上50以下であることが更に好ましい。
【0072】
上記繰り返し構造の繰り返し回数は、MALDI-TOF-MSを使用することで分析可能である。電離放射線硬化性樹脂は、分子量分布を持つ場合がある。分子量分布がある場合、上記の繰り返し回数は、MALDI-TOF-MSのマススペクトルの最も強いピークを持つ分子量に相当する繰り返し回数とする。
【0073】
表面保護層用塗液は、粒子を更に含んでいることが好ましい。表面保護層用塗液に粒子を含有させると、第2照射工程において、塗膜表面に皺をより均一に生じさせることができる。
【0074】
粒子としては、例えば、ポリエチレン(PE)ワックス、ポリプロピレン(PP)ワックス、樹脂ビーズなどの有機材料からなる粒子、又は、シリカ、ガラス、アルミナ、チタニア、ジルコニア、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの無機材料からなる粒子を用いることができる。
【0075】
粒子の平均粒径(D50)は、10μm以下であることが好ましい。粒子の平均粒径(D50)は、より好ましくは1μm以上8μm以下であり、更に好ましくは2μm以上6μm以下である。大きな粒子を使用した場合、表面保護層5からの粒子の脱落を生じ易く、高い耐傷性を実現することが難しくなる場合がある。粒子が小さい場合、皺を均一に生じさせる効果が小さい。
【0076】
ここで、「平均粒径(D50)」は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定されるメジアン径(D50)である。なお、表面保護層用塗液が粒子を含んでいる場合、この塗液から得られる表面保護層5も粒子を含むことになる。表面保護層5が含んでいる粒子の平均粒径は、その断面観察を行い、複数の粒子の粒径を実測して平均化した値とすることができる。このようにして得られる値は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定されるメジアン径(D50)と実質的に同じ値となる。従って、上述した平均粒径の範囲は、表面保護層5が含んでいる粒子の平均粒径の範囲と読み替えることもできる。
【0077】
粒子の添加量は、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましく、2質量部以上8質量部以下であることがより好ましく、2質量部以上6質量部以下であることが更に好ましい。粒子の量が上記範囲内にある場合、皺を均一に生じさせる効果が特に大きい。
【0078】
表面保護層用塗液は、溶媒や、最終製品の機能向上のための添加剤、例えば、抗菌剤及び防カビ剤を更に含むことができる。表面保護層用塗液は、紫外線吸収剤及び光安定剤等の他の添加剤を更に含むことができる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等を使用することができる。光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系等を使用することができる。なお、ここに記載する方法によれば、艶調整剤(艶消し添加剤)なしで低い光沢度を有する表面保護層5を形成することができる。
【0079】
表面保護層用塗液は光開始剤を更に含んでいることが好ましい。光開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンゾフェノン系、アセトフェノン系、ベンゾインエーテル系、チオキサントン系光開始剤等が挙げられる。
【0080】
開始剤の添加量は、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.25質量部以上8質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上6質量部以下であることが更に好ましい。開始剤の量が少ない場合、後述する第1照射工程の効果が顕著には現れない。開始剤の量が多すぎる場合、第1照射工程によって塗膜が完全硬化し、その後の第2照射工程で皺形状が形成されない。
【0081】
表面保護層用塗液からなる塗膜を形成した後、好ましくは、第1照射工程を実施する。第1照射工程では、波長が200nm以上400nm以下程度の波長の光(以下、第1照射光という)を塗膜へ照射する。これにより、塗膜を半硬化させる。第1照射工程の実施により塗膜を半硬化させることで、後述の第2照射工程により生ずる皺状の凹凸構造(テクスチャ)を量産安定化することが可能である。或いは、第1照射工程の照射条件を適宜設定することにより、凹凸構造の調整、特には凹凸構造の深さを調整することが可能である。
【0082】
第1照射工程に使用する光源としては、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、及び波長200nm以上400nm以下の波長の光を有する単波長LEDランプ等から選択して使用できる。
【0083】
第1照射工程の積算光量は、2mJ/cm以上100mJ/cm以下とすることが好ましく、10mJ/cm以上80mJ/cm以下とすることがより好ましく、20mJ/cm以上60mJ/cm以下とすることが更に好ましい。積算光量を少なくすると、先述の第1照射工程の効果が現れない。積算光量を多くすると、塗膜が完全硬化し、その後の第2照射工程で皺形状が形成されない。
【0084】
次いで、第2照射工程を実施する。第2照射工程では、波長が200nm以下の光(以下、第2照射光という)を塗膜へ照射する。表面保護層用塗液が含んでいる電離放射線硬化性樹脂は、第2照射光に対する吸光係数が大きい。それ故、塗膜に入射した第2照射光は、その最表面からの距離が数十乃至数百nmの位置までしか到達できない。従って、第2照射工程では、塗膜の表面領域において架橋反応が進行して極めて薄い硬化膜が形成される一方、他の領域では架橋反応が進行せずに半硬化のままとなる。
【0085】
第2照射工程後の塗膜は、畝状部5Bに対応した皺を表面に有している。本発明者は、第2照射工程によって塗膜表面に皺を生じる理由を以下のように考えている。
【0086】
上記の通り、第2照射光は、塗膜の最表面からの距離が数十乃至数百nmの位置までしか到達できない。即ち、第2照射光の照射による電離放射線硬化性樹脂の架橋反応は、塗膜の表面においてのみ生じる。塗膜の表面に存在しているモノマー等は、第2照射光の照射により、それらが有している官能基を介して架橋することにより硬化膜を形成するが、それらの官能基の全てが塗膜の表面に存在しているモノマー間の架橋に利用される訳ではない。即ち、硬化膜には未架橋の官能基が残留し得る。
【0087】
塗膜の表面から離れた位置に存在しているモノマーには、第2照射光は到達しないので、それらの架橋反応は生じない。しかしながら、塗膜の表面から離れた位置に存在しているモノマーの一部は、硬化膜へと移動し、そこで、架橋反応を生じる。このようにして、架橋反応に関与した分子の数が増加する。
【0088】
塗膜表面における架橋反応に関与する分子の数が増えると、硬化膜の体積が増加する。架橋反応は塗膜の表面でしか生じないので、硬化膜は、厚さ方向へ体積を増やすことはできず、面内方向へ膨張する。その結果、塗膜の表面に皺を生じる。
【0089】
第2照射光は、エキシマVUV(Vacuum Ultra Violet)光より取り出すことができる。エキシマVUV光は、希ガスや希ガスハライド化合物を使用したランプから生み出すことができる。希ガスや希ガスハライド化合物のガスが封じられたランプに外部から高いエネルギーを有する電子を与えると、放電プラズマ(誘電体バリア放電)が多数発生する。このプラズマ放電により、放電ガス(希ガス)の原子が励起され、瞬間的にエキシマ状態となる。このエキシマ状態から基底状態に戻るときに、そのエキシマ特有の波長領域の光を発する。
【0090】
エキシマランプに用いるガスは、200nm以下の光を発するものであれば、従来用いられた何れのガスであってもよい。ガスとしては、Xe、Ar、Kr等の希ガスや、ArBr、ArF等の希ガスとハロゲンガスとの混合ガスを用いることができる。エキシマランプは、ガスによって波長(中心波長)が異なり、例えば約172nm(Xe)、約126nm(Ar)、約146nm(Kr)、約165nm(ArBr)、約193nm(ArF)等の波長を有する。
【0091】
光子エネルギーの大きさや、波長と有機物の結合エネルギーとの差を考慮すると、中心波長が172nmのエキシマ光を発するキセノンランプを光源として用いることが好ましい。また、設備維持にかかるコストや材料の入手等を考慮しても、キセノンランプを光源として用いることが好ましい。
【0092】
第2照射工程は、酸素濃度が低い雰囲気下で行う。酸素は、200nm以下の光に対する吸収係数が大きい。従って、第2照射工程は、例えば、窒素ガス雰囲気下で行うことが好ましい。第2照射工程における気相中の酸素濃度、即ち、反応雰囲気中の残留酸素濃度は、2000ppm以下とすることが好ましく、1000ppm以下とすることがより好ましい。
【0093】
また、雰囲気中の酸素は、ラジカル重合を阻害する。それ故、反応雰囲気中の残留酸素濃度は、塗膜表面への皺の形成に影響を及ぼす。それ故、反応雰囲気中の残留酸素濃度を変化させると、表面保護層5の表面性状も変化し得る。
【0094】
第2照射工程の積算光量は、0.5mJ/cm以上200mJ/cm以下とすることが好ましく、1mJ/cm以上100mJ/cm以下とすることがより好ましく、3mJ/cm以上50mJ/cm以下とすることが更に好ましい。積算光量を少なくすると、硬化膜の面内方向への膨張が小さくなる。積算光量を多くすると、塗膜の表面状態が劣化する。
【0095】
第2照射工程を終了後、第3照射工程を実施する。第3照射工程では、塗膜へ第3放射線又は照射光を照射して、塗膜全体を硬化させる。これにより、表面保護層5を得る。
【0096】
第3放射線又は照射光は、電子線などの電離放射線であるか、又は、第2照射光と比較して波長が長い紫外線である。
【0097】
第3放射線又は照射光が紫外線の場合、その積算光量は、10mJ/cm以上500mJ/cm以下とすることが好ましく、50mJ/cm以上400mJ/cm以下とすることがより好ましく、100mJ/cm以上300mJ/cm以下とすることが更に好ましい。
【0098】
<3>効果
図1乃至図3を参照しながら説明した化粧シート1は、表面保護層5が上述した表面性状を有している。このような化粧シート1は、ユーザが表面保護層5の表面上で肌を滑らせたときに、例えば、表面保護層5の表面上で指を滑らせたときに、ユーザへざらざらした触感を与える。即ち、この化粧シート1は、大きな凹凸の存在をユーザに感じさせることを可能とする。
【0099】
ユーザへざらざらした触感を与える化粧シート1は、ユーザの肌に触れる機会が多く、化粧シート1で外観を再現すべき物品がざらざらした触感を与えるものである場合の使用に適している。具体的には、化粧シート1は、家具などでの使用に適している。
【0100】
化粧シート1の表面保護層5は、上述した表面性状を有しているので、艶調整剤(艶消し添加剤)を含んでいなくても、低い光沢度を達成し得る。艶調整剤は、樹脂材料により形成した層の撥油性を低下させるため、艶調整剤を含んだ表面保護層は指紋が付き易い。艶調整剤を含まない表面保護層5は、油を吸収し難いため、指紋が付着し難い。また、撥油性に優れた表面保護層5は、油染みや汚染物質の吸着を生じ難い。更に、艶調整剤を含まない表面保護層5は、その表面を引っ掻いた際に艶調整剤の粒子が脱落せず、それ故、そのような表面保護層5を含んだ化粧シート1は、艶変化や引っ掻き傷を生じ難い。
【0101】
上述した方法により、上記の表面性状を有している表面保護層5が得られるのは、以下の理由による。
【0102】
気相中の酸素は、短波長の紫外線を吸収するだけでなく、ラジカル重合を阻害する。気相中に含まれる酸素がラジカル重合へ及ぼす影響は、電離放射線硬化性樹脂からなる塗膜のうち、気相と隣接した部分において最も大きく、塗膜表面からの距離が大きくなるのに従って小さくなる。それ故、第2照射工程において、気相中の酸素濃度を変化させることにより、塗膜表面からの距離と架橋反応の進行度との関係を変化させることができる。
【0103】
この関係が変化すると、第2照射工程によって塗膜の表面に生じる硬化膜の厚さや、架橋反応の進行に応じた面内方向への硬化膜の膨張の程度が変化する。硬化膜の厚さや面内方向への硬化膜の膨張の程度には、第2照射工程における積算光量も影響を及ぼす。そして、硬化膜の厚さや面内方向への硬化膜の膨張の程度は、表面保護層の表面性状へ影響を及ぼす。更に、塗膜の厚さも、皺の形成へ影響を及ぼす。
【0104】
従って、例えば、電離放射線硬化性樹脂の組成と、塗膜の厚さと、第2照射工程における気相中の酸素濃度と、第2照射工程における積算光量とを適宜設定することにより、所望の表面性状を有する表面保護層を得ることができる。
【実施例
【0105】
以下に、本発明の例を記載する。
【0106】
<例1>
図1乃至図3を参照しながら説明した化粧シート1を、以下の方法により製造した。なお、本例では、透明樹脂層4、プライマ層6、接着層7及び隠蔽層8は省略した。
【0107】
先ず、坪量50g/mの含浸紙(GFR-506:興人(株)製)を、原反層2として準備した。原反層2の一方の面に対して、油性硝化綿樹脂系グラビア印刷インキ(PCNT(PCRNT)各色:東洋インキ(株)製)を使用して、絵柄層3を形成した。
【0108】
次いで、絵柄層3上に、表面保護層用塗液を塗布した。表面保護層用塗液としては、下記の電離放射線硬化性樹脂に、下記の粒子及び開始剤を配合してなるものを使用した。 ・電離放射線硬化性樹脂
種類:エチレングリコールジアクリレート(EO9モル付加)
品名:ライトアクリレート9EG-A(共栄社化学社製)
配合:100質量部
・粒子
品名:サイリシア250N(富士シリシア化学社製)
粒径:5μm
配合:2質量部
・開始剤
品名:Omnirad(登録商標)184(IGM Resins B.V.社製) 配合:1質量部
表面保護層用塗液からなる塗膜は、厚さが10μmとなるように形成した。
【0109】
その後、第1照射工程を実施した。具体的には、大気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、波長365nmを主波長とする紫外線を放射する高圧水銀ランプを用いて、上記紫外線を積算光量が100mJ/cmとなるように照射した。これにより、塗膜を半硬化させた。
【0110】
続いて、第2照射工程を実施した。具体的には、大気圧下、酸素濃度が500ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が150mJ/cmとなるように照射した。これにより、塗膜の表面に皺を生じさせた。
【0111】
続いて、第3照射工程を実施した。具体的には、塗膜へ電離放射線を照射して、その全体を硬化させることで、表面保護層5を形成した。
以上のようにして、化粧シート1を得た。
【0112】
<例2>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート(EO6モル付加)
品名:Miramer M3160(Miwon社製)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が500ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が150mJ/cmとなるように照射した。
【0113】
<例3>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート(EO15モル付加)
品名:SR9035(Sartomer社製)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が500ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が150mJ/cmとなるように照射した。
【0114】
<例4>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート(EO3モル付加)
品名:Miramer M3130(Miwon社製)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が200ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が200mJ/cmとなるように照射した。
【0115】
<例5>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート(PO6モル付加)
品名:NKエステルA-TMPT-6PO(新中村化学社製)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が500ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が150mJ/cmとなるように照射した。
【0116】
<例6>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート(カプロラクトン(CL)3モル付加)
品名:NKエステルA-9300-3CL(新中村化学社製)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が200ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が200mJ/cmとなるように照射した。
【0117】
<例7>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。表面保護層用塗液からなる塗膜は、厚さが8μmとなるように形成した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート(EO6モル付加)
品名:Miramer M3160(Miwon社製)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が500ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が150mJ/cmとなるように照射した。
【0118】
<例8>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。表面保護層用塗液からなる塗膜は、厚さが15μmとなるように形成した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート(EO6モル付加)
品名:Miramer M3160(Miwon社製)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が200ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が200mJ/cmとなるように照射した。
【0119】
<例9>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(EO35モル付加)
品名:NKエステル ATM-35E(新中村化学工業社製)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が200ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が150mJ/cmとなるように照射した。
【0120】
<例10>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(EO50モル付加)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が200ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が150mJ/cmとなるように照射した。
【0121】
<例11>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(EO20モル付加)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が100ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が200mJ/cmとなるように照射した。
【0122】
<例12>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PO35モル付加) そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が200ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が150mJ/cmとなるように照射した。
【0123】
<例13>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:カプロラクトン変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(CL20モル付加)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が100ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が200mJ/cmとなるように照射した。
【0124】
<例14>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。表面保護層用塗液からなる塗膜は、厚さが8μmとなるように形成した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(EO35モル付加)
品名:NKエステル ATM-35E(新中村化学工業社製)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が200ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が150mJ/cmとなるように照射した。
【0125】
<例15>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。表面保護層用塗液からなる塗膜は、厚さが15μmとなるように形成した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(EO35モル付加)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が200ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が200mJ/cmとなるように照射した。
【0126】
<比較例1>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シートを製造した。即ち、本例では、表面保護層用塗液としては、下記の電離放射線硬化性樹脂に、下記の粒子を配合してなるものを使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート(EO6モル付加)
品名:Miramer M3160(Miwon社製)
配合:100質量部
・粒子
品名:サイリシア250N(富士シリシア化学社製)
粒径:5μm
配合:15質量部
そして、第1及び第2照射工程は行わず、表面保護層用塗液からなる塗膜は、第3照射工程のみによって硬化させた。
【0127】
<比較例2>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シートを製造した。即ち、本例では、表面保護層用塗液としては、下記の電離放射線硬化性樹脂に、下記の粒子を配合してなるものを使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(EO35モル付加)
品名:NKエステル ATM-35E(新中村化学工業社製)
配合:100質量部
・粒子
品名:サイリシア250N(富士シリシア化学社製)
粒径:5μm
配合:15質量部
そして、第1及び第2照射工程は行わず、表面保護層用塗液からなる塗膜は、第3照射工程のみによって硬化させた。
【0128】
<比較例3>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シートを製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。表面保護層用塗液からなる塗膜は、厚さが5μmとなるように形成した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート(EO6モル付加)
品名:Miramer M3160(Miwon社製)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が500ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が50mJ/cmとなるように照射した。
【0129】
<比較例4>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シートを製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。表面保護層用塗液からなる塗膜は、厚さが5μmとなるように形成した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(EO35モル付加)
品名:NKエステル ATM-35E(新中村化学工業社製)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が200ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が50mJ/cmとなるように照射した。
【0130】
<比較例5>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:エポキシエステル(PO3モル付加)
品名:エポキシエステル200PA(共栄社化学)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が100ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が100mJ/cmとなるように照射した。
【0131】
<比較例6>
以下の点を除き、例1と同様の方法により化粧シート1を製造した。即ち、本例では、下記の電離放射線硬化性樹脂を使用した。
・電離放射線硬化性樹脂
種類:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(EO4モル付加)
品名:NKエステル ATM-4E(新中村化学工業社製)
そして、第2照射工程は、大気圧下、酸素濃度が100ppmの窒素ガス雰囲気中で、表面保護層用塗液からなる塗膜の表面に対して、Xeエキシマランプを用いて、波長172nmの紫外線を積算光量が100mJ/cmとなるように照射した。
【0132】
<評価>
上記の化粧シートの各々に対し、以下に記載する評価を行った。
【0133】
(1)光沢度
光沢度は、Rhopoint IQ(コニカミノルタ社製)を用いて、60度光沢度を測定した。以下の表1乃至表3における「60度光沢値」は、この60度光沢度を表している。
【0134】
(2)肌感触
肌感触は、以下の方法により評価した。
先ず、評価者間で評価基準を一致させるための事前準備を行った。具体的には、表面性状が異なる10個の標準試験片を準備した。次に、20名の評価者の各々に、目隠しした状態で標準試験片の表面上で指を滑らせてもらい、その後、触感を以下の5つの群に分類してもらった。
第1群:凹凸の存在を明確に感じ、強いざらざら触感があった。
第2群:ざらざら触感(第1群と第3群の中間のざらざら触感)があった。
第3群:わずかなざらざら触感があった。
第4群:ざらざら触感はなかった。
【0135】
各評価者による評価が連続して3回以上一致し、且つ、評価者間で評価結果が連続して3回一致するまで、以上の手順を繰り返した。
【0136】
次に、化粧シートの各々について、上記評価者の各々に、目隠しした状態で表面保護層の表面上で指を滑らせてもらい、その後、触感を上記の5つの群に分類してもらった。そして、各評価者による評価が連続して3回以上一致し、且つ、評価者間で評価結果が連続して3回一致するまで、この手順を繰り返した。この結果から、以下の基準に従って肌感触を評価した。
AAA:第1群
AA :第2群
A :第3群
B :第4群。
【0137】
(3)耐指紋性
耐指紋性評価として、指紋のふき取り性評価を実施した。
具体的には、先ず、各化粧シートの表面の60度光沢度を測定して、この60度光沢度を初期光沢度とした。続いて、表面保護層上に耐指紋評価液を付着させ、化粧シート表面に付着した耐指紋評価液を拭き取った。ここでは、耐指紋評価液として、高級脂肪酸を用いた。その後、耐指紋評価液を拭き取った部分の60度光沢度を測定して、この60度光沢度を拭き取り後光沢度とした。
【0138】
指紋拭き取り率は、下記の式から算出した。
指紋拭き取り率(%)=(拭き取り後光沢度/初期光沢度)×100
評価基準は、下記の通りとした。
AA:70%以上250%未満
A:50%以上70%未満、又は、250%以上300%未満
B:50%未満、又は、300%以上
【0139】
(4)耐汚染性
耐汚染性評価として、日本農林規格(JAS:Japanese Agricultural Standards)に規定された汚染A試験を行った。即ち、各化粧シートの表面保護層に、青色インキ、黒色速乾性インキ及び赤色クレヨンで各々の幅が10mmの線を引き、4時間放置した。その後、エタノールを含ませた布で、青色インキ、黒色速乾性インキ及び赤色クレヨンの線を拭き取った。
【0140】
評価基準は、下記の通りとした。
AA:各色の線を容易に拭き取ることができた。
A:各色の線の一部を拭き取ることができたが、一部に汚れが残った。
B:各色の線を拭き取ることができなかった。
【0141】
(5)耐傷性
ウレタン系の接着剤を用いて、各化粧シートを木質基材Bに貼り付けた。その後、耐傷性評価として、スチールウールラビング試験を実施した。具体的には、100gの荷重をかけながらスチールウールで化粧シートを20往復擦り、化粧シートの表面に生じた傷や光沢の変化を目視にて確認した。
【0142】
評価基準は、下記の通りとした。
AA:表面に傷や光沢の変化が発生しなかった。
A:表面に軽微な傷や光沢の変化が発生した。
B:表面に著しい傷や光沢の変化が発生した。
【0143】
(6)面状態の均一性
量産安定性の評価として、凹凸の発生状態に関する面状態の均一性を目視にて確認した。
評価基準は、下記の通りとした。
AA:面状態が均一である。
A :面状態が概ね均一である。
B :面状態が不均一である。
【0144】
(7)フーリエ型赤外分光測定
フーリエ型赤外分光測定には、日本分光社製のフーリエ型赤外分光測定装置(FT/IR-6300)及び試料接触面積2mmφのダイヤモンドプリズムによる1回反射型(入射角45°)のATRユニット(ATR PRO470-H)を用いた。
【0145】
測定条件は、以下の通りとした。
測定波数範囲:4000cm-1から400cm-1
分解能:4.0cm-1
光源:標準光源
検出器:TGS
試料室:標準
感度(ゲイン):32倍
アパーチャー径:7.1mm
干渉計測定(スキャンスピード):2mm/sec
フィルタ:10000Hz
ビームスプリッタ:Ge/KBr
アポダイゼーション関数:Cоsine
ゼロフィリング:оn
そして、光学系内を窒素雰囲気置換して、積算160回にて吸光スペクトルを得た。なお、試料の吸光スペクトルを測定する前に、ダイヤモンドプリズムに何も接触させず、積算320回としたこと以外は、試料に対する測定と同じ条件にて、バックグラウンド測定を実施した。
【0146】
得られた吸光スペクトルは、日本分光社製Spectra Manager Versiоn 2を用いて、「もぐり込み深さ」方式によるATR補正をした。そして、比I1095/I1725の値を算出した。
【0147】
結果を以下の表1乃至表3に記載する。
【0148】
【表1】
【0149】
【表2】
【0150】
【表3】
【0151】
表1及び表2に示すように、例1乃至15に係る化粧シートは、評価者へざらざらした触感を与えた。また、例1乃至15に係る化粧シートは、低光沢であり、耐指紋性及び耐汚染性に優れていた。更に、例2乃至15に係る化粧シートは、耐傷性にも優れていた。また、例1乃至15に係る化粧シートは、面状態の均一性に優れているため、量産安定性を有している。
【0152】
これに対し、比較例1乃至6に係る化粧シートは、表3に示すように、面状態の均一性に優れているものの、評価者へざらざらした触感を与えなかった。また、比較例1、2、5及び6に係る化粧シートは、低光沢も達成しておらず、更に、比較例1及び2に係る化粧シートにおいては、耐指紋性、耐汚染性及び耐傷性の何れにも劣っていた。
【符号の説明】
【0153】
1…化粧シート、2…原反層、3…絵柄層、4…透明樹脂層、5…表面保護層、6…プライマ層、7…接着層、8…隠蔽層、11…化粧材、B…基材。
【要約】
低光沢であり、ざらざらした触感を与える化粧シートを提供する。化粧シート1は、原反層2と、上記原反層2の一方の表面に設けられた表面保護層5とを備え、上記表面保護層5の表面に、各々が畝状に突出した複数の畝状部を含んだ凹凸構造が設けられており、上記表面保護層5の上記凹凸構造は、突出山部高さRpkが3.5μm以上であり、上記表面保護層5のフーリエ型赤外分光測定において得られる吸光スペクトルは、1085乃至1105cm-1の波数範囲における最大値I1095と、1715乃至1735cm-1の波数範囲における最大値I1725との比I1095/I1725が0.65以上である。
図1
図2
図3